説明

自動車の車体後部の床下構造

【課題】車両の左右のリヤサイドメンバとサスペンションアームとの連結位置およびその周辺の剛性をフロアに設けたサービスホールの影響を受けずに強化すること。
【解決手段】フロアパネル2aには、その下方に設置された燃料タンク5の燃料ポンプ50の直上にサービスホール20が形成され、該サービスホール20の左右両側では左右のリヤサイドメンバ3にサスペンションアーム4の前端が連結された自動車の車体後部の床下構造において、フロアパネル2aの下面には、サービスホール20の前後位置に、左右のリヤサイドメンバ3間を直線状に架け渡すクロスメンバ6A,6Bを設け、これら前後のクロスメンバ6A,6B間には、サービスホール20の左右両側位置に両クロスメンバ6A,6B間を架け渡す縦ブレース7を設置し、かつリヤサイドメンバ3の上記連結位置と縦ブレース7とをそれぞれ、車幅方向に横ブレース8で連結した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車の車体後部の床下構造、特に左右のリヤサイドメンバにリヤサスペンションのサスペンションアームを連結せしめ、左右の連結位置間の床下には燃料タンクが設置された車体後部の剛性を強化する床下構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図4に示すように、従来、自動車の車体後部の床下には、左右のロッカー1,1の後端からそれぞれ、フロアパネル2の下面に沿って後方へ延びる左右の一対のリヤサイドメンバ3,3が設けられ、両リヤサイドメンバ3,3の前部に後輪R,Rを支えるリヤサスペンションのサスペンションアーム4,4の前端を連結せしめ、車体後部の床下には、左右のリヤサイドメンバ前端間に燃料タンク5が設置され、燃料タンク5の上面に設けた燃料ポンプ50の直上位置には、燃料ポンプ50のメンテナンス用にフロアパネルを貫通するサービスホール20が形成された構造のものがある。
【0003】
ところで、各リヤサイドメンバ3,3とサスペンションアーム4,4との連結位置T,Tには、車両の走行時に後輪R,Rからの振動等の入力が作用する。特に車両がカーブを曲がる場合など、両連結位置T,Tに左右方向の振動入力が作用し、両連結位置T,T間の距離が変化すると車両の走行安定性が低下することとなる。
このため左右の連結位置T,Tおよびその周辺の剛性を強化するために、下記特許文献1のように、左右のリヤサイドメンバの上記連結位置T,Tの近傍間を車幅方向にクロスメンバを架設することが行なわれている。
【特許文献1】特開平6−24353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、図4に示すように、左右のリヤサイドメンバ3,3とサスペンションアーム4,4との連結位置T,Tの間にサービスホール20が設置された車両では、クロスメンバ9を左右の連結位置間に直線状に架け渡すことができず、クロスメンバ9はサービスホール20を避けて平面視、ほぼ山形の屈曲形状とされている。しかし屈曲形状のクロスメンバ9では、各連結位置T,Tに作用する左右方向の振動入力を効果的に抑制することができず、両端を太くしなければならないといった問題があった。
そこで本発明は、左右のリヤサイドメンバとサスペンションアームとの連結位置間で、フロアに形成されたサービスホールにおける作業性を阻害せずに、上記連結位置およびその周辺の剛性、特に左右方向の剛性を強化でき、車両の走行安定性を向上する車体後部の床下構造を提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、車体後部の床下には、フロアパネルの下面に燃料タンクが設置され、該燃料タンクの燃料ポンプの直上位置にはフロアパネルを貫通するサービスホールが形成され、かつ、フロアパネルの左右両側縁に沿って前後に延びる左右のリヤサイドメンバには燃料タンクの左右両側位置でリヤサスペンションの左右のサスペンションアームの前端が連結された自動車の車体後部の床下構造において、上記サービスホールの前後位置に、フロアパネルの下面に沿って上記左右のリヤサイドメンバ間を直線状に架け渡す前後のクロスメンバを設けるとともに、これら前後のクロスメンバ間には、上記サービスホールの左右両側位置にフロアパネルの下面に沿って上記両クロスメンバ間を前後に架け渡す左右一対の縦ブレースを設置し、上記左右のリヤサイドメンバのサスペンションアーム連結位置と上記左右の縦ブレースとをそれぞれ、フロアパネルの下面に沿って車幅方向に横ブレースで連結せしめる(請求項1)。
これによれば、リヤサイドメンバとサスペンションアームとの連結位置に作用する振動入力に対して、前後のクロスメンバ間に架設した縦ブレースおよびこれと上記連結位置とつなぐ横ブレースとが支えとなって、連結位置およびその周辺の剛性が強化される。
【0006】
上記フロアパネルとで閉断面をなす左右のリヤサイドメンバおよび前後のクロスメンバに対応して、左右の縦ブレースおよび左右の横ブレースをそれぞれ断面逆ハット形に形成して上記フロアパネルとで閉断面を形成する(請求項2)。
縦ブレースおよび横ブレースを閉断面構造とすることで、リヤサイドメンバとサスペンションアームとの連結位置およびその周辺の剛性強化に最適である。
【0007】
上記左右のリヤサイドメンバの下面には、リヤサイドメンバの左右の側壁を下方へ延長し、互いに間隔をおいて対面する左右一対の縦壁を備えた支持ブラケットを設置し、該支持ブラケットの上記縦壁間で、両縦壁を水平に貫通する支軸により上記サスペンションアームの前端を連結支持せしめるようになし、上記支持ブラケットの車内側の縦壁の下縁と上記横ブレースの下面とを補強板で連結せしめる(請求項3)。
リヤサイドメンバより下方へ突出してサスペンションアームを支持する支持ブラケットを、車内側より補強板で支えることで、振動入力に対する支持ブラケットの剛性を強化できる。
【0008】
上記縦ブレースを上記フロアパネルの上面に設置されるリヤシートの脚部をフロアパネルへ連結する位置に設けて、縦ブレースによりフロアパネルのリヤシート連結位置を補強せしめる(請求項4)。
フロアパネルにリヤシートの脚部との連結位置を補強する専用の補強部材を設けなくてすむ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
車室後部に荷室が形成されたバン型車の車体後部の床下構造に本発明を適用した実施形態を説明する。
図1に示すように、上記車体後部の床下には、左右両側のロッカー1,1の後端の車内側からフロアパネル2の下面に沿って後方へ延びる左右一対のリヤサイドメンバ3,3が設けてある。また両リヤサイドメンバ3,3の前端間および中間位置間に車幅方向にそれぞれクロスメンバ6A,6Bが架設してある。
両リヤサイドメンバ3,3にはその前端に支持ブラケット40,40を設け、これらに後輪R,Rを支持するリヤサスペンションの左右一対のサスペンションアーム4の前端が連結してある。
【0010】
図1、図2に示すように、左右のリヤサイドメンバ3,3は、先細りとした前端の車外側を各ロッカー1,1後端の車内側の側面に沿って結合してある。リヤサイドメンバ3,3は、ロッカー1,1との結合位置から斜め上方へ緩やかな傾斜状に延び、ロッカー1,1よりも一段高い位置に設けてある。
一段高いリヤサイドメンバ3,3に対応して、フロアパネル2は、荷室をなすパネル後部2aが乗員室をなすパネル前部2bよりも一段高くしてあり、パネル後部2aとパネル前部2bとの間には傾斜状の段差部2cが形成してある。
なおリヤサイドメンバ3,3は断面逆ハット形で、左右両側の上縁フランジをフロアパネル2の下面に結合してフロアパネル2とで閉断面をなす。
【0011】
フロアパネル2のパネル後部2aの前側の下方位置には燃料タンク5が設置されている。また、パネル後部2aには、燃料タンク5の上面中央に設けられた燃料ポンプ50に対応して、パネル後部2aの車幅方向ほぼ中央を貫通して燃料ポンプ50のメンテナンス用のサービスホール20が形成してある。なおサービスホール20は、前後のクロスメンバ6A,6B間で、左右のリヤサイドメンバ3,3とサスペンションアーム4,4との連結位置に合致する位置となる。通常、サービスホール20はカバー21で塞がれている。
【0012】
前後のクロスメンバ6A,6Bはサービスホール20の前後位置に設定してある。前側のクロスメンバ6Aは、パネル後部2aと段差部2cとの境界に沿って設置され、断面ほぼL字状で、前縁および後部上縁をそれぞれ段差部2cの下面側とパネル後部2aの下面側に結合して閉断面をなす。後側のクロスメンバ6Bは断面逆ハット形で両側の上縁フランジをパネル後部2aの下面に結合してパネル後部2aとで閉断面をなす。両クロスメンバ6A,6Bの左右両端はそれぞれ、左右のリヤサイドメンバ3,3の車内側の側面に結合してある。
【0013】
パネル後部2aの前側上方にはリヤシートSが設置される。リヤシートSは、シートクッションの前端に設けられた前脚S1の下端をパネル前部2cに前後方向起倒回動可能に連結するとともに、上記シートクッション後端に設けられた脚部たるラッチ機構S2をパネル後部2aに係脱可能に係合して設置してある。リヤシートSは、ラッチ機構S2によるパネル後部2aとの係合を解除し、前脚S1の基端を中心に前倒ししてパネル前部2c側へ収納可能としてある。
【0014】
図1ないし図3、特に図2、図3に基づいてリヤサイドメンバ3とサスペンションアーム4との連結位置、およびその周辺の床下構造を説明する。なお床下構造は左右対称構造で、一方の側の構造を中心に説明する。
サスペンションアーム4をリヤサイドメンバ3へ連結する支持ブラケット40は金属板からなるプレス成形品で、リヤサイドメンバ3の左右の側面を下方へ延長するように互いに間隔をおいて対面する左右の縦壁41,42と、両縦壁41,42の前端間をつなぐ前壁とで後方に向けて開口する水平断面ほぼコ字形をなし、リヤサイドメンバ3の下面にこれから下方へ突出するように固定してある。なお、支持ブラケット40の車外側の縦壁42は、リヤサイドメンバ3よりも低いロッカー1の車内側の側面に重ね合わせてある。
【0015】
支持ブラケット40は、左右の両縦壁41,42間を車幅方向水平に架け渡す支軸44によりサスペンションアーム4の前端に設けた防振部材45を軸支せしめてサスペンションアーム4を上下方向に揺動可能に連結してある。なお、サスペンションアーム4は太い金属パイプからなり、後端で後輪Rを支持する。
【0016】
フロアパネル2のパネル後部2aの下面には、サービスホール20寄りの位置に、前後のクロスメンバ6A,6B間を架け渡す縦ブレース7が設置してある。縦ブレース7は断面逆ハット形に形成してあり、左右の上縁フランジをパネル後部2aの下面に結合してパネル後部2aとで閉断面をなす。また縦ブレース7の前後の端末はそれぞれ前側のクロスメンバ6Aの後面および後側のクロスメンバ6Bの前面に結合してある。
【0017】
また縦ブレース7は、リヤシートSのラッチ機構S2に対応する位置に設置してあり、縦ブレース7の直上位置にはパネル後部2aの上面に、ストライカ23がボルト締めしてあり、該ストライカ23にラッチ機構S2を係脱可能に係合する。
【0018】
また、パネル後部2aの下面には、リヤサイドメンバ3のサスペンションアーム4との連結位置と、縦ブレース7の間に車幅方向に横ブレース8が架け渡してある。横ブレース8は縦ブレース7と同様、断面逆ハット形で、前後の上縁フランジをパネル後部2aの下面に結合してパネル後部2aとで閉断面構造をなす。横ブレース8の車内側の端末は縦ブレースの車外側の側面の前後中間位置に結合してある。横ブレース8の車外側の端末は、その高さ寸法および幅寸法がリヤサイドメンバの高さおよび支持ブラケット40の前後幅に合わせて拡大してあり、リヤサイドメンバ3の車内側の側面と支持ブラケット40の縦壁41上部との結合部と一体に結合してある。
【0019】
更に、横ブレース8には、これと支持ブラケット40とをつなぐ補強板80が設けてある。補強板80は浅い断面ハット形の金属板からなり、一端を支持ブラケット40の縦壁41の下端にボルト締めする一方、他端を横ブレース8の下面の中間位置にボルト締めして支持ブラケット40と横ブレース8とを傾斜状に連結してある。
【0020】
本実施形態によれば、左右のリヤサイドメンバ3間をサービスホール20の前後位置で直線状の前後クロスメンバ6A,6Bで連結し、これらクロスメンバ6A,6B間をサービスホール20の左右位置で左右の縦ブレース7で連結し、そして左右の縦ブレース7と、左右のリヤサイドメンバ3のサスペンションアーム4との連結位置とをそれぞれ横ブレース8で連結したから、左右のリヤサイドメンバ3のサスペンションアーム4との連結位置およびその周辺の左右方向の剛性は大きく強化される。従って車両がカーブを急旋回しても左右のリヤサイドメンバ3のサスペンションアーム4との連結位置間の距離が変化することなく走行安定性は確保される。
【0021】
なお、サスペンションアーム4の前端をリヤサイドメンバ3の下側に設けた支持ブラケット40に連結せしめる構造においては、支持ブラケット40の車内側の縦壁41と横ブレース8とを補強板80で連結したから、リヤサイドメンバ3のサスペンションアーム4との連結部およびその周縁の剛性は充分に確保される。
また、前後のクロスメンバ6A,6Bおよび左右の縦ブレース7はフロアパネル2のサービスホール20を取囲む位置にあってサービスホール20を横切らないから、サービスホール20における作業性は阻害されない。
また、縦ブレース7をリヤシートのフロアパネルとの連結位置に設けたので、該連結位置が補強され、連結位置を補強するための専用の部材を設ける必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の車体後部の床下構造を示す概略平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】図1のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】従来の床下構造の概略平面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 ロッカー
2 フロアパネル
2a パネル後部
20 サービスホール
3 リヤサイドメンバ
4 サスペンションアーム
40 支持ブラケット
41,42 縦壁
44 支軸
5 燃料タンク
50 燃料ポンプ
6A,6B クロスメンバ
7 縦ブレース
8 横ブレース
80 補強板
S リヤシート
S2 ラッチ機構(脚部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体後部の床下には、フロアパネルの下面に燃料タンクが設置され、該燃料タンクの燃料ポンプの直上位置にはフロアパネルを貫通するサービスホールが形成され、かつ、フロアパネルの左右両側縁に沿って前後に延びる左右のリヤサイドメンバには燃料タンクの左右両側位置でリヤサスペンションの左右のサスペンションアームの前端が連結された自動車の車体後部の床下構造において、
上記サービスホールの前後位置に、フロアパネルの下面に沿って上記左右のリヤサイドメンバ間を直線状に架け渡す前後のクロスメンバを設けるとともに、これら前後のクロスメンバ間には、上記サービスホールの左右両側位置にフロアパネルの下面に沿って上記両クロスメンバ間を前後に架け渡す左右一対の縦ブレースを設置し、上記左右のリヤサイドメンバのサスペンションアームとの連結位置と上記左右の縦ブレースとをそれぞれ、フロアパネルの下面に沿って車幅方向に横ブレースで連結せしめたことを特徴とする自動車の車体後部の床下構造。
【請求項2】
上記フロアパネルとで閉断面をなす左右のリヤサイドメンバおよび前後のクロスメンバに対応して、左右の縦ブレースおよび左右の横ブレースをそれぞれ断面逆ハット形に形成して上記フロアパネルとで閉断面を形成するようになした請求項1に記載の自動車の車体後部の床下構造。
【請求項3】
上記左右のリヤサイドメンバの下面には、リヤサイドメンバの左右の側壁を下方へ延長し、互いに間隔をおいて対面する左右一対の縦壁を備えた支持ブラケットを設置し、該支持ブラケットの上記縦壁間で、両縦壁を水平に貫通する支軸により上記サスペンションアームの前端を連結支持せしめるようになし、
上記支持ブラケットの車内側の縦壁の下縁と上記横ブレースの下面とを補強板で連結せしめた請求項2に記載の自動車の車体後部の床下構造。
【請求項4】
上記縦ブレースを上記フロアパネルの上面に設置されるリヤシートの脚部をフロアパネルへ連結する位置に設けて、縦ブレースによりフロアパネルのリヤシート連結位置を補強せしめた請求項1ないし3に記載の自動車の車体後部の床下構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−298186(P2009−298186A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151888(P2008−151888)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】