説明

自動車の車輪用荷重測定装置

【課題】エンコーダ4aの上端部近傍にセンサを配置した構造で、車輪支持用転がり軸受ユニット14aのキャンバー剛性の低下を抑えつつ、測定精度の悪化を最小限に抑えられる構造を実現する。
【解決手段】複列に配置した背面組み合わせ型の接触角α、βを付与した各玉3a、3bのうち、軸方向内向のアキシアル荷重を支承する外側列の玉3a、3aに付与した接触角αを、同じくこのアキシアル荷重を支承しない内側列の玉3b、3bに付与した接触角βよりも大きく(α>β)する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の車輪に加わるアキシアル荷重(接地面に作用するグリップ力)を測定する為の自動車の車輪用荷重測定装置の改良に関する。具体的には、センサの設置位置が限定された場合にも、測定精度の悪化を最小限に抑えられる構造の実現を図るものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の走行安定性を確保する為のスタビリティコントロール装置等を適切に制御する為に、車輪(タイヤ)と路面との当接面(接地面)に作用する摩擦力(接地面でのアキシアル荷重、グリップ力)を知る事が効果があると考えられる。このグリップ力は、上記車輪を支持する為の転がり軸受ユニット(ハブユニット)を構成する静止輪と回転輪との間に、モーメント及びアキシアル荷重として加わる。又、これら静止輪と回転輪とは、このモーメント及びアキシアル荷重に基づいて、互いの中心軸を傾斜させる方向に揺動変位すると共に、軸方向に相対変位する。従って、これら揺動変位及び軸方向の相対変位量を測定できれば、前記グリップ力を求める事ができる。尚、このグリップ力は、前記モーメント及びアキシアル荷重として前記静止輪と回転輪との間に加わるが、これらモーメントとアキシアル荷重との間には、比例関係に近い相関関係がある。従って、前記静止輪と回転輪との間に作用する力を、例えばアキシアル荷重として捉えて測定すれば、前記グリップ力を求められる。
【0003】
この様な目的で、車輪支持用転がり軸受ユニットに加わるアキシアル荷重を測定可能とした、荷重測定装置付転がり軸受ユニットとして、例えば特許文献1に記載された構造のものが知られている。この特許文献1に記載された従来構造の1例に就いて、図7〜9により説明する。使用時にも回転しない静止輪である外輪1の内径側に、使用時に車輪を支持固定した状態でこの車輪と共に回転する回転輪であるハブ2を、それぞれが転動体である複数個の玉3、3を介して、回転自在に支持している。これら各玉3、3には、互いに逆向きの(背面組み合わせ型の)接触角と共に、予圧を付与している。
【0004】
又、上記ハブ2の内端部には、円筒状のエンコーダ4を、上記ハブ2と同心に支持固定している。又、上記外輪1の内端開口を塞ぐ有底円筒状のカバー5の内側に、1対のセンサ6a、6bを支持すると共に、これら両センサ6a、6bの検出部を、上記エンコーダ4の被検出面である外周面に近接対向させている。このうちのエンコーダ4は、磁性金属板製である。被検出面である、このエンコーダ4の外周面の先半部(軸方向内半部)には、透孔7、7と柱部8、8とを、円周方向に関して交互に且つ等間隔で配置している。これら各透孔7、7と各柱部8、8との境界は、上記エンコーダ4の軸方向に対し同じ角度だけ傾斜させると共に、この軸方向に対する傾斜方向を、上記エンコーダ4の軸方向中間部を境に互いに逆方向としている。従って、上記各透孔7、7と上記各柱部8、8とは、軸方向中間部が円周方向に関して最も突出した「く」字形となっている。そして、上記境界の傾斜方向が互いに異なる、上記被検出面の軸方向外半部と軸方向内半部とのうち、軸方向外半部を第一の特性変化部9とし、軸方向内半部を第二の特性変化部10としている。
【0005】
又、上記1対のセンサ6a、6bはそれぞれ、永久磁石と、検出部を構成する磁気検知素子とから成る。これら両センサ6a、6bは、上記カバー5の内側に支持固定した状態で、一方のセンサ6aの検出部を上記第一の特性変化部9に、他方のセンサ6bの検出部を上記第二の特性変化部10に、それぞれ近接対向させている。これら両センサ6a、6bの検出部が上記両特性変化部9、10に対向する位置は、上記エンコーダ4の円周方向に関して同じ位置としている。又、上記外輪1とハブ2との間にアキシアル荷重が作用しない状態で、上記各透孔7、7及び柱部8、8の軸方向中間部で円周方向に関して最も突出した部分(境界の傾斜方向が変化する部分)が、上記両センサ6a、6bの検出部同士の間の丁度中央位置に存在する様に、各部材の設置位置を規制している。
【0006】
上述の様に構成する荷重測定装置付転がり軸受ユニットの場合、上記外輪1とハブ2との間にアキシアル荷重が作用し、これら外輪1とハブ2とがアキシアル方向に相対変位すると、上記両センサ6a、6bの出力信号が変化する位相がずれる。即ち、上記外輪1とハブ2との間にアキシアル荷重が作用していない、中立状態では、上記両センサ6a、6bの検出部は、図9の(A)の実線イ、イ上、即ち、上記最も突出した部分から軸方向に同じだけずれた部分に対向する。従って、上記両センサ6a、6bの出力信号の位相は、同図の(C)に示す様に一致する。
【0007】
これに対して、上記エンコーダ4を固定したハブ2に、図9の(A)で下向きのアキシアル荷重が作用した場合には、上記両センサ6a、6bの検出部は、図9の(A)の破線ロ、ロ上、即ち、上記最も突出した部分からの軸方向に関するずれが互いに異なる部分に対向する。この状態では上記両センサ6a、6bの出力信号の位相は、同図の(B)に示す様にずれる。更に、上記エンコーダ4を固定したハブ2に、図9の(A)で上向きのアキシアル荷重が作用した場合には、上記両センサ6a、6bの検出部は、図9の(A)の鎖線ハ、ハ上、即ち、上記最も突出した部分からの軸方向に関するずれが、前述の場合と逆方向に互いに異なる部分に対向する。この状態では上記両センサ6a、6bの出力信号の位相は、同図の(D)に示す様にずれる。
【0008】
上述の様に、特許文献1に記載される等により従来から知られている構造の場合には、上記両センサ6a、6bの出力信号の位相が、上記外輪1とハブ2との間に加わるアキシアル荷重の作用方向(これら外輪1とハブ2とのアキシアル方向の相対変位の方向)に応じた向きにずれる。又、このアキシアル荷重(相対変位)により上記両センサ6a、6bの出力信号の位相がずれる程度は、このアキシアル荷重(相対変位)が大きくなる程大きくなる。従って、上記両センサ6a、6bの出力信号の位相ずれの有無、ずれが存在する場合にはその向き及び大きさに基づいて、上記外輪1とハブ2とのアキシアル方向の相対変位の向き及び大きさ、並びに、これら外輪1とハブ2との間に作用しているアキシアル荷重の作用方向及び大きさを求められる。尚、上記両センサ6a、6bの出力信号の位相差の、これら両センサ6a、6bの出力信号の1周期に対する割合(位相差/1周期=位相差比)に基づいて上記アキシアル方向の相対変位及び荷重を算出する処理は、図示しない演算器により行う。この為、この演算器には、予め理論計算や実験により調べておいた、上記位相差比と上記アキシアル方向の相対変位及び荷重との関係を、計算式やマップ等の型式で組み込んでおく。
【0009】
尚、前記特許文献1には、外輪1等の静止側軌道輪と、ハブ2等の回転側軌道輪との間に作用するアキシアル荷重を求める為の構造として、単一のセンサの出力信号のデューティ比(高電位継続時間/1周期)から求める構造(例えば特許文献1の図18により説明されている構造)や、同じくパルス比(1パルス分周期/2パルス分周期)から求める構造(例えば、特許文献1の図10により説明されている構造)が記載されている。これらデューティ比やパルス比により前記アキシアル荷重を求める構造に就いても、本発明の対象となる。但し、これら各比によりアキシアル荷重を求める構造及び作用は、前記特許文献1に詳しく記載されている。又、本発明の構造の特徴は、後述する様に、センサの設置位置が限定された場合にも、測定精度の悪化を最小限に抑えるべく、このセンサの設置位置との関係で、車輪支持用転がり軸受ユニット側の構造を工夫する点にある。そこで、前記デューティ比やパルス比により前記アキシアル荷重を求める為の構造及び作用に就いては、図示並びに説明は省略する。
【0010】
前記各比の何れから前記アキシアル荷重を求めるにしても、このアキシアル荷重の測定精度を向上させる為には、このアキシアル荷重に基づく、エンコーダとセンサとの相対変位量を大きく{ゲイン(=相対変位量/アキシアル荷重)を大きく}する必要がある。一方、自動車の旋回走行時等に、前記グリップ力に基づいて車輪支持用転がり軸受ユニットには、純アキシアル荷重が加わるのではなく、アキシアル荷重とモーメントとが組み合わされた力が加わる。この為、前記エンコーダと前記センサとの、軸方向に関する相対変位量は、円周方向に関して異なる。具体的には、前記エンコーダを前記回転側軌道輪の軸方向内端部に支持固定した場合には、下端部で最も大きくなり、上端部で最も小さくなる。この点に就いて、図10及び図2により説明する。尚、車輪支持用転がり軸受ユニットの構造に関し、軸方向に関して「内」とは、自動車への組み付け状態で車両の幅方向中央側を言い、図1、2、7、10の右側を言う。反対に、車両の幅方向外側となる、図1、2、7、10の左側を、軸方向に関して「外」と言う。この点は、本明細書及び特許請求の範囲全体で同じである。
【0011】
前記グリップ力に基づくアキシアル荷重Faは、図10に示す様に、車輪11を構成するタイヤ12と路面13との接触部である接地面に加わる。この接地面は、車輪支持用転がり軸受ユニット14の中心Oから、径方向に関して大きく外れた位置に存在する。従って、前記アキシアル荷重Faにより、前記車輪支持用転がり軸受ユニット14を構成するハブ2には、軸方向内向のアキシアル荷重に加えて、前記中心Oを通り、進行方向(図10の表裏方向)に対し平行な仮想軸を中心とするモーメントMaが加わる。前記ハブ2は、懸架装置を構成するナックル15に支持固定した外輪1に対し、前記アキシアル荷重Faと前記モーメントMaとを合成した力により変位する。
【0012】
例えば、定常運行時(前記アキシアル荷重Faが零の状態)にエンコーダ(の例えば内端縁)が、図2の線分aで示す位置に存在するとして、前記接地面に前記アキシアル荷重Faが作用した場合に就いて説明する。この場合には、前記モーメントMaにより前記エンコーダの位置が、図2に誇張して示す様に、線分aで示す位置から線分bで示す位置にまで揺動変位する。更に、純アキシアル成分に基づいて、やはり図2に誇張して示す様に、線分cで示す位置にまで変位(平行移動)する。前記エンコーダの被検出面に検出部を対向させたセンサの出力信号は、前記線分a→線分bの変化である、図2の「La-b」と、線分b→線分cの変化である、図2の「Lb-c」とを合成した分だけ変化する。
【0013】
図2から明らかな通り、前記エンコーダの変位量は、下端部で前記両変化分を合計した値であるLB(「La-b」+「Lb-c」)となるのに対して、上端部ではこれら両変化分の差であるLU(「La-b」―「Lb-c」)となる。即ち、この上端部での変化量は、前記下端部での変化量に比べて、前記平行移動の2倍分{2(Lb-c)}小さくなる。この変化量を、前記両センサ6a、6bの位相差比(位相差/1周期)として求めた場合、これら両センサ6a、6bを前記エンコーダの下端部に設置した場合には、接地面に作用するアキシアル荷重(グリップ力)と位相差比との関係が、図11の破線aで示す様に大きく変化する。これに対して、前記両センサ6a、6bを前記エンコーダの上端部に設置した場合には、グリップ力と位相差比との関係が変化する程度が、図11の実線bで示す様に、小さくなってしまう。これらの事から明らかな通り、前記アキシアル荷重Faの測定精度を向上させるべく、前記ゲインを大きくする為には、前記センサを前記被検出面の下端部に対向させる事が有利である。例えば、特許文献2、3には、エンコーダの軸方向の変位量が、このエンコーダの下端部で大きくなる事を利用して、センサをこのエンコーダの下端部に対向させた構造が記載されている。
【0014】
この様に、センサをエンコーダの下端部に対向させれば、前記ゲインを大きくして、車輪に加わるアキシアル荷重Faの測定精度の向上を図れる。但し、図10からも明らかな通り、エンコーダの下端部に対向する位置は、路面13に近く、しかも、この路面13との間に遮蔽物が存在しない等、設置環境としては厳しい。この為、悪路を走行する機会が多く、跳び石による損傷防止を十分に図る事を意図した場合には、センサをエンコーダの上半部に設置する事が好ましい場合もある。又、懸架装置の構造等によっては、センサの出力信号を取り出す為のハーネスの取り回し等の都合上、センサをエンコーダの下端部側に設置できない場合も考えられる。これらの場合、センサをエンコーダの上半部側(例えば上端部)に設置する必要があるが、その場合でも、必要とする測定精度を確保する為に、前記ゲインをできるだけ確保する必要がある。
【0015】
単にこのゲインを大きくするだけならば、車輪支持用転がり軸受ユニットの剛性を低くすれば良い。例えば、前述の図7に示した構造で、各玉3、3に付与している予圧を低くしたり、これら各玉3、3のピッチ円直径を小さくしたり、これら各玉3、3の列間のピッチ(スパン)を小さくしたり、これら各玉3、3の直径に対する、外輪軌道及び内輪軌道の断面形状の曲率半径(溝曲率)を大きくしたり、或いは、前記各玉3、3の接触角を小さくしたりすれば、前記剛性を低くできる。そして、この剛性を低くできれば、前記アキシアル荷重Fa(グリップ力)に基づく、前記外輪1と前記ハブ2との相対変位量を大きくして、前記ゲインを確保し、前記アキシアル荷重Faの測定精度を確保できる。但し、前記車輪支持用転がり軸受ユニットの剛性を低くすると、この転がり軸受ユニットに支持された車輪のキャンバー剛性も低くなり、車輪が左右に振れ易くなって、走行安定性が悪化する傾向になる為、好ましくない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、エンコーダの上半部にセンサを配置した構造で、車輪支持用転がり軸受ユニットのキャンバー剛性の低下を抑えつつ、測定精度の悪化を最小限に抑えられる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の自動車の車輪用荷重測定装置は、車輪支持用転がり軸受ユニットと、エンコーダと、センサと、演算器とを備える。
このうちの車輪支持用転がり軸受ユニットは、内周面に複列の外輪軌道を有する外輪相当部材と、外周面に複列の内輪軌道を有する内輪相当部材と、これら両外輪軌道と両内輪軌道との間に、両列毎に複数個ずつ転動自在に設けられた転動体とを備える。又、これら両列の転動体のピッチ円直径が、これら両列の転動体のスパンよりも大きい。そして、前記外輪相当部材と前記内輪相当部材とのうちの一方の部材を、懸架装置に支持固定されて使用時にも回転しない静止側軌道輪とし、同じく他方の部材を、車輪を固定した状態でこの車輪と共に回転する回転側軌道輪としている。又、前記各転動体に、背面組み合わせ型の接触角と共に予圧を付与している。
又、前記エンコーダは、この回転側軌道輪の軸方向内端部にこの回転側軌道輪と同心に支持固定されたもので、内外両周面のうちの何れか周面を被検出面としている。
又、前記センサは、回転しない部分に支持された状態で、検出部を前記エンコーダの被検出面に対向させている。
更に、前記演算器は、前記エンコーダの被検出面の軸方向の変位量に基づいて、前記静止側軌道輪と前記回転側軌道輪との間に作用するアキシアル荷重を測定する機能を有する。
【0018】
特に、本発明の自動車の車輪用荷重測定装置に於いては、前記センサは前記被検出面の上半部(例えば、上端部を中心として±45度、合計90度の範囲)に対向している。そして、前記各転動体のうち、軸方向内向のアキシアル荷重を支承する側の列の転動体に付与した接触角を、同じくこのアキシアル荷重を支承しない側の列の転動体に付与した接触角よりも(例えば8〜15度程度)大きくしている。
具体的には、両列の接触角の大きさが同じである転がり軸受ユニットに関する接触角の値を標準値とした場合に、前記アキシアル荷重を支承する側の列の転動体に付与した接触角を、この標準値よりも(例えば4〜8度程度)大きくする。これに対して、前記アキシアル荷重を支承しない側の列の転動体に付与した接触角を、前記標準値よりも(例えば4〜8度程度)小さくする。
【0019】
この様な本発明を実施する場合、具体的には、請求項2に記載した発明の様に、前記回転側軌道輪を内輪相当部材とし、前記静止側軌道輪を外輪相当部材とする。そして、前記各転動体のうち、軸方向外側の列の転動体に付与した接触角を、同じく軸方向内側の列の転動体に付与した接触角よりも大きくする。
或いは、請求項3に記載した発明の様に、前記回転側軌道輪を外輪相当部材とし、前記静止側軌道輪を内輪相当部材とする。そして、前記各転動体のうち、軸方向内側の列の転動体に付与した接触角を、同じく軸方向外側の列の転動体に付与した接触角よりも大きくする。
【発明の効果】
【0020】
上述の様に構成する本発明の自動車の車輪用荷重測定装置によれば、エンコーダの上半部にセンサを配置した構造で、車輪支持用転がり軸受ユニットのキャンバー剛性の低下、並びにラジアル負荷容量の低下を抑えつつ、測定精度の悪化を最小限に抑えられる。
先ず、測定精度の悪化を最小限に抑えられる事は、軸方向内向のアキシアル荷重を支承する側の列の転動体に付与した接触角を大きくし、この列のアキシアル剛性を高くする事により図れる。このアキシアル剛性を高くする事で、前述の図2で説明した平行移動分(アキシアル方向の変位量、Lb-c)が小さくなり、モーメントに基づくエンコーダの変位から平行移動に基づく変位分が減じられる量を少なく抑えられる。この結果、このエンコーダの上半部でセンサの検出部が対向する部分の変位量を確保して、このエンコーダの下端部にセンサの検出部を対向させる場合と比較しての、前記測定精度の悪化を最小限に抑えられる。
【0021】
又、キャンバー剛性及びラジアル負荷容量の低下を抑える事は、複列に配置した転動体の接触角を適切に規制して、支持間隔(両列の接触角の方向に一致する方向に存在する作用線と、転がり軸受ユニットの中心軸との交点同士の間隔)を確保する事により実現できる。前記キャンバー剛性、即ち、前記車輪支持用転がり軸受ユニットのモーメント剛性は、前記支持間隔を大きくする事で確保できる。又、軸方向に関して外側と内側とに分かれ、上下方向位置が互いに逆であって、アキシアル荷重(グリップ力)に基づくモーメントを支承する複数個の転動体のうち、このモーメントの負荷側に位置する転動体の接触角が小さい事で、この転動体のモーメントに対する剛性が高くなる。この為、前記キャンバー剛性を確保できる。
又、前記接触角が小さい側の列の転動体は、ラジアル荷重に関する負荷容量が大きい。ラジアル荷重に関する限り、前記アキシアル剛性を高くする為に接触角を大きくした列の転動体の負荷容量は低下するが、前記接触角が小さい側の列の転動体の負荷容量が向上する為、車輪支持用転がり軸受ユニット全体としての、ラジアル荷重に関する負荷容量は、十分に確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態(A)と、従前の構造(B)とをそれぞれ示す断面図。
【図2】接地面に加わるアキシアル荷重によりエンコーダの姿勢及び位置が変化する状況を説明する為の模式図。
【図3】車輪支持用転がり軸受ユニットを構成する両列の転動体の接触角の大きさが、接地面に加わるアキシアル荷重とキャンバー角との関係に及ぼす影響を示す線図。
【図4】同じく、接地面に加わるアキシアル荷重とアキシアル方向の変位量との関係に及ぼす影響を示す線図。
【図5】同じく、接地面に加わるアキシアル荷重とセンサの出力信号に関する位相差との関係に及ぼす影響の第1例を示す線図。
【図6】同第2例を示す線図。
【図7】自動車の車輪用荷重測定装置の従来構造の1例を示す断面図。
【図8】エンコーダの被検出部の一部を径方向から見た図。
【図9】エンコーダの変位に基づいて荷重を測定する原理を説明する為の模式図。
【図10】旋回走行時に車輪支持用転がり軸受ユニットに加わる力を説明する為の、車輪の回転支持部の略断面図。
【図11】センサの設置位置が、接地面に加わるアキシアル荷重とセンサの出力信号に関する位相差との関係に及ぼす影響を示す線図。
【図12】車輪支持用転がり軸受ユニットを構成するハブと、このハブに支持固定したエンコーダの位置関係の適否を判定する為の方法の2例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態の1例に就いて、図1〜2により説明する。尚、本例の特徴は、車輪11に、タイヤ12と路面13との接触部である接地面(図10参照)から、車輪支持用転がり軸受ユニット14aを構成するハブ2aに入力されるアキシアル荷重を、エンコーダ4aの上端部に検出部を対向させたセンサにより、十分な精度を確保して測定可能とする為の構造にある。前記車輪支持用転がり軸受ユニット14aが、従動輪用から、駆動輪用に変わった点、荷重測定用のエンコーダ4aに加えて回転速度検出用のエンコーダ4bを設けた点、エンコーダ4aを永久磁石製とした点を除き、その他の部分の構成及び作用は、基本的には、前述の図7〜9に示した従来構造の場合とほぼ同様である。この為、重複する説明を省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分、並びに、前記従来構造と異なる部分を中心に説明する。
【0024】
本例の場合、前記荷重測定用のエンコーダ4aは、前記ハブ2aの軸方向内端部に支持固定している。このエンコーダ4aは、磁性金属板製の芯金16と、永久磁石製のエンコーダ本体17とを組み合わせて成る。このうちの芯金16は、小径円筒部と大径円筒部とを段部で連続させた、断面クランク型で全体が円環状である。この様な芯金16は、前記小径円筒部を前記ハブ2aの軸方向内端部に締り嵌めで外嵌固定すると共に、大径円筒部の外周面に前記エンコーダ本体17を、全周に亙り添着固定している。このエンコーダ本体17は、全体が円筒状で、外周面にS極とN極とを、円周方向に関して交互に且つ等間隔で配置すると共に、これらS極とN極との境界の形状を、「く」字形状としている。そして、この被検出面のうち、この「く」字形状の折れ曲がり部を挟んだ幅方向(軸方向)片側を第一特性変化部とし、幅方向他側を第二特性変化部としている。この様な、永久磁石製のエンコーダ本体17の性状に就いては、前記特許文献1にも(図33〜35及びその説明文中)に記載されている為、詳しい図示並びに説明は省略する。
【0025】
上述の様なエンコーダ本体17の上方(上端部外径側)に、荷重測定用の1対のセンサ6a、6b(前述の図7参照)を、それぞれの検出部を前記第一特性変化部又は上記第二特性変化部に対向させた状態で支持している。本例の場合には、前記両センサ6a、6bを、前記車輪支持用転がり軸受ユニット14aを構成する外輪1aを支持固定する、ナックル等の懸架装置の構成部材(図示省略)に対し支持する。尚、本例の場合、前記エンコーダ本体17が永久磁石製であるから、前記両センサ6a、6b側の永久磁石は不要である。
【0026】
又、前記回転速度検出用のエンコーダ4bは、前記ハブ2aの軸方向内端寄り部分に支持固定している。この回転速度検出用のエンコーダ4bは、磁性金属板により断面L字形で全体を円環状に構成した芯金16aと、この芯金16aを構成する円輪部の軸方向内側面に全周に亙り添着固定した、永久磁石製で円輪状のエンコーダ本体17aとから成る。回転速度検出用の被検出面である、このエンコーダ本体17aの軸方向内側面には、S極とN極とを、円周方向に関して交互に且つ等間隔に配置している。回転速度検出用のセンサは、検出部を前記エンコーダ本体17aの被検出面に対向させた状態で、前記懸架装置の構成部材に対し支持している。この為に、前記両センサ6a、6bと前記回転速度検出用のセンサを、合成樹脂等により造った単一のホルダに包埋支持してセンサユニットを構成し、このセンサユニットを、前記懸架装置の構成部材に対し支持している。前記回転速度検出用のエンコーダ4bを使用した、車輪の回転速度検出装置の構造及び作用に就いては、従来から周知であり、本発明の要旨とも関係しない為、詳しい説明は省略する。
【0027】
静止側軌道輪であり外輪相当部材である前記外輪1aの内径側に、回転側軌道輪であり内輪相当部材である前記ハブ2aを、複列に配置した、それぞれが転動体である複数個の玉3a、3bにより、回転自在に支持している。この為に、前記外輪1aの内周面に複列アンギュラ型の外輪軌道18a、18bを、前記ハブ2aの外周面に複列アンギュラ型の内輪軌道19a、19bを、それぞれ設けている。そして、これら両内輪軌道19a、19bと前記両外輪軌道18a、18bとの間に前記各玉3a、3bを、両列毎に複数個ずつ、背面組み合わせ型の接触角及び予圧を付与した状態で、転動自在に設けている。
【0028】
特に本例の構造の場合には、図1の(A)に示す様に、軸方向外側の列の玉3a、3aの接触角αを、軸方向内側の列の玉3b、3bの接触角βよりも大きく(α>β)している。例えば、図1の(B)に示す様に、両列の玉3a、3bの接触角γの大きさが同じである車輪支持用転がり軸受ユニット14bの構造での、この接触角γの値(標準値)は40度程度(40±5度)である。これに対して、図1の(A)に示した本例の構造の場合には、前記外側列の玉3a、3aの接触角αを45度程度(45±5度)とし、前記内側列の玉3b、3bの接触角βを35度程度(35±5度)として、両接触角α、β同士の間に、10度程度の差を設定している。
【0029】
前述の様なエンコーダ4a、4bを装着し、上述の様に両列の接触角α、βを異ならせた、前記車輪支持用転がり軸受ユニット14aを自動車に組み付ける場合には、前記外輪1aの軸方向内端部を、前記ナックル等の懸架装置の構成部材に形成した支持孔に内嵌する。そして、前記外輪1aの外周面の軸方向中間部に設けた固定側フランジ20を、前記懸架装置の構成部材に、複数本のボルトにより結合固定する。又、前記ハブ2aの中心部に設けたスプライン孔21に、等速ジョイント用外輪22の軸方向外端面の中央部に固設したスプライン軸23を、軸方向内側から挿入する。これにより、前記スプライン孔21にこのスプライン軸23をスプライン係合させると共に、前記等速ジョイント用外輪22の軸方向外端面の外周寄り部分を、前記ハブ2aの軸方向内端面に当接させる。又、この状態で、前記スプライン軸23の先端部に抑えボルト24を螺合し、更に締め付ける事により、この抑えボルト24の頭部25と前記等速ジョイント用外輪22との間に、前記ハブ2aを挟持固定する。又、この状態で、前記センサユニットを、前記懸架装置の構成部材に対し支持固定する。更に、前記ハブ2aの軸方向外端寄り部外周面に設けた回転側フランジ26に、図示しない制動装置を構成するロータ等の制動用回転部材と、車輪11を構成するホイール27(図10参照)とを結合固定する。
【0030】
自動車の旋回走行等に基づいて前記ハブ2aに、前記車輪11の接地面に作用するグリップ力に基づき、モーメント及びアキシアル荷重が作用すると、前述した従来構造の場合と同様に、前記荷重測定用のエンコーダ4aが変位する。この変位の方向及び大きさは、前記モーメント及びアキシアル荷重の方向及び大きさにより定まり、この方向及び大きさに応じて、前記両センサ6a、6bの出力信号同士の間に存在する位相差が変化する。そこで、前述の図9に示した場合と同様にして、前記グリップ力を求められる。
【0031】
本例の場合には、前記両センサ6a、6bの検出部を、前記エンコーダ4aの外周面の上端部に対向させている。この為、このエンコーダ4aの外周面のうちで、前記両センサ6a、6bの検出部が対向している部分の変位量は、前述した様に、前記モーメントに基づく揺動変位成分から、純アキシアル方向への平行移動成分を減じた値になる。本例の場合には、前記各玉3a、3bの接触角α、βを前述の様に規制する事により、揺動変位分から減じる平行移動分の値を小さくして、前記グリップ力の測定精度を確保できる様にしている。以下、この点に就いて、図1の(A)に加えて、図1の(B)及び図2を参照しつつ説明する。
【0032】
前記グリップ力を同じと仮定した場合、前記純アキシアル方向への平行移動成分は、このグリップ力に伴うアキシアル荷重の作用方向に関する、前記車輪支持用転がり軸受ユニット14aのアキシアル剛性が高いほど小さくなる。又、この車輪支持用転がり軸受ユニット14aには、自動車の旋回方向に応じて両方向のアキシアル荷重が加わる可能性があるが、このうちで問題となるのは、当該車輪支持用転がり軸受ユニット14aが旋回方向外側となった場合に加わるアキシアル荷重である。即ち、自動車の旋回走行時には、遠心力に基づく重心移動に伴って、旋回方向外側の車輪支持用転がり軸受ユニットに支持された車輪に大きなグリップ力が発生し、旋回方向内側の車輪支持用転がり軸受ユニットに支持された車輪に発生するグリップ力(図3〜6、11の横軸の負の領域)は小さくなる。この傾向は、スタビリティコントロール装置等に関して、細かな制御が必要になる、急旋回時ほど著しくなる。
【0033】
以上の理由から、グリップ力の測定精度を確保する必要性が高い場合に加わるアキシアル荷重のうち、測定精度を確保する必要性が高いアキシアル荷重は、軸方向内向(図1の右向き)のアキシアル荷重である。そして、前記ハブ2aが内輪相当部材である、内輪回転型の車輪支持用転がり軸受ユニット14aの場合には、前記複列に配置された玉3a、3bのうち、外側列の玉3a、3aが、前記軸方向内向きのアキシアル荷重を支承する。本例の場合には、この外側列の玉3a、3aの接触角αが大きく、前記軸方向内向きのアキシアル荷重に対する剛性が高く、このアキシアル荷重に基づく平行移動分が小さくなる。即ち、図1の(B)に示す様に、外側列の玉3a、3aの接触角γが40度程度の場合には、前記アキシアル荷重に基づいて前記エンコーダ4aが、図2の線分b位置から線分c位置まで「Lb-c」分変位する。これに対して、図1の(A)に示す様に、外側列の玉3a、3aの接触角αが50度程度の場合には、前記アキシアル荷重に基づいて前記エンコーダ4aが、図2の線分b位置から線分d位置まで「Lb-d」分しか変位しない。この為、この図2に示した、モーメントに基づく前記エンコーダ4aの変位LBから、前記平行移動に基づく変位分「Lb-d」が減じられる量を少なく抑えられる。この結果、前記エンコーダ4aの上半部で前記両センサ6a、6bの検出部が対向する部分の変位量を確保し、このエンコーダ4aの下端部にセンサの検出部を対向させる場合と比較しての、前記グリップ力に関する測定精度の悪化を最小限に抑えられる。
【0034】
又、本例の場合には、前記外側列の玉3a、3aの接触角αを大きくする代わりに、前記内側列の玉3b、3bの接触角βを小さくしている為、キャンバー剛性が過度に高くなる事を防止し、しかも、ラジアル負荷容量の確保を図れる。先の説明から明らかな通り、前記グリップ力を測定する為には、キャンバー剛性が過度に大きくなる事は好ましくない。図2により説明すると、線分a→線分bで表した、モーメントによる傾きに伴うエンコーダの被検出面の変位量「La-b」が、線分b→線分cで表した、純アキシアル方向の変位に伴う、この被検出面の変位量「Lb-c」よりも大きい(「La-b」>「Lb-c」)事が必要である。前記アキシアル剛性に比較して前記キャンバー剛性を過度に大きくすると、「La-b」≦「Lb-c」となる可能性があり、前記グリップ力が発生しているにも拘らず、前記両センサ6a、6bの出力信号同士の間に存在する位相差が、零乃至はマイナスになる可能性を生じる。この様な状態では、前記グリップ力の測定に支承をきたす為、前記「La-b」>「Lb-c」なる条件を確保する事は必要である。
【0035】
転がり軸受の技術分野で広く知られている様に、車輪支持用転がり軸受ユニット等の複列転がり軸受ユニットのモーメント剛性(車輪支持用転がり軸受ユニットの場合のキャンバー剛性)は、両列の転動体の接触角の方向に一致する作用線と、転がり軸受ユニットの中心軸との交点同士の間隔である、支持間隔{図1の(A)(B)のDA、DB}が長いほど大きくなる。又、背面組み合わせ型構造の場合、この支持間隔DA、DBは、接触角を大きくすると長くなり、逆に、接触角を小さくすると短くなる。本例の場合、前記外側列の玉3a、3aの接触角αを大きくする代わりに、前記内側列の玉3b、3bの接触角βを小さくしている為、前記アキシアル剛性を高くした場合でも、前記支持間隔DAを、図1の(B)に示した、従前の構造での支持間隔DBと同程度(DA≒DB)にできる。この為、前記アキシアル剛性の向上に拘らず、前記キャンバー剛性を適正な大きさに維持できる。
【0036】
又、やはり転がり軸受の技術分野で広く知られている様に、転がり軸受ユニットのラジアル負荷容量は、接触角が小さいほど大きくなり、接触角が大きくなるほど小さくなる。本例の構造の場合には、前記接触角βが小さい、内側の列の玉3b、3bは、ラジアル荷重に関する負荷容量が大きい。前記アキシアル剛性を高くする為、接触角αを大きくした外側列の玉3a、3aのラジアル荷重に関する負荷容量は低下するが、前記接触角βが小さい、内側の列の玉3b、3bの負荷容量が向上する為、前記車輪支持用転がり軸受ユニット14a全体としての、ラジアル荷重に関する負荷容量は、十分に確保できる。
以上の理由により、本例の自動車の車輪用荷重測定装置によれば、前記エンコーダ4aの上端部近傍部分にセンサ6a、6bを配置した構造で、前記車輪支持用転がり軸受ユニット14aのキャンバー剛性の低下、並びにラジアル負荷容量の低下を抑えつつ、測定精度の悪化を最小限に抑えられる。
【0037】
尚、本発明を実施する場合に、前記両列の玉3a、3bのピッチ円直径が、両列の玉3a、3bのスパン(列間ピッチ、両列の玉3a、3bの中心間距離)よりも大きい事が必要である。ピッチ円直径よりもスパンが大きくなると、前記車輪支持用転がり軸受ユニット14aの中心から外れた部分から、グリップ力に基づくモーメント及びアキシアル荷重が入力された場合に於ける、外輪1aとハブ2aとの相対変位に関する(これら両部材1a、2aの中心軸同士を傾斜させる方向に加わるモーメントに対する)、ラジアル剛性とアキシアル剛性との影響が異なり(逆になり)、本発明が成立しなくなる(接触角の大小を、本発明とは逆にする必要が生じる)。但し、一般的に、車輪支持用転がり軸受ユニットの場合、前記ピッチ円直径は前記スパンよりも十分に(例えば2倍以上)大きいので、余程特殊な設計でない限り、本発明は成立する。
【実施例1】
【0038】
本発明の効果を確認する為に行った、コンピュータシミュレーションの結果に就いて、図3〜6を参照しつつ説明する。このコンピュータシミュレーションでは、図1の(B)に示した従前の構造で、センサをエンコーダ14aの上端部に対向させた場合に比べて、図1の(A)に示した本発明の実施の形態の構造が、このエンコーダ14aの上端部のアキシアル方向変位、延いては1対のセンサ6a、6bの出力信号同士の間の位相差比の変化を大きくできる事を確認した。
【0039】
シミュレーションの結果に影響する条件は、次の通りである。
[従前構造と実施形態構造とで共通する条件]
外輪1aの材質 : 機械構造用炭素鋼(中炭素鋼)
外輪軌道18a、18bの断面形状の曲率半径 : 6.5mm
ハブ2の本体部分の材質 : 機械構造用炭素鋼(中炭素鋼)
この本体部分の軸方向内端部に外嵌した内輪の材質 : 高炭素クロム軸受鋼
玉3a、3bの材質 : 高炭素クロム軸受鋼
玉3a、3bの直径 : 12mm
玉3a、3bの個数 : 各列毎に8個ずつ、合計16個
両列の玉3a、3bのピッチ円直径 : 66mm
両列の玉3a、3bのスパン : 22mm
各玉3a、3bの予圧 : 6.86kN(700kgf)
[従前構造と実施形態構造とで異なる条件]
外側列の玉3a、3aの接触角α、γ
従前構造の接触角γ : 40度
実施形態構造の接触角α : 45度
内側列の玉3b、3bの接触角β、γ
従前構造の接触角γ : 40度
実施形態構造の接触角β : 35度
【0040】
上述した条件で行ったコンピュータシミュレーションを表す図3〜6のうち、先ず、図3は、接地面に作用するアキシアル荷重(グリップ力)とキャンバー角との関係を示している。この様な図3のうち、実線aが、図1の(B)に示した従前構造の場合を、鎖線bが同じく(A)に示した実施形態構造の場合を、それぞれ示している。この様な図3から明らかな通り、キャンバー剛性は、実施形態構造と従前構造とで殆ど同じである。
【0041】
次に、図4は、グリップ力と、純アキシアル方向の変位量との関係を示している。実線aが従前構造の場合を、鎖線bが実施形態構造の場合を、それぞれ示している。この様な図4から明らかな通り、実施形態構造によれば、純アキシアル方向の変位量を低く抑えられる。
次に、図5は、グリップ力と、エンコーダ4aの上端部外周面に対向した1対のセンサ6a、6bの出力信号に関する位相差比との関係を示している。実線aが従前構造の場合を、鎖線bが実施形態構造の場合を、それぞれ示している。この様な図5から明らかな通り、実施形態構造によれば、位相差比の変化を大きくできる。
【0042】
更に、図6は、前述の図11と上述の図5とを合わせて、本発明の構造が、前記両センサ6a、6bを前記エンコーダ4aの下端部から上端部に移動させた事に伴う位相差比の悪化の一部を補償できる状況を示している。図6の破線cは図11の破線aに、図6の実線aは図11の実線b及び図5の実線aに、図6の鎖線bは図5の鎖線bに、それぞれ対応する。この様な図6から明らかな通り、本発明の構造によれば、前記両センサ6a、6bの設置位置が、前記エンコーダ4aの上端部に限定された場合にも、測定精度の悪化を最小限に抑えられる。又、図5、6の実線a(従前構造)と鎖線b(実施形態構造)とを比較すれば明らかな通り、本発明によれば、グリップ力の大きさと1対のセンサの位相差比との関係が直線に近くなり、これら両センサの位相差比から前記グリップ力を求め易くなる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上の説明は、本発明を内輪回転型の車輪支持用転がり軸受ユニットに関して実施する場合に就いて行った。これに対して本発明は、回転しない軸の周囲にハブを回転自在に支持する、外輪回転型の車輪支持用転がり軸受ユニットに関して実施する事もできる。外輪回転型の車輪支持用転がり軸受ユニットの場合には、アキシアル荷重を支承する転動体の列が、内輪回転型の場合とは、軸方向に関して内外逆になる為、接触角を大きくする列を、内側列とする。又、転動体として、玉に代えて円すいころを使用した構造に関して、本発明を実施する事もできる。転動体が円すいころの場合も、両列の円すいころのピッチ円直径が、両列の円すいころのスパン(両列の円すいころの中心間距離)よりも大きい事が必要である。
【0044】
又、本発明の構造を含めて、周面に「く」字形若しくは「V」字形の特性変化部を有するエンコーダとセンサとの組み合わせにより、転がり軸受ユニットに加わる、アキシアル方向の荷重若しくは力を求める構造の場合には、前記エンコーダとセンサとの軸方向に関する相対位置関係、具体的には、前記「く」字形若しくは「V」字形の特性変化部の中心とセンサとの、軸方向に関する位置関係を厳密に規制する必要がある。前述の図7に記載された構造の様に、センサ6a、6bを車輪支持用転がり軸受ユニットを構成する外輪1に対し、カバー5等を介して直接支持固定する構造であれば、前記位置関係を規制する事は比較的容易である。例えば特許文献4に記載された技術を利用して、車輪支持用転がり軸受ユニットの製造工場で、エンコーダとセンサとの位置関係を適切にして組み立てた状態で出荷し、自動車の組立工場で、そのまま懸架装置に組み付ける事ができる。
【0045】
これに対して、センサを、ナックル等の、車輪支持用転がり軸受ユニット以外の部分に支持固定する構造を採用した場合には、車輪支持用転がり軸受ユニットの製造工場では、エンコーダのみを組み付け、このエンコーダと、別途懸架装置に支持固定された1対のセンサとを組み合わせる必要がある。この様に、車輪支持用転がり軸受ユニットに組み付けられたエンコーダと、別途懸架装置に支持固定された1対のセンサとを組み合わせた状態で、これらエンコーダと両センサとの軸方向に関する位置関係が不適切であると、このエンコーダの軸方向変位に伴って、前記両センサの出力信号の前後が逆転する、所謂追い越しが発生する可能性がある。この様な追い越しが発生しない様にする為には、定常状態(アキシアル荷重が零の状態)で、前記両センサの出力信号同士の間に存在する位相差比を、0.5若しくはそれに近い値(例えば0.4〜0.6)にする事が好ましい。但し、前記エンコーダの軸方向位置を厳密に規制しないと、例え前記懸架装置に対する前記両センサの設置位置を厳密に規制しても、前記位相差比を0.5に近い値にする事ができなくなる。
【0046】
これらの事を考慮すれば、前記車輪支持用転がり軸受ユニットの製造工場では、例えば図12の(A)(B)に示す様な手法により、ハブ2aに対するエンコーダ4cの位置決め精度を確保する必要がある。この位置決め精度を確保する場合に、このエンコーダ4cを装着するハブ2aと、両センサ6a、6bを装着する懸架装置との間には、各玉3a、3bや外輪1aが存在し、これら各部材3a、3b、1aの寸法誤差が、前記エンコーダ4cと前記両センサ6a、6bとの、軸方向に関する位置決め精度に影響する可能性がある。この位置決め精度を向上させる為には、前記各部材3a、3b、1aの寸法誤差の影響を排除する必要がある。この為には、前記ハブ2aに前記エンコーダ4cを組み付けた後、このハブ2aに対するこのエンコーダ4cの軸方向位置が適切であるか否かを判定する技術が必要になる。
【0047】
この様な技術として開発された検査方法のうち、先ず、図12の(A)に示した方法では、前記両センサ6a、6bと距離センサ28とを保持したホルダ29を、前記エンコーダ4cを装着した車輪支持用転がり軸受ユニットに、前記ハブ2aを回転させつつ近付けて、前記両センサ6a、6bを前記エンコーダ4cの外周面に近接対向させる。そして、これら前記両センサ6a、6bの出力信号の位相差比が0.5になった状態での前記距離センサ28の測定値により、固定側フランジ20の軸方向内側面と前記両センサ6a、6bとの、軸方向に関する位置関係の適否を判定する。
【0048】
又、図12の(B)に示した方法では、前記両センサ6a、6bを保持したホルダ29aを、前記エンコーダ4cを装着した車輪支持用転がり軸受ユニットに、前記ハブ2aを回転させつつ、前記ホルダ29aの一部が固定側フランジ20の軸方向内側面に突き当たるまで近付けて、前記両センサ6a、6bを前記エンコーダ4cの外周面に近接対向させる。そして、これら前記両センサ6a、6bの出力信号の位相差比の、0.5からのずれを測定する。そして、このずれの大きさにより、固定側フランジ20の軸方向内側面と前記両センサ6a、6bとの、軸方向に関する位置関係の適否を判定する。
前記固定側フランジ20の軸方向内側面は、前記ナックル等の懸架装置の構成部材への付き当て面であるから、この軸方向内側面と前記両センサ6a、6bとの軸方向に関する位置関係の適否を判定すれば、ハブ2aに対するこのエンコーダ4cの軸方向位置が適切であるか否かを判定できる。
【符号の説明】
【0049】
1、1a 外輪
2、2a ハブ
3、3a、3b 玉
4、4a、4b、4c エンコーダ
5 カバー
6a、6b センサ
7 透孔
8 柱部
9 第一の特性変化部
10 第二の特性変化部
11 車輪
12 タイヤ
13 路面
14、14a、14b 車輪支持用転がり軸受ユニット
15 ナックル
16、16a 芯金
17、17a エンコーダ本体
18a、18b 外輪軌道
19a、19b 内輪軌道
20 固定側フランジ
21 スプライン孔
22 等速ジョイント用外輪
23 スプライン軸
24 抑えボルト
25 頭部
26 回転側フランジ
27 ホイール
28 距離センサ
29、29a ホルダ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0050】
【特許文献1】特開2006−317420号公報
【特許文献2】特開2005−172077号公報
【特許文献3】特開2007−199040号公報
【特許文献4】特開2008−157790号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪支持用転がり軸受ユニットと、エンコーダと、センサと、演算器とを備え、
このうちの車輪支持用転がり軸受ユニットは、内周面に複列の外輪軌道を有する外輪相当部材と、外周面に複列の内輪軌道を有する内輪相当部材と、これら両外輪軌道と両内輪軌道との間に、両列毎に複数個ずつ転動自在に設けられた転動体とを備え、これら両列の転動体のピッチ円直径が、これら両列の転動体のスパンよりも大きく、前記外輪相当部材と前記内輪相当部材とのうちの一方の部材を、懸架装置に支持固定されて使用時にも回転しない静止側軌道輪とし、同じく他方の部材を、車輪を固定した状態でこの車輪と共に回転する回転側軌道輪として、前記各転動体に、背面組み合わせ型の接触角と共に予圧を付与しており、
前記エンコーダは、この回転側軌道輪の軸方向内端部にこの回転側軌道輪と同心に支持固定されたもので、内外両周面のうちの何れか周面を被検出面としており、
前記センサは、回転しない部分に支持された状態で、検出部を前記エンコーダの被検出面に対向させており、
前記演算器は、前記エンコーダの被検出面の軸方向の変位量に基づいて、前記静止側軌道輪と前記回転側軌道輪との間に作用するアキシアル荷重を測定する機能を有する
自動車の車輪用荷重測定装置に於いて、
前記センサは前記被検出面の上半部に対向しており、
前記各転動体のうち、軸方向内向のアキシアル荷重を支承する側の列の転動体に付与した接触角が、同じくこのアキシアル荷重を支承しない側の列の転動体に付与した接触角よりも大きい事を特徴とする自動車の車輪用荷重測定装置。
【請求項2】
回転側軌道輪が内輪相当部材であり、静止側軌道輪が外輪相当部材であり、各転動体のうち、軸方向外側の列の転動体に付与した接触角が、同じく軸方向内側の列の転動体に付与した接触角よりも大きい、請求項1に記載した自動車の車輪用荷重測定装置。
【請求項3】
回転側軌道輪が外輪相当部材であり、静止側軌道輪が内輪相当部材であり、各転動体のうち、軸方向内側の列の転動体に付与した接触角が、同じく軸方向外側の列の転動体に付与した接触角よりも大きい、請求項1に記載した自動車の車輪用荷重測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−196888(P2011−196888A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65434(P2010−65434)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】