説明

自動車用の制動装置および制動方法

【課題】自動車用の制動装置および制動方法を提供する。
【解決手段】可変特性曲線に従って、運転者が操作できるブレーキペダル装置12と、ブレーキペダル装置12の操作量に対応し、かつ可変特性曲線に対応する制動効果で自動車を制動する制動ユニット20と、可能特性曲線領域を保存するメモリ装置16と、可能特性曲線領域から可変特性曲線を選択するために設けられた制御ユニット14とを有する、自動車用の制動装置および制動方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用の制動装置および制動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧制動装置では、力/移動量特性曲線が制動装置の幾何学的寸法の影響も受けることは公知である。
【0003】
さらに、例えば、ブレーキディスクの濡れ、ブレーキライナの変化、トレーラモード、およびフェードなどの外部からの影響もまた、ペダルの操作によって引き起こされ得る車両の減速に影響を及ぼす。
【0004】
ペダルシミュレータを備えたブレーキシステムでは、力/移動量特性曲線は、制御ユニットを用いて電子的に作成される。この場合に、前述の外部からの影響のもとで、力と移動量の相関関係が合わないことがしばしば起こる。
【0005】
(特許文献1)は、ブレーキペダルを用いて作動される制動プロセスをブレーキ(車両ホイールに設けるのが好ましい)に電子的に伝達する機能と、ホイールがスリップした場合に、ブレーキペダルの操作とは異なるブレーキ操作を引き起こすスリップ制御機能とを有する電子機械式車両制動装置について記載されており、また、この制動装置において、そのようなスリップ制御機能が作動したときに、通常油圧車両制動装置でみられるような反応挙動をブレーキペダルにおいて発生させることが可能なことも記載されている。
【0006】
上述の電子機械式車両制動装置では、上述の反応挙動は、ペダルシミュレータと呼ばれるものにおいて発生させることができ、正確には、バイブレータまたは圧電要素を用いて、発生させることができる。この場合、任意選択的に反応挙動を生じさせないようにすることもでき、油圧車両制動装置の場合におけるアクティブスリップ制御機能に対応する反応挙動を、油圧車両制動装置と比べて増幅または減衰することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1 138 564号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、運転者に自然なブレーキペダル感覚をもたらし、制動装置の力/移動量特性曲線と主だった周囲からの影響とを結びつけることができる、自動車用の制動装置および制動方法を利用可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、特許請求項1の特徴を有する制動装置、および特許請求項9の特徴を有する制動方法によって達成される。
【0010】
結果として、本発明によれば、以下のような自動車用の制動装置および制動方法が利用可能になる。すなわち、この自動車用の制動装置は、可変の、力/移動量ペダル特性曲線(以下、「可変特性曲線」という)に従って、運転者が操作できるブレーキペダル装置と、ブレーキペダル装置の操作量に対応し、かつ可変特性曲線に対応する制動効果によって自動車を制動する制動ユニットとを有する。
【0011】
さらに、制動装置は、可能な、力/移動量ペダル特性曲線の一群よりなる特性曲線の領域(以下、「可能特性曲線領域」という)を保存するメモリ装置と、可能特性曲線領域から可変特性曲線を選択するために設けられた制御ユニットとを有する。
【0012】
さらに、本発明によれば、以下のステップ、すなわち、
制動装置のメモリ装置に保存された、ブレーキペダル装置の可能特性曲線領域の範囲を限定するステップと、
制御ユニットを用いて、可能特性曲線領域から可変特性曲線を選択するステップと、
ブレーキペダル装置の操作量に対応し、かつ可変特性曲線に対応する制動効果で自動車を制動するステップと、
を含む、自動車用の制動方法が提供される。
【0013】
本発明が基本とする考え方は、ブレーキペダル装置の力/移動量ペダル特性曲線を以下のように適合させるというものである。すなわち、運転者が周囲からの影響を感じることができるようにするために、装置の現在の制動挙動に対応する実際の、力/移動量ペダル特性曲線(以下、「実際特性曲線」という)を用いる一方で、ブレーキペダル装置を校正するために、固有の、力/移動量ペダル特性曲線(以下、「固有特性曲線」という)を用いる。
【0014】
制動装置の1つの好ましい発展形態では、制御ユニットに可変設定値が与えられ、可変設定値を用いて、可能特性曲線領域内を段階的に移動することができる。
【0015】
可変設定値を用いて、可変特性曲線が、可能特性曲線領域から選択され、ブレーキペダル装置の力/移動量ペダル特性曲線として使用される。
【0016】
制動装置の一発展形態では、可能特性曲線領域は、ブレーキペダル装置を校正するために用いる固有特性曲線と、制動ユニットの現在の制動挙動に対応する実際特性曲線とによって範囲が限定される。
【0017】
制動装置の一発展形態では、制動ユニットは、実際特性曲線を検出するセンサユニットと、制動効果を生じさせるブレーキシステムとを有する。
【0018】
制動装置の一発展形態では、実際特性曲線は、ブレーキシステムの変化によって変わり得る。
【0019】
制動装置の一発展形態では、実際特性曲線は、ブレーキシステムを用いた複数回の制動、または比較的長い制動後に変わり得る。
【0020】
制動装置の一発展形態では、固有特性曲線は、力と移動量が比例関係を有する。
【0021】
制動装置の一発展形態では、可変特性曲線は、自動車の走行モード時に、制御ユニットを用いて変えることができる。可変特性曲線は、走行モード時に、制御ユニットを用いて、力/移動量ペダル特性曲線を簡単に設定することができる。
【0022】
制動方法の1つの好ましい発展形態では、実際特性曲線は、制動ユニットでの変化により変わる。
【0023】
制動方法の一発展形態では、自動車の走行モード時に可変設定値を変える。
【0024】
制動方法の一発展形態では、制御ユニットへの可変設定値を使用し、この可変設定値を用いて、可能特性曲線領域内を段階的に移動する。
【0025】
本発明の上記の改良形態および発展形態は、所望する任意の適切な方法で互いに組み合わせることができる。
【0026】
以下の本文では、本発明による方法および本発明による装置の実施形態が、説明を目的とした添付図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態による制動装置の概略図を示している。
【図2】本発明の実施形態による、可能特性曲線領域を示す図を示している。
【図3】本発明の実施形態による本発明に従った制動方法の流れ図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図面の中のすべての図において、同一および機能的に同一の要素は、特に指定のない限り、同じ参照符号を付与されている。
【0029】
図1は、本発明の実施形態による制動装置の概略図を示している。制動装置100は、ブレーキペダル装置12、制御ユニット14、メモリ装置16、および制動ユニット20を含む。
【0030】
この場合に、制御ユニット14は、ブレーキペダル装置12、メモリ装置16、および制動ユニット20にそれぞれ接続されている。
【0031】
この場合に、制御ユニット14は、メモリ装置16に保存された、可能特性曲線領域KFLから所望する可変特性曲線V−PKLを選択することができ、この選択は、自動車の走行状態に応じて行われるか、または運転者が設定できる可変設定値AEに基づいて行われる。
【0032】
図1に示す例示的な実施形態による制動装置100では、特に、制動ユニット20が、ブレーキシステム22と、自動車の制動減速および制動挙動を測定する力センサおよび/または加速度センサを有するセンサユニット24とを有すると規定される。
【0033】
自動車の制動減速および制動挙動を測定するために、例えば、ブレーキディスクの温度を検出するセンサをセンサユニット24として使用することも可能である。
【0034】
例えば、ブレーキシステム22は、油圧ブレーキシステムおよび/または回生ブレーキシステムとして具現化される。
【0035】
図2は、本発明の実施形態による、可能特性曲線領域を示す図を示しており、制動減速を引き起こす力が、ブレーキペダル装置12のペダルの移動量に対してプロットされている。
【0036】
この図には、ペダルの移動量の増加に伴う力の増加が示されている。そのような力/移動量ペダル特性曲線は、制動装置100の目的どおりの操作性を可能にするので、制動装置100にとって非常に有益である。ブレーキペダル装置12の操作の結果として、例えば、それに比例して車両が減速するので、運転者は、この、操作と減速との基本的な関係に慣れるようになる。
【0037】
可能特性曲線領域KFLは、制動ユニット20の現在の制動挙動に対応する実際特性曲線T−PKLと、固有特性曲線F−PKLとによって範囲が限定される。固有特性曲線F−PKLは、ブレーキペダル装置12を校正するために用いる力/移動量ペダル特性曲線である。
【0038】
実際特性曲線T−PKLは、外部からの影響、例えば、ブレーキディスクの濡れおよびライナ、トレーラモード、フェードなどによって引き起こされた、例えば、傾きの急激な変化などの特有の特性を有する。
【0039】
実際特性曲線T−PKLと固有特性曲線F−PKLとの間の差異は、ブレーキシステムの変化として、運転者によって感覚的に認識される。この差異により、運転者は、ブレーキの状態および周囲からの影響の変化について連続的に知らされる。
【0040】
このとき、可変特性曲線V−PKLは、例えば、0%〜100%で可変の、可変設定値AEを通じて、可能特性曲線領域から選択され、ブレーキペダル装置12の可変特性曲線V−PKLとして使用される。
【0041】
可変設定値AEが100%の値をとる場合、車両の制動挙動は、従来のブレーキシステムを有する車両の制動挙動と差はなく、制動ユニット20の現在の制動挙動と一致する実際特性曲線T−PKLが使用される。
【0042】
可変設定値AEが0%の値をとる場合、ブレーキシステムからのフィードバックは全くなく、ブレーキペダル装置12を校正するために用いる、ブレーキペダル装置12の固有特性曲線が使用される。
【0043】
可変設定値AEを用いて、例えば、全く同じハードウェアで、自動車の制動装置100の所望する任意の快適性を示すことが可能である。走行モード時に、異なる快適特性間で切り換えることが可能である。運転者が、可変設定値AEを手動で変えることもできる。
【0044】
さらに、制御ユニット14は、例えば、自動車によってもたらされるマイレージに応じて、可変設定値AEを変えることができる。この場合、マイレージは、自動車の実用寿命、または自動車の走行計の読み値に応じて求めることができる。
【0045】
例えば、制御ユニット14は、さらなるセンサを用いて制動ユニット20またはブレーキシステム22の実用寿命を検出することもでき、制動ユニット20の現在の制動効果を運転者に伝えるために、可変設定値AEを調整することができる。
【0046】
図3は、本発明による、自動車用の制動方法の例示的な実施形態の流れ図を示している。制動方法は以下のステップを含む。
第1のステップS1で、制動装置100のメモリ装置16に保存された、ブレーキペダル装置12の可能特性曲線領域KFLの範囲を限定する。
次のステップS2で、制御ユニット14を用いて、可能特性曲線領域KFLから可変特性曲線V−PKLを選択する。
次のステップS3で、ブレーキペダル装置12の操作量に対応し、かつ可変特性曲線V−PKLに対応する制動効果で自動車を制動する。
【0047】
方法は、図1による制動装置100を用いて実行することができる。
【0048】
本発明は、例示的な実施形態に基づいて上記に説明されたが、本発明はそれらに限定されるものではなく、様々な方法で修正することができる。
【符号の説明】
【0049】
12 ブレーキペダル装置
14 制御ユニット
16 メモリ装置
20 制動ユニット
22 ブレーキシステム
24 センサユニット
100 制動装置
AE 可変設定値
F−PKL 固有特性曲線
KFL 可能特性曲線領域
T−PKL 実際特性曲線
V−PKL 可変特性曲線
S1 ステップ
S2 ステップ
S3 ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用の制動装置において、
可変の、力/移動量ペダル特性曲線を表す可変特性曲線(V−PKL)に従って、運転者が操作できるブレーキペダル装置(12)と、
前記ブレーキペダル装置(12)の操作量と、前記可変特性曲線(V−PKL)とに依存する制動効果によって前記自動車を制動する制動ユニット(20)と、
可能な、力/移動量ペダル特性曲線の一群よりなる領域を表す可能特性曲線領域(KFL)を保存するメモリ装置(16)と、
前記可能特性曲線領域(KFL)から前記可変特性曲線(V−PKL)を選択するために設けられた制御ユニット(14)と、
を有する制動装置。
【請求項2】
前記制御ユニット(14)に可変設定値(AE)が与えられ、前記可変設定値(AE)を用いて、前記可能特性曲線領域(KFL)内を段階的に移動することができる、請求項1に記載の制動装置。
【請求項3】
前記可能特性曲線領域(KFL)は、前記ブレーキペダル装置(12)を校正するために用いる固有の、力/移動量ペダル特性曲線を表す固有特性曲線(F−PKL)と、前記制動ユニット(20)の現在の制動挙動に対応する実際の、力/移動量ペダル特性曲線を表す実際特性曲線(T−PKL)とによって範囲が限定される、請求項1または2に記載の制動装置。
【請求項4】
前記制動ユニット(20)は、前記実際特性曲線(T−PKL)を検出するセンサユニット(24)と、前記制動効果を生じさせるブレーキシステム(22)とを有する、請求項3に記載の制動装置。
【請求項5】
前記実際特性曲線(T−PKL)は、前記ブレーキシステム(22)の変化によって変わり得る、請求項3または4に記載の制動装置。
【請求項6】
前記実際特性曲線(T−PKL)は、前記ブレーキシステム(22)を用いた複数回の制動、または比較的長い制動後に変わり得る、請求項3〜5のいずれか一項に記載の制動装置。
【請求項7】
前記固有特性曲線(F−PKL)は、力と移動量とが比例関係にある、請求項3〜6のいずれか一項に記載の制動装置。
【請求項8】
前記可変特性曲線(V−PKL)は、前記自動車の走行モード時に、制御ユニット(14)を用いて変えることができる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の制動装置。
【請求項9】
自動車用の制動方法において、
制動装置(100)のメモリ装置(16)に保存された、ブレーキペダル装置(12)の可能特性曲線領域(KFL)の範囲を限定するステップ(S1)と、
制御ユニット(14)を用いて、前記可能特性曲線領域(KFL)から可変特性曲線(V−PKL)を選択するステップ(S2)と、
前記ブレーキペダル装置(12)の操作量と、前記可変特性曲線(V−PKL)とに対応する制動効果で前記自動車を制動するステップ(S3)と、
を含む制動方法。
【請求項10】
実際特性曲線(T−PKL)が、制動ユニット(20)の変化によって変わる、請求項9に記載の制動方法。
【請求項11】
前記自動車の走行モード時に可変設定値(AE)を変える、請求項9または10に記載の制動方法。
【請求項12】
前記制御ユニット(14)の前記可変設定値(AE)が使用され、前記可変設定値(AE)を用いて、前記可能特性曲線領域(KFL)内を段階的に移動する、請求項9〜11のいずれか一項に記載の制動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−192915(P2012−192915A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−49477(P2012−49477)
【出願日】平成24年3月6日(2012.3.6)
【出願人】(510238096)ドクター エンジニール ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト (63)
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Porscheplatz 1, D−70435 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】