説明

自動車用フロントガラス

【課題】
自動車フロントガラスに旋光子を積層してなる光学機能性フィルムを設ける表示システムにおいて、透視歪みが大きくなり、光学機能性フィルムを挿入することが困難となる場合がある。
【解決手段】室内側と室外側の2枚の板ガラスを2枚の中間膜を用いて接着し、該2枚の中間膜の間に、厚みが12〜22μmのフィルム状の旋光子を積層してなる光学機能フィルムを挿入する。旋光子の厚みは4〜5μmである。2枚の中間膜の合計厚みは760μm以上とし、さらに、室内側中間膜の厚みを380μm以上、室外側中間膜の厚みが室内側中間膜の1〜2倍の厚みとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表示光を光学的に投射し、前方視野内あるいはその近傍の前景を重畳し、運転者等に視認させるようにしたヘッドアップディスプレイ(以下、HUDと略称する)の用途に使用する旋光子あるいはホログラムなどの光学機能フィルムを板ガラスに接着した積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、HUDとして、フロントガラスの2つの面による反射像が2重像となるため、表示が見づらいという問題があった。
【0003】
この問題に対して、表示光を偏光にし、S偏光として入射してガラスの表面で反射させ、表面を透過した表示光は偏光方向調整フィルム(旋光子)を用いてP偏光として、裏面での反射を無くし、2重像を解消するという技術が、特許文献1に開示されている。
【0004】
特許文献1において、図3に示すように、合わせガラスの室内側ガラス2と中間膜3との間に偏光方向調整フィルム(旋光子)4を設けるものが開示されている。
【0005】
特許文献2では、偏光方向調整フィルム(旋光子)をフロントガラスに設ける場合、耐光性や安全性を向上するものとして、図4に示すように合わせガラスの室外側ガラス1と中間膜3との間に偏光方向調整フィルム(旋光子)を設けるものが開示されている。
【0006】
特許文献1および2の旋光子フィルムは、液晶状態でねじれネマティック配向し、液晶転移点以下ではガラス状態となる液晶高分子で、ガラスとの接着性は、中間膜とガラスとの接着性に較べると非常に弱いため、ガラス面には接着剤を用いて固定している。
【0007】
特許文献1の場合は、偏光方向調整フィルムの挿入によって、ガラス破砕時に、破砕したガラスが室内に落下するという危険性があり、これを解決するため、特許文献2のように、偏光方向調整フィルムガラスを室外側のガラスに固定する提案がなされている。
【0008】
特許文献2の場合、偏光方向調整フィルムは、太陽光の強力な紫外線にさらされるため、ガラスに偏光方向調整フィルムを固定するために用いる接着剤に紫外線吸収剤を混入することが開示されている。
【0009】
特許文献3は、合わせガラスのガラスと中間フィルムとの間に、ホログラムを挿入したときの挿入するものの厚みと透視歪みについての記載があり、透視歪みを満たすためには、ホログラムの厚みを7μm〜40μmとすることが記載されている。
【特許文献1】特開平6−40271号公報
【特許文献2】特開平9−175844号公報
【特許文献3】特開平1−86110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
自動車のフロントガラスに設けられる旋光子は接着剤やバリア層が積層されて厚くなり、フロントガラスの形状などによって透視歪みが大きくなり、場合によっては透視歪みのために旋光子を設けることが困難となる場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の自動車用フロントガラスは、ヘッドアップディスプレイに用いる自動車用フロントガラスにおいて、室内側と室外側の2枚の板ガラスを2枚の中間膜を用いて接着し、該2枚の中間膜の間にフィルム状の旋光子を積層してなる光学機能フィルムを挿入し、該光学機能フィルムの厚みが12μm〜22μmであることを特徴とする自動車用フロントガラスである
また、本発明の自動車用フロントガラスは、前記自動車用フロントガラスにおいて、旋光子の厚みが4μm〜5μmであることを特徴とする自動車用フロントガラスである。
【0012】
また、本発明の自動車用フロントガラスは、前記自動車用フロントガラスにおいて、2枚の中間膜の合計厚みが760μm以上であることを特徴とする自動車用フロントガラスである。
【0013】
また、本発明の自動車用フロントガラスは、前記自動車用フロントガラスにおいて、室内側中間膜の厚みを380μm以上とし、室外側中間膜の厚みが室内側中間膜の1〜2倍の厚みであることを特徴とする自動車用フロントガラスである。
【0014】
また、本発明の積層体は、ガラスと光学機能フィルムとの間に中間膜を配するので、R3212(自動車用安全ガラス試験方法)に定められた耐貫通性試験、耐衝撃性試験に、積層体のどちらの面に対しても目合格することができ、安全性の向上に繋がる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の積層体は、光学機能フィルムをフロントガラスに設けて、フロントガラスに表示を行うヘッドアップディスプレイの表示システムにおいて、透視歪みの少ないフロントガラスを提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
光学機能性フィルム6は、図2に示すように、保護フィルム9にフィルム状の旋光子8積層されており、旋光子8にバリアフィルム7が積層されている。バリアフィルム7は、旋光子8が中間膜に含まれている可塑剤によって変質されないようにするためであり、厚さは4μm〜5μmとすることが好ましい。
【0017】
保護フィルム9はポリエチレンテレフタレート(PET)などの透明なプラスティックフィルムを用い、旋光子を積層するために、4μm〜5μmの厚みにすることが望ましい。
【0018】
旋光子8は、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの透明プラスチックフィルムなどの透明基板上に液晶ポリマーを塗布し、せん断力をかけた後、熱処理、冷却して液晶配向を固定化したものであり、ポリマーとしては、液晶状態でねじれネマティック配向し、液晶転移点以下ではガラス状態となるものは使用することができ、光学活性なポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステルイミドなどの主鎖型液晶ポリマー、あるいは光学活性なポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリマロートなどの側鎖型液晶ポリマーなどを使用することができる。
【0019】
旋光子8の厚みは、偏光方向を90度変えるために、4μm〜5μmの厚みにすることが好ましい。
【0020】
紫外線吸収剤10は、紫外線から旋光子を保護する目的で設けるものであり、接着剤に紫外線吸収剤を含有させたものを使用することができ、厚みは4μm以下である。
【0021】
光学機能性フィルム6は、図1に示すように、室外側中間膜5と室内側中間膜5′都の間に挿入される。紫外線吸収剤10は、室外側中間膜の厚みを厚くすることによって薄くすることができ、例えば、実施例2のように、紫外線吸収剤を用いないことも可能である。
【0022】
光学機能性フィルム6の厚みは、光学機能性フィルム機能フィルム6を構成する各層の望ましい厚みの合計から12μm〜22μmとすることが好ましい厚みである。
【0023】
室内側中間膜5′と室内側中間膜5の厚みについては、その合計厚みが760μm以上とすることが安全上望ましく、室内側中間膜5′は360μm以上とすることが好ましい。さらに、室外側中間膜5の厚みは、室内側中間膜5′の1〜2倍の厚みとすることが望ましい。
【0024】
光学機能性フィルムの厚みを22μm以下にすることにより、実施例の結果から、透視歪みにほとんど問題のないHUD用の自動車用フロントガラスが提供できる。
【実施例】
【0025】
実施例1
図2に示す構成の光学機能性フィルム6を用いた。旋光子8は、保護層として用いたポリエチレンテレフタレート(PET)9上に塗布したポリメタクリレートにせん断力をかけた後、せん断力をかけた後、熱処理、冷却して液晶配向を固定化したものであり、厚みを4μmとしたものを用いた。
【0026】
旋光子8の片側に、中間膜の可塑剤の移行を阻止するためのバリアフィルム7として、4μm厚さのアクリル系樹脂層を設け、他の側に、保護フィルム9として、4μm厚さのアクリル系樹脂層を設け、さらに、耐候性を改善するための保護膜として、紫外線吸収剤を混入した厚さ10μmのポリビニルアセタール樹脂を紫外線吸収剤10として保護フィルム9の上に被覆した。
【0027】
光学機能性フィルム6は、ポリビニルアセタール樹脂層を室外側にし、2枚の中間膜の間に積層した。さらに、この積層した2枚の中間膜を、2mm厚さの室外側ガラスと2mm厚さの室内側板ガラスとの間に挿入して、オートクレーブ処理を行い、自動車用フロントガラスとして用いられる合わせガラスとした。
【0028】
2枚の中間膜には、共に厚みが380μmのポリビニルブチラール樹脂を用いた。
【0029】
本実施例の自動車用フロントガラスは、光学機能性フィルムを挿入して生じる透視歪みの問題がほとんどないものであった。
【0030】
また、JIS規格R3211、R3212で規定される耐貫通性試験と耐衝撃性試験を満足することを確認した。
【0031】
実施例2
図2に示す光学機能性フィルム6において、紫外線吸収剤10を用いず、他の光学機能性フィルムを構成するバリアフィルム7、旋光子8および保護フィルム9の各層については、実施例1と同様にし、厚みが12μmの光学機能性フィルムを用いた。
【0032】
前記光学機能性フィルムを用い、保護フィルムを室外側にし、オートクレーブ処理による合わせガラス加工を行い、図1に示す合わせガラスを自動車用フロントガラスとして作製した。
【0033】
図1に示す室外側中間膜5には、厚さ760μmのポリビニルブチラール樹脂フィルムを用いた。また、室内側中間膜5′には、実施例1と同様の、厚さ380μmのポリビニルブチラール樹脂フィルム用いた。
【0034】
本実施例の自動車用フロントガラスの透視歪みにはほとんど問題が無く、さらに、耐光性においても、紫外線吸収剤を用いないことの影響はなかった。
さらに、JIS規格R3211、R3212で規定される耐貫通性試験と耐衝撃性試験を満足するものであった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の自動車用フロントガラスの要部断面図である。
【図2】光学機能性フィルムの構成を示す断面図である。
【図3】従来技術による自動車用フロントガラスの要部断面図である。
【図4】従来技術による自動車用フロントガラスの要部断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 室外側ガラス
2 室内側ガラス
3 中間膜
4 光学機能性フィルム
5 室外側中間膜
5′ 室内側中間膜
6 光学機能性フィルム
7 バリアフィルム
8 旋光子
9 保護フィルム
10 紫外線吸収剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドアップディスプレイに用いる自動車用フロントガラスにおいて、室内側と室外側の2枚の板ガラスを2枚の中間膜を用いて接着し、該2枚の中間膜の間にフィルム状の旋光子を積層してなる光学機能フィルムを挿入し、該光学機能フィルムの厚みが12μm〜22μmであることを特徴とする自動車用フロントガラス。
【請求項2】
旋光子の厚みが4μm〜5μmであることを特徴とする請求項1に記載の自動車用フロントガラス。
【請求項3】
2枚の中間膜の合計厚みが760μm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の自動車用フロントガラス。
【請求項4】
室内側中間膜の厚みを380μm以上とし、室外側中間膜の厚みが室内側中間膜の1〜2倍の厚みであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の自動車用フロントガラス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−98466(P2006−98466A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281175(P2004−281175)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】