説明

自動車用内装部品

【課題】積層構造体を一部に含む内装部品であって、製品の軽量化を図るとともに、特に、アンダーカット部の成形性と脱型性を高める。
【解決手段】ドアトリム10は、軽量でかつ保形性を有する発泡樹脂基材21の裏面に樹脂リブ22が積層一体化され、かつ表面に加飾材23を貼付した積層構造体(ドアトリムアッパー)20と、樹脂単体品(ドアトリムロア)30とから構成され、上記加飾材23は、トップ層23aとクッション層23bとの少なくとも二層の積層構造体から構成され、クッション層23bの弾性度と厚みを適正に設定することで、成形金型40のアンダーカット状凸部418からドアトリムアッパー20を容易に脱型させることにより、脱型作業性を高めるとともに、成形金型40の簡素化と絞模様の精度の良い転写を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ドアトリム、リヤパーセルシェルフ、フロアトリム、トランクトリム、リヤサイドトリム、ピラーガーニッシュ、ルーフトリム等の自動車用内装部品に係り、特に、軽量で、かつ外観意匠性、成形性に優れた自動車用内装部品に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車用内装部品の構成について、ドアトリムを例示して図10,図11を基に説明する。ドアトリム1は、保形性及び車体パネルへの取付剛性を備え、製品面のほぼ全体にいきわたっている樹脂芯材2の表面に、表面外観に優れた表皮3を積層一体化して構成されている。尚、符号2aは、インナーシールを取り付けるためのインナーシール取付用フランジを示す。上記樹脂芯材2としては、タルクを混入したポリプロピレン系樹脂を素材としており、また、表皮3は、それ自体保形性を備えておらず、塩ビシート、サーモプラスチックオレフィン(以下TPOという)シート等の合成樹脂シートが通常使用されている。
【0003】
次に、上記ドアトリム1の成形方法における従来例について、図12を基に説明する。まず、ドアトリム1を成形する成形金型4は、所定ストローク上下動可能な成形上型4aと、成形上型4aと対をなす固定側の成形下型4bと、成形下型4bに接続される射出機4cとから大略構成されている。そして、成形上下型4a,4bを型締めした後、ドアトリム1の製品形状を形作るために、成形上型4aにはキャビティ部4dが形成され、成形下型4bにはコア部4eが設けられている。
【0004】
上記成形上型4aを所定ストローク上下駆動させるために、昇降シリンダ4fが連結され、成形下型4bには、射出機4cからの溶融樹脂の通路となるマニホールド4g、バルブゲート4hが設けられている。また、上下動作する成形上型4aには、適正姿勢を有するために、成形下型4bの4隅部にガイドポスト4iが立設され、このガイドポスト4iに対応して、ガイドブッシュ4jが設けられている。
【0005】
従って、成形上下型4a,4bが型開き状態にある時、表皮3を金型内にセットし、その後、成形上下型4a,4bを型締めした後、両金型間のキャビティ内に射出機4cからマニホールド4g、バルブゲート4hを通じて溶融樹脂Mを射出充填することにより、樹脂芯材2を所要の曲面形状に成形するとともに、樹脂芯材2の表面に表皮3を一体成形している(例えば、特許文献1参照。)。尚、図12では、説明の便宜上、コア部4eの型面にオープン状態で溶融樹脂Mが供給されているが、溶融樹脂Mは成形上下型4a,4bの型締め後にキャビティ内に射出充填されても良い。
【0006】
しかしながら、上述したドアトリム1並びにその成形方法においては、樹脂芯材2の投影面積が大きいため、材料コストが高く、かつ製品が重量化するという問題点が指摘されている。また、樹脂芯材2の投影面積が大きいことから、成形時における射出圧を高く設定せざるを得ず、高い射出圧に耐え得る金型構造が必要となり、金型の製作費用も嵩み、しかも大量の溶融樹脂を冷却固化する必要があることから、成形サイクルが長期化し、生産性を低下させる大きな要因となっている。
【0007】
上記問題点を解決して、製品の軽量化を達成するとともに、成形時の負荷を軽減するために、最近では、図13,図14に示すドアトリム1が提案されている。このドアトリム1は、積層構造体からなるドアトリムアッパー1aと、合成樹脂の単体品からなるドアトリムロア1bとから構成されており、特に、軽量化を促進するために、ドアトリムアッパー1aの構成としては、軽量で剛性に富む発泡樹脂基材5を使用し、更に剛性が要求される部位には、発泡樹脂基材5の裏面に格子状の補強リブ6を配置し、発泡樹脂基材5の表面に表皮7が貼付されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0008】
そして、上述したドアトリムアッパー1aを成形する成形方法について説明する。まず、この成形方法に使用する成形金型4は、図15に示すように、成形上型4a、成形下型4b、射出機4cとから構成されており、成形上型4aにはキャビティ部4dが設定され、成形下型4bにはコア部4eが設けられている。
【0009】
また、成形上型4aは、昇降シリンダ4fに連結され、所定ストローク上下動可能であるとともに、成形下型4bは、マニホールド4g、バルブゲート4hが設けられている。そして、この成形金型4では、表皮7を製品形状に精度良く成形するとともに、表皮7の製品面に絞転写するために真空機構8が設けられている。加えて、ドアトリムアッパー1aにプルハンドル取付凹部等のアンダーカット部Aを形成するために、成形上型4aにアンダーカット用入れ子9と駆動シリンダ9aが設定されている。従って、ドアトリムアッパー1aを成形するには、発泡樹脂基材5の原反シートを加熱軟化処理後、型内に投入するとともに、予め表皮7を原反シートの一面側にセットし、その後、成形上下型4a,4bの型締めにより、発泡樹脂基材5を所要形状に成形する一方、その表面側に表皮7を一体貼着する。
【0010】
この時、成形上型4aの真空機構8により、表皮7は製品面形状に成形されるとともに、所望の絞転写が行なわれる。また、駆動シリンダ9aは、成形時には、伸長状態となり、キャビティ内にアンダーカット用入れ子9が進入し、アンダーカット部Aが形成され、成形後、駆動シリンダ9aが収縮動作を行ない、アンダーカット用入れ子9が後退することで、成形品(ドアトリムアッパー)1aの特にアンダーカット部Aの脱型が容易に行なえる。尚、成形上下型4a,4bの型締め後、射出機4cから溶融樹脂がマニホールド4g、バルブゲート4hを通じて溝部4k内に充填されて補強リブ6が成形される。
【0011】
【特許文献1】特開平10−138268号公報
【0012】
【特許文献1】特許第3476083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように、従来の樹脂芯材2に替えて、軽量で適度の保形性を備えた発泡樹脂基材5を採用した場合、アンダーカット部Aを成形するため、駆動シリンダ9aにより駆動するアンダーカット用入れ子9を使用していることから、成形金型4の構造が複雑化し、金型設備が高騰化するという欠点があった。更に成形後のドアトリムアッパー1aは、図15中拡大して示すように、入れ子線aが製品表面に目立ち、外観性能の低下を招くとともに、アンダーカット用入れ子9を設定する部位は、真空吸引力を作用させることができないことから、絞転写を製品面全面に亘り施すことができず、このことも外観性能を低下させる要因となっている。
【0014】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、樹脂芯材に替えて軽量で適度の保形性を備えた発泡樹脂基材の表面に加飾材を貼付した積層構造体を全体、あるいは一部分に採用してなる自動車用内装部品であって、特にアンダーカット部においても絞模様を転写することができ、かつ成形金型の構造を簡素化できる自動車用内装部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究の結果、従来から表皮として使用していた発泡樹脂シートに保形性を付与することで、芯材としての機能をもたせ、より以上に剛性が必要な箇所、すなわち製品の周縁部分やパネル、あるいは部品取付箇所並びに荷重が加わる部位には、剛性に優れた樹脂リブを配置して、その他の部分は肉抜き形状としたことで、従来の投影面積の広い樹脂芯材に比べ、軽量でかつコストが廉価な内装トリム部品を提供するとともに、特に発泡樹脂基材の表面にクッション性に優れた加飾材を積層し、製品にソフト感を付与する一方、加飾材の弾性作用に着目し、この弾性作用を成形金型からの脱型時に生かすことで、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明に係る自動車用内装部品は、所要形状に成形され、軽量で、かつ保形性を有する発泡樹脂基材と、この発泡樹脂基材の裏面に積層一体化される所定パターン形状の樹脂リブと、上記発泡樹脂基材の表面に貼付される加飾材とからなる積層構造体を全体、あるいは一部分に採用してなる自動車用内装部品において、前記積層構造体における加飾材は、トップ層とクッション層との少なくとも二層の積層構造体から構成され、予め加熱軟化処理された発泡樹脂シートと加飾材が成形金型内に投入され、成形金型の型締めにより、発泡樹脂基材の表面に加飾材が積層一体化された状態で所要形状に成形され、かつ、一方側の成形金型に設けたアンダーカット状凸部により、アンダーカット部が形成されるとともに、上記アンダーカット部のアンダーカット量よりも加飾材におけるクッション層の厚みを厚肉に設定することで、積層構造体におけるアンダーカット部の脱型操作を可能にしたことを特徴とする。
【0017】
ここで、自動車用内装部品としては、積層構造体を少なくとも一部に含む構成であれば、その用途は問わず、例えば、ドアトリム、リヤパーセルシェルフ、フロアトリム、ラゲージトリム、トランクトリム、リヤサイドトリム、ピラーガーニッシュ、ルーフトリム等に適用できる。
【0018】
更に、積層構造体は、所望の曲面形状に成形され、軽量で、かつ保形性を有する発泡樹脂基材と、この発泡樹脂基材の裏面に積層一体化される所定パターン形状の樹脂リブと、発泡樹脂基材の表面に貼着される加飾材とから構成されているが、上記発泡樹脂基材は、発泡樹脂シートを加熱軟化処理した後、成形金型内で所要の曲面形状に成形することで、その形状を保持する。尚、ここでいう「保形性」とは、リブ等の補強材がなくても、成形後脱型した時、最低限その形状を保持する程度の剛性を備えていることである。
【0019】
上記発泡樹脂シートとしては、熱可塑性樹脂に発泡剤を添加した素材を使用する。尚、熱可塑性樹脂は、1種類の熱可塑性樹脂でも2種類以上の熱可塑性樹脂からなっても良い。好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が使用できる。また、発泡剤としては、アゾジカルボンアミド等のアゾ化合物、スルホヒドラジド化合物、ニトロソ化合物、アジド化合物等の有機発泡剤、あるいは重炭酸ナトリウム等の無機発泡剤の使用が可能である。上記発泡樹脂シートを加熱軟化処理後、所要形状に成形して得た発泡樹脂基材は、製品の重量と強度とのバランスを考慮した場合、2〜10倍の発泡倍率が好ましい。その時の発泡樹脂基材のセル径は、0.1μm〜2.0mmの範囲であることが好ましく、厚みは0.5〜30mm、好ましくは1〜10mmのものが良い。
【0020】
一方、樹脂リブとして使用する熱可塑性樹脂材料は、広範な熱可塑性樹脂から適宜選択することができる。通常好ましく使用できるものとして、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が使用できる。また、これら熱可塑性樹脂中に各種充填剤を混入しても良い。使用できる充填剤としては、ガラス繊維、カーボン繊維等の無機繊維、タルク、クレイ、シリカ、炭酸カルシウム等の無機粒子等がある。また、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、難燃剤、低収縮剤等の各種の添加剤が配合されても良い。
【0021】
そして、外観意匠性を高めるために、発泡樹脂基材の表面に積層一体化される加飾材としては、少なくともトップ層とクッション層とからなる積層構造体が使用される。トップ層としては、サーモプラスチックウレタン(以下、TPUという)、TPO、ポリ塩化ビニル(以下、PVCという)等の熱可塑性樹脂シートが使用できる。一方、クッション層としては、ポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム、ポリプロピレンフォーム等の発泡樹脂シートが使用できる。尚、クッション層の裏面に裏面不織布層、例えばポリエチレン繊維不織布、ポリプロピレン繊維不織布、ポリエステル繊維とポリプロピレン繊維とを混紡した混紡不織布等を使用することができる。この時、クッション層の弾性度として、ウレタンウォームではショア硬度C10〜60、ポリエチレンフォームではショア硬度C40〜90の範囲が好ましく、また、その厚みが1〜10mmの範囲に設定されるのが良い。
【0022】
次に、発泡樹脂シートと加飾材との一体化工法については、まず、使用する成形金型は、一対の分割金型と、一方側の金型に付設される射出機とから構成されている。例えば、上下動可能な成形上型と、成形上型の下方側に位置する固定側である成形下型と、成形下型に連結される射出機とから構成されている。そして、成形上下型を使用した場合、射出機から供給される溶融樹脂は、成形下型に設けられたマニホールド、ゲート等の樹脂通路を通じて成形下型の型面上、すなわち、成形下型の型面に穿設された溝部(樹脂リブ形状に対応する)内に溶融樹脂が射出充填される。
【0023】
更に、加飾材と対向する成形上型には、真空吸引機構が付設されているとともに、アンダーカット状凸部が形成されている。このアンダーカット状凸部の凸寸法は、加飾材におけるクッション層の厚みよりも小さく設定されている。また、この成形金型により発泡樹脂基材と加飾材とが一体プレス成形されるが、発泡樹脂基材の素材である発泡樹脂シートはヒーター装置により所定温度に加熱軟化され、型開き状態の成形金型内に投入される。この時、予め発泡樹脂シートと加飾材とをラミネート処理しても、また、個々の原反シートを成形金型内に投入するようにしても良い。
【0024】
そして、本発明に係る自動車用内装部品によれば、積層構造体の構成として、軽量な発泡樹脂基材と、その裏面側に配設される肉抜き形状の樹脂リブと、発泡樹脂基材表面に貼付される加飾材とから構成されているため、従来の重量の嵩む樹脂芯材を廃止することで軽量化を達成することができる。
【0025】
更に、積層構造体の成形時には、加飾材は成形金型の型面形状に沿って成形され、アンダーカット部が一体に成形されるが、アンダーカット部のアンダーカット量よりも加飾材におけるクッション層の厚みが厚肉に設定されているため、クッション層の弾性作用により、アンダーカット部を金型から簡単に脱型させることができる。この時、発泡樹脂基材においても、若干ではあるが弾性作用が期待できるため、両者の相乗効果により、アンダーカット部を金型からより一層簡単に脱型できる。
【0026】
従って、入れ子を廃止したことで、従来の入れ子線が外部に目立たず、しかも製品面全面に絞模様を転写することができるとともに、金型構造についても、アンダーカット用入れ子及び駆動シリンダを廃止することができる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明した通り、本発明に係る自動車用内装部品は、軽量で、かつ保形性を有する発泡樹脂基材と、この発泡樹脂基材の裏面に積層一体化される樹脂リブと、発泡樹脂基材の表面に貼付される加飾材とから構成される積層構造体により、全体部分、あるいは少なくとも一部分が構成されているため、従来の重量の嵩む樹脂芯材を廃止できることから、軽量で低コストの自動車用内装部品を提供できるという効果を有する。
【0028】
更に、本発明に係る自動車用内装部品は、積層構造体にアンダーカット部を一体成形する際、シリンダ駆動するスライド式のアンダーカット用入れ子を廃止して、金型にアンダーカット状凸部を設けるという金型構造であるため、金型構造を簡素化できるとともに、アンダーカット部を含む製品全面に絞模様を転写することもでき、入れ子線が外部に目立つことがなく、外観性能を高めることができ、しかも、積層構造体の脱型操作も円滑に行なえるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明に係る自動車用内装部品の好適な実施例について、自動車用ドアトリムを例示して説明する。
【実施例】
【0030】
図1乃至図9は本発明の一実施例を示すもので、図1はツートンタイプの自動車用ドアトリムを示す正面図、図2は同自動車用ドアトリムの構成を示す断面図、図3は同自動車用ドアトリムにおけるドアトリムアッパーの樹脂リブとドアトリムロアを示す正面図、図4は同自動車用ドアトリムにおけるドアトリムアッパーの要部構成を示す断面図、図5は同自動車用ドアトリムにおけるドアトリムアッパーを成形する成形金型の全体構成を示す説明図、図6乃至図9は同自動車用ドアトリムにおけるドアトリムアッパーの成形方法の各工程を示す説明図である。
【0031】
図1,図2において、ツートンタイプの自動車用ドアトリム10は、積層構造体からなるドアトリムアッパー20と樹脂単体品からなるドアトリムロア30との上下二分割体から構成されている。上記ドアトリム10に装着される機能部品としては、ドアトリムアッパー20にインサイドハンドルエスカッション11、パワーウインドウスイッチエスカッション12、プルハンドル13が取り付けられている。一方、ドアトリムロア30には、ドアポケット用開口14が開設され、その背面側には、図2に示すように、ポケットバックカバー(樹脂成形体からなる)15が取り付けられており、ドアトリムロア30のフロント側にスピーカグリル16が一体あるいは別体に形成されている。尚、図2中符合17は、ドアインナーパネルを示す。
【0032】
ところで、本発明に係る自動車用ドアトリム10は、積層構造体であるドアトリムアッパー20の軽量化を図るとともに、ドアトリムアッパー20の外観性能及び手触り感触を向上させることが特徴である。すなわち、ドアトリムアッパー20は、図2に示すように、所望の曲面形状に成形され、保形性を有する発泡樹脂基材21と、この発泡樹脂基材21の裏面側に積層一体化される補強機能をもつ樹脂リブ22と、発泡樹脂基材21の表面側に積層一体化される加飾機能をもつ加飾材23とから大略構成されている。また、上記発泡樹脂基材21は、保形性を備えるように発泡樹脂シートを加熱軟化処理後、所要形状に熱成形、例えば、所望の型面を有する成形金型でコールドプレス成形される。
【0033】
上記発泡樹脂シートは、汎用の熱可塑性樹脂に発泡剤を添加した構成であり、熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が使用でき、発泡剤としては、アゾジカルボンアミド等の有機発泡剤や重炭酸ナトリウム等の無機発泡剤が使用できる。この実施例では、ポリプロピレン系樹脂に発泡剤として重炭酸ナトリウムを適宜添加した発泡樹脂シートを使用している。また、この発泡樹脂基材21の発泡倍率は、2〜10倍に設定され、厚みは0.5〜30mm、特に1〜10mmの範囲に設定されている。
【0034】
次いで、樹脂リブ22は、発泡樹脂基材21の裏面側に配設され、特に、図3に示すように、交差状に延びる所定パターンに設定されており、荷重が加わる部位(例えば、クリップ座、ウエスト部上面、アームレスト部上面等)を除いた部分は、肉抜き形状となっている。尚、このパターンは、縦横方向、斜め方向、あるいはその組み合わせ等、交差状であれば任意のパターンが選択されて良い。この樹脂リブ22は、汎用の合成樹脂成形体からなり、通常好ましく使用できる合成樹脂として、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂、ポリカーボネート系樹脂等から適宜選択されて良く、本実施例では、環境面、リサイクル面を考慮してポリプロピレン系樹脂が使用されている。また、この樹脂リブ22には、上記熱可塑性樹脂中に適宜フィラー、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維等の無機繊維や、タルク、クレイ、シリカ、炭酸カルシウム等の無機粒子等の充填剤が混入されていても良い。
【0035】
このように、図1乃至図3に示すドアトリム10は、積層構造体からなるドアトリムアッパー20と、樹脂単体品のドアトリムロア30とから構成され、外観上のアクセント効果により、優れた外観意匠性を備えている。更にドアトリムアッパー20は、図4に示すように、保形性を有する発泡樹脂基材21と、発泡樹脂基材21の裏面に積層一体化される樹脂リブ22と、加飾性を有する加飾材23とから構成されているため、従来のように製品の全体に亘り占有していた樹脂芯材を廃止でき、かつ軽量な発泡樹脂基材21を使用する関係で、製品の重量について、従来例に比し軽量化を図ることができるとともに、樹脂材料も節約でき、コストダウンにも貢献できる。更に、発泡樹脂基材21が多孔質構造であるため、ドアトリムアッパー20は吸音性能に優れ、車外から車室内に侵入する騒音を吸音処理でき、車室内の騒音を低減することができる。
【0036】
また、発泡樹脂基材21の表面に貼付される加飾材23は、トップ層23aと、その裏面に積層一体化されるクッション層23bとの少なくとも二層の積層構造体から構成されている。この実施例では、トップ層23aとしてTPOシートが使用されているが、TPUやPVC等の合成樹脂シートを使用することができる。更に、クッション層23bとしては、ポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム等の所望厚みのクッションシートが使用されている。トップ層23aの厚みとしては、0.05〜5mm、クッション層23bの厚みとしては1.5〜10mmの範囲に設定するのが良く、特に、クッション層23bの物性としては、例えば、ポリウレタンフォームを素材とした場合には、ショア硬度Cが10〜60の弾性を有するものが好ましく、ポリエチレンフォームを素材とした場合には、同じくショア硬度Cが40〜90の範囲のものが良い。そして、加飾材23の製品表面には、後述するが、成形金型の型面に刻設された絞模様が製品全面に亘り美麗に転写されており、特に、プルハンドル13の設置部位(この部位はドアトリムアッパー20を成形する金型の型開方向に対してアンダーカット部Aとなる)においても絞模様が流れることがなく、美麗に絞模様が転写されている。
【0037】
また、アンダーカット部Aのアンダーカット量(図4中符号dで示す)としては、クッション層23bとしてポリウレタンフォームを使用した場合には、ポリウレタンフォームのショア硬度Cが10〜60、板厚3mmのケースであれば、アンダーカット量が最大2.5mmになるように設定することが可能であり、クッション層23bとして、ポリエチレンフォームを使用した場合には、ショア硬度Cが40〜90、板厚3mmのケースであればアンダーカット量が最大2mmになるように設定することが可能である。このように、アンダーカット部Aのアンダーカット量dに比べ、クッション層23bの板厚d1を厚く設定することが必要条件となる。
【0038】
参考までに、ドアトリムアッパー20とドアトリムロア30との接合構造については、ドアトリムアッパー20、ドアトリムロア30の接合縁部において、いずれか一方側に取付用ボスを突設し、他方側に取付孔を開設し、取付用ボスを取付孔内に挿入した後、先端を超音波溶着カシメ、熱溶着カシメ等により溶着固定することにより、ドアトリムアッパー20、ドアトリムロア30とが強固に接合される。
【0039】
次に、上記ドアトリムアッパー20の成形方法に使用する成形金型40の構成について、図5を基に説明する。ドアトリムアッパー20を成形する成形金型40は、所定ストローク上下動可能な成形上型41と、成形上型41と対をなす固定側の成形下型42と、成形下型42に接続される射出機43とから大略構成されている。更に詳しくは、成形上型41は、製品形状に合致したキャビティ部411が形成されており、成形上型41の上面に連結された昇降シリンダ412により、成形上型41は所定ストローク上下駆動される。この成形上型41には、真空機構が付設されている。すなわち、成形上型41内に真空室413が設けられ、この真空室413とキャビティ部411とを連通させるように、成形上型41の型面には、真空吸引孔414が全面に亘り多数開設されており、この真空室413は、真空吸引管415を介して真空ポンプ416に接続しており、真空吸引管415には、開閉バルブ417が設けられている。また、成形上型41には、ドアトリムアッパー20に設けるアンダーカット部Aを形成できるように、アンダーカット状凸部418が突設形成されており、ドアトリムアッパー20のプルハンドル13の縁部を収容する段部がこれに該当し、アンダーカット量dは、2mm程度に設定されている。一方、成形下型42は、成形上型41のキャビティ部411と対峙して製品形状のキャビティを形成するように、コア部421が設けられており、射出機43から形成される溶融樹脂Mは、ホットランナ422、バルブゲート423を通じてコア部421に形成されているリブ形成用溝部424により射出充填される。
【0040】
そして、この成形金型40を使用して、ドアトリムアッパー20を成形する工法について、図6乃至図9に基づき説明する。まず、図6は、成形金型40が上方位置にあり、成形金型40が型開き状態である。この時、発泡樹脂基材21の素材である発泡樹脂シートSに対して加飾材23がラミネートされており、発泡樹脂シートSと加飾材23のラミネート材料を図示しないヒーター装置により加熱軟化処理した後、成形金型40内に投入する。この実施例では、加飾材23として、トップ層23aのTPOシート(厚み0.5mm)、クッション層23bのポリウレタンフォーム、ショア硬度Cが40、厚み3mmのものが使用されている。
【0041】
そして、型開き状態にある成形上下型41,42内に発泡樹脂シートSと加飾材23との積層原反を投入した後、昇降シリンダ412の駆動により、図7に示すように、成形上型41が所定ストローク下降して型締めが行なわれ、発泡樹脂シートSが所要形状に絞り成形されるとともに、この発泡樹脂基材21の表面に貼付される加飾材23は、真空作用により、成形上型41のキャビティ部411の型面形状に沿って精度良く成形され、かつ絞模様も正確に転写される。尚、本実施例で使用する発泡樹脂シートSとしては、ポリプロピレン製発泡シート(住化プラステック製、商品名:スミセラー発泡PPシート、発泡倍率=3倍、厚み3mm)が使用されている。また、成形上型41を成形下型42に型締めした際のプレス圧としては、0〜40kgf/cm2 の低圧プレスで成形が行なわれ、従来のモールドプレス成形の通常のプレス圧80±20kgf/cm2 に比べプレス圧を低減させることができ、成形時の負荷を軽減できる。
【0042】
更に、発泡樹脂基材21と加飾材23との成形が終了すれば、図8に示すように、射出機43からホットランナ422、バルブゲート423を通じてリブ形成用溝部424内に溶融樹脂Mが射出充填される。この時、従来の投影面積の大きい樹脂芯材に比べ、肉抜き形状の樹脂リブ22を形成するだけの樹脂を射出するので、樹脂の射出圧を低く設定することができるために成形上型41に高いプレス圧をかける必要がなく、発泡樹脂基材21と加飾材23が成形できる程度のプレス圧がかかっていれば良いことからも、成形時の負荷を軽減できることは明らかである。尚、溶融樹脂Mの射出のタイミングは、成形上下型41,42の型締め前に設定することもできる。また、この溶融樹脂Mとしては、住友ノーブレンBUE81E6(住友化学工業製ポリプロピレン、メルトインデックス=65g/10分)で、タルクが適宜割り合いで混入されているものを使用する。
【0043】
上述したように、発泡樹脂基材21と加飾材23の一体プレス成形後、発泡樹脂基材21の裏面に樹脂リブ22を一体成形することでドアトリムアッパー20の成形が完了する。そして、図9に示すように、成形完了後、成形金型40が型開きする際、加飾材23の特にクッション層23bの弾性変形により、このアンダーカット状凸部418からアンダーカット部Aを容易に脱型させることができ、シリンダ駆動方式のアンダーカット用入れ子を廃止した簡易構造の成形金型40を使用しても、アンダーカット部Aの成形、脱型を円滑に行なうことができる。更に、発泡樹脂基材21においても若干ではあるが弾性作用が期待できるため、両者の相乗効果により、アンダーカット部Aを金型40からより一層簡単に脱型できる。尚、上述した構成は、成形金型40によりドアトリムアッパー20のみを成形したが、ドアトリムアッパー20の成形とドアトリムロア30の成形を同一の金型内で行なっても良く、その場合は、金型としてツーショットシリンダタイプの金型を使用すれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上説明した実施例は、上下二分割構造のドアトリム10におけるドアトリムアッパー20に本発明に係る積層構造体を適用したが、ドアトリム10全体を積層構造体で構成しても良い。また、発泡樹脂基材21、樹脂リブ22、加飾材23の積層構造体であれば、リヤパーセルシェルフ、フロアトリム、トランクトリム、リヤサイドトリム、ピラーガーニッシュ、ルーフトリム等、内装トリム全般に適用することができ、特に、アンダーカット部を有する内装部品に有効に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る自動車用内装部品をツートンタイプの自動車用ドアトリムに適用した実施例を示す正面図である。
【図2】図1中II−II線断面図である。
【図3】図1に示す自動車用ドアトリムにおけるドアトリムアッパーの樹脂リブとドアトリムロアとを示す正面図である。
【図4】図1に示す自動車用ドアトリムにおけるドアトリムアッパーの構成を示す断面図である。
【図5】図4に示すドアトリムアッパーを成形する成形金型の全体構成を示す概要図である。
【図6】図4に示すドアトリムアッパーの成形方法における素材の型内セット工程を示す説明図である。
【図7】図4に示すドアトリムアッパーの成形方法における発泡樹脂基材、加飾材の成形工程を示す説明図である。
【図8】図4に示すドアトリムアッパーの成形方法における樹脂リブの射出充填工程を示す説明図である。
【図9】図4に示すドアトリムアッパーの成形方法におけるドアトリムアッパーの脱型工程を示す説明図である。
【図10】従来の自動車用ドアトリムを示す正面図である。
【図11】従来の自動車用ドアトリムの構成を示す断面図である。
【図12】従来のドアトリムをモールドプレス成形する際の成形金型を示す説明図である。
【図13】従来の上下二分割タイプの軽量化ドアトリムを示す断面図である。
【図14】従来の上下二分割タイプの軽量化ドアトリムを示す構成説明図である。
【図15】従来の上下二分割タイプの軽量化ドアトリムにおけるドアトリムアッパーを成形する成形金型を示す説明図である。
【符号の説明】
【0046】
10 自動車用ドアトリム
20 ドアトリムアッパー(積層構造体)
21 発泡樹脂基材
22 樹脂リブ
23 加飾材
23a トップ層
23b クッション層
30 ドアトリムロア(樹脂単体品)
40 成形金型
41 成形上型
411 キャビティ部
412 昇降シリンダ
413 真空室
414 真空吸引孔
418 アンダーカット状凸部
42 成形下型
421 コア部
422 ホットランナ
423 バルブゲート
424 リブ形成用溝部
43 射出機
A アンダーカット部
S 発泡樹脂シート
M 溶融樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所要形状に成形され、軽量で、かつ保形性を有する発泡樹脂基材(21)と、この発泡樹脂基材(21)の裏面に積層一体化される所定パターン形状の樹脂リブ(22)と、上記発泡樹脂基材(21)の表面に貼付される加飾材(23)とからなる積層構造体(20)を全体、あるいは一部分に採用してなる自動車用内装部品(10)において、
前記積層構造体(20)における加飾材(23)は、トップ層(23a)とクッション層(23b)との少なくとも二層の積層構造体から構成され、予め加熱軟化処理された発泡樹脂シート(S)と加飾材(23)が成形金型(41,42)内に投入され、成形金型(41,42)の型締めにより、発泡樹脂基材(21)の表面に加飾材(23)が積層一体化された状態で所要形状に成形され、かつ、一方側の成形金型(41)に設けたアンダーカット状凸部(418)により、アンダーカット部(A)が形成されるとともに、上記アンダーカット部(A)のアンダーカット量(d)よりも加飾材(23)におけるクッション層(23b)の厚み(d1)を厚肉に設定することで、積層構造体(20)におけるアンダーカット部(A)の脱型操作を可能にしたことを特徴とする自動車用内装部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−96304(P2006−96304A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−287745(P2004−287745)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000124454)河西工業株式会社 (593)
【Fターム(参考)】