説明

自動車用部材

【課題】直接通電焼き入れを用いながら本体部に設定した焼き入れ区間のみを焼き入れ硬化させて構造強度を向上させたドアビームを提供する。
【解決手段】一方向に延在する本体部11を有するドアビーム1において、本体部11は延在方向に並ぶ焼き入れ区間14と非焼き入れ区間15とに分けられ、前記焼き入れ区間14の断面積を非焼き入れ区間15の断面積より小さくすることにより、前記焼き入れ区間14の単位長当たりの電気抵抗を非焼き入れ区間15の単位長当たりの電気抵抗より大きくして、少なくともすべての焼き入れ区間14を挟んで本体部11に直接通電し、前記直接通電により焼き入れ区間14を非焼き入れ区間15に先行して相転移温度まで加熱させた後、少なくとも前記焼き入れ区間14を急冷して焼き入れ硬化したドアビーム1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接通電により部分的に焼き入れされた自動車用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用部材の多くは、高い構造強度(高い曲げ強度、高い捩れ強度、高い引っ張り強さ等)が要求される。前記要求は、高張力鋼板・超高張力鋼板(590N/mm2以上)等の材料選択や、自動車用部材の板厚増加又は補強部材の追加により、満たすことができる。また、安価で加工性のよい一般鋼板・高張力鋼板(270N/mm2〜440N/mm2)を用いて自動車用部材を作り、焼き入れして、高い構造強度を実現することもできる。
【0003】
上述のように、高い構造強度と共に、安価で容易に加工でき、しかも軽量であることが要求される自動車用部材として、ドアビームを例示できる。例えば特許文献1のドアビームは、本体部及び一対の取付部(取付用ブラケット)の3部材でドアビームを構成しており、前記本体部の両端に取付部を溶接により一体化した後、「必要により焼き入れ、焼きなまし」を施すとしている。
【0004】
特許文献2のドアビームは、プレス成形による1部材でドアビームを構成しながら、焼き入れに伴うコスト減を図り、前記焼き入れによる残留応力の発生を防ぐ目的から、焼き入れしない高張力鋼の使用を選択している。逆に、特許文献3のドアビームは、前記特許文献2のドアビーム同様1部材で構成しながら、焼き入れを施さないことによる板厚の増加、そして重量増を問題として、薄い板厚のプレス成形品に焼き入れを施すことで、必要な構造強度を満足している。
【0005】
【特許文献1】特許第3139984号公報([0076]ほか)
【特許文献2】特開平10-166860号公報([0019]ほか)
【特許文献3】特開2003-094943号公報([請求項1]、[0043]ほか)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既述したように、自動車用部材には高い構造強度が要求されるが、併せて構造強度の向上を図る処理に要するエネルギー量が少なく、前記処理時間又は処理工程が短く、生産性が高い上に品質に優れることも要求される。これら後者の要求は、自動車用部材ばかりでなく、構造強度の向上を図る処理に用いる処理方法や処理装置にも関連する。これから、自動車用部材に応じて、要求される構造強度を鑑み、適切な処理方法及び処理装置を選択、使用する必要がある。
【0007】
特許文献1のドアビームは、本体部及び取付部が別部材であることから、これらの組付工程が必要となり、生産性を向上させにくく、また前記組付工程によるコスト増加が避けられない。特許文献2のドアビームは、高張力鋼板の絞り加工があまり深くできない制約があることから、断面形状を工夫して構造強度を向上させにくい問題がある。これに対し、特許文献3のドアビームは、比較的引っ張り強さの低い鋼板、すなわち比較的低廉な鋼板を用いてプレス成形しながら、焼き入れにより構造強度の向上を図っている点が、前者に比べて費用対効果に優れている。
【0008】
特許文献3は、ドアビームの焼き入れに、電磁誘導コイルを用いた高周波による焼き入れ(以下、高周波焼き入れ)を用いている。この高周波焼き入れは、その他の自動車用部材にも多用されている。しかし、高周波焼き入れは処理装置が複雑で、自動車部材毎に誘導コイルを構成するため、誘導コイルの設計的な制約を受けやすく、実際に焼き入れできる対象が限られるほか、焼き入れできる自動車用部材でも加熱に要する時間がかかることから、生産性を向上させにくい問題がある。そこで、ドアビームのように、一方向に延在する本体部を有する自動車用部材は、直接通電による焼き入れ(以下、直接通電焼き入れ)が好ましい。直接通電焼き入れは、高周波焼き入れに比較して、処理装置が簡素であり、加熱に要する時間が短く、生産性が向上させやすい利点がある。
【0009】
ここで、ドアビームが車体に取り付ける両取付部にわたって本体部を架設した梁構造の衝撃吸収部材であることから、本体部全体は断面の複雑化による構造強度を向上させるに留め、本体部の中央区間(中央対称軸線を挟む一定の区間)のみ直接通電焼き入れにより更に構造強度を向上させればよい。以下、前記「本体部の中央区間」を「焼き入れ区間」と呼ぶ。最も簡易には、焼き入れ区間を挟んで処理装置の通電電極を接触させ、前記焼き入れ区間のみに直接通電できればよい。しかし、前述のように、ドアビームの本体部は断面が複雑であり、処理装置の通電電極を本体部に密着させることが難しい。これから、安定かつ確実な直接通電を実現するには、どうしても本体部を挟む取付部に処理装置の通電電極を接触させ、本体部全体に直接通電することが前提となっていた。
【0010】
本体部全体に直接通電しながら焼き入れ区間のみを焼き入れするには、焼き入れに必要な加熱後の急冷を前記焼き入れ区間に限ることが考えられる。具体的には、本体部全体を相転移温度まで一様に加熱した後、焼き入れ区間のみ冷却液(水等)を噴射して急冷すればよい。しかし、冷却液の噴射範囲を焼き入れ区間に限定することは難しく、設計通りに焼き入れ区間のみを焼き入れできない。また、冷却液の噴射範囲を正確に制御できないために焼き入れが一様にならず、ドアビームとしての品質を低下させかねない虞がある。更に、直接通電は通電範囲である本体部全体の表面に酸化スケールを発生させるが、冷却液の噴射は前記酸化スケールを除去する働きもあるため、冷却液を部分的に噴射させることは酸化スケールを除去する後処理を別に要求することになり、望ましくない。
【0011】
これから、ドアビームの直接通電焼き入れは、本体部全体に直接通電して前記本体部全体を一様に相転移温度まで加熱した後、前記本体部全体を一様に冷却して本体部全体の構造強度を向上させるほかなかった。この結果、理論上、焼き入れ区間のみを直接通電焼き入れする場合と比較して、実際の直接通電焼き入れは、本体部全体を一様に加熱する処理時間や前記加熱に要するエネルギー量が増加する問題があった。ここで、処理時間及びエネルギー量を低減するため、通電する電流値を高くして本体部全体を急激に加熱することが考えられる。しかし、電流値を高くして急激な加熱を図ると、熱伝導による発熱の分散が前記加熱に追いつかず、加熱に伴う金属材料(ドアビームの場合鋼材料)の部分的な温度上昇のばらつきで局部的な発熱が生じた場合、電気抵抗の上昇によりさらに温度上昇が促進されて、大きな温度のばらつきが生じる。この結果、満足する構造強度の向上が見込めないばかりか、ドアビームの品質を低下させかねない。これから、ドアビームを直接通電焼き入れする場合、電流値は低く抑え、本体部全体を緩やかに加熱させる必要がある。
【0012】
このように、ドアビームの直接通電焼き入れは、焼き入れ区間の構造強度のみを向上させることが難しく、その結果処理時間及びエネルギー量を増加させる問題があった。ドアビームのように、一方向に延在する本体部を有する自動車用部材は、高周波焼き入れに比べて直接通電焼き入れの方が処理時間及びエネルギー量を低減できるが、なお処理時間を短縮し、必要なエネルギー量を低減することが期待される。そこで、直接通電焼き入れを用いながら本体部に設定した焼き入れ区間のみを焼き入れ硬化させて構造強度を向上させたドアビーム等の自動車部材を開発するため、検討した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
検討の結果開発したものが、一方向に延在する本体部を有する金属製の自動車用部材において、本体部は延在方向に並ぶ焼き入れ区間と非焼き入れ区間とに分けられ、前記焼き入れ区間の断面積を非焼き入れ区間の断面積より小さくすることにより、前記焼き入れ区間の単位長当たりの電気抵抗(以下、単に電気抵抗と略する)を非焼き入れ区間の電気抵抗より大きくして、少なくともすべての焼き入れ区間を挟んで本体部に直接通電し、前記直接通電により焼き入れ区間を非焼き入れ区間に先行して相転移温度まで加熱させた後、少なくとも前記焼き入れ区間を急冷して焼き入れ硬化した自動車用部材である。本発明が適用できる自動車用部材は、開断面型構造(例えばハット型)又は閉断面構造(例えばパイプ型)の本体部を有するドアビームをはじめ、前記同様な断面構造を有するバンパビーム、サイドメンバ、クロスメンバ、ピラー、ルーフボー等を挙げることができる。
【0014】
「焼き入れ区間」は、例えばドアビームの中央区間、すなわち直接通電焼き入れによる構造強度の向上を必要とする区間を、また「非焼き入れ区間」は、例えばドアビームの中央区間を除く区間、すなわち直接通電焼き入れによる構造強度の向上を必要としない区間をそれぞれ意味する。自動車用部材がドアビームの場合、焼き入れ区間を挟んで本体部の延在方向両側に非焼き入れ区間が並ぶだけであるが、焼き入れ区間又は非焼き入れ区間が複数でも構わない。
【0015】
「少なくともすべての焼き入れ区間を挟んで本体部に直接通電」するとは、本体部の延在方向に並ぶ焼き入れ区間及び非焼き入れ区間のうちすべての焼き入れ区間を挟む位置関係で処理装置の通電電極を本体部に接触させることを意味する。例えば、本体部の延在方向に並ぶ焼き入れ区間及び非焼き入れ区間のうち、最も外側に焼き入れ区間があれば前記焼き入れ区間の最も外側に、また最も外側に非焼き入れ区間があれば前記非焼き入れ区間のいずれかの位置に、処理装置の通電電極を接触させる。「単位長当たりの電気抵抗」は、本体部の延在方向における単位長区間の前記延在方向の電気抵抗を意味する。
【0016】
「少なくとも前記焼き入れ区間を急冷」するとは、例えば先行して相転移温度まで加熱した焼き入れ区間に冷却液を噴射することを意味し、依然相転移温度に達していない非焼き入れ区間にも冷却液を噴射する場合を含む。後者の場合、非焼き入れ区間が相転移温度に達する前に、相転移温度に達した焼き入れ区間を急冷するから、前記非焼き入れ区間が直接通電焼き入れされることはない。これから、本発明の自動車用部材は、従来見られる本体部全体に直接通電する処理装置をそのまま用いることができる。しかし、後述するように、従来同様の直接通電を本体部に施す場合でも、加熱に要する処理時間は短くて済み、また必要なエネルギー量も低減できる利点がある。
【0017】
本発明は、直接通電による加熱が電気抵抗の違いによって異なることを利用し、自動車用部材の本体部に断面積に反比例して電気抵抗の異なる焼き入れ区間と非焼き入れ区間とを設け、焼き入れ区間のみを直接通電焼き入れする点を特徴とする。すべての焼き入れ区間を挟んで本体部全体に直接通電を開始すると、相対的に電気抵抗の高い焼き入れ区間が相対的に電気抵抗の低い非焼き入れ区間に先行して加熱され始める。断面積の小さな焼き入れ区間は、非焼き入れ区間に比べて単位長当たりの熱容量が小さいほか、既述したように、自動車用部材に用いられる金属材料は加熱されると電気抵抗を上昇させるから、焼き入れ区間の加熱は更に非焼き入れ区間より先行する。この結果、焼き入れ区間が非焼き入れ区間に先行して相転移温度に達するので、前記焼き入れ区間が相転移温度に達した後に直接通電をやめ、焼き入れ区間を急冷すれば、前記焼き入れ区間のみを直接通電焼き入れできる。
【0018】
本発明の本体部は、電気抵抗の違いにより焼き入れ区間と非焼き入れ区間とに本体部を区分しており、すべての焼き入れ区間を挟んで直接通電できればよいので、本体部が自動車に対する金属製の取付部を両端に有する場合、前記取付部を介して本体部に直接通電しても構わない。取付部は本体部と別体でも構わないが、本体部との電気的物性の違いのほか、本体部に対する接合部位の電気抵抗が生ずることは望ましくないので、本体部と一体成形された取付部が好ましい。このように取付部を介して本体部に直接通電しても、焼き入れ区間のみ加熱できればよいので、処理時間を短縮し、必要なエネルギー量も低減できる。更に言えば、すべての焼き入れ区間を挟む最短距離で直接通電できれば、前記エネルギー量を一層低減できる。この結果、焼き入れによる変形の生じる虞を低減できるので、自動車用部材の品質を向上させることができる。
【0019】
本体部の焼き入れ区間と非焼き入れ区間とは、連続する本体部の区間であるから、両者の断面積を断続して変化させることは本体部の延在方向に構造的な境界部分を形成することにもなりかねず、好ましくない。そこで、本体部は、非焼き入れ区間の断面積を焼き入れ区間に向けて徐変に減少させることにより、焼き入れ区間の断面積を非焼き入れ区間の断面積より小さくするとよい。このように、非焼き入れ区間の断面積は変化してもよいが、焼き入れ区間は一様に直接通電焼き入れできる必要があるので、断面積は一定にする。焼き入れ区間の断面積を非焼き入れ区間の断面積より小さくする方法は、例えばフランジを有する自動車用部材であれば前記フランジを小さくしたり、逆にフランジの幅を一定にしながら本体部の幅又は高さを小さくする方法を例示できる。このほか、焼き入れ区間の範囲で長孔を設けてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、直接通電焼き入れを用いながら自動車用部材の構造強度を部分的に向上させることにより、前記自動車部材に対して適切かつ十分な構造強度の向上を図りながら、前記構造強度の向上に必要な処理時間及びエネルギー量を低減する効果を有する。既述したように、直接通電焼き入れは、現在多用されている高周波焼き入れより処理時間が短く、また必要なエネルギー量を低減しているから、本発明の自動車用部材の直接通電焼き入れに要する処理時間は最も短く、またエネルギー量も最も少なくて済む利点がある。特に、処理時間の短縮は、本発明の自動車用部材の生産性を高める効果をもたらす。
【0021】
また、本発明の自動車用部材は、本体部における焼き入れ区間と非焼き入れ区間とを明確に区分して前記焼き入れ区間のみを直接通電焼き入れできるので、自動車用部材の品質を低下させる虞はなく、比較的正確に直接通電焼き入れする区間を制御できることから、むしろ品質を向上させることのできる効果が得られる。そして、自動車用部材の本体部における焼き入れ区間と非焼き入れ区間との断面積に相対的な差を設けるだけで、これら利点及び効果を実現していることから、本発明は費用対効果に優れた自動車用部材を提供できるものと言える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態であるドアビーム1について図を参照しながら説明する。図1は本発明に基づくドアビーム1の一例を表す斜視図、図2は図1中A矢視部拡大平面図、図3は本例のドアビーム1を直接通電焼き入れする処理装置2の一例を表わす側面図、図4は本例の処理装置2の平面図、図5は図3中B−B部分断面図、図6は直接通電中のドアビーム1を表わした図1相当斜視図、図7は直接通電焼き入れを終えたドアビーム1の図1相当斜視図、図8は本発明に基づくドアビーム1の別例を表す図1相当斜視図であり、図9は本発明に基づくドアビーム1の更に別例を表す図1相当斜視図である。
【0023】
本例のドアビーム1は、図1に見られるように、長手方向(一方向)に延びるハット型の本体部11と、長手方向に前記本体部11を挟んで設けられた一対の取付部13とからなる自動車用部材である。このドアビーム1は、安価で加工性のよい一般鋼板・高張力鋼板(270N/mm2〜440N/mm2)をプレス成形、ロール成形又は液圧成形(ハイドロフォーミング等)により、両側縁にフランジ12(図1中、奥側は見えない)を有するハット型の本体部11を成形し、取付部13は鋼板そのままの平坦面としている。
【0024】
本例のドアビーム1は、相対的に断面積の小さい焼き入れ区間14を本体部11の中央区間に定めて、前記焼き入れ区間14におけるフランジ12を縁部から切除している。そして、前記焼き入れ区間14を挟んで各取付部13との間に、相対的に断面積の大きな非焼き入れ区間15を定めている。ここで、焼き入れ区間14と非焼き入れ区間15とにわたるフランジ12の連続性を確保するため、前記焼き入れ区間14に連続してフランジ12を斜めに切除した徐変区間16を形成している。この徐変区間16は、焼き入れ区間14より断面積が大きいため、本発明による区分けでは非焼き入れ区間15に含まれる。こうして、焼き入れ区間14の電気抵抗が最も高く、徐変区間16により少しずつ電気抵抗が低くなり、非焼き入れ区間15の電気抵抗が最も低くなっている。
【0025】
本例のドアビーム1は、図2〜図4に見られる処理装置2により、取付部13を介して低周波交流(50Hz〜250Hz、3000A程度)を本体部11にわたって直接通電し、焼き入れ区間14のみを直接通電焼き入れする。プレス成形を終えたドアビーム1は、取付部13をチャック電極21でそれぞれ挟持され、処理装置2に位置固定される。処理装置2は、位置固定されたドアビーム1に対し、直接通電焼き入れによる変形を抑制又は防止するため、ドアビーム1の本体部11に倣った断面形状を有する下治具22及び上治具24により挟み込む。しかし、前記下治具22及び上治具24は、短絡を防止し、かつ熱を逃がさないため、本体部11に接触させず、あくまで本体部11に近接した位置に留める。すなわち、下治具22及び上治具24は、冷却時に変形する本体部11に当接し、前記変形を抑制するに留まる。
【0026】
処理装置2により本体部11への直接通電が開始されると、前記直接通電により本体部11全体が加熱され始めるが、相対的に電気抵抗の高い焼き入れ区間14が先行して温度上昇を始め、図6に見られるように、非焼き入れ区間15が未だ相転移温度に達しない段階で、前記焼き入れ区間14が先に相転移温度に達する。図6では、相転移温度に達した焼き入れ区間14をクロスハッチング、相転移温度に達していない非焼き入れ区間15を通常ハッチングで図示している。実際には、非焼き入れ区間15に含まれる徐変区間16は焼き入れ区間14及び非焼き入れ区間15それぞれの中間温度に加熱されているが、説明の便宜上、焼き入れ区間14に対して非焼き入れ区間15に含まれる徐変区間16も、非焼き入れ区間15同様の通常ハッチングで図示している。
【0027】
本体部11の焼き入れ区間14が相転移温度以上に達すると、直接通電をやめる。焼き入れ区間14が相転移温度に達したか否かは、直接的に焼き入れ区間14の温度を計測することも考えられるが、予め所定交流電流の通電時間と、焼き入れ区間14及び非焼き入れ区間15の各温度上昇との関係を測定しておき、焼き入れ区間14が相転移温度に達しながら非焼き入れ区間15が相転移温度に達しない通電時間を設定し、前記通電時間だけ直接通電すればよい。ここで、焼き入れ区間14を相転移温度以上に達するのに必要な通電時間は、本体部11の構造及び大きさにもよるが、本体部11全体を相転移温度以上とする直接通電焼き入れの通電時間に比べて、本体部11全体に対する焼き入れ区間14の長さの割合に比例して短縮され、当然必要なエネルギー量も大幅に低減されている。
【0028】
直接通電をやめると、もはや焼き入れ区間14及び非焼き入れ区間15は温度上昇しなくなり、更に下治具22及び上治具24に設けた下噴射孔23及び上噴射孔25から焼き入れ区間14を含む本体部11全体に対して冷却液(水)を噴射することにより、図7に見られるように、焼き入れ区間14のみを直接通電焼き入れし、併せて相転移温度に達していない非焼き入れ区間15を冷却する。このように、非焼き入れ区間15を含む本体部11全体に冷却液を噴射することにより、直接通電の加熱により本体部11全体に発生した酸化スケールを洗い落とすことができる。ここで、酸化スケールの発生は焼き入れ区間14が主であり、通電時間が短くて済むことから発生量も抑えられている。すなわち、酸化スケールを除去する意味での冷却液の噴射時間も、本体部11全体を直接通電焼き入れする場合に比べて短くできる。
【0029】
ここで、既述したように、本例の処理装置2は、急冷によりドアビーム1の本体部11が変形することを抑制する下治具22及び上治具24それぞれに設けているが、本発明のドアビーム1で変形する可能性のある部位は主に焼き入れ区間14であり、この焼き入れ区間14は本体部11全体に対して割合的に短いため、変形量も限られている。裏返せば、本発明のドアビーム1は、直接通電焼き入れによる変形の可能性が少なく、また変形した場合でもその変形量は極めて小さく抑えられている。これから、実際には下治具22又は上治具24により本体部11の変形が抑制される場面は少なく、それでもなお、本発明は変形のない又は少ない、精度のよい製品を提供できる利点を有している。
【0030】
本発明を適用するには、例えば上記例示のドアビーム1の本体部11における焼き入れ区間14の電気抵抗を非焼き入れ区間15の電気抵抗Rより大きくできればよい。まず、焼き入れ区間14又は非焼き入れ区間15の電気抵抗Rは、各区間14,15の温度Tに比例し、各区間14,15の断面積Aに反比例する。
R∝T/A (1)
また、前記温度Tからの上昇温度単位ΔTは、使用電力Wに比例し、各区間14,15の熱容量Qに反比例する。
ΔT∝W/Q (2)
ここで、仕様電力Wは、通電する交流電流Iの二乗と各区間14,15の電気抵抗Rとの積で表される。
W=I2R (3)
そして、各区間14,15の熱容量Qは各区間14,15の質量Mに比例するところ、上記例示のドアビーム1のように同一素材で本体部11及び取付部13を一体に成形していることから、前記熱容量Qは、各区間14,15の体積、すなわち各区間14,15の長さLと断面積Aとの積に比例する。
Q∝AL (4)
以上(1)式〜(4)式より、上昇温度単位ΔTは、各区間14,15の電気抵抗に比例し、各区間14,15の体積、すなわち各区間14,15の長さLと断面積Aとの積に反比例する。
ΔT∝I2R/AL∝I2T/A2L (5)
【0031】
上昇温度単位ΔTの関係式(上記(5)式)から、焼き入れ区間14の電気抵抗を非焼き入れ区間15の電気抵抗Rより大きくするには、断面積Aを小さくするほか、長さLを短くすることが考えられる。しかし、焼き入れ区間14は本発明の適用対象となる自動車用部材個々に定められ、安易に短くすることができない。このため、焼き入れ区間14の電気抵抗Rを非焼き入れ区間15の電気抵抗Rより大きくする場合、もっぱら断面積Aを小さくすることになる。
【0032】
断面積Aを小さくする構造として、上記例示のドアビーム1は、本体部11の左右に張り出すフランジ12を縁部から切除しているが、このほかにも図8に見られるように本体部11の高さを低くしたり、図9に見られるように焼き入れ区間14の本体部11に長孔17を設けてもよい。こうして断面積Aを小さくすると、本体部11の構造、特に断面形状によっても異なるが、焼き入れ区間14の構造強度は相対的に非焼き入れ区間15より低下する場合も見られる。しかし、焼き入れ区間14の焼き入れ硬化により前記構造強度の低下を補なえるため、直接通電焼き入れを終えたドアビーム1の本体部11は必要十分な構造強度を備えることができる。
【0033】
具体的には、焼き入れ区間14の断面積Aは、非焼き入れ区間15に対し、およそ5%〜20%、好ましくは7%〜15%程度小さくするとよい。前記程度であれば、かなり特殊な形状の本体部でなければ、比較的簡単に断面積Aを減少させることができる。そして、断面積Aを小さくした焼き入れ区間14を設けた本体部11は、焼き入れ区間14を設けない場合に比べて構造強度が数%程度低下するに留められ、断面積Aの減少に伴う本体部11の構造強度の低下をほとんど問題にせずに済む。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に基づくドアビームの一例を表す斜視図である。
【図2】図1中A矢視部拡大平面図である。
【図3】本例のドアビームを直接通電焼き入れする処理装置の一例を表わす側面図である。
【図4】本例の処理装置の平面図である。
【図5】図3中B−B部分断面図である。
【図6】直接通電中のドアビームを表わした図1相当斜視図である。
【図7】直接通電焼き入れを終えたドアビームの図1相当斜視図である。
【図8】本発明に基づくドアビームの別例を表す図1相当斜視図である。
【図9】本発明に基づくドアビームの更に別例を表す図1相当斜視図である。
【符号の説明】
【0035】
1 ドアビーム
11 本体部
12 フランジ
13 取付部
14 焼き入れ区間
15 非焼き入れ区間
16 徐変区間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に延在する本体部を有する金属製の自動車用部材において、本体部は延在方向に並ぶ焼き入れ区間と非焼き入れ区間とに分けられ、前記焼き入れ区間の断面積を非焼き入れ区間の断面積より小さくすることにより、前記焼き入れ区間の単位長当たりの電気抵抗を非焼き入れ区間の単位長当たりの電気抵抗より大きくしてなり、少なくともすべての焼き入れ区間を挟んで本体部に直接通電し、前記直接通電により焼き入れ区間を非焼き入れ区間に先行して相転移温度まで加熱させた後、少なくとも前記焼き入れ区間を急冷して焼き入れ硬化したことを特徴とする自動車用部材。
【請求項2】
本体部は、自動車に対する金属製の取付部を両端に有してなり、前記取付部を介して本体部に直接通電する請求項1記載の自動車用部材。
【請求項3】
本体部は、非焼き入れ区間の断面積を焼き入れ区間に向けて徐変に減少させることにより、焼き入れ区間の断面積を非焼き入れ区間の断面積より小さくした請求項1又は2いずれか記載の自動車用部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−1135(P2008−1135A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−170099(P2006−170099)
【出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【出願人】(503399920)株式会社アステア (31)
【Fターム(参考)】