自己診断型自動分析装置
【課題】本発明は反応過程における測定値を利用して、検査が適切に行われたか否かを判定する手段を提供し、1日に数千から数万テストが計測される中においても異常反応をしめす項目の見落しを防止することを目的とする。
【解決手段】分析検査結果の検証を実現するために、反応過程における光度計の値を計測し、前記光度計による反応過程データと、前記反応過程に付随する機構部や或いはサブシステムの稼動状態の状態変化から分析測定結果を検証するものである。また正常な反応過程データに関するデータベース(光度計の値と反応過程に付随する機構部や或いはサブシステムの稼動状態)を備え、測定された時系列の反応過程データを予め設定されたデータベース内情との照合することによって、所定の区分毎に或いは装置の進行プロセスに合致した区分毎に逐次、正常データか否かを判定するエンジンを備えている。
【解決手段】分析検査結果の検証を実現するために、反応過程における光度計の値を計測し、前記光度計による反応過程データと、前記反応過程に付随する機構部や或いはサブシステムの稼動状態の状態変化から分析測定結果を検証するものである。また正常な反応過程データに関するデータベース(光度計の値と反応過程に付随する機構部や或いはサブシステムの稼動状態)を備え、測定された時系列の反応過程データを予め設定されたデータベース内情との照合することによって、所定の区分毎に或いは装置の進行プロセスに合致した区分毎に逐次、正常データか否かを判定するエンジンを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液や尿等の生体サンプルの定性・定量分析を行う自動分析装置に係わり、特にサンプルの物性変化を時系列に測定する機能を備えた自動分析装置において、反応過程のチェック機構と、その反応過程を実現している動作機構やシステムとをチェックする機能を備えた自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査用自動分析装置は、例えば生化学分析装置ではサンプル中の特定成分と反応して色が変わる試薬を用い、色の変化を吸光度変化により定量的に測定することにより、該特定成分の定性・定量分析を行うのものが一般的である。このような自動分析装置は、反応過程での吸光度変化を保存したり、画面上でプロットする機能を備えたものがある。装置のオペレータは測定結果に異常が見られた時に、本当にそのサンプルが異常であるのか、或いは装置の異常により、たま異常な結果がでたのかを吸光度変化のプロットを検証することによりチェックできる可能性がある。臨床自動分析検査の過程では、分析装置に起因するプロゾーン・チェック異常,サンプリング異常,試薬分注異常,攪拌機構の異常,粘度の高い試薬のボタ落ちや飛散,試薬の組み合わせの関係によるノズルの汚染や結晶析出等により分析検査が正常に行われない恐れがあるが、反応過程データの解析により、これらの異常が検出できる可能性がある。
【0003】
しかし、反応過程データ(吸光度変化データには限らない)の変化は分析項目やサンプルの特定等により多様であるため、反応過程に異常があったかどうかを自動的に判別する機能を実現することは難しく、それを実現したものは無かった。このため、反応過程データから反応過程の異常を調べるためには、大量のデータを保存する必要があり、また分析装置に異常な原因が考えられる場合には、反応過程データと装置の分析シーケンスとを詳細につき合わせて原因を特定する必要があり、更には人手によって1件ずつ個々の反応過程データを調べる必要があったため、時間とコストが掛かっていた。
【0004】
【特許文献1】特許第328087号
【非特許文献1】品質工学学会誌 第3巻 No.1:「多次元情報による総合評価とSN比」
【非特許文献2】MTシステムにおける技術開発:日本規格協会、品質工学応用講座
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
臨床自動分析検査における測定結果は、最終結果を評価しているに過ぎないため、測定値が設定範囲内であれば分析装置はアラームを発することなく、異常な反応があっても検出は不可能であった。また、測定値が異常であっても、本当にそのサンプルが異常であるかどうか、或いは装置内部の機構部の劣化や異常動作によるものなのかを、迅速に判別する手段がなかった。
【0006】
現在の自動分析装置において反応過程での異常の有無の迅速判断ができないのは上記の通り、反応過程での異常の多様性によるものが大きい。
【0007】
一方、近年では、多変量のデータ解析の手法としてマハラノビス距離にて、所定の空間を形成し、データが異常であるかどうかを総合的に判断する手法(MT法;マハラノビス−タグチメソッド)が活用されている。例えば非特許文献1には、健康人のデータに基づき基準となるマハラノビス空間(基準空間)を作成し、健康かどうか不明な被験者に対するマハラノビス距離を算出した値がある閾値(例えば4)より小さければ、健康人の集団に属し、「健康」と識別し、そうでなければ「健康でない」或いは「異常」と判断する方法である。かかる方法は適用範囲が広く、種々の分野で公開されている。例えば、特許文献1や非特許文献2内に、種々の事例がある。
【0008】
この方法を反応過程での異常の有無判断に適用できれば、異常でないデータを異常と判断してしまうことや、異常なサンプルを正常と判定してしまう可能性を低くすることができると考えられる。しかし、反応過程データのような時系列データは、各データ間の相関が強い(測定誤差内で一定値、勾配が同じ)データ群となっているため、それぞれの時点でのデータをパラメータとしてマハラノビス空間を作成しようとしても相関行列の逆行列が算出できない。このため、相関の強いデータ間(又は計測項目間)の一方を削除する等の更なるデータ加工を必要とし、再度前述の基準となるマハラノビス空間の再構成に時間を要し、処理効率が低下する等の問題が潜在している。
【0009】
本発明は、反応過程データを予備的に処理することによりデータ解析にMT法を適用することを可能にしたことで、反応過程での、装置内の動作異常や劣化等に起因する異常等を含んで、反応過程の異常の有無判断(装置内の動作異常等を含む)を可能にし、測定データの信頼性向上と反応過程に付随する機構部或いはサブシステムの信頼性の向上をした自動分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明では検査結果の検証を実現するため、反応過程における光度計の値を計測し、反応過程データから分析測定結果を検証する。更に、前記光度計や、各反応過程に付随している機構部やシステム等の動作異常や劣化による異常等をも考慮して、分析結果を検証する。
【0011】
前述の反応過程とは、前記分析装置の最終分析結果に至るまでの、前記装置の処理シーケンスに対応した処理であり、かつ各処理シーケンスに付随している機構部やシステムの動作・稼動状態である。また、そのデータ群とは連続性のある時系列データである。ここで、測定開始から測定終了までのデータ点数をk個とし、その過程で成される処理数(装置動作等)をniとし、そのデータ数をxiすると、
k=x1n1+x2n2++xini
でありその区分数はnである。
(x1,x2,x3,,,xiのデータ構成は「光度計の計測値」と「装置の動作・稼動指標値」で構成する。「装置の動作・稼動指標値」は処理シーケンスに対応して、必要であれば追加し、不要であれば「光度計の計測値」のみとする。)
このnは当該過程の反応時間や処理時間に対応している。以下にデータ構成を示す。
(1)測定が正常に終了したk個のデータから、基準となるマハラノビス空間を作成する。このk個のデータには、各過程で動作・稼動する装置の状態を示した指標値である、例えばマハラノビス距離そのものを作成しておく。
(2)(1)項のk個のデータを所定の時間間隔或いはni毎に区分して新たなマハラノビス空間を過程進行と連動してni−1個作成する。例えば、前記n1区とn4区に装置の動作・稼動指標値(●)を追加する場合は、k3個と(k−(k1))個の内、各1個が動作・稼動指標値となっている。
【0012】
(3)過程の測定終了時点で当該マハラノビス距離を算出する。例えば、n1の終了時
(t1)なら、そのデータが収集完了した時点でk3個の基準空間へデータを宛がい、マハラノビス距離MD1を算出する。
(4)(3)項を測定終了まで繰り返すと、区分毎のマハラノビス距離の時間的な変化がわかる。つまり、下表の如く、マハラノビス距離MD1,Md2,MD3,MD4(例えば4区分の場合)が算出され、その時間的な変化がわかる。
【0013】
正常過程で終了したマハラノビス距離は通常0〜4(その閾値を4とした場合)であるから、各過程における何れかのマハラノビス距離が4を超えると、何らかの異常がその過程で発生していることが判る。上表の例示では、区間n1,n3,n4区間に異常が発生している。処理過程はシーケンシャルのため、n1区間のみ着目すると、その異常は「光度計の計測値」と「装置の動作・稼動指標値」のいずれかの一方の寄与分の高い方が主要因であると判断できる。もし、「光度計の計測値」の方の寄与分が高いなら、この過程での装置機構やシステムは正常に動作しているにも係わらず、何らかの他の要因(例えば、反応容器の劣化や汚れ等)で計測値が異常であると判断する。
【0014】
更には、各過程での各基準空間は上表の如く、そのマハラノビス距離は0〜4の範囲であり、且つn過程ある。このため、各過程で算出されたマハラノビス距離を計測完了まで蓄え、その各値を一つの総合判断のデータとすることにより、より総合的な判断が可能である。(この時の基準空間は、n過程の各基準空間作成時の閾値を加味したマハラノビス距離の集合体である。上表では、4区間の正常時のMD2であり、0〜4のマハラノビス距離である。)
さらに反応過程に関するデータベースを構築するために当該自動分析装置(検査項目)で測定したデータと、分析条件が異なり、結果が一定の許容範囲内の(一致している)測定結果を取得する演算部を備える。
【0015】
かかる演算部では、前述のマハラノビス距離を計算する基本データ群が格納されている。そのデータ群とは、各測定時間又は特定の区間における平均値(k個)、標準偏差(k個)と相関係数行列から算出された固有ベクトル(kxk)行列とその最大必要軸数である。
【0016】
前述の如く、かかるデータでは各データ間に強い相関がある。このため、マハラノビス距離を算出過程で使用する相関係数行列の逆行列が算出できなくなる。このため、本法では、相関係数行列の固有値と固有ベクトルを求め、その寄与度にて、その軸数(モード)を決定して、マハラノビス距離を算出する演算処理を行う。かかる演算処理では、相関係数行列から逆行列式を一切求める必要がなく、相関係数が“1.0”であっても、マハラノビス距離を算出することができる。
【0017】
さらに、上記において異なる条件の測定において異なる結果が得られた測定結果を用いて、判定論理の最適化を行う演算処理部を備えた。
【0018】
前述の如く、前記「装置の動作・稼動指標値」は各過程での検証用データの一つとして利用しているが、単独にても、「装置の動作・稼動動態監視や管理指標」として適用する。
【0019】
これは、装置内に具備される機構部やサブシステム内には、有寿命品もあり、また機構には劣化もある。このため、かかる状態変化を所定の間隔で追跡して監視・記録することにより、装置の保全計画を有効に行うための情報を創出することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば次の効果がある。
【0021】
検査の信頼性と装置の信頼性が向上する。特に、反応過程において異常が発生していても、測定データが正常値の範囲に収まる異常な測定結果を検知することが可能となる。また、検査結果が正常値の範囲外であっても、反応過程データに異常が見られなければ正しく測定されたことになるため、無駄な再検査が不要になる。
【0022】
更に、反応過程において異常が検出された場合でも、その原因が装置内の内因的要因であるのか、外因的要因であるのかを迅速に判断して処理できるので、検査効率が向上する。
【0023】
検体に対する検査項目に対して、測定異常に関する信頼性が向上するため、無駄な再検査を削減でき、自動分析装置の検査についてのランニング・コスト(即ち、検査試薬や洗浄液等の消耗品)を低減できる。また、検査時間を短縮することができる。
【0024】
また、反応過程データの保存を測定異常データのみにすることができるため、データ記憶にかんするコストを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は反応過程における「測定値」と「装置の動作・稼動指標値」とを利用して、検査が適切に行われたか否かを判定する手段を提供し、1日に数千から数万テストが計測される中においても異常反応を示す項目の見落としを防止することを目的とする。
【0026】
かかる方法として、前述の従来例の如く、時系列データから基準となるマハラノビス空間を形成し、当該データをその空間に宛がい、その距離にて判断を行えば良い。しかし、前述の如く、かかる分析装置では測定データに起因するプロゾーン・チェック異常,サンプリング異常,試薬分注異常,攪拌機構の異常,粘度の高い試薬のボタ落ちや飛散,試薬の組み合わせの関係によるノズルの汚染や結晶析出等は、時系列データから構成される。このため、各装置の時系列な動作に対応できる異常検出法が重要である。
【0027】
従来の方法では、「測定値」のみよる総合判定のため、その基準となる空間は、測定開始から測定終了までの時系列データを使用して構成するのが一般的であるため、測定完了時点での総合判断である。よって、分析過程のどの部位が異常であったかを判断するのは難しい。又その原因は装置の内的要因(動作部の劣化等)なのか、外的要因(他の機構部の部品の汚染、劣化等や仕様外動作等)なのかを迅速に判断できていなかった。更に、この時系列データは、各データ間の相関が強い(測定誤差内で一定値、勾配が同じ)データ群となっているため、マハラノビス距離の算出に工夫が必要である。更には、前記マハラノビス距離の方向性と、それらの構成要素である計測項目のパターン差を判別するのに好適な指標の算出に工夫が必要である。
【0028】
以下にどのように工夫してMT法を反応過程の解析に適用したかを実施例を用いて説明する。図1に自動分析装置の構成例を示す。自動分析装置の主な機構系としては検体ディスク2,反応ディスク1,試薬ディスク3から構成されている。
【0029】
検体ディスクには分析処理を開始する前に、予め幾つかの検体が架設される。分析が開始されると検体分注機構(検体分注機構)4によって所定量の検体が吸引され、反応ディスクの所定の位置に吐出される。反応ディスク上の検体は例えば、図3に示すように予め装置内に組み込まれた所定の分析のシーケンスによって分析が行われる。
【0030】
反応ディスク1を中心とした各機構部の動作位置を図1に示す。反応ディスクの内周には検体の吸光度を測定するための光源ランプ20(図2参照)が設けられており、その外周には光度計ユニット7が設置されている。光源と光度計の間に反応ディスク上の反応容器12(図2参照)が通過するたびに、吸光度が測定される。吸光度の測定は反応ディスクの回転が開始し、一定速度になるまで加速されてから行われる。反応ディスクは毎サイクル、一定の角度で回転と停止を繰り返しており、所定の反応時間において、何度も測定されることになる。
【0031】
これらの機構系の制御は主に制御部11と呼ばれる計算機ユニットで実行されるが、検体情報や試薬管理情報および検査依頼受付などを行うための操作用計算機15が接続されており、各々が協調して動作している。
【0032】
本実施例で用いている光度計ユニット7の構造を図2に示す。本実施例で用いている光度計ユニットは後分光多波長光度計と呼ばれている。すなわち光源ランプ20から発せられる光は検体の入った反応容器12を透過した後に、入射スリット21で線状光線として凹型回折格子22に入射する。ここで多波長に分光され、12波長の光度計23によって検体を透過した光の光度が測定される。
1.1 分析シーケンス
本実施例で行う検体の分析のフロー図を図3に示す。
【0033】
検体としては血液(白血球など)や髄液・尿などが用いられ、予め検体ディスク2上の1つの検体容器13(図1)に設置されている。この検体を反応ディスク1上の反応容器12に分注して分析を行う。検体を分注する前の準備として反応ディスク上の反応容器が洗浄され(A01)、水ブランクの測定が行われる(A02)。水ブランクとは検体吸光度の0点調整を行うために水の吸光度を測定することである。すなわち、この反応容器に分注された検体の吸光度値は水ブランクの吸光度値との差によって求められる。水ブランクの測定が終了すると、反応容器内の水は吸引され、廃棄される(A03)。この反応容器に所定の検体が分注(サンプリング)される(A04)。その後、所定の時刻にR1試薬(A05),R2(A07)試薬,R3試薬(A09),R4試薬(A11)が予め決められている分量だけ反応容器に加えられ、撹拌(A06,A08,A10,A12)が行われる。ここで分析項目によってはR4,R3あるいはR2の分注が行われない検査項目もある。一般的には、その反応過程は3分反応,4分反応,5分反応,10分反応があり、それぞれ反応ディスクが反応時間に対応する回数だけ回転した時点での吸光度を測定値とする。通常は10分反応が行われることが多い。所定の反応時間が経過し、全測光が終了すると(A13)、反応容器は次の分析のために洗浄される(A01)。
【0034】
濃度演算吸光度の説明
このようにして得られた吸光度の典型的な分析方法を図4に示す。吸光度から濃度演算には1ポイント分析法,2ポイントレート分析法,2ポイント分析法,3ポイント2項目分析法などが用いられている。1ポイント分析法では試薬添加から一定時刻経過後の吸光度から検査対象成分の濃度を計算している。2ポイントレート分析法では、試薬添加から定められた2つの時刻t1およびt2(t2>t1)における吸光度の差分を(t2−
t1)で割った吸光度変化の時間比率から濃度を計算している。2ポイント分析法では試薬添加から定められた2つの時刻t1およびt2(t2>t1)における吸光度を測定し、t1における吸光度から、t2における吸光度に対して定数ファクタをかけた値を差し引いたものから濃度を計算している。
【0035】
いずれの場合にしても反応ディスク上の検体が光度計を横切るたびに吸光度が測定され、その測定値の一部分を使って演算処理によって検査対象成分の濃度を決定している。すなわち、反応過程において測定された吸光度の大部分(あるいは一部)は、従来の分析方法では捨てられていた。
【0036】
反応過程データの異常検知アルゴリズム
図5,図6は本発明に関わる反応過程の異常検知の全体の処理フローとその詳細を示した図である。
【0037】
先ず、各過程での異常を検知するために、予め決定された各過程毎の検査・測定シーケンスと合致してデータ収集を行う。
【0038】
例えば、図3に示すA01〜A02の反応過程においては、その過程の異常を検知するために、最初に判定を行う検査に対する反応過程データ一式(光度計23の出力データ群)を計算機に取り込む(S1)。又、このとき、前記光度計23の出力値以外に別途、このシステムが動作している環境温度や光度計23の出力を増幅・基準化する増幅回路(図示せず)の値を取り込む(S41)。前記過程は検体吸光度の0点調整を行うために、水の吸光度を測定している。前記反応容器12(図2)には、以後の処理シーケンス(図3)にて分注された検体の吸光度値が計測され、この吸光度値は前記水ブランクの吸光度値との差によって求められる。前記過程内での前記光度計23を含むシステム(光源ランプ
20,入射スリット21,凹型回折格子22で構成している計測系)の再現性や信頼性は重要である。しかし、前記反応容器12に劣化や汚染等が発生した場合や、反応容器の洗浄(図3のA0)が不十分である場合や、何らかの原因で動作温度や周囲温度が変化した場合や、更には他の電気部品等の劣化が急速に加速した場合等は、前記計量値である水の吸光度値は変化するので分注された検体の吸光度値も変化する。このため、前記光度計
23の出力値に、システムの動作状況や状態変化を示す指標値を付加して、A01〜A02過程全体を検証している。
【0039】
反応過程群データを取り込むタイミングは、予め決定された各過程毎の測定シーケンスと合致する。或いは、反応過程において、逐次測定される吸光度データを取り込み、後で一連の時系列データ群としても良い。
【0040】
また、前述のシステムの動作状況や状態変化の指標値は、図3に示す測定シーケンスに付随した反応過程内の機構部やサブシステムに対応して、逐次追加される。前記動作状況や状態変化の指標値とは、例えば、図5,図6に示すように多数の計測項目から算出されるマハラノビス距離である(S42)。
【0041】
次に、上記より得られた反応過程データについて、マハラノビス距離を求める(S2)。この時のデータは前記光度計23の出力値データ群と前記光度計23を含むシステムの動作状況や状態変化を総合的に検証した指標値データ(マハラノビス距離)から構成される。
【0042】
ここで、マハラノビス距離は多変量解析の一手法であり、ある被検査対象が基準となる集団(以下、基準空間と称する)に属するかを測る尺度となる。
【0043】
本発明では、分析が正常に行われた時の反応過程データ群から基準空間を構成し、その情報は予め、図5,図6に示すようにデータベース:DBに収納されている。マハラノビス距離および基準空間の求め方については後述する。
【0044】
次に、前記光度計23の出力値データ群と前記光度計23を含むシステムの動作状況や状態変化を総合的に検証した指標値データ(マハラノビス距離)から算出されたマハラノビス距離から、収集されたデータ群(被検体サンプル)が異常か正常かを判断する。分注が正常に実施されたときのマハラノビス距離は1値を示すのに対し、異常であった場合はその距離が1.0(平均値) より極めて大きな値をとる。これを利用して、閾値判定により分注の正常・異常の判定をより総合的に行う(S3)。
【0045】
一方、前記光度計23を含むシステムの動作状況や状態変化を総合的に検証した指標値データ(マハラノビス距離)は、かかるシステムの時間的な動作状況変化や状態変化を示したものであるから、前述と同様に、異常か正常かを判定・判断することも可能となっている。システムが正常に動作・稼動しているときのマハラノビス距離は1.0(平均値) を示すのに対し、システム以外の外的要因、例えば前記容器12の汚染や有寿命部品の急激な進行等)が発生した場合は、その距離が1.0(平均値) より極めて大きな値をとる。これを利用して、反応過程に対応した機構部やシステムの正常・異常の判定(S43)とその進行状況の監視を行う(S44)。又、最終的な判定時には、前記総合判定した値s3と該機構部の判定結果の値s43とを合致させて判定しても良い。
【0046】
本実施例における、反応過程データについて、そのデータ構造と基準空間について図7,図8,図9を使って説明する。
【0047】
図7は図3に示すA01〜A02の反応過程データの取得方法を、1波長について示したものである。被検体サンプルは測光ポイントを通過するたびに検体の吸光度が計測され、計算機に逐次蓄積されて行き(図6参照)、最終的には、図8のように予め定められたk個(時系列)の吸光度が取込まれ、n個の吸光度(サンプル数)が取込まれる(S1)。この時、前記光度計23を含むシステムの動作状況や状態変化は、被検体サンプルは測光ポイントを通過するたびに前記、検体の吸光度の計測に同期して、図7に示すように、予め定められた前記光度計23の12波長の出力値(光電流)と、本システムが動作している周囲温度と変換回路の定数等がks個取り込まれる。このks個のデータからマハラノビス距離s42を算出し、算出されたマハラノビス距離「md11」が、最終的には、図8のように予め定められたk個(時系列)のデータに付加され、n個の吸光度(サンプル数)データの一つとして取込まれる(S1)。
【0048】
前記、k個のデータの内、本実施例では、最初の4点が前記A01〜A02過程のデータであり、そのうち3ケは前記光度計23からのセルブランク値の吸光度、すなわち吸光度のゼロ点である。一方他の1ケは前記光度計23を含むシステムの動作・稼動状態の指標値であるマハラノビス距離「md11」:s42の値である。又、本実施例では5個目以降は水の吸引から試薬投入後の吸光度の時間的変化をトレースしたデータ群(反応過程)であるが、第4区間では前述と同様に、最終反応過程での機構部或いはサブシステムの動作・稼動の指標値「md12」:s42′値から構成している。
【0049】
セルブランク値の計測ポイント数は機構系および制御方式によって決定され、実際の分析では、例えば12波長などの多波長についての吸光度が計測されるため、第10の波長の吸光度データを1からk番目、第2の波長の吸光度を(k+1)番目から2k番目、以下同様にして12番目の波長の吸光度を(11k+1)番目から12k番目として、12k個の吸光度データが取得される。これらすべて、あるいは一部の波長に関する吸光度を使うことによって、より確度の高い反応過程異常の検知が実現可能となるが、本実施例では簡単のために、セルブランク値の計測値に関しては、1波長についてのみ記述している。
【0050】
また各波長についての測光ポイントについては一定間隔で計測されているが、光度計を複数設置することによって吸光度データを増やしても良く、また反応過程の異常が起こりやすい箇所では多くの測光ポイントにおいて吸光度データを取込み、反対に異常がほとんど生じない箇所では吸光度データを間引いて取込んだりすることがあっても良く、必ずしも等間隔である必要は無い。
【0051】
又、本実施例では、前述の如く、ブランク過程と反応過程に大別し、その途中の過程を2分割し、最終的に4区分に分割して例示しているが、その区分を測定シーケンスに合致して、より詳細に分割しても良い。更に、前述の反応過程に対応した機構部やサブシステムの動作・稼動の指標値「Md11」,「Md12」は、各反応過程に対応して、任意に追加出来ると共に、必要でなければ不採用として良い。
【0052】
上記の通り取得した反応過程データ(本実施例では、その過程を4つとしている)は、図8ようにまとめられる。ここで、各測光ポイントにおける吸光度と動作・稼動の指標値は、それぞれマハラノビス距離を求める際の項目として利用する。
【0053】
前記操作を、計測結果が正常に終了したものと判断された反応過程データ群に対して行えば、基準となる反応過程データ群を得ることができる。図8は、正常な分注をn回行ったときに得られた各反応過程データ群をまとめたもので、これはn事象k項目であり、第1と第4区に動作・稼動の指標値を各1つ含んだ基準空間としている。
【0054】
ここでいうn個の正常な反応過程データ群とは、当該の自動分析装置において測定結果が精度を保証する範囲内となる検体に対し、再現性のある結果が得られた時の反応過程であり、且つ各過程での機構部やサブシステム等の動作・稼動状態が正常時の反応過程である。
【0055】
例えば、プロゾーン現象や検体・試薬の分注などの異常が発生した場合には、これらは偶発的な現象によるものであるため、前記装置内の機構部やサブシステム等の動作・稼動状態が正常であっても再現性がない。すなわち装置、時刻、試薬や検体の分注量などを変えて再現測定を行っても、同じ結果はえられないので正常な反応過程ではない。
【0056】
又、n個のデータ群を使用し、それらのデータ群から基準空間を作成する際の留意点として、単なる統計データの収集ではなく、上記の通り正常な場合の統計データの収集であるから、異常なデータが入ることがあってはならない。しかし、例えば検体特性(測定値)のばらつきや光度計のばらつきや、各機構部や各サブシステムの許容動作内のばらつきのように、装置が測定精度を保証する範囲内でばらつきが存在するものであれば、積極的にばらつかせてデータを得ることが望ましく、そうすることによって異常検知の精度が向上する。
【0057】
基準空間の事象数nについては、多い方が異常検知の精度が向上するので好ましいが、必要以上に多くすると、得られる情報より経済的コストの方がかかってしまう。そこで、検知の精度および経済的コストを勘案しながら決定するのが良い。ただし、事象数nが項目数kより小さい場合、後述する相関行列が求められないため、必ずnはkより大きくなるようにする必要がある。
【0058】
なお、上記のように得られた反応過程データ群および基準空間は、その分析項目とそれに対応した各反応過程での機構部やサブシステムに限るものとし、各分析項目ごとに反応過程データ群および基準空間を用意しなければならない。これは反応項目によって分析時間や、機構部やサブシステムの動作や、使用する試薬の種類および量が異なり、吸光度の時間変化パターンが大きく異なるためである。
【0059】
図8のような反応過程データp1,p2,…,pk についての、マハラノビス空間(基準空間)の算出方法について以下にその詳細を説明する。
【0060】
更に、図9には被検出体のデータ収集入力時のマハラノビス距離の算出フローを示す。
【0061】
図8のようなn事象k項目(測光ポイント)の基準空間を構成する反応過程データについて、各項目(測光ポイントと動作・稼動の指標値)毎に平均値
【0062】
および標準偏差σ1,σ2,…,σk を求め、式(1)の演算を行い正規化する。
【0063】
【数1】
【0064】
一方、基準空間をn行k列の行列として、この行列の相関行列を求めるとk×kの行列Aが得られる。この行列Aの逆行列をA-1とすれば、マハラノビス距離D2 は式(2)のように表すことができる。
【0065】
【数2】
【0066】
なお、これらの計算のうち、各検査項目における基準空間の各項目(測光ポイント動作・稼動の指標値)毎の平均および標準偏差や、基準空間の相関行列の逆行列は予め計算しておき、その結果をパラメータとして持っている(図5,図10参照)。繰り返しマハラノビス距離を算出する場合、これらの計算を何度も行う手間が省け、計算処理上有利である。
【0067】
ここで、反応過程データp1,p2,…,pkが正常なものならば、マハラノビス距離D2は1.0近傍の値となり、異常なものであれば一般的に1.0と比べて大きな値を採ることになる。マハラノビス距離D2によって正常と異常を判別するには、予め、あるしきい値xを設けておき、
D2<xならば正常、
D2≧xならば異常
として判別する。
【0068】
前述の図8に示した時系列データ群では、その性質上、各データ間の相関が強い場合が多々あり、前述の式(2)を算出する過程で、逆行列が求めらない場合が発生する。
【0069】
かかる場合の対応法としては、一般的には相関の強い項目の何れか一方のデータを逐次、削除すれば良い。しかし、かかる方法、その処理法では更なるデータ加工とその処理タスクを新たに追加搭載しなければならないので、その処理能力が低下するとともに、データ点数の減少によりその信頼性も低下する。このため、本発明では、各データ間の相関が強い場合でも、収集されたデータ群のさらなる加工を一切すること無い処理タスクを考案し、適用している。以下、その内容について詳細に説明する。
【0070】
前述の如く、マハラノビス距離を算出する方法として前記式(2)による方法と、シュミットの直交展開法(文献:MTシステムにおける技術開発)や、主成分分析を活用してデータ群を直交化し相関行列を特異分解する処理法や逆行列をそもそも求めない余因子行列を適用した種々の算出方法が提案されている。いずれの方法もその特質があり、発展途上でもあり、本発明の如くリアルタイム性を重視するシステムへの適用には時間を要する。このため、本発明では種々の実験と検証の結果により、主成分分析型をベースにした新たなマハラノビス距離の処理法を見出した。
以下、その処理フローの概要を図9を参照しながら、その処理内容を以下に記す。
【0071】
相関行列(k*k行列)と固有ベクトルを求める。(kは項目数)
固有値の寄与率とその必要数knを算出する。(最大でもk個。)
(2)項の結果から、kn<kなら、その個数をkn個,kn+1個のみを使用し、前記(1)項で求めた固有ベクトルからマハラノビス距離(MD2)を算出する。
【0072】
kn=kなら、k個を使用し、前記(1)項で求めた固有ベクトルからマハラノビス距離算を算出する。或いは、kn=kとして、前記寄与率が1.0になるkn番目以降の固有値を誤差範囲内の値で変更し、前記(1)項で求めた固有ベクトルからマハラノビス距離算を算出する。
【0073】
更に本発明では、前述の(3)項の算出過程においては、2つのベクトルが容易に算出される(図9の(4)−1と(4)−2)。一つは前記マハラノビス距離を算出するベクトル(yva)であり、他はそれに直交したベクトル(xva)である。ここで、前記マハラノビス距離(MD2)は、図9に示すように、Md2=Σyva(i)^2/kn
(図9の(5))である。(i=1〜kn、knは計測項目数)
一方、前記xva(i)は、前記マハラノビス距離を決定している計測項目の横位置
(yva(i))点での縦方向(直交方向)における計測項目の挙動を示している。よって、Σ{yva(i)*Σxva(i)}は、計測項目全体の総合的な挙動を示しており、基準空間作成時の各計測項目の挙動に対しての対象事象の各計測項目毎の寄与度や全体的な挙動の差(パターンの相違)を知らしめる指標となる。
【0074】
このため、例えば、ハード上の制限により、計測項目数に限りがある場合は、前述の指標にて、それらの寄与度を吟味して取捨選択を行い、前記マハラノビス距離の感度とばらつきを維持したままで、項目数の縮減化を可能としている。
【0075】
更には、例えば、前述の動作・稼動の指標値の基準空間は、装置の据付時や稼動開始日に形成するのが一般的であるから、装置の動作・稼動時間が増加するに伴って、マハラノビス距離も単調増加を示す。しかし、装置の稼動状況の監視・管理上や保全計画上、その平均的な動作・稼動状態(例えば有効連続使用期間が5年なら2.5 年の稼動期間時)を基準空間にする場合もある。かかる場合、その基準空間が“0点”であり、もし有寿命である部品を交換した場合は、交換時その距離は良好方向に推移し、時間の経過に伴って、この“0点”を通過して、悪化の方向になる。かかる場合でも、前述のΣ{yva(i)*Σxva(i)}の指標を考慮することにより、前記マハラノビス距離に方向性を持たせることが可能となっている。かかる前記指標の内容に関しては後述する。
【0076】
かかる過程においては、収集されたデータ群を一切追い加工することがない。又、各項目間に強い相関があっても、相関行列の固有値を先ず最初に算出するので、k個の固有値(直交軸)とその寄与度が算出される。その寄与度により、いずれかの軸数を適用すれば良いかが判断できるため、不要な軸を容易に削除でき、マハラノビス距離の算出時の誤差を最小化できる。更に、項目間にその相関係数が“1.0”(全く同じデータ)の強い相関があっても、一方の項目を削除するというデータ加工を一切行わなくてもマハラノビス距離を算出できることを確認した。
【0077】
更に、項目間での相関係数が比較的小さくかつ式(2)で項目の削除を行わなくともその逆行列が求まるデータを用いて本処理(上述の算出過程)と前述の式(2)により算出した結果とを比較したところ、算出されたマハラノビス距離には大差がなかった(数値の誤差内)。本処理の妥当性と信頼性とを確認している。
【0078】
図10は、図6の反応過程の判別論理を組み込んだ機能ブロック図である。分析制御部31は制御部(制御用計算機ユニット11)上に実装される機能であり、その他の機能およびデータは操作用計算機15上に実装される。
【0079】
分析要求受付部30は、操作者が検体に対してどのような分析検査を行うかの設定を行うためのものであり、CRTなどの画面とキーボードやマウスなどの入力機器を用いて行われる。入力された情報から分析制御部31に対して制御命令を送る。分析制御部31では図1に示した機構を制御して分析を実行し、検体ディスク2上の検体を反応ディスク1上に分注して反応を行う。1つの検体に対して分析が終了するとその時の反応過程データ34と分析結果データ32がデータベースに保存される。反応過程データ34は反応過程評価部35において異常か否かが判定される。この時、基準空間データ33を参照して評価を行うが、この基準空間は分析項目ごとに用意されており、更に反応過程評価部には分析項目と、その反応過程に対応した機構やサブシステムの動作・稼動に対応した基準空間だけを参照する。
【0080】
反応過程評価部35において反応過程が異常と判断された場合には、分析制御部31に対して同検体に対して同じ検査項目を再検査するよう指示が出される。或いは、該過程の機構部又はサブシステムの動作・稼動の異常の寄与度が大きい場合にはその旨の情報も付加される。また、保存された分析結果データ32に対して反応過程に異常があった旨の情報が付加される。
【0081】
装置保全情報部36においては、反応過程評価部35において反応過程が正常或いは異常と判断された場合の装置の過程毎(プロセス)の計測値情報と各過程毎に対応して動作した機構部やサブシステムの指標値が時系列的にデータ−として保存されて行く。
【0082】
かかる情報により、例えば、ある過程での収集されたデータから算出されたマハラノビス距離と装置の稼動経過時間とを監視し、装置内部の部品劣化等の内的要因による時間的な変遷や劣化状況、或いは突発的な外的な要因で発生したものかを監視することができる。これらのトレンドデータは装置自身の保全情報として役に立つ。
【0083】
図11−A(基準空間作成時)には正常に終了した反応過程のデータ群(サンプル数:110ケ,項目数30ケ)の例を示す。
【0084】
図11−Bには前記正常反応過程データ群とは別に、被検出体から収集したデータ群
(サンプル数:34ケ)の例を示す。
【0085】
図12には、前記図11−Aのデータ群から基準空間を作成し、前記図11−Bの各データを前記基準空間に宛がった場合の代表的な結果の例(s−5,s−7,s−13,s−18,s−24,s−29)を、反応過程毎に対応した区分毎(反応過程の時間経過区分)に示す。尚、本例では、前述の如く、その区分を4区分とし、その区間における閾値は各区間とも4.5 に設定している。
【0086】
前述の被検出体のデータの内s−24,s−29はいづれの区間においても、マハラノビス距離が時間の経過(反応過程の進行)に無関係に、閾値内であり“正常終了”と判断される。
【0087】
一方、s−18,s−13,s−5は初期区分(初期の反応過程域)の段階で閾値を超えており、時間経過と共に、そのマハラノビス距離値が増加する傾向である。これは、区間1の過程(プロセス)で何らかの異常が発生しており、その影響が反応過程全域に渡って継続して影響しており、“異常終了”であると判断できる。或いは、区間1の計測終了時に“異常”のアラームを発生し、以後計測しない又は別途新しいサンプル準備するという処置や、シーケンスの変更を自動的に行うことも可能である。
【0088】
この時、前述の如く、装置保全情報部36においては、反応過程評価部35において反応過程が正常或いは異常と判断された場合の装置の過程毎(プロセス)の計測値情報と各過程毎に対応して動作した機構部やサブシステムの指標値が時系列的にデータ−として保存されている。その開示結果の例を図13に示す。
【0089】
かかる検体のかかる過程(第1区間)における前記光度計23を含むシステムの動作・稼動状態の指標値は(図中丸印P部)ほぼ4.0 であり、基準空間作成時のマハラノビス距離の空間内に位置していた。しかし、前記光度計23を含むシステム情報(図7のS41)のうち、周囲温度,変換回路の定数は許容以内であったが、12波長内λ3,λ4,λ6のみが許容値の限界近傍であった。かかる指標値より、その主要因はこの過程で使用した反応容器12の劣化や汚染による外的要因の可能性が高いものと判断でき、該当する反応容器のみを速やかに交換するか、再検査の指示を速やかに行う等の処理を実施することが可能となっている。
【0090】
上述の如く、反応過程の異常の原因には、サンプリングや試薬分注,撹拌などの異常が生じることがある。例えばR2試薬の添加時に吐出した試薬が反応セルの側壁に付着し、反応過程の途中になって検体と混じったために結果が真値よりも高値となってしまうことがある。さらに粘度の高い試薬を使用した場合に、吐出した試薬が表面張力によって分注ノズルの先端に水滴として留まったり、試薬の組合せによってノズルを汚染したり、結晶析出などの問題が生じることになる。
【0091】
通常は1回の分析検査における測定結果(濃度値)は1つの実数だけであり、ある一定範囲がの測定値が得られると自動的に再検査を実行するなどの機能を分析装置に実装して、再現性を確認している。測定値に異常があった場合には、反応過程における吸光度を調べれば、異常か否かを判断できる場合もあるが、測光ポイントが50ポイントのシステム構成において12波長の反応過程データをすべて保存するには1回の測定で600個のデータを保存する必要があった。このため、反応過程に異常があっても、測定値が正常範囲となった場合には、その異常が見落される恐れがあった。更には、それらの主要因を分析できる情報が無かったので、その異常を見落す恐れもあった。
【0092】
反応過程データから異常が検知された反応過程では、その反応過程データを解析することによって異常原因がなんであるかを判断する情報が含まれていることが多い。したがって、反応過程データにおいて異常を検知した場合についてのみ、その反応過程データを保存しておけば、ハードディスクなどの保存用メモリ容量が小さくて済み、また一旦異常が検知されればその反応過程データから原因究明を行うことができる。反応過程データの異常原因には分析装置自体の異常の可能性も考えられるため、各反応過程に付随した装置の機構部の情報やサブシステムの情報や制御系情報とを収集することにより、異常現象の解析が迅速に行われる。
【0093】
前記反応過程評価部35においては、前述の如く、反応過程に異常が発生した場合、その当該過程での有無と当該過程における装置の機構部又はサブシステムの動作・稼動の状態変化を知らしめる。これによって、異常現象の解析や後処理の迅速化に寄与している。
【0094】
前記状態変化や異常の有無の判断指標としては、前述の如く、マハラノビス距離であるが、本発明では更に、異常現象の解析等をより迅速化するため、新たな工夫を実施している。以下その内容について説明する。
【0095】
図14に、2変数(x1,x2)の場合の点A,B,C、Dの位置とそのマハラノビス距離を示す。図示の如く、前記点A,B,C,Dのマハラノビス距離は全く同じであり、その出現確率も全く同じである。しかし、その各位置は相違している。つまり、マハラノビス距離は同じであっても、座標(x1,x2)の配置パターンが相違しているので、このパターン差を加味した判断を実施すればより確度の高い判別が出来ることになる。しかし、従来のマハラノビス距離を適用した評価や判別では、この種の課題(マハラノビス距離方向性,計測項目のパターン差識別)に対応できる好適な指標が得られていなかった。
【0096】
本発明では、図14に示すように、前記点A,B,C,Dに対して、特徴量1,2を別途算出し、その符号の組み合わせにより、マハラノビス距離に符号を付加している。更に、特徴量3にて、計測項目の寄与度を判断できるようにしている。
【0097】
その算出過程を図15に示す。本発明では、マハラノビス距離の算出過程において(図9参照)、マハラノビス距離を算出するベクトル:Yva((4)−1)は勿論であるが、その直交成分であるベクトル:Xvaも同時に算出される。前記ベクトル:Yvaはkケの計測項目から成り、その各点はマハラノビス距離を決定している計測項目の総合挙動の位置(パターン決定位置)を示している。一方、Yvaの直交成分であるXvaは各計測項目の挙動(項目毎の変動値)そのものを示している。かかる2つのベクトルから、前述のマハラノビス距離の方向性と計測項目のパターン差の判定や識別を可能にする特徴量を算出している。
マハラノビス距離の方向性を算出するための特徴量と識別
特徴量1:図15の(6)−1
前記Yva(図9−2参照)から、方向性(+,−)を加味した変動エネルギの総和値の算出する。この時、その総和が+(正)であれば、本事象(例えばA,B点)は基準事象に対して、“+”側に偏っているとする。
【0098】
特徴量2:図15の(6)−2
前記マハラノビス距離を決定している計測項目の総合挙動の位置(パターン決定位置:Yva)と、各計測項目の挙動(項目毎の変動値:Xva)の積和の総合値を算出する。この時、その総和値が“+”であれば、本事象(例えばA,C)は基準事象に対して“+”側に偏っているとする。この指標値は前述の如く、計測項目の総合挙動の位置とその点における各計測項目の挙動の積和であるから、各計測項目のエネルギ変動とその方向性とをより総合的に示唆している。かかる指標は種々の実験とその検証結果から見出した指標である。
【0099】
前記、(1),(2)項の特徴量から、従来のマハラノビス距離や前述の図9の(5)によって算出されたマハラノビス距離は、4つの方向性を有した距離に分解される。(この実施例の結果は図16−1に示す)
計測項目のパターン差の識別のための特徴量:図15の(7)−1,(7)−2
前述の(1)項のうち、特徴量2の算出過程においては、サンプル毎に各計測項目の総合挙動の位置とその点における各計測項目の挙動の積和が計測項目毎に算出されている。即ち、この計測項目毎の算出値は計測項目毎の総合的な挙動を示すものであるので、その挙動の大小を比較又は順位付けを行うことにより、そのパタ−ン差や寄与度が判別・判断できる。つまり、基準空間の作成時の各計測項目の変動に対して、その変動が大きいものは算出されたマハラノビス距離に対して、その寄与度が大きく、パターンの差を引き起こす主要因である。他方、基準空間の作成時の変動内或いは≒0であればその寄与度が小さく、パターンの差を引き起こす主要因ではない((7)−1)。
【0100】
更に、突発的な変動(k項目の内1つが極端に反対方向に動いている事象)の影響を除くため、前述の値((7)−1)の値(推定値ではなく実測データから生成した値)に対して、各項目の分散値(σ(i)2)と全項目の分散値(Σσ(i)2)の比率により、重みを付け、評価指標としている。(この実施例の結果は図16−2に示す)
図16には、前記図11に例示した反応過程のデータに対して、前述の計算にて、再計算した結果を示す。表中のサンプルS−33は、基準空間の作成時のデータであり、且つその値が平均近傍のサンプルであり、そのマハラノビス距離(Mdx2欄)は≒0である。他方、サンプルS−23,S−24のマハラノビス距離は86.5と87.5あり、又サンプルS−25,S−26のマハラノビス距離は346.4と348.9の異常データである。かかる距離から、S−25,S−26の異常度合いはS−23,S−24に比して、そのマハラノビス距離が大きいので、異常度合が大きいことが判る。しかし、従来ではその内容やその原因系については不明であるが、本法によれば、表中の欄「方向」に示すように、又図6−1に示すように、その符号が相違し、明確に4つの指標に区分されている。
【0101】
つまり、S−23とS−24では、マハラノビス距離は同等であるが、その計測個目の挙動パターンが相違し、S−23は基準空間作成時の項目変動に対して、“+”側に異常であり、S−24は、S−23に対して概ね90度位相が進んだ位置のパターンを呈していると判断・識別できる。
【0102】
更に、図16−2に示すように、前述の特徴量3により、その項目毎の変動パターンを見ると、項目No.19とNo.21の挙動のみが反転していることが明白であり、計測項目No.19とNo.21に関連したシステムの動作の異常や或いは計測系や反応過程上の何らかの異常が発生したものと判断できる。
【0103】
一方、サンプルS−25はサンプルS−23とその方向性が同じであるが、マハラノビス距離が大きくなっている分だけ、計測項目No.19とNo.21に関連したシステムの動作の異常や或いは計測系や反応過程上の何らかの異常度が大きくなっているものと判断できる(原因系の主要因は同じであるが、その異常度がより進行している)。
【0104】
図17には、図16の反応過程のデータに対して、前述の特徴量3(図16(7)−1,(7)−2)を用いた項目の寄与度を選択・判別した例を示す。図中、上図には全体の結果を示し、下図にはそのスケールを拡大した図を示してある。
【0105】
尚、本来なら、かかる操作或いは処置は、マハラノビス距離がほぼ同じで且つ、その方向性が同じサンプルを収集したnケの集団間でのパターンの差を迅速に見出すのに役立てることを主体としているが、本事例では、サンプル全部を対象とした場合について例示している。これは、例えば、計測項目にハード上の制限によりその数が縮小される場合や、センサの数の制限される場合に該当し、その場合でも、マハラノビス距離の感度とばらつきを低下させないための計測の項目数の決定と選択が必要となる場合が多々あるためである。
【0106】
図17には、前述の(7)−1,(7)−2により算出した項目毎(30ケ)の結果を示す。尚、各項目の変動値は基準空間作成時の各項目の変動値を基準として、その倍率
(応答倍率)で示してある。
【0107】
図から明かなように、4つの項目(項目No.3,24,25)の応答倍率が変動していないことが判る。このため、かかる項目No.はパターン差を発生する要因ではなく、不要な項目であると判断できる。
【0108】
図18は、前述の図17の結果から項目No.3,24,25を削除した場合のマハラノビス距離と、削除しなかった場合のマハラノビス距離の算出結果の比較を示す。
【0109】
図に示すように、項目を削除した場合としない場合のマハラノビス距離の相関係数は
0.9995 であり、項目を削除しても何ら問題ないことが明白である。つまり、本指標の妥当性とその有効性とを再確認できた。
【0110】
以上、具体的な例を用いて詳細に説明したように、本発明による指標によれば、異常が発生した場合でも、そのマハラノビス距離の発生要因を迅速に判別・識別できるので、異常現象の解析や後処理の迅速化を達成できる。更には、そのマハラノビス距離の値の確度が向上するので、装置の信頼性の維持と向上にも十分に役立てることができる。
【0111】
前述の装置保全情報部36(図10)においては、反応過程が正常或いは異常と判断された場合の装置の過程毎(プロセス)の計測値情報と各過程毎に対応して動作した機構部やサブシステムの指標値が時系列的にデータとして保存されて行くので、収集されたデータから算出されたマハラノビス距離の時間的変化を監視することにより、装置自身の保全情報の一つとして適用していた。図19は、前述の装置自身の保全情報をより総合的に役立てるための実施例を示したものである。前述の実施例(図5〜8)の説明内容と相違している点は、前記装置に具備された各反応過程に付随する機構部やサブシステムの動作・稼動状況やその状態変化等を、新たに、統合して監視できるようにしていることである。
【0112】
前記装置内に具備される種々の機構部やサブシステム(前述の反応過程部に付随している機構部やサブシステムを含む)では、種々の有寿命部品や磨耗等の劣化もあり、又その推奨稼動期間も相違している。又、万一推奨稼動期間内で突発的な不具合により、部品を交換しなければならない場合もある。更に、装置の定期点検時には前記有寿命部品や劣化部品は交換される。このため、装置としての信頼性の確保や維持を目的として、より総合的に装置の稼動部の監視や動作状況の推移を追跡・開示することは重要である。
【0113】
従って、図19に示すように、別途、装置具備される前記反応過程に付随した機構部やサブシステムのs41データとそのマハラノビス距離s42データを取り込みと同時に、他の機構部やサブシステム:S51,S61データとマハラノビス距離S52,S62データを収集して、書式s7に示すような、より統合した形態にて装置保全データ36(図10参考)に格納する。かかるデータ:s7に対して、定期的或いは所定の時間間隔にてマハラノビス距離を算出し、その結果を開示または格納することにより、装置全体での一環したより総合的な監視が可能である。前記開示例を図19−1に示す。
【0114】
図19−1に示す開示例では、そのマハラノビス距離による判定の基準値(閾値)を
“平均が0で−2〜+2の範囲域としている。かかる開示例の基準空間は、装置の初期稼動時や定期的な点検時に作成する基準空間ではなく、ある期間稼動した各機構部のデータ群から形成している。即ち、各機構部や有寿命部品の平均的な推奨期間や劣化状態におけるデータから基準空間を形成しているため、各機構部がより正常なら−側の値を示し、一方、より悪化なら+側の値を示すようにし、平均的な稼動状態を“0”として“−”から“+”方向に推移するようにしている(符号の付与は前述の図15により、任意であり
“+”→“−”に反転するしても良い)。前記各機構部やサブシステムの何れかに突発的な異常が発生した場合には、その値は突発的な“+”値を示し、或いは推奨期間を超えた場合には、その値は“+”側への単調増加を示す。その際、前述のs7の情報から該当機構部の判別や識別が可能であることは、前述の説明で明白である。
【0115】
かかるデータ処理フローと前述の評価指標の適用によれば、定期点検時の部品交換や稼動部の校正や或いは有寿命品の部品時に、その効果を確認できると共に、部品の交換時や機構部の校正時に改めて基準空間を変更・再構成する等の付加作業を削除(不要)とすることができる。よって、装置の稼動開始日から廃棄されるまでの生涯データを連続的に得ることが可能であり、装置自身の保守情報として大いに役立てることができる。
【0116】
以上、本発明による実施例を詳細に説明したが、前述の各反応過程毎に付随する機構部或いはサブシステムの動作指標データ(図7,図8のS42)は、各反応過程毎に付随している機構部やサブシステムであれば、その反応過程内に任意に追加,削除が可能であることは明白である。
【0117】
例えば、図3の実施例では、新たにA04:「検体のサンプリング」過程では、検体を分注する分注機構4(図1参照)が付随しているので、その動作・稼動指標をS42と同様な書式にて追加できる。又、前述の図19に示した監視データの一つとしても追加が可能である。
【0118】
更には、かかるデータの追加・削除によって、従来では再度それらのデータの並び替えや寄与度の高い順番に並び替える作業を実施する事例が一部開示〔非特許文献2〕されているが、前述の図9「マハラノビス距離算出フロー」と図15に示す(6)−1,(6)−2,(7)−1,(7)−2によって算出される特徴量を採用することにより、前述の付加作業や処置は一切必要でなく、且つその距離の方向性の指標や特徴量の変更する処置をも必要としないのは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】自動分析装置の概略機構図。
【図2】後分光多波長光度計の構成と光度計の出力例。
【図3】分析の流れ。
【図4】反応タイムコースの例。
【図5】全体処理フロー例。
【図6】処理フローの詳細例。
【図7】反応過程データS1,S2,S41の構成例。
【図8】反応過程データの全体構成とその区分例。
【図9】マハラノビス距離の算出フロー。
【図10】システムのデータフロー図。
【図11】反応過程のデータ例。
【図12】被測定データにて異常反応が出現した例。
【図13】機構部或いはシステムのマハラノビス距離の時間推移例。
【図14】マハラノビス距離の方向性とその特徴量とを説明する図。
【図15】マハラノビス距離の方向性とその特徴量とを算出するフロー図。
【図16】マハラノビス距離の方向付けと項目のパターン差例。
【図17】計測項目毎のパターン差(応答値,寄与度)の例。
【図18】計測項目数を縮小した場合のマハラノビス距離比較。
【図19】装置内の複数の機構部或いは他のサブシステムを総合的に監視・追跡するためのデータフローとその開示例。
【符号の説明】
【0120】
1…反応ディスク、2…検体ディスク、3…試薬ディスク、4…サンプル分注機構、5…試薬分注機構、6a…検体分注ノズル洗浄部、6b…試薬分注ノズル洗浄部、7…光度計ユニット、11…制御部(制御用計算機ユニット)、12…反応容器、13…検体容器、14…試薬容器、15…操作用計算機、20…光源ランプ、21…スリット、22…凹面回折格子、23…多波長光度計、30…分析要求受付部、31…分析制御部、32…分析結果データ、33…基準空間データベース、34…反応過程データ、35…反応過程評価部、36…装置保全データ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液や尿等の生体サンプルの定性・定量分析を行う自動分析装置に係わり、特にサンプルの物性変化を時系列に測定する機能を備えた自動分析装置において、反応過程のチェック機構と、その反応過程を実現している動作機構やシステムとをチェックする機能を備えた自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査用自動分析装置は、例えば生化学分析装置ではサンプル中の特定成分と反応して色が変わる試薬を用い、色の変化を吸光度変化により定量的に測定することにより、該特定成分の定性・定量分析を行うのものが一般的である。このような自動分析装置は、反応過程での吸光度変化を保存したり、画面上でプロットする機能を備えたものがある。装置のオペレータは測定結果に異常が見られた時に、本当にそのサンプルが異常であるのか、或いは装置の異常により、たま異常な結果がでたのかを吸光度変化のプロットを検証することによりチェックできる可能性がある。臨床自動分析検査の過程では、分析装置に起因するプロゾーン・チェック異常,サンプリング異常,試薬分注異常,攪拌機構の異常,粘度の高い試薬のボタ落ちや飛散,試薬の組み合わせの関係によるノズルの汚染や結晶析出等により分析検査が正常に行われない恐れがあるが、反応過程データの解析により、これらの異常が検出できる可能性がある。
【0003】
しかし、反応過程データ(吸光度変化データには限らない)の変化は分析項目やサンプルの特定等により多様であるため、反応過程に異常があったかどうかを自動的に判別する機能を実現することは難しく、それを実現したものは無かった。このため、反応過程データから反応過程の異常を調べるためには、大量のデータを保存する必要があり、また分析装置に異常な原因が考えられる場合には、反応過程データと装置の分析シーケンスとを詳細につき合わせて原因を特定する必要があり、更には人手によって1件ずつ個々の反応過程データを調べる必要があったため、時間とコストが掛かっていた。
【0004】
【特許文献1】特許第328087号
【非特許文献1】品質工学学会誌 第3巻 No.1:「多次元情報による総合評価とSN比」
【非特許文献2】MTシステムにおける技術開発:日本規格協会、品質工学応用講座
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
臨床自動分析検査における測定結果は、最終結果を評価しているに過ぎないため、測定値が設定範囲内であれば分析装置はアラームを発することなく、異常な反応があっても検出は不可能であった。また、測定値が異常であっても、本当にそのサンプルが異常であるかどうか、或いは装置内部の機構部の劣化や異常動作によるものなのかを、迅速に判別する手段がなかった。
【0006】
現在の自動分析装置において反応過程での異常の有無の迅速判断ができないのは上記の通り、反応過程での異常の多様性によるものが大きい。
【0007】
一方、近年では、多変量のデータ解析の手法としてマハラノビス距離にて、所定の空間を形成し、データが異常であるかどうかを総合的に判断する手法(MT法;マハラノビス−タグチメソッド)が活用されている。例えば非特許文献1には、健康人のデータに基づき基準となるマハラノビス空間(基準空間)を作成し、健康かどうか不明な被験者に対するマハラノビス距離を算出した値がある閾値(例えば4)より小さければ、健康人の集団に属し、「健康」と識別し、そうでなければ「健康でない」或いは「異常」と判断する方法である。かかる方法は適用範囲が広く、種々の分野で公開されている。例えば、特許文献1や非特許文献2内に、種々の事例がある。
【0008】
この方法を反応過程での異常の有無判断に適用できれば、異常でないデータを異常と判断してしまうことや、異常なサンプルを正常と判定してしまう可能性を低くすることができると考えられる。しかし、反応過程データのような時系列データは、各データ間の相関が強い(測定誤差内で一定値、勾配が同じ)データ群となっているため、それぞれの時点でのデータをパラメータとしてマハラノビス空間を作成しようとしても相関行列の逆行列が算出できない。このため、相関の強いデータ間(又は計測項目間)の一方を削除する等の更なるデータ加工を必要とし、再度前述の基準となるマハラノビス空間の再構成に時間を要し、処理効率が低下する等の問題が潜在している。
【0009】
本発明は、反応過程データを予備的に処理することによりデータ解析にMT法を適用することを可能にしたことで、反応過程での、装置内の動作異常や劣化等に起因する異常等を含んで、反応過程の異常の有無判断(装置内の動作異常等を含む)を可能にし、測定データの信頼性向上と反応過程に付随する機構部或いはサブシステムの信頼性の向上をした自動分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明では検査結果の検証を実現するため、反応過程における光度計の値を計測し、反応過程データから分析測定結果を検証する。更に、前記光度計や、各反応過程に付随している機構部やシステム等の動作異常や劣化による異常等をも考慮して、分析結果を検証する。
【0011】
前述の反応過程とは、前記分析装置の最終分析結果に至るまでの、前記装置の処理シーケンスに対応した処理であり、かつ各処理シーケンスに付随している機構部やシステムの動作・稼動状態である。また、そのデータ群とは連続性のある時系列データである。ここで、測定開始から測定終了までのデータ点数をk個とし、その過程で成される処理数(装置動作等)をniとし、そのデータ数をxiすると、
k=x1n1+x2n2++xini
でありその区分数はnである。
(x1,x2,x3,,,xiのデータ構成は「光度計の計測値」と「装置の動作・稼動指標値」で構成する。「装置の動作・稼動指標値」は処理シーケンスに対応して、必要であれば追加し、不要であれば「光度計の計測値」のみとする。)
このnは当該過程の反応時間や処理時間に対応している。以下にデータ構成を示す。
(1)測定が正常に終了したk個のデータから、基準となるマハラノビス空間を作成する。このk個のデータには、各過程で動作・稼動する装置の状態を示した指標値である、例えばマハラノビス距離そのものを作成しておく。
(2)(1)項のk個のデータを所定の時間間隔或いはni毎に区分して新たなマハラノビス空間を過程進行と連動してni−1個作成する。例えば、前記n1区とn4区に装置の動作・稼動指標値(●)を追加する場合は、k3個と(k−(k1))個の内、各1個が動作・稼動指標値となっている。
【0012】
(3)過程の測定終了時点で当該マハラノビス距離を算出する。例えば、n1の終了時
(t1)なら、そのデータが収集完了した時点でk3個の基準空間へデータを宛がい、マハラノビス距離MD1を算出する。
(4)(3)項を測定終了まで繰り返すと、区分毎のマハラノビス距離の時間的な変化がわかる。つまり、下表の如く、マハラノビス距離MD1,Md2,MD3,MD4(例えば4区分の場合)が算出され、その時間的な変化がわかる。
【0013】
正常過程で終了したマハラノビス距離は通常0〜4(その閾値を4とした場合)であるから、各過程における何れかのマハラノビス距離が4を超えると、何らかの異常がその過程で発生していることが判る。上表の例示では、区間n1,n3,n4区間に異常が発生している。処理過程はシーケンシャルのため、n1区間のみ着目すると、その異常は「光度計の計測値」と「装置の動作・稼動指標値」のいずれかの一方の寄与分の高い方が主要因であると判断できる。もし、「光度計の計測値」の方の寄与分が高いなら、この過程での装置機構やシステムは正常に動作しているにも係わらず、何らかの他の要因(例えば、反応容器の劣化や汚れ等)で計測値が異常であると判断する。
【0014】
更には、各過程での各基準空間は上表の如く、そのマハラノビス距離は0〜4の範囲であり、且つn過程ある。このため、各過程で算出されたマハラノビス距離を計測完了まで蓄え、その各値を一つの総合判断のデータとすることにより、より総合的な判断が可能である。(この時の基準空間は、n過程の各基準空間作成時の閾値を加味したマハラノビス距離の集合体である。上表では、4区間の正常時のMD2であり、0〜4のマハラノビス距離である。)
さらに反応過程に関するデータベースを構築するために当該自動分析装置(検査項目)で測定したデータと、分析条件が異なり、結果が一定の許容範囲内の(一致している)測定結果を取得する演算部を備える。
【0015】
かかる演算部では、前述のマハラノビス距離を計算する基本データ群が格納されている。そのデータ群とは、各測定時間又は特定の区間における平均値(k個)、標準偏差(k個)と相関係数行列から算出された固有ベクトル(kxk)行列とその最大必要軸数である。
【0016】
前述の如く、かかるデータでは各データ間に強い相関がある。このため、マハラノビス距離を算出過程で使用する相関係数行列の逆行列が算出できなくなる。このため、本法では、相関係数行列の固有値と固有ベクトルを求め、その寄与度にて、その軸数(モード)を決定して、マハラノビス距離を算出する演算処理を行う。かかる演算処理では、相関係数行列から逆行列式を一切求める必要がなく、相関係数が“1.0”であっても、マハラノビス距離を算出することができる。
【0017】
さらに、上記において異なる条件の測定において異なる結果が得られた測定結果を用いて、判定論理の最適化を行う演算処理部を備えた。
【0018】
前述の如く、前記「装置の動作・稼動指標値」は各過程での検証用データの一つとして利用しているが、単独にても、「装置の動作・稼動動態監視や管理指標」として適用する。
【0019】
これは、装置内に具備される機構部やサブシステム内には、有寿命品もあり、また機構には劣化もある。このため、かかる状態変化を所定の間隔で追跡して監視・記録することにより、装置の保全計画を有効に行うための情報を創出することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば次の効果がある。
【0021】
検査の信頼性と装置の信頼性が向上する。特に、反応過程において異常が発生していても、測定データが正常値の範囲に収まる異常な測定結果を検知することが可能となる。また、検査結果が正常値の範囲外であっても、反応過程データに異常が見られなければ正しく測定されたことになるため、無駄な再検査が不要になる。
【0022】
更に、反応過程において異常が検出された場合でも、その原因が装置内の内因的要因であるのか、外因的要因であるのかを迅速に判断して処理できるので、検査効率が向上する。
【0023】
検体に対する検査項目に対して、測定異常に関する信頼性が向上するため、無駄な再検査を削減でき、自動分析装置の検査についてのランニング・コスト(即ち、検査試薬や洗浄液等の消耗品)を低減できる。また、検査時間を短縮することができる。
【0024】
また、反応過程データの保存を測定異常データのみにすることができるため、データ記憶にかんするコストを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は反応過程における「測定値」と「装置の動作・稼動指標値」とを利用して、検査が適切に行われたか否かを判定する手段を提供し、1日に数千から数万テストが計測される中においても異常反応を示す項目の見落としを防止することを目的とする。
【0026】
かかる方法として、前述の従来例の如く、時系列データから基準となるマハラノビス空間を形成し、当該データをその空間に宛がい、その距離にて判断を行えば良い。しかし、前述の如く、かかる分析装置では測定データに起因するプロゾーン・チェック異常,サンプリング異常,試薬分注異常,攪拌機構の異常,粘度の高い試薬のボタ落ちや飛散,試薬の組み合わせの関係によるノズルの汚染や結晶析出等は、時系列データから構成される。このため、各装置の時系列な動作に対応できる異常検出法が重要である。
【0027】
従来の方法では、「測定値」のみよる総合判定のため、その基準となる空間は、測定開始から測定終了までの時系列データを使用して構成するのが一般的であるため、測定完了時点での総合判断である。よって、分析過程のどの部位が異常であったかを判断するのは難しい。又その原因は装置の内的要因(動作部の劣化等)なのか、外的要因(他の機構部の部品の汚染、劣化等や仕様外動作等)なのかを迅速に判断できていなかった。更に、この時系列データは、各データ間の相関が強い(測定誤差内で一定値、勾配が同じ)データ群となっているため、マハラノビス距離の算出に工夫が必要である。更には、前記マハラノビス距離の方向性と、それらの構成要素である計測項目のパターン差を判別するのに好適な指標の算出に工夫が必要である。
【0028】
以下にどのように工夫してMT法を反応過程の解析に適用したかを実施例を用いて説明する。図1に自動分析装置の構成例を示す。自動分析装置の主な機構系としては検体ディスク2,反応ディスク1,試薬ディスク3から構成されている。
【0029】
検体ディスクには分析処理を開始する前に、予め幾つかの検体が架設される。分析が開始されると検体分注機構(検体分注機構)4によって所定量の検体が吸引され、反応ディスクの所定の位置に吐出される。反応ディスク上の検体は例えば、図3に示すように予め装置内に組み込まれた所定の分析のシーケンスによって分析が行われる。
【0030】
反応ディスク1を中心とした各機構部の動作位置を図1に示す。反応ディスクの内周には検体の吸光度を測定するための光源ランプ20(図2参照)が設けられており、その外周には光度計ユニット7が設置されている。光源と光度計の間に反応ディスク上の反応容器12(図2参照)が通過するたびに、吸光度が測定される。吸光度の測定は反応ディスクの回転が開始し、一定速度になるまで加速されてから行われる。反応ディスクは毎サイクル、一定の角度で回転と停止を繰り返しており、所定の反応時間において、何度も測定されることになる。
【0031】
これらの機構系の制御は主に制御部11と呼ばれる計算機ユニットで実行されるが、検体情報や試薬管理情報および検査依頼受付などを行うための操作用計算機15が接続されており、各々が協調して動作している。
【0032】
本実施例で用いている光度計ユニット7の構造を図2に示す。本実施例で用いている光度計ユニットは後分光多波長光度計と呼ばれている。すなわち光源ランプ20から発せられる光は検体の入った反応容器12を透過した後に、入射スリット21で線状光線として凹型回折格子22に入射する。ここで多波長に分光され、12波長の光度計23によって検体を透過した光の光度が測定される。
1.1 分析シーケンス
本実施例で行う検体の分析のフロー図を図3に示す。
【0033】
検体としては血液(白血球など)や髄液・尿などが用いられ、予め検体ディスク2上の1つの検体容器13(図1)に設置されている。この検体を反応ディスク1上の反応容器12に分注して分析を行う。検体を分注する前の準備として反応ディスク上の反応容器が洗浄され(A01)、水ブランクの測定が行われる(A02)。水ブランクとは検体吸光度の0点調整を行うために水の吸光度を測定することである。すなわち、この反応容器に分注された検体の吸光度値は水ブランクの吸光度値との差によって求められる。水ブランクの測定が終了すると、反応容器内の水は吸引され、廃棄される(A03)。この反応容器に所定の検体が分注(サンプリング)される(A04)。その後、所定の時刻にR1試薬(A05),R2(A07)試薬,R3試薬(A09),R4試薬(A11)が予め決められている分量だけ反応容器に加えられ、撹拌(A06,A08,A10,A12)が行われる。ここで分析項目によってはR4,R3あるいはR2の分注が行われない検査項目もある。一般的には、その反応過程は3分反応,4分反応,5分反応,10分反応があり、それぞれ反応ディスクが反応時間に対応する回数だけ回転した時点での吸光度を測定値とする。通常は10分反応が行われることが多い。所定の反応時間が経過し、全測光が終了すると(A13)、反応容器は次の分析のために洗浄される(A01)。
【0034】
濃度演算吸光度の説明
このようにして得られた吸光度の典型的な分析方法を図4に示す。吸光度から濃度演算には1ポイント分析法,2ポイントレート分析法,2ポイント分析法,3ポイント2項目分析法などが用いられている。1ポイント分析法では試薬添加から一定時刻経過後の吸光度から検査対象成分の濃度を計算している。2ポイントレート分析法では、試薬添加から定められた2つの時刻t1およびt2(t2>t1)における吸光度の差分を(t2−
t1)で割った吸光度変化の時間比率から濃度を計算している。2ポイント分析法では試薬添加から定められた2つの時刻t1およびt2(t2>t1)における吸光度を測定し、t1における吸光度から、t2における吸光度に対して定数ファクタをかけた値を差し引いたものから濃度を計算している。
【0035】
いずれの場合にしても反応ディスク上の検体が光度計を横切るたびに吸光度が測定され、その測定値の一部分を使って演算処理によって検査対象成分の濃度を決定している。すなわち、反応過程において測定された吸光度の大部分(あるいは一部)は、従来の分析方法では捨てられていた。
【0036】
反応過程データの異常検知アルゴリズム
図5,図6は本発明に関わる反応過程の異常検知の全体の処理フローとその詳細を示した図である。
【0037】
先ず、各過程での異常を検知するために、予め決定された各過程毎の検査・測定シーケンスと合致してデータ収集を行う。
【0038】
例えば、図3に示すA01〜A02の反応過程においては、その過程の異常を検知するために、最初に判定を行う検査に対する反応過程データ一式(光度計23の出力データ群)を計算機に取り込む(S1)。又、このとき、前記光度計23の出力値以外に別途、このシステムが動作している環境温度や光度計23の出力を増幅・基準化する増幅回路(図示せず)の値を取り込む(S41)。前記過程は検体吸光度の0点調整を行うために、水の吸光度を測定している。前記反応容器12(図2)には、以後の処理シーケンス(図3)にて分注された検体の吸光度値が計測され、この吸光度値は前記水ブランクの吸光度値との差によって求められる。前記過程内での前記光度計23を含むシステム(光源ランプ
20,入射スリット21,凹型回折格子22で構成している計測系)の再現性や信頼性は重要である。しかし、前記反応容器12に劣化や汚染等が発生した場合や、反応容器の洗浄(図3のA0)が不十分である場合や、何らかの原因で動作温度や周囲温度が変化した場合や、更には他の電気部品等の劣化が急速に加速した場合等は、前記計量値である水の吸光度値は変化するので分注された検体の吸光度値も変化する。このため、前記光度計
23の出力値に、システムの動作状況や状態変化を示す指標値を付加して、A01〜A02過程全体を検証している。
【0039】
反応過程群データを取り込むタイミングは、予め決定された各過程毎の測定シーケンスと合致する。或いは、反応過程において、逐次測定される吸光度データを取り込み、後で一連の時系列データ群としても良い。
【0040】
また、前述のシステムの動作状況や状態変化の指標値は、図3に示す測定シーケンスに付随した反応過程内の機構部やサブシステムに対応して、逐次追加される。前記動作状況や状態変化の指標値とは、例えば、図5,図6に示すように多数の計測項目から算出されるマハラノビス距離である(S42)。
【0041】
次に、上記より得られた反応過程データについて、マハラノビス距離を求める(S2)。この時のデータは前記光度計23の出力値データ群と前記光度計23を含むシステムの動作状況や状態変化を総合的に検証した指標値データ(マハラノビス距離)から構成される。
【0042】
ここで、マハラノビス距離は多変量解析の一手法であり、ある被検査対象が基準となる集団(以下、基準空間と称する)に属するかを測る尺度となる。
【0043】
本発明では、分析が正常に行われた時の反応過程データ群から基準空間を構成し、その情報は予め、図5,図6に示すようにデータベース:DBに収納されている。マハラノビス距離および基準空間の求め方については後述する。
【0044】
次に、前記光度計23の出力値データ群と前記光度計23を含むシステムの動作状況や状態変化を総合的に検証した指標値データ(マハラノビス距離)から算出されたマハラノビス距離から、収集されたデータ群(被検体サンプル)が異常か正常かを判断する。分注が正常に実施されたときのマハラノビス距離は1値を示すのに対し、異常であった場合はその距離が1.0(平均値) より極めて大きな値をとる。これを利用して、閾値判定により分注の正常・異常の判定をより総合的に行う(S3)。
【0045】
一方、前記光度計23を含むシステムの動作状況や状態変化を総合的に検証した指標値データ(マハラノビス距離)は、かかるシステムの時間的な動作状況変化や状態変化を示したものであるから、前述と同様に、異常か正常かを判定・判断することも可能となっている。システムが正常に動作・稼動しているときのマハラノビス距離は1.0(平均値) を示すのに対し、システム以外の外的要因、例えば前記容器12の汚染や有寿命部品の急激な進行等)が発生した場合は、その距離が1.0(平均値) より極めて大きな値をとる。これを利用して、反応過程に対応した機構部やシステムの正常・異常の判定(S43)とその進行状況の監視を行う(S44)。又、最終的な判定時には、前記総合判定した値s3と該機構部の判定結果の値s43とを合致させて判定しても良い。
【0046】
本実施例における、反応過程データについて、そのデータ構造と基準空間について図7,図8,図9を使って説明する。
【0047】
図7は図3に示すA01〜A02の反応過程データの取得方法を、1波長について示したものである。被検体サンプルは測光ポイントを通過するたびに検体の吸光度が計測され、計算機に逐次蓄積されて行き(図6参照)、最終的には、図8のように予め定められたk個(時系列)の吸光度が取込まれ、n個の吸光度(サンプル数)が取込まれる(S1)。この時、前記光度計23を含むシステムの動作状況や状態変化は、被検体サンプルは測光ポイントを通過するたびに前記、検体の吸光度の計測に同期して、図7に示すように、予め定められた前記光度計23の12波長の出力値(光電流)と、本システムが動作している周囲温度と変換回路の定数等がks個取り込まれる。このks個のデータからマハラノビス距離s42を算出し、算出されたマハラノビス距離「md11」が、最終的には、図8のように予め定められたk個(時系列)のデータに付加され、n個の吸光度(サンプル数)データの一つとして取込まれる(S1)。
【0048】
前記、k個のデータの内、本実施例では、最初の4点が前記A01〜A02過程のデータであり、そのうち3ケは前記光度計23からのセルブランク値の吸光度、すなわち吸光度のゼロ点である。一方他の1ケは前記光度計23を含むシステムの動作・稼動状態の指標値であるマハラノビス距離「md11」:s42の値である。又、本実施例では5個目以降は水の吸引から試薬投入後の吸光度の時間的変化をトレースしたデータ群(反応過程)であるが、第4区間では前述と同様に、最終反応過程での機構部或いはサブシステムの動作・稼動の指標値「md12」:s42′値から構成している。
【0049】
セルブランク値の計測ポイント数は機構系および制御方式によって決定され、実際の分析では、例えば12波長などの多波長についての吸光度が計測されるため、第10の波長の吸光度データを1からk番目、第2の波長の吸光度を(k+1)番目から2k番目、以下同様にして12番目の波長の吸光度を(11k+1)番目から12k番目として、12k個の吸光度データが取得される。これらすべて、あるいは一部の波長に関する吸光度を使うことによって、より確度の高い反応過程異常の検知が実現可能となるが、本実施例では簡単のために、セルブランク値の計測値に関しては、1波長についてのみ記述している。
【0050】
また各波長についての測光ポイントについては一定間隔で計測されているが、光度計を複数設置することによって吸光度データを増やしても良く、また反応過程の異常が起こりやすい箇所では多くの測光ポイントにおいて吸光度データを取込み、反対に異常がほとんど生じない箇所では吸光度データを間引いて取込んだりすることがあっても良く、必ずしも等間隔である必要は無い。
【0051】
又、本実施例では、前述の如く、ブランク過程と反応過程に大別し、その途中の過程を2分割し、最終的に4区分に分割して例示しているが、その区分を測定シーケンスに合致して、より詳細に分割しても良い。更に、前述の反応過程に対応した機構部やサブシステムの動作・稼動の指標値「Md11」,「Md12」は、各反応過程に対応して、任意に追加出来ると共に、必要でなければ不採用として良い。
【0052】
上記の通り取得した反応過程データ(本実施例では、その過程を4つとしている)は、図8ようにまとめられる。ここで、各測光ポイントにおける吸光度と動作・稼動の指標値は、それぞれマハラノビス距離を求める際の項目として利用する。
【0053】
前記操作を、計測結果が正常に終了したものと判断された反応過程データ群に対して行えば、基準となる反応過程データ群を得ることができる。図8は、正常な分注をn回行ったときに得られた各反応過程データ群をまとめたもので、これはn事象k項目であり、第1と第4区に動作・稼動の指標値を各1つ含んだ基準空間としている。
【0054】
ここでいうn個の正常な反応過程データ群とは、当該の自動分析装置において測定結果が精度を保証する範囲内となる検体に対し、再現性のある結果が得られた時の反応過程であり、且つ各過程での機構部やサブシステム等の動作・稼動状態が正常時の反応過程である。
【0055】
例えば、プロゾーン現象や検体・試薬の分注などの異常が発生した場合には、これらは偶発的な現象によるものであるため、前記装置内の機構部やサブシステム等の動作・稼動状態が正常であっても再現性がない。すなわち装置、時刻、試薬や検体の分注量などを変えて再現測定を行っても、同じ結果はえられないので正常な反応過程ではない。
【0056】
又、n個のデータ群を使用し、それらのデータ群から基準空間を作成する際の留意点として、単なる統計データの収集ではなく、上記の通り正常な場合の統計データの収集であるから、異常なデータが入ることがあってはならない。しかし、例えば検体特性(測定値)のばらつきや光度計のばらつきや、各機構部や各サブシステムの許容動作内のばらつきのように、装置が測定精度を保証する範囲内でばらつきが存在するものであれば、積極的にばらつかせてデータを得ることが望ましく、そうすることによって異常検知の精度が向上する。
【0057】
基準空間の事象数nについては、多い方が異常検知の精度が向上するので好ましいが、必要以上に多くすると、得られる情報より経済的コストの方がかかってしまう。そこで、検知の精度および経済的コストを勘案しながら決定するのが良い。ただし、事象数nが項目数kより小さい場合、後述する相関行列が求められないため、必ずnはkより大きくなるようにする必要がある。
【0058】
なお、上記のように得られた反応過程データ群および基準空間は、その分析項目とそれに対応した各反応過程での機構部やサブシステムに限るものとし、各分析項目ごとに反応過程データ群および基準空間を用意しなければならない。これは反応項目によって分析時間や、機構部やサブシステムの動作や、使用する試薬の種類および量が異なり、吸光度の時間変化パターンが大きく異なるためである。
【0059】
図8のような反応過程データp1,p2,…,pk についての、マハラノビス空間(基準空間)の算出方法について以下にその詳細を説明する。
【0060】
更に、図9には被検出体のデータ収集入力時のマハラノビス距離の算出フローを示す。
【0061】
図8のようなn事象k項目(測光ポイント)の基準空間を構成する反応過程データについて、各項目(測光ポイントと動作・稼動の指標値)毎に平均値
【0062】
および標準偏差σ1,σ2,…,σk を求め、式(1)の演算を行い正規化する。
【0063】
【数1】
【0064】
一方、基準空間をn行k列の行列として、この行列の相関行列を求めるとk×kの行列Aが得られる。この行列Aの逆行列をA-1とすれば、マハラノビス距離D2 は式(2)のように表すことができる。
【0065】
【数2】
【0066】
なお、これらの計算のうち、各検査項目における基準空間の各項目(測光ポイント動作・稼動の指標値)毎の平均および標準偏差や、基準空間の相関行列の逆行列は予め計算しておき、その結果をパラメータとして持っている(図5,図10参照)。繰り返しマハラノビス距離を算出する場合、これらの計算を何度も行う手間が省け、計算処理上有利である。
【0067】
ここで、反応過程データp1,p2,…,pkが正常なものならば、マハラノビス距離D2は1.0近傍の値となり、異常なものであれば一般的に1.0と比べて大きな値を採ることになる。マハラノビス距離D2によって正常と異常を判別するには、予め、あるしきい値xを設けておき、
D2<xならば正常、
D2≧xならば異常
として判別する。
【0068】
前述の図8に示した時系列データ群では、その性質上、各データ間の相関が強い場合が多々あり、前述の式(2)を算出する過程で、逆行列が求めらない場合が発生する。
【0069】
かかる場合の対応法としては、一般的には相関の強い項目の何れか一方のデータを逐次、削除すれば良い。しかし、かかる方法、その処理法では更なるデータ加工とその処理タスクを新たに追加搭載しなければならないので、その処理能力が低下するとともに、データ点数の減少によりその信頼性も低下する。このため、本発明では、各データ間の相関が強い場合でも、収集されたデータ群のさらなる加工を一切すること無い処理タスクを考案し、適用している。以下、その内容について詳細に説明する。
【0070】
前述の如く、マハラノビス距離を算出する方法として前記式(2)による方法と、シュミットの直交展開法(文献:MTシステムにおける技術開発)や、主成分分析を活用してデータ群を直交化し相関行列を特異分解する処理法や逆行列をそもそも求めない余因子行列を適用した種々の算出方法が提案されている。いずれの方法もその特質があり、発展途上でもあり、本発明の如くリアルタイム性を重視するシステムへの適用には時間を要する。このため、本発明では種々の実験と検証の結果により、主成分分析型をベースにした新たなマハラノビス距離の処理法を見出した。
以下、その処理フローの概要を図9を参照しながら、その処理内容を以下に記す。
【0071】
相関行列(k*k行列)と固有ベクトルを求める。(kは項目数)
固有値の寄与率とその必要数knを算出する。(最大でもk個。)
(2)項の結果から、kn<kなら、その個数をkn個,kn+1個のみを使用し、前記(1)項で求めた固有ベクトルからマハラノビス距離(MD2)を算出する。
【0072】
kn=kなら、k個を使用し、前記(1)項で求めた固有ベクトルからマハラノビス距離算を算出する。或いは、kn=kとして、前記寄与率が1.0になるkn番目以降の固有値を誤差範囲内の値で変更し、前記(1)項で求めた固有ベクトルからマハラノビス距離算を算出する。
【0073】
更に本発明では、前述の(3)項の算出過程においては、2つのベクトルが容易に算出される(図9の(4)−1と(4)−2)。一つは前記マハラノビス距離を算出するベクトル(yva)であり、他はそれに直交したベクトル(xva)である。ここで、前記マハラノビス距離(MD2)は、図9に示すように、Md2=Σyva(i)^2/kn
(図9の(5))である。(i=1〜kn、knは計測項目数)
一方、前記xva(i)は、前記マハラノビス距離を決定している計測項目の横位置
(yva(i))点での縦方向(直交方向)における計測項目の挙動を示している。よって、Σ{yva(i)*Σxva(i)}は、計測項目全体の総合的な挙動を示しており、基準空間作成時の各計測項目の挙動に対しての対象事象の各計測項目毎の寄与度や全体的な挙動の差(パターンの相違)を知らしめる指標となる。
【0074】
このため、例えば、ハード上の制限により、計測項目数に限りがある場合は、前述の指標にて、それらの寄与度を吟味して取捨選択を行い、前記マハラノビス距離の感度とばらつきを維持したままで、項目数の縮減化を可能としている。
【0075】
更には、例えば、前述の動作・稼動の指標値の基準空間は、装置の据付時や稼動開始日に形成するのが一般的であるから、装置の動作・稼動時間が増加するに伴って、マハラノビス距離も単調増加を示す。しかし、装置の稼動状況の監視・管理上や保全計画上、その平均的な動作・稼動状態(例えば有効連続使用期間が5年なら2.5 年の稼動期間時)を基準空間にする場合もある。かかる場合、その基準空間が“0点”であり、もし有寿命である部品を交換した場合は、交換時その距離は良好方向に推移し、時間の経過に伴って、この“0点”を通過して、悪化の方向になる。かかる場合でも、前述のΣ{yva(i)*Σxva(i)}の指標を考慮することにより、前記マハラノビス距離に方向性を持たせることが可能となっている。かかる前記指標の内容に関しては後述する。
【0076】
かかる過程においては、収集されたデータ群を一切追い加工することがない。又、各項目間に強い相関があっても、相関行列の固有値を先ず最初に算出するので、k個の固有値(直交軸)とその寄与度が算出される。その寄与度により、いずれかの軸数を適用すれば良いかが判断できるため、不要な軸を容易に削除でき、マハラノビス距離の算出時の誤差を最小化できる。更に、項目間にその相関係数が“1.0”(全く同じデータ)の強い相関があっても、一方の項目を削除するというデータ加工を一切行わなくてもマハラノビス距離を算出できることを確認した。
【0077】
更に、項目間での相関係数が比較的小さくかつ式(2)で項目の削除を行わなくともその逆行列が求まるデータを用いて本処理(上述の算出過程)と前述の式(2)により算出した結果とを比較したところ、算出されたマハラノビス距離には大差がなかった(数値の誤差内)。本処理の妥当性と信頼性とを確認している。
【0078】
図10は、図6の反応過程の判別論理を組み込んだ機能ブロック図である。分析制御部31は制御部(制御用計算機ユニット11)上に実装される機能であり、その他の機能およびデータは操作用計算機15上に実装される。
【0079】
分析要求受付部30は、操作者が検体に対してどのような分析検査を行うかの設定を行うためのものであり、CRTなどの画面とキーボードやマウスなどの入力機器を用いて行われる。入力された情報から分析制御部31に対して制御命令を送る。分析制御部31では図1に示した機構を制御して分析を実行し、検体ディスク2上の検体を反応ディスク1上に分注して反応を行う。1つの検体に対して分析が終了するとその時の反応過程データ34と分析結果データ32がデータベースに保存される。反応過程データ34は反応過程評価部35において異常か否かが判定される。この時、基準空間データ33を参照して評価を行うが、この基準空間は分析項目ごとに用意されており、更に反応過程評価部には分析項目と、その反応過程に対応した機構やサブシステムの動作・稼動に対応した基準空間だけを参照する。
【0080】
反応過程評価部35において反応過程が異常と判断された場合には、分析制御部31に対して同検体に対して同じ検査項目を再検査するよう指示が出される。或いは、該過程の機構部又はサブシステムの動作・稼動の異常の寄与度が大きい場合にはその旨の情報も付加される。また、保存された分析結果データ32に対して反応過程に異常があった旨の情報が付加される。
【0081】
装置保全情報部36においては、反応過程評価部35において反応過程が正常或いは異常と判断された場合の装置の過程毎(プロセス)の計測値情報と各過程毎に対応して動作した機構部やサブシステムの指標値が時系列的にデータ−として保存されて行く。
【0082】
かかる情報により、例えば、ある過程での収集されたデータから算出されたマハラノビス距離と装置の稼動経過時間とを監視し、装置内部の部品劣化等の内的要因による時間的な変遷や劣化状況、或いは突発的な外的な要因で発生したものかを監視することができる。これらのトレンドデータは装置自身の保全情報として役に立つ。
【0083】
図11−A(基準空間作成時)には正常に終了した反応過程のデータ群(サンプル数:110ケ,項目数30ケ)の例を示す。
【0084】
図11−Bには前記正常反応過程データ群とは別に、被検出体から収集したデータ群
(サンプル数:34ケ)の例を示す。
【0085】
図12には、前記図11−Aのデータ群から基準空間を作成し、前記図11−Bの各データを前記基準空間に宛がった場合の代表的な結果の例(s−5,s−7,s−13,s−18,s−24,s−29)を、反応過程毎に対応した区分毎(反応過程の時間経過区分)に示す。尚、本例では、前述の如く、その区分を4区分とし、その区間における閾値は各区間とも4.5 に設定している。
【0086】
前述の被検出体のデータの内s−24,s−29はいづれの区間においても、マハラノビス距離が時間の経過(反応過程の進行)に無関係に、閾値内であり“正常終了”と判断される。
【0087】
一方、s−18,s−13,s−5は初期区分(初期の反応過程域)の段階で閾値を超えており、時間経過と共に、そのマハラノビス距離値が増加する傾向である。これは、区間1の過程(プロセス)で何らかの異常が発生しており、その影響が反応過程全域に渡って継続して影響しており、“異常終了”であると判断できる。或いは、区間1の計測終了時に“異常”のアラームを発生し、以後計測しない又は別途新しいサンプル準備するという処置や、シーケンスの変更を自動的に行うことも可能である。
【0088】
この時、前述の如く、装置保全情報部36においては、反応過程評価部35において反応過程が正常或いは異常と判断された場合の装置の過程毎(プロセス)の計測値情報と各過程毎に対応して動作した機構部やサブシステムの指標値が時系列的にデータ−として保存されている。その開示結果の例を図13に示す。
【0089】
かかる検体のかかる過程(第1区間)における前記光度計23を含むシステムの動作・稼動状態の指標値は(図中丸印P部)ほぼ4.0 であり、基準空間作成時のマハラノビス距離の空間内に位置していた。しかし、前記光度計23を含むシステム情報(図7のS41)のうち、周囲温度,変換回路の定数は許容以内であったが、12波長内λ3,λ4,λ6のみが許容値の限界近傍であった。かかる指標値より、その主要因はこの過程で使用した反応容器12の劣化や汚染による外的要因の可能性が高いものと判断でき、該当する反応容器のみを速やかに交換するか、再検査の指示を速やかに行う等の処理を実施することが可能となっている。
【0090】
上述の如く、反応過程の異常の原因には、サンプリングや試薬分注,撹拌などの異常が生じることがある。例えばR2試薬の添加時に吐出した試薬が反応セルの側壁に付着し、反応過程の途中になって検体と混じったために結果が真値よりも高値となってしまうことがある。さらに粘度の高い試薬を使用した場合に、吐出した試薬が表面張力によって分注ノズルの先端に水滴として留まったり、試薬の組合せによってノズルを汚染したり、結晶析出などの問題が生じることになる。
【0091】
通常は1回の分析検査における測定結果(濃度値)は1つの実数だけであり、ある一定範囲がの測定値が得られると自動的に再検査を実行するなどの機能を分析装置に実装して、再現性を確認している。測定値に異常があった場合には、反応過程における吸光度を調べれば、異常か否かを判断できる場合もあるが、測光ポイントが50ポイントのシステム構成において12波長の反応過程データをすべて保存するには1回の測定で600個のデータを保存する必要があった。このため、反応過程に異常があっても、測定値が正常範囲となった場合には、その異常が見落される恐れがあった。更には、それらの主要因を分析できる情報が無かったので、その異常を見落す恐れもあった。
【0092】
反応過程データから異常が検知された反応過程では、その反応過程データを解析することによって異常原因がなんであるかを判断する情報が含まれていることが多い。したがって、反応過程データにおいて異常を検知した場合についてのみ、その反応過程データを保存しておけば、ハードディスクなどの保存用メモリ容量が小さくて済み、また一旦異常が検知されればその反応過程データから原因究明を行うことができる。反応過程データの異常原因には分析装置自体の異常の可能性も考えられるため、各反応過程に付随した装置の機構部の情報やサブシステムの情報や制御系情報とを収集することにより、異常現象の解析が迅速に行われる。
【0093】
前記反応過程評価部35においては、前述の如く、反応過程に異常が発生した場合、その当該過程での有無と当該過程における装置の機構部又はサブシステムの動作・稼動の状態変化を知らしめる。これによって、異常現象の解析や後処理の迅速化に寄与している。
【0094】
前記状態変化や異常の有無の判断指標としては、前述の如く、マハラノビス距離であるが、本発明では更に、異常現象の解析等をより迅速化するため、新たな工夫を実施している。以下その内容について説明する。
【0095】
図14に、2変数(x1,x2)の場合の点A,B,C、Dの位置とそのマハラノビス距離を示す。図示の如く、前記点A,B,C,Dのマハラノビス距離は全く同じであり、その出現確率も全く同じである。しかし、その各位置は相違している。つまり、マハラノビス距離は同じであっても、座標(x1,x2)の配置パターンが相違しているので、このパターン差を加味した判断を実施すればより確度の高い判別が出来ることになる。しかし、従来のマハラノビス距離を適用した評価や判別では、この種の課題(マハラノビス距離方向性,計測項目のパターン差識別)に対応できる好適な指標が得られていなかった。
【0096】
本発明では、図14に示すように、前記点A,B,C,Dに対して、特徴量1,2を別途算出し、その符号の組み合わせにより、マハラノビス距離に符号を付加している。更に、特徴量3にて、計測項目の寄与度を判断できるようにしている。
【0097】
その算出過程を図15に示す。本発明では、マハラノビス距離の算出過程において(図9参照)、マハラノビス距離を算出するベクトル:Yva((4)−1)は勿論であるが、その直交成分であるベクトル:Xvaも同時に算出される。前記ベクトル:Yvaはkケの計測項目から成り、その各点はマハラノビス距離を決定している計測項目の総合挙動の位置(パターン決定位置)を示している。一方、Yvaの直交成分であるXvaは各計測項目の挙動(項目毎の変動値)そのものを示している。かかる2つのベクトルから、前述のマハラノビス距離の方向性と計測項目のパターン差の判定や識別を可能にする特徴量を算出している。
マハラノビス距離の方向性を算出するための特徴量と識別
特徴量1:図15の(6)−1
前記Yva(図9−2参照)から、方向性(+,−)を加味した変動エネルギの総和値の算出する。この時、その総和が+(正)であれば、本事象(例えばA,B点)は基準事象に対して、“+”側に偏っているとする。
【0098】
特徴量2:図15の(6)−2
前記マハラノビス距離を決定している計測項目の総合挙動の位置(パターン決定位置:Yva)と、各計測項目の挙動(項目毎の変動値:Xva)の積和の総合値を算出する。この時、その総和値が“+”であれば、本事象(例えばA,C)は基準事象に対して“+”側に偏っているとする。この指標値は前述の如く、計測項目の総合挙動の位置とその点における各計測項目の挙動の積和であるから、各計測項目のエネルギ変動とその方向性とをより総合的に示唆している。かかる指標は種々の実験とその検証結果から見出した指標である。
【0099】
前記、(1),(2)項の特徴量から、従来のマハラノビス距離や前述の図9の(5)によって算出されたマハラノビス距離は、4つの方向性を有した距離に分解される。(この実施例の結果は図16−1に示す)
計測項目のパターン差の識別のための特徴量:図15の(7)−1,(7)−2
前述の(1)項のうち、特徴量2の算出過程においては、サンプル毎に各計測項目の総合挙動の位置とその点における各計測項目の挙動の積和が計測項目毎に算出されている。即ち、この計測項目毎の算出値は計測項目毎の総合的な挙動を示すものであるので、その挙動の大小を比較又は順位付けを行うことにより、そのパタ−ン差や寄与度が判別・判断できる。つまり、基準空間の作成時の各計測項目の変動に対して、その変動が大きいものは算出されたマハラノビス距離に対して、その寄与度が大きく、パターンの差を引き起こす主要因である。他方、基準空間の作成時の変動内或いは≒0であればその寄与度が小さく、パターンの差を引き起こす主要因ではない((7)−1)。
【0100】
更に、突発的な変動(k項目の内1つが極端に反対方向に動いている事象)の影響を除くため、前述の値((7)−1)の値(推定値ではなく実測データから生成した値)に対して、各項目の分散値(σ(i)2)と全項目の分散値(Σσ(i)2)の比率により、重みを付け、評価指標としている。(この実施例の結果は図16−2に示す)
図16には、前記図11に例示した反応過程のデータに対して、前述の計算にて、再計算した結果を示す。表中のサンプルS−33は、基準空間の作成時のデータであり、且つその値が平均近傍のサンプルであり、そのマハラノビス距離(Mdx2欄)は≒0である。他方、サンプルS−23,S−24のマハラノビス距離は86.5と87.5あり、又サンプルS−25,S−26のマハラノビス距離は346.4と348.9の異常データである。かかる距離から、S−25,S−26の異常度合いはS−23,S−24に比して、そのマハラノビス距離が大きいので、異常度合が大きいことが判る。しかし、従来ではその内容やその原因系については不明であるが、本法によれば、表中の欄「方向」に示すように、又図6−1に示すように、その符号が相違し、明確に4つの指標に区分されている。
【0101】
つまり、S−23とS−24では、マハラノビス距離は同等であるが、その計測個目の挙動パターンが相違し、S−23は基準空間作成時の項目変動に対して、“+”側に異常であり、S−24は、S−23に対して概ね90度位相が進んだ位置のパターンを呈していると判断・識別できる。
【0102】
更に、図16−2に示すように、前述の特徴量3により、その項目毎の変動パターンを見ると、項目No.19とNo.21の挙動のみが反転していることが明白であり、計測項目No.19とNo.21に関連したシステムの動作の異常や或いは計測系や反応過程上の何らかの異常が発生したものと判断できる。
【0103】
一方、サンプルS−25はサンプルS−23とその方向性が同じであるが、マハラノビス距離が大きくなっている分だけ、計測項目No.19とNo.21に関連したシステムの動作の異常や或いは計測系や反応過程上の何らかの異常度が大きくなっているものと判断できる(原因系の主要因は同じであるが、その異常度がより進行している)。
【0104】
図17には、図16の反応過程のデータに対して、前述の特徴量3(図16(7)−1,(7)−2)を用いた項目の寄与度を選択・判別した例を示す。図中、上図には全体の結果を示し、下図にはそのスケールを拡大した図を示してある。
【0105】
尚、本来なら、かかる操作或いは処置は、マハラノビス距離がほぼ同じで且つ、その方向性が同じサンプルを収集したnケの集団間でのパターンの差を迅速に見出すのに役立てることを主体としているが、本事例では、サンプル全部を対象とした場合について例示している。これは、例えば、計測項目にハード上の制限によりその数が縮小される場合や、センサの数の制限される場合に該当し、その場合でも、マハラノビス距離の感度とばらつきを低下させないための計測の項目数の決定と選択が必要となる場合が多々あるためである。
【0106】
図17には、前述の(7)−1,(7)−2により算出した項目毎(30ケ)の結果を示す。尚、各項目の変動値は基準空間作成時の各項目の変動値を基準として、その倍率
(応答倍率)で示してある。
【0107】
図から明かなように、4つの項目(項目No.3,24,25)の応答倍率が変動していないことが判る。このため、かかる項目No.はパターン差を発生する要因ではなく、不要な項目であると判断できる。
【0108】
図18は、前述の図17の結果から項目No.3,24,25を削除した場合のマハラノビス距離と、削除しなかった場合のマハラノビス距離の算出結果の比較を示す。
【0109】
図に示すように、項目を削除した場合としない場合のマハラノビス距離の相関係数は
0.9995 であり、項目を削除しても何ら問題ないことが明白である。つまり、本指標の妥当性とその有効性とを再確認できた。
【0110】
以上、具体的な例を用いて詳細に説明したように、本発明による指標によれば、異常が発生した場合でも、そのマハラノビス距離の発生要因を迅速に判別・識別できるので、異常現象の解析や後処理の迅速化を達成できる。更には、そのマハラノビス距離の値の確度が向上するので、装置の信頼性の維持と向上にも十分に役立てることができる。
【0111】
前述の装置保全情報部36(図10)においては、反応過程が正常或いは異常と判断された場合の装置の過程毎(プロセス)の計測値情報と各過程毎に対応して動作した機構部やサブシステムの指標値が時系列的にデータとして保存されて行くので、収集されたデータから算出されたマハラノビス距離の時間的変化を監視することにより、装置自身の保全情報の一つとして適用していた。図19は、前述の装置自身の保全情報をより総合的に役立てるための実施例を示したものである。前述の実施例(図5〜8)の説明内容と相違している点は、前記装置に具備された各反応過程に付随する機構部やサブシステムの動作・稼動状況やその状態変化等を、新たに、統合して監視できるようにしていることである。
【0112】
前記装置内に具備される種々の機構部やサブシステム(前述の反応過程部に付随している機構部やサブシステムを含む)では、種々の有寿命部品や磨耗等の劣化もあり、又その推奨稼動期間も相違している。又、万一推奨稼動期間内で突発的な不具合により、部品を交換しなければならない場合もある。更に、装置の定期点検時には前記有寿命部品や劣化部品は交換される。このため、装置としての信頼性の確保や維持を目的として、より総合的に装置の稼動部の監視や動作状況の推移を追跡・開示することは重要である。
【0113】
従って、図19に示すように、別途、装置具備される前記反応過程に付随した機構部やサブシステムのs41データとそのマハラノビス距離s42データを取り込みと同時に、他の機構部やサブシステム:S51,S61データとマハラノビス距離S52,S62データを収集して、書式s7に示すような、より統合した形態にて装置保全データ36(図10参考)に格納する。かかるデータ:s7に対して、定期的或いは所定の時間間隔にてマハラノビス距離を算出し、その結果を開示または格納することにより、装置全体での一環したより総合的な監視が可能である。前記開示例を図19−1に示す。
【0114】
図19−1に示す開示例では、そのマハラノビス距離による判定の基準値(閾値)を
“平均が0で−2〜+2の範囲域としている。かかる開示例の基準空間は、装置の初期稼動時や定期的な点検時に作成する基準空間ではなく、ある期間稼動した各機構部のデータ群から形成している。即ち、各機構部や有寿命部品の平均的な推奨期間や劣化状態におけるデータから基準空間を形成しているため、各機構部がより正常なら−側の値を示し、一方、より悪化なら+側の値を示すようにし、平均的な稼動状態を“0”として“−”から“+”方向に推移するようにしている(符号の付与は前述の図15により、任意であり
“+”→“−”に反転するしても良い)。前記各機構部やサブシステムの何れかに突発的な異常が発生した場合には、その値は突発的な“+”値を示し、或いは推奨期間を超えた場合には、その値は“+”側への単調増加を示す。その際、前述のs7の情報から該当機構部の判別や識別が可能であることは、前述の説明で明白である。
【0115】
かかるデータ処理フローと前述の評価指標の適用によれば、定期点検時の部品交換や稼動部の校正や或いは有寿命品の部品時に、その効果を確認できると共に、部品の交換時や機構部の校正時に改めて基準空間を変更・再構成する等の付加作業を削除(不要)とすることができる。よって、装置の稼動開始日から廃棄されるまでの生涯データを連続的に得ることが可能であり、装置自身の保守情報として大いに役立てることができる。
【0116】
以上、本発明による実施例を詳細に説明したが、前述の各反応過程毎に付随する機構部或いはサブシステムの動作指標データ(図7,図8のS42)は、各反応過程毎に付随している機構部やサブシステムであれば、その反応過程内に任意に追加,削除が可能であることは明白である。
【0117】
例えば、図3の実施例では、新たにA04:「検体のサンプリング」過程では、検体を分注する分注機構4(図1参照)が付随しているので、その動作・稼動指標をS42と同様な書式にて追加できる。又、前述の図19に示した監視データの一つとしても追加が可能である。
【0118】
更には、かかるデータの追加・削除によって、従来では再度それらのデータの並び替えや寄与度の高い順番に並び替える作業を実施する事例が一部開示〔非特許文献2〕されているが、前述の図9「マハラノビス距離算出フロー」と図15に示す(6)−1,(6)−2,(7)−1,(7)−2によって算出される特徴量を採用することにより、前述の付加作業や処置は一切必要でなく、且つその距離の方向性の指標や特徴量の変更する処置をも必要としないのは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】自動分析装置の概略機構図。
【図2】後分光多波長光度計の構成と光度計の出力例。
【図3】分析の流れ。
【図4】反応タイムコースの例。
【図5】全体処理フロー例。
【図6】処理フローの詳細例。
【図7】反応過程データS1,S2,S41の構成例。
【図8】反応過程データの全体構成とその区分例。
【図9】マハラノビス距離の算出フロー。
【図10】システムのデータフロー図。
【図11】反応過程のデータ例。
【図12】被測定データにて異常反応が出現した例。
【図13】機構部或いはシステムのマハラノビス距離の時間推移例。
【図14】マハラノビス距離の方向性とその特徴量とを説明する図。
【図15】マハラノビス距離の方向性とその特徴量とを算出するフロー図。
【図16】マハラノビス距離の方向付けと項目のパターン差例。
【図17】計測項目毎のパターン差(応答値,寄与度)の例。
【図18】計測項目数を縮小した場合のマハラノビス距離比較。
【図19】装置内の複数の機構部或いは他のサブシステムを総合的に監視・追跡するためのデータフローとその開示例。
【符号の説明】
【0120】
1…反応ディスク、2…検体ディスク、3…試薬ディスク、4…サンプル分注機構、5…試薬分注機構、6a…検体分注ノズル洗浄部、6b…試薬分注ノズル洗浄部、7…光度計ユニット、11…制御部(制御用計算機ユニット)、12…反応容器、13…検体容器、14…試薬容器、15…操作用計算機、20…光源ランプ、21…スリット、22…凹面回折格子、23…多波長光度計、30…分析要求受付部、31…分析制御部、32…分析結果データ、33…基準空間データベース、34…反応過程データ、35…反応過程評価部、36…装置保全データ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定が正常に終了した前記反応過程の時系列データから基準となるマハラノビス空間を作成するステップと、
前記反応過程を予め定めた複数の過程に分け、該複数の過程毎に区分して新たなマハラノビス空間を作成するステップと、
前記予め定められた複数の過程の終了時点で前記マハラノビス空間でのマハラノビスの距離を算出するステップと、
を含むことを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項2】
請求項1記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
前記予め定めた複数の過程毎に、マハラノビスの距離に基づき異常の有無を判定するステップを含むことを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項3】
請求項2記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
前記予め定めた複数の過程が終了した時点毎に異常の有無を逐次判定するステップを含むことを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
測定結果が正常と判断された反応過程のデータ群は、前記正常データ群として、反応過程に対応した機構部或いはそのシステムの動作・稼動の指標値を少なくとも一つ抱合して基準空間を作成することを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
前記マハラノビスの距離の算出時に、前記マハラノビス距離を算出するための情報データ(情報データ1)と、前記情報データ1と直交するもう一つの新たなデータ(情報データ2)とを形成し、前記二つ情報データから、前記マハラノビス距離を正負に区分できる特量量を形成し、前記特徴量にて前記マハラノビス距離に区分或いは方向性の指標を付与していることを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
前記マハラノビスの距離の算出時に、前記マハラノビス距離を算出するための情報データ(情報データ1)と、前記情報データ1と直交するもう一つの新たなデータ(情報データ2)とを形成し、前記二つ情報データから、前記マハラノビス距離の構成要素である各計測項目の挙動或いは変動を表現できる特量量を形成し、前記特徴量にて前記各計測項目の寄与度又は応答倍率或いは順位付けを行い、前記マハラノビス距離に各項目のパターン差情報を付与していることを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
前記マハラノビスの距離の算出時に、前記マハラノビス距離を算出するための情報データ(情報データ1)と、前記情報データ1と直交するもう一つの新たなデータ(情報データ2)とを形成し、前記二つ情報データから、前記情報データ1と直交するもう一つの新たなデータ(情報データ2)とを形成し、前記二つ情報データから、前記マハラノビス距離を正負に区分できる特量量を形成し、前記特徴量にて前記マハラノビス距離に区分或いは方向性の指標を付与するステップと、
前記マハラノビス距離の構成要素である各計測項目の挙動或いは変動を表現できる特量量を形成し、前記特徴量にて前記各計測項目の寄与度又は応答倍率或いは順位付けを行い、前記マハラノビス距離に各項目のパターン差情報を付与するステップと、
を含むことを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項8】
請求項4記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
前記測定において、濃度が既知の基準サンプルの測定結果が各々の濃度と一致した時に、且つ前記反応過程に対応した機構部或いはそのシステムの動作・稼動状態が正常或いは許容使用範囲内でのデータとを、その時の反応過程データを正常データ群として作成することを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項9】
請求項8記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
前記反応過程に対応した機構部或いはそのシステムの動作・稼動状態が正常或いは許容使用範囲内でのデータから算出されるマハラノビス距離にて、その指標値としていることを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
反応過程における異常が検知された場合は、異常が検知された測定データに識別情報を付加することを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の測定反応過程の異常の有無判定方法を実行するプログラムを記憶した記憶手段を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の測定反応過程の異常の有無判定方法を実行するプログラムを記憶したことを特徴とする記憶媒体。
【請求項13】
請求項4記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
前記反応過程に対応した機構部或いはそのシステムの動作・稼動の指標値を一つに抱合して形成した新たな指標のみにて、前記装置の動作・稼動状態の正常或いは異常の有無判定を行うステップと、或いはその状態変化を時系列的にトレースできるステップとを具備したことを特徴とする自動分析装置。
【請求項14】
請求項9記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
前記動作・稼動状態の指標値としてマハラノビス距離を使用していることを特徴とする自動分析装置。
【請求項1】
測定が正常に終了した前記反応過程の時系列データから基準となるマハラノビス空間を作成するステップと、
前記反応過程を予め定めた複数の過程に分け、該複数の過程毎に区分して新たなマハラノビス空間を作成するステップと、
前記予め定められた複数の過程の終了時点で前記マハラノビス空間でのマハラノビスの距離を算出するステップと、
を含むことを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項2】
請求項1記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
前記予め定めた複数の過程毎に、マハラノビスの距離に基づき異常の有無を判定するステップを含むことを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項3】
請求項2記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
前記予め定めた複数の過程が終了した時点毎に異常の有無を逐次判定するステップを含むことを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
測定結果が正常と判断された反応過程のデータ群は、前記正常データ群として、反応過程に対応した機構部或いはそのシステムの動作・稼動の指標値を少なくとも一つ抱合して基準空間を作成することを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
前記マハラノビスの距離の算出時に、前記マハラノビス距離を算出するための情報データ(情報データ1)と、前記情報データ1と直交するもう一つの新たなデータ(情報データ2)とを形成し、前記二つ情報データから、前記マハラノビス距離を正負に区分できる特量量を形成し、前記特徴量にて前記マハラノビス距離に区分或いは方向性の指標を付与していることを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
前記マハラノビスの距離の算出時に、前記マハラノビス距離を算出するための情報データ(情報データ1)と、前記情報データ1と直交するもう一つの新たなデータ(情報データ2)とを形成し、前記二つ情報データから、前記マハラノビス距離の構成要素である各計測項目の挙動或いは変動を表現できる特量量を形成し、前記特徴量にて前記各計測項目の寄与度又は応答倍率或いは順位付けを行い、前記マハラノビス距離に各項目のパターン差情報を付与していることを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
前記マハラノビスの距離の算出時に、前記マハラノビス距離を算出するための情報データ(情報データ1)と、前記情報データ1と直交するもう一つの新たなデータ(情報データ2)とを形成し、前記二つ情報データから、前記情報データ1と直交するもう一つの新たなデータ(情報データ2)とを形成し、前記二つ情報データから、前記マハラノビス距離を正負に区分できる特量量を形成し、前記特徴量にて前記マハラノビス距離に区分或いは方向性の指標を付与するステップと、
前記マハラノビス距離の構成要素である各計測項目の挙動或いは変動を表現できる特量量を形成し、前記特徴量にて前記各計測項目の寄与度又は応答倍率或いは順位付けを行い、前記マハラノビス距離に各項目のパターン差情報を付与するステップと、
を含むことを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項8】
請求項4記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
前記測定において、濃度が既知の基準サンプルの測定結果が各々の濃度と一致した時に、且つ前記反応過程に対応した機構部或いはそのシステムの動作・稼動状態が正常或いは許容使用範囲内でのデータとを、その時の反応過程データを正常データ群として作成することを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項9】
請求項8記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
前記反応過程に対応した機構部或いはそのシステムの動作・稼動状態が正常或いは許容使用範囲内でのデータから算出されるマハラノビス距離にて、その指標値としていることを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
反応過程における異常が検知された場合は、異常が検知された測定データに識別情報を付加することを特徴とする測定反応過程の異常の有無判定方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の測定反応過程の異常の有無判定方法を実行するプログラムを記憶した記憶手段を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の測定反応過程の異常の有無判定方法を実行するプログラムを記憶したことを特徴とする記憶媒体。
【請求項13】
請求項4記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
前記反応過程に対応した機構部或いはそのシステムの動作・稼動の指標値を一つに抱合して形成した新たな指標のみにて、前記装置の動作・稼動状態の正常或いは異常の有無判定を行うステップと、或いはその状態変化を時系列的にトレースできるステップとを具備したことを特徴とする自動分析装置。
【請求項14】
請求項9記載の測定反応過程の異常の有無判定方法において、
前記動作・稼動状態の指標値としてマハラノビス距離を使用していることを特徴とする自動分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2007−248089(P2007−248089A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−68482(P2006−68482)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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