説明

自転車用内装変速ハブアセンブリ

【課題】装置全体を大きくすることのない位置決め機構を備えた内装変速ハブアセンブリを提供する。
【解決手段】このハブアセンブリは、ハブ軸24と、それぞれハブ軸24に回転自在に支持された駆動体26及びハブシェル28と、複数の動力伝達経路を有する動力伝達機構14と、シフト制御機構16と、を備えている。ハブ軸24はポジショナ22を有しており、ポジショナ22はハブ軸24に対して径方向に移動自在である。シフト制御機構16は、両回転方向において、ハブ軸24に対して複数の位置決め位置に移動自在な爪制御部材18を備えている。各位置は、動力伝達機構14の複数の動力伝達経路のそれぞれの選択に1対1で対応する。ポジショナ22は、爪制御部材18を付勢して、複数の位置決め位置のうち、任意の選択された方向に維持するように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内装変速ハブアセンブリ、特に、内部位置決め部材を備えた自転車用内装変速ハブアセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
サイクリングは、交通手段のみならず、レクリエーションの一形態としてもますます普及している。さらに、サイクリングはプロ/アマを問わず非常に人気のある競技スポーツになっている。自転車がレクリエーション、交通、競技のいずれに使用される場合であっても、自転車産業は自転車の様々な部品に絶えず改良を加えている。広く設計を繰り返してきた部品は、自転車用の内装変速ハブアセンブリである。
【0003】
内装変速ハブアセンブリは、例えば特許文献1に示されるように、一般的には後輪ハブであり、後輪ハブは、複数の動力伝達経路(ギア比)を乗り手に提供するために変速可能なギア機構を内部に備えている。
【0004】
このような内装変速ハブアセンブリを使用した場合、乗り手は、自転車のハンドルバーに、あるいはこのハンドルバーに隣接して設置された従来のレバー作動型シフト機構を操作することによって、変速を行っている。レバー作動型シフト機構の操作はボーデン型ケーブルによって内装変速ハブアセンブリに伝達される。動力伝達経路(ギア比)は、レバー作動型シフト機構の位置変化に対応して選択される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−126513
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
内装変速ハブアセンブリおよび従来のレバー作動型シフト機構を用いたシステムにおいては、内装変速ハブアセンブリ内の構成部材の位置決めが、レバー作動型シフト機構およびケーブルの位置決めのみに依存する。このため、レバー作動型シフト機構が正確な位置あるいは向きにセットされていない場合、内装変速ハブアセンブリ内の構成部材が適切に位置決めされない場合がある。内装変速ハブアセンブリ内の構成部材が適切に位置決めされない場合は、所望の動力伝達経路を選択するために、レバー作動型シフト機構を細かく操作することが必要となる。
【0007】
内装変速ハブアセンブリは、一般的に、ハブ軸周りの弓状経路に沿って移動するように設けられた爪制御部材を有する。爪制御部材は、複数の爪収容凹部を有する少なくとも1つの制御アームを備えている。複数の爪収容凹部は、複数のワンウェイクラッチ爪と係合あるいは係合解除する。これにより、爪制御部材は所望の動力伝達経路を選択するための手段として機能する。最近では、爪制御部材の軸方向端部における突出部と接触する複数のギア歯を有するリングを備えた位置決め機構が開発されている。ここで、内装変速ハブアセンブリはコンパクトな機構である。しかし、前述のような位置決め機構を内装変速ハブアセンブリの内部に収容するためには、装置全体が大きくなってしまうという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、所望の動力伝達経路の選択に際して、正確かつ確実な切換が可能な内装変速ハブアセンブリを提供することにある。
【0009】
本発明の別の目的は、選択された動力伝達経路を構成するすべての部材の配置を適切にするための内部位置決め機構を備えた内装変速ハブアセンブリを提供することにある。
【0010】
本発明のさらに別の目的は、動力伝達経路間の切換を確実かつ正確に行うことができる内装変速ハブアセンブリを提供することにある。
【0011】
本発明のさらに別の目的は、装置全体を大きくすることのない位置決め機構を備えた内装変速ハブアセンブリを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る自転車用内装変速ハブアセンブリは、固定ハブ軸と、駆動体と、ハブシェルと、動力伝達機構と、シフト制御機構と、を備えている。固定ハブ軸はポジショナを有しており、ポジショナは固定ハブ軸に対して径方向に移動自在である。駆動体は固定ハブ軸に回転自在に支持されている。ハブシェルは固定ハブ軸に回転自在に支持されている。動力伝達機構は、複数の動力伝達経路を通じて駆動体からハブシェルに回転力を伝達するために、駆動体とハブシェルとの間に配置されている。シフト制御機構は、両回転方向において、固定ハブ軸に対して複数の位置決め位置に移動自在な爪制御部材を備えている。各位置は、動力伝達機構の複数の動力伝達経路のそれぞれの選択に1対1で対応する。ポジショナは、爪制御部材を付勢して、複数の位置決め位置のうち、任意の選択された方向に維持するように配置されている。
【0013】
本発明に関する上記およびその他の目的、特徴、態様、利点は、添付図面と共に、本発明の好ましい実施形態を開示する以下の詳細な説明から、当業者にとって明らかなものとなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の内装変速ハブアセンブリでは、正確かつ確実な切換によって所望の動力伝達経路の選択を行うことができる。また、本発明では、選択された動力伝達経路の構成部材を適切に配置することができる。さらに、本発明では、確実かつ正確に動力伝達経路間の切り換えを行うことができる。さらに、本発明では、装置全体を大きくすることのない位置決め機構を備えた内装変速ハブアセンブリが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態によるハブアセンブリを備えた自転車の後部側面図。
【図2】第1実施形態によるハブアセンブリの動力伝達機構とシフト制御機構とポジショナの構成を示す断面図。
【図3】第1実施形態によるハブアセンブリのシフト制御機構における、ハブ軸と、爪制御部材と、シフトキーガイドと、を示す部分斜視図。
【図4】第1実施形態によるハブアセンブリおよびハブ軸から取り外された状態の爪制御部材およびシフトキーガイドの斜視図。
【図5】第1実施形態によるハブアセンブリのシフトキーガイドと爪制御部材の機械的接続を示す図。
【図6】第1実施形態によるハブアセンブリのポジショナと爪制御部材の一部との相互作用を示すための、図3の6−6断面図。
【図7】第1実施形態によるハブアセンブリの動力伝達機構の第1動力伝達経路を示す図。
【図8】前記動力伝達機構の第2動力伝達経路を示す図。
【図9】前記動力伝達機構の第3動力伝達経路を示す図。
【図10】前記動力伝達機構の第4動力伝達経路を示す図。
【図11】前記動力伝達機構の第5動力伝達経路を示す図。
【図12】前記動力伝達機構の第6動力伝達経路を示す図。
【図13】前記動力伝達機構の第7動力伝達経路を示す図。
【図14】前記動力伝達機構の第8動力伝達経路を示す図。
【図15】前記動力伝達機構の第9動力伝達経路を示す図。
【図16】前記動力伝達機構の第10動力伝達経路を示す図。
【図17】前記動力伝達機構の第11動力伝達経路を示す図。
【図18】本発明の第2実施形態によるハブアセンブリのポジショナと爪制御部材の一部との相互作用を示すための断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、下記の実施形態の説明は、説明目的で提供されるものであり、特許請求の範囲およびその等価物の定義により本発明を制限する目的で提供するものではない。
【0017】
[第1実施形態]
図1には、本発明の第1実施形態による内装変速ハブアセンブリ(以下、単にハブアセンブリと記す)12を備えた自転車10が図示されている。図2に示すように、ハブアセンブリ12はシフト制御機構16とともに動力伝達機構14を備えている。シフト制御機構16は、爪制御部材18(図4参照)およびクラッチリング20の動作を制御する。爪制御部材18およびクラッチリング20は複数の位置に選択的に移動可能であり、図7〜図17に示す複数の動力伝達経路(詳細は後述する)を通じてトルクを伝達する動力伝達機構14の様々な構成要素を構成する。さらに、本発明のハブアセンブリ12はポジショナ22を備えている。ポジショナ22は、複数の各位置に爪制御部材18を正確に位置決めするものである。複数の各位置は、乗り手が選択可能な複数の動力伝達経路に対応する位置である。
【0018】
図2に示すように、ハブアセンブリ12は、基本的に、ハブ軸24と、駆動体26と、ハブシェル28と、動力伝達機構14と、シフト制御機構16と、を備えている。ハブ軸24は、自転車10に設置された場合、駆動体26およびハブシェル28がハブ軸24周りに回転自在な状態で自転車10に固定されるので、固定ハブ軸として構成されている。
【0019】
ハブアセンブリ12の動力伝達機構14は、駆動体26からの回転力を複数の動力伝達経路を通じてハブシェル28に伝達するために、駆動体26とハブシェル28との間に配置されている。
【0020】
図3に示すように、ハブ軸24は、爪受け溝30、爪制御アーム受け凹部32,34,36等、多くの従来構成を有する。爪受け溝30は、ハブ軸24の外周面に沿って軸方向に延在する。爪制御アーム受け凹部32,34,36は、ハブ軸24の外周面において、周方向にかつ互いに平行に延びている。さらに、ハブ軸24は、所望の動力伝達経路を選択するために、爪制御部材18がハブ軸24周りに周方向に移動して動力伝達機構14の対応部分に係合可能なように構成されている。爪受け溝30および爪制御アーム受け凹部32,34,36は従来周知の構成と同様であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0021】
ここで、本発明に関する新たなハブ軸24の構成について説明する。図3に示すように、ハブ軸24は、位置決めアーム凹部40を有する。位置決めアーム凹部40は、爪制御アーム受け凹部32,34,36と平行に周方向に延びており、2つの爪制御アーム受け凹部34,36間に配置されている。図2に示すように、ハブ軸24は、径方向に延びる穴42を有する。この径方向穴42は、ハブ軸24内に閉塞端を有し、位置決めアーム凹部40に対して開口している。
【0022】
ポジショナ22および付勢ばね44は、図2および図6に示すように、径方向穴42内に配置されている。ポジショナ22は、ハブ軸24の径方向穴42内で径方向に移動自在である。ポジショナ22の底部は、内部が部分的に中空となっている。このポジショナ22の中空内部に付勢ばね44が配置されている。付勢ばね44は、ハブ軸24の径方向穴42内において、ポジショナ22を爪制御部材18に対して径方向外方に付勢する。ポジショナ22および付勢ばね44については、後述の爪制御部材18の説明の後でさらに説明する。
【0023】
駆動体26は、従来周知の構成と同様に、ハブ軸24周りを回転するように配置されている。ハブシェル28も従来と同様の構成であり、ハブ軸24周りを回転するように配置され、また駆動体26の一部の周りを回転するように配置されている。
【0024】
駆動体26は、チェーンC(図1)に機械的に連結され、乗り手がペダルを踏み込む際に生じるトルクを受けるように構成されている。チェーンCからのトルクは、複数のトルク伝達経路(詳細は後述する)を通じて、駆動体26から動力伝達機構14を介してハブシェル28に伝達される。
【0025】
ハブシェル28は複数の従来と同様の部品を有するので、本発明に固有の構成または本発明に関する構成のみを以下で説明する。具体的には、ハブシェル28は、第1ギア46および第2ギア48を有する。第1ギア46および第2ギア48は、ハブシェル28の内周面に配置されており、動力伝達機構14のワンウェイクラッチ機構(詳細は後述する)とそれぞれ係合するように構成されている。
【0026】
ここで、特に図2を参照し、動力伝達機構14について簡単に説明する。
【0027】
動力伝達機構14は、第1太陽ギア50と、第2太陽ギア52と、第3太陽ギア54と、第4太陽ギア56と、を有している。また、動力伝達機構14は、第1リングギア58と、第2リングギア60と、を有している。さらに動力伝達機構14は、第1遊星ギアキャリア62と、第2遊星ギアキャリア64と、第3遊星ギアキャリア66と、第1遊星ギア68と、第2遊星ギア70と、第3遊星ギア72と、第4遊星ギア74と、を有している。さらに動力伝達機構14は、第1クラッチ76(ワンウェイクラッチ)と、第2クラッチ78(ワンウェイクラッチ)と、第3クラッチ80(ワンウェイクラッチ)と、第4クラッチ82(ワンウェイクラッチ)と、第5クラッチと、クラッチリング20と、を備えている。これらの動力伝達機構14の各構成要素は、例えば米国特許公開公報第2009/0005211号に記載されているような構成と同様に動作する。動力伝達機構14の各構成要素の動作は一般的であるので、それらの説明は省略する。
【0028】
なお、本発明の第1クラッチ76は、第2クラッチ78に隣接する第1遊星ギアキャリア62の径方向外側部62aに配置されている点で、米国特許公開公報第2009/0005211号に記載の構成と異なる。さらに、詳細は後述するが、第1クラッチ76は複数のトルク伝達経路において第1ギア46と係合し、第2クラッチ78は複数のトルク伝達経路において第2ギア48と係合するように構成されている。
【0029】
シフト制御機構16は、図2〜図4に示すように、第1爪90と、第2爪92と、第3爪94と、シフトキーガイド96と、カム部98と、爪制御部材18と、ポジショナ22と、を備えている。図2に示すように、第1爪90、第2爪92、および第3爪94は軸方向に互いに離間しており、従来の構成と同様に、図3に示す爪受け溝30内に抜け止めされている。これらの爪90,92,94はトルク伝達用として機能する。
【0030】
ハブ軸24周りの複数の周方向位置のうちの選択された位置に爪制御部材18を位置決めすることにより、第1爪90、第2爪92、および第3爪94の動作が制御される。より具体的には、第1爪90が動作可能となった場合、第1爪90は、第1太陽ギア50の歯と係合するワンウェイクラッチとして機能し、第1太陽ギア50のハブ軸24周りの回転を禁止する。さらに、第2爪92が爪制御部材18の位置決めにより動作可能になった場合、第2爪92は、第2太陽ギア52の歯と係合するワンウェイクラッチとして機能し、第2太陽ギア52のハブ軸24周りの回転を禁止する。第3爪94が爪制御部材18の位置決めにより動作可能になった場合、第3爪94は、第3太陽ギア54の歯と係合するワンウェイクラッチとして機能し、第3太陽ギア54の回転を禁止する。第1爪90、第2爪92、および第3爪94の機能は周知であるので、 さらなる説明を省略する。例えば、各爪の動作は、米国特許公開第2009/0005210号公報において、より詳細に記載されている。
【0031】
シフトキーガイド96は、図3〜図5に示すように、中央開口部100およびガイド孔102を有する。また、シフトキーガイド96は、軸方向に延びる複数の突出部を備えている。図3に示すように、中央開口部100はハブ軸24を受けるように構成されており、これにより、シフトキーガイド96はハブ軸周りに回転する。図3〜図5に示すように、ガイド孔102は爪制御部材18の軸方向端部104を受けるように構成されている。シフトキーガイド96の動作および位置決めは、シフト制御機構16の構成要素を介して乗り手により制御される。これは、例えば米国特許公開公報第2009/0005210号に記載されているように、周知の構成および動作である。
【0032】
図2に示すように、カム部98はハブ軸24に回転不能に設置されている。カム部98については、米国特許公開公報第2009/0005210号および第2009/0005211号に記載されている。したがって、カム部98については説明を省略する。
【0033】
ここで、特に図3〜図5を参照して、爪制御部材18について説明する。爪制御部材18は、ベーススリーブ110(図4参照)と、ベーススリーブ110の軸方向端部104と、それぞれ円弧状の、第1制御スリーブ112と、第2制御スリーブ114と、第3制御スリーブ116と、位置決めアーム118と、を備える。
【0034】
ベーススリーブ110は、ハブ軸24の外周面に沿って軸方向に延びて形成されている。図3〜図5に示すように、ベーススリーブ110の軸方向端部104は、ガイド孔102に嵌合している。このガイド孔102とベーススリーブ110の軸方向端部104との結合により、爪制御部材18の動作がシフトキーガイド96の動作に従う。具体的には、シフトキーガイド96をハブ軸24周りに回転させると、爪制御部材18はシフトキーガイド96と共に移動する。
【0035】
さらに、図5に示すように、ベーススリーブ110の軸方向端部104はガイド穴102よりも僅かに小さい。したがって、爪制御部材18のベーススリーブ110の軸方向端部104とシフトキーガイド96との間には、周方向において僅かな端部遊びPが形成されている。より具体的には、詳細は後述するが、シフトキーガイド96をハブ軸24周りに回転させると、端部遊びPによってシフトキーガイド96と爪制御部材18間の僅かな独立した動作が許容される。
【0036】
図4に示すように、第1制御スリーブ112は爪制御面を有する爪制御凹部112a,112b,112cを備えている。これらの凹部は第1爪90を動作可能に位置決め及び構成されている。第2制御スリーブ114は爪制御面を有する爪制御凹部114a,114b,114cを備えている。これらの凹部は第2爪92を動作可能に構成されている。同様に、第3制御スリーブ116は爪制御面を有する爪制御凹部116a,116b,116c,116dを備えている。これらの凹部は第3爪94を動作可能に構成されている。
【0037】
図3に示すように、第1制御スリーブ112はハブ軸24の爪制御アーム受け凹部32内に配置され、第2制御スリーブ114はハブ軸24の爪制御アーム受け凹部34内に配置され、第3制御スリーブ116はハブ軸24の爪制御アーム受け凹部36内に配置されている。さらに、位置決めアーム118は、ハブ軸24の位置決めアーム凹部40内に配置されている。したがって、図6に示すように、位置決めアーム118は径方向穴42を覆うように配置されていることになる。
【0038】
本実施形態において、第1制御スリーブ112、第2制御スリーブ114、および第3制御スリーブ116は、米国特許公開公報第2009/0005211号に記載された内容と同様に、異なる11個の動力伝達経路を提供する動力伝達機構14に適用可能なように構成されている。しかし、本発明が異なる数の動力伝達経路を有する動力伝達機構にも適用可能であることは、図面およびここでの記載から明らかである。例えば、ハブアセンブリによっては、動力伝達経路の数が3個の場合もあり、6個、7個、8個の何れかの場合もある。本発明は、こうしたハブアセンブリ構成の何れにも適用可能である。
【0039】
図6に示すように、位置決めアーム118は、ハブ軸24の外周面24aに対向する内周面118aを有する。さらに、位置決めアーム118は、内周面118aに複数の位置決め歯T〜T11を有する。位置決め歯T〜T11は、爪制御凹部112a,112b,112cと、爪制御凹部114a,114b,114cと、爪制御凹部116a,116b,116c,116dの位置に対応するように形成されている。換言すると、位置決め歯T〜T11のそれぞれが、複数のトルク伝達経路のそれぞれに1対1で対応するように位置決めされている。位置決め歯T〜T11は、位置決めアーム118の内周面118aの幅全体に沿って形成可能である。また、位置決め歯T〜T11は、位置決めアーム118の内周面118aの中央部、若しくは、その一方の軸方向端部のみに沿って形成することも可能である。
【0040】
ここで図6を参照して、ポジショナ22についてさらに詳細に説明する。ポジショナ22は、ハブ軸24に対して軸方向に移動不能である。また、ポジショナ22はハブ軸24に対して径方向に移動自在であり、径方向外方に移動するように付勢ばね44によって付勢される。より具体的には、付勢ばね44は、ポジショナ22を位置決め歯T〜T11のそれぞれと係合するように付勢する。
【0041】
トルク伝達経路間の切り換えプロセス(例えば、自転車のハンドルバーに設置されたシフタの手動操作)により、シフト制御機構16を介してシフトキーガイド96が回転させられる。シフトキーガイド96が回転すると、爪制御部材18もハブ軸24周りに周方向に移動する。より具体的には、爪制御部材18は、ハブ軸24に対して両回転方向における複数の位置に移動自在であり、各位置が動力伝達機構14の複数の動力伝達経路のそれぞれの選択に1対1に対応する。位置決め歯T〜T11のそれぞれは、複数の動力伝達経路のそれぞれに対応するように位置決めされている。ポジショナ22は、爪制御部材18を付勢して複数の配向位置のうち、任意の選択された配向位置に維持するために、位置決め歯T〜T11のそれぞれと係合するように配置される。これにより、ポジショナ22は、選択されたトルク伝達経路に爪制御部材18を維持するように機能する。
【0042】
より具体的には、ポジショナ22は、爪制御部材18の位置決めアーム118の位置決め歯T〜T11のそれぞれと接触するように構成および配列された先端部120を有する。図6に示すように、先端部120は一組の山型傾斜平坦面を有しており、爪制御部材18の位置決め歯T〜T11は、ポジショナ22と位置決め歯T〜T11の接触により爪制御部材18を正確に位置決めするように、補完的な傾斜平坦面を有する。
【0043】
図5に示す端部遊びPにより、シフトキーガイド96と爪制御部材18との間で僅かな動作が可能となる。この動作によって、爪制御部材18を付勢して選択されたトルク伝達経路に対応する所定位置に移動させるために、ポジショナ22と位置決め歯T〜T11のそれぞれを係合させることができる。換言すれば、爪制御部材18を適切に位置決めするために、ポジショナ22に作用するばね付勢力に応じて、爪制御部材18を必要に応じて僅かな角度だけ移動させることが、端部遊びPによって許容される。
【0044】
位置決め歯T〜T11は、爪制御凹部112a,112b,112cと、爪制御凹部114a,114b,114cと、爪制御凹部116a,116b,116c,116dと、に対して正確に配置されており、これにより、ポジショナ22と係合することによって、影響を受ける動力伝達機構14の部品は適切に配列される。しがたって、各トルク伝達経路を確実に選択、維持することが可能である。
【0045】
位置決め歯T〜T11と、爪制御凹部112a,112b,112cと、爪制御凹部114a,114b,114cと、爪制御凹部116a,116b,116c,116dと、の正確な位置関係をより十分に理解するために、各トルク伝達経路を実現する動力伝達機構14の各構成要素の動作を下記表1及び表2に示す。
【0046】
さらに、クラッチリング20の一部は、シフトキーガイド96の動作によっても、カム部98と接触するように付勢される。具体的には、クラッチリング20は、シフトキーガイド96(および爪制御部材18)の位置に応じて、図7〜図12に示す非係合位置と、図2および図13〜図17に示す係合位置との間を移動する。係合位置において、クラッチリング20は駆動体26と第3遊星ギアキャリア66との間でトルクを直接伝達する。
【0047】
下記の表1は、各トルク伝達経路に対する動力伝達機構14のシフトキーガイド96および爪制御部材18の位置決めによって制御される様々な構成要素の動作または状態(遊転状態または固定状態)を一覧で示している。また、表1は、ポジショナ22によって係合される位置決め歯T〜T11のうち、対応する1つの位置決め歯と、各トルク伝達経路(固有のギア比に対応)との相互関係を示している。
【0048】
【表1】

【0049】
下記表2において、各トルク伝達経路におけるトルクの伝達に必要な特定の構成要素をさらに示す。
【0050】
【表2】

【0051】
[第2実施形態]
図18に第2実施形態によるポジショナ122およびハブ軸124を示す。第1および第2実施形態の類似点を考慮し、第2実施形態における第1実施形態との同一部分については、第1実施形態における当該同一部分に付与された参照番号を付与するものとする。さらに、第2実施形態における第1実施形態との同一部分に関しては、簡略化のために説明を省略する場合がある。
【0052】
ハブ軸124は、第1実施形態における径方向穴42が、この穴42よりも小径の径方向穴142と置き換えられている点を除いて、ハブ軸24と対応する特徴がすべて同一である。また、第1実施形態におけるポジショナ22は、このポジショナ22よりも小径のポジショナ122に置き換えられている。
【0053】
この第2実施形態では、径方向穴142に付勢ばね44が配置されており、付勢ばね44は、一端が径方向穴142の底面に当接し、他端がポジショナ122の底部端面に当接している。
【0054】
このような実施形態においても、爪制御部材18の位置に対するポジショナ122の動作および機能は、前記実施形態のポジショナ22の動作および機能と同一である。
【0055】
[一般的な用語の解釈]
本発明の範囲を理解するにあたり、ここで使用する「備える」などの用語およびその派生語は、記載された特徴、要素、部品、グループ、完全体、ステップのいずれか、若しくは、そのすべての存在を特定する非限定的な用語であるものとするが、他の記載しない特徴、要素、部品、グループ、完全体、ステップのいずれか、若しくは、そのすべての存在を排除するものではない。
【0056】
上記内容は、例えば「含む」、「有する」などの用語、およびその派生語のように、同様の意味を有する用語にも適用される。また、「部分」、「領域」、「部」、「部材」または「要素」などの用語が単数で用いられる場合、これらの用語は単複両方を意味することが可能である。ここで本発明の説明に用いられる「前方」、「後方」、「上方」、「下方」、「垂直」、「水平」、「下」、「横」などの方向を示す用語、ならびに、他の同様の方向を示す用語は、本発明を備えた自転車の方向について言及するものである。したがって、本発明を説明する場合、当該用語は一般的な乗車位置で使用される本発明を備えた自転車を基準に解釈すべきものである。最後に、ここで使用する「実質的に」、「約」、「略」等の程度を示す用語は、最終結果が著しく変化しないような、妥当な量の変化を意味する修正用語である。
【0057】
本発明の説明において所定の実施形態のみが選択されているが、特許請求の範囲に定義された本発明の範囲を逸脱することなく、ここで様々な変更および修正を加えることが可能であることは、当業者にとって明白である。さらに、本発明による実施形態の説明は、説明目的で提供されるものであり、特許請求の範囲およびその等価物による定義により本発明を制限する目的で提供されるものではない。
【符号の説明】
【0058】
12 内装変速ハブアセンブリ
16 シフト制御機構
14 動力伝達機構
18 爪制御部材
22,122 ポジショナ
24 ハブ軸
26 駆動体
28 ハブシェル
42,142 径方向穴
44 付勢ばね
90 第1爪
92 第2爪
94 第3爪
112 第1制御スリーブ
112a,112b,112c 爪制御凹部
114 第2制御スリーブ
114a,114b,114c 爪制御凹部
116 第3制御スリーブ
116a,116b,116c,116d 爪制御凹部
118 位置決めアーム
〜T11 位置決め歯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向に移動可能なポジショナを有する固定ハブ軸と、
前記固定ハブ軸に回転自在に支持された駆動体と、
前記固定ハブ軸に回転自在に支持されたハブシェルと、
複数の動力伝達経路を通じて前記駆動体から前記ハブシェルに回転力を伝達するために、前記駆動体と前記ハブシェルとの間に配置された動力伝達機構と、
前記固定ハブ軸に対して両回転方向に複数の位置決め位置に移動可能な爪制御部材を有し、前記複数の位置決め位置のそれぞれが前記動力伝達機構の複数の動力伝達経路のそれぞれに対応しており、前記ポジショナが前記爪制御部材を付勢して前記複数の位置決め位置のうち、任意の選択された位置決め位置を維持するように配置されている、シフト制御機構と、
を備えた自転車用内装変速ハブアセンブリ。
【請求項2】
前記固定ハブ軸は前記ポジショナを受ける径方向に延びて形成された穴を有する、請求項1に記載の自転車用内装変速ハブアセンブリ。
【請求項3】
前記ポジショナは、前記固定ハブ軸の径方向穴内において径方向に移動自在な底部を備える、請求項2に記載の自転車用内装変速ハブアセンブリ。
【請求項4】
前記ポジショナは、底部に端部が開口する中空部を有し、
前記中空部に配置され、前記ポジショナを径方向外方の前記爪制御部材側に付勢する付勢ばねをさらに備えている、
請求項3に記載の自転車用内装変速ハブアセンブリ。
前記ポジショナは、前記固定ハブ軸の径方向穴内において径方向に移動自在な底部を備える、請求項2に記載の自転車用内装変速ハブアセンブリ。
【請求項5】
前記固定ハブ軸の径方向穴内に配置され、前記ポジショナの底部端面に当接して前記ポジショナを径方向外方の前記爪制御部材側に付勢する付勢ばねをさらに備えている、請求項3に記載の自転車用内装変速ハブアセンブリ。
【請求項6】
前記爪制御部材は位置決めアームを有し、前記位置決めアームは、前記固定ハブ軸の外周面の少なくとも一部に対向する内周面を有するとともに、前記内周面には複数の位置決め歯が形成されており、
前記ポジショナは、径方向に移動して先端部が前記位置決めアームの複数の位置決め歯のいずれかと選択的に接触可能である、
請求項1から5のいずれかに記載の自転車用内装変速ハブアセンブリ。
【請求項7】
前記ポジショナの先端部は一組の山型傾斜平坦面を有しており、前記位置決めアームの位置決め歯のそれぞれは、前記ポジショナの先端部の接触によって前記爪制御部材が位置決めされるように、前記山型傾斜平坦面に対応する傾斜平坦面を備える、請求項6に記載の自転車用内装変速ハブアセンブリ。
【請求項8】
前記爪制御部材は、少なくとも1つの円弧状制御スリーブを有し、前記円弧状制御スリーブは、前記動力伝達機構のトルク伝達爪に接触するように構成された少なくとも1つの爪制御面を有しており、
前記位置決めアームは、前記円弧状制御スリーブと略平行に対応する円弧状に形成されている、
請求項7に記載の自転車用内装変速ハブアセンブリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−247823(P2010−247823A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87621(P2010−87621)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】