説明

航跡表示装置

【課題】 この発明は、遅延決定型の航跡決定方式において、過去および最新の航跡決定における誤りを是正することができ、オペレータの意思決定に必要な航跡情報をより正確に表示することができる航跡表示装置を提供する。
【解決手段】 航跡判定部110は前回抽出航跡を保管しており、今回抽出航跡が前回と異なる観測値から構成されている場合、航跡表示情報生成部140は前回抽出された航跡から生成された航跡のうち最高尤度を持つ航跡と今回航跡による尤度差比較を行い、比較結果に応じて航跡の表示形態を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、航空機や船舶等の移動体を追尾対象とし、レーダやライダー等のセンサから得られる移動体の位置の観測情報から、移動体の位置、速度等の運動諸元の真値を推定する目標追尾装置を用いて、センサの観測値から抽出される目標航跡が入力され、入力された目標航跡の表示を行う、航跡表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
目標追尾装置がレーダやライダー等のセンサの観測値から目標航跡を抽出する場合、MFA(Multiple Frame Assignments)やMHT(Multiple Hypothesis Tracking)などの遅延決定型の相関統合方式が利用される(例えば、特許文献1、2、非特許文献1参照)。これらの相関統合方式では、複数の観測フレーム(観測回)の観測値を蓄積し、その観測値の組み合わせからなる複数の目標航跡から尤もらしい目標航跡を選択、抽出することで、高い正解航跡抽出率を実現している。このようにして抽出された目標航跡の位置および速度情報を、航跡表示装置によってオペレータにリアルタイムに表示することで、オペレータはセンサから得られる情報を元に、自分を取り巻く目標の状況を瞬時に把握し、目標に対する状況判断を行うことができる。このため、いかにして正確な航跡情報をオペレータに表示するかが重要となる。従来の航跡表示装置では、例えば図7に示すように、観測フレーム毎の目標航跡の位置が表示画面内に順次表示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−212244
【0004】
【特許文献2】特開2003−130948
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A.B.Poore and A.J.RobertsonIII "A New Lagrangian Relaxation Based Algorithm for a Class of Multidimensional Assignment Problems" Computational Optimization and Applications, 8, 129-150, 1997.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の目標追尾装置では、目標が密集している、または不要信号が多く発生しているような状況においては、航跡と観測値の間に誤相関が発生する場合がある。この誤相関が発生した場合に、その結果からくる最新の航跡情報を、航跡表示装置がオペレータに対して表示することにより、以下のような課題が生じていた。
【0007】
(1)過去表示された航跡が誤相関の結果の表示であった場合、オペレータが認識している目標の過去の進路とその向きや速度といった情報は誤ったものとなる。このとき、最新の観測回で正解航跡を抽出していても、オペレータは過去の目標の位置、運動もあわせて状況判断をする可能性があり、この場合、目標航跡から誤った状況判断結果を導出する可能性がある。
例えば、図8は従来の航跡表示装置による航跡表示上の第1の課題を示す図である。図8において、航跡の表示位置を□記号で示し、最新航跡を構成する過去の航跡の平滑位置を×記号で示している。図に示すように、最新航跡を構成する過去の平滑位置と航跡の表示位置とがずれている場合、オペレータは航跡の表示位置の情報に基いて、目標の位置や移動方向の予測を行ってしまう。
【0008】
(2)また、最新の観測回で誤相関をした場合、過去の目標の位置および運動からは予想外の目標の位置および運動をもった誤った目標情報が表示されることとなる。その結果、オペレータの目標に対する予測が不正確となり、状況判断が困難な状況となってしまう。
例えば、図9は従来の航跡表示装置による航跡表示上の第2の課題を示す図である。図9において、航跡の表示位置を□記号で示し、最新航跡を構成する過去の航跡の平滑位置を×記号で示し、航跡の向き(目標の速度方向)をバーで示している。図に示すように、最新航跡を構成する過去の平滑位置と航跡の表示位置とがずれることによって、航跡の表示位置に従ってオペレータの予測した航跡の予測向きと、最新の観測フレームでの航跡の向きとが異なる方向になっている。この場合、オペレータは航跡の表示位置に基き、航跡の予測向きについて誤った判断を下す可能性が生じる。
【0009】
この発明は係る課題を解決するためになされたものであり、航跡と観測値の誤相関による目標情報の誤った表示を抑制し、より正確な航跡情報を表示することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明による航跡表示装置は、観測フレーム毎にセンサから得られる移動する目標の位置および速度の観測情報に基いて、観測フレーム毎の目標の観測情報から生成される過去の航跡と新たな観測情報との相関により複数系列の航跡を求め、それぞれの系列の航跡の尤度から新たな航跡を抽出し、複数系列の航跡を時系列に蓄積するとともに、抽出した新たな航跡を元に目標を継続して捕捉する追尾装置から、目標の航跡情報が入力され、追尾装置から入力される新たに抽出された航跡を構成する過去の複数の目標の観測位置と、前回抽出された航跡を構成する過去の複数の目標の観測位置とで、異なる形状また表示色で位置表示を行うように、表示装置に表示情報を出力するものである。
【0011】
また、観測フレーム毎にセンサから得られる移動する目標の位置および速度の観測情報に基いて、観測フレーム毎の目標の観測情報から生成される過去の航跡と新たな観測情報との相関により複数系列の航跡を求め、それぞれの系列の航跡の尤度から新たな航跡を抽出し、複数系列の航跡を時系列に蓄積するとともに、抽出した新たな航跡を元に目標を継続して捕捉する追尾装置から、目標の航跡情報が入力され、追尾装置から入力される新たに抽出した航跡と過去に抽出した航跡の尤度差を比較し、当該尤度差が一定値以上大きい場合に新たに抽出した航跡を表示するように、表示装置に表示情報を出力するものであっても良い。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、最新航跡と過去の航跡を構成する観測値とが異なる場合、最新航跡を構成する過去の複数の観測情報を表示することにより、航跡の軌跡が分かるため、オペレータによる状況判断の確度を向上させることができる。
【0013】
また、最新航跡の尤もらしさが低かったり他航跡との尤もらしさの差が少ない場合、最新航跡位置をそのまま表示するのではなく、他航跡との中間情報を表示したり、他航跡の情報を一定時間表示することにより、一時的な誤相関が発生していた場合の誤情報の表示を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明に係る実施の形態1による航跡表示装置の構成を示す図である。
【図2】この発明に係る実施の形態1による実施の形態1のフローチャートを示す図である。
【図3】この発明に係る実施の形態1による表示諸元設定部の設定例を示す図である。
【図4】この発明に係る実施の形態2による航跡表示装置の構成を示す図である。
【図5】この発明に係る実施の形態2による実施の形態1のフローチャートを示す図である。
【図6】この発明に係る実施の形態2による航跡生成諸元設定部の設定例を示す図である。
【図7】従来の航跡表示装置による航跡表示例を示す図である。
【図8】従来の航跡表示装置による表示上の課題を示す図である。
【図9】従来の航跡表示装置による表示上の課題を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
図1は、この発明に係る実施の形態1による航跡表示装置の構成を示す図である。図において、航跡表示装置100は、センサ200からの観測値が入力される追尾装置300と、表示画面の設けられた表示器(表示装置)400とに接続される。航跡表示装置100は、追尾装置300から入力された航跡候補の位置および速度の情報を、表示器400に表示出力し、表示器400の表示画面を通じてオペレータにリアルタイムに表示する。センサ200は、レーダやレーザーレーダ(ライダー)や撮像装置等によって構成され、航空機や船舶等の移動体を目標として、目標の位置、存在方向、速度等の観測値を得る。追尾装置300は、センサ200によって得られた観測値が入力され、MFA(Multiple Frame Assignments)やMHT(Multiple Hypothesis Tracking)などの遅延決定型の相関統合方式を利用して、目標の観測値と過去の航跡との相関を求めることで新たな航跡を生成し、目標追尾を行う。また、追尾装置300は、複数の観測フレーム(観測回)の観測値を蓄積し、その観測値の組み合わせからなる複数の目標航跡から尤もらしい目標航跡を航跡候補として選択、抽出する。追尾装置300は、航跡表示装置100に対して、算出した航跡候補を構成する情報(航跡情報)を入力する。
【0016】
例えば、追尾装置300は、センサから得られた過去から最新までの、設定された観測回数分(N回分)の観測値がコスト行列計算部に入力される。コスト行列計算部では、各観測回から一つずつ観測値を選択し、その観測値の組み合わせによって形成される航跡の尤度比を計算し、その逆数をもってコスト行列を計算する。Lagrange乗数設定部でコスト行列に基づき、Lagrange緩和法により求められたLagrange乗数によってLagrange緩和解算出部で緩和された制約条件下で相関解を計算し、実現可能解算出部でこの緩和解を修正して全ての制約条件を満たす解を求め、新たな航跡を生成し、航跡候補として出力するように構成される(例えば、非特許文献1または特許文献1参照)。
【0017】
また、全クラスタに含まれる全航跡に対して、航跡の運動が各運動モデルに合致する確率をモデル信頼度として算出するモデル信頼度算出部と、各仮説の成立する確率を仮説信頼度として算出する仮説信頼度算出部と、各航跡がゲート内の各観測ベクトルと相関するとの仮定の下で、それぞれの運動モデルに従って運動を行う場合の平滑ベクトルおよび平滑誤差共分散行列を算出する運動モデルごと平滑処理部と、各航跡に対して平滑ベクトルおよび平滑誤差共分散行列を1つにまとめる平滑統合処理部などを備えて構成され、航跡の信頼度を算出するように構成される(例えば、特許文献2参照)。
【0018】
航跡表示装置100は、航跡判定部110、航跡表示部120、および表示諸元設定部130を備えて構成される。追尾装置300は、センサ200からの観測値と前回生成した航跡候補によって今回生成した航跡候補のデータ(航跡情報)を、航跡判定部110に入力する。航跡情報は、航跡候補を構成する最新N(Nは正の整数)フレーム分の観測値と、当該航跡候補の生成元となった航跡を識別する番号Sと、航跡の位置pと、速度vと、航跡の尤もらしさを示す尤度λと、当該航跡候補が今回新たに抽出された航跡か否かを示すフラグqを備えて構成される。航跡情報のデータ構成例を次式1に示す。
【0019】
【数1】

【0020】
また、航跡判定部110は、前回抽出した前回抽出航跡を保管しており、保管している前回抽出航跡とのデータ比較により、今回抽出航跡が前回と異なる観測値から構成されているか否かを判定し、判定結果を出力する。
【0021】
航跡表示部120は、航跡判定部110から入力される判定結果により、今回抽出航跡が前回抽出航跡と異なる場合は、表示諸元設定部130の設定内容に従い、前回航跡候補から構成される航跡と今回航跡の両方を表示器400に出力する。
【0022】
表示諸元設定部130は、航跡表示に関する諸元を設定し保管する。設定内容は、以下のa)からc)の通りである。
a)表示観測フレーム数
b)今回航跡並びに前回航跡の、表示色および表示形状
c)今回の航跡の表示条件(例えば、航跡尤度差の閾値、当該航跡の持続回数の閾値等によって表示可否や表示形態を規定するための条件)
【0023】
次に、動作について説明する。図2は、実施の形態1による航跡表示装置100の動作を説明するためのフローチャートである。
まず、航跡表示装置100の航跡判定部110は、追尾装置300から航跡候補が入力される(ステップST1)。
航跡判定部110は、航跡候補を用いて、今回抽出航跡が前回抽出航跡と同一観測値から構成されているか否かを判定する(ステップST2)。
ここで、今回抽出航跡と前回抽出航跡との一致判定(Tk=aとTk-1=bが一致しているか否かの判定)は、次式2によって行われる。
【0024】
【数2】

【0025】
ステップST2における判定の結果、今回抽出航跡が前回抽出航跡と同一観測値から構成されている場合、航跡表示部120は、表示諸元設定部130の設定諸元に従い、表示器400に対して、今回抽出航跡を表示させる出力処理を行う(ステップST31)。
【0026】
一方、ステップST2における判定の結果、今回抽出航跡が前回抽出航跡と異なる観測値から構成されている場合、航跡表示部120は、表示諸元設定部130の設定諸元に従い、表示器400に対して出力処理を行う。ここでは、今回抽出航跡を構成する観測値に基づいた過去の位置と前回まで表示していた航跡位置との、両方を表示させるように出力処理を行う(ステップST32)。
【0027】
次に、表示諸元設定部130に設定された諸元毎の表示処理例について説明する。
表1は、表示諸元設定部130での各設定諸元を説明するための表であり、(a)は表示諸元、(b)は今回の航跡表示条件を示す図である。また、図3は表示諸元設定部の設定に応じた表示器400の表示出力例を示す図であり、(a)は濃淡付き表示、(b)は点線表示を示す図である。
【0028】
【表1】

【0029】
表1(a)の例では、設定諸元として、表示観測フレーム数、表示色および表示形状、今回航跡を表示するための表示条件を示している。
例えば、設定諸元の表示色として濃淡表示が規定された場合、図3(a)に例示するように、最新(今回抽出)航跡を構成する平滑位置が淡い色で表示され、過去の表示位置が濃い色で表示されて、最新航跡と過去抽出の航跡とで異なる表示が行われる。
【0030】
また、図3(b)に例示するように、最新(今回抽出)航跡を構成する平滑位置を点線形状で表示し、過去抽出の表示位置を実線形状で表示するようにしても良い。
表1(b)の例では、今回抽出航跡の表示条件として、航跡尤度差を規定する閾値と、当該航跡の持続回数を規定する閾値を用いる例を示している。
【0031】
このように、例えば条件1の場合は、今回抽出航跡の尤度と最新フレームの観測値と過去の表示を構成する観測値からなる航跡の尤度の差が一定以上の場合に、今回航跡が表示される。また、条件2の場合は、条件1が一定回数以上連続して発生した場合に、今回抽出航跡が表示される。これによって、尤度差の大きさや尤度差が所定以上に大きくなる頻度に応じて、最新航跡と過去の航跡を同時に表示する期間を短く限定して表示することができるので、通常時は航跡情報の混在による表示情報の混乱を抑えることができる。
【0032】
以上により、実施の形態1による航跡表示装置は、観測フレーム毎にセンサから得られる移動する目標の位置および速度の観測値に基いて、観測フレーム毎の目標の観測値から生成される過去の航跡と新たな観測値との相関により複数系列の航跡を求め、それぞれの系列の航跡の尤度から新たな航跡を抽出し、複数系列の航跡を時系列に蓄積するとともに、抽出した新たな航跡を元に目標を継続して捕捉する追尾装置から、目標の航跡情報が入力され、追尾装置から入力される新たに抽出された航跡を構成する過去の複数の目標の観測位置と、前回抽出された航跡を構成する過去の複数の目標の観測位置とで、異なる形状また表示色で位置表示を行うように、表示装置に表示情報を出力する。
【0033】
このようにすることで、最新航跡と過去の航跡を構成する観測値とが異なる場合、最新航跡を構成する最新からNフレーム分の過去の観測値を最新航跡と同時に表示することによって、航跡の軌跡が分かるため、オペレータによる状況判断の確度を向上させることができる。また、過去に抽出した航跡と最新航跡の両方が表示されるので、航跡の向きについても何れか適切な方を選択することが可能となり、航跡の予測をより正確に行うことが可能となる。
【0034】
実施の形態2.
図4は、この発明に係る実施の形態2による航跡表示装置の構成を示す図である。図において、航跡表示装置100は、航跡判定部110と、航跡表示情報生成部140と、航跡生成諸元設定部150と、航跡表示部160と、表示諸元設定部170と、を備えて構成される。センサ200および追尾装置300と、航跡判定部110の処理および追尾装置300より入力される航跡候補の情報、表示器(表示装置)400は、実施の形態1と同一である。
【0035】
航跡表示情報生成部140は、航跡生成諸元設定部150の設定内容に従い、航跡判定部110から入力した今回抽出航跡が前回抽出航跡と異なる場合は、表示する航跡情報を新たに生成する。航跡表示部160は表示諸元設定部130の設定に従い航跡情報を表示器400に出力する。
【0036】
航跡生成諸元設定部150は、航跡表示情報の生成方式に関する諸元を設定し保管する。設定される航跡表示情報の生成条件としては、例えば、今回抽出航跡の尤度と最新フレームの観測値と過去の表示を構成する観測値からなる航跡の尤度との差(航跡尤度差)を求め、当該差が0以上となる何らかの実績値を設定する。
【0037】
表示諸元設定部170は、航跡尤度差が一定値以下の場合、注意喚起を目的とした表示に関する設定を保管する。設定内容は、例えば次のとおりである。
a)航跡表示を点滅させて表示するか否か、または色を変えて表示するか否か
b)注意喚起する文字列を表示するか否か、またはその表示内容
【0038】
次に動作について説明する。図5は、実施の形態1による航跡表示装置100の動作を説明するためのフローチャートである。
まず、航跡表示装置100の航跡判定部110は、追尾装置300から航跡候補が入力される(ステップST1)。
航跡判定部110は、航跡候補を用いて、今回抽出航跡が前回抽出航跡と同一観測値から構成されているか否かを判定する(ステップST2)。
ここで、今回抽出航跡と前回抽出航跡との一致判定(Tk=aとTk-1=bが一致しているか否かの判定)は、上記の式2によって行われる。
【0039】
ステップST2における判定の結果、今回抽出航跡が前回抽出航跡と同一観測値から構成されている場合、航跡表示情報生成部140は、航跡表示部160に対し今回抽出航跡を表示させる出力処理を指示する。航跡表示部160は、表示諸元設定部170の設定諸元に従い、表示器400に対して、今回抽出航跡を表示させる出力処理を行う(ステップST31)。
【0040】
一方、ステップST2における判定の結果、今回抽出航跡が前回抽出航跡と異なる観測値から構成されている場合、航跡表示情報生成部140は、航跡生成諸元設定部150の設定に従い、今回抽出航跡と前回抽出航跡の尤度差について比較処理を実施する(ステップST32)。
この比較処理では、前回抽出された航跡から生成された航跡のうち最高尤度を持つ航跡の尤度(λ(a))と、今回抽出航跡の尤度(λ(b))との尤度差を求め、当該尤度差の閾値判定処理(Tk=aとTk-1=bの尤度差と予め設定された航跡尤度差閾値λとの比較判定処理)を、航跡生成諸元設定部150に設定された次式3を用いて実施する。
【0041】
【数3】

【0042】
ここで、上式3による比較結果が、前回抽出された航跡から生成された最高尤度を持つ航跡の尤度(λ(a))と今回抽出航跡の尤度(λ(b))との尤度差が、航跡尤度差閾値λ以上となる場合、「今回航跡」に該当し、今回抽出航跡を表示航跡とする(ステップST321)。
【0043】
また、上式3による比較結果が、前回抽出された航跡から生成された最高尤度を持つ航跡の尤度(λ(a))と今回抽出航跡の尤度(λ(b))との尤度差が、航跡尤度差閾値λよりも小さくなる場合、航跡生成諸元設定部150に設定された設定諸元に基いて、それぞれ分岐処理を行う。
この場合、設定諸元が「前回航跡」に該当する場合、前回抽出された航跡から生成された航跡のうち、最高尤度を持つ航跡を表示航跡とする(ステップST322)。
【0044】
また、設定諸元が「中間」に該当する場合、前回抽出された航跡から生成された航跡のうち、最高尤度を持つ航跡と今回抽出された航跡の最新位置、速度、尤度から、次式4を用いて中間となる表示航跡の位置、速度を算出し、算出した中間となる航跡を表示航跡とする(ステップST323)。
【0045】
【数4】

【0046】
航跡表示部160は、表示諸元設定部170の設定に従い、表示器400に対して表示航跡を表示するための表示処理を行う(ステップST4)。
設定諸元としては、表示観測フレーム数、表示色および表示形状、今回航跡を表示するための表示条件が与えられる。
【0047】
例えば、設定諸元の表示形状において、最新(今回抽出)航跡を構成する平滑位置が三角印で表示され、過去の表示位置が丸印で表示され、最新フレームの観測値が四角印で表示されて、最新航跡と過去抽出の航跡とで異なる表示が行われるようになされる。
また、今回抽出航跡の表示条件として、航跡尤度差を規定する閾値と、当該航跡の持続回数を規定する閾値を用いても良い。
また、航跡表示を点滅させて表示したり、色を変えて表示したり、注意喚起する文字列を表示したり、注意喚起する文字列の表示内容を変化させたりしても良い。
さらに、表示諸元設定部170は、図1で説明した表示諸元設定部130と同様の表示設定(表示色および表示形状)を行っても良い。
【0048】
図6は、航跡表示情報生成部140での比較結果に応じた表示航跡の表示例を示し、(a)は比較結果が「中間」の場合、(b)は比較結果が「今回航跡」の場合を示す。図6(a)に示すように、今回航跡の表示位置が、前回抽出航跡のうち最高尤度となる平滑位置と最新抽出航跡の平滑位置の中間位置に表示される。
【0049】
このように、実施の形態2による航跡表示装置は、観測フレーム毎にセンサから得られる移動する目標の位置および速度の観測値に基いて、観測フレーム毎の目標の観測値から生成される過去の航跡と新たな観測値との相関により複数系列の航跡を求め、それぞれの系列の航跡の尤度から新たな航跡を抽出し、複数系列の航跡を時系列に蓄積するとともに、抽出した新たな航跡を元に目標を継続して捕捉する追尾装置から、目標の航跡情報が入力され、追尾装置から入力される新たに抽出した航跡と過去に抽出した航跡の尤度差を比較し、当該尤度差が一定値以上大きい場合に新たに抽出した航跡を表示するように、表示装置に表示情報を出力する。
【0050】
これによって、最新航跡の尤もらしさが低かったり他航跡候補との尤もらしさの差が少ない場合、最新航跡位置をそのまま表示するのではなく、他航跡候補等との中間情報を表示したり、他航跡候補情報を一定時間表示することにより、一時的な誤相関が発生していた場合の誤情報の表示を防止することができる。
【0051】
以上説明した実施の形態1、2による航跡表示装置は、最新の航跡位置をオペレータの意思決定支援のために正確に表示する航跡表示装置の実現に有用である。これにより、オペレータの状況判断に対する確度を一時的にでも下げることを抑制することができる。
【符号の説明】
【0052】
100 航跡表示装置、110 航跡判定部、120 航跡表示部、130 表示諸元設定部、140 航跡表示情報生成部、150 航跡生成諸元設定部、200 センサ、300 追尾装置、400 表示器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測フレーム毎にセンサから得られる移動する目標の位置および速度の観測情報に基いて、観測フレーム毎の目標の観測情報から生成される過去の航跡と新たな観測情報との相関により複数系列の航跡を求め、それぞれの系列の航跡の尤度から新たな航跡を抽出し、複数系列の航跡を時系列に蓄積するとともに、抽出した新たな航跡を元に目標を継続して捕捉する追尾装置から、目標の航跡情報が入力され、
追尾装置から入力される新たに抽出された航跡を構成する過去の複数の目標の観測位置と、前回抽出された航跡を構成する過去の複数の目標の観測位置とで、異なる形状また表示色で位置表示を行うように、表示装置に表示情報を出力する航跡表示装置。
【請求項2】
観測フレーム毎にセンサから得られる移動する目標の位置および速度の観測情報に基いて、観測フレーム毎の目標の観測情報から生成される過去の航跡と新たな観測情報との相関により複数系列の航跡を求め、それぞれの系列の航跡の尤度から新たな航跡を抽出し、複数系列の航跡を時系列に蓄積するとともに、抽出した新たな航跡を元に目標を継続して捕捉する追尾装置から、目標の航跡情報が入力され、
追尾装置から入力される新たに抽出した航跡と過去に抽出した航跡の尤度差を比較し、当該尤度差が一定値以上大きい場合に新たに抽出した航跡を表示するように、表示装置に表示情報を出力する航跡表示装置。
【請求項3】
新たに抽出した航跡が前回抽出した航跡と異なる過去の観測情報から生成されている場合、新たに抽出した航跡における観測情報と、前回抽出した過去の航跡における観測情報と最新観測フレームの観測情報とから生成される航跡のうち最も尤度が高くなる目標位置との、尤度差を比較し、当該尤度差が一定値以上大きい場合に新たに抽出した航跡を表示し、当該尤度差が一定値より小さい場合に前回抽出した航跡を表示するように、表示装置に表示情報を出力する請求項2記載の航跡表示装置。
【請求項4】
新たに抽出した航跡が前回抽出した航跡と異なる過去の観測情報から生成されている場合、新たに抽出した航跡における観測情報と、前回抽出した過去の航跡における観測情報と最新観測フレームの観測情報とから生成される航跡のうち最も尤度が高くなる目標位置との、尤度差を比較し、当該尤度差が一定値以上大きい場合に新たに抽出した航跡を表示し、当該尤度差が一定値より小さい場合に新たに抽出した航跡と前回抽出した航跡から中間値を算出し、算出した中間値を表示するように、表示装置に表示情報を出力する請求項2記載の航跡表示装置。
【請求項5】
上記尤度差が一定値以下である場合、表示を点滅させたり、色を変えることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の航跡表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−73149(P2012−73149A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218878(P2010−218878)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】