説明

船外機およびこれを備えた船舶

【課題】必要な時に十分な推進力を得ることができる船外機、およびこれを備えた船舶を提供すること。
【解決手段】船舶は、船外機と、船体とを含む。船外機本体は、取付機構によって、チルト軸まわりに回動できるように船体に取り付けられている。船外機本体は、PTT機構によって、チルト軸まわりに回動される。船外機本体の傾斜角度は、角度検出値が角度検出装置からECUに入力されることにより検出される。また、エンジンの回転速度は、速度検出値が回転速度検出装置からECUに入力されることにより検出される。ECUは、船外機本体の傾斜角度がフルトリムイン角度よりも小さい場合、およびフルチルトアップ角度よりも大きい場合には、エンジンの回転速度を低下させる速度低下制御を実行しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船外機およびこれを備えた船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶に備えられる推進機の一例は、船外機である。一つの先行技術に係る船外機は、たとえば、特許文献1に記載されている。この船外機は、エンジンによってプロペラを回転させて推進力を発生する船外機本体を含む。船外機本体は、操舵軸を介してスイベルブラケットに支持されている。スイベルブラケットは、水平軸を介して支持ブラケットに支持されている。支持ブラケットは、船体に固定されている。船外機本体およびスイベルブラケットは、支持ブラケットに対して、水平軸まわりに上下に回動可能である。
【0003】
船外機本体およびスイベルブラケットは、トリムシリンダによって、トリム範囲内で水平軸まわりに上下に回動される。また、船外機本体およびスイベルブラケットは、チルトシリンダによって、トリム範囲よりも大きいチルト範囲内で水平軸まわりに上下に回動される。船外機本体およびスイベルブラケットは、トリムシリンダのトリムロッドおよびチルトシリンダのチルトロッドによって支持されている。船外機本体およびスイベルブラケットの傾斜角度は、角度検出値がトリムセンサから制御手段に入力されることにより検出される。
【0004】
チルトロッドはスイベルブラケットに連結されているが、トリムロッドはスイベルブラケットには連結されておらず、船外機本体およびスイベルブラケットの自重によりトリムロッドに接しているだけである。このため、船外機本体およびスイベルブラケットの傾斜角度が大きくなってチルト範囲に達すると、トリムロッドによる船外機本体およびスイベルブラケットの支持が解除され、チルトロッドだけで船外機本体およびスイベルブラケットの荷重を支えることになる。特許文献1では、船外機本体およびスイベルブラケットがチルトアップされている状態(傾斜角度がチルト範囲内にある状態)で、エンジンの回転速度が速度閾値を超えると、制御手段は、エンジンを失火(misfire)させて、エンジンの回転速度を低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−68491号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
たとえば、船舶が浅瀬を航走するときには、船外機本体下端が浅瀬に接触するのを防止するために、また船舶が水中から陸に上げられるときには、船首を水面上に持ち上げて陸に乗り上げるために、船外機本体およびスイベルブラケットがチルトアップされた状態で、船体が前方に推進される。このときプロペラが水面に近いので、たとえば水面が大きく波打つと、プロペラが水中から出たり入ったりする。プロペラが空中にある状態では、水の抵抗がプロペラに加わらない。したがって、プロペラが空中にある状態では、エンジンに設けられたスロットルバルブの開度が一定であっても、プロペラの回転速度が増加する。そのような状態でプロペラが、再び水中に入ると、船体を前進させる大きな推進力が、船外機本体およびスイベルブラケットに急激に加わる。また、プロペラが水中にある状態でも、スロットルバルブの開度を増加させてプロペラの回転が急加速されると、船体を前進させる大きな推進力が、船外機本体およびスイベルブラケットに急激に加わる。
【0007】
船外機本体およびスイベルブラケットがチルトアップされている状態では、トリムロッドによる船外機本体およびスイベルブラケットの支持が解除され、それらはチルトロッドだけで支持されている。船外機本体およびスイベルブラケットがチルトロッドによって支持されている場合、船外機本体が発生する推進力は、チルトロッドに伝達される。したがって、船外機本体およびスイベルブラケットがチルトアップされている状態では、チルトロッドに加わる荷重が大きい。チルトシリンダが、たとえば油圧シリンダである場合、大きな荷重がチルトロッドに加わると、チルトシリンダ内の圧力が高まる。そのため、チルトシリンダに接続されているリリーフバルブなどを介してチルトシリンダ内から作動油が排出され、チルトロッドの突出量が減少する。これにより、チルトロッドに加わる荷重が低減される。しかしながら、急激な荷重がチルトロッドに加わると、リリーフバルブによる圧抜きが遅れてチルトロッドに加わる荷重が十分に低減されないため、大きな荷重がチルトロッドに加わる。
【0008】
前述の先行技術に係る船外機では、船外機本体およびスイベルブラケットがチルトアップされている状態で、エンジンの回転速度が速度閾値を超えると、制御手段が、エンジンを失火させて、エンジンの回転速度を低下させる。したがって、先行技術にかかる船外機は、船外機本体およびスイベルブラケットがチルトアップされている状態で、船外機本体に大きな推進力が急激に加わることを防止している。これにより、大きな荷重がチルトロッドに加わることが防止される。しかしながら、前述の先行技術に係る船外機では、船外機本体およびスイベルブラケットの傾斜角度は、トリムセンサから制御手段に入力される角度検出値によって検出される。したがって、たとえばトリムセンサの故障により、実際の船外機本体およびスイベルブラケットの傾斜角度に対応する角度検出値とは異なる値が制御手段に入力されて、船外機本体およびスイベルブラケットがチルトアップされていないのに、チルトアップされていると誤って判定されるおそれがある。そのため、たとえば通常航走時などの、船外機本体およびスイベルブラケットがチルトアップされていないときに、エンジンの回転速度が強制的に低下され、十分な推進力が得られない場合がある。
【0009】
そこで、この発明の目的は、必要な時に十分な推進力を得ることができる船外機、およびこれを備えた船舶を提供することである。
前記目的を達成するための請求項1記載の発明は、船体を推進させる推進力を発生するエンジンを含む船外機本体と、前記船体に固定される固定部材と前記固定部材に連結された水平軸とを少なくとも含み、前記船外機本体が前記水平軸まわりに回動できるように前記船外機本体を前記船体に取り付ける取付機構と、前記船外機本体を前記水平軸まわりに回動させて、前記船外機本体を前記固定部材に対して傾ける回動機構と、前記固定部材に対する前記船外機本体の傾斜角度に対応する角度検出値を出力する角度検出手段と、前記エンジンの回転速度に対応する速度検出値を出力する回転速度検出手段と、前記角度検出手段が出力する角度検出値と、前記回転速度検出手段が出力する速度検出値とが入力され、前記角度検出値と前記速度検出値に応じて、前記エンジンの回転速度が低下するように前記エンジンを制御する速度低下制御を実行する制御手段とを含み、前記回動機構は、前記船外機本体を第1角度から前記第1角度よりも大きい第2角度まで支持して前記水平軸まわりに回動させる第1シリンダを含み、前記角度検出手段は、前記角度検出手段に異常が生じたときに、前記第1角度よりも小さい前記傾斜角度に対応する前記角度検出値または前記第2角度よりも大きい前記傾斜角度に対応する前記角度検出値を出力するように構成されており、前記制御手段は、前記角度検出値が、前記第1角度よりも小さい前記傾斜角度に対応する値または前記第2角度よりも大きい前記傾斜角度に対応する値であるときには、前記速度低下制御を実行しない、船外機である。
【0010】
この構成によれば、船外機本体が、取付機構によって船体に取り付けられる。取付機構は、船体に固定される固定部材と、固定部材に連結された水平軸とを少なくとも含む。船外機本体は、取付機構によって、水平軸まわりに回動できるように船体に取り付けられる。船外機本体は、回動機構によって、水平軸まわりに回動される。これにより、船外機本体が固定部材に対して傾けられる。固定部材に対する船外機本体の傾斜角度に対応する角度検出値は、角度検出手段から制御手段に入力される。また、エンジンの回転速度に対応する速度検出値は、回転速度検出手段から制御手段に入力される。回動機構は、船外機本体を支持して水平軸まわりに回動させる第1シリンダを含む。第1シリンダは、船外機本体を第1角度から第1角度よりも大きい第2角度まで支持して水平軸まわりに回動させる。
【0011】
また、角度検出手段は、角度検出手段に異常が生じたときに、第1角度よりも小さい傾斜角度に対応する角度検出値または第2角度よりも大きい傾斜角度に対応する角度検出値を出力する。制御手段は、角度検出手段から入力された角度検出値と、速度検出手段から入力された速度検出値とに応じて、エンジンの回転速度が低下するようにエンジンを制御する速度低下制御を実行する。具体的には、制御手段は、角度検出値が、第1角度よりも小さい傾斜角度に対応する値または第2角度よりも大きい傾斜角度に対応する値であるときには、速度低下制御を実行しない。すなわち、角度検出手段の異常時には速度低下制御が実行されない。そのため、たとえば、船外機が船体を通常の速度で前進させるときに、推進力が強制的に低下されることが防止される。これにより、必要な時に十分な推進力が得られる。
【0012】
請求項2記載の発明は、前記回動機構は、前記船外機本体を前記第1角度から前記第1角度よりも大きく前記第2角度よりも小さい第3角度まで支持して前記水平軸まわりに回動させる第2シリンダを含み、前記制御手段は、前記角度検出値が、前記第3角度よりも大きく前記第2角度以下の前記傾斜角度に対応する値であり、前記速度検出値が第1速度値を超えるときに、前記速度低下制御を実行し、前記角度検出値が、前記第1角度以上前記第3角度以下の前記傾斜角度に対応する値であるときには、前記速度低下制御を実行しない、請求項1記載の船外機である。
【0013】
この構成によれば、回動機構は、第1シリンダに加えて、船外機本体を支持して水平軸まわりに回動させる第2シリンダを含む。第2シリンダは、船外機本体を第1角度から第1角度よりも大きく第2角度よりも小さい第3角度まで支持して水平軸まわりに回動させる。したがって、船外機本体の傾斜角度が第3角度より大きいときには、第2シリンダが船外機本体から離れており、第2シリンダによる船外機本体の支持が解除されている。したがって、船外機本体が第1および第2シリンダによって支持されているときよりも大きな荷重が第1シリンダに加わる。また、船外機本体が発生する推進力は、エンジンの回転速度の増加に伴って増加する。したがって、第1シリンダに加わる荷重は、エンジンの回転速度の増加に伴って増加する。そのため、角度検出値が、第3角度よりも大きく第2角度以下の傾斜角度に対応する値であり、速度検出値が第1速度値を超えるときに速度低下制御が実行されることにより、大きな荷重が第1シリンダに加わることが防止される。
【0014】
請求項3記載の発明は、前記第1速度値は、前記船外機本体の傾斜角度が前記第2角度である状態で前記船外機本体から前記回動機構へ加わる荷重が、前記回動機構、取付機構および船体の少なくとも一つが破損する荷重よりも小さいときの前記エンジンの回転速度に対応する速度検出値である、請求項2記載の船外機である。なお、「前記船外機本体の傾斜角度が前記第2角度である状態で前記船外機本体から前記回動機構へ加わる荷重」とは、プロペラが水中にある場合で回動機構に加わる荷重である。
【0015】
船外機本体が推進力を発生すると、この推進力が、船外機本体から回動機構に伝達される。また、回動機構に伝達された推進力は、取付機構および船体に伝達される。したがって、船外機本体が推進力を発生すると、荷重が、回動機構、取付機構および船体に伝達される。この構成によれば、回動機構、取付機構および船体に加わる荷重が、回動機構、取付機構および船体の少なくとも一つが破損するときの荷重よりも小さくなるようにエンジンの回転速度が制御される。これにより、回動機構、取付機構および船体の破損が防止される。具体的には、たとえば、回動機構の第1シリンダのロッドの変形や、第1シリンダの損傷が防止される。また、たとえば、取付機構の固定部材や水平軸の変形が防止される。また、たとえば、船体の後部(トランサム)の変形や破損が防止される。
【0016】
請求項4記載の発明は、前記制御手段は、前記第1速度値を前記角度検出手段から入力された角度検出値に基づいて変化させるように構成されている、請求項2記載の船外機である。この構成によれば、制御手段が、船外機本体の傾斜角度に基づいて第1速度値を変化させる。この場合、請求項5記載の発明のように、前記第1速度値は、前記船外機本体の傾斜角度が前記第3角度よりも大きく前記第2角度以下である状態で前記船外機本体から前記回動機構へ加わる荷重が、前記回動機構、取付機構および船体の少なくとも一つが破損する荷重よりも小さいときの前記エンジンの回転速度に対応する速度検出値であり、前記船外機本体の傾斜角度ごとに定められた複数の値を含んでいてもよい。すなわち、第1速度値は、船外機本体の傾斜角度に応じて変化する変数であってもよい。
【0017】
また、請求項6記載の発明のように、前記制御手段は、前記角度検出値が、前記第3角度よりも大きく前記第2角度よりも小さい第4角度以上で前記第2角度以下の前記傾斜角度に対応する値であり、前記速度検出値が前記第1速度値を超えるときに、前記速度低下制御を実行するように構成されていてもよい。
請求項7記載の発明は、前記制御手段は、前記回動機構が前記船外機本体を回動させる前後で、前記角度検出手段から入力された角度検出値が変化しない場合には、前記速度低下制御を実行しない、請求項1〜6のいずれか一項に記載の船外機である。
【0018】
この構成によれば、制御手段は、回動機構が船外機本体を回動させる前に角度検出手段から入力された角度検出値と、回動機構が船外機本体を回動させた後に角度検出手段から入力された角度検出値とを比較する。角度検出手段が正常に動作している場合には、回動機構が船外機本体を回動させる前後で角度検出値が変化する。したがって、制御手段は、回動機構が船外機本体を回動させる前後で角度検出値が変化したか否かを判定することにより、角度検出手段が正常に動作しているか否かを判定できる。
【0019】
角度検出手段が正常に動作していないと制御手段が判定した場合には、制御手段は、速度低下制御を実行しない。すなわち、角度検出手段が正常に動作していないと制御手段が判定した場合には、制御手段は、エンジンの回転速度を強制的に低下させない。したがって、たとえば、船外機が船体を通常の速度で前進させるときに、角度検出手段の異常(たとえば、固着)によって、推進力が強制的に低下されることが防止される。これにより、必要な時に十分な推進力が得られる。
【0020】
請求項8記載の発明は、前記船外機本体は、前進状態と後進状態とを含む複数の状態に切り替わる前後進切替機構を含み、前記制御手段は、前記前後進切替機構が前記前進状態でない場合、前記速度低下制御を実行しない、請求項1〜7のいずれか一項に記載の船外機である。
この構成によれば、船外機本体が、前後進切替機構を含む。前後進切替機構は、船外機本体が船体を前方に推進させる前進力を発生する前進状態と、船外機本体が船体を後方に推進させる後進力を発生する後進状態とを含む複数の状態に切り替わる。前後進切替機構が前進状態でない場合、制御手段は、速度低下制御を実行しない。したがって、前後進切替機構が後進状態であり、船外機本体が船体を後方に推進させる後進力を発生するときには、エンジンの回転速度が強制的に低下されない。これにより、船外機が船体を後進させるときに、推進力(後進力)が強制的に低下されることが防止される。
【0021】
請求項9記載の発明は、請求項1〜8のいずれか一項に記載の船外機と、前記船外機が取り付けられた船体とを含む、船舶である。この構成によれば、請求項1〜8のいずれか一項に係る発明に関して述べた効果と同様な効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る船舶の構成を説明するための概念図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る船外機の側面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る船外機本体がチルトアップされた状態を示す側面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る取付機構の概略図である。
【図5】各航走領域と船外機本体の傾斜角度およびエンジンの回転速度との関係を説明するためのグラフである。
【図6】本発明の一実施形態に係る船外機の電気的構成を説明するためのブロック図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る保護制御について説明するためのフローチャートである。
【図8】本発明の一実施形態に係る固着判定制御について説明するためのフローチャートである。
【図9】本発明の一実施形態に係る速度低下制御の第1実施例について説明するためのフローチャートである。
【図10】本発明の一実施形態に係る速度低下制御の第2実施例について説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る船舶1の構成を説明するための概念図である。
船舶1は、船外機2と、船体3とを含む。船外機2は、船体3の後部に取り付けられている。船体3は、船外機2によって推進される。船体3は、操舵部材4と、コントロールレバー5と、表示部6とを含む。船舶1は、操舵部材4が操作されることにより操舵される。また、船舶1の速度は、コントロールレバー5が操作されることにより調整される。また、船舶1の前進および後進は、コントロールレバー5が操作されることにより切り替えられる。速度などの船舶1の状態は、表示部6に表示される。
【0024】
図2は、本発明の一実施形態に係る船外機2の側面図である。
船外機2は、船外機本体7と、取付機構8と、パワートリム&チルト機構9(以下では、「PTT機構9」という。)を含む。船外機本体7は、取付機構8によって船体3の後部に取り付けられている。取付機構8は、スイベルブラケット10と、2つのクランプブラケット11(図1参照)と、操舵軸12と、チルト軸13とを含む。操舵軸12は、上下に延びるように配置されている。チルト軸13は、左右に延びるように水平に配置されている。スイベルブラケット10は、操舵軸12を介して船外機本体7に連結されている。また、各クランプブラケット11は、チルト軸13を介してスイベルブラケット10に連結されている。各クランプブラケット11は、船体3の後部(トランサム)に固定されている。2つのクランプブラケット11は、左右に間隔を空けて配置されている。スイベルブラケット10の一部およびPTT機構9は、2つのクランプブラケット11の間に配置されている。
【0025】
また、船外機本体7は、取付機構8によって、概ね垂直な姿勢で船体3に取り付けられている。船外機本体7およびスイベルブラケット10は、クランプブラケット11に対して、チルト軸13まわりに上下に回動可能である。船外機本体7およびスイベルブラケット10は、PTT操作スイッチ14(図1参照)が操作されることにより、PTT機構9によって、チルト軸13まわりに上下に回動される。これにより、船外機本体7が、船体3およびクランプブラケット11に対して傾けられる。また、船外機本体7は、スイベルブラケット10およびクランプブラケット11に対して、操舵軸12まわりに左右に回動可能である。船外機本体7は、操舵部材4(図1参照)が操作されることにより、操舵軸12まわりに左右に回動される。これにより、船舶1が操舵される。
【0026】
また、船外機本体7は、エンジン15と、ドライブシャフト16と、プロペラシャフト17と、プロペラ18と、前後進切替機構19と、ECU20(電子制御ユニット)とを含む。また、船外機本体7は、エンジンカバー21と、ケーシング22とを含む。エンジン15およびECU20は、エンジンカバー21内に収容されている。また、ドライブシャフト16は、エンジンカバー21およびケーシング22内で上下に延びている。プロペラシャフト17は、ケーシング22の下部内で前後に延びている。ドライブシャフト16の上端部は、エンジン15に連結されている。また、ドライブシャフト16の下端部は、前後進切替機構19によってプロペラシャフト17の前端部に連結されている。プロペラシャフト17の後端部は、ケーシング22から後方に突出している。プロペラ18は、プロペラシャフト17の後端部に連結されている。プロペラ18は、プロペラシャフト17と共に回転する。プロペラ18は、エンジン15によって回転駆動される。
【0027】
エンジン15は、たとえばガソリンなどの燃料を燃焼させて動力を発生する内燃機関である。エンジン15は、クランク軸23と、複数(たとえば4つ)の気筒24と、回転速度検出装置25とを含む。エンジン15は、クランク軸23が上下に延びるように配置されている。ドライブシャフト16の上端部は、クランク軸23に連結されている。クランク軸23は、各気筒24での燃焼によって鉛直軸線まわりに回転駆動される。クランク軸23の回転速度(エンジン15の回転速度)は、回転速度検出装置25およびECU20によって検出される。すなわち、回転速度検出装置25は、クランク軸23の回転速度に対応する速度検出値を出力する。ECU20は、回転速度検出装置25から入力された速度検出値からエンジン15の回転速度を演算する。
【0028】
また、エンジン15は、複数の気筒24にそれぞれ取り付けられた複数の点火プラグと、複数の点火プラグにそれぞれ接続された複数(たとえば4つ)のイグニッションコイル26とを含む。また、エンジン15は、複数の気筒24にそれぞれ接続された複数の吸気管と、各吸気管に設けられた燃料噴射装置およびスロットルバルブとを含む。ECU20は、各イグニッションコイル26によって高電圧を発生させる。これにより、高電圧が各点火プラグに印加され、火花が各気筒24内で発生する。そのため、燃料と空気の混合気が各気筒24内で燃焼される。混合気は、各吸気管から対応する気筒24内に供給される。ECU20は、スロットルバルブの開度を制御することにより、各気筒24への混合気の供給流量を調整する。また、ECU20は、スロットルバルブの開度と、燃料噴射装置から噴射される燃料の噴射量とを制御することにより、空燃比を調整する。
【0029】
また、前後進切替機構19は、駆動ギヤ27と、前進ギヤ28と、後進ギヤ29と、ドッグクラッチ30と、シフト機構31とを含む。駆動ギヤ27、前進ギヤ28、および後進ギヤ29は、たとえば、筒状の傘歯車である。駆動ギヤ27は、中心軸線が上下に延びるように配置されている。駆動ギヤ27の歯部は、下に向けられている。駆動ギヤ27は、ドライブシャフト16の下端部に連結されている。また、前進ギヤ28および後進ギヤ29は、それぞれ、中心軸線が前後に延びるように配置されている。前進ギヤ28および後進ギヤ29は、互いの歯部が前後に間隔を空けて向かい合うように配置されている。前進ギヤ28および後進ギヤ29は、駆動ギヤ27に噛み合わされている。前進ギヤ28および後進ギヤ29は、それぞれ、プロペラシャフト17の前端部を取り囲んでいる。駆動ギヤ27の回転が前進ギヤ28および後進ギヤ29に伝達されると、前進ギヤ28および後進ギヤ29は、互いに反対方向に回転する。
【0030】
また、ドッグクラッチ30は、前進ギヤ28および後進ギヤ29の間に配置されている。ドッグクラッチ30は、たとえば、筒状である。ドッグクラッチ30は、プロペラシャフト17の前端部を取り囲んでいる。ドッグクラッチ30は、たとえばスプラインによって、プロペラシャフト17の前端部に連結されている。したがって、ドッグクラッチ30は、プロペラシャフト17の前端部と共に回転する。また、ドッグクラッチ30は、プロペラシャフト17の前端部に対して軸方向に移動可能である。ドッグクラッチ30は、シフト機構31によってプロペラシャフト17の軸方向に移動される。シフト機構31は、たとえば、上下に延びるシフトロッド32と、シフトロッド32の上端部に連結されたシフトアクチュエータ33と、ドッグクラッチ30のシフト位置を検出するシフト位置検出装置34とを含む。ドッグクラッチ30は、シフトロッド32がシフトアクチュエータ33によって回動されることにより、プロペラシャフト17の軸方向に移動される。
【0031】
シフト機構31は、ドッグクラッチ30を、前進位置、後進位置、およびニュートラル位置のいずれかのシフト位置に位置させる。前進位置は、ドッグクラッチ30が前進ギヤ28に噛み合う位置であり、後進位置は、ドッグクラッチ30が後進ギヤ29に噛み合う位置である。また、ニュートラル位置は、ドッグクラッチ30が前進ギヤ28および後進ギヤ29のいずれのギヤにも噛み合わない位置である。ドッグクラッチ30が前進位置に配置されている状態では、ドライブシャフト16の回転が、前進ギヤ28を介してプロペラシャフト17に伝達される。また、ドッグクラッチ30が後進位置に配置されている状態では、ドライブシャフト16の回転が、後進ギヤ29を介してプロペラシャフト17に伝達される。また、ドッグクラッチ30がニュートラル位置に配置されている状態では、ドライブシャフト16の回転がプロペラシャフト17に伝達されない。
【0032】
エンジン15の回転は、ドライブシャフト16に伝達される。そして、ドッグクラッチ30が前進位置または後進位置に配置されている状態では、ドライブシャフト16に伝達された回転が、前後進切替機構19によってプロペラシャフト17に伝達される。これにより、プロペラシャフト17およびプロペラ18が回転する。ドッグクラッチ30が前進位置に配置されている状態では、プロペラ18が前進方向に回転する。これにより、船体3を前方に推進させる前進力が発生する。また、ドッグクラッチ30が後進位置に配置されている状態では、プロペラ18が、前進方向とは反対の後進方向に回転する。これにより、船体3を後方に推進させる後進力が発生する。したがって、ドッグクラッチ30が前進位置から後進位置、または後進位置から前進位置に移動されることにより、プロペラ18の回転方向が切り替えられる。プロペラ18の回転方向は、船体3に設けられたコントロールレバー5が操作されることにより切り替えられる。
【0033】
図3は、本発明の一実施形態に係る船外機本体7がチルトアップされた状態(傾斜角度がチルト範囲内にある状態)を示す側面図である。また、図4は、本発明の一実施形態に係る取付機構8の概略図であり、取付機構8の一部を後方から見た状態が示されている。以下では、図2〜図4を参照して、PTT機構9の構成について説明する。
船外機本体7は、概ね垂直な姿勢と、船外機本体7の前面(エンジンカバー21およびケーシング22の前面)を下に向けて大きく傾いた姿勢との間でチルト軸13まわりに回動される。ドライブシャフト16の下端が最も船体3に近づいたときの船外機本体7の傾斜角度を零とすると、船外機本体7の傾斜角度が小さい範囲は、トリム範囲であり、船外機本体7の傾斜角度がトリム範囲の上限値よりも大きい範囲は、チルト範囲である。図3では、船外機本体7の傾斜角度がトリム範囲の下限値である状態(フルトリムイン)を一点鎖線で示しており、船外機本体7の傾斜角度がトリム範囲の上限値である状態(フルトリムアウト)を二点鎖線で示している。また、図3では、船外機本体7の傾斜角度がチルト範囲の上限値である状態(フルチルトアップ)を実線で示している。チルト範囲の上限値は、たとえば、船外機本体7の傾斜角度の最大値である。船外機本体7はこのチルト範囲の任意の位置に保持可能である。
【0034】
図4に示すように、PTT機構9は、たとえば2本のトリムシリンダ35と、チルトシリンダ36を含む。また、図3に示すように、PTT機構9は、角度検出装置37を含む。各トリムシリンダ35、チルトシリンダ36、および角度検出装置37は、2つのクランプブラケット11の間に配置されている。2本のトリムシリンダ35は、船舶1の左右方向から見て重なり合うように配置されている。2本のトリムシリンダ35は、チルトシリンダ36の左右両側に配置されている。各トリムシリンダ35は、トリムシリンダ35の上端がトリムシリンダ35の下端よりも後方に位置するように船舶1の前後方向に沿って斜めに配置されている。同様に、チルトシリンダ36は、チルトシリンダ36の上端がチルトシリンダ36の下端よりも後方に位置するように船舶1の前後方向に沿って斜めに配置されている。各トリムシリンダ35およびチルトシリンダ36は、それぞれ、たとえば、油圧シリンダである。図4に示すように、作動油を貯留するタンクT1と、作動油を供給するモータM1とは、2つのクランプブラケット11の間に配置されている。船外機本体7およびスイベルブラケット10は、各トリムシリンダ35およびチルトシリンダ36によってチルト軸13まわりに回動される。
【0035】
各トリムシリンダ35は、本体38と、トリムロッド39とを含む。各本体38は、各クランプブラケット11に連結されている。各トリムロッド39は、本体38の上端部から後方に向かって斜め上に突出している。各トリムロッド39は、本体38内の油力によってトリムロッド39の軸方向に往復移動される。図3において二点鎖線で示すように、船外機本体7の傾斜角度がトリム範囲内にある状態では、各トリムロッド39の上端部がスイベルブラケット10に接触している。したがって、この状態では、船外機本体7が、スイベルブラケット10を介して2本のトリムロッド39に前側から支持されている。また、船外機本体7の傾斜角度が大きくなって、チルト範囲に達すると、図3において実線で示すように、各トリムロッド39の上端部がスイベルブラケット10から離れる。そのため、2本のトリムロッド39による船外機本体7の支持が解除される。
【0036】
また、チルトシリンダ36は、本体40と、チルトロッド41とを含む。本体40の下端部は、各クランプブラケット11に連結されている。チルトロッド41は、本体40の上端部から後方に向かって斜め上に突出している。チルトロッド41の上端部は、スイベルブラケット10に連結されている。チルトロッド41は、本体40内の油圧によってチルトロッド41の軸方向に往復移動される。チルトロッド41の上端部は、船外機本体7の傾斜角度がトリム範囲およびチルト範囲のいずれの範囲内にある状態でも、スイベルブラケット10に連結されている。したがって、船外機本体7は、船外機本体7の傾斜角度がトリム範囲およびチルト範囲のいずれの範囲内にある状態でも、チルトシリンダ36によって支持されている。
【0037】
船外機本体7の傾斜角度がトリム範囲内にある状態では、船外機本体7が、2本のトリムシリンダ35と、1本のチルトシリンダ36によって支持されている。また、この状態では、船外機本体7が、2本のトリムシリンダ35と、1本のチルトシリンダ36によってチルト軸13まわりに上下に回動される。船外機本体7の傾斜角度は、各トリムロッド39およびチルトロッド41の突出量の増加に伴って増加する。また、船外機本体7の傾斜角度が大きくなって、チルト範囲に達すると、2本のトリムシリンダ35による船外機本体7の支持が解除され、船外機本体7が、1本のチルトシリンダ36によって支持される。この状態では、船外機本体7が、1本のチルトシリンダ36によってチルト軸13まわりに上下に回動される。船外機本体7の傾斜角度は、チルトロッド41の突出量の増加に伴って増加する。
【0038】
また、角度検出装置37は、たとえば、本体42と、レバー43とを含む。本体42は、スイベルブラケット10に保持されている。レバー43は、船外機本体7のドライブシャフト16が略鉛直方向である状態で、本体42から前方に突出している。レバー43は、本体42に対して、本体42を通る水平軸まわりに回動できるように構成されている。レバー43の先端部は、クランプブラケット11に連結されている。船外機本体7およびスイベルブラケット10がチルト軸13まわりに回動されると、レバー43の先端部がクランプブラケット11に連結された状態で、本体42がチルト軸13まわりに回動する。これにより、レバー43が、本体42に対して水平軸まわりに回動し、船外機本体7の傾斜角度に比例する回動角度に配置される。
【0039】
角度検出装置37は、たとえば、ポテンショメータ(potentiometer)を含む。角度検出装置37には電圧が印加されている。角度検出装置37は、たとえば、船外機本体7の傾斜角度に正比例する電圧を角度検出値としてECU20に出力する。したがって、角度検出装置37からECU20に入力される角度検出値(電圧)は、船外機本体7の傾斜角度の増加に伴って増加する。これにより、船外機本体7の傾斜角度に対応する角度検出値がECU20に入力される。また、角度検出装置37が故障(たとえば、短絡や、断線)すると、角度検出装置37が正常のときに入力される値よりも小さい角度検出値または大きい角度検出値(異常検出値)がECU20に入力される。
【0040】
より具体的には、角度検出装置37が正常のときにECU20に入力される角度検出値(電圧)は、たとえば、0Vよりも大きく、5V(駆動電圧)よりも小さい。しかし、角度検出装置37が断線したときには、プルダウンの場合には0V、プルアップの場合(本実施形態の場合)には5Vが、ECU20に入力される。プルダウンとは、断線時に接地線(グランド)側に接続することをいう。プルアップとは、断線時に電源線側に接続することをいう。また、角度検出装置37が短絡したときには、短絡した相手に応じた電圧がECU20に入力される。すなわち、アースに短絡すると0Vが、5Vの電圧が印加された配線に短絡すると5Vが、電源に短絡すると12V(電源電圧)が、ECU20に入力される。そのため、角度検出装置37が故障したときには、角度検出装置37が正常のときに入力される値よりも小さい角度検出値または大きい角度検出値がECU20に入力される。したがって、ECU20は、角度検出装置37から入力される角度検出値に基づいて、角度検出装置37の異常を検出することができる。
【0041】
図5は、各航走領域と船外機本体7の傾斜角度およびエンジン15の回転速度との関係を説明するためのグラフである。図5の縦軸おいて、「フルトリムイン」は、船外機本体7の傾斜角度がトリム範囲の下限値(フルトリムイン角度θin)である状態を示しており、「フルトリムアウト」は、船外機本体7の傾斜角度がトリム範囲の上限値(フルトリムアウト角度θout)である状態を示している。トリム範囲の下限値は、たとえば、船外機本体7の傾斜角度の最小値である。また、図5の縦軸おいて、「フルチルトアップ」は、船外機本体7の傾斜角度がチルト範囲の上限値(フルチルトアップ角度θup)である状態を示している。チルト範囲の上限値は、たとえば、船外機本体7の傾斜角度の最大値である。図3において一点鎖線で示す船外機本体7の傾斜角度が「フルトリムイン」に対応しており、図3において二点鎖線で示す船外機本体7の傾斜角度が「フルトリムアウト」に対応している。また、図3において実線で示す船外機本体7の傾斜角度が「フルチルトアップ」に対応している。以下では、図2、図3および図5を参照して、各航走領域と船外機本体7の傾斜角度およびエンジン15の回転速度との関係を説明する。
【0042】
通常航走時(船舶1の低速前進時および船舶1の後進時を除く)には、船外機本体7の傾斜角度が、操船者によってトリム範囲内の値に設定される。また、図5に示すように、通常航走時には、ECU20が、エンジン15の回転速度を高回転速度Vhigh以下に制御する。船外機本体7の傾斜角度が、トリム範囲内であり、エンジン15の回転速度が、高回転速度Vhigh以下である領域を、通常航走時に用いられる通常航走領域と定義する。図2に示すように、船外機本体7の傾斜角度がトリム範囲内にある状態では、船外機本体7が、2本のトリムシリンダ35と、1本のチルトシリンダ36によって支持されている。したがって、通常航走領域で船体3が前方に推進されている状態(プロペラ18が水中にある状態)では、船体3を前方に推進させる前進力が、2本のトリムシリンダ35と、1本のチルトシリンダ36を介して船体3に伝達される。
【0043】
また、船舶1が浅瀬を低速で前進する浅瀬航走時には、船外機本体7の傾斜角度が、操船者によってチルト範囲内に設定される。また、図5に示すように、浅瀬航走時には、エンジン15の回転速度が、操船者によって低回転速度Vlow以下に設定される。船外機本体7の傾斜角度が、チルト範囲内であり、エンジン15の回転速度が、低回転速度Vlow以下である領域を、浅瀬航走時に用いられる浅瀬航走領域と定義する。図3に示すように、船外機本体7の傾斜角度がチルト範囲内にある状態では、2本のトリムロッド39による船外機本体7の支持が解除されており、船外機本体7が、1本のチルトシリンダ36によって支持されている。したがって、浅瀬航走領域で船体3が前方に推進されている状態(プロペラ18が水中にある状態)では、船体3を前方に推進させる前進力が、1本のチルトシリンダ36を介して船体3に伝達される。
【0044】
船外機本体7がチルトアップされている状態では、船外機本体7が1本のチルトシリンダ36だけで支持されている。そのため、この状態では、船外機本体7の傾斜角度がトリム範囲内にある状態よりも、チルトロッド41に加わる荷重が大きい。また、船外機本体7がチルトアップされている状態では、船外機本体7の傾斜角度は、チルトロッド41の突出量の増加に伴って増加する。チルトロッド41の突出量が増加すると、チルトロッド41に加わる荷重が増加する。したがって、チルトロッド41に加わる荷重は、船外機本体7の傾斜角度の増加に伴って増加する。また、船体3を前方に推進させる前進力は、エンジン15の回転速度の増加に伴って増加する。前進力が増加すると、チルトロッド41に加わる荷重が増加する。したがって、チルトロッド41に加わる荷重は、船外機本体7の傾斜角度の増加およびエンジン15の回転速度の増加に伴って増加する。
【0045】
図5に示す荷重基準線L3は、一定の大きさの荷重(一定荷重)が船外機本体7からPTT機構9に加わるときの船外機本体7の傾斜角度およびエンジン15の回転速度の測定値から得られた線である。「一定荷重」は、たとえば、取付機構8、PTT機構9、および船体3の少なくとも一つが破損するときの荷重の最小値である。取付機構8の破損とは、たとえば、クランプブラケット11や、スイベルブラケット10や、チルト軸13の変形である。また、PTT機構9の破損とは、たとえば、チルトロッド41の変形や、チルトシリンダ36の本体40の損傷である。また、船体3の破損とは、たとえば、船体3の後部(トランサム)の変形や破損である。本実施形態では、「一定荷重」は、たとえば、チルトロッド41が曲がるときの荷重の最小値である。
【0046】
図5に示すように、荷重基準線L3は、たとえば曲線である。図5においてハッチングが施された領域は、チルトロッド41に加わる荷重が一定荷重を超える領域である。ECU20は、チルトロッド41に加わる荷重が一定荷重未満となるように、エンジン15の回転速度を低下させる。具体的には、船外機本体7の傾斜角度が所定角度範囲R1内であり、エンジン15の回転速度が速度閾値(速度閾値V1またはV2)を超えるときには、ECU20は、エンジン15の回転速度が速度閾値以下になるようにエンジン15の回転速度を低下させる。また、船外機本体7の傾斜角度がトリム範囲およびチルト範囲のいずれの範囲内にある状態であっても、エンジン15の回転速度が高回転速度Vhighを超えると、ECU20は、回転速度が高回転速度Vhigh以下になるように、エンジン15の回転速度を低下させる。
【0047】
図5に示すように、所定角度範囲R1の下限値(下限角度θ1)は、フルトリムアウト角度θoutよりも大きい角度である。したがって、下限角度θ1は、船外機本体7が1本のチルトシリンダ36だけで支持されているときの角度である。また、所定角度範囲R1の上限値(上限角度θ2)は、たとえば、フルチルトアップ角度θup(船外機本体7の傾斜角度の最大値)と等しい角度である。前述のように、角度検出装置37が故障(たとえば、短絡や、断線)すると、異常検出値が、角度検出装置37からECU20に入力される。異常検出値は、例えば異常角度θ3に対応する角度検出値である。異常角度θ3は、上限角度θ2よりも大きい。
【0048】
また、速度閾値は、図5に示す速度基準線L1または速度基準線L2から求められるエンジン15の回転速度である。速度基準線L1および速度基準線L2は、それぞれ、チルトロッド41に加わる荷重が一定荷重未満であるときの船外機本体7の傾斜角度およびエンジン15の回転速度から得られた線である。速度基準線L1は、縦軸に平行な直線である。速度基準線L1は、たとえば、フルチルトアップ角度θupにおいて荷重基準線L3に近接している。速度閾値が速度基準線L1から求められる場合、速度閾値は、船外機本体7の傾斜角度にかかわらず一定の速度閾値V1(定数)である。
【0049】
一方、速度基準線L2は、船外機本体7の傾斜角度に応じてエンジン15の回転速度が変化する線である。速度基準線L2は、たとえば、荷重基準線L3と同様に変化する曲線である。速度基準線L2は、たとえば、フルチルトアップ角度θupにおいて荷重基準線L3および速度基準線L1に近接しており、下限角度θ1において荷重基準線L3に近接している。荷重基準線L3から速度基準線L2までの最短距離は、いずれの傾斜角度においても、荷重基準線L3から速度基準線L1までの距離以下である。速度閾値が速度基準線L2から求められる場合、速度閾値は、船外機本体7の傾斜角度に応じて変化する速度閾値V2(変数)である。本発明の一実施形態に係る「第1速度値」は、たとえば、速度閾値V1または速度閾値V2に対応する速度検出値である。
【0050】
図6は、本発明の一実施形態に係る船外機2の電気的構成を説明するためのブロック図である。
ECU20は、記憶装置44を含む。記憶装置44は、たとえば、電力が供給されていなくても記憶を保持する不揮発性メモリーである。船外機2を制御する制御プログラムや、船外機2の制御情報は、記憶装置44に記憶されている。ECU20は、記憶装置44に記憶された制御プログラムに従って船外機2を制御する。
【0051】
また、速度検出値、シフト位置検出値、および角度検出値は、それぞれ、回転速度検出装置25、シフト位置検出装置34、および角度検出装置37からECU20に入力される。ECU20は、入力された速度検出値、シフト位置検出値、および角度検出値から、それぞれ、エンジン15の回転速度、ドッグクラッチ30のシフト位置、および船外機本体7の傾斜角度を演算する。また、PTT操作スイッチ14が操作されると、PTT操作検出値がECU20に入力される。
【0052】
以下に説明するように、ECU20は、エンジン15の回転速度、ドッグクラッチ30のシフト位置、および船外機本体7の傾斜角度等に基づいて、エンジン15の回転速度を低下させる。すなわち、ECU20は、4つのイグニッションコイル26を制御することにより、4つの点火プラグの少なくとも一つの点火を停止させる。これにより、4つの気筒24の少なくとも一つが失火(misfire)し、エンジン15の回転速度が低下する。そのため、プロペラ18の回転速度が低下し、推進力が低下する。
【0053】
図7は、本発明の一実施形態に係る保護制御について説明するためのフローチャートである。また、図8は、本発明の一実施形態に係る固着判定制御について説明するためのフローチャートである。以下では、図2、図7および図8を参照して、チルトロッド41を保護する保護制御について説明する。また、以下の説明において、図1および図5を適宜参照する。
【0054】
図7に示すように、ECU20は、最初に、角度検出装置37のレバー43が固着しているか否かを判定する固着判定制御を行う(S101)。図8に示すように、固着判定制御では、ECU20は、PTT操作スイッチ14(図1参照)が操作されたか否かを判定する(S201)。すなわち、PTT機構9が、船外機本体7をチルト軸13まわりに回動させたか否かを判定する。そして、PTT操作スイッチ14が操作された場合(S201でYesの場合)には、ECU20は、PTT機構9が船外機本体7を回動させる前に角度検出装置37から入力された角度検出値と、PTT機構9が船外機本体7を回動させた後に角度検出装置37から入力された角度検出値とを比較する。これにより、ECU20は、PTT機構9が船外機本体7を回動させる前後で角度検出値が変化したか否かを判定する(S202)。
【0055】
PTT操作スイッチ14が操作された場合(S201でYesの場合)、実際の船外機本体7の傾斜角度は変化している。そのため、PTT操作スイッチ14が操作される前後で角度検出値が変化しない場合(S202でNoの場合)には、角度検出装置37のレバー43が固着している可能性がある。すなわち、レバー43が本体42に対して回動しないため、実際の船外機本体7の傾斜角度に対応する角度検出値とは異なる角度検出値がECU20に入力されている可能性がある。そのため、この場合(S202でNoの場合)には、ECU20は、レバー43の固着情報を記憶装置44に記憶し(S203)、たとえば表示部6(図1参照)での表示により、操船者に警告を行う(S204)。そして、ECU20は、固着判定制御を終了する(S102に進む)。同様に、PTT操作スイッチ14が操作される前後で角度検出値が変化した場合(S202でYesの場合)にも、ECU20は、固着判定制御を終了する(S102に進む)。
【0056】
一方、PTT操作スイッチ14が操作されていない場合(S201でNoの場合)には、ECU20は、レバー43の固着情報が記憶装置44に記憶されているか否かを確認する(S206)。そして、レバー43の固着情報が記憶装置44に記憶されていない場合(S206でNoの場合)には、ECU20は、固着判定制御を終了する(S102に進む)。また、レバー43の固着情報が記憶装置44に記憶されている場合(S206でYesの場合)には、ECU20は、操船者に警告を行う(S204)。そして、ECU20は、固着判定制御を終了する(S102に進む)。
【0057】
固着判定制御が実行された後は、図7に示すように、ECU20は、レバー43の固着情報が記憶装置44に記憶されているか否かを確認する(S102)。そして、固着情報が記憶されている場合(S102でYesの場合)には、ECU20は、保護制御を終了する。また、固着情報が記憶されていない場合(S102でNoの場合)には、ECU20は、船外機本体7の傾斜角度が所定角度範囲R1(下限角度θ1以上で、上限角度θ2以下)内であるか否かを判定する(S103)。船外機本体7の傾斜角度が所定角度範囲R1内でない場合(S103でNoの場合)には、ECU20は、保護制御を終了する。また、船外機本体7の傾斜角度が所定角度範囲R1内である場合(S103でYesの場合)には、ECU20は、エンジン15の回転速度が速度閾値(速度閾値V1またはV2)を超えているか否かを判定する(S104)。
【0058】
図5に示すように、速度閾値が速度基準線L1から求められる場合、速度閾値は、速度閾値V1(定数)である。したがって、この場合、ECU20は、エンジン15の回転速度が速度閾値V1を超えているか否かを判定する(S104)。そして、エンジン15の回転速度が速度閾値V1を超えていない場合(S104でNoの場合)には、ECU20は、保護制御を終了する。また、エンジン15の回転速度が速度閾値V1を超えている場合(S104でYesの場合)には、ECU20は、ドッグクラッチ30のシフト位置が前進位置であるか否かを判定する(S105)。
【0059】
一方、図5に示すように、速度閾値が速度基準線L2から求められる場合、速度閾値は、船外機本体7の傾斜角度に応じて変化する速度閾値V2(変数)である。したがって、この場合、ECU20は、速度基準線L2から、船外機本体7の傾斜角度に対応する速度閾値V2を求める。そして、ECU20は、エンジン15の回転速度が、求められた速度閾値V2を超えているか否かを判定する(S104)。エンジン15の回転速度が速度閾値V2を超えていない場合(S104でNoの場合)には、ECU20は、保護制御を終了する。また、エンジン15の回転速度が速度閾値V2を超えている場合(S104でYesの場合)には、ECU20は、ドッグクラッチ30のシフト位置が前進位置であるか否かを判定する(S105)。
【0060】
図7に示すように、ドッグクラッチ30のシフト位置が前進位置でない場合(S105でNoの場合)には、ECU20は、保護制御を終了する。また、ドッグクラッチ30のシフト位置が前進位置である場合(S105でYesの場合)には、ECU20は、エンジン15の回転速度を低下させる速度低下制御を行う(S106)。すなわち、船外機本体7の傾斜角度が所定角度範囲R1内である場合には、船外機本体7が一本のチルトシリンダ36だけで支持されている。そのため、船体3を前方に推進させる前進力が、スイベルブラケット10を介して、チルトロッド41や、チルトロッド41を収容するチルトシリンダ36の本体40や、チルト軸13へ集中する。したがって、ECU20は、速度低下制御を行ってエンジン15の回転速度を低下させることにより、チルトシリンダ36に加わる荷重が一定荷重未満となるようにエンジン15を制御する。
【0061】
図9は、本発明の一実施形態に係る速度低下制御の第1実施例について説明するためのフローチャートである。図9に示すフローは、速度閾値が、図5に示す速度基準線L1から求められるときのフローである。速度閾値が、速度基準線L1から求められる場合、速度閾値は、船外機本体7の傾斜角度にかかわらず一定の速度閾値V1(定数)である。以下では、図2および図9を参照して、エンジン15の回転速度を低下させる速度低下制御について説明する。
【0062】
図9に示すように、速度低下制御では、ECU20は、速度低下制御を終了する解除条件が成立しているか否かを判定する(S301)。具体的には、ECU20は、たとえば、エンジン15の回転速度が速度閾値V1未満であるか否かを判定する。エンジン15の回転速度が速度閾値V1より大きくなった場合であっても、たとえば、その後に、開度が概ね零になるまでスロットルバルブが閉じられていれば、エンジン15が失火されなくても、エンジン15の回転速度が低下していく。したがって、たとえば、スロットルバルブの開度が概ね零であり、エンジン15の回転速度が速度閾値V1未満になっている場合(S301でYesの場合)には、ECU20は、エンジン15を失火させずに速度低下制御を終了する。一方、エンジン15の回転速度が速度閾値V1よりも大きい場合には、ECU20は、エンジン15を失火させるか否かの判定を行う(S302〜S304)。
【0063】
図9に示すように、エンジン15を失火させるか否かの判定では、ECU20は、たとえば、エンジン15の回転速度が、速度閾値V1と定数C3(定数C3>0)との和よりも大きいか否かを判定する(S302)。そして、エンジン15の回転速度が、速度閾値V1+定数C3以下である場合(S302でNoの場合)には、ECU20は、エンジン15の回転速度が、速度閾値V1と定数C2(定数C3>定数C2)との和よりも大きいか否かを判定する(S303)。そして、エンジン15の回転速度が、速度閾値V1+定数C2以下である場合(S303でNoの場合)には、ECU20は、エンジン15の回転速度が、速度閾値V1と定数C1(定数C2>定数C1≧0)との和よりも大きいか否かを判定する(S304)。
【0064】
図9に示すように、エンジン15の回転速度が、速度閾値V1+定数C3を超える場合(S302でYesの場合)には、ECU20は、4つのイグニッションコイル26を制御することにより、3つの気筒24を失火させる(S305)。また、エンジン15の回転速度が、速度閾値V1+定数C2を超える場合(S303でYesの場合)には、ECU20は、2つの気筒24を失火させる(S3056)。また、エンジン15の回転速度が、速度閾値V1+定数C1を超える場合(S3024でYesの場合)には、ECU20は、1つの気筒24を失火させる(S3057)。これにより、ECU20は、エンジン15の回転速度を速度閾値V1未満の一定値(たとえば、速度閾値V1より少し小さい値)まで低下させる。そして、ECU20は、エンジン15の回転速度を低下させた後、再び解除条件が成立しているか否かを判定する(S301に戻る)。また、S304において、エンジン15の回転速度が、速度閾値V1+定数C1以下である場合(Noの場合)にも、ECU20は、再び解除条件が成立しているか否かを判定する(S301に戻る)。
【0065】
図10は、本発明の一実施形態に係る速度低下制御の第2実施例について説明するためのフローチャートである。図10に示すフローは、速度閾値が、図5に示す速度基準線L2から求められるときのフローである。速度閾値が速度基準線L2から求められる場合、速度閾値は、船外機本体7の傾斜角度に応じて変化する速度閾値V2(変数)である。以下では、図2および図10を参照して、エンジン15の回転速度を低下させる速度低下制御について説明する。また、以下の説明において、図1および図5を適宜参照する。
【0066】
図10に示すように、速度低下制御では、ECU20は、保護制御開始時のエンジン15の回転速度を変数Xに代入する(S401)。そして、ECU20は、速度低下制御を終了する解除条件が成立しているか否かを判定する(S402)。具体的には、ECU20は、たとえば、エンジン15の回転速度が速度閾値V2未満であるか否かを判定する。そして、解除条件が成立している場合(S402でYesの場合)には、ECU20は、エンジン15を失火させずに速度低下制御を終了する。一方、解除条件が成立していない場合(S402でNoの場合)には、ECU20は、エンジン15を失火させるか否かの判定を行う(S405〜S407)。
【0067】
図10に示すように、エンジン15を失火させるか否かの判定では、ECU20は、たとえば、変数Xが速度閾値V2よりも大きいか否かを判定する(S403)。そして、変数Xが速度閾値V2よりも大きい場合(S403でYesの場合)には、ECU20は、変数Xの値を速度閾値V2に更新する(S404)。その後、ECU20は、再び解除条件が成立しているか否かを判定する(S402に戻る)。そして、解除条件が成立していない場合(2回目のS402でNoの場合)には、ECU20は、再び、変数Xが速度閾値V2よりも大きいか否かを判定する(2回目のS403)。このとき、変数Xが速度閾値V2よりも大きい場合(2回目のS403でYesの場合)には、ECU20は、再び、変数Xの値を速度閾値V2に更新する(2回目のS404)。
【0068】
最初に、変数Xが速度閾値V2よりも大きいか否か判定されるとき(S403)、変数Xの値は、保護制御開始時のエンジン15の回転速度である。保護制御開始時のエンジン15の回転速度が速度閾値V2よりも大きくなければ速度低下制御が行われない。したがって、最初に、変数Xが速度閾値V2よりも大きいか否か判定されるとき(S403)、船外機本体7の傾斜角度が減少していなければ、変数Xは、速度閾値V2よりも大きい。すなわち、図5に示すように、船外機本体7の傾斜角度が減少すると、速度閾値V2が増加する。したがって、船外機本体7の傾斜角度が減少していなければ、変数Xは、速度閾値V2よりも大きい(S403でYes)。そのため、変数Xの値は、速度閾値V2に更新される(S404)。
【0069】
また、2回目に、変数Xが速度閾値V2よりも大きいか否か判定されるとき(S403)、船外機本体7の傾斜角度が変化していなければ、変数Xは、速度閾値V2に等しい。しかし、2回目の判定(S403)がされるまでに、たとえばPTT操作スイッチ14(図1参照)が操作されたり、流木が船外機本体7に衝突したりして、船外機本体7の傾斜角度が増加している場合には、速度閾値V2が減少している。そのため、この場合には、変数Xは、速度閾値V2よりも大きい(S403でYes)。したがって、この場合には、変数Xの値は、再び、速度閾値V2に更新される(S404)。このように、変数Xの値は、船外機本体7の傾斜角度の増加に伴って小さい値に更新される。
【0070】
一方、図10に示すように、S403において、変数Xが速度閾値V2以下である場合(Noの場合)には、ECU20は、エンジン15の回転速度が、変数Xと定数C3(定数C3>0)との和よりも大きいか否かを判定する(S405)。そして、エンジン15の回転速度が、変数X+定数C3以下である場合(S405でNoの場合)には、ECU20は、エンジン15の回転速度が、変数Xと定数C2(定数C3>定数C2)との和よりも大きいか否かを判定する(S406)。そして、エンジン15の回転速度が、変数X+定数C2以下である場合(S406でNoの場合)には、ECU20は、エンジン15の回転速度が、変数Xと定数C1(定数C2>定数C1≧0)との和よりも大きいか否かを判定する(S407)。
【0071】
図10に示すように、エンジン15の回転速度が、変数X+定数C3を超える場合(S405でYesの場合)には、ECU20は、3つの気筒24を失火させる(S408)。また、エンジン15の回転速度が、変数X+定数C2を超える場合(S406でYesの場合)には、ECU20は、2つの気筒24を失火させる(S409)。また、エンジン15の回転速度が、変数X+定数C1を超える場合(S407でYesの場合)には、ECU20は、1つの気筒24を失火させる(S410)。これにより、ECU20は、エンジン15の回転速度を変数X未満の一定値(たとえば、変数Xより少し小さい値)まで低下させる。そして、ECU20は、エンジン15の回転速度を低下させた後、再び解除条件が成立しているか否かを判定する(S402に戻る)。また、S407において、エンジン15の回転速度が、変数X+定数C1以下である場合(Noの場合)にも、ECU20は、再び解除条件が成立しているか否かを判定する(S402に戻る)。
【0072】
以上のように本実施形態では、ECU20は、船外機本体7の傾斜角度およびエンジン15の回転速度に応じて速度低下制御を実行して、エンジン15の回転速度を強制的に低下させる。具体的には、角度検出装置37からECU20に入力された角度検出値が、フルトリムイン角度θinよりも小さい傾斜角度に対応する値、またはフルチルトアップ角度θupよりも大きい傾斜角度に対応する値であるときには、ECU20は、速度低下制御を実行しない。一方、角度検出装置37からECU20に入力された角度検出値が、下限角度θ1以上で上限角度θ2(θ2=θup)以下の傾斜角度に対応する値であり、エンジン15の回転速度が速度閾値(速度閾値V1またはV2)を超えているときには、ECU20は、速度低下制御を実行する。
【0073】
船外機本体7の傾斜角度が下限角度θ1以上のときには、トリムシリンダ35による船外機本体7の支持が解除されている。したがって、船外機本体7がトリムシリンダ35およびチルトシリンダ36によって支持されているときよりも大きな荷重がチルトシリンダ36に加わる。また、船外機本体7が発生する推進力は、エンジン15の回転速度の増加に伴って増加する。したがって、チルトシリンダ36に加わる荷重は、エンジン15の回転速度の増加に伴って増加する。そのため、船外機本体7の傾斜角度が下限角度θ1以上のときに、ECU20がエンジン15の回転速度を低下させることにより、大きな荷重がチルトシリンダ36に加わることが防止される。
【0074】
また、角度検出装置37は、短絡などの角度検出装置37の異常が発生したときには、異常角度θ3に対応する異常検出値を出力するように構成されている。ECU20は、船外機本体7の傾斜角度が、下限角度θ1以上で、異常角度θ3よりも小さい上限角度θ2以下のときに、チルトシリンダ36に加わる荷重が一定荷重未満となるように、エンジン15の回転速度を低下させる。したがって、短絡などの角度検出装置37の異常が発生したときには、異常角度θ3に対応する異常検出値が、角度検出装置37からECU20に入力されるから、このとき、ECU20は、エンジン15の回転速度を強制的に低下させない。そのため、たとえば、実際の船外機本体7の傾斜角度がトリム範囲内であるにもかかわらず、エンジン15の回転速度が強制的に低下されることが防止される。これにより、通常航走時に、推進力が強制的に低下されることが防止される。
【0075】
また、本実施形態では、ECU20は、PTT機構9が船外機本体7を回動させる前後で角度検出値が変化したか否かを判定する。角度検出装置37が正常に動作している場合には、PTT機構9が船外機本体7を回動させる前後で角度検出値が変化する。したがって、ECU20は、PTT機構9が船外機本体7を回動させる前後で角度検出値が変化したか否かを判定することにより、角度検出装置37が正常に動作しているか否かを判定できる。そして、角度検出装置37が正常に動作していないとECU20が判定した場合には、ECU20は、エンジン15の回転速度を強制的に低下させない。したがって、たとえば、実際の船外機本体7の傾斜角度がトリム範囲内であるのに、角度検出装置37の異常(たとえば、固着)によって、船外機本体7の傾斜角度が下限角度θ1以上で上限角度θ2以下であると誤って判定されることが防止される。これにより、通常航走時に、推進力が強制的に低下されることが防止される。
【0076】
たとえば船舶1を係留させるときには、船外機本体7がチルトアップされた状態に維持される。船外機本体7がチルトアップされた状態では、角度検出装置37のレバー43が本体42に対して回動している。したがって、船舶1が長期間係留されると、レバー43は、船外機本体7の傾斜角度がチルト範囲内にあるときの回動角度で固着してしまう場合がある。そのため、船外機本体7の傾斜角度がトリム範囲内になるようにPTT機構9が船外機本体7を回動させた後でも、傾斜角度がチルト範囲内にあるときの角度検出値が、ECU20に入力され、船外機本体7がチルトアップされていると判定される場合がある。よって、本実施形態のように、角度検出装置37が正常に動作しているか否かをECU20が判定することにより、通常航走時に、推進力が強制的に低下されることが防止される。
【0077】
また、本実施形態では、船外機本体7が、前後進切替機構19を含む。ドッグクラッチ30が前進位置に配置されると、前後進切替機構19は、船外機本体7が船体3を前方に推進させる前進力を発生する前進状態に切り替わる。また、ドッグクラッチ30が後進位置に配置されると、前後進切替機構19は、船外機本体7が船体3を後方に推進させる後進力を発生する後進状態に切り替わる。ECU20は、前後進切替機構19が前進状態であり、船外機本体7の傾斜角度が下限角度θ1以上で上限角度θ2以下のときに、チルトシリンダ36に加わる荷重が一定荷重未満となるように、エンジン15の回転速度を低下させる。これにより、船舶1の後進中に、推進力(後進力)が強制的に低下されることが防止される。また、通常、後進力の最大値は、前進力の最大値よりも小さいので、船外機本体7がチルトアップされた状態で船体3が後進されても、大きな荷重がチルトロッド41に加わらない。
【0078】
また、速度低下制御において説明したように、ECU20は、船外機本体7の傾斜角度が下限角度θ1以上で上限角度θ2以下であり、エンジン15の回転速度が速度閾値(速度閾値V1またはV2)を超えるときに、エンジン15の回転速度を低下させる。速度閾値V1およびV2は、それぞれ、チルトシリンダ36に加わる荷重が一定荷重であるときのエンジン15の回転速度未満の回転速度である。速度低下制御の第2実施例において説明したように、ECU20は、角度検出装置37から入力された角度検出値に基づいて速度閾値V2を変化させる。すなわち、ECU20は、船外機本体7の傾斜角度に基づいて速度閾値V2を変化させる。
【0079】
チルトシリンダ36に加わる荷重は、船外機本体7の傾斜角度の増加に伴って増加する。そのため、図5に示す荷重曲線L1を見ると分かるように、チルトシリンダ36に加わる荷重が一定荷重であるときのエンジン15の回転速度は、船外機本体7の傾斜角度の増減に伴って増減する。速度低下制御の第2実施例では、速度閾値V2は、チルトロッド41に加わる荷重が一定値であるときのエンジン15の回転速度(図5に示す荷重基準線L3上の回転速度)と同様に変化するように設定されている。これにより、速度閾値が一定である場合に比べて(速度閾値V1に比べて)、エンジン15の回転速度を強制的に低下させる範囲が縮小される。
【0080】
また、本実施形態では、ECU20が、記憶装置44を含む。レバー43の固着情報は、記憶装置44に記憶される。たとえば、船外機本体7の傾斜角度がチルト範囲内にあるときの回動角度で角度検出装置37のレバー43が固着しており、実際の船外機本体7の傾斜角度がトリム範囲内にある状態で、船外機2への電力供給を停止させて、船舶1を沖で碇泊させる場合を想定する。この場合、船外機本体7の傾斜角度がトリム範囲内にあるから、船外機2を再び起動させたときに、PTT機構9を駆動せずに船舶1を航走させる操作が行われると予想される。このとき、PTT機構9を駆動するためのスイッチ操作が行われないためPTT機構9の角度検出値が変化した否かの判定が行われず、船外機2が再起動された後に角度検出値の変化に基づいてレバー43が固着しているか否かを判定できない。
【0081】
しかし、本実施形態では、記憶装置44が不揮発性メモリーであるから、船外機2への電力供給が停止される前に、レバー43の固着情報が記憶装置44に記憶されている場合には、船外機2が再起動された後にも、この情報が記憶装置44に保持されている。したがって、この場合には、船外機2が再起動された後にPTT機構9が駆動されなくても(PTT機構9を駆動するためのスイッチ操作が行われなくても)、ECU20は、レバー43が固着していると判定し、保護制御を終了する。そのため、船外機2が再起動された後に、実際の船外機本体7の傾斜角度がトリム範囲内であるにもかかわらず、船外機本体7の傾斜角度が保護制御を行う所定角度範囲R1内であると誤って判定されて、エンジン15の回転速度が強制的に低下されることが防止される。これにより、通常航走時に、推進力が強制的に低下されることが防止される。
【0082】
この発明の実施の形態の説明は以上であるが、この発明は、前述の実施形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。たとえば、前述の実施形態では、ECU20がエンジン15を失火させて、エンジン15の回転速度を低下させる場合について説明した。しかし、ECU20は、他の方法によりエンジン15の回転速度を低下させてもよい。具体的には、ECU20は、たとえば、各気筒24で点火時期を遅らせたり、燃料噴射装置から噴射させる燃料の噴射量を減少させたり、スロットルバルブの開度を減少させたりすることにより、エンジン15の回転速度を低下させてもよい。
【0083】
また、前述の実施形態では、ECU20が、最大で3つの気筒24を失火させてエンジン15の回転速度を低下させる場合について説明した。しかし、ECU20が失火させる気筒24の最大数は、エンジン15に設けられた気筒24の数に応じて変更されてもよい。
また、前述の実施形態では、上限角度θ2がフルチルトアップ角度θup(船外機本体7の傾斜角度の最大値)と等しい角度である場合について説明した。しかし、上限角度θ2は、フルチルトアップ角度θupを超える角度であってもよいし、フルチルトアップ角度θup未満の角度であってもよい。すなわち、上限角度θ2は、異常角度θ3未満の角度であればよい。
【0084】
また、前述の実施形態では、2本のトリムシリンダ35が設けられている場合について説明した。しかし、トリムシリンダ35の数は、1本であってもよいし、3本以上あってもよい。また、トリムシリンダ35が設けられていなくてもよい。この場合、チルトシリンダ36が複数本設けられていてもよい。前述の実施形態では、チルトシリンダがスイベルブラケットに連結されており、トリムシリンダがスイベルブラケットに接触するように構成されている場合について説明した。しかし、スイベルブラケットを設けずにチルトシリンダが船外機本体に直接的に連結されていても良い。例えば、2本のチルトシリンダが回動機構として設けられ、これらが船外機本体と直接的に連結されていても良い。その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【0085】
以下に、特許請求の範囲に記載された構成要素と前述の実施形態における構成要素との対応関係を示す。
船体:船体3
エンジン:エンジン15
船外機本体:船外機本体7
固定部材:クランプブラケット11
水平軸:チルト軸13
取付機構:取付機構8
回動機構:PTT機構9
角度検出手段:角度検出装置37
回転速度検出手段:回転速度検出装置25
制御手段:ECU20
第1角度:フルトリムイン角度θin
第2角度:フルチルトアップ角度θup
第1シリンダ:チルトシリンダ36
船外機:船外機2
第3角度:フルトリムアウト角度θout
第2シリンダ:トリムシリンダ35
第4角度:下限角度θ1
前後進切替機構:前後進切替機構19
船舶:船舶1
【符号の説明】
【0086】
1 船舶
2 船外機
3 船体
7 船外機本体
8 取付機構
9 PTT機構
11 クランプブラケット
13 チルト軸
15 エンジン
19 前後進切替機構
20 ECU
25 回転速度検出装置
35 トリムシリンダ
36 チルトシリンダ
37 角度検出装置
41 チルトロッド
V1 速度閾値
V2 速度閾値
θ1 下限角度
θ2 上限角度
θ3 異常角度
θin フルトリムイン角度
θout フルトリムアウト角度
θup フルチルトアップ角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体を推進させる推進力を発生するエンジンを含む船外機本体と、
前記船体に固定される固定部材と前記固定部材に連結された水平軸とを少なくとも含み、前記船外機本体が前記水平軸まわりに回動できるように前記船外機本体を前記船体に取り付ける取付機構と、
前記船外機本体を前記水平軸まわりに回動させて、前記船外機本体を前記固定部材に対して傾ける回動機構と、
前記固定部材に対する前記船外機本体の傾斜角度に対応する角度検出値を出力する角度検出手段と、
前記エンジンの回転速度に対応する速度検出値を出力する回転速度検出手段と、
前記角度検出手段が出力する角度検出値と、前記回転速度検出手段が出力する速度検出値とが入力され、前記角度検出値と前記速度検出値に応じて、前記エンジンの回転速度が低下するように前記エンジンを制御する速度低下制御を実行する制御手段とを含み、
前記回動機構は、前記船外機本体を第1角度から前記第1角度よりも大きい第2角度まで支持して前記水平軸まわりに回動させる第1シリンダを含み、
前記角度検出手段は、前記角度検出手段に異常が生じたときに、前記第1角度よりも小さい前記傾斜角度に対応する前記角度検出値または前記第2角度よりも大きい前記傾斜角度に対応する前記角度検出値を出力するように構成されており、
前記制御手段は、前記角度検出値が、前記第1角度よりも小さい前記傾斜角度に対応する値または前記第2角度よりも大きい前記傾斜角度に対応する値であるときには、前記速度低下制御を実行しない、船外機。
【請求項2】
前記回動機構は、前記船外機本体を前記第1角度から前記第1角度よりも大きく前記第2角度よりも小さい第3角度まで支持して前記水平軸まわりに回動させる第2シリンダを含み、
前記制御手段は、前記角度検出値が、前記第3角度よりも大きく前記第2角度以下の前記傾斜角度に対応する値であり、前記速度検出値が第1速度値を超えるときに、前記速度低下制御を実行し、前記角度検出値が、前記第1角度以上前記第3角度以下の前記傾斜角度に対応する値であるときには、前記速度低下制御を実行しない、請求項1記載の船外機。
【請求項3】
前記第1速度値は、前記船外機本体の傾斜角度が前記第2角度である状態で前記船外機本体から前記回動機構へ加わる荷重が、前記回動機構、取付機構および船体の少なくとも一つが破損する荷重よりも小さいときの前記エンジンの回転速度に対応する速度検出値である、請求項2記載の船外機。
【請求項4】
前記制御手段は、前記第1速度値を前記角度検出手段から入力された角度検出値に基づいて変化させるように構成されている、請求項2記載の船外機。
【請求項5】
前記第1速度値は、前記船外機本体の傾斜角度が前記第3角度よりも大きく前記第2角度以下である状態で前記船外機本体から前記回動機構へ加わる荷重が、前記回動機構、取付機構および船体の少なくとも一つが破損する荷重よりも小さいときの前記エンジンの回転速度に対応する速度検出値であり、前記船外機本体の傾斜角度ごとに定められた複数の値を含む、請求項4記載の船外機。
【請求項6】
前記制御手段は、前記角度検出値が、前記第3角度よりも大きく前記第2角度よりも小さい第4角度以上で前記第2角度以下の前記傾斜角度に対応する値であり、前記速度検出値が前記第1速度値を超えるときに、前記速度低下制御を実行する、請求項2〜5のいずれか一項に記載の船外機。
【請求項7】
前記制御手段は、前記回動機構が前記船外機本体を回動させる前後で、前記角度検出手段から入力された角度検出値が変化しない場合には、前記速度低下制御を実行しない、請求項1〜6のいずれか一項に記載の船外機。
【請求項8】
前記船外機本体は、前進状態と後進状態とを含む複数の状態に切り替わる前後進切替機構を含み、
前記制御手段は、前記前後進切替機構が前記前進状態でない場合、前記速度低下制御を実行しない、請求項1〜7のいずれか一項に記載の船外機。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の船外機と、
前記船外機が取り付けられた船体とを含む、船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−235846(P2011−235846A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111105(P2010−111105)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】