船外機の排気装置
【課題】比較的簡素且つコンパクトな構成で、優れた排気性能を実現する船外機の排気装置を提供する。
【解決手段】エンジンケースを構成するケース本体101の一部に筒状の隔壁47を設け、隔壁47の上端はケース本体101の上端付近とすると共に、その下端はマフラ室に連結し、排気ホース28の上端はエキゾーストパイプ27の出口に連結すると共に、その下端はマフラと連結し、排気ホース28はケース本体101から隔壁47内を通って、マフラ室へと配索される。隔壁47の側面の一部は、ケース本体101により形成される。
【解決手段】エンジンケースを構成するケース本体101の一部に筒状の隔壁47を設け、隔壁47の上端はケース本体101の上端付近とすると共に、その下端はマフラ室に連結し、排気ホース28の上端はエキゾーストパイプ27の出口に連結すると共に、その下端はマフラと連結し、排気ホース28はケース本体101から隔壁47内を通って、マフラ室へと配索される。隔壁47の側面の一部は、ケース本体101により形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機に搭載されるエンジンからの燃焼ガスを排出するための排気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶もしくは舟艇の推進機関あるいは推進システムの主なものとして船外機、船内外機及び船内機等がある。このうち船外機はアウトボードドライブ等と呼ばれ、エンジン、その捕機類、駆動系のギアやシャフト及びスクリュー等が一体化して構成されており、一般には船体船尾のトランサムボードに搭載される。典型的には小型の舟艇等に搭載され、ステアリング機能とチルティング機能を有している。
【0003】
また、船内外機は、小型船舶等の推進機関の設置方法として、インボードエンジン・アウトボードドライブ等と呼ばれ、エンジンを船内船尾部に搭載すると共に減速ギア、前後進クラッチ及びプロペラ等を一体化してなるドライブユニットをトランサムボードの外部に配置したものである。
【0004】
これら船外機、船内外機あるいは船内機いずれにおいても、動力源として内燃機関であるエンジンを搭載する場合、エンジンに燃焼用空気を供給する吸気装置や燃焼後の排気ガスを排気する排気装置は、エンジン性能に著しく影響するため極めて重要な装置である。船外機等では特に使用環境等との関係で、陸上の場合と比べて制約も厳しくなる。とりわけ排気装置、特にマフラにあっては、このような条件下での使用に有効に対応し得るかは極めて重要であり、従来より種々の工夫がなされている。
【0005】
例えば特許文献1には、船内機(船内外機)の乾式空中排気の例が記載されている。この例では自動車用エンジンと同じ構成であるが、触媒からマフラ部分が船内に配置されている。
また特許文献2には、PWC(Personal Water Craft)における乾式空中排気の例が記載されている。この例ではマフラ部分を2重構造とし、水冷としている。
【0006】
更に特許文献3には、船外機の乾式水中排気の例が記載されている。この例ではコンパクトで消音性能も高くできるが、排気圧力が高くなってしまう。そのためアイドル時には別系統空中排気して対応している。
また特許文献4には、ポッド(POD)型船内機の乾式水中排気の例が記載されている。この例ではアイドル時の排気抜きがない構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−173443号公報
【特許文献2】特開平7−144697号公報
【特許文献3】特開2003−003840号公報
【特許文献4】米国特許第7387556号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のものでは触媒からマフラ部分が船内となるため、これを冷却するには大量の空気を必要とする上、断熱を行うには大きなスペースを必要とするので、船内での居住積載空間が小さくなってしまうという問題がある。また、エンジン及びマフラ間距離を長く取ることができず、排気温度が下がり難くなり消音性能も良くなかった。
また、特許文献2のものではマフラ部分を2重構造の水冷としているため、スペースは小さくなるものの、重量が増してしまうという問題がある。
【0009】
更に、特許文献3のものではアイドル時には別系統空中排気により対応しているが、船外機にあってはその別系統の出口を水面上充分な高さとすることができない。このため後進時や深喫水時には水面下に没することも多く、アイドル時の安定性能を確保するのが難しかった。また、同様の理由から喫水に対して触媒を充分高く設定することができないという問題もある。
また、特許文献4のものではアイドル時の排気抜きがないので、安定したアイドル性能を確保するためにはアイドル回転数を上げなければならず、燃費及び消音性能が悪化せざるを得なかった。また、水中障害物と衝突した際、チルトして衝撃力を緩和するのが難しいという問題がある。
【0010】
更に、その他の例において、船内外機の湿式空中排気の例では乾式空中排気に比べてコンパクトで船内居住積載空間は大きくなるものの、アイドル(低速)時には排気脈動で湿式水が叩かれ、消音性能は低くなる。
また、別の船内外機の湿式水中排気の例では消音性能は高く、コンパクトではあるが、推進器のステアリングやチルトに伴い主排気通路のベローズが屈曲する。このことから、そのベローズの耐久性や信頼性が低く、最悪の場合にはベローズから船内に浸水するおそれがある。
【0011】
本発明はかかる実情に鑑み、比較的簡素且つコンパクトな構成で、優れた排気性能を実現する船外機の排気装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による船外機の排気装置は、エンジンケース内部にエンジンが収容されると共に、該エンジンケース外部に前記エンジンによって駆動される推進機を備えた船外機において、前記エンジンからの燃焼ガスを排出するための排気装置であって、前記エンジンケースの一部に筒状の隔壁を設け、該隔壁の上端は前記エンジンケースの上端付近とすると共に、その下端はマフラ室に連結し、排気ホースの上端はエキゾーストパイプの出口に連結すると共に、その下端は前記マフラと連結し、前記排気ホースは前記エンジンケースから前記隔壁内を通って、前記マフラ室へと配索されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の船外機の排気装置において、前記隔壁の側面の一部は、前記エンジンケースにより形成されることを特徴とする。
また、本発明の船外機の排気装置において、前記エキゾーストパイプの頂点よりも下流側に設けた噴射ノズルから、該エキゾーストパイプ内に水を噴射し、前記排気ホース及び前記マフラを湿式とする。
また、本発明の船外機の排気装置において、前記排気ホース及び前記マフラはゴム製であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の船外機の排気装置において、前記マフラの開口端の高さは、船底よりも上方に且つ前記エンジンよりも下方に設定されることを特徴とする。
また、本発明の船外機の排気装置において、前記マフラ内に逆止弁を配設することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の船外機の排気装置において、前記マフラを水平配置すると共に、該マフラの形状に沿って前記エンジンケースの下面を凹状に形成して前記マフラをその凹状内に収容し、前記マフラは、前記エンジンケースの下面とマフラカバーとに挟まれて固定されることを特徴とする。
また、本発明の船外機の排気装置において、前記マフラの開口端は、前記エンジンケースの後面下端付近であって、その中央部から離間して配置されることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の船外機の排気装置において、前記エンジンの回転数が低く且つその排気圧が低い時、排気レリーズ系を介して排気することを特徴とする。
また、本発明の船外機の排気装置において、前記サイフォン管の後半部に前記排気レリーズ系の排気取出口を設けることを特徴とする。
また、本発明の船外機の排気装置において、前記エンジンケースの中央凹部の上面から下方に向けて、前記排気レリーズ系の開放端を設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ケース本体の外部に形成されるマフラ室内のマフラ周囲の水は、隔壁上端を越えない限り、エンジンケース内には進入することができず、エンジンケースの被水環境を安全に保持することができる。また、排気ホースやマフラに対する冷却性や周囲部材との適正な結合配置関係を維持し、典型的にはゴム製とすることで軽量且つ低コスト化を図ることができる等の効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る船外機を搭載した船舶もしくは舟艇の例を示す斜視図である。
【図2】本発明の船外機の外観を示す斜視図である。
【図3】本発明の船外機の外観を示す後面図である。
【図4】本発明の船外機の外観を示す側面図である。
【図5】本発明の船外機の外観を示す前面図である。
【図6】本発明の船外機におけるエンジンケース内部の構成例を示す斜視図である。
【図7】本発明の船外機におけるエンジンケース内部の主要構成の分解斜視図である。
【図8】本発明の船外機のエンジンユニットの構成及び配置例を示す斜視図である。
【図9】本発明の船外機の吸排気系における排気装置の構成例を示す斜視図である。
【図10】本発明の船外機におけるケースカバーを取り外してケース本体の内部を示す上面図である。
【図11】本発明の船外機におけるエンジンケースに設けた隔壁の上端付近及びエキゾーストパイプまわりをそれぞれ示す斜視図である。
【図12】本発明の船外機におけるマフラカバーを取り外した状態のエンジンケースの下面図である。
【図13】本発明の船外機におけるマフラカバーの構成例をそれぞれ示す斜視図である。
【図14】本発明の船外機におけるマフラカバーまわりの構成例をそれぞれ示す断面図である。
【図15】本発明の船外機に係る排気レリーズ系を示す上面図、その膨張室の断面図及び排気放出口まわりを示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づき、本発明における船外機の排気装置の好適な実施の形態を説明する。
図1は、本発明に係る船外機10を搭載した船舶もしくは舟艇の例を示している。この例では船舶は典型的には中小型とし、船体1の後部にトランサムボード2(船尾板)有するものとする。船外機10は図示のようにトランサムボード2を利用して搭載される。なお、以下で参照する各図の要所において、前方(船首側)を矢印Frにより、後方(船尾側)を矢印Rrによりそれぞれ示す。また、必要に応じて船体の左右方向(船幅方向)をそれぞれ矢印L、矢印Rにより示す。
【0020】
ここで先ず本実施形態に係る船体1において、図1のように船体1の底部に船床3が敷設され、この船床3の後端にトランサムボード2が配置される。船床3の中央部付近において操縦席4が設けられ、操縦席4にはハンドル5を始めとする操縦に必要な装置及び機器類、計器類等が配設される。船外機10は動力、推進機、転舵装置及びチルト装置等が一体的に装備され、所謂オールインワンタイプとして構成され、船体1側に燃料タンク、バッテリ等の通常の備品があれば運転可能である。
【0021】
なお、船舶としてこの図示例のものに限定されず、その他トランサムボードの後側に船外機搭載用のブラケット等を具備した船体もあり、つまり船体の船尾に船尾板又はこれに相当する部位もしくは部材を有するタイプのものに対して、本発明の船外機10は有効に適用可能である。
【0022】
図2〜図5は船外機10の外観を示し、図2は船外機10の斜視図、図3は後面図、図4は側面図及び図5は前面図である。船外機10は樹脂製エンジンケース100を有し、このエンジンケース100内部に後述する動力源であるエンジンユニットを収容すると共に、エンジンケース100の後部下方にスクリュー(プロペラ)を配置し、エンジンユニットによってスクリューを回転駆動する。エンジンケース100は船外機10の外観を構成する外装部材としても機能し、全体として一体感のある外観を呈している。
【0023】
エンジンケース100は図1をも参照して、船体1の船尾部(典型的にはトランサムボード2とする)と略同一の幅を有する筐体として構成される。この例ではエンジンケース100の基本的な形態は概略直方体とし、該直方体の長手方向が船幅方向としている。エンジンケース100はエンジンユニット及びその周辺部品もしくは部材を収容するケース本体101と、ケース本体101の上部開口を覆うケースカバー102とを有する。
【0024】
エンジンケース100内に収容されるエンジンユニット及びその周辺部品等について説明する。本発明の船外機10はそのパワーユニットとして内燃機関を主動力とし、これを作動させて推進機を駆動する。図6は船外機10におけるエンジンケース100内部の構成例を示し、図7はエンジンケース100内の主要構成の分解斜視図である。エンジンケース100内において、パワーユニットを構成するエンジンユニット11が、コンパクト且つ重量バランス良く配置収容される。この実施形態では2基のエンジンユニット11を有し、その筐体の長手方向が船幅方向としたエンジンケース100の左右に、一対のエンジンユニット11がセンタ振分けで配置される。各エンジンユニット11には、吸気系12及び排気系13が接続されると共に、それぞれの出力端(クランクシャフト)に動力伝達機構14が連結される。動力伝達機構14はエンジンユニット11の後側にて左右方向中央部で推進機15と結合し、これらの船外機構成部材が図7のようにフレーム16上に搭載支持される。
【0025】
更に具体的に説明すると、エンジンユニット11において、この例では水冷式直列4気筒4サイクルガソリンエンジンを使用する。なお、エンジン気筒数等は必要に応じて適宜変更可能であり、この例に限定されるものではない。図8を参照して、エンジンユニット11においてクランクケース17、シリンダブロック18、シリンダヘッド19及びシリンダヘッドカバー20が順次重なるように一体的に結合し、最下部にオイルパン21が付設される。各エンジンユニット11のクランクシャフトは船幅方向(左右方向)に沿って配置され、その軸端に結合するエンジン出力軸が左右両外側に位置するように配置され、即ち右側のエンジンユニット11のエンジン出力軸は右側に、左側のエンジンユニット11のエンジン出力軸は左側となるように配置される。
【0026】
次に吸気系12において、図6に示すようにエンジンユニット11相互間に単一のエアクリーナ22が配置される。一方、図8に示されるように右側のエンジンユニット11のシリンダヘッド19の前側に、及び左側のエンジンユニット11のシリンダヘッド19の後側にそれぞれインテークマニホールド23が結合し、これらのインテークマニホールド23とエアクリーナ22との間がそれぞれインテークパイプ24を介して接続される。エアクリーナ22の前面部からエンジンケース100前部の船体1側まで吸気管25が延出し(図9参照)、その先端の空気取込み口から空気を取り込むようになっている。空気取込み口は、船体1において波、しぶき及び雨等に曝されることがない部屋もしくはスペースに設置される。図8に示されるように各エンジンユニット11において、単一の吸気管25はインテークマニホールド23において複数(この例では4つ)に分岐する。
【0027】
排気系13において、図7等に示されるように右側のエンジンユニット11のシリンダヘッド19の後側に、及び左側のエンジンユニット11のシリンダヘッド19の前側にそれぞれエキゾーストマニホールド26が結合し、それらは単一のエキゾーストパイプ27に接続する。エキゾーストパイプ27にはゴム製の排気ホース28が接続され、排気ホース28にはマフラ29が接続される。このマフラ29には排気ホース30が接続され、この排気ホース30に取り付けられた排気出口31から排気ガスが排出されるようになっている。
【0028】
マフラ29は、エンジンケース100のケース本体101の下面外側に設置される。この場合、マフラ29及び排気ホース30等はケース本体101の下面から実質的に突出しないように配置されると共に、ケース本体101の後面左右両側の下部付近に配置された排気出口31から左右バランス良く水中に排気される。
【0029】
動力伝達機構14はエンジンユニット11の出力を推進機15へと伝達する。動力伝達機構14において、左右のエンジンユニット11のエンジン出力軸には図7に示されるように減速機32が連結される。減速機32のケーシング33内に回転自在に軸支されたギア群を有し、その出力軸にタイロッド34が連結される。左右のタイロッド34は相互に同心且つ水平で左右方向に配置され、左右中央部で中間減速機35と連結する。各タイロッド34は両端でそれぞれユニバーサルジョイント36,37を介して、減速機32及び中間減速機35と連結する。なお、タイロッド34はその軸方向途中適所でスプレライン係合構造を有し、全体としての長さが伸縮可能になっている。
【0030】
中間減速機35は、それぞれタイロッド34に連結する一対の入力側ベベルギアとこれらの入力側ベベルギアに噛合する出力側ベベルギアとを含む。出力側ベベルギアは、ドライブシャフトケース38内のドライブシャフトと連結し、中間減速機35、ドライブシャフトケース38及びスイベルブラケット39が、相互に一体的に結合する。ドライブシャフトは中間減速機35から下方へ延出する。これらのスイベルブラケット39等はベアリング40を介して、ケース本体101に回動可能に支持される。
【0031】
推進機15は図7等に示されるように、ドライブシャフトケース38の下方に配置される。推進機15は、プロペラ駆動用のギアを内蔵するギアケース41を含み、全体としてフィン状を呈する。ギアケース41の後端部にはプロペラ42が装架される。ドライブシャフトはドライブシャフトケース38内を通って更に下方へ延出し、ギアケース41内まで延設される。ギアケース41内には最終減速機が構成され、この最終減速機を介してプロペラ42を回転駆動することができる。
【0032】
更に、推進機15に対するチルト機構及びステアリング機構を備えている。これらについての詳細な説明は省略するが、先ずチルト機構により中間減速機35、ドライブシャフトケース38及び推進機15全体がチルト軸T(図2、図3参照)のまわりに上下方向に回動可能である。チルト軸Tはタイロッド34と同軸に設定され、推進機15はチルト軸Tのまわりにチルト動作することができる。なお、チルト機構において所謂パワートリムチルト(PTT)等と称する駆動装置を備え、電動油圧式のチルト機構が構成されるものであってよい。
【0033】
また、ステアリング機構により推進機15は、ステアリング軸S(図2、図3参照)のまわりにヨー方向(左右方向)に回動可能である(ヨーイング)。このステアリング機構において、例えば電動油圧式に油圧駆動されるステアリングシリンダを有し、油圧ポンプを油圧源としてステアリングロッドに沿って往復動させることで推進機15が左右方向に回動、即ちステアリング動作することができる。
【0034】
上述した船外機10の主要構成部材は図6のようにフレーム16上に搭載支持される。フレーム16は鋼管等の材料を用いて、図7に示されるようにエンジンケース100を構成する筐体の直方体に略沿った外形となるように形成される。フレーム16の所定部位にはエンジンユニット11を搭載支持するための複数のエンジンマウント43が配設され、これらのエンジンマウント43を介してエンジンユニット11がフレーム16上に取り付けられる。また、フレーム16の後部には、前述したスイベルブラケット39等を支持するためのベアリング40が装着されるメインブラケット44が取り付けられる。
【0035】
更に、フレーム16の前面部には複数のトランサムボルト45が前方に向けて取り付けられる。フレーム16にはエンジンユニット11を始めとする船外機構成部材が搭載されるが、それらを搭載したフレーム16はエンジンケース100内に収容される。トランサムボルト45はそのようなエンジンケース100のケース本体101の前面部を貫通してトランサムボード2に締結され、これによりエンジンケース100全体をトランサムボード2に締着固定することができる。なお、ケース本体101から突出するトランサムボルト45にはシールもしくはパッキン等が装着され、水密性が確保される。
【0036】
前述のようにエンジンケース100は、エンジンユニット11やその周辺部品を収容するケース本体101と、ケース本体101の上部開口を覆うケースカバー102とを有する。ケース本体101に対してケースカバー102が閉じることでエンジンケース100内は実質的に密閉空間となり、高い水密性が確保される。この場合、船外機10の構成部材はフレーム16によって支持され、フレーム16はエンジンユニット11を保持すると共に推進機15の推進力や操舵力を受け持ち、即ちエンジンケース100自体にはそれらの負荷荷重がかからない。また、エンジンケース100は図1に示されるように、船外機10の外装部材としても機能し、船外機10に搭載されて全体として一体感の外観を呈する。
【0037】
図2〜図4等に示されるようにケース本体101の後面側において、その後面部から底面部へかけての領域において、船幅方向中央部にはケース本体101の内方へ凹むように形成された凹部103が設けられている。この凹部103まわりには、推進装置を構成する推進機15やそのチルト及びステアリング機構等が配設される。凹部103はケース本体101の後面側から前方へ向けて形成されるが、チルト機構及びステアリング機構あるいはそれらの周辺機器や部材等がチルトあるいはステアリング動作する際にケース本体101と干渉しないように必要且つ十分な間隙が設けられている。
【0038】
また、前述したように船体1側には燃料タンク、バッテリ等の備品が配備され、これらの備品と船外機10とが接続もしくは連結される。この場合、図5に示すようにケーシング101の前面部とトランサムボード2との間で穴を共あけするかたちで、複数の貫通孔104が形成されている。即ち、エンジンに燃焼用空気を供給するための吸気管25を挿通させるための貫通孔104A、燃料タンクからエンジンに燃料を供給するための燃料パイプを挿通させるための貫通孔104B、エンジンケース100内を換気するための換気空気用筒体を通すための貫通孔104C等が形成される。更に、エンジンケース100内の装置もしくは機器類又は部材と船体1側の操縦装置との間を、電気的(制御信号等を含む)あるいは機械的に接続するコード又はケーブル類を挿通させるための貫通孔104Dが形成される。なお、これらの貫通孔104には吸気管25等の実装時に水密保持手段(シール等)が施される。
【0039】
ケースカバー102はエンジンケース100の上面部を構成するが、図2あるいは図3に示されるようにケース本体101の後部上端付近にてヒンジ105を介して回動可能に結合する。ケースカバー102をヒンジ105のまわりに回動させて開成することで、エンジンケース100内部が開放され、これにより露呈したエンジンケース100内部のエンジンユニット11等に自由にアクセス可能となる。ケースカバー102を開けて内部の点検等を容易に行うことができ、この種の作業の利便性を向上することができる。
【0040】
なお、ケース本体101とケースカバー102の閉合部もしくは合せ面には、シールが敷設され、ケースカバー102をケース本体101に対して閉めることでエンジンケース100の高い水密性が確保・保持される。この場合、そのシールは、ケース本体101及びケースカバー102の合せ面に沿って全周に亘って敷設される。そして、ケースカバー102が閉まった際にはケース本体101の閉合部との間に挟着され、これによりエンジンケース100に対する高い水密性が得られる。
【0041】
また、ケースカバー102をケース本体101に対して閉じた際、ケースカバー102をその閉合状態に固定保持するための、図2〜図4に示されるようなロック機構106を有している。
一方、ケースカバー102をその開き状態に保持可能な保持機構を有し、この保持機構の詳細な説明は省略するが、ケース本体101に対してケースカバー102を開いた状態に保持することができる。
【0042】
上記の場合、上述した船外機10の構成部材の他に、エンジンユニット11の冷却配管系、チルト機構及びステアリング機構の駆動用の油圧配管系あるいは部材相互間等で電気信号もしくは電力等を授受するための電気信号線又はコード類等がエンジンケース100内の適所に引き回されると共に、船外機10の運転に必要な補機類が配設される。そして、これらの配管系等を介して、あるいは補機類が作動して、船外機10の適正な運転が遂行される。
【0043】
本発明において、図9のように排気系13におけるエキゾーストマニホールド26、エキゾーストパイプ27、排気ホース28、マフラ29及び排気ホース30等を含んで構成される排気装置200を有する。この排気装置200はエンジンで発生した燃焼ガスを排出するが、ここで、シリンダヘッド19を挟んでその両側にインテークマニホールド23(図8参照)及びエキゾーストマニホールド26が結合する。インテークマニホールド23は各気筒の吸気ポートに接続され、この吸気ポートに混合気が供給される。吸気ポートからシリンダヘッド19の燃焼室に吸入された混合気は爆発後、排気ポート46(図8)から排出される。各気筒の排気ポート46はエキゾーストマニホールド26に接続され、各気筒からの排気ガスはエキゾーストマニホールド26で合流して、エキゾーストパイプ27更にはマフラ29を通って排気出口31から水中に排出される。
【0044】
図9にも示されるようにエキゾーストマニホールド26は、エンジンユニット11の排気ポート46側で気筒の列設方向、即ち船幅方向に延設される。この例ではエンジンユニット11は直列4気筒エンジンであるため、4つのマニホールド26A〜26Dを有し、各マニホールド26A,26B,26C,26Dはそれぞれ対応する気筒の排気ポート46に接続される。マニホールド26A〜26Dはこの例では♯2又は♯3気筒付近で合流して、その上向きに開設された排気開放端にてエキゾーストパイプ27と接続する。エキゾーストパイプ27はエキゾーストマニホールド26から略上方に指向して延出し、概略U字状に湾曲しながら折り返して排気ホース28の上端が接続される。このように湾曲するエキゾーストパイプ27は、サイフォン状を呈して配置される。排気ホース28は略直線状に下方に延出し、その下端が適宜湾曲しながらエンジンケース100の底部に配置されているマフラ29に接続される。
【0045】
ここで、排気ホース28の配設構造において、エンジンケースの一部に筒状の隔壁を設け、この隔壁内を通ってマフラ29へと延設される。図10において、右側のエンジンユニット11の例で説明すると、図10はケースカバー102を取り外してケース本体101の内部を示す上面図であるが、ケース本体101の筐体の後面内側101aにおいて略上下方向に筒状の隔壁47が形成される。この隔壁47はケース本体101の内方へ膨出するように形成され、その筒状の内部は排気ホース28を収容するトンネル状のガイド空間48となる。このガイド空間48は隔壁47によってケース本体101内部と隔絶されるが、この場合、隔壁47の側面の一部は、エンジンケース101自体により形成される。即ち、排気ホース28のガイド空間48の後側はケース本体101の筐体の後面内側101aにより形成される。このためガイド空間48はトンネル状あるいは筒状ではあるが、その断面形状は円形ではなく、後側は平坦である。左側のエンジンユニット11についても同様に、シリンダヘッド19の前側に結合するエキゾーストマニホールド26には排気ホース28が接続されるが、この場合、ケース本体101の筐体の前面内側101bにおいて略上下方向に筒状の隔壁が形成される。
【0046】
図11(a)に示されるように隔壁47の上端は、エンジンケース100のケース本体101の上端付近に設定され、これがガイド空間48の上方開放端となる。図11(a)においてはガイド空間48の上端部のみが図示されているが、ケース本体101の後面内側101aに沿ってその底部まで延設される。図11(b)に示されるようにエキゾーストパイプ27はサイフォン状に形成され、そのサイフォン状の排気出口側端部に排気ホース28の上端が連結する。排気ホース28はガイド空間48内を通って、その下端は後述するマフラ室に配置されたマフラ29に連結する。
【0047】
更に、図11(b)に示されるようにエキゾーストパイプ27の頂点よりも排気通路下流側に噴射ノズル49が装着され、この噴射ノズル49から水、典型的には海水を噴射するようになっている。本実施形態ではエキゾーストパイプ27の周囲を覆うように形成された冷却用ウォータジャケットが付設されており、このウォータジャケットに供給される冷却水が噴射ノズル49から噴射されるようにしている。なお、船外機10には冷却水の汲上げポンプが搭載され、汲み上げた冷却水を噴射ノズル49によってエキゾーストパイプ27の排気通路の下流方向に指向して噴射排出する。このようにエキゾーストパイプ27内に冷却水を排出し、排気ホース28そしてその下流側に接続されるマフラ29が湿式となる。
【0048】
マフラ29は、ケース本体101の下面且つ外側に設置される。図12に示されるようにケース本体101の下面視で一対のマフラ29が概略「ハ」字状を呈するように、別言すれば略二等辺三角形の二等辺に対応するように配置される。この場合、右側のエンジンユニット11に接続されるマフラ29は、その内部の排気通路の上流側が後方となり、左側のエンジンユニット11に接続されるマフラ29については、下流側が前方となるようにそれぞれ水平配置される。これらのマフラ29が配置されるケース本体101の下面の中央部は略平坦状であり、この中央部の左右両側が適度に上方へ傾斜している。なお、右側のマフラ29に接続される排気ホース30は、該マフラ29の側近に沿って配置され、ケース本体101の後面下部付近で排気出口31に接続される。
【0049】
マフラ29及び排気ホース30は、ケース本体101の下面から突出しないように配置される。このように配置するために、ケース本体101の下面にはマフラ29及び排気ホース30を収容するためのマフラ室50が形成される。このマフラ室50はケース本体101の下面外側からケース本体101の内方へ向けて凹設され、ケース本体101の底面にて内側へ凸状となる。マフラ室50はマフラ29等の配置に対応して概略「ハ」字状を呈する。マフラ29及び排気ホース30は図12に示されるように、マフラ室50内にすっぽりと嵌まり込むように収容配置される。その場合、マフラ29の外周部を取付金具(もしくはブラケット等)51(図14(b)参照)によって適度な力で押圧し、マフラ29をマフラ室50内に的確に固定する。なお、取付金具51はボルト52により締着固定される。
【0050】
上記のようにマフラ室50に配置されたマフラ29等は、図13に示されるようにマフラカバー53によって覆われる。マフラカバー53はケース本体101の底部まわりに係合し、その状態でボルトによって締着固定される。このようにマフラ29は、エンジンケース101の下面とマフラカバー53とに挟まれるかたちで固定される。マフラカバー29がケース本体101に被着することで、エンジンケース100の下面は極めて平滑な面となる。このようにマフラ29は、ケース本体101の凹設されたマフラ室50に間装され、取付金具51によってぶら下げられる。また、この場合マフラカバー53はマフラ29直下でもケース本体101から外に向かって膨らまず、エンジンケース100の下面は全体的に極めて平滑化されている。
【0051】
図14は、マフラ室50内に収容されたマフラ29を示している。図14(a)のようにこの例ではマフラ29内の排出通路の上流及び下流側に逆止弁54が配設される。これらの逆止弁54は実線及び点線で示されるように、両矢印方向に回動してマフラ29内の排気通路を開閉するようになっている。この場合、点線のように閉じることで逆流を抑止することができる。
【0052】
また、マフラ29の開口端である排気出口31は、その高さ位置が図4に示されるように船体1の船底1aよりも上方に設定される。また同時に、排気出口31はエンジンよりも下方の高さ位置に設定される。排気装置200において、マフラ29及びこれに接続する排気ホース30は図6等に示されるように、エンジンユニット11の下側へ回り込み、排気ホース30の先端に付設された排気出口31はケース本体101の後面に突出配置される。前述したように排気ホース30を含めマフラ29は略水平配置されるため、従って排気出口31自体もエンジンよりも下方位置に配置される。
【0053】
更に図2及び図3等に示されるように、排気出口31はケース本体101の後面下端付近において、その左右方向中央部から離間して配置される。ケース本体101の後面には凹部103が設けられ、この凹部103には推進機15が搭載される。排気出口31はケース本体101の船幅方向外側寄りに配設され、即ち凹部103からは離隔している。
【0054】
更に、本実施形態においてエンジンユニット11のエンジンの回転数が低く且つその排気圧が低い時、排気レリーズ系を介して排気するようにしている。この場合も右側のエンジンユニット11の例で説明すると、図11及び図15に示されるようにエキゾーストパイプ27の所定部位に接続されたレリーズ管56とこのレリーズ管56の途中に接続配置された膨張室57を含む排気レリーズ系55を備える。
【0055】
具体的にはエキゾーストパイプ27の後半部に排気レリーズ系55の排気取出口58を設け、この排気取出口58にレリーズ管56の一端が接続される。また、レリーズ管56の他端は排気レリーズ系55の開放端として、ケース本体101の凹部103の上面あるいは天井面に形成された排気放出口59に接続される。この排気放出口59を介して、凹部103の上面から下方に向けて排気レリーズするようにする。膨張室57は図11等のように箱型等のものであってよいが、図15(b)のように排気ガスが下部から入って上部から出でいくようにする。なお、排気放出口59には図15(c)のように放出ノズル60を装着し、この放出ノズル60にレリーズ管56を接続する。
【0056】
本発明の船外機10の基本的作動において、エンジンユニット11が始動すると、その動力は先ず減速機32へ入力され、次にその出力端からユニバーサルジョイント36を介してタイロッド34へ伝達される。エンジン動力は更に、タイロッド34から中間減速機35へ伝達されるが、中間減速機35において入力軸からベベルギアを介してドライブシャフトへ伝達され、これによりドライブシャフトが回転駆動される。ドライブシャフトの駆動力はギアケース41内の最終減速機において、ベベルギアを介してプロペラシャフト、更にプロペラ42へと伝達され、これによりプロペラ42が回転する。
【0057】
エンジン作動時、特に排気系13において、エンジンで発生した排気ガスが排気装置200から排出される。前述のように排気装置200はエキゾーストマニホールド26、エキゾーストパイプ27、排気ホース28、マフラ29及び排気ホース30等を含み、排気ガスは最終的にマフラ29を通って排気出口31から水中に排出される。
【0058】
上記構成において特に、排気ガスはエキゾーストパイプ27で水を排気通路内に注入され、これにより所謂、湿式排気が形成されることで、排気ガスの温度を下げられる。このように温度を下げた状態でエキゾーストパイプ27から排気ホース28へと排気ガスを流通させ、ケース本体101のガイド空間48を通ってマフラ室50内のマフラ29に接続される排気ホース30によって、排気出口31まで運ばれる。
【0059】
主排気口である排気出口31は滑走時喫水線L2よりは高く位置に、また静止時(非滑走時)喫水線L1よりは低い位置にある。このように配置される排気出口31から、エンジンが高速運転される滑走時のみ排気が排出される。従って、低速時の排気脈動で湿式注入水が叩かれる音がしない。排気ホース28及びマフラ29は湿式で温度が低くなっているため、その材質として金属ではなく、軽く且つダンピング特性に優れたゴムを使用することができる。この場合、湿式水中排気の船内外機のベローズのように推進部のステアリングやチルトに伴う曲げ変形を受けることはないので、耐久及び信頼性に優れる。
【0060】
また、マフラ29の開口端である排気出口31は、低速時(非滑走時)には水面下で後方に位置し、このため後進時には水深圧力に加えて正圧を受ける。この場合、水が逆流しないようマフラ29内にはフラップ形式の逆止弁54が設けられている。
【0061】
また、エキゾーストパイプ27の排気降流部(湿式部)には排気ガスの逃がし口(排気レリーズ系55の排気取出口58)が左右のエンジン毎設けられている。排気レリーズ系55は膨張室57、排気放出口59を経由してケース本体101の凹部103の天井面から船外機10の外部に排出される。エキゾーストパイプ27の排気昇流部(サイフォン状の前半部)には、図示しない触媒が装着されているので、排気レリーズ系55からの排気ガスも清浄化される。
【0062】
また、排気レリーズ系55の排気放出口59は静止時喫水線よりも充分上方に位置するため、静止時及び後進時に排気圧が上がり、マフラ29の逆止弁54が閉まった場合でも安定して排気することができ、エンジンの低速運転性能を良好に維持することができる。レリーズ管56の途中、典型的には中央部には膨張室57が設けられ、排気ガスの脈動を平滑化することで排気音が低減される。更に、膨張室57の出口開放端は、レリーズ管56に繋がる静音ノズル(ファンネル形状)となっており、排気レリーズ系55からの排気音は有効に低減される。また、膨張室57の入り口部は膨張室57の底面近くにあるので、排気ガスに混じった水はエンジン停止時にエキゾーストパイプ27の排気取出口58からマフラ29へと逆流して排出される。
【0063】
次に、本発明の特徴的な構成及びその作用効果等について説明すると先ず、ケース本体101の一部に筒状の隔壁47を設け、この隔壁47によりケース本体101内部と隔絶されるガイド空間48に収容された排気ホース28を介して、エキゾーストパイプ27とマフラ29とが連結される。
【0064】
マフラ室50自体はケース本体101の外部に形成されるが、このマフラ室50内に配置されるマフラ29周囲の水は、隔壁47上端を越えない限り、エンジンケース100内には進入することができない。従って、エンジンケース100の被水環境を損ねる心配がない。また、エンジンユニット11のエンジンは運転中にそれ自身の振動や、駆動及び推進系からの反力によって生じる揺動が生じる。これに対して、マフラ29はエンジンケース100に対してマフラカバー53によって固定されており、しかも排気ホース28がゴム製であるので、エンジンの振動及び揺動をマフラ29に伝わり難くする。また、隔壁47によって形成されるガイド空間48が排気ホース28よりも広いので、エンジン揺動時に排気ホース28が隔壁47に接触しない。これらによりマフラ29を有効に保護することができる。
【0065】
また、エキゾーストパイプ27は排気ホース28の上端に連結され、マフラ29から充分高い位置に設置される。これにより、排気開口端である排気出口31から海水が、あるいはまた噴射ノズル49から排気ガス内に注入した水がエキゾーストパイプ27を経由してエンジンに逆流することがない。更に、隔壁47内に余剰海水等の廃棄用ホースを通すことができる。
【0066】
また、隔壁47の側面の一部は、エンジンケース100のケース本体101により形成される。このように隔壁47をエンジンケース100内に設けることで、エンジンケース100の外観に影響せず、実質的に意匠性を向上することができる。
【0067】
また、エキゾーストパイプ27の頂点よりも下流側に設けた噴射ノズル49から、エキゾーストパイプ27内に水を噴射し、排気ホース28及びマフラ29を湿式とする。
このようにマフラ29を湿式とすることで、マフラ29の周囲を過熱しない。これにより冷却用のウォータジャケットを省略できるので、装置を軽量且つコンパクト化とすることができる。また、過熱を防ぐことで、高価な耐熱材料を使用する必要がなく、例えばゴム等の材質とすることができ、装置を実質的に低コストにすることができる。更に、排気ガス自体の温度が下がるので、音速が低下し騒音を減ずることができると共に、マフラ29と周囲との隙間を小さくし、装置をコンパクト化することができる。
【0068】
特に、排気ホース28やマフラ29をゴム製とし、このようにゴム等の可撓性材料を使用することで、それらが外部と多少接触しても磨耗や損傷を防止することができる。また、ゴム等の可撓性材料を使用することで、排気透過音を減ずることができると共に、マフラ29が腐食しない。更に、マフラ29の使用環境を海水被水状態とすることができる。
【0069】
また、マフラ29の開口端である排気出口31の高さは、船底1aよりも上方に且つエンジンよりも下方に設定される。
排気出口31が船底1aよりも上方に位置するので、排気出口31を含む排気系部品が走行中の流体抵抗にならない。また、エンジンよりも下方に位置するので、排気開口端からエンジンまで海水が逆流しない。
なお、舟艇速度の高い滑走時、排気出口31が水面よりも上なので、開排気系部品が流体抵抗にならない。一方、舟艇速度の低い非滑走時には、エンジン回転数が低いので排気そのものが少ない。
【0070】
また、マフラ29内に逆止弁54を配設することで、海水が排気系に逆流しない。特に後進時に排気圧が開弁圧以上にならない限り、開弁しないので、海水が逆流しない。
【0071】
また、マフラ29を水平配置すると共に、該マフラ29の形状に沿って形成したマフラ室50にマフラ29を収容し、マフラ29はケース本体101の下面とマフラカバー53とに挟まれて固定される。
ケース本体101の下面にマフラカバー53を被着し、マフラカバー53の底面に凸凹がないので、流体抵抗が小さい。また、マフラ29が凹状のマフラ室50内に収まるので、マフラ29周囲の空間容積を小さくし、非滑走時にマフラ29周囲に入り込んだ海水を、滑走時に短時間で排出することができる。
【0072】
マフラ29を水平に配置したので、未使用時にマフラ29内に水が残らなくすることができ、メンテナンス上有利である等の利点を有する。また、マフラ29をエンジンよりも下方に配置したので、エンジンを喫水から高い位置に配置することができ、エンジンに被水しない。また、マフラを喫水から高い位置にあるエンジンよりも高い位置に配置した場合に比べて、重心を下げることができ、走行安定性に優れる。
更に、マフラカバー53(下蓋)をケース凹部に沿った壁面で支えることができるので、航走時マフラカバー53に加わる水力をエンジンケース100やエンジンフレームに分散伝達することができる。従って剛性の高いケース下蓋を軽量に作成することができる。また、マフラカバー53をケース凹部に沿った壁面で支えることができるので、運搬又は整備の際一時的にボートに取り付けない場合等、一時的に床置きしても、自重をエンジンケース100やエンジンフレームに分散伝達することができる。従って、剛性の高いケース下蓋を軽量に作成することができる。
【0073】
また、マフラ29の開口端である排気出口31は、エンジンケース100の後面下端付近であって、その中央部から離間して配置される。
排気出口31をこのように配置することで、エンジンケース100自体が排気音に対する遮蔽物となって、乗船者に排気音が届き難くすることができる。また、排気出口31はエンジンケース100の中央部から離れているため、後進時に従来型船外機のように排気がプロペラに絡んで、プロペラ性能を落とすことがない。
【0074】
また、エンジンユニット11のエンジンの回転数が低く且つその排気圧が低い時、排気レリーズ系55を介して排気する。
エンジン回転数が低い時は、滑走していないのでマフラ29の開口端は水面下にある。エンジン回転数が低い時に排気圧が上がり、そのままではエンジンが滑らかに運転されない。別系統の排気レリーズ系55を有し、排気レリーズ系55から空中に排気することで、排気圧が下がるためエンジンが安定して滑らかに運転できる。
【0075】
この場合、排気温度の低い場所、即ちエキゾーストパイプ27の後半部の排気取出口58から排気を取り出すので、排気レリーズ経路をゴム等の特に耐熱性を持たない材料を使用することができる。また、触媒通過後の浄化された排気を排出することができる。更にゴムホース等の可堯性の高い材料を用いることで、狭い場所にも配管できるので、全体がコンパクトになる。
【0076】
また、エンジンケース100の中央凹部103の上面から下方に向けて、排気レリーズ系55の開放端、即ち排気放出口59を設ける。
従来型の大型船外機ではボートからブラケットを介して取り付けられた場合、排気レリーズが水面下になることがままあった。これに対して本発明では排気レリーズ系55から排出される排気を水面から高い位置にすることができるので、どのようなボートに横置きエンジン船外機を取り付けても、排気レリーズ系55の開口端が水面下になることがないので、常に所定の性能を発生することができる。また、排気レリーズ系55の開放端がエンジンケース100の凹部103内に設けられるので、排気ガスでエンジンケース100が汚れても、直接見える部分ではなくなり、意匠面を汚さない。更に、後進時にも開放端が水面下にならないので、排気圧を低く保つことができる。この場合もエンジンケース100自体が遮蔽物となって、排気レリーズ音が乗船者に届き難い。
【0077】
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。
上記実施形態において排気ホース28及びマフラ29がゴム製である例を説明したが、耐熱性や一定強度を有するものであれば、合成樹脂製とすることも可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 船体、2 トランサムボード、3 船床、1a 船底、10 船外機、11 エンジンユニット、12 吸気系、13 排気系、14 動力伝達機構、15 推進機、16 フレーム、17 クランクケース、18 シリンダブロック、19シリンダヘッド、20 シリンダヘッドカバー、21 オイルパン、22 エアクリーナ、23 インテークマニホールド、24 インテークパイプ、25 吸気管、26 エキゾーストマニホールド、27 エキゾーストパイプ、28 排気ホース、29 マフラ、30 排気ホース、31 排気出口、32 減速機、33 ケーシング、34 タイロッド、35 中間減速機、36,37 ユニバーサルジョイント、38 ドライブシャフトケース、39 スイベルブラケット、40 ベアリング、41 ギアケース、42 プロペラ、43 エンジンマウント、44 メインブラケット、45 トランサムボルト、46 排気ポート、47 隔壁、48 ガイド空間、49 噴射ノズル、50 マフラ室、51 取付金具、53 マフラカバー、54 逆止弁、55 排気レリーズ系、56 レリーズ管、57 膨張室、58 排気取出口、59 排気ガス排気放出口、60 放出ノズル、100 エンジンケース、101 ケース本体、102 ケースカバー、103 凹部、104 貫通孔、105 ヒンジ、106 ロック機構、200 排気装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機に搭載されるエンジンからの燃焼ガスを排出するための排気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶もしくは舟艇の推進機関あるいは推進システムの主なものとして船外機、船内外機及び船内機等がある。このうち船外機はアウトボードドライブ等と呼ばれ、エンジン、その捕機類、駆動系のギアやシャフト及びスクリュー等が一体化して構成されており、一般には船体船尾のトランサムボードに搭載される。典型的には小型の舟艇等に搭載され、ステアリング機能とチルティング機能を有している。
【0003】
また、船内外機は、小型船舶等の推進機関の設置方法として、インボードエンジン・アウトボードドライブ等と呼ばれ、エンジンを船内船尾部に搭載すると共に減速ギア、前後進クラッチ及びプロペラ等を一体化してなるドライブユニットをトランサムボードの外部に配置したものである。
【0004】
これら船外機、船内外機あるいは船内機いずれにおいても、動力源として内燃機関であるエンジンを搭載する場合、エンジンに燃焼用空気を供給する吸気装置や燃焼後の排気ガスを排気する排気装置は、エンジン性能に著しく影響するため極めて重要な装置である。船外機等では特に使用環境等との関係で、陸上の場合と比べて制約も厳しくなる。とりわけ排気装置、特にマフラにあっては、このような条件下での使用に有効に対応し得るかは極めて重要であり、従来より種々の工夫がなされている。
【0005】
例えば特許文献1には、船内機(船内外機)の乾式空中排気の例が記載されている。この例では自動車用エンジンと同じ構成であるが、触媒からマフラ部分が船内に配置されている。
また特許文献2には、PWC(Personal Water Craft)における乾式空中排気の例が記載されている。この例ではマフラ部分を2重構造とし、水冷としている。
【0006】
更に特許文献3には、船外機の乾式水中排気の例が記載されている。この例ではコンパクトで消音性能も高くできるが、排気圧力が高くなってしまう。そのためアイドル時には別系統空中排気して対応している。
また特許文献4には、ポッド(POD)型船内機の乾式水中排気の例が記載されている。この例ではアイドル時の排気抜きがない構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−173443号公報
【特許文献2】特開平7−144697号公報
【特許文献3】特開2003−003840号公報
【特許文献4】米国特許第7387556号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のものでは触媒からマフラ部分が船内となるため、これを冷却するには大量の空気を必要とする上、断熱を行うには大きなスペースを必要とするので、船内での居住積載空間が小さくなってしまうという問題がある。また、エンジン及びマフラ間距離を長く取ることができず、排気温度が下がり難くなり消音性能も良くなかった。
また、特許文献2のものではマフラ部分を2重構造の水冷としているため、スペースは小さくなるものの、重量が増してしまうという問題がある。
【0009】
更に、特許文献3のものではアイドル時には別系統空中排気により対応しているが、船外機にあってはその別系統の出口を水面上充分な高さとすることができない。このため後進時や深喫水時には水面下に没することも多く、アイドル時の安定性能を確保するのが難しかった。また、同様の理由から喫水に対して触媒を充分高く設定することができないという問題もある。
また、特許文献4のものではアイドル時の排気抜きがないので、安定したアイドル性能を確保するためにはアイドル回転数を上げなければならず、燃費及び消音性能が悪化せざるを得なかった。また、水中障害物と衝突した際、チルトして衝撃力を緩和するのが難しいという問題がある。
【0010】
更に、その他の例において、船内外機の湿式空中排気の例では乾式空中排気に比べてコンパクトで船内居住積載空間は大きくなるものの、アイドル(低速)時には排気脈動で湿式水が叩かれ、消音性能は低くなる。
また、別の船内外機の湿式水中排気の例では消音性能は高く、コンパクトではあるが、推進器のステアリングやチルトに伴い主排気通路のベローズが屈曲する。このことから、そのベローズの耐久性や信頼性が低く、最悪の場合にはベローズから船内に浸水するおそれがある。
【0011】
本発明はかかる実情に鑑み、比較的簡素且つコンパクトな構成で、優れた排気性能を実現する船外機の排気装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による船外機の排気装置は、エンジンケース内部にエンジンが収容されると共に、該エンジンケース外部に前記エンジンによって駆動される推進機を備えた船外機において、前記エンジンからの燃焼ガスを排出するための排気装置であって、前記エンジンケースの一部に筒状の隔壁を設け、該隔壁の上端は前記エンジンケースの上端付近とすると共に、その下端はマフラ室に連結し、排気ホースの上端はエキゾーストパイプの出口に連結すると共に、その下端は前記マフラと連結し、前記排気ホースは前記エンジンケースから前記隔壁内を通って、前記マフラ室へと配索されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の船外機の排気装置において、前記隔壁の側面の一部は、前記エンジンケースにより形成されることを特徴とする。
また、本発明の船外機の排気装置において、前記エキゾーストパイプの頂点よりも下流側に設けた噴射ノズルから、該エキゾーストパイプ内に水を噴射し、前記排気ホース及び前記マフラを湿式とする。
また、本発明の船外機の排気装置において、前記排気ホース及び前記マフラはゴム製であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の船外機の排気装置において、前記マフラの開口端の高さは、船底よりも上方に且つ前記エンジンよりも下方に設定されることを特徴とする。
また、本発明の船外機の排気装置において、前記マフラ内に逆止弁を配設することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の船外機の排気装置において、前記マフラを水平配置すると共に、該マフラの形状に沿って前記エンジンケースの下面を凹状に形成して前記マフラをその凹状内に収容し、前記マフラは、前記エンジンケースの下面とマフラカバーとに挟まれて固定されることを特徴とする。
また、本発明の船外機の排気装置において、前記マフラの開口端は、前記エンジンケースの後面下端付近であって、その中央部から離間して配置されることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の船外機の排気装置において、前記エンジンの回転数が低く且つその排気圧が低い時、排気レリーズ系を介して排気することを特徴とする。
また、本発明の船外機の排気装置において、前記サイフォン管の後半部に前記排気レリーズ系の排気取出口を設けることを特徴とする。
また、本発明の船外機の排気装置において、前記エンジンケースの中央凹部の上面から下方に向けて、前記排気レリーズ系の開放端を設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ケース本体の外部に形成されるマフラ室内のマフラ周囲の水は、隔壁上端を越えない限り、エンジンケース内には進入することができず、エンジンケースの被水環境を安全に保持することができる。また、排気ホースやマフラに対する冷却性や周囲部材との適正な結合配置関係を維持し、典型的にはゴム製とすることで軽量且つ低コスト化を図ることができる等の効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る船外機を搭載した船舶もしくは舟艇の例を示す斜視図である。
【図2】本発明の船外機の外観を示す斜視図である。
【図3】本発明の船外機の外観を示す後面図である。
【図4】本発明の船外機の外観を示す側面図である。
【図5】本発明の船外機の外観を示す前面図である。
【図6】本発明の船外機におけるエンジンケース内部の構成例を示す斜視図である。
【図7】本発明の船外機におけるエンジンケース内部の主要構成の分解斜視図である。
【図8】本発明の船外機のエンジンユニットの構成及び配置例を示す斜視図である。
【図9】本発明の船外機の吸排気系における排気装置の構成例を示す斜視図である。
【図10】本発明の船外機におけるケースカバーを取り外してケース本体の内部を示す上面図である。
【図11】本発明の船外機におけるエンジンケースに設けた隔壁の上端付近及びエキゾーストパイプまわりをそれぞれ示す斜視図である。
【図12】本発明の船外機におけるマフラカバーを取り外した状態のエンジンケースの下面図である。
【図13】本発明の船外機におけるマフラカバーの構成例をそれぞれ示す斜視図である。
【図14】本発明の船外機におけるマフラカバーまわりの構成例をそれぞれ示す断面図である。
【図15】本発明の船外機に係る排気レリーズ系を示す上面図、その膨張室の断面図及び排気放出口まわりを示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づき、本発明における船外機の排気装置の好適な実施の形態を説明する。
図1は、本発明に係る船外機10を搭載した船舶もしくは舟艇の例を示している。この例では船舶は典型的には中小型とし、船体1の後部にトランサムボード2(船尾板)有するものとする。船外機10は図示のようにトランサムボード2を利用して搭載される。なお、以下で参照する各図の要所において、前方(船首側)を矢印Frにより、後方(船尾側)を矢印Rrによりそれぞれ示す。また、必要に応じて船体の左右方向(船幅方向)をそれぞれ矢印L、矢印Rにより示す。
【0020】
ここで先ず本実施形態に係る船体1において、図1のように船体1の底部に船床3が敷設され、この船床3の後端にトランサムボード2が配置される。船床3の中央部付近において操縦席4が設けられ、操縦席4にはハンドル5を始めとする操縦に必要な装置及び機器類、計器類等が配設される。船外機10は動力、推進機、転舵装置及びチルト装置等が一体的に装備され、所謂オールインワンタイプとして構成され、船体1側に燃料タンク、バッテリ等の通常の備品があれば運転可能である。
【0021】
なお、船舶としてこの図示例のものに限定されず、その他トランサムボードの後側に船外機搭載用のブラケット等を具備した船体もあり、つまり船体の船尾に船尾板又はこれに相当する部位もしくは部材を有するタイプのものに対して、本発明の船外機10は有効に適用可能である。
【0022】
図2〜図5は船外機10の外観を示し、図2は船外機10の斜視図、図3は後面図、図4は側面図及び図5は前面図である。船外機10は樹脂製エンジンケース100を有し、このエンジンケース100内部に後述する動力源であるエンジンユニットを収容すると共に、エンジンケース100の後部下方にスクリュー(プロペラ)を配置し、エンジンユニットによってスクリューを回転駆動する。エンジンケース100は船外機10の外観を構成する外装部材としても機能し、全体として一体感のある外観を呈している。
【0023】
エンジンケース100は図1をも参照して、船体1の船尾部(典型的にはトランサムボード2とする)と略同一の幅を有する筐体として構成される。この例ではエンジンケース100の基本的な形態は概略直方体とし、該直方体の長手方向が船幅方向としている。エンジンケース100はエンジンユニット及びその周辺部品もしくは部材を収容するケース本体101と、ケース本体101の上部開口を覆うケースカバー102とを有する。
【0024】
エンジンケース100内に収容されるエンジンユニット及びその周辺部品等について説明する。本発明の船外機10はそのパワーユニットとして内燃機関を主動力とし、これを作動させて推進機を駆動する。図6は船外機10におけるエンジンケース100内部の構成例を示し、図7はエンジンケース100内の主要構成の分解斜視図である。エンジンケース100内において、パワーユニットを構成するエンジンユニット11が、コンパクト且つ重量バランス良く配置収容される。この実施形態では2基のエンジンユニット11を有し、その筐体の長手方向が船幅方向としたエンジンケース100の左右に、一対のエンジンユニット11がセンタ振分けで配置される。各エンジンユニット11には、吸気系12及び排気系13が接続されると共に、それぞれの出力端(クランクシャフト)に動力伝達機構14が連結される。動力伝達機構14はエンジンユニット11の後側にて左右方向中央部で推進機15と結合し、これらの船外機構成部材が図7のようにフレーム16上に搭載支持される。
【0025】
更に具体的に説明すると、エンジンユニット11において、この例では水冷式直列4気筒4サイクルガソリンエンジンを使用する。なお、エンジン気筒数等は必要に応じて適宜変更可能であり、この例に限定されるものではない。図8を参照して、エンジンユニット11においてクランクケース17、シリンダブロック18、シリンダヘッド19及びシリンダヘッドカバー20が順次重なるように一体的に結合し、最下部にオイルパン21が付設される。各エンジンユニット11のクランクシャフトは船幅方向(左右方向)に沿って配置され、その軸端に結合するエンジン出力軸が左右両外側に位置するように配置され、即ち右側のエンジンユニット11のエンジン出力軸は右側に、左側のエンジンユニット11のエンジン出力軸は左側となるように配置される。
【0026】
次に吸気系12において、図6に示すようにエンジンユニット11相互間に単一のエアクリーナ22が配置される。一方、図8に示されるように右側のエンジンユニット11のシリンダヘッド19の前側に、及び左側のエンジンユニット11のシリンダヘッド19の後側にそれぞれインテークマニホールド23が結合し、これらのインテークマニホールド23とエアクリーナ22との間がそれぞれインテークパイプ24を介して接続される。エアクリーナ22の前面部からエンジンケース100前部の船体1側まで吸気管25が延出し(図9参照)、その先端の空気取込み口から空気を取り込むようになっている。空気取込み口は、船体1において波、しぶき及び雨等に曝されることがない部屋もしくはスペースに設置される。図8に示されるように各エンジンユニット11において、単一の吸気管25はインテークマニホールド23において複数(この例では4つ)に分岐する。
【0027】
排気系13において、図7等に示されるように右側のエンジンユニット11のシリンダヘッド19の後側に、及び左側のエンジンユニット11のシリンダヘッド19の前側にそれぞれエキゾーストマニホールド26が結合し、それらは単一のエキゾーストパイプ27に接続する。エキゾーストパイプ27にはゴム製の排気ホース28が接続され、排気ホース28にはマフラ29が接続される。このマフラ29には排気ホース30が接続され、この排気ホース30に取り付けられた排気出口31から排気ガスが排出されるようになっている。
【0028】
マフラ29は、エンジンケース100のケース本体101の下面外側に設置される。この場合、マフラ29及び排気ホース30等はケース本体101の下面から実質的に突出しないように配置されると共に、ケース本体101の後面左右両側の下部付近に配置された排気出口31から左右バランス良く水中に排気される。
【0029】
動力伝達機構14はエンジンユニット11の出力を推進機15へと伝達する。動力伝達機構14において、左右のエンジンユニット11のエンジン出力軸には図7に示されるように減速機32が連結される。減速機32のケーシング33内に回転自在に軸支されたギア群を有し、その出力軸にタイロッド34が連結される。左右のタイロッド34は相互に同心且つ水平で左右方向に配置され、左右中央部で中間減速機35と連結する。各タイロッド34は両端でそれぞれユニバーサルジョイント36,37を介して、減速機32及び中間減速機35と連結する。なお、タイロッド34はその軸方向途中適所でスプレライン係合構造を有し、全体としての長さが伸縮可能になっている。
【0030】
中間減速機35は、それぞれタイロッド34に連結する一対の入力側ベベルギアとこれらの入力側ベベルギアに噛合する出力側ベベルギアとを含む。出力側ベベルギアは、ドライブシャフトケース38内のドライブシャフトと連結し、中間減速機35、ドライブシャフトケース38及びスイベルブラケット39が、相互に一体的に結合する。ドライブシャフトは中間減速機35から下方へ延出する。これらのスイベルブラケット39等はベアリング40を介して、ケース本体101に回動可能に支持される。
【0031】
推進機15は図7等に示されるように、ドライブシャフトケース38の下方に配置される。推進機15は、プロペラ駆動用のギアを内蔵するギアケース41を含み、全体としてフィン状を呈する。ギアケース41の後端部にはプロペラ42が装架される。ドライブシャフトはドライブシャフトケース38内を通って更に下方へ延出し、ギアケース41内まで延設される。ギアケース41内には最終減速機が構成され、この最終減速機を介してプロペラ42を回転駆動することができる。
【0032】
更に、推進機15に対するチルト機構及びステアリング機構を備えている。これらについての詳細な説明は省略するが、先ずチルト機構により中間減速機35、ドライブシャフトケース38及び推進機15全体がチルト軸T(図2、図3参照)のまわりに上下方向に回動可能である。チルト軸Tはタイロッド34と同軸に設定され、推進機15はチルト軸Tのまわりにチルト動作することができる。なお、チルト機構において所謂パワートリムチルト(PTT)等と称する駆動装置を備え、電動油圧式のチルト機構が構成されるものであってよい。
【0033】
また、ステアリング機構により推進機15は、ステアリング軸S(図2、図3参照)のまわりにヨー方向(左右方向)に回動可能である(ヨーイング)。このステアリング機構において、例えば電動油圧式に油圧駆動されるステアリングシリンダを有し、油圧ポンプを油圧源としてステアリングロッドに沿って往復動させることで推進機15が左右方向に回動、即ちステアリング動作することができる。
【0034】
上述した船外機10の主要構成部材は図6のようにフレーム16上に搭載支持される。フレーム16は鋼管等の材料を用いて、図7に示されるようにエンジンケース100を構成する筐体の直方体に略沿った外形となるように形成される。フレーム16の所定部位にはエンジンユニット11を搭載支持するための複数のエンジンマウント43が配設され、これらのエンジンマウント43を介してエンジンユニット11がフレーム16上に取り付けられる。また、フレーム16の後部には、前述したスイベルブラケット39等を支持するためのベアリング40が装着されるメインブラケット44が取り付けられる。
【0035】
更に、フレーム16の前面部には複数のトランサムボルト45が前方に向けて取り付けられる。フレーム16にはエンジンユニット11を始めとする船外機構成部材が搭載されるが、それらを搭載したフレーム16はエンジンケース100内に収容される。トランサムボルト45はそのようなエンジンケース100のケース本体101の前面部を貫通してトランサムボード2に締結され、これによりエンジンケース100全体をトランサムボード2に締着固定することができる。なお、ケース本体101から突出するトランサムボルト45にはシールもしくはパッキン等が装着され、水密性が確保される。
【0036】
前述のようにエンジンケース100は、エンジンユニット11やその周辺部品を収容するケース本体101と、ケース本体101の上部開口を覆うケースカバー102とを有する。ケース本体101に対してケースカバー102が閉じることでエンジンケース100内は実質的に密閉空間となり、高い水密性が確保される。この場合、船外機10の構成部材はフレーム16によって支持され、フレーム16はエンジンユニット11を保持すると共に推進機15の推進力や操舵力を受け持ち、即ちエンジンケース100自体にはそれらの負荷荷重がかからない。また、エンジンケース100は図1に示されるように、船外機10の外装部材としても機能し、船外機10に搭載されて全体として一体感の外観を呈する。
【0037】
図2〜図4等に示されるようにケース本体101の後面側において、その後面部から底面部へかけての領域において、船幅方向中央部にはケース本体101の内方へ凹むように形成された凹部103が設けられている。この凹部103まわりには、推進装置を構成する推進機15やそのチルト及びステアリング機構等が配設される。凹部103はケース本体101の後面側から前方へ向けて形成されるが、チルト機構及びステアリング機構あるいはそれらの周辺機器や部材等がチルトあるいはステアリング動作する際にケース本体101と干渉しないように必要且つ十分な間隙が設けられている。
【0038】
また、前述したように船体1側には燃料タンク、バッテリ等の備品が配備され、これらの備品と船外機10とが接続もしくは連結される。この場合、図5に示すようにケーシング101の前面部とトランサムボード2との間で穴を共あけするかたちで、複数の貫通孔104が形成されている。即ち、エンジンに燃焼用空気を供給するための吸気管25を挿通させるための貫通孔104A、燃料タンクからエンジンに燃料を供給するための燃料パイプを挿通させるための貫通孔104B、エンジンケース100内を換気するための換気空気用筒体を通すための貫通孔104C等が形成される。更に、エンジンケース100内の装置もしくは機器類又は部材と船体1側の操縦装置との間を、電気的(制御信号等を含む)あるいは機械的に接続するコード又はケーブル類を挿通させるための貫通孔104Dが形成される。なお、これらの貫通孔104には吸気管25等の実装時に水密保持手段(シール等)が施される。
【0039】
ケースカバー102はエンジンケース100の上面部を構成するが、図2あるいは図3に示されるようにケース本体101の後部上端付近にてヒンジ105を介して回動可能に結合する。ケースカバー102をヒンジ105のまわりに回動させて開成することで、エンジンケース100内部が開放され、これにより露呈したエンジンケース100内部のエンジンユニット11等に自由にアクセス可能となる。ケースカバー102を開けて内部の点検等を容易に行うことができ、この種の作業の利便性を向上することができる。
【0040】
なお、ケース本体101とケースカバー102の閉合部もしくは合せ面には、シールが敷設され、ケースカバー102をケース本体101に対して閉めることでエンジンケース100の高い水密性が確保・保持される。この場合、そのシールは、ケース本体101及びケースカバー102の合せ面に沿って全周に亘って敷設される。そして、ケースカバー102が閉まった際にはケース本体101の閉合部との間に挟着され、これによりエンジンケース100に対する高い水密性が得られる。
【0041】
また、ケースカバー102をケース本体101に対して閉じた際、ケースカバー102をその閉合状態に固定保持するための、図2〜図4に示されるようなロック機構106を有している。
一方、ケースカバー102をその開き状態に保持可能な保持機構を有し、この保持機構の詳細な説明は省略するが、ケース本体101に対してケースカバー102を開いた状態に保持することができる。
【0042】
上記の場合、上述した船外機10の構成部材の他に、エンジンユニット11の冷却配管系、チルト機構及びステアリング機構の駆動用の油圧配管系あるいは部材相互間等で電気信号もしくは電力等を授受するための電気信号線又はコード類等がエンジンケース100内の適所に引き回されると共に、船外機10の運転に必要な補機類が配設される。そして、これらの配管系等を介して、あるいは補機類が作動して、船外機10の適正な運転が遂行される。
【0043】
本発明において、図9のように排気系13におけるエキゾーストマニホールド26、エキゾーストパイプ27、排気ホース28、マフラ29及び排気ホース30等を含んで構成される排気装置200を有する。この排気装置200はエンジンで発生した燃焼ガスを排出するが、ここで、シリンダヘッド19を挟んでその両側にインテークマニホールド23(図8参照)及びエキゾーストマニホールド26が結合する。インテークマニホールド23は各気筒の吸気ポートに接続され、この吸気ポートに混合気が供給される。吸気ポートからシリンダヘッド19の燃焼室に吸入された混合気は爆発後、排気ポート46(図8)から排出される。各気筒の排気ポート46はエキゾーストマニホールド26に接続され、各気筒からの排気ガスはエキゾーストマニホールド26で合流して、エキゾーストパイプ27更にはマフラ29を通って排気出口31から水中に排出される。
【0044】
図9にも示されるようにエキゾーストマニホールド26は、エンジンユニット11の排気ポート46側で気筒の列設方向、即ち船幅方向に延設される。この例ではエンジンユニット11は直列4気筒エンジンであるため、4つのマニホールド26A〜26Dを有し、各マニホールド26A,26B,26C,26Dはそれぞれ対応する気筒の排気ポート46に接続される。マニホールド26A〜26Dはこの例では♯2又は♯3気筒付近で合流して、その上向きに開設された排気開放端にてエキゾーストパイプ27と接続する。エキゾーストパイプ27はエキゾーストマニホールド26から略上方に指向して延出し、概略U字状に湾曲しながら折り返して排気ホース28の上端が接続される。このように湾曲するエキゾーストパイプ27は、サイフォン状を呈して配置される。排気ホース28は略直線状に下方に延出し、その下端が適宜湾曲しながらエンジンケース100の底部に配置されているマフラ29に接続される。
【0045】
ここで、排気ホース28の配設構造において、エンジンケースの一部に筒状の隔壁を設け、この隔壁内を通ってマフラ29へと延設される。図10において、右側のエンジンユニット11の例で説明すると、図10はケースカバー102を取り外してケース本体101の内部を示す上面図であるが、ケース本体101の筐体の後面内側101aにおいて略上下方向に筒状の隔壁47が形成される。この隔壁47はケース本体101の内方へ膨出するように形成され、その筒状の内部は排気ホース28を収容するトンネル状のガイド空間48となる。このガイド空間48は隔壁47によってケース本体101内部と隔絶されるが、この場合、隔壁47の側面の一部は、エンジンケース101自体により形成される。即ち、排気ホース28のガイド空間48の後側はケース本体101の筐体の後面内側101aにより形成される。このためガイド空間48はトンネル状あるいは筒状ではあるが、その断面形状は円形ではなく、後側は平坦である。左側のエンジンユニット11についても同様に、シリンダヘッド19の前側に結合するエキゾーストマニホールド26には排気ホース28が接続されるが、この場合、ケース本体101の筐体の前面内側101bにおいて略上下方向に筒状の隔壁が形成される。
【0046】
図11(a)に示されるように隔壁47の上端は、エンジンケース100のケース本体101の上端付近に設定され、これがガイド空間48の上方開放端となる。図11(a)においてはガイド空間48の上端部のみが図示されているが、ケース本体101の後面内側101aに沿ってその底部まで延設される。図11(b)に示されるようにエキゾーストパイプ27はサイフォン状に形成され、そのサイフォン状の排気出口側端部に排気ホース28の上端が連結する。排気ホース28はガイド空間48内を通って、その下端は後述するマフラ室に配置されたマフラ29に連結する。
【0047】
更に、図11(b)に示されるようにエキゾーストパイプ27の頂点よりも排気通路下流側に噴射ノズル49が装着され、この噴射ノズル49から水、典型的には海水を噴射するようになっている。本実施形態ではエキゾーストパイプ27の周囲を覆うように形成された冷却用ウォータジャケットが付設されており、このウォータジャケットに供給される冷却水が噴射ノズル49から噴射されるようにしている。なお、船外機10には冷却水の汲上げポンプが搭載され、汲み上げた冷却水を噴射ノズル49によってエキゾーストパイプ27の排気通路の下流方向に指向して噴射排出する。このようにエキゾーストパイプ27内に冷却水を排出し、排気ホース28そしてその下流側に接続されるマフラ29が湿式となる。
【0048】
マフラ29は、ケース本体101の下面且つ外側に設置される。図12に示されるようにケース本体101の下面視で一対のマフラ29が概略「ハ」字状を呈するように、別言すれば略二等辺三角形の二等辺に対応するように配置される。この場合、右側のエンジンユニット11に接続されるマフラ29は、その内部の排気通路の上流側が後方となり、左側のエンジンユニット11に接続されるマフラ29については、下流側が前方となるようにそれぞれ水平配置される。これらのマフラ29が配置されるケース本体101の下面の中央部は略平坦状であり、この中央部の左右両側が適度に上方へ傾斜している。なお、右側のマフラ29に接続される排気ホース30は、該マフラ29の側近に沿って配置され、ケース本体101の後面下部付近で排気出口31に接続される。
【0049】
マフラ29及び排気ホース30は、ケース本体101の下面から突出しないように配置される。このように配置するために、ケース本体101の下面にはマフラ29及び排気ホース30を収容するためのマフラ室50が形成される。このマフラ室50はケース本体101の下面外側からケース本体101の内方へ向けて凹設され、ケース本体101の底面にて内側へ凸状となる。マフラ室50はマフラ29等の配置に対応して概略「ハ」字状を呈する。マフラ29及び排気ホース30は図12に示されるように、マフラ室50内にすっぽりと嵌まり込むように収容配置される。その場合、マフラ29の外周部を取付金具(もしくはブラケット等)51(図14(b)参照)によって適度な力で押圧し、マフラ29をマフラ室50内に的確に固定する。なお、取付金具51はボルト52により締着固定される。
【0050】
上記のようにマフラ室50に配置されたマフラ29等は、図13に示されるようにマフラカバー53によって覆われる。マフラカバー53はケース本体101の底部まわりに係合し、その状態でボルトによって締着固定される。このようにマフラ29は、エンジンケース101の下面とマフラカバー53とに挟まれるかたちで固定される。マフラカバー29がケース本体101に被着することで、エンジンケース100の下面は極めて平滑な面となる。このようにマフラ29は、ケース本体101の凹設されたマフラ室50に間装され、取付金具51によってぶら下げられる。また、この場合マフラカバー53はマフラ29直下でもケース本体101から外に向かって膨らまず、エンジンケース100の下面は全体的に極めて平滑化されている。
【0051】
図14は、マフラ室50内に収容されたマフラ29を示している。図14(a)のようにこの例ではマフラ29内の排出通路の上流及び下流側に逆止弁54が配設される。これらの逆止弁54は実線及び点線で示されるように、両矢印方向に回動してマフラ29内の排気通路を開閉するようになっている。この場合、点線のように閉じることで逆流を抑止することができる。
【0052】
また、マフラ29の開口端である排気出口31は、その高さ位置が図4に示されるように船体1の船底1aよりも上方に設定される。また同時に、排気出口31はエンジンよりも下方の高さ位置に設定される。排気装置200において、マフラ29及びこれに接続する排気ホース30は図6等に示されるように、エンジンユニット11の下側へ回り込み、排気ホース30の先端に付設された排気出口31はケース本体101の後面に突出配置される。前述したように排気ホース30を含めマフラ29は略水平配置されるため、従って排気出口31自体もエンジンよりも下方位置に配置される。
【0053】
更に図2及び図3等に示されるように、排気出口31はケース本体101の後面下端付近において、その左右方向中央部から離間して配置される。ケース本体101の後面には凹部103が設けられ、この凹部103には推進機15が搭載される。排気出口31はケース本体101の船幅方向外側寄りに配設され、即ち凹部103からは離隔している。
【0054】
更に、本実施形態においてエンジンユニット11のエンジンの回転数が低く且つその排気圧が低い時、排気レリーズ系を介して排気するようにしている。この場合も右側のエンジンユニット11の例で説明すると、図11及び図15に示されるようにエキゾーストパイプ27の所定部位に接続されたレリーズ管56とこのレリーズ管56の途中に接続配置された膨張室57を含む排気レリーズ系55を備える。
【0055】
具体的にはエキゾーストパイプ27の後半部に排気レリーズ系55の排気取出口58を設け、この排気取出口58にレリーズ管56の一端が接続される。また、レリーズ管56の他端は排気レリーズ系55の開放端として、ケース本体101の凹部103の上面あるいは天井面に形成された排気放出口59に接続される。この排気放出口59を介して、凹部103の上面から下方に向けて排気レリーズするようにする。膨張室57は図11等のように箱型等のものであってよいが、図15(b)のように排気ガスが下部から入って上部から出でいくようにする。なお、排気放出口59には図15(c)のように放出ノズル60を装着し、この放出ノズル60にレリーズ管56を接続する。
【0056】
本発明の船外機10の基本的作動において、エンジンユニット11が始動すると、その動力は先ず減速機32へ入力され、次にその出力端からユニバーサルジョイント36を介してタイロッド34へ伝達される。エンジン動力は更に、タイロッド34から中間減速機35へ伝達されるが、中間減速機35において入力軸からベベルギアを介してドライブシャフトへ伝達され、これによりドライブシャフトが回転駆動される。ドライブシャフトの駆動力はギアケース41内の最終減速機において、ベベルギアを介してプロペラシャフト、更にプロペラ42へと伝達され、これによりプロペラ42が回転する。
【0057】
エンジン作動時、特に排気系13において、エンジンで発生した排気ガスが排気装置200から排出される。前述のように排気装置200はエキゾーストマニホールド26、エキゾーストパイプ27、排気ホース28、マフラ29及び排気ホース30等を含み、排気ガスは最終的にマフラ29を通って排気出口31から水中に排出される。
【0058】
上記構成において特に、排気ガスはエキゾーストパイプ27で水を排気通路内に注入され、これにより所謂、湿式排気が形成されることで、排気ガスの温度を下げられる。このように温度を下げた状態でエキゾーストパイプ27から排気ホース28へと排気ガスを流通させ、ケース本体101のガイド空間48を通ってマフラ室50内のマフラ29に接続される排気ホース30によって、排気出口31まで運ばれる。
【0059】
主排気口である排気出口31は滑走時喫水線L2よりは高く位置に、また静止時(非滑走時)喫水線L1よりは低い位置にある。このように配置される排気出口31から、エンジンが高速運転される滑走時のみ排気が排出される。従って、低速時の排気脈動で湿式注入水が叩かれる音がしない。排気ホース28及びマフラ29は湿式で温度が低くなっているため、その材質として金属ではなく、軽く且つダンピング特性に優れたゴムを使用することができる。この場合、湿式水中排気の船内外機のベローズのように推進部のステアリングやチルトに伴う曲げ変形を受けることはないので、耐久及び信頼性に優れる。
【0060】
また、マフラ29の開口端である排気出口31は、低速時(非滑走時)には水面下で後方に位置し、このため後進時には水深圧力に加えて正圧を受ける。この場合、水が逆流しないようマフラ29内にはフラップ形式の逆止弁54が設けられている。
【0061】
また、エキゾーストパイプ27の排気降流部(湿式部)には排気ガスの逃がし口(排気レリーズ系55の排気取出口58)が左右のエンジン毎設けられている。排気レリーズ系55は膨張室57、排気放出口59を経由してケース本体101の凹部103の天井面から船外機10の外部に排出される。エキゾーストパイプ27の排気昇流部(サイフォン状の前半部)には、図示しない触媒が装着されているので、排気レリーズ系55からの排気ガスも清浄化される。
【0062】
また、排気レリーズ系55の排気放出口59は静止時喫水線よりも充分上方に位置するため、静止時及び後進時に排気圧が上がり、マフラ29の逆止弁54が閉まった場合でも安定して排気することができ、エンジンの低速運転性能を良好に維持することができる。レリーズ管56の途中、典型的には中央部には膨張室57が設けられ、排気ガスの脈動を平滑化することで排気音が低減される。更に、膨張室57の出口開放端は、レリーズ管56に繋がる静音ノズル(ファンネル形状)となっており、排気レリーズ系55からの排気音は有効に低減される。また、膨張室57の入り口部は膨張室57の底面近くにあるので、排気ガスに混じった水はエンジン停止時にエキゾーストパイプ27の排気取出口58からマフラ29へと逆流して排出される。
【0063】
次に、本発明の特徴的な構成及びその作用効果等について説明すると先ず、ケース本体101の一部に筒状の隔壁47を設け、この隔壁47によりケース本体101内部と隔絶されるガイド空間48に収容された排気ホース28を介して、エキゾーストパイプ27とマフラ29とが連結される。
【0064】
マフラ室50自体はケース本体101の外部に形成されるが、このマフラ室50内に配置されるマフラ29周囲の水は、隔壁47上端を越えない限り、エンジンケース100内には進入することができない。従って、エンジンケース100の被水環境を損ねる心配がない。また、エンジンユニット11のエンジンは運転中にそれ自身の振動や、駆動及び推進系からの反力によって生じる揺動が生じる。これに対して、マフラ29はエンジンケース100に対してマフラカバー53によって固定されており、しかも排気ホース28がゴム製であるので、エンジンの振動及び揺動をマフラ29に伝わり難くする。また、隔壁47によって形成されるガイド空間48が排気ホース28よりも広いので、エンジン揺動時に排気ホース28が隔壁47に接触しない。これらによりマフラ29を有効に保護することができる。
【0065】
また、エキゾーストパイプ27は排気ホース28の上端に連結され、マフラ29から充分高い位置に設置される。これにより、排気開口端である排気出口31から海水が、あるいはまた噴射ノズル49から排気ガス内に注入した水がエキゾーストパイプ27を経由してエンジンに逆流することがない。更に、隔壁47内に余剰海水等の廃棄用ホースを通すことができる。
【0066】
また、隔壁47の側面の一部は、エンジンケース100のケース本体101により形成される。このように隔壁47をエンジンケース100内に設けることで、エンジンケース100の外観に影響せず、実質的に意匠性を向上することができる。
【0067】
また、エキゾーストパイプ27の頂点よりも下流側に設けた噴射ノズル49から、エキゾーストパイプ27内に水を噴射し、排気ホース28及びマフラ29を湿式とする。
このようにマフラ29を湿式とすることで、マフラ29の周囲を過熱しない。これにより冷却用のウォータジャケットを省略できるので、装置を軽量且つコンパクト化とすることができる。また、過熱を防ぐことで、高価な耐熱材料を使用する必要がなく、例えばゴム等の材質とすることができ、装置を実質的に低コストにすることができる。更に、排気ガス自体の温度が下がるので、音速が低下し騒音を減ずることができると共に、マフラ29と周囲との隙間を小さくし、装置をコンパクト化することができる。
【0068】
特に、排気ホース28やマフラ29をゴム製とし、このようにゴム等の可撓性材料を使用することで、それらが外部と多少接触しても磨耗や損傷を防止することができる。また、ゴム等の可撓性材料を使用することで、排気透過音を減ずることができると共に、マフラ29が腐食しない。更に、マフラ29の使用環境を海水被水状態とすることができる。
【0069】
また、マフラ29の開口端である排気出口31の高さは、船底1aよりも上方に且つエンジンよりも下方に設定される。
排気出口31が船底1aよりも上方に位置するので、排気出口31を含む排気系部品が走行中の流体抵抗にならない。また、エンジンよりも下方に位置するので、排気開口端からエンジンまで海水が逆流しない。
なお、舟艇速度の高い滑走時、排気出口31が水面よりも上なので、開排気系部品が流体抵抗にならない。一方、舟艇速度の低い非滑走時には、エンジン回転数が低いので排気そのものが少ない。
【0070】
また、マフラ29内に逆止弁54を配設することで、海水が排気系に逆流しない。特に後進時に排気圧が開弁圧以上にならない限り、開弁しないので、海水が逆流しない。
【0071】
また、マフラ29を水平配置すると共に、該マフラ29の形状に沿って形成したマフラ室50にマフラ29を収容し、マフラ29はケース本体101の下面とマフラカバー53とに挟まれて固定される。
ケース本体101の下面にマフラカバー53を被着し、マフラカバー53の底面に凸凹がないので、流体抵抗が小さい。また、マフラ29が凹状のマフラ室50内に収まるので、マフラ29周囲の空間容積を小さくし、非滑走時にマフラ29周囲に入り込んだ海水を、滑走時に短時間で排出することができる。
【0072】
マフラ29を水平に配置したので、未使用時にマフラ29内に水が残らなくすることができ、メンテナンス上有利である等の利点を有する。また、マフラ29をエンジンよりも下方に配置したので、エンジンを喫水から高い位置に配置することができ、エンジンに被水しない。また、マフラを喫水から高い位置にあるエンジンよりも高い位置に配置した場合に比べて、重心を下げることができ、走行安定性に優れる。
更に、マフラカバー53(下蓋)をケース凹部に沿った壁面で支えることができるので、航走時マフラカバー53に加わる水力をエンジンケース100やエンジンフレームに分散伝達することができる。従って剛性の高いケース下蓋を軽量に作成することができる。また、マフラカバー53をケース凹部に沿った壁面で支えることができるので、運搬又は整備の際一時的にボートに取り付けない場合等、一時的に床置きしても、自重をエンジンケース100やエンジンフレームに分散伝達することができる。従って、剛性の高いケース下蓋を軽量に作成することができる。
【0073】
また、マフラ29の開口端である排気出口31は、エンジンケース100の後面下端付近であって、その中央部から離間して配置される。
排気出口31をこのように配置することで、エンジンケース100自体が排気音に対する遮蔽物となって、乗船者に排気音が届き難くすることができる。また、排気出口31はエンジンケース100の中央部から離れているため、後進時に従来型船外機のように排気がプロペラに絡んで、プロペラ性能を落とすことがない。
【0074】
また、エンジンユニット11のエンジンの回転数が低く且つその排気圧が低い時、排気レリーズ系55を介して排気する。
エンジン回転数が低い時は、滑走していないのでマフラ29の開口端は水面下にある。エンジン回転数が低い時に排気圧が上がり、そのままではエンジンが滑らかに運転されない。別系統の排気レリーズ系55を有し、排気レリーズ系55から空中に排気することで、排気圧が下がるためエンジンが安定して滑らかに運転できる。
【0075】
この場合、排気温度の低い場所、即ちエキゾーストパイプ27の後半部の排気取出口58から排気を取り出すので、排気レリーズ経路をゴム等の特に耐熱性を持たない材料を使用することができる。また、触媒通過後の浄化された排気を排出することができる。更にゴムホース等の可堯性の高い材料を用いることで、狭い場所にも配管できるので、全体がコンパクトになる。
【0076】
また、エンジンケース100の中央凹部103の上面から下方に向けて、排気レリーズ系55の開放端、即ち排気放出口59を設ける。
従来型の大型船外機ではボートからブラケットを介して取り付けられた場合、排気レリーズが水面下になることがままあった。これに対して本発明では排気レリーズ系55から排出される排気を水面から高い位置にすることができるので、どのようなボートに横置きエンジン船外機を取り付けても、排気レリーズ系55の開口端が水面下になることがないので、常に所定の性能を発生することができる。また、排気レリーズ系55の開放端がエンジンケース100の凹部103内に設けられるので、排気ガスでエンジンケース100が汚れても、直接見える部分ではなくなり、意匠面を汚さない。更に、後進時にも開放端が水面下にならないので、排気圧を低く保つことができる。この場合もエンジンケース100自体が遮蔽物となって、排気レリーズ音が乗船者に届き難い。
【0077】
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。
上記実施形態において排気ホース28及びマフラ29がゴム製である例を説明したが、耐熱性や一定強度を有するものであれば、合成樹脂製とすることも可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 船体、2 トランサムボード、3 船床、1a 船底、10 船外機、11 エンジンユニット、12 吸気系、13 排気系、14 動力伝達機構、15 推進機、16 フレーム、17 クランクケース、18 シリンダブロック、19シリンダヘッド、20 シリンダヘッドカバー、21 オイルパン、22 エアクリーナ、23 インテークマニホールド、24 インテークパイプ、25 吸気管、26 エキゾーストマニホールド、27 エキゾーストパイプ、28 排気ホース、29 マフラ、30 排気ホース、31 排気出口、32 減速機、33 ケーシング、34 タイロッド、35 中間減速機、36,37 ユニバーサルジョイント、38 ドライブシャフトケース、39 スイベルブラケット、40 ベアリング、41 ギアケース、42 プロペラ、43 エンジンマウント、44 メインブラケット、45 トランサムボルト、46 排気ポート、47 隔壁、48 ガイド空間、49 噴射ノズル、50 マフラ室、51 取付金具、53 マフラカバー、54 逆止弁、55 排気レリーズ系、56 レリーズ管、57 膨張室、58 排気取出口、59 排気ガス排気放出口、60 放出ノズル、100 エンジンケース、101 ケース本体、102 ケースカバー、103 凹部、104 貫通孔、105 ヒンジ、106 ロック機構、200 排気装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンケース内部にエンジンが収容されると共に、該エンジンケース外部に前記エンジンによって駆動される推進機を備えた船外機において、前記エンジンからの燃焼ガスを排出するための排気装置であって、
前記エンジンケースの一部に筒状の隔壁を設け、該隔壁の上端は前記エンジンケースの上端付近とすると共に、その下端はマフラ室に連結し、
排気ホースの上端はエキゾーストパイプの出口に連結すると共に、その下端は前記マフラと連結し、
前記排気ホースは前記エンジンケースから前記隔壁内を通って、前記マフラ室へと配索されることを特徴とする船外機の排気装置。
【請求項2】
前記隔壁の側面の一部は、前記エンジンケースにより形成されることを特徴とする請求項1に記載の船外機の排気装置。
【請求項3】
前記エキゾーストパイプの頂点よりも下流側に設けた噴射ノズルから、該エキゾーストパイプ内に水を噴射し、前記排気ホース及び前記マフラを湿式とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の船外機の排気装置。
【請求項4】
前記排気ホース及び前記マフラはゴム製であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の船外機の排気装置。
【請求項5】
前記マフラの開口端の高さは、船底よりも上方に且つ前記エンジンよりも下方に設定されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の船外機の排気装置。
【請求項6】
前記マフラ内に逆止弁を配設することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の船外機の排気装置。
【請求項7】
前記マフラを水平配置すると共に、該マフラの形状に沿って前記エンジンケースの下面を凹状に形成して前記マフラをその凹状内に収容し、
前記マフラは、前記エンジンケースの下面とマフラカバーとに挟まれて固定されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の船外機の排気装置。
【請求項8】
前記マフラの開口端は、前記エンジンケースの後面下端付近であって、その中央部から離間して配置されることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の船外機の排気装置。
【請求項9】
前記エンジンの回転数が低く且つその排気圧が低い時、排気レリーズ系を介して排気することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の船外機の排気装置。
【請求項10】
前記サイフォン管の後半部に前記排気レリーズ系の排気取出口を設けることを特徴とする請求項9に記載の船外機の排気装置。
【請求項11】
前記エンジンケースの中央凹部の上面から下方に向けて、前記排気レリーズ系の開放端を設けることを特徴とする請求項9又は10に記載の船外機の排気装置。
【請求項1】
エンジンケース内部にエンジンが収容されると共に、該エンジンケース外部に前記エンジンによって駆動される推進機を備えた船外機において、前記エンジンからの燃焼ガスを排出するための排気装置であって、
前記エンジンケースの一部に筒状の隔壁を設け、該隔壁の上端は前記エンジンケースの上端付近とすると共に、その下端はマフラ室に連結し、
排気ホースの上端はエキゾーストパイプの出口に連結すると共に、その下端は前記マフラと連結し、
前記排気ホースは前記エンジンケースから前記隔壁内を通って、前記マフラ室へと配索されることを特徴とする船外機の排気装置。
【請求項2】
前記隔壁の側面の一部は、前記エンジンケースにより形成されることを特徴とする請求項1に記載の船外機の排気装置。
【請求項3】
前記エキゾーストパイプの頂点よりも下流側に設けた噴射ノズルから、該エキゾーストパイプ内に水を噴射し、前記排気ホース及び前記マフラを湿式とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の船外機の排気装置。
【請求項4】
前記排気ホース及び前記マフラはゴム製であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の船外機の排気装置。
【請求項5】
前記マフラの開口端の高さは、船底よりも上方に且つ前記エンジンよりも下方に設定されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の船外機の排気装置。
【請求項6】
前記マフラ内に逆止弁を配設することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の船外機の排気装置。
【請求項7】
前記マフラを水平配置すると共に、該マフラの形状に沿って前記エンジンケースの下面を凹状に形成して前記マフラをその凹状内に収容し、
前記マフラは、前記エンジンケースの下面とマフラカバーとに挟まれて固定されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の船外機の排気装置。
【請求項8】
前記マフラの開口端は、前記エンジンケースの後面下端付近であって、その中央部から離間して配置されることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の船外機の排気装置。
【請求項9】
前記エンジンの回転数が低く且つその排気圧が低い時、排気レリーズ系を介して排気することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の船外機の排気装置。
【請求項10】
前記サイフォン管の後半部に前記排気レリーズ系の排気取出口を設けることを特徴とする請求項9に記載の船外機の排気装置。
【請求項11】
前記エンジンケースの中央凹部の上面から下方に向けて、前記排気レリーズ系の開放端を設けることを特徴とする請求項9又は10に記載の船外機の排気装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−254740(P2012−254740A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129475(P2011−129475)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】
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