説明

船外機の推進装置

【課題】潤滑油の停滞や逆流を防止して潤滑油を確実に循環させることができる船外機の推進装置を提供する。
【解決手段】潤滑油aを、ドライブ軸12の、傘歯車機構装着部12aからロワケース7に形成されたシフト軸収容室(オイル通路)7cを通って、該ドライブ軸12が軸受32を介して上記ロワケース7により軸支されたドライブ軸軸支部に導き、該ドライブ軸軸支部に導かれた潤滑油aを上記ドライブ軸12とロワケース7のドライブ軸収容室7aとの隙間を通って上記傘歯車機構装着部12aに戻すオイル循環系48を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンにより駆動されるドライブ軸と、該ドライブ軸により傘歯車機構を介して駆動されるプロペラ軸と、該プロペラ軸及びドライブ軸を収容保持するロワケースとを備えた船外機の推進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
小型船舶等に搭載される船外機は、エンジンの回転力をドライブ軸から傘歯車機構を介してプロペラ軸に伝達することにより推進力を発生させるようになっている。
【0003】
この種の船外機において、上記ドライブ軸,傘歯車機構及びプロペラ軸を収容保持するロワケースは、航走中の水の抵抗を直接受けることから、その船幅寸法をできるだけ小さくすることが要求されており、従って上記傘歯車機構等の配設スペースは限られたものとなる。
【0004】
このようなロワケース内の限られたスペースに配置されたドライブ軸の軸受部や傘歯車機構の噛合部の寿命をできるだけ延長するために潤滑油を循環させることにより冷却するようにしている。
【0005】
例えば、特許文献1では、ドライブ軸の上,下軸受の間に螺旋状の溝を形成し、該螺旋溝とロワケースのドライブ軸収容穴との間に僅かな隙間を設けることでねじポンプを形成し、該ねじポンプにより潤滑油を、傘歯車機構収容室から上方に移送して各軸受に導き、該上側の軸受部分からドライブ軸収容穴の前側に形成されたシフト軸収容室に導き、ここから上記傘歯車機構収容室に戻すようにしている。
【特許文献1】特開昭57−182595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来の船外機のように、潤滑油を、ねじポンプによりドライブ軸収容穴を上方に移送し、ここからシフト軸収容室に導いた後、傘歯車機構収容室に戻すというオイル循環経路を採用した場合には、潤滑油が循環されずに停滞したり、逆流したりする場合がある。その結果、潤滑油の温度上昇により、傘歯車機構の噛合部やドライブ軸の軸受部が磨耗し易くなり、寿命が短くなるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたもので、潤滑油の停滞や逆流を防止して潤滑油を確実に循環させることにより、傘歯車機構の噛合部及びドライブ軸の軸受部の寿命を延長できる船外機の推進装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本件発明者は、潤滑油が停滞したり逆流したりする原因について実験を含む検討を行なって以下の知見を得た。ドライブ軸の回転に伴って傘歯車機構が回転すると、該傘歯車機構による潤滑油の撹拌作用によって、潤滑油がオイル循環経路とは逆方向に、つまりねじポンプによる移送方向と逆方向に移送される傾向があり、これにより潤滑油の停滞,逆流が生じているものと考えられる。本件発明者はこのようなオイル攪拌作用による潤滑油の停滞,逆流を防止することにより、上記問題点を解消できることに想到し、本発明を成したものである。
【0009】
そこで本発明は、エンジンにより駆動されるドライブ軸と、該ドライブ軸により傘歯車機構を介して駆動されるプロペラ軸と、該プロペラ軸及び上記ドライブ軸を収容保持するロワケースと、上記プロペラ軸の上記ロワケースから後方に突出する突出部に装着されたプロペラとを備えた船外機の推進装置において、
潤滑油を、上記ドライブ軸の、上記傘歯車機構装着部から上記ロワケースに形成されたオイル通路を通って、該ドライブ軸が軸受を介して上記ロワケースにより軸支されたドライブ軸軸支部に導き、該ドライブ軸軸支部に導かれた潤滑油を上記ドライブ軸とロワケースのドライブ軸収容室との隙間を通って上記傘歯車機構装着部に戻すオイル循環系を備えたことを特徴としている。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1において、上記ドライブ軸の外周面に、該ドライブ軸の回転に伴って潤滑油を下方に移送する螺旋状の溝が凹設されていることを特徴としている。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1において、上記傘歯車機構は、上記ドライブ軸の回転に伴って潤滑油を上記オイル通路側に移送するポンプ機能を有することを特徴としている。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1ないし3の何れかにおいて、上記オイル通路は、上記傘歯車機構の前後進切り換えを行なうシフト軸が配置されたシフト軸収容室により構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る推進装置によれば、潤滑油を、ドライブ軸の傘歯車機構装着部からロワケースに形成されたオイル通路を通って、該ドライブ軸のドライブ軸軸支部に導き、該ドライブ軸軸支部に導かれた潤滑油をドライブ軸収容室の隙間を通って上記傘歯車機構装着部に戻すようにしたので、潤滑油を、傘歯車機構の潤滑油撹拌作用による潤滑油移送方向に循環させることができ、潤滑油の停滞や逆流を防止できる。これにより傘歯車機構の噛合部及びドライブ軸の軸受部の磨耗を抑制でき、部品寿命を延長できる。
【0014】
請求項2の発明では、ドライブ軸の外周面に潤滑油を下方に移送する螺旋状の溝を形成したので、該ドライブ軸のねじポンプ機能により、潤滑油を傘歯車機構の潤滑油移送方向と同じ方向に移送することとなり、これにより潤滑油の循環を促進することができ、部品寿命をより一層延長することができる。
【0015】
請求項3の発明では、傘歯車機構により潤滑油をオイル通路側に移送するようにしたので、傘歯車機構がギヤポンプとして機能することとなり、潤滑油の循環をより一層促進させることができる。
【0016】
請求項4の発明では、オイル通路をシフト軸収容室により構成したので、既存のシフト軸収容室を有効利用してオイル循環系を形成でき、ロワケースの大型化を抑制できるとともに、コストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0018】
図1ないし図6は、本発明の一実施形態による船外機の推進装置を説明するための図であり、図1は船体に搭載された船外機の側面図、図2,図3は推進装置が配設されたロワケースの側面図,断面図、図4はロワケースの平面図、図5,図6は傘歯車機構の前進傘歯車の正面図,断面図である。
【0019】
図において、1は船体2の船尾2aに搭載された船外機を示している。この船外機1は、上記船尾2aに固定されたクランプブラケット3によりスイベルアーム4を介して上下に揺動可能に支持され、かつピボット軸5を介して左右に操舵可能に支持されている。
【0020】
上記船外機1は、推進装置6が収容されたロワケース7の上面にアッパケース8を結合し、該アッパケース8の上面にエンジン10を搭載するとともに、該エンジン10の外周部を囲むようにカウリング11を装着した概略構造を有している。このエンジン10は、水上走行時にクランク軸10aが略垂直をなすよう縦置きに配置されている。
【0021】
上記推進装置6は、上記クランク軸10aに同軸をなすよう連結され、該エンジン10により回転駆動されるドライブ軸12と、該ドライブ軸12に直交するよう略水平方向に向けて配置され、上記ドライブ軸12により傘歯車機構13を介して回転駆動されるプロペラ軸14と、該プロペラ軸14及びドライブ軸12を収容保持する上記ロワケース7と、上記プロペラ軸14のロワケース7から後方に突出する突出部14aに装着されたプロペラ15とを備えている。
【0022】
上記傘歯車機構13は、上記ドライブ軸12の傘歯車機構装着部である下端部12aに共に回転するよう装着された駆動傘歯車17と、該駆動傘歯車17に常時噛合し、上記プロペラ軸14の傘歯車機構装着部である前端部14bに相対回転可能に装着された前進傘歯車18及び後進傘歯車19とを有している。
【0023】
上記前進傘歯車18は、まがり歯傘歯車構造を有し、図5,図6に示すように、上記プロペラ軸14が挿入された軸穴18aを有する軸部18bに傘部18cを一体形成し、該傘部18cに多数のまがり歯18dを周方向に所定間隔をあけて形成した構造のものである。
【0024】
上記各まがり歯18dは、該まがり歯18dの内端部18d′から外端部18d′′に行くほど回転方向Aの前進側に位置する曲線をなすよう延び、従って隣り合うまがり歯18d,18dのピッチは内径側ピッチw2から外径側ピッチw1に行くほど大きくなるよう形成されている。なお、上記駆動傘歯車17,後進傘歯車19は、前進傘歯車18に対応したまがり歯傘歯車構造を有している。
【0025】
これにより上記傘歯車機構13は、ドライブ軸12の回転に伴って潤滑油撹拌作用を生じ、これにより潤滑油を後述する傘歯車機構収容室7bからシフト軸収容室7c側に移送するギヤポンプとしての機能を果たす。
【0026】
上記傘歯車機構13は前後進切替機構20を備えている。この前後進切替機構20は、上記プロペラ軸14の前,後進傘歯車18,19の間に配置され、該プロペラ軸14に軸方向に移動可能にかつ共に回転するようスプライン嵌合されたドッグクラッチ21と、上記プロペラ軸14の前端部14bに軸方向に摺動自在に挿入されたシフトスリーブ22と、該シフトスリーブ22にシフトカム23を介して連結されシフト軸24と、該シフト軸24に連結され、上記船体2側に配置されたシフトレバー(不図示)とを備えている。なお、上記ドッグクラッチ21は、左,右に移動すると前,後進傘歯車18,19に噛合する
上記シフトスリーブ22はピン25により上記ドッグクラッチ21に連結されている。該ピン25は、上記プロペラ軸14の前,後進傘歯車18,19の間に形成されたピン穴14e内に配置されている。
【0027】
上記ドッグクラッチ21は、前,後進傘歯車18,19の何れにも噛合しないニュートラル位置と、前,後進傘歯車18,19の何れかに噛合する前,後進クラッチイン位置との間で移動可能となっている。
【0028】
シフトレバーをニュートラル位置から前,後進クラッチイン位置の何れかに切り換え操作を行なうと、シフト軸24が回動し、該シフト軸24の回動をシフトカム23がシフトスリーブ22の前後方向移動に変換させ、該ドッグクチック21が前,後進傘歯車18,19の何れかに噛合する。これによりドライブ軸12の回転力がプロペラ軸14に伝達される。
【0029】
上記ロワケース7はドライブ軸12と直交する断面視で略砲弾形をなすよう形成されている。該ロワケース7の前後方向略中央部には、上下方向に延び、かつ上方に開口するドライブ軸収容室7aが形成され、該ドライブ軸収容室7a内に上記ドライブ軸12が収容配置されている。
【0030】
上記ドライブ軸収容室7aの下端部には、前後方向に延び、かつ後方に開口する傘歯車機構収容室7bが形成され、該傘歯車機構収容室7b内に上記傘歯車機構13が収容配置されている。
【0031】
上記ドライブ軸収容室7aの上端開口部には、該収容室7aとの間を油密にシールする円筒状のベアリングハウジング30が挿着されている。該ハウジング30には、上記ドライブ軸12との間を油密にシールする上下一対のシール材31,31が配置されている。
【0032】
上記ドライブ軸12のロワケース7内における上端部12bは、ニードル軸受32を介して上記ハウジング30により軸支されており、また下端部12aは、上記ドライブ軸収容室7aの下端開口部に配置されたニードル軸受33により軸支されている。
【0033】
上記傘歯車機構収容室7bの前端部には、前進傘歯車18を軸支する円錐ころ軸受35が配置され、後端開口部には、後述するギヤハウジング36を介して後進傘歯車19を軸支する玉軸受37が配置されている。
【0034】
上記ロワケース7のドライブ軸収容室7aの前側にはシフト室収容室7cが該ドライブ軸収容室7aと平行に延びるよう形成され、該シフト軸収容室7c内に上記シフト軸24が収容配置されている。このシフト軸24の下端部には、上記シフト軸収容室7cの内周面に摺接して該シフト軸24を支持するフランジ部24aが形成され、該フランジ部24aにはオイル連通溝24bが形成されている。
【0035】
上記シフト軸収容室7cの下端部は上記傘歯車機構収容室7bに連通している。このシフト軸収容室7cの上端開口部には、シフト軸24との間を油密にシールするシール部材38が挿着されている。
【0036】
上記シフト軸収容室7cの前側には、該シフト軸収容室7cと平行に延びる冷却水吸込通路7dが形成されている。該冷却水吸込通路7dには、ロワケース7の左,右側壁部に形成された吸込口7gから冷却水が流入するようになっている。
【0037】
上記ロワケース7には、ドライブ軸収容室7aの外周部を囲む冷却水ジャケット7hが形成されており、該冷却水ジャケット7h内を流れる冷却水によりドライブ軸収容室7a内の潤滑油が冷却される。また上記シフト軸収容室7c内の潤滑油は冷却水吸込通路7d及び冷却水ジャケット7hを流れる冷却水により冷却される。
【0038】
上記ロワケース7のドライブ軸収容室7aの後側には、排気ガス排出通路7eが形成されており、該排気ガス排出通路7eとドライブ軸収容室7aとの間に上記冷却水ジャケット7hが配置されている。また上記排出通路7eはロワケース7の後端面に形成された排出口(図示せず)に連通しており、上記エンジン10からの排気ガスはアッパケース8内から上記排気ガス排出通路7eを通って上記排出口から水中に排出される。
【0039】
上記ロワケース7の傘歯車機構収容室7b内には、上記排気ガス排出通路7e内を通るよう配置された上述のギヤハウジング36が挿入されている。このギヤギヤハウジング36により排気ガス排出通路7eと傘歯車機構収容室7bとは画成されている。
【0040】
上記ギヤハウジング36は、プロペラ軸収容穴36aが形成された筒体部36bと、該筒体部36bの前端部に形成された碗状の大径部36cと、上記筒体部36bの後端部に軸直角方向外方に放射状に延びるよう形成された複数のリブ36dと、該リブ36dの外周端部に形成されたフランジ部36eとを有している。このフランジ部36eが、後方から挿入された複数のボルト40により上記ロワケース7の排出口の周縁部に固定されている。
【0041】
上記大径部36cの外周面は、上記傘歯車機構収容室7bの後端開口部に油密に挿着されており、該大径部36cの内周面と上記後進傘歯車19のボス部との間に上記玉軸受37が挿着されている。
【0042】
上記ギヤハウジング36のプロペラ軸収容穴36a内に上記プロペラ軸14が挿入配置されている。該プロペラ軸14の前端部14bは、上記前,後進傘歯車18,19の軸穴18a,19aを挿通しており、該前進傘歯車18の軸穴18aに配置されたメタル軸受42を介して相対回転自在に支持されている。プロペラ軸14と後進傘歯車19の軸穴19aとの間には隙間が形成されている。
【0043】
上記ギヤハウジング36のプロペラ軸収容穴36aの後端部には、上記プロペラ軸14との間を油密にシールする前後一対のシール材44,44が配置されている。
【0044】
上記ギヤハウジング36のプロペラ軸収容穴36aのシール材44の前側には、上記プロペラ軸14の後端部14dを軸支するニードル軸受43が配置されている。
【0045】
上記推進装置6は、ロワケース7内に充填された潤滑油a,bを循環させるオイル循環系47を備えている。このオイル循環系47は、上記潤滑油a,bをドライブ軸収容室7a,傘歯車機構収容室7b,シフト軸収容室7c,及びプロペラ軸収容穴36a内を循環させるようになっている。上記潤滑油の油面は、ドライブ軸収容室7a内の上側のニードル軸受32部分に位置しており、該油面はシフト軸収容室7c内においても同じ高さ位置となっている。
【0046】
上記オイル循環系47は、潤滑油aをドライブ軸12の傘歯車機構装着部(下端部)12aから前後進切換機構20を経て上,下のニードル軸受32,33を通るよう循環させるドライブ軸循環系48と、潤滑油bをプロペラ軸14の傘歯車機構装着部(前端部)14bから、該プロペラ軸14の後端部14dを軸支するニードル軸受43を通るよう循環させるプロペラ軸循環系49とを備えている。
【0047】
上記プロペラ軸循環系49は、上記プロペラ軸14の傘歯車機構装着部14bから上記ニードル軸受43の近傍まで軸方向に延びる軸穴49aと、該軸穴49aの延長端部から直径方向に延びてニードル軸受43の近傍に開口する軸直角穴49bとを有するオイル通路49cと、上記プロペラ軸14とギヤハウジング36のプロペラ軸収容穴36aとの隙間で構成された戻り通路49dとを有している。
【0048】
上記オイル通路49cの軸穴49aは、上記プロペラ軸14のピン穴14eに開口しており、上記軸直角穴49bはニードル軸受43の前側近傍に開口している。
【0049】
シフトレバーの切り換え操作によりドッグクラッチ21が前,後進傘歯車18,19の何れかに噛合するとプロペラ軸14が回転し、該プロペラ軸14の遠心力によりオイル通路49cの軸直角穴49bから潤滑油bが噴出し、該噴出した潤滑油bは、ニードル軸受43を潤滑し、ここから戻り通路49dを通って玉軸受37,傘歯車機構13の噛合部を潤滑し、傘歯車機構収容室7bに戻る。該傘歯車機構収容室7b内の潤滑油bは、プロペラ軸14の回転によりオイル通路49cの軸穴49a内に流入することとなる。
【0050】
上記ドライブ軸循環系48は、該循環系48のオイル通路を構成するシフト軸収容室7cと、上記ドライブ軸12とロワケース7のドライブ軸収容室7aとの隙間に形成された軸方向に延びるオイル戻り通路48aと、該ドライブ軸12の軸方向中央部とドライブ軸収容室7aの内周壁とで形成されたねじポンプ部48bと、上記シフト軸収容室7cと上記オイル戻り通路48aのニードル軸受32部分とを連通する連通路48cとを有している。
【0051】
上記ねじポンプ部48bは、ドライブ軸12の外周面に形成された下向き右回りに延びる螺旋溝12cと、ドライブ軸収容室7aの内周壁との間に僅かな隙間を設けることにより形成されたものであり、これによりオイル通路48a内の潤滑油aを加圧して下方に移送するようになっている。
【0052】
上記ドライブ軸12が回転すると、ねじポンプ部48bが潤滑油aを加圧しつつオイル通路48a内を下方に移送するとともに、傘歯車機構13が回転して傘歯車機構収容室7b内の潤滑油aを撹拌しつつ上記シスト軸収容室7c内に移送する。
【0053】
傘歯車機構13の潤滑油撹拌作用によりシフト軸収容室7c内に流入した潤滑油aは、前後進切換機構20を潤滑しつつオイル連通溝24bを通ってシフト軸収容室7c内を上昇し、該シフト軸収容室7cの上端部から連通路48cを介してオイル戻り通路48a内に流入する。該戻り通路48aに流入した潤滑油aは、ドライブ軸12の上側のニードル軸受32を潤滑しつつ、ねじポンプ部48bにより加圧されて下方に移送され、下側のニードル軸受33,傘歯車機構13の噛合部,軸受35,37を潤滑して傘歯車機構収容室7bに戻る。該傘歯車機構収容室7b内の潤滑油aは、上記傘歯車機構13によりシフト軸収容室7cに再び移送される。
【0054】
上記シフト軸収容室7c,ドライブ軸収容室7a内を流れる潤滑油aは、上記冷却水吸込通路7d及び冷却水ジャケット7h内を流れる冷却水により冷却される。
【0055】
本実施形態によれば、ドライブ軸循環系48の潤滑油aを、傘歯車機構13の撹拌作用により傘歯車機構収容室7bからシフト軸収容室7cに移送し、該シフト軸収容室7cから連通路48cを介してオイル戻り通路48a内に流入させ、ドライブ軸12のニードル軸受32に導き、該軸受32に導いた潤滑油aをねじポンプ部48bにより下方に移送し、上記戻り通路48aを通って上記傘歯車機構収容室7bに戻すようにしたので、上記潤滑油aを、傘歯車機構13の潤滑油撹拌作用による潤滑油移送方向(矢印a方向)に循環させることができ、潤滑油の停滞や逆流を防止できる。これにより傘歯車機構13の噛合部及びドライブ軸12の軸受部の磨耗を抑制でき、部品寿命を延長できる。
【0056】
本実施形態では、上記ドライブ軸12の外周面に潤滑油aを下方に移送する螺旋溝12cを形成したので、該ドライブ軸12がねじポンプとして機能することとなり、潤滑油aは、上記傘歯車機構13の潤滑油移送方向と同じ方向に移送されることとなる。これにより潤滑油aの循環を促進することができ、潤滑油aを適正な温度に保持してその寿命を延長でき、部品寿命をより一層延長することができる。
【0057】
本実施形態では、上記傘歯車機構13により潤滑油aを傘歯車機構収容室7bからシフト軸収容室7c側に移送するようにしたので、傘歯車機構13がギヤポンプとして機能することとなり、潤滑油aの循環をより一層促進させることができる。
【0058】
即ち、傘歯車機構13の潤滑油撹拌作用を利用して潤滑油aを、シフト軸収容室7cからドライブ軸収容室7a側に流れるようにしたので、傘歯車機構13の移送方向とねじポンプ部48bの移送方向とを一致させることができ、潤滑油の停滞や逆流を確実に防止てきる。
【0059】
本実施形態では、上記シフト軸収容室7cをオイル通路として利用したので、既存のシフト軸収容室7cを有効利用してオイル循環系を形成でき、ロワケース7の大型化を抑制できるとともに、コストを低減できる。
【0060】
また上記シフト軸収容室7cをオイル通路として利用したので、該シフト軸収容室7cは、冷却水吸込通路7dと冷却水ジャケット7hとで囲まれ、かつ排気ガス排出通路7eから離れた位置となり、シフト軸収容室7c内を通る潤滑油aの冷却性を高めることができる。
【0061】
なお、上記実施形態では、シフト軸収容室7cをオイル通路として利用したが、本発明ではシフト軸収容室とは別にオイル通路を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施形態による船外機の側面図である。
【図2】上記船外機の推進装置が配設されたロワケースの側面図である。
【図3】上記ロワケースの断面図である。
【図4】上記ロワケースの平面図である。
【図5】上記推進装置の前進傘歯車の図である。
【図6】上記前進傘歯車の断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 船外機
6 推進装置
7 ロワケース
7a ドライブ軸収容室
7b 傘歯車機構収容室
7c シフト軸収容室(オイル通路)
10 エンジン
12 ドライブ軸
12a 傘歯車機構装着部
12c 螺旋溝
13 傘歯車機構
14 プロペラ軸
14a 突出部
15 プロペラ
24 シフト軸
32 ニードル軸受(ドライブ軸軸支部)
48 ドライブ軸循環系(オイル循環系)
a 潤滑油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動されるドライブ軸と、該ドライブ軸により傘歯車機構を介して駆動されるプロペラ軸と、該プロペラ軸及び上記ドライブ軸を収容保持するロワケースと、上記プロペラ軸の上記ロワケースから後方に突出する突出部に装着されたプロペラとを備えた船外機の推進装置において、
潤滑油を、上記ドライブ軸の、上記傘歯車機構装着部から上記ロワケースに形成されたオイル通路を通って、該ドライブ軸が軸受を介して上記ロワケースにより軸支されたドライブ軸軸支部に導き、該ドライブ軸軸支部に導かれた潤滑油を上記ドライブ軸とロワケースのドライブ軸収容室との隙間を通って上記傘歯車機構装着部に戻すオイル循環系を備えたことを特徴とする船外機の推進装置。
【請求項2】
請求項1において、上記ドライブ軸の外周面に、該ドライブ軸の回転に伴って潤滑油を下方に移送する螺旋状の溝が凹設されていることを特徴とする船外機の推進装置。
【請求項3】
請求項1において、上記傘歯車機構は、上記ドライブ軸の回転に伴って潤滑油を上記オイル通路側に移送するポンプ機能を有することを特徴とする船外機の推進装置。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れかにおいて、上記オイル通路は、上記傘歯車機構の前後進切り換えを行なうシフト軸が配置されたシフト軸収容室により構成されていることを特徴とする船外機の推進装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−18867(P2008−18867A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−193213(P2006−193213)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(000176213)ヤマハマリン株式会社 (256)
【Fターム(参考)】