説明

船外機

【課題】エンジンのコンパクト化を図ると共に、部品点数の削減および組付け精度の向上を図った船外機を提供するにある。
【解決手段】エンジンホルダの上方に載置されたエンジン3の内部にクランクシャフト4を略垂直に配置し、このクランクシャフト4の回転を、エンジン3の下部に配置された巻装部材44を介して動弁用のカムシャフト31に伝達する船外機において、平面視で、巻装部材44によって囲まれた空間内に、且つ側面視で巻装部材44より上方にオイルポンプ48を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば船外機に搭載されるエンジンは、その内部に多くの摺動部や回転部を有するため、潤滑装置を用いて各部に潤滑オイルを供給し、潤滑オイルの働きにより各部の摩擦抵抗を減らし、エンジンの機能を充分に発揮させるようになっている。
【0003】
4サイクルエンジンの潤滑装置の一般的な潤滑オイルの経路は、エンジンのクランクケース下部に一体または別体に設けられたオイルパンに貯留されている潤滑オイルをオイルポンプで吸い上げてエンジン内各潤滑部に圧送するようになっている。
【0004】
オイルポンプはロータをケーシング内に収納する構造を有し、従来エンジンのシリンダヘッドやシリンダブロックの底部に設置されていた(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−100614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、エンジンの底部にカムシャフト駆動用のチェーンがレイアウトされているエンジンの場合、オイルポンプをシリンダヘッドやシリンダブロックの底部に設置することは大きな制約を受け、場合によってはエンジンが大型化することもある。
【0006】
また、部品点数が増えたり組付け精度が低下したりすることもあった。
【0007】
本発明は上述した事情を考慮してなされたもので、エンジンのコンパクト化を図ると共に、部品点数の削減および組付け精度の向上を図った船外機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る船外機は、上述した課題を解決するために、請求項1に記載したように、エンジンホルダの上方に載置されたエンジンの内部にクランクシャフトを略垂直に配置し、このクランクシャフトの回転を、上記エンジンの下部に配置された巻装部材を介して動弁用のカムシャフトに伝達する船外機において、平面視で、上記巻装部材によって囲まれた空間内に、且つ側面視で上記巻装部材より上方にオイルポンプを設けたものである。
【0009】
また、上述した課題を解決するために、請求項2に記載したように、エンジンホルダの上方に載置されたエンジンの内部にクランクシャフトを略垂直に配置し、このクランクシャフトの回転を、上記エンジンの下部に配置された巻装部材を介して動弁用のカムシャフトに伝達する船外機において、上記エンジンの下面と上記エンジンホルダの上面との間の空間内に、上記クランクシャフトの回転を減速してドライブシャフトに伝達するリダクションギヤと、オイルポンプと、燃料ポンプ駆動用カムとを配置したものである。
【0010】
さらに、上述した課題を解決するために、請求項3に記載したように、シリンダヘッド下面に上方に向かって凹むロータ収納凹部を形成し、このロータ収納凹部にオイルポンプロータを収納して上記オイルポンプを構成したものである。
【0011】
そして、上述した課題を解決するために、請求項4に記載したように、上記エンジンはSOHC形式の動弁装置を備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る船外機によれば、エンジンの高さ方向寸法を短くできると共に、エンジン下面のデッドスペースを有効利用できるので、エンジンのコンパクト化を図ることができる。また、部品点数の削減を図ることができると共に、部品の組付け精度の向上を図ることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1は、この発明を適用した船外機の実施形態を示す左側面図である。また、図2は船外機の一部の縦断面図である。図1および図2に示すように、この船外機1はエンジンホルダ2を備え、このエンジンホルダ2の上方に4サイクルエンジン3が載置される。なお、このエンジン3はその内部にクランクシャフト4を略垂直に配置した縦置き型のエンジン3である。
【0015】
エンジンホルダ2の下方には潤滑オイル(図示せず)を貯留するオイルパン5が配置されると共に、エンジンホルダ2、エンジン3およびオイルパン5の周囲はエンジンカバー6によって覆われる。エンジンカバー6は、エンジンホルダ2、エンジン3下部およびオイルパン5の周囲を覆うロアーカバー6aと、エンジン3上部を覆うアッパーカバー6bとに大きく二分割されて構成される。
【0016】
また、オイルパン5の下部にはドライブシャフトハウジング7が設置される。エンジンホルダ2、オイルパン5およびドライブシャフトハウジング7内にはエンジン3の出力軸であるドライブシャフト8が略垂直に配置される。ドライブシャフト8はクランクシャフト4の後方にオフセットして配置され、その上端部がクランクシャフト4の下端部にリダクションギヤ9を介して連結される。ドライブシャフト8はドライブシャフトハウジング7内を下方に向かって延び、ドライブシャフトハウジング7の下部に設けられたギヤケース10内のベベルギヤ11およびプロペラシャフト12を介して推進装置であるプロペラ13を駆動するように構成される。
【0017】
この船外機1にはブラケット装置14が備えられる。ブラケット装置14は主にスイベルブラケット15およびクランプブラケット16から構成され、スイベルブラケット15は船外機1に、クランプブラケット16は船体17のトランサム17aにそれぞれ固定される。
【0018】
スイベルブラケット15はクランプブラケット16にチルト軸18を介して上下方向に傾動可能に軸支されると共に、スイベルブラケット15にはパイロットシャフト19が鉛直方向に回動可能に軸支される。また、このパイロットシャフト19の上下端にはアッパーマウントブラケット20およびロアーマウントブラケット21がそれぞれパイロットシャフト19に回転一体に設けられる。
【0019】
一方、エンジンホルダ2の前部には詳細には図示しないが左右一対のアッパーマウントユニットが設けられ、アッパーマウントブラケット20に連結される。また、ドライブシャフトハウジング7の両側部には一対のロアーマウントユニット22が設けられ、ロアーマウントブラケット21に連結される。そして、以上により船外機1はブラケット装置14に対しパイロットシャフト19を中心に左右に操舵可能になると共に、チルト軸18を中心に上下向方にチルトおよびトリム操作が可能になる。
【0020】
この船外機1に搭載されるエンジン3は、例えばシリンダヘッド23、シリンダブロック24およびクランクケース25等を組み合わせて構成された水冷4サイクル直列三気筒エンジン3である。
【0021】
エンジン3の最前部、図1および図2においては最も左側(船首側)に配置されるクランクケース25の後方(右、船尾側)にはシリンダブロック24が配置される。また、シリンダブロック24の後方にはシリンダヘッド23が配置される。
【0022】
クランクケース25とシリンダブロック24との合せ面には、上述したように、クランクシャフト4が略垂直に軸支される。また、シリンダブロック24内には3つのシリンダ26が上下方向に略水平に並んで形成され、シリンダ26内にはピストン27がシリンダ26の軸線上を軸方向に摺動自在に挿入される。さらに、クランクシャフト4とピストン27とがコンロッド28によって連結され、ピストン27の往復ストロークがクランクシャフト4の回転運動に変換されるようになっている。
【0023】
シリンダヘッド23にはシリンダ26に整合する燃焼室29が形成され、その外方から図示しない点火プラグが結合される。また、シリンダヘッド23の後部にはSOHC形式の動弁装置30が備えられる。この動弁装置30は、燃焼室29に繋がる図示しない吸気ポートおよび排気ポートを開閉する図示しない吸気バルブおよび排気バルブを開閉させる一本の動弁用カムシャフト31がクランクシャフト4と平行に配置されたものであり、動弁装置30が備えられたシリンダヘッド23はシリンダヘッドカバー32によって覆われる。
【0024】
図3は図2のIII矢視図、すなわちエンジン3の下面図である。図3に示すように、エンジン3の一側部には吸気系を構成するインテークマニホールド33が配置され、その上流側は例えばクランクケース25前方に配置されたスロットルボディ34に接続される。また、エンジン3の他側部には排気系を構成する排気通路35が形成される。
【0025】
図4は図3のIV−IV線に沿う断面図である。図1〜図4に示すように、クランクシャフト4およびドライブシャフト8はそれぞれの軸芯がオフセットした状態で配置される。図3に詳細に示すように、ドライブシャフト8の軸芯はクランクシャフト4の軸芯より後方(シリンダヘッド23)寄りにオフセットして配置される。
【0026】
クランクシャフト4の下端はエンジン3の下方に突出し、この突出部にはクランクギヤ36が圧入されると共に、エンジンホルダ2の上方に突出しているドライブシャフト8の上端には前記リダクションギヤ9がドライブシャフト8と同軸上に例えばスプライン嵌合されており、このリダクションギヤ9に形成されたドリブンギヤ37が上記クランクシャフト4下端のクランクギヤ36に噛合う。
【0027】
リダクションギヤ9はその上下がそれぞれ例えばボールベアリング38,39を介して支持される。上側のボールベアリング38はシリンダブロック24の下面に嵌着されると共に、下側のボールベアリング39はベアリングホルダ40を介してシリンダブロック24の下面に固定される。なお、ドリブンギヤ37の歯数はクランクギヤ36の歯数より多く設定され、ドライブシャフト8はクランクシャフト4より減速されて回転駆動される。
【0028】
エンジン3下部とエンジンホルダ2上面との間の空間には、クランクシャフト4の回転をカムシャフト31に伝達してカムシャフト31を回転駆動させるカムシャフト駆動機構41が設けられる。このカムシャフト駆動機構41は、例えばチェーン駆動方式であり、上記リダクションギヤ9に形成されたドリブンギヤ37の下方にリダクションギヤ9と一体に形成されたカムシャフト駆動用のタイミングスプロケット42と、エンジン3の下面に突出しているカムシャフト31の下端に回転一体に設けられたカムスプロケット43と、これらのスプロケット42,43の周囲に巻装された巻装部材であるタイミングチェーン44とから構成される。
【0029】
タイミングチェーン44は、エンジン3の下面に設けられたチェーンガイド45およびチェーンアジャスタ46によってその振れと張り(テンション)が常時適切な状態に保たれる。チェーンガイド45はタイミングチェーン44の張り側(吸気系側)に配置され、シリンダヘッド23およびシリンダブロック24の下面に跨って固定される。
【0030】
また、チェーンアジャスタ46はタイミングチェーン44の緩み側(排気系側)に配置され、その一端がシリンダヘッド23の下面に回動自在に軸支される。そして、シリンダブロック24の下面、タイミングチェーン44の外側に設けられたテンション調整装置47によってチェーンアジャスタ46が油圧を利用してタイミングチェーン44へ押圧されてタイミングチェーン44のテンションが調整される。
【0031】
さらに、上述した実施形態においてはリダクションギヤ9にタイミングスプロケット42を、カムシャフト31にカムスプロケット43をそれぞれ設け、これらのスプロケット42,43の周囲にタイミングチェーン44を巻装してカムシャフト駆動機構41を構成しているが、各スプロケット42,43の代りにプーリ(図示せず)を、また、タイミングチェーン44の代りの巻装部材にタイミングベルト(図示せず)を用いても良い。
【0032】
ところで、この船外機1にはエンジン3の内部を潤滑するための潤滑装置が備えられる。この潤滑装置は、オイルパン5内に貯溜された潤滑オイルをオイルポンプ48で吸い上げてエンジン3に供給するものであり、以下のように構成される。
【0033】
平面視で、タイミングチェーン44によって囲まれた空間内のシリンダヘッド23下面には上方に向かって凹むロータ収納凹部49が形成され、このロータ収納凹部49にオイルポンプロータ50が収納されると共に、オイルポンプロータ50からは下方に向かってポンプ駆動シャフト51が延び、このポンプ駆動シャフト51のハウジングを兼ねたポンプカバープレート52によりロータ収納凹部49は下方から塞がれてオイルポンプ48を構成する。
【0034】
オイルポンプ48の下方に突出するポンプ駆動シャフト51の突出端にはポンプドリブンギヤ53が設けられると共に、カムシャフト31の下端にはポンプドライブギヤ54が上記カムスプロケット43と回転一体に設けられ、このポンプドライブギヤ54がポンプドリブンギヤ53に作動連結される。そして、ポンプドライブギヤ54の歯数はポンプドリブンギヤ53の歯数より多く設定され、カムシャフト31に対してポンプ駆動シャフト51を増速させて駆動する。
【0035】
一方、この船外機1のエンジン3は機械式の燃料ポンプ55を備える。この燃料ポンプ55は先端が外部に突出したプランジャ56の進退運動により図示しない燃料タンク内の燃料を汲み上げ、吸気装置を構成するインテークマニホールド33とシリンダブロック24との間の空間に配置されるベーパーセパレータ60に圧送するものであり、例えばカムシャフト31を挟んでオイルポンプ48の反対側のシリンダヘッド23後方下部に配置される。
【0036】
エンジン3下部(シリンダ26最下部)とエンジンホルダ2上面との間の空間におけるカムシャフト31上には燃料ポンプ駆動用カム57が設けられる。そして、燃料ポンプ55はこの燃料ポンプ駆動用カム57の後方にそのプランジャ56の進退方向線がカムシャフト31の軸線と直交するように配置される。また、燃料ポンプ駆動用カム57とプランジャ56との間にはポンプロッド58が設けられ、このポンプロッド58が燃料ポンプ駆動用カム57の回転をプランジャ56に伝達してプランジャ56を進退運動させる。
【0037】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0038】
平面視で、巻装部材であるタイミングチェーン44によって囲まれた空間内のシリンダヘッド23下面に上方に向かって凹むロータ収納凹部49を形成し、このロータ収納凹部49にオイルポンプロータ50を収納してオイルポンプ48を構成したことにより、側面視でオイルポンプ48を巻装部材であるタイミングチェーン44より上方に設けることができる。その結果、エンジン3の高さ方向寸法を短くでき、コンパクト化が図られる。
【0039】
また、タイミングチェーン44によって囲まれた空間内にはポンプ駆動シャフト51のみが通ればよいので、平面視でポンプドリブンギヤ53をカムスプロケット43より小径とすることが可能になる。よって、SOHC形式の動弁装置30を備えた本実施形態に示すエンジン3のようにタイミングチェーン44によって囲まれた空間が狭くてもこの空間内に平面視でオイルポンプ48を配置できる。
【0040】
さらに、従来必要であったオイルポンプロータ50収納用のケーシングが不要になり、また、ロータ収納凹部49を塞ぐポンプカバープレート52をポンプ駆動シャフト51のハウジングとしても利用可能なので、部品点数の削減を図ることができると共に、組付け精度の向上も図れる。
【0041】
また、上述したオイルポンプ48および燃料ポンプ55の配置によってエンジン3下面にスペースが生じ、このスペースにリダクションギヤ9が配置可能になると共に、下側のボールベアリング39を保持するベアリングホルダ40用のボス(図示せず)も形成可能となり、ベアリングホルダ40をエンジン3(シリンダブロック24)の下面に固定することにより、エンジン3の高さ方向寸法を短くでき、コンパクト化が図られると共に、組付け精度も向上する。
【0042】
一方、エンジン3下部とエンジンホルダ2上面との間の空間におけるカムシャフト31上に燃料ポンプ駆動用カム57を設けると共に、カムシャフト31を挟んでオイルポンプ48の反対側のシリンダヘッド23後方に燃料ポンプ55を配置したことにより、エンジン3下面のデッドスペースを有効利用でき、エンジン3のコンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る船外機の一実施形態を示す船外機の左側面図。
【図2】船外機の一部の縦断面図。
【図3】図2のIII矢視図。
【図4】図3のIV−IV線に沿う断面図。
【符号の説明】
【0044】
1 船外機
2 エンジンホルダ
3 エンジン
4 クランクシャフト
8 ドライブシャフト
9 リダクションギヤ
23 シリンダヘッド
24 シリンダブロック
30 動弁装置
31 カムシャフト
44 タイミングチェーン(巻装部材)
48 オイルポンプ
49 ロータ収納凹部
50 オイルポンプロータ
55 燃料ポンプ
57 燃料ポンプ駆動用カム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンホルダの上方に載置されたエンジンの内部にクランクシャフトを略垂直に配置し、このクランクシャフトの回転を、上記エンジンの下部に配置された巻装部材を介して動弁用のカムシャフトに伝達する船外機において、平面視で、上記巻装部材によって囲まれた空間内に、且つ側面視で上記巻装部材より上方にオイルポンプを設けたことを特徴とする船外機。
【請求項2】
エンジンホルダの上方に載置されたエンジンの内部にクランクシャフトを略垂直に配置し、このクランクシャフトの回転を、上記エンジンの下部に配置された巻装部材を介して動弁用のカムシャフトに伝達する船外機において、上記エンジンの下面と上記エンジンホルダの上面との間の空間内に、上記クランクシャフトの回転を減速してドライブシャフトに伝達するリダクションギヤと、オイルポンプと、燃料ポンプ駆動用カムとを配置したことを特徴とする船外機。
【請求項3】
シリンダヘッド下面に上方に向かって凹むロータ収納凹部を形成し、このロータ収納凹部にオイルポンプロータを収納して上記オイルポンプを構成した請求項1または2記載の船外機。
【請求項4】
上記エンジンはSOHC形式の動弁装置を備えた請求項1、2または3記載の船外機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−121618(P2008−121618A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−308623(P2006−308623)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】