説明

色材の光学特性の表示方法および化粧料、塗料、インキの製造方法。

【課題】従来の変角分光光度計で表示されるデータは色空間を数値で示したもので、色の管理には向いているが、反射角による色の変化を直感的に捉えることが難しかった。
【解決手段】色材を塗布した基板に白色光または着色光を一定の角度にて照射し、その時の画像を反射角と共に示すことで、直感的に色の変化を捉えられる表示方法を提供すると共に、この表示方法で選定した色材を用いて化粧料、塗料、インキの製造を行うことを特長とする化粧料、塗料、インキの製造方法を提供すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色材の光学特性の表示方法および化粧料、塗料、インキの製造方法に関する。
【特許文献1】特開2004−238337号公報
【特許文献2】特開2002−104930号公報
【特許文献3】特開2002−053770号公報
【特許文献4】特開平10−227696号公報
【特許文献5】特開2003−294530号公報
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
従来、特許文献1、2、3にあるように変角分光光度計を用いた色材の特性評価、管理が行われている。また、特許文献4にあるように3次元CG画像をもたらした画像用データを利用して、直接その画像に対応する塗色の塗料配合をCCM技法を活用して推定する方法が知られている。一方、測色の方法としては、分光光度計だけでなく、特許文献5にあるようにスキャナー、CCDなども用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
【0003】
従来の変角分光光度計を用いて色材の評価を行う場合、その目的は色を管理する、または測定した色を基にカラーマッチングを行うこと、もしくは色混合時の推定色を迅速に得ることであり、例えば国際照明委員会(CIE)1976表色系を用いて数値で色空間を示したり、さらにこの数値をグラフで示すなどの方法を用いて光学特性が示されていた。しかし、この方法で示された表やグラフは専門家でないと理解が難しく、直感的に色の変化がつかみにくい問題があった(特開平8−188723号公報の図1〜図12に従来の方法で示されているグラフの例を見ることができる)。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明人は鋭意検討した結果、色の変化を直接確認できるように、受光部にデジタルカメラなどのカメラを用い、入射光の角度、入射光の色、受光部の角度を変化させた時に色材が示す色そのものを撮影し、その撮影データを角度、色空間と相関づけて表示することで、一目で光学特性が認識できる表示方法を提供することを見いだした。そしてこの表示方法は、直感的に色の変化が把握できるため、パンフレット、展示会の説明資料、ディスプレイ上の表示に効果的であった。また、変角分光光度計の測色データを利用し、コンピューターグラフィクスを用いて色を再現させ、その再現色の画像を反射角と対応させて表示することで、上記同様に直感的に色材の色の角度変化を捉えることが可能となった。さらに、上記測定を実施した時のデータから、色材の光学特性をより具体的に把握し、そのデータを基に化粧料、塗料、インキに含まれる色材を選定し、処方を決定し、製造を行うことで、より的確に優れた色調の製剤が得られる化粧料、塗料、インキの製造方法を見いだした。
【0005】
すなわち、本発明は、色材を塗布した基板に白色光または着色光を一定の角度にて照射し、その反射光をカメラを用いて角度別に撮影し、撮影した画像の全部または一部を反射角と対応させて表示することを特長とする、色材の光学特性の表示方法にある。
【0006】
第2の本発明は、さらに、画像の色を色空間に変換したデータと、画像を対応させて表示することを特長とする、上記の色材の光学特性の表示方法にある。
【0007】
第3の発明は、変角分光光度計を用いて色材を塗布した基板の角度別の光学特性を評価した結果得られる色空間座標から、コンピューターグラフィックスを用いて色を再現させ、その再現色の画像を反射角と対応させて表示することを特長とする、色材の光学特性の表示方法にある。
【0008】
第4の本発明は、上記の表示方法を利用して色材の選定を行い、化粧料、塗料、インキの製造を行うことを特長とする化粧料、塗料、インキの製造方法にある。
【0009】
本発明の表示方法は、色材を塗布した基板に白色光または着色光を一定の角度にて照射し、その反射光をカメラを用いて角度別に撮影し、撮影した画像の全部または一部を反射角と対応させて表示することを特長としている。色材としては白色から有色の粉体が使用可能であり、干渉光を有していてもいなくても構わず、酸化チタンなどの無機材料からナイロンなどの有機材料、またその複合物が挙げられる。また、粒子径としては1nm〜10mmの範囲にある色材が使用可能であり、その形状は板状、球状、棒状、紡錘状など特に限定されない。基板としては、色材が塗布できれば良いが例えば黒色紙、白色紙、合成皮革などが挙げられる。また、塗料など色材を製剤化したものを紙、樹脂などに塗布したもの、金属などの上に塗膜としたものなども用いることができる。酸化チタンなど白色系の色材の場合は、黒色紙または黒色合成皮革が評価に適している。照射する光はなるべく色温度が高いものが好ましく、4300K以上、より好ましくは5000K以上のものが好ましい。照射する光はファイバーなどを利用した点光源やスリットを用いて一定の角度に光の入射角がコントロールできるものが好ましい。また、途中にフィルターを導入し、着色光を入射することで、入射光の色の違いによる影響をビジュアルに評価することが可能となる。入射角は−90〜90度の範囲にある任意の角度で可能であるが、一般的には入射角45度が色材の評価を行うのに適した角度である。反射光は分光光度計ではなく、カメラもしくはデジタルカメラを用いて撮影するが、データが直接取得できるデジタルカメラが好ましい。カメラとしては、これ以外にもCCD(Charge Coupled Device)素子も含む。尚、カメラの設定は同じ条件で撮影をする必要がある。反射角としては0〜90度の範囲にある任意の2点以上の角度で測定することが好ましいが、例えば10,20,30,40,45,50,60,70,80,90度というように一定の角度での色変化を撮影すると、表示した場合に色の変化が直感的に捉えられやすい効果があることから好ましい。さらに好ましくは連続した色変化を捉えて表示することが挙げられる。こうして反射角別のデータが得られたとすると、その画像の代表的な部分をコンピューター上で切り取り、反射角と関連させて画像を貼り付け、場合によりその画像からコンピューター上で例えばCIE1976表色系のLデータを取得し(例えばアドビ社のフォトショップCSなどのソフトウェアで画像の色を色空間に変換することが可能である。)そのデータと組み合わせて表示することも好ましい。尚、デジカメで測定し、データをコンピューター上で変換した場合、分光光度計をセンサーとして使用している変角分光光度計のデータとはやや異なった値が得られる場合があるため、この方法のデータを変角分光光度計のデータと単純に比較することは難しい。
【0010】
また、本発明ではセンサーとしてカメラを用いずに分光光度計のデータを色空間に変換したデータを基に、コンピューターグラフィックスを用いて色を再合成し、反射角と再合成した色画像を組み合わせて表示することで、上記同様に色の角度変化が直感的に捉えられやすい表示方法が得られる。但し、この方法では干渉色を持つ色材や、散乱光が強くでやすい色材についてはうまく実態を再現できない場合があり、結果的に目視との差を画像処理で補正することになるため、可能であればカメラを用いた方法が好ましい。
【0011】
本発明の化粧料、塗料、インキの製造方法は、上記の各方法の表示方法にて得られる色材の画像データを基に色材の選定を行い、化粧料、塗料、インキの製造を行うことを特長としている。ここで、着色光を用いて評価を行う例について示す。着色光は白色光に赤、青、緑、黄などの着色フィルターをかけて作ることが簡単で好ましい。光を着色光とし、色材または製剤を塗布した基板に着色光を一定の角度にて照射した場合、例えば短波長側の青色光と長波長側の赤色光を比較した場合、ある酸化鉄酸化チタン被覆雲母では短波長側では光輝性がなくなり、場合により干渉色も失うが、長波長側では光輝性、干渉色も観察される他、微粒子酸化亜鉛などの塗膜では、短波長側でより強い光散乱が観察される。従来使用されている変角分光光度計では色相と明度の角度変化はデータとして得られるが、このデータと人間の感覚としての気持ちの良い色、悪い色の間の関係は明らかでない。これに対して本発明の方法であればこの部分の関係を画像として直感的に判断することができるメリットがある。また、例えば散乱光を強く生じる凝集した微粒子酸化チタンを含む製剤の塗膜に青色光を照射した場合、散乱光の強度によって色味が変化し、通常白色光で見る場合と比べてより散乱性分が強調された画像を得ることが可能となる。例えば化粧料やグラビアインキでは、こうした散乱光は時に塗膜を汚く、不健康に感じさせる特性を持っているが、それを定量評価することは難しかった。本発明の方法では、色の変化の度合いが強調され、さらに数値で評価できるため、この手法を用いて評価を行い、色材や製造方法(例えば色材の凝集をビーズミルなどを用いてほぐす、表面処理をかけるなど)の選択を行うことで、より美しく、目的に適した製剤を製造することが可能となる。尚、ここで言う基板には人の肌や金属板などに塗布された塗膜も含むことができる。本発明で言う着色光としては、波長400〜800nmの可視光の範囲にある光が挙げられる。従来、紫外光、赤外光で塗膜を評価している例があるが、これだと実際の色味とは異なる領域を観察しているため、実際に可視光下で見える色を評価する場合とは全く異なったものになってしまう。また、照射光を白色光にした場合では、得られるデータは全体の色のイメージを構成したものになる。例えば上記着色光で個々の色材について評価し、その結果得られる製剤を最終的に白色光を用いて評価するなどの方法が挙げられる。
【0012】
本発明で言う化粧料としては、例えばファンデーション、口紅、アイシャドウ、ネイルカラー、染毛料など色材を配合した製剤が挙げられる。塗料としては、ペンキ、静電塗装用塗料などが挙げられる。インキとしては、プリンター用インキ、グラビア印刷用インキなどが挙げられる。尚、これに限定されるものではない。
【0013】
本発明の表示方法は、ソフトウェアによりコンピューター上で示されるもの、CCD素子を組み込んだゴニオフォトメーターのデータ表示、パンフレット、展示会などの説明資料などに有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に実施例を挙げ本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0015】
実施例1
色温度5000Kのコンパクト蛍光灯型照明器にアルミテープを用いてスリットを形成し、一定角度方向に光が放射されるようにした光源を用い、入射角45度にセットした。
黒画用紙に色材(酸化鉄被覆雲母チタン)を塗布した。
入射光が試料に当たる点から13cmの距離にデジタルカメラ(キャノン社製IXY DEGITAL400型)をセットし、ズーム 3倍、ISO100、露出補正0、フラッシュなしの撮影条件で測定を行った。
測定した反射角は10,20,30,40,45,50,60,70,80度で実施した。
各測定データの代表的な部分をコンピューターの画像処理ソフトウェア(アドビ社のフォトショップCS)を用いて取り込み、中心部分の色空間座標をCIE1976表色系のLデータとして取得した。
反射角と画像データとLデータを表に対比貼り付けて表示物を完成した。
このデータは目視結果と色相は良い相関を見せており、通常の変角分光光度計のようにLデータから計算された半円グラフと比べて、特に色相の変化が極めて判りやすい特長を持っていた。
【0016】
比較例1
実施例で作成した黒画用紙に色材(酸化鉄被覆雲母チタン)を塗布したサンプルを用い、変角分光光度計を用いて測定を行った。得られたデータを、CIE1976表色系のLデータに変換した。
本データは、検出波長別の強度を示す図、L値の変化を反射角別に測定し半円グラフにまとめた図などにまとめることができるが、いずれもそのグラフや図を読むには専門知識を必要とし、その図からは使用した色材の特性が予備知識のない人間には判らない問題があった。
【0017】
実施例2
色温度5000Kのコンパクト蛍光灯型照明器にアルミテープを用いてスリットを形成し、その外側に青色着色フィルムを設置し、青色光が一定角度方向に放射されるようにした光源を用い、入射角を45度にセットした。
黒画用紙No.1に色材(アナターゼ型超微粒子酸化チタン、平均一次粒子径30nm)を塗布した。
実施例1と同じ測定条件にて測定を実施した。
次いで、黒画用紙No.2に色材(オクチルシリル化処理ルチル型超微粒子酸化チタン、平均一次粒子径10nm)を塗布した。次いで 実施例1と同じ測定条件にて測定を実施した。
No.1と2の比較から、1の方がより強い散乱光が観察されたことから、No.2の色材の方が散乱光強度が弱く、化粧料用の色材として優れていることが判った。
そこで、下記処方と製法に従い、上記2種類の色材を配合した化粧料を製造し、上記青色光を用いて黒色合成皮革に試料を塗布して測定したところ、No.2の色材を用いた方がより自然な色彩を有していた。この製剤を肌に塗布して空中の光に青色成分が多くなる夕方に東向きの窓の内側で塗膜の色を目視評価したところ、No.1の色材を使用した化粧料は色が汚く、不健康に見えたが、No.2の色材を使用した化粧料はきれいな外観を示していた。
【0018】
化粧料処方
成 分 配合量(質量%)
色 材 10
パラメトキシケイ皮酸オクチル 10
ポリエーテル変性シリコーン 2
デカメチルシクロペンタシロキサン 残量
エタノール 10
トリメチルシロキシケイ酸 1.5
シリコーンエラストマーゲル 10
製造方法
各成分を容器に入れ、ディスパーを用いて粉砕し、樹脂ボトルに攪拌球と共に充填して製品とした。
【0019】
比較例2
実施例2で作成した塗膜を目視で観察し、実施例2と同様に製品を得た。
この場合も実施例2でNo.2の色材が選択され、製品を得ることはできた。
【0020】
このことから、実施例2は一番感度に優れる人間の目と同じ選択をしたことが判る。しかしながら、実施例2のように試料2点の評価でなく、複数の色材を評価した場合、比較例2のように目視判定のみで評価を行う場合では、その優劣を定量的に示すことは困難であり、実際の製剤は多数の色材の混合系となっていることから、その製剤中での光学特性を目視評価のみで行うことは困難と考えられた。
【0021】
実施例3
酸化チタン被覆雲母3種を黒色合成皮革に塗布し、変角分光光度計にて測色を行った。入射角45度、反射角20、30、40、45、50、60、70度の時のCIE1976表色系のLデータを取得した。このデータからコンピューターディスプレイ上に色を再現し、この画像データと反射角との対比を表にして表示した。さらに、上記Lデータを付記することで直感的かつ定量的な色管理が可能であった。
【発明の効果】
【0022】
以上の結果から、本発明の色材の光学特性の表示方法によれば、今まで色空間上のプロットまたはグラフとしてしか見れなかった色材の反射角別、入射光の色の違いによる色情報が直感的に判るメリットがあり、また、この方法を用いて評価した色材を基に製剤を設計することで、光学的な特性を生かした製品の製造方法が得られることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材を塗布した基板に白色光または着色光を一定の角度にて照射し、その反射光をカメラを用いて角度別に撮影し、撮影した画像の全部または一部を反射角と対応させて表示することを特長とする、色材の光学特性の表示方法。
【請求項2】
さらに、画像の色を色空間に変換したデータと、画像を対応させて表示することを特長とする、請求項1に記載の色材の光学特性の表示方法。
【請求項3】
変角分光光度計を用いて色材を塗布した基板の角度別の光学特性を評価した結果得られる色空間座標から、コンピューターグラフィックスを用いて色を再現させ、その再現色の画像を反射角と対応させて表示することを特長とする、色材の光学特性の表示方法。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の表示方法を利用して色材の選定を行い、化粧料、塗料、インキの製造を行うことを特長とする化粧料、塗料、インキの製造方法。

【公開番号】特開2006−105945(P2006−105945A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−314785(P2004−314785)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(500034941)株式会社コスメテクノ (16)
【Fターム(参考)】