説明

色柄転写方法及び昇華性染料インク

【課題】 昇華堅牢度及び乾熱処理堅牢度を向上させる。
【解決手段】 昇華性染料インクにより色柄が印刷された転写紙を被転写布に重ね合わせ、前記色柄を前記被転写布に転写する色柄転写方法であって、転写圧力2.45〜4.41N/cmで加圧することにより、前記色柄を前記被転写布に転写する。転写圧力が高いため、昇華堅牢度、乾熱処理堅牢度A法,B法における堅牢度が向上した。また、昇華性染料インクとして昇華温度180℃以上のものを用いることにより、昇華堅牢度、乾熱処理堅牢度A法,B法における堅牢度に加えて、乾熱処理堅牢度C法における堅牢度も向上した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇華性染料インクを用いて転写紙に施した色柄を被転写布に転写する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、デジタル画像データに基づき転写紙に作成した昇華性染料パターンを被転写布に転写する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−2495号公報
【特許文献2】特開2007−63697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2では、インクジェット用の昇華性染料インクを用いて所定の転写圧力、転写温度で転写することが記載されているが、転写圧力として例示している設定範囲が広く、いずれの転写圧力が適するのかが明確ではない。従来実際に用いられているインクジェット用の昇華性染料インクは、昇華温度が160℃以上180℃未満のものが多い。また、特許文献1,2では広範囲の転写圧力が記載されているが、現場においては0.98〜1.96N/cm(0.1〜0.2kg重/cm)、転写時間30秒から90秒(通常、45秒から60秒)程度で実施されている場合が多い。
【0005】
実際に現場で用いられている従来の条件で被転写布に色柄の転写を行った場合、昇華堅牢度(JIS−L0854)が十分でなく、乾熱処理堅牢度(JIS−L0879)も特にB法以上において満足な結果は得られていなかった。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、インクジェット用の昇華性染料インクを用いるものでありながら、高い昇華堅牢度が得られると共に、乾熱処理堅牢度も向上させることができる色柄転写方法及び昇華性染料インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明者が鋭意検討を行った結果、転写圧力を所定範囲に設定することで、昇華堅牢度、乾熱処理堅牢度共に向上させることができ、また、昇華性染料インクを工夫することによりさらに堅牢度を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、昇華性染料インクにより色柄が印刷された転写紙を被転写布に重ね、前記色柄を前記被転写布に転写する色柄転写方法であって、転写圧力2.45〜4.41N/cmで加圧して、前記色柄を前記被転写布に転写することを特徴とする色柄転写方法を提供する。前記昇華性染料インクとして、昇華温度180℃以上の染料分子を含有したものを用いることが好ましい。
【0009】
また、本発明は、界面活性剤、乳化剤、消泡剤、アルコールを含んだ水溶液に、染料分子を分散させてなるインクジェット用の昇華性染料インクであって、前記染料分子が、昇華温度180℃以上であることを特徴とする昇華性染料インクを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来よりも転写圧力が高いため、昇華堅牢度、乾熱処理堅牢度A法,B法における堅牢度が向上した。また、昇華性染料インクとして昇華温度180℃以上のものを用いることにより、昇華堅牢度、乾熱処理堅牢度A法,B法における堅牢度に加えて、乾熱処理堅牢度C法における堅牢度も向上した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明では、まず、色柄のデジタル画像データを作成し、インクジェットプリンタを用いて所定の転写紙に印刷する。印刷された転写紙を転写対象の被転写布に重ね、転写装置に配置する。転写装置は、重なり合った転写紙と被転写布とを間に挟む一対の転写台を備えており、一対の転写台同士を近接させて、転写紙と被転写布とを挟み込み、加熱加圧して転写する。
【0012】
本発明は、この際の転写圧力を2.45〜4.41N/cm(0.25〜0.45kg重/cm)としている。この圧力は、従来実際に行われている転写圧力の2〜3倍の圧力である。このように高い圧力をかけることにより、被転写布の多孔質の繊維(例えばポリエステル繊維)の微細孔が拡張すると共に、昇華性染料インクの染料分子の拡散エネルギーが増大するため、繊維の奥まで迅速に染み込み、染料分子と繊維との結合がより確実になされる。また、発色性も向上する。
【0013】
本発明は上記のように転写圧力を高めることにより、昇華性染料インクの種類を問わずに、染料分子と繊維との結合力を高めることができるが、昇華堅牢度、乾熱処理堅牢度をより高めるためには、昇華温度180℃以上、好ましくは190〜220℃の昇華性染料インクを用いることが好ましい。220℃を超える場合には、転写時に生地を傷める可能性が高くなる。
【0014】
昇華温度200℃程度の昇華性染料インクは、通常、グラビア用、オフセット用として提供されている(例えば、東洋インキ製造(株)製のFG類)。これらのインクは200℃程度の乾熱で昇華し、発色する分散染料である。しかし、これらの昇華性染料は分子が大きいため、そのままではインクジェット用の昇華性染料インクとして用いることはできない。そこで、本発明では、昇華温度180℃以上の昇華性染料インクの染料分子を精製、微小化し、この精製、微小化した染料分子を、活性剤、乳化剤、消泡剤、アルコールを含んだ水溶液に分散させ、昇華温度180℃以上のインクジェット用の昇華性染料インクを新たに製造した。なお、染料分子の配合割合は重量比で3〜8%とすることが好ましい。
【0015】
(試験例1)
昇華温度160℃の昇華性染料インクにより、インクジェットプリンタを用いて転写紙に色柄を印刷し、一対の転写台間に、該転写紙とポリエステル布とを挟み込み、転写温度160℃、2.45〜4.41N/cmの転写圧力で、60秒間加圧し、ポリエステル布に所定の色柄を施した。
【0016】
また、比較のため、転写圧力を従来行われている0.98〜1.96N/cmの範囲に設定したことを除いて全て試験例1と同一の条件で色柄を転写したポリエステル布も製造した(比較例1)。
【0017】
試験例1及び比較例1の各ポリエステル布について、JIS−L0854に基づく昇華試験を行うと共に、JIS−L0879に基づく乾熱試験を行った。その結果、試験例1は、比較例1と比べて、高い昇華堅牢度が得られた。乾熱処理堅牢度は、A法、B法において試験例1は比較例1よりも向上したが、C法の堅牢度については、試験例1は比較例1と比べて顕著な差はなかった。
【0018】
(試験例2)
上記のように染料分子を精製、微小化して新たに製造したは昇華温度200℃の昇華性染料インクを用いて、インクジェットプリンタにより転写紙に色柄を印刷し、一対の転写台間に、該転写紙とポリエステル布とを挟み込み、転写温度200℃、2.45〜4.41N/cmの転写圧力で、60秒間加圧し、ポリエステル布に所定の色柄を施した。
【0019】
このポリエステル布について、JIS−L0854に基づく昇華試験を行うと共に、JIS−L0879に基づく乾熱試験を行った。その結果、比較例1、試験例1のいずれと比べて、高い昇華堅牢度が得られた。乾熱処理堅牢度は、A法、B法、C法のいずれの堅牢度も比較例1、試験例1よりも向上していた。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、高い昇華堅牢度、乾熱処理堅牢度が得られるため、被転写布の用途は限定されるものではなく、各種の布に適用可能であるが、例えば、ファスナーを形成する帯状の基布に適用することが好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇華性染料インクにより色柄が印刷された転写紙を被転写布に重ね、前記色柄を前記被転写布に転写する色柄転写方法であって、
転写圧力2.45〜4.41N/cmで加圧して、前記色柄を前記被転写布に転写することを特徴とする色柄転写方法。
【請求項2】
前記昇華性染料インクとして、昇華温度180℃以上の染料分子を含有したものを用いる請求項1記載の色柄転写方法。
【請求項3】
界面活性剤、乳化剤、消泡剤、アルコールを含んだ水溶液に、染料分子を分散させてなるインクジェット用の昇華性染料インクであって、
前記染料分子が、昇華温度180℃以上であることを特徴とする昇華性染料インク。

【公開番号】特開2010−242269(P2010−242269A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−94447(P2009−94447)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(309012786)株式会社圧昇機器 (2)
【Fターム(参考)】