説明

芳香族コポリアミドおよび当該芳香族コポリアミドの製造方法

【課題】式(1)で表される構造反復単位および式(2)で表される構造反復単位を含む芳香族コポリアミドであって、分子量分布の狭い芳香族コポリアミドを提供すること。
【化1】


【化2】


(式(1)および式(2)中、ArおよびArは各々独立であり、非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
【解決手段】芳香族コポリアミドポリマーを重合した後、60℃以上100℃以下の温度で30分以上60分以下、30rpm以上200rpm以下の速度で攪拌しつつ熱処理を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有する芳香族コポリアミドおよびその製造方法に関する。さらに詳しくは、特定の構造を有する分子量分布の範囲の狭い芳香族コポリアミドおよび、当該ポリマーを安定的に得ることのできる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族ジカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とからなるアラミド繊維、特にポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)繊維等のパラ系のアラミド繊維は、その強度、高弾性率、高耐熱性といった特性を活かして、産業用途、衣料用途等に広く用いられている。しかしながら、繊維強度、弾性率等の機械的物性は、用いられる用途によっては未だ十分に満足できるものではなく、機械的物性の向上を目指してさらなる開発がすすめられていた。
【0003】
得られる繊維の機械的物性を向上させる方法としては、例えば、少なくとも式(1)で表される構造反復単位および式(2)で表される構造反復単位を含む芳香族コポリアミドを、公知のアミド化合物に対して高い溶解度を有する溶媒を用いて重合する方法が記載されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載された方法によって得られる芳香族コポリアミドを原料とする芳香族コポリアミド繊維は、延伸処理後に、高い強度値を有する繊維となる。しかしながら、特許文献1に記載された芳香族コポリアミドの製造方法においては、ポリマーの分子量の制御が困難であり、分子量分布を狭くする事が出来なかった。
【0004】
【化1】

【0005】
【化2】

(式(1)および式(2)中、ArおよびArは各々独立であり、非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
従って、式(1)で表される構造反復単位および式(2)で表される構造反復単位を含む芳香族コポリアミドの製造方法において、分子量分布の狭いポリマーの製造方法が、未だ提案されていないのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−278303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来技術を背景になされたもので、その目的は、式(1)で表される構造反復単位および式(2)で表される構造反復単位を含む芳香族コポリアミドであって、分子量分布の狭い芳香族コポリアミドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、芳香族コポリアミドポリマーを重合した後、特定条件での熱処理を行なうことにより、分子量分布の範囲の狭い芳香族コポリアミドが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記式(1)で表される構造反復単位および下記式(2)で表される構造反復単位とを含む芳香族コポリアミドであって、
分子量分布が1.5以上2.7以下である芳香族コポリアミドである。
【0010】
【化3】

【0011】
【化4】

(式(1)および式(2)中、ArおよびArは各々独立であり、非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
また別の本発明は、上記芳香族コポリアミドの製造方法であって、前記芳香族コポリアミドを重合した後、60℃以上100℃以下の温度で30分以上60分以下、30rpm以上200rpm以下の速度で攪拌しつつ熱処理を行なう芳香族コポリアミドポリマーの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のよれば、式(1)で表される構造反復単位および式(2)で表される構造反復単位を含む芳香族コポリアミドであって、分子量分布の狭い芳香族コポリアミドを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<芳香族コポリアミド>
本発明の芳香族コポリアミドは、下記式(1)で表される構造反復単位(1)、および下記式(2)で表される構造反復単位(2)を含み、1種類または2種類以上の2価の芳香族基が直接アミド結合により連結されているポリマーであって、一般に公知の方法に従って、アミド系極性溶媒中で、芳香族ジカルボン酸ジクロライドと芳香族ジアミンの重縮合反応によって得ることができる。このとき、前記芳香族基は2個の芳香族環が酸素、硫黄、アルキル基で結合されたものであっても特に差し支えない。また、これらの2価の芳香環は、非置換またはメチル基やメチル基などの低級アルキル基や、メトキシ基、また塩素基などのハロゲン基で置換されていても差し支えは無く、その置換基の種類や置換基の数は特に限定されるものではない。
【0014】
【化5】

【0015】
【化6】

(式(1)および式(2)中、ArおよびArは各々独立であり、非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
【0016】
<芳香族コポリアミドの製造方法>
[芳香族コポリアミドの原料]
(芳香族ジカルボン酸ジクロライド)
前記式(1)あるいは式(2)の構造反復単位に用いられる芳香族ジカルボン酸ジクロライドとしては、例えばテレフタル酸ジクロライド、2−クロロテレフタル酸ジクロライド、3−メチルテレフタル酸ジクロライド、4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライドなどが挙げられる。これらの中では、汎用性や繊維の機械的物性などの面から、テレフタル酸ジクロライドが最も好ましい。また、これら芳香族ジカルボン酸ジクロライドは、1種類のみならず2種類以上を用いることができ、その組成比は特に限定されるものではない。
【0017】
(第1のジアミン)
また、本発明において使用されるジアミンのうち、前記式(1)で表される構造反復単位に用いられるジアミン(以下「第1のジアミン」ともいう)としては、p−フェニレンジアミン、2−クロルp−フェニレンジアミン、2,5−ジクロルp−フェニレンジアミン、2,6−ジクロルp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォンなどを単独あるいは2種以上挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
第1のジアミン成分としては、なかでも、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、および3,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれるジアミンを、単独あるいは2種以上使用することが好ましい。
【0018】
(第2のジアミン)
また、前記式(2)で表される構造反復単位に用いられるジアミン(以下「第2のジアミン」ともいう)としては、置換または非置換のフェニルベンジミダゾール基を有する芳香族ジアミンが挙げられ、なかでも入手のし易さ、得られる繊維の引張強度および初期モジュラスなどの点から、5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンジミダゾールが好ましい。
【0019】
(ジアミンの組成)
式(1)および式(2)の構造反復単位を構成するためには、少なくとも1種類ずつの「第1のジアミン」と「第2のジアミン」とを用いる。その組み合わせとしては、汎用性や繊維の機械的物性などの面から、第1のジアミンとしてパラフェニレンジアミン、第2のジアミンとして5−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾールを用いる組み合わせが最も好ましい。
【0020】
本発明に用いられる芳香族コポリアミドにおいて、「第1のジアミン」と「第2のジアミン」とのモル比、換言するならば、構造反復単位(1)と構造反復単位(2)とのモル比は、10:90〜70:30、好ましくは30:70〜50:50程度である。構造反復単位(2)、すなわち、第2のジアミンの割合が70モル%を超える場合には、重縮合反応の際に反応液が濁るばかりでなく、製糸作業性や得られる繊維の機械的物性が低下する問題がある。一方、構造反復単位(2)、すなわち、第2のジアミンの割合が30モル%未満の場合には、重合反応において反応溶液が濁るという問題が生じ、このような濁ったドープでは製糸することが困難となる。
【0021】
(ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジクロライドとの組成)
また、本発明に用いられる芳香族コポリアミドを製造する際には、前記のジアミンと芳香族ジカルボン酸ジクロライドのモル比を、ジアミン成分対酸クロライド成分のモル比として、好ましくは0.90〜1.10、より好ましくは0.95〜1.05とする。
【0022】
[溶媒]
芳香族コポリアミドを重合する際の溶媒としては、特に制限されるものではないが、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタムなどの有機極性アミド系溶媒が挙げられる。特に、芳香族コポリアミドの重合からドープ調製、湿式紡糸工程に至るまでの取扱い性や安定性、および該溶媒の有害性などの観点から、N−メチル−2−ピロリドンが最も好ましい。
これらの溶媒は、2種以上の混合溶媒として使用することも可能である。なお、前記溶媒は、脱水されていることが望ましい。
【0023】
[無機塩]
また、芳香族コポリアミドを製造する際には、得られる芳香族コポリアミドのアミド系極性溶媒に対する溶解性を上げるために、重合の前、途中、終了時などに一般に公知の無機塩を適当量添加してもよい。このような塩としては、例えば、塩化リチウム、塩化カルシウムなどが挙げられる。前記塩類の添加量としては、3〜10重量%とすることが好ましい。添加量が10重量%を超えるとアミド系極性溶媒に対し、全量溶解させることが困難となるため好ましくない。一方、3重量%未満の場合には、溶解性向上の効果が不十分となり好ましくない。
【0024】
[濃度]
芳香族コポリアミド溶液のポリマー濃度は、好ましくは0.5〜30重量%、より好ましくは1〜10重量%である。ポリマー濃度が0.5重量%未満の場合には、ポリマーの絡み合いが少なく紡糸に必要な粘度が得られない。一方で、ポリマー濃度が30重量%を超える場合には、ノズルから吐出する際に不安定流動が起こりやすくなり、安定的に紡糸することが困難となる。特に、均質な高重合度のポリマーを得るためには、生成したポリマー濃度として、10重量%以下とすることが好ましい。とりわけ3〜8重量%の範囲が、安定したポリマーを得るのに好都合である。
【0025】
[その他]
本発明に用いられる芳香族コポリアミドは、その末端が封止されたものであってもよい。末端封止剤を用いて封止する場合には、その末端封止剤としては、例えば、フタル酸クロライドおよびその置換体、アミン成分としてはアニリンおよびその置換体が挙げられる。
また、芳香族コポリアミドの製造にあたっては、酸クロライドとジアミンの反応において一般的に用いられる、生成する塩化水素のごとき酸を捕捉するための脂肪族や芳香族アミン、第4級アンモニウム塩などを併用することができる。
反応の終了後、必要に応じて塩基性の無機化合物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウムなどを添加し中和反応を実施する。
反応条件は、特別な制限を必要としない。酸クロライドとジアミンとの反応は、一般に急速であり、反応温度は例えば−25℃〜120℃好ましくは−10℃〜100℃である。
【0026】
[重合反応後の熱処理]
本発明においては、重合反応後に熱処理を実施することが重要である。熱処理は、芳香族コポリアミドの重合が終了した後、芳香族コポリアミドが溶媒に溶解しているコポリアミド溶液に対して実施することが可能である。
【0027】
(熱処理温度)
熱処理は、温度60℃以上100℃以下の範囲で行なう必要がある。熱処理温度が60℃未満の場合には、芳香族コポリアミドが活性を得るのに十分な熱量を与えることができず、分子量分布の狭いポリマーは得られない。また、熱処理温度が100℃を超える場合には、芳香族コポリアミドの分子量低下が起こるため好ましくない。
【0028】
(熱処理時間)
熱処理を行なう時間も重要であり、熱処理時間は30分以上60分以下とする必要がある。熱処理時間が30分未満の場合には、芳香族コポリアミドが活性を得るのに十分な熱量を与えることができず、分子量分布の狭いポリマーは得られない。また、60分を超える場合には、芳香族コポリアミドポリマーの分子量低下が起こるため好ましくない。
【0029】
(攪拌速度)
本発明においては、熱処理時に、熱処理中の芳香族コポリアミドを攪拌する必要があり、その攪拌速度としては、30rpm以上200rpm以下の範囲とする。攪拌速度が30rpm未満の場合には、芳香族コポリアミドの分子量分布の変化が小さく、一方で200rpmを超える場合には、攪拌翼とポリマーとの滑りが生じて効率的な攪拌効果が得られないため、本発明の効果を効率的に得ることが困難となる。
【0030】
<芳香族コポリアミド繊維>
本発明の芳香族コポリアミドから繊維を製造する場合には、2種以上の前記した芳香族コポリアミド、あるいは、前記した芳香族コポリアミド以外のポリアミド、その他樹脂、添加剤等が含まれていてもよい。
【0031】
芳香族コポリアミド繊維の具体的な製造方法としては、従来公知の方法を採用することができ、例えば、前記で得られた芳香族コポリアミド、およびアミド系溶媒からなる紡糸用溶液(ドープ)を調製し、得られたドープをノズルより吐出し、貧溶媒からなる凝固浴中で凝固、脱溶媒し、延伸、乾燥、熱処理させることにより繊維を得ることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、これらの例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0033】
<測定・評価方法>
実施例および比較例中の各特性値は、下記の方法により測定・評価を実施した。
【0034】
[分子量分布]
芳香族コポリアミドの分子量分布は、GPC(島津製作所製、商品名:ゲルパーミュテーションクロマトグラフィー、型式:LC−10)を用いて、以下の条件で測定して算出した。
(測定条件)
溶離液 :NMP(臭化リチウム1%含有)
溶出速度 :0.6mL/min
ピーク検出 :示差屈折率計
【0035】
[攪拌速度]
熱処理中の攪拌速度は、回転計(佐藤商事製、商品名:非接触式タコメーター、型式:8000)を用いて測定した。
【0036】
[紡糸延伸張力]
紡糸延伸張力は、張力計(イマダ製、商品名:メカニカルテンションメーター、型式:ZD2−300)を用いて測定した。
【0037】
<実施例1>
[コポリアミドの重合]
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)1.832Lに塩化カルシウム60g(3質量%)を溶解させた後、パラフェニレンジアミン10.8g(30mol%)と、5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンジミダゾール52.0g(70mol%)とを秤量して投入し溶解させ、ジアミン溶液を得た。続いて、本溶液にテレフタル酸クロライド60.0g(99.0mol%)を投入し、反応せしめることによりポリマー溶液を得た。
【0038】
[熱処理]
得られたポリマー溶液に対して、80℃で40分間、攪拌速度100rpmにて熱処理を行った。熱処理の後、22.5質量%の水酸化カルシウムを含有するNMP分散液108.4gを添加して中和させ、中和ポリマー溶液を得た。得られたポリマーの分子量分布は2.54であった。
【0039】
[繊維の製造]
得られたポリマー溶液を用いて、孔径0.15mm、孔数24ホールの紡糸口金から、毎分3.5ccの割合で吐出し、エアーギャップと呼ばれる空隙部分を介して、NMP濃度30質量%、温度50℃の水溶液中に紡出し、凝固延伸糸を得た。
【0040】
<比較例1>
熱処理温度を50℃とした以外は、実施例1と同様にしてポリマー溶液を得た。ポリマーの分子量分布は3.02であった。
【0041】
<比較例2>
熱処理温度を120℃とした以外は、実施例1と同様にしてポリマー溶液を得た。ポリマーの分子量分布は3.12であった。
【0042】
<比較例3>
ポリマー溶液の熱処理時間を10分とした以外は、実施例1と同様にしてポリマー溶液を得た。ポリマーの分子量分布は3.43であった。
【0043】
<比較例4>
ポリマー溶液の熱処理時の攪拌速度を250rpmとした以外は実施例1と同様にしてポリマー溶液を得た。ポリマーの分子量分布は3.23であった。
【0044】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造反復単位および下記式(2)で表される構造反復単位とを含む芳香族コポリアミドであって、
分子量分布が1.5以上2.7以下である芳香族コポリアミド。
【化1】

【化2】

(式(1)および式(2)中、ArおよびArは各々独立であり、非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
【請求項2】
請求項1記載の芳香族コポリアミドの製造方法であって、
前記芳香族コポリアミドを重合した後、60℃以上100℃以下の温度で30分以上60分以下、30rpm以上200rpm以下の速度で攪拌しつつ熱処理を行なう芳香族コポリアミドの製造方法。

【公開番号】特開2012−12479(P2012−12479A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149879(P2010−149879)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】