説明

芳香族ポリアミド組成物の製造方法、組成物及びそれからなるフィルム

【課題】ポリエーテルスルホン中の不溶分を低減することができ、それにより粗大な表面突起の発生を抑制し、表面性に優れたフィルムを得ることができる芳香族ポリアミド組成物の製造方法、その方法により得られる芳香族ポリアミド組成物及びそれからなるフィルムを提供する。
【解決手段】ジクロリドまたはジカルボン酸と、ジアミンから芳香族ポリアミドを製造するに際して、芳香族ポリアミドの重合前もしくは重合後に、60℃の際の粘度が10ポイズ以下である溶液とした後、フィルター通過時の溶液の温度が40〜80℃、かつフィルターでの濾過速度が0.0001〜0.0012m/m・hr、かつフィルターの差圧が10〜100kPa以下で、濾過精度1.0μm以下のフィルターにより濾過を行ったポリエーテルスルホンを、芳香族ポリアミドに対して1〜20重量%添加することを特徴とする、芳香族ポリアミド組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面性に優れ、粗大な表面突起の発生を抑制したフィルムを得ることができる芳香族ポリアミド組成物の製造方法、組成物及びそれからなるフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリアミドフィルムは、耐熱性、強度、寸法安定性に優れ、磁気記録媒体、熱転写記録媒体、コンデンサ用誘導体、印刷回路基板等のフィルムとして注目され、かつその使用が拡大している。
【0003】
従来、芳香族ポリアミドフィルムは、表面性を改善するために粒子(例えば無機粒子)を添加することで、フィルム表面に微細な突起を形成させる方法が知られている。また、より微細な突起を形成させるため、異種ポリマーであるポリエーテルスルホンをブレンドし、フィルムとした際に異種ポリマーを析出させる方法も知られている。しかしながら、ポリエーテル中に含まれる不純物により、フィルム上に粗大な表面突起が発生してしまうという問題があった。
【0004】
フィルム中の粗大な表面突起を抑制する方法としては、例えば、ポリエーテルスルホン中に含まれる溶媒に対し不溶な成分(不溶分)を規定する方法が提案されている。(特許文献1参照)
しかしながら、ポリエーテルスルホン中の不溶分は非常に柔軟で変形しやすいため、通常のフィルター濾過では不溶分がフィルターの目をすり抜けて通過してしまい、ほとんど捕捉することができない。また、不溶分を除去する方法としては、遠心分離などの方法が知られているが、このような方法では極度に長い時間を要するため、現実的ではない。
【0005】
また、近年ますます微細な突起及び優れた表面性が要求されてきているため、より高さの低い突起についても粗大突起として検出する必要性があり、前述の方法ではフィルムの表面性は十分に満足できるものではなかった。
【特許文献1】特開2000−290402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる問題点を解決し、芳香族ポリアミド組成物を製造するに際し、特定の方法でポリエーテルスルホン溶液を濾過したのち添加することにより、ポリエーテルスルホン中の不溶分を低減することができ、それにより粗大な表面突起の発生を抑制し、表面性に優れたフィルムを得ることができる芳香族ポリアミド組成物の製造方法、その方法により得られる芳香族ポリアミド組成物及びそれからなるフィルムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、ジクロリドまたはジカルボン酸と、ジアミンから芳香族ポリアミドを製造するに際して、芳香族ポリアミドの重合前もしくは重合後に、60℃の際の粘度が10ポイズ以下である溶液とした後、フィルター通過時の溶液の温度が40〜80℃、かつフィルターでの濾過速度が0.0001〜0.0012m/m・hr、かつフィルターの差圧が10〜100kPa以下で、濾過精度1.0μm以下のフィルターにより濾過を行ったポリエーテルスルホンを、芳香族ポリアミドに対して1〜20重量%添加することを特徴とする、芳香族ポリアミド組成物の製造方法、組成物及びそれからなるフィルムによって達成できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明のように、芳香族ポリアミド組成物を製造するに際し、ポリエーテルスルホン溶液を特定の温度、粘度の範囲で、かつ特定の方法で濾過したのちに添加することにより、ポリエーテルスルホン中の不溶分を除去、低減することができ、不溶分による粗大な表面突起を抑制した、表面性に優れたフィルムを得ることができる。さらに、該フィルムは、小型化、薄膜化が可能であり、コンパクトで大容量のデータを記録することができ、民生用、プロ用、D−1、D−2、D−3などの放送局用デジタルビデオカセット用途、DDS−2,3,4、データ8mm、AIT、DLT、LTOなどのデータストレージ用途に好適に用いることができるが、特に、高容量で信頼性が最も重視されるデータストレージ用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の芳香族ポリアミドは、ジクロリドまたはジカルボン酸と、ジアミンから製造されるものである。
【0010】
本発明において用いられるジクロリドとしては、例えばテレフタル酸ジクロリド、イソフタル酸ジクロリド、4,4’−ジフェニルジカルボン酸ジクロリド、2,6’−ナフタレンジカルボン酸ジクロリド、2−クロロテレフフタル酸ジクロリド、2,5’−ジクロロテレフタル酸ジクロリド、2,6’−ジクロロテレフタル酸ジクロリド等が挙げられる。これらの中で、ポリマーの溶媒への溶解性及び吸湿性の改善の点から2−クロロテレフタル酸ジクロリドが好ましい。
【0011】
また、ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、モノクロロテレフタル酸、ジクロロテレフタル酸、テトラクロロテレフタル酸、メチルテレフタル酸、イソフタル酸、2・6−ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。
【0012】
また、ジアミンとしては、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4’−ジアミノクロロベンゼン、2,6’−ナフチレンジアミン、4,4’−ビフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、2−クロロ−p−フェニレンジアミン、2,5’−ジクロロ−p−フェニレンジアミン、2,6’−ジクロロ−p−フェニレンジアミン、4,4’−オキシジアニリン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン等が挙げられる。これらの中で、ポリマーの溶媒への溶解性、吸湿性及び剛性の改善の点から、2−クロロ−p−フェニレンジアミンまたは4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。これらのジアミンは単独または2種類以上用いることもできる。
【0013】
本発明における芳香族ポリアミドの製造方法としては、例えば低温溶液重合法、界面重合法、脱水触媒を用い直接重合させる方法等が挙げられる。これらの中で、高重合度のポリマーを得やすい点から低温溶液重合法が好ましい。この場合、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)などの非プロトン性有機極性溶媒中の溶液重合で合成される。また、溶解助剤として、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、臭化リチウム、硝酸リチウムなどの存在下に重合してもよい。
【0014】
上記重合反応に用いる重合槽としては、竪型重合槽の場合、ダブルヘリカルリボン型、パドル型、プロペラ型等の撹拌翼を用いることができる。また、ニーダの場合は、フィッシュテール型またはゼット型等のブレードを取り付けたものを用いることができる。
【0015】
本発明において、ジクロリドまたはジカルボン酸と、ジアミンの反応により副生する塩化水素を、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸リチウムなどの無機系中和剤、あるいはエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの有機系中和剤で中和してもよい。また、重合工程と中和工程は、同一槽で可能である。
【0016】
得られたポリマー溶液は、そのまま製膜原液として使用してもよいが、ポリマーを一旦再沈などで単離し再度上記有機溶媒や硫酸などの無機溶媒に再溶解して製膜原液を調製してもよい。製膜原液としては、さらに溶解助剤として、無機塩たとえば塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、臭化リチウム、硝酸リチウムなどを添加する場合もある。また、フィルムの物性を損なわない程度に、酸化防止剤その他の添加剤などがブレンドされていてもよい。この製膜原液中の溶媒はポリマー溶液に対して、70重量%以上97重量%以下であることが好ましい。
【0017】
上記方法で製造した芳香族ポリアミドの固有粘度ηinh(ポリマー0.5gを硫酸中で100mlの溶液として30℃で測定した値)は、0.5dl/g以上であることがフィルムに加工した場合に十分な強度を有し好ましい。
【0018】
本発明の芳香族ポリアミド組成物の製造方法においては、溶液の状態でポリエーテルスルホンが添加される。ここでいうポリエーテルスルホンとは、下式で表される繰り返し単位を有する芳香族ポリスルホン系重合体である。
【0019】
【化1】

【0020】
本発明のポリエーテルスルホン溶液は、フィルムの表面突起形成への影響の点から、芳香族ポリアミドの重合前もしくは重合後に添加され、特には重合後に添加されることが好ましい。ここでいう重合後とは、重合・中和工程終了までである。
【0021】
本発明のポリエーテルスルホン溶液は、溶液中の不溶分を除去するため、フィルターによる濾過を行う必要がある。ここでいう不溶分とは、ポリエーテルスルホンが製造過程で高分子量化したゲル状物を含むものであって、このゲル状物とはポリエーテルスルホンをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解せしめた時に溶解しないもののうち、約1106、1152及び1244cm−1でのピークを含む赤外吸収スペクトルを示すことにより特徴付けられるものである。溶液中にこのゲル状の不溶分を多く含むと、芳香族ポリアミドをフィルムとした際に、不溶分がフィルム表面に現れ、粗大な表面突起が発生してしまう。また、ゲル状の不溶分は非常に柔軟で変形しやすいため、通常の方法で濾過を行ってもフィルターの目をすり抜けてしまい、捕捉することができない。そのため、特定の方法で濾過を行う必要がある。
【0022】
本発明のポリエーテルスルホンを溶解させる溶媒は特に限定されないが、ポリエーテルスルホンの溶媒への溶解性の点から、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)などの非プロトン性有機極性溶媒が好ましい。
【0023】
本発明のポリエーテルスルホン溶液は、溶液中のゲル状の不溶分を除去、低減する点から、60℃の際の粘度が10ポイズ以下である必要がある。好ましくは8ポイズ以下、より好ましくは5ポイズ以下である。60℃の際の粘度が10ポイズを超えると、溶液をフィルター濾過する際に、ゲル状の不溶分がフィルターを通過し、ゲル状の不溶分を除去、低減できない。
【0024】
本発明のポリエーテルスルホン溶液は、フィルター通過時の溶液温度を40〜80℃とする必要がある。好ましくは45〜75℃、より好ましくは50〜70℃である。溶液温度が40℃未満であると溶液の粘度が高くなるためゲル状の不溶分が溶液と共にフィルターを通過してしまい、80℃を超えるとゲル状の不溶分が変形しやすくなるためフィルターの目をすり抜けてしまい捕捉できなくなる。
【0025】
本発明のポリエーテルスルホン溶液を濾過するに際して、ゲル状の不溶分を除去、低減する点から、フィルターでの濾過速度を0.0001〜0.0012m/m・hrとする必要がある。好ましくは0.0003〜0.0010m/m・hr、より好ましくは0.0005〜0.0008m/m・hrである。ここでいう濾過速度とは、フィルターを通過する濾液の体積流量をフィルターの濾過面積で除した値である。濾過速度が0.0001m/m・hr未満であると濾過時間の遅延やフィルターが過大となってしまい効率が悪くなってしまう。0.0012m/m・hrを超えると、ゲル状の不溶分がフィルターの目をすり抜けてしまい捕捉できなくなる。
【0026】
本発明のポリエーテルスルホン溶液を濾過するに際して、フィルターの差圧は10〜100kPaである必要がある。好ましくは20〜90kPa、より好ましくは30〜80kPaである。差圧が10kPa未満であると濾過の効率が悪くなってしまい、100kPaを超えると、一度はフィルターに捕捉されたゲル状の不溶分が圧力によってフィルターの目をすり抜けてしまう。
【0027】
本発明のポリエーテルスルホン溶液は、濾過精度1.0μm以下のフィルターにより濾過を行う必要がある。好ましくは0.9μm以下、より好ましくは0.8μ以下である。フィルターの種類及び構造については特に限定されるものではない。濾過精度が1.0μmを超えると、不溶分がフィルターの目をすり抜けてしまう。
【0028】
本発明のポリエーテルスルホンの添加量は、フィルムの走行性、粗大突起の抑制の点から、1〜20重量%である必要がある。好ましくは2〜16%、より好ましくは5〜12重量%である。1重量%未満であるとフィルムの走行性が不良となり、20重量%を超えるとポリエーテルスルホンが凝集して粗大突起が発生しやすくなる。
【0029】
本発明のポリエーテルスルホンは、フィルムの表面突起形成への影響の点から、還元粘度が0.5〜1.0dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.65〜0.85dl/gである。還元粘度が0.5dl/g未満であるとフィルムの表面突起形成が十分でなかったり、1.0dl/gを超えるとフィルムとした際に粗大な表面突起が発生しやすくなる場合がある。
【0030】
このようにして製造された芳香族ポリアミド組成物と溶媒からなるポリマー溶液は製膜原液として、いわゆる溶液製膜法によりフィルムに加工される。溶液製膜法には乾湿式法、乾式法、湿式法などがあり、いずれの方法で製膜してもよいが、ここでは乾湿式法を例にとって説明する。
【0031】
乾湿式法で製膜する場合は、製膜原液を口金からドラム、エンドレスベルトなどの支持体上に押し出して薄膜とし、次いでかかる薄膜層から溶媒を蒸散させ薄膜が自己保持性を持つまで乾燥する。乾燥条件は、好ましくは、室温以上220℃以下、60分以内であり、より好ましくは室温以上200℃以下である。
【0032】
乾燥されたフィルムは支持体から剥離されて、凝固浴(通常は水系)内で脱塩、脱溶媒、縦延伸などが行なわれ、さらにテンター内で延伸、乾燥、熱処理が行なわれてフィルムとなる。延伸倍率は面倍率(延伸後のフィルム面積を延伸前のフィルム面積で除した値で定義する。1未満はリラックスを意味する)で0.8以上8.0以下が好ましく、1.1以上5.0以下がより好ましい。
【0033】
また、本発明の芳香族ポリアミド組成物からなるフィルムは、積層フィルムであってもよい。たとえば2層の場合には、重合した芳香族ポリアミド溶液を二分し、それぞれ異なる粒子を添加した後に積層すればよい。3層以上の場合でも同様であり、積層方法としては、周知の技術たとえば、口金内での積層、複合管での積層や、一旦1層を形成してからその上に他の層を形成する方法などがある。
【0034】
次に、芳香族ポリアミド組成物からなるフィルムに磁性層を形成させて磁気記録媒体とする。磁性層を形成する方法は特に限定されないが、酸化鉄または酸化クロム等の針状微細磁性粉、またはバリウムフェライト等の板状微細磁性粉をポリ塩化ビニル、塩化ビニル、酢酸ビニル共重合体等のバインダーに均一に分散し、磁性層厚みが1μm以下となるよう塗布することが好ましい。塗布後の乾燥温度は90℃〜150℃が好ましく、カレンダー工程は25℃〜150℃の範囲で行なうのが好ましい。また、磁気記録媒体は、磁性層を形成後、磁性層と反対側の面にさらに走行性を向上させるために、公知の方法によりバックコート層を設けてもよい。
【0035】
さらに、この磁性層を塗布したフィルムをキュアした後スリットして、磁気記録媒体とすることができる。
【0036】
こうして得られた磁気記録媒体は、表面性に優れ、小型化、薄膜化が可能であり、コンパクトで大容量のデータを記録することができ、民生用、プロ用、D−1、D−2、D−3などの放送局用デジタルビデオカセット用途、DDS−2,3,4、データ8mm、AIT、DLT、LTOなどのデータストレージ用途に好適に用いることができるが、特に、高容量で信頼性が最も重視されるデータストレージ用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の特性の測定は以下の通りである。
(1)60℃における溶液粘度
株式会社トキメック製B型粘度計にて、温度60℃の条件下において、No.1のローターを用いて10rpmの回転数にて測定した。
(2)還元粘度
100cmのジメチルホルムアミド(DMF)中にサンプルを1g溶解させた後、この溶液の粘度を、オストワルド粘度管を使用して、25℃で測定した。
(3)ポリエーテルスルホン溶液中の不溶分量
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)100ml中に濾過したポリエーテルスルホン溶液サンプル20gを溶解し、濾過精度1μmの親水性テフロンフィルターで常圧濾過を行う。フィルター上の異物のうち20個の赤外吸収スペクトルを、Bio−Rad社製FTS−40を用いて8cm−1の分解能で測定し、約1106、1152及び1244cm−1でのピークを含む赤外吸収スペクトルを示すフィルター上の異物個数をカウントし、下記式より計算した。
不溶分量=(w−w)/20×(n/20)×10 (ppm)
:濾過前のフィルター重量(g)
w:濾過後のフィルター重量(g)
n:上記ピークを含む赤外吸収スペクトルを示す異物の個数(個)
(4)フィルム上の粗大な表面突起
作成したフィルムの表面10cmを、実体顕微鏡により偏光下で異物を観察し、マーキングする。マーキングした異物の高さを、レーザー顕微鏡により高さプロファイルを測定し、平坦面より0.12μm以上高い物の個数をカウントし、100cm当たりの数に換算する。
【0038】
実施例1
翼径1.14m、翼幅0.16mのアンカー型攪拌翼を有する、槽内径1.2mの冷却ジャケット付き重合槽を使用して、NMPに芳香族ジアミン成分として85モル%に相当する2−クロロ−p−フェニレンジアミンと、15モル%に相当する4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを溶解させ、これに芳香族ジアミンに対して98.4モル%に相当する2−クロロテレフタル酸ジクロリドを添加し、線速度4.0m/秒で攪拌しながら重合を開始した。溶液粘度が上昇するのに従い槽内温度を35℃以下に保持できるよう段階的に攪拌速度を下げ、最終的に線速度2.0m/秒にし、2時間攪拌し重合を完了した。副生した塩化水素を炭酸リチウムで中和し、ポリマー濃度10.6重量%、溶液粘度3560ポイズのポリマー溶液を得た。
【0039】
次に還元粘度0.75dl/gのポリエーテルスルホンを、NMPに60℃での溶液粘度が4ポイズとなる量を溶解したのち、溶液の温度を60℃、濾過速度を0.0007m/m・hr、フィルター差圧を60kPaに設定し、濾過精度0.6μmのフィルターで濾過を行った。濾過後の溶液中の不溶分量は20ppmであった。この溶液を、ポリエーテルスルホンの含有量が芳香族ポリアミドに対して10重量%となるように上記ポリマー溶液とブレンドし、60℃で3時間充分に混合した。
【0040】
この原液を濾過精度1μmのフィルターを通した後、径が30μm以上の表面欠点の頻度が0.005個/mmのベルト上に流延し、180℃の熱風で2分間加熱して溶媒を蒸発させ、自己保持性を得たフィルムをベルトから連続的に剥離した。次にNMP濃度勾配のつけた水槽(3槽)内へフィルムを導入して残存溶媒と中和で生じた無機塩の水抽出を行ない、テンターで水分の乾燥と熱処理を行なって、厚さ6μmのフィルムを得た。この間にフィルムの長手方向と幅方向にそれぞれ1.2倍、1.3倍延伸を行ない、280℃で1.5分間乾燥と熱処理を行なった後、20℃/秒の速度で徐冷し、芳香族ポリアミドフィルムを得た。ポリエーテルスルホン溶液の濾過条件、不溶分及びフィルムの粗大な表面突起の個数を表1に示す。フィルムの粗大な表面突起は10個/100cmと良好であった。
【0041】
実施例2、3
ポリエーテルスルホンの還元粘度、60℃での溶液粘度及び濾過条件を変更した以外は、実施例1と同様の方法で芳香族ポリアミド組成物を製造し、フィルムを得た。ポリエーテルスルホン溶液の濾過条件、不溶分及びフィルムの粗大な表面突起の個数を表1に示す。実施例2、3ともに本発明の範囲内であり、濾過後のポリエーテルスルホン溶液中の不溶分量及びフィルムの粗大な表面突起の個数は良好であった。
【0042】
比較例1
還元粘度0.75dl/gのポリエーテルスルホンを、NMPに60℃での溶液粘度が12ポイズとなる量を溶解したのち、溶液の温度を70℃、濾過速度を0.0005m/m・hr、フィルター差圧を82kPaに設定し、濾過精度0.6μmのフィルターで濾過を行った以外は、実施例1と同様の方法で芳香族ポリアミド組成物を製造し、フィルムを得た。ポリエーテルスルホン溶液の濾過条件、不溶分及びフィルムの粗大な表面突起の個数を表1に示す。濾過後のポリエーテルスルホン溶液中の不溶分量及びフィルムの粗大な表面突起の個数はともに不良であった。
【0043】
比較例2〜6
ポリエーテルスルホンの還元粘度、60℃での溶液粘度及び濾過条件を表1に示した通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で芳香族ポリアミド組成物を製造し、フィルムを得た。ポリエーテルスルホン溶液の濾過条件、不溶分及びフィルムの粗大な表面突起の個数を表1に示す。比較例2及び3は、フィルター通過時の溶液の温度が本発明の範囲外であり、溶液中の不溶分量及びフィルムの粗大な表面突起の個数はともに不良であった。比較例4は、フィルターでの濾過速度が本発明の範囲外であり、溶液中の不溶分量及びフィルムの粗大な表面突起の個数はともに不良であった。比較例5は、フィルターの差圧が本発明の範囲外であり、溶液中の不溶分量及びフィルムの粗大な表面突起の個数はともに著しく不良であった。比較例6は、フィルターの濾過精度が本発明の範囲外であり、溶液中の不溶分量及びフィルムの粗大な表面突起の個数はともに著しく不良であった。
【0044】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジクロリドまたはジカルボン酸と、ジアミンから芳香族ポリアミドを製造するに際して、芳香族ポリアミドの重合前もしくは重合後に、60℃の際の粘度が10ポイズ以下である溶液とした後、フィルター通過時の溶液の温度が40〜80℃、かつフィルターでの濾過速度が0.0001〜0.0012m/m・hr、かつフィルターの差圧が10〜100kPa以下で、濾過精度1.0μm以下のフィルターにより濾過を行ったポリエーテルスルホンを、芳香族ポリアミドに対して1〜20重量%添加することを特徴とする、芳香族ポリアミド組成物の製造方法。
【請求項2】
ポリエーテルスルホンの還元粘度が0.5〜1.0dl/gであることを特徴とする、請求項1に記載の芳香族ポリアミド組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法により得られた芳香族ポリアミド組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の芳香族ポリアミド組成物からなるフィルム。
【請求項5】
請求項4に記載のフィルムよりなる磁気記録媒体。

【公開番号】特開2007−238655(P2007−238655A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−58988(P2006−58988)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】