説明

芳香族ポリエステルおよびその用途

【課題】非プロトン性溶媒に対する溶解性が向上された芳香族ポリエステルを提供する。
【解決手段】[1]構成単位として、(A)芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の単位と(B)芳香族ジカルボン酸由来の単位と(C)芳香族ジアミン、水酸基を有する芳香族アミンから選ばれる芳香族アミン由来の単位とを含み、(A)〜(C)単位の合計に対して、(A)の単位が10モル%〜30モル%未満、(B)及び(C)の単位がそれぞれ35モル%を超え45モル%以下であることを特徴とする芳香族ポリエステル。[2]さらに(D)芳香族ジオール由来の単位を含み、その量が(C)の単位に対するモル比(D)/(C)で0.75以下であることを特徴とする請求項1記載の芳香族ポリエステル。[3]上記[1]、[2]の芳香族ポリエステルと非プロトン性溶媒とを含有することを特徴とする芳香族ポリエステル液状組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリエステル、それを含有する液状組成物およびそれから得られるフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリエステルは、優れた高周波特性、低吸湿性を示すことから、エレクトロニクス基板等のフィルム材料としての応用が検討されている。
例えば、我々は既に、(1)芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の単位と、(2)芳香族ジカルボン酸由来の単位と、(3)芳香族ジアミン、水酸基を有する芳香族アミンから選ばれる芳香族アミン由来の単位とを含み、これらの全単位に対して、(1)の単位が30〜80モル%、(2)の単位が35〜10モル%、(3)の単位が35〜10モル%である芳香族ポリエステル、及びN−メチルピロリドンなどの非プロトン性溶媒を含む芳香族ポリエステル液状組成物を提案するとともに、この液状組成物を支持基板上に流延し、溶媒を除去することによる芳香族ポリエステルフィルムの製造方法等も提案している(例えば、特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−315678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記公知の芳香族ポリエステルは、非プロトン性溶媒に対する溶解性が必ずしも十分満足し得るものではなく、例えば肉厚のフィルムを製造する時等、支持体の上に溶液を流延し乾燥するという工程を場合によっては2回以上施す必用がある等の問題に遭遇した。
本発明の目的は、上記問題の解決、すなわち非プロトン性溶媒に対する溶解性が向上された芳香族ポリエステルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記問題を解決すべく、芳香族ポリエステルの組成について鋭意検討を重ねた結果、芳香族ポリエステルの構成単位として、(A)芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の単位と(B)芳香族ジカルボン酸由来の単位と(C)芳香族ジアミン、水酸基を有する芳香族アミンから選ばれる芳香族アミン由来の単位とを含み、(A)〜(C)単位の合計に対して、(A)の単位が10モル%〜30モル%未満であるという特定の芳香族ポリエステルが、非プロトン性溶媒に対し良好な溶解性を有することを見出すと共に、更に種々の検討を加え本発明を完成した。
【0006】
すなわち本発明は、[1]構成単位として、(A)芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の単位と(B)芳香族ジカルボン酸由来の単位と(C)芳香族ジアミン、水酸基を有する芳香族アミンから選ばれる芳香族アミン由来の単位とを含み、(A)〜(C)単位の合計に対して、(A)の単位が10モル%〜30モル%未満、(B)及び(C)の単位がそれぞれ35モル%を超え45モル%以下であることを特徴とする芳香族ポリエステルを提供するものである。
【0007】
また本発明は、[2]さらに(D)芳香族ジオール由来の単位を含み、その量が(C)の単位に対するモル比(D)/(C)で0.75以下であることを特徴とする上記[1]の芳香族ポリエステル、
[3](A)の単位が下式(a)
−O−Ar1−CO− (a)
(式中、Ar1は、1,4−フェニレン、2,6−ナフタレンまたは4,4‘−ビフェニレンを表わす。)
で示されることを特徴とする上記[1]、[2]の芳香族ポリエステル、
[4](B)の単位が下式(b)
−CO−Ar2−CO− (b)
(式中、Ar2は、1,4−フェニレン、1,3−フェニレンまたは2,6−ナフタレンを表わす。)
で示されることを特徴とする上記[1]〜[3]の芳香族ポリエステル、
【0008】
[5](C)の単位が下式(c)
―X−Ar3−NH− (c)
(式中、Ar3は1,4−フェニレン,1,3−フェニレンまたは2,6−ナフタレンを表わし、Xは−O−または−NH−を表わす。)
で示されることを特徴とする上記[1]〜[4]の芳香族ポリエステル、
[6](D)の単位が下式(d)
−O−Ar4−O− (d)
(Ar4は、1,4−フェニレン、1,3−フェニレンまたは4,4’−ビフェニレンを表す。)
で示されることを特徴とする上記[1]〜[5]の芳香族ポリエステル
等を提供するものである。
【0009】
さらに本発明は、[7]上記[1]〜[6]の芳香族ポリエステルと非プロトン性溶媒とを含有することを特徴とする芳香族ポリエステル液状組成物、
[8]芳香族ポリエステルを、非プロトン性溶媒100重量部に対して0.01〜100重量部含有することを特徴とする上記[7]の液状組成物。
[9]非プロトン性溶媒が、ハロゲン原子を含まない非プロトン性溶媒であることを特徴とする上記[7]、[8]の液状組成物、
[10]非プロトン性溶媒の双極子モーメントが3以上5以下であることを特徴とする上記[7]〜[9]の液状組成物、
[11]上記[7]〜[10]の液状組成物を支持基板上に流延し、該液状組成物から溶媒を除去することを特徴とする芳香族ポリエステルフィルムの製造方法。
[12]上記[11]の製造方法により得られることを特徴とする芳香族ポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0010】
本発明の芳香族ポリエステルは、非プロトン性溶媒に対する溶解性が向上するので、より高濃度の芳香族ポリエステル液状組成物となり得、例えば肉厚のフィルムを製造する場合であっても、支持体の上に溶液を流延し乾燥するという工程の繰返しを減少し得る。
また本発明の芳香族ポリエステル液状組成物から得られたフィルムは、機械的強度に優れるのみならず、高周波特性、低吸水性などの性能にも優れていることから、プリント配線板などの電子部品用フィルム用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を詳述する。
本発明の芳香族ポリエステルは、構成単位として、(A)芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の単位と(B)芳香族ジカルボン酸由来の単位と(C)芳香族ジアミン、水酸基を有する芳香族アミンから選ばれる芳香族アミン由来の単位とを含むものである。
ここで、単位(A)の芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の単位としては、例えば下式(a)
−O−Ar1−CO− (a)
(式中、Ar1は、1,4−フェニレン、2,6−ナフタレンまたは4,4‘−ビフェニレンを表わす。)
で示される単位が挙げられる。
【0012】
この式(a)におけるAr1は、置換基を有していても良く、したがって、フェニレン環、ナフタレン環、ビフェニレン環も置換基を有していてもよく、その置換基としては例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基が挙げられる。
また単位(A)の代表例としては、例えばp−ヒドロキシ安息香酸由来の単位、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸由来の単位、4−ヒドロキシ−4’−ビフェニルカルボン酸由来の単位などが挙げられる。 なかでも2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸由来の単位が好ましく使用される。
【0013】
また単位(B)の芳香族ジカルボン酸由来の単位としては、例えば下式(b)
−CO−Ar2−CO− (b)
(式中、Ar2は、1,4−フェニレン、1,3−フェニレンまたは2,6−ナフタレンを表わす。)
で示される単位が挙げられる。
この式(b)におけるAr2は、置換基を有していても良く、したがって、フェニレン環、ナフタレン環も置換基を有していてもよく、その置換基としては例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基が挙げられる。
また単位(B)の代表例としては、例えばテレフタル酸由来の単位、イソフタル酸由来の単位、2,6−ナフタレンジカルボン酸由来の単位などが挙げられる。なかでもイソフタル酸由来の単位が好ましく使用される。
【0014】
単位(C)の芳香族ジアミン、水酸基を有する芳香族アミンから選ばれる芳香族アミン由来の単位としては、例えば下式(c)
―X−Ar3−NH− (c)
(式中、Ar3は1,4−フェニレン,1,3−フェニレンまたは2,6−ナフタレンを表わし、Xは−O−または−NH−を表わす。)
で示される単位が挙げられる。
この式(c)におけるAr3は、置換基を有していても良く、したがって、フェニレン環、ナフタレン環も置換基を有していてもよく、その置換基としては例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基が挙げられる。
また単位(C)の代表例としては、例えば3−アミノフェノール由来の単位、4−アミノフェノール由来の単位、1,4−フェニレンジアミン由来の単位、1,3−フェニレンジアミン由来の単位などが挙げられる。なかでも4−アミノフェノール由来の単位が好ましく使用される。
【0015】
本発明の芳香族ポリエステルは、構成単位として、上記のような(A)〜(C)の単位を含むものであり、その組成は、(A)〜(C)単位の合計に対して、(A)の単位が10モル%〜30モル%未満、(B)及び(C)の単位がそれぞれ35モル%を超え45モル%以下であることを特徴とする。
好ましくは、(A)の単位が15〜25モル%、(B)及び(C)の単位がそれぞれ37.5〜42.5モル%であり、より好ましくは(A)の単位が17〜23モル%、(B)及び(C)の単位がそれぞれ38.5〜41.5モル%である。
ここで、(A)の単位が10モル%未満では製造時に粘度が急激に上昇する傾向にあり、また30モル%以上であると溶解性が低下する。
また単位(B)は単位(C)と実質的に等量用いられることが好ましいが、単位(B)は、単位(C)に対して、−10モル%〜+10モル%であっても良い。対応するモノマーの使用比率をこの範囲で変更することにより、芳香族ポリエステルの重合度を制御することもできる。
【0016】
本発明の芳香族ポリエステルは、構成単位として、上記のような上記のような(A)〜(C)の単位を含むことを特徴とするものであるが、さらに(D)芳香族ジオール由来の単位等も含むことができる。
単位(D)の芳香族ジオール由来の単位としては、例えば下式(d)
−O−Ar4−O− (d)
(Ar4は、1,4−フェニレン、1,3−フェニレンまたは4,4’−ビフェニレンを表す。)
で示される単位が挙げられる。
この式(d)におけるAr4は、置換基を有していても良く、したがって、フェニレン環、ナフタレン環も置換基を有していてもよく、その置換基としては例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基が挙げられる。
また単位(D)の代表例としては、例えばハイドロキノン由来の単位、レゾルシン由来の単位、4,4’−ビフェノール由来の単位などが挙げられる。なかでもレゾルシン由来の単位が好ましく使用される。
単位(D)は、単位(C)の一部を置き換える形で使用することが好ましく、この場合の置き換量は、通常、本来用いる単位(C)に対するモル比(D)/(C)で0.75以下であり、好ましくは0.65以下である。

【0017】
ここで、上記のような単位(A)〜(D)が置換基を有する場合において、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
またアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等で代表される炭素数1〜10のアルキル基が挙げられ、アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基等で代表される炭素数6〜20のアリール基が挙げられる。
【0018】
本発明における芳香族ポリエステルは、構成単位として、上記のような単位を含むことを特徴とするものであるが、その製造方法としては、各単位に対応したモノマーすなわち
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族アミン、芳香族ジオール等、またはこれらのエステル形成性誘導体及び/又はアミド形成性誘導体を用い、常法、例えば特開2002−220444号、特開2002−146003号等に記載の方法等に準拠することにより製造し得る。
また各モノマーの使用モル%は、上記構成単位において示したモル%とほぼ同一であることはいうまでもない。
【0019】
ここで、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸等におけるカルボン酸のエステル形成性誘導体、アミド形成性誘導体としては、例えばカルボキシル基が酸ハロゲン化物、酸無水物などの反応活性が高くエステル、アミド等を生成する反応を促進するような誘導体となっているものや、カルボキシル基がアルコール類やエチレングリコール等のエステルであって、エステル交換反応によりエステルを、アミド交換反応によりアミドを生成するような誘導体となっているものが挙げられる。
また芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシカルボン酸、アミノフェノール等におけるフェノール性水酸基のエステル形成性誘導体としては、例えばフェノール性水酸基が低級カルボン酸類とのエステルであって、エステル交換反応によりエステルを生成するような誘導体となっているものが挙げられる。
芳香族ジアミン、アミノフェノール等におけるアミノ基のアミド形成誘導体としては、例えばアミノ基が、低級カルボン酸類とのアミドであって、アミド交換反応によりアミドを生成するような誘導体となっているものが挙げられる。
【0020】
本発明における芳香族ポリエステルの代表的製法としては、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸、アミノフェノール、芳香族ジアミン、芳香族ジオール等のフェノール性水酸基やアミノ基を過剰量の脂肪酸無水物によりアシル化してアシル化物を得、得られたアシル化物と、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸等のカルボキシル基とでエステル交換、アミド交換することにより重縮合する溶融重合方法などが挙げられる。
ここで、アシル化反応においては、脂肪酸無水物の添加量は、フェノール性水酸基とアミノ基の合計に対して、通常1.0〜1.2倍当量であり、好ましくは1.05〜1.1倍当量である。脂肪酸無水物の添加量が1.0倍当量未満では、重縮合時にアシル化物や原料モノマーなどが昇華し、反応系が閉塞し易い傾向があり、また、1.2倍当量を超える場合には、得られる芳香族ポリエステルが着色する傾向がある。
【0021】
アシル化反応は、通常130〜180℃で5分〜10時間反応させるが、140〜160℃で10分〜3時間反応させることがより好ましい。
アシル化反応に使用される脂肪酸無水物は,特に限定されないが、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ピバル酸、無水2エチルヘキサン酸、無水モノクロル酢酸、無水ジクロル酢酸、無水トリクロル酢酸、無水モノブロモ酢酸、無水ジブロモ酢酸、無水トリブロモ酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水β−ブロモプロピオン酸などが挙げられ、これらは2種類以上を使用してもよい。価格と取り扱い性の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸が好ましく、より好ましくは、無水酢酸である。
【0022】
エステル交換、アミド交換においてはカルボキシル基がアシル基、アミド基の総量の0.8〜1.2倍当量になるように調整することが好ましい。
またエステル交換、アミド交換は、130〜400℃で0.1〜50℃/分の割合で昇温しながら行なうことが好ましく、150〜350℃で0.3〜5℃/分の割合で昇温しながら行なうことがより好ましい。この際、平衡を移動させるため、副生する脂肪酸と未反応の脂肪酸無水物は、蒸発させるなどして系外へ留去することが好ましい。
【0023】
なお、アシル化反応、エステル交換、アミド交換は、触媒の存在下に行なってもよい。 触媒としては、従来からポリエステルの重合用触媒として公知のものを使用することができ、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモンなどの金属塩触媒、N,N-ジメチルアミノピリジン、N―メチルイミダゾールなどの有機化合物触媒などを挙げることができる。
これらの触媒の中で、N,N-ジメチルアミノピリジン、N―メチルイミダゾールなどの窒素原子を2個以上含む複素環状化合物が好ましく使用される(特開2002−146003参照)
【0024】
エステル交換、アミド交換による重縮合は、通常、溶融重合により行なわれるが、溶融重合と固層重合とを併用してもよい。固相重合は、溶融重合工程からポリマーを抜き出し、その後、粉砕してパウダー状もしくはフレーク状にした後、公知の固相重合方法により行うことが好ましい。具体的には、例えば、窒素などの不活性雰囲気下、180〜350℃で、1〜30時間固相状態で熱処理する方法などが挙げられる。固相重合は、攪拌しながらでも、攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。なお適当な攪拌機構を備えることにより溶融重合槽と固相重合槽とを同一の反応槽とすることもできる。固相重合後、得られた芳香族ポリエステルは、公知の方法によりペレット化し、成形してもよい。
芳香族ポリエステルの製造装置としては、回分装置、連続装置いずれも用いることができる。
【0025】
かくして、本発明の芳香族ポリエステルが製造されるが、 芳香族ポリエステルには、本発明の目的を損なわない範囲で、公知のフィラー、添加剤等を含有していても良い。
フィラーとしては、例えば、エポキシ樹脂粉末、メラミン樹脂粉末、尿素樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、スチレン樹脂などの有機系フィラー、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ジルコニア、カオリン、炭酸カルシウム、燐酸カルシウムなどの無機フィラーなどが挙げられる。
添加剤としては、公知のカップリング剤、沈降防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などが挙げられる。
また、芳香族ポリエステルには、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルエーテル及びその変性物、ポリエーテルイミドなどの熱可塑性樹脂、グリシジルメタクリレートとポリエチレンの共重合体などのエラストマーなどを一種または二種以上を含有していても良い。
【0026】
本発明の芳香族ポリエステル液状組成物は、上記のような芳香族ポリエステルと非プロトン性溶媒とを含有するものであり、両者を混合することにより製造し得る。
ここで、芳香族ポリエステルの含量は、非プロトン性液体100重量部に対して0.01〜100重量部であることが好ましい。0.01重量部未満であると溶液粘度が低すぎて均一に塗工できない傾向があり、100重量部を超えると、高粘度化する傾向がある。作業性や経済性の観点から、非プロトン性液体100重量部に対して、芳香族ポリエステルが1〜50重量部であることより好ましく、2〜40重量部であることがさらに好ましい。
【0027】
また非プロトン性溶媒としては、例えば、1−クロロブタン、クロロベンゼン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、1,1,2,2−テトラクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、γ―ブチロラクトンなどのラクトン系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、トリエチルアミン、ピリジンなどのアミン系溶媒、アセトニトリル、サクシノニトリルなどのニトリル系溶媒、N,N‘−ジメチルホルムアミド、N,N‘−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、ニトロメタン、ニトロベンゼンなどのニトロ系溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホランなどのスルフィド系溶媒、ヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸などのリン酸系溶媒などが挙げられる。
これらの中では、ハロゲン原子を含まない溶媒が環境への影響面から好ましく使用され、また双極子モーメントが3以上5以下の溶媒が溶解性の観点から好ましく使用される。具体的には、N,N‘−ジメチルホルムアミド、N,N‘−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、γ―ブチロラクトンなどのラクトン系溶媒等がより好ましく使用され、N,N‘−ジメチルホルムアミド、N,N‘−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンがさらに好ましく使用される。
【0028】
本発明の芳香族ポリエステルフィルムは、上記のような芳香族ポリエステル液状組成物を、必要に応じて、フィルターなどによってろ過することにより溶液組成物中に含まれる微細な異物を除去した後、支持基材上に、例えば、ローラーコート法、ディップコート法、スプレイコート法、スピナーコート法、カーテンコート法、スロットコート法、スクリーン印刷法等の各種手段により表面平坦かつ均一に流延し、その後、非プロトン性溶媒を除去することによって得ることができる。
非プロトン性溶媒の除去方法は、特に限定されないが、非プロトン性溶媒の蒸発により行うことが好ましい。該溶媒を蒸発する方法としては、加熱、減圧、通風などの方法が挙げられるが、中でも生産効率、取り扱い性の点から加熱して蒸発せしめることが好ましく、通風しつつ加熱して蒸発せしめることがより好ましい。この時の加熱条件としては、60〜200℃で10分ないし2時間予備乾燥を行う工程と、200〜400℃で30分ないし5時間熱処理を行う工程とを含むことが好ましい。
【0029】
このようにして得られる芳香族ポリエステルフィルムの厚みは、特に限定されることはないが、製膜性や機械特性の観点から、0.5〜500μmであることが好ましく、取り扱い性の観点から1〜200μmであることがより好ましい。
また本発明の芳香族ポリエステルフィルムは、機械的強度に優れるのみならず、高周波特性、低吸湿性などの優れた特性を示すので、近年注目されているビルドアップ工法などによる半導体パッケージやマザーボード用の多層プリント基板、フレキシブルプリント配線板、テープオートメーテッドボンディング用フィルム、その他8ミリビデオテープの基材、業務用デジタルビデオテープの基材、透明導電性(ITO)フィルムの基材、偏光フィルムの基材、各種調理食品用、電子レンジ加熱用の包装フィルム、電磁波シールド用フィルム、抗菌性フィルム、気体分離用フィルム等に用いることができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0031】
製造例1
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシー6−ナフトエ酸(以下、HNAと略称する)414g(2.2モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド(以下、APAPと略称する)666g(4.4モル)、イソフタル酸(以下、IPAと略称する)731g(4.4モル)及び無水酢酸955g(9.35モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。
その後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら170分かけて300℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。次いでこれを室温まで冷却して粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下250℃で10時間保持した後、室温まで冷却して再び粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下240℃で3時間保持し、固相で重合反応を進めて芳香族ポリエステル粉末を得た。
【0032】
製造例2
製造例1において、APAP666g(4.4モル)の代わりに、APAP416g(2.75モル)とハイドロキノン(以下、HQと略称する)182g(1.65モル)を用いる以外は製造例1に準拠して実施し、芳香族ポリエステル粉末を得た。
【0033】
製造例3
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、HNA941g(5.00モル)、APAP378g(2.5モル)、IPA 415g(2.5モル)及び無水酢酸 868g(8.5モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。
その後、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら170分かけて300℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。得られた固形分は室温まで冷却して粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下250℃で10時間保持した。得られた固形分を室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下250℃で3時間保持して芳香族ポリエステル粉末を得た。
【0034】
実施例1
製造例1で得られた芳香族ポリエステル粉末20gをN-メチルピロリドン80gに加え、160℃に加熱した結果、完全に溶解し透明な溶液が得られることを確認した。この溶液を攪拌及び脱泡し、芳香族ポリエステル溶液を得た。得られた溶液を銅箔上に塗布厚み300μmでバーコートした後、ホットプレート上にて80℃で1時間、さらに120℃で1時間加熱処理を行ない、更に窒素雰囲気下、300℃で1時間熱処理した。得られた樹脂つき銅箔から銅箔をエッチング除去したところ、膜厚み25μmの十分な強度を有する芳香族ポリエステルフィルムが得られた。
【0035】
実施例2
製造例1で得られた芳香族ポリエステル粉末を用いる代わりに、製造例2で得られた芳香族ポリエステル粉末20gをを用いる以外は準拠して実施し、膜厚み25μmの十分な強度を有する芳香族ポリエステルフィルムを得た。
芳香族ポリエステルとN-メチルピロリドンの液状組成物は、完全に溶解し透明な溶液となることを確認した。
【0036】
比較例1
製造例3で得られた芳香族ポリエステル粉末20gをN-メチルピロリドン80gに加え、160℃に加熱した結果、完全に溶解せず不透明な溶液であった。
【0037】
比較例2
製造例3で得られた芳香族ポリエステル粉末8gをN-メチルピロリドン92gに加えて160℃に加熱した結果、完全に溶解し透明な溶液を得ることが出来た。この溶液を攪拌及び脱泡し、芳香族ポリエステル溶液を得た。得られた溶液を銅箔上に塗布厚み300μmでバーコートした後、ホットプレート上にて80℃で1時間、さらに120℃で1時間加熱処理を行ない、更に窒素雰囲気下、300℃で1時間熱処理した。得られた樹脂つき銅箔から銅箔をエッチング除去したところ、膜厚み13μmの芳香族ポリエステルフィルムが得られた。
【0038】
表1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成単位として、(A)芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の単位と(B)芳香族ジカルボン酸由来の単位と(C)芳香族ジアミン、水酸基を有する芳香族アミンから選ばれる芳香族アミン由来の単位とを含み、(A)〜(C)単位の合計に対して、(A)の単位が10モル%〜30モル%未満、(B)及び(C)の単位がそれぞれ35モル%を超え45モル%以下であることを特徴とする芳香族ポリエステルを提供するものである。
【請求項2】
さらに(D)芳香族ジオール由来の単位を含み、その量が(C)の単位に対するモル比(D)/(C)で0.75以下であることを特徴とする請求項1記載の芳香族ポリエステル。
【請求項3】
(A)の単位が下式(a)
−O−Ar1−CO− (a)
(式中、Ar1は、1,4−フェニレン、2,6−ナフタレンまたは4,4‘−ビフェニレンを表わす。)
で示されることを特徴とする請求項1又は2記載の芳香族ポリエステル。
【請求項4】
(B)の単位が下式(b)
−CO−Ar2−CO− (b)
(式中、Ar2は、1,4−フェニレン、1,3−フェニレンまたは2,6−ナフタレンを表わす。)
で示されることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の芳香族ポリエステル。
【請求項5】
(C)の単位が下式(c)
―X−Ar3−NH− (c)
(式中、Ar3は1,4−フェニレン,1,3−フェニレンまたは2,6−ナフタレンを表わし、Xは−O−または−NH−を表わす。)
で示されることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の芳香族ポリエステル。
【請求項6】
(D)の単位が下式(d)
−O−Ar4−O− (d)
(Ar4は、1,4−フェニレン、1,3−フェニレンまたは4,4’−ビフェニレンを表す。)
で示されることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の芳香族ポリエステル。
【請求項7】
請求項1〜6いずれかに記載の芳香族ポリエステルと非プロトン性溶媒とを含有することを特徴とする芳香族ポリエステル液状組成物。
【請求項8】
芳香族ポリエステルを、非プロトン性溶媒100重量部に対して0.01〜100重量部含有することを特徴とする請求項7記載の液状組成物。
【請求項9】
非プロトン性溶媒が、ハロゲン原子を含まない非プロトン性溶媒であることを特徴とする請求項7又は8記載の液状組成物。
【請求項10】
非プロトン性溶媒の双極子モーメントが3以上5以下であることを特徴とする請求項7〜9いずれかに記載の液状組成物。
【請求項11】
請求項7〜10の液状組成物を支持基板上に流延し、該液状組成物から溶媒を除去することを特徴とする芳香族ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項12】
請求項11の製造方法により得られることを特徴とする芳香族ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2006−199769(P2006−199769A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−11247(P2005−11247)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】