説明

苗移植機

【課題】
圃場に凹凸がある度に植付部の植付深さが変更されると、かえって苗の植付深さが不安定になるため、機体が設定値以上傾斜するとアクチュエータの制御弁の作動時間が長くなる制御を行なう。
【解決手段】
苗を圃場に植え付ける植付装置4を備えた植付部5を走行車体8の後部に設け、植付部5を昇降させるアクチュエータ9を設け、センタフロート1の上下揺動によってアクチュエータ9の制御弁10を切り替えて植付部5を昇降させ、苗の植付深さを所定深さに維持する植付昇降制御可能に構成した苗移植機において、走行車体8に傾斜センサ11を設け、傾斜センサ11が検知する走行車体8の前後方向の設定値以上の傾斜を検出するとこの検出値から制御弁10を出力作動するまでの間の応答時間を長くする制御を行なう構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
植付部を走行車体にから昇降させて、土壌状態に関係無く一定の苗植付深さを維持する制御を行なう苗移植機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
センタフロートの上下揺動から土壌状態を検出し、植付部を昇降制御する技術や、車体の左右方向の傾斜を検出する傾斜センサを設けて、この車体をローリング制御する技術が存在する。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009ー113806号公報(第5頁、第7頁、図1、図4)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フロートセンサ方式によって滑走土壌面の深さを検出しながら、植付部の昇降制御する形態にあっては、土壌面の凹凸の激しい圃場では、植付部の昇降が著しく大きくなってしまい、植付部が下り過ぎてフロートで土壌を掬い上げて検出精度が低下する問題がある。
【0005】
逆に、植付部が上り過ぎて、苗の植付深さが浅くなることや、浮き苗現象を生じ易くなるなど、苗の植付制度が低下する問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、土壌面を滑走均平するセンタフロート(1)を設け、該センタフロート(1)の左右両側部にサイドフロート(2,2)を設け、積載した苗マットを植付部側へ繰出す苗タンク(3)と、該苗タンク(3)から分離保持した苗を前記センタフロート(1)及びサイドフロート(2,2)による均平跡に植え付ける植付装置(4)で植付部(5)を構成し、該植付部(5)を操向前輪(6)及び駆動後輪(7)を配した四輪走行形態の走行車体(8)の後部に設け、前記植付部(5)を昇降させるアクチュエータ(9)を設け、前記センタフロート(1)の上下揺動によってアクチュエータ(9)の制御弁(10)を切り替えて前記植付部(5)を昇降させ、苗の植付深さを所定深さに維持する植付昇降制御可能に構成した苗移植機において、前記走行車体(8)に傾斜センサ(11)を設け、該傾斜センサ(11)が検知する走行車体(8)の前後方向の設定値以上の傾斜を検出するとこの検出値から前記制御弁(10)を出力作動するまでの間の応答時間を長くする制御を行なう構成としたことを特徴とする苗移植機とした。
【0007】
前記走行車体(8)で圃場を走行する際、植付部(5)のセンターフロート(1)及び左右一対のサイドフロート(2,2)を土壌面に接触させ、土壌面を滑走させて均らし、植付部(5)を構成する植付装置(4)によって苗タンク(3)から送り出される苗を分離保持して、前記センタフロート(1)及びサイドフロート(2,2)による均らし跡の土壌面に一定深さに苗を植え付ける。
【0008】
この植付部(5)の下部に設けるセンタフロート(1)が土壌面の凹凸や硬軟等により大幅に上下動すると、制御弁(10)を切り替えて、アクチュエータ(9)を伸縮作動させ、植付部(5)を上昇または下降させて植付装置(4)が苗の植付深さを一定に維持する植付昇降制御を行う。
【0009】
このとき、植付昇降制御におけるセンタフロート(1)の上下動位置検出から制御弁(10)を出力するまでの制御応答時間(t)は一定の状態に設定されている。この制御応答時間は、ディレイタイムとも呼称する。
【0010】
そして、走行車体(8)が土壌面の凹凸や硬軟の変化等によって前後方向に大きく傾斜し、傾斜センサ(11)が設定値以上の傾斜角を検出した場合、植付昇降制御の制御応答時間(t)を延長制御応答時間(t1)に延長する制御を行なう。なお、延長制御応答時間(t1)>制御応答時間(t)である。
【0011】
これにより、走行車体(8)が設定角度異常に傾斜したときは、延長制御応答時間(t1)を開けてアクチュエータ(9)が伸縮し、植付部(5)が上昇または下降する制御が行なわれる。
【0012】
さらに、傾斜センサ(11)が検出する傾斜が設定値以下の角度になると、延長制御応答時間(t1)は、通常時制御の制御応答時間(t)に切り替えられて、植付部(5)の昇降が制御される。
【0013】
請求項2に記載の発明は、前記傾斜センサ(11)が設定値以上の傾斜を検出した際のアクチュエータ(9)の伸縮作動速度を、通常時の昇降制御の伸縮作動速度よりも速くする制御を行なう構成としたことを特徴とする請求項1記載の苗移植機とした。
【0014】
前記のように、植付部(5)の昇降動作の制御応答時間(t)は、傾斜センサ(11)が走行車体(8)の設定値以上の前後方向傾斜を検出すると延長制御応答時間(t1)に切り替えられるが、このときアクチュエータ(9)の伸縮作動速度を、通常時の伸縮作動速度(v)よりも速い増速伸縮作動速度(v1)に切り替える制御が行われる。
【0015】
また、傾斜センサ(11)が検出する走行車体(8)の前後方向の傾斜が小さくなると、増速伸縮作動速度(v1)から通常の伸縮作動速度(v)に切り替える制御が行われる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、前記アクチュエータ(9)によって植付部(5)を上昇制御するときのアクチュエータ(9)の伸縮作動速度よりも、該植付部(5)を下降制御するときのアクチュエータ(9)の伸縮作動速度を速くする制御を行なう構成としたことを特徴とする請求項1または2記載の苗移植機とした。
【0017】
植付部(5)の昇降制御は、傾斜センサ(11)が走行車体8の前後方向の設定値以上の傾斜を検出することによって、制御応答時間(t)を延長制御応答時間(t1)に切り替えたり、アクチュエータ(9)の伸縮作動速度(v)を増速伸縮作動速度(v1)に切り替えたりすることにより、植付装置(4)が苗を適切に土壌面に植付可能な高さに植付部(5)の上下高さを変更するものである。
【0018】
これにおいて、傾斜センサ(11)による設定値以上の傾斜が検出された状態で、且つ植付部(5)を下降させるときのみアクチュエータ(9)の伸縮作動速度(v)を増速伸縮作動速度(v1)に切り替える制御を行うことにより、植付部(5)が大幅に上昇している場合でも、植付部(5)を迅速に設定高さまで下降させることができる。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載の発明は、傾斜センサ(11)が走行車体8の設定値以上の前後傾斜を検知すると、制御弁(10)を作動させるまでの制御応答時間(t)を延長制御応答時間(t1)に切り替える制御を行なうため、走行車体(8)が僅かに前後方向に傾斜する場合、植付部(5)が頻繁に上下に揺動することを防止できるので、短時間に連続して上下動することによる植付部(5)の上下揺動が防止され、植付装置(4)が土壌面よりも上方に移動して苗が圃場に植え付けられなくなることがなく、作業者が手作業で苗を植えて余分な労力を費やす必要が無くなる。
【0020】
そして、植付装置(4)が土壌面よりも下方に沈下してしまい、苗の植付深さが深くなり過ぎて苗が育たなくなることを防止できるので、苗の植付精度が向上する。
また、植付部(5)の頻繁な上下動を防止することにより、機体の重心位置の変化による植付部(5)の揺動を抑えることができるので、作業による機体の振動が少なくなり、長時間の作業を行うときでも作業者の労力が軽減される。
【0021】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加えて、走行車体(8)が設定値以上に大きく前後方向に傾斜した場合、制御弁(10)の制御応答時間(t)を延長制御応答時間(t1)に切り替えて制御感度を鈍感にし、この制御弁(10)の切替制御によって作動されるアクチュエータ(9)の伸縮作動速度(v)を増速伸縮作動速度(v1)に切り替える制御を行なうことによって、植付部(5)を土壌面に対する適正な苗植付姿勢位置に的確に下降させて、昇降制御の遅れによる苗の植付姿勢や植付深さが乱れることを防止できるので、苗の植付精度が向上する。
【0022】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2記載の発明の効果に加えて、植付部(5)を上昇制御するときは、制御弁(10)を作動させる感度を鈍感にすることによって、センタフロート(1)及びサイドフロート(2,2)を土壌面から緩やかに離間させ、植付部(5)の昇降制御による急激な負荷変動を軽減するため、植付部(5)やアクチュエータ(9)、制御弁(10)の耐久性が向上する。
【0023】
また、植付部(5)を下降制御するときは、アクチュエータ(9)に作用している植付部(5)の自重を利用して下降速度を速くすることにより、センタフロート(1)及びサイドフロート(2,2)の接地する苗植作業姿勢に復帰し易くすることができるので、苗の植付精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】苗移植機の側面図
【図2】苗移植機の平面図
【図3】苗移植機のセンタフロート部の側面図
【図4】苗移植機の苗植昇降制御部のブロック図
【図5】苗植昇降制御部のフローチャート
【図6】施肥装置一部の拡大正面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
図例に基づいて、苗移植機は、乗用四輪走行形態の走行車体8の後部に、平行リンク形態のリフトリンク12を介して、多条(6条)植えの可能な植付部5を連結したものである。
【0026】
前記走行車体8には、エンジン13を設け、該エンジン13の上側に作業者が搭乗する運転席14を搭載し、この前側のステアリングポスト15上にはステアリングハンドル16や、変速レバー17、フィンガップレバー形態の苗植操作レバー18等を設けす。そして、下部の左右両側部に位置するサイドフロア19の外側には、補給用のマット苗を支持する苗枠20を設ける。
【0027】
前記走行車体8の前部には、前記エンジン13からベルト伝動される油圧無段変速装置21及びミッションケース22を配置し、該ミッションケース22の左右両側部に張り出すフロントアクスルハウジング23の両端部に、それぞれ操向前輪6,6を軸着して設けている。
【0028】
また、ミッションケース22から後方のリヤアクスルハウジング24にわたって車輪連動軸25が取出されると共に、PTO軸26が取出されている。
前記走行車体8の後端部には、リヤフレーム27を立設して前記リフトリンク12を連結し、該リヤフレーム27の上端には施肥装置28を取り付けている。
【0029】
前記走行車体8とリフトリンク12との間には、油圧回路によって伸縮されるリフトシリンダ9を設け、該リフトシリンダ9の油圧回路における昇降制御弁10の切替制御によってリフトシリンダ9が伸縮されて、植付部5を昇降する構成としている。
【0030】
前記リフトリンク12の後端のヒッチリンク29に対してローリング軸30周りにローリング回動自在に装着される植付部5は、前記PTO軸26から連動される伝動機構を内装した苗植伝動ケース31を主体として、この苗植伝動ケース31の下方に、中央部と、この左右両側部のセンタフロート1及びサイドフロート2,2を配置して、該センタフロート1及びサイドフロート2,2を土壌面に滑走させて支持推進させる。
【0031】
また、苗植伝動ケース31の上側には、後端下りに傾斜の多条植形態の苗タンク3を支持して、リードカム軸の回転により1枚マット苗幅相当間隔にわたって左、右方向へ往復移動するように案内し、該苗タンク3の後下端の苗繰出口を、植付装置4の苗植付爪33の作用する苗取口34を形成した苗取口枠32に案内させる。
【0032】
該苗取口枠32は苗植伝動ケース31側に取付けられて、この苗植伝動ケース31の後部の各苗植条位置に配置の植付装置4の先端の植付爪33を作用させる。各植付装置4は、先端の植付爪33を略楕円形状の植付軌跡線Dに作動させて、上支点位置を下降するとき前記苗取口枠32の苗取口34に介入して苗タンク3から繰出される苗を分離して保持することができ、下支点部に下降することによって、この保持している苗を土壌面に一定深さに植付けるものである。これら各苗植付爪33は、センタフロート1及びサイドフロート2,2で均平された均平跡の土壌面に植付けるように多条植え形態に構成される。
【0033】
前記植付部5の昇降制御は、前記リフトシリンダ9を作動させる油圧回路の昇降制御弁10を、コントローラ35から出力することによって行わせる。前記植付部6の中央部に配置するセンタフロート1の上下揺動によって、車体8の走行する土壌耕盤が深いときは、リフトシリンダ9を伸長させて、植付部5を上昇し、耕盤が浅いときは逆に下降させて、植付装置4による苗植付深さが略一定になるように昇降制御を行う形態としている。
【0034】
前記植付部5は、苗植伝動ケース31の前部上に、苗タンク3の上端底部を左右移動自在に支持する植付部フレーム36を有し、該植付部フレーム36の前側に、フロート支持アーム37をリンクアーム38を介して昇降可能に設け、このフロート支持アーム37の下端部にセンタフロート1の上下回動によって回動されるフロートセンサ39を設け、このセンタフロート1の前端部との間をリンク40連動して、フロートセンサ39がこのセンタフロート1の上下揺動量を検出することができる。
【0035】
このセンタフロート1、及び左右両側部のサイドフロート2は、後端部をフロートアーム41に枢支42し、このフロートアーム41を前記苗植伝動ケース31に対して支持軸43の周りに上下回動させて、センタフロート1及びサイドフロート2,2の苗植伝動ケース31に対する取付支持位置を上下に調節可能の形態としている。
【0036】
前記センタフロート1及びサイドフロート2,2の前側には、代掻ロータ44、45を配置して、フロート1、2によって均平する土壌面を予め代掻ロータ44、45によって砕土して均平し易くするものである。この代掻ロータ44、45は、前記センタフロート1の前側にセンタロータ44を配置し、サイドフロート2の前側にサイドロータ45を配置して、ロータフレーム46の前端部と後端部にロータ軸47、48で軸装し、このロータフレーム46前端部の入力軸を、前記リヤアクスルハウジング24の伝動機構部から連動軸49を介して連動して、各ロータ44、45を駆動回転する形態である。
【0037】
50はこのロータフレーム46の前端部を植付部フレーム36の上端部に吊下げるロータ吊下スプリングである。前記植付部5を大きく上下動すると、リンクアーム38、及びフロート支持アーム37等を介して代掻ロータ44、45をも昇降することができるが、この代掻ロータ44、45を装着するフロート支持アーム37が、植付部フレーム36に対して上下動することができるため、土壌面に対する代掻位置を上下に調節しながら、しかもロータフレーム46の傾斜角度を変えながら、各センタロータ44、及びサイドロータ45を土壌面に均等に接圧させて代掻作用を行わせる。
【0038】
前記コントローラ35の入力側には、センタフロート1の上下揺動角を検出する昇降センサ39や、走行車体8の前後方向の傾斜角を検出する傾斜センサ11等を設け、出力側には油圧回路の昇降制御弁10を電磁的に作動する形態としている。
【0039】
また、前記植付部5を昇降したり、ローリングするコントローラ35は、入力側にリフトレバー51の操作角を検出することにより昇降制御弁10を電磁作動させる。このリフトレバー51を固定位置に操作したときは、植付部5は昇降しないでその位置に固定されるが、上昇位置、又は下降位置へ操作するとこれに応じて植付部5は昇降されて、非作業位置に上昇したり、作業位置に下降されるので、作業者は苗の植付深さを任意の高さに合わせて植付精度を向上させられる。
【0040】
また、旋回時や苗、肥料の補充のために作業を中断して圃場端に向かうとき等、植付作業を行わないときには、植付部5が圃場面や畦際に接触することを防止できるので、圃場面に植付部5の引き摺り跡が残され、畦際に苗を植える際に植付深さが変わってしまうことを防止できるので植付精度が向上すると共に、植付部5の破損が防止され、耐久性が向上する。
【0041】
そして、このリフトレバー51を下降位置で、自動位置に操作すると、植付部5はセンタフロート1の上下動による昇降制御が行われる。
さらに、コントローラ35の入力側には苗植操作レバー(フィンガップレバー)18の操作位置を検出するスイッチが設けられて、この苗植操作レバー18を上側へ操作すると、前記PTO軸26のPTOクラッチを切りにして、このPTO軸26で伝動される施肥装置28や、植付部5の伝動を停止すると共に、昇降制御弁10を上げ位置へ切替えてこの植付部5を上昇する。この苗植操作レバー18を下げ位置へ一回操作すると、前記自動位置になって、センタフロート1の上下動によって昇降制御弁10が切替えられて、植付部5が苗植姿勢へ昇降制御される。
【0042】
さらに、もう一回下側へ操作すると、この自動位置の状態でPTOクラッチが入り位置に切替えられて、施肥装置28や植付部5が伝動される。以後、この苗植操作レバー18を一回下動操作する毎に、自動位置の状態でこのPTOクラッチを入り位置、または切り位置に切り替える。
【0043】
ここにおいて、土壌面を滑走均平するセンタフロート1とこの左右両側部のサイドフロート2,2を有し、収容したマット苗を植付部側へ繰出す苗タンク3、及びこの苗タンク3から分離保持した苗を前記センタフロート1及びサイドフロート2,2による均平跡に植付ける植付装置4等からなる植付部5を、操向前輪6、及び駆動後輪7を配した四輪走行形態の走行車体8の後部に、リフトシリンダ9の伸縮によって昇降可能にして装着し、前記センタフロート1の上下揺動によってリフトシリンダ9の油圧回路の昇降制御弁10を切替えて、前記植付部5を昇降して苗植付深さを一定に維持するように苗植昇降制御する苗移植機において、前記走行車体8に設けた傾斜センサ11が走行車体8の前後方向の設定値以上の傾斜を検出すると、この検出から前記昇降制御弁10を出力作動するまでの間の制御応答時間tを延長制御応答時間t1に切り替える制御を行なう構成とする。
【0044】
走行車体8の走行によって、植付部5のフロート1、2が土壌面を滑走均平しながら、この植付装置4によって苗タンク3から繰出される苗を分離保持して、前記フロート1、2による均平跡の土壌面に一定深さに植付ける。この植付部5のセンタフロート1が土壌面の状態によって大きく上下動すると、昇降制御弁10を切り替えて、リフトシリンダ9を伸縮作動して、植付装置4による土壌均平面に対する苗植付深さを一定に維持するように植付部5の昇降制御が行われる。
【0045】
このときの苗植昇降制御におけるセンタフロート1の上下動位置検出から昇降制御弁10を出力するまでの制御応答時間t(ディレイタイム)は、一定の状態に設定されている。
【0046】
そして、走行車体8が土壌面の凹凸変化等によって前後方向に大きく傾斜したときは、この走行車体8の所定以上の傾斜角を傾斜センサ11により検出して、前記苗植昇降制御における制御応答時間tを延長制御応答時間t1に切り替える制御を行なうものであり、これによって走行車体8が傾斜したときの苗植昇降制御は、この延長制御応答時間t1に基づいて昇降されるので、圃場に凹凸が多い場合でも、傾斜センサ11が機体の前後傾斜を検知する度に植付部5が上下動してしまうことを防止できるので、反動で植付部5がチャタリングを起こすことが無く、植付装置4の苗の植付深さが安定するため、植付精度が向上する。
【0047】
また、植付部5が頻繁に上下動しないことにより、リフトシリンダ9やリフトリンク12に植付部5の重量による負荷がかかりにくく、リフトシリンダ9やリフトリンク12の破損が防止され、機体の耐久性が向上する。
【0048】
そして、傾斜センサ11が検出する走行車体8の傾斜が設定値未満になると、前記延長制御応答時間t1は、通常時制御の制御応答時間tに切り替えられる。
さらに、前記傾斜センサ11が設定値以上の傾斜を検出した際に、リフトシリンダ9の伸縮作動する速度を、通常時の昇降制御の伸縮作動速度vよりも速い、増速伸縮速度v1に切り替え制御する構成とする。
【0049】
前記のように、苗植昇降制御の応答時間tは、走行車体8の前後方向傾斜が所定以上に大きくなると、これを傾斜センサ11の検出することによって、長い応答時間t1に切替えられて、昇降制御されるものであるが、このときのリフトシリンダ9の伸縮作動速度が、通常時の昇降制御の伸縮作動速度vよりも速い速度v1に切替制御して昇降制御が行われる。又、このとき走行車体8の前後方向の傾斜角が小さくなると、伸縮作動速度はv1からvに切替えられて、通常時の苗植昇降制御が行われる。
【0050】
更には、前記リフトシリンダ9によって植付部5を上昇制御するときの、このリフトシリンダ9の伸縮作動速度に対して、この植付部5を下降制御するときのみ、このリフトシリンダ9の伸縮作動速度を速くするように制御する。
【0051】
植付部5の昇降制御は、走行車体8の前後方向の設定値以上の傾斜を傾斜センサ11により検出すると、昇降制御応答時間tを延長昇降制御時間t1に切り替え制御する、あるいはリフトシリンダ9の伸縮作動速度vを増速伸縮作動速度v1に切り替え制御して、植付部5の昇降動作を適切に行わせる。
【0052】
また、前記傾斜センサ11による設定値以上の傾斜を検出すると共に、植付部5を下際制御するときのみ、このリフトシリンダ9の伸縮作動速度vを増速伸縮作動速度v1に切り替え制御することにより、植付部5を大幅に上昇させている場合でも、植付部5の自重を利用することにより、植付部5を迅速に下降させることができるので、植付装置4の苗の植付深さが安定し、植付精度が向上する。
【0053】
そして、前記昇降センサ39によるセンタフロート1の上下動の検出によって、昇降制御弁10を切替作動させるまでの制御応答時間tを延長制御応答時間t1に切り替え制御して遅らせたり、該延長制御応答時間t1を短くして制御応答時間tに戻すように切り替えるためには、ディレイタイマーや、パルスのデューティ比を変える等の切換手段を用いる。
【0054】
また、リフトシリンダ9の伸縮作動速度vを増速伸縮作動速度v1に切り替え制御したり、増速伸縮作動速度v1を元の伸縮作動速度vに切り替えるためには、リフトシリンダ9の油圧回路における昇降制御弁10の開度の切り替えや開いている時間を変える必要があるが、この時間の制御は機体に内装するタイマー(図示せず)や、パルス信号によって処理を行うものとしている。
【0055】
前記傾斜センサ11は、走行車体8に装着するものであるが、機体の傾斜を偏り無く検出するためには、機体の前後及び左右の略中央部のフレームに、他の部材と干渉しないように取り付けるとよい。これにより、圃場に凹凸があるにもかかわらず植付部5の昇降が行なわれず、苗の植付深さが適切に行なわれなくなり、植付精度が低下することが防止されると共に、圃場の凹凸が多い場合に、植付部5が頻繁に上下動してしまい、苗の植付深さが適切に行なわれなくなり、植付精度が低下することが防止される。
【0056】
なお、傾斜センサ11は、箱体の中に振り子を内装したものや、粘性流動体を内装したもの、あるいは電子的に機体の挙動を検出する加速度センサを用いると、外部からの物理的な影響を受けにくく、傾斜の検出精度が安定する。
【0057】
上記の傾斜センサ11は、走行車体8が傾斜したときの傾斜角度を検出するものであり、該傾斜センサ11で検出したデータをコントローラ35に入力し、該コントローラ35から昇降制御弁10の電磁的出力パルスを発信する。
【0058】
この電磁的出力パルスのデータ処理は、前記傾斜センサ11が設定値以上の傾斜を一回だけ検出すると直ちに出力する形態、予め設定した一定時間内に亘って、連続的乃至間欠的に設定値以上の傾斜を検出する形態、あるいは検出した傾斜値の平均値、累計値、更には傾斜値発生の頻度値等を算出処理しながら出力制御する形態のいずれかを、作業を行う圃場の土質や傾斜、作業時の風向きや天候等、作業条件に合わせて用いる。
【0059】
上記により、作業条件の変化に合わせて走行車体8の傾斜検出方法を変更することができるので、多様な作業条件に適応可能となる。
苗植作業時の植付昇降制御は、センタフロート1の上下動を昇降センサ39で検出して(ステップS1)、土壌面が柔らかく深い所では、植付部5全体が沈下してセンタフロート1の向い角が大きくなって(S2)、コントローラ35からの出力でこの油圧回路の昇降制御弁10が切替えられて、リフトシリンダ9を伸長して、植付部5を上昇させる。
【0060】
また、逆に土壌面が硬く、浅い場合は、センタフロート1の向い角は小さくなって(S3)、植付部5を下降させる。このようにしてセンタフロート1及びサイドフロート2,2による滑走均平圧を土壌面の状態、変化等に拘らず略一定に維持するように昇降制御して、植付装置4による苗植付深さや、植付姿勢等を一定に維持する。
【0061】
このような苗植昇降制御において、走行車体8の前後方向の傾斜角が所定以上に大きくなると、これを傾斜センサ11によって検出して(S4、S5)、前記苗植昇降制御の昇降センサ39による検出時から、コントローラ35の出力側の昇降制御弁10を、電磁的に切替出力する出力信号を発信するまでの制御応答時間を長くして、遅延作動させる(S6、S7)。
【0062】
また、前記傾斜センサ11の検出角度が所定角度以下に小さいときは、このような制御応答時間を長くするような制御は行わないで、前記センタフロート1上下動を、昇降センサ39で検出して直ちに昇降制御弁10を出力作動させて、苗植昇降制御を行う(S8、S9)。
【0063】
そして、前記のように昇降制御弁10の制御応答時間を長くして出力する場合は(S6、S7)、リフトシリンダ9の伸縮作動速度を速くする(S10、S11)。そして、植付部5を迅速に昇降させて、安全で安定した作動位置へ昇降させる。特に、植付部5を上昇制御するときは、作業状態、乃至土壌状態等によって、センタフロート1及びサイドフロート2,2の接地滑走状態から急激に浮上させると、過大の負荷を生じることがあるため、このときの上昇制御のための作動速度は通常時制御の速度として、植付部5を下降制御するときの作動速度のみを速くすることができるが、この場合は、前記制御フローの昇降センサ39が、植付部5を下降させる方向に出力信号を出す場合(S5、S7)においてのみ出力制御させる。
【0064】
そして、傾斜センサ11が上昇制御側に検出したときは、この傾斜角度の大、小にかかわらず、通常作動速度による作動制御(S8)を行わせて、制御応答時間を長くして行う制御行程(S4、S6、S10)においては働かせない。
【0065】
前記苗移植機には、走行車体8の後部に施肥装置28を装着して、センタフロート1及びサイドフロート2,2によって均平される土壌面の苗植付爪33作動個所近くに施肥する形態としているが、この施肥装置28には、繰出装置55によってホッパー56から繰出された肥料(粉粒剤)を、ブロワ57からの送風を案内する施肥筒58、及び施肥ホース59を経て、センタフロート1及びサイドフロート2,2の施肥用溝切器60へ搬送施肥する。
【0066】
該ブロワ57の吹出口61から各施肥筒58にわたる間に送風筒62を設け、この送風筒62に形成の各送風口63、64から、前記施肥筒58へ送風する形態である。送風口63、64は送風筒62の吹出口61側上部に3ヵ所、この未端側下部に3ヵ所段違いにして配置し、これら各送風口63、64に、植付部5の各植付条位置の溝切器60との間の各施肥筒58を連結している。
【0067】
該送風筒62内は、吹出口61に近い側の送風口63の下側には障害物のない単なる送風路65を形成して、終端下段部の送風口64への送風抵抗を少くしている。
また、この終端部の送風口64の上部には仕切板66を形成して、各送風口63、64における風圧の逃げを阻止している。このような送風口63、64の配置形態によって、ブロワ57による送風を各施肥筒58や、施肥ホース59へ均一化して行うことができ、施肥搬送の詰りを生じ難くする。
【符号の説明】
【0068】
1 センタフロート
2 サイドフロート
3 苗タンク
4 植付装置
5 植付部
6 前輪
7 後輪
8 車体
9 リフト(昇降)シリンダ
10 昇降制御弁(油圧バルブ)
11 傾斜センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌面を滑走均平するセンタフロート(1)を設け、該センタフロート(1)の左右両側部にサイドフロート(2,2)を設け、積載した苗マットを植付部側へ繰出す苗タンク(3)と、該苗タンク(3)から分離保持した苗を前記センタフロート(1)及びサイドフロート(2,2)による均平跡に植え付ける植付装置(4)で植付部(5)を構成し、該植付部(5)を操向前輪(6)及び駆動後輪(7)を配した四輪走行形態の走行車体(8)の後部に設け、前記植付部(5)を昇降させるアクチュエータ(9)を設け、前記センタフロート(1)の上下揺動によってアクチュエータ(9)の制御弁(10)を切り替えて前記植付部(5)を昇降させ、苗の植付深さを所定深さに維持する植付昇降制御可能に構成した苗移植機において、
前記走行車体(8)に傾斜センサ(11)を設け、該傾斜センサ(11)が検知する走行車体(8)の前後方向の設定値以上の傾斜を検出するとこの検出値から前記制御弁(10)を出力作動するまでの間の応答時間を長くする制御を行なう構成としたことを特徴とする苗移植機。
【請求項2】
前記傾斜センサ(11)が設定値以上の傾斜を検出した際のアクチュエータ(9)の伸縮作動速度を、通常時の昇降制御の伸縮作動速度よりも速くする制御を行なう構成としたことを特徴とする請求項1記載の苗移植機。
【請求項3】
前記アクチュエータ(9)によって植付部(5)を上昇制御するときのアクチュエータ(9)の伸縮作動速度よりも、該植付部(5)を下降制御するときのアクチュエータ(9)の伸縮作動速度を速くする制御を行なう構成としたことを特徴とする請求項1または2記載の苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−44897(P2012−44897A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188462(P2010−188462)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】