説明

苦味の改善された医薬組成物

【課題】嚥下困難な高齢者にも服用しやすく、ベシル酸アムロジピンの苦味が隠蔽された医薬組成物を提供すること。
【解決手段】ベシル酸アムロジピン単独又はベシル酸アムロジピンと賦形剤との混合物が水不溶性高分子、腸溶性高分子、胃溶性高分子からなる群の1種または2種以上を含有する被覆剤により被覆されている組成物であって、被覆剤がベシル酸アムロジピン1重量部に対し0.5〜1.5重量部である組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベシル酸アムロジピン(日本医薬品一般的名称)の苦味が隠蔽された服用しやすい医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ベシル酸アムロジピンは、ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗剤であり、高血圧症や狭心症の改善のために使用されている有用な医薬であるが、ベシル酸アムロジピンは、不快な苦味を有することが知られている。そこで、その苦味を隠蔽するため、たとえば水溶性高分子等で被覆された錠剤が市販されているが、錠剤を被覆すると嚥下機能の低下した高齢者では服用が困難である等の問題がある。
また、上記問題を解決するため、被覆層を有しない経口固形組成物が提案されている(特許文献1)。しかしながら、本文献では苦味に関する記述は一切無い。
本発明者が検討を行ったところ、従来の方法では苦味の隠蔽が十分ではなく、服用のコンプライアンスの低下を招きかねないと考えられた。
【特許文献1】特開2006−306754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、嚥下困難な高齢者にも服用しやすく、ベシル酸アムロジピンの苦味が隠蔽された医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、ベシル酸アムロジピンを水不溶性高分子等で被覆することにより所期の目的を達成する医薬組成物が得られることを見出し、さらに検討を加え、本発明を完成することができた。
【0005】
すなわち、本発明によれば、
[1]ベシル酸アムロジピン単独又はベシル酸アムロジピンと賦形剤との混合物が水不溶性高分子、腸溶性高分子、胃溶性高分子からなる群の1種または2種以上を含有する被覆剤により被覆されている組成物であって、被覆剤がベシル酸アムロジピン1重量部に対し0.5〜1.5重量部である組成物、
[2][1]に記載の組成物を素錠、顆粒剤、細粒剤、または散剤とした製剤を提供することができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の医薬組成物によれば、嚥下機能の低下した高齢者でも服用が容易であるばかりでなく、ベシル酸アムロジピンの苦味を隠蔽することで服薬のコンプライアンスの低下を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において使用されるベシル酸アムロジピンの原末は、錠剤化後の適度な溶出速度を得るために、平均粒子径(光散乱法による測定値)は5μm〜100μm、より好ましくは10μm〜50μmである。
本発明において使用される製剤上の添加物としては、被覆剤としてエチルセルロース、及びその分散液などの水不溶性セルロースエーテル、アクリル酸エチル・メタアクリル酸メチルコポリマー分散液などの水不溶性アクリル酸系共重合体などが挙げられる。胃溶性高分子としては、メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸ブチル・メタアクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体などの胃溶性アクリル酸系共重合体などが挙げられる。腸溶性高分子としては、メタアクリル酸コポリマーL、及びその分散液などの腸溶性アクリル酸系共重合体が挙げられる。
なお、これら被覆剤の使用量は、苦味の隠蔽及び生物学的利用率の低下を考慮し、ベシル酸アムロジピン1重量部に対し0.1〜2重量部、好ましくは0.5〜1.5重量部である。
本発明において使用される賦形剤としてD−マンニトール等の糖アルコール類、トウモロコシ澱粉等の澱粉類、乳糖、結晶セルロース、白糖、ショ糖、ブドウ糖等が挙げられる。
本発明において使用される結合剤としては、ポリビニルアルコール(部分けん化物)、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デキストリン等が挙げられる。
また、本発明において使用される崩壊剤としては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、部分アルファー化澱粉等が挙げられ、なかでもクロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。
また、甘味料としてサッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビア等を使用することができる。
さらに、滑沢剤としてタルクやステアリン酸マグネシウム等を使用することができる。
【実施例1】
【0008】
ベシル酸アムロジピン(平均粒子径:約20μm)305.4g、トウモロコシ澱粉354.6gを流動層造粒コーティング機(パウレック製:MP-01)に投入し、エチルセルロース水分散液586.7g、トリアセチン44g、D−マンニトール44g、精製水645.4gを混合した液を噴霧し、下記組成のコーティング粒子Aを得た。
[成 分] [1錠当たりの重量(mg)]
ベシル酸アムロジピン 7.0
トウモロコシ澱粉 8.0
エチルセルロース水分散液(固形分) 4.0
トリアセチン 1.0
D−マンニトール 1.0
次に、D−マンニトール904g、タルク64gを流動層造粒機(パウレック製:MP−01型)に投入し、ヒドロキシプロピルセルロース−L19.2gを水364.8gに溶解した結合液を用いて造粒した。得られた顆粒を乾燥し、JIS30メッシュの篩にて篩過した整粒品123.4gに、実施例1にて得られたコーティング粒子A21g、クロスポビドン8g、コーンスターチ6g及びステアリン酸マグネシウム1.6gを加え、均一に混合した。次いで、この混合物をロータリー式打錠機(菊水製作所製:クリンプレスコレクト19K型)で圧縮成型し、下記組成の錠剤を得た。
[成 分] [1錠当たりの重量(mg)]
コーティング粒子A 21.0
D−マンニトール 113.0
タルク 8.0
ヒドロキシプロピルセルロース−L 2.4
クロスポビドン 8.0
トウモロコシ澱粉 6.0
ステアリン酸マグネシウム 1.6
【0009】
比較例1
ベシル酸アムロジピンの安定保持に関する比較実験に供するため、ベシル酸アムロジピン42g、D−マンニトール762g、タルク48gを流動層造粒機(パウレック製:MP−01型)に投入し、ヒドロキシプロピルセルロース−L14.4gを水273.6gに溶解した結合液を用いて造粒した。得られた顆粒を乾燥し、JIS30メッシュの篩にて篩過した整粒品433.2gにクロスポビドン24g、トウモロコシ澱粉18g及びステアリン酸マグネシウム4.8gを加え、均一に混合した。次いで、この混合物をロータリー式打錠機(菊水製作所製:クリンプレスコレクト19K型)で圧縮成型し、下記組成の錠剤を得た。
[成 分] [1錠当たりの重量(mg)]
ベシル酸アムロジピン 7.0
D−マンニトール 127.0
タルク 8.0
ヒドロキシプロピルセルロース−L 2.4
クロスポビドン 8.0
トウモロコシ澱粉 6.0
ステアリン酸マグネシウム 1.6
【0010】
比較例2
ヒドロキシプロピルメチルセルロース16.5gをエタノール90gと水90gの混合液に加え、撹拌し溶解させた。これに酸化チタン3.0gとタルク0.5gを加え、撹拌してコーティング液を調製した。
次に比較例1で製造した素錠をコーティング機に投入し、先に調製したコーティング液を噴霧することにより、被覆錠とし、乾燥させて下記組成の錠剤を得た(1錠当たり164.0mg)。
[成 分] [1錠当たりの重量(mg)]
ベシル酸アムロジピン 7.0
D−マンニトール 127.0
タルク 8.0
ヒドロキシプロピルセルロース−L 2.4
クロスポビドン 8.0
トウモロコシ澱粉 6.0
ステアリン酸マグネシウム 1.6
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 3.3
酸化チタン 0.6
タルク 0.1
【0011】
試験例1(錠剤の官能試験)
(1)試験方法
実施例1及び比較例1で得た錠剤について、パネラー5人によりベシル酸アムロジピンの苦味抑制効果の官能試験を行った。それぞれの錠剤を口に含んでから苦味を感じるまでの時間を「苦味マスキング時間」とし、下記の結果を得た。
苦味マスキング時間[秒]
実施例1 31±4
比較例1 7±2
(2)以上の結果から、本発明に係る実施例1の錠剤は、比較例1の錠剤と比べ、極めて効果的に苦味を抑制し得ることが判った。
【0012】
試験例2(口腔内崩壊試験)
(1)試験方法
実施例1及び比較例2で得た錠剤について、パネラー5人により口腔内崩壊試験を行った。それぞれの錠剤を口に含んでから錠剤の形状を感じなくなるまでの時間を「口腔内崩壊時間」とし、下記の結果を得た。
口腔内崩壊時間[秒]
実施例1 28±7
比較例2 113±15
(2)以上の結果から、本発明に係る実施例1の錠剤は、比較例2の錠剤と比べ迅速な口腔内崩壊時間を示し、嚥下困難な患者でも服用が容易であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0013】
本発明によれば、高血圧症や狭心症の改善のために使用されている有用な医薬であるが苦味を有するベシル酸アムロジピンを、嚥下機能の低下した高齢者でも服用が容易であるばかりでなく、苦味を隠蔽することで服薬のコンプライアンスの低下を防ぐことができる医薬組成物を医療現場に提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベシル酸アムロジピン単独又はベシル酸アムロジピンと賦形剤との混合物が水不溶性高分子、腸溶性高分子、胃溶性高分子からなる群の1種または2種以上を含有する被覆剤により被覆されている組成物であって、被覆剤がベシル酸アムロジピン1重量部に対し0.5〜1.5重量部である組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物を素錠、顆粒剤、細粒剤、または散剤とした製剤。

【公開番号】特開2008−133232(P2008−133232A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321316(P2006−321316)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(593030071)大原薬品工業株式会社 (40)
【Fターム(参考)】