説明

茹で蒸練麺及びその製造方法

【課題】食感に優れ、茹で伸びし難く、保存性に優れ、かつ、調理加熱の簡便性に優れた茹で蒸練麺の提供。
【解決手段】小麦粉と澱粉を比率が60:40から90:10となるように含む原料を用いる、次の1)から3)の工程を含む製造方法により茹で蒸練麺を製造する。1)原料を混合して得られた麺生地を蒸練する工程、2)次のAまたはBにより、熟成した麺線を得る工程、A.1)の蒸練された麺生地を圧延形成し、麺帯とした後切り出し、麺線として特定時間熟成させる工程、B.1)の蒸練された麺生地を圧延形成し、麺帯のまま特定時間熟成させた後切り出し、麺線とする工程、3)2)の工程で得た麺線を特定の温度範囲のお湯で茹でる工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原料を蒸練する工程を有する茹で蒸練麺の製造方法及び当該方法によって製造される茹で蒸練麺の提供に関する。更に詳しくは優れた粘弾性を有し、クチャつき感がなく滑らかな食感で、かつ茹でのびが遅い茹で蒸練麺の製造方法及び当該方法によって製造される茹で蒸練麺の提供に関する。
【背景技術】
【0002】
麺類を製造工程によって分類した場合、原料を混合し、圧延形成後切り出した麺線の状態で包装し販売・流通される形態のものは「生麺」と称され、「生麺」を更に茹で上げてから包装し販売・流通される形態ものは「茹で麺」と称される。茹で麺は、生麺と比較した場合、製造段階で一旦加熱済みであることから喫食前の加熱調理が大幅に短くて済み、調理の簡便性に優れる。一方で、食感がやわらかく、粘弾性の弱いものとなってしまうことから、一般的に、歯ごたえやのど越しといった麺類特有の食感的楽しさが乏しくなりがちである。
【0003】
また、麺類の製造方法のひとつとして、小麦粉、澱粉等の原料を、蒸気を供給しながら混捏し、原料に含まれる澱粉をほぼ完全にα化した後、圧延形成、切り出し等することで製造する蒸練麺が知られている。蒸練麺は原料中の澱粉が既にα化されているため、喫食前の加熱調理が短時間で済み、かつ、蒸気によって処理されていることから、長期保存ができるという特徴がある。
しかし、蒸練麺の食感は、一般的に硬く脆い傾向で粘弾性が弱く、特に温かい状態で喫食した際には、クチャついて滑らかさに欠ける食感になりがちで、茹で伸びし易くなってしまう。このような食感上の違和感等の問題により、蒸練麺の用途は、冷麺等に限られており、うどん等冷麺以外の用途には、普及していない。更には、蒸練麺を茹で麺としての製品形態に加工して利用することも、検討されてこなかった。
【0004】
この粘弾性、クチャつき感等蒸練麺に特有な食感上の問題を改善するために、蒸練麺を中高温度で水分を保持しながら保存する方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法では、蒸練麺の水分含有量を実質的に変化させる事なく、45℃から90℃の温度帯で、2から12日間保存することで、ネチャツキの無い弾力性がある食感の蒸練麺を得ている。しかし、大掛かりな管理された保存設備を必要とし、温度・水分条件のコントロールが難しいという問題がある。
【0005】
また、麺原料にpH調整剤を練りこみ、pH5.7から4.0の蒸練生地を用いる蒸練麺の製造方法も提案されている(特許文献2参照)。この方法では、クチャつき感がなく、優れた粘弾性を有する蒸練麺が得られているものの、茹で伸びし易さの改善については検討されていない。更に、特許文献1及び2のいずれにおいても、蒸練麺を茹で上げ済みの茹で麺としての製品形態で利用することの検討もされていない。
そこで、優れた粘弾性を有し、クチャつき感がなく滑らかな食感で、茹で伸びが遅く、長期保存が可能で、かつ、調理加熱の簡便性に優れた茹で蒸練麺が製造できる方法の提案が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001‐57857号公報
【特許文献2】特開2003‐169590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は原料を蒸練する工程を有する茹で蒸練麺の製造方法及び当該方法によって製造される食感に優れ、茹で伸びし難く、保存性に優れ、かつ、調理加熱の簡便性に優れた茹で蒸練麺の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決する為に鋭意研究したところ、小麦粉と澱粉とを比率が60:40から90:10となるように含む原料を用いる、次の1)〜3)の工程を含む茹で蒸練麺の製造方法を採用することにより、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
1)原料を混合して得られた麺生地を蒸練する工程、
2)次のAまたはBにより、熟成した麺線を得る工程、
A.1)の蒸練された麺生地を圧延形成し、麺帯とした後切り出し、麺線として特定時間熟成させる工程、
B.1)の蒸練された麺生地を圧延形成し、麺帯のまま特定時間熟成させた後切り出し、麺線とする工程、
3)2)の麺線を特定の温度範囲のお湯で茹でる工程。
本発明の製造方法によって得られる茹で蒸練麺は、優れた粘弾性を有し、クチャつき感がなく滑らかな食感で、茹で伸びし難く、保存性に優れ、かつ、調理加熱に優れた茹で蒸練麺であり、有用である。
【0009】
即ち、本発明は次の(1)から(6)に記載の茹で蒸練麺及びその製造方法等に関する。
(1)小麦粉と澱粉とを比率が60:40から90:10となるように含む原料を用いる、次の1)から3)の工程を含む茹で蒸練麺の製造方法、
1)原料を混合して得られた麺生地を蒸練する工程、
2)次のAまたはBにより、熟成した麺線を得る工程、
A.1)の蒸練された麺生地を圧延形成し、麺帯とした後切り出し、麺線として常温で0.5時間以上72時間以下熟成させる工程、
B.1)の蒸練された麺生地を圧延形成し、麺帯のまま常温で0.5時間以上72時間以下熟成させた後切り出し、麺線とする工程、
3)2)の工程で得た麺線を75℃以上95℃以下のお湯で茹でる工程。
(2)更に、麺線を冷却後包装する工程を含む前記(1)に記載の茹で蒸練麺の製造方法。
(3)更に、麺線を加熱殺菌する工程を含む前記(2)に記載の茹で蒸練麺の製造方法。
(4)原料として用いる澱粉がタピオカ澱粉及び/又は馬鈴薯澱粉である前記(1)から(3)のいずれかに記載の茹で蒸練麺の製造方法。
(5)前記(1)から(4)のいずれかに記載の製造方法により得られる茹で蒸練麺。
(6)茹で蒸練麺がうどんである前記(5)に記載の茹で蒸練麺。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によって、優れた粘弾性を有し、クチャつき感がなく滑らかな食感で、かつ茹でのびが遅い茹で蒸練麺を提供することができる。本発明で得られた茹で蒸練麺は蒸練されているため保存性が向上し、例えば製造後3ヶ月といった非常に長い賞味期限の設定が可能となり有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の茹で蒸練麺の製造方法(A)を示した図である。
【図2】本発明の茹で蒸練麺の製造方法(B)を示した図である。
【図3】従来行われている麺類の製造工程を示した図である。
【図4】従来行われている蒸練麺の製造工程を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の「茹で蒸練麺の製造方法」とは、小麦粉と澱粉とを比率が60:40から90:10となるように含む原料を用いる、次の1)から3)の工程を含む茹で蒸練麺の製造方法であればいずれのものも含まれる。
1)原料を混合して得られた麺生地を蒸練する工程、
2)次のAまたはBにより、熟成した麺線を得る工程、
A.1)の蒸練された麺生地を圧延形成し、麺帯とした後切り出し、麺線として常温で0.5時間以上72時間以下熟成させる工程、
B.1)の蒸練された麺生地を圧延形成し、麺帯のまま常温で0.5時間以上72時間以下熟成させた後切り出し、麺線とする工程、
3)2)の工程で得た麺線を75℃以上95℃以下のお湯で茹でる工程。
【0013】
本発明の「茹で蒸練麺の製造方法」には、前記1)から3)の工程を経た後、更に、麺線を冷却後包装する工程を含んでいても良い。また、優れた粘弾性を有し、クチャつき感がなく滑らかな食感で、かつ茹でのびが遅い茹で蒸練麺が製造できる方法であれば、麺線を蒸気殺菌等の方法により、加熱殺菌する工程等を含んでいても良い。
【0014】
本発明の「茹で蒸練麺の製造方法」によって製造される茹で蒸練麺は、前記のごとく、蒸練麺を茹で上げた後、「茹で麺」として販売・流通できる形態に製品化したものである。
本発明においては、本発明の「茹で蒸練麺の製造方法」によって製造される茹で麺のことを、「茹で蒸練麺」と称し、茹で工程に掛ける前の仕掛品、及び、市場で一般に流通しているような茹で工程を有しない蒸練麺を、単に「蒸練麺」と称し区別する。
麺の種類が、特定されている場合には、最終製品を「茹で蒸練うどん」、茹で工程前の仕掛品を「蒸練うどん」のごとく称する。
【0015】
本発明の「茹で蒸練麺の製造方法」に原料として用いる小麦粉としては、中力粉、強力粉から選ばれた1種類あるいは中力粉、薄力粉、強力粉の中から選ばれた2種類又は3種類を組み合わせて用いることができるが、中でも中力粉が最も適している。
原料として用いる澱粉としては、タピオカ、馬鈴薯、小麦、コーン由来のものの中から1種類以上を用いることができる。中でもタピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉を組み合わせて使用するのが好ましい。小麦粉と澱粉は、60:40から90:10の比率で用いることが好ましい。
本発明の「茹で蒸練麺の製造方法」に用いる麺生地は、前記小麦粉、澱粉等の粉体原料を麺用横型普通ミキサーに入れ定法により予備混合をした後、食塩、水あめ等を溶いた水を加え、3分間攪拌混合し、定法により作成することが好ましい。
【0016】
本発明の「茹で蒸練麺の製造方法」において、「1)原料を混合して得られた麺生地を蒸練する工程」とは、麺生地に、加熱蒸気を加えて練ることをいい、0.01から0.2気圧の加熱蒸気を加えながら5から15分間蒸練することが好ましい。中でも、0.1気圧の蒸気を加えながら10分間蒸練するのが特に好ましい。
蒸練には、従来知られている如何なる方法も用いることができる。蒸練装置の例としては、「横型蒸練ミキサー(新井機械製)」等が挙げられる。
【0017】
前記蒸練した麺生地の圧延は、従来知られている如何なる方法でも行うことができるが、圧延機(新井機械製)等によって行うこともできる。圧延は80℃以上100℃未満に温度を保った状態で行うことが好ましい。
また、圧延によって得られる麺帯の麺厚は、製造対象となる麺の形態に対して好ましい麺厚であればいずれでもよいが、例えば麺厚0.5から4.0mmの麺帯を得ることが好ましい。
本発明の「茹で蒸練麺の製造方法」において、圧延によって得られた麺帯は、麺線への切り出し又は熟成前に冷風庫内に放置する等の方法で冷却する。冷風庫における冷却においては、冷風庫の庫内温度が30℃以下であることが好ましく、さらに25℃以下であることが好ましく、特に18から20℃であることが好ましい。
【0018】
麺帯の切り出しは、製造対象となる麺において好ましい麺線が得られればいずれの方法を用いてもよい。例えば、切刃による切り出し、型抜き、パスタマシン等による押し出し、手作業による麺帯の切断、削ぎ落とし、ちぎりなどの方法がある。なお、本発明の「茹で蒸練麺の製造方法」でいう麺線には、形状に特に限定はなく、かっけ等のごとく平型のシート状のもの等も含まれる。
【0019】
本発明の「茹で蒸練麺の製造方法」に含まれる「2)次のAまたはBにより、熟成した麺線を得る工程、
A.1)の蒸練された麺生地を圧延形成し、麺帯とした後切り出し、麺線として常温で0.5時間以上72時間以下熟成させる工程、
B.1)の蒸練された麺生地を圧延形成し、麺帯のまま常温で0.5時間以上72時間以下熟成させた後切り出し、麺線とする工程」において、「熟成」とは、当該麺帯又は麺帯から切り出した麺線を、乾燥防止のためビニール袋・ばんじゅう等に入れ、特定の時間、室温で放置することをいう。
該熟成工程は、圧延形成された麺帯又は切り出した麺線を冷却してから行う。品温が30℃以下になるまで冷却した麺帯又は麺線を熟成に用いることが好ましく、さらに25℃以下になるまで冷却したもの、特に18から20℃となるように冷却したものを用いることが好ましい。
長い熟成時間を設ける場合には、保存性を考慮し、麺帯又は麺線にあらかじめpH調整剤入りアルコール製剤等を噴霧しておいてもよい。使用するpH調整剤入りアルコール製剤は、食品に利用できるものであればいずれの物も用いることができるが、例えばリンゴ酸入り60%エチルアルコール等を用いることができる。
【0020】
本発明の「茹で蒸練麺の製造方法」に含まれる「3)2)の工程で得た麺線を75℃以上95℃以下のお湯で茹でる工程」とは、従来の麺類のように沸騰水中で茹で上げるのではなく、75℃以上95℃以下という特定の温度範囲に調整された湯で茹で上げることをいう。茹で湯の温度を一定に保つには、循環恒温槽等を用いることが好ましい。
【0021】
本発明の「茹で蒸練麺の製造方法」には、前記1)から3)の工程を経た後、更に、麺線を冷却後包装する工程を含んでいても良い。また、販売・流通に適した形態に製品化するために必要な工程として、前記で得た茹で蒸練麺を冷却し、一定量ごとに分けて包装し、殺菌する等の工程を含むこともできる。この麺線の冷却には、水洗冷却、空気冷却または真空冷却等のいずれの冷却方法も行うことができるが、水洗冷却を行うことが特に好ましい。
本発明の「茹で蒸練麺の製造方法」の一例を図1、2に示す。また、参考として、図3に従来行われている麺類の製造工程を、図4に従来行われている蒸練麺の製造工程を示す。
【0022】
本発明の「茹で蒸練麺」は、優れた粘弾性を有し、クチャつき感がなく滑らかな食感で、茹で伸びし難く、保存性に優れ、かつ、調理加熱の簡便性に優れるという優れた特長をあわせ持つもので、幅広い用途に用いることができる。特に粘弾性に関しては、歯切れ感と粘弾性との程よいバランスをもった従来の麺類では実現し難かった優れた食感が得られる。これらの優れた特長は、うどんにおいて特に顕著であるが、本発明により、他にも中華麺、焼そば、パスタ、平型のシート状食品、かっけ、そば等においても同様に優れた製品を提供できる。
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
<茹で蒸練うどんの製造方法>
1.蒸練工程
表1に従って配合した原料を横型普通製麺ミキサー(東京麺機製回転数100rpm)に入れ3分間粉混合して、予備混合を行った。これに食塩と還元水あめを水に溶解させたものを加え、3分間混合することで生地ミキシングを行った。得られた麺生地を横型蒸練ミキサー(新井機械製)に入れ、0.1気圧の加熱蒸気を加えながら10分間蒸練を行った。
蒸練された麺生地を冷めないうちに圧延機(新井機械製)にて圧延し、麺厚3.0mmの麺帯を得た。これを庫内温度18から20℃のインキュベーター(ヤマト科学製)に入れ、40分間の麺帯冷却により品温が20℃となった時点で、♯8角の切刃にて切り出し蒸練うどんを得た。
この蒸練うどんを170gずつに分け、pH調整剤(リンゴ酸)入りアルコール製剤(エチルアルコール60%)を10mL噴霧し、通常のビニール袋で包装した。
2.熟成工程
前記1.の蒸練うどんを常温で表3に記載の麺線熟成時間おくことで、それぞれ熟成させた。3.茹で工程
前記2.で熟成させた蒸練うどんをビニール袋から取り出し、循環恒温槽にて8分間、表3に記載した茹で温度の湯でそれぞれ茹で上げ、茹で蒸練うどんを製造した。
【0024】
【表1】

【0025】
前記1.の蒸練工程、2.の熟成工程、3.の茹で工程を経て製造した茹で蒸練うどんを、更に次の4.の製品化工程を経ることによって製品化した。
4.製品化工程
前記1.の蒸練工程、2.の熟成工程、3.の茹で工程を経て製造された茹で蒸練うどんを、水道水にて水洗冷却し、一玉ずつに包装して販売・流通の為の最終製品(無殺菌タイプ)とした(実施例97)。
また、前記1.の蒸練工程、2.の熟成工程、3.の茹で工程を経て製造された茹で蒸練うどんを、更に水道水にて水洗冷却し、一玉ずつに包装した後、蒸気殺菌庫(庫内温度92℃)にて40分間蒸気殺菌(中心品温90℃で15分間以上維持)を行った。その後、常温にて放冷し、より長期間の販売・流通に適した最終製品(殺菌済みタイプ)とした(実施例1から96、比較例1から36)。
【0026】
前記1.の蒸練工程、2.の熟成工程、3.の茹で工程、4の製品化工程により、熟成時間と茹で温度を調整して製造された茹で蒸練うどん(実施例1から97及び比較例1から36)を製造し、得られた茹で蒸練うどんを8℃にて、5日間冷蔵保存した後、官能評価、破断強度試験、製品増重率の測定によって評価した。各実施例及び比較例の熟成時間と茹で温度及び評価の結果は表3に示した。
【0027】
<官能評価>
官能評価は、次の官能評価方法、官能評価基準によって行った。
官能評価方法
茹で蒸練うどん一玉を熱湯(鍋に湯1リットル)で2分間茹で上げて釜揚げ状態にしたものを、5名のパネラーが試食し、1)粘弾性、2)滑らかさ、3)10分後の茹で伸びの3項目について評価することで行った。
表2の官能評価基準に従い、各項目の評点の合計点を総合評価とした。5人のパネラーの総合評価の平均点が12.0点以上であれば、優れた食感・物性であると評価した。
【0028】
【表2】

【0029】
<破断強度試験>
茹で上げ直後にクリープメーター((株)山電製RE−3305)にて、測定速度:0.5mmsec、破断荷重:2kgf、プランジャー:No.49の条件で破断強度測定を行った。
その結果、破断強度が190gf以上の時に好ましい粘弾性がえられていると判断した。
歪率は数値が高い程、麺線が切れ難い事を表すことから、粘りが強いと判断した。
【0030】
<製品増重率の測定>
製造工程中、蒸練麺を茹でた前後でどれだけ重量が増えたかを測定し、製品増重率として表した。本発明の茹で蒸練麺において、製品増重率は、次の式により表される。
【0031】
[式]
製品増重率(%)=茹で工程後の茹で蒸練麺の重量/茹で工程前の蒸練麺の重量×100
【0032】
製品増重率の評価基準
前記式で得られた製品増重率の数値より、次の1)から3)のように評価した。
1)製品増重率が110から119%と低いことは、麺が水を吸わず、硬く脆い食感になる傾向を表す。
2)製品増重率が121から130%であることは、製品に含まれる水分が適度で、粘弾性が強く滑らかな食感であることを表す。
3)製品増重率130%超えて高過ぎることは、製品に含まれる水分が多過ぎで、やわらかく粘弾性の弱い食感になる傾向を表す。
なお、本発明の茹で蒸練麺の官能評価においては、茹で蒸練麺製品を調理加熱してから喫食することで行ったが、調理加熱時の増重については、麺類の評価方法の慣例に従い考慮しなかった。表3にそれぞれの比較例及び実施例における製品増重率、官能評価、歪率、破断強度の結果を示した。
【0033】
【表3−1】

【表3−2】

【表3−3】

【0034】
<結果>
表3に示されるように、実施例1から97の茹で蒸練うどんは、官能評価において粘弾性、滑らかさ及び茹で伸びの3項目とも評点が高く、いずれも官能評価の総合評価が基準値12.0点以上となり好ましい食感・物性であること示された。
一方、熟成時間を全く設けない場合(比較例1、13、25、5、17、29)、熟成時間を72時間を越えて設けた場合(比較例2、14、26、6、18、30、3、15、27、7、19、31、4、16、28、8、20、32)、茹で湯が100℃の沸騰水の場合(比較例12、24、36)、茹で温度が75℃より低い場合(比較例9、21、33、10、22、34、11、23、35)には、官能評価において粘弾性、滑らかさ、茹で伸びの3項目とも評価が低く、いずれも官能評価の総合評価が5.8から10.0と基準値12.0を下回っており、好ましくない食感・物性であった。
【0035】
また、クリープメーターによる破断強度測定試験においては、実施例1から97のいずれの実施例においても、破断強度が193から239gfと好ましい粘弾性を示す値であったのに対し、前記比較例では、118から182gfと粘弾性が劣っていることが示された。
【0036】
製品増重率に関しては、実施例1から97が、121から130%と製品に含まれる水分が適度で、粘弾性が強く滑らかな食感であることが示されたのに対し、前記比較例では、比較例24、36、2、14、6、3、7、19、8において良好だったのを除き、121未満と低過ぎる=水を吸わず、硬く脆い食感になる傾向(比較例1、13、25、5、17、29、9、21、33、10、22、34、11、23、35、26、18、30、15、27、31、4、16、28、20、32)であるか、131以上と高過ぎる=製品に含まれる水分が多過ぎて、やわらかく粘弾性の弱い食感になる傾向(比較例12)であった。製品増重率が好ましい値だった比較例24、36、2、14、6、3、7、19、8であっても、官能評価、破断強度の結果が好ましくないので、食感・物性に有用性はない。
このように優れた粘弾性を有し、クチャつき感がなく滑らかな食感で、かつ茹でのびが遅い茹で蒸練うどんを得るためには、熟成時間0.5時間以上72時間以下、茹で温度75℃以上95℃以下という条件を組合せて製造を行う必要があることが示された。
【0037】
[比較例37]
<蒸練工程を有しない茹でうどんの製造方法>
【0038】
【表4】

【0039】
表4に従って配合した原料を、定法に従い横型ミキサー(東京麺機製)にて10分間攪拌し麺生地を作成した。得られた麺生地を厚さ3.0mmまで圧延形成して麺帯にした後、切刃#8で切り出して生うどんを得た。この生うどんを沸騰水にて18分間茹でた後水洗冷却し、計量包装した。その製品を8℃にて1日間冷蔵保管した後、前記実施例と同様に官能評価を行った。その結果を表5に示した。また、前記実施例と同様に、破断強度試験を行った。その結果を表6に示した。
【0040】
【表5】

【0041】
【表6】

【0042】
<蒸練工程を有しない茹でうどんの評価>
蒸練工程を有しない茹でうどんは、本発明の茹で蒸練うどんと比較した場合、官能評価において、粘弾性、滑らかさ及び茹で伸びの3項目とも評点が低く、本発明の茹で蒸練うどんがいずれも総合点で12.0点以上を示すのに対し、蒸練工程を有しない茹でうどんの総合点は、5.3点と大きく劣っていた。
また、クリープメーターによる破断強度測定結果において、本発明の茹で蒸練うどんがいずれの実施例においても破断強度が193から239gfと好ましい粘弾性を示す値であったのに対し、蒸練工程を有しない茹でうどんは、156gfと非常に値が低く、やわらかく粘弾性が弱い食感であることが示された。また、歪率は、蒸練工程を有しない茹でうどんの歪率が、59.1%と通常市販されている茹で麺と同等の値であったのに対し、本発明の茹で蒸練うどんは、いずれの実施例においても80から90%台と蒸練工程を有しない茹でうどんを大きく上回る値であり、麺線が切れ難い物性であることが示された。
このように、本発明の茹で蒸練うどんは、歯ごたえ、のど越しといった麺類特有の食感的楽しさに富んだものと言える。また、茹で伸びし難く、切れ難い麺線であることから、幅広い用途に供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の蒸練工程を有する茹で蒸練麺の方法によって、優れた粘弾性を有し、クチャつき感がなく滑らかな食感で、茹で伸びし難く、保存性に優れ、かつ、調理加熱の簡便性に優れるという優れた特長をあわせ持った茹で蒸練麺を提供できる。特に、本発明によって得られる茹で蒸練うどんは、歯切れ感と粘弾性との程よいバランスをもった従来の麺類では実現し難かった優れた食感を有する。本発明により、中華麺、焼そば、平型のシート状食品、かっけ、そば等においても同様に優れた製品を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉と澱粉とを比率が60:40から90:10となるように含む原料を用いる、次の1)から3)の工程を含む茹で蒸練麺の製造方法、
1)原料を混合して得られた麺生地を蒸練する工程、
2)次のAまたはBにより、熟成した麺線を得る工程、
A.1)の蒸練された麺生地を圧延形成し、麺帯とした後切り出し、麺線として常温で0.5時間以上72時間以下熟成させる工程、
B.1)の蒸練された麺生地を圧延形成し、麺帯のまま常温で0.5時間以上72時間以下熟成させた後切り出し、麺線とする工程、
3)2)の工程で得た麺線を75℃以上95℃以下のお湯で茹でる工程。
【請求項2】
更に、麺線を冷却後包装する工程を含む請求項1に記載の茹で蒸練麺の製造方法。
【請求項3】
更に、麺線を加熱殺菌する工程を含む請求項2に記載の茹で蒸練麺の製造方法。
【請求項4】
原料として用いる澱粉がタピオカ澱粉及び/又は馬鈴薯澱粉である請求項1から3のいずれかに記載の茹で蒸練麺の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の製造方法により得られる茹で蒸練麺。
【請求項6】
茹で蒸練麺がうどんである請求項5に記載の茹で蒸練麺。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−178679(P2010−178679A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25295(P2009−25295)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(501482514)株式会社戸田久 (2)
【出願人】(000199441)千葉製粉株式会社 (11)
【Fターム(参考)】