説明

荷電材料を含む医療機器コーティング

本発明の特定の側面によれば、被験者への植込みまたは挿入のために構成された医療機器が提供される。医療機器は、(a)第1実効電荷を有する荷電ポリアミノ酸含有ポリマーおよび(b)第1実効電荷とは符号が反対である第2実効電荷を有する別の荷電ポリマーを含む少なくとも1つのコーティング領域を含む。別の荷電ポリマーはポリアミノ酸含有ポリマーであっても、そうでなくてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、米国仮出願第61/075,777号(出願日:2008年6月26日)に基づく優先権を主張する(その全体が参照により本願に組み込まれる)。
【0002】
技術分野
本発明は、植込み型および挿入型医療機器のコーティングに関する。
【背景技術】
【0003】
医療機器は、体内で、例えば、とりわけ機械的支持、治療剤送達、組織の足場および/または電気刺激を含む多くの機能のいずれかを提供するために、患者の体内に植込まれるかまたは挿入されることができる。
【0004】
場合によっては、例えば、機器をより生体適合性にするために、所定の医療機器表面上で健常組織の増殖を促進することが望ましい場合がある。具体例として、血管系に植込まれるかまたは挿入される医療機器に関しては、機能性内皮細胞層の形成を促進する機器表面を提供することが望ましい場合がある。機能性内皮細胞層は、血管系への異物の植込みと関連して生じうる炎症および血栓症の軽減または消失に有効であることが知られている。例えばJ. M. Caves et al., J. Vasc. Surg. (2006) 44: 1363-8. を参照のこと。
【0005】
細胞は、その自然環境において、細胞外マトリックスにおける接着タンパク質への不連続な接着によって繋ぎとめらている。細胞と接着タンパク質の間の主要な相互作用は、インテグリン(細胞膜におけるヘテロ二量体受容体)と接着タンパク質のインテグリン結合ドメインによって生じると考えられている。合成物質による細胞の分子認識は、接着タンパク質に含まれる機能性配列を組み込むことにより達成できる。J.A. Hubbell, “Materials as morphogenetic guides in tissue engineering,” Current Opinion in Biotechnology. 14 (2003) 551-558. この配列は、フィブロネクチンに結合することが知られている、よく研究されたRGD配列などにおける3つのアミノ酸と同じ長さであることができる。多くの他のインテグリンおよび非インテグリンペプチド結合配列が発見されており、生体材料に使用するために現在開発中である。例えば、E. Genove et al., Biomaterials 26 (2005) 3341-3351 およびその引用文献を参照のこと。動物モデルにより、これらの材料の有益な効果が示されている(R. Blindt et al., J. Am. Coll. Cardiol. 47 (2006) 1786 ?95; N.J. Turner et al., Circulation. 114 (2006) 820-829; and B.P. Chan et al., Journal of Biomedical Materials Research Part B: Applied Biomaterials, 72B(1) (2004) 52-63)。
【0006】
NO放出性生体材料上でのin vitroでの細胞培養および細胞接着アッセイにより、内皮細胞(EC)増殖促進、平滑筋細胞(SMC)抑制ならびに血小板および炎症細胞接着低下が示されており、これによりin vivoでの内皮化改善、新生内膜増殖抑制および血栓抵抗性改善が示唆される。 K.S. Bohl Masters et al., J. Biomater. Sci. Polymer Edn, 16(5), 2005, 659-672, M.C. Frost et al., Biomaterials 26 (2005) 1685-1693 および Ho-Wook Jun et al., Biomacromolecules, 6 (2005) 838-844 を参照のこと。いくつかの動物モデルにおいて、血管損傷部位にNO放出性材料を配置することによって、内膜過形成の発生が事実上阻止されることが示されている。Bohl MastersらおよびJunら(前出)ならびにその引用文献を参照のこと。
【発明の概要】
【0007】
本発明の特定の側面によれば、被験者への植込みまたは挿入のために構成された医療機器が提供される。医療機器は、(a)第1実効電荷を有する荷電ポリアミノ酸含有ポリマーおよび(b)第1実効電荷とは符号が反対である第2実効電荷を有する別の荷電ポリマーを含む少なくとも1つのコーティング領域を含む。別の荷電ポリマーはポリアミノ酸含有ポリマーであっても、そうでなくてもよい。
【0008】
本発明の特定の他の側面によれば、前記医療機器の製造方法が提供される。これらの方法は、支持体表面に一連の荷電材料を塗布する工程を含み、ここで一連の連続する各荷電材料は、その前に塗布された材料の実効電荷に対して符号が反対である実効電荷を有する。
【0009】
本発明の利点は、特に、(a)内皮細胞接着および増殖の促進、(b)平滑筋細胞抑制、(c)コーティングの生物分解性、(d)コーティングの厚さおよび均一性の優れた制御ならびに(e)選択された(すなわち、部位特異的)コーティング領域における生物活性分子/官能基のオーダーメイドの固定化、の1以上を含む。
【0010】
本発明のこれらおよび他の側面、実施形態および潜在的利点は、以下の発明の詳細な説明を読むことにより、当業者に直ちに明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】本発明の実施形態によるステントの概略図である。
【図1B】図1Aのb-b線に沿って得た断面図の概略図である。
【0012】
発明の詳細な説明
本発明の特定の側面によれば、被験者への植込みまたは挿入のために構成された医療機器が提供される。医療機器は、(a)第1実効電荷を有する荷電ポリアミノ酸含有ポリマーおよび(b)第1実効電荷とは符号が反対である第2実効電荷を有する別の荷電ポリマーを含む少なくとも1つのコーティング領域を含み、前記別の荷電ポリマーはポリアミノ酸含有ポリマーであっても、そうでなくてもよい。
【0013】
特定の実施形態において、コーティング領域は、医療機器表面の細胞被覆を促進する荷電ポリマー(例えば、可能な効果の中で特に、細胞間結合および/または細胞増殖を促進することにより)、例えば細胞被覆を促進する1以上のペプチド配列を含む荷電ポリマーを含む。特定の実施形態において、コーティング領域は、一酸化窒素(NO)を放出する荷電ポリマーを含み、前記荷電ポリマーは、ポリアミノ酸含有ポリマーであっても、そうでなくてもよい。特定の実施形態において、コーティング領域は、NOを放出し且つ細胞被覆を促進する1以上のペプチド配列を含む荷電ポリアミノ酸含有ポリマーを含む。
【0014】
本発明のコーティング領域は、支持体表面の全体に設けることもできるし、その一部のみに設けることもできる。コーティング領域は、任意の形状またはパターンで設けることができる(例えば、一連の長方形、ストライプまたは任意の他の連続もしくは非連続パターンの形態で)。パターンのあるコーティング領域を設けることができる方法を下記に示すが、インクジェット法、プレス加工法、ロールコーティング法、マスキングベース技術などを含む。よって、支持体表面の異なる位置に複数のコーティング領域を設けることができる。これらの領域は、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0015】
本明細書において、“ポリマー”は、通常モノマーと呼ばれる1以上の構成単位の複数コピー(例えば、5〜10〜25〜50〜100〜250〜500〜1000以上のコピー)を含む分子である。本明細書において、用語“モノマー”は、遊離のモノマーおよびポリマーに組み込まれたモノマーを指すことができ、この用語がもちいられている文脈から明らかに区別できる。
【0016】
ポリマーは、例えば環状、直鎖状および分岐鎖状配置から選択することができる多くの配置をとることができる。分岐鎖状配置は、星型配置(例えば、単一の分岐点から3以上の鎖が出る配置)、櫛配置(例えば、主鎖および複数の側鎖を有する配置)、樹状配置(例えば、樹状ポリマーおよび多分岐ポリマー)などを含む。
【0017】
本明細書において、“ホモポリマー”は、単一の構成単位の複数コピーを含むポリマーである。“コポリマー”は、少なくとも2つの似ていない構成単位の複数コピーを含むポリマーであり、その例は、ランダムコポリマー、統計コポリマー、グラジエントコポリマー、周期コポリマー(例えば、交互コポリマー)およびブロックコポリマーを含む。本明細書において、“ポリマーブロック”はポリマーの一部である。ポリマーブロックはホモポリマーブロックおよびコポリマーブロックを含む。
【0018】
本発明によるコーティング領域を形成させることができる植込み型または挿入型医療機器の例は、例えば、ステント(冠血管ステント、末梢血管ステント、例えば脳ステント、尿道、尿管、胆管、気管、消化管および食道ステントを含む)、ステントグラフト、人工血管、腹部大動脈瘤(AAA)機器(例えば、AAAステント、AAAグラフトなど)、血管アクセスポート、透析ポート、脳動脈瘤フィルターコイル(Guglielmiデタッチャブルコイルおよび金属コイルを含む)を含む塞栓機器、心筋プラグ、中隔欠陥閉鎖装置、パッチ、カテーテル(例えば、バルーンカテーテルを含む腎臓カテーテルまたは血管カテーテル)、ガイドワイヤ、バルーン、フィルター(例えば、大静脈フィルターおよび蒸留保護機器用メッシュフィルター)、ペースメーカー、ペースメーカリードのためのコーティングを含むリードコーティング、除細動リードおよびコイル、左室補助心臓およびポンプを含む心補助循環装置、完全人工心臓、シャント、心臓弁および血管弁を含む弁、吻合クリップおよびリング、人工内耳、軟骨、骨、皮膚および他のin vivo組織再生のための組織増大化機器および組織工学用担体、手術部位における組織ステープルおよび結紮クリップ、カニューレ、金属線結紮糸、尿道スリング、"ヘルニアメッシュ"、人工靭帯、関節補装具、脊盤および脊髄核、骨移植などの成形外科用補装具、骨プレート、フィンおよび融合機器、足、膝および手の領域における干渉スクリューなどの整形外科用固定機器、靭帯付着および半月板修復のための鋲、骨折固定用のロッドおよびピン、頭蓋顎顔面修復のためのねじおよびプレート、ならびに歯科インプラントなどの歯科機器に加えて、本発明によるコーティングを有し、身体に植込まれるかまたは挿入される種々の他の支持体(例えば、ガラス、金属、ポリマー、セラミックおよびそれらの組み合わせを含むことができる)を含む。
【0019】
本発明の医療機器は、診断法、全身治療、または任意の哺乳動物の組織または臓器の局所治療に使用される医療機器を含む。例には、冠および末梢脈管系(全体で"血管系"と呼ぶ)、肺、気管、食道、脳、肝臓、腎臓、膀胱、尿道および尿管、眼、神経系、腸、胃、膵臓、卵巣ならびに前立腺を含む器官;骨格筋;平滑筋;乳房;皮膚組織;軟骨;ならびに骨の腫瘍を含む。
【0020】
本明細書において、"治療"とは、疾患もしくは症状の予防、疾患もしくは症状に付随する徴候の低減もしくは除去または疾患もしくは症状の実質的もしくは完全な除去のことを言う。典型的な被験者は脊椎動物被験者であり、より一般的にはヒト被験者、ペットおよび家畜を含む哺乳動物被験者である。
【0021】
荷電材料の静電自己組織化に基づいて、支持体上にコーティングを形成させることができることが知られている。これらのプロセスにおいて、例えば、第1実効電荷を有する第1荷電材料は、一般的には、下にある荷電支持体上に第1溶液から沈着し、次いで第2溶液から第2荷電材料(第1材料の実効電荷に対して符号が反対である第2実効電荷を有する)が沈着する、等々である。外層上の実効電荷は、連続する各層の沈着によって逆転する。通常は、コーティングの所望の厚さに応じて、5〜10〜25〜50〜100〜200以上の層をこの方法によって塗布できる。荷電材料の例は、特に、荷電大分子(例えば、荷電ポリマー)、荷電小分子(例えば、荷電非ポリマー治療剤)および荷電粒子を含む。交互積層法による静電自己組織化法に関するさらなる情報に関しては、例えば、WeberらへのUS2005/0208100およびChenらへのWO/2005/115496を参照のこと。
【0022】
特定の支持体は生来荷電しており、従って交互積層法による静電組織化法に役立たせるのは容易である。支持体が固有の実効表面電荷を有さない場合において、それでもなお表面電荷を設けることができる。例えば、コーティングされる支持体が導電性(例えば、金属製支持体)である場合、それに電位を適用することによって表面電荷を設けることができる。他の例として、正の実効電荷(例えば、アミン、イミンもしくは他の塩基性/カチオン基)または負の実効電荷(例えば、カルボン酸、ホスホン酸、リン酸、硫酸、スルホン酸もしくは他の酸性/アニオン性基)を有する官能基を有する種に共有結合させることによって、支持体に電荷を設けることができる。共有結合に関するさらなる情報については、例えば、公開番号US2005/0002865において見出すことができる。多くの実施形態において、第1荷電層として支持体の表面に単に荷電種を吸着させるによって、支持体に表面電荷を設けることができる。ポリエチレンイミン(PEI)は、種々の支持体への接着を強力に促進するために、この目的のために一般的に用いられる。さらなる情報は、Atanasoskaらへの公開番号US2007/0154513において見出すことができる。
【0023】
所定の支持体に表面電荷が設けられる方法にかかわらず、いったん十分な実効表面電荷が設けられれば(例えば、電位、表面の化学変換、表面上への荷電種の吸着/結合などの適用によって)、互い違いの実効電荷の材料で支持体を容易にコーティングすることができる。本発明において、荷電材料は荷電ポリマーを含む。
【0024】
“荷電ポリマー”は多重荷電基を有するポリマーである(本明細書においては、前記ポリマーを“高分子電解質”とも呼ぶことができる。従って、荷電ポリマーは、ポリカチオンおよびその前駆体(例えば、ポリ塩基、ポリ塩など)、ポリアニオンおよびその前駆体(例えば、ポリ酸、ポリ塩など)、アイオノマー(少ないが有意の割合の構成単位が電荷を有する荷電ポリマー)などを含む広範囲の種を含む。一般的には、荷電基の数は大変多いため、解離したイオン形(ポリイオンとも呼ばれる)の場合、ポリマーは極性溶媒(特に水)に可溶性である。荷電ポリマーにはアニオン性基およびカチオン基の両方を有するものがあり(例えば、ペプチド、タンパク質など)、負の実効電荷を有する場合もあり(例えば、アニオン性基がカチオン基よりもより電荷に寄与していることにより)、正の実効電荷を有するばあいもあり(例えば、カチオン基がアニオン性基よりもより電荷に寄与していることにより)、あるいは中性の実効電荷を有する場合もある(例えば、カチオン基とアニオン性基が等しく電荷に寄与していることにより)。この点において、特定の荷電ポリマーの実効電荷は、その周囲の環境のpHによって変化しうる。カチオン基およびアニオン性基の両方を含む荷電ポリマーは、本明細書においては、どちらの基が優位を占めるかに応じて、ポリカチオンまたはポリアニオンのいずれかに分類することができる。(明らかに、アニオン性基のみを有する荷電ポリマーは負の実効電荷を有し、カチオン基のみを有する荷電ポリマーは正の実効電荷を有する。)
【0025】
ポリカチオンの具体例は、例えば、ポリ(ジメチルアミノエチルメタクリラート)およびポリ(ジエチルアミノエチルメタクリラート)などのポリ(ジアルキルアミノアルキルメタクリラート)を含むポリ(アミノメタクリラート)を含むポリアミン;ポリビニルアミン;ポリ(N-エチル-4-ビニルピリジン)などの第四級ポリビニルピリジンを含むポリビニルピリジン;ポリ(ビニルベンジルトリメチルアミン);ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)および、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)などのポリ(ジアリルジアルキルアミン)などのポリアリルアミン;ポリアミドアミン;ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミンおよびエトキシル化ポリエチレンイミンなどのポリアルキレンイミンを含むポリイミン;ヒストンペプチド;ならびに、リジン、アルギニン、オルニチンおよびそれらの組み合わせなどの塩基性アミノ酸を含むホモポリマーおよびコポリマー;ゼラチン、アルブミン、プロタミンおよび硫酸プロタミン、スペルミン、スペルミジン、ヘキサジメトリンブロミド(ポリブレン)を含むポリカチオン性ペプチドおよびタンパク質ならびに、カチオン化デンプンおよびキトサンなどのポリカチオン性多糖ばかりでなく、これらのコポリマー、塩、誘導体および組み合わせをも含む。
【0026】
ポリアニオンの具体例は、例えば、ポリビニルスルホナートなどのポリスルホナート;ポリ(ナトリウムスチレンスルホナート)(PSS)などのポリ(スチレンスルホナート);スルホン化ポリ(テトラフルオロエチレン);スルホン化スチレン-エチレン/ブチレン-スチレントリブロックコポリマーを含む米国特許第5,840,387号に記載されているようなスルホン化ポリマー;Pinchukらへの米国特許第6,545,097号に記載されているポリスチレン-ポリオレフィンコポリマーをスルホン化したもの(このポリマーは、例えば米国特許第5,840,387号および米国特許第5,468,574号に記載されているプロセスを用いてスルホン化できる)ならびに種々の他のホモポリマーおよびコポリマーをスルホン化したものなどのスルホン化スチレンホモポリマーおよびコポリマー;ポリビニルスルファートなどのポリスルファート;硫酸化および非硫酸化グリコサミノグリカンならびに特定のプロテオグリカン、例えばヘパリン、ヘパリン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、アクリル酸ポリマーおよびその塩(例えば、アンモニウム、カリウム、ナトリウム塩など)などのポリカルボキシラート;例えばAtofina and Polysciences社から入手できるもの、メタクリル酸ポリマーおよびその塩(例えば、メタクリル酸とエチルアクリラートのコポリマーであるEUDRAGIT);カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルアミロースおよび種々の他のポリマーのカルボン酸誘導体;グルタミン酸、アスパラギン酸またはその組み合わせなどの酸性アミノ酸のホモポリマーおよびコポリマーなどのポリアニオン性ペプチドおよびタンパク質;マンヌロン酸、ガラクツロン酸およびグルロン酸などのウロン酸ならびにそれらの塩、アルギン酸およびその塩、ヒアルロン酸およびその塩などのホモポリマーおよびコポリマー;ゼラチン、カラゲニン、種々のポリマーのリン酸誘導体などのポリリン酸、ポリビニルホスホナートなどのポリホスホナートばかりでなく、これらのコポリマー、塩、誘導体および組み合わせをも含む。
【0027】
上で述べたように、荷電ポリマーは、生理学的なpH(pH7.4)を含む中性のpH値で(例えば、pH6.5〜7.5で)正または負の実効電荷を含むものを含む1以上の種類の荷電アミノ酸を含むものを含む。一般に生理学的なpHで正に荷電するポリアミノ酸含有ポリマーは、1以上の種類の塩基性アミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、オルニチンなど)の優位に含むものを含む。一般に生理学的なpHで負電荷を持つポリアミノ酸含有ポリマーは、1以上の種類の酸性アミノ酸(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸など)を優位に含むものを含む。
【0028】
前述のように、本発明によるコーティング領域は、荷電したポリアミノ酸含有ポリマーを含む。前記ポリアミノ酸含有ポリマーは、生分解性および生安定性ポリアミノ酸を含む。ポリアミノ酸含有ポリマーは、旧来のペプチドベースポリアミノ酸を含むものを含む。ポリアミノ酸含有ポリマーは、それぞれの側鎖部位で加水分解されやすい結合を介して重合されたアミノ酸を含む、Kohnらへの米国特許第4,638,045号に記載されているようなポリアミノ酸も含む。ポリアミノ酸含有ポリマーは、さらに、例えばチロシン、トレオニン、セリンおよび/またはヒドロキシプロリン(例えば、トランス-4-ヒドロキシ-L-プロリン)などに基づくN-保護ヒドロキシアミノ酸から形成させることができ、続いて脱保護できる、ポリマー骨格内にエステル結合を有する偽(pseudo)ポリアミノ酸を含む。
【0029】
一般的には、荷電ポリアミノ酸含有ポリマーは完全長タンパク質ではないが、その長さは多岐にわたることができる。通常は、長さ1kDa以下〜1000kDa以上であり、例えば、長さ1kDa〜2.5kDa〜5kDa〜10kDa〜25kDa〜50kDa〜100kDa〜250kDa〜500kDa〜1000kDaである。
【0030】
本発明による荷電ポリアミノ酸含有ポリマーは、細胞被覆(例えば、細胞間結合、細胞増殖など)を促進するポリアミノ酸配列(荷電していても、荷電していなくてもよい)を含むことができる。
【0031】
細胞被覆を促進するポリアミノ酸配列の具体例は、例えば、内皮細胞の伸展性および遊走性を促進することが報告されているRGD配列(例えば、GRGDS)およびWQPPRARI配列を含むものを含む。V. Gauvreau et al., Bioconjug Chem., 2005 Sep-Oct, 16(5), 1088-97 を参照のこと。さらなる例は、内皮細胞の接着を支持するが、平滑筋細胞、線維芽細胞または血小板の接着を支持しないことが示されているREDVテトラペプチドを含有するポリアミノ酸配列および、上皮細胞の接着を促進するが、血小板粘着を促進しないことが示されているYIGSRペンタペプチドを含む。REDV、YIGSR、RGDおよび環状RGDペプチドに関するさらなる情報は、米国特許第6,156,572号、公開番号US2003/0087111、B.P. Chan, Journal of Biomedical Materials Research Part B: Applied Biomaterials, 72B(1) (2004) 52-63 、 Y. Xiao et al., Biophysical Journal, 71 (1996) 2869-2884 およびS.P. Massia et al., The Journal of Biological Chemistry, 267(20) (1992) 14019-14026 において見出すことができる。YIGSRに加えて、RYVVLPRおよびTAGSCLRKFSTMペプチド配列が、内皮細胞接着を含む特定の生物活性を促進することが示されている。例えば、E. Genove et al., Biomaterials 26 (2005) 3341-3351 およびその引用文献を参照のこと。これらの配列は、基底膜の2つの主要タンパク質成分、ラミニン1(YIGSR、RYVVLPR)およびコラーゲンIV(TAGSCLRKFSTM)中に存在する(同文献)。細胞接着配列のさらなる例は、内皮細胞のCD13に結合することが報告されているNGRトリペプチドである。例えば、L. Holle et al., “In vitro targeted killing of human endothelial cells by co-incubation of human serum and NGR peptide conjugated human albumin protein bearing alpha (1-3) galactose epitopes,” Oncol. Rep. 2004 Mar; 11(3):613-6 を参照のこと。正に荷電したポリアミノ酸配列は、細胞表面のプロテオグリカンの負電荷を持つ硫酸基およびカルボキシル基と結合することが提案されており、その例は、PRRARV(フィブロネクチン由来)、PRRGRV(フィブロネクチン由来)、YEKPGSPPREVVPRPRPGV(フィブロネクチン由来)、RPSLAKKQRFRHRNRKGYRSQRGHSRGR(ビトロネクチン由来)、RIQNLLKITNLRIKFVK(ラミニン由来)およびRYVVLPRPVCFEKGMNYTVR(ラミニン由来)を含む。これらの配列に関するさらなる説明については、例えば、Stephen P. Massia et al., The Journal of Biological Chemistry, 267(14), 1992, 10133-10141 およびその引用文献を参照のこと。
【0032】
いくつかの実施形態において、体内で、細胞被覆を促進するポリアミノ酸配列と周囲の細胞との間の相互作用を最大化するために、前記配列を含む荷電ポリアミノ酸含有ポリマーは、交互積層法による処理中に沈着する最外層を構成することができる。
【0033】
生理学的なpHで、細胞被覆を促進するポリアミノ酸配列(例えば、特に前述のもの)は、正の実効電荷、負の実効電荷または中性の実効電荷(例えば、非荷電または双性イオン配列)を有することができる。前記配列を含有するポリアミノ酸含有ポリマーの電荷を増減することが望ましい範囲で、正に荷電したポリマー鎖(例えば、塩基性アミノ酸を優位に含むポリアミノ酸鎖、例えば特に上記のもの)または負電荷を持つポリマー鎖(例えば、酸性アミノ酸を優位に含むポリアミノ酸鎖、例えば特に上記のもの)を有するポリマーを設けることができる。
【0034】
ポリマーの全実効電荷をより負にするために、具体例として、例えば、ポリ(アスパラギン酸)またはポリ(グルタミン酸)配列をさらに含む、細胞被覆を促進する1以上のポリアミノ酸配列(例えば、特に下記のものを参照)をポリマー内に設けることができる。ポリマーの全実効電荷をより正にするために、逆に、例えば、ポリリジンまたはポリアルギニン配列もまた含む、細胞被覆を促進するポリアミノ酸配列をポリマー内に設けることができる。上で述べたように、前記のポリアニオン性およびポリカチオン性配列は長さが多岐にわたることができるが、一般的には、長さ1kDa〜1000kDaである。
【0035】
ポリカチオン性配列の存在は、例えば、細胞表面のプロテオグリカンの負電荷を持つ硫酸基およびカルボキシル基に対する結合を増強することができる。さらに、これらの配列は通常第一級または第二級アミンを含むため、以下にさらに詳しく説明するように、これらの配列は一酸化窒素の担体として用いることもできる。
【0036】
前述のようなペプチド配列は、自然源から単離することもできるし、組換えDNA技術を用いて製造することもできるし、あるいは合成技術を用いて製造することもできる。後者の例として、N-保護アミノ酸のカルボキシル基が活性化され、樹脂結合アミノ酸/ペプチドの末端第一級アミノ基と反応してアミド結合形成がもたらされる“Fmoc”合成技術によってペプチドを製造できる。一般的には固相化学がもちいられるが、それは固相化学がペプチド配列の制御を可能にするからである。さらなる情報に関しては、例えば、Lee Ayres, From structural proteins to synthetic polymers, Doctoral Thesis, Radboud Universiteit Nijmegen, 2005, ISBN 9090198075, Chapter 1 およびその引用文献を参照のこと。
【0037】
前述のように、いくつかの実施形態において、本発明のコーティング領域は、一酸化窒素(NO)を放出する荷電ポリマーを含むことができ、このNO放出性ポリマーは荷電ポリアミノ酸含有ポリマーであっても、そうでなくてもよい。
【0038】
例えば、いくつかの実施形態において、本発明のコーティング領域は、NO放出性ポリマーであるか、あるいは例えば適切な条件下で適切な種(例えば、一酸化窒素、亜硝酸ナトリウムなど)と反応させることによりNO放出性ポリマーに変換できる荷電ポリマーを含むことができる。従って、いくつかの実施形態において、コーティング領域は荷電NO放出性ポリマーを用いて形成させることができる。他の実施形態において、コーティング領域は荷電ポリマーを用いて形成させることができ、続いてこれはNO放出性ポリマーに(コーティング内で)変換される。以下のパラグラフにおいて、NO放出性ポリマーのいくつかの例を説明する。
【0039】
NO放出性種は、例えば、第二級アミン構造体と2モルのNO(g)を高圧で反応させて比較的安定なジアゼニウムジオラート付加構造体を形成させることにより製造できる。例えば、M.C. Frost et al., Biomaterials 26 (2005) 1685-1693 およびその引用文献を参照のこと。負電荷を持つジアゼニウムジオラート付加体は、電気的中性条件を満足するために対カチオンを必要とするが、そのカチオンは、(a)外因性カチオン(例えばNa+、NH4+など)または(b)同じ分子内に存在し、双性イオン種を生じる他のアミン種から生じる有機アミンのカチオンのいずれかであることができる(同上)。
【0040】
第二級アミン含有アミノ酸の例はプロリンである(同上)。従って、特定の実施形態において、本発明に使用する荷電ポリアミノ酸含有ポリマーは1以上のプロリン残基を含むことができる。
【0041】
NOで処理してジアゼニウムジオラートNOドナーを形成させることができる非ペプチドポリマーの例はポリエチレンイミン(PEI)である(同上)。PEIは、第一級、第二級および第三級アミンの組み合わせを含む分岐鎖ポリマーである。 D.J. Smith et al., J. Med. Chem., 39 (5), 1148 -1156, 1996 は、NOに暴露された架橋ポリ(エチレンイミン)が、pH7.4の緩衝液中37℃で5週間NOを持続的に放出させること報告している。本発明によれば、PEIもまた、NO放出性コーティングを形成させるために用いることができる。
【0042】
ペンダント第一級アミン基(例えば、リジン)を有するアミノ酸を含むペプチドもまた、ジアゼニウムジオラートNOドナーを形成することが報告されている。例えば、Ho-Wook Jun et al., Biomacromolecules, 6 (2005) 838-844 に記載されているようにして、脱イオン水にリジン含有ペプチドを溶解し、それを室温で終夜アルゴンガス雰囲気下でNOと反応させることによって、ジアゼニウムジオラートを形成させることができる。L.J. Taite et al., Journal of Biomaterials Science, Polymer Edition, 17(10), 2006, 1159-1172 もまた参照のこと。ここでは、ポリ(エチレングリコール)-リジンデンドリマーが、水中、アルゴン雰囲気下、室温で終夜NOガスと反応された。生理的条件下で、これらの材料からのNO放出は最大60日間生じた。他の例として、J.A. Hrabie et al., “Conversion of proteins to diazeniumdiolate-based nitric oxide donors” Bioconjug. Chem. 10(5), 1999, 838-842 は、タンパク質に含まれるリジン残基に一酸化窒素(NO)供与性ジアゼニウムジオラート基を転移させることができる試薬の製造方法を記載している。この方法によって製造されたジアゼニウムジオラート化ウシ血清アルブミンおよびジアゼニウムジオラート化ヒト血清アルブミンは、pH7.4のリン酸緩衝液中37℃での溶出によりNOを徐々に放出し、その半減期は約3週間であった。本発明によれば、L-リジン含有ペプチドからNO放出性ポリマーを形成させるためにも、前述の方法を用いることができる。
【0043】
他の実施形態において、NO放出性ペプチドは、システインおよび/またはホモシステインなどの1以上のチオール含有アミノ酸を含むペプチドから形成させることができる。例えば、Stamlerらへの米国特許第5,385,937号は、ホモシステインが酸性亜硝酸ナトリウム(NaNO2)で処理されるニトロシル化法におけるS-ニトロソホモシステインの製造を記載している。Stamlerらへの米国特許第5,593,876号は、同じ方法を用いるタンパク質チオールのニトロシル化を記載している。K.S. Bohl Masters et al., J. Biomater. Sci. Polymer Edn, 16(5), 2005, 659-672 もまた参照のこと。
【0044】
特定の実施形態において、本発明によるコーティング領域は、場合により、少なくとも1つの治療剤を含むことができる。
【0045】
例えば、血管医療機器が用いられる実施形態において、例えば、抗再狭窄剤であるか、または内皮細胞の接着および/もしくは増殖を促進する薬剤である治療剤を用いることができる。“治療剤”、“医薬”“薬”および他の関連する用語は、本明細書においては同義で使用することができる。治療剤は、それ自体が薬学的に活性であることもできるし、あるいは薬学的に活性な物質にin vivoで変換されることもできる(例えば、プロドラッグであることもできる)。
【0046】
いくつかの実施形態において、選択可能な治療剤は、荷電治療剤であることができる。“荷電治療剤”とは、付随する電荷を有する治療剤を意味し、その場合、コーティング形成プロセス中にコーティングにそれを導入することができる。
【0047】
治療剤は、例えばそれが生得的に荷電されていることによって(例えばそれが、塩形態であってもよい酸性および/または塩基性基を有することによって)、付随する電荷を有することができる。生得的に荷電されているカチオン性治療剤のいくつかの例は、特にアミロライド、ジゴキシン、モルヒネ、プロカインアミドおよびキニーネを含む。アニオン性治療剤の例は、特にヘパリンおよびDNAを含む。
【0048】
治療剤は、化学修飾されてそれに1以上の荷電官能基が設けられることによって、付随する電荷を有することができる。例えば、最近、薬物を可溶化するために(かつ場合によっては腫瘍標的化を改善し、薬物毒性を低下させるために)、パクリタキセルなどの抗腫瘍剤を含む水不溶性または低溶解性薬剤の親水性ポリマーへの結合が行われている。同様に、水不溶性または低溶解性薬剤のカチオン性またはアニオン性バージョンもまた開発されている。パクリタキセルを具体例にとれば、パクリタキセル-ポリ(l-グルタミン酸)、パクリタキセル-ポリ(l-グルタミン酸)-PEOを含むパクリタキセルの種々のアニオン形ばかりでなく、パクリタキセルN-メチルピリジニウムメシラートおよびN-2-ヒドロキシプロピルメチルアミドと結合したパクリタキセルを含むこの薬物の種々のカチオン性形が知られている。例えば、米国特許第6,730,699号; Duncan et al., Journal of Controlled Release 74 (2001)135; Duncan, Nature Reviews/Drug Discovery, Vol. 2, May 2003, 347; Jaber G. Qasem et al, AAPS PharmSciTech 2003, 4(2) Article 21 を参照のこと。これらに加えて、米国特許第6,730,699号は、ポリ(d-グルタミン酸)、ポリ(dl-グルタミン酸)、ポリ(l-アスパラギン酸)、ポリ(d-アスパラギン酸)、ポリ(dl-アスパラギン酸)、ポリ(l-リジン)、ポリ(d-リジン)、ポリ(dl-リジン)、上記のポリアミノ酸とポリエチレングリコール(例えば、パクリタキセル-ポリ(l-グルタミン酸)-PEO)とのコポリマーばかりでなく、ポリ(2-ヒドロキシエチル1-グルタミン)、キトサン、カルボキシメチルデキストラン、ヒアルロン酸、ヒト血清アルブミンおよびアルギン酸を含む種々の他の荷電ポリマー(例えば、ポリ電解質)に結合されたパクリタキセルもまた記載している。パクリタキセルのさらに他の形は、1'-マリルパクリタキセルナトリウム塩などのカルボキシル化体を含む(例えば、E.W. DAmen et al., “Paclitaxel esters of malic acid as prodrugs with improved water solubility,” Bioorg Med Chem., 2000 Feb, 8(2), pp. 427-32 を参照のこと)。パクリタキセルが、その2’位のヒドロキシルでポリ-L-グルタミン酸(PGA)のΔカルボン酸と結合したポリグルタミン酸パクリタキセルがCell Therapeutics社(米国ワシントン州シアトル)によって製造されている(7位のヒドロキシルもまたエステル化に用いることができる)。この分子は、in vivoでカテプシンBで分解されてジグルタミン酸パクリタキセルを遊離するといわれている。この分子において、パクリタキセルは、ポリマーの主鎖に沿ったカルボキシル基の一部と結合して、1分子当たり複数のパクリタキセル単位をもたらす。さらなる情報に関しては、例えば、R. Duncan et al., “Polymerdrug conjugates, PDEPT and PELT: basic principles for design and transfer from the laboratory to clinic,” Journal of Controlled Release 74 (2001) 135146, C. Li, “Poly(L-glutamic acid)anticancer drug conjugates,” Advanced Drug Delivery Reviews 54 (2002) 695713; Duncan, Nature Reviews/Drug Discovery, Vol. 2, May 2003, 347; Qasem et al, AAPS PharmSciTech 2003, 4(2) Article 21;および米国特許第5,614,549号を参照のこと。前記戦略は、パクリタキセル以外の抗再狭窄剤、例えばエベロリムスなどのオリムス系薬物を含む他の治療剤のホストに適用することができる。
【0049】
上記および他の戦略を用いれば、パクリタキセルおよび多くの他の治療剤を、荷電ポリマーなどの種々の荷電種と共有結合または他の方法で結合し、それによって荷電薬物およびプロドラッグを形成させることができる。
【0050】
治療剤は、荷電粒子に結合されることによって、あるいは荷電粒子内にカプセル化されることによって、例えば特に荷電ナノカプセルもしくは荷電ミセル内にカプセル化されることによって、付随する電荷を有することもできる。治療剤は、例えば、上記のような、およびWeberへの公開番号US2005/0129727におけるポリアニオンおよびポリカチオンの交互層からカプセルが形成される交互積層法を用いて荷電カプセル内に設けることができる。前記技術の具体例に関しては、I. L. Radtchenko et al., “A novel method for encapsulation of poorly water-soluble drugs: precipitation in polyelectrolyte multilayer shells,” International Journal of Pharmaceutics, 242 (2002) 219-223 を参照のこと。
【0051】
上記および他の技術を用いて、付随する電荷を広範囲の治療剤に設けることが出来る。
【0052】
前述のように、本発明によるコーティング領域は、交互積層法として知られる方法で交互に反対の荷電種に繰り返し暴露することによって形成させることができる。静電相互作用の手段によって層は自己組織化し、支持体上にコーティング領域を形成する。典型的な交互積層法において、コーティングの成長は、支持体がカチオン性種またはアニオン性種の溶液または懸濁液に暴露され、ステップ間でしばしば間欠性の洗浄が行われる遂次段階によって進行する。
【0053】
交互積層法は、例えば、以下の荷電種、特に(a)荷電ポリアミノ酸含有ポリマー(例えば、細胞接着および/または増殖などを促進するペプチドを含むポリマー)、(b)NOを放出するかまたは沈着後NO放出性ポリマーに変換されることができる荷電ポリマー(例えば、NOまたは他のジアゼニウムジオラート形成種に暴露されることができるポリアミン、亜硝酸ナトリウムに暴露されてS-ニトロソチオールを形成することができるポリチオールなど)、(c)ポリアミノ酸含有ポリマーではなく、NO放出性ポリマーでもその前駆体でもない荷電ポリマー(例えば、特に前述のポリ電解質から選択される)および(d)荷電治療剤、の1以上を含む溶液または懸濁液を含む交互の実効電荷の種を含む溶液または懸濁液に選択された支持体を順次暴露するによって行うことができる。
【0054】
これらの溶液および懸濁液内の荷電種の濃度は、多岐にわたることができ、典型的な値は、特におよそ0.01〜10mg/mlである。
【0055】
さらに、必要に応じて、これらの溶液および懸濁液のpHを設定することができる。この目的のために、必要に応じて緩衝系を用いることができる。選択される荷電実体は、中性のpHで(例えば、pH6.5〜7.5で)、あるいはとりわけ機器が挿入または植込まれる体の位置のpH(例えば、生理学的なpH)でイオン化されることができる。
【0056】
荷電種を含む溶液および懸濁液は、例えば、浸漬法などの完全浸漬法、スプレー法、ロールおよびブラシコーティング法、気中懸濁などの機械的懸濁によるコーティングを含む方法、インクジェット法、スピンコーティング法、ウェブコーティング法、ポリマースタンピングおよびこれらの方法の組み合わせを含む種々の方法を用いて支持体表面に塗布できる。方法の選択は、考慮中の必要条件に左右される。例えば、完全浸漬法は、視界から隠されている表面(例えばスプレー法など、視線では到達できない表面)を含む全支持体にその種を塗布することが望ましい場合に用いることができる。他方では、例えば、支持体の特定の一部のみにその種を塗布することが望ましい場合に、スプレー法、ロールコーティング法、ブラシコーティング法、インクジェットプリンティングおよびプレス加工法などの方法を用いることができる。具体例として、固形組織が接触する部位(例えば、ステントの外表面またはグラフトの内表面)にのみ治療剤、例えば抗再狭窄剤を設けた医療機器(例えば、ステントおよびグラフトなどの管状インプラント)を製造することができる。
【0057】
ここで本発明の特定の実施形態を、図面を参照して説明する。図1Aおよび1Bには本発明の実施形態によるステント100が示されている。図1Aのb-b線に沿って得た断面図である図1Bに見られるように、ステント100は支持体110を含む。支持体110は、特に、例えばニチノールなどの生安定性金属製支持体またはステンレススチール支持体または、鉄、マグネシウム、亜鉛もしくはそれらの合金などの生体吸収性金属製支持体であることができる。支持体の上には、本発明によるコーティング領域120が配置される。例えば、最初にPEIまたはPAHなどの容易に吸着するポリ電解質の溶液中に支持体を浸漬し、次いで、例えば、細胞被覆を促進するアミノ酸配列(例えば、RGDなど)をさらに含むl-グルタミン酸ポリマー、ヘパリン、ヒアルロン酸、アルギン酸、デキストラン硫酸、セルローススルファートおよびポリ(スチレンスルホナート)から選択されるアニオン性荷電ポリマーを含む第1溶液ならびに、例えば、細胞被覆を促進するアミノ酸配列をさらに含むl-リジンポリマー、キトサン、プロタミンスルファート、ポリビニルピリジン、ポリ(アリルアミン塩酸塩)およびポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDADMAC)から選択されるカチオン性荷電ポリマーを含む第2溶液中に支持体を交互に浸漬させてコーティング領域120を形成させることができる。例えば、アニオン性荷電ポリマーは、50%以上のl-グルタミン酸部分および多くのRGDペプチドモチーフを含むアニオン性ポリアミノ酸含有ポリマーであることができ、アニオン性荷電ポリマーはポリ-l-リジンであることができる。ステントを植込む前に、例えば、Ho-Wook Junら(前出)に記載されているように、例えばポリ-l-リジンとNOを反応させることによって、ジアゼニウムジオラートNOドナーを形成させることができる。
【0058】
本発明の種々の実施形態が本明細書に具体的に図示され、詳細に説明されているが、本発明の精神と意図する範囲から逸脱することのない本発明の修飾および改変が上記の教示に含まれていることは明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)支持体、ならびに
(b)(i)第1実効電荷を有する荷電ポリ(アミノ酸)含有ポリマーおよび(ii)反対の実効電荷の別の荷電ポリマーを含むコーティング領域、
を含む植込み型または挿入型医療機器であって、
荷電ポリ(アミノ酸)含有ポリマーがインテグリン結合配列を含み、荷電ポリ(アミノ酸)含有ポリマーが、in vivoでの植込みもしくは挿入によって、またはその両方によってNOを放出することを特徴とする、前記植込み型または挿入型医療機器。
【請求項2】
医療機器が血管ステントである、請求項1記載の医療機器。
【請求項3】
コーティング領域が、前記別の荷電ポリマーを含む少なくとも5層と交互となるようにして前記荷電ポリ(アミノ酸)含有ポリマーを含む少なくとも5層を含む、請求項1記載の医療機器。
【請求項4】
コーティング領域が生体吸収性である、請求項1記載の医療機器。
【請求項5】
荷電ポリ(アミノ酸)含有ポリマーの分子量が1kDa〜1000kDaである、請求項1記載の医療機器。
【請求項6】
荷電ポリ(アミノ酸)含有ポリマーが、細胞被覆を促進するペプチド配列を含む、請求項1記載の医療機器。
【請求項7】
ペプチド配列がRGD、REDV、YIGSR、RYVVLPR、TAGSCLRKFSTM、WQPPRARI、PRRARV、PRRGRV、YEKPGSPPREVVPRPRPGV、RPSLAKKQRFRHRNRKGYRSQRGHSRGR、RIQNLLKITNLRIKFVKおよびRYVVLPRPVCFEKGMNYTVRから選択される、請求項6記載の医療機器。
【請求項8】
前記別の荷電ポリマーがNO放出性ポリマーである、請求項6記載の医療機器。
【請求項9】
前記別の荷電ポリマーがポリエチレンイミン配列、ポリプロリン配列、ポリリジン配列、ポリアルギニン配列およびポリシステイン配列から選択される配列を含む、請求項8記載の医療機器。
【請求項10】
荷電ポリ(アミノ酸)含有ポリマーがin vivoでの植込みもしくは挿入によってNOを放出する、請求項1記載の医療機器。
【請求項11】
荷電ポリ(アミノ酸)含有ポリマーがポリプロリン配列、ポリリジン配列、ポリアルギニン配列、ポリ(リジン-co-アルギニン)配列およびポリシステイン配列から選択される配列を含む、請求項10記載の医療機器。
【請求項12】
前記別の荷電ポリマーがNO放出性ポリマーである、請求項1記載の医療機器。
【請求項13】
荷電ポリ(アミノ酸)含有ポリマーが正の実効電荷を有し、前記別の荷電ポリマーが負の実効電荷を有する、請求項1記載の医療機器。
【請求項14】
荷電ポリ(アミノ酸)含有ポリマーがポリリジン配列、ポリアルギニン配列およびポリ(リジン-co-アルギニン)配列から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項13記載の医療機器。
【請求項15】
前記別の荷電ポリマーがヒアルロン酸配列、ポリアスパラギン酸配列、ポリグルタミン酸配列およびポリ(アスパラギン酸-co-グルタミン酸)配列から選択される配列を含む、請求項13記載の医療機器。
【請求項16】
荷電ポリ(アミノ酸)含有ポリマーが負の実効電荷を有し、前記別の荷電ポリマーが正の実効電荷を有する、請求項1記載の医療機器。
【請求項17】
荷電ポリ(アミノ酸)含有ポリマーがポリアスパラギン酸配列、ポリグルタミン酸配列およびポリ(アスパラギン酸-co-グルタミン酸)配列から選択される配列を含む、請求項16記載の医療機器。
【請求項18】
前記別の荷電ポリマーがポリエチレンイミン配列、ポリリジン配列、ポリアルギニン配列およびポリ(リジン-co-アルギニン)配列から選択される配列を含む、請求項16記載の医療機器。
【請求項19】
荷電ポリ(アミノ酸)含有ポリマーが、in vivoでの植込みもしくは挿入によって細胞被覆を促進し且つNOを放出するペプチド配列を含む、請求項1記載の医療機器。
【請求項20】
荷電ポリ(アミノ酸)含有ポリマーを含む第1溶液および前記別の荷電ポリマーを含む第2溶液に交互に暴露することによってコーティング領域が形成される、請求項1記載の医療機器。

【図1A】
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【図1B】
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【公表番号】特表2011−526186(P2011−526186A)
【公表日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516658(P2011−516658)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際出願番号】PCT/US2009/048642
【国際公開番号】WO2009/158489
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(506192652)ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド (172)
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
【Fターム(参考)】