説明

荷電粒子スペクトロメータおよびその検出器

荷電粒子(例えば光電子)スペクトロメータは、解析される試料の組成に関するエネルギースペクトラムを生成する第1のモード、および解析される試料の表面の荷電粒子画像を生成する第2のモードで動作可能である。検出器が、双方の動作モードで生成される荷電粒子を検出するために用いられる。スペクトロメータの動作方法は、第1と第2のどちらのモードが用いられるか選択し、検出器がそれに従って動作される工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、荷電粒子のスペクトロメータおよびそのようなスペクトロメータの動作の方法に関する。特に本発明は、そのようなスペクトロメータのための検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
この明細書の大部分が、光電子スペクトロメータにおける本発明の用途について記述しているが、本発明は他の荷電粒子用の装置に対しても同様に適している。例えば、入力レンズ系が試料のラインイメージを描出した後、一軸が試料上のある直線に沿って配置され、他の軸が光電子のエネルギーを示す、2d画像を生成するために直交方向に分散されるように動作される、半球専用アナライザシステムである。代替案では、入力レンズ系は例えばサーモVG科学シータプローブでのように、試料の角度分布を描出するように動作されることができる。
【0003】
また例えば本発明は、オージェ電子や解析される荷電粒子のような散乱イオンを用いたスペクトロメータに適用されることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
出願人により製造されている、従来技術の光電子スペクトロメータの概要が図1に示されている。装置は磁気レンズ2を含み、その上部には解析される試料4が配置されている。使用に際して、試料4はX線源6からのX線を照射され、生成された光電子はエネルギー解析部14の導入口12に合焦するように、荷電中和部8および静電レンズ系10を通過する。
【0005】
この装置は、試料4の表面の組成を解析するスペクトラムモード、および試料4の表面の拡大されたエネルギー選択光電子画像を生成する画像モードの2つの動作モードを有する。スペクトラムモードでは、光電子は半球型解析部16を通り、一般的には各々が一組のチャネルトロンである、一対の検出器18、20に受信される。2組のチャネルトロンは、それにより組成が解析される、試料4の表面の組成に関するエネルギースペクトラムを装置が生成できるようにする。
【0006】
画像モードでは、光電子はエネルギー解析部14の半球型ミラー解析部22を通り、一般的にはマイクロチャネルプレート(MCP)検出器である、ある異なる検出器24に受信される。マイクロチャネルプレートに受信された光電子は、さらに二次電子を生成するために用いられ、次いでそれらは燐光スクリーン上に投影される。燐光スクリーンはCCDカメラにより撮影されることができ、それにより試料4の表面のエネルギー解析光電子画像が生成されることができる。画像は、ある特定の要素の分布や要素の化学的状態を表すことができる。
【0007】
この装置は、以上に説明された、動作のそれぞれのモードに1つずつの2つの型式の検出器を必要とする、という欠点を有する。本発明は、従来技術による装置の欠点のいくつかまたはすべてを、軽減または克服することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、第1の実施形態では本発明は、解析される試料の組成に関するエネルギースペクトラムを生成する第1のモード、および解析される試料の表面の荷電粒子画像を生成する第2のモード、で動作可能な荷電粒子スペクトロメータであって、スペクトロメータは双方の動作モードで生成される荷電粒子を検出するために用いられる検出器を含む、荷電粒子スペクトロメータを提供する。
【0009】
荷電粒子は、光電子、オージェ電子または試料からの他の二次電子であって良く、またはスペクトロメータがイオン散乱スペクトロスコピーに用いられた場合は、イオンであってもよい。
【0010】
この方法により本発明は、従来技術の装置の検出器システムの複雑さを低減する。従来技術では2つの型式の検出器は同じ物理的位置に配置されることができず、使用に際して各々の検出器が検出領域の一部しか被覆できないので、本発明の検出器は従来技術の検出器の場合より、例えば光電子である荷電粒子をより広い物理的領域で受信することができる。
【0011】
望ましくは、荷電粒子スペクトロメータは光電子スペクトロメータであり、荷電粒子画像は光電子画像であり、荷電粒子は光電子である。
【0012】
望ましくは検出器は、使用に際して双方の動作モードで一次電子が導かれ、かつ受信された各々の一次電子に対し複数の二次電子を放出する、プレート手段(マイクロチャネルプレートのような)を含む。望ましくは検出器はまた、複数の二次電子を用いて遅延線内に一対の電気パルスを生成し、そのパルスから信号処理手段がプレート手段上の第1の方向の一次電子の位置を計算することができる、第1の遅延線手段を含む。より望ましくは検出器はまた、複数の二次電子を用いて第2の遅延線内に一対の電気パルスを生成し、そのパルスから信号処理手段がプレート手段上の第2の方向の一次電子の位置を計算することができる、第2の遅延線手段を含む。
【0013】
実際上この型式の検出器は、従来技術に記載される燐光スクリーンおよびCCD検出器の一部を置換する。これは、プレート手段上の各々の一次電子の位置が、より正確に決定されることを可能にする。
【0014】
望ましくは、第1と第2の方向は、例えばプレート手段上のX軸およびY軸を効果的に定義する、直交したものである。
【0015】
ある実施形態ではスペクトロメータは、検出器の製造上の不完全および/または遅延線の間の電気的な混信に起因するノイズのような、不要な信号を削減または除去するために、1つまたは双方の遅延線から受信した信号を処理する第2の信号処理手段(以上に言及した信号処理手段とは別個であるかまたはその一部である)を含む。
【0016】
望ましくはスペクトロメータは、その動作を制御し、2つのモードのいずれを動作させるかユーザが選択できるようにする、制御手段を含む。望ましくは制御手段は、スペクトロメータのスペクトラムモードでの動作中に、遅延線手段の1つのみからの信号を信号処理手段が利用するように、信号処理手段を制御する。
【0017】
加えてまたはその代わりに、制御手段はスペクトロメータの画像モードでの動作中に、第1と第2の双方の遅延線手段からの信号を信号処理手段が利用するように、信号処理手段を制御してもよいし、望ましくは時間差がより正確に測定されるように、一対のパルスの各々の1つの間の時間を伸長することにより、制御手段が電気パルスの計時測定の精度を向上させるさらなる処理手段を含んでもよい。
【0018】
他の実施形態では本発明は、以上に記述したいずれかまたは全ての特徴を含む、荷電粒子スペクトロメータ用の検出器を提供する。
【0019】
さらに別の実施形態では本発明は、以上に記述した荷電粒子スペクトロメータの動作方法であって、2つのどちらのモードが用いられるか選択し、検出器がそれに従って動作される工程を含む方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の実施形態が、添付の図面を参照しつつ以下に記述される。
【0021】
図2は、その基本的な動作においては図1に示される装置とほぼ同等の、XPS(X線光電子スペクトロメータ)の概要図である。装置の同じである部分には、同一の参照番号が用いられている。主要な差異は、用いられている検出器による。
【0022】
図2のスペクトロメータは、スペクトロメータの動作の2つのモード、即ちスペクトラムモードおよび画像モードの双方に使用することができる、単一の検出器ユニット30を含んでいる。いくつかの実施形態では検出器プレート30は1つのマイクロチャネルプレート(MCP)であり、他のいくつかの実施形態では3つまたはそれ以上のような、複数のマイクロチャネルプレートである。
【0023】
検出器プレート30の付近には、一対の遅延線32、34が配置されているが、それ以上または以下の遅延線が用いられてもよい。検出器プレート30および遅延線32、34は共に、この装置の検出器を構成し、この検出器は以上に記述された従来技術の装置とは異なり、画像およびスペクトロスコピーの双方に使用可能である。
【0024】
図3は、検出器の一部の動作を概略の形式で示す。動作のどちらかのモードの使用において、装置からの一次電子はマイクロチャネルプレート(MCP)40を打撃する。図3では、マイクロチャネルプレート40を打撃する単一の電子42が、模式的に示される。MCPのような検出器プレートの動作は、二次電子の「シャワー」44を生成するために、単一の電子を大きな倍率(例えば10)で増幅することである。電子のシャワー44が遅延線46上に落ちたりそれを打撃したりするように、適切な位置に遅延線が配置される。この実施形態に示されるように、検出器プレートの全領域または実質的に全領域をカバーするように、また望ましくはラインの延伸部が並行または実質的に並行になるように蛇行させて、遅延線46は配置される。しかしながら、螺旋状に巻かれた遅延線を形成するように、前のものの周りに遅延線を巻くことにより生成されるような、遅延線の他の配置が可能である。
【0025】
この方法では、遅延線46の延伸部は検出器プレートのある選ばれた軸に垂直に並べて配置される。この例では、遅延線46は「X」軸として示されるものに垂直に配置されており、そのためにこの遅延線は「X」遅延線と呼ばれる。
【0026】
遅延線46の機能は、それを打撃する二次電子のシャワーが、遅延線に沿ったそれぞれの異なる方向に伝搬する、即ち1つのパルス50が第1の端部52に向かって伝搬し、第2のパルス48は第2の端部54に向かって伝搬する、一対のパルス48、50を生成することである。遅延線の両端は信号処理手段に接続され、信号処理手段はパルス48、50を受領して、図3に模式的に示される、それらの受領時間の間の時間差を計算する。この時間差は、遅延線46上のシャワー44の点または原点56、または少なくとも「X」方向のその座標が計算できるようにする。これは一次電子42が検出器プレートを打撃した位置と関連しており、したがって「X」方向のその電子の位置が決定されることができる。
【0027】
いくつかの実施形態では検出器は、以上に記述されたように機能するがしかしながら異なる方法で配置された、第2の遅延線を含んでもよい。望ましくは第2の遅延線は、「X」軸とは異なる軸に垂直にその延伸部が置かれるように、かつより望ましくは、その異なる軸は「X」軸に垂直、例えば図3に示される「Y」軸であるように配置される。この方法により、一次電子42の位置は2つの軸に関して決定されることができ、即ち検出器プレート上のその正確な位置がスペクトロメータの動作モードに依存してもし必要であれば知ることができる。特定の要素に対してデータが直ちに利用可能でない場合に、データ書き込み期間中にスペースを予約するために用いられる。第2の遅延線58が図3に示され、それは「Y」軸として示されるものに垂直に置かれ、したがってこの第2の遅延線は「Y」遅延線と呼ばれる。
【0028】
他の遅延線の配置が可能であり、遅延線の延伸部が検出器プレートの選択された軸に並行に置かれるように配置されても良い。例えば、「X」遅延線の延伸部が「X」軸に並行に置かれ、「Y」遅延線の延伸部が「Y」軸に並行に置かれてもよく、ここで「X」遅延線は二次電子のシャワーの「X」方向の座標が計算できるようにし、「Y」遅延線はシャワーの「Y」方向の座標が計算できるようにする。
【0029】
本発明の一態様のスペクトロメータは、以上に言及した2つの異なるモード、スペクトラムモードおよび画像モード、のどちらででも動作可能である。図4は、双方のモードでの動作の全体図を示す、フローチャートである。図に見られるように、スペクトラムモードでは検出器による1つの次元のみの読み出しが必要とされ、したがって検出器の一部のみが用いられる。以上に記述した一対の遅延線を用いた検出器の実施形態では、例えば図3に示されるような「X」遅延線46である、一方の遅延線から受領される信号のみで、信号処理手段が動作することを意味する。このことはまた、図5で詳細に示される。
【0030】
図4はまた、検出器の2つの次元からのデータが必要である、画像モードのスペクトロメータの動作も示す。以上に記述した一対の遅延線を用いた検出器の実施形態では、検出器上の一次電子の位置を決定するために先に記述したような、双方の遅延線の出力が信号処理手段により用いられることを意味する。
【0031】
検出器プレート上に落下した光電子のエネルギーの測定を決定するために、単一の遅延線60がいかに用いられるかを、図5は模式的に示す。スペクトロメータの動作の性質により、電子が打撃する検出器プレートの「X」軸に沿った距離が遠くなるほど、そのエネルギーは大きくなる。以上に説明したように、遅延線60がこの「X」方向の電子の打撃位置を決定するために用いられる。このモードでは、各々の遅延線上の一対のパルスの間の時間差の計算に利用される時間分解能を強調するために、1つまたは複数の「時間伸長機」が用いられてもよい。
【0032】
1次元単一遅延線モードでは時間分解能を強調する必要がないために、このモードでは伸長機は必要とされない。このモードでは一般的にカウントレートを極大化することがより重要であり、時間伸長機は各々のイベントに対する必要な収得時間を延長するので、イベントが処理されることができる最大レートをむしろ伸長機は低下させる。しかしながら強調された分解能が必要とされる用途では、時間伸長機を用いることが望ましい。
【0033】
図6は、画像モードでの検出器の一部の動作を模式的な形式で示す。「X」遅延線76および「Y」遅延線78を打撃する二次電子の「シャワー」74が、模式的に示される。図6に示されるように、遅延線76の延伸部は「X」軸に垂直に置かれ、遅延線78の延伸部は「Y」軸に垂直に置かれている。二次電子74のシャワーは各々の遅延線に一対のパルスを生成し、パルスは遅延線の異なる端部に伝搬する。遅延線の端部は、パルスを受領して遅延線上のシャワーの点または原点70を計算する、信号処理手段に接続される。「X」遅延線76内のパルスは、「X」方向のこの遅延線の上のシャワー74の座標を信号処理手段が決定できるようにし、「Y」遅延線78内のパルスは、「Y」方向の「Y」遅延線の上のシャワーの座標を信号処理手段が決定できるようにする。このようにして光電子画像72が生成され、それはスペクトロメータ内の試料表面の拡大された光電子画像である。
【0034】
検出器のエレクトロニクスの詳細な実施形態は、2つの動作モードを説明するために以下に記述される。
【0035】
検出器上の電子の打撃位置は、エレクトロニクスシステムを用いて決定される。
【0036】
ある電子が検出器マイクロチャネルプレート(MCP)の前面を打撃すると、二次電子のなだれが生成されるので、MCPの電力供給部から電流パルスが生成される。この電流パルスは、抵抗を通して電圧パルスとして検出される。望ましくは増幅の後に、予め定められた閾値をこのパルスが超えていれば、例えば定比率判別機(CFD)を用いて、ECL(エミッタ結合論理)「スタート」パルスが生成される。CFDは単純な閾値検出器よりもむしろ用いられるので、ECL信号のタイミングは電圧パルスのピークに関連し、パルスの振幅とは独立である。他の型式の論理インターフェイスが用いられてもよい。
【0037】
この論理インターフェイスは、信号処理エレクトロニクス部品の型式を記述する。ECLは1つの型式であり、他の型式は例えば低電圧作動信号動作(LVDS)または低電圧正ECL(LVPECL)である。CFD機能は、上記の「論理インターフェイス」標準のいずれによっても実行される。
【0038】
MCPの後方から離れていく電子雲は検出器のワイヤを打撃し、それぞれの電流パルスは各々の検出器ワイヤの両端に伝搬する。それらは例えば抵抗を通して電圧パルスとして検出され、増幅されて望ましくは以上のようにCFDを用いてECL「ストップ」パルスが生成される。検出器上の電子の打撃位置は、位置測定エレクトロニクスを用いて、スタートパルスとストップパルスの間のタイミングにより決定されることができる。各々のワイヤに対する2つの時間の間の差は、ワイヤの中心からの打撃位置の距離を表す。各々のワイヤに対する2つの時間の和は、一定であるべきであり、このことが二重の打撃の検出と廃棄に用いることができる。
【0039】
スタートからストップまでの期間を測定するために、位置測定エレクトロニクスは、例えばマルチチャネルタイム−デジタル変換器(TDC)集積回路を用いる。無効な測定の原因になるスプリアスなストップパルスを防止するために、ストップパルスはスタートパルスの回路への到着によりイネーブルされる。最大のスタートからストップへの期間内にストップパルスが受信されない場合、回路をリセットするためにタイムアウト期間が用いられてもよい。この例では、有効なECL信号が正のECL(PECL)に変換され、TDCの入力に送られる。一般的にはTDCは、スタートからストップまでの期間に500psの分解能を可能にする。
【0040】
以上に記述したようにエレクトロニクスは、1次元モードと2次元モードの2つの動作モードを有する。1次元モードでは、単一の検出器巻き線のみからのストップパルスが用いられる。このモードでは、一般的にはTDCの500psの分解能で充分であるが、高いTDCスループットが望ましい。これは、例えば4つである、複数のTDCの各々へスタートパルスおよびストップパルスを交互に多重化することにより達成される。ハードウェアの状態マシンの制御下で、あるデバイスがあるイベントを計時している間に、他のデバイスは例えばFIFO(「先入れ先出し」)である記憶デバイスにそれらのデータを出力する異なる段階にある。次に処理のために、時間がFIFOからデジタル信号処理器(DSP)に読み出される。
【0041】
二次元モードでは、双方の検出器巻き線からの信号が用いられる。このモードでは時間伸長回路を用いて、一般的には50psの改善された時間分解能が得られている。ある実施例では、時間伸長回路の動作に先立って、ある設定された電圧にコンデンサが充電される。スタートからストップまでの期間に、ある固定された定電流を用いて、コンデンサの電圧が初期電圧のわずかに下の閾値とクロスして、スタートからストップまでの期間の終了まで負に増加し続けるように、コンデンサが負に充電される。この期間の終りに、より低い定電流を用いて初期電圧までより遅い割合で、コンデンサが正に充電される。コンデンサの電圧が閾値電圧とクロスすると、より高速のコンパレータがストップ信号を生成し、信号はTDCに送られる。伸長された時間の量は、放電電流と充電電流の比により決定される。
【0042】
二次元モードではスループットはより低いことが求められるので、時間の伸長と2つではなく4つの値をTDCから読み出す必要性は、スループットの問題を生じさせない。TDCの間の製造過程での差異やその他の原因に由来する、小さなタイミングのズレの差を除去するために、このモードで単一のTDCを用いることが同様に可能である。
【0043】
遅延線検出器を用いて得られる画像は、かすかな横や縦の線として表われる、歪みを含んでいることがある。これらは、検出器の構造の不完全性および/または4つのストップ信号の間の電子的な混信に由来する、と考えられる。本発明は、これらの偽像を削減する較正方法を用いてもよい。
【0044】
これらの線は、電子のイベントが画像内のそれらの位置に依存して、真実の位置からわずかに「移動する」検出器システムに由来すると考えられ、水平(X)位置のエラーは垂直(Y)位置には独立であり、その逆も正しい。画像が明るすぎる場所では、電子のイベントは互いに離間しようとし、画像が充分明るくない場所では、電子のイベントは互いに近接しようとする。各々の電子のイベントの位置は、XとYに対して独立に補正されることができる。較正は、各々のXおよびYに対する位置調整を含む、2つのテーブルからなる。
【0045】
このプロセスは空間の分解能を僅かにロスさせるが、調整はわずかなので分解能のロスは機器の分解能と比較すると多くはない。画像の強度には影響がないので、電子のイベントの総数は変わらない。較正テーブルは、荷電粒子で一様に照明された検出器により得られる、基準画像を用いて生成される。
【0046】
ある画像のX位置較正テーブルを生成するための、プロセスが以下に記述される。Yに対するプロセスは、同様である。一例として、画像は縦×横が500ポイント×500ポイントであると仮定される。基準画像は、0から499の範囲のXおよびY座標のリストからなる。電子のイベントの総数は、実際的な限り充分多くあるべきで、一般的には数百万である。
1.各々のX位置(Y位置には関わらない)における電子のイベントの総数が計算され、500の強度の列を与える。各々の要素は、画像の垂直線の合計強度を表す。
2.強度のリストは、各々の強度を全強度の平均で割ることにより規格化され、1.0が差し引かれる。これはゼロに近い、正または負の値のリストを与え、各々の位置における強度の誤差を表す。
3.位置調整の較正テーブルは、以下のように誘導される。
・第1の点(座標値0)に対する位置調整は、第1の点に対する強度誤差の半分に設定される。
・第2の点から始まり歩進する他の全ての点に対する位置調整は、最後の点を除き前の点の位置調整に現在の点と前の点の強度誤差の平均を足すことで設定される。
・最後の点(座標値499)に対する位置調整は、前の点(座標値498)の位置調整に最後の点の強度誤差の半分を足すことで設定される。
【0047】
各々の電子のイベントに対する座標は、X座標に適切なX位置調整を、Y座標に適切なY位置調整を、それぞれ足すことにより調整される。この操作は、いくつかの座標が0.0以下であるかまたは499.0より大きい、整数ではなく実数である座標を構成する。
【0048】
座標値を整数に変換することが、しばしば必要である。較正の補正が一般的に1.0より小さいので、座標値を整数にするために単純に切り捨て/切り上げをすることは、受け入れ可能な結果を与えない。座標値を整数に変換するために、端数の部分の大きさに応じて、確率的には切り上げである、ランダムに切り上げまたは切り捨てる、アルゴリズムが用いられる。これは各々の座標値に0.0から0.9999999の間のランダムな数を足し、次に整数に切り捨てることにより行われる。
【0049】
図7は、いくつかの追加の電極を含む、遅延線アノードアセンブリの図を示す。これらは、MCPにより放射される電子雲に対する、平面矩形コレクタプレート(80)であり、ある1つの方向に沿った電子のイベントの位置を検出するための遅延線の1つの代わり(または同時)に用いられることができる。
【0050】
プレート(80)は、遅延線巻き線(この図は示されておらず、半円形の遅延線ガイド(82)のみが示されている)の背後に備えられ、MCPにより放出された電荷は、遅延線巻き線と分離されたアノードの相対電位を変化させることにより、優先的に集められる。各々の遅延線が対応するプレートのアレイを有するように、プレートの第2のアレイが付加されることができる。
【0051】
プレート(80)は、各々が別個の増幅器弁別器カウンタチャネルに接続されることができる。ある程度の高いカウントレートの用途のための検出器よりも、より高い全体カウントレートで記録できる、という利点をそれらは有するが、位置の分解能はより低くなる(分解能はそれぞれのプレートのサイズにより決定される)。遅延線検出器システム(ラインの両端でパルスを計時する)は、毎秒数百万イベントに限定される。スペクトロメータのいくつかの信号源は、例えば10倍の信号レベルを生成することができるので、この場合分離された不連続のアノードを用いるこの第3の動作モードは、適切である。
【0052】
上記の実施形態は本発明の例として意図されており、当業者には容易に明らかである、これらの実施形態の変形と修正が想到され、本発明の範囲を逸脱することなくなされうる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】従来技術の光電子スペクトロメータを示す概要図である。
【図2】本発明に従う、光電子スペクトロメータを示す概要図である。
【図3】本発明のある実施形態に従う、検出器の一部を示す概要図である。
【図4】本発明のある実施形態に従う、スペクトロメータの動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明のある実施形態に従う、スペクトロスコピーまたはスペクトラムモードの検出器の動作を示す概要図である。
【図6】本発明のある実施形態に従いかつその動作が画像モードの、検出器の一部を示す概要図である。
【図7】さらなる遅延線アノードアセンブリを示す概要図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
解析される試料の組成に関するエネルギースペクトラムを生成する第1のモード、および解析される試料の表面の荷電粒子画像を生成する第2のモード、で動作可能な荷電粒子スペクトロメータであって、スペクトロメータは双方の動作モードで生成される荷電粒子を検出するように用いられる検出器を含む、荷電粒子スペクトロメータ。
【請求項2】
荷電粒子画像は光電子画像であり、荷電粒子は光電子であり、かつスペクトロメータが光電子スペクトロメータである請求項1に記載の荷電粒子スペクトロメータ。
【請求項3】
検出器は、使用に際して双方の動作モードで一次電子が導かれ、かつ受信された各々の一次電子に対し複数の二次電子を放出する、プレート手段を含む請求項1または2に記載の荷電粒子スペクトロメータ。
【請求項4】
プレート手段はマイクロチャネルプレートである請求項3に記載の荷電粒子スペクトロメータ。
【請求項5】
検出器はまた、複数の二次電子を用いて第1の遅延線内に一対の電気パルスを生成し、そのパルスから信号処理手段がプレート手段上の第1の方向の一次電子の位置を計算することができる、第1の遅延線手段を含む請求項3または4に記載の荷電粒子スペクトロメータ。
【請求項6】
検出器はまた、複数の二次電子を用いて第2の遅延線内に一対の電気パルスを生成し、そのパルスから信号処理手段がプレート手段上の第2の方向の一次電子の位置を計算することができる、第2の遅延線手段を含む請求項5に記載の荷電粒子スペクトロメータ。
【請求項7】
第1および第2の方向が直交する請求項6に記載の荷電粒子スペクトロメータ。
【請求項8】
第2の信号処理手段が、不要な信号を削減または除去するために、1つまたは双方の遅延線から受信した信号を処理する請求項5から7のいずれか一項に記載の荷電粒子スペクトロメータ。
【請求項9】
その動作を制御し、2つのモードのいずれを動作させるかユーザが選択できるようにする、制御手段を含む請求項5から8のいずれか一項に記載の荷電粒子スペクトロメータ。
【請求項10】
制御手段が、スペクトロメータの前記第1のモードでの動作中に、遅延線手段の1つのみからの信号を信号処理手段が利用するように、信号処理手段を制御する請求項9に記載の荷電粒子スペクトロメータ。
【請求項11】
制御手段が、スペクトロメータの前記第2のモードでの動作中に、第1と第2の双方の遅延線手段からの信号を信号処理手段が利用するように、信号処理手段を制御する請求項9または10に記載の荷電粒子スペクトロメータ。
【請求項12】
制御手段が、電気パルスの計時測定の精度を向上させるために、さらなる処理手段を含む請求項9から11のいずれか一項に記載の荷電粒子スペクトロメータ。
【請求項13】
さらなる処理手段が、時間差がより正確に測定されるように、一対のパルスの各々の1つの間の時間を伸長することにより、前記精度を向上させる請求項12に記載の荷電粒子スペクトロメータ。
【請求項14】
解析される試料の組成に関するエネルギースペクトラムを生成する第1のモード、および解析される試料の表面の荷電粒子画像を生成する第2のモード、で動作可能な荷電粒子スペクトロメータ用の検出器であって、検出器は双方の動作モードで生成される荷電粒子を検出するために用いられる検出器。
【請求項15】
荷電粒子スペクトロメータは光電子スペクトロメータであり、荷電粒子画像は光電子画像であり、双方の動作モードで生成される荷電粒子が光電子である請求項14に記載の検出器。
【請求項16】
使用に際して双方の動作モードで一次電子が導かれ、かつ受信された各々の一次電子に対し複数の二次電子を放出する、プレート手段を含む請求項14または15に記載の検出器。
【請求項17】
プレート手段はマイクロチャネルプレートである請求項16に記載の検出器。
【請求項18】
複数の二次電子を用いて第1の遅延線内に一対の電気パルスを生成し、そのパルスから信号処理手段がプレート手段上の第1の方向の一次電子の位置を計算することができる、第1の遅延線手段を含む請求項16または17に記載の検出器。
【請求項19】
複数の二次電子を用いて第2の遅延線内に一対の電気パルスを生成し、そのパルスから信号処理手段がプレート手段上の第2の方向の一次電子の位置を計算することができる、第2の遅延線手段を含む請求項18に記載の検出器。
【請求項20】
第1および第2の方向が直交する請求項19に記載の検出器。
【請求項21】
信号処理手段が、不要な信号を削減または除去するために、1つまたは双方の遅延線から受信した信号を処理する請求項18から20のいずれか一項に記載の検出器。
【請求項22】
信号処理手段が、スペクトロメータの前記第1のモードでの動作中に、遅延線手段の1つのみからの信号を利用する請求項19から21のいずれか一項に記載の検出器。
【請求項23】
信号処理手段が、スペクトロメータの前記第2のモードでの動作中に、第1と第2の双方の遅延線手段からの信号を利用する請求項22に記載の検出器。
【請求項24】
さらなる処理手段が電気パルスの計時測定の精度を向上させる請求項18から23のいずれか一項に記載の検出器。
【請求項25】
さらなる処理手段が、一対のパルスの各々の1つの間の時間を、時間差がより正確に測定されるように伸長することにより、前記精度を向上させる請求項24に記載の検出器。
【請求項26】
前記第1と第2のどちらのモードが用いられるか選択し、検出器がそれに従って動作される工程を含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の荷電粒子スペクトロメータの動作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−505900(P2006−505900A)
【公表日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−549335(P2004−549335)
【出願日】平成15年11月4日(2003.11.4)
【国際出願番号】PCT/GB2003/004750
【国際公開番号】WO2004/042775
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【出願人】(501350833)クラトス・アナリテイカル・リミテツド (4)
【Fターム(参考)】