荷電粒子線レンズおよびそれを用いた露光装置
【課題】 静電型の荷電粒子線レンズは、開口形状の対称性に対する非点収差が敏感であり、製造工程で破損しやすい。
【解決手段】 静電型の荷電粒子線レンズであって、前記荷電粒子線レンズは光軸方向を法線とする第1の面と、該第1の面とは反対側の第2の面とを有する平板を含み、かつ、前記第1の面から前記第2の面に貫通する貫通孔を有する電極を有し、前記貫通孔の前記法線に垂直な面での開口面を開口断面とし、前記開口断面の回帰分析により得られた円の直径を代表直径とするとき、前記第1の面側である第1の領域における前記開口断面の代表直径と、
前記第2の面側である第2の領域における前記開口断面の代表直径と、が各々、前記第1の面と前記第2の面とで挟まれた前記電極の内部の領域である第3の領域における前記開口断面の代表直径よりも大きい。
【解決手段】 静電型の荷電粒子線レンズであって、前記荷電粒子線レンズは光軸方向を法線とする第1の面と、該第1の面とは反対側の第2の面とを有する平板を含み、かつ、前記第1の面から前記第2の面に貫通する貫通孔を有する電極を有し、前記貫通孔の前記法線に垂直な面での開口面を開口断面とし、前記開口断面の回帰分析により得られた円の直径を代表直径とするとき、前記第1の面側である第1の領域における前記開口断面の代表直径と、
前記第2の面側である第2の領域における前記開口断面の代表直径と、が各々、前記第1の面と前記第2の面とで挟まれた前記電極の内部の領域である第3の領域における前記開口断面の代表直径よりも大きい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビーム等の荷電粒子線を用いた装置に使用される電子光学系の技術分野に属し、特に露光装置に用いられる電子光学系に関するものである。また、本発明において、光とは広義の光を意味し、可視光だけでなく、電子線等の電磁波も含む。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの生産において、電子ビーム露光技術は、0.1μm以下の微細パターン露光を可能とするリソグラフィの有力候補である。これらの装置では、電子ビームの光学特性を制御するための電子光学素子が用いられる。特に、電子レンズには、電磁型と静電型があり、静電型は電磁型に比べコイルコアを設ける必要がなく構成が容易であり小型化に有利となる。また、電子ビーム露光技術のうち、マスクを用いずに複数本の電子ビームで同時にパターンを描画するマルチビームシステムの提案がなされている。マルチビームシステムでは電子レンズを1次元または2次元のアレイ状に配列した電子レンズアレイが用いられる。電子ビーム露光技術では、微細加工の限界が電子ビームの回折限界より主に電子光学素子の光学収差で決定されるので、収差の小さい電子光学素子を実現することが重要である。
【0003】
特許文献1には、複数の電極基板を有する静電レンズ装置であって、複数の電極基板は光軸に対して垂直な面内に配置された開口を有し、各電極の開口の配置を調整して組み立てる静電レンズ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−019194
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
静電型の荷電粒子線レンズは、電磁型のレンズと比較すると相対的に構造は単純だが、レンズ開口の製造誤差に対する光学収差の敏感度が高い。特に開口が円形の場合の真円度(円であるべき部分の幾何学的円からの狂いの大きさ)のような開口形状の対称性に対する非点収差が敏感である。非対称性を有する開口の形状の影響を受けて収束された電子ビームは非点収差やその他の高次項の収差を持つ。
【0006】
特に、電子ビームが複数本あり、個々のビームが異なる非点収差を持つ場合、通常の非点収差補正器を用いて補正することができないため重要な課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の荷電粒子線レンズは、静電型の荷電粒子線レンズであって、前記荷電粒子線レンズは光軸方向を法線とする第1の面と、該第1の面とは反対側の第2の面とを有する平板を含み、かつ、前記第1の面から前記第2の面に貫通する貫通孔を有する電極を有し、前記貫通孔の前記法線に垂直な面での開口面を開口断面とし、前記開口断面の回帰分析により得られた円の直径を代表直径とするとき、前記第1の面側である第1の領域における前記開口断面の代表直径と、前記第2の面側である第2の領域における前記開口断面の代表直径と、が各々前記第1の面と前記第2の面とで挟まれた前記電極の内部の領域である第3の領域における前記開口断面の代表直径よりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の荷電粒子線レンズによれば、第1・第2・第3の領域に開口を分割し、第3の領域より第1・第2の領域における開口の代表直径を大きくすることにより、第1・第2の領域の開口断面のレンズ収差への寄与率を下げることができる。第1・第2の領域の開口は電極の最表面を含んでおり、この部分の開口断面が製造工程中に意図しない破損やゴミの付着が生じてもレンズ収差の増加を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例1の荷電粒子線レンズの断面図である。
【図2】(a)本発明の実施例1の荷電粒子線レンズの開口の上面図である。(b)図2(a)A−A線における断面図である。
【図3】(a)従来技術の開口を示す断面図である。(b)本発明の実施例1の開口を示す断面図である。
【図4】本発明の第1・第2の領域の開口の収差への寄与率を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例2の荷電粒子線レンズの断面図である。
【図6】静電型の荷電粒子線レンズの集束効果を説明する概念図である。
【図7】荷電粒子線レンズの開口付近の電位分布を示す図である。
【図8】(a)〜(f)開口断面の真円度の定義を説明する概念図である。
【図9】本発明の実施例3の荷電粒子線レンズの断面図である。
【図10】本発明の実施例4の描画装置を示す概念図である。
【図11】(a)〜(c)開口断面の代表直径・代表半径の定義を説明する概念図である。
【図12】厚さ方向への代表直径の定義を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において第1の面、第2の面とは、本発明の荷電粒子線レンズを構成する電極の一方の面(表面)とその反対側の面(裏面)を意味する。また、第1の領域、第2の領域、及び第3の領域は、上記電極を厚さ方向で所定の厚さに3つに分割した場合の各々の領域を意味する。
【0011】
本発明の荷電粒子線レンズは、第1・第2・第3の領域に開口を分割し、第3の領域より第1・第2の領域における開口の代表直径を大きくすることにより、第1・第2の領域の開口断面のレンズ収差への寄与率を下げることができる。第1・第2の領域の開口は電極の最表面を含んでおり、この部分の開口断面が製造工程中に意図しない破損やゴミの付着が生じてもレンズ収差の増加を抑えることが可能となる。そのため、電極の開口を製造する工程の歩留まりが向上し、保護のための追加の工数も必要としないので、レンズを安価に製造可能となる。また、使用中にゴミなどが付着してもレンズ収差の増加を抑えることが可能となる。更に、第1・第2の領域を形成しても電極の全体厚さがほとんど変わらないため、電極を高剛性にすることができる。そのため、高電界を印加するレンズに適用しても静電引力による電極の変形を低減することができる。
【0012】
本発明の荷電粒子線レンズは、レンズ収差に大きく影響する第3の領域の開口断面を高い真円度で形成することが好ましい。このような構成とすることにより、収差の少ない荷電粒子線レンズとすることができる。また、第1・第2の領域の開口は、製造工程中に破損を許容し、加工公差の大きい加工方法で加工することも可能とする。この結果、歩留まりが向上し、安価にレンズを製造可能となる。
【0013】
本発明の荷電粒子線レンズは、第3の領域よりも第1・第2の領域の厚さを小さくすることで、第3の領域よりも第1・第2の領域の収差への寄与率を更に低くすることができる。そのため、第1・第2の領域の開口断面の真円度がより大きく悪化しても収差の増加を抑えることが可能となる。
【0014】
本発明の荷電粒子線レンズは、第1・第2の領域の開口の収差の合計が電極全体の収差の80%を超えない構造とすることが好ましい。このような構成とすることで、第1・第2の領域の開口の真円度は第3の1/2の値以上を許容できる構造となる。第1・第2の領域が上記の寄与率を超えなければ、実際の加工で第1・第2の領域の開口断面の製造を容易とすることが可能となる。
【0015】
本発明の荷電粒子線レンズは、第1・第2・第3の領域の開口を形成する工程を別々に行うことが好ましい。このように加工を行うことにより、半導体製造技術により微細・高精度な開口を形成しエッチング条件の制御や歩留まりを向上することができる。特に、フォトリソグラフとドライエッチングといった高精度の加工技術と平坦性の高いシリコンウエハを介したウエハ接合により微細な開口を有する電極を高精度に形成可能となる。そして、第1・第2・第3の領域の厚さも正確に形成することが可能となる。この際、必要に応じてウエハを複数接合して積層構造とすることもできる。例えば、ウエハの厚さが厚くなると一般に加工精度が低下するため、1枚のウエハの厚さは求められる加工精度に応じて決定(精度を高くする場合には薄くする)する。その結果電極全体の厚さが不足する場合に複数層のウエハを積層することが好ましい。さらに積層するものは、ウエハには限定されず、例えばスパッタ法、CVD法、気相又は液相のエピタキシャル成長法、めっき法等で必要な堆積膜を形成することにより電極とすることもできる。
【0016】
本発明の荷電粒子線レンズは、第1・第2の領域の第3の領域の界面付近の開口断面まで破損が生じても、レンズ収差の増加を抑えることが可能となる。また、第1・第2の領域の開口を形成する場合、第3の領域の開口とは独立に加工を行えばよいため加工が容易となる。
【0017】
本発明の荷電粒子線レンズは、必要に応じて電極全体を電気伝導性膜で覆うことにより電極電位を一定とし、意図しない帯電により荷電粒子線が揺らぐのを防ぐことができる。
【0018】
本発明の荷電粒子線レンズは、電極が複数の開口を有する荷電粒子線レンズアレイとすることができる。複数の開口が形成される領域が大きくなっても剛性を保つ電極全体の実質的な厚さを薄くしないで、第1・第2の領域の開口断面の破損やゴミの付着による真円度の悪化を許容することが可能となる。そして、複数の開口全てに渡ってこれらの許容をすることができるため、レンズアレイの歩留まりや収差の増加を抑えることが可能となる。レンズアレイの場合、個々のレンズの真円度は偶然誤差なので、個別に補正を行うことは難しい。しかし本発明により開口断面の真円度のばらつきを低減できるので、大規模なレンズアレイとしても個別の補正の必要性を無くすか若しくは大きく低減することができる。そして、接合構造による電極を用いる場合は、開口断面のばらつきを十分に低減することができる。接合のアライメント精度により第1・第2の領域の開口の位置ずれが生じるが、このずれはレンズアレイ全体の系統的な位置ずれであるため補正することが容易である。そのため、大規模なレンズアレイに好適な形態となる。
【0019】
本発明の露光装置は、収差の少ない本発明の荷電粒子線レンズを用いることで、高精度の微細パターンが形成可能な露光装置とすることができる。また安価なレンズを用いることができるため露光装置を安価に提供可能となる。さらに、取り付けや使用中に最表面に付着するゴミ・塵についても許容を大きくすることができるため保守を容易にし、保守期間を長くし信頼性を向上することができる。
【0020】
本発明の露光装置は、収差の少ない本発明の荷電粒子線レンズを用い、複数の荷電粒子線を用いることで、高精度の微細パターンを描画時間が短く形成可能な露光装置とすることができる。レンズアレイのアレイ数が増大し、開口形成面積が大きくなってもレンズアレイの歩留まりの低下を抑え安価に露光装置を製造可能となる。
【実施例】
【0021】
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明するが本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0022】
(実施例1)
図を用いて、本発明の第1の実施例を説明する。
【0023】
図1は本発明の荷電粒子線レンズの断面図である。図2(a)、(b)は図1の破線Mで示した電極3Bの開口断面について拡大した上面図、断面図をそれぞれ示している。(b)は(a)のA―A線における断面図である。
【0024】
図1に示すように、本発明の荷電粒子線レンズは電極3A、3B、3Cの3枚の電極を有している。3枚の電極は、光軸Jを法線とする平板であり、一方の面である第1の面とその反対側の面である第2の面を有しており、各電極は互いに電気的に絶縁されている。第1の面は典型的には電極の表面であり、第2の面は典型的には電極の裏面である。但しここでいう、「表」、「裏」とは相対的な関係を示す便宜的な表現である。電極3A、3B、3Cはそれぞれ電位を規定することができる。また光軸Jの矢印の方向に、図示しない光源から射出された荷電粒子線が通過する。
【0025】
また、図2(b)に電極3Bの構造として示したように、3枚の電極は、第1の領域5、第2の領域6、と第1・第2の領域に挟まれた第3の領域7の3つの領域を有している。光軸Jの方向の寸法を電極の厚さとすれば、第1の領域5は、図2(b)の通り光軸Jの光源側の電極の表面である第1の面8を含んで所定の厚さを有して形成されている。同様に第2の領域6は、光軸Jの光源とは反対側の電極の表面である第2の面9を含んで所定の厚さを有して形成されている。そして、第3の領域7は、第1、第2の領域に挟まれた所定の厚さを有する領域であり、電極の残りの領域として定義される。
【0026】
図示のとおり、第1、第2、第3の領域5〜7は、実質的には開口2A、2B、2Cの直径により規定されている。そして、図示の通り開口2A、2B、2Cは電極を厚さ方向へ貫通する貫通孔である。荷電粒子線がこの開口を通過することができる。また、図2(a)のように開口2Aは円形形状を有している。同様に、光軸Jを法線とする平面での開口を開口断面とすれば、開口2B、2Cの開口断面も開口2Aとほぼ同心円状の円形形状である。ただし、開口断面は2A、2Bは、開口2Cに比べて直径が大きく図2(b)に示すように電極3A、3B、3Cは、出入口の直径が大きい開口で形成される貫通孔のプロファイルを有することなる。ここで光軸とは電子線が通過する方向である。
【0027】
そして、図2(a)に示すように、開口2Aは、欠け15が生じている。これは、電極の製造工程中に電極最表面に意図しない接触等が生じて破損してしまった例である。また、欠け15とは反対にゴミ・塵等の付着物が付着することもある。このようにして、開口2Aは製造工程で開口断面の真円からのずれが大きくなっている。
【0028】
また、図2(b)に示すように、開口2A・2B・2Cはそれぞれ代表直径D1、D1、D2を有している。また、前述のとおりD1>D2の関係を有している。そして、開口2A・2B・2Cの厚さはそれぞれt、t、t’となっている。また、開口2Aと2Cの界面13での開口2Aと2Cの開口断面の代表直径は異なっている。同様に、開口2Bと2Cの界面14でのそれぞれの開口断面の代表直径も異なっている。
【0029】
そして、例えば、電極3Bには、負極性の静電圧を印加し、電極3A、3Bはアース電位とすることで、いわゆるアインツェル型の静電レンズを構成することができる。本発明において、アインツェル型の静電レンズとは、複数(典型的には3つ)の電極を間に所定の間隔をおいて配置し、最外部に位置する電極をアース電位とし、間の電極を正又は負の極性の電位を印加する構成を有する静電レンズを意味する。3つの電極から構成される場合であれば荷電粒子線の入射側から1つ目と3つ目の電極がアース電位で、2つ目の電極が正又は負の極性の電位を印加する構成となる。荷電粒子線は、電極3A、3B、3Cの開口を順に通過することで、レンズの効果を受ける。同時に、電極3A、3Bまたは、3B、3C間には静電引力が発生する。
【0030】
まず、図8を用いて本発明の荷電粒子線レンズの説明に必要な開口断面の対称性の定義を行う。静電型の荷電粒子線レンズのレンズ効果を生じる静電場は開口断面によって形成される。特に光軸Jを軸とした回転対称性のずれの大きさにより非点収差やより高次の収差が発生するため、真円からのずれが重要な指標となる。
【0031】
図8(a)は理想的な円形の開口断面4を示している。ここで開口断面とは光軸Jを法線とする平面と開口が交わる閉曲線である。そして開口断面は厚さ方向のいずれの位置でも定義することができる。(b)には楕円の開口断面4を示している。本発明の荷電粒子線レンズの非点収差やより高次の収差に影響を与える形状誤差として次のような指標を定義する。図8(b)の楕円の開口断面4を2つの同心円で挟む。内側の円を内接円11、外側の円を外接円12とする。このような同心円の組み合わせは同心円の中心を選べば様々に存在するが、その中で内接円・外接円の半径の差が最も小さい2つを選ぶ。このように選択した内接円・外接円の半径の差の1/2を真円度とする。真円度は、図8(a)のような完全に円形の開口断面4の場合、外接円と内接円が一致するため0となる。
【0032】
そして図8(c)のように、楕円以外の任意の形状についても同様の方法で真円度を定義することができる。
【0033】
また円形形状が理想形状ではなく、図8(d)に示すように多角形(以下の説明では一例として八角形)を設計上の理想形状とした場合でも以下の方法により、真円度・代表半径・代表直径を定義(代表半径・代表直径の定義は後述)できる。即ち、上記の真円度・代表半径・代表直径を定義して理想の八角形からの対称性のずれと開口の大きさを比較することができる。図8(d)は理想的な正八角形の外接円11・内接円12を示している。このように八角形の場合は、理想状態でも真円度は0以上となる。しかし、図8(e)に示すように八角形に形状誤差が生じ正八角形からずれた場合、外接円11・内接円12は図示のようになる。したがって、図8(d)と(e)の真円度を比較すれば、正八角形より真円度は大きくなる。
【0034】
これらの真円度は、断面形状を実際に測定して定義することができる。周長に対して十分な分割数で測定できる場合は、画像処理で外接円11・外接円12を求めて算出することができる。
【0035】
ここで、上記した代表直径・代表半径は以下のように定義する。図11には図8(c)の開口断面4の代表直径を決定する手順を示している。図11(a)のような開口断面4は図11(b)に示すように輪郭線を十分に細かい間隔の離散的な測定点13の集合として測定する。必要な間隔は開口断面4の凹凸の代表的な周期の半分より細かいことが望ましい。このようにして測定した測定点13を用いて図11(c)に示すように、代表円14を1つ決定することができる。測定点13を用いて、回帰分析を行い円の方程式に幾何学的にフィッティングを行う。回帰分析には一般的には最尤推定を用いることができ、測定点13を十分に細かい間隔で測定すれば最小自乗法を用いることができる。このようにして決定した代表円14の直径・半径をそれぞれ代表直径・代表半径とすることができる。荷電粒子線は、開口の中心を通過するため光軸上とその付近の電位分布を規定する代表形状として代表円の代表直径・代表半径は重要となる。
【0036】
また、図8(f)に示すように開口断面4のほとんどの部分が円形であり、ごく一部が突出したような形状の開口断面の場合でも、上記の方法で、光軸付近の静電場に寄与している代表形状として代表円を決定し、代表直径・代表半径を求めることができる。そして、このような円が得られれば、フィッティングで求めた円の中心と同心円を描き、外接円11・内接円12を定義することができる。
【0037】
そして、第1・第2・第3の領域は厚みを有して形成されている。そのため厚み方向へのそれぞれの領域における真円度・代表直径・代表半径は次のようにして定義することができる。
【0038】
次に、このように厚さ方向への第1・第2・第3の領域における開口断面の真円度について説明する。
【0039】
図12は、直径や真円度が厚み方向に分布を有している第3の領域7を示している。図の矢印T1〜T5に示すように深さ方向の任意の位置で開口断面を定義することができる。このような個々の開口断面について前述した代表直径・真円度を定義することができる。ここで第3の領域7の代表直径・真円度とはこのよう開口の深さ方向へ任意の位置で定義される。領域の最表面以外の代表直径・真円度の測定については、開口を一度メッキ等で埋め戻し研磨することで観察して確認することができる。また、このような直接の測定を行わずに最表面の測定で代表することもできる。第1・第2・第3の領域の最表面以外の箇所は、収差への寄与が更に少なくなる部分であり、最表面に比べ代表直径・真円度ともオーダが同程度の変化ならば収差への影響が少ない。したがって、開口の厚み方向の断面観察を数か所行って代表直径・真円度とも大きく値が異ならない(例えばオーダが異なる(位が異なる)ような分布がない)ことを確認すれば、最表面の代表直径・真円度(つまり図12の場合T1、T5の位置)を測定しその平均値で代表することができる。
【0040】
上記の定義により、任意の開口断面についての真円度・代表半径・代表直径を定義する。以下明細書では、円形形状の開口断面を理想とする場合の説明とするが、開口断面の理想形は、八角形やその他任意の曲線でもよい。その場合でも、真円度・代表半径・代表直径を定義して本発明を実施することが可能となる。
【0041】
次に開口断面の真円度が収差に与える効果について詳細に説明する。そのために、まず、図6を用いて静電型の荷電粒子線レンズが荷電粒子線を収束させるメカニズムについて説明する。図ではレンズの半径方向をR軸、光軸方向をJ軸とし図のように原点Oとする。そして、アインツェル型レンズをJ軸と平行な平面で切断した時に横から見た図である。アインツェル型レンズを構成する3枚の電極のうち、電極3A、3Cはアース電位とし、電極3Bには負の電位が印加されている。また荷電粒子線は負の電荷を有している。3枚の電極3A、3B、3Cは光軸Jを法線とする3枚の平板である。
【0042】
その状態における電気力線を実線の矢印Hで示した。また、X方向で3枚の電極3A、3B、3Cの中間面と3枚の電極間隔の中間面を破線で示した。さらに、図のように、X軸の破線で区分される区間をそれぞれ区間I、区間II、区間III、区間IVとする。そして、特にアインツェル型レンズの主なレンズ効果を説明するために、区間Iより原点O側の区間、区間IVよりXがより大きい区間には電位はないものと近似する。
【0043】
R>0の領域での区間I、区間II、区間III、区間IVにおけるR方向の電界の向きをそれぞれf1、f2、f3、f4の矢印で示す。つまり、区間I、区間II、区間III、区間IVそれぞれで負、正、正、負となっている。そのため、ある像高r0を通過する荷電粒子線の軌跡は矢印Eで示すようになる。つまり、区間Iでは荷電粒子線は発散され、領域IIでは収束され、領域IIIでは収束され、領域IVでは発散される。これは、X軸方向に光学的な凹レンズ・凸レンズ・凸レンズ・凹レンズが並んでいるのと等価である。
【0044】
そして、荷電粒子線が収束される理由は以下の2つである。第1の理由は、荷電粒子線が受ける力は像高が高いほど強くなるため、区間IIと区間IIIにおける収束作用が区間Iと区間IVにおける発散作用を上回るからである。第2の理由は、区間Iに比べ区間IIが、区間IVに比べ区間IIIが荷電粒子線の走行時間が長いからである。運動量変化は力積に等しいため、走行時間が長い領域が電子ビームに与える効果が大きくなる。
【0045】
以上の理由から収束効果をうけることとなる。なお、電極3Bに正の電位を印加した場合も同様に荷電粒子線は収束される。また荷電粒子線の有する電荷を正電荷としても収束される。電極3Bの電位・荷電粒子線の電荷の正負のいずれの組み合わせにおいても収束効果が現れる。そして、区間I〜IVの静電場を形成している開口2の形状誤差により、収束場の対称性が崩れる場合、静電レンズは非点収差のような高次の収差を有することとなる。したがって、静電型の荷電粒子線レンズは電極に形成された開口の形状誤差が収差に敏感に影響を与えるため、開口形状を正確に形成することが必要となる。
【0046】
次に、これら電極の表面付近の開口断面に大きく影響されるメカニズムについて説明する。
【0047】
図7を用いて、第1の領域5、第2の領域7の開口2A、2Cのような電極表面付近から内側に向かうにつれ開口形状の収差への寄与が低減していくことを説明する。図7に図6の破線Zで囲まれた領域を拡大した。曲線K、L、Mは電極3Bの開口2の表面付近の空間の等電位線をしめしている。また、曲線Hは、開口2の最表面に対応する電気力線を示している。図のように、電気力線Hの開口2が形成されていない側(以下、電気力線Hの外側とする)の領域では、曲線K、L、Mは電極3Bの表面にほぼ平行となっている。したがって、この領域での電気力線は電極の法線方向に平行な方向となる。そのため、この部分の電極形状は、レンズ効果の場となるR方向の電界(図6f1、f2、f3、f4を参照)に対してほとんど影響していない。
【0048】
一方、電気力線Hより開口2が形成される側(以下、電気力線Hの内側とする)の領域において、等電位線K、L、Mは、開口2の内部に回り込んでいることが分かる。したがって、電気力線Hとそれより内側の電気力線によって、図6で説明したレンズ効果の場となるR方向の電界が主に形成されることとなる。荷電粒子線は、立体的には光軸Jを法線とする平面において、光軸Jを中心として周方向のいずれの方向についても図6で示したレンズ効果の場となるR方向の電界の影響を受けている。電気力線Hとそれより内側の電気力線のこのような光軸Jを中心として周方向の対称性(つまり円形形状における真円度)に影響するのは、光軸Jを法線とする平面での開口2の断面形状の対称性となる。そして、等電位線K、L、Mの間隔は、開口2の光軸Jに向かうにつれて大きくなっている。電気力線の密度は、電気力線Hから内側に向かうにつれ疎となっていく。したがって、開口2の断面形状の荷電粒子線の収束への影響は、電極の最表面が最も大きく、厚さ方向へ深くなるにつれて少なくなっていく。
【0049】
ここでは、図6の区間IIにおける電界の向きf2について詳しく説明した。しかし、上記と同様の理由で区間I、区間III、区間IVの電界の向きf1、f3、f4についても電極の最表面の位置の開口2の断面形状が荷電粒子線への収束へ最も影響する。したがって、厚み方向へ最表面から遠ざかるにつれて影響が小さくなっていく。
【0050】
そして、開口の深さが深くなっても表面付近の開口断面の寄与率は変化しない。つまりどのような厚さの電極に形成される開口においても、表面付近の開口断面の形状にレンズの収差が大きく影響されることとなる。
【0051】
ここで、電極の表面付近の開口形状は、電極の製造工程で最も破損やゴミ・塵などの付着の確率が高い箇所となっている。特に、図7の電気力線Hが入射する最表面の開口断面はこのような破損やゴミ付着の可能性が非常に高い。
【0052】
本発明の荷電粒子線レンズは、開口2Cより代表直径が大きい第1の領域5、第2の領域6の開口2A、2Bを開口2Cの両端に設けることで、開口2A、2Bの開口断面が製造工程などで破損やゴミ付着が生じても、レンズ収差への影響を減ずることができる。そのためレンズの製造歩留まりを向上し安価に荷電粒子線レンズを製造可能となる。
【0053】
次に、本実施例の代表直径の関係によりレンズ全体の非点収差へ与える影響を低減できることを説明する。図2に示すように、欠け15により開口2Aの断面形状の真円度が悪くなっている。しかし、開口2Cは開口2Aが形成されているため電極の最表面に接しておらず、欠け15によるこの部分の開口断面の真円度の劣化は生じていない。そして、代表直径の関係をD1>D2の関係とすることにより、開口2Aのレンズ収差へ与える寄与率を低減することができる。そのため、開口2Aの真円度の劣化の収差への影響を低減することが可能となる。
【0054】
図4は、開口2A・2Bの収差の合計がレンズの非点収差へ占める割合(寄与率)を示している。横軸は、直径D2と開口2A、2Bの厚さtとの比である。中実の丸印が直径D1と直径D2が1.4の比となる本実施例、中空の丸印が直径D1と直径D2が等しい場合を示している。
【0055】
直径D1、D2が等しい場合、開口2A、2Cの厚さtが直径D1の1/8の厚さで、開口2A・2Cの収差の合計が全体収差の80%を占めることができる。開口2A・2Cは互いに若干の差があるため、開口2A、2B、2Cの寄与率の内訳はそれぞれ44%、36%、20%となっている。
【0056】
一方、本発明の実施例である中実の丸印は、直径D1がD2の1.4倍の場合である。直径D1、D2が等しい場合に比べ、開口2A、2Bの寄与率が小さくなる。厚さtが直径D1の1/8で約35%、1/5で40%の寄与率となる。このように特に直径D1>D2とすれば、同じ厚さtの開口2A・2Bに対して収差への寄与率を低減することができる。
【0057】
そして、この寄与率の関係は、開口2Cの厚さt’を変えても変化しない。したがって、開口2Cの厚さを大きくすることで寄与率の関係を変えないで電極全体の厚さを厚くし電極の剛性を上げることができる。このとき、開口2A、2B部分の収差への寄与率が高いため、開口2Bの製造誤差が大きくなってもレンズ全体の収差への影響を低減することができる。
【0058】
次に本実施例の具体的な材料・寸法例を説明する。電極3A、3B、3Cの第1の領域5、第2の領域6、第3の領域7とも単結晶シリコンで形成される。厚さはそれぞれ6μm、90μm、6μmである。開口2A、2Bの直径D1は30μm、開口2Bの直径D2は22μmである。電極3A、3B、3Cの第1の面8、第2の面9や開口2A、2B、2Cの内壁面はすべて金属膜で覆ってもよい。この場合、酸化しにくい白金族の金属や酸化物に導電性がみられるモリブデンのような金属を用いることができる。電極3A、3B、3Cはそれぞれ400μm離間して光軸Jを法線とする平面に平行に設置される。それぞれの電極は電気的に絶縁されている。電極3A、3Cにはアース電位を印加し、電極3Bには−3.7kVの電位を印加してアインツェル型のレンズとして機能する。荷電粒子線は電子であり、加速電圧を5keVする。また開口2A、開口2Bの真円度は9nm、開口2Cの真円度は90nmで形成されている。しかし、開口2Aは微小な欠け15が生じており、欠け15の平均値は50nm程度である。
【0059】
次に、本実施例の製造方法を説明する。第1の領域5、第2の領域6、第3の領域7は、エッチングを3回行うことによって形成する。まず、電極と同じ厚さのシリコン基板の両面にクロムや酸化膜等のハードマスクを開口2A、2Bと同じ直径で形成する。次に、開口2Cと同じ直径のエッチングマスクをフォトレジストでシリコン基板の開口2Aを形成する側に形成する。次に、図3(a)に示すように、矢印N1の方向にフォトレジストのマスクを用いて開口2Cとなる貫通孔を形成する。次にフォトレレジストを除去する。続いて、図3(b)に示すように開口2A、開口2Bを形成するために、ハードマスクを用いて矢印N2・N3の方向にエッチングによりザグリ加工を行う。このようにして、第1の領域5、第2の領域6、第3の領域7を形成することができる。
【0060】
特に図3(a)に示すように、シリコン基板に貫通孔加工を行う場合、破線Sで示すノッチングが生じることが知られている。これは、貫通する先の界面の影響でエッチングを行うイオンやラジカルの向きが乱れることにより開口直径が広がる現象である。このようなノッチングが生じると、この部分の開口断面の真円度も劣化してしまう。図3(b)のように両面から直径の大きいザグリ加工を施すことにより、この部分を取り除くことが可能となる。そのため、収差への寄与率の大きい開口2Cを高精度に加工可能となる。
【0061】
(実施例2)
図5を用いて本発明の実施例2を説明する。実施例1と同じ機能・効果を有する個所には、同じ記号を付し説明を省略する。本実施例では、電極3A、3B、3Cが接合を用いた構造となっている点が異なっている。
【0062】
電極3A、3B、3Cは、第1の領域5と第3の領域7、第2の領域6と第3の領域7の界面が酸化膜を介して接合されている。第1・第2の領域の厚さは6μm、第3の領域7の厚さは90μmである。
【0063】
次に、本実施例の製造方法を説明する。第1の領域5、第2の領域6、第3の領域7を第1の界面13、第2の14で接合して形成する。第1の領域5、第3の領域7となる厚さ6μmのデバイス層と埋め込み酸化膜層とハンドル層を有するSOI(シリコンオンインシュレータ)基板を用意する。まず、開口2A、2Bをこのデバイス層に高精度のフォトリソグラフとシリコンのドライエッチングにより形成する。その後全体を熱酸化する。次に第2の領域6と同じ厚さ90μmのシリコン基板にフォトリソグラフとシリコンの深堀ドライエッチングにより開口2Cを形成する。そして、開口2A、開口2Bが形成されたSOI基板のデバイス層を開口2Cが形成されたシリコン基板の表裏面に熱酸化膜を介して直接接合する。2枚のSOIウエハのハンドル層と埋め込み酸化膜層、開口2A・2Bの接合界面以外の熱酸化膜を順次除去することで、第1の領域5、第2の領域6、第3の領域7を有する電極3A、3B、3Cを形成することができる。
【0064】
上記のように接合した構造により、第1・第2・第3の領域の開口を形成する工程を別々に行うことができる。そのため、半導体製造技術により微細・高精度な開口を形成しエッチング条件の制御や歩留まりを向上することができる。特に、フォトリソグラフとドライエッチングといった高精度の加工技術と平坦性の高いシリコンウエハを介したウエハ接合により微細な開口を有する電極を高精度に形成可能となる。そして、第1・第2・第3の領域の厚さも正確に形成することが可能となる。
【0065】
(実施例3)
図9を用いて本発明の実施例3を説明する。図9は、荷電粒子線レンズの断面図である。尚、実施例2と同じ機能を有する個所には、同じ記号を付し、同じ効果についても説明を省略する。本実施例と実施例2では電極3A、3B、3Cが有する開口2A、2B、2Cが複数形成されている点が異なっている。本実施例では、図示のとおり1つの電極に5つの開口が形成されるレンズアレイとなっている。
【0066】
開口2A・2Bの直径は開口2Cの直径より大きく設定されている。しかし、隣接する開口のピッチよりは小さくなっているため、第1・第2の領域で隣接する開口がつながることはない。そのため、電極全体の剛性を低下させることなくレンズアレイを形成することができる。
【0067】
また、レンズアレイとなることで開口形成エリアが大きくなり最表面の欠け・ゴミの付着などの確率が大きくなっても、本実施例によりこれらの欠陥の収差に与える影響が小さくなるためレンズアレイの全体の収差のばらつきを低減することが可能となる。したがって、大規模なレンズアレイを安価に実現することが可能となる。
【0068】
(実施例4)
図10は本発明の荷電粒子線レンズを用いたマルチ荷電粒子ビーム露光装置の構成を示す図である。本実施形態は個別に投影系をもついわゆるマルチカラム式である。
【0069】
電子源108からアノード電極110によって引き出された放射電子ビームは、クロスオーバー調整光学系111によって照射光学系クロスオーバー112を形成する。
【0070】
ここで電子源108としてはLaB6やBaO/W(ディスペンサーカソード)などのいわゆる熱電子型の電子源が用いられる。
【0071】
クロスオーバー調整光学系111は2段の静電レンズで構成されており、1段目・2段目共に静電レンズは3枚の電極からなり、中間電極に負の電圧を印加し上下電極は接地する、いわゆるアインツェル型の静電レンズである。
【0072】
照射光学系クロスオーバー112から広域に放射された電子ビームは、コリメータレンズ115によって平行ビームとなり、アパーチャアレイ117へと照射される。アパーチャアレイ117によって分割されたマルチ電子ビーム118は、集束レンズアレイ119によって個別に集束され、ブランカーアレイ122上に結像される。
【0073】
ここで集束レンズアレイ119は3枚の多孔電極からなる静電レンズで、3枚の電極のうち中間の電極のみ負の電圧を印加し上下電極は接地する、アインツェル型の静電レンズアレイである。
【0074】
またアパーチャアレイ117はNA(集束半角)を規定する役割も持たせるため、集束レンズアレイ119の瞳面位置(集束レンズアレイの前側焦点面位置)に置かれている。
【0075】
ブランカーアレイ122は個別の偏向電極を持ったデバイスで、描画パターン発生回路102、ビットマップ変換回路103、ブランキング指令回路107によって生成されるブランキング信号に基づき、描画パターンに応じて個別にビームのON/OFFを行う。
【0076】
ビームがONの状態のときには、ブランカーアレイ122の偏向電極には電圧を印加せず、ビームがOFFの状態のときには、ブランカーアレイ122の偏向電極に電圧を印加してマルチ電子ビームを偏向する。ブランカーアレイ122によって偏向されたマルチ電子ビーム125は後段にあるストップアパーチャアレイ123によって遮断され、ビームがOFFの状態となる。
【0077】
本実施例においてブランカーアレイは2段で構成されており、ブランカーアレイ122及びストップアパーチャアレイ123と同じ構造の、第2ブランカーアレイ127および第2ストップアパーチャアレイ128が後段に配置されている。
【0078】
ブランカーアレイ122を通ったマルチ電子ビームは第2集束レンズアレイ126によって第2ブランカーアレイ127上に結像される。さらにマルチ電子ビームは第3・第4集束レンズによって集束されてウエハ133上に結像される。ここで、第2集束レンズアレイ126・第3集束レンズアレイ130・第4集束レンズアレイ132は集束レンズアレイ119同様に、アインツェル型の静電レンズアレイである。
【0079】
特に第4集束レンズアレイ132は対物レンズとなっており、その縮小率は100倍程度に設定される。これにより、ブランカーアレイ122の中間結像面上の電子ビーム121(スポット径がFWHMで2um)が、ウエハ133面上で100分の1に縮小され、FWHMで20nm程度のマルチ電子ビームがウエハ上に結像される。そして、この第4集束レンズアレイ132が本発明の実施例2に示す荷電粒子線レンズアレイとなっている。
【0080】
ウエハ上のマルチ電子ビームのスキャンは偏向器131で行うことができる。偏向器131は対向電極によって形成されており、x、y方向について2段の偏向を行うために4段の対向電極で構成される(図中では簡単のため2段偏向器を1ユニットとして表記している)。偏向器131は偏向信号発生回路104の信号に従って駆動される。
【0081】
パターン描画中はウエハ133はX方向にステージ134によって連続的に移動する。そして、レーザー測長機による実時間での測長結果を基準としてウエハ面上の電子ビーム135が偏向器131によってY方向に偏向される。そして、ブランカーアレイ122及び第2ブランカーアレイ127によって描画パターンに応じてビームのon/offが個別になされる。これにより、ウエハ133面上に所望のパターンを高速に描画することができる。
【0082】
本発明の荷電粒子線レンズアレイを用いることによって収差の少ない結像が実現できる。そのため微細なパターンを形成するマルチ荷電粒子ビーム露光装置を実現することができる。また、マルチビームが通過する開口形成エリアを大きくしても電極の厚さを厚くできるためマルチビームの本数を多く構成することができる。そのためパターンを高速に描画する荷電粒子ビーム露光装置を実現することができる。
【0083】
また安価なレンズを用いることができるため露光装置を安価に提供可能となる。さらに、取り付けや使用中に最表面に付着するゴミ・塵についても許容を大きくすることができるため保守を容易にし、保守期間を長くし信頼性を向上することができる。
【0084】
更にレンズアレイのアレイ数が増大し、開口形成面積が大きくなってもレンズアレイの歩留まりの低下を抑え安価に露光装置を製造可能となる。
【0085】
また、本発明の荷電粒子線レンズアレイは、集束レンズアレイ119・第2集束レンズアレイ126・第3集束レンズアレイ130といったいずれの集束レンズアレイとしても用いることができる。
【0086】
なお、本発明の荷電粒子線レンズは、図10の複数のビームが1本となった場合の荷電粒子線描画装置にも適用することができる。その場合でも、収差の少ないレンズを用いることによって微細なパターンを形成する荷電粒子ビーム露光装置を実現することができる。
【符号の説明】
【0087】
1A、1B スペーサ
2、2A、2B 開口
3A、3B、3C 電極
4 開口断面
5 第1の領域
6 第2の領域
7 第3の領域
8 第1の面
9 第2の面
10 給電パッド
11 内接円
12 外接円
13 第1の界面
14 第2の界面
15 欠け
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビーム等の荷電粒子線を用いた装置に使用される電子光学系の技術分野に属し、特に露光装置に用いられる電子光学系に関するものである。また、本発明において、光とは広義の光を意味し、可視光だけでなく、電子線等の電磁波も含む。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの生産において、電子ビーム露光技術は、0.1μm以下の微細パターン露光を可能とするリソグラフィの有力候補である。これらの装置では、電子ビームの光学特性を制御するための電子光学素子が用いられる。特に、電子レンズには、電磁型と静電型があり、静電型は電磁型に比べコイルコアを設ける必要がなく構成が容易であり小型化に有利となる。また、電子ビーム露光技術のうち、マスクを用いずに複数本の電子ビームで同時にパターンを描画するマルチビームシステムの提案がなされている。マルチビームシステムでは電子レンズを1次元または2次元のアレイ状に配列した電子レンズアレイが用いられる。電子ビーム露光技術では、微細加工の限界が電子ビームの回折限界より主に電子光学素子の光学収差で決定されるので、収差の小さい電子光学素子を実現することが重要である。
【0003】
特許文献1には、複数の電極基板を有する静電レンズ装置であって、複数の電極基板は光軸に対して垂直な面内に配置された開口を有し、各電極の開口の配置を調整して組み立てる静電レンズ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−019194
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
静電型の荷電粒子線レンズは、電磁型のレンズと比較すると相対的に構造は単純だが、レンズ開口の製造誤差に対する光学収差の敏感度が高い。特に開口が円形の場合の真円度(円であるべき部分の幾何学的円からの狂いの大きさ)のような開口形状の対称性に対する非点収差が敏感である。非対称性を有する開口の形状の影響を受けて収束された電子ビームは非点収差やその他の高次項の収差を持つ。
【0006】
特に、電子ビームが複数本あり、個々のビームが異なる非点収差を持つ場合、通常の非点収差補正器を用いて補正することができないため重要な課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の荷電粒子線レンズは、静電型の荷電粒子線レンズであって、前記荷電粒子線レンズは光軸方向を法線とする第1の面と、該第1の面とは反対側の第2の面とを有する平板を含み、かつ、前記第1の面から前記第2の面に貫通する貫通孔を有する電極を有し、前記貫通孔の前記法線に垂直な面での開口面を開口断面とし、前記開口断面の回帰分析により得られた円の直径を代表直径とするとき、前記第1の面側である第1の領域における前記開口断面の代表直径と、前記第2の面側である第2の領域における前記開口断面の代表直径と、が各々前記第1の面と前記第2の面とで挟まれた前記電極の内部の領域である第3の領域における前記開口断面の代表直径よりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の荷電粒子線レンズによれば、第1・第2・第3の領域に開口を分割し、第3の領域より第1・第2の領域における開口の代表直径を大きくすることにより、第1・第2の領域の開口断面のレンズ収差への寄与率を下げることができる。第1・第2の領域の開口は電極の最表面を含んでおり、この部分の開口断面が製造工程中に意図しない破損やゴミの付着が生じてもレンズ収差の増加を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例1の荷電粒子線レンズの断面図である。
【図2】(a)本発明の実施例1の荷電粒子線レンズの開口の上面図である。(b)図2(a)A−A線における断面図である。
【図3】(a)従来技術の開口を示す断面図である。(b)本発明の実施例1の開口を示す断面図である。
【図4】本発明の第1・第2の領域の開口の収差への寄与率を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例2の荷電粒子線レンズの断面図である。
【図6】静電型の荷電粒子線レンズの集束効果を説明する概念図である。
【図7】荷電粒子線レンズの開口付近の電位分布を示す図である。
【図8】(a)〜(f)開口断面の真円度の定義を説明する概念図である。
【図9】本発明の実施例3の荷電粒子線レンズの断面図である。
【図10】本発明の実施例4の描画装置を示す概念図である。
【図11】(a)〜(c)開口断面の代表直径・代表半径の定義を説明する概念図である。
【図12】厚さ方向への代表直径の定義を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において第1の面、第2の面とは、本発明の荷電粒子線レンズを構成する電極の一方の面(表面)とその反対側の面(裏面)を意味する。また、第1の領域、第2の領域、及び第3の領域は、上記電極を厚さ方向で所定の厚さに3つに分割した場合の各々の領域を意味する。
【0011】
本発明の荷電粒子線レンズは、第1・第2・第3の領域に開口を分割し、第3の領域より第1・第2の領域における開口の代表直径を大きくすることにより、第1・第2の領域の開口断面のレンズ収差への寄与率を下げることができる。第1・第2の領域の開口は電極の最表面を含んでおり、この部分の開口断面が製造工程中に意図しない破損やゴミの付着が生じてもレンズ収差の増加を抑えることが可能となる。そのため、電極の開口を製造する工程の歩留まりが向上し、保護のための追加の工数も必要としないので、レンズを安価に製造可能となる。また、使用中にゴミなどが付着してもレンズ収差の増加を抑えることが可能となる。更に、第1・第2の領域を形成しても電極の全体厚さがほとんど変わらないため、電極を高剛性にすることができる。そのため、高電界を印加するレンズに適用しても静電引力による電極の変形を低減することができる。
【0012】
本発明の荷電粒子線レンズは、レンズ収差に大きく影響する第3の領域の開口断面を高い真円度で形成することが好ましい。このような構成とすることにより、収差の少ない荷電粒子線レンズとすることができる。また、第1・第2の領域の開口は、製造工程中に破損を許容し、加工公差の大きい加工方法で加工することも可能とする。この結果、歩留まりが向上し、安価にレンズを製造可能となる。
【0013】
本発明の荷電粒子線レンズは、第3の領域よりも第1・第2の領域の厚さを小さくすることで、第3の領域よりも第1・第2の領域の収差への寄与率を更に低くすることができる。そのため、第1・第2の領域の開口断面の真円度がより大きく悪化しても収差の増加を抑えることが可能となる。
【0014】
本発明の荷電粒子線レンズは、第1・第2の領域の開口の収差の合計が電極全体の収差の80%を超えない構造とすることが好ましい。このような構成とすることで、第1・第2の領域の開口の真円度は第3の1/2の値以上を許容できる構造となる。第1・第2の領域が上記の寄与率を超えなければ、実際の加工で第1・第2の領域の開口断面の製造を容易とすることが可能となる。
【0015】
本発明の荷電粒子線レンズは、第1・第2・第3の領域の開口を形成する工程を別々に行うことが好ましい。このように加工を行うことにより、半導体製造技術により微細・高精度な開口を形成しエッチング条件の制御や歩留まりを向上することができる。特に、フォトリソグラフとドライエッチングといった高精度の加工技術と平坦性の高いシリコンウエハを介したウエハ接合により微細な開口を有する電極を高精度に形成可能となる。そして、第1・第2・第3の領域の厚さも正確に形成することが可能となる。この際、必要に応じてウエハを複数接合して積層構造とすることもできる。例えば、ウエハの厚さが厚くなると一般に加工精度が低下するため、1枚のウエハの厚さは求められる加工精度に応じて決定(精度を高くする場合には薄くする)する。その結果電極全体の厚さが不足する場合に複数層のウエハを積層することが好ましい。さらに積層するものは、ウエハには限定されず、例えばスパッタ法、CVD法、気相又は液相のエピタキシャル成長法、めっき法等で必要な堆積膜を形成することにより電極とすることもできる。
【0016】
本発明の荷電粒子線レンズは、第1・第2の領域の第3の領域の界面付近の開口断面まで破損が生じても、レンズ収差の増加を抑えることが可能となる。また、第1・第2の領域の開口を形成する場合、第3の領域の開口とは独立に加工を行えばよいため加工が容易となる。
【0017】
本発明の荷電粒子線レンズは、必要に応じて電極全体を電気伝導性膜で覆うことにより電極電位を一定とし、意図しない帯電により荷電粒子線が揺らぐのを防ぐことができる。
【0018】
本発明の荷電粒子線レンズは、電極が複数の開口を有する荷電粒子線レンズアレイとすることができる。複数の開口が形成される領域が大きくなっても剛性を保つ電極全体の実質的な厚さを薄くしないで、第1・第2の領域の開口断面の破損やゴミの付着による真円度の悪化を許容することが可能となる。そして、複数の開口全てに渡ってこれらの許容をすることができるため、レンズアレイの歩留まりや収差の増加を抑えることが可能となる。レンズアレイの場合、個々のレンズの真円度は偶然誤差なので、個別に補正を行うことは難しい。しかし本発明により開口断面の真円度のばらつきを低減できるので、大規模なレンズアレイとしても個別の補正の必要性を無くすか若しくは大きく低減することができる。そして、接合構造による電極を用いる場合は、開口断面のばらつきを十分に低減することができる。接合のアライメント精度により第1・第2の領域の開口の位置ずれが生じるが、このずれはレンズアレイ全体の系統的な位置ずれであるため補正することが容易である。そのため、大規模なレンズアレイに好適な形態となる。
【0019】
本発明の露光装置は、収差の少ない本発明の荷電粒子線レンズを用いることで、高精度の微細パターンが形成可能な露光装置とすることができる。また安価なレンズを用いることができるため露光装置を安価に提供可能となる。さらに、取り付けや使用中に最表面に付着するゴミ・塵についても許容を大きくすることができるため保守を容易にし、保守期間を長くし信頼性を向上することができる。
【0020】
本発明の露光装置は、収差の少ない本発明の荷電粒子線レンズを用い、複数の荷電粒子線を用いることで、高精度の微細パターンを描画時間が短く形成可能な露光装置とすることができる。レンズアレイのアレイ数が増大し、開口形成面積が大きくなってもレンズアレイの歩留まりの低下を抑え安価に露光装置を製造可能となる。
【実施例】
【0021】
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明するが本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0022】
(実施例1)
図を用いて、本発明の第1の実施例を説明する。
【0023】
図1は本発明の荷電粒子線レンズの断面図である。図2(a)、(b)は図1の破線Mで示した電極3Bの開口断面について拡大した上面図、断面図をそれぞれ示している。(b)は(a)のA―A線における断面図である。
【0024】
図1に示すように、本発明の荷電粒子線レンズは電極3A、3B、3Cの3枚の電極を有している。3枚の電極は、光軸Jを法線とする平板であり、一方の面である第1の面とその反対側の面である第2の面を有しており、各電極は互いに電気的に絶縁されている。第1の面は典型的には電極の表面であり、第2の面は典型的には電極の裏面である。但しここでいう、「表」、「裏」とは相対的な関係を示す便宜的な表現である。電極3A、3B、3Cはそれぞれ電位を規定することができる。また光軸Jの矢印の方向に、図示しない光源から射出された荷電粒子線が通過する。
【0025】
また、図2(b)に電極3Bの構造として示したように、3枚の電極は、第1の領域5、第2の領域6、と第1・第2の領域に挟まれた第3の領域7の3つの領域を有している。光軸Jの方向の寸法を電極の厚さとすれば、第1の領域5は、図2(b)の通り光軸Jの光源側の電極の表面である第1の面8を含んで所定の厚さを有して形成されている。同様に第2の領域6は、光軸Jの光源とは反対側の電極の表面である第2の面9を含んで所定の厚さを有して形成されている。そして、第3の領域7は、第1、第2の領域に挟まれた所定の厚さを有する領域であり、電極の残りの領域として定義される。
【0026】
図示のとおり、第1、第2、第3の領域5〜7は、実質的には開口2A、2B、2Cの直径により規定されている。そして、図示の通り開口2A、2B、2Cは電極を厚さ方向へ貫通する貫通孔である。荷電粒子線がこの開口を通過することができる。また、図2(a)のように開口2Aは円形形状を有している。同様に、光軸Jを法線とする平面での開口を開口断面とすれば、開口2B、2Cの開口断面も開口2Aとほぼ同心円状の円形形状である。ただし、開口断面は2A、2Bは、開口2Cに比べて直径が大きく図2(b)に示すように電極3A、3B、3Cは、出入口の直径が大きい開口で形成される貫通孔のプロファイルを有することなる。ここで光軸とは電子線が通過する方向である。
【0027】
そして、図2(a)に示すように、開口2Aは、欠け15が生じている。これは、電極の製造工程中に電極最表面に意図しない接触等が生じて破損してしまった例である。また、欠け15とは反対にゴミ・塵等の付着物が付着することもある。このようにして、開口2Aは製造工程で開口断面の真円からのずれが大きくなっている。
【0028】
また、図2(b)に示すように、開口2A・2B・2Cはそれぞれ代表直径D1、D1、D2を有している。また、前述のとおりD1>D2の関係を有している。そして、開口2A・2B・2Cの厚さはそれぞれt、t、t’となっている。また、開口2Aと2Cの界面13での開口2Aと2Cの開口断面の代表直径は異なっている。同様に、開口2Bと2Cの界面14でのそれぞれの開口断面の代表直径も異なっている。
【0029】
そして、例えば、電極3Bには、負極性の静電圧を印加し、電極3A、3Bはアース電位とすることで、いわゆるアインツェル型の静電レンズを構成することができる。本発明において、アインツェル型の静電レンズとは、複数(典型的には3つ)の電極を間に所定の間隔をおいて配置し、最外部に位置する電極をアース電位とし、間の電極を正又は負の極性の電位を印加する構成を有する静電レンズを意味する。3つの電極から構成される場合であれば荷電粒子線の入射側から1つ目と3つ目の電極がアース電位で、2つ目の電極が正又は負の極性の電位を印加する構成となる。荷電粒子線は、電極3A、3B、3Cの開口を順に通過することで、レンズの効果を受ける。同時に、電極3A、3Bまたは、3B、3C間には静電引力が発生する。
【0030】
まず、図8を用いて本発明の荷電粒子線レンズの説明に必要な開口断面の対称性の定義を行う。静電型の荷電粒子線レンズのレンズ効果を生じる静電場は開口断面によって形成される。特に光軸Jを軸とした回転対称性のずれの大きさにより非点収差やより高次の収差が発生するため、真円からのずれが重要な指標となる。
【0031】
図8(a)は理想的な円形の開口断面4を示している。ここで開口断面とは光軸Jを法線とする平面と開口が交わる閉曲線である。そして開口断面は厚さ方向のいずれの位置でも定義することができる。(b)には楕円の開口断面4を示している。本発明の荷電粒子線レンズの非点収差やより高次の収差に影響を与える形状誤差として次のような指標を定義する。図8(b)の楕円の開口断面4を2つの同心円で挟む。内側の円を内接円11、外側の円を外接円12とする。このような同心円の組み合わせは同心円の中心を選べば様々に存在するが、その中で内接円・外接円の半径の差が最も小さい2つを選ぶ。このように選択した内接円・外接円の半径の差の1/2を真円度とする。真円度は、図8(a)のような完全に円形の開口断面4の場合、外接円と内接円が一致するため0となる。
【0032】
そして図8(c)のように、楕円以外の任意の形状についても同様の方法で真円度を定義することができる。
【0033】
また円形形状が理想形状ではなく、図8(d)に示すように多角形(以下の説明では一例として八角形)を設計上の理想形状とした場合でも以下の方法により、真円度・代表半径・代表直径を定義(代表半径・代表直径の定義は後述)できる。即ち、上記の真円度・代表半径・代表直径を定義して理想の八角形からの対称性のずれと開口の大きさを比較することができる。図8(d)は理想的な正八角形の外接円11・内接円12を示している。このように八角形の場合は、理想状態でも真円度は0以上となる。しかし、図8(e)に示すように八角形に形状誤差が生じ正八角形からずれた場合、外接円11・内接円12は図示のようになる。したがって、図8(d)と(e)の真円度を比較すれば、正八角形より真円度は大きくなる。
【0034】
これらの真円度は、断面形状を実際に測定して定義することができる。周長に対して十分な分割数で測定できる場合は、画像処理で外接円11・外接円12を求めて算出することができる。
【0035】
ここで、上記した代表直径・代表半径は以下のように定義する。図11には図8(c)の開口断面4の代表直径を決定する手順を示している。図11(a)のような開口断面4は図11(b)に示すように輪郭線を十分に細かい間隔の離散的な測定点13の集合として測定する。必要な間隔は開口断面4の凹凸の代表的な周期の半分より細かいことが望ましい。このようにして測定した測定点13を用いて図11(c)に示すように、代表円14を1つ決定することができる。測定点13を用いて、回帰分析を行い円の方程式に幾何学的にフィッティングを行う。回帰分析には一般的には最尤推定を用いることができ、測定点13を十分に細かい間隔で測定すれば最小自乗法を用いることができる。このようにして決定した代表円14の直径・半径をそれぞれ代表直径・代表半径とすることができる。荷電粒子線は、開口の中心を通過するため光軸上とその付近の電位分布を規定する代表形状として代表円の代表直径・代表半径は重要となる。
【0036】
また、図8(f)に示すように開口断面4のほとんどの部分が円形であり、ごく一部が突出したような形状の開口断面の場合でも、上記の方法で、光軸付近の静電場に寄与している代表形状として代表円を決定し、代表直径・代表半径を求めることができる。そして、このような円が得られれば、フィッティングで求めた円の中心と同心円を描き、外接円11・内接円12を定義することができる。
【0037】
そして、第1・第2・第3の領域は厚みを有して形成されている。そのため厚み方向へのそれぞれの領域における真円度・代表直径・代表半径は次のようにして定義することができる。
【0038】
次に、このように厚さ方向への第1・第2・第3の領域における開口断面の真円度について説明する。
【0039】
図12は、直径や真円度が厚み方向に分布を有している第3の領域7を示している。図の矢印T1〜T5に示すように深さ方向の任意の位置で開口断面を定義することができる。このような個々の開口断面について前述した代表直径・真円度を定義することができる。ここで第3の領域7の代表直径・真円度とはこのよう開口の深さ方向へ任意の位置で定義される。領域の最表面以外の代表直径・真円度の測定については、開口を一度メッキ等で埋め戻し研磨することで観察して確認することができる。また、このような直接の測定を行わずに最表面の測定で代表することもできる。第1・第2・第3の領域の最表面以外の箇所は、収差への寄与が更に少なくなる部分であり、最表面に比べ代表直径・真円度ともオーダが同程度の変化ならば収差への影響が少ない。したがって、開口の厚み方向の断面観察を数か所行って代表直径・真円度とも大きく値が異ならない(例えばオーダが異なる(位が異なる)ような分布がない)ことを確認すれば、最表面の代表直径・真円度(つまり図12の場合T1、T5の位置)を測定しその平均値で代表することができる。
【0040】
上記の定義により、任意の開口断面についての真円度・代表半径・代表直径を定義する。以下明細書では、円形形状の開口断面を理想とする場合の説明とするが、開口断面の理想形は、八角形やその他任意の曲線でもよい。その場合でも、真円度・代表半径・代表直径を定義して本発明を実施することが可能となる。
【0041】
次に開口断面の真円度が収差に与える効果について詳細に説明する。そのために、まず、図6を用いて静電型の荷電粒子線レンズが荷電粒子線を収束させるメカニズムについて説明する。図ではレンズの半径方向をR軸、光軸方向をJ軸とし図のように原点Oとする。そして、アインツェル型レンズをJ軸と平行な平面で切断した時に横から見た図である。アインツェル型レンズを構成する3枚の電極のうち、電極3A、3Cはアース電位とし、電極3Bには負の電位が印加されている。また荷電粒子線は負の電荷を有している。3枚の電極3A、3B、3Cは光軸Jを法線とする3枚の平板である。
【0042】
その状態における電気力線を実線の矢印Hで示した。また、X方向で3枚の電極3A、3B、3Cの中間面と3枚の電極間隔の中間面を破線で示した。さらに、図のように、X軸の破線で区分される区間をそれぞれ区間I、区間II、区間III、区間IVとする。そして、特にアインツェル型レンズの主なレンズ効果を説明するために、区間Iより原点O側の区間、区間IVよりXがより大きい区間には電位はないものと近似する。
【0043】
R>0の領域での区間I、区間II、区間III、区間IVにおけるR方向の電界の向きをそれぞれf1、f2、f3、f4の矢印で示す。つまり、区間I、区間II、区間III、区間IVそれぞれで負、正、正、負となっている。そのため、ある像高r0を通過する荷電粒子線の軌跡は矢印Eで示すようになる。つまり、区間Iでは荷電粒子線は発散され、領域IIでは収束され、領域IIIでは収束され、領域IVでは発散される。これは、X軸方向に光学的な凹レンズ・凸レンズ・凸レンズ・凹レンズが並んでいるのと等価である。
【0044】
そして、荷電粒子線が収束される理由は以下の2つである。第1の理由は、荷電粒子線が受ける力は像高が高いほど強くなるため、区間IIと区間IIIにおける収束作用が区間Iと区間IVにおける発散作用を上回るからである。第2の理由は、区間Iに比べ区間IIが、区間IVに比べ区間IIIが荷電粒子線の走行時間が長いからである。運動量変化は力積に等しいため、走行時間が長い領域が電子ビームに与える効果が大きくなる。
【0045】
以上の理由から収束効果をうけることとなる。なお、電極3Bに正の電位を印加した場合も同様に荷電粒子線は収束される。また荷電粒子線の有する電荷を正電荷としても収束される。電極3Bの電位・荷電粒子線の電荷の正負のいずれの組み合わせにおいても収束効果が現れる。そして、区間I〜IVの静電場を形成している開口2の形状誤差により、収束場の対称性が崩れる場合、静電レンズは非点収差のような高次の収差を有することとなる。したがって、静電型の荷電粒子線レンズは電極に形成された開口の形状誤差が収差に敏感に影響を与えるため、開口形状を正確に形成することが必要となる。
【0046】
次に、これら電極の表面付近の開口断面に大きく影響されるメカニズムについて説明する。
【0047】
図7を用いて、第1の領域5、第2の領域7の開口2A、2Cのような電極表面付近から内側に向かうにつれ開口形状の収差への寄与が低減していくことを説明する。図7に図6の破線Zで囲まれた領域を拡大した。曲線K、L、Mは電極3Bの開口2の表面付近の空間の等電位線をしめしている。また、曲線Hは、開口2の最表面に対応する電気力線を示している。図のように、電気力線Hの開口2が形成されていない側(以下、電気力線Hの外側とする)の領域では、曲線K、L、Mは電極3Bの表面にほぼ平行となっている。したがって、この領域での電気力線は電極の法線方向に平行な方向となる。そのため、この部分の電極形状は、レンズ効果の場となるR方向の電界(図6f1、f2、f3、f4を参照)に対してほとんど影響していない。
【0048】
一方、電気力線Hより開口2が形成される側(以下、電気力線Hの内側とする)の領域において、等電位線K、L、Mは、開口2の内部に回り込んでいることが分かる。したがって、電気力線Hとそれより内側の電気力線によって、図6で説明したレンズ効果の場となるR方向の電界が主に形成されることとなる。荷電粒子線は、立体的には光軸Jを法線とする平面において、光軸Jを中心として周方向のいずれの方向についても図6で示したレンズ効果の場となるR方向の電界の影響を受けている。電気力線Hとそれより内側の電気力線のこのような光軸Jを中心として周方向の対称性(つまり円形形状における真円度)に影響するのは、光軸Jを法線とする平面での開口2の断面形状の対称性となる。そして、等電位線K、L、Mの間隔は、開口2の光軸Jに向かうにつれて大きくなっている。電気力線の密度は、電気力線Hから内側に向かうにつれ疎となっていく。したがって、開口2の断面形状の荷電粒子線の収束への影響は、電極の最表面が最も大きく、厚さ方向へ深くなるにつれて少なくなっていく。
【0049】
ここでは、図6の区間IIにおける電界の向きf2について詳しく説明した。しかし、上記と同様の理由で区間I、区間III、区間IVの電界の向きf1、f3、f4についても電極の最表面の位置の開口2の断面形状が荷電粒子線への収束へ最も影響する。したがって、厚み方向へ最表面から遠ざかるにつれて影響が小さくなっていく。
【0050】
そして、開口の深さが深くなっても表面付近の開口断面の寄与率は変化しない。つまりどのような厚さの電極に形成される開口においても、表面付近の開口断面の形状にレンズの収差が大きく影響されることとなる。
【0051】
ここで、電極の表面付近の開口形状は、電極の製造工程で最も破損やゴミ・塵などの付着の確率が高い箇所となっている。特に、図7の電気力線Hが入射する最表面の開口断面はこのような破損やゴミ付着の可能性が非常に高い。
【0052】
本発明の荷電粒子線レンズは、開口2Cより代表直径が大きい第1の領域5、第2の領域6の開口2A、2Bを開口2Cの両端に設けることで、開口2A、2Bの開口断面が製造工程などで破損やゴミ付着が生じても、レンズ収差への影響を減ずることができる。そのためレンズの製造歩留まりを向上し安価に荷電粒子線レンズを製造可能となる。
【0053】
次に、本実施例の代表直径の関係によりレンズ全体の非点収差へ与える影響を低減できることを説明する。図2に示すように、欠け15により開口2Aの断面形状の真円度が悪くなっている。しかし、開口2Cは開口2Aが形成されているため電極の最表面に接しておらず、欠け15によるこの部分の開口断面の真円度の劣化は生じていない。そして、代表直径の関係をD1>D2の関係とすることにより、開口2Aのレンズ収差へ与える寄与率を低減することができる。そのため、開口2Aの真円度の劣化の収差への影響を低減することが可能となる。
【0054】
図4は、開口2A・2Bの収差の合計がレンズの非点収差へ占める割合(寄与率)を示している。横軸は、直径D2と開口2A、2Bの厚さtとの比である。中実の丸印が直径D1と直径D2が1.4の比となる本実施例、中空の丸印が直径D1と直径D2が等しい場合を示している。
【0055】
直径D1、D2が等しい場合、開口2A、2Cの厚さtが直径D1の1/8の厚さで、開口2A・2Cの収差の合計が全体収差の80%を占めることができる。開口2A・2Cは互いに若干の差があるため、開口2A、2B、2Cの寄与率の内訳はそれぞれ44%、36%、20%となっている。
【0056】
一方、本発明の実施例である中実の丸印は、直径D1がD2の1.4倍の場合である。直径D1、D2が等しい場合に比べ、開口2A、2Bの寄与率が小さくなる。厚さtが直径D1の1/8で約35%、1/5で40%の寄与率となる。このように特に直径D1>D2とすれば、同じ厚さtの開口2A・2Bに対して収差への寄与率を低減することができる。
【0057】
そして、この寄与率の関係は、開口2Cの厚さt’を変えても変化しない。したがって、開口2Cの厚さを大きくすることで寄与率の関係を変えないで電極全体の厚さを厚くし電極の剛性を上げることができる。このとき、開口2A、2B部分の収差への寄与率が高いため、開口2Bの製造誤差が大きくなってもレンズ全体の収差への影響を低減することができる。
【0058】
次に本実施例の具体的な材料・寸法例を説明する。電極3A、3B、3Cの第1の領域5、第2の領域6、第3の領域7とも単結晶シリコンで形成される。厚さはそれぞれ6μm、90μm、6μmである。開口2A、2Bの直径D1は30μm、開口2Bの直径D2は22μmである。電極3A、3B、3Cの第1の面8、第2の面9や開口2A、2B、2Cの内壁面はすべて金属膜で覆ってもよい。この場合、酸化しにくい白金族の金属や酸化物に導電性がみられるモリブデンのような金属を用いることができる。電極3A、3B、3Cはそれぞれ400μm離間して光軸Jを法線とする平面に平行に設置される。それぞれの電極は電気的に絶縁されている。電極3A、3Cにはアース電位を印加し、電極3Bには−3.7kVの電位を印加してアインツェル型のレンズとして機能する。荷電粒子線は電子であり、加速電圧を5keVする。また開口2A、開口2Bの真円度は9nm、開口2Cの真円度は90nmで形成されている。しかし、開口2Aは微小な欠け15が生じており、欠け15の平均値は50nm程度である。
【0059】
次に、本実施例の製造方法を説明する。第1の領域5、第2の領域6、第3の領域7は、エッチングを3回行うことによって形成する。まず、電極と同じ厚さのシリコン基板の両面にクロムや酸化膜等のハードマスクを開口2A、2Bと同じ直径で形成する。次に、開口2Cと同じ直径のエッチングマスクをフォトレジストでシリコン基板の開口2Aを形成する側に形成する。次に、図3(a)に示すように、矢印N1の方向にフォトレジストのマスクを用いて開口2Cとなる貫通孔を形成する。次にフォトレレジストを除去する。続いて、図3(b)に示すように開口2A、開口2Bを形成するために、ハードマスクを用いて矢印N2・N3の方向にエッチングによりザグリ加工を行う。このようにして、第1の領域5、第2の領域6、第3の領域7を形成することができる。
【0060】
特に図3(a)に示すように、シリコン基板に貫通孔加工を行う場合、破線Sで示すノッチングが生じることが知られている。これは、貫通する先の界面の影響でエッチングを行うイオンやラジカルの向きが乱れることにより開口直径が広がる現象である。このようなノッチングが生じると、この部分の開口断面の真円度も劣化してしまう。図3(b)のように両面から直径の大きいザグリ加工を施すことにより、この部分を取り除くことが可能となる。そのため、収差への寄与率の大きい開口2Cを高精度に加工可能となる。
【0061】
(実施例2)
図5を用いて本発明の実施例2を説明する。実施例1と同じ機能・効果を有する個所には、同じ記号を付し説明を省略する。本実施例では、電極3A、3B、3Cが接合を用いた構造となっている点が異なっている。
【0062】
電極3A、3B、3Cは、第1の領域5と第3の領域7、第2の領域6と第3の領域7の界面が酸化膜を介して接合されている。第1・第2の領域の厚さは6μm、第3の領域7の厚さは90μmである。
【0063】
次に、本実施例の製造方法を説明する。第1の領域5、第2の領域6、第3の領域7を第1の界面13、第2の14で接合して形成する。第1の領域5、第3の領域7となる厚さ6μmのデバイス層と埋め込み酸化膜層とハンドル層を有するSOI(シリコンオンインシュレータ)基板を用意する。まず、開口2A、2Bをこのデバイス層に高精度のフォトリソグラフとシリコンのドライエッチングにより形成する。その後全体を熱酸化する。次に第2の領域6と同じ厚さ90μmのシリコン基板にフォトリソグラフとシリコンの深堀ドライエッチングにより開口2Cを形成する。そして、開口2A、開口2Bが形成されたSOI基板のデバイス層を開口2Cが形成されたシリコン基板の表裏面に熱酸化膜を介して直接接合する。2枚のSOIウエハのハンドル層と埋め込み酸化膜層、開口2A・2Bの接合界面以外の熱酸化膜を順次除去することで、第1の領域5、第2の領域6、第3の領域7を有する電極3A、3B、3Cを形成することができる。
【0064】
上記のように接合した構造により、第1・第2・第3の領域の開口を形成する工程を別々に行うことができる。そのため、半導体製造技術により微細・高精度な開口を形成しエッチング条件の制御や歩留まりを向上することができる。特に、フォトリソグラフとドライエッチングといった高精度の加工技術と平坦性の高いシリコンウエハを介したウエハ接合により微細な開口を有する電極を高精度に形成可能となる。そして、第1・第2・第3の領域の厚さも正確に形成することが可能となる。
【0065】
(実施例3)
図9を用いて本発明の実施例3を説明する。図9は、荷電粒子線レンズの断面図である。尚、実施例2と同じ機能を有する個所には、同じ記号を付し、同じ効果についても説明を省略する。本実施例と実施例2では電極3A、3B、3Cが有する開口2A、2B、2Cが複数形成されている点が異なっている。本実施例では、図示のとおり1つの電極に5つの開口が形成されるレンズアレイとなっている。
【0066】
開口2A・2Bの直径は開口2Cの直径より大きく設定されている。しかし、隣接する開口のピッチよりは小さくなっているため、第1・第2の領域で隣接する開口がつながることはない。そのため、電極全体の剛性を低下させることなくレンズアレイを形成することができる。
【0067】
また、レンズアレイとなることで開口形成エリアが大きくなり最表面の欠け・ゴミの付着などの確率が大きくなっても、本実施例によりこれらの欠陥の収差に与える影響が小さくなるためレンズアレイの全体の収差のばらつきを低減することが可能となる。したがって、大規模なレンズアレイを安価に実現することが可能となる。
【0068】
(実施例4)
図10は本発明の荷電粒子線レンズを用いたマルチ荷電粒子ビーム露光装置の構成を示す図である。本実施形態は個別に投影系をもついわゆるマルチカラム式である。
【0069】
電子源108からアノード電極110によって引き出された放射電子ビームは、クロスオーバー調整光学系111によって照射光学系クロスオーバー112を形成する。
【0070】
ここで電子源108としてはLaB6やBaO/W(ディスペンサーカソード)などのいわゆる熱電子型の電子源が用いられる。
【0071】
クロスオーバー調整光学系111は2段の静電レンズで構成されており、1段目・2段目共に静電レンズは3枚の電極からなり、中間電極に負の電圧を印加し上下電極は接地する、いわゆるアインツェル型の静電レンズである。
【0072】
照射光学系クロスオーバー112から広域に放射された電子ビームは、コリメータレンズ115によって平行ビームとなり、アパーチャアレイ117へと照射される。アパーチャアレイ117によって分割されたマルチ電子ビーム118は、集束レンズアレイ119によって個別に集束され、ブランカーアレイ122上に結像される。
【0073】
ここで集束レンズアレイ119は3枚の多孔電極からなる静電レンズで、3枚の電極のうち中間の電極のみ負の電圧を印加し上下電極は接地する、アインツェル型の静電レンズアレイである。
【0074】
またアパーチャアレイ117はNA(集束半角)を規定する役割も持たせるため、集束レンズアレイ119の瞳面位置(集束レンズアレイの前側焦点面位置)に置かれている。
【0075】
ブランカーアレイ122は個別の偏向電極を持ったデバイスで、描画パターン発生回路102、ビットマップ変換回路103、ブランキング指令回路107によって生成されるブランキング信号に基づき、描画パターンに応じて個別にビームのON/OFFを行う。
【0076】
ビームがONの状態のときには、ブランカーアレイ122の偏向電極には電圧を印加せず、ビームがOFFの状態のときには、ブランカーアレイ122の偏向電極に電圧を印加してマルチ電子ビームを偏向する。ブランカーアレイ122によって偏向されたマルチ電子ビーム125は後段にあるストップアパーチャアレイ123によって遮断され、ビームがOFFの状態となる。
【0077】
本実施例においてブランカーアレイは2段で構成されており、ブランカーアレイ122及びストップアパーチャアレイ123と同じ構造の、第2ブランカーアレイ127および第2ストップアパーチャアレイ128が後段に配置されている。
【0078】
ブランカーアレイ122を通ったマルチ電子ビームは第2集束レンズアレイ126によって第2ブランカーアレイ127上に結像される。さらにマルチ電子ビームは第3・第4集束レンズによって集束されてウエハ133上に結像される。ここで、第2集束レンズアレイ126・第3集束レンズアレイ130・第4集束レンズアレイ132は集束レンズアレイ119同様に、アインツェル型の静電レンズアレイである。
【0079】
特に第4集束レンズアレイ132は対物レンズとなっており、その縮小率は100倍程度に設定される。これにより、ブランカーアレイ122の中間結像面上の電子ビーム121(スポット径がFWHMで2um)が、ウエハ133面上で100分の1に縮小され、FWHMで20nm程度のマルチ電子ビームがウエハ上に結像される。そして、この第4集束レンズアレイ132が本発明の実施例2に示す荷電粒子線レンズアレイとなっている。
【0080】
ウエハ上のマルチ電子ビームのスキャンは偏向器131で行うことができる。偏向器131は対向電極によって形成されており、x、y方向について2段の偏向を行うために4段の対向電極で構成される(図中では簡単のため2段偏向器を1ユニットとして表記している)。偏向器131は偏向信号発生回路104の信号に従って駆動される。
【0081】
パターン描画中はウエハ133はX方向にステージ134によって連続的に移動する。そして、レーザー測長機による実時間での測長結果を基準としてウエハ面上の電子ビーム135が偏向器131によってY方向に偏向される。そして、ブランカーアレイ122及び第2ブランカーアレイ127によって描画パターンに応じてビームのon/offが個別になされる。これにより、ウエハ133面上に所望のパターンを高速に描画することができる。
【0082】
本発明の荷電粒子線レンズアレイを用いることによって収差の少ない結像が実現できる。そのため微細なパターンを形成するマルチ荷電粒子ビーム露光装置を実現することができる。また、マルチビームが通過する開口形成エリアを大きくしても電極の厚さを厚くできるためマルチビームの本数を多く構成することができる。そのためパターンを高速に描画する荷電粒子ビーム露光装置を実現することができる。
【0083】
また安価なレンズを用いることができるため露光装置を安価に提供可能となる。さらに、取り付けや使用中に最表面に付着するゴミ・塵についても許容を大きくすることができるため保守を容易にし、保守期間を長くし信頼性を向上することができる。
【0084】
更にレンズアレイのアレイ数が増大し、開口形成面積が大きくなってもレンズアレイの歩留まりの低下を抑え安価に露光装置を製造可能となる。
【0085】
また、本発明の荷電粒子線レンズアレイは、集束レンズアレイ119・第2集束レンズアレイ126・第3集束レンズアレイ130といったいずれの集束レンズアレイとしても用いることができる。
【0086】
なお、本発明の荷電粒子線レンズは、図10の複数のビームが1本となった場合の荷電粒子線描画装置にも適用することができる。その場合でも、収差の少ないレンズを用いることによって微細なパターンを形成する荷電粒子ビーム露光装置を実現することができる。
【符号の説明】
【0087】
1A、1B スペーサ
2、2A、2B 開口
3A、3B、3C 電極
4 開口断面
5 第1の領域
6 第2の領域
7 第3の領域
8 第1の面
9 第2の面
10 給電パッド
11 内接円
12 外接円
13 第1の界面
14 第2の界面
15 欠け
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電型の荷電粒子線レンズであって、
前記荷電粒子線レンズは光軸方向を法線とする第1の面と、該第1の面とは反対側の第2の面とを有する平板を含み、
かつ、
前記第1の面から前記第2の面に貫通する貫通孔を有する電極を有し、
前記貫通孔の前記法線に垂直な面での開口面を開口断面とし、
前記開口断面の回帰分析により得られた円の直径を代表直径とするとき、
前記第1の面側である第1の領域における前記開口断面の代表直径と、
前記第2の面側である第2の領域における前記開口断面の代表直径と、
が各々、
前記第1の面と前記第2の面とで挟まれた前記電極の内部の領域である第3の領域における前記開口断面の代表直径よりも大きいことを特徴とする荷電粒子線レンズ。
【請求項2】
前記開口断面を中心が同一な2つの同心円で挟み、
2つの前記同心円を、前記同心円の半径の差が最小になる場合を半径の小さい方から内接円、外接円とするとき前記第1の領域における前記開口断面の前記外接円と前記内接円の半径の差と前記第2の領域における前記開口断面の前記外接円と前記内接円の半径の差とが各々
前記第3の領域における前記開口断面の前記外接円と前記内接円の半径の差よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子線レンズ。
【請求項3】
前記第1の領域及び前記第2の領域の厚さは、
前記第3の領域の厚さよりも小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の荷電粒子線レンズ。
【請求項4】
前記第1の領域の厚さは、
前記第3の領域における代表直径の1/8より小さく前記第2の領域の厚さは、
前記第3の領域における代表直径の1/8より小さいことを特徴とする請求項1から3何れか1つに記載の荷電粒子線レンズ。
【請求項5】
前記第1の領域又は前記第2の領域の少なくとも一方が前記第3の領域に対して積層又は接合された構造であることを特徴とする請求項1から4何れか1つに記載の荷電粒子線レンズ。
【請求項6】
前記第1の領域における代表直径と前記第3の領域における代表直径は、
前記第1の領域と前記第3の領域の界面において異なっており前記第2の領域における代表直径と前記第3の領域における代表直径は、
前記第2の領域と前記第3の領域の界面において異なっていることを特徴とする請求項1から5何れか1つに記載の荷電粒子線レンズ。
【請求項7】
前記電極は電気伝導性膜で覆われていることを特徴とする請求項1から6何れか1つに記載の荷電粒子線レンズ。
【請求項8】
前記電極は、複数の開口を有することを特徴とする請求項1から7何れか1つに記載の荷電粒子線レンズ。
【請求項9】
請求項1から8いずれか1つに記載する荷電粒子線レンズを有し、荷電粒子線を用いることを特徴とする露光装置。
【請求項10】
複数の荷電粒子線を用いることを特徴とする請求項9に記載の露光装置。
【請求項1】
静電型の荷電粒子線レンズであって、
前記荷電粒子線レンズは光軸方向を法線とする第1の面と、該第1の面とは反対側の第2の面とを有する平板を含み、
かつ、
前記第1の面から前記第2の面に貫通する貫通孔を有する電極を有し、
前記貫通孔の前記法線に垂直な面での開口面を開口断面とし、
前記開口断面の回帰分析により得られた円の直径を代表直径とするとき、
前記第1の面側である第1の領域における前記開口断面の代表直径と、
前記第2の面側である第2の領域における前記開口断面の代表直径と、
が各々、
前記第1の面と前記第2の面とで挟まれた前記電極の内部の領域である第3の領域における前記開口断面の代表直径よりも大きいことを特徴とする荷電粒子線レンズ。
【請求項2】
前記開口断面を中心が同一な2つの同心円で挟み、
2つの前記同心円を、前記同心円の半径の差が最小になる場合を半径の小さい方から内接円、外接円とするとき前記第1の領域における前記開口断面の前記外接円と前記内接円の半径の差と前記第2の領域における前記開口断面の前記外接円と前記内接円の半径の差とが各々
前記第3の領域における前記開口断面の前記外接円と前記内接円の半径の差よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子線レンズ。
【請求項3】
前記第1の領域及び前記第2の領域の厚さは、
前記第3の領域の厚さよりも小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の荷電粒子線レンズ。
【請求項4】
前記第1の領域の厚さは、
前記第3の領域における代表直径の1/8より小さく前記第2の領域の厚さは、
前記第3の領域における代表直径の1/8より小さいことを特徴とする請求項1から3何れか1つに記載の荷電粒子線レンズ。
【請求項5】
前記第1の領域又は前記第2の領域の少なくとも一方が前記第3の領域に対して積層又は接合された構造であることを特徴とする請求項1から4何れか1つに記載の荷電粒子線レンズ。
【請求項6】
前記第1の領域における代表直径と前記第3の領域における代表直径は、
前記第1の領域と前記第3の領域の界面において異なっており前記第2の領域における代表直径と前記第3の領域における代表直径は、
前記第2の領域と前記第3の領域の界面において異なっていることを特徴とする請求項1から5何れか1つに記載の荷電粒子線レンズ。
【請求項7】
前記電極は電気伝導性膜で覆われていることを特徴とする請求項1から6何れか1つに記載の荷電粒子線レンズ。
【請求項8】
前記電極は、複数の開口を有することを特徴とする請求項1から7何れか1つに記載の荷電粒子線レンズ。
【請求項9】
請求項1から8いずれか1つに記載する荷電粒子線レンズを有し、荷電粒子線を用いることを特徴とする露光装置。
【請求項10】
複数の荷電粒子線を用いることを特徴とする請求項9に記載の露光装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−195097(P2012−195097A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56814(P2011−56814)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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