説明

荷電粒子線レンズ用電極

【課題】荷電粒子線を照射する対象物からの飛散物や蒸発物等がレンズの重要な部分に付着するのを抑制でき、レンズと対象物との間隔を狭くすることが可能な静電型レンズ用の電極等を提供する。
【解決手段】静電型の荷電粒子線レンズに用いる電極1は、少なくとも1つの貫通孔4を有する。貫通孔4は、第一の開口輪郭を有する第一の領域αと、第一の領域αに対して荷電粒子線の上流側に位置させられるべき第二の開口輪郭を有する第二の領域βを有する。光軸3の方向から見て第一の開口輪郭は第二の開口輪郭内に含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路等の露光に用いられる電子線露光装置やイオンビーム露光装置等の荷電粒子線露光装置などに使用される荷電粒子線光学系の技術に関し、特に、静電型のレンズ用電極(典型的には静電型の対物レンズ用電極)に関する。
【背景技術】
【0002】
0.1μm以下の微細なパターンが高集積度で詰まったパターンを露光する装置として、電子ビーム露光装置は非常に期待されている。特に、マスクを用いずに複数本の電子ビームで同時にパターンを描画する電子線露光装置は、高スループットで少量多品種の生産に適応でき、非常に期待されている。しかしながら、電子線によって描画を行うと、電子線が照射された箇所のレジスト等の化学物質が飛散し、特に、試料(対象物)に最も近いレンズ(対物レンズ)へのレジスト等の付着は不可避となりやすい。このレジスト等の付着はレンズの光学特性を悪化させ、長時間使用への妨げとなりやすい。
【0003】
こうした問題を解決すべく特許文献1には次の様な電子ビーム露光装置が開示されている。即ち、ここでは、試料と電子ビーム集束用対物レンズ又はビーム偏向器の間に、電子ビーム通路を有する導電性板体が設けられる。これにより、試料からの蒸発物、反射電子及び2次電子が、電子ビーム集束用対物レンズ及びビーム偏向器が形成する電子ビーム通路内に侵入するのを抑制するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3166946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体デバイスの分野では、より一層の微細パターン化が望まれており、同時に、それを可能にする高解像力の露光装置も望まれている。その期待に応えるべく、露光装置の解像力を上げようとすればするほど、対物レンズと試料との距離は狭くなっていく。しかし、上記特許文献1に開示の従来例では、上記の如く導電性板体を配置して、試料からの蒸発物等が対物レンズ内に侵入するのを抑制するが、対物レンズと試料との距離が狭くなると、導電性板体を配置するのが物理的に容易ではなくなることがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み、静電型の荷電粒子線レンズに用いる本発明の電極は、少なくとも1つの貫通孔を有する。そして、前記貫通孔は、第一の開口輪郭を有する第一の領域と、前記第一の領域に対して荷電粒子線の上流側に位置させられるべき第二の開口輪郭を有する第二の領域を有していて、光軸方向から見て前記第一の開口輪郭は前記第二の開口輪郭内に含まれる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電極によれば、光軸方向から見て第一の領域の開口輪郭が第二の領域の開口輪郭に内包されるため、対象物からの飛散物等が第一の領域で遮蔽され、第二の領域及びこれよりも荷電粒子源側の領域に到達し難くなる。従って、対象物からの飛散物や蒸発物等が第二の領域及びこれよりも荷電粒子源側の領域に付着し難い電極を実現することが出来る。また、別個に遮蔽板などを設ける必要が無いので、電極を含むレンズと対象物との間隔を狭くすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る荷電粒子線対物レンズの電極を示す図。
【図2】本発明の第二の実施形態に係る静電型の荷電粒子線対物レンズ、及び第三の実施形態に係る露光装置の荷電粒子線対物レンズ付近を示す断面図。
【図3】電極の第一及び第二の領域の開口輪郭である内径輪郭を対象物に投影した模様、及び電極の貫通孔付近を示す図。
【図4】本発明の第四の実施形態に係るマルチ荷電粒子ビーム露光装置の構成を示す図。
【図5】本発明の第一の実施形態に係る電極の種々の変形形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の電極の特徴は、荷電粒子線が通過する貫通孔の下流側の第一の開口輪郭が上流側の第二の開口輪郭内に光軸方向から見て含まれる様に貫通孔を形成することである。荷電粒子線はほぼ貫通孔の中心を通る光軸に沿って上流側から下流側に進んで対象物に照射され、この作用で飛散物等が電極内に侵入しようとするので、上流側の第二の開口輪郭より下流側の第一の開口輪郭を狭小にすれば飛散物等の侵入を抑制できる。下流側の第一の開口輪郭をどの程度狭小にするかは、電極の用いられ方、電極の仕様などに応じて、適宜設計すればよい。本発明において「光軸に沿って」とは「実質的に光軸に沿って」いる状態であればよい。即ち、光軸と厳密に一致している場合だけでなく、誤差範囲でずれていても、光軸に沿っているとみなせる状態も含む。
【0010】
以下、本発明の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
(第一の実施形態)
図1及び図5を用いて、本発明の第一の実施形態を説明する。図1(b)は、荷電粒子線対物レンズに用いる、荷電粒子線を照射する対象物に最も近い電極の概略上面図であり、図1(a)は図1(b)のA−A’の概略断面図である。
【0011】
図1(a)に示すように、本実施形態において、荷電粒子線を照射する対象物に最も近い電極1は、光軸3を法線とする平板であり、貫通孔4を有している。この貫通孔4は、円形断面を有し、第一の内径φ1を有する第一の領域αと、第二の内径φ2を有する第二の領域βを有している。これらの内径の大きさの大小関係はφ2>φ1であり、相対的に内径の大きい第二の領域βの方が、相対的に内径の小さい第一の領域αよりも、不図示の光源である荷電粒子源側(すなわち荷電粒子線の上流側)に位置している。つまり、相対的に内径の小さい第一の領域が遮蔽板構造となっており、荷電粒子線が照射される対象物である試料からの飛散物や蒸発物等が第二の領域βや電極1よりも荷電粒子源側に侵入するのを防ぐ機能を果たす。即ち、第一の領域の、内径φ1と内径φ2との差分の領域(図1(b)におけるドーナツ形状の領域)が遮蔽板の機能を有する遮蔽板構造領域となる。ここでは、試料からの飛散物や蒸発物等を遮蔽する前記遮蔽板構造領域を第一の領域αとし、試料からの飛散物や蒸発物等を付着させたくない領域を第二の領域βとして、貫通孔4は2つの内径を有する貫通孔として図示している。しかし、貫通孔4は第一の領域αと第二の領域βと異なる内径ないし開口輪郭を有する異なる領域を有していても良い。上記遮蔽板構造領域を第一の領域αが、荷電粒子線が照射される対象物である試料からの飛散物や蒸発物等に対して遮蔽効果を有する理由は、対象物に荷電粒子線が照射された際に、飛散物や蒸発物等が直線的に飛散するからである。荷電粒子線を対象物に照射する工程は、真空又は低圧雰囲気中で行っており、そのため飛散物や蒸発物等は、荷電粒子線が照射された位置から放射的かつ直線的に飛散する。従って、荷電粒子線が照射される位置と、試料からの飛散物や蒸発物等を付着させたくない領域を第二の領域βとを直線で結んだ直線上(飛散物や蒸発物等の行路上)に第一の領域αを設けることにより、遮蔽効果を得ることができる。
【0012】
本実施形態の具体的な材料と寸法の例を説明する。電極1は単結晶シリコン等で形成される。電極1の表面及び貫通孔4の側壁は必要に応じて導電性材料膜で覆われていても良い。導電性材料としては、シリコンとの密着性が良く、導電性が高く、酸化し難い材料が選ばれる。例えば、チタン、白金、金、モリブデン等から選ばれる。電極1の総厚は100μmであり、厚さ10μmの第一の領域αと厚さ90μmの第二の領域βから成っている。第一の領域αの内径φ1は20μmであり、第二の領域βの内径φ2は30μmである。
【0013】
次に本実施形態の製造方法を説明する。まず、厚さ100μmのシリコン基板にフォトリソグラフィ技術と深堀ドライエッチング技術により、内径が30μmで深さ90μmの溝を形成し、第二の領域βに対応する領域を形成する。続いて、フォトリソグラフィ技術とドライエッチング技術により、内径20μmの貫通孔を形成し、第一の領域αに対応する領域を形成する。以上で電極1を形成できる。ここで、第一の領域αと第二の領域βのいずれか、若しくは両方の領域を、SOI(シリコン・オン・インシュレータ)基板を用いて、フォトリソグラフィ技術と深堀を含むドライエッチング技術を用いて作製し、接合によって電極1を形成しても構わない。また、シリコン基板の両面にフォトリソグラフィ技術を用いてパターニングし、ドライ若しくはウェットエッチング技術を用いて両面からエッチングを行うことにより貫通孔を形成することも出来る。
【0014】
第一の領域αを厚さ10μmのデバイス層を有するSOI基板を用いて作製し、第二の領域βを厚さ90μmのシリコン基板を用いて作製し、接合によって電極1を作製すると、実際には図5(a)に示すようになる場合がある。エッジ部に欠け6が生じる場合もあるし、第二の領域βを作製する時にノッチとして発生した窪み7が生じる場合もある。また、電極をレンズと使用した際の耐電圧を向上させるために、エッジ部に丸み8を形成する場合もある。この様な場合には、本来の電極として狙う形状として、第一の領域αと第二の領域βを図5(a)に示す範囲として考える。
【0015】
厚さ100μmのシリコン基板の両面にフォトリソグラフィ技術を用いてパターニングし、ドライ若しくはウェットエッチング技術を用いて両面からエッチングを行うことにより貫通孔を形成する場合について説明する。この場合には、図5(b)に示すように貫通孔の開口輪郭の形状がテーパ状となることがある。こうしたとき、図5(b)に示すように、最も内径の小さくなる箇所を第一の領域αとし、第一の領域αより荷電粒子源側の一部又は全ての領域を第二の領域βとして考える。また、図5(c)に示す様な場合もある。ここでは、第一の領域αを、厚さ10μmのデバイス層を有するSOI基板を用いて作製し、レンズの光学性能を規定する第二の領域βを、同様なSOI基板を用いて作製する。そして、第一の領域αと第二の領域βの間の領域を、厚さ80μmのシリコン基板を用いて作製し、接合によって電極1を作製する。こうした場合には、第一の領域αと第二の領域βを図5(c)に示す範囲として考える。
【0016】
以上の実施形態によれば、荷電粒子線を照射する対象物に最も近い所で用いる対物レンズ用の電極として、試料からの飛散物や蒸発物等が第二の領域や当該電極より荷電粒子源側に侵入するのを防ぐ遮蔽板の機能を有する第一の領域を備える電極を実現できる。
【0017】
(第二の実施形態)
図2(a)を用いて、本発明の第二の実施形態を説明する。本実施形態は、第一の実施形態の様な電極を用いた荷電粒子線対物レンズである。第一の実施形態と同じ機能を有する箇所には同じ記号を付し、重複する部分は説明を省略する。
【0018】
図2(a)に示すように、本実施形態の荷電粒子線対物レンズは電極1A、1B、1Cの3枚の電極を有している。3枚の電極は、光軸3を法線とする平板であり、互いに電気的に絶縁されている。3枚の電極は、それぞれ、不図示の荷電粒子源から放出された荷電粒子が通過する貫通孔4A、4B、4Cを有する。貫通孔4A、4B、4Cの中心は光軸方向に沿って整列している。各電極が複数の貫通孔を有する場合は、複数の電極のそれぞれ対応する貫通孔が光軸方向に沿って整列させられる。荷電粒子は光軸3の矢印の方向に進み、不図示の試料に到達する。電極1Cが最も試料に近い電極であり、上記第一の実施形態の電極が採用される。3枚の電極はそれぞれ不図示の給電パッドを有しており、所望の光学特性を示すように、それぞれの電位を規定することが出来る。例えば、電極1Aと電極1Cをアース電位とし、電極1Bに負電圧を印加することによりアインツェル型の静電対物レンズを構成することができる。
【0019】
一般に、静電型の荷電粒子線レンズは、荷電粒子線が通過する領域に形成されている静電場の形状によって、その性能が決まる。図2(a)に示すところの、荷電粒子線が通過する貫通孔4A〜4Cの領域に形成される静電場がそれに当たる。この領域に形成される静電場が、光軸3を軸として回転対称形であればあるほど収差が小さい荷電粒子線レンズとなる。静電型の荷電粒子線対物レンズの場合、特に収差に影響する静電場の場所は、貫通孔4Aの電極1B側下半分くらいの領域から、貫通孔4Cの電極1B側上半分くらいまでの領域となる。
【0020】
試料が荷電粒子線によって照射されることによって、試料の表面から、その表面を構成している材料、例えばレジストを構成している有機物等、が飛散及び蒸発される。この試料の表面からの飛散物及び蒸発物は、試料から近い対物レンズの部分に付着する。この試料の表面からの飛散物及び蒸発物が対物レンズに付着すると、帯電するなどして、対物レンズ内に形成される静電場を当初の状態から変化させてしまう。すると、対物レンズの収差特性が変化してしまう。
【0021】
本実施形態では、試料側に遮蔽板構造を持つ電極を、対物レンズ内で試料に最も近い電極1Cとして用いることによって、レンズの収差特性に特に影響を及ぼす箇所への試料の表面からの飛散物及び蒸発物の付着を抑制することができる。試料の表面からの飛散物及び蒸発物を遮蔽する機能を担っている第一の領域αの部分はレンズの収差特性に及ぼす影響が非常に小さいため、多くの場合、試料の表面からの飛散物及び蒸発物が付着してもあまり問題ないと言い得る。また、他の部分よりも開口輪郭を狭小にしても、あまり問題ないと言える。
【0022】
本実施形態の具体的な材料・寸法例を説明する。電極1Cについては第一の実施形態に示す通りである。電極1A、1Bは単結晶シリコンで形成される。それぞれの電極の表面及び貫通孔4A、4Bの側壁は導電性材料膜で覆われていても構わない。導電性材料としては、シリコンとの密着性が良く、導電性が高く、酸化し難い材料が選ばれる。例えば、チタン、白金、金、モリブデン等から選ばれる。電極1A、1Bの厚さはそれぞれ100μmである。貫通孔4A、4Bの内径はそれぞれ30μmである。電極1A、1B、1Cは、光軸3の方向に電気的に絶縁されてそれぞれ400μm離して配置される。電極1A、1B、1Cは絶縁性ガラスや絶縁性材料を介して配置されても構わない。電極1A、1B、1Cにはそれぞれ個別に電位を付与することが出来る。例えば、電極1Bに−3.7kVを印加し、電極1Aと1Cをアース電位とすることによって、アインツェル型の静電レンズを構成することができる。
【0023】
次に、本実施形態の製造方法を説明する。電極1Cについては第一の実施形態に示す通りである。電極1A、1Bは厚さ100μmのシリコン基板にフォトリソグラフィ技術とシリコンの深堀ドライエッチングにより貫通孔4A、4Bをそれぞれ形成する。
【0024】
以上のように本実施形態に係る荷電粒子線対物レンズは、遮蔽構造を有する電極を試料から最も近い電極に用いる。これによって、収差特性に影響を及ぼす第二の領域やレンズ内部への試料からの飛散物及び蒸発物の付着を抑制し、たとえ長時間、試料に荷電粒子線を照射しても、収差特性の変化しにくい静電型の荷電粒子線対物レンズを提供することができる。
【0025】
(第三の実施形態)
図2(b)と図3を用いて、本発明の第三の実施形態を説明する。本実施形態では、荷電粒子線対物レンズを荷電粒子線露光装置に適応した際の、荷電粒子線を照射する試料に最も近い電極の形状と試料との好ましい位置関係を示す。上記実施形態と同じ機能を有する箇所には同じ記号を付し、重複する部分は説明を省略する。
【0026】
図2(b)は、本実施形態に係る荷電粒子線露光装置の荷電粒子線対物レンズ付近の概略断面図である。図2(b)に示すように、本実施形態の荷電粒子線露光装置では、試料2は、各電極1A、1B、1Cの貫通孔4A、4B、4Cを通って到達する荷電粒子線によって照射される。試料2に荷電粒子線が照射されると、荷電粒子線が照射された箇所の試料2の表面から、その表面を構成している材料、例えばレジストを構成している有機物等、が直線的に弾き飛ばされる。電極1Cの内、第二の領域βが対物レンズの収差特性への影響が大きい部分であるため、試料2から第二の領域βを直接見えなくすることによって、試料2表面からの飛散物が第二の領域βに付着し難くすることが出来る。
【0027】
電極1Cは、第一の領域αと第二の領域βを有する構造であるが、フォトリソグラフィ工程や接合工程でのアライメントずれと言った製造上の問題で、第一の領域αと第二の領域βの貫通孔の中心位置がずれる場合が発生する。従って、製造上の位置ずれを考慮して、電極1Cの形状と試料2との相対位置関係を設計することが望ましい。特に、露光装置である描画装置の解像力を上げようとすればするほど、対物レンズと試料2との距離は狭くなるため、試料に荷電粒子線を照射した際に飛散される試料表面からの飛散物が対物レンズに付着し易くなる。よって、電極1Cの形状と試料2との相対位置関係を好ましい条件に設計することは非常に重要である。
【0028】
図3(a)は、本実施形態に係る電極1Cの第一の領域αの内径の輪郭と第二の領域βの内径の輪郭とを光軸方向に沿って試料に投影した時の概略平面図であり、図中のxは第一の領域αの内径の輪郭と第二の領域βの内径の輪郭との間の最小間隔である。図3(b)は、図2(b)の貫通孔4C付近の拡大図である。図中のhは電極1Cの光軸方向の厚さ、WDは電極1Cと試料2との光軸方向の間隔、φ1は第一の領域αの内径、yは電極1Cの荷電粒子源側の表面から第一の領域αまでの法線方向(光軸方向)の距離である。
【0029】
電極1Cの形状と試料2との相対位置関係を次の不等式の関係とすることによって、たとえ長時間、描画しても対物レンズの収差特性が変化し難い荷電粒子線露光装置を提供することが出来る。
x/y>φ1/(WD+h−y)
上記関係式を満たすように構成することにより、第二の領域βが試料2から完全に直接見えなくなるため、第二の領域βに付着する可能性があった試料からの飛散物や蒸発物等を第一の領域αでより好ましく遮蔽することが出来る。
【0030】
(第四の実施形態)
図4を用いて、本発明の第四の実施形態を説明する。本実施形態では、複数の荷電粒子線を用いた荷電粒子線露光装置を示す。上記実施形態と同じ機能を有する箇所には同じ記号を付し、重複する部分は説明を省略する。
【0031】
図4は、本実施形態に係わるマルチ荷電粒子ビーム露光装置の構成を示す図である。本実施形態は個別に投影系をもつ所謂マルチカラム式である。荷電粒子源である電子源108からアノード電極109、110によって引き出された放射電子ビームは、クロスオーバー調整光学系111によって照射光学系クロスオーバー112を形成する。ここで、電子源108としてはLaB6やBaO/W(ディスペンサーカソード)などのいわゆる熱電子型の電子源が用いられる。クロスオーバー調整光学系111は2段の静電レンズで構成されており、1段目・2段目共に静電レンズは3枚の電極からなり、中間電極に負の電圧を印加し上下電極は接地するアインツェル型の静電レンズである。
【0032】
照射光学系クロスオーバー112から広域に放射された電子ビーム113、114は、コリメータレンズ115によって平行ビーム116となり、アパーチャアレイ117へと照射される。アパーチャアレイ117によって分割されたマルチ電子ビーム118は、集束レンズアレイ119によって個別に集束され、ブランカーアレイ122上に結像される。ここで、集束レンズアレイ119は3枚の多孔電極からなる静電レンズで、レンズ制御回路105で制御され、3枚の電極のうち中間の電極にのみ負の電圧を印加し上下電極は接地するアインツェル型の静電レンズアレイである。またアパーチャアレイ117は、NA(収束半角)を規定する役割も持たせるため、集束レンズアレイ119の瞳面位置(集束レンズアレイの前側焦点面位置)に置かれている。ブランカーアレイ122は個別の偏向電極を持ったデバイスで、描画パターン発生回路102、ビットマップ変換回路103、ブランキング指令回路106によって生成されるブランキング信号に基づき、描画パターンに応じて個別にビームのon/offを行う。ビームがonの状態のときには、ブランカーアレイ122の偏向電極には電圧を印加せず、ビームがoffの状態のときには、ブランカーアレイ122の偏向電極に電圧を印加してマルチ電子ビームを偏向する。ブランカーアレイ122によって偏向されたマルチ電子ビーム125は後段(下流側)にあるストップアパーチャアレイ123によって遮断され、ビームがoffの状態となる。複数のアライナー120は、アライナー制御回路107で制御されて、電子ビームの入射角度と入射位置を調整する。また、コントローラー101は全体の回路を制御する。
【0033】
本実施例においてブランカーアレイは2段で構成されており、ブランカーアレイ122及びストップアパーチャアレイ123と同じ構造の、第二ブランカーアレイ127及び第二ストップアパーチャアレイ128が後段に配置されている。ブランカーアレイ122を通ったマルチ電子ビームは第二集束レンズアレイ126によって第二ブランカーアレイ127上に結像される。さらにマルチ電子ビームは第三・第四集束レンズによって集束されてウエハ133上に結像される。ここで、第二集束レンズアレイ126・第三集束レンズアレイ130・第四集束レンズアレイ132は集束レンズアレイ119同様に、アインツェル型の静電レンズアレイである。
【0034】
特に第四集束レンズアレイ132は対物レンズとなっており、その縮小率は100倍程度に設定される。これにより、ブランカーアレイ122の中間結像面上の電子ビーム121(スポット径がFWHMで2μm)が、ウエハ133面上で100分の1に縮小され、FWHMで20nm程度のマルチ電子ビームがウエハ上に結像される。第四集束レンズアレイ132の各貫通孔は不図示の本発明による上述の遮蔽板構造を有しており、ウエハ133面上からの飛散物及び蒸発物が、第四集束レンズアレイ132内の、対物レンズ特性に強く影響する箇所へ付着することを抑制している。ウエハ133上のマルチ電子ビームのスキャンは偏向器131で行うことができる。偏向器131は対向電極によって形成されており、x、y方向について2段の偏向を行うために4段の対向電極で構成される(図4中では簡単のため2段偏向器を1ユニットとして表記している)。偏向器131は偏向信号発生回路104の信号に従って駆動される。
【0035】
パターン描画中はウエハ133はX方向にステージ134によって連続的に移動させられる。そして、レーザー測長機による実時間での測長結果を基準として、ウエハ面上の電子ビーム135が偏向器131でY方向に偏向され、かつブランカーアレイ122及び第二ブランカーアレイ127で描画パターンに応じてビームのon/offが個別になされる。ビーム124はonのビームを示し、ビーム125、129はoffのビームを示す。これにより、ウエハ133面上に所望のパターンを高速に短い描画時間で描画することができる。以上のように、本実施形態に係るマルチ荷電粒子ビーム露光装置では、本発明の静電型の荷電粒子線対物レンズを備え、荷電粒子源からの複数の荷電粒子線が対物レンズの電極の複数の貫通孔を通過して対象物に照射される。この様に複数の荷電粒子線を用いて描画することによって、高スループットで長時間使用可能な荷電粒子線露光装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0036】
1・・電極、2・・対象物、3・・光軸、4・・貫通孔、α・・第一の領域、β・・第二の領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電型の荷電粒子線レンズに用いる電極であって、
少なくとも1つの貫通孔を有し、
前記貫通孔は、第一の開口輪郭を有する第一の領域と、前記第一の領域に対して荷電粒子線の上流側に位置させられるべき第二の開口輪郭を有する第二の領域を有しており、
光軸方向から見て前記第一の開口輪郭は前記第二の開口輪郭内に含まれることを特徴とする電極。
【請求項2】
前記貫通孔は円形断面を有し、
前記貫通孔の第一の領域は第一の内径を有し、前記貫通孔の第二の領域は、前記第一の内径よりも大きい第二の内径を有することを特徴とする請求項1に記載の電極。
【請求項3】
少なくとも1つの貫通孔を有する少なくとも1つの電極を備え、
荷電粒子線を照射する対象物に最も近い位置に配置された電極として、請求項1または2に記載の電極を用いたことを特徴とする静電型の荷電粒子線レンズ。
【請求項4】
前記対象物に最も近い位置に配置された電極の前記第一の領域の第一の開口輪郭と前記第二の領域の第二の開口輪郭を、光軸方向に沿って、荷電粒子線を照射する対象物に投影した時の、前記第一の領域の内径の輪郭と前記第二の領域の内径の輪郭との最小間隔をx、前記電極の光軸方向の厚さをh、該電極と前記対象物との光軸方向の間隔をWD、前記第一の領域の内径をφ1、該電極の荷電粒子線の上流側の表面から前記第一の領域までの光軸方向の距離をy、とした時に、
x/y>φ1/(WD+h−y)であることを特徴とする請求項3に記載の静電型の荷電粒子線レンズ。
【請求項5】
それぞれ荷電粒子線の通過する複数の貫通孔を有する複数の電極を備え、
前記複数の電極のそれぞれ対応する貫通孔は光軸方向に沿って整列していることを特徴とする請求項3または4に記載の静電型の荷電粒子線レンズ。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項に記載の静電型の荷電粒子線レンズを備え、
荷電粒子源からの荷電粒子線が前記レンズの電極の貫通孔を通過して対象物に照射されることを特徴とする荷電粒子線露光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−8534(P2013−8534A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139965(P2011−139965)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】