荷電粒子線装置及び荷電粒子線を用いた測長方法
【課題】デバイス試料の傾斜ズレによる測長誤差を最小化する。
【解決手段】測長前に、試料の単結晶部分から回折パターンを取得し、取得された回折パターンに基づいて荷電粒子線に対する試料の傾斜角を補正する。
【解決手段】測長前に、試料の単結晶部分から回折パターンを取得し、取得された回折パターンに基づいて荷電粒子線に対する試料の傾斜角を補正する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄片化された微細なデバイス試料を高い精度で測長するのに有用な技術に関する。例えばデバイス試料の傾斜ズレを自動的に補正する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
デバイス試料の長さの計測には、一般的にSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)やCD-SEM(Critical Dimention-SEM:測長走査型電子顕微鏡)が使用され、これらを用いてデバイス試料の表面又は断面(SEMのみ)を測長する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本願発明者がデバイス試料の測長手法について鋭意検討した結果、次の知見を得るに至った。従来の測長手法は、デバイス試料の傾斜角の調整を専ら目視に頼っており、正確な傾斜補正については配慮がされていない。このため、近年のように微細化されたデバイス試料の測長では、傾斜ズレによる測長誤差が無視できない問題になってくる。また、TEM(Transmission Electron Microscope:透過電子顕微鏡)やSTEM(Scanning Transmission Electron Microscope:走査透過電子顕微鏡)を使用しての測長の場合にも、多結晶のみで構成される薄膜試料を測長する場合には、傾斜ズレによる測長誤差が無視できない問題になってくる。
【0004】
本発明の目的は、デバイス試料の傾斜ズレによる測長誤差の問題を最小限に抑えることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、測長前に、試料の単結晶部分から回折パターンを取得し、取得された回折パターンに基づいて荷電粒子線に対する試料の傾斜角を補正する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、試料の傾斜角を正確に調整でき、高い精度で対象部分の長さを測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】荷電粒子線装置の機能ブロック例を示す図。
【図2】傾斜補正機能の概念構成を示す図。
【図3】傾斜補正機能の概略を示すフローチャート。
【図4】測長処理機能の全体を示すフローチャート。
【図5】傾斜角と対応する回折パターンの関係を説明する図。
【図6】高分解能像の一例を示す図。
【図7】既知の長さを用いた測長結果の校正を説明する図。
【図8】デバイス試料の傾斜角と強度スペクトルの出現パターンの関係を説明する図。
【図9】薄膜試料の作製方法を例示する図。
【図10】単結晶部の探索方法を説明する図。
【図11】針状に加工した薄膜試料を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面に基づいて、本発明の実施例を説明する。なお、後述する装置構成や処理動作の内容は発明を説明するための一例である。本発明は、後述する装置構成や処理動作に既知の技術を組み合わせた発明や後述する装置構成や処理動作の一部を既知の技術と置換することによっても実現できる。
【0009】
[実施例1]
図1に、荷電粒子線装置の概略的な機能ブロック図を示す。電子線源(荷電粒子線源)1から放出された電子線(荷電粒子線)3は、加速電極2で加速された後、第一集束電磁レンズ4、第二集束電磁レンズ5及び対物電磁レンズ9の前磁場を経由して試料台10に保持された試料11に照射される。電子線源1には、例えばCold FE GUN(HF-3300,HD-2300)、SE GUN(HD-2700)、LaB6単結晶型GUN(H-9500,H-7650)、Wフィラメント(H-7650)等を使用する。
【0010】
試料11は、照射された電子線3との相互作用により試料の情報を有する二次電子8、試料前方散乱電子12、試料透過電子13を発生する。このとき、電子線3は、電子線の光軸に対して対称位置に配置された走査コイル6により発生される磁場により試料上を走査する。なお、表示部ドライバー59は、試料上の電子線の走査と表示画面上の描画走査の同期を取ることにより、表示部60の表示画面上に試料の拡大像を形成する。
【0011】
試料から発生される二次電子8は、蛍光体16の発光を検出する光電子増倍管17を通じて検出される。なお、光電子増倍管17の出力信号は、微小電流増幅器29によって増幅され、ADC(analog to digital converter)41に与えられる。ADC41(analog to digital converter)により、光電子増倍管17の出力信号は、アナログ形式からディジタル形式に変換され、データバスに取り込まれる。この実施例では、二次電子の検出器を蛍光体16と光電子増倍管17で構成するが、マルチチャネルプレートその他の半導体検出器を用いても良い。
【0012】
因みに、試料から発生される試料前方散乱電子12は、前方散乱電子検出器14によって検出される。また、試料から発生される試料透過電子13は、試料透過電子検出器15によって検出される。前方散乱電子検出器14及び試料透過電子検出器15は、蛍光体と光電子増倍管の組合せとして構成しても良いし、半導体検出器として構成しても良い。
【0013】
電子線源1の印加電圧、加速電極2の加速電圧や電子線の引き出し電圧、フィラメント電流等の値は、マイクロプロセッサ44により設定される。電圧や電流の設定信号は、マイクロプロセッサ44からデータバスを経由してDAC(digital to analog converter)32、33に入力され、アナログ形式の信号に変換される。アナログ変換後の設定信号は、電圧安定装置21、22を通じて電子線源電源18及び加速用高圧電源19に与えられる。
【0014】
第一集束電磁レンズ4、第二集束電磁レンズ5、対物電磁レンズ9の励磁電源も、マイクロプロセッサ44により設定される。この設定信号は、マイクロプロセッサ44からデータバスを経由してDAC(digital to analog converter)34、35、39に入力され、アナログ形式の設定信号に変換される。アナログ変換後の設定信号は、電磁レンズ電源23、24、25を通じ、電流信号として各電磁レンズに対して与えられる。
【0015】
試料11の位置制御は、オペレータによるロータリーエンコーダ56、57の操作を通じた試料台10の駆動により、又は、予め記録された試料位置駆動パターンに従った試料台10の駆動により実現される。ここで、試料台10には、例えば二軸傾斜ホルダ、回転ホルダ、In-situホルダ等を使用する。また、ロータリーエンコーダ56、57の出力は、インターフェース54、55を通じて試料台10の試料駆動装置20に与えられる。
【0016】
走査機構(走査コイル6)が電子線3に作用させる電場又は磁場の大きさを変化させることにより、電子線3の試料上での走査量は任意に変化させることができる。例えば走査コイル6に印加する電流の大きさを変化させ、試料上における電子線3の走査範囲を変えれば、二次電子による試料像の拡大倍率を変えることができる。因みに、電子線が走査する試料表面の領域を狭くすれば二次電子像の拡大倍率は大きくなり、反対に電子線が走査する試料表面の領域を広くすれば二次電子像の拡大倍率は小さくなる。
【0017】
この他、荷電粒子線装置は、偏向コイル7、コイル電源26、27、28、微小電流増幅器30、31、DAC36、37、38、40、ADC42、43、RAM45、画像相関計算処理部46、周期画像演算処理部47、非周期画像演算処理部48、倍率データテーブル49、オフセット電圧計算部50、偏向系制御部51、補正データテーブル52、像回転計算部53、キーボード58、コントラスト変換装置61を有している。
【0018】
図2に、試料11の傾斜補正に関連する機能ブロックの概略構成を示す。電子線3は、試料11で回折され、試料台10の背後に配置された撮像部(例えばCCDカメラ62)の検出面に電子線回折像(回折パターン)を構築する。なお、撮像部(検出器)は、CMOSカメラでも良い。ここでの撮像部(検出器)は、図1の試料透過電子検出器15に対応する。CCDカメラ62の検出信号(電子線回折像の情報)は、図1の微小電流増幅器31、ADC43を通じてデータバスに与えられる。
【0019】
検出された電子線回折像は、自動傾斜補正ソフトウェア63において、X軸方向及びY軸方向の強度プロファイルに変換される。ここで、自動傾斜補正ソフトウェア63は、マイクロプロセッサ44において実行されるコンピュータプログラムとして提供される。自動傾斜補正ソフトウェア63は、例えば試料面の電子線3に対する傾斜角のズレ量を計算し、計算結果に基づいて試料駆動装置20を駆動制御することにより、試料11の傾斜角度を最適な角度に調整する。試料駆動装置20は、試料台の水平面内で駆動できるだけでなく、試料台の傾斜角も駆動制御できる。なお、傾斜角の調整は回転軸を中心とした回転量の制御だけでなく、複数個の高さ調整ピンの高さの調整によっても実現できる。以下では、便宜的に回転軸の周りに回転させる場合について説明する。また、自動傾斜補正ソフトウェア63は、例えばX軸方向又はY軸方向を回転中心として試料11の傾斜角をリアルタイムで自動調整し、各調整角について逐次抽出される電子線回折像の強度プロファイルに基づいて試料11の傾斜角度を最適な角度に調整する。勿論、試料11の傾斜角度の調整は、試料11を搭載する試料台の傾斜角の駆動制御を通じて実現される。
【0020】
図3に、自動傾斜補正ソフトウェア63を通じて実行される処理手順の概略を示す。自動傾斜補正処理は、自動傾斜補正処理を適用する箇所を探索する処理と、探索された箇所について試料の傾斜角を自動的に補正する処理に分類することができる。
【0021】
まず、自動傾斜補正ソフトウェア63は、薄膜試料全体を電子線でスキャンし、各地点の電子線回折像を自動的に取得する(ステップ301)。次に、自動傾斜補正ソフトウェア63は、電子線回折像の強度プロファイルとその座標情報に基づいて、薄膜試料(基板部)の中から単結晶の領域を探索する(ステップ302)。
【0022】
この実施例では、広い領域(例えば事前に設定された一定以上の面積をもつ領域)内の複数個所から全て同じ回折パターンが検出された場合、当該領域が基板部の単結晶領域であると判定する。判定精度を高めるためには、判定対象である領域内から回折パターンを取得する個数を増やすことが望ましい。また、回折パターンを取得する箇所は、判定対象である領域内で可能な限り離れていることが望ましい。例えば判定対象である領域が矩形である場合、その4隅付近を回折パターンの取得に用いることが望ましい。なお、薄膜試料全体のうち単結晶領域を探索する領域(判定対象としての領域)は、試料の多結晶部構造の大小等を考慮してユーザーが指定しても良い。もっとも、後述するように、当該探索領域を、画像処理等に基づいて自動設定する方式を採用しても良い。
【0023】
次に、自動傾斜補正ソフトウェア63は、薄膜試料(基板部)の単結晶領域に電子線を照射させた状態のまま、薄膜試料をX軸方向に傾斜させる。すなわち、自動傾斜補正ソフトウェア63は、Y軸を中心に薄膜試料を回転駆動する。自動傾斜補正ソフトウェア63は、薄膜試料のX軸方向の傾斜角(Y軸周りの回転角)の情報と電子線回折像の強度プロファイルの情報をリアルタイムで取得する。自動傾斜補正ソフトウェア63は、リアルタイムで得られる各傾斜角の強度プロファイルを画像処理し、強度プロファイルが左右対称となる傾斜角を自動的に探索する(ステップ303)。なお、薄膜試料の傾斜が所定角度に達すると、自動傾斜補正ソフトウェア63は、例えば傾斜開始前の状態に戻す。また例えば、自動傾斜補正ソフトウェア63は、強度プロファイルが左右対称となる傾斜角に、薄膜試料の傾斜を戻す。
【0024】
自動傾斜補正ソフトウェア63は、薄膜試料(基板部)の単結晶領域に電子線を照射させた状態のまま、今度は薄膜試料をY軸方向に傾斜させる。すなわち、自動傾斜補正ソフトウェア63は、X軸を中心に薄膜試料を回転駆動する。自動傾斜補正ソフトウェア63は、薄膜試料のY軸方向の傾斜角(X軸周りの回転角)の情報と電子線回折像の強度プロファイルの情報をリアルタイムで取得する。自動傾斜補正ソフトウェア63は、リアルタイムで得られる各傾斜角の強度プロファイルを画像処理し、強度プロファイルがメインスポットに対して左右対称となる傾斜角を自動的に探索する(ステップ304)。
【0025】
ここで、ステップ303及び304において、強度プロファイルがメインスポットに対して左右対称となる傾斜角を探索するのは、強度プロファイルがメインスポットに対して左右対称となる傾斜角においては、薄膜試料面と電子線の入射軸との関係が垂直となり、測長誤差が最小化すると考えられるためである。
【0026】
前述したように、デバイス試料の単結晶部分の回折パターン像(強度スペクトルの分布)をTEM又はTEM付属のSTEM機能で取得することにより、測長のために入射する電子ビーム線に対するデバイス試料の傾斜を自動的に補正することができる。
【0027】
以上のように、本実施例の場合には、複数の傾斜角についてリアルタイムに出現する複数枚の強度プロファイルを使用し、測長に最適な傾斜角を探索する手法を採用する。しかし、測長に最適な傾斜角を、ある1つの傾斜角について得られる1枚の強度プロファイルに基づいて、自動傾斜補正ソフトウェア63の演算処理を通じて求めても良い。
【0028】
[実施例2]
続いて、実施例に係る荷電粒子線装置を用いた測長処理手順の概略を説明する。図4に、実施例に係る測長処理手順のフローチャートを示す。
【0029】
まず、測長対象の結晶構造を確認する。具体的には、測長対象は単結晶部のみの構造か否かを判定する(ステップ401)。この判定は、例えば作業者が行う。
【0030】
測長対象が単結晶のみの領域で構成されている場合(ステップ401で肯定結果の場合)、測長対象のみを含む薄膜試料の加工領域をFIB(Focused Ion Beam)装置に対して作業者が入力し、薄膜試料を製作する(ステップ402)。一方、測長対象が多結晶又は非晶質の領域で構成されている場合(ステップ401で否定結果の場合)、作業者が測長対象だけでなく単結晶部も含む薄膜試料の加工領域をFIB(Focused Ion Beam)装置に対して作業者が入力し、薄膜試料を製作する(ステップ403)。
【0031】
次に、薄膜試料(デバイス試料)は荷電粒子線装置内に導入される。荷電粒子線装置は、導入された薄膜試料について測長対象を探索する(ステップ404)。なお、測長対象の座標は、作業者によって荷電粒子線装置に入力される。
【0032】
次に、荷電粒子線装置(図1)は、単結晶部の回折パターンを表示部60に表示し、薄膜試料の最適な傾斜角を手動又は自動で調整する(ステップ405)。図3で説明したように、薄膜試料の傾斜角の調整は単結晶部について行う必要がある。従って、薄膜試料が単結晶のみで構成されていない場合、傾斜補正を実行するための領域を特定又は指定する必要がある。この実施例の場合、傾斜補正に使用する領域は、例えば作業者が表示部60に表示された画像に基づいて指定しても良いし、後述する手法により荷電粒子線装置が自動的に特定しても良い。当該ステップ405において、荷電粒子線装置は、単結晶部について薄膜試料を測長に適した傾斜角(X軸方向の傾斜角及びY軸方向の傾斜角)に調整する。
【0033】
この後、荷電粒子線装置は、格子縞又は既知の幅を観察し、1ピクセル当たりの長さを校正をする(ステップ406)。次に、荷電粒子線装置は、測長対象の領域を観察し、その画像を取得する(ステップ407)。
【0034】
ここで、作業者は、必要とする測長対象の画像が取得されたか否かを取得された画像に基づいて判断する(ステップ408)。もし、ステップ408で否定結果が得られた場合、作業者は、不足する測長対象は、同じ薄膜試料内に存在するか否かを判定する(ステップ409)。もし、不足する測長対象が同じ薄膜試料内に存在する場合(ステップ409で肯定結果の場合)、作業者は、観察視野の移動を荷電粒子線装置に指示する(ステップ410)。この結果、荷電粒子線装置は、新たに指定された観察視野領域の画像を取得するステップ407に戻る。一方、ステップ409で否定結果が得られた場合、作業者は、薄膜試料の交換を指示し、新たな薄膜試料について回折パターンの表示、薄膜試料の傾斜補正を実行する(ステップ411)。その後、作業者は、現在の倍率が、ステップ406で校正した倍率と同じか否かを判定し、倍率が違っている場合にはステップ406に戻り、倍率が同じ場合にはステップ407に戻る(ステップ412)。
【0035】
以上のように、倍率が校正された測長対象の画像が得られた場合(ステップ408で肯定結果が得られた場合)、作業者は、荷電粒子線装置の表示部60に表示された観察対象について測長作業を実行する(ステップ413)。なお、薄膜試料の視野領域内に同一形状かつ同一箇所(同じデバイス構造を有する視野内の複数個所)については一括して測長する。以上のように、実施例に係る荷電粒子線装置を用いた測長処理は、ステップ402からステップ413について適用される。
【0036】
[実施例3]
図5に、荷電粒子線装置を用いた測長技術を具体的に説明する。図5は、薄片化された試料の断面、その上面、当該領域の回折パターンをそれぞれ観察した図を示している。前述した測長技術は、格子縞又は既知の長さを有する試料であれば、どのような試料についても適用可能である。ただし、図5の試料では、便宜的に簡単な構造のシリコン(Si)単結晶のラインパターン64を想定する。なお、ラインパターン64の表面は、保護膜層65で覆われている。
【0037】
まず、傾斜角度0°の状態(初期の傾斜角であり、傾斜補正は実行されていない状態)で観察される薄片化された試料の断面像501及び上面像502を、実施例に対する比較例として説明する。ここで、上面像502は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope; TEM)及び走査型透過電子顕微鏡(Scanning TEM; STEM)によっては観察することができない。ただし、傾斜補正が実行されない場合、上面像502に示すような傾斜ズレが予想される。前述した傾斜補正を実行しない場合、回折パターン503が得られる。図5の場合、回折パターン503は、正六角形の各頂点位置に対応する6つのスポットと、正六角形の中心位置に対応する1つのスポット(メインスポット)で構成される。回折パターン503の場合、6つのスポットの大きさがばらついている(左右対称でない)。従って、初期傾斜角における薄膜試料は、測長に使用する電子線の入射角に対して傾斜しており、測長結果に傾斜ズレの影響が残ることが予想される。
【0038】
そこで、図3に示す傾斜補正を実行し、メインスポットの周りに均等な大きさの6個のスポットが出現する回折パターン506が薄膜試料の傾斜角を調整する。この実施例では、自動傾斜補正ソフトウェア63が傾斜補正を自動実行するが、同等の補正を手動で行うことも可能である。傾斜補正を実行すると、断面像504と上面像505が得られる。このような断面像504と上面像505からも試料の傾斜調整が正確に実施されていることを確認することができる。
【0039】
次に、荷電粒子線装置は、断面像504の領域Aの高分解能像(図6)を観察し、格子縞68の観察を通じて長さを測定する。この測定情報に基づいて、1ピクセル当たりの長さを校正する。次に、校正した情報(1ピクセル当たりの長さ)に基づいて、視野領域内の測長対象Bを測長する。
【0040】
[実施例4]
以下では、測長処理に関連する個別の処理動作の具体例を説明する。まず、図7を用い、校正処理動作の具体例を説明する。図7は、既知の幅を有する構造物69の断面図である。なお、図7は、格子縞を観察できない低倍率の断面図とする。この場合、既知の長さを有する幅Cを用いて1ピクセル当たりの長さを校正することができる。
【0041】
図8に、薄膜試料の傾斜角を自動補正する場合における回折パターンの調整方法を示す。なお、前述したように、傾斜角の補正は、薄膜試料内の単結晶部について行われる。図8のうち回折パターン801は、薄膜試料の傾斜角が最適角からズレている場合(単結晶面が電子線と垂直でない場合)の例である。図5の回折パターン503と同様、スポットが左右対称になっていないことが分かる。
【0042】
強度スペクトル802及び803は、それぞれ回折パターン801のD方向に対する強度スペクトル及びE方向に対する強度スペクトルである。強度スペクトル802内のピークGの強度とピークHの強度、並びに、ピークFの強度とピークIの強度がそれぞれ一致していないことが分かる。一方、強度スペクトル803内のピーク強度KとピークLの強度、並びに、ピーク強度Jとピーク強度Mの強度はそれぞれ一致していることが分かる。以上の関係から、傾斜角の調整は、D方向についてのみ(すなわち、メインスポットを通るE方向を回転軸とする回転角の調整のみ)が必要であることが分かる。
【0043】
このように、直交する2方向(ここではD方向及びE方向)について取得される各傾斜角に対応する回折パターンの強度スペクトルの関係をリアルタイムでモニタリングしながら傾斜角を調整することにより、傾斜角が最適化された回折パターン804及び強度パターン805及び806が得られる。
【0044】
[実施例5]
以下では、測長対象が単結晶のみで構成されていない場合における薄膜試料の作製方法について説明する。図9に、傾斜補正に必要な単結晶部と測定対象を含む薄膜試料を作製するための方法の一例を示す。
【0045】
図9には、多結晶領域(測定対象)と単結晶領域の両方を含む試料の鳥瞰像901を示す。なお、鳥瞰像901に示す試料は、多結晶のラインパターン70で構成されている。側面図902及び904は、鳥瞰像901に対応する構造部分を側面方向から見た図である。また、上面図903は、FIB(Focused Ion Beam)加工観察装置を用い、側面図902のうち点線で囲まれた領域Xを対象として切り出した薄膜試料を上面側から見た図である。上面図903の場合、薄膜試料には単結晶領域が存在しない。すなわち、薄膜試料には、多結晶のラインパターン70と保護膜65しか存在しない。従って、領域Xに対応する薄膜試料によっては、前述した回折パターンを用いた傾斜調整を行うことができない。
【0046】
そこで、側面図904の実線で囲まれた領域Yを薄膜試料として用意する。この側面図904には、上面図905が対応する。この薄膜試料は、測長対象の領域(ラインパターン70のある高さ(基板面からの長さ)におけるパターン断面)と単結晶の基板面の両方を立体的に含む。このため、領域Yは、3本のラインパターン70のうち1本のラインパターンの深部まで(単結晶の基板面が現れる深度まで)試料を切り下げた構造を有している。上面図905の場合、薄膜試料の3分の1程度の面積が単結晶部となる。このため、上面図905の3分の1程度が、単一の格子縞のみの連続領域で構成されている。
【0047】
以上説明したように、測長対象が単結晶のみで構成されていない場合には、領域Yのように立体的に薄膜試料を切り出すことにより、測長対象と単結晶部の両方を含む薄膜試料を作製することができる。勿論、薄膜試料のうち測長対象であるラインパターン70を含む上面側の加工面と、単結晶部を含む下面側の加工面は平行になる。この平行性は、FIB加工観察装置の加工精度から保証される。以上のように、測長対象の領域に単結晶が含まれない場合にも、図9で示す薄膜試料の作製方法の適用により、傾斜補正が可能な薄膜試料を作製できる。
【0048】
[実施例6]
次に、図10を用い、多結晶部及び単結晶部を含む薄膜試料から自動的に単結晶部だけを含む基板部を探索する方法について説明する。そこで、上面図905に対応する薄膜試料の上面図1001を示す。前述の通り、上面図1001には、多結晶の領域と単結晶の領域の両方が含まれている。
【0049】
まず、上面図1001を有する薄膜試料の全ての上面領域について、電子線回折像を取得する。次に、任意に指定した領域Z及び領域A’(図中太線で示す正方形領域)の電子回折像を比較する。なお、領域Z及び領域A’の面積は同じである。ここで、領域Z及び領域A’の面積は、多結晶領域のサイズに応じて決定するのが望ましい。また、今回抽出している2つの領域は、同じ面積の領域単位で上面領域の全域をスキャンした後に指定した一部を表示している。このうち、領域Zは、多結晶のラインパターン70及びアモルファスの保護膜層65を含む領域である。一方、領域A’は基板の単結晶のみを含む領域である。
【0050】
領域内の複数点の回折パターンが全て同じである場合、荷電粒子線装置は、当該領域が単結晶の領域であると判定する。一方、領域内の複数点の回折パターンが全て同じでない場合、荷電粒子線装置は、当該領域が単結晶の領域でないと判定する。例えば電子回折像1002は、領域A’内のB’点について得られる回折パターンである。領域A’は全て単結晶のため、領域A’内の任意の複数点の電子線回折像が全て同じになる。なお、単結晶の領域か否かの判定に使用する観察点の個数は多い方が好ましい。例えば2個以上が好ましい。また、観察点同士は、判定領域内で可能な限り離れた場所を含む方が好ましい。観察点の分布領域が狭い場合、誤判定のおそれが高まるからである。例えば判定対象の領域の4隅付近を観察点とすることが望ましい。
【0051】
一方、電子回折像1003、1004及び1005は、領域Z内のC’点、D’点及びE’点のそれぞれについて得られる回折パターンである。図10の領域Zは、多結晶部(C’点、D’点)及びアモルファス部(E’点)を含む。このため、電子回折像1003、1004及び1005に示すように、領域Z内に複数の電子線回折像が出現する。このように、一つの判定領域内に異なる結晶構造が複数存在する場合、当該領域は基板部ではないとソフトウェア処理によって判定することができる。
【0052】
従って、測長対象の領域が単結晶でない場合でも、その薄膜試料のうち作業者が任意に指定された領域について電子線をスキャンし、該当領域内の各点の電子回折像を検出することにより、単結晶だけの構造を有する領域A’を自動的に検出することができる。この実施例では、作業者が領域を指定することで電子線のスキャン範囲を限定し、単結晶領域の検出効率を高めている。ただし、荷電粒子線装置が過去の同種の測定結果の情報等をデータベースから読み出し、当該情報に基づいて指定した領域について単結晶領域か否かの判定を実行しても良い。
【0053】
[実施例7]
以下、他の実施例を説明する。図9に示す例の場合、薄膜試料を平面状に切り出す場合について説明した。しかし、薄膜試料を針状に加工する場合にも、同様に最適な傾斜補正及び高精度での測長が可能である。図11に、針状に加工された薄膜試料の鳥瞰図1101及びその側面図1102及び1103を示す。側面図1102は薄膜試料を鳥瞰図1101のF’方向から見た構造であり、側面図1103は薄膜試料を鳥瞰図1101のG’方向から見た構造である。なお、側面図1102及び1103は、いずれもFIB加工前の側面図であり、太線で囲まれた領域H’及びI’がFIB加工後に残る領域に対応する。図11に示す針状の薄膜領域の場合も、単結晶だけで構成される基板に対応する領域(格子縞68)と、測長領域に対応する多結晶のラインパターン70の両方が含まれている。従って、針状の薄膜試料を用いても、傾斜補正後に高精度の測長を実現できる。
【0054】
また、前述の実施例では、薄膜試料をFIBにより加工する場合について説明したが、イオンミリング装置を用いて作製しても良い。
【0055】
前述したように、デバイス試料の単結晶部分の回折パターン像(強度スペクトルの分布)をTEM又はTEM付属のSTEM機能で取得することにより、測長のために入射する電子ビーム線に対するデバイス試料の傾斜を自動的に補正することができる。
【0056】
このとき、高分解能像観察による格子縞又はデバイス等の既知の長さを有する幅を用いて測長結果を校正すれば、測長精度を一段と高めることができる。なお、多結晶部のみ領域を測長対象としたい場合は、多結晶部と単結晶部の両方を含む薄膜試料をFIB加工により作製することにより、多結晶部分の測長実行前に、薄膜試料の傾斜ずれを補正することができる。
【0057】
また、高角度散乱暗視野(HAADF:High Angle Annular Dark Field)STEM像を用いて薄膜試料を観察すれば、結晶構造によるコントラストの影響を低減できる。これにより、測長区間を正確に指定でき、結果的に測長精度を向上させることができる。
【0058】
また、結像に寄与するレンズがTEMより少ないSTEM専用機を測長時に使用すれば、測長結果に対する倍率誤差を少なくすることができる。
【0059】
また、薄膜試料内の多数の測長対象を一括して測長することにより、又は、薄膜試料のうち同一構造や形状を有する測長対象を一括して測長することにより、薄膜試料のうち基板面に対して同じ高さを有する部分(同一箇所)の測長対象を一括して測長することにより、測長対象間の測長誤差を少なくすることができる。
【0060】
また、前述した図6及び図7に示したように、格子縞又は既知の長さによる構成を実施した倍率が、格子縞又は既知の長さを有する構造物全体を観察できない場合でも、前述した傾斜補正技術を適用して電子線と薄膜試料の位置関係を最適化すれば、倍率(視野)が異なる場合にも高精度での測長が可能になる。
【0061】
また、前述した傾斜補正技術は、前述したように、回折パターンの傾斜補正箇所の自動検出処理(薄膜試料から単結晶の領域を自動的に検出する処理)を組み合わせることにより、傾斜補正の完了までの時間を短縮することができる。
【符号の説明】
【0062】
1:荷電粒子線源、2:加速電極、3:電子線、4:第一集束電磁レンズ、5:第二集束電磁レンズ、6:走査コイル、7:偏向コイル、8:試料二次電子、9:対物電磁レンズ、10:試料台、11:試料、12:試料前方散乱電子、13:試料透過電子、14: 試料前方散乱電子検出器、15:試料透過電子検出器、16:蛍光体、17:光電子増倍管、18:電子線源電源、19:加速用高圧電源、20:試料駆動装置、21:電圧安定装置、22:電圧安定装置、23〜25:電磁レンズ電源、26〜28:コイル電源、29〜31:微小電流増幅器、32〜40:デジタル−アナログ変換器(DAC)、41〜43:アナログ−デジタル変換器(ADC)、44:マイクロプロセッサ、45:ランダムアクセスメモリ(RAM)、46:画像相関計算処理部、47:周期画像演算処理部、48:非周期画像演算処理部、49:倍率データテーブル、50:オフセット電圧計算部、51:偏向系制御部、52:補正データテーブル、53:像回転計算部、54〜55:インターフェース、56〜57:ロータリーエンコーダ、58:キーボード、59:表示部ドライバー、60:表示部、61:コントラスト変換装置、62:CCDカメラ、63:自動傾斜補正ソフトウェア、64:Si単結晶のラインパターン、65:保護膜層、66:回折パターンのメインスポット、67:回折パターンのスポット、68:格子縞、69:既知の幅を有する構造物、70:多結晶のラインパターン
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄片化された微細なデバイス試料を高い精度で測長するのに有用な技術に関する。例えばデバイス試料の傾斜ズレを自動的に補正する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
デバイス試料の長さの計測には、一般的にSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)やCD-SEM(Critical Dimention-SEM:測長走査型電子顕微鏡)が使用され、これらを用いてデバイス試料の表面又は断面(SEMのみ)を測長する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本願発明者がデバイス試料の測長手法について鋭意検討した結果、次の知見を得るに至った。従来の測長手法は、デバイス試料の傾斜角の調整を専ら目視に頼っており、正確な傾斜補正については配慮がされていない。このため、近年のように微細化されたデバイス試料の測長では、傾斜ズレによる測長誤差が無視できない問題になってくる。また、TEM(Transmission Electron Microscope:透過電子顕微鏡)やSTEM(Scanning Transmission Electron Microscope:走査透過電子顕微鏡)を使用しての測長の場合にも、多結晶のみで構成される薄膜試料を測長する場合には、傾斜ズレによる測長誤差が無視できない問題になってくる。
【0004】
本発明の目的は、デバイス試料の傾斜ズレによる測長誤差の問題を最小限に抑えることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、測長前に、試料の単結晶部分から回折パターンを取得し、取得された回折パターンに基づいて荷電粒子線に対する試料の傾斜角を補正する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、試料の傾斜角を正確に調整でき、高い精度で対象部分の長さを測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】荷電粒子線装置の機能ブロック例を示す図。
【図2】傾斜補正機能の概念構成を示す図。
【図3】傾斜補正機能の概略を示すフローチャート。
【図4】測長処理機能の全体を示すフローチャート。
【図5】傾斜角と対応する回折パターンの関係を説明する図。
【図6】高分解能像の一例を示す図。
【図7】既知の長さを用いた測長結果の校正を説明する図。
【図8】デバイス試料の傾斜角と強度スペクトルの出現パターンの関係を説明する図。
【図9】薄膜試料の作製方法を例示する図。
【図10】単結晶部の探索方法を説明する図。
【図11】針状に加工した薄膜試料を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面に基づいて、本発明の実施例を説明する。なお、後述する装置構成や処理動作の内容は発明を説明するための一例である。本発明は、後述する装置構成や処理動作に既知の技術を組み合わせた発明や後述する装置構成や処理動作の一部を既知の技術と置換することによっても実現できる。
【0009】
[実施例1]
図1に、荷電粒子線装置の概略的な機能ブロック図を示す。電子線源(荷電粒子線源)1から放出された電子線(荷電粒子線)3は、加速電極2で加速された後、第一集束電磁レンズ4、第二集束電磁レンズ5及び対物電磁レンズ9の前磁場を経由して試料台10に保持された試料11に照射される。電子線源1には、例えばCold FE GUN(HF-3300,HD-2300)、SE GUN(HD-2700)、LaB6単結晶型GUN(H-9500,H-7650)、Wフィラメント(H-7650)等を使用する。
【0010】
試料11は、照射された電子線3との相互作用により試料の情報を有する二次電子8、試料前方散乱電子12、試料透過電子13を発生する。このとき、電子線3は、電子線の光軸に対して対称位置に配置された走査コイル6により発生される磁場により試料上を走査する。なお、表示部ドライバー59は、試料上の電子線の走査と表示画面上の描画走査の同期を取ることにより、表示部60の表示画面上に試料の拡大像を形成する。
【0011】
試料から発生される二次電子8は、蛍光体16の発光を検出する光電子増倍管17を通じて検出される。なお、光電子増倍管17の出力信号は、微小電流増幅器29によって増幅され、ADC(analog to digital converter)41に与えられる。ADC41(analog to digital converter)により、光電子増倍管17の出力信号は、アナログ形式からディジタル形式に変換され、データバスに取り込まれる。この実施例では、二次電子の検出器を蛍光体16と光電子増倍管17で構成するが、マルチチャネルプレートその他の半導体検出器を用いても良い。
【0012】
因みに、試料から発生される試料前方散乱電子12は、前方散乱電子検出器14によって検出される。また、試料から発生される試料透過電子13は、試料透過電子検出器15によって検出される。前方散乱電子検出器14及び試料透過電子検出器15は、蛍光体と光電子増倍管の組合せとして構成しても良いし、半導体検出器として構成しても良い。
【0013】
電子線源1の印加電圧、加速電極2の加速電圧や電子線の引き出し電圧、フィラメント電流等の値は、マイクロプロセッサ44により設定される。電圧や電流の設定信号は、マイクロプロセッサ44からデータバスを経由してDAC(digital to analog converter)32、33に入力され、アナログ形式の信号に変換される。アナログ変換後の設定信号は、電圧安定装置21、22を通じて電子線源電源18及び加速用高圧電源19に与えられる。
【0014】
第一集束電磁レンズ4、第二集束電磁レンズ5、対物電磁レンズ9の励磁電源も、マイクロプロセッサ44により設定される。この設定信号は、マイクロプロセッサ44からデータバスを経由してDAC(digital to analog converter)34、35、39に入力され、アナログ形式の設定信号に変換される。アナログ変換後の設定信号は、電磁レンズ電源23、24、25を通じ、電流信号として各電磁レンズに対して与えられる。
【0015】
試料11の位置制御は、オペレータによるロータリーエンコーダ56、57の操作を通じた試料台10の駆動により、又は、予め記録された試料位置駆動パターンに従った試料台10の駆動により実現される。ここで、試料台10には、例えば二軸傾斜ホルダ、回転ホルダ、In-situホルダ等を使用する。また、ロータリーエンコーダ56、57の出力は、インターフェース54、55を通じて試料台10の試料駆動装置20に与えられる。
【0016】
走査機構(走査コイル6)が電子線3に作用させる電場又は磁場の大きさを変化させることにより、電子線3の試料上での走査量は任意に変化させることができる。例えば走査コイル6に印加する電流の大きさを変化させ、試料上における電子線3の走査範囲を変えれば、二次電子による試料像の拡大倍率を変えることができる。因みに、電子線が走査する試料表面の領域を狭くすれば二次電子像の拡大倍率は大きくなり、反対に電子線が走査する試料表面の領域を広くすれば二次電子像の拡大倍率は小さくなる。
【0017】
この他、荷電粒子線装置は、偏向コイル7、コイル電源26、27、28、微小電流増幅器30、31、DAC36、37、38、40、ADC42、43、RAM45、画像相関計算処理部46、周期画像演算処理部47、非周期画像演算処理部48、倍率データテーブル49、オフセット電圧計算部50、偏向系制御部51、補正データテーブル52、像回転計算部53、キーボード58、コントラスト変換装置61を有している。
【0018】
図2に、試料11の傾斜補正に関連する機能ブロックの概略構成を示す。電子線3は、試料11で回折され、試料台10の背後に配置された撮像部(例えばCCDカメラ62)の検出面に電子線回折像(回折パターン)を構築する。なお、撮像部(検出器)は、CMOSカメラでも良い。ここでの撮像部(検出器)は、図1の試料透過電子検出器15に対応する。CCDカメラ62の検出信号(電子線回折像の情報)は、図1の微小電流増幅器31、ADC43を通じてデータバスに与えられる。
【0019】
検出された電子線回折像は、自動傾斜補正ソフトウェア63において、X軸方向及びY軸方向の強度プロファイルに変換される。ここで、自動傾斜補正ソフトウェア63は、マイクロプロセッサ44において実行されるコンピュータプログラムとして提供される。自動傾斜補正ソフトウェア63は、例えば試料面の電子線3に対する傾斜角のズレ量を計算し、計算結果に基づいて試料駆動装置20を駆動制御することにより、試料11の傾斜角度を最適な角度に調整する。試料駆動装置20は、試料台の水平面内で駆動できるだけでなく、試料台の傾斜角も駆動制御できる。なお、傾斜角の調整は回転軸を中心とした回転量の制御だけでなく、複数個の高さ調整ピンの高さの調整によっても実現できる。以下では、便宜的に回転軸の周りに回転させる場合について説明する。また、自動傾斜補正ソフトウェア63は、例えばX軸方向又はY軸方向を回転中心として試料11の傾斜角をリアルタイムで自動調整し、各調整角について逐次抽出される電子線回折像の強度プロファイルに基づいて試料11の傾斜角度を最適な角度に調整する。勿論、試料11の傾斜角度の調整は、試料11を搭載する試料台の傾斜角の駆動制御を通じて実現される。
【0020】
図3に、自動傾斜補正ソフトウェア63を通じて実行される処理手順の概略を示す。自動傾斜補正処理は、自動傾斜補正処理を適用する箇所を探索する処理と、探索された箇所について試料の傾斜角を自動的に補正する処理に分類することができる。
【0021】
まず、自動傾斜補正ソフトウェア63は、薄膜試料全体を電子線でスキャンし、各地点の電子線回折像を自動的に取得する(ステップ301)。次に、自動傾斜補正ソフトウェア63は、電子線回折像の強度プロファイルとその座標情報に基づいて、薄膜試料(基板部)の中から単結晶の領域を探索する(ステップ302)。
【0022】
この実施例では、広い領域(例えば事前に設定された一定以上の面積をもつ領域)内の複数個所から全て同じ回折パターンが検出された場合、当該領域が基板部の単結晶領域であると判定する。判定精度を高めるためには、判定対象である領域内から回折パターンを取得する個数を増やすことが望ましい。また、回折パターンを取得する箇所は、判定対象である領域内で可能な限り離れていることが望ましい。例えば判定対象である領域が矩形である場合、その4隅付近を回折パターンの取得に用いることが望ましい。なお、薄膜試料全体のうち単結晶領域を探索する領域(判定対象としての領域)は、試料の多結晶部構造の大小等を考慮してユーザーが指定しても良い。もっとも、後述するように、当該探索領域を、画像処理等に基づいて自動設定する方式を採用しても良い。
【0023】
次に、自動傾斜補正ソフトウェア63は、薄膜試料(基板部)の単結晶領域に電子線を照射させた状態のまま、薄膜試料をX軸方向に傾斜させる。すなわち、自動傾斜補正ソフトウェア63は、Y軸を中心に薄膜試料を回転駆動する。自動傾斜補正ソフトウェア63は、薄膜試料のX軸方向の傾斜角(Y軸周りの回転角)の情報と電子線回折像の強度プロファイルの情報をリアルタイムで取得する。自動傾斜補正ソフトウェア63は、リアルタイムで得られる各傾斜角の強度プロファイルを画像処理し、強度プロファイルが左右対称となる傾斜角を自動的に探索する(ステップ303)。なお、薄膜試料の傾斜が所定角度に達すると、自動傾斜補正ソフトウェア63は、例えば傾斜開始前の状態に戻す。また例えば、自動傾斜補正ソフトウェア63は、強度プロファイルが左右対称となる傾斜角に、薄膜試料の傾斜を戻す。
【0024】
自動傾斜補正ソフトウェア63は、薄膜試料(基板部)の単結晶領域に電子線を照射させた状態のまま、今度は薄膜試料をY軸方向に傾斜させる。すなわち、自動傾斜補正ソフトウェア63は、X軸を中心に薄膜試料を回転駆動する。自動傾斜補正ソフトウェア63は、薄膜試料のY軸方向の傾斜角(X軸周りの回転角)の情報と電子線回折像の強度プロファイルの情報をリアルタイムで取得する。自動傾斜補正ソフトウェア63は、リアルタイムで得られる各傾斜角の強度プロファイルを画像処理し、強度プロファイルがメインスポットに対して左右対称となる傾斜角を自動的に探索する(ステップ304)。
【0025】
ここで、ステップ303及び304において、強度プロファイルがメインスポットに対して左右対称となる傾斜角を探索するのは、強度プロファイルがメインスポットに対して左右対称となる傾斜角においては、薄膜試料面と電子線の入射軸との関係が垂直となり、測長誤差が最小化すると考えられるためである。
【0026】
前述したように、デバイス試料の単結晶部分の回折パターン像(強度スペクトルの分布)をTEM又はTEM付属のSTEM機能で取得することにより、測長のために入射する電子ビーム線に対するデバイス試料の傾斜を自動的に補正することができる。
【0027】
以上のように、本実施例の場合には、複数の傾斜角についてリアルタイムに出現する複数枚の強度プロファイルを使用し、測長に最適な傾斜角を探索する手法を採用する。しかし、測長に最適な傾斜角を、ある1つの傾斜角について得られる1枚の強度プロファイルに基づいて、自動傾斜補正ソフトウェア63の演算処理を通じて求めても良い。
【0028】
[実施例2]
続いて、実施例に係る荷電粒子線装置を用いた測長処理手順の概略を説明する。図4に、実施例に係る測長処理手順のフローチャートを示す。
【0029】
まず、測長対象の結晶構造を確認する。具体的には、測長対象は単結晶部のみの構造か否かを判定する(ステップ401)。この判定は、例えば作業者が行う。
【0030】
測長対象が単結晶のみの領域で構成されている場合(ステップ401で肯定結果の場合)、測長対象のみを含む薄膜試料の加工領域をFIB(Focused Ion Beam)装置に対して作業者が入力し、薄膜試料を製作する(ステップ402)。一方、測長対象が多結晶又は非晶質の領域で構成されている場合(ステップ401で否定結果の場合)、作業者が測長対象だけでなく単結晶部も含む薄膜試料の加工領域をFIB(Focused Ion Beam)装置に対して作業者が入力し、薄膜試料を製作する(ステップ403)。
【0031】
次に、薄膜試料(デバイス試料)は荷電粒子線装置内に導入される。荷電粒子線装置は、導入された薄膜試料について測長対象を探索する(ステップ404)。なお、測長対象の座標は、作業者によって荷電粒子線装置に入力される。
【0032】
次に、荷電粒子線装置(図1)は、単結晶部の回折パターンを表示部60に表示し、薄膜試料の最適な傾斜角を手動又は自動で調整する(ステップ405)。図3で説明したように、薄膜試料の傾斜角の調整は単結晶部について行う必要がある。従って、薄膜試料が単結晶のみで構成されていない場合、傾斜補正を実行するための領域を特定又は指定する必要がある。この実施例の場合、傾斜補正に使用する領域は、例えば作業者が表示部60に表示された画像に基づいて指定しても良いし、後述する手法により荷電粒子線装置が自動的に特定しても良い。当該ステップ405において、荷電粒子線装置は、単結晶部について薄膜試料を測長に適した傾斜角(X軸方向の傾斜角及びY軸方向の傾斜角)に調整する。
【0033】
この後、荷電粒子線装置は、格子縞又は既知の幅を観察し、1ピクセル当たりの長さを校正をする(ステップ406)。次に、荷電粒子線装置は、測長対象の領域を観察し、その画像を取得する(ステップ407)。
【0034】
ここで、作業者は、必要とする測長対象の画像が取得されたか否かを取得された画像に基づいて判断する(ステップ408)。もし、ステップ408で否定結果が得られた場合、作業者は、不足する測長対象は、同じ薄膜試料内に存在するか否かを判定する(ステップ409)。もし、不足する測長対象が同じ薄膜試料内に存在する場合(ステップ409で肯定結果の場合)、作業者は、観察視野の移動を荷電粒子線装置に指示する(ステップ410)。この結果、荷電粒子線装置は、新たに指定された観察視野領域の画像を取得するステップ407に戻る。一方、ステップ409で否定結果が得られた場合、作業者は、薄膜試料の交換を指示し、新たな薄膜試料について回折パターンの表示、薄膜試料の傾斜補正を実行する(ステップ411)。その後、作業者は、現在の倍率が、ステップ406で校正した倍率と同じか否かを判定し、倍率が違っている場合にはステップ406に戻り、倍率が同じ場合にはステップ407に戻る(ステップ412)。
【0035】
以上のように、倍率が校正された測長対象の画像が得られた場合(ステップ408で肯定結果が得られた場合)、作業者は、荷電粒子線装置の表示部60に表示された観察対象について測長作業を実行する(ステップ413)。なお、薄膜試料の視野領域内に同一形状かつ同一箇所(同じデバイス構造を有する視野内の複数個所)については一括して測長する。以上のように、実施例に係る荷電粒子線装置を用いた測長処理は、ステップ402からステップ413について適用される。
【0036】
[実施例3]
図5に、荷電粒子線装置を用いた測長技術を具体的に説明する。図5は、薄片化された試料の断面、その上面、当該領域の回折パターンをそれぞれ観察した図を示している。前述した測長技術は、格子縞又は既知の長さを有する試料であれば、どのような試料についても適用可能である。ただし、図5の試料では、便宜的に簡単な構造のシリコン(Si)単結晶のラインパターン64を想定する。なお、ラインパターン64の表面は、保護膜層65で覆われている。
【0037】
まず、傾斜角度0°の状態(初期の傾斜角であり、傾斜補正は実行されていない状態)で観察される薄片化された試料の断面像501及び上面像502を、実施例に対する比較例として説明する。ここで、上面像502は、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope; TEM)及び走査型透過電子顕微鏡(Scanning TEM; STEM)によっては観察することができない。ただし、傾斜補正が実行されない場合、上面像502に示すような傾斜ズレが予想される。前述した傾斜補正を実行しない場合、回折パターン503が得られる。図5の場合、回折パターン503は、正六角形の各頂点位置に対応する6つのスポットと、正六角形の中心位置に対応する1つのスポット(メインスポット)で構成される。回折パターン503の場合、6つのスポットの大きさがばらついている(左右対称でない)。従って、初期傾斜角における薄膜試料は、測長に使用する電子線の入射角に対して傾斜しており、測長結果に傾斜ズレの影響が残ることが予想される。
【0038】
そこで、図3に示す傾斜補正を実行し、メインスポットの周りに均等な大きさの6個のスポットが出現する回折パターン506が薄膜試料の傾斜角を調整する。この実施例では、自動傾斜補正ソフトウェア63が傾斜補正を自動実行するが、同等の補正を手動で行うことも可能である。傾斜補正を実行すると、断面像504と上面像505が得られる。このような断面像504と上面像505からも試料の傾斜調整が正確に実施されていることを確認することができる。
【0039】
次に、荷電粒子線装置は、断面像504の領域Aの高分解能像(図6)を観察し、格子縞68の観察を通じて長さを測定する。この測定情報に基づいて、1ピクセル当たりの長さを校正する。次に、校正した情報(1ピクセル当たりの長さ)に基づいて、視野領域内の測長対象Bを測長する。
【0040】
[実施例4]
以下では、測長処理に関連する個別の処理動作の具体例を説明する。まず、図7を用い、校正処理動作の具体例を説明する。図7は、既知の幅を有する構造物69の断面図である。なお、図7は、格子縞を観察できない低倍率の断面図とする。この場合、既知の長さを有する幅Cを用いて1ピクセル当たりの長さを校正することができる。
【0041】
図8に、薄膜試料の傾斜角を自動補正する場合における回折パターンの調整方法を示す。なお、前述したように、傾斜角の補正は、薄膜試料内の単結晶部について行われる。図8のうち回折パターン801は、薄膜試料の傾斜角が最適角からズレている場合(単結晶面が電子線と垂直でない場合)の例である。図5の回折パターン503と同様、スポットが左右対称になっていないことが分かる。
【0042】
強度スペクトル802及び803は、それぞれ回折パターン801のD方向に対する強度スペクトル及びE方向に対する強度スペクトルである。強度スペクトル802内のピークGの強度とピークHの強度、並びに、ピークFの強度とピークIの強度がそれぞれ一致していないことが分かる。一方、強度スペクトル803内のピーク強度KとピークLの強度、並びに、ピーク強度Jとピーク強度Mの強度はそれぞれ一致していることが分かる。以上の関係から、傾斜角の調整は、D方向についてのみ(すなわち、メインスポットを通るE方向を回転軸とする回転角の調整のみ)が必要であることが分かる。
【0043】
このように、直交する2方向(ここではD方向及びE方向)について取得される各傾斜角に対応する回折パターンの強度スペクトルの関係をリアルタイムでモニタリングしながら傾斜角を調整することにより、傾斜角が最適化された回折パターン804及び強度パターン805及び806が得られる。
【0044】
[実施例5]
以下では、測長対象が単結晶のみで構成されていない場合における薄膜試料の作製方法について説明する。図9に、傾斜補正に必要な単結晶部と測定対象を含む薄膜試料を作製するための方法の一例を示す。
【0045】
図9には、多結晶領域(測定対象)と単結晶領域の両方を含む試料の鳥瞰像901を示す。なお、鳥瞰像901に示す試料は、多結晶のラインパターン70で構成されている。側面図902及び904は、鳥瞰像901に対応する構造部分を側面方向から見た図である。また、上面図903は、FIB(Focused Ion Beam)加工観察装置を用い、側面図902のうち点線で囲まれた領域Xを対象として切り出した薄膜試料を上面側から見た図である。上面図903の場合、薄膜試料には単結晶領域が存在しない。すなわち、薄膜試料には、多結晶のラインパターン70と保護膜65しか存在しない。従って、領域Xに対応する薄膜試料によっては、前述した回折パターンを用いた傾斜調整を行うことができない。
【0046】
そこで、側面図904の実線で囲まれた領域Yを薄膜試料として用意する。この側面図904には、上面図905が対応する。この薄膜試料は、測長対象の領域(ラインパターン70のある高さ(基板面からの長さ)におけるパターン断面)と単結晶の基板面の両方を立体的に含む。このため、領域Yは、3本のラインパターン70のうち1本のラインパターンの深部まで(単結晶の基板面が現れる深度まで)試料を切り下げた構造を有している。上面図905の場合、薄膜試料の3分の1程度の面積が単結晶部となる。このため、上面図905の3分の1程度が、単一の格子縞のみの連続領域で構成されている。
【0047】
以上説明したように、測長対象が単結晶のみで構成されていない場合には、領域Yのように立体的に薄膜試料を切り出すことにより、測長対象と単結晶部の両方を含む薄膜試料を作製することができる。勿論、薄膜試料のうち測長対象であるラインパターン70を含む上面側の加工面と、単結晶部を含む下面側の加工面は平行になる。この平行性は、FIB加工観察装置の加工精度から保証される。以上のように、測長対象の領域に単結晶が含まれない場合にも、図9で示す薄膜試料の作製方法の適用により、傾斜補正が可能な薄膜試料を作製できる。
【0048】
[実施例6]
次に、図10を用い、多結晶部及び単結晶部を含む薄膜試料から自動的に単結晶部だけを含む基板部を探索する方法について説明する。そこで、上面図905に対応する薄膜試料の上面図1001を示す。前述の通り、上面図1001には、多結晶の領域と単結晶の領域の両方が含まれている。
【0049】
まず、上面図1001を有する薄膜試料の全ての上面領域について、電子線回折像を取得する。次に、任意に指定した領域Z及び領域A’(図中太線で示す正方形領域)の電子回折像を比較する。なお、領域Z及び領域A’の面積は同じである。ここで、領域Z及び領域A’の面積は、多結晶領域のサイズに応じて決定するのが望ましい。また、今回抽出している2つの領域は、同じ面積の領域単位で上面領域の全域をスキャンした後に指定した一部を表示している。このうち、領域Zは、多結晶のラインパターン70及びアモルファスの保護膜層65を含む領域である。一方、領域A’は基板の単結晶のみを含む領域である。
【0050】
領域内の複数点の回折パターンが全て同じである場合、荷電粒子線装置は、当該領域が単結晶の領域であると判定する。一方、領域内の複数点の回折パターンが全て同じでない場合、荷電粒子線装置は、当該領域が単結晶の領域でないと判定する。例えば電子回折像1002は、領域A’内のB’点について得られる回折パターンである。領域A’は全て単結晶のため、領域A’内の任意の複数点の電子線回折像が全て同じになる。なお、単結晶の領域か否かの判定に使用する観察点の個数は多い方が好ましい。例えば2個以上が好ましい。また、観察点同士は、判定領域内で可能な限り離れた場所を含む方が好ましい。観察点の分布領域が狭い場合、誤判定のおそれが高まるからである。例えば判定対象の領域の4隅付近を観察点とすることが望ましい。
【0051】
一方、電子回折像1003、1004及び1005は、領域Z内のC’点、D’点及びE’点のそれぞれについて得られる回折パターンである。図10の領域Zは、多結晶部(C’点、D’点)及びアモルファス部(E’点)を含む。このため、電子回折像1003、1004及び1005に示すように、領域Z内に複数の電子線回折像が出現する。このように、一つの判定領域内に異なる結晶構造が複数存在する場合、当該領域は基板部ではないとソフトウェア処理によって判定することができる。
【0052】
従って、測長対象の領域が単結晶でない場合でも、その薄膜試料のうち作業者が任意に指定された領域について電子線をスキャンし、該当領域内の各点の電子回折像を検出することにより、単結晶だけの構造を有する領域A’を自動的に検出することができる。この実施例では、作業者が領域を指定することで電子線のスキャン範囲を限定し、単結晶領域の検出効率を高めている。ただし、荷電粒子線装置が過去の同種の測定結果の情報等をデータベースから読み出し、当該情報に基づいて指定した領域について単結晶領域か否かの判定を実行しても良い。
【0053】
[実施例7]
以下、他の実施例を説明する。図9に示す例の場合、薄膜試料を平面状に切り出す場合について説明した。しかし、薄膜試料を針状に加工する場合にも、同様に最適な傾斜補正及び高精度での測長が可能である。図11に、針状に加工された薄膜試料の鳥瞰図1101及びその側面図1102及び1103を示す。側面図1102は薄膜試料を鳥瞰図1101のF’方向から見た構造であり、側面図1103は薄膜試料を鳥瞰図1101のG’方向から見た構造である。なお、側面図1102及び1103は、いずれもFIB加工前の側面図であり、太線で囲まれた領域H’及びI’がFIB加工後に残る領域に対応する。図11に示す針状の薄膜領域の場合も、単結晶だけで構成される基板に対応する領域(格子縞68)と、測長領域に対応する多結晶のラインパターン70の両方が含まれている。従って、針状の薄膜試料を用いても、傾斜補正後に高精度の測長を実現できる。
【0054】
また、前述の実施例では、薄膜試料をFIBにより加工する場合について説明したが、イオンミリング装置を用いて作製しても良い。
【0055】
前述したように、デバイス試料の単結晶部分の回折パターン像(強度スペクトルの分布)をTEM又はTEM付属のSTEM機能で取得することにより、測長のために入射する電子ビーム線に対するデバイス試料の傾斜を自動的に補正することができる。
【0056】
このとき、高分解能像観察による格子縞又はデバイス等の既知の長さを有する幅を用いて測長結果を校正すれば、測長精度を一段と高めることができる。なお、多結晶部のみ領域を測長対象としたい場合は、多結晶部と単結晶部の両方を含む薄膜試料をFIB加工により作製することにより、多結晶部分の測長実行前に、薄膜試料の傾斜ずれを補正することができる。
【0057】
また、高角度散乱暗視野(HAADF:High Angle Annular Dark Field)STEM像を用いて薄膜試料を観察すれば、結晶構造によるコントラストの影響を低減できる。これにより、測長区間を正確に指定でき、結果的に測長精度を向上させることができる。
【0058】
また、結像に寄与するレンズがTEMより少ないSTEM専用機を測長時に使用すれば、測長結果に対する倍率誤差を少なくすることができる。
【0059】
また、薄膜試料内の多数の測長対象を一括して測長することにより、又は、薄膜試料のうち同一構造や形状を有する測長対象を一括して測長することにより、薄膜試料のうち基板面に対して同じ高さを有する部分(同一箇所)の測長対象を一括して測長することにより、測長対象間の測長誤差を少なくすることができる。
【0060】
また、前述した図6及び図7に示したように、格子縞又は既知の長さによる構成を実施した倍率が、格子縞又は既知の長さを有する構造物全体を観察できない場合でも、前述した傾斜補正技術を適用して電子線と薄膜試料の位置関係を最適化すれば、倍率(視野)が異なる場合にも高精度での測長が可能になる。
【0061】
また、前述した傾斜補正技術は、前述したように、回折パターンの傾斜補正箇所の自動検出処理(薄膜試料から単結晶の領域を自動的に検出する処理)を組み合わせることにより、傾斜補正の完了までの時間を短縮することができる。
【符号の説明】
【0062】
1:荷電粒子線源、2:加速電極、3:電子線、4:第一集束電磁レンズ、5:第二集束電磁レンズ、6:走査コイル、7:偏向コイル、8:試料二次電子、9:対物電磁レンズ、10:試料台、11:試料、12:試料前方散乱電子、13:試料透過電子、14: 試料前方散乱電子検出器、15:試料透過電子検出器、16:蛍光体、17:光電子増倍管、18:電子線源電源、19:加速用高圧電源、20:試料駆動装置、21:電圧安定装置、22:電圧安定装置、23〜25:電磁レンズ電源、26〜28:コイル電源、29〜31:微小電流増幅器、32〜40:デジタル−アナログ変換器(DAC)、41〜43:アナログ−デジタル変換器(ADC)、44:マイクロプロセッサ、45:ランダムアクセスメモリ(RAM)、46:画像相関計算処理部、47:周期画像演算処理部、48:非周期画像演算処理部、49:倍率データテーブル、50:オフセット電圧計算部、51:偏向系制御部、52:補正データテーブル、53:像回転計算部、54〜55:インターフェース、56〜57:ロータリーエンコーダ、58:キーボード、59:表示部ドライバー、60:表示部、61:コントラスト変換装置、62:CCDカメラ、63:自動傾斜補正ソフトウェア、64:Si単結晶のラインパターン、65:保護膜層、66:回折パターンのメインスポット、67:回折パターンのスポット、68:格子縞、69:既知の幅を有する構造物、70:多結晶のラインパターン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線を発生させる荷電粒子線源と、
試料を保持する試料台と、
前記試料台を駆動する駆動部と、
前記荷電粒子線を試料に集束させるレンズ系と、
前記荷電粒子線を偏向する偏向器と、
前記荷電粒子線の照射によって試料から発生する信号を検出し、試料像を検出する検出器と、
前記試料の電子回折像を検出する撮像部と、
前記試料像及び又は前記電子線回折像を表示する表示部と、
演算処理部と
を有し、前記演算処理部は、前記試料の単結晶部から取得される前記電子線回折像に基づいて前記駆動部を制御し、前記荷電粒子線に対する前記試料の傾斜角を補正する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記演算処理部は、前記電子線回折像におけるメインスポットの周辺に出現する複数のスポットの大きさが均等になるように前記傾斜角を補正する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項2に記載の荷電粒子線装置において、
前記演算処理部は、少なくとも1つの傾斜方向に対して前記試料の傾斜角を変化させる際にリアルタイムで検出される複数の電子線回折像の変化に基づいて、前記複数のスポットの大きさが均等になる傾斜角を検出する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項3に記載の荷電粒子線装置において、
前記演算処理部は、前記複数のスポットのうち傾斜方向についてメインスポットの対称位置の強度スペクトル同士が同じ大きさになる傾斜角を、前記複数のスポットの大きさが均等になる傾斜角として検出する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項4に記載の荷電粒子線装置において、
前記演算処理部は、前記試料のうち一定領域内の複数点について全て同じ電子回折像が得られる領域を単結晶部として自動判定する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
単結晶部を残して薄片化された試料のうち指定領域を測長する方法であって、
前記単結晶部から前記電子線回折像を撮像部によって取得する処理と、
取得された前記電子線回折像に基づいて、前記荷電粒子線に対する前記試料の傾斜角を補正する処理と、
傾斜角の補正後に前記指定領域を測長する処理と
を有することを特徴とする荷電粒子線を用いた測長方法。
【請求項7】
請求項6に記載の測長方法において、
前記試料の傾斜角を補正する処理は、前記電子線回折像におけるメインスポットの周辺に出現する複数のスポットの大きさが均等になるように前記傾斜角を補正する
ことを特徴とする荷電粒子線を用いた測長方法。
【請求項8】
請求項7に記載の測長方法において、
前記試料の傾斜角を補正する処理は、少なくとも1つの傾斜方向に対して前記試料の傾斜角を変化させる際にリアルタイムで検出される複数の電子線回折像の変化に基づいて、前記複数のスポットの大きさが均等になる傾斜角を検出する
ことを特徴とする荷電粒子線を用いた測長方法。
【請求項9】
請求項7に記載の測長方法において、
前記試料の傾斜角を補正する処理は、前記複数のスポットのうち傾斜方向についてメインスポットの対称位置の強度スペクトル同士が同じ大きさになる傾斜角を、前記複数のスポットの大きさが均等になる傾斜角として検出する
ことを特徴とする荷電粒子線を用いた測長方法。
【請求項10】
請求項9に記載の測長方法において、
前記試料の傾斜角を補正する処理は、前記試料のうち一定領域内の複数点について全て同じ電子回折像が得られる領域を単結晶部として自動判定する
ことを特徴とする荷電粒子線を用いた測長方法。
【請求項11】
請求項10に記載の測長方法において、
前記単結晶部の自動判定は、前記試料の全箇所から取得される複数の電子線回折像を対象として実行する
ことを特徴とする荷電粒子線を用いた測長方法。
【請求項12】
請求項10に記載の測長方法において、
前記指定領域が多結晶部の構造体である場合、前記単結晶部について測長結果の校正後、前記指定領域を測長する
ことを特徴とする荷電粒子線を用いた測長方法。
【請求項13】
請求項12に記載の測長方法において、
前記測長結果の校正は、高分解能像で得られる格子縞を用いて実行する
ことを特徴とする荷電粒子線を用いた測長方法。
【請求項14】
請求項12に記載の測長方法において、
前記測長結果の校正は、既知の長さを有する幅を用いて実行する
ことを特徴とする荷電粒子線を用いた測長方法。
【請求項15】
請求項6に記載の測長方法において、
前記指定領域をHAADF-STEM像を用いて指定する
ことを特徴とする荷電粒子線を用いた測長方法。
【請求項1】
荷電粒子線を発生させる荷電粒子線源と、
試料を保持する試料台と、
前記試料台を駆動する駆動部と、
前記荷電粒子線を試料に集束させるレンズ系と、
前記荷電粒子線を偏向する偏向器と、
前記荷電粒子線の照射によって試料から発生する信号を検出し、試料像を検出する検出器と、
前記試料の電子回折像を検出する撮像部と、
前記試料像及び又は前記電子線回折像を表示する表示部と、
演算処理部と
を有し、前記演算処理部は、前記試料の単結晶部から取得される前記電子線回折像に基づいて前記駆動部を制御し、前記荷電粒子線に対する前記試料の傾斜角を補正する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記演算処理部は、前記電子線回折像におけるメインスポットの周辺に出現する複数のスポットの大きさが均等になるように前記傾斜角を補正する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項2に記載の荷電粒子線装置において、
前記演算処理部は、少なくとも1つの傾斜方向に対して前記試料の傾斜角を変化させる際にリアルタイムで検出される複数の電子線回折像の変化に基づいて、前記複数のスポットの大きさが均等になる傾斜角を検出する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項3に記載の荷電粒子線装置において、
前記演算処理部は、前記複数のスポットのうち傾斜方向についてメインスポットの対称位置の強度スペクトル同士が同じ大きさになる傾斜角を、前記複数のスポットの大きさが均等になる傾斜角として検出する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項4に記載の荷電粒子線装置において、
前記演算処理部は、前記試料のうち一定領域内の複数点について全て同じ電子回折像が得られる領域を単結晶部として自動判定する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
単結晶部を残して薄片化された試料のうち指定領域を測長する方法であって、
前記単結晶部から前記電子線回折像を撮像部によって取得する処理と、
取得された前記電子線回折像に基づいて、前記荷電粒子線に対する前記試料の傾斜角を補正する処理と、
傾斜角の補正後に前記指定領域を測長する処理と
を有することを特徴とする荷電粒子線を用いた測長方法。
【請求項7】
請求項6に記載の測長方法において、
前記試料の傾斜角を補正する処理は、前記電子線回折像におけるメインスポットの周辺に出現する複数のスポットの大きさが均等になるように前記傾斜角を補正する
ことを特徴とする荷電粒子線を用いた測長方法。
【請求項8】
請求項7に記載の測長方法において、
前記試料の傾斜角を補正する処理は、少なくとも1つの傾斜方向に対して前記試料の傾斜角を変化させる際にリアルタイムで検出される複数の電子線回折像の変化に基づいて、前記複数のスポットの大きさが均等になる傾斜角を検出する
ことを特徴とする荷電粒子線を用いた測長方法。
【請求項9】
請求項7に記載の測長方法において、
前記試料の傾斜角を補正する処理は、前記複数のスポットのうち傾斜方向についてメインスポットの対称位置の強度スペクトル同士が同じ大きさになる傾斜角を、前記複数のスポットの大きさが均等になる傾斜角として検出する
ことを特徴とする荷電粒子線を用いた測長方法。
【請求項10】
請求項9に記載の測長方法において、
前記試料の傾斜角を補正する処理は、前記試料のうち一定領域内の複数点について全て同じ電子回折像が得られる領域を単結晶部として自動判定する
ことを特徴とする荷電粒子線を用いた測長方法。
【請求項11】
請求項10に記載の測長方法において、
前記単結晶部の自動判定は、前記試料の全箇所から取得される複数の電子線回折像を対象として実行する
ことを特徴とする荷電粒子線を用いた測長方法。
【請求項12】
請求項10に記載の測長方法において、
前記指定領域が多結晶部の構造体である場合、前記単結晶部について測長結果の校正後、前記指定領域を測長する
ことを特徴とする荷電粒子線を用いた測長方法。
【請求項13】
請求項12に記載の測長方法において、
前記測長結果の校正は、高分解能像で得られる格子縞を用いて実行する
ことを特徴とする荷電粒子線を用いた測長方法。
【請求項14】
請求項12に記載の測長方法において、
前記測長結果の校正は、既知の長さを有する幅を用いて実行する
ことを特徴とする荷電粒子線を用いた測長方法。
【請求項15】
請求項6に記載の測長方法において、
前記指定領域をHAADF-STEM像を用いて指定する
ことを特徴とする荷電粒子線を用いた測長方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−181393(P2011−181393A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45592(P2010−45592)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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