説明

荷電粒子線装置

【課題】低段差試料や帯電試料の観察、測定等において、反射荷電粒子信号に基づく画像を形成する際にも、倍率変動や測長誤差によらずに正確な画像を取得する装置、及びコンピュータプログラムを提供する。
【解決手段】二次荷電粒子信号を検出する第1の検出条件と、反射荷電粒子信号を検出する第2の検出条件との間で、荷電粒子線の走査偏向量を補正するように偏向器を制御する装置、及びコンピュータプログラムを提供する。このような構成によれば、検出する荷電粒子信号の変更による倍率変動や測長誤差を補正することが可能となるため、反射荷電粒子信号に基づく画像を正確に取得することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置に関し、特に反射電子像を用いて高精度に試料を観察、測定するのに好適な装置、方法、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子線を用いて試料の観察、測定を行う装置の1つに走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)がある。SEMでは電子線を試料上に照射し、試料から放出される電子を信号として検出することで、試料の表面形状を反映した二次元画像を取得する。
【0003】
試料に電子線が到達し、試料表面の原子を励起して放出されるエネルギーの低い信号電子を二次電子という。半導体の回路パターンのように凹凸を持った試料のエッジ部分に電子線が照射されると、エッジ効果によって発生する二次電子量が増大し、凹凸に依存するコントラストを持った像が形成される。
【0004】
一方、電子線が試料中で散乱する過程において試料表面から再放出される電子を反射電子という。反射電子はエネルギーの高い信号電子であり、試料の凹凸に依らずに、試料組成に依存するコントラストを持った像が形成される。
【0005】
近年、半導体や磁気ヘッド等のプロセスの複雑化に伴い、観察試料面に凹凸を持たない低段差試料の計測が求められている。このような場合、検出される二次電子信号量が低下するため、二次電子に代えて反射電子を検出し、これらの信号や像を合成してエッジやコントラスト情報を強化することで、像質及び測長精度を向上させることができる。また、絶縁材料を含む試料のように、SEM観察における電子線の照射によって表面に数〜数十[V]の帯電が生じ二次電子が障壁される場合でも反射電子は検出可能であるため、上記の方法は有効である。
【0006】
特許文献1には、反射電子を検出・増幅して反射電子像を形成する際に、試料上に照射する電子線ビームの走査条件を、倍率変更前と変更後においてほぼ同じにし、倍率変更に依らずに適切な反射電子像を形成する技術が開示されている。特許文献2には、二次電子像を選択表示して倍率等を調整後、二次電子像および選択表示されていない反射電子像のブライトネスとコントラストとを連動して変化させるように調整した上で、反射電子像の表示に切り替えて観察することが説明されている。特許文献3には、反射電子信号または二次電子信号と、X線信号とを検出・処理し、コントラストやシグナル/ノイズ(S/N)比の高い統合信号を得るために、各々の倍率、バイアス、及び重み付け比率を制御して加算除算処理する旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−42513号公報
【特許文献2】特開2000−36276号公報
【特許文献3】特開2005−142259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
SEMにおける試料の観察、測定では、信頼性の高い画像、及び測長結果を保つために装置の倍率や寸法等の測長値を校正することが望ましい。特に、半導体ウエハ上に形成された回路パターンの形状や線幅の寸法を計測する測長SEM(CD−SEM:Critical Dimension SEM)では、試料上の数百μm×数百μmという微小範囲における数百、数千という多数のパターンを測定する場合が想定され、これらの高精度な校正が求められる。
【0009】
一般的に、倍率及び測長値の校正管理は、既知の寸法を有するシリコン材からなる標準試料(μスケール)を用いて一定条件下で画像を取得し、寸法を測定することにより行われる。具体的には、測長値から倍率補正係数を求め、走査偏向量を補正して測長値が正確な値となるように装置を調整する。また、標準試料自身の寸法測長は、試料上の凹凸格子パターンによる回折格子にレーザ等を照射する光回折を用いた校正装置によって管理される。
【0010】
このように標準試料を利用した校正を行う場合、上述の通り、凹凸を持つ試料のエッジに敏感な二次電子では十分な信号量が検出されるため、高画質、高精度の測長にて装置を調整することができる。一方、試料の凹凸に依存しない反射電子では、同一のシリコン材から構成される現状の標準試料では二次電子と同等の像質を得ることは困難であり、装置の調整を高精度に行うことができない。
【0011】
そこで、反射電子像を取得する場合においても、倍率等の調整時には二次電子像を用い、観察、測定時には光学条件を変更して反射電子の信号検出へと切り替えることが必要となる。
【0012】
二次電子、反射電子の両信号電子を検出する機構を有するSEMでは、検出する信号電子の種類を切り替えるために、光学条件を変更することによって倍率変動が生じることがある。このような場合、実際の像の倍率とは異なる値が得られるため、寸法等の測長値に影響する。したがって、二次電子と反射電子との間で光学条件を切り替える際には、倍率変動、及びこれによって生じる測長値誤差を考慮した適切な校正を行うことが必要である。
【0013】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載された方法では、反射電子の信号検出における倍率や測長値の変化については考慮されていない。また特許文献3に記載された方法では、統合信号を取得するために各々の信号の倍率等を調整することはできるが、異なる信号を検出する際の光学条件の変化によって生じる倍率変動や測長値誤差について、及びこれらを補正する具体的手法については開示がない。したがって、いずれの手法を用いても本発明における課題を直接的に解決することはできない。
【0014】
本発明の目的は、二次電子と反射電子との間で信号検出を切り替えることによって生じる倍率変動及び測長値誤差の補正を高精度に行うことを目的とする荷電粒子線装置、方法、及びコンピュータプログラムを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するための一態様として、二次電子信号、反射電子信号を検出する各々の電子光学条件における倍率または測長値を予め取得したデータから、両信号の相対的な補正係数を求め、当該補正係数、及び二次電子信号像を用いた装置校正結果に基づいて、検出する信号を反射電子へ切り替える際の走査偏向量を補正する方法、及び当該補正を実現するための装置、及びコンピュータプログラムを提案する。
【発明の効果】
【0016】
上記一態様によれば、二次電子と反射電子との間で信号検出を切り替えても、倍率変動、測長値誤差に依らずに正確な試料の観察及び測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】走査型電子顕微鏡(SEM)の概略構成図。
【図2】半導体ウエハ、及び磁気ヘッドの断面概略図。
【図3】電子線走査によるSEMの倍率制御の原理に関する概略説明図。
【図4】二次電子信号検出光学条件における試料上の電子線走査、信号波形、及びラインプロファイルを示す図。
【図5】反射電子信号検出光学条件における試料上の電子線走査、信号波形、及びラインプロファイルを示す図。
【図6】種々の材質、及び表面形状を有する試料の断面概略図。
【図7】二次電子から反射電子へ検出信号を切り替える際の走査偏向量を補正する具体的なフロー図。
【図8】エネルギーフィルタの基本構成図。
【図9】SEMを含む半導体測定、検査システムの概略構成図。
【図10】二次電子信号検出、反射電子信号検出における倍率、測長寸法値を示すグラフ、及び補正テーブルの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面に基づいて試料の表面凹凸形状と検出される電子信号との関係について説明する。図2(A)は試料に段差のあるパターンが形成される場合、(B)、(C)は試料に低段差のパターンが形成、或いはほぼ段差の無い薄膜がコーティングされた場合における各々の試料の断面図を示す。なお、以下に説明する物質は一例であり、これに限定されるものではない。
【0019】
図2(A)、及び(B)の基板201は合成石英ガラス等の紫外線領域の透過率が高い材質で構成され、この上に形成される回路パターン202、203はクロム(Cr)やモリブデン・ケイ素酸化物(MoSiO)等の紫外線透過率の低い材質によって構成される。また、試料の作成工程によってはMo・SiOの上にCrを形成する場合もある。
【0020】
近年、半導体ウエハやフラットパネル等の転写に用いられるフォトマスクでは、パターンの微細化に伴い、設計データに忠実なレジストパターンの形成が困難になっている。この問題に対し、(A)に示すような段差を有するパターンではなく、フォトマスク上のクロム(Cr)膜204の薄膜化によって(B)に示すような低段差試料を作成し、マスク面内のパターンの均一化を向上する試みがなされている。しかしながら、このように低段差化された試料ではエッジ効果を得られず、検出される二次信号量が低下するため、SEMによる正確な観察、及び測長を実行することができない。
【0021】
また、ハードディスクの磁気ヘッド試料は、例えば(C)に示すようにAl23−TiC(AlTiC)から構成されるセラミックス基板205の上に、回路パターンであるAl23206やパーマロイ(Fe−Ni)合金207のパターンが形成され、更に表面の保護膜として約数ナノメートルのダイヤモンドライクカーボン(Diamond-like Carbon)208等がコーティングされる平坦な表面構造を有する。したがって上述の場合と同様に試料の観察、測長における精度の信頼性が低下する。
【0022】
このほか、表面が帯電した試料においても二次電子像の質が悪化し、正確な試料の観察ができない場合がある。これは、フォトマスク上の基板201はガラスなどの絶縁材料であるため、測定において徐々にチャージアップ(正帯電)が進行して電位の障壁が発生し、試料表面から二次電子が脱出できずに検出されないことに起因する。
【0023】
上記の図2(B)、(C)のように二次電子像を得ることが困難な試料であって、二次電子に代えて反射電子信号を検出することが求められる場合において、以下に示す実施の形態が適用される。
【0024】
以下に、二次電子像によって予め標準試料を用いた正確な倍率校正及び測長値校正を行い、シミュレーションや実測から得られる種々の光学条件における二次電子信号または反射電子信号の倍率、測長値の参照データから、両信号の相対的な補正係数を求め、当該補正係数に基づいて走査偏向量を補正し、反射電子像における正確な倍率、及び測長値調整を行うことについて説明する。
【0025】
なお、以下に示す実施の形態ではSEM、或いはSEMに搭載された制御装置、またはSEMに通信回線等を経由して接続される制御装置を例にとって説明するが、これに限られることはなく、コンピュータプログラムによって、汎用の演算装置を用いて処理を行うようにしても良い。また、他の荷電粒子線装置によって試料の観察、測定を行う場合にも適用可能である。
【0026】
また、本実施の形態は以下に示す試料への適用に限られることはなく、その他の低段差試料や平坦試料、帯電試料、またアスペクト比が高く深穴底からの二次電子検出が困難な試料など、二次電子と反射電子との間で信号検出を切り替えて、二次電子信号の代わりに反射電子信号を検出する、或いは両信号の混在比を調整して検出することが適用される種々の試料においても有効である。
【実施例1】
【0027】
図1は、走査型電子顕微鏡(SEM)の概略構成図である。電子銃101から発生した電子線102は、加速電極103によって加速され、コンデンサレンズ104により収束、偏向器105により偏向された後、試料107側に印加された負の電圧(リターディング電圧)により減速され、かつ対物レンズ106で最終的に径数nm(ナノメートル)の電子線に収束されて、観察対象である試料107の表面に入射する。
【0028】
入射した一次電子の一部は後方反射して反射電子111(後方散乱電子)となり、また一部は試料内を散乱しながら二次電子112を生成する。ここでリターディング電圧とは、試料107上の回路パターンを損傷させることなく電子線102を収束させるために、試料107(試料ホルダー108または試料ステージ109)側に印加される負の電圧であり、これによって電子線102の照射エネルギーが制御される。
【0029】
生成した反射電子111、二次電子112は反射板113と衝突して新たな電子を発生し、当該新たな電子は検出器114にて検出される。検出器114には光電子増倍管が内蔵されており、電子の検出量に応じて電圧を発生させるので、これを信号処理装置115で処理した後、画像表示部116にて画像として表示する。信号処理装置115は、試料から放出される二次電子等に基づいて、縦軸を信号量、横軸を電子線の走査位置とするプロファイル波形を形成する。そして当該プロファイル波形のピーク間の距離を求めることによって、パターン寸法を測定するように動作する。
【0030】
次に、二次電子112、反射電子111について信号検出を行う際の光学条件について説明する。二次電子は約50eV未満の低エネルギー信号電子であり、反射電子は約50eV以上の高エネルギー信号電子であるため、SEMを構成する各々の電極に与える電圧その他の光学パラメータを制御することによってこれらの信号検出を選択、及び両者の切り替えが可能である。上記の条件は、主に(1)電子光学系、または/及び(2)電子検出系において設定される。
【0031】
(1)では、例えば対面電極119や対物レンズ106上方に配置されたブースター電極110に対し、試料107側が持つ電圧よりも大きい負の電圧(ブースター電圧)を印加することで、エネルギーの低い二次電子112を試料107側へ引き戻し、高エネルギーの反射電子111のみを選択的に検出することも可能である。この場合、変換電極117に正の電圧を印加し、対物レンズ106よりも電子銃101側へ移動した反射電子111を更に引き上げて検出器114へ導入する。なお、負の電圧を印加する電極は本実施の形態における例には限られない。
【0032】
上記の方法により反射電子111を検出する場合、試料107から浅い角度で発生したローアングル成分と、高い角度で発生したハイアングル成分のいずれをも検出することができるため、全体の収量が高くなる。
【0033】
(2)では、試料107側から発生する電子を、エネルギーの大きさに応じて分離するエネルギーフィルタを用いた方法が適用される。図8にエネルギーフィルタの基本構造を示す。エネルギーフィルタは、2枚のシールドメッシュ801aとフィルタメッシュ801bから構成される。また、これらのメッシュには電子線102を通過させるための開口802が設けられている。フィルタメッシュ801bは1枚であっても、複数枚あってもよく、フィルタ電圧を印加するための電源803が接続される。エネルギーの大きさに応じて分離された反射電子111、二次電子112は、反射電子検出器804a、二次電子検出器804bにそれぞれ検出される。
【0034】
上記の方法では、ほぼ光軸方向に向かって試料107から高い角度で反射されるハイアングル成分の反射電子111のみを精度良く検出することができる。上記(1)、(2)の方法を目的や用途に応じて適宜組み合わせることも可能である。
【0035】
また、本実施の形態は上記(1)、(2)に限られるものではなく、これ以外にも、SEMを構成するその他の電極やコイルに印加または供給する電圧、電流等の光学パラメータを制御して反射電子111、二次電子112の信号検出光学条件を設定することが可能である。
【0036】
なお、SEMを構成する各々の電極やコイルは、図9にて後述する制御装置によって、電圧、或いは電流が印加或いは供給される。制御装置は演算装置を備えてなり、当該演算装置は、レシピと呼ばれるSEMの動作プログラムに基づいて、装置を制御する。
【0037】
図9は、SEMを含む半導体測定、検査システムの概要構成図である。本システムには、SEM本体901、A/D変換器903、制御装置904が含まれている。
【0038】
SEM本体901は半導体ウエハ等の試料に電子線を照射し、試料から放出された電子を検出器902で捕捉し、A/D変換器903でデジタル信号に変換する。デジタル信号は制御装置904に入力されてメモリ906に格納され、各種機能を有する演算装置905に内像されるCPU等の画像処理ハードウェアによって、目的に応じた画像処理が行われる。また、演算装置905は、検出信号に基づいて、ラインプロファイルを作成し、プロファイルのピーク間の寸法を測定する機能も備えている。
【0039】
更に制御装置904は、入力手段を備えた入力装置907と接続され、当該入力装置907に設けられた表示装置、または外部ディスプレイ(図示せず)には、操作者に対して画像や測定結果を表示するGUI(Graphical User Interface)等の機能を有する。
【0040】
なお、制御装置904における制御や処理の一部又は全てを、CPUや画像の蓄積が可能なメモリを搭載した電子計算機等に割り振って処理・制御することも可能である。また、制御装置904は、測定等に必要とされる電子デバイスの座標、位置決めに利用するパターンマッチング用のテンプレート、撮像条件等を含む撮像レシピをメモリから読み出し、あるいは上記レシピを手動、もしくは電子デバイスの設計データを活用して作成する撮像レシピ作成装置とネットワーク等を介して接続することもできる。
【0041】
図3に基づいて、SEMにおける倍率の基本的な概念を説明する。図3(A)は、試料上における電子線走査の断面概略図である。電子線301が試料302を走査するときの走査幅、すなわち電子線301の試料面上における偏向幅をLとし、図3(B)に示す信号処理による形成画像303の表示幅をWとすると、倍率Mは
【0042】
【数1】

と定義される。例えば試料302上の偏向幅を1μm、画像の表示幅を100mmとするとき、倍率は10万倍となる。図3(C)に、SEMの電子光学系におけるレンズ、偏向器、走査コイル等の位置関係を示す。電子線301は対物絞り穴304を通過後、コンデンサレンズ305に収束され、試料302上にて走査される。このとき、対物レンズ307の上に設けられた偏向器306に一定な電場または磁場を加えることにより、電子線を試料面上にて一定幅で走査偏向するよう調整する。試料面の偏向幅L、倍率Mと一次電子線の加速電圧Va、偏向器に加える偏向電流量Idefとの相関関係は下記のように示される。
【0043】
【数2】

a:一次電子線の加速電圧
elc:倍率に関する偏向器の電気特性補正係数(例:回路特性係数、A/D変換制御係数など)
opt:倍率に関する電子光学系特性補正係数
ここで、Koptは電子光学系に影響する加速電圧Va、また式(2)には示さないがその他の試料上に照射される電子線のエネルギーに作用する光学的パラメータの関数である。
【0044】
試料の正確な寸法測長値を得るためには、一定の倍率MにおけるSEMの偏向幅Lを校正する必要がある。このような校正は、偏向器に対する走査偏向量を制御するIdefの出力補正によって行うことができる。
【0045】
測長値の校正管理は上述の通り標準試料を用いる。標準試料上に一定の倍率等で電子線を走査し、取得したSEM画像のライン/スペースパターンの寸法も同値となるように走査偏向量を補正する。
【0046】
ここで、低段差試料、帯電試料等の観察を行うために、二次電子と反射電子との間で検出する信号を切り替える場合、電位の制御により光学条件を変更すると、光路上の一次電子の偏向に作用し、Koptが大きく変化する。
【0047】
そこで本実施の形態では、二次電子信号、及び反射電子信号の検出条件における相対的な補正係数Kopt(BSE/SE)を、予め取得した参照データを用いて求めることで、検出信号を切り替える際の倍率変動、測長値誤差を予測して走査偏向量を補正する。
【0048】
図7を用いて、二次電子から反射電子へ検出信号を切り替える際の走査偏向量を補正する具体的なフローについて説明する。まず、二次電子信号を用いて標準試料による装置の測長値校正を行う(S701)。次に、参照データとなる二次電子、反射電子の各々の信号を検出する光学条件における倍率、測長値のシミュレーションまたは実測データを取得する(S702)。当該取得したデータから上述のKopt(BSE/SE)を算出する(S703)。なお、取得するデータは本実施の形態にて示したものに限られず、偏向幅Lの値など、Kopt(BSE/SE)を求めることができる倍率等に関するその他の値としても良い。ここで、式(2)にてKelcは検出信号を切り替えても変化しないため、Kopt(BSE/SE)は計算により求めることが可能である。求めたKopt(BSE/SE)を記録し、補正テーブルを作成する(S704)。S702−S704は、本フローに従って実行する以外にも、予め実行し、求めたKopt(BSE/SE)を記録しておいてもよい。次に、補正テーブルより読み出したKopt(BSE/SE)、及びS701において校正されたIdef(SE)の値に基づき、反射電子信号検出におけるIdef(BSE)を導出、及び出力する(S705、S706)。以上の方法により、反射電子信号像の取得においても二次電子の校正結果を反映した正確な倍率、または測長値を得ることができる。なお、図9において、上述の参照データ、及びKopt(BSE/SE)を制御装置904のメモリ906に記録することもできるし、補正テーブルの読み出しを演算装置905のデータ取得部911、Idef(BSE)の導出を補正データ演算部912、そして導出したIdef(BSE)に基づいた走査偏向量の補正を偏向器制御部913によってそれぞれ行うことができる。
【0049】
また、正確に調整された反射電子像を取得したのち、二次電子の信号検出へ切り替える場合にも、上記の補正係数の相対値を用いて倍率等の調整ができる。このため、標準試料を用いた校正を再び行うことなく観察や測長が可能となる。
【0050】
図10(A)は、二次電子信号、または反射電子信号を検出する光学条件における倍率のシミュレーションデータ、及び測長値の実測データを示すグラフである。これらのデータの近似直線の式に基づいてKopt(BSE/SE)を求めることができる。また、(B)は当該倍率、測長値を用いて求めたKopt(BSE/SE)と、二次電子信号検出におけるIdef(SE)、及びこれらを用いて求められる反射電子信号検出における偏向電流Idef(BSE)の値を示した補正テーブルである。補正テーブルにおいては、これらの値の一部、あるいは全てを記録してもよく、また条件や目的に応じて他の光学的なパラメータ等を追加してもよい。
【実施例2】
【0051】
実施例1において、二次電子と反射電子との間で検出する信号を切り替える際に、適切なIdef(BSE)を導出して偏向走査量を補正する方法について説明した。以下に、S702に示す二次電子信号検出、反射電子信号検出における寸法測長値を実測により求める方法について具体的に説明する。
【0052】
図4(A)に、試料の凹凸表面上における電子線走査、及び信号処理装置115を用いて処理した二次電子信号波形を示す。電子線401が試料403上を走査することにより、回路パターン402から発生した2次電子信号のラインプロファイル404が得られる。得られた信号からエッジ位置を検出し、エッジ位置間の測長値を算出する。このとき、S/N比を改善するため、二次電子信号に対して波形平滑化や微分処理を行う。これらの波形処理において、エッジ位置を検出し、寸法を求めるアルゴリズムには各種有るが、一般的には閾値法、直線近似法などが用いられる。図4(B)は閾値法、(C)は直線近似法をそれぞれ説明する説明図である。閾値法は、ラインプロファイル404に対して平滑化処理を行い、平滑化後の波形405の両端のスロープ部分が所定の閾値Tと交わる交点406、407の間の距離Wを回路パターン402の寸法とするものである。閾値Tは、通常は波形の最大高さに対する所定の割合として定められる。直線近似法では、平滑化した波形に対し、更に両端のスロープ部分を微分し、微分波形の極点から平滑化波形の最大傾斜を持つ点を定める。その最大傾斜を持つ点との接線を引き、各接線とベースラインとの交点408、409の間の距離Wを回路パターン402の寸法とするものである。
【0053】
図5(A)に、平坦または低段差試料表面における電子線走査を示す。電子線501が試料503上を走査し、異なる回路パターン502から発生した反射電子信号のラインプロファイル504が得られる。凹凸があるパターン上の二次電子信号波形405では、エッジ効果でパターンエッジ部にシャープなピークが得られるが、反射電子信号波形505では、材料コントラストのみで、比較的緩やかに変化する波形となる。図5(B)は閾値法を説明する図である。このような場合では、コントラストの高い材質の部分をライン、コントラストの低い材質の部分をスペースとして定義する。図4(B)と同様に、反射電子信号波形505の両端が閾値Tと交わる交点406、407の間の距離Wを回路パターン502の寸法とする。
【0054】
二次電子から反射電子へ検出する信号を切り替える際のライン及びスペースの寸法値を求める手法を以下に説明する。
【0055】
図6(D)に示すような異種材質パターンを有する凹凸試料606の同サイズのパターンに対して、二次電子像と反射電子像の両方を取得する。次に、同様に両画像の平滑化処理を行い、二次電子像の両端スロープ部分が所定の閾値T(SE)と交わる交点406、407の間の距離W(SE)を回路パターン402の寸法値として算出し、反射電子像波形も同様に一定閾値T(BSE)と交わる交点506、507の間の距離W(BSE)から寸法値を算出する。
【0056】
種々のサイズのパターンにて同様に距離W(SE)とW(BSE)の値を算出し、二次電子像と反射電子の寸法値の相関曲線を導出する。曲線をそれぞれ一次直線ないし二次曲線で多項式近似し、係数を算出する。一次近似の場合は、横軸をいくつかの区間に分け、区間内の直線近似式を求め、得られた傾きの平均値を求める方法が有効である。二次近似の場合は、得られた近似式の飽和点までの平均値(飽和点までの積分値を積分区間で除したもの)を算出することができる。
【0057】
また、上記両波形の寸法値Wが同じ値となるように閾値T(BSE)を調整し、種々のサイズのパターンにて近似曲線を作成することもできる。
【実施例3】
【0058】
図6を用いて、実施例2にて説明した反射電子信号検出における寸法測長値を求めるためにより好適な材料設計について説明する。
【0059】
図6(A)は、試料上における電子線走査の断面概略図であり、(B)−(D)は、種々の形状、材質からなるパターンを有する試料の断面図である。(B)のように、同一材質パターンを有する凹凸試料604からなる現状の標準試料では、一次電子線601が試料602を走査するとき、材料コントラストに敏感な反射電子像では二次電子信号と同等な像質が得られず、精度よく測長することが困難になる。また(C)に示すように、異種材質部分を有する平坦試料605は、材質Aと材質Bで構成されており、高画質の反射電子像が得られるが、試料面の凹凸を持たないため、上述の光回折を用いた標準試料自身の寸法測長を行うことができない。一方、(D)に示すように、異種材質パターンを有する凹凸試料は、異なる材質Aと材質Bの凹凸パターンが形成されるため、高画質の反射電子像が得られ、かつ、自身の寸法測長も行うことができる。本実施の形態において、このような試料を用いて二次電子から反射電子へ検出する信号を切り替える場合、光学系のシミュレーションではなく、試料上の実測を直接行うことによっても、正確な補正係数を導出することができる。また、両光学条件においてそれぞれ実測により求めた補正係数を用いて補正テーブルを作成、記録することで、反射電子検出光学系における校正の際に当該データを読み出して使用することができる。さらに、上記試料を用いて標準試料を作成した場合、反射電子信号を検出する光学条件においても、倍率や測長校正のための装置調整が可能となる。
【0060】
このように、上記試料によれば、それぞれ単独に二次電子或いは反射電子を検出する光学条件においても、または二次電子と反射電子とが一定割合で混在して検出される光学条件においても、同様な手法で高精度の校正を行うことが可能であり、両信号電子を検出する機構を有するSEMの装置調整において極めて有効である。
【符号の説明】
【0061】
101 電子銃
102 一次電子線
103 加速電極
104 コンデンサレンズ
105、306 偏向器
106、307 対物レンズ
107、302、403、503、603 試料
108 試料ホルダー
109 試料ステージ
110 ブースター電極
111 反射電子
112 二次電子
113 反射板
114、902 検出器
115 信号処理装置
116 画像表示部
117 変換電極
201、205 基板
202、203、206、207、402、502、602 回路パターン
204 クロム(Cr)膜
208 ダイヤモンドライクカーボン
301、401、501、601 電子線
303 形成画像
304 対物絞り穴
305 コンデンサレンズ
404、504 ラインプロファイル
405 平滑化後の二次電子信号波形
406、407 閾値法における波形両端のスロープ部分と閾値Tとの交点
408、409 直線近似法における各接線とベースラインとの交点
505 反射電子信号波形
506、507 閾値法における波形両端と閾値Tとの交点
604 同一材質パターンを有する凹凸試料
605 異種材質部分を有する平坦試料
606 異種材質パターンを有する凹凸試料
801a シールドメッシュ
801b フィルタメッシュ
802 開口
803 電源
804a 反射電子検出器
804b 二次電子検出器
901 SEM本体
903 A/D変換器
904 制御装置
905 演算装置
906 メモリ
907 入力装置
908 評価条件設定部
909 測定条件設定部
910 画像形成部
911 データ取得部
912 補正データ演算部
913 偏向器制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線を放出する荷電粒子源と、
前記荷電粒子線を加速する加速電極と、
前記荷電粒子線を走査偏向する偏向器と、
前記荷電粒子線を収束する対物レンズと、
試料を搭載する試料ステージと、
前記試料から発生した荷電粒子を検出する荷電粒子検出器と、
前記検出器よりも試料側に位置し、正、或いは負の電圧が印加される電極と、
前記偏向器に信号を供給する制御コンピュータを備えた荷電粒子線装置において、
前記制御コンピュータは、
前記電極に印加する電圧を制御し、
二次荷電粒子を検出する第1の検出条件と、
反射荷電粒子を検出条件する第2の検出条件との間で、
前記荷電粒子線の走査偏向量を補正するように前記偏向器に信号を供給することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御コンピュータは、
前記電極に正の電圧を印加する前記第1の検出条件から、
前記電極に負の電圧を印加する前記第2の検出条件へ切り替えるように前記電極に与える電圧を制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記制御コンピュータは、
前記荷電粒子線を走査偏向する補正係数を求める演算部と、
当該演算部により求めた補正係数を記録する記録部を備えていることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記補正係数は、
予め取得した参照データに基づいて求められることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項3において、
前記補正係数は、
予め取得した、前記第1の検出条件と前記第2の検出条件における、倍率に関する値の相対関係を示すことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記倍率に関する値は、
光学的なシミュレーションにより求められることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項3において、
前記補正係数は、
予め取得した、前記第1の検出条件と前記第2の検出条件における、前記試料の寸法値に関する相対関係を示すことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
荷電粒子線を放出する荷電粒子源と、
前記荷電粒子線を加速する加速電極と、
前記荷電粒子線の走査偏向量を制御する偏向器と、
前記荷電粒子線を収束する対物レンズと、を備えた電子光学系と、
前記試料から発生する荷電粒子を検出する電子検出系と、
前記偏向器に信号を供給する制御コンピュータを備えた荷電粒子線装置において、
前記制御コンピュータは、
前記電子光学系を制御し、
前記試料から発生する二次荷電粒子を検出する第1の光学条件において既知の寸法を有する標準試料を用いた走査偏向量を調整し、
予め取得した、二次荷電粒子を検出する所定の光学条件と、反射荷電粒子を検出する所定の光学条件における倍率の値から、
両光学条件における倍率に関する相対的な補正係数を求め、
当該標準試料を用いて走査偏向量を調整したときに前記偏向器に与える第1の信号と、
前記補正係数に基づいて、
前記第1の光学条件から、
前記試料から発生する反射電子を検出する第2の光学条件に変化させたときに前記偏向器に与える第2の信号を導出することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記制御コンピュータは、
前記第1の信号と、
前記二次電子を検出する所定の光学条件における倍率と、
前記反射電子を検出する所定の光学条件における倍率を記録する記録部と、
前記補正係数を求める演算部と、を備え、
前記記録部は、
当該演算部により求めた補正係数を記録することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項9において、
前記演算部は、
前記第2の信号を導出することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項11】
試料に荷電粒子線を照射し、
偏向器に信号を与えて前記荷電粒子線を走査偏向する荷電粒子線の走査偏向方法において、
前記試料から発生する二次荷電粒子を検出する第1の光学条件において既知の寸法を有する標準試料を用いて走査偏向量を調整する第1の工程と、
予め取得した、二次荷電粒子を検出する所定の光学条件と、反射電子を検出する所定の光学条件における倍率の値から、
両光学条件における倍率に関する相対的な補正係数を求める第2の工程と、
当該標準試料を用いて走査偏向量を調整したときに前記偏向器に与える第1の信号と、前記補正係数に基づいて、前記試料から発生する反射電子を検出する第2の光学条件において前記偏向器に与える第2の信号を導出する第3の工程と、
を有することを特徴とする荷電粒子線の走査偏向方法。
【請求項12】
ネットワーク経由、もしくは外部接続型のメモリ経由で、走査型電子顕微鏡や、計算器からの画像データや、設計データを受信可能な計算機と、
パターンマッチング、パターン測定を行うためのパラメータ等を入力する入力手段と、
前記走査電子顕微鏡からの画像データや、パターンマッチング、パターン測定結果を表示する表示手段を備え、請求項1に記載の制御コンピュータの機能をソフトウェア処理で行うことを特徴としたプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−45500(P2013−45500A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180100(P2011−180100)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】