説明

蒸気システムとその制御システム及び制御方法

【課題】蒸気システムのタービントリップ時の制御の安定性を向上させる。
【解決手段】高圧側ヘッダから低圧側ヘッダに供給される蒸気によって駆動するタービンを備えた蒸気システムにおいて、通常制御時、低圧側ヘッダの圧力が下がったときにタービンバイパス弁が開かれ、高圧側の蒸気が低圧側ヘッダに供給される。タービントリップ時、バイパスを介して低圧側ヘッダに蒸気が急速に流入し、一時的に圧力が高くなり、低圧側ヘッダの蒸気が放出弁を介して放出される。その後、低圧側ヘッダから他のプロセスへの蒸気供給が増加すると、放出弁が閉じられる。放出弁が全閉になった後、低圧側ヘッダの蒸気量が過小とならないように、タービンバイパス弁の開度が通常制御よりも早いタイミングで大きくなるトリップ後制御が実行される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気システムの制御に関する。
【背景技術】
【0002】
メタノールプラント、アンモニア(尿素含む)プラントなどの化学プラントにおいて、高温高圧の蒸気が用いられる。図1は、そうした蒸気を制御する蒸気システムの一例を示す。
【0003】
蒸気システム2は、内部に高圧蒸気が蓄積される高圧側ヘッダ4と、高圧蒸気よりも圧力の低い低圧蒸気が蓄積される低圧側ヘッダ6とを備える。プラントによっては、図1の低圧側ヘッダ6に相当するものに中圧側ヘッダという名称が与えられることもある。
【0004】
高圧側ヘッダ4は、廃熱ボイラ8に接続される。廃熱ボイラ8は、高圧側ヘッダ4に高圧の蒸気を供給する。廃熱ボイラ8の供給系統は、安全弁10と放出弁12とを備える。放出弁12のコントローラは、供給系統の蒸気圧力が第1の所定の圧力を超えると、通常時に全閉に設定されている弁の開度を徐々に大きくして蒸気を系統の外部に逃がす。安全弁10は、供給系統の圧力が第1の所定の圧力よりも大きく設定された第2の所定の圧力を超えると蒸気の圧力に応じて開かれ、蒸気を系統の外部に逃がす。高圧側ヘッダ4は更に、補助ボイラ14に接続されている。補助ボイラ14は、補助ボイラ(パッケージボイラ)が発生する高圧の蒸気を高圧側ヘッダ4に供給する。廃熱ボイラ8が供給する蒸気の圧力は、補助ボイラ14が供給する蒸気の圧力よりも高い。
【0005】
低圧側ヘッダ6は放出弁30を備える。放出弁30のコントローラ32は、低圧側ヘッダ6の蒸気の圧力が所定の放出弁制御開始圧力を超えると通常時に全閉に設定されている弁の開度を徐々に大きくして蒸気を系統の外部に逃がす。この制御は、低圧側ヘッダ6の蒸気圧力の測定値PVと、通常時の低圧側ヘッダの蒸気圧力の目標値よりも少し大きい値に設定された放出弁MVとの偏差によるPI調節計で行われる。放出弁30のコントローラ32の圧力設定値は、後述のタービンバイパス弁23の低圧側コントローラ27の圧力設定値よりも大きい。
【0006】
低圧側ヘッダ6は更に、安全弁28を備える。安全弁28は放出弁制御開始圧力よりも大きく設定された安全弁制御開始圧力を超えると蒸気の圧力に応じて開かれ、蒸気を系統の外部に逃がす。低圧側ヘッダ6は更に、他のプロセス34に低圧蒸気を供給する。
【0007】
高圧側ヘッダ4はタービン16に接続される。高圧側ヘッダ4の高圧蒸気は、タービン入口側配管18を介してタービン16に導入される。タービン16は高圧蒸気によって駆動され、図示しない外部装置に力学的エネルギーを供給し、圧力の低下した蒸気を吐出する。吐出された蒸気の一部はタービン出口側配管20を介して低圧側ヘッダ6に供給される。他の一部は、図示しない復水器などに供給される。
【0008】
蒸気システム2は更に、高圧側ヘッダ4と低圧側ヘッダ6とを接続するタービンバイパスライン22を備える。タービンバイパスライン22は、内部を流れる蒸気の流量を制御するためのタービンバイパス弁23を備える。タービンバイパス弁23が開かれると、高圧側ヘッダ4の高圧蒸気はタービン16を迂回し、タービンバイパスライン22を介して低圧側ヘッダ6に供給される。
【0009】
タービンバイパス弁23は、制御部24から送信される制御信号によってソレノイドを動作させることにより制御される。高圧側コントローラ25と低圧側コントローラ27と高位選択器26とを備える。
【0010】
高圧側コントローラ25は、高圧ヘッダ4の高圧蒸気の圧力を測定して得られたプラント値である高圧側圧力を入力する。高圧側コントローラ25は、予め記憶している基準に基づいて、入力した高圧側圧力からタービンバイパス弁23の開度を指令するための高圧側MVを生成して出力する。高圧側MVは、例えば高圧側圧力と高圧側圧力設定値との偏差に基づくPI制御によって生成される。高圧側コントローラ25の圧力設定値は、廃熱ボイラ8の供給する蒸気の圧力よりも小さく、補助ボイラ13の供給する蒸気の圧力よりも大きい。
【0011】
低圧側コントローラ27は、低圧ヘッダ6の低圧蒸気の圧力を測定して得られたプラント値である低圧側圧力を入力する。低圧側コントローラ27は、予め記憶している基準に基づいて、入力した低圧側圧力からタービンバイパス弁23の開度を指令するための低圧側MVを生成して出力する。低圧側MVは、例えば低圧側圧力と低圧側圧力設定値との偏差に基づくPI制御によって生成される。
【0012】
高位選択器26は、高圧側MVと低圧側MVとを入力して大きい方の値を制御用のMVとして選択してタービンバイパス弁23を制御して、制御された量の蒸気を高圧側ヘッダ4から低圧側ヘッダ6に送る。こうした制御により、高圧側ヘッダ4の蒸気圧力が所定の基準よりも高くなった場合に、高圧側ヘッダ4の蒸気圧力を下げることができる。更に、低圧側ヘッダ6の蒸気圧力が所定の基準よりも低くなった場合に、低圧側ヘッダ6の蒸気圧力を上げることができる。
【0013】
低圧側ヘッダ6には更に、図示しない低圧蒸気供給系統が接続されている。低圧蒸気供給系統は、低圧側ヘッダ6に低圧蒸気を供給する。低圧蒸気供給系統は、低圧側流入量制御SVを予め記憶している制御装置によって制御されている。低圧側ヘッダ6の圧力がその低圧側流入量制御SVを超えると、低圧蒸気供給系統が低圧側ヘッダ6に供給する蒸気の量が減らされる。
【0014】
特許文献1には、蒸気タービンが故障(トリップ時)により緊急停止した場合、タービン側で使用していた蒸気をスムーズに高圧蒸気復水器に逃がす蒸気タービン蒸気バイパス装置に関する発明が記載されている。
【0015】
特許文献2には、蒸気タービン入口に接続されタービンバイパス弁を具えたタービンバイパスと、同タービンバイパス弁を制御するタービンガバナとを有するコンバインドプラントにおいて、前記タービンガバナが前記タービンバイパス弁の自動制御を停止した時、その時の蒸気圧力より所定値だけ高い圧力を設定圧力として前記タービンバイパス弁を制御することを特徴とするコンバインドプラントのタービンバイパス制御方法が記載されている。
【特許文献1】特開平11−257018号公報
【特許文献2】特開平7−229405号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
発明者は、上記のような蒸気システムにおいて、以下のような制御の不安定が発生する可能性があることを発見した。蒸気システム2の運転中に、タービン16がトリップすることがある。タービン16がトリップした状態において、他のプロセス34で消費される蒸気量が増加し、低圧側ヘッダ6から他のプロセス34に供給される蒸気流量F5が増加することがある。
【0017】
タービン16がトリップすると、上記の制御によりバイパス弁が急速に開けられ、一時的に高圧側ヘッダ4の圧力が急速に低下し、低圧側ヘッダの圧力が急速に増大する。その後、低圧側ヘッダ6の圧力は、放出弁30から蒸気が外部に放出されることによって一旦52KG(kg/cmG)以下に低下してから、徐々に52KGに近づくように上昇する。高圧側ヘッダ4の圧力は、制御部24がタービンバイパス弁23の開度を小さくする制御を行うことにより、徐々に107KGに近づく。
【0018】
こうした状態以降のプラント状態の推移が図2(a)〜(d)に示されている。図2(d)において、時刻t10より前においては、他のプロセス34に供給される蒸気流量F5が廃熱ボイラ8から高圧側ヘッダ1に供給される蒸気流量F1よりも少ないものとする。時刻t10で蒸気流量F5が増加し始める。
【0019】
廃熱ボイラ8が高圧側ヘッダ4に供給する蒸気流量F1は、廃熱ボイラ8が外部システムの廃熱を利用して蒸気を発生しているために、蒸気流量F1は外部システムの条件によって概ね決まっていて、任意に制御することができない。結果として、タービントリップ時に高圧側ヘッダ4から低圧側ヘッダ6に供給される蒸気流量F3は変化せずに蒸気流量F5が増加する。
【0020】
したがって時刻t10以降、低圧側ヘッダ6の蒸気圧力が低下する傾向が発生する。放出弁30のコントローラ32は、PV値とSV値の偏差が大きくなるため、放出弁30の開度を小さくするようなMV値を生成する。放出弁30の開度が徐々に小さくなり、低圧側ヘッダ6の蒸気圧力の低下が抑制される。
【0021】
時刻t11において、放出弁30が全閉する。図2(c)に示されるように、時刻t11以降、低圧側ヘッダ6の蒸気圧力はコントローラ32のSV値52KGから低下する。蒸気圧力は時刻t12で制御部24の低圧側コントローラ27のSV値48.5KGとなり、さらに低下する。
【0022】
低圧側コントローラ27は時刻t12以降、タービンバイパス弁23の開度を大きくするようにMV値を生成して高位選択器26に送信する。しかし図2(a)に示されるように、この時点では高圧側ヘッダ4の圧力は高い(107KG)。そのため、高圧側コントローラ24はタービンバイパス弁23の開度を小さくするようにMV値を生成して高位選択器26に送信する。時刻t11の後しばらくの間、高位選択器26は高圧側コントローラ24のMV値を選択してタービンバイパス弁23の制御に用いる。タービンバイパス弁23の開度は小さくなり、低圧側ヘッダ6の圧力はさらに低下する。低圧側ヘッダ6の圧力が異常低下する。この現象は、蒸気システム2の運転の安定性にとって好ましくない。
【0023】
低圧側ヘッダ6の圧力がある程度を超えて低下すると、低圧側コントローラ27のMV値が大きくなり、高位選択器26が低圧側コントローラ27のMV値を制御信号として選択するようになる。タービンバイパス弁23の開度は、この時点以前は減少していたが、この時点以降は増加に転じる。図2(d)に示されるようにタービンバイパスライン22の蒸気流量F3が増加し、低圧側ヘッダ6の蒸気圧力も増加する。但し、一旦は蒸気圧力が以上低下しているため、やや大きいハンチングが発生する可能性がある。
【0024】
蒸気流量F3が大きくなると、高圧側ヘッダ4の蒸気圧力が低下する。時刻t13において蒸気圧力が補助ボイラ13のコントローラ15のSV値105KGを下回ると、図2(b)に示されるように、補助ボイラ13が高圧側ヘッダ4に供給する蒸気の流量F2が増加する。
【0025】
しかし、補助ボイラ13は高圧側ヘッダ4の圧力変化を埋め合わせるほどの即応性を有していない場合がある。そのような場合、図2(a)に示されるように高圧側ヘッダ4の圧力が異常低下する可能性がある。さらに、高圧側ヘッダ4の圧力が正常に戻るまでに大きめのハンチングが発生する可能性がある。
【0026】
このような不安定性は、タービントリップ時以外にも発生する可能性がある。低圧側ヘッダ6の蒸気圧力が放出弁30の開度によって制御されている状態において、他のプロセス34に供給される蒸気流量F5が増大すると、低圧側ヘッダ6の蒸気圧力が低下する。このような場合、放出弁30を全閉しても圧力の低下が止まらないと、タービンバイパス弁23が開けられ、その開度の制御によって低圧側ヘッダ6に蒸気を供給する制御が実行される。こうした場合にも、上記のタービントリップ時と類似の不安定な挙動が発生する可能性がある。
【0027】
そこで本発明の目的は、タービントリップ時における蒸気システムの制御の安定性を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
以下に、[発明を実施するための最良の形態]で使用される番号を括弧付きで用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号は、[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための最良の形態]との対応関係を明らかにするために付加されたものである。ただし、それらの番号を、[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0029】
本発明による蒸気システム(2)は、高圧蒸気を蓄積する高圧側ヘッダ(4)と、高圧側ヘッダ(4)から供給される高圧蒸気によって駆動されるタービン(16)と、タービン(16)が吐出する蒸気を低圧蒸気として蓄積する低圧側ヘッダ(6)と、低圧蒸気を低圧側ヘッダ(6)の外部に放出する放出弁(30)と、低圧蒸気の圧力が放出弁圧力設定値よりも大きいとき、低圧蒸気の圧力が低下するように放出弁(30)の開度を制御する放出弁コントローラ(32)と、高圧側ヘッダ(4)からタービン(16)を迂回して低圧側ヘッダ(6)に蒸気を導くバイパス(22)と、バイパス(22)の蒸気流量を制御するバイパス弁(23)と、タービン(16)が駆動しているとき、低圧蒸気の圧力のプラント値を用いてバイパス弁(23)の開度を制御する通常制御を行うバイパス弁コントローラ(24)と、タービン(16)がトリップしたことを示すトリップ信号に応答して、高圧側ヘッダ(4)からタービン(16)を迂回して低圧側ヘッダ(6)に蒸気を供給するトリップ時制御を行うトリップ時制御部とを備える。バイパス弁コントローラ(24)は、トリップ時制御の後且つタービン(16)がトリップしているとき、通常制御よりもバイパス弁(23)の開度を大きくするトリップ後制御を行う。
【0030】
本発明による蒸気システム(2)において、バイパス弁コントローラ(24)は、放出弁(30)の開度が所定値以下になったときトリップ後制御を開始する。
【0031】
本発明による蒸気システム(2)において、バイパス弁コントローラ(24)は、低圧側ヘッダ(6)の蒸気圧力が放出弁圧力設定値に対して所定量以上低下したときにトリップ後制御を開始する。
【0032】
本発明による蒸気システム(2)において、バイパス弁コントローラ(24)は、低圧蒸気の圧力のプラント値が低圧側圧力設定値に近づくようにバイパス弁(23)を制御するための低圧側制御値を生成する低圧側バイパス弁コントローラ(27)を備える。
【0033】
本発明による蒸気システム(2)において、低圧側バイパス弁コントローラ(27)は、低圧蒸気の圧力のプラント値と低圧側圧力設定値との偏差に基づいて低圧側制御値を生成する。
【0034】
本発明による蒸気システム(2)において、低圧側圧力設定値は、放出弁圧力設定値よりも小さい。
【0035】
本発明による蒸気システム(2)において、バイパス弁コントローラ(24)は更に、高圧蒸気の圧力が高圧側圧力設定値に近づくようにバイパス弁(23)を制御するための高圧側制御値を生成する高圧側バイパス弁コントローラ(25)と、通常制御において、低圧側制御値と高圧側制御値の大きい方をバイパス弁(23)の開度を制御する制御値として選択する選択器(26)とを備える。
【0036】
本発明による蒸気システム(2)は更に、高圧側ヘッダ(4)に第1圧力の蒸気を供給する廃熱ボイラ(8)と、第1圧力より小さい第2圧力の蒸気を供給する補助ボイラ(13)とを備える。高圧側圧力設定値は、第1圧力よりも小さく第2圧力よりも大きい。
【0037】
本発明による蒸気システム(2)において、バイパス弁コントローラ(24)は、トリップ後制御を開始するとき、低圧側圧力設定値を通常制御におけるよりも大きいトリップ時低圧側圧力設定値に設定する。
【0038】
本発明による蒸気システム(2)において、トリップ時低圧側圧力設定値は、トリップ後制御を開始するとき、低圧蒸気のプラント値に設定される。
【0039】
本発明による蒸気システム(2)において、トリップ時低圧側圧力設定値は、トリップ後動作を開始するとき、所定の変化速度で通常制御における低圧側圧力設定値に戻される。
【0040】
本発明による蒸気システム(2)において、トリップ後制御は、低圧蒸気の圧力がトリップ時低圧側圧力設定値を下回った時点で開始される。
【0041】
本発明による蒸気システム(2)において、トリップ後制御は、通常制御におけるバイパス弁(23)の開度指令値に対して徐々に増加する上乗せ値を足すことにより実行される。
【発明の効果】
【0042】
本発明により、タービントリップ時における蒸気システムの制御の安定性が向上される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態について説明する。本実施の形態における制御装置及び制御方法は、図1を参照して説明された蒸気システム2において、放出弁30のコントローラ32と制御部24にタービントリップ時の機能が追加されることによって実現される。以下においては、図1を参照して、コントローラ32に追加される機能に関して説明される。通常運転時における制御は既述の説明と同じであり省略する。
【0044】
図3を参照して、タービントリップ後にコントローラ32が実行する動作について説明する。図3(a)に示されるように、放出弁開度が徐々に低下し、時刻t2において全閉する。これは図2(d)の時刻t11に対応する。このとき、コントローラ32は放出弁30が全閉になったことを示すトリガを生成して制御部24に送信する。プラントの条件によっては、このトリガは放出弁30の開度が所定値以下となったタイミングで生成されてもよい。
【0045】
時刻t2において制御部24がトリガを受信するとトリップ後制御が開始される。低圧側コントローラ27がマニュアル操作に設定され、設定値が通常制御におけるよりも大きいトリップ時低圧側圧力設定値に自動的に設定される。具体的には、制御部24は、低圧側コントローラ27のSV値を、その時点における低圧側ヘッダ6の蒸気圧力のプラント値(図3(c)のMP2)に設定する。時刻t2以後、制御部24は低圧側コントローラ27のSV値を、時刻t5において通常制御時のSV値48.5KGに戻るまで所定の変化率で下げる。
【0046】
次に、上記の制御が適用される蒸気システムの状態のタービントリップ後の推移について説明する。タービン16がトリップすると、上記の制御によりバイパス弁が急速に開けられ、一時的に高圧側ヘッダ4の圧力が急速に低下し、低圧側ヘッダの圧力が急速に増大する。その後、低圧側ヘッダ6の圧力は、放出弁30が開けられることによって一旦52KG以下に低下してから、徐々に52KGに近づくように上昇する。高圧側ヘッダ4の圧力は、制御部24がタービンバイパス弁23の開度を小さくする制御を行うことにより、徐々に107KGに近づく。
【0047】
こうした状態以降のプラント状態の推移が図4に示されている。図3(d)の時刻t10について説明したのと同様に、時刻t1において蒸気流量F5が増加しはじめる。それに伴う蒸気圧力の低下により、コントローラ32は放出弁30の開度を小さくする制御を行い、蒸気流量F4が次第に減少する。時刻t2において、放出弁30が全閉となる。
【0048】
図4(c)を参照して、時刻t2おいて放出弁30が全閉されるとトリガがONになり、低圧側コントローラ27のSV値が通常制御時の48.5KGから時刻t2における低圧側ヘッダ6の蒸気圧力(図4(c)の52KG)に設定される。このSV値(トリップ時低圧側圧力設定値)は所定の変化率で通常制御におけるSV値にまで低下する。
【0049】
トリップ時圧力設定値は通常制御におけるSV値よりも大きいため、時刻t2以降、短時間のうちに低圧側ヘッダ6の蒸気圧力がトリップ時低圧側圧力設定値を下回る。この時刻が図4にt3で示されている。時刻t3以降、低圧側コントローラ27はタービンバイパス弁23の開度を大きくするように開度指令MV値を生成する。この制御により、制御部24は、放出弁30が閉じてから短時間のうちにタービンバイパス弁23の開度を大きくする制御を行う。
【0050】
その結果、低圧側ヘッダ6に速やかに蒸気が供給され、図3(c)に示されるように、低圧側ヘッダ6の蒸気圧力の異常低下が回避される。トリップ時低圧側圧力設定値が徐々に通常制御時のSV値に戻されるため、ハンチングが小さく抑えられる。
【0051】
時刻t3以降、高圧側ヘッダ4の蒸気圧力が低下する。時刻t4において高圧側ヘッダ4の蒸気圧力が補助ボイラ系のコントローラ15のSV値を下回る。するとコントローラ15は補助ボイラ蒸気流量制御弁14の開度を大きくし、蒸気流量F2が増大する。この制御により、放出弁30が全閉になってから短時間のうちに補助ボイラ13の蒸気が高圧側ヘッダ4に供給される。その結果、図4(a)に示されるように高圧側ヘッダ4の蒸気圧力の異常低下が回避される。さらに、蒸気圧力のハンチングも抑制される。そのため、図4(b)に示されるように、タービンバイパスライン22の蒸気流量F3が放出弁30の全閉から短時間のうちに、滑らかに増大する。
【0052】
以上に示されたように、本実施の形態においては、放出弁30が全閉になり放出弁30による低圧側ヘッダ6の圧力制御が効かなくなったときに、タービンバイパス弁23の低圧側設定値がより大きい圧力に設定される。そのため、まだ低圧側ヘッダ6の蒸気圧力があまり低下していないうちに低圧側ヘッダ6に追加の蒸気が供給されて、蒸気圧力の異常低下が回避される。その結果、タービントリップ後の制御の安定性が向上する。
【0053】
本実施の形態では、放出弁30の全閉をトリガとしてトリップ後制御が開始された。このような制御に代えて、放出弁30のコントローラ32が、低圧側ヘッダ6の蒸気圧力がコントローラ32のSV値(52KG)に対して所定幅低下したタイミングでトリガを生成するという制御によって、同様の効果を達成することが可能である。
【0054】
また、トリガが発生した後の制御について、本実施の形態とは異なる手段でタービンバイパスライン22の蒸気流量F3を増加させることが可能である。例えば、トリガが発生してから所定時間の間、選択器26が出力する開度指令値にランプ(ramp)状に徐々に増加する上乗せ値を足す加算器を追加し、加算器の出力によってタービンバイパス弁23を制御することにより、蒸気流量F3が増加し、本実施の形態と同様の効果を奏することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、蒸気システムの構成を示す。
【図2】図2は、タービントリップ後のプラント状態の推移を示す。
【図3】図3は、タービントリップ後のコントローラの動作を示す。
【図4】図4は、タービントリップ後のプラント状態の推移を示す。
【符号の説明】
【0056】
2…蒸気システム
4…高圧側ヘッダ
6…低圧側ヘッダ
8…廃熱ボイラ
10…安全弁
12…放出弁
13…補助ボイラ
14…補助ボイラ蒸気流量制御弁
15…コントローラ
16…タービン
18…タービン入口側配管
20…タービン出口側配管
22…タービンバイパスライン
23…タービンバイパス弁
24…制御部
25…高圧側コントローラ
26…高位選択器
27…低圧側コントローラ
28…安全弁
30…放出弁
32…コントローラ
34…他のプロセス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧蒸気を蓄積する高圧側ヘッダと、
前記高圧側ヘッダから供給される前記高圧蒸気によって駆動されるタービンと、
前記タービンが吐出する蒸気を低圧蒸気として蓄積する低圧側ヘッダと、
前記低圧蒸気を前記低圧側ヘッダの外部に放出する放出弁と、
前記低圧蒸気の圧力が放出弁圧力設定値よりも大きいとき、前記低圧蒸気の圧力が低下するように前記放出弁の開度を制御する放出弁コントローラと、
前記高圧側ヘッダから前記タービンを迂回して前記低圧側ヘッダに蒸気を導くバイパスと、
前記バイパスの蒸気流量を制御するバイパス弁と、
前記タービンが駆動しているとき、前記低圧蒸気の圧力のプラント値を用いて前記バイパス弁の開度を制御する通常制御を行うバイパス弁コントローラと、
前記タービンがトリップしたことを示すトリップ信号に応答して、前記高圧側ヘッダから前記タービンを迂回して前記低圧側ヘッダに蒸気を供給するトリップ時制御を行うトリップ時制御部
とを具備し、
前記バイパス弁コントローラは、前記トリップ時制御の後且つ前記タービンがトリップしているとき、前記通常制御よりも前記バイパス弁の開度を大きくするトリップ後制御を行う
蒸気システム。
【請求項2】
請求項1に記載された蒸気システムであって、
前記バイパス弁コントローラは、前記放出弁の開度が所定値以下になったとき前記トリップ後制御を開始する
蒸気システム。
【請求項3】
請求項1に記載された蒸気システムであって、
前記バイパス弁コントローラは、前記前記低圧側ヘッダの蒸気圧力が前記放出弁圧力設定値に対して所定量以上低下したときに前記トリップ後制御を開始する
蒸気システム。
【請求項4】
請求項1から3のうちのいずれか1項に記載された蒸気システムであって、
前記バイパス弁コントローラは、前記低圧蒸気の圧力のプラント値が低圧側圧力設定値に近づくように前記バイパス弁を制御するための低圧側制御値を生成する低圧側バイパス弁コントローラを備える
蒸気システム。
【請求項5】
請求項4に記載された蒸気システムであって、
前記低圧側バイパス弁コントローラは、前記低圧蒸気の圧力のプラント値と前記低圧側圧力設定値との偏差に基づいて前記低圧側制御値を生成する
蒸気システム。
【請求項6】
請求項4または5に記載された蒸気システムであって、
前記低圧側圧力設定値は、前記放出弁圧力設定値よりも小さい
蒸気システム。
【請求項7】
請求項4から6のうちのいずれか1項に記載された蒸気システムであって、
前記バイパス弁コントローラは更に、前記高圧蒸気の圧力が高圧側圧力設定値に近づくように前記バイパス弁を制御するための高圧側制御値を生成する高圧側バイパス弁コントローラと、
前記通常制御において、前記低圧側制御値と前記高圧側制御値の大きい方を前記バイパス弁の開度を制御する制御値として選択する選択器
とを備える蒸気システム。
【請求項8】
請求項7に記載された蒸気システムであって、
更に、前記高圧側ヘッダに第1圧力の蒸気を供給する廃熱ボイラと、
前記第1圧力より小さい第2圧力の蒸気を供給する補助ボイラ
とを具備し、
前記高圧側圧力設定値は、前記第1圧力よりも小さく前記第2圧力よりも大きい
蒸気システム。
【請求項9】
請求項4から8のうちのいずれか1項に記載された蒸気システムであって、
前記バイパス弁コントローラは、前記トリップ後制御を開始するとき、前記低圧側圧力設定値を前記通常制御におけるよりも大きいトリップ時低圧側圧力設定値に設定する
蒸気システム。
【請求項10】
請求項9に記載された蒸気システムであって、
前記トリップ時低圧側圧力設定値は、前記トリップ後制御が開始された時に前記低圧蒸気のプラント値に設定される
蒸気システム。
【請求項11】
請求項10に記載された蒸気システムであって、
前記トリップ時低圧側圧力設定値は、前記トリップ後制御が開始された後、所定の変化速度で前記通常制御における前記低圧側圧力設定値に戻される
蒸気システム。
【請求項12】
請求項9から11のうちのいずれか1項に記載された蒸気システムであって、
前記トリップ後制御は、前記低圧蒸気の圧力が前記トリップ時低圧側圧力設定値を下回った時点で開始される
蒸気システム。
【請求項13】
請求項1から8のうちのいずれか1項に記載された蒸気システムであって、
前記トリップ後制御は、前記通常制御における前記バイパス弁の開度指令値に対して徐々に増加する上乗せ値を足すことにより実行される
蒸気システム。
【請求項14】
低圧側ヘッダに蓄積された低圧蒸気の圧力が放出弁圧力設定値よりも大きいとき、前記低圧蒸気を前記低圧側ヘッダの外部に放出する放出弁の開度を、前記低圧蒸気の圧力が低下するように制御する放出弁コントローラと、
高圧蒸気を蓄積する高圧側ヘッダから前記低圧側ヘッダに送られる蒸気から仕事を取り出すタービンが駆動しているとき、前記タービンを迂回して前記高圧側ヘッダから前記低圧側ヘッダに蒸気を導くバイパスの蒸気流量を制御するバイパス弁の開度を前記低圧蒸気の圧力のプラント値を用いて制御する通常制御を行うバイパス弁コントローラと、
前記タービンがトリップしたことを示すトリップ信号に応答して、前記高圧側ヘッダから前記タービンを迂回して前記低圧側ヘッダに蒸気を供給するトリップ時制御を行うトリップ時制御部
とを具備し、
前記バイパス弁コントローラは、前記トリップ時制御の後且つ前記タービンがトリップしているとき、前記通常制御よりも前記バイパス弁の開度を大きくするトリップ後制御を行う
蒸気システム制御システム。
【請求項15】
低圧側ヘッダに蓄積された低圧蒸気の圧力が放出弁圧力設定値よりも大きいとき、前記低圧蒸気を前記低圧側ヘッダの外部に放出する放出弁の開度を、前記低圧蒸気の圧力が低下するように制御する放出弁制御ステップと、
高圧蒸気を蓄積する高圧側ヘッダから前記低圧側ヘッダに送られる蒸気から仕事を取り出すタービンが駆動しているとき、前記タービンを迂回して前記高圧側ヘッダから前記低圧側ヘッダに蒸気を導くバイパスの蒸気流量を制御するバイパス弁の開度を前記低圧蒸気の圧力のプラント値を用いて制御する通常制御を行うバイパス弁制御ステップと、
前記タービンがトリップしたことを示すトリップ信号に応答して、前記高圧側ヘッダから前記タービンを迂回して前記低圧側ヘッダに蒸気を供給するトリップ時制御を行うトリップ時制御ステップ
とを具備し、
前記バイパス弁制御ステップは、前記トリップ時制御の後且つ前記タービンがトリップしているとき、前記通常制御よりも前記バイパス弁の開度を大きくするトリップ後制御ステップを含む
蒸気システム制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−202432(P2008−202432A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36825(P2007−36825)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】