説明

蒸気タービントリップ装置

【課題】 タービントリップ信号があったとき確実にタービントリップを行うことができる蒸気タービントリップ装置を提供することである。
【解決手段】 タービントリップ信号は、二重化されたマスタトリップソレノイド8の双方に入力され、二重化されたマスタトリップソレノイド8の双方またはいずれか一方のマスタトリップソレノイドの動作により、ラッチ9を動作させマスタトリップ弁1を動作させてタービントリップを行う。これにより、タービントリップ時の電気信号がマスタトリップソレノイド8の機械的動作に確実に変化されるので、マスタトリップ弁1の動作の信頼性向上が図れる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば発電プラントに適用される蒸気タービンをトリップさせる蒸気タービントリップ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】原子力発電プラントや火力発電プラントでは、蒸気タービンに蒸気を供給して蒸気タービンに連結された発電機を回転駆動して発電を行っている。この蒸気タービンの回転維持が困難な状態になったときは、蒸気タービンの回転を止めるタービントリップが行われる。蒸気タービンのタービントリップは発電プラントの監視装置からのタービントリップ信号が蒸気タービントリップ装置に出力することにより行われる。図4は従来の蒸気タービントリップ装置の構成図である。
【0003】図4に示すように、実際に非常油ラインの油をドレンに排油する装置は、マスタトリップ弁1とトリップ機構部2とから構成され、トリップ機構部2はトリップピストン3およびロックアウトスリーブ4を有している。
【0004】通常状態ではタービン制御油は、供給ラインからトリップピストン3およびマスタトリップ弁1を介して各蒸気弁油筒ラインに供給されている。マスタトリップ弁1はバネ5を有しており、マスタトリップ弁1の内部のピストン6とレバー7はマスタトリップソレノイド8によって動作するラッチ9に着脱が可能なように固定されている。
【0005】一方、タービントリップ時には、レバー7がラッチ9から外れることによって、レバー7およびピストン6はバネ力によって図4中の左側に動作し、非常油ラインの油をドレンラインへ接続することでタービントリップを行う。
【0006】トリップ機構部2のトリップピストン3は、バネ10によってトリップレバー11に着脱が可能な状態で押し付けられて固定されている。すなわち、トリップピストン3は、バネ10を有しておりトリップピストン3に接続されているロッド17は、このバネ力によってトリップレバー11に押し付けられて固定されている。トリップレバー11はロッド12を介し手動にて動作が可能なようにトリップハンドル13を軸端に装備している。
【0007】また、トリップレバー11に近接して非常調速機14が配置されており、非常調速機14は、それ自身の動作によってトリップレバー11を動作させることが可能なようになっている。非常調速機14を動作させるためにはタービンの回転数を規定回転数以上に昇速させるか、または非常調速機14に油を流入させる。その油の供給はオイルトリップ弁15により行われる。
【0008】ロックアウト弁16は、タービン運転中に非常調速機14の試験動作を確認する際にトリップ機構部2に油を供給するものであり、このロックアウト弁16からの油の供給によってロックアウトスリーブ4を右方にスライドさせる。ロックアウトスリーブ4が動作することによって、非常調速機14が作動しても制御油供給ラインがドレンラインに接続されなくなる。従って、タービン運転中に非常調速機14の試験動作を確認することができるようになっている。
【0009】図5は、マスタトリップソレノイド8が動作したときのタービントリップ状態を示した蒸気タービントリップ装置の構成図である。マスタトリップソレノイド8はタービントリップ信号が入力されると、図5に示すようにラッチ9を上方に突き上げるように動作する。マスタトリップソレノイド8が動作することによってラッチ9を動作させ、ラッチ9に着脱が可能なように固定されていたレバー7がマスタトリップ弁1のバネ5のバネ力によって図5中の左側に移動する。これにより、マスタトリップ弁1のピストン6が左側に移動することにより非常油ラインはドレンラインへ接続されタービントリップ状態となる。この場合、トリップ信号によって動作する機器はマスタトリップソレノイド8のみである。
【0010】図6は、トリップハンドル13を動作させたときのタービントリップ状態を示した蒸気タービントリップ装置の構成図である。トリップハンドル13を引くことによって、ロッド12を介してトリップレバー11が動作する。トリップレバー11が動作することによって、トリップピストン3はロッド17を介してバネ10のバネ力により図6中の右側にシフトする。これにより、非常油ラインはドレンラインへ接続されタービントリップ状態となる。
【0011】図7は非常調速機14を動作させたときのタービントリップ状態を示した蒸気タービントリップ装置の構成図である。非常調速機14は内部にバネによって支えられたスピンドルを有しており、円周方向に回転することによってスピンドルに遠心力が働き、遠心力がバネ力を上回るとスピンドルが非常調速機14の円周より突き出し、トリップレバー1に接触しトリップレバー11を動作させる。
【0012】トリップレバー11が動作すると、バネ10のバネ力の作用によってトリップピストン3はロッド17を介して図7中の右側にシフトし、非常油ラインはドレンラインへ接続されタービントリップ状態となる。
【0013】図8はオイルトリップ弁15を用いて非常調速機14が試験的に動作している状態を示した蒸気タービントリップ装置の構成図である。非常調速機14がタービン回転数を増加させること無く動作させるために、非常調速機14の内部にオイルトリップ弁15から油を流入させる。油は非常調速機14の内部に構成されているリング部に溜まる構造になっている。リングは油の遠心力によって偏心され、通常回転でもスピンドルを非常調速機14の円周より突き出し、非常調速機14の動作を試験的に確認する。このときの油の流入はオイルトリップ弁15によって制御される。
【0014】また、オイルトリップ弁15を用いて非常調速機14の動作を確認する際には、トリップレバー11を介してトリップピストン3も動作することから、トリップピストン3の内部の油がドレンラインに接続されないようにする必要がある。そこで、ロックアウト弁16を用いてトリップピストン3の外周を囲んでいるロックアウトスリーブ4の図8中の左側に油を流入させる。これにより、ロックアウトスリーブ4を図8中の右側にスライドさせ、非常油ラインがドレンラインと接続されないようにする。従って、タービンがトリップすることはない。
【0015】このように、従来のタービントリップ装置では、タービントリップは、マスタトリップソレノイド8を用いて行われる場合、トリップハンドル13を用いて行われる場合、タービン回転数増加に伴う非常調速機14の動作によって行われる場合がある。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】ところが、このような従来の蒸気タービントリップ装置では、マスタトリップソレノイド8がトリップ信号を受けたにもかかわらず動作しない場合には、タービンは回転数が上昇して非常調速機14が動作するか、またはトリップハンドル13を動作させない限りタービントリップを行うことはできない。
【0017】すなわち、マスタトリップソレノイド8が故障した場合には、実際にタービン回転数が上昇してからでないとタービントリップを行うことができないので、タービンに余計な負担をかけることになる。また、トリップハンドル13により運転員の判断でタービントリップを行うことができるが、運転員が正確にしかも早期にタービントリップ状態になったことを判断することは困難である。
【0018】本発明の目的は、タービントリップ信号があったとき確実にタービントリップを行うことができる蒸気タービントリップ装置を提供することである。
【0019】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明に係わる蒸気タービントリップ装置は、蒸気タービンのタービントリップ信号により動作するマスタトリップソレノイドと、前記マスタトリップソレノイドの動作により機械的に駆動されるラッチと、前記ラッチが駆動されたときタービントリップ動作を行うマスタトリップ弁と、蒸気タービンの回転数が規定値を超えたときタービントリップ動作を行う非常調速機と、前記非常調速機を強制的に動作させるオイルトリップ弁とを備え、前記マスタトリップソレノイドは二重化され、二重化された少なくとも一方のマスタトリップソレノイドにより前記ラッチを動作させるようにしたことを特徴とする。
【0020】請求項1の発明に係わる蒸気タービントリップ装置においては、タービントリップ信号は、二重化されたマスタトリップソレノイドの双方に入力され、二重化されたマスタトリップソレノイドの双方またはいずれか一方のマスタトリップソレノイドの動作により、ラッチを動作させマスタトリップ弁を動作させてタービントリップを行う。これにより、タービントリップ時の電気信号がマスタトリップソレノイドの機械的動作に確実に変化されるので、マスタトリップ弁の動作の信頼性向上が図れる。
【0021】請求項2の発明に係わる蒸気タービントリップ装置は、請求項1の発明において、二重化されたマスタトリップソレノイドは前記ラッチに対して並列的に配置されたことを特徴とする。
【0022】請求項2の発明に係わる蒸気タービントリップ装置においては、二重化されたマスタトリップソレノイドはラッチに対して並列的に配置され、少なくともいずれか一方のマスタトリップソレノイドが動作したときラッチを動作させる。
【0023】請求項3の発明に係わる蒸気タービントリップ装置は、請求項1の発明において、二重化されたマスタトリップソレノイドは前記ラッチに対して直列的に配置されたことを特徴とする。
【0024】請求項3の発明に係わる蒸気タービントリップ装置においては、二重化されたマスタトリップソレノイドはラッチに対して直列的に配置され、少なくともいずれか一方のマスタトリップソレノイドが動作したときラッチを動作させる。
【0025】請求項4の発明に係わる蒸気タービントリップ装置は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項の発明において、蒸気タービンのタービントリップ信号があったとき、前記マスタトリップソレノイドを動作させると共に前記オイルトリップ弁も動作させることを特徴とする。
【0026】請求項4の発明に係わる蒸気タービントリップ装置においては、蒸気タービンのタービントリップ信号があったとき、二重化されたマスタトリップソレノイドを機械的に動作させると共に、オイルトリップ弁にも入力して非常調速機も動作させマスタトリップソレノイドのバックアップをする。これにより、タービントリップの信頼性を向上させる。
【0027】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の第1の実施の形態に係わるタービントリップ装置のマスタトリップソレノイド部分の説明図であり、図1(a)は正面図、図1(b)は平面図である。
【0028】図1(a)に示すように、マスタトリップソレノイド8はラッチ9の下部に設けられ、マスタトリップソレノイド8にタービントリップ信号が入力されると、マスタトリップソレノイド8の突起部18がラッチ9を上方に突き上げるように動作する。これにより、レバー7が左に移動しマスタトリップ弁1のバネ5のバネ力によってピストン6が左側に移動し、非常油ラインはドレンラインへ接続される。
【0029】図1(b)に示すように、マスタトリップソレノイド8は二重化されており、ラッチ9に対して並列的に配置されている。これに伴い、ラッチ9はコ字状に形成され、各々のマスタトリップソレノイド8a、8bに対面し配置されている。そして、ラッチ9は、二重化された少なくともいずれか一方のマスタトリップソレノイド8a、8bの突起部18で突き上げられたときに動作するように構成されている。
【0030】タービントリップ信号が入力されたときは、通常は双方のマスタトリップソレノイド8a、8bが動作し、それぞれの突起部18が突出してラッチ9を突き上げる。一方、いずれかのマスタトリップソレノイド8が故障して不動作の場合であっても、他方のマスタトリップソレノイド8が動作したときには、突起部18が突出してラッチ9を突き上げる。従って、レバー7を介してマスタトリップ弁1のバネ5のバネ力によってピストン6を左側に移動させてタービンをトリップさせる。
【0031】このように、いずれか一方のマスタトリップソレノイド8が動作したときにはラッチ9を動作させることができるので、蒸気タービントリップ装置の信頼性が向上する。
【0032】この第1の実施の形態によれば、マスタトリップソレノイド8を二重化して設け、いずれか一方のマスタトリップソレノイド8が動作したときはラッチ9を動作させてマスタトリップ弁1を動作させるので、タービントリップの信頼性が向上する。
【0033】次に、本発明の第2の実施の形態を説明する。図2は本発明の第2の実施の形態に係わるタービントリップ装置のマスタトリップソレノイド部分の説明図であり、図2(a)は正面図、図2(b)は平面図である。この第2の実施の形態は、図1に示した第1の実施の形態に対し、二重化されたマスタトリップソレノイド8をラッチに対して並列的に配置することに代えて、直列的に配置したものである。
【0034】図2(a)および図2(b)に示すように、二重化されたマスタトリップソレノイド8a、8bはラッチ9の下部に並列的に設けられ、マスタトリップソレノイド8a、8bにタービントリップ信号が入力されると、マスタトリップソレノイド8a、8bの突起部18a、18bがラッチ9を上方に突き上げるように動作する。そして、ラッチ9は、二重化された少なくともいずれか一方のマスタトリップソレノイド8a、8bの突起部18で突き上げられたときに動作するように構成されている。
【0035】また、マスタトリップソレノイド8a、8bをラッチ9に対し並列的に配置したことに伴い、ラッチ9は長手方向に長めに形成されている。また、ラッチ9の端部に配置されるマスタトリップソレノイド8aの突起部18aは、その隣に配置されるマスタトリップソレノイド8bの突起部18bよりやや長めに形成される。これにより、マスタトリップソレノイド8a、8bの動作時に適正にレバー7を駆動できるようにしている。
【0036】この第2の実施の形態によれば、マスタトリップソレノイド8を二重化して設け、いずれか一方のマスタトリップソレノイド8が動作したときはラッチ9を動作させてマスタトリップ弁1を動作させるので、タービントリップの信頼性が向上する。また、第1の実施の形態のようにラッチ7の形状をコ字状に形成する必要がない。
【0037】次に、本発明の第3の実施の形態を説明する。図3は本発明の第3の実施の形態に係わるタービントリップ装置の構成図である。この第3の実施の形態は、図5に示した従来例に対し、蒸気タービンのタービントリップ信号を、マスタトリップソレノイド8に加え、オイルトリップ弁15にも入力するようにしたものである。
【0038】図3において、タービントリップ信号をマスタトリップソレノイド8およびオイルトリップ弁15の双方に入力し、マスタトリップソレノイド8およびオイルトリップ弁15の双方を動作させる。すなわち、タービントリップ信号をマスタトリップソレノイド8のトリップ動作と並行して、オイルトリップ弁15にもトリップ信号を入力して非常調速機14にてタービントリップを行う。この場合、いずれか一方の経路でトリップ動作が止まったとしても、もう一方の経路にてトリップ動作が行えるのでタービントリップへの信頼性が向上する。
【0039】
【発明の効果】以上述べたように、本発明によれば、タービントリップ信号に基づいてトリップ動作を行うマスタトリップソレノイドを二重化したので、機械的構造を複雑にすること無くタービントリップ動作の信頼性を向上できる。また、また、マスタトリップソレノイドが動作しても何らかの原因でトリップ動作が完了しないことを考慮して、非常調速機にもタービントリップ信号を入力しトリップ動作を行わせるので、特別な機器を追設すること無くタービントリップ動作の信頼性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係わるタービントリップ装置のマスタトリップソレノイド部分の説明図であり、図1(a)は正面図、図1(b)は平面図。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係わるタービントリップ装置のマスタトリップソレノイド部分の説明図であり、図2(a)は正面図、図2(b)は平面図。
【図3】本発明の第3の実施の形態に係わるタービントリップ装置の構成図。
【図4】従来の蒸気タービントリップ装置の構成図。
【図5】従来の蒸気タービントリップ装置におけるマスタトリップソレノイドが動作したときのタービントリップ状態を示した蒸気タービントリップ装置の構成図。
【図6】従来の蒸気タービントリップ装置におけるトリップハンドルを動作させたときのタービントリップ状態を示した蒸気タービントリップ装置の構成図。
【図7】従来の蒸気タービントリップ装置における非常調速機を動作させたときのタービントリップ状態を示した蒸気タービントリップ装置の構成図。
【図8】従来の蒸気タービントリップ装置におけるオイルトリップ弁を用いて非常調速機が試験的に動作している状態を示した蒸気タービントリップ装置の構成図。
【符号の説明】
1…マスタトリップ弁、2…トリップ機構部、3…トリップピストン、4…ロックアウトスリーブ、5…バネ、6…ピストン、7…レバー、8…マスタトリップソレノイド、9…ラッチ、10…バネ、11…トリップレバー、12…ロッド、13…トリップハンドル、14…非常調速機、15…オイルトリップ弁、16…ロックアウト弁、17…ロッド、18…突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 蒸気タービンのタービントリップ信号により動作するマスタトリップソレノイドと、前記マスタトリップソレノイドの動作により機械的に駆動されるラッチと、前記ラッチが駆動されたときタービントリップ動作を行うマスタトリップ弁と、蒸気タービンの回転数が規定値を超えたときタービントリップ動作を行う非常調速機と、前記非常調速機を強制的に動作させるオイルトリップ弁とを備え、前記マスタトリップソレノイドは二重化され、二重化された少なくとも一方のマスタトリップソレノイドにより前記ラッチを動作させるようにしたことを特徴とする蒸気タービントリップ装置。
【請求項2】 二重化されたマスタトリップソレノイドは前記ラッチに対して並列的に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の蒸気タービントリップ装置。
【請求項3】 二重化されたマスタトリップソレノイドは前記ラッチに対して直列的に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の蒸気タービントリップ装置。
【請求項4】 蒸気タービンのタービントリップ信号があったとき、前記マスタトリップソレノイドを動作させると共に前記オイルトリップ弁も動作させることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の蒸気タービントリップ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2003−138908(P2003−138908A)
【公開日】平成15年5月14日(2003.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−334126(P2001−334126)
【出願日】平成13年10月31日(2001.10.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】