説明

蒸気雰囲気下に供される加熱用又は保温用容器

【課題】調理食品を蒸気雰囲気下で再加熱して食用に供するようにする場合や蒸気雰囲気下による保温等の長時間蒸気雰囲気下に供される際に起る経時的な汚染や光沢低下等に依る劣化を抑えることができる美麗な蒸気雰囲気下対応熱硬化性樹脂製容器を提供する。
【解決手段】調理食品を蒸気雰囲気下で加熱して食用する場合や蒸気雰囲気下による保温等の長時間の蒸気雰囲気に供される容器であって、当該容器が内外表面にメラミン系樹脂成形被覆用組成物をコーティングしたグレーズコーティング層を有する熱硬化性樹脂の成形品である蒸気雰囲気下に供される加熱用又は保温用容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気雰囲気下に供される加熱用又は保温用容器に関し、更に詳しくは熱硬化性樹脂成形容器の内外面に、凸金型及び凹金型からなる1種類の金型を用いて、メラミン系樹脂成形被覆用組成物のグレーズコーティング層(又は必要に応じ内外面に絵や模様を付し、更にその外側表面にグレーズコーティング層)を付した蒸気雰囲気下に供される加熱用又は保温用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂などの熱硬化性樹脂は、圧縮成形法により食器、調理用品、食品保存容器などの成形品の製造に多用されている。これらの熱硬化性樹脂成形材料には、補強のために、通常パルプ材などの補強材が充填されている。しかしながら、熱硬化性樹脂成形材料の単独成形品は、このパルプ材などの補強材の影響で使用中に汚れが付き易く、そのため、一般的には成形品表層部に、樹脂(例えばメラミン−ホルムアルデヒドなどの樹脂)のみのグレーズをコーティングするグレーズコーティング成形が行われている。
【0003】
従来の製品は蒸し器による調理や蒸気雰囲気下での保温といった長時間蒸気雰囲気下で使用される場合、グレーズコーティングされている面においては肌荒れ、白化はないがコーティングされていない面については肌荒れ、白化が生じ、汚染や光沢低下による食器としての寿命が縮められるという問題があった。
【0004】
一方、集団給食の病院や福祉施設、更には事業所給食、学校給食、大学食堂などの市場においては、例えばクックチル、真空調理、クックフリーズで作った料理をバルクで再加熱し、場合によってはクックサーブで作った料理と組み合わせて、調理を組み立てるシステムが行われており、このシステムには以下のようなメリットがある。
1)事前の作り置きが前提となるので、調理作業の平準化が可能で人件費の削減に寄与する。
2)従来のクックサービスによる調理では熟練調理師による勘や経験・技術を必要としていたが、科学的な調理データに基づく調理が可能であり、人件費の高い熟練調理師を必要とせず、人件費の削減が可能となる。
3)HACCP(Hazard Analysis Critical Control Point)の導入が必須となるので、食品の安全・衛生面が向上する。
4)科学的な調理データに基づく調理が可能であり高品質で均一な料理の提供が可能となる。
前日に調理作業を済ませることができるので、翌日の1次調理作業が不要になり、朝の早出が少し緩和される。
5)料理のパーツ化や作り置きが可能なので、メニューの食種を多くすることに貢献でき、サービスの向上に寄与できる。
6)調理済み食品のクックチル食品や真空調理食品、冷凍食品を効果的に活用できるので、セントラルキッチンの活用が容易に出来るようになる。
【0005】
しかしながら、このシステムには以下のような問題が依然としてある。
1)料理が熱いので箸やトングで盛付けなければならなく盛付けに時間がかかる。
2)個別盛付けでないため、朝食の早出が解消出来ない。
3)盛付け作業の平準化に貢献できない。
4)盛付け作業時の料理の温度が低下し適温サービスが困難である。
5)盛付け時の温度が低下することにより安全性に疑問がある。
【0006】
しかし、最近では、スチーム機能とオーブン機能を有するスチームコンベクションオーブンのような蒸気雰囲気下で加熱する調理用具を用いて予じめ調理した食品を加熱することにより、適温で美味しい料理を大量に提供することができる。即ち、このシステムによれば冷たい状態で盛付け作業が可能なので、箸やトングによる盛付け作業に較べ、両手で盛り付けできるので、盛付け作業が短時間ででき人件費が削減でき、事前に盛付けまで済ませておくことができるので、朝食における早出が解消でき、事前盛付けが可能なので、昼・夕食についても暇な時間帯に作業が可能で、仕事の平準化に貢献でき、器ごと再加熱するので、盛付け作業時の料理の温度低下がなく適温サービスが実現でき、盛付け作業により料理の温度低下が少なく、安全性が確保でき、器ごと再加熱することにより、保温時間が長く保持でき、より適温サービスに寄与することができ、従来のバルク再加熱や再加熱カートでの再加熱に比べ、スチーム機能を付加できるので、短時間での再加熱が可能で、時間的なゆとりが出来るという長所があるので、注目を集めている。
【0007】
然るに、スチームコンベクションオーブンなどのような蒸気雰囲気で加熱する調理用具を用いて加熱するシステムでは、そのスチーム機能とオーブン機能のため、熱及びスチームに対して耐性のある食器などの容器を用いることが必要となり、現状では磁器などが使用されている。しかし磁器には重くて作業性に負荷がかかり、破損するおそれがあるため、自動洗浄機の使用に制限があるという問題がある。
【0008】
なお、スチームコンベクションオーブン及びそれを用いた食品調理方法については特許文献1及び2に記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開平9−119642号公報
【特許文献2】特開2005−110570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、前述の従来技術に鑑み、スチームコンベクションオーブンなどの蒸気雰囲気下での加熱や蒸気雰囲気下での保温等の長時間の蒸気雰囲気下に供される場合においても、汚染や光沢低下等による劣化を抑えることができる熱硬化性樹脂成形容器を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に従えば、調理食品を蒸気雰囲気下で加熱する調理用具で加熱して食用するための容器又は蒸気雰囲気下で保温等の長時間の蒸気雰囲気に供される容器であって、当該容器が内外表面にメラミン系樹脂成形被覆用組成物をコーティングしたグレーズコーティング層を有する熱硬化性樹脂の成形品である蒸気雰囲気下に供される加熱用又は保温用容器が提供される。
【0012】
本発明に従えば、また、凹金型及び凸金型からなる金型を用いて、前記蒸気雰囲気下に供される加熱用又は保温用容器を製造するにあたり、(a)金型を閉じてその凸金型上(又は凹金型内)に熱硬化性樹脂の素地を成形し、(b)その素地の表面にメラミン系樹脂成形被覆用組成物の少なくとも1回のグレーズコーティング成形を行い、(c)その成形物を凸金型側より凹金型側(又は凹金型側より凸金型側)に移動させ、そして(d)凹金型側(又は凸金型側)に付着した成形物の表面に少なくとも1回のメラミン系樹脂成形被覆用組成物のグレーズコーティング成形を行う一連の工程を連続的に行う蒸気雰囲気下に供される加熱用又は保温用容器の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱硬化性樹脂を圧縮成形した食器などの容器の内外面に、メラミン系樹脂成形被覆用組成物をグレーズコーティングすることによって、調理食品をスチームコンベクションオーブンなどで加熱する際に、従来の合成樹脂容器における加水分解反応による劣化などの問題が軽減され、従来の磁器に比べて軽量で、破損の心配もないので自動洗浄機が使えるため作業性に極めて優れてよい、更に両面グレーズコーティングにより、長時間のスチーム曝露による問題もない。
【0014】
本発明によれば、前述の通り、メラミン樹脂、フェノール樹脂及び/又はユリア樹脂などの熱硬化性樹脂製容器の内外面にメラミン系樹脂成形被覆用組成物をグレーズコーティングすることにより、スチームコンベクションオーブンでの加熱に耐える容器を得ることができ、以下のような利点を得ることができる。
【0015】
1)従来のメラミン食器に較べスチームコンベクションオーブンでの盛り付け再加熱ができるようになった。
2)盛り付けたまま、ホテルパンに並べるので、従来の磁器のように重くて作業性に負荷がかかることが解消できる。
3)磁器に比べ破損が少ないので、自動洗浄機が使え、下膳・洗浄・消毒・保管の一連の作業がスムーズに出来る。
4)従来のメラミン食器の機能・用途はそのまま残るので、同じ容器を従来システムであるクックチルシステム、クックサーブシステムにおいてもそのまま利用することが出来る。
5)蓋にも両面コーティングすることにより、蓋をしたまま再加熱をしたほうが良いメニューに対しては蓋をして再加熱することが出来る(食材から発生する蒸気に対しても有効)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において使用するスチームコンベクションオーブンなどの蒸気雰囲気を使用する調理用具での加熱に使用できる容器はセルロース(α−セルロース)、木粉、サルファイトパルプ、ケナフパルプ、リンターパルプ、麻パルプ及び竹パルプといった非木材パルプを含む有機材などの充填材を含む熱硬化性樹脂(例えば、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂などのアミノ系樹脂)を圧縮成形して製造する。ここで使用する熱硬化性樹脂としてはメラミン樹脂を使用するのが表面硬度の高さ、優れた保温性及び耐熱性、取扱いが適度な比重、着色の自由さの観点から最も好ましく、メラミン樹脂としては食品衛生試験に適合した食器用グレードのメラミン樹脂などを用いることができる。これらの樹脂は市販品(例えば日本カーバイド工業(株)製ニカレットMC)を用いることができる。
【0017】
本発明においては前記熱硬化性樹脂成形容器の内外面(蓋付容器の場合には蓋及び本体のいずれも)をメラミン系樹脂成形被覆用組成物で1回又はそれ以上、好ましくは1〜2回グレーズコーティングする。コーティング厚には特に制限はないが、耐用性を考慮すると30〜80μmであるのが好ましい。
【0018】
本発明で使用するメラミン系樹脂成形被覆用組成物には特に限定はないが、特には日本カーバイド工業(株)より市販されている「ニカグレーズ」を用いることができる。
【0019】
本発明で用いるメラミン系樹脂成形被覆用組成物中のメラミン系樹脂とは、メラミンやベンゾフアナミン、アセトグアナミン、CTU−グアナミン等のグアナミン類とホルムアルデヒドとを反応して得られる。メラミン/ホルムアルデヒド樹脂(以下「メラミン樹脂」と略称することがある。)はメラミンとホルムアルデヒドとを好ましくはモル比1:1.5〜1:4.5、更に好ましくは1:2〜1:3の範囲で公知の方法で、水溶液中で反応させて得ることができる。その際、メラミン濃度20〜60%、反応温度40〜100℃、弱酸性〜弱アルカリ性で反応させることにより、10〜100分間程度で反応は完了する。得られた初期縮合物水溶液をスプレードライ等の工業的な製法で固形粉末状メラミン樹脂とする。その際、メラミンに対するホルムアルデヒドのモル比が少ないと、加工性が低下すると共に、反応速度が遅くて好ましくなく、また多いと、メラミン樹脂がややもろくなるので好ましくない。
【0020】
一方、グアナミン/ホルムアルデヒド樹脂(以下「グアナミン樹脂」と略称することがある)は、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、CTU−グアナミンとホルムアルデヒドとをグアナミン類1モルに対して、1〜12モル程度を公知の方法で反応させて得ることができる。更にメラミン/グアナミン/ホルムアルデヒド樹脂(以下「共縮合樹脂」と略称することがある)は、メラミンとグアナミンとの合計モル比1モルに対して2〜10モル程度を公知の方法で反応させ得ることが出来る。前記メラミン樹脂にグアナミン樹脂又は共縮合樹脂を配合することにより耐水性や耐汚染性を更に向上させることができる。
【0021】
本発明に係る蒸気雰囲気下に供される加熱用又は保温用容器は、例えば以下のようにして製造することができる。即ち一般には、例えば典型的な成形工程を示す、図1の工程(1)〜(7)のように、凸金型2上に凹金型3を用いて熱硬化性樹脂1を圧縮成形した成形物(素地)4を保持し(図1の工程(1)及び(2)参照)、その上に、図1の工程(5)及び(6)に示すように、前記メラミン系樹脂成形被覆用組成物のグレーズ5を乗せて成形物の外面6に凹金型3を用いてグレーズ5のコーティング成形を行なう。この場合、成形物7は外面にはグレーズコーティングされているが、その内面8にはグレーズ5のコーティング層は形成されていない。
【0022】
更に、これらの成形物を特に食器類などとして使用する場合には、その商品価値を高めるために成形物7の表面に絵柄や模様を入れることが多く、この場合には図1の工程(3)〜(4)を追加して、樹脂を含浸し乾燥した絵柄入り特殊印刷紙(フォイル)9を成形し、図1の工程(5)〜(6)で前述のようにその上に光沢低下や汚染等による劣化を防ぐために、凹金型3を用いてグレーズ5のコーティング成形を行うのが一般的である。
【0023】
上述の如く、通常皿などの浅型平面形状の食器類は、料理を盛りつける内面に絵柄などを施し、熱硬化性樹脂成形品の場合、その上にグレーズコーティング成形を行うことにより、このグレーズ層により内面に盛りつけられる料理の付着や汚れを抑えることができる。
【0024】
しかし、湯呑みやカップ、丼、鉢、椀等の深型立体形状の食器類は、特に熱硬化性樹脂成形品の場合、よく目に触れる外面のみに絵柄を施し、その上にグレーズコーティング成形を行うのが一般的である。従って、食物と接する内面にはグレーズ層は形成されない。このため湯呑みやカップ等は、素地に直接飲み物等に接する為、茶渋やコーヒー等で汚れが付着し内面が汚くなり、光沢も低下していく。また、ナイロンタワシやクレンザー等の固いもので汚れを落とすと、内面の表面に傷が付き余計に汚れが付きやすくなる。また食器類を洗浄するにあたり、食器類に付着した残滓を柔らかくするため、長時間お湯に浸漬する事が多いが、この時に残滓等がグレーズ層の無い面に付着して汚染され易いという問題がある。
【0025】
かかる問題を解決するために、2種類の金型を用いて、先ず成形物の内側表面にグレーズコーティング層を設け、次にこの半成形品を凹型から取出して、凸金型へ移し、そこで成形物の外側表面にグレーズコーティング層を設ける方法も知られている。しかし、この方法は、工程の途中で一旦半成形品を取り出して別の金型(凸型)の表面上に移すため、製造工程が非連続的であり、しかも半成形品を金型より取り外し、少なからず放置状態となるため冷却され成形収縮が始まる。この成形収縮は経時により収縮量は変化するので、別の金型(凸型)を製作する際、収縮量を見込んで製作しなければならない。しかし、その見込み量を決定する事が困難なうえ、一定の変形量を確保するためには半製品取り出し後の放置時間をある程度一定にするなど、成形作業上で制約が発生するという問題がある。また、熱硬化性材料は材料の製造ロット毎の成形収縮スピードを一定にすることは困難な材料であることは当業者のよく知る通りであり、収縮の見込み量は経験に依存する部分があり、特に工程操作のコントロールが繁雑になり、不良品が発生しやすくなるという問題がある。
【0026】
本発明に係る熱硬化性樹脂成形容器の好ましい製造方法は、図2及び3の工程(1)〜(11)にその一例を示す通りであり、工程(1)及び(2)では図1の場合と同様に凸金型12に熱硬化性樹脂11を圧縮成形して成形物を保持する。この成形物14の外面16に前記メラミン樹脂成形被覆用組成物のグレーズ15を凹金型13を用いて、従来法と同様にして、グレーズコーティング成形を行い(図2及び3の工程(5)及び(6)参照)、次いで、その成形品17を図2及び3の工程(9)〜(10)に示す様に、成形物外面16のグレーズ面を凹金型に付着させ、成形品17の内面18にもグレーズ15のコーティング成形を行う。この様な熱硬化性樹脂成形品17を得るためには、成形物14の外面16にグレーズコーティングを施し、次工程の内面グレーズコーティングに際して凸金型12及び凹金型13を開いた時、この半成形品は、工程(9)に示すように、グレーズコーティングを施した側の凹金型13側に移動させなければならない。
【0027】
熱硬化性樹脂成形材料を圧縮成型する場合には、当業者のよく知る通り、その金型キャビティーより幾らかの余分な材料が溢れ出るように樹脂投入量を調整する。この余分な材料を供給しないと、成形物に充分な圧力が掛からず、強度や光沢等が不良となり、満足な成形物が得られない。本発明ではこの溢れ出た部分21(通称バリとよばれる)を用いて、図4の(4)に示すように、このバリ部分21が片側の金型に取り付けられた移動プレート22に密着している。なお、以下の記述に於いて、図4のバリの部分21を作造バリ部と称することとする。
【0028】
移動プレート22の両端にはフック手段23が付いており、図4(1)及び(2)に示す様に凹金型13及び凸金型12のいずれかの金型に、移動プレートの固定手段23、例えばフック手段23で連結できる構造としてある。この移動プレート22を固定するフック手段23が凸金型12に連結すれば凸金型側、凹金型13に連結すれば凹金型側に移動プレート22が移動し、それに伴って成形工程中の成形物も作造バリ部21が移動プレート22に載持されて上下する。
【0029】
前記成形物の移動を保持する作造バリ21の部分に接する移動プレート22の形状には、特に規定はなく、成形物の形状により円形や角形、楕円形等或いはその他の形状としてもよい。また、移動プレート22の作造バリ部21に接する部分は、成形中の半成形品を移動させることができさえすれば、作造バリ部21の全周でもよく、または一部分であってもよい。
【0030】
本発明によれば、図2及び3の工程(9)及び(10)によって、工程(5)及び(6)と同様にして成形品17の内面18にグレーズコーティングを施すことができる。
【0031】
本発明の好ましい態様では、成形品17の外面及び/又は内面に、図2及び3の工程(3)及び(4)又は/並びに工程(7)及び(8)において、図1について説明したのと同様の方法でフォイル成形して、最終成形品の内面及び/又は外面に絵柄や模様などを入れることができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を、メラミン樹脂成形材料(日本カーバイド工業(株)製ニカレットMC)を用いて容器を、製造する例において、図2及び3に示す工程(1)〜(11)で、内面及び外面に各々絵付けをし、その両面にグレーズコーティング成形を行った態様を例にとって、以下、図面を参照しながら説明する。なおグレーズコーティングに使用したメラミン樹脂成形被覆用組成物は日本カーバイド工業(株)製ニカグレーズ C−6を使用した。
【0033】
蒸し器による長時間曝露試験に使用したサンプルの成形条件は以下の通りである。
成形品:外径16cm×高さ7.5cmの丼
金型表面温度:凹金型 176℃(測定位置 底部分)
凸金型 173℃(測定位置 天面部)
使用材料:日本カーバイド工業(株)製 ニカレットMC CT5720Z又はニカグレーズ C−6
予熱温度:120℃
【0034】
【表1】

【0035】
成形圧力は、成形品の投影面積と使用プレスのラム径より算出した値であり、成形時間は所定の成形圧力に到達してからの経過時間である。
【0036】
図2及び3の工程(1)〜(6)迄は、成形品の外面に絵付けをし、その上にグレーズコーティングを行う工程であり、工程(7)〜(10)は内面に絵付けをして、グレーズコーティングを行う工程を示し、工程(11)は完成品を取り出す工程を示す。
【0037】
先ず、図2及び3の工程(1)で、凸金型12と凹金型13との間にメラミン樹脂成形材料11を供給し、図2及び3の工程(2)では金型を閉じ成形物の素地14を成形する。成形条件は、従前通り、使用する熱硬化性樹脂の種類や成形品に従って定まるものであって、特に本発明に固有の要件はない。図2及び3の工程(3)では凸金型12上の素地成形物の外面16に樹脂(例えばメラミン樹脂など)を含浸させて乾燥させた絵柄入り印刷紙(フォイル)19を外部より供給し、工程(4)で金型を閉じフォイルを所定の条件下(例えば150〜180℃×15〜60秒、メラミン樹脂の場合には最も好ましくは160℃×30秒)で融着成形する。図2及び3の工程(5)では金型を開いてフォイル19が成形された上に、グレーズ15を供給し、工程(6)ではグレーズコーティング成形を行なう。工程(7)では金型を開いた時に成形物が凹金型13の方に移動した状態で凸金型12との間に、上と同様にフォイル19を供給し、工程(8)で金型を閉じてフォイル成形する。これによって成形物の内面にフォイル19が融着される。工程(9)ではその内面のフォイル層と凸金型との間にグレーズ15を供給し、工程(10)で金型をとじて成形物の内面にグレーズコーティング成形を行う。以上の工程により、成形品の内外面にフォイル及びグレーズコーティングを施した成形品17を得ることができる。
【0038】
この様にして得られた成形品は、従来と比較し、成形品の外面及び内面のそれぞれに絵付けされ、且つ、両面にグレーズコーティングされているので、使用による経時的な汚染や光沢低下等に依る劣化を抑えることができるという利点がある。
【0039】
次に、図2及び3の工程(3)と(5)の外面へのフォイルの供給及びグレーズの供給に於いての成形品の位置及び工程(7)と(9)の内面へのフォイル供給とグレーズ供給時の成形物の移動について説明する。
【0040】
この金型は、図4の(1)〜(4)に示す構造を有し、図4の(1)と(2)は、金型を閉じた状態の側面図で、それぞれ、各々フック23が下の金型、つまり凸金型12、及び上の金型の凹金型13に掛かっている状態を示し、図4の(3)は凹金型13と凸金型12との間の移動プレート22を示し、図4の(4)では作造バリ部21の構造を示す。なお、25は成形品である。金型を閉じた状態でフック23を凹金型又は凸金型のどちらかのロッド24に掛けて連結することにより、金型を開いた時に、連結した方に移動プレート22が上下し、それに伴って成形物が移動するような構成とすることができる。なお、フック23の数は通常図4(1)及び(2)の反対側の面に更に一つ設けた2個であるがそれ以上設けてもよい。成形物が上下に移動するには、図4の(4)に示す様に、成形物の作造バリ部21が移動プレート22に支持される構造であるため、作造バリ部21は強度が必要となる。
【0041】
成形工程に於ける移動プレート22の状態は、図3の側面図(1)〜(11)に示した通りである。即ち先ず、図3の(1)〜(6)は、素地の成形から外面の絵付け及びグレーズコーティング成形まで凸金型12にフック23を掛け、成形物が凸金型12に付いている状態を示す。次いで、図3の(7)〜(10)は、フック23を凹金型13に掛け、それに伴って移動プレート22が凹金型13側に付き成形物も同様に移動した状態を順次示す。
【0042】
なお、移動プレートに接する作造バリ部21の寸法には特に限定はないが、厚さ0.2〜5mmが好ましく、厚さ0.3〜1mmが更に好ましく、そして幅0.3〜50mmが好ましく、幅1〜20mmが更に好ましい。
【0043】
厚さ0.2mm未満では、成形物を移動させるに充分な強度を有せず、作造バリ部が破損する場合があり、5mmを超えると、作造バリ部を取り除く仕上げ作業が困難となる。また、幅は0.3mm未満では、成形収縮により、バリ部が移動プレートに掛からない場合が発生し、50mmを超えると、作造バリ部の除去仕上げが困難となる。
【0044】
以上のようにして製造したメラミン樹脂製容器について、以下の方法で汚染試験を行った。先ず、ステンレス製容器に1440ccの水を入れ、これにネスカフェ(商標)80g、クリープ(商標)45g及び砂糖50gを入れた。これは通常のコーヒー飲用よりも4〜5倍程度の濃度である。この中に、本発明の実施例の容器と従来通りの比較例の容器(同様にして外面のみに絵付け及びグレーズコーティング)を浸漬し、次いで穴のあいた蓋をし、その穴に水の蒸発を防ぐための環流冷却器を取り付けて6時間、12時間、24時間、連続煮沸した。以下の表IIに結果を示す。
【0045】
【表2】

【0046】
表IIの汚染の数値は、着色なしを“0”とし、褐色に着色したものを“10”、また、同時に光沢も検査し、変化のないものを“0”とし、光沢が著しく低下したものを“10”として段階的に目視で評価した。
【0047】
以上の様に、比較例の内面の汚染度合いが非常に大きく、実施例の汚染は、成形品の内面及び外面ともに、汚染度合いが小さい。また、実施例の光沢は内面、外面とも低下は見られなかったのに対し、比較例の内面は光沢が低下した。
【0048】
この様に、実施例の如く製造した容器などは、コーヒーの汚染防止に非常にメリットがあり、お茶や調味料など他の食品にも同様の効果があるものと考えられる。また、光沢低下を抑える効果もある。光沢が低下したものは、洗剤や漂白剤では回復しないため、光沢低下の防止は食器類の価値を維持するのに非常に大切である。
【0049】
上で得た両面グレーズコーティング成形品サンプルとグレーズコーティングなしの成形品との蒸気曝露試験を以下のようにして行なった。
【0050】
検査・試験種類
蒸し器による長時間蒸気曝露及びローダミン水溶液による染色
【0051】
検査・試験目的
過去の事例において、グレーズコーティングされている面においては肌荒れ、白化はないがコーティングされていない面については肌荒れ、白化が生じているというクレームが生じている。両面コーティング製品が長時間の蒸気曝露に耐え得るかの調査を行った。
【0052】
検査方法
鍋に水を張り蒸し器を入れて煮沸し蒸気を発生させ、両面コーティングしてある成形品とコーティングなしの成形品を内側を下にして蒸し器の上にのせ、鍋に蓋をし合計で200時間蒸気雰囲気下に置いた。200時間曝露後、0.1%ローダミン水溶液をサンプルの表面に塗布し、水洗いした後ローダミン水溶液の染色の度合いにより肌荒れの状態を判断した。
【0053】
検体
両面コーティング品 1個
無地製品 1個
【0054】
市販の食器用メラミン樹脂成形材料(日本カーバイド工業(株)製商品名「ニカレットMC」CT5720Z)にて丼を成形し、同じく市販の食器用メラミン系樹脂粉末(日本カーバイド工業社製、商品名「ニカグレーズ C−6」)にて両面にコーティングしたサンプル1個、及びコーティングしていないもの1個
コーティングのないものは内側外側ともローダミンにより成形品表面の大部分が染色されている。特に蒸気に常にさらされていた内側については顕著な結果が現れている。
両面にコーティングされているものに関しては、グレーズコーティングされている部分には内側外側ともほとんど染色されている部分が見られない。
グレーズコーティングすることで、蒸気による肌荒れを軽減することができると思われる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上の通り、本発明は、メラミン樹脂などの熱硬化性樹脂成形容器の内面と外面の両面に、必要に応じ絵付けした後、その上に特定のメラミン系樹脂成形被覆用組成物を両面グレーズコーティングすることにより、調理食品のスチームコンベクションオーブンでの加熱や、蒸気雰囲気下での保温等の蒸気雰囲気下での長時間の使用でも、使用中に於ける汚染や光沢低下等に依る劣化を抑えることができ、病院、老人施設、学校、社員食堂などの一度に大量の温い食事の給食サービスができ、また自動洗浄機で食器を洗うことができ、大量の食器の洗浄、漂白、消毒保管庫を使用する集団給食用食器として使用するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】従来の熱硬化性樹脂成形品を製造する成形工程を説明する図面である。
【図2】本発明の熱硬化性樹脂成形品を製造する成形工程を説明する図面である。
【図3】本発明の熱硬化性樹脂成形品を製造する成形工程の金型外部の状態を示す説明図である。
【図4】本発明の半成形品の移動機構を示す説明図である。
【図5】本発明装置の移動プレート及びその固定装置の一例を示す図面である。
【符号の説明】
【0057】
1,11 熱硬化性樹脂
2,12 凸金型
3,13 凹金型
4,14 成形物(素地)
5,15 グレーズ
6,16 成形物の外面
7,17 グレーズコーティング後の成形品
8,18 成形品の内面
9,19 フォイル
21 作造バリ部
22 移動プレート
23 移動プレートの固定手段(フック手段)
24 ロッド
25 成形物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
調理食品を蒸気雰囲気下で加熱する調理用具で加熱して食用するための容器又は蒸気雰囲気下で保温に供されるための容器であって、当該容器が内外表面にメラミン系樹脂成形被覆用組成物をコーティングしたグレーズコーティング層を有する熱硬化性樹脂の成形品である蒸気雰囲気下に供される加熱用又は保温用容器。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂がフェノール樹脂、メラミン樹脂及び/又はユリア樹脂である請求項1に記載の蒸気雰囲気下に供される加熱用又は保温用容器。
【請求項3】
前記メラミン系樹脂成形被覆用組成物がメラミン樹脂、グアナミン樹脂及びメラミン・グアナミン共縮合樹脂から選ばれた少なくとも1種と硬化触媒並びに離型剤を含む請求項1又は2に記載の蒸気雰囲気下に供される加熱用又は保温用容器。
【請求項4】
凹金型及び凸金型からなる金型を用いて請求項1〜3のいずれか1項に記載の蒸気雰囲気下に供される加熱用又は保温用容器を製造するにあたり、(a)金型を閉じてその凸金型上(又は凹金型内)に熱硬化性樹脂の素地を成形し、(b)その素地の表面にメラミン系樹脂成形被覆用組成物の少なくとも1回のグレーズコーティング成形を行い、(c)その成形物を凸金型側より凹金型側(又は凹金型側より凸金型側)に移動させ、そして(d)凹金型側(又は凸金型側)に付着した成形物の表面に少なくとも1回のメラミン系樹脂成形被覆用組成物のグレーズコーティング成形を行う一連の工程を連続的に行う蒸気雰囲気下に供される加熱用又は保温用容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−189333(P2008−189333A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−23242(P2007−23242)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(592227575)ヤマト化工株式会社 (6)
【出願人】(593203136)スリーライン株式会社 (2)
【Fターム(参考)】