説明

蒸着用マスク部材、マスク蒸着方法、および有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法

【課題】蒸着源側からの輻射熱によって蒸着用マスク部材が加熱されても、被処理基板に対するマスク開口部の位置精度が低下することを防止することのできる蒸着用マスク部材、マスク蒸着方法、および有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法を提供する。
【解決手段】有機エレクトロルミネッセンス装置に用いる第1基板10に対してマスク蒸着を行なうための蒸着用マスク部材310では、支持基板330においてマスクチップ320が固着された領域以外の領域に熱伝達促進用チップ340が固着されている。このため、蒸着源側からの輻射熱によって蒸着用マスク部材310が加熱された際、かかる熱は、マスクチップ320を介して第1基板10に伝達されるとともに、熱伝達促進用チップ340を介しても第1基板10に伝達されるので、蒸着用マスク部材310と第1基板10との間に温度差が発生しにくい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク開口部を介して被処理基板の所定領域に蒸着を行なうための蒸着用マスク部材、この蒸着用マスク部材を用いたマスク蒸着方法、および有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種半導体装置や電気光学装置の製造工程では、蒸着パターンに対応するマスク開口部を備えた蒸着用マスク部材を被処理基板に重ね、この状態で真空蒸着法、スパッタ蒸着、イオンプレーティングなどの蒸着を行うことがある。例えば、電気光学装置としての有機エレクトロルミネッセンス装置の製造工程において、発光素子用の有機エレクトロルミネッセンス材料(有機機能層)を所定形状に形成する際にフォトリソグラフィ技術を利用すると、パターニング用のレジストマスクをエッチング液や酸素プラズマなどで除去する際に有機機能材料が水分や酸素に触れて劣化するおそれがあるため、レジストマスクを必要としないマスク蒸着法を用いて有機機能層を形成することが提案されている。
【0003】
このような蒸着用マスク部材としては、例えば、図6(a)に示すように、蒸着パターンを規定するマスク開口部322が形成されたマスクチップ320と、マスクチップ320が一方の基板面に固着された支持基板330とを備え、支持基板330においてマスクチップ320のマスク開口部322の形成領域と重なる領域に貫通穴332が形成されたものが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
かかる蒸着用マスク部材310Aを用いて被処理基板に蒸着を行なう際には、図6(b)に示すように、蒸着用マスク部材310において、マスクチップ320が固着されている側を被処理基板10Aに重ねた状態で蒸着源から被処理基板10Aに蒸着材料流を供給して、マスク開口部322を介して被処理基板10Aに蒸着を行なう。
【特許文献1】特開2005−276480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、蒸着法では、蒸着源側からの輻射熱によって蒸着用マスク部材310Aが加熱され、かかる熱は、マスクチップ320を介して被処理基板10Aにも伝達されるが、熱伝達の遅れによって、蒸着用マスク部材310Aと被処理基板10Aとの間に温度差が発生する。かかる温度差が発生すると、蒸着用マスク部材310Aと被処理基板10Aとの間で熱膨張の度合いが相違し、被処理基板10Aに対するマスク開口部322の位置精度が低下し、蒸着パターンの位置精度が低下するという問題点がある。
【0006】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、蒸着源側からの輻射熱によって蒸着用マスク部材が加熱されても、被処理基板に対するマスク開口部の位置精度が低下することを防止することのできる蒸着用マスク部材、マスク蒸着方法、および有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、蒸着パターンを規定するマスク開口部が形成されたマスクチップと、該マスクチップが一方の基板面に固着された支持基板とを備え、当該支持基板において前記マスクチップの前記マスク開口部の形成領域と重なる領域に貫通穴が形成された蒸着用マスク部材において、前記支持基板の前記一方の基板面には、前記マスクチップが固着された領域以外の領域に熱伝達促進用チップが固着されていることを特徴とする。
【0008】
かかる蒸着用マスク部材を用いたマスク蒸着方法では、前記蒸着用マスク部材において、前記マスクチップが固着されている側を被処理基板に重ねた状態で蒸着源から前記被処理基板に蒸着材料流を供給して、前記マスク開口部を介して前記被処理基板に蒸着を行なうことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る蒸着用マスク部材には、支持基板には、マスクチップが固着された領域以外の領域に熱伝達促進用チップが固着されているため、熱伝達促進用チップが形成されている分だけ、蒸着用マスク部材と被処理基板との接触面積が広い。このため、蒸着源側からの輻射熱によって蒸着用マスク部材が加熱された際、かかる熱は、マスクチップを介して被処理基板に伝達されるとともに、熱伝達促進用チップを介しても被処理基板に伝達されるので、蒸着用マスク部材と被処理基板との間に温度差が発生しにくい。このため、蒸着用マスク部材と被処理基板とでは熱膨張の度合いが同等であるため、被処理基板に対するマスク開口部の位置精度が低下することがないので、蒸着パターンの位置精度が高い。
【0010】
本発明において、前記マスクチップと前記熱伝達促進用チップとは、厚さが等しいことが好ましい。このように構成すると、支持基板に熱伝達促進用チップを固着しても、マスクチップおよび熱伝達促進用チップの双方が被処理基板に確実に接する。
【0011】
本発明において、前記マスクチップおよび前記熱伝達促進用チップは、例えばシリコン基板であり、前記支持基板は、ガラス基板である。かかる構成によれば、マスクチップ、熱伝達促進用チップ、および支持基板の熱膨張係数を同等とすることができる。
【0012】
本発明を適用したマスク蒸着法では、前記蒸着用マスク部材を用いて前記被処理基板に蒸着を行なった後、当該蒸着用マスク部材を用いて次の蒸着を行なう間に前記蒸着用マスク部材に対する冷却工程を行なうことが好ましい。このように構成すると、蒸着中に支持基板での蓄熱が大きい場合でも、マスク部材の温度を常に一定にして蒸着を開始することができる。従って、いずれの被処理基板にも同等の条件で蒸着を行なうことができる。
【0013】
この場合、前記冷却工程では、前記蒸着用マスク部材の前記マスクチップまたは/および前記支持基板に冷却部材を接触させる方法を採用することが好ましい。このように構成すると、蒸着用マスク部材の温度を短時間のうちに低下させることができる。
【0014】
本発明に係るマスク蒸着方法は、有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法に適用することができ、この場合、前記被処理基板は、有機エレクトロルミネッセンス素子が形成される素子基板である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を説明する。以下の説明で参照する図においては、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部材毎に縮尺を異ならしめてある。また、以下の説明では、図6を参照して説明した構成との対応が分りやすいように、可能な限り、対応する部分には同一の符号を付して説明する。
【0016】
(蒸着対象例/有機エレクトロルミネッセンス装置の構成)
図1は、本発明が適用される有機エレクトロルミネッセンス装置の電気的な構成を示す等価回路図である。図1に示す有機エレクトロルミネッセンス装置100において、第1基板10上には、複数の走査線3aと、走査線3aに対して交差する方向に延びる複数のデータ線6aと、走査線3aに対して並列して延在する複数の電源線3eとを有している。また、第1基板10において、矩形形状の画素領域10aには複数の画素100aがマトリクス状に配列されている。データ線6aにはデータ線駆動回路101が接続され、走査線3aには走査線駆動回路104が接続されている。画素領域10aの各々には、走査線3aを介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用の薄膜トランジスタ30bと、このスイッチング用の薄膜トランジスタ30bを介してデータ線6aから供給される画素信号を保持する保持容量70と、保持容量70によって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用の薄膜トランジスタ30cと、この薄膜トランジスタ30cを介して電源線3eに電気的に接続したときに電源線3eから駆動電流が流れ込む第1電極層81(陽極層)と、この第1電極層81と陰極層との間に有機機能層が挟まれた有機エレクトロルミネッセンス素子80とが構成されている。
【0017】
かかる構成によれば、走査線3aが駆動されてスイッチング用の薄膜トランジスタ30bがオンになると、そのときのデータ線6aの電位が保持容量70に保持され、保持容量70が保持する電荷に応じて、駆動用の薄膜トランジスタ30cのオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用の薄膜トランジスタ30cのチャネルを介して、電源線3eから第1電極層81に電流が流れ、さらに有機機能層を介して対極層に電流が流れる。その結果、有機エレクトロルミネッセンス素子80は、これを流れる電流量に応じて発光する。
【0018】
このように構成した有機エレクトロルミネッセンス装置100において、複数の画素100aは各々、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)に対応し、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の3つの画素100aによって1つのピクセルを構成している。
【0019】
なお、図1に示す構成では、電源線3eは走査線3aと並列していたが、電源線3eがデータ線6aに並列している構成を採用してもよい。また、図1に示す構成では、電源線3eを利用して保持容量70を構成していたが、電源線3eとは別に容量線を形成し、かかる容量線によって保持容量70を構成してもよい。
【0020】
(有機エレクトロルミネッセンス装置の具体的構成)
図2(a)、(b)は各々、本発明が適用される有機エレクトロルミネッセンス装置の平面的な構成を各構成要素と共に対向基板の側から見た平面図、およびそのJ−J′断面図である。図2(a)、(b)において、本形態の有機エレクトロルミネッセンス装置100では、素子基板としての第1基板10と、封止基板としての透光性基板20dを備えた第2基板20とがシール材層92によって貼り合わされており、かかるシール材層92の形成領域は、図2(a)にドットが粗に付された領域として表してある。第1基板10において、画素領域10aの外側の領域には、図1を参照して説明したデータ線駆動回路101、走査線駆動回路104、およびITO膜からなる端子102が形成されている。詳しくは後述するが、第1基板10の画素領域10aには、複数の有機エレクトロルミネッセンス素子80がマトリクス状に配列されており、かかる複数の有機エレクトロルミネッセンス素子80が各々、画素100aを構成している。また、有機エレクトロルミネッセンス素子80は各々、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の光を出射するように構成され、かかる色によって、画素100aが対応する色が規定されている。
【0021】
(有機エレクトロルミネッセンス素子の構成)
図3は、本発明が適用される有機エレクトロルミネッセンス装置の断面構成を模式的に示す断面図である。なお、図3には、有機エレクトロルミネッセンス素子として、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)に対応する3つの有機エレクトロルミネッセンス素子のみを示してある。
【0022】
図3に示すように、第1基板10は、石英ガラス基板や耐熱ガラス基板などのガラス基板からなる支持基板10dを備えている。支持基板10dの第1面10eおよび第2面10fのうち、第1面10eの側には、絶縁膜11、12、13、14、15が形成され、絶縁膜15の上層には有機エレクトロルミネッセンス素子80が形成されている。本形態において、絶縁膜11、12、13、15は、シリコン酸化膜やシリコン窒化膜などから形成され、絶縁膜14は、厚さが1.5〜2.0μmの厚い感光性樹脂からなる平坦化膜として形成されている。絶縁膜11は下地絶縁層であり、図示を省略するが、絶縁膜11、12、13、14の層間などを利用して、図1を参照して説明した薄膜トランジスタ30b、30c、保持容量70、各種配線や各駆動回路が形成されている。また、絶縁膜12、13、14、15に形成されたコンタクトホールを利用して、異なる層間に形成された導電膜同士の電気的な接続が行なわれている。
【0023】
本形態の有機エレクトロルミネッセンス装置100は、トップエミッション型であり、矢印L1で示すように、支持基板10dからみて有機エレクトロルミネッセンス素子80が形成されている側から光を取り出すので、支持基板10dとしては、ガラス基板の他、アルミナなどのセラミックス、ステンレススチールなどといった不透明な基板を用いることができる。また、絶縁膜13、14の層間には、アルミニウム、銀、それらの合金からなる光反射層41が形成されており、有機エレクトロルミネッセンス素子80から支持基板10dに向けて出射された光を光反射層41で反射することにより、光を出射可能である。なお、有機エレクトロルミネッセンス装置100をボトムエミッション型で構成した場合、支持基板10dの側から光を取り出すので、支持基板10dとしては、ガラス基板などの透明基板が用いられる。
【0024】
また、第1基板10では、絶縁膜15の上層にITO膜などからなる第1電極層81(陽極/画素電極)が島状に形成されており、第1電極層81の上層には、発光領域を規定するための開口部を備えた感光性樹脂などからなる厚い隔壁51が形成されている。
【0025】
第1電極層81の上層には、有機機能層82および第2電極層83(陰極)が積層されており、第1電極層81、有機機能層82および第2電極層83によって、有機エレクトロルミネッセンス素子80が形成されている。また、隔壁51の上面には、第2電極層83の下層に補助配線83aが形成されており、かかる補助配線83aは、第2電極層83に接することにより、第2電極層83の電気的抵抗を低減するとともに、第2電極層83の電気的抵抗の場所によるばらつきを緩和している。本形態において、有機機能層82は画素毎に形成され、第2電極層83は、画素領域10aの全面にわたって形成されている。
【0026】
有機機能層82は、トリアリールアミン(ATP)多量体からなる正孔注入層、TPD(トリフェニルジアミン)系正孔輸送層、アントラセン系ドーパントやルブレン系ドーパントを含むスチリルアミン系材料(ホスト)からなる発光層、アルミニウムキノリノール(Alq3)からなる電子注入層をこの順に積層した構造を有しており、その上層にMgAgなどの薄膜金属からなる第2電極層83が形成されている。また、有機機能層82と第2電極層83との間には、LiFからなる電子注入バッファ層が形成されることもある。これらの材料のうち、有機機能層82を構成する各層、および電子注入バッファ層は、加熱ボート(坩堝)を用いた真空蒸着法で順次形成することができる。また、第2電極層83などを構成する金属系材料については真空蒸着法により形成でき、第1電極層81を構成するITOなどの酸化物材料についてはECRプラズマスパッタ法やプラズマガン方式イオンプレーティング法、マグネトロンスパッタ法などの高密度プラズマ蒸着法により形成することができる。
【0027】
本形態の有機エレクトロルミネッセンス装置100において、陰極として用いた第2電極層83や、有機機能層82は、水分により劣化しやすく、かかる劣化は、電子注入効果の劣化を惹き起こし、ダークスポットと呼ばれる非発光部分を発生させてしまう。そこで、本形態では、透光性の第2基板20を封止基板として第1基板10と貼り合せた構成と、第1基板10に対して以下に説明する封止膜60を形成した構成とを併用する。
【0028】
まず、第1基板10には、第2電極層83の上層に画素領域10aよりも広い領域にわたって封止膜60が形成されている。かかる封止膜60として、本形態では、第2電極層83上に積層されたシリコン化合物層からなる第1膜61、この第1膜61上に積層された樹脂層からなる第2膜62、およびこの第2膜62上に積層されたシリコン化合物からなる第3膜63を備えた積層膜が用いられている。ここで、第1膜61および第3膜63は、高密度プラズマ源を用いた高密度プラズマ気相成長法、例えば、ブラズマガン方式イオンプレーティング、ECRプラズマスパッタなどを用いて蒸着されたシリコン窒化物(SiNx)やシリコン酸窒化物(SiOxy)などから構成されており、かかる薄膜は、低温で蒸着しても水分を確実に遮断する高密度ガスバリア層として機能する。また、第2膜62は、樹脂層から構成されており、隔壁51や配線などに起因する表面凹凸を平坦化して第1膜61および第2膜62にクラックが発生するのを防止する有機緩衝層として機能している。
【0029】
次に、本形態では、第1基板10と第2基板20との間には、画素領域10aよりも広い領域にわたって透光性のシール材層92が形成されており、かかるシール材層92によって、第1基板10と第2基板20とが貼り合わされている。シール材層92は、画素領域10a、および画素領域10aの近傍領域のみに形成されており、画素領域10aから離れた周辺領域10cには形成されていない。このようなシール材層92は、熱によって硬化するエポキシ系接着剤が用いられている。また、周辺領域10cには、周辺シール材層91が形成されており、かかる周辺シール材層91には、紫外線によって硬化するエポキシ材料が用いられている。周辺シール材層91を構成する樹脂材料は、シール材層92を構成する樹脂材料に比較して、未硬化状態での粘度が高い。従って、第1基板10および第2基板20の周辺領域10cに沿って未硬化の周辺シール材層91を塗布するとともに、その内側に未硬化のシール材層92を塗布した後、第1基板10と第2基板20とを重ね合わせれば、周辺シール材層91を基板間で展開させることができる。従って、その後、紫外線照射および加熱を行なえば、周辺シール材層91およびシール材層92を硬化させ、基板同士を貼り合せることができる。
【0030】
(マスク蒸着装置の構成)
図4を参照して、本発明を適用した蒸着用マスク部材、マスク蒸着方法およびマスク蒸着装置を説明する。図4(a)、(b)、(c)、(d)は各々、本発明を適用したマスク蒸着装置の蒸着室の構成を示す説明図、被処理基板周辺の構成を拡大して示す説明図、蒸着用マスク部材に対する冷却方法を示す説明図、および蒸着用マスク部材に対する別の冷却方法を示す説明図である。
【0031】
図1〜図3を参照して説明した有機エレクトロルミネッセンス装置100を製造するには、第1基板10に対して蒸着工程、レジストマスクを用いてのパターニング工程などといった半導体プロセスを利用して各層が形成される。但し、有機機能層82(正孔注入層、発光層、電子注入層)などは水分や酸素により劣化しやすいため、有機機能層82を形成する際、さらには、補助配線83aを形成する際、レジストマスクを用いてのパターニング工程を行うと、レジストマスクをエッチング液や酸素プラズマなどで除去する際に有機機能層82などが水分や酸素により劣化してしまう。そこで、本形態では、有機機能層82を形成する際、さらには、補助配線83aを形成する際、以下に説明する蒸着用マスク部材を用いてのマスク蒸着法によって、第1基板10に所定形状の薄膜を形成し、レジストマスクを用いてのパターニング工程を行わない。なお、第1基板10を形成するにあたっては、単品サイズの基板に以下の工程を施す方法の他、第1基板10を多数取りできる大型基板に以下の工程を施した後、単品サイズの第1基板10に切断する方法が採用されるが、以下の説明では、サイズを問わず、第1基板10と称して説明する。
【0032】
図4(a)に示すマスク蒸着装置200は、図3に示す有機機能層82を構成する各層や補助陰極線などを形成するための装置であり、蒸着室220には、蒸着材料が収納された加熱ボート280(坩堝)を備えている。かかる蒸着室220でマスク蒸着を行なう際、第1基板10は、金属製のホルダ400に支持された蒸着用マスク部材310に被成膜面が接するように重ねられた状態で蒸着室220に配置される。この状態で、第1基板10は、図4(b)に示すように、蒸着用マスク部材310においてマスクチップ320が固着されている面側に重なっている。
【0033】
(蒸着用マスク部材の全体構成)
図5(a)、(b)は、本発明を適用した蒸着用マスク部材全体の基本的構成を示す斜視図、および蒸着用マスク部材の一部を拡大してマスクチップの基本的構成を示す説明図である。なお、図5(a)、(b)では、マスクチップやマスク開口部の形状などを模式化して示し、その数も少なく表してある。
【0034】
図4(a)、(b)および図5(a)、(b)に示す蒸着用マスク部材310は、ベース基板をなす矩形の支持基板330に、矩形のマスクチップ320(基板)を複数、取り付けた構成を有している。本形態では、マスクチップ320は単結晶シリコン基板からなるものとする。各マスクチップ320は各々、アライメントされて支持基板330に陽極接合や紫外線硬化型接着剤などにより接合されている。
【0035】
マスクチップ320には、蒸着パターンに対応する長孔形状のマスク開口部322が複数一定間隔で平行に並列した状態で形成されており、マスク開口部322の各間には梁部327が形成されている。また、マスクチップ320において、マスク開口部322の形成領域の周りには外枠部325が形成されており、かかる外枠部325が支持基板330に接合されている。
【0036】
支持基板330には、複数の長方形の貫通穴332が平行、かつ一定間隔で設けられており、複数のマスクチップ320は、支持基板330の貫通穴332を塞ぐように支持基板330上に固定されている。支持基板330には、アライメントマーク339が形成されており、アライメントマーク339は、蒸着用マスク部材310を使用して蒸着などを行うときに、蒸着用マスク部材310の位置合わせを行うためのものである。なお、マスクチップ320の外枠部325にアライメントマーク339を形成してもよい。
【0037】
複数のマスクチップ320の各々において、外枠部325の下面にはアライメントマーク324が少なくとも2ヶ所形成されている。これらのアライメントマーク324と、複数の貫通穴332の外周に一定間隔に形成されたアライメントマーク334とを重ね合わせることにより、支持基板330に対するマスクチップ320の位置合わせを行うことができる。アライメントマーク324、334は、フォトリソグラフィ技術またはエッチングなどにより形成される。
【0038】
本形態において、マスクチップ320は、面方位(110)を有する単結晶シリコン基板からなり、この単結晶シリコン基板にフォトリソグラフィ技術やエッチング技術などを用いて、貫通溝からなるマスク開口部322を形成することにより製造される。
【0039】
支持基板330の構成材料は、マスクチップ320の構成材料の熱膨張係数と同一又は近い熱膨張係数を有するものが好ましい。マスクチップ320はシリコン基板であるので、シリコンの熱膨張係数と同等の熱膨張係数をもつ材料で支持基板330を構成する。このようにすることにより、支持基板330とマスクチップ320との熱膨張量の違いによる「歪み」や「撓み」の発生を抑えることができる。本形態では、支持基板330としては、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、石英ガラスなどからなる透明基板が用いられている。
【0040】
このように構成した蒸着用マスク部材310において、本形態では、支持基板330においてマスクチップ320が固着されている方の基板面には、マスクチップ320が固着された領域以外の領域に熱伝達促進用チップ340が固着されている。本形態では、支持基板330においてマスクチップ320が固着されている領域で挟まれた梁部338に熱伝達促進用チップ340が固着されており、熱伝達促進用チップ340が固着された梁部338には貫通穴332は形成されていない。また、熱伝達促進用チップ340は、開口部が形成されていない平板である。
【0041】
ここで、マスクチップ320と熱伝達促進用チップ340とは、厚さおよび材質が同じであり、熱伝達促進用チップ340もシリコン基板からなる。また、熱伝達促進用チップ340は、マスクチップ320と同様、陽極接合や紫外線硬化型接着剤などにより接合されている。
【0042】
(マスク蒸着法、有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法)
かかる蒸着用マスク部材310を用いて、第1基板10にマスク蒸着を行う場合には、図4(b)に示すように、第1基板10の下面(被蒸着面/第1基板10の両面のうち第1面10e側)に蒸着用マスク部材310を重ねる。その結果、第1基板10の下面には蒸着用マスク部材310のマスクチップ320の上面が当接する。また、第1基板10の下面には熱伝達促進用チップ340の上面も当接する。この状態で真空蒸着を行うと、坩堝から供給された蒸着分子や蒸着原子は、マスクチップ320のマスク開口部322を介して第1基板10の下面に堆積する。
【0043】
なお、図1に示す有機エレクトロルミネッセンス装置100において、有機機能層82は、複数の画素100aに跨ってストライプ状に形成される場合があり、このような場合や、補助配線83aを形成するには、第1基板10の所定領域に蒸着を行った後、蒸着用マスク部材310をずらしながら複数回、蒸着することにより、被蒸着領域全体にわたってストライプ状の薄膜を形成する。
【0044】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態では、第1基板10に蒸着用マスク部材310を重ねた状態で蒸着源から第1基板10に蒸着材料流を供給して、マスク開口部322を介して第1基板10に蒸着を行なう。ここで、蒸着用マスク部材310の支持基板330には、マスクチップ320が固着された領域以外の領域に熱伝達促進用チップ340が固着されているため、熱伝達促進用チップ340が形成されている分だけ、蒸着用マスク部材310と第1基板10との接触面積が広い。このため、蒸着源側からの輻射熱によって蒸着用マスク部材310が加熱された際、かかる熱は、マスクチップ320を介して第1基板10に伝達されるとともに、熱伝達促進用チップ340を介しても第1基板10に伝達されるので、蒸着用マスク部材310と第1基板10との間に温度差が発生しにくい。このため、蒸着用マスク部材310と第1基板10とでは熱膨張の度合いが同等であるため、第1基板10に対するマスク開口部322の位置精度が低下することがないので、蒸着パターンの位置精度が高い。
【0045】
また、マスクチップ320と熱伝達促進用チップ340とは、厚さが等しいため、支持基板330に熱伝達促進用チップ340を固着しても、マスクチップ320および熱伝達促進用チップ340の双方が第1基板10に確実に接する。しかも、マスクチップ320および熱伝達促進用チップ340は、シリコン基板であり、支持基板330は、ガラス基板であるため、マスクチップ320、熱伝達促進用チップ340、および支持基板340の熱膨張係数を同等とすることができるので、蒸着用マスク部材310が温度上昇しても、蒸着用マスク部材310が変形しないという利点がある。
【0046】
(冷却工程)
上記マスク蒸着を行なう際、支持基板330での蓄熱が大きい場合には、蒸着用マスク部材310を用いて第1基板10に蒸着を行なった後、同じ蒸着用マスク部材310を用いて次の蒸着を行なう間に、蒸着室220の外部で蒸着用マスク部材310に対する冷却工程を行なうことが好ましい。このように構成すると、蒸着中に支持基板330での蓄熱が大きい場合でも、蒸着用マスク部材310の温度を常に一定にして蒸着を開始することができる。従って、いずれの第1基板10にも同等の条件で蒸着を行なうことができる。
【0047】
かかる冷却工程としては、図4(c)、(d)に示すように、蒸着用マスク部材310のマスクチップ320または/および支持基板330に冷却部材360を接触させることが好ましい。このように構成すると、蒸着用マスク部材310の温度を短時間のうちに低下させることができる。ここで、図4(c)に示す方法は、蒸着用マスク部材310においてマスクチップ320が位置する側に冷却部材360として、ダミーの基板、冷却ブロック、冷却用のチラーなどを接触させる方法であり、図4(d)に示す方法は、蒸着用マスク部材310において支持基板330が位置する側に冷却部材360として、ダミーの基板、冷却ブロック、冷却用のチラーなどを接触させる方法である。
【0048】
[その他の実施の形態]
本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記形態では、単結晶シリコン基板にマスク開口部322を形成した例を説明したが、その他のシリコン基板、さらにはシリコン以外の基板にマスク開口部322を形成した蒸着用マスク部材310に本発明を適用してもよい。
【0049】
また、上記形態については、真空蒸着法に用いる蒸着用マスク部材を説明したが、スパッタ蒸着法やイオンプレーティング法などの蒸着法、さらにはCVD法に用いる蒸着用マスク部材に本発明を適用することができる。また、近年、イオンプレーティング法についてはプラズマを利用したプラズマコーティングが提案されており、かかる蒸着法に用いる蒸着用マスク部材に対しても、本発明を適用することができる。
【0050】
さらに、上記形態では、有機エレクトロルミネッセンス装置100のストライプ状の薄膜を形成するための蒸着用マスク部材に本発明を適用したが、ストライプ状以外の薄膜をマスク蒸着する際や、液晶装置その他の電気光学装置や半導体装置の製造工程において薄膜をマスク蒸着する際に本発明を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明が適用される有機エレクトロルミネッセンス装置の電気的な構成を示す等価回路図である。
【図2】(a)、(b)は各々、図1に示す有機エレクトロルミネッセンス装置の平面的な構成を各構成要素と共に対向基板の側から見た平面図、およびそのJ−J′断面図である。
【図3】図1に示す有機エレクトロルミネッセンス装置の断面構成を模式的に示す断面図である。
【図4】(a)、(b)、(c)、(d)は各々、本発明を適用したマスク蒸着装置の蒸着室の構成を示す説明図、被処理基板周辺の構成を拡大して示す説明図、蒸着用マスク部材に対する冷却方法を示す説明図、および蒸着用マスク部材に対する別の冷却方法を示す説明図である。
【図5】(a)、(b)は、本発明を適用した蒸着用マスク部材全体の基本的構成を示す斜視図、および蒸着用マスク部材の一部を拡大してマスクチップの基本的構成を示す説明図である。
【図6】(a)、(b)は、従来の蒸着用マスク部材の説明図、およびマスク蒸着法の説明図である。
【符号の説明】
【0052】
10・・第1基板(被処理基板)、80・・有機エレクトロルミネッセンス素子、100・・有機エレクトロルミネッセンス装置、200・・マスク蒸着装置、220・・蒸着室、310・・蒸着用マスク部材、320・・マスクチップ、322・・マスク開口部、330・・支持基板、332・・支持基板の貫通穴、340・・熱伝達促進用チップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着パターンを規定するマスク開口部が形成されたマスクチップと、該マスクチップが一方の基板面に固着された支持基板とを備え、当該支持基板において前記マスクチップの前記マスク開口部の形成領域と重なる領域に貫通穴が形成された蒸着用マスク部材において、
前記支持基板の前記一方の基板面には、前記マスクチップが固着された領域以外の領域に熱伝達促進用チップが固着されていることを特徴とする蒸着用マスク部材。
【請求項2】
前記マスクチップと前記熱伝達促進用チップとは、厚さが等しいことを特徴とする請求項1に記載の蒸着用マスク部材。
【請求項3】
前記マスクチップおよび前記熱伝達促進用チップは、シリコン基板であり、
前記支持基板は、ガラス基板であることを特徴とする請求項1または2に記載の蒸着用マスク部材。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の蒸着用マスク部材を用いたマスク蒸着方法であって、
前記蒸着用マスク部材において、前記マスクチップが固着されている側を被処理基板に重ねた状態で蒸着源から前記被処理基板に蒸着材料流を供給して、前記マスク開口部を介して前記被処理基板に蒸着を行なうことを特徴とするマスク蒸着方法。
【請求項5】
前記蒸着用マスク部材を用いて前記被処理基板に蒸着を行なった後、当該蒸着用マスク部材を用いて次の蒸着を行なう間に前記蒸着用マスク部材に対する冷却工程を行なうことを特徴とする請求項4に記載のマスク蒸着方法。
【請求項6】
前記冷却工程では、前記蒸着用マスク部材の前記マスクチップまたは/および前記支持基板に冷却部材を接触させることを特徴とする請求項5に記載のマスク蒸着方法。
【請求項7】
請求項4乃至6の何れか一項に記載のマスク蒸着方法を用いた有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、
前記被処理基板は、有機エレクトロルミネッセンス素子が形成される素子基板であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−215625(P2009−215625A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62226(P2008−62226)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】