蒸着用マスク
【課題】洗浄液や異物の残留を抑えることが可能な蒸着用マスクを提供する。
【解決手段】枠体40に、マスク本体50と対向する面に、開口41に沿って段差部42を設け、この段差部42により、枠体40およびマスク本体50の間に隙間Gを形成する。隙間Gには、段差部42と同じ高さの間隙保持部43を点在させる。蒸着用マスク1を洗浄する際、洗浄液は隙間Gを流れ、隙間Gまたは貫通孔45から排出される。よって、洗浄液がリンス液に置換されずにマスク本体50と枠体40との間に残ってしまい、表面張力でマスク本体50と枠体40とが密着してしまうことによる精度悪化が抑えられる。また、残った洗浄液や異物などからのガス発生により、蒸着のための真空室内にフッ素系の材料などが混入し、有機発光素子の寿命に影響を及ぼすおそれも小さくなる。
【解決手段】枠体40に、マスク本体50と対向する面に、開口41に沿って段差部42を設け、この段差部42により、枠体40およびマスク本体50の間に隙間Gを形成する。隙間Gには、段差部42と同じ高さの間隙保持部43を点在させる。蒸着用マスク1を洗浄する際、洗浄液は隙間Gを流れ、隙間Gまたは貫通孔45から排出される。よって、洗浄液がリンス液に置換されずにマスク本体50と枠体40との間に残ってしまい、表面張力でマスク本体50と枠体40とが密着してしまうことによる精度悪化が抑えられる。また、残った洗浄液や異物などからのガス発生により、蒸着のための真空室内にフッ素系の材料などが混入し、有機発光素子の寿命に影響を及ぼすおそれも小さくなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光素子等における成膜工程に用いられる蒸着用マスクに係り、特に、金属薄膜等のマスク本体を枠体に張設してなる蒸着用マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、低分子材料を用いた有機発光素子の製造には、蒸着用マスクによる真空蒸着法が広く用いられている。蒸着用マスクは、例えば、枠体に対して金属薄膜よりなるマスク本体を一定の張力をもって取り付けた構成を有している。マスク本体には、蒸着材料通過用に多数の通過孔が設けられている。
【特許文献1】特開2005−171290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の蒸着用マスクでは、ウェットプロセスによる洗浄後に、枠体とマスク本体との間に洗浄液や異物が残ってしまい、精度悪化やガス発生などの問題が生じていた。
【0004】
なお、特許文献1では、異物を除去するため枠体に貫通孔を設けることが提案されているが、更に改善の余地があった。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、洗浄液や異物の残留を抑えることが可能な蒸着用マスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による蒸着用マスクは、開口を有する枠体と、金属薄膜により構成され、開口に対応する位置に、蒸着材料通過用に配列された複数の通過孔からなる少なくとも1のパターン領域を有し、パターン領域の周縁部において枠体に対して固定し張設されるマスク本体とを備え、枠体およびマスク本体の少なくとも一方は、枠体およびマスク本体の他方と対向する面に、開口に沿って形成された段差部と、段差部により枠体およびマスク本体の間に形成された隙間に点在する、段差部と同じ高さの間隙保持部とを備えたものである。
【0007】
本発明の蒸着用マスクでは、枠体およびマスク本体の少なくとも一方に、枠体およびマスク本体の他方と対向する面に、開口に沿って段差部が形成されていると共に、この段差部により枠体およびマスク本体の間に形成された隙間には、段差部と同じ高さの間隙保持部が点在しているので、ウェットプロセスによる洗浄の際に、洗浄液は、段差部により枠体およびマスク本体の間に形成された隙間を流れる。よって、洗浄液や異物が、枠体およびマスク本体の間に残ってしまうことが抑えられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の蒸着用マスクによれば、枠体およびマスク本体の少なくとも一方に、枠体およびマスク本体の他方と対向する面に、開口の沿って段差部を形成すると共に、この段差部により枠体およびマスク本体の間に形成された隙間に、段差部と同じ高さの間隙保持部を点在させるようにしたので、ウェットプロセスによる洗浄後に、洗浄液や異物の残留を抑えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(枠体に段差部を設けた例)
2.第2の実施の形態(マスク本体に段差部を設けた例)
【0010】
(第1の実施の形態)
まず、本発明の第1の実施の形態に係る蒸着用マスクの説明に先立ち、このマスクにより製造される表示装置の一例を具体的に説明する。
【0011】
この表示装置は、例えば極薄型の有機発光ディスプレイとして用いられるものであり、図1に示したように、例えば、ガラス,シリコン(Si)ウェハあるいは樹脂などよりなる基板11の上に、後述する複数の有機発光素子10R,10G,10Bがマトリクス状に配置されてなる表示領域110が形成されると共に、この表示領域110の周辺に、映像表示用のドライバである信号線駆動回路120および走査線駆動回路130が形成されたものである。
【0012】
表示領域110内には画素駆動回路140が形成されている。図2は、画素駆動回路140の一例を表したものである。この画素駆動回路140は、後述する第1電極13の下層に形成され、駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2と、その間のキャパシタ(保持容量)Csと、第1の電源ライン(Vcc)および第2の電源ライン(GND)の間において駆動トランジスタTr1に直列に接続された有機発光素子10R(または10G,10B)とを有するアクティブ型の駆動回路である。駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2は、一般的な薄膜トランジスタ(TFT(Thin Film Transistor))により構成され、その構成は例えば逆スタガー構造(いわゆるボトムゲート型)でもよいしスタガー構造(トップゲート型)でもよく特に限定されない。
【0013】
画素駆動回路140において、列方向には信号線120Aが複数配置され、行方向には走査線130Aが複数配置されている。各信号線120Aと各走査線130Aとの交差点が、有機発光素子10R,10G,10Bのいずれか一つ(サブピクセル)に対応している。各信号線120Aは、信号線駆動回路120に接続され、この信号線駆動回路120から信号線120Aを介して書き込みトランジスタTr2のソース電極に画像信号が供給されるようになっている。各走査線130Aは走査線駆動回路130に接続され、この走査線駆動回路130から走査線130Aを介して書き込みトランジスタTr2のゲート電極に走査信号が順次供給されるようになっている。
【0014】
図3は、表示領域110の断面構成を表したものである。表示領域110には、赤色の光を発生する有機発光素子10Rと、緑色の光を発生する有機発光素子10Gと、青色の光を発生する有機発光素子10Bとが、順に全体としてマトリクス状に形成されている。有機発光素子10R,10G,10Bは、例えば図4に示したように、短冊状(長方形)の平面形状を有し、発光色ごとに長手方向に列をなすように配置されている。なお、隣り合う有機発光素子10R,10G,10Bの組み合わせが一つの画素(ピクセル)を構成している。
【0015】
有機発光素子10R,10G,10Bは、それぞれ、基板11の側から、上述した画素駆動回路140の駆動トランジスタTr1、平坦化層12、陽極としての第1電極13、絶縁膜14、後述する発光層15Cを含む有機層15、および陰極としての第2電極16がこの順に積層された構成を有している。このうち、発光層15Cを含む有機層15は、本実施の形態の蒸着用マスクを用いて形成されたものである。
【0016】
このような有機発光素子10R,10G,10Bは、必要に応じて、窒化ケイ素(SiN)または酸化ケイ素(SiO)などの保護膜17により被覆され、更にこの保護膜17上に、熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂などの接着層20を間にしてガラスなどよりなる封止用基板31が全面にわたって貼り合わされることにより封止されている。封止用基板31には、必要に応じてカラーフィルタ32およびブラックマトリクスとしての光遮蔽膜(図示せず)が設けられていてもよい。
【0017】
駆動トランジスタTr1は、平坦化層12に設けられた接続孔12Aを介して第1電極13に電気的に接続されている。平坦化層12は、画素駆動回路140が形成された基板11の表面を平坦化するためのものであり、微細な接続孔12Aが形成されるためパターン精度が良い材料により構成されていることが好ましい。平坦化層12の構成材料としては、例えば、ポリイミド等の有機材料、あるいは酸化シリコン(SiO2 )などの無機材料が挙げられる。
【0018】
第1電極13は、有機発光素子10R,10G,10Bの各々に対応して形成されている。また、第1電極13は、反射層としての機能も兼ねており、例えば、白金(Pt),金(Au),銀(Ag),クロム(Cr)あるいはタングステン(W)などの金属または合金により構成されている。絶縁膜14は、第1電極13と第2電極16との絶縁性を確保すると共に、有機発光素子10R,10G,10Bにおける発光領域の形状を正確に所望の形状とするためのものであり、例えば、ポリイミドにより構成されている。
【0019】
有機層15は、例えば、正孔輸送層,発光層および電子輸送層が第1電極13の側からこの順に積層された構造を有している。正孔輸送層は発光層への正孔注入効率を高めるためのものである。発光層は電界をかけることにより電子と正孔との再結合が起こり、光を発生するものである。電子輸送層は、発光層への電子注入効率を高めるためのものである。有機発光素子10Rの正孔輸送層の構成材料としては、例えば、ビス[(N−ナフチル)−N−フェニル]ベンジジン(α−NPD)が挙げられ、有機発光素子10Rの発光層の構成材料としては、例えば、2,5−ビス−[4−[N−(4−メトキシフェニル)−N−フェニルアミノ]]スチリルベンゼン−1,4−ジカーボニトリル(BSB)が挙げられ、有機発光素子10Rの電子輸送層の構成材料としては、例えば、8−キノリノールアルミニウム錯体(Alq3 )が挙げられる。有機発光素子10Bの正孔輸送層の構成材料としては、例えば、α−NPDが挙げられ、有機発光素子10Bの発光層の構成材料としては、例えば、4,4´−ビス(2,2´−ジフェニルビニン)ビフェニル(DPVBi)が挙げられ、有機発光素子10Bの電子輸送層の構成材料としては、例えば、Alq3 が挙げられる。有機発光素子10Gの正孔輸送層の構成材料としては、例えば、α−NPDが挙げられ、有機発光素子10Gの発光層の構成材料としては、例えば、Alq3 にクマリン6(C6;Coumarin6)を1体積%混合したものが挙げられ、有機発光素子10Gの電子輸送層の構成材料としては、例えば、Alq3 が挙げられる。
【0020】
第2電極16は、半透過性電極により構成されており、発光層で発生した光は第2電極16の側から取り出されるようになっている。第2電極16は、例えば、銀(Ag),アルミニウム(Al),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),ナトリウム(Na)などの金属または合金により構成されている。
【0021】
本実施の形態では、以上の有機発光素子10R,10G,10Bの有機層15を各色ごとに、蒸着用マスクを用いた真空蒸着法により形成するものである。本実施の形態に係る蒸着用マスク1は、図5に示したように、開口41を有する枠体40に、金属薄膜よりなるマスク本体50を張設して構成したものである。
【0022】
枠体40は、有機層15が形成される駆動用基板11と同等の線熱膨張係数を有する材料により構成されていることが好ましい。蒸着時の温度変化に伴い、枠体10と駆動用基板11とを同期して膨張収縮させると共に、膨張収縮による寸法変化量を等しくすることができるからである。更に、枠体40は、高い剛性および十分な厚みを有し、線熱膨張係数のほか、熱容量、表面の輻射射出率、周囲の支持体(図示せず)との熱伝導により流入流出する伝熱量、および蒸着源(図示せず)からの輻射熱を遮る断熱板(図示せず)により制限される流入熱量などを最適に調節して設計されていることが望ましい。
【0023】
マスク本体50は、例えば、厚みが0.01mm〜0.05mmであり、ニッケル(Ni)もしくは銅(Cu)などの金属または合金、圧延ステンレス鋼などの金属薄膜により構成されている。マスク本体50には、枠体40の開口41に対応する位置に、複数の通過孔61からなる6面のパターン領域60が全体として例えば2行×3列の矩形状に配置されており、6個の表示装置の有機層15を同一の蒸着工程で形成することができるようになっている。各パターン領域60には、有機層15を形成するための蒸着材料を通過させる通過孔61が配列されている。これらの通過孔61は例えば長孔であると共に例えば6行×3列に配列され、パターン領域60は矩形状をなしている。また、これらの通過孔61は、図4に示したような有機発光素子10R,10G,10Bの配置に従って有機層15を各色ごとに形成するため、図6に拡大して示したように、長孔の長手方向における間隔L1が、長手方向に対して直交する方向における間隔L2よりも狭くなっている。パターン領域60間には、電極端子を取り出すため、および各表示装置を切断して分離するため、分離領域70が設けられている。
【0024】
マスク本体50は、パターン領域60の周縁部80において、例えば電気抵抗溶接法により、連続した点状の固定部81で枠体40に対して固定され張設されている。マスク本体50に与えられる張力は、蒸着時の輻射熱による熱応力によりマスク本体50に生じる歪み量が、張力によりマスク本体50に生じる歪み量により相殺される大きさおよび方向に設定されていることが好ましい。蒸着時のマスク本体50の熱膨張を吸収し、通過孔61の位置精度を高めることができるからである。更に、マスク本体50に与えられる張力は、マスク本体50の場所により細かく調節されていればより好ましい。多数の通過孔61が配列されているパターン領域60と、分離領域70および周縁部80とでマスク本体50の歪み量を均一化することができるからである。
【0025】
図7は、蒸着用マスク1の断面構造を表したものであり、マスク本体50上に駆動用基板11を載せた状態を表している。固定部81は、溶接による突起ができてしまうので、駆動用基板11よりも外側に配置されている。また、枠体40は、マスク本体50の張力保持と共に、駆動用基板11を支持する機能を有しており、駆動用基板11は、周辺部が枠体40に重なるようにマスク本体50上に置かれている。
【0026】
枠体40には、マスク本体50と対向する面に、開口41に沿って段差部42が設けられており、この段差部42により、枠体40およびマスク本体50の間に隙間Gが形成されている。隙間Gには、段差部42と同じ高さの間隙保持部43が点在している。これにより、この蒸着用マスク1では、洗浄液や異物の残留を抑えることができるようになっている。
【0027】
段差部42は、枠体40およびマスク本体50の間に、洗浄液の流れを可能とする隙間Gを確保するためのものであり、少なくとも、マスク本体50と駆動用基板11との重なり領域44に形成されていることが望ましい。段差部42の高さすなわち隙間Gの大きさは特に限定されないが、例えば0.5mm程度であることが好ましい。
【0028】
間隙保持部43は、駆動用基板11を支持するためのスペーサとしての機能を有している。すなわち、段差部42内に間隙保持部43を配置することにより、重なり領域44において間隙保持部43の上面とマスク本体50の下面を同一高さにすることができ、枠体40によって駆動用基板11を支持することが可能となる。
【0029】
間隙保持部43は、駆動用基板11の荷重を受ける最小限の寸法・面積を有していればよい。間隙保持部43は、例えば、図8に示したような円形など、角のない形状が好ましい。洗浄などにより間隙保持部43が損傷を受けるおそれがないからである。また、間隙保持部43の形状は、図9に示したような矩形などでもよく、特に限定されない。なお、図8および図9では、洗浄液が流れる空間である隙間Gに網かけを付して現している。
【0030】
枠体40は、段差部42すなわち隙間Gと、マスク本体50との対向面以外の面(例えば、枠体40の背面または側面)とを連通させる貫通孔45を有していることが好ましい。隙間G内の洗浄液などを更に排出しやすくすることができるからである。貫通孔45は、例えば図10に示したように、開口41に沿って適宜配置されていることが望ましい。
【0031】
この蒸着マスク1は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、パターン領域60を有するマスク本体50を、例えば機械加工,レーザ加工,エッチング,電気めっき法を用いて、上述した材料よりなる金属薄膜により形成する。
【0032】
また、上述した材料よりなる枠体40を用意し、例えば機械加工,レーザ加工,エッチングを用いて、段差部42を形成すると共に段差部42内に点在する間隙保持部43を形成する。
【0033】
次いで、マスク本体50を、例えば電気抵抗溶接法により、連続した点状の固定部81で枠体40に対して固定し張設する。以上により、図5に示した蒸着用マスク1が完成する。
【0034】
この蒸着マスク1では、図示しない蒸着源からの蒸着材料がパターン領域60の通過孔61を通過し、駆動用基板11上に有機層15が形成される。蒸着中に有機層15の材料が蒸着マスク1上に堆積し、蒸着の精度が悪くなった場合には、その対策としてウェットプロセスによる洗浄を行う。すなわち、まず、図11(A)に示したように、蒸着用マスク1を縦にした状態で(縦型プロセス)、第1槽91内の炭化水素系の洗浄液91Aに浸漬する。次いで、図11(B)に示したように、同じく蒸着用マスク1を縦にした状態で、第2槽92内のIPA(イソプロピルアルコール;(CH3 )2 CHOH),HFE(ハイドロフルオロエーテル)等のリンス液92Aに浸漬する。
【0035】
ここでは、枠体40の開口41の周囲に段差部42が設けられ、この段差部42により枠体40およびマスク本体50の間に隙間Gが形成されているので、蒸着用マスク1を第1槽91から取り出すと洗浄液91Aは隙間Gを流れ、隙間Gまたは貫通孔45から排出される。よって、洗浄液91Aがリンス液92Aに置換されずにマスク本体50と枠体40との間に残ってしまい、表面張力でマスク本体50と枠体40とが密着してしまうことによる精度悪化が抑えられる。また、残った洗浄液91Aや異物などからのガス発生により、蒸着のための真空室内にフッ素系の材料などが混入し、有機発光素子10R,10G,10Bの寿命に影響を及ぼすおそれも小さくなる。
【0036】
これに対して、従来の蒸着用マスクでは、図12に示したように、枠体40によって駆動用基板11を支持するため、固定部881よりも内側の領域846では、枠体840とマスク本体850との間に隙間がない構造となっていた。そのため、領域846では、洗浄液がリンス液に置換されずに枠体840とマスク本体850との間に残ってしまい、表面張力で両者が密着して精度悪化の原因となったり、ガス発生により有機発光素子の寿命特性に影響を及ぼすおそれがあった。なお、図12では、図7に対応する構成要素には図7と同一の800番台の符号を付して表している。
【0037】
このように本実施の形態では、枠体40に、マスク本体50と対向する面に、開口41に沿って段差部42を形成すると共に、この段差部42により枠体40およびマスク本体50の間に形成された隙間Gに、段差部42と同じ高さの間隙保持部43を点在させるようにしたので、ウェットプロセスによる洗浄後に、洗浄液91Aや異物の残留を抑え、精度悪化やガス発生による影響を抑えることが可能となる。
【0038】
(第2の実施の形態)
図13は、本発明の第2の実施の形態に係る蒸着用マスク1Aの断面構成を表すものである。この蒸着用マスク1Aは、段差部42および間隙保持部43をマスク本体50に形成したことを除いては、第1の実施の形態の蒸着用マスク1と同一の構成を有し、その作用および効果も同一である。なお、この蒸着用マスク1Aは、第1の実施の形態と同様にして製造することができるが、マスク本体50はエッチングにより形成したものが望ましい。段差部42および間隙保持部43は、エッチングのほうが容易に形成することができ、めっき方式では難しいからである。
【0039】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形が可能である。例えば、段差部42および間隙保持部43は、枠体40およびマスク本体50の両方に設けられていてもよい。
【0040】
また、例えば、上記実施の形態では、通過孔61が長孔である場合を例として説明したが、本発明は、通過孔61が三角形、台形、楕円形、角の丸い長方形などの他の形状である場合にも適用することができる。
【0041】
更に、例えば、上記実施の形態ではマスク本体50が複数のパターン領域60を有する場合について説明したが、パターン領域60は少なくとも一つあればよい。
【0042】
加えて、例えば、上記実施の形態では、マスク本体50が、電気抵抗溶接法により、連続した点状の固定部81で枠体40に対して固定されている場合について説明したが、マスク本体50は、レーザ溶接などの他の溶接方法により固定されていてもよい。また、マスク本体50は、耐熱セラミックス系接着剤あるいは耐熱エポキシ樹脂接着剤などの温度変化に対する安定性の高い接着剤により枠体40に対して固定されていてもよく、また、ビスなどの締結具により枠体40に対して固定されていてもよい。
【0043】
更にまた、例えば、上記実施の形態において説明した各層の材料および厚み、または成膜方法および成膜条件などは限定されるものではなく、他の材料および厚みとしてもよく、または他の成膜方法および成膜条件としてもよい。
【0044】
加えてまた、上記実施の形態では、有機発光素子10R,10G,10Bの構成を具体的に挙げて説明したが、全ての層を備える必要はなく、また、他の層を更に備えていてもよい。
【0045】
更にまた、上記実施の形態では、本発明の蒸着用マスクを有機発光素子10R,10G,10Bを備えた表示装置の有機層15の形成に適用した場合について説明したが、本発明は、半導体製造プロセスなどにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る蒸着用マスクを用いて製造される表示装置の構成を表す図である。
【図2】図1に示した画素駆動回路の一例を表す等価回路図である。
【図3】図1に示した表示領域の構成を表す断面図である。
【図4】図1に示した表示領域の構成を表す平面図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る蒸着用マスクを分解して表す斜視図である。
【図6】図4に示した通過孔の拡大平面図である。
【図7】図5に示した蒸着用マスクの構成を表す断面図である。
【図8】図7に示した間隙保持部の一例を表す平面図である。
【図9】間隙保持部の他の例を表す平面図である。
【図10】図7に示した枠体を段差部の側から見た構成を表す平面図である。
【図11】図5に示した蒸着用マスクの洗浄工程を説明するための図である。
【図12】従来の蒸着用マスクの問題点を説明するための断面図である。
【図13】本発明の第2の実施の形態に係る蒸着用マスクの構成を表す断面図である。
【符号の説明】
【0047】
10R,10G,10B…有機発光素子、11…駆動用基板、13…第1電極(陽極)、14…絶縁膜、15…有機層、16…第2電極(陰極)、20…接着層、31…封止用基板、40…枠体、41…開口、42…段差部、43…間隙保持部、44…重なり領域、45…貫通孔、50…マスク本体、60…パターン領域、61…通過孔、70…分離領域、80…周縁部、81…固定部、91A…洗浄液、92A…リンス液
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光素子等における成膜工程に用いられる蒸着用マスクに係り、特に、金属薄膜等のマスク本体を枠体に張設してなる蒸着用マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、低分子材料を用いた有機発光素子の製造には、蒸着用マスクによる真空蒸着法が広く用いられている。蒸着用マスクは、例えば、枠体に対して金属薄膜よりなるマスク本体を一定の張力をもって取り付けた構成を有している。マスク本体には、蒸着材料通過用に多数の通過孔が設けられている。
【特許文献1】特開2005−171290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の蒸着用マスクでは、ウェットプロセスによる洗浄後に、枠体とマスク本体との間に洗浄液や異物が残ってしまい、精度悪化やガス発生などの問題が生じていた。
【0004】
なお、特許文献1では、異物を除去するため枠体に貫通孔を設けることが提案されているが、更に改善の余地があった。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、洗浄液や異物の残留を抑えることが可能な蒸着用マスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による蒸着用マスクは、開口を有する枠体と、金属薄膜により構成され、開口に対応する位置に、蒸着材料通過用に配列された複数の通過孔からなる少なくとも1のパターン領域を有し、パターン領域の周縁部において枠体に対して固定し張設されるマスク本体とを備え、枠体およびマスク本体の少なくとも一方は、枠体およびマスク本体の他方と対向する面に、開口に沿って形成された段差部と、段差部により枠体およびマスク本体の間に形成された隙間に点在する、段差部と同じ高さの間隙保持部とを備えたものである。
【0007】
本発明の蒸着用マスクでは、枠体およびマスク本体の少なくとも一方に、枠体およびマスク本体の他方と対向する面に、開口に沿って段差部が形成されていると共に、この段差部により枠体およびマスク本体の間に形成された隙間には、段差部と同じ高さの間隙保持部が点在しているので、ウェットプロセスによる洗浄の際に、洗浄液は、段差部により枠体およびマスク本体の間に形成された隙間を流れる。よって、洗浄液や異物が、枠体およびマスク本体の間に残ってしまうことが抑えられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の蒸着用マスクによれば、枠体およびマスク本体の少なくとも一方に、枠体およびマスク本体の他方と対向する面に、開口の沿って段差部を形成すると共に、この段差部により枠体およびマスク本体の間に形成された隙間に、段差部と同じ高さの間隙保持部を点在させるようにしたので、ウェットプロセスによる洗浄後に、洗浄液や異物の残留を抑えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(枠体に段差部を設けた例)
2.第2の実施の形態(マスク本体に段差部を設けた例)
【0010】
(第1の実施の形態)
まず、本発明の第1の実施の形態に係る蒸着用マスクの説明に先立ち、このマスクにより製造される表示装置の一例を具体的に説明する。
【0011】
この表示装置は、例えば極薄型の有機発光ディスプレイとして用いられるものであり、図1に示したように、例えば、ガラス,シリコン(Si)ウェハあるいは樹脂などよりなる基板11の上に、後述する複数の有機発光素子10R,10G,10Bがマトリクス状に配置されてなる表示領域110が形成されると共に、この表示領域110の周辺に、映像表示用のドライバである信号線駆動回路120および走査線駆動回路130が形成されたものである。
【0012】
表示領域110内には画素駆動回路140が形成されている。図2は、画素駆動回路140の一例を表したものである。この画素駆動回路140は、後述する第1電極13の下層に形成され、駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2と、その間のキャパシタ(保持容量)Csと、第1の電源ライン(Vcc)および第2の電源ライン(GND)の間において駆動トランジスタTr1に直列に接続された有機発光素子10R(または10G,10B)とを有するアクティブ型の駆動回路である。駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2は、一般的な薄膜トランジスタ(TFT(Thin Film Transistor))により構成され、その構成は例えば逆スタガー構造(いわゆるボトムゲート型)でもよいしスタガー構造(トップゲート型)でもよく特に限定されない。
【0013】
画素駆動回路140において、列方向には信号線120Aが複数配置され、行方向には走査線130Aが複数配置されている。各信号線120Aと各走査線130Aとの交差点が、有機発光素子10R,10G,10Bのいずれか一つ(サブピクセル)に対応している。各信号線120Aは、信号線駆動回路120に接続され、この信号線駆動回路120から信号線120Aを介して書き込みトランジスタTr2のソース電極に画像信号が供給されるようになっている。各走査線130Aは走査線駆動回路130に接続され、この走査線駆動回路130から走査線130Aを介して書き込みトランジスタTr2のゲート電極に走査信号が順次供給されるようになっている。
【0014】
図3は、表示領域110の断面構成を表したものである。表示領域110には、赤色の光を発生する有機発光素子10Rと、緑色の光を発生する有機発光素子10Gと、青色の光を発生する有機発光素子10Bとが、順に全体としてマトリクス状に形成されている。有機発光素子10R,10G,10Bは、例えば図4に示したように、短冊状(長方形)の平面形状を有し、発光色ごとに長手方向に列をなすように配置されている。なお、隣り合う有機発光素子10R,10G,10Bの組み合わせが一つの画素(ピクセル)を構成している。
【0015】
有機発光素子10R,10G,10Bは、それぞれ、基板11の側から、上述した画素駆動回路140の駆動トランジスタTr1、平坦化層12、陽極としての第1電極13、絶縁膜14、後述する発光層15Cを含む有機層15、および陰極としての第2電極16がこの順に積層された構成を有している。このうち、発光層15Cを含む有機層15は、本実施の形態の蒸着用マスクを用いて形成されたものである。
【0016】
このような有機発光素子10R,10G,10Bは、必要に応じて、窒化ケイ素(SiN)または酸化ケイ素(SiO)などの保護膜17により被覆され、更にこの保護膜17上に、熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂などの接着層20を間にしてガラスなどよりなる封止用基板31が全面にわたって貼り合わされることにより封止されている。封止用基板31には、必要に応じてカラーフィルタ32およびブラックマトリクスとしての光遮蔽膜(図示せず)が設けられていてもよい。
【0017】
駆動トランジスタTr1は、平坦化層12に設けられた接続孔12Aを介して第1電極13に電気的に接続されている。平坦化層12は、画素駆動回路140が形成された基板11の表面を平坦化するためのものであり、微細な接続孔12Aが形成されるためパターン精度が良い材料により構成されていることが好ましい。平坦化層12の構成材料としては、例えば、ポリイミド等の有機材料、あるいは酸化シリコン(SiO2 )などの無機材料が挙げられる。
【0018】
第1電極13は、有機発光素子10R,10G,10Bの各々に対応して形成されている。また、第1電極13は、反射層としての機能も兼ねており、例えば、白金(Pt),金(Au),銀(Ag),クロム(Cr)あるいはタングステン(W)などの金属または合金により構成されている。絶縁膜14は、第1電極13と第2電極16との絶縁性を確保すると共に、有機発光素子10R,10G,10Bにおける発光領域の形状を正確に所望の形状とするためのものであり、例えば、ポリイミドにより構成されている。
【0019】
有機層15は、例えば、正孔輸送層,発光層および電子輸送層が第1電極13の側からこの順に積層された構造を有している。正孔輸送層は発光層への正孔注入効率を高めるためのものである。発光層は電界をかけることにより電子と正孔との再結合が起こり、光を発生するものである。電子輸送層は、発光層への電子注入効率を高めるためのものである。有機発光素子10Rの正孔輸送層の構成材料としては、例えば、ビス[(N−ナフチル)−N−フェニル]ベンジジン(α−NPD)が挙げられ、有機発光素子10Rの発光層の構成材料としては、例えば、2,5−ビス−[4−[N−(4−メトキシフェニル)−N−フェニルアミノ]]スチリルベンゼン−1,4−ジカーボニトリル(BSB)が挙げられ、有機発光素子10Rの電子輸送層の構成材料としては、例えば、8−キノリノールアルミニウム錯体(Alq3 )が挙げられる。有機発光素子10Bの正孔輸送層の構成材料としては、例えば、α−NPDが挙げられ、有機発光素子10Bの発光層の構成材料としては、例えば、4,4´−ビス(2,2´−ジフェニルビニン)ビフェニル(DPVBi)が挙げられ、有機発光素子10Bの電子輸送層の構成材料としては、例えば、Alq3 が挙げられる。有機発光素子10Gの正孔輸送層の構成材料としては、例えば、α−NPDが挙げられ、有機発光素子10Gの発光層の構成材料としては、例えば、Alq3 にクマリン6(C6;Coumarin6)を1体積%混合したものが挙げられ、有機発光素子10Gの電子輸送層の構成材料としては、例えば、Alq3 が挙げられる。
【0020】
第2電極16は、半透過性電極により構成されており、発光層で発生した光は第2電極16の側から取り出されるようになっている。第2電極16は、例えば、銀(Ag),アルミニウム(Al),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),ナトリウム(Na)などの金属または合金により構成されている。
【0021】
本実施の形態では、以上の有機発光素子10R,10G,10Bの有機層15を各色ごとに、蒸着用マスクを用いた真空蒸着法により形成するものである。本実施の形態に係る蒸着用マスク1は、図5に示したように、開口41を有する枠体40に、金属薄膜よりなるマスク本体50を張設して構成したものである。
【0022】
枠体40は、有機層15が形成される駆動用基板11と同等の線熱膨張係数を有する材料により構成されていることが好ましい。蒸着時の温度変化に伴い、枠体10と駆動用基板11とを同期して膨張収縮させると共に、膨張収縮による寸法変化量を等しくすることができるからである。更に、枠体40は、高い剛性および十分な厚みを有し、線熱膨張係数のほか、熱容量、表面の輻射射出率、周囲の支持体(図示せず)との熱伝導により流入流出する伝熱量、および蒸着源(図示せず)からの輻射熱を遮る断熱板(図示せず)により制限される流入熱量などを最適に調節して設計されていることが望ましい。
【0023】
マスク本体50は、例えば、厚みが0.01mm〜0.05mmであり、ニッケル(Ni)もしくは銅(Cu)などの金属または合金、圧延ステンレス鋼などの金属薄膜により構成されている。マスク本体50には、枠体40の開口41に対応する位置に、複数の通過孔61からなる6面のパターン領域60が全体として例えば2行×3列の矩形状に配置されており、6個の表示装置の有機層15を同一の蒸着工程で形成することができるようになっている。各パターン領域60には、有機層15を形成するための蒸着材料を通過させる通過孔61が配列されている。これらの通過孔61は例えば長孔であると共に例えば6行×3列に配列され、パターン領域60は矩形状をなしている。また、これらの通過孔61は、図4に示したような有機発光素子10R,10G,10Bの配置に従って有機層15を各色ごとに形成するため、図6に拡大して示したように、長孔の長手方向における間隔L1が、長手方向に対して直交する方向における間隔L2よりも狭くなっている。パターン領域60間には、電極端子を取り出すため、および各表示装置を切断して分離するため、分離領域70が設けられている。
【0024】
マスク本体50は、パターン領域60の周縁部80において、例えば電気抵抗溶接法により、連続した点状の固定部81で枠体40に対して固定され張設されている。マスク本体50に与えられる張力は、蒸着時の輻射熱による熱応力によりマスク本体50に生じる歪み量が、張力によりマスク本体50に生じる歪み量により相殺される大きさおよび方向に設定されていることが好ましい。蒸着時のマスク本体50の熱膨張を吸収し、通過孔61の位置精度を高めることができるからである。更に、マスク本体50に与えられる張力は、マスク本体50の場所により細かく調節されていればより好ましい。多数の通過孔61が配列されているパターン領域60と、分離領域70および周縁部80とでマスク本体50の歪み量を均一化することができるからである。
【0025】
図7は、蒸着用マスク1の断面構造を表したものであり、マスク本体50上に駆動用基板11を載せた状態を表している。固定部81は、溶接による突起ができてしまうので、駆動用基板11よりも外側に配置されている。また、枠体40は、マスク本体50の張力保持と共に、駆動用基板11を支持する機能を有しており、駆動用基板11は、周辺部が枠体40に重なるようにマスク本体50上に置かれている。
【0026】
枠体40には、マスク本体50と対向する面に、開口41に沿って段差部42が設けられており、この段差部42により、枠体40およびマスク本体50の間に隙間Gが形成されている。隙間Gには、段差部42と同じ高さの間隙保持部43が点在している。これにより、この蒸着用マスク1では、洗浄液や異物の残留を抑えることができるようになっている。
【0027】
段差部42は、枠体40およびマスク本体50の間に、洗浄液の流れを可能とする隙間Gを確保するためのものであり、少なくとも、マスク本体50と駆動用基板11との重なり領域44に形成されていることが望ましい。段差部42の高さすなわち隙間Gの大きさは特に限定されないが、例えば0.5mm程度であることが好ましい。
【0028】
間隙保持部43は、駆動用基板11を支持するためのスペーサとしての機能を有している。すなわち、段差部42内に間隙保持部43を配置することにより、重なり領域44において間隙保持部43の上面とマスク本体50の下面を同一高さにすることができ、枠体40によって駆動用基板11を支持することが可能となる。
【0029】
間隙保持部43は、駆動用基板11の荷重を受ける最小限の寸法・面積を有していればよい。間隙保持部43は、例えば、図8に示したような円形など、角のない形状が好ましい。洗浄などにより間隙保持部43が損傷を受けるおそれがないからである。また、間隙保持部43の形状は、図9に示したような矩形などでもよく、特に限定されない。なお、図8および図9では、洗浄液が流れる空間である隙間Gに網かけを付して現している。
【0030】
枠体40は、段差部42すなわち隙間Gと、マスク本体50との対向面以外の面(例えば、枠体40の背面または側面)とを連通させる貫通孔45を有していることが好ましい。隙間G内の洗浄液などを更に排出しやすくすることができるからである。貫通孔45は、例えば図10に示したように、開口41に沿って適宜配置されていることが望ましい。
【0031】
この蒸着マスク1は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、パターン領域60を有するマスク本体50を、例えば機械加工,レーザ加工,エッチング,電気めっき法を用いて、上述した材料よりなる金属薄膜により形成する。
【0032】
また、上述した材料よりなる枠体40を用意し、例えば機械加工,レーザ加工,エッチングを用いて、段差部42を形成すると共に段差部42内に点在する間隙保持部43を形成する。
【0033】
次いで、マスク本体50を、例えば電気抵抗溶接法により、連続した点状の固定部81で枠体40に対して固定し張設する。以上により、図5に示した蒸着用マスク1が完成する。
【0034】
この蒸着マスク1では、図示しない蒸着源からの蒸着材料がパターン領域60の通過孔61を通過し、駆動用基板11上に有機層15が形成される。蒸着中に有機層15の材料が蒸着マスク1上に堆積し、蒸着の精度が悪くなった場合には、その対策としてウェットプロセスによる洗浄を行う。すなわち、まず、図11(A)に示したように、蒸着用マスク1を縦にした状態で(縦型プロセス)、第1槽91内の炭化水素系の洗浄液91Aに浸漬する。次いで、図11(B)に示したように、同じく蒸着用マスク1を縦にした状態で、第2槽92内のIPA(イソプロピルアルコール;(CH3 )2 CHOH),HFE(ハイドロフルオロエーテル)等のリンス液92Aに浸漬する。
【0035】
ここでは、枠体40の開口41の周囲に段差部42が設けられ、この段差部42により枠体40およびマスク本体50の間に隙間Gが形成されているので、蒸着用マスク1を第1槽91から取り出すと洗浄液91Aは隙間Gを流れ、隙間Gまたは貫通孔45から排出される。よって、洗浄液91Aがリンス液92Aに置換されずにマスク本体50と枠体40との間に残ってしまい、表面張力でマスク本体50と枠体40とが密着してしまうことによる精度悪化が抑えられる。また、残った洗浄液91Aや異物などからのガス発生により、蒸着のための真空室内にフッ素系の材料などが混入し、有機発光素子10R,10G,10Bの寿命に影響を及ぼすおそれも小さくなる。
【0036】
これに対して、従来の蒸着用マスクでは、図12に示したように、枠体40によって駆動用基板11を支持するため、固定部881よりも内側の領域846では、枠体840とマスク本体850との間に隙間がない構造となっていた。そのため、領域846では、洗浄液がリンス液に置換されずに枠体840とマスク本体850との間に残ってしまい、表面張力で両者が密着して精度悪化の原因となったり、ガス発生により有機発光素子の寿命特性に影響を及ぼすおそれがあった。なお、図12では、図7に対応する構成要素には図7と同一の800番台の符号を付して表している。
【0037】
このように本実施の形態では、枠体40に、マスク本体50と対向する面に、開口41に沿って段差部42を形成すると共に、この段差部42により枠体40およびマスク本体50の間に形成された隙間Gに、段差部42と同じ高さの間隙保持部43を点在させるようにしたので、ウェットプロセスによる洗浄後に、洗浄液91Aや異物の残留を抑え、精度悪化やガス発生による影響を抑えることが可能となる。
【0038】
(第2の実施の形態)
図13は、本発明の第2の実施の形態に係る蒸着用マスク1Aの断面構成を表すものである。この蒸着用マスク1Aは、段差部42および間隙保持部43をマスク本体50に形成したことを除いては、第1の実施の形態の蒸着用マスク1と同一の構成を有し、その作用および効果も同一である。なお、この蒸着用マスク1Aは、第1の実施の形態と同様にして製造することができるが、マスク本体50はエッチングにより形成したものが望ましい。段差部42および間隙保持部43は、エッチングのほうが容易に形成することができ、めっき方式では難しいからである。
【0039】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形が可能である。例えば、段差部42および間隙保持部43は、枠体40およびマスク本体50の両方に設けられていてもよい。
【0040】
また、例えば、上記実施の形態では、通過孔61が長孔である場合を例として説明したが、本発明は、通過孔61が三角形、台形、楕円形、角の丸い長方形などの他の形状である場合にも適用することができる。
【0041】
更に、例えば、上記実施の形態ではマスク本体50が複数のパターン領域60を有する場合について説明したが、パターン領域60は少なくとも一つあればよい。
【0042】
加えて、例えば、上記実施の形態では、マスク本体50が、電気抵抗溶接法により、連続した点状の固定部81で枠体40に対して固定されている場合について説明したが、マスク本体50は、レーザ溶接などの他の溶接方法により固定されていてもよい。また、マスク本体50は、耐熱セラミックス系接着剤あるいは耐熱エポキシ樹脂接着剤などの温度変化に対する安定性の高い接着剤により枠体40に対して固定されていてもよく、また、ビスなどの締結具により枠体40に対して固定されていてもよい。
【0043】
更にまた、例えば、上記実施の形態において説明した各層の材料および厚み、または成膜方法および成膜条件などは限定されるものではなく、他の材料および厚みとしてもよく、または他の成膜方法および成膜条件としてもよい。
【0044】
加えてまた、上記実施の形態では、有機発光素子10R,10G,10Bの構成を具体的に挙げて説明したが、全ての層を備える必要はなく、また、他の層を更に備えていてもよい。
【0045】
更にまた、上記実施の形態では、本発明の蒸着用マスクを有機発光素子10R,10G,10Bを備えた表示装置の有機層15の形成に適用した場合について説明したが、本発明は、半導体製造プロセスなどにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る蒸着用マスクを用いて製造される表示装置の構成を表す図である。
【図2】図1に示した画素駆動回路の一例を表す等価回路図である。
【図3】図1に示した表示領域の構成を表す断面図である。
【図4】図1に示した表示領域の構成を表す平面図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る蒸着用マスクを分解して表す斜視図である。
【図6】図4に示した通過孔の拡大平面図である。
【図7】図5に示した蒸着用マスクの構成を表す断面図である。
【図8】図7に示した間隙保持部の一例を表す平面図である。
【図9】間隙保持部の他の例を表す平面図である。
【図10】図7に示した枠体を段差部の側から見た構成を表す平面図である。
【図11】図5に示した蒸着用マスクの洗浄工程を説明するための図である。
【図12】従来の蒸着用マスクの問題点を説明するための断面図である。
【図13】本発明の第2の実施の形態に係る蒸着用マスクの構成を表す断面図である。
【符号の説明】
【0047】
10R,10G,10B…有機発光素子、11…駆動用基板、13…第1電極(陽極)、14…絶縁膜、15…有機層、16…第2電極(陰極)、20…接着層、31…封止用基板、40…枠体、41…開口、42…段差部、43…間隙保持部、44…重なり領域、45…貫通孔、50…マスク本体、60…パターン領域、61…通過孔、70…分離領域、80…周縁部、81…固定部、91A…洗浄液、92A…リンス液
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有する枠体と、
金属薄膜により構成され、前記開口に対応する位置に、蒸着材料通過用に配列された複数の通過孔からなる少なくとも1のパターン領域を有し、前記パターン領域の周縁部において前記枠体に対して固定し張設されるマスク本体と
を備え、
前記枠体および前記マスク本体の少なくとも一方は、
前記枠体および前記マスク本体の他方と対向する面に、前記開口に沿って形成された段差部と、
前記段差部により前記枠体および前記マスク本体の間に形成された隙間に点在する、前記段差部と同じ高さの間隙保持部と
を備えた蒸着用マスク。
【請求項2】
前記枠体は、前記隙間と、前記マスク本体との対向面以外の面とを連通させる貫通孔を有する
請求項1記載の蒸着用マスク。
【請求項3】
前記段差部および前記間隙保持部は、前記枠体に形成されている
請求項1または2記載の蒸着用マスク。
【請求項4】
前記段差部および前記間隙保持部は、前記マスク本体に形成されている
請求項1または2記載の蒸着用マスク。
【請求項5】
前記パターン領域は、基板に第1電極、発光層を含む有機層および第2電極が順に積層された有機発光素子を用いた表示装置の前記有機層を形成するために用いられるものであり、前記段差部は、少なくとも、前記枠体または前記マスク本体と前記基板との重なり領域に形成されている
請求項1記載の蒸着用マスク。
【請求項1】
開口を有する枠体と、
金属薄膜により構成され、前記開口に対応する位置に、蒸着材料通過用に配列された複数の通過孔からなる少なくとも1のパターン領域を有し、前記パターン領域の周縁部において前記枠体に対して固定し張設されるマスク本体と
を備え、
前記枠体および前記マスク本体の少なくとも一方は、
前記枠体および前記マスク本体の他方と対向する面に、前記開口に沿って形成された段差部と、
前記段差部により前記枠体および前記マスク本体の間に形成された隙間に点在する、前記段差部と同じ高さの間隙保持部と
を備えた蒸着用マスク。
【請求項2】
前記枠体は、前記隙間と、前記マスク本体との対向面以外の面とを連通させる貫通孔を有する
請求項1記載の蒸着用マスク。
【請求項3】
前記段差部および前記間隙保持部は、前記枠体に形成されている
請求項1または2記載の蒸着用マスク。
【請求項4】
前記段差部および前記間隙保持部は、前記マスク本体に形成されている
請求項1または2記載の蒸着用マスク。
【請求項5】
前記パターン領域は、基板に第1電極、発光層を含む有機層および第2電極が順に積層された有機発光素子を用いた表示装置の前記有機層を形成するために用いられるものであり、前記段差部は、少なくとも、前記枠体または前記マスク本体と前記基板との重なり領域に形成されている
請求項1記載の蒸着用マスク。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−135269(P2010−135269A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312479(P2008−312479)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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