説明

蒸着用材料とガスバリア性蒸着フィルム

【課題】スプラッシュ現象の発生が抑制できる珪素と珪素酸化物を含有する蒸着用材料と、それを用いて加熱蒸着により成膜されたガスバリア性に優れたガスバリア性蒸着フィルムを提供すること。
【解決手段】珪素と珪素酸化物とを混合させた加熱方式の蒸着用材料であって、珪素と酸素の原子数の比(O/Si)が1.2〜1.8であり、嵩密度が0.8〜1.8g/cm3の範囲であり、かつ、前記珪素酸化物が結晶構造を少なくとも20%以上含んでいる二酸化珪素であることを特徴とする蒸着用材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着用材料とガスバリア性蒸着フィルムに関するものである。
【0002】
ガスバリア性蒸着フィルムは、太陽電池のバックシート、食品や医薬品等の包装分野、あるいは非包装分野で酸素および水蒸気を遮断する必要がある部材の分野に広く用いられている。
【背景技術】
【0003】
ハードディスクや半導体モジュールなどの精密電子部品類、あるいは、食品や医薬品類の包装に用いられる包装材料は、内容物を保護することが必要である。特に、食品包装においては蛋白質や油脂などの酸化や変質を抑制し、味や鮮度を保持することが必要である。
【0004】
また無菌状態での取扱いが必要とされる医薬品類においては有効成分の変質を抑制し、効能を維持すること、さらに、精密電子部品類においては金属部分の腐食、絶縁不良などを防止するために、包装材料を透過する酸素や水蒸気、その他内容物を変質させる気体を遮断するガスバリア性を備える包装体が求められている。
【0005】
そのため、従来から温度、湿度などに影響されないアルミニウムなどの金属箔やアルミニウム蒸着フィルムあるいは、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン‐ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリロニトリル(PAN)などの樹脂フィルムやこれらの樹脂をラミネートまたはコーティングしたプラスチックフィルムなどが好んで用いられてきた。
【0006】
ところが、アルミニウムなどの金属箔やアルミニウム蒸着フィルムを用いた包装材料は、ガスバリア性には優れるが、不透明であるため、包装材料を透過して内容物を識別することが難しいだけではなく、使用後の廃棄の際に不燃物として処理しなければならいない点や金属探知機による異物検査や、電子レンジでの加熱処理ができない点などの欠点を有していた。
【0007】
また、ガスバリア性樹脂フィルムやガスバリア性樹脂をコーティングしたフィルムは、温度依存性が大きく、高いガスバリア性を維持できない。さらに、使用後PVDC(ポリ塩化ビニリデン)やPAN(ポリアクリロニトリル)などは廃棄・焼却の際に有害物質が発生する原因となる可能性などの問題があった。
【0008】
そこで、これらの欠点を克服した包装用材料として、最近では酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化珪素などの無機酸化物を透明な基材フィルム上に蒸着したガスバリア性フィルムが上市されている。
【0009】
これらのガスバリア性蒸着フィルムは透明性および酸素、水蒸気などのガス遮断性を有していることが知られ、金属箔などでは得ることのできない透明性、ガスバリア性の両方を有する包装材料として好適とされており、酸化珪素SiOを蒸着したフィルムでは食品包装用フィルムとして用いられている。また、酸化珪素SiOを蒸着用材料とした加熱方式による蒸着は非常に成膜速度が速く、生産性が高い。
【0010】
しかし、ここで用いられている蒸着用材料の酸化珪素のSiO(0<x<2)は、珪素と二酸化珪素を原料として真空蒸着により製造されるため、次に示すような欠点を有し
ている。
【0011】
真空蒸着法により製造する蒸着用材料の酸化珪素SiO(0<x<2)は大量生産に適した製造方法ではないため、材料費が高く、製造コストが高くなるという問題がある。また、この蒸着用材料の酸化珪素SiO(0<x<2)は真密度に近い密度を有し、非常に緻密な構造になっている。
【0012】
そのため、この蒸着用材料を蒸発させてバリアフィルムを製造した場合には、蒸着の際の加熱による熱衝撃や内部から発生するガスの圧力により、気化していない蒸着用材料が高温の粒子として飛散するスプラッシュという現象が発生するという問題がある。
【0013】
高温の粒子が高分子フィルム上に到達した際には、ピンホールや異物が生じ、バリア性の低下および外観不良となる。さらに、上記記載の加熱方式、特に電子銃による加熱は、より大きい熱衝撃を蒸着用材料が受けることで上記のスプラッシュと異物の発生がより顕著に現れる。
【0014】
これに対して珪素と二酸化珪素からなる混合蒸着用材料は、比較的安価であるが、加熱時に一酸化珪素よりも蒸気圧が高いために蒸発しにくく、さらに溶融型の蒸着用材料であるため、より大きい熱衝撃が必要となり、蒸着用材料が飛散してスプラッシュが発生しやすい。また、二酸化珪素の分解による酸素ガスの発生で成膜室内の圧力が上昇し、蒸着速度の低下、つまり生産性の低下が起こり、また蒸着膜密度の低下による蒸着膜のバリア性の低下を引き起こす問題もある(特許文献1)。
【0015】
また、特許文献1において、Si100重量部に対してSi酸化物が100〜250重量部と記載されているが、この範囲では珪素と酸素の原子数の比(O/Si)で表すと0.6〜1.1となり、この状態でもスプラッシュの発生を押させることは十分とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特許第3191321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、以上の従来技術の問題を解決しようとするものであり、スプラッシュ現象の発生が抑制できる珪素と珪素酸化物を含有する蒸着用材料と、それを用いて加熱蒸着により成膜されたガスバリア性に優れたガスバリア性蒸着フィルムを提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、珪素と珪素酸化物とを混合させた加熱方式の蒸着用材料であって、珪素と酸素の原子数の比(O/Si)が1.2〜2.0であり、嵩密度が0.6〜2.0g/cmの範囲であり、かつ、前記珪素酸化物が結晶構造を少なくとも20%以上含んでいる二酸化珪素であることを特徴とする蒸着用材料である。
【0019】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の蒸着用材料とインジウムまたは酸化インジウムあるいはそれらを含む化合物を、混合させた加熱方式の蒸着用材料であって、使用する珪素と珪素酸化物の合計の重量に対し、酸化インジウムまたは酸化インジウムあるいはそれらを含む化合物の割合が1〜50重量%であり、嵩密度が0.8〜1.8g/cmの範囲であり、かつ、珪素酸化物が結晶構造を少なくとも20%以上含んでいる二
酸化珪素であることを特徴とする蒸着用材料である。
【0020】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の蒸着用材料を、加熱方式で蒸発させて蒸着した蒸着膜の珪素と酸素の原子数の比(O/Si)が、1.5〜2.0であることを特徴とするガスバリア性蒸着フィルムである。
【0021】
また、請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の蒸着用材料を、加熱方式で蒸発させて蒸着した蒸着膜の珪素と酸素の原子数の比(O/Si)が1.5〜2.1であることを特徴とするガスバリア性蒸着フィルムである。
【0022】
また、請求項5に記載の発明は、前記加熱方式が電子ビーム加熱方式であることを特徴とする請求項3または4に記載のガスバリア性蒸着フィルムである。
【0023】
また、請求項6に記載の発明は、引っ張り強度が3.0%以上であることを特徴とする請求項3から5のいずれか一項に記載のガスバリア性蒸着フィルムである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の蒸着用材料によれば、生産性向上のために高い出力での電子ビーム加熱蒸着法を利用した場合でもスプラッシュ現象を抑制でき、高いガスバリア性および引っ張り強度のガスバリア性蒸着フィルムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のガスバリア性蒸着フィルムの一例を説明する断面図である。
【図2】本発明のガスバリア性蒸着フィルムの一例を製造する装置の模式的な説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下本発明を実施するための形態を、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明のガスバリア性蒸着フィルム8を説明する断面図である。ガスバリア性蒸着フィルム8は、高分子フィルム基材1の上に珪素(Si)と珪素酸化物(SiO)、あるいは、これらとインジウム(In)または酸化インジウム(In)あるいはそれらを含むITO(In−SnO)などの化合物の混合物を蒸着したものからなる無機酸化物膜2を、真空蒸着方式によって高分子フィルム基材1上に設けたものである。このようにすることがガスバリア性能や均一性の観点から好ましい。
【0027】
成膜手段としては、真空蒸着方式のうち、電子ビームやレーザービーム等による加熱蒸着法が好ましく用いられ、特に電子ビーム加熱蒸着法が、成膜速度や無機酸化物である蒸着用材料5への昇温降温が短時間で行える点で有効である。
【0028】
また、前記珪素酸化物(SiO)は結晶構造を少なくとも20%以上含んでいる二酸化珪素(SiO)である。このために、電子ビームによって二酸化珪素から、酸素ガスを脱離させ、この酸素ガスを、珪素と、あるいはインジウムまたは酸化インジウムあるいはそれらを含む化合物と反応させることができる。また、上記無機酸化物膜2は高分子フィルム基材1の両面に形成しても、多層にしても、表裏で異なる組成の無機酸化物膜2としてもよい。
【0029】
高分子フィルム基材1は、特に制限を受けるものではなく公知のものを使用することができる。例えば、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系(ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート等)、ポリアミド系(ナイロン―6、ナイロン―66等)、ポリスチレン、エチレンビニルアルコール、ポリ塩化ビ
ニル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリカーボネイト、ポリエーテルスルホン、アクリル、セルロース系(トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース等)などの高分子のフィルム基材が挙げられるが、特に限定されない。
【0030】
高分子フィルム基材1として、透明フィルムを用いることは、大量生産に適するため好ましい。また、厚さに関しては、特に制限を受けるものではなく、ガスバリア性蒸着フィルムを形成する蒸着加工などの加工性を考慮すると、実用的には12〜188μmの厚み範囲が好ましい。
【0031】
蒸発した珪素と二酸化珪素からなる蒸着用材料5によって高分子フィルム基材1の表面上に形成される無機酸化物膜2の厚さは、一般的には5〜300nmの範囲内が望ましく、その値は適宜選択される。
【0032】
ただし、その厚さが5nm未満であると均一な膜が得られないことや膜厚が十分ではないことがあり、十分なバリア性能を発揮できない場合がある。また、膜厚が300nmを超える場合は、膜にフレキシビリティを保持させることができず、成膜後に折り曲げ、引っ張りなどの外的要因により、無機酸化物膜2に亀裂が生じる恐れがある。
【0033】
本発明で蒸着用材料5として使用される珪素と珪素酸化物、およびインジウムまたは酸化インジウムあるいはそれらを含む化合物からなる混合材料は、特定の珪素と酸素の原子数の比(O/Si)、珪素と珪素酸化物の合計の重量に対して混合するインジウムまたは酸化インジウムあるいはそれらを含む化合物の重量、および、嵩密度を管理することで、電子ビームによる熱衝撃に対して破壊されにくく、即ち、耐熱衝撃性が向上し、スプラッシュ現象を抑制するものである。
【0034】
そして、電子ビーム加熱による蒸着の際には、嵩密度を管理することで、緻密構造にならないようにして熱伝導性を低くすることと、低い熱伝導性を持つ二酸化珪素を混合したことにより、電子ビーム加熱による急激な温度上昇による突沸の発生を抑制し、スプラッシュ現象を低減させたものである。
【0035】
また、二酸化珪素が加熱されると酸素ガスが脱離し、加熱された珪素も二酸化珪素から発生した酸素ガスが近傍にあるため、突沸することなく酸化反応しSiO蒸気となる。また、インジウムを主とする化合物もInO蒸気となることで、高分子基材フィルム上にSiO・InO複合膜を形成できる。また、蒸着材料の表層には溶融した二酸化珪素が残ることでスプラッシュを抑制していると考えられる。
【0036】
本発明の珪素と珪素酸化物を混合させた蒸着用材料5に関して、その酸素と珪素の原子数の比(O/Si)は1.2〜2.0が望ましく、さらにスプラッシュレスなプロセスには1.2〜1.8がより好ましい。引用文献1の記載範囲となるO/Siが1.1以下では、スプラッシュにより、高分子フィルム基材1上に形成された無機酸化物膜2にピンホールおよび外観不良が発生し、O/Siが2.0以上では、無機酸化物膜2の組成が二酸化珪素(SiO)に近づくことにより、バリア劣化が生じる。
【0037】
また、混合蒸着用材料5の嵩密度は0.6〜2.0g/cmが好ましく、さらには0.8〜1.8g/cmの範囲が好ましい。混合蒸着用材料5の嵩密度が0.6g/cm以下では、蒸着用材料5の割れや飛散が発生し易く、嵩密度が2.0以上では、材料の蒸発に必要なエネルギーがより必要となるため、高分子フィルムへの熱負荷が大きくなり、また蒸発レートが低くなり、蒸着速度の低下、つまり生産性が低下する。
【0038】
ここで用いる珪素酸化物は、少なくとも20%はX線的に結晶構造を有している二酸化
珪素を使用することが望ましい。二酸化珪素の結晶部分と非晶部分の測定には、X線回折装置(XRD)を用いて、それぞれのピークを分離し、積分強度の比から結晶化度を求めた。結晶化度20%以下、つまり結晶構造20%以下の二酸化珪素を使用すると、蒸着用材料の蒸発レートおよび蒸着膜のバリア性が劣る。
【0039】
さらに、珪素と珪素酸化物からなる蒸着用材料はそれぞれ同程度の粒径を用いると混ざりやすく、1μm〜100μmの粉末を用いることで蒸着用材料の昇温プロセスが簡易になる。これは、金属である珪素が蒸着用材料に均一に混合されることで、材料が温まり易く電子ビームのデフォーカスが起こりにくいためと考えられる。
【0040】
また、本発明の珪素と珪素酸化物に、それらの合計の重量に対してインジウムまたは酸化インジウムあるいはそれらを含む化合物の割合が1〜50重量%が望ましく、さらに安定した材料の蒸発には1〜30重量%が好ましい。1重量%以下では、蒸着用材料5に含まれるInOが少ないため、無機酸化物膜2に十分にInOを混入させることができない。また、50重量%を超えると、低融点であるIn由来の突沸によるスプラッシュが発生および蒸発レートの低下により、蒸着膜のバリアが低下する。
【0041】
さらに混合した蒸着用材料5の嵩密度は0.8〜1.8g/cmの範囲が望ましく、嵩密度が低いと蒸着用材料5の飛散によるスプラッシュが発生し易くなり、嵩密度が高過ぎると蒸発しにくく、材料表面に残存する溶融型の材料が蒸発の妨げになり、蒸着速度の低下を招く。
【0042】
また、本発明ガスバリア性蒸着フィルム8は、珪素と珪素酸化物の合計の重量に対し、インジウムまたは酸化インジウムあるいはそれらを含む化合物の割合が1〜30重量%にすることと、特定の嵩密度にすることで、従来の蒸着用材料5に比べスプラッシュ現象を生じさせることなく、高いバリア性を有する透明ガスバリア性蒸着フィルムを得ることができる。
【0043】
図2は、本発明のガスバリア性蒸着フィルム8の一例を製造する装置の模式的な説明図である。具体的には電子ビーム加熱方式による真空蒸着装置の蒸着室の内部にあって、上方に、成膜ロール3があり、この成膜ロール3に高分子フィルム基材1を抱かせて走行させて、下方の坩堝6から蒸着用材料5を加熱蒸発させて、高分子フィルム基材1の表面に無機酸化物膜2を形成させるものである。
【0044】
坩堝6は蒸着用材料移動台車7の上に設置され、電子銃(図示していない)から放出する電子ビーム4が坩堝6の上方より照射され、坩堝6中の蒸着用材料5に照射され、加熱蒸発される。また、蒸着用材料5の同一位置にのみ、電子ビーム4が照射されないように、電子ビーム4を走査させたり、蒸着用材料移動台車7を移動させたりするようになっている。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明の実施例を具体的に説明する。
<実施例1>
珪素(Si)には50μm以下の径を有する粉末が95%以上のものを使用し、二酸化珪素(SiO)には結晶構造を95%含み、50μm以下の径を有する粉末が95%以上のものを使用した。まず、酸素の原子数と珪素の原子数の比(O/Si)を1.5となるように混合した珪素と二酸化珪素からなる混合蒸着用材料5を作製した。この混合蒸着用材料5を嵩密度が1.0g/cmとなるようにプレス成型した。
【0046】
電子ビーム加熱方式の真空蒸着装置で、電子銃から放出する電子ビーム4を混合蒸着用
材料5に照射し蒸発させ、無機酸化物膜2が30nmとなるよう成膜ロール3のスピードを調整し、高分子フィルム基材1上に成膜し、ガスバリア性蒸着フィルム8を作製した。<実施例2>
実施例1で作製した珪素(Si)と酸化珪素(SiO)混合蒸着用材料5の合計の重量に対して酸化インジウム(In)を10重量%加えた。酸化インジウムには50μm以下の径を有する粉末が95%以上のものを用いこれを実施例1と同様に嵩密度を1.0g/cmとなるようにプレス成型した後、同様に電子ビーム加熱方式の蒸着装置で酸化ケイ素・酸化インジウム複合膜からなる無機酸化物膜2を高分子フィルム基材1上に成膜し、ガスバリア性蒸着フィルム8を作製した。
【0047】
以下に本発明の比較例について説明する。
<比較例1>
真空蒸着法による蒸着用材料5の粉末一酸化珪素(SiO)を使用し、これを実施例1と同様に嵩密度を1.0g/cmにプレス成型した後、同様に電子ビーム加熱方式の蒸着装置で酸化珪素からなる無機酸化物膜2を高分子フィルム基材1上に成膜し、ガスバリア性蒸着フィルム8を作製した。
<比較例2>
実施例1と同様の珪素と二酸化珪素粉末を用いて、その酸素の原子数と珪素の原子数の比(O/Si)が1.0となるように混合した。これを実施例1と同様に嵩密度を1.0g/cmにプレス成型した後、同様に電子ビーム加熱方式の蒸着装置で酸化珪素膜からなる無機酸化物膜2を高分子フィルム基材1上に成膜し、ガスバリア性蒸着フィルム8を作製した。
<比較例3>
実施例1と同様の珪素と二酸化珪素粉末を用いて、その酸素の原子数と珪素の原子数の比(O/Si)が1.5となるように混合した。これを実施例1と同様に嵩密度を2.0g/cmにプレス成型した後、同様に電子ビーム加熱方式の蒸着装置で酸化珪素膜からなる無機酸化物膜2を高分子フィルム基材1上に成膜し、ガスバリア性蒸着フィルム8を作製した。
<比較例4>
実施例1と同様の珪素と二酸化珪素粉末を用いて、その酸素の原子数と珪素の原子数の比(O/Si)が1.5となるように混合した。さらに、この混合材料の合計の重量に対して、酸化インジウム(In)を50重量%混合した。これを実施例1と同様に嵩密度を1.0g/cmにプレス成型した後、同様に電子ビーム加熱方式の蒸着装置で酸化珪素膜からなる無機酸化物膜2を高分子フィルム基材1上に成膜し、ガスバリア性蒸着フィルム8を作製した。
【0048】
実施例1、2および、比較例1から4のガスバリア性蒸着フィルム8について、以下の方法で、スプラッシュの発生をチェックし、また、水蒸気透過率と、引っ張り強度を測定評価した。また、混合蒸着用材料5を蒸発させて蒸着した無機酸化物膜2の珪素と酸素の原子数の比(O/Si)を測定した。その結果を表1にまとめた。
<スプラッシュ>
実施例1、2、および比較例1から4のガスバリア性蒸着フィルム500mm幅100m長について、目視によって、スプラッシュによるピンホールや異物がないかを調べた。スプラッシュによるピンホールや異物がない場合を○とし、スプラッシュによるピンホールや異物が1から10個までを△とし、スプラッシュによるピンホールや異物が11個以上あるものを×とした。
<水蒸気透過率>
実施例1、2および比較例1から4のガスバリア性蒸着フィルム8の水蒸気透過率を水蒸気透過度測定装置(モダンコントロール社製 MOCON PERMATRAN 3/21)を用いて40℃90%RHの雰囲気で測定した。
<引っ張り強度>
実施例1、2および比較例1から4のガスバリア性蒸着フィルム8を引っ張り試験機で、引っ張り速度6μm/secで引張ったときの無機酸化物膜2を光学顕微鏡で観察し、最初にクラックの入ったときの伸び率を引っ張り強度[%]として測定した。
<蒸着膜のO/Si>
実施例1、2および比較例1から4のガスバリア性蒸着フィルム8の蒸着膜の珪素と酸素の原子数の比(O/Si)を以下の方法で測定した。サンプリング方法:無機酸化物膜2が形成された高分子フィルム基材1を10mm×10mm角に切り取った。
【0049】
測定器と測定方法:X線光電子分光装置(ESCA)により、無機酸化物膜2の組成分析を行った。Arイオンで蒸着膜の深さ方向に組成分析を3回以上繰り返し、その平均を求め、珪素と酸素の原子数の比(O/Si)を算出した。
【表1】

<比較結果>
表1から、比較例3からはスプラッシュの発生が確認されたのに対し、その他の実施例1および2からはスプラッシュが発生はなかった。これは、蒸着用材料5の酸素と原子数と珪素の原子数の比(O/Si)によってスプラッシュが抑制されていることを意味する。比較例3からスプラッシュが確認されたのは、ビームが入りにくく表面の溶融型の材料が突沸したためと考えられる。また、バリア性が劣化した原因として、成膜速度が遅く、高分子フィルム基材1上に熱負荷がかかったためと考えられる。
【0050】
さらに、実施例2より酸化インジウムを実施例1の蒸着用材料5に加えることで顕著な水蒸気バリア性の向上がみられる。珪素と二酸化珪素の混合蒸着用材料5からなる無機酸化物膜2や、一酸化珪素の蒸着用材料5からなる無機酸化物膜2の水蒸気透過率が概ね2〜3g/m・dayなのに対し、実施例2の酸化インジウムを加えた混合蒸着用材料5からなる無機酸化物膜2ではSiOとInOの複合膜となることで1g/m・dayを切る水蒸気透過率が得られており、水蒸気バリア性が向上したと考えられる。これに対し、過剰に酸化インジウムを加えた比較例4の蒸着膜では、バリア性が大きく劣化する。
【0051】
また、引っ張り強度に関しても、無機酸化物膜2の酸素の原子数と珪素の原子数の比(O/Si)と相関があり、O/Si=1.5以上で無機酸化物膜2の初期クラック発生は3%以上となる。実施例1〜2では、酸素の原子数と珪素の原子数の比(O/Si)が1.7を超えているため、引っ張り強度が3%以上となった。これに対し比較例1、2および4では、酸素の原子数と珪素の原子数の比(O/Si)が1.5未満であり、十分な引っ張り強度が得られず3%以下の引っ張り強度となった。
【符号の説明】
【0052】
1・・・高分子フィルム基材
2・・・無機酸化物膜
3・・・成膜ロール
4・・・電子ビーム
5・・・蒸着用材料
6・・・坩堝
7・・・蒸着用材料移動台車
8・・・ガスバリア性蒸着フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素と珪素酸化物とを混合させた加熱方式の蒸着用材料であって、珪素と酸素の原子数の比(O/Si)が1.2〜2.0であり、嵩密度が0.6〜2.0g/cmの範囲であり、かつ、前記珪素酸化物が結晶構造を少なくとも20%以上含んでいる二酸化珪素であることを特徴とする蒸着用材料。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸着用材料とインジウムまたは酸化インジウムあるいはそれらを含む化合物を、混合させた加熱方式の蒸着用材料であって、使用する珪素と珪素酸化物の合計の重量に対し、酸化インジウムまたは酸化インジウムあるいはそれらを含む化合物の割合が1〜50重量%であり、嵩密度が0.8〜1.8g/cmの範囲であり、かつ、珪素酸化物が結晶構造を少なくとも20%以上含んでいる二酸化珪素であることを特徴とする蒸着用材料。
【請求項3】
請求項1に記載の蒸着用材料を、加熱方式で蒸発させて蒸着した蒸着膜の珪素と酸素の原子数の比(O/Si)が、1.5〜2.0であることを特徴とするガスバリア性蒸着フィルム。
【請求項4】
請求項2に記載の蒸着用材料を、加熱方式で蒸発させて蒸着した蒸着膜の珪素と酸素の原子数の比(O/Si)が1.5〜2.1であることを特徴とするガスバリア性蒸着フィルム。
【請求項5】
前記加熱方式が電子ビーム加熱方式であることを特徴とする請求項3または4に記載のガスバリア性蒸着フィルム。
【請求項6】
引っ張り強度が3.0%以上であることを特徴とする請求項3から5のいずれか一項に記載のガスバリア性蒸着フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−136734(P2012−136734A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289664(P2010−289664)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】