説明

蒸着装置

【課題】蒸気発生部で発生させた成膜材料の蒸気を温度低下させること無く蒸着ヘッドに送ることができる蒸着装置を提供する。
【解決手段】蒸着により被処理体Gを成膜処理する蒸着装置13であって、被処理体Gを成膜処理する処理室30と、成膜材料を蒸発させる蒸気発生室31とを隣接させて配置し、処理室30の内部と蒸気発生室31の内部を減圧させる排気機構36,41と、処理室30の内部に成膜材料の蒸気を供給する蒸着ユニット55〜60とを設け、蒸着ユニット55〜60は、処理室30の内部に向けて成膜材料の蒸気を噴出させる蒸気噴出口80と、蒸気発生室31に、成膜材料を蒸発させる蒸気発生部70〜72と、成膜材料の蒸気の供給を制御する制御弁75〜77と、蒸気発生部70〜72で発生させた成膜材料の蒸気を、処理室30と蒸気発生室31の外部に出さずに、蒸気噴出口80に供給させる流路81〜83、85とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着により被処理体を成膜処理する蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロルミネッセンス(EL;ELectroluminescence)を利用した有機EL素子が開発されている。有機EL素子は、熱をほとんど出さないのでブラウン管などに比べて消費電力が小さく、また、自発光なので、液晶ディスプレー(LCD)などに比べて視野角に優れている等の利点があり、今後の発展が期待されている。
【0003】
この有機EL素子のもっとも基本的な構造は、ガラス基板上にアノード(陽極)層、発光層およびカソード(陰極)層を重ねて形成したサンドイッチ構造である。発光層の光を外に取り出すために、ガラス基板上のアノード層には、ITO(Indium Tin Oxide)からなる透明電極が用いられる。かかる有機EL素子は、表面にITO層(アノード層)が予め形成されたガラス基板上に、発光層とカソード層を順に成膜することによって製造されるのが一般的である。
【0004】
以上のような有機EL素子の発光層を成膜させる装置としては、例えば特許文献1に示す真空蒸着装置が知られている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−282219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、有機EL素子の発光層を成膜させる工程では、処理容器内を所定の圧力まで減圧させることが行われる。その理由は、上記のように有機EL素子の発光層を成膜させる場合、蒸着ヘッドから200℃〜500℃程度の高温にした成膜材料の蒸気を供給して、基板表面に成膜材料を蒸着させるのであるが、仮に大気中で成膜処理すると、気化させた成膜材料の蒸気の熱が処理容器内の空気を伝わることにより、処理室内に配置された各種センサ等の部品を高温にさせ、それら部品の特性を悪化させたり、部品自体の破損を招いてしまうからである。そこで、有機EL素子の発光層を成膜させる工程では、処理容器内を所定の圧力まで減圧させ、成膜材料の蒸気の熱が逃げないように維持している(真空断熱)。
【0007】
一方、成膜材料を蒸発させる蒸気発生部や、蒸気発生部で発生させた成膜材料の蒸気を蒸着ヘッドに送る配管、成膜材料の蒸気の供給を制御する制御弁などは、成膜材料の補充、メンテナンス等の理由から、処理容器の外部に置かれるのが一般的である。しかしながら、仮にこれら蒸気発生部、配管、制御弁などを大気圧下に配置した場合、空気中を通じて放熱することにより、蒸気発生部で発生させた成膜材料の蒸気を、蒸着ヘッドに送るまでの間、所望の温度に保ちにくいといった問題を生じる。例えば、蒸着ヘッドに送るまでの間に、成膜材料の蒸気が設定温度以下となると、成膜材料が配管中などで析出し、蒸着ヘッドに十分に送られなくなってしまう。そのため、蒸着ヘッドからの蒸気の供給量が減少し、蒸着速度が低下してしまう。
【0008】
従って本発明の目的は、蒸気発生部で発生させた成膜材料の蒸気を温度低下させること無く蒸着ヘッドに送ることができる蒸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、蒸着により被処理体を成膜処理する蒸着装置であって、被処理体を成膜処理する処理室と、成膜材料を蒸発させる蒸気発生室とを隣接させて配置し、前記処理室の内部と前記蒸気発生室の内部を減圧させる排気機構と、前記処理室の内部に成膜材料の蒸気を供給する蒸着ユニットとを設け、前記蒸着ユニットは、前記処理室の内部に向けて蒸気を噴出する蒸気噴出口と、前記蒸気発生室に成膜材料を蒸発させる蒸気発生部と、成膜材料の蒸気の供給を制御する制御弁と、前記蒸気発生部で発生させた成膜材料の蒸気を、前記処理室と前記蒸気発生室の外部に出さずに、前記蒸気噴出口に供給させる流路とを備えることを特徴とする、蒸着装置が提供される。
【0010】
前記蒸着ユニットは、前記蒸気噴出口が任意の面に形成された蒸着ヘッドを有し、前記蒸着ヘッドの前記蒸気噴出口が形成された面を前記処理室内に露出させた姿勢で、前記蒸着ヘッドを、前記処理室と前記蒸気発生室とを仕切る隔壁に支持した構成としても良い。その場合、前記隔壁の少なくとも一部を断熱材とすると良い。また、前記蒸気発生部と前記制御弁を、前記蒸着ヘッドに支持させても良い。
【0011】
また、前記蒸気発生部で蒸発させた成膜材料の蒸気を前記蒸気噴出口に供給させるためのキャリアガスを、前記蒸気発生部に供給するキャリアガス供給配管を有していても良い。この場合、前記蒸気発生部は、全体を一体的に加熱可能なヒータブロックを有し、前記ヒータブロックの内部に、成膜材料を充填可能な材料容器と、前記キャリアガス供給配管から供給されたキャリアガスを前記材料容器に通すキャリアガス経路を配置しても良い。
【0012】
前記成膜材料は、例えば、有機EL素子の発光層の成膜材料である。また、前記制御弁は、例えば、ベローズ弁またはダイアフラム弁である。また、前記排気機構は、前記処理室と前記蒸気発生室にそれぞれ設けられていても良い。また、前記蒸気発生部で発生させた成膜材料の蒸気を前記蒸着ヘッドに供給する輸送路が設けられ、前記輸送路には、複数の蒸気発生部が取り付けられていても良い。また、前記流路にはヒータを備えなくても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、蒸気発生部で発生させた成膜材料の蒸気を、処理室と蒸気発生室の外部に出さずに、蒸気噴出口に供給させることにより、真空断熱の状態で成膜材料の蒸気を温度低下させること無く蒸着ヘッドに送ることができる。このため、配管中などにおける成膜材料の析出を防止でき、蒸着ヘッドからの蒸気の供給量が安定し、蒸着速度の低下が回避される。
【0014】
また、蒸着ヘッドに蒸気発生部と制御弁を支持させた一体的な構造とすれば、蒸着ユニットがコンパクトになり、処理室と蒸気発生室の内部の真空断熱により、蒸着ユニット全体の温度制御性、温度均一性が向上する。蒸着ヘッドに蒸気発生部と制御弁を一体化させることにより、各部の継目が無くなり、温度低下が緩和される。また、蒸着ユニットを一体的に取り出すことにより、メンテナンスも容易になる。更に、蒸気発生部を一体的に加熱可能なヒータブロックとし、このヒータブロックの内部に材料容器とキャリアガス経路を配置すれば、キャリアガスのプリヒートのためのヒータも省略でき、全体の省スペース化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照にして説明する。以下の実施の形態では、蒸着処理の一例として、被処理体としてのガラス基板G上にアノード(陽極)層1、発光層3およびカソード(陰極)層2を成膜して有機EL素子Aを製造する処理システム10を例にして具体的に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
先ず、図1は、本発明の実施の形態において製造される有機EL素子Aの説明図である。有機EL素子Aのもっとも基本となる構造は、陽極1と陰極2との間に発光層3を挟んだサンドイッチ構造である。陽極1はガラス基板G上に形成されている。陽極1には、発光層3の光を透過させることが可能な、例えばITO(Indium Tin Oxide)からなる透明電極が用いられる。
【0017】
発光層3である有機層は一層から多層のものまであるが、図1では、第1層a1〜第6層a6を積層した6層構成である。第1層a1はホール輸送層、第2層a2は非発光層(電子ブロック層)、第3層a3は青発光層、第4層a4は赤発光層、第5層a5は緑発光層、第6層a6は電子輸送層である。かかる有機EL素子Aは、後述するように、ガラス基板G表面の陽極1の上に、発光層3(第1層a1〜第6層a6)を順次成膜し、仕事関数調整層(図示せず)を介在させた後、Ag、Mg/Ag合金などの陰極2を形成し、最後に、全体を窒化膜(図示せず)などで封止して、製造される。
【0018】
図2は、有機EL素子Aを製造するための成膜システム10の説明図である。この成膜システム10は、基板Gの搬送方向(図2において右向き)に沿って、ローダ11、トランスファーチャンバ12、発光層3の蒸着装置13、トランスファーチャンバ14、仕事関数調整層の成膜装置15、トランスファーチャンバ16、エッチング装置17、トランスファーチャンバ18、スパッタリング装置19、トランスファーチャンバ20、CVD装置21、トランスファーチャンバ22、アンローダ23を直列に順に並べた構成である。ローダ11は、基板Gを成膜システム10内に搬入するための装置である。トランスファーチャンバ12、14、16、18、20、22は、各処理装置間で基板Gを受け渡しするための装置である。アンローダ23は、基板Gを成膜システム10外に搬出するための装置である。
【0019】
ここで、本発明の実施の形態にかかる蒸着装置13について、更に詳細に説明する。図3は、蒸着装置13の構成を概略的に示した断面図、図4は、蒸着装置13が備える蒸着ユニット55(56,57,58,59,60)の斜視図、図5は、蒸着ユニット55(56,57,58,59,60)の回路図、図6は、蒸気発生部70,71,72の斜視図である。
【0020】
この蒸着装置13は、内部において基板Gを成膜処理するための処理室30と、成膜材料を蒸発させる蒸気発生室31とを上下に隣接させて配置した構成である。これら処理室30と蒸気発生室31は、アルミニウム、ステンレススチール等で構成された容器本体32の内部に形成されており、処理室30と蒸気発生室31の間は、断熱材で構成された隔壁33によって仕切られている。
【0021】
処理室30の底面には、排気孔35が開口しており、排気孔35には、容器本体32の外部に配置された排気機構である真空ポンプ36が、排気管37を介して接続されている。この真空ポンプ36の稼動により、処理室30の内部は所定の圧力に減圧される。
【0022】
同様に、蒸気発生室31の底面には、排気孔40が開口しており、排気孔40には、容器本体32の外部に配置された排気機構である真空ポンプ41が、排気管42を介して接続されている。この真空ポンプ41の稼動により、蒸気発生室31の内部は所定の圧力に減圧される。
【0023】
処理室30の上方には、ガイド部材45と、このガイド部材45に沿って適宜の駆動源(図示せず)によって移動する支持部材46が設けられている。支持部材46には、静電チャックなどの基板保持部47が取り付けられており、成膜対象である基板Gは基板保持部47の下面に水平に保持される。
【0024】
処理室30の側面には、搬入口50と搬出口51が形成されている。この蒸着装置13では、搬入口50から搬入された基板Gが、基板保持部47で保持されて、処理室30内において図3中の右向きに搬送され、搬出口51から搬出される。
【0025】
処理室30と蒸気発生室31の間を仕切っている隔壁33には、成膜材料の蒸気を供給する6個の蒸着ユニット55,56,57,58,59,60が、基板Gの搬送方向に沿って配置されている。これら蒸着ユニット55〜60は、ホール輸送層を蒸着させる第1の蒸着ユニット55、非発光層を蒸着させる第2の蒸着ユニット56、青発光層を蒸着させる第3の蒸着ユニット57、赤発光層を蒸着させる第4の蒸着ユニット58、緑発光層を蒸着させる第5の蒸着ユニット59、電子輸送層を蒸着させる第6の蒸着ユニット60からなり、基板保持部47によって保持されながら搬送されていく基板Gの下面に対して成膜材料の蒸気を順に成膜させるようになっている。また、各蒸着ユニット55〜60の間には、蒸気仕切り壁61が配置されており、各蒸着ユニット55〜60から供給される成膜材料の蒸気が互いに混合せずに、基板Gの下面に順に成膜されるようになっている。
【0026】
各蒸着ユニット55〜60は、いずれも同様の構成を有しているので代表して第1の蒸着ユニット55について説明する。図4に示すように、蒸着ユニット55は、蒸着ヘッド65の下方に配管ケース(輸送路)66を取り付け、この配管ケース66の両側面に、3つの蒸気発生部70,71,72と3つの制御弁75、76,77を取り付けた構成である。
【0027】
蒸着ヘッド65の上面には、有機EL素子Aの発光層3の成膜材料の蒸気を噴出させる蒸気噴出口80が形成されている。蒸気噴出口80は、基板Gの搬送方向に直交する方向に沿ってスリット形状に配置されており、基板Gの幅と同じか僅かに長い長さを有している。このスリット形状の蒸気噴出口80から成膜材料の蒸気を噴出させながら、上述の基板保持部47によって基板Gを搬送することにより、基板Gの下面全体に成膜させるようになっている。
【0028】
蒸着ヘッド65は、蒸気噴出口80が形成された上面を処理室30内に露出させた姿勢で、処理室30と蒸気発生室31とを仕切る隔壁33に支持されている。蒸着ヘッド65の下面は、蒸気発生室31内に露出しており、この蒸着ヘッド65の下面に取り付けられた配管ケース(輸送路)66と、配管ケース66に取り付けられた蒸気発生部70,71,72および制御弁75、76,77がいずれも蒸気発生室31に配置されている。
【0029】
3つの蒸気発生部70,71,72と3つの制御弁75、76,77は互いに対応した関係であり、制御弁75は、蒸気発生部70で発生させた成膜材料の蒸気の供給を制御し、制御弁76は、蒸気発生部71で発生させた成膜材料の蒸気の供給を制御し、制御弁77は、蒸気発生部72で発生させた成膜材料の蒸気の供給を制御するようになっている。配管ケース66の内部には、各蒸気発生部70〜72と各制御弁75〜77を接続する枝配管81,82,83と、各蒸気発生部70〜72から各制御弁75〜77を経て供給された成膜材料の蒸気を、合流させて蒸着ヘッド65に供給する合流配管85が設けられている。
【0030】
各蒸気発生部70〜72は、いずれも同様の構成を有しており、図6に示すように、蒸気発生部70〜72は、側面に複数のヒータ90が取り付けられた、全体を一体的に加熱可能なヒータブロック91を有している。ヒータブロック91全体は、ヒータ90によって、成膜材料を蒸発させることができる温度に加熱される。
【0031】
ヒータブロック91の内部中央には、有機EL素子Aの発光層3の成膜材料(蒸着材料)を充填可能な材料容器92が配置されており、ヒータブロック91の熱によって、この材料容器92に充填された成膜材料が蒸発させられるようになっている。また、ヒータブロック91の側面には、Arなどのキャリアガスを供給するキャリアガス供給配管93が接続されている。ヒータブロック91の内部には、このキャリアガス供給配管93から供給されたキャリアガスを、ヒータブロック91の内部において迂回させ、十分な距離を通過した後、材料容器92に供給させるキャリアガス経路94が形成されている。このため、キャリアガス供給配管93から供給されたキャリアガスは、キャリアガス経路94を通過することにより、ほぼヒータブロック91と同温度にまで昇温されてから、材料容器92に供給されるようになっている。なお、成膜材料を充填する場合、容器本体32の下部に形成されたゲートバルブ等(図示せず)を介して蒸気発生室31内を一旦大気開放し、各蒸気発生部70〜72の材料容器92に対する成膜材料の補充を行う。但し、処理室30と蒸気発生室31は上述の隔壁33によって仕切られているので、このような成膜材料の充填時においても、処理室30内は減圧されており、真空断熱状態が維持される。
【0032】
各制御弁75〜77は、開閉操作を行うことにより、各蒸気発生部70〜72で蒸発させられてキャリアガスと一緒に各枝配管81〜83を経て供給される成膜材料の蒸気を、合流配管85側に供給する状態と、供給しない状態とに適宜切り替えることが可能である。制御弁75〜77には、ベローズ弁、ダイアフラム弁などを用いることができる。この制御弁75〜77の開閉操作によって、各蒸気発生部70〜72で蒸発させられた成膜材料の蒸気が、任意の組み合わせで合流配管85にて合流されるようになっている。そして、こうして合流配管85にて合流された成膜材料の蒸気が、処理室30と蒸気発生室31の外部に出ることなく、そのまま、蒸着ヘッド65上面の蒸気噴出口80から噴出させられるようになっている。なお、代表して第1の蒸着ユニット55について説明したが、他の蒸着ユニット56〜60も同様の構成である。
【0033】
その他、図2に示す仕事関数調整層の成膜装置15は、蒸着によって基板Gの表面に対して仕事関数調整層を成膜するように構成されている。エッチング装置17は、成膜された各層などをエッチングするように構成されている。スパッタリング装置19は、Agなどの電極材料をスパッタリングして、陰極2を形成させるように構成されている。CVD装置21は、窒化膜などからなる封止膜を、CVD等によって成膜し有機EL素子Aの封止を行うものである。
【0034】
さて、以上のように構成された成膜システム10において、ローダ11を介して搬入された基板Gが、トランスファーチャンバ12によって、先ず、蒸着装置13に搬入される。この場合、基板Gの表面には、例えばITOからなる陽極1が所定のパターンで予め形成されている。
【0035】
そして、蒸着装置13では、表面(成膜面)を下に向けた姿勢にして基板保持部47で基板Gが保持される。なお、このように基板Gが蒸着装置13に搬入される前に、蒸着装置13の処理室30と蒸気発生室31の内部は、真空ポンプ36、41の稼動により、いずれも予め所定の圧力に減圧されている。
【0036】
そして、減圧された蒸気発生室31内において、各蒸気発生部70〜72で蒸発させられた成膜材料の蒸気が、制御弁75〜77の開閉操作によって、任意の組み合わせで合流配管85にて合流され、蒸気発生室31の外部に出ることなく、そのまま蒸着ヘッド65に供給される。こうして蒸着ヘッド65に供給された成膜材料の蒸気が、処理室30内において、蒸着ヘッド65上面の蒸気噴出口80から噴出される。
【0037】
また一方、減圧された処理室30内においては、基板保持部47で保持された基板Gが、図3中の右向きに搬送されていく。そして、移動中に、蒸着ヘッド65上面の蒸気噴出口80から成膜材料の蒸気が供給されて、基板Gの表面に発光層3が成膜・積層されていく。
【0038】
そして、蒸着装置13において発光層3を成膜させた基板Gは、トランスファーチャンバ14によって、次に、成膜装置15に搬入される。こうして、成膜装置15では、基板Gの表面に仕事関数調整層が成膜される。
【0039】
次に、トランスファーチャンバ16によって、基板Gはエッチング装置17に搬入され、各成膜の形状等が調整される。次に、トランスファーチャンバ18によって、基板Gはスパッタリング装置19に搬入され、陰極2が形成される。次に、トランスファーチャンバ20によって、基板GはCVD装置21に搬入され、有機EL素子Aの封止が行われる。こうして製造された有機EL素子Aが、トランスファーチャンバ22、アンローダ23を介して、成膜システム10外に搬出される。
【0040】
以上の成膜システム10にあっては、蒸着装置13において、蒸気発生部70〜72で発生させた成膜材料の蒸気を、処理室30と蒸気発生室31の外部に出さずに蒸気噴出口80に供給させることができ、成膜材料の蒸気を真空断熱の状態を維持して温度低下させること無く蒸着ヘッド65に送ることができる。このため、枝配管81,82,83や各制御弁75〜77、合流配管85などにおける成膜材料の析出を防止でき、蒸着ヘッド65からの蒸気の供給量が安定し、蒸着速度の低下が回避される。また、配管ケース66を一体的に加熱することによって、枝配管81,82,83や各制御弁75〜77、合流配管85などを加熱するヒータも省略でき、装置コスト、ランニングコストを低くでき、装置も小型にできる。
【0041】
また、図示のように蒸着ヘッド65の下方に配管ケース66、蒸気発生部70,71,72、制御弁75、76,77を一体的に取り付けた蒸着ユニット55〜60を採用すれば、各蒸着ユニット55〜60をコンパクトに構成できる。また、各蒸着ユニット55〜60をそれぞれ一体的に取り出すことにより、メンテナンスも容易になる。
【0042】
また、図6に示したように、蒸気発生部70,71,72を一体的に加熱可能なヒータブロック91とし、このヒータブロック91の内部に材料容器92とキャリアガス経路94を配置すれば、キャリアガスのプリヒートのためのヒータも省略でき、省スペース化が図れる。
【0043】
以上、本発明の好ましい実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に相到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。例えば、有機EL素子Aの発光層3の蒸着装置13に基づいて説明したが、本発明は、その他の各種電子デバイス等の処理に利用される蒸着装置に適用することができる。
【0044】
処理の対象となる基板Gは、ガラス基板、シリコン基板、角形、丸形等の基板など、各種基板に適用できる。また、基板以外の被処理体にも適用できる。

【0045】
図2では、基板Gの搬送方向に沿って、ローダ11、トランスファーチャンバ12、発光層3の蒸着装置13、トランスファーチャンバ14、仕事関数調整層の成膜装置15、トランスファーチャンバ16、エッチング装置17、トランスファーチャンバ18、スパッタリング装置19、トランスファーチャンバ20、CVD装置21、トランスファーチャンバ22、アンローダ23を直列に順に並べた構成の成膜システム10を示した。しかし、図7に示すように、トランスファーチャンバ100の周囲に、例えば、基板ロードロック装置101、スパッタリング蒸着成膜装置102、アライメント装置103、エッチング装置104、マスクロードロック装置105、CVD装置106、基板反転装置107、蒸着成膜装置108を配置した構成の成膜システム109としても良い。各処理装置の台数・配置は任意に変更可能である。
【0046】
例えば、図8に示すように、トランスファーチャンバ110の周りに6台の処理装置111〜116を設けた処理システム117において本発明を適用することも可能である。なお、この図8に示す処理システム117では、搬入出部118から、2つのロードロック室119を介して、基板Gをトランスファーチャンバ110に搬入出させ、トランスファーチャンバ110によって、各処理装置111〜116に対して基板Gを搬入出させるようになっている。
【0047】
また例えば、図9に示すように、搬入出部120からロードロック室121を介して、各処理装置122、122に対して基板Gを直接(トランスファーチャンバを介さずに)搬入出させるように構成された処理システム123において本発明を適用することも可能である。このように、処理システムに設ける処理装置の台数、配置は任意である。
【0048】
また、蒸着装置13内において、搬入口50から処理室30内に搬入された基板Gが、処理後、搬出口51から搬出される例を示した。しかし、搬入口と搬出口を兼用する搬入出口を設け、搬入出口から処理室30内に搬入された基板Gが、処理後、再び搬入出口から搬出されても良い。なお、処理後は、なるべく短時間で基板Gを処理室30内から搬出できるような搬送経路とすることが好ましい。
【0049】
なお、各蒸着ユニット55〜60の蒸着ヘッド65から噴出される材料は同じでも異なっていても良い。また、蒸着ユニットの連数は6つに限らず、任意である。また、蒸着ユニットに設けられる蒸気発生部や制御弁の数も任意である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、例えば有機EL素子の製造分野に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】有機EL素子の説明図である。
【図2】成膜システムの説明図である。
【図3】本発明の実施の形態にかかる蒸着装置の構成を概略的に示した断面図である。
【図4】蒸着ユニットの斜視図である。
【図5】蒸着ユニットの回路図である。
【図6】蒸気発生部の斜視図である。
【図7】トランスファーチャンバの周囲に各処理装置を配置した成膜システムの説明図である。
【図8】トランスファーチャンバの周りに6台の処理装置を設けた処理システムの説明図である。
【図9】搬入出部から各処理装置に対して基板を直接搬入するように構成された処理システムの説明図である。
【符号の説明】
【0052】
A 有機EL素子
G ガラス基板
10 処理システム
11 ローダ11
12、14、16、18、20、22 トランスファーチャンバ
13 発光層の蒸着装置
15 仕事関数調整層の成膜装置
17 エッチング装置
19 スパッタリング装置
21 CVD装置
23 アンローダ
30 処理室
31 蒸気発生室
32 容器本体
33 隔壁
35、40 排気孔
36、41 真空ポンプ
45 ガイド部材
47 基板保持部
55〜60 蒸着ユニット
65 蒸着ヘッド
66 配管ケース
70〜72 蒸気発生部
75〜77 制御弁
80 蒸気噴出口
81〜83 枝配管
85 合流配管
90 ヒータ
91 ヒータブロック
92 材料容器
93 キャリアガス供給配管
94 キャリアガス経路





【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着により被処理体を成膜処理する蒸着装置であって、
被処理体を成膜処理する処理室と、成膜材料を蒸発させる蒸気発生室とを隣接させて配置し、
前記処理室の内部と前記蒸気発生室の内部を減圧させる排気機構と、
前記処理室の内部に成膜材料の蒸気を供給する蒸着ユニットとを設け、
前記蒸着ユニットは、
前記処理室の内部に向けて蒸気を噴出する蒸気噴出口と、
前記蒸気発生室に成膜材料を蒸発させる蒸気発生部と、
成膜材料の蒸気の供給を制御する制御弁と、
前記蒸気発生部で発生させた成膜材料の蒸気を、前記処理室と前記蒸気発生室の外部に出さずに、前記蒸気噴出口に供給させる流路とを備えることを特徴とする、蒸着装置。
【請求項2】
前記蒸着ユニットは、前記蒸気噴出口が任意の面に形成された蒸着ヘッドを有し、前記蒸気発生部と前記制御弁を、前記蒸着ヘッドに支持させたことを特徴とする、請求項1に記載の蒸着装置。
【請求項3】
前記蒸気発生部で蒸発させた成膜材料の蒸気を前記蒸気噴出口に供給させるためのキャリアガスを、前記蒸気発生部に供給するキャリアガス供給配管を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の蒸着装置。
【請求項4】
前記蒸気発生部は、全体を一体的に加熱可能なヒータブロックを有し、前記ヒータブロックの内部に、成膜材料を充填可能な材料容器と、前記キャリアガス供給配管から供給されたキャリアガスを前記材料容器に通すキャリアガス経路を配置したことを特徴とする、請求項3に記載の蒸着装置。
【請求項5】
前記蒸着ユニットは、前記蒸気噴出口が任意の面に形成された蒸着ヘッドを有し、前記蒸着ヘッドの前記蒸気噴出口が形成された面を前記処理室内に露出させた姿勢で、前記蒸着ヘッドを、前記処理室と前記蒸気発生室とを仕切る隔壁に支持したことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の蒸着装置。
【請求項6】
前記隔壁の少なくとも一部を断熱材としたことを特徴とする、請求項5に記載の蒸着装置。
【請求項7】
前記制御弁は、ベローズ弁またはダイアフラム弁であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の蒸着装置。
【請求項8】
前記排気機構は、前記処理室と前記蒸気発生室にそれぞれ設けられていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の蒸着装置。
【請求項9】
前記蒸着ユニットは、前記蒸気噴出口が任意の面に形成された蒸着ヘッドを有し、前記蒸気発生部で発生させた成膜材料の蒸気を前記蒸着ヘッドに供給する輸送路が設けられ、前記輸送路には、複数の蒸気発生部が取り付けられていることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の蒸着装置。
【請求項10】
前記流路にヒータを備えないことを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−26041(P2012−26041A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236147(P2011−236147)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【分割の表示】特願2006−269085(P2006−269085)の分割
【原出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】