説明

蓄電池、組電池、組電池設置方法、電極群、電極群の製造方法

【課題】エネルギー密度を低下させることなく、発熱量を調節する。
【解決手段】電池容器11内には電極群12が収納され、電極群は正負極電極20,30間にセパレータ40を配置してなる。正負極電極層22,32には、正負極活物質22A,32Aが略均一に分布し、電極群12の全面において均一に電荷が充放電される。正負極電極層22,32、セパレータ40は電解液13に浸漬され、電解液13は、正負極電極層22,32、セパレータ40の空孔部内に充填される。正負極電極層22,32の単位面積あたりの正負極活物質22A,32Aの量が一定の条件において、正負極電極層22,32の厚さを変化させることによって、電解液13に占める正負極活物質22A,32Aの量の割合が変化し、発熱量を調節することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池等の蓄電池技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の資源的節約や地球温暖化などを背景に、省エネルギーの推進が求められており、二次電池の中でも大容量で小型のリチウムイオン電池は省エネ社会の実現に重要な蓄電デバイスとして期待されている。そのため、携帯情報端末やコードレス電子機器電源としての民生用途、電動工具の電源といった産業用途、電気自動車やハイブリッド電気自動車といった車載用途を中心に需要が拡大している。また、このような様々な用途に応じて、高出力化、エネルギー高密度化といった高性能電池の開発が加速している。
高出力の電池では、大電流放電時のジュール熱が原因で発熱し、エネルギー高密度の電池では、長時間使用により蓄熱する。それらの熱は、電池内部における放熱性の違いや、電極タブ周辺の電流密度の違いで、電池内部の温度分布は不均一となる。
【0003】
電池内部に不均一な温度分布が生じると、
1)高温部では出力密度が低下する、
2)高温部における集電箔の抵抗値の上昇によりさらに温度が上昇し、部分的な集電箔の膨張により電極活物質間の接触不良を起こす、
3)電解液の部分的な分解・蒸発によるリチウムイオンの移動阻害が生じる、
4)部分的なサイクル劣化や内部短絡の原因となる、
といった課題が生じ、最終的にはこれらの部分的な劣化が電池全体の寿命低下に繋がる。
【0004】
そこで、電池内部の温度分布を低減する背景技術として、特許文献1記載の蓄電装置用電極が知られている。特許文献1記載の電極は、「集電箔と集電箔の表面に形成された複数の電極パターンとを有し、蓄電装置用電極のうち放熱性が他の領域より低い領域における電極パターンの形成密度が、上記他の領域における電極パターンの形成密度よりも低いことを特徴とする」ものである。
また、特許文献2には、「放熱性が他の領域よりも低い領域における電流密度が、上記他の領域における電流密度よりも低くなるように、電極層の構成を電極層中の位置に応じて異ならせる」ようにした蓄電装置用電極が開示されている。
特許文献1、2は、いずれも、集電箔の位置に応じて、活物質の実装密度に分布を持たせたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−53088号公報
【特許文献2】特開2008−78109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の電池用電極では、集電箔上に活物質が塗布されている部分と活物質が塗布されていない部分が生じるため、電極面積が小さくなる。さらに、電極が形成されていない部分には電流が流れないため、エネルギー密度低下の原因となる。
一方、特許文献2に記載の二次電池用電極では、放熱性の低い部分で活物質の量を少なくし、厚みを小さくしている。しかし、活物質の塗布量を少なくすることで、電池全体として出力密度低下の原因となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)請求項1の発明による蓄電池は、正極集電箔に正極活物質を含む正極電極層が設けられている正極電極、および負極集電箔に負極活物質を含む負極電極層が設けられている負極電極をセパレータを間に挟んで積層した電極群と、前記電極群を収容する電池容器と、前記電池容器内に充填された電解液とを備え、前記正極活物質と前記負極活物質とは前記正負極電極層内でそれぞれ略均等に分布しており、前記正極活物質および前記負極活物質が略均等に分布している正負極電極層には、前記電解液と前記正負極活物質の割合が異なる領域が設けられていることを特徴とする。
(2)請求項2の発明は、請求項1記載の蓄電池において、前記電解液と前記正負極活物資の割合は、前記正負極電極層の厚さにより調節され、前記正負極電極層は電極群の面内において異なる厚さの領域を有することを特徴とする。
(3)請求項3の発明は、請求項2に記載の蓄電池において、前記電極群は矩形シート形状の正極電極、負極電極、およびセパレータを積層した積層型電極群であり、前記矩形シート形状の電極群が広がる面内の中央部の電極層の厚さは周辺部の厚さよりも厚いことを特徴とする。
(4)請求項4の発明は、請求項2または3記載の蓄電池において、前記正極電極層および前記負極電極層の厚さは幅方向に連続的に変化していることを特徴とする。
(5)請求項5の発明は、請求項2または3記載の蓄電池において、前記正極電極層および前記負極電極層の厚さは幅方向に不連続に変化していることを特徴とする。
(6)請求項6の発明は、請求項1または2に記載の蓄電池において、前記電極群は、長尺シート形状の正極電極、負極電極、およびセパレータを捲回した捲回電極群であり、前記捲き始め端部側における電極層の厚さは、捲き終わり端部側の電極層の厚さより厚いことを特徴とする。
(7)請求項7の発明は、請求項6記載の蓄電池において、前記電極層の厚さは長尺シート形状の電極群の長手方向において、捲き終わり端部から前記捲き始め端部側にかけて漸増されていることを特徴とする。
(8)請求項8の発明は、請求項1または2記載の蓄電池において、前記電極群は、長尺シート形状の正極電極、負極電極、およびセパレータを捲回した捲回電極群であり、前記長尺シート形状の電極群の幅方向中央部の電極層の厚さは電極群の幅方向両端部の厚さよりも厚いことを特徴とする。
(9)請求項9の発明は、請求項2乃至8のいずれか一項に記載の蓄電池において、前記セパレータの厚さ形状は、前記正負極電極層の厚さ形状と相補関係にあり、前記電極群は全域でその厚みが一定であることを特徴とする。
(10)請求項10の発明は、請求項1記載の蓄電池において、前記電解液と前記正負極活物質の割合は、前記正負極電極層の空孔率で調節され、前記正負極電極層は電極群の面内において異なる空孔率の領域を有することを特徴とする。
(11)請求項11の発明による組電池は、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の複数個の蓄電池と、前記複数の蓄電池を直列接続、または並直列接続するバスバーと、前記複数個の蓄電池を収容する筐体とを備え、複数個の蓄電池は、電解液に占める正負極活物質の割合が小さい第1蓄電池グループと、電解液に占める正負極活物質の割合が前記第1蓄電池グループよりも大きい第2蓄電池グループとを含むことを特徴とする。
(12)請求項12の発明による組電池の設置方法は、請求項11記載の組電池の設置方法において、前記組電池が設置される環境下において、電解液に占める正負極活物質の割合が小さい第1蓄電池グループを温度が高い第1環境に近接して配設し、電解液に占める正負極活物質の割合が前記第1蓄電池グループよりも高い第2蓄電池グループは、前記第1環境よりも温度が低い第2環境に近接して配設することを特徴とする。
(13)請求項13の発明は、請求項11記載の組電池において、電解液に占める正負極活物質の割合が小さい第1蓄電池グループを前記筐体内で放熱性が悪い第1空間に配設し、電解液に占める正負極活物質の割合が前記第1蓄電池グループよりも高い第2蓄電池グループは、前記第1空間よりも前記筐体内で放熱性が良い第2空間に配設したことを特徴とする。
(14)請求項14の発明による組電池の設置方法は、電池容器内で電解液中に浸漬され、正極集電箔に正極活物質を含む正極電極層が設けられている正極電極、および負極集電箔に負極活物質に負極活物質を含む負極電極層が設けられている負極電極をセパレータを間に挟んで積層された二次電池用電極群において、前記正極活物質と前記負極活物質とは前記正負極電極層内でそれぞれ均等に分布しており、前記正極活物質および前記負極活物質が均等に分布している正負極電極層には、前記電解液と前記正負極活物資の割合が異なる領域が設けられていることを特徴とする。
(15)請求項15の発明による電極群は、請求項14記載の電極群において、前記電解液と前記正負極活物質の割合は、前記正負極電極層の厚さにより調節され、前記正負極電極層は電極群の面内において異なる厚さの領域を有することを特徴とする。
(16)請求項16の発明は、請求項14記載の電極群において、前記電解液と前記正負極活物質の割合は、前記正負極電極層の空孔率で調節され、前記正負極電極層は電極群の面内において異なる空孔率の領域を有することを特徴とする。
(17)請求項17の発明による二次電池用電極群の製造方法は、請求項14乃至16のいずれか一項に記載の電極群の製造方法は、前記正極活物質と前記負極活物質とが電極層内で均等に分布するように、正負極集電箔に正負極活物質を塗布する工程と、前記正負極集電箔に塗布された正負極活物質を乾燥する工程と、乾燥後、前記空孔率が異なる領域が形成されるように前記正負極集電箔の正負極活物質をプレスして正負極電極層を作成する工程とを含むことを特徴とする。
(18)請求項18の発明は、請求項17に記載の電極群の製造方法は、前記プレスする工程では、プレス押圧量により前記空孔率を調節することを特徴とする。
(19)請求項19の発明は、請求項14乃至16のいずれか一項に記載の電極群の製造方法は、前記正極活物質と前記負極活物質とが電極層内で均等に分布するように、正負極集電箔に正負極活物質を塗布する工程と、前記正負極集電箔に塗布された正負極活物質を乾燥する工程と、乾燥後、前記正負極活物質が設けられた正負極集電箔を所定長さで切断してそれぞれ正負極電極を形成する工程と、前記正負極電極をセパレータを介在させて所定張力で捲回する工程とを含み、前記捲回工程では、前記空孔率が異なる領域が形成されるように前記所定張力を調節することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エネルギー密度を低下させることなく、発熱量を調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明による蓄電池を代表する電極群を概念的に示す断面図
【図2】活物質量一定の条件における、電解液に占める活物質の割合と発熱量の関係を示すグラフ
【図3】幅方向中央部で電極層の厚みが最大となる電極群を説明する図であり、矩形シートのIII−III線断面図
【図4】幅方向中央部で電極層の厚みが最大となる長尺シート状電極群を説明する図
【図5】本発明の第2の実施の形態である円筒状の捲回式蓄電池を概念的に示す横断面図
【図6】図5のAB断面に沿う断面図
【図7】本発明の第3の実施の形態である片側タブ付き積層型蓄電池を示す斜視図
【図8】図7のVIII−VIII線に沿う概念的断面図
【図9】本発明の第4の実施の形態である両側タブ付き積層型蓄電池を示す斜視図
【図10】図9のX−X線に沿う概念的な断面図
【図11A】本発明の第5の実施の形態である角形の捲回式蓄電池を概念的に示す断面図
【図11B】本発明の第5の実施の形態の長尺シート状電極群の長手方向断面図
【図12】本発明の第6の実施形態の組電池を示す斜視図
【図13A】組電池で使用する径が大きい蓄電池の電極を概念的に示す断面図
【図13B】組電池で使用する径が小さい蓄電池の電極を概念的に示す断面図
【図14】本発明の第7の実施の形態である複数枚の電極群を使用した積層型蓄電池の電極を示す概念的な断面図
【図15】本発明による蓄電池の第8の実施の形態における電極を概念的に示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態は、本発明による蓄電池をリチウムイオン二次電池に適用したものである。以下、図1〜図3を参照して第1の実施の形態のリチウムイオン二次電池を説明する。
【0011】
図1は第1の実施の形態のリチウムイオン二次電池10の概念図である。リチウムイオン二次電池10は、電池容器11と、電池容器11内に収容された積層型電極群12と、積層型電極群12が収容された電池容器11に注入された電解液13とを主たる構成要素としている。
【0012】
積層型電極群12は、シート状の正極電極20とシート状の負極電極30とをセパレータ40を間に介在させて積層して構成されている。正極電極20は、正極金属箔である集電箔21の片面に正極電極層22を設けたものである。金属箔21はアルミニウム箔、もしくはアルミニウム合金箔を採用することができるが、これに限るものではない。
【0013】
正極電極層22は、正極活物質22Aと、導電助剤およびバインダ22Bとの混合物よりなり、正極活物質22Aが正極電極層22内で均一に分布するように正極集電箔21に塗布される。正極活物質22Aの材料として、例えばコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどが代表されるが、これに限るものではなく、適宜変えることができる。また、二種類以上の物質を用いても良い。正極活物質22Aの粒径は略均一としている。
なお、正極活物質22Aを誇張して示している。
【0014】
負極電極30は、負極金属箔である負極集電箔31の片面に負極電極層32を設けたものである。金属箔31は銅箔、もしくは銅合金箔を採用することができる。ニッケル箔、ステンレス箔などの導電性材料を用いても良い。
【0015】
負極電極層32は、負極活物質32Aと、導電助剤およびバインダ32Bとの混合物よりなり、負極活物質32Aが負極電極層32内に略均一に分布するように負極集電箔31に塗布される。負極活物質32Aの材料として、例えば黒鉛やチタン酸リチウムが一般的であるが、これに限るものではなく、適宜変えることができる。負極活物質32Aの粒径は略均一としている。
なお、負極活物質32Aを誇張して示している。
【0016】
正極活物質22Aが正極電極層22内で略均一ないしは略均等に分布するとは、正極電極層22内における正極活物質22Aの量が一定となることを意味している。また、負極活物質32Aが負極電極層32内で略均一ないしは略均等に分布するとは、負極電極層32内における負極活物質32Aの量が一定となることを意味している。このように、電極層内で活物質の量を一定とすることにより、電極群の全域で電流密度が一定となる。
【0017】
セパレータ40は、正極電極層22と負極電極層32が直接接触することを防ぎ、イオン導電性を保持する機能を有する必要がある。電解液13を用いる電池では、空孔部を有する多孔性材料を用いる。多孔性材料として、ポリオレフィンやポリエチレン、ポリプロピレンに代表されるが、これに限るものではない。
【0018】
電極群12は電池容器11内で電解液13に浸漬されている。電解液13はイオン導電相として働き、リチウムイオン電池では、非水溶液系電解質が使用される。リチウムイオン電池内の電解質はLiPF6、LiBF4、LiClO4のようなリチウム塩とエチレンカーボネートやジエチルカーボネートのような溶媒によって構成される。また、電解液13は、液体やゲルに限らず、固体でも良い。
【0019】
正負極電極20,30は、円形シート状や矩形シート状、長尺シート状に形成することができるが、第1の実施の形態のリチウムイオン二次電池10は、矩形シート状の電極20,30を間にセパレータ40を挟んだ電極群12を複数枚積層した電池電極(いわゆる、ラミネート型)である。このリチウムイオン二次電池10では、大きな電極面積が確保され、出力密度が高められている。
【0020】
上述したように、電極群12は電解液13に浸漬されるが、発明者等は、電解液に占める活物質の割合と発熱量との間に、図2に示すような相関関係があることを見出した。第1の実施形態のリチウムイオン二次電池10は、このような知見に基づいて設計されている。以下、説明する。
【0021】
図2は、電解液に対する活物質の割合がそれぞれ異なる8条件のリチウムイオン二次電池について、予め定めた放電条件で電極層の電荷を放電させたときの発熱量を表すグラフである。これらの電池の電極層に含まれる正負極活物質22A,32Aの重量は同一、粒径はほぼ等しく、かつ、電極層内での活物質の分布は均一となるようにした。このような複数の蓄電池の端子間電圧、放電時間はほぼ等しいので、全ての条件で放電特性は略同一である。
【0022】
図2は、横軸に電解液に占める活物質の割合を、縦軸に発熱量/発熱量基準値をとったグラフである。縦軸は発熱量を正規化するための指標である。電解液に占める活物質の割合が0.5のときの発熱量を基準値1.0とした。
図2に示すように、電解液13に占める正極活物質量の割合や負極活物質量の割合を増加させたときは、電極群12の発熱量が増加し、電解液13に占める正極活物質量、負極活物質量の割合を減少させたときは、電極群12の発熱量が減少する。
【0023】
具体的に説明すると以下の通りである。電解液13に占める活物質22A,32Aの割合を50%から20%に減少させることにより発熱量が20%低減する。一方、電解液13に占める活物質22A,32Aの割合を50%から80%に増加させることにより発熱量が20%増加する。
【0024】
電解液に占める活物質の割合を変えるには種々の手法があるが、第1の実施の形態のリチウムイオン二次電池10では、図3に示すように、電極群12の正極電極層22は、正極活物質22Aの分布が均一で、かつ、幅方向中央部の厚みが最大となるように幅方向の厚みが連続的に変化している。負極電極層32は、負極活物質32Aの分布が均一で、かつ、幅方向中央部の厚みが最大となるように幅方向の厚みが連続的に変化している。正負極電極層22,32の厚さの変化に対応して、セパレータ40は、正負極電極層22,32の厚さが厚い部分では薄く、正負極電極層22,32の厚さが薄い部分では厚く形成されている。その結果、積層型電極群12の厚さは均一となる。
【0025】
このように構成した第1の実施の形態の電極群12の作用効果について、同一の所定の放電特性を有する従来の電極群を使用したリチウムイオン二次電池と比較して説明する。ここで、従来の電極群とは、電極層の厚みを幅方向で一定とした電極群である。
【0026】
(1)積層型電極群12の温度上昇は、正負極活物質22A,32Aの劣化や、内部短絡の原因となる。電極層の厚みが幅方向で一定である従来の積層型電極群では、両端部よりも中央部(電池内部)の放熱性が劣る。すなわち、中央部の温度上昇が大きい。第1の実施の形態の電極群12では、幅方向中央部の厚みが最大厚さとなり、中央部の発熱量は周縁部よりも小さくなる。電極層20を構成する正極活物質22Aと負極活物質32Aの重量を、比較対象である従来の蓄電池の活物質の重量と同一となるようにすれば、エネルギー密度や出力密度で規定される放電特性は従来のものと同等のまま、電池内部の温度分布を低減できる。
【0027】
(2)放電容量が電極群のどの領域でも一定となるように、すなわち電極層20のどの領域でも活物質の量が一定となるように活物質密度を調整している。したがって、電極層の厚さが一定であれば充放電する際の発熱量は電極群の全域で一定である。蓄電池として電極群を内蔵した際の放熱性が悪い領域には、電解液に占める活物質の割合を小さくし、蓄電池として電極群を内蔵した際の放熱性が良い領域には、電解液に占める活物質の割合を大きくした。そのため、電極群には局所的に温度上昇する領域がなく、部分的な劣化を引き起こす惧れがない。
【0028】
(3)電池内部の温度分布を低減することで、電池の局所劣化を回避でき、電池としての高寿命化を実現できる。
(4)セパレータ40の厚さ形状は、正負極電極層22,32の厚さ形状と相補関係にあり、電極群12は全域でその厚みが一定である。その結果、積層、捲回時の処理が容易であり、蓄電池への組み込みの作業性も良好である。
【0029】
なお、第1の実施形態の電極群は正極集電箔と負極集電箔の片面に電極層をそれぞれ設けたものである。しかしながら、正極集電箔と負極集電箔の両面に電極層をそれぞれ設けた蓄電池でも、第1の実施形態の蓄電池と同様の作用効果を奏することができる。
【0030】
第1の実施形態の電極群は矩形シート状とし、いわゆるラミネート型リチウムイオン二次電池の電極群として使用したが、電極群は図4に示すような長尺シート状でもよい。長尺シート状の電極群12に本発明を適用する場合、図3の断面の左右方向を短手幅方向、紙面と直交する方向を長手方向としたシート形状とする。この長尺シート状の電極群は、円筒形状に捲回して円筒形リチウムイオン二次電池の電極群として使用したり、角形扁平形状に捲回して角形リチウムイオン二次電池の電極群として使用することもできる。
【0031】
以上説明した第1の実施の形態による電極群は、矩形シート状の正負極電極を積層した電極群、あるいは長尺シート状に形成した正負極電極を捲回した電極群であり、電池容器の形状に拘わらず各種形状のリチウムイオン二次電池に適用できる。したがって、たとえば、上述したラミネート型リチウムイオン二次電池、図4に示した長尺シート状電極群を円筒状に捲回した捲回式円筒形リチウムイオン二次電池、扁平形状に捲回した捲回式扁平型リチウムイオン二次電池など、種々の形状のリチウムイオン二次電池に適用できる。
【0032】
[第2の実施の形態]
本発明による蓄電池の第2の実施の形態を図5、図6を参照して説明する。なお、図中、第1の実施の形態と同一もしくは相当部分には100番台の符号を付し、相違点を主に説明する。
第2の実施の形態は、本発明を円筒状の捲回式蓄電池に適用したものである。ここで使用される電極群は図4で示した電極群と同様の長尺シート状であるが、電極層の厚さが、幅方向ではなく、長手方向に徐々に増減するようにしたものである。
【0033】
図5、図6において、円筒状の捲回式蓄電池10Aは、軸芯(図示省略)の周りに捲回された積層型電極群112を容器111に収容し、容器111内に電解液113を充填して構成されている。積層型電極群112は、長尺シート状の1枚の正極電極120と長尺シート状の1枚の負極電極130とをセパレータ140を間に介在させて図示しない捲回軸の周囲に捲回して構成されている。
【0034】
正極電極120は、正極金属箔121の両面に正極電極層122を設けたものである。金属箔121はアルミニウム箔、もしくはアルミニウム合金箔を採用することができる。
負極電極130は、負極金属箔131の両面に負極電極層132を設けたものである。金属箔131は銅箔、もしくは銅合金箔を採用することができる。ニッケル箔、ステンレス箔などの導電性材料を用いても良い。
【0035】
正極電極層122は、正極活物質122Aと、導電助剤およびバインダ122Bとの混合物よりなり、正極活物質122Aが正極電極層122内で均一に分布するように正極集電箔121に塗布される。負極電極層132は、負極活物質132Aと、導電助剤、バインダ等との混合物よりなり、負極活物質132Aが負極電極層132内で均一に分布するように負極集電箔131に塗布される。
なお、図5,図6は概念図であり、正負極活物質122A,132Aを誇張して示している。
【0036】
セパレータ140は、正極電極層122と負極電極層132が直接接触することを防ぎ、イオン導電性を保持する必要があるが、電解液113を用いる電池では、空孔部を有する多孔性材料を用いる。多孔性材料として、ポリオレフィンやポリエチレン、ポリプロピレンに代表されるが、これに限るものではない。
【0037】
捲回式電極群112は電池容器111内に収納され、容器111内に電解液113を充填して蓄電池10Aが構成されている。容器111は、例えばニッケルメッキされた鉄製の缶である。
【0038】
第2の実施の形態による電極群112では、図6の模式図に示すように、捲回中央部ほど電極層122,132の厚みを大きくしている。円筒状の捲回式蓄電池10Aでは、積層型電極群112の最外周に位置する容器111の外面から放熱する構造となっているため、蓄電池10Aの捲回中心部(符号Aで示す)では温度が高くなる。そこで、積層型電極群112における正負極電極層122,132の厚さを外周端から中心部Aに掛けて徐々に厚くし、電解液113に占める正負極活物質122A,132Aの割合を中心部Aに向かって徐々に低くしている。
【0039】
図6には、捲回中心部(捲き始め端部)Aから外周部(捲き終わり端部)Bの間に、最内周正極電極120in、最内周負極電極130in、中間正極電極120md、中間負極電極130md、最外周正極電極120out、最外周負極電極130outが配置されている積層型捲回式電極群112が示されている。最内周正極電極120in、最内周負極電極130inの電極層の厚さは、中間正極電極120md、中間負極電極130md、最外周正極電極120out、最外周負極電極130outの電極層の厚さよりも厚い。中間正極電極120md、中間負極電極130mdの電極層の厚さは、最外周正極電極120out、最外周負極電極130outの電極層の厚さよりも厚い。
【0040】
円筒形蓄電池では、軸芯側ほど放熱性が低いので、温度上昇が大きい。そこで、以上説明した第2の実施の形態の捲回式蓄電池では、積層型電極群112の長さ方向に厚みを変え、捲回軸芯側ほど電極層122、132の厚さを大きくし、電解液113に占める活物質122A,132Aの割合を軸芯側ほど小さくした。すなわち、電極層122,132それ自体の発熱量を中心部ほど小さくした。その結果、蓄電池全体としての温度分布が低減され、局所的な発熱がなく、電極の局所的な劣化も回避でき、蓄電池の長寿命化を図ることができる。
【0041】
正負極電極層122,132の厚さを捲回中心ほど厚くする製造方法について説明する。捲回式電極群は、長尺シートとして製造した積層型電極群112を捲回軸中心に捲回して構成される。長尺シートとして製造した積層型電極群112は、捲回前は、電極層122,132の厚みは長尺シート全長で一定である。捲回装置により積層型電極群112には張力が与えられる。第2の実施の形態では、積層型電極群112を捲回する際、捲回当初の張力を小さくして電極層122、132の厚みを厚くし、捲回するに従って張力を大きくして電極層122、132の厚みを薄くする。
【0042】
なお、第2の実施の形態の電極群112を使用して扁平角形に捲回したいわゆる扁平角形捲回式蓄電池を構成しても、円筒形捲回式電池と同様の作用効果を奏することができる。
【0043】
図3に示したように幅方向に厚みが異なる長尺シート形状の電極群を捲回電極群として使用する際、長手方向の電極層の厚さを、捲き終わり端部から捲き始め端部に漸増させてもよい。この場合、長尺シートの幅方向中央部の発熱傾向を緩和するとともに、捲回中心部側での発熱傾向も緩和できる。
【0044】
[第3の実施の形態]
本発明による蓄電池の第3の実施の形態を図7、図8を参照して説明する。なお、図中、第1の実施の形態と同一もしくは相当部分には200番台の符号を付し、相違点を主に説明する。
第3の実施の形態は、本発明を外部端子である正負極タブを片側に設けたタブ付き積層型蓄電池に適用したものである。
【0045】
図7および図8において、タブ付き積層型蓄電池10Bにあっては、平板状の容器211内に、正極電極220、負極電極230をセパレータ240を介在させて積層した積層型電極群212が収納され、正極集電箔221に接続された正極タブ401、負極集電箔231に接続された負極タブ402が容器211の同一側の端面211Eに突設されている。
【0046】
なお、図8では、図面を簡略化するため、負極タブ402を負極金属箔231とは別体として図示しているが、実際は電極群212の複数枚の負極金属箔231を束ねて負極タブ402に溶接している。正極タブ401も同様である。
【0047】
積層型蓄電池10Bにおいては、正極タブ401、負極タブ402を介して充放電電流が流れるため、積層型電極群212における正極タブ401、負極タブ402の近傍の電流密度が高くなる。図7では、積層型電極群212における電流密度の分布d1〜d4(d1<d2<d3<d4)を、ハッチングされた図形として示している。
【0048】
そこで、図8に示すように、正極電極層222、負極電極層232は端面211Eに向かって徐々に厚く形成され、電流密度の高い部分ほど、電解液213に占める活物質222A,232Aの割合を低下させ、積層型電極群112の発熱量を抑制している。これによって、正負極タブ401、402の近傍において、高電流密度に起因した温度上昇が抑制され、積層型電極群212の局所劣化や内部短絡を防止することができる。
【0049】
このように第3の実施形態のタブ付き積層型蓄電池10Bにおいては、タブ401,402に近接する所定領域について、とくに、タブに近いほど電極層222,232の厚みが大きくなるようにした。その結果、電極群212の温度分布を低減し、劣化の遅いリチウムイオン蓄電池を提供することができる。
【0050】
図8では、タブ401,402に近づくほど電極層の厚みを徐々に厚くした例が示されている。しかしながら、タブ401,402にかけて、電極層の厚みを階段状に不連続に厚くしても同様の作用効果を奏することができる。
【0051】
[第4の実施の形態]
本発明による蓄電池の第4の実施の形態を図9、図10を参照して説明する。なお、図中、第1の実施の形態と同一もしくは相当部分には300番台の符号を付し、相違点を主に説明する。
第4の実施の形態は、本発明を外部端子である正負極タブのそれぞれ対向する側面に設けたタブ付き積層型蓄電池に適用したものである。
【0052】
図9において、タブ付き積層型蓄電池10Cは、平板状の容器311内に、正極電極320、負極電極330を積層した積層型電極群312が収納され、容器311には、正極集電箔321に接続された正極タブ501、負極集電箔331に接続された負極タブ502が容器311における対称位置の端面311E1と311E2に突設されている。
【0053】
なお、図9、10では、図面を簡略化するため、タブ501,502を正負極金属箔321,331とは別体として図示しているが、実際は電極群312の複数枚の正負極金属箔321、231をそれぞれ束ねて正負極タブ501,502に溶接されている。
【0054】
積層型蓄電池10Cにおいては、正極タブ501、負極タブ502を介して充放電電流が流れるため、積層型電極群312における正極タブ501、負極タブ502の近傍の電流密度が高くなる。
【0055】
そこで、図10に示すように、正極電極層322、負極電極層332は端面311E1、311E2に向かって徐々に厚く形成され、電流密度の高い部分ほど、電解液313に占める活物質322A,332Aの割合を低下させ、積層型電極群312の発熱量を抑制している。これによって、正負極タブ501、502の近傍において、高電流密度に起因した温度上昇が抑制され、積層型電極群312の局所劣化や内部短絡を防止することができる。
【0056】
このように第4の実施形態のタブ付き積層型蓄電池10Cにおいては、タブ501,502に近接する所定領域について、とくに、タブに近いほど電極層322,332の厚みが大きくなるようにした。その結果、電極群312の温度分布を低減し、劣化の遅いリチウムイオン蓄電池を提供することができる。
【0057】
図10では、タブ501,502に近づくほど電極層の厚みを徐々に厚くした例が示されている。しかしながら、タブ501,502にかけて、電極層の厚みを階段状に不連続に厚くしても同様の作用効果を奏することができる。
【0058】
[第5の実施の形態]
本発明による蓄電池の第5の実施の形態を図11A、図11Bを参照して説明する。なお、図中、第1の実施の形態と同一もしくは相当部分には400番台の符号を付し、相違点を主に説明する。
第5の実施の形態は、本発明を角形捲回式蓄電池に適用したものである。
【0059】
図11A、図11Bにおいて、角形捲回式蓄電池10Dは、軸心(図示省略)の周りに捲回された積層型電極群412を容器411内に収納して構成されている。容器411内には電解液413が充填されている。図示は省略するが、電極群412は正負極電極420,430をセパレータ440を介在させて扁平角形に捲回したものである。また、正極電極420は、正極金属箔421に正極電極層422を設けたものであり、負極電極430は、負極金属箔431に負極電極層432を設けたものである。金属箔の材料、正負極活物質の材料などは第1〜第4の実施の形態の電極群と同様である。
第5の実施の形態の特徴は、長尺シート状の電極層420,430の長手方向において電極層の厚さを調整した点である。以下、説明する。
【0060】
角形捲回式蓄電池10Dでは、積層型電極群412の曲率の大きいコーナ部412Cでは、正極電極層422、負極電極層432が潰れやすく、剥離することもある。そのため、コーナ部412Cでは、電解液413に占める活物質422A,432Aの割合が大きくなる傾向にある。さらに、円筒形蓄電池と同様に、容器411から放熱する構造となっているため、中心部の温度が上昇する。
【0061】
そこで、図11Bに示すように、積層型電極群412における正極電極層422、負極電極層432の厚さを、軸芯に近い領域では厚くし、さらに、軸芯に近い曲率の大きいコーナ部412Cではコーナ部以外の領域に比べて電極層422,432の厚みを厚くした。その結果、軸芯に近い領域の電極層422では電解液413に占める正負極活物質422A,432Aの割合が低下し、かつ、軸芯に近い電極層422,432のコーナ部412Cでは、軸芯近傍のコーナ部以外の領域に比べて、電解液413に占める正負極活物質422A,432Aの割合をさらに低下させている。
【0062】
これにより、捲回式電極群412の軸芯に近い領域での発熱量が低減されるとともに、コーナ部412Cで電極層422,432の剥離が発生しても活物質による発熱が抑制される。その結果、電極群412全体として温度分布を均一化することができる。
【0063】
なお、図11Bは、電極層が軸芯に近いほど厚くされ、かつ、コーナ部の電極層の厚さが周囲に比べて厚くした点を模式的に示す図である。実際は、図6に示したように、集電箔の両面に電極層を設け、捲回時の張力調整で軸芯側ほど電極層が厚くなるようにし、その上で、コーナ部に対応する電極層の厚さを厚くする。正負極電極の間に介在されるセパレータの厚みは、それら電極層の厚みと相補寸法として、電極群電体として一定の厚さとされている。
【0064】
[第6の実施の形態]
第6の実施の形態は、本発明を組電池に適用したものである。図12を参照して第6の実施の形態の組電池を説明する。なお、図中、第1の実施の形態と同一もしくは相当部分には500番台の符号を付し、相違点を主に説明する。
【0065】
図12は第6の実施の形態の組電池100の概念図である。組電池100は、径の小さい複数の円筒状蓄電池10Eと、径の大きい複数の円筒状蓄電池10Fとを直列、あるいは、並直列接続して構成される。すなわち、組電池100は、複数個の蓄電池10E,10Fと、複数の蓄電池10E,10Fを直列接続、または並直列接続する図示しないバスバーと、複数個の蓄電池10E,10Fを収容する筐体511とを備えている。第6の実施形態の組電池100は、電解液に占める正負極活物質の割合が小さい複数個の蓄電池10Fのグループと、電解液に占める正負極活物質の割合が蓄電池10Fのグループよりも大きい複数個の蓄電池10Eのグループとを含んで構成されている。
【0066】
組電池100を電気自動車やハイブリッド自動車に搭載する際、図12に示すように、組電池100の近傍には熱源HSが配置されることがある。第6の実施の形態の組電池100では、熱源HSに近い箇所に径の大きい円筒状蓄電池10Fを複数配置し、熱源HSから遠い箇所に径の小さい円筒状蓄電池10Eを複数配置している。径の大きい円筒状蓄電池10Fは径の小さい円筒状蓄電池10Eに比べて発熱量が小さい。また、円筒状蓄電池10E,10Fのエネルギー密度や出力密度は同等であり、放電特性は等しくされている。
【0067】
径の大きい円筒状蓄電池10Fは、図13Aに示す長尺シート状の電極群512Fを有し、径の小さい円筒状蓄電池10Eは、図13Bに示す長尺シート状の電極群512Eを有している。
【0068】
電極群512Fは、正極電極520Fと負極電極530Fをセパレータ540を介在させて円筒状に捲回し、電極群512Eは、正極電極520Eと負極電極530Eをセパレータ540を介在させて円筒状に捲回したものである。正負極電極520F,530Fの電極層522F,532Fの厚さは長尺シートの巻始め端から巻き終わり端まで一定であり、正負極電極520E,530Eの電極層522E,532Eの厚さも長尺シートの巻始め端から巻き終わり端まで一定である。径の大きい蓄電池10Fの電極層522F,532Fの厚さは、径の小さい蓄電池10Eの電極層522E,532Eの厚さよりも厚くされている。すなわち、電解液513に占める正負極活物質の割合は電極層522F,532Fが電極層522E,532Eよりも小さいので、径の大きな蓄電池10Fの発熱量が小さい。
【0069】
上述したように、蓄電池10E,10Fのエネルギー密度、出力密度は等しい。この実施の形態では、蓄電池10Fの電極層522F,532Fに含まれる活物質量と、蓄電池10Eの電極層522E,532Eに含まれる活物質量が等しくなるように電極群512E,512Fの全長が決定され、その結果、エネルギー密度、出力密度が両蓄電池で等しくされている。
【0070】
なお、図13A,13Bは電極群を模式的に説明するための図であり、実際は、図6で示したような正負極集電箔の両面に正負極活物質を塗布した正負極電極をセパレータを介在させて捲回して捲回式電極群が構成される。
【0071】
正負極電極層522E,532E、522F,532Fの厚さ制御について以下説明する。
上述したように、電極群の発熱量は電解液に占める活物質の割合を増減して調整できる。また、電極層内に充填される電解液の量は電極層の空孔率に依存する。空孔率は電極層の厚さに依存し、電極層の厚さはプレスして調整することができる。電極層内に充填される電解液の量は、電極層の厚さと空孔率とは比例関係にあるので、この実施の形態では、プレスにより電極層の空孔率を調整して、電解液に占める活物質の割合を調整して発熱量が調節される。
【0072】
図2のグラフにおいて、電解液に占める活物質の割合を50%から20%に減少させるには、電極層の厚みを2.5倍に厚くすればよい。また、活物質の割合を50%から80%に増加させるには、電極層の厚みを約0.6倍に薄くすればよい。したがって、図2の横軸は正負極電極層の厚さに相関する指標と云うこともできる。
【0073】
以上の通り、電極層522E,532E、522F,532Fの厚さは、正負極活物質とバインダなどとの混合物を正負極金属箔521、531の両面にそれぞれ塗布し、乾燥させた後にプレスにより調整することができ、この厚さの調整によって積層型捲回式電極群512E、512Fの発熱量を制御できる。
【0074】
実際には、電解液に占める活物質の割合を小さくしすぎると、電子の移動が阻害され、活物質が電極箔からはく離する等、電極としての働きを失う。一方、電解液に占める活物質の割合を高くし過ぎるとイオン導電性が悪くなるため、同様に電極としての働きを失う。そこで、実装の際には、導電助剤やバインダを用いて電子やイオンの導電性を確保する以外にも、電解液に占める活物質の割合は、電極箔からのはく離等のトレードオフを考慮して決定する必要がある。
【0075】
以上説明した第6の実施の形態の組電池によれば次のような作用効果を奏することができる。
(1)複数の蓄電池(単電池)で構成される組電池は、放熱性の違いや発熱体の有無等、周囲の環境によって、蓄電池内部の温度分布が不均一になることが知られている。そこで、第6の実施の形態では、発熱する熱源HSの付近に発熱量の小さい径の大きい電池10Fを配置し、発熱する熱源HSから遠い箇所に発熱量の大きい径の小さい電池10Aを配置した。その結果、組電池全体として、組電池を構成する複数の蓄電池10E,10Fの温度分布が低減され、複数の蓄電池10E,10Fの寿命が均一化され、結果として、組電池としての長寿命化の効果が得られる。
【0076】
すなわち、第6の実施形態の組電池を一般化して説明すると次のように説明することができる。組電池が設置される環境下において、電解液に占める正負極活物質の割合が小さい第1蓄電池グループを温度が高い第1環境に近接して配設し、電解液に占める正負極活物質の割合が第1蓄電池グループよりも高い第2蓄電池グループは、第1環境よりも温度が低い第2環境に近接して配設する。
【0077】
なお、第6の実施の形態では、熱源HSの近傍に組電池を設置する場合について説明したが、組電池内の蓄電池の設置状況によって単電池の温度のバラツキが大きく、劣化が異なることも想定される。このような場合においても、発熱量の小さい蓄電池10Fを組電池収容空間内の温度上昇が大きい箇所に設置すれば、複数の蓄電池の温度分布のバラツキを小さくすることができる。
【0078】
すなわち、このような組電池は、電解液に占める正負極活物質の割合が小さい第1蓄電池グループを筐体内で放熱性が悪い第1空間に配設し、電解液に占める正負極活物質の割合が第1蓄電池グループよりも高い第2蓄電池グループは、第1空間よりも筐体内で放熱性が良い第2区間に配設することにより構成することができる。
【0079】
(2)第6の実施の形態の蓄電池で使用する電極群においては、発熱量を調整するにあたり、正極活物質と負極活物質の量は集電箔の位置によらず略均一であり、正負極活物質の量に場所的偏りは生じない。このため、充放電サイクルを繰り返すにつれて生じるリチウムイオンの出入りに際して進行する正極活物質や負極活物質の構造変化は略均一である。その結果、局所劣化の低減に効果があり、全体として長寿命化の効果が得られる。
【0080】
[第7の実施の形態]
本発明による蓄電池の第7の実施の形態を図14を参照して説明する。なお、図中、第1の実施の形態と同一もしくは相当部分には600番台の符号を付し、相違点を主に説明する。
第7の実施の形態は、本発明を複数の電極層を有する積層型蓄電池に適用したものである。
【0081】
上述したように、電極群は蓄電池表面よりも中央部(電池内部)の放熱性が劣る。第7の実施の形態は、例えば、矩形シート状の正負極電極を積層して成る積層型蓄電池であり、ここでは、電池内部の電極層を厚くし、表面の電極層を薄くして電池の温度分布の均一化を図るようにしたものである。
【0082】
図14に示すように、電極群612は、厚さの厚い正負極電極620in,630inを電池深層部(中央部)に配置し、厚さの薄い正負極電極620out,630outを電池表面に配置した例を示している。表面側の正極電極620outと内部側の負極電極層630inとの間にはセパレータ640が介在され、裏面側の負極電極630outと内部側の正極電極層620inとの間にはセパレータ640が介在されている。
【0083】
表裏面側に配置された正極電極層622out、負極電極層632outの厚さTpout、Tnoutは、中央側に配置された正極電極層622in、負極電極層632inの厚さTpin、Tninよりも小さく設定されており、内側の正極電極層622in、負極電極層632inの発熱量が抑制されている。
これによって、放熱性の低い内側の正極電極層622in、負極電極層632inにおける発熱量が、外側の正極電極層622out、負極電極層632outの発熱量よりも小さく、電極群612全体の温度上昇が均一化される。
【0084】
[第8の実施の形態]
本発明による蓄電池の第8の実施の形態を図15を参照して説明する。なお、図中、第1の実施の形態と同一もしくは相当部分には700番台の符号を付し、相違点を主に説明する。
第8の実施の形態は、第1の実施の形態における電極層22と等価な効果を奏する電極群の他の例をしている。すなわち、電極層の幅方向の厚さを階段状に不連続に変化させたものである。
【0085】
第8の実施の形態の電極群712は、正負極電極720,730をセパレータ740を介在させて積層したものである。正極電極720は平板状の正極金属箔721と、正極金属箔721の片面に塗布された正極電極層722とから成り、負極電極730は平板状の負極金属箔731と、負極金属箔731の片面に塗布された負極電極層732とから成る。正負極電極層722,732の間には、中央の厚みが薄くされたセパレータ740が配設されている。
正負極電極層722,732はセパレータ740の中央部の厚さが薄い領域で厚みが厚くなる。換言すると、第8の実施の形態の電極層720,730は階段状である。上述したように、電解液に占める活物質722A,732Aが小さいほど発熱量が低いので、第8の実施の形態の蓄電池は、電池の内部(深層部)の発熱が抑制され、電池全体としては温度分布が小さくなる。
【0086】
[変形例]
第1の実施の形態では、セパレータ40の厚さを不均一として、電極群12の厚さを均一化したが、電極群12の厚さの不均一が許容される場合には、セパレータ40の厚さを均一としてもよい。
また、セパレータ40の厚さを均一とし、一方、正負極電極層22,32の厚さの変化に対応して、正負極集電箔21,31の厚さを不均一として、電極群12の厚さを均一としてもよい。
【0087】
以上の実施の形態では、正負極活物質の粒径を均一としたが、粒径を正負極集電箔21,31の位置に応じて変化させ、粒径の大小により正負極電極層122,132の厚みを厚くすることも可能である。正負極活物質122A,132Aの粒径が大きい部分では、空隙率が増大し、発熱量が抑制される。
【符号の説明】
【0088】
10A〜10F 蓄電池
11,111,211,311,411電池容器
12,112,212,312,412、512,612,712 積層型電極群
13,113,213,313,413,513 電解液
20,120,220,320,420,520,620,720 正極電極
21,121 221,321,421,521,621,721 正極金属箔
22,122 222,322,422、522,622,722 正極電極層
22A,122A,222A,322A,422A,522A,622A,722A
正極活物質
30,130,230,330,430,530,630,730 負極電極
31,131,231,331,431,531,631,731 負極金属箔
32,132,232,332,432,532,632,732 負極電極層
33A,132A,232A,332A,432A,532A,632A,732A
負極活物質
40,140,240,340,440,540,640,740 セパレータ
100 組電池
411C コーナ部
401,501 正極タブ
402、502 負極タブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電箔に正極活物質を含む正極電極層が設けられている正極電極、および負極集電箔に負極活物質を含む負極電極層が設けられている負極電極をセパレータを間に挟んで積層した電極群と、
前記電極群を収容する電池容器と、
前記電池容器内に充填された電解液とを備え、
前記正極活物質と前記負極活物質とは前記正負極電極層内でそれぞれ略均等に分布しており、
前記正極活物質および前記負極活物質が略均等に分布している正負極電極層には、前記電解液と前記正負極活物資の割合が異なる領域が設けられていることを特徴とする蓄電池。
【請求項2】
請求項1記載の蓄電池において、
前記電解液と前記正負極活物資の割合は、前記正負極電極層の厚さにより調節され、前記正負極電極層は電極群の面内において異なる厚さの領域を有することを特徴とする蓄電池。
【請求項3】
請求項2に記載の蓄電池において、
前記電極群は矩形シート形状の正極電極、負極電極、およびセパレータを積層した積層型電極群であり、
前記矩形シート形状の電極群が広がる面内の中央部の電極層の厚さは周辺部の厚さよりも厚いことを特徴とする蓄電池。
【請求項4】
請求項2または3記載の蓄電池において、
前記正極電極層および前記負極電極層の厚さは幅方向に連続的に変化していることを特徴とする蓄電池。
【請求項5】
請求項2または3記載の蓄電池において、
前記正極電極層および前記負極電極層の厚さは幅方向に不連続に変化していることを特徴とする蓄電池。
【請求項6】
請求項1または2に記載の蓄電池において、
前記電極群は、長尺シート形状の正極電極、負極電極、およびセパレータを捲回した捲回電極群であり、
前記捲き始め端部側における電極層の厚さは、捲き終わり端部側の電極層の厚さより厚いことを特徴とする蓄電池。
【請求項7】
請求項6記載の蓄電池において、
前記電極層の厚さは長尺シート形状の電極群の長手方向において、捲き終わり端部から前記捲き始め端部側にかけて漸増されていることを特徴とする蓄電池。
【請求項8】
請求項1または2記載の蓄電池において、
前記電極群は、長尺シート形状の正極電極、負極電極、およびセパレータを捲回した捲回電極群であり、
前記長尺シート形状の電極群の幅方向中央部の電極層の厚さは電極群の幅方向両端部の厚さよりも厚いことを特徴とする蓄電池。
【請求項9】
請求項2乃至8のいずれか一項に記載の蓄電池において、
前記セパレータの厚さ形状は、前記正負極電極層の厚さ形状と相補関係にあり、前記電極群は全域でその厚みが一定であることを特徴とする蓄電池。
【請求項10】
請求項1記載の蓄電池において、
前記電解液と前記正負極活物資の割合は、前記正負極電極層の空孔率で調節され、前記正負極電極層は電極群の面内において異なる空孔率の領域を有することを特徴とする蓄電池。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の複数個の蓄電池と、
前記複数の蓄電池を直列接続、または並直列接続するバスバーと、
前記複数個の蓄電池を収容する筐体とを備え、
複数個の蓄電池は、電解液に占める正負極活物質の割合が小さい第1蓄電池グループと、電解液に占める正負極活物質の割合が前記第1蓄電池グループよりも大きい第2蓄電池グループとを含むことを特徴とする組電池。
【請求項12】
請求項11記載の組電池の設置方法において、
前記組電池が設置される環境下において、電解液に占める正負極活物質の割合が小さい第1蓄電池グループを温度が高い第1環境に近接して配設し、電解液に占める正負極活物質の割合が前記第1蓄電池グループよりも高い第2蓄電池グループは、前記第1環境よりも温度が低い第2環境に近接して配設することを特徴とする組電池の設置方法。
【請求項13】
請求項11記載の組電池において、
電解液に占める正負極活物質の割合が小さい第1蓄電池グループを前記筐体内で放熱性が悪い第1空間に配設し、電解液に占める正負極活物質の割合が前記第1蓄電池グループよりも高い第2蓄電池グループは、前記第1空間よりも前記筐体内で放熱性が良い第2空間に配設したことを特徴とする組電池。
【請求項14】
電池容器内で電解液中に浸漬され、正極集電箔に正極活物質を含む正極電極層が設けられている正極電極、および負極集電箔に負極活物質に負極活物質を含む負極電極層が設けられている負極電極をセパレータを間に挟んで積層された二次電池用電極群において、
前記正極活物質と前記負極活物質とは前記正負極電極層内でそれぞれ均等に分布しており、
前記正極活物質および前記負極活物質が均等に分布している正負極電極層には、前記電解液と前記正負極活物資の割合が異なる領域が設けられていることを特徴とする二次電池用電極群。
【請求項15】
請求項14記載の電極群において、
前記電解液と前記正負極活物資の割合は、前記正負極電極層の厚さにより調節され、前記正負極電極層は電極群の面内において異なる厚さの領域を有することを特徴とする二次電池用電極群。
【請求項16】
請求項14記載の電極群において、
前記電解液と前記正負極活物資の割合は、前記正負極電極層の空孔率で調節され、前記正負極電極層は電極群の面内において異なる空孔率の領域を有することを特徴とする二次電池用電極群。
【請求項17】
請求項14乃至16のいずれか一項に記載の二次電池用電極群の製造方法は、
前記正極活物質と前記負極活物質とが電極層内で均等に分布するように、正負極集電箔に正負極活物質を塗布する工程と、
前記正負極集電箔に塗布された正負極活物質を乾燥する工程と、
乾燥後、前記空孔率が異なる領域が形成されるように前記正負極集電箔の正負極活物質をプレスして正負極電極層を作成する工程とを含むことを特徴とする二次電池用電極群の製造方法。
【請求項18】
請求項17に記載の二次電池用電極群の製造方法は、
前記プレスする工程では、プレス押圧量により前記空孔率を調節することを特徴とする二次電池用電極群の製造方法。
【請求項19】
請求項14乃至16のいずれか一項に記載の二次電池用電極群の製造方法は、
前記正極活物質と前記負極活物質とが電極層内で均等に分布するように、正負極集電箔に正負極活物質を塗布する工程と、
前記正負極集電箔に塗布された正負極活物質を乾燥する工程と、
乾燥後、前記正負極活物質が設けられた正負極集電箔を所定長さで切断してそれぞれ正負極電極を形成する工程と、
前記正負極電極をセパレータを介在させて所定張力で捲回する工程とを含み、
前記捲回工程では、前記空孔率が異なる領域が形成されるように前記所定張力を調節することを特徴とする二次電池用電極群の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−20802(P2013−20802A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152989(P2011−152989)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】