説明

蓄電池用蓋、蓄電池用蓋の射出成形方法、及びその蓄電池用蓋を備えた蓄電池

【課題】端子部がインサート成形された蓄電池用蓋において、電槽との嵌合をスムーズに行うことができる蓋を提供する。
【解決手段】合成樹脂製の蓋に形成した切欠き部に端子4Tを備え、電槽内の極板群から延びる極柱が挿入されて溶接される筒状のブッシング6Bと水平方向で並置される端子4Tの下部側とを連結する導通部7を備え、端子4Tとブッシング6Bと導通部7とが一体成形により端子部を構成するとともに、端子部のうちの少なくともブッシング6Bと導通部7とがインサート成形により蓋に埋め込まれている。さらに、蓋に埋め込まれたブッシング6Bと導通部7の隙間2Gに、両者をつなぐ合成樹脂製の薄板2Hが設けられているので蓋の変形を抑制でき、特に、蓋の短側面の反りを低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に自動二輪車用への搭載に適した蓄電池に関し、詳しくは、蓄電池用蓋、蓄電池用蓋の射出成形方法、及びその蓄電池用蓋を備えた蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記の自動二輪車用への搭載に適した蓄電池は、電槽側から上方へ突出する極柱が挿入されて溶接される筒状のブッシングを蓋の内部に備えさせ、そのブッシングから水平方向前方側に形成された切欠き部に配置される端子を該ブッシングに連結することにより端子が蓋から飛び出すことがない上下方向にコンパクトな蓄電池を構成することができるようになっている。このような構成とすることで、従来と同様な大きさの蓄電池を構成した場合には、出力を従来に比べて大きくすることができる利点があり、近年用いられている構成である。
【0003】
そして、このような蓄電池として、図3に示すように、電槽を閉じるための合成樹脂製の蓋2に、切欠き部3又は凹部を形成し、切欠き部3又は凹部に端子4を備え、電槽から延びる、電力を取り出すための極柱5が挿入されて溶接される筒状のブッシング6を蓋2内に備え、このブッシング6の上部側とブッシング6と水平方向で並置される端子4の下部側とを連結するための導通部7を備え、蓋2内に備えさせたブッシング6を上方から覆うための補助蓋9を備えてなる蓄電池において、端子4とブッシング6と導通部7とが一体成形により端子部8を構成するとともに、前記導通部7の側面に外側に突出する環状の突起部7Tを備え、端子部8のうちの少なくともブッシング6の下側部分6Bと該導通部7とがインサート成形により蓋2に埋め込まれているものが公知である(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の構成の蓋では、インサート成形直後の温度の高い状態から温度が低下すると、端子部8が埋め込まれた蓋2の裏側の収縮率と端子部8が露出している蓋2の表側の収縮率の違いによって、蓋の表側が凸状に、蓋の裏側が凹状に変形して、蓋と電槽との嵌合ができ難くなるという問題があった。
【0005】
上記の問題を解決し、端子部がインサート成形された蓋体の変形を抑制することで、蓄電池の製造をスムーズに行うことを目的として、「蓋体の、各端子の上側部分が突設される箇所又はその箇所の近傍箇所あるいはそれら両方の箇所に突起部を形成した」蓄電池の発明が提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
上記の突起部について、特許文献2には、「前記端子20,30の下端が埋設される第1凸部分13Aと、該第1凸部分13Aの一辺の長手方向両側に位置し、かつ、該第1凸部分13Aの上面13aよりも上方に突出する上面13bを備える第2凸部分13Bと同上面13cを備える第3凸部分13Cとからなり」(段落[0044]、図13)、「第1凸部分13Aを上面に備えることで、蓋体100の下端100Zが端子20側で曲がり難くでき、上記した如く、ナット140を、例えば、左側の端子20に挿入した後、挿入されたナット140をボルト150にて端子20内にスムーズに固定できることがわかる。」、「前記第2、第3凸部分13B,13Cは、その上面にナットを配置して滑らせて端子の開口より内部に落とし込んで挿入する場合に、上記した変形によってナットが挿入できにくくなるという問題を回避するものであり、図17(b)の寸法Lに対してその高さ寸法及び平面視における形成範囲を定めればよく、図に示されるものに限定されるものではない。」(段落[0051]、[0052]、図13、図17)と記載され、このような突起部を形成した蓄電池によれば、ある程度、蓋の変形を抑制することはできるが、十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−043441号公報
【特許文献2】WO 2009/131228 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、端子部がインサート成形された蓋の変形、特に蓋の短側面の反りを抑制することができる蓄電池用蓋、蓄電池用蓋の射出成形方法、及びその蓄電池用蓋を備えた蓄電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)電槽を閉じるための合成樹脂製の蓋に、切欠き部又は凹部を形成し、前記切欠き部又は凹部に端子を備え、前記電槽内の極板群から延びる極柱が挿入されて溶接される筒状のブッシングを前記蓋内に備え、前記ブッシングの上部側と、前記ブッシングと水平方向で並置される前記端子の下部側とを連結する導通部を備え、前記端子とブッシングと導通部とが一体成形により端子部を構成するとともに、前記端子部のうちの少なくともブッシングの下側部分と前記導通部とがインサート成形により前記蓋に埋め込まれた蓄電池用蓋において、前記蓋の裏側における前記ブッシングが前記合成樹脂に埋め込まれた下側部分と前記導通部が前記合成樹脂に埋め込まれた部分の隙間に、両者をつなぐ前記合成樹脂製の薄板が設けられていることを特徴とする蓄電池用蓋である。
(2)電槽を閉じるための合成樹脂製の蓋に、切欠き部を形成し、前記切欠き部に端子を備え、前記電槽内の極板群から延びる極柱が挿入されて溶接される筒状のブッシングを前記蓋内に備え、前記ブッシングの上部側と、前記ブッシングと水平方向で並置される前記端子の下部側とを連結する導通部を備え、前記端子とブッシングと導通部とが一体成形により端子部を構成するとともに、前記端子部のうちの少なくともブッシングの下側部分と前記導通部とがインサート成形により前記蓋に埋め込まれた蓄電池用蓋において、前記蓋の底面から上方へ立ち上げた前記ブッシングと前記端子を隔てる縦板部の短側面側の下部に、前記切欠き部に向けて三角形状に張り出す前記合成樹脂製の薄板を設けたことを特徴とする蓄電池用蓋である。
(3)ナットが前記端子の空洞部に挿入されて固定されていることを特徴とする前記(1)又は(2)の蓄電池用蓋である。
(4)空洞部を有する端子と、電槽内の極板群から延びる極柱が挿入されて溶接される筒状のブッシングと、前記ブッシングの上部側と、前記ブッシングと水平方向で並置される前記端子の下部側とを連結する導通部とが一体成形により構成された端子部を、蓋の成形金型にインサートして、前記端子部のうちの少なくともブッシングの下側部分と前記導通部とが前記蓋に埋め込まれるように合成樹脂を射出成形する蓄電池用蓋の射出成形方法において、前記蓋の裏側における前記ブッシングが前記合成樹脂に埋め込まれる下側部分と前記導通部が前記合成樹脂に埋め込まれる部分の隙間に、両者をつなぐ前記合成樹脂の薄板が形成されるように射出成形し、前記薄板を形成する前記合成樹脂を、その近傍にある合成樹脂よりも速く凝固させ、前記薄板が、その両端の合成樹脂を支持し、該合成樹脂の収縮を抑制することにより、蓋の変形を抑制することを特徴とする蓄電池用蓋の射出成形方法である。
(5)空洞部を有する端子と、電槽内の極板群から延びる極柱が挿入されて溶接される筒状のブッシングと、前記ブッシングの上部側と、前記ブッシングと水平方向で並置される前記端子の下部側とを連結する導通部とが一体成形により構成された端子部を、蓋の成形金型にインサートして、前記端子部のうちの少なくともブッシングの下側部分と前記導通部とが前記蓋に埋め込まれるように合成樹脂を射出成形する蓄電池用蓋の射出成形方法において、前記蓋の底面から上方へ前記ブッシングと前記端子を隔てる縦板部が立ち上がり、その短側面側の下部に、前記端子を備える切欠き部に向けて三角形状の薄板が張り出すように、前記合成樹脂を射出成形し、前記三角形状の薄板を形成する前記合成樹脂を凝固、収縮させることにより、蓋の変形を抑制することを特徴とする蓄電池用蓋の射出成形方法である。
(6)前記合成樹脂を射出成形する際に、ナットを前記端子の空洞部に挿入することを特徴とする前記(4)又は(5)の蓄電池用蓋の射出成形方法である。
(7)隔壁によって内部が複数のセルに区画され、各セルに極板群が収納され、前記極板群から延びる極柱を有する合成樹脂製の電槽と、前記電槽を上方から被覆する合成樹脂製の蓋とを備えた蓄電池において、前記(1)〜(3)のいずれか一項の蓄電池用蓋を備えたことを特徴とする蓄電池である。
【発明の効果】
【0010】
本発明における蓄電池用蓋を採用することにより、蓋の変形を抑制、特に短側面の反りを低減することができるようになったので、蓋と電槽との嵌合をスムーズに行うことができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に、本発明の蓄電池の斜視図を示す。この蓄電池10は、平面視矩形状の電槽1と、この電槽1の上端開口を閉じるための平面視矩形状の合成樹脂製の蓋2と、この蓋2の上端開口を閉じるための補助蓋9とを備えている。
【0012】
図1に示すように、長方形状の蓋2の4つの角部のうち、蓋2の一方の長辺の両側となる2つの角部にそれぞれ、切欠き部3を形成し、それら切欠き部3,3に正極及び負極を構成する端子4,4(右側の端子が正極端子で左側の端子が負極端子になっている)をそれぞれ配置して、蓋2の上端2Aよりも端子4,4の上面板部4A,4Aの上面4a,4aが突出することがないようにしている。ここでは、端子4,4を蓋2の角部に形成した切欠き部3,3に配置しているが、上記の本発明(1)の蓋においては、蓋2の内側に入り込んだ部分に凹部を形成して、それら形成した凹部のそれぞれに、端子4,4を配置してもよい。
【0013】
上記の本発明(2)の蓋においては、蓋2の底面2Bから上方へ立ち上げた平面視矩形状の縦板部2Cのうち、ブッシング6,6(図1においては補助蓋9の下に隠れている)と端子4,4を隔てる縦板部の短側面側の下部に、切欠き部3に向けて三角形状に張り出す合成樹脂製の薄板2Dを設けたことを特徴とする。この三角形状に張り出す合成樹脂製の薄板2Dにより、後述するように、短側面の反りが抑制される。
【0014】
また、上記の本発明(1)の蓋においては、図2に示すように、蓋の裏側におけるブッシング6が合成樹脂に埋め込まれた下側部分6Bと導通部7が合成樹脂に埋め込まれた部分の隙間2Gに、ブッシング6が合成樹脂に埋め込まれた下側部分6Bと導通部7が合成樹脂に埋め込まれた部分をつなぐ合成樹脂製の薄板2Hが設けられていることを特徴とする。この蓋の裏側の薄板2Hにより、後述するように、短側面の反りが抑制される。
【0015】
図1に示すように、端子4は、空洞部を有する直方体状であり、長方形状の上面板部4Aと、この上面板部4Aの4辺から下方へ垂下している長方形状の前面板部4Bと、長方形状の後板部4Cと、左板部4D、右板部4Eとを備え、上面板部4Aと前面板部4Bには、ボルトを貫通させるための貫通孔4K1,4K2が形成され、右板部4Eには、空洞部にナットを横方向から挿入するための四角孔が形成されている。このとき、端子4の空洞部にナット11を挿入した場合、端子4の貫通孔4K1,4K2と連通するナットのネジ孔11K1,11K2が互いに交差しないように、一方の貫通孔4K1は長方形状の左に、他方の貫通孔4K2は長方形状の右に偏った位置に形成する。
【0016】
また、端子4の空洞部に挿入するナット11も直方体状とし、そのナット11に、ネジ孔を長方形状の上面から下面に向けた箇所11K1及び長方形状の前面から背面に向けた箇所11K2の2箇所に形成する。このとき、2箇所のネジ孔11K1,11K2は、互いに交差しないように、一方のネジ孔は長方形状の左に、他方のネジ孔は長方形状の右に偏った位置に形成する。
このような端子部及び端子用ナットを採用し、端子の貫通孔4K1とナットのネジ孔11K1、端子の貫通孔4K2とナットのネジ孔11K2が連通するように、端子4の空洞部にナット11を挿入して、図1に示す蓄電池10とすることにより、ボルト(図示せず)を上面の貫通孔4K1及び前面の4K2のいずれか一方又は両方から挿入し、ボルトの先端をナットに螺合させることができる。そして、これらボルトとナットの間に、図示していない外部リード線(電装品等に接続可能な線)等を挟み込んで固定する。
【0017】
本発明の蓄電池用蓋の基本的な構造は、図3に示す従来のものと同様である。以下、図3に基づいて、本発明の蓄電池用蓋の構造について説明する。前記蓋2内には、前記電槽1の極板群(図示せず)から延びる、電力を取り出すための極柱5が挿入されて溶接される筒状のブッシング6が備えられている。前記ブッシング6の上部側と該ブッシング6と水平方向で並置される前記端子4の下部側とを連結するための導通部7を備え、前記端子4とブッシング6と導通部7とを鉛又は鉛合金にて一体成形することにより端子部8を構成している。図3に示す5Aは、前記極柱5の下端に一体化されたストラップである。また、図に示す黒く塗りつぶしている部分Bは、前記ブッシング6と極柱5とがバーナー溶接された溶接部分を示し、半田付けに比べて強度面において有利になる。
【0018】
さらに、前記蓋2内に備えさせたブッシング6を上方から覆う、つまり蓋2の上端2Aの開口を閉じるための矩形状(長方形)の補助蓋9を備えている。この補助蓋9はそれの下側を熱溶融してから蓋2に被せることによって、蓋2の開口を密閉した状態で固着できるようになっている。すなわち、補助蓋9のリブ9R(9r)の下側を熱溶融してから、補助蓋9のスカート部9Sを溝部2M内に入り込ませるとともに補助蓋9のリブ9R(9r)を蓋2のリブ2R(2r)に押し付けることによって、補助蓋9のリブ9R(9r)を蓋2のリブ2R(2r)に溶着することでリブ9R(9r),2R(2r)によって囲まれた内側を密閉状態にすることができるようにしている。
【0019】
前記端子部8のうちのブッシング6の上側部分6Aを除いた下側部分6Bと導通部7とがインサート成形により前記蓋2に埋め込まれている。前記蓋2の縦板部2Cから端子4側へ膨出した膨出部2F,2Fにて導通部7の縦板部7Bが覆われている。前記のようにブッシング6が蓋2にインサート成形され、さらにブッシング6の外側に上下方向に沿って複数の環状の突起部6Tを備えるようにすることが好ましい。そうすることにより、蓄電池10からの電解液がブッシング6と蓋2との間から上方の蓋2の空間K内に移動し難くなるが、万一その電解液がブッシング6と蓋2との間から上方の蓋2の空間K内に移動してきたとしても、リブ9R(9r),2R(2r)によって囲まれた内側を密閉状態にしているから、補助蓋9の表面(蓄電池10の外部)に漏出し難い。
【0020】
前記導通部7が、前記ブッシング6の上部から水平方向に延びる第1水平板部7Aと、この第1水平板部7Aの端部から下方へ垂下する縦板部7Bと、この縦板部7Bの下端から水平方向へ延びて前記端子4の下部に接続される第2水平板部7Cとからなり、縦板部7Bの中央部付近に外側に突出する環状の突起部7Tを2個(1個又は3個以上でもよい)所定間隔を隔てて備えるようにしてもよい。この場合、前述のように、蓋2の上部の空間K内に移動してきた電解液が導通部7と蓋2の膨出部2Fの間を通って端子4に移動することを突起部7T,7Tにて一層確実に阻止することができるようになる。
なお、突起部7Tは、上記のように、電解液の端子4への移動を阻止するためのものであるから、その沿面距離が長くできる形状、例えば環状の凹部にしてもよく、この環状の凹部と前記環状の突起部7Tとを組み合わせてもよい。
【0021】
本発明の蓄電池用蓋は、空洞部を有する端子4と、電槽内の極板群から延びる極柱5が挿入されて溶接される筒状のブッシング6と、ブッシング6の上部側と端子4の下部側とを連結する導通部7とを一体成形により構成した上記のような端子部8を採用し、端子4の空洞部にナットを挿入してインサート成形したものであるが、その製造方法は以下のとおりである。
【0022】
まず、端子4とブッシング6と導通部7を、鉛又は鉛合金の鋳造法を採用して一体成形することにより端子部8を作製する。直方体の端子4が空洞部を有し、その端子4に、貫通孔4K1,4K2が長方形状の上面板部4A及び長方形状の前面板部4Bの左右に偏った位置に形成されるように、金型を用いて鉛又は鉛合金を鋳造することが好ましい。
なお、端子4は、直方体に限定されるものではなく、左右の形状も必ずしも同様でなくてもよく、上面板部4Aにおける貫通孔4K1の位置や前面板部4Bにおける貫通孔4K2の位置も図示したものに限定されるものではない。
鉛合金としては、Pb−Ca−Sn系合金、Pb−Sn系合金、Pb−Ca系合金、Pb−Sb系合金等を用いることができる。
【0023】
本発明の蓄電池用蓋の射出成形方法においては、上記のようにして作製した端子部8を用いて、貫通孔が2箇所ある端子4の空洞部に、ネジ孔が2箇所あるナット11を、端子の貫通孔4K1とナットのネジ孔11K1、端子の貫通孔4K2とナットのネジ孔11K2が連通するように挿入する。そして、蓋2の成形金型に、ナット11が挿入された端子部8をインサートして合成樹脂を射出成形する。射出成形圧力により、鉛又は鉛合金製の端子の底部が変形し、ナット11が端子4の空洞部に固定されて、図1に示す蓄電池用蓋2が作製される。
【0024】
本発明(4)においては、上記のように射出成形する際に、端子部8のうちの少なくともブッシング6の下側部分6Bと導通部7とが蓋2(合成樹脂)に埋め込まれるように、かつ、蓋2の裏側におけるブッシング6が合成樹脂に埋め込まれた下側部分6Bと導通部7が合成樹脂に埋め込まれた部分の隙間2Gに、両者をつなぐ合成樹脂製の薄板2Hが形成されるように射出成形する。すると、蓋2の裏側において、薄板(薄いリブ)2Hを形成する合成樹脂が、その近傍にある合成樹脂よりも速く凝固し、薄板2Hが、ツッパリ板の作用をし、薄板2Hの両端にあるブッシング6の下側部分6Bが埋め込まれる合成樹脂と導通部7が埋め込まれる合成樹脂を支持することにより、その合成樹脂の収縮を抑制する。したがって、端子部8が収縮率の大きい合成樹脂に埋め込まれた蓋2の裏側の収縮率が、従来よりも小さくなり、収縮率の小さい鉛又は鉛合金の端子部8が露出している蓋2の表側の収縮率と同程度となるので、蓋2の表側が凸状に、蓋2の裏側が凹状に変形する短側面の反りが抑制される。
【0025】
薄板(薄いリブ)2Hを形成する合成樹脂は、上記のように速く凝固させる必要があるから、ブッシング6の下側部分6Bが埋め込まれる合成樹脂と導通部7が埋め込まれる合成樹脂の厚さよりも薄くなるように射出成形する。また、図2に示すように、蓋2の裏側には、電槽1の対向する位置に設けられた隔壁と接合するためのリブ2R′が設けられているが、薄板(薄いリブ)2Hの厚さは、上記のリブ2R′やリブ2R′に連なる蓋2の周縁部よりも薄くしておき、これらが薄板(薄いリブ)2Hより速く凝固しないようにする必要がある。
蓋2の裏側の収縮を効率的に抑制するためには、薄板(薄いリブ)2Hの数は、複数とすることが好ましい。また、図2に示すように、薄板(薄いリブ)2Hは、ブッシング6の下側部分6Bが埋め込まれた合成樹脂から、導通部7が埋め込まれた合成樹脂とは反対方向にも突出させれば、より効果がある。
【0026】
本発明(5)においては、上記のように射出成形する際に、端子部8のうちの少なくともブッシング6の下側部分6Bと導通部7とが蓋2(合成樹脂)に埋め込まれるように、かつ、蓋2の底面2Bから上方へブッシング6,6と端子4,4を隔てる縦板部2Cが立ち上がり、縦板部2Cの短側面側の下部に、端子4を備える切欠き部3に向けて三角形状の薄板2Dが張り出すように、合成樹脂を射出成形する(図1及び図3参照)。すると、射出成形後の温度の低下に伴って、端子部8が埋め込まれた蓋2の裏側の合成樹脂が凹状に変形し、端子部8が露出している蓋2の表側の合成樹脂が凸状に変形しようとする作用に対して、三角形状の薄板2Dの凝固、収縮が反作用となって、蓋2の表側が凸状に、蓋2の裏側が凹状に変形する短側面の反りが抑制される。
本発明(4)又は(5)のいずれの方法で射出成形しても、蓋の変形は抑制できるが、本発明(4)及び(5)の両方を併用すれば、その効果は顕著である。
【0027】
本発明においては、上記のような射出成形方法を用いて蓋を作製する場合に限らず、空洞部を有する直方体状の端子4とブッシング6と導通部7とが一体成形により構成され、端子4の貫通孔4K1,4K2が、長方形状の上面板部及び長方形状の前面板部の2箇所に、かつ、端子4の貫通孔4K1,4K2と連通するナット11のネジ孔11K1,11K2が互いに交差しないような位置に形成されている蓄電池用端子部を用いて、従来と同様にインサート成形することにより蓄電池用蓋を作製し、蓄電池への外部リード線の接続時に、ナット11のネジ孔11K1,11K2が、長方形状の上面から下面に向けた箇所及び長方形状の前面から背面に向けた箇所の2箇所に、かつ、互いに交差しない位置に形成されている直方体状のナットを、端子4の貫通孔4K1,4K2とナット11のネジ孔11K1,11K2が連通するように、端子4の空洞部に挿入して蓄電池としてもよい。
また、従来の蓄電池のように、ナットのネジ孔を一つとし、外部リード線を接続したい端子の貫通孔として、天板部(上面板部)又は前板部(前面板部)のいずれかの貫通孔を選択し、その選択した貫通孔とナットのネジ孔とが一致するように、ナットの向きを変更して端子の空洞部に挿入する方法も採用できる。
【0028】
蓄電池への外部リード線の接続時に、ナットを端子の空洞部に挿入する場合には、図3に示すように、端子4の下端に蓋成形時の樹脂にて埋設されてアンカー効果を発揮する板状で小判状のアンカー部4Tを一体形成することができる。アンカー部4Tを別体形成して、端子4の下端に溶接等により一体化してもよい。アンカー部4Tは、端子4の下端に一体形成されている平板状の底部4Fから下方に一体的に延びる連結部4Gの下端に、該連結部4Gよりも平面視において大きな寸法にて一体形成されている。
ナットを端子の空洞部に挿入してインサート成形する場合には、端子4の底部を変形させる必要があるが、上記のように底部の中央にアンカー部を突設すると端子4の底部を変形させ難くなる。そこで、アンカー部を突設する場合には、端子4の底部4Fに、切り欠きを中央部に有するアンカー部、例えば、板の中央部を大きく切り欠き、中央部の肉を無くしたU字状のアンカー部を突設し、その切り欠きに対応する肉厚が薄い端子の底部を変形させるようにする。この場合、アンカー部が端子の底部の全面を覆わないで、端子の底部に変形し得る肉厚が薄い部分が残っていればよいから、アンカー部はU字状に限らず、他の形状の切り欠きを有するものでもよく、あるいは、穴を中央部に有するアンカー部、空間を中央部に有する2列のアンカー部など、少なくとも中央部を除いた箇所にアンカー部が突設されるものであればよい。
【0029】
本発明の蓄電池用の蓋は、通常の鉛蓄電池の電槽、すなわち、隔壁によって内部が複数のセルに区画され、各セルに極板群が収納され、前記極板群から延びる極柱を有する合成樹脂製の電槽に適用でき、上記のように、電槽1内の極板群から延びる極柱5を、上方から被覆した蓋2のブッシング6に溶接することにより、電力を取り出すようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の蓄電池の斜視図である。
【図2】本発明の蓄電池用蓋の裏側の構造を示す蓋の底面図である。
【図3】従来の補助蓋が装着された蓋に埋設された端子部の断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1:電槽、2:蓋、2A:上端、2B:底面、2C:縦板部、2D:三角形状の薄板、2F:膨出部、2G:裏側の隙間、2H:裏側の薄板(薄いリブ)、2R′:裏側のリブ、2M:溝部、2R(2r):リブ、3:切欠き部、4:端子、4A:天板部(上面板部)、4B:前板部(前面板部)、4C:後板部、4D:左板部、4E:右板部、4F:底部、4G:連結部、4K1,4K2:貫通孔、4T:アンカー部、4a:上面、5:極柱、6:ブッシング、6A:上側部分、6B:下側部分、6T:突起部、7:導通部、7A:水平板部、7B:縦板部、7C:水平板部、7T:突起部、8:端子部、9:補助蓋、9R(9r):リブ、9S:スカート部、10:蓄電池、11:ナット、11K1,11K2:ネジ孔、B:溶接部分、K:空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電槽を閉じるための合成樹脂製の蓋に、切欠き部又は凹部を形成し、前記切欠き部又は凹部に端子を備え、前記電槽内の極板群から延びる極柱が挿入されて溶接される筒状のブッシングを前記蓋内に備え、前記ブッシングの上部側と、前記ブッシングと水平方向で並置される前記端子の下部側とを連結する導通部を備え、前記端子とブッシングと導通部とが一体成形により端子部を構成するとともに、前記端子部のうちの少なくともブッシングの下側部分と前記導通部とがインサート成形により前記蓋に埋め込まれた蓄電池用蓋において、前記蓋の裏側における前記ブッシングが前記合成樹脂に埋め込まれた下側部分と前記導通部が前記合成樹脂に埋め込まれた部分の隙間に、両者をつなぐ前記合成樹脂製の薄板が設けられていることを特徴とする蓄電池用蓋。
【請求項2】
電槽を閉じるための合成樹脂製の蓋に、切欠き部を形成し、前記切欠き部に端子を備え、前記電槽内の極板群から延びる極柱が挿入されて溶接される筒状のブッシングを前記蓋内に備え、前記ブッシングの上部側と、前記ブッシングと水平方向で並置される前記端子の下部側とを連結する導通部を備え、前記端子とブッシングと導通部とが一体成形により端子部を構成するとともに、前記端子部のうちの少なくともブッシングの下側部分と前記導通部とがインサート成形により前記蓋に埋め込まれた蓄電池用蓋において、前記蓋の底面から上方へ立ち上げた前記ブッシングと前記端子を隔てる縦板部の短側面側の下部に、前記切欠き部に向けて三角形状に張り出す前記合成樹脂製の薄板を設けたことを特徴とする蓄電池用蓋。
【請求項3】
ナットが前記端子の空洞部に挿入されて固定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の蓄電池用蓋。
【請求項4】
空洞部を有する端子と、電槽内の極板群から延びる極柱が挿入されて溶接される筒状のブッシングと、前記ブッシングの上部側と、前記ブッシングと水平方向で並置される前記端子の下部側とを連結する導通部とが一体成形により構成された端子部を、蓋の成形金型にインサートして、前記端子部のうちの少なくともブッシングの下側部分と前記導通部とが前記蓋に埋め込まれるように合成樹脂を射出成形する蓄電池用蓋の射出成形方法において、前記蓋の裏側における前記ブッシングが前記合成樹脂に埋め込まれる下側部分と前記導通部が前記合成樹脂に埋め込まれる部分の隙間に、両者をつなぐ前記合成樹脂の薄板が形成されるように射出成形し、前記薄板を形成する前記合成樹脂を、その近傍にある合成樹脂よりも速く凝固させ、前記薄板が、その両端の合成樹脂を支持し、該合成樹脂の収縮を抑制することにより、蓋の変形を抑制することを特徴とする蓄電池用蓋の射出成形方法。
【請求項5】
空洞部を有する端子と、電槽内の極板群から延びる極柱が挿入されて溶接される筒状のブッシングと、前記ブッシングの上部側と、前記ブッシングと水平方向で並置される前記端子の下部側とを連結する導通部とが一体成形により構成された端子部を、蓋の成形金型にインサートして、前記端子部のうちの少なくともブッシングの下側部分と前記導通部とが前記蓋に埋め込まれるように合成樹脂を射出成形する蓄電池用蓋の射出成形方法において、前記蓋の底面から上方へ前記ブッシングと前記端子を隔てる縦板部が立ち上がり、その短側面側の下部に、前記端子を備える切欠き部に向けて三角形状の薄板が張り出すように、前記合成樹脂を射出成形し、前記三角形状の薄板を形成する前記合成樹脂を凝固、収縮させることにより、蓋の変形を抑制することを特徴とする蓄電池用蓋の射出成形方法。
【請求項6】
前記合成樹脂を射出成形する際に、ナットを前記端子の空洞部に挿入することを特徴とする請求項4又は5に記載の蓄電池用蓋の射出成形方法。
【請求項7】
隔壁によって内部が複数のセルに区画され、各セルに極板群が収納され、前記極板群から延びる極柱を有する合成樹脂製の電槽と、前記電槽を上方から被覆する合成樹脂製の蓋とを備えた蓄電池において、請求項1〜3のいずれか一項に記載の蓄電池用蓋を備えたことを特徴とする蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−134588(P2011−134588A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292980(P2009−292980)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】