説明

薄膜デバイスの製造方法及び薄膜デバイス形成基板並びに液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】薄膜素子の形成精度を向上した薄膜デバイスの製造方法及び薄膜デバイス形成基板、並びに液体噴射ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】デバイス基板上に薄膜素子が設けられた薄膜デバイスの製造方法であって、デバイス基板が複数一体的に形成されるデバイス用ウェハ上に薄膜素子を構成する素子形成膜を形成し、この素子形成膜をパターニングすることによって薄膜素子を形成する工程と、デバイス用ウェハを複数のデバイス基板に分割する工程とを有し、且つ薄膜素子を形成する工程が素子形成膜をパターニングする前に、デバイス用ウェハのデバイス基板間の所定位置に素子形成膜の一部が形成されていない薄膜部を形成する工程を含むようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デバイス基板上に薄膜素子を有する薄膜デバイスの製造方法及び薄膜デバイスを複数一体的に有する薄膜デバイス形成基板に関し、特に、薄膜素子として圧電素子を有しこの圧電素子の変位により液滴を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッド等に用いられる圧電素子は、電気機械変換機能を呈する圧電材料等の強誘電材料からなる圧電体層を2つの電極で挟んだ素子であり、圧電体層は、例えば、結晶化した圧電性セラミックスにより構成されている。このような圧電素子を用いた液体噴射ヘッドとしては、例えば、インク滴を吐出するノズルと連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズルからインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドがある。
【0003】
ここで、インクジェット式記録ヘッドを構成する流路形成基板は、例えば、シリコンウェハからなる流路形成基板用ウェハに複数一体的に形成される。そして、流路形成基板用ウェハの状態で薄膜素子である圧電素子、圧力発生室等を形成した後、各流路形成基板に分割される。また、圧電素子を構成する素子形成膜は、流路形成基板用ウェハ上に全面に亘って形成された後、レジスト膜等をマスクとしてエッチングすることにより、所定形状にパターニングされている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−050487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような方法で圧電素子を形成した場合、圧電素子の寸法精度が低くなってしまう虞がある。具体的には、流路形成基板用ウェハと圧電素子を構成する素子形成膜とは線膨張係数が異なるため、流路形成基板用ウェハ上に素子形成膜が形成されていると流路形成基板用ウェハに反りが生じてしまう。圧電素子は、例えば、レジスト膜をマスクとして素子形成膜をパターニングすることによって形成される。このため、流路形成基板用ウェハに反りが生じているとレジスト膜の位置精度が低下してしまう。したがって、このようなレジスト膜をマスクとして素子形成膜をパターニングすると、圧電素子の寸法精度が低下してしまう虞がある。
【0006】
なお、このような問題は、インク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッド等の液体噴射ヘッドの製造方法だけでなく、あらゆる薄膜素子を有するデバイス基板の製造方法においても同様に存在する。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、薄膜素子の形成精度を向上した薄膜デバイスの製造方法及び薄膜デバイス形成基板、並びに薄膜素子である圧電素子の寸法精度を向上した液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は、デバイス基板上に薄膜素子が設けられた薄膜デバイスの製造方法であって、前記デバイス基板が複数一体的に形成されるデバイス用ウェハ上に前記薄膜素子を構成する素子形成膜を形成し、この素子形成膜をパターニングすることによって前記薄膜素子を形成する工程と、前記デバイス用ウェハを複数の前記デバイス基板に分割する工程とを有し、且つ前記薄膜素子を形成する工程は、前記素子形成膜をパターニングする前に、前記デバイス用ウェハの前記デバイス基板間の所定位置に前記素子形成膜の一部が形成されていない薄膜部を形成する工程を含むことを特徴とする薄膜デバイスの製造方法にある。
【0009】
かかる本発明では、薄膜素子をパターニングにより形成する際に、デバイス用ウェハの反りが低減されているため、薄膜素子を高精度に形成し寸法精度を向上することができる。
【0010】
ここで、前記薄膜部を、前記デバイス用ウェハの中央部に形成することが好ましい。これにより、デバイス用ウェハの反りを効果的に低減させることができる。
【0011】
また、前記デバイス用ウェハの中央部に、前記デバイス基板が形成されないデバイス非形成部を設け、且つこのデバイス非形成部上に前記薄膜部を形成することが好ましい。これにより、不良品の発生を防止することができ、薄膜デバイスの取り個数が増加する。
【0012】
また、前記薄膜部を、前記デバイス用ウェハの各デバイス基板間にそれぞれ形成することが好ましい。これにより、デバイス用ウェハの反りをより確実に低減させることができる。
【0013】
さらに本発明は、液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に設けられて前記圧力発生室に圧力を付与する圧電素子とを有する液体噴射ヘッドの製造方法であって、前記流路形成基板が複数一体的に形成される流路形成基板用ウェハ上に前記圧電素子を構成する素子形成膜を形成し、前記素子形成膜をパターニングすることによって前記圧電素子を形成する工程と、前記流路形成基板用ウェハに前記圧力発生室を形成する工程と、前記流路形成基板用ウェハを複数の前記流路形成基板に分割する工程とを有し、且つ前記圧電素子を形成する工程は、前記素子形成膜をパターニングする前に、前記流路形成基板用ウェハの前記流路形成基板間の所定位置に前記素子形成膜の一部が形成されていない薄膜部を形成する工程を含むことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0014】
かかる本発明では、圧電素子をパターニングにより形成する際に、流路形成基板用ウェハの反りが低減されているため、圧電素子を高精度に形成し寸法精度を向上することができる。
【0015】
ここで、前記薄膜部を、前記流路形成基板用ウェハの中央部に形成することが好ましい。これにより、デバイス用ウェハの反りを効果的に低減させることができる。
【0016】
また、前記流路形成基板用ウェハの中央部に、前記流路形成基板が形成されない流路形成基板非形成部を設け、且つこの流路形成基板非形成部上に前記薄膜部を形成することが好ましい。これにより、不良品の発生を防止することができ、歩留まりが向上する。
【0017】
また、前記薄膜部を、前記流路形成基板用ウェハの前記流路形成基板間にそれぞれ形成することが好ましい。これにより、流路形成基板用ウェハの反りをより確実に低減することができる。
【0018】
さらに本発明は、デバイス基板上に薄膜素子が形成された薄膜デバイスを複数一体的に有する薄膜デバイス形成基板であって、前記デバイス基板が複数一体的に形成されたデバイス用ウェハの中央部に、前記デバイス基板が形成されていないデバイス非形成部を有し、且つこのデバイス非形成部は前記薄膜素子を構成する素子形成膜の一部が形成されていない薄膜部となっていることを特徴とする薄膜デバイス形成基板にある。
【0019】
かかる本発明では、薄膜素子の特性を向上することができると共に、歩留まりを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明を一実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びA−A’断面図である。図示するように、インクジェット式記録ヘッドを構成する流路形成基板(デバイス基板)10は、例えば、面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。流路形成基板10には、隔壁11によって区画された複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向一端部側には、隔壁11によって区画され各圧力発生室12に連通するインク供給路13と連通路14とが設けられている。連通路14の外側には、各連通路14と連通する連通部15が設けられている。この連通部15は、後述する保護基板30のリザーバ部32と連通して、各圧力発生室12の共通するリザーバ100の一部を構成する。
【0021】
インク供給路13は、圧力発生室12よりも狭い断面積となるように形成されており、連通部15から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。このインク供給路13は、具体的には、リザーバ100と各圧力発生室12との間の圧力発生室12側の流路を幅方向に絞ることで、圧力発生室12の幅より小さい幅で形成されている。各連通路14は、圧力発生室12の幅方向両側の隔壁11を連通部15側に延設してインク供給路13と連通部15との間の空間を区画することで形成されている。なお、インク供給路13は、上述した構成に限定されず、例えば、流路の幅が両側から絞られていてもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。このような流路形成基板10の材料として、上述したようにシリコン単結晶基板が好適に用いられるが、勿論これに限定されず、例えば、ガラスセラミックス、ステンレス鋼等を用いてもよい。
【0022】
流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路13とは反対側の端部近傍に連通するノズル21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又はステンレス鋼(SUS)などからなる。
【0023】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、下電極膜60と、厚さが1.0〜5.0μm程度の圧電体層70と、上電極膜80とからなる圧電素子(薄膜素子)300が形成されている。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極を圧電体層70と共に圧力発生室12毎にパターニングして個別電極とする。本実施形態では、下電極膜60を圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び下電極膜60が実質的に振動板として作用するが、弾性膜50、絶縁体膜55を設けずに、下電極膜60のみを残して下電極膜60を振動板としてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0024】
また流路形成基板10上には、圧電素子300を保護するための圧電素子保持部31を有する保護基板30が接合されている。なお、この圧電素子保持部31は密封されていてもよいが、密封されていなくてもよい。さらに保護基板30には、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部32が設けられている。保護基板30上には、剛性が低く可撓性を有する材料で形成される封止膜41と金属等の硬質の材料で形成される固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。なお、固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっており、リザーバ100の一方面は封止膜41のみで封止されている。
【0025】
このようなインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル21に至るまで内部をインクで満たした後、図示しない駆動回路からの記録信号に従い、外部配線を介して圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、圧電素子300及び振動板をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル21からインク滴が吐出する。
【0026】
以下、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法、特に、圧電素子の形成方法について説明する。
【0027】
上述の流路形成基板10は、図3に示すように、シリコンウェハからなる流路形成基板用ウェハ(デバイス用ウェハ)110に複数一体的に形成され、その後、この流路形成基板用ウェハ110を分割することによって形成される。このとき本実施形態では、流路形成基板用ウェハ110の中央部に流路形成基板10が形成されない流路形成基板非形成部(デバイス非形成部)111を形成するようにした。
【0028】
ここで、一般的に流路形成基板用ウェハ110には、複数の各流路形成基板10が個々に分割するためのブレイクパターンを挟んで連続して並設されている。つまり、各流路形成基板10は、流路形成基板用ウェハ110の中央部側に密集して形成されている。これに対し、本発明では、流路形成基板10の配置を、図中矢印で示すように流路形成基板用ウェハ110の外周部側に若干ずらすことで、中央部に流路形成基板非形成部(以下、「非形成部」と呼ぶ)111を形成している。
【0029】
なお、流路形成基板10をこのように配置した場合でも、流路形成基板用ウェハ110の外周部には、所定幅のスペース(図3中点線の外側)を形成しておく必要がある。このスペースは、流路形成基板用ウェハ110の剛性を確保してウェハの割れを防止するために必要である。
【0030】
そして、まずはこの流路形成基板用ウェハ110に、図4(a)に示すように、弾性膜50となる二酸化シリコン膜51を形成する。次いで、図4(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜55を形成する。次に、図4(c)に示すように、絶縁体膜55上の全面に下電極膜60を形成すると共に所定形状にパターニングする。この下電極膜60の材料は、特に限定されないが、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ない材料であることが望ましい。このため、下電極膜60の材料としては白金、イリジウム等が好適に用いられる。
【0031】
次いで、図4(d)に示すように、下電極膜60上に、例えば、圧電体層70及び上電極膜80を順次形成する。例えば、本実施形態では、いわゆるMOD(Metal-Organic Decomposition)法によって圧電体層70を形成している。すなわち、金属アルコキシド等の有機金属化合物をアルコールに溶解し、これに加水分解抑制剤等を加えて得たコロイド溶液を、例えば、スピンコート法等により塗布して圧電体前駆体膜を形成した後、この圧電体前駆体膜を乾燥・脱脂して有機成分を離脱させた後、焼成して結晶化させることで圧電体層70を得ている。
【0032】
なお、圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電材料が用いられる。また焼成によって形成される圧電体層70中の鉛の欠けを防止するために過剰鉛(化学量論比を上回る鉛)を含有する圧電材料が用いられる。勿論、圧電体層70の材料は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)に限定されるものではない。例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)にニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイットリウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等を用いてもよい。その組成は、圧電素子300の特性、用途等を考慮して適宜選択すればよいが、例えば、PbTiO3(PT)、PbZrO3(PZ)、Pb(ZrxTi1-x)O3(PZT)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PMN−PT)、Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PZN−PT)、Pb(Ni1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PNN−PT)、Pb(In1/2Nb1/2)O3−PbTiO3(PIN−PT)、Pb(Sc1/2Ta1/2)O3−PbTiO3(PST−PT)、Pb(Sc1/2Nb1/2)O3−PbTiO3(PSN−PT)、BiScO3−PbTiO3(BS−PT)、BiYbO3−PbTiO3(BY−PT)等が挙げられる。また、本実施形態では、圧電体層70を、MOD法により形成するようにしたが、これに限定されず、いわゆるゾル−ゲル法によって形成するようにしてもよい。
【0033】
ここで、流路形成基板用ウェハ110上に圧電素子300を構成する素子形成膜(下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80)が形成された状態では、これら素子形成膜と流路形成基板用ウェハ110との線膨張係数の違いにより、流路形成基板用ウェハ110には反りが生じてしまう。例えば、本実施形態に係る流路形成基板用ウェハ110の場合、図5(a)に示すように、常温においては、下電極膜60とは反対面側が凸となる反りが生じてしまう。この状態で、圧電体層70及び上電極膜80をパターニングした場合、マスクとなるレジスト膜の形成精度が低下し、それに伴い圧電素子300の寸法精度も低下してしまう虞がある。
【0034】
このため本発明では、これら素子形成膜をパターニングして圧電素子300を形成する前に、流路形成基板用ウェハ110の流路形成基板10間の所定位置に、素子形成膜の一部、つまり、素子形成膜を構成する複数の膜の何れかが形成されていない薄膜部112を設けるようにしている。本実施形態では、圧電体層70上に上電極膜80を形成後、これら圧電体層70及び上電極膜80をパターニングすることにより、図5(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の中央部の非形成部111内の圧電体層70及び上電極膜80を除去して下電極膜60のみが存在する薄膜部112を形成した。つまり、本実施形態の構成では、非形成部111が薄膜部112となっている。
【0035】
上述した線膨張係数の違いによって流路形成基板用ウェハ110にかかる応力は、流路形成基板用ウェハ110の中央部が最も大きくなる。したがって、本実施形態のように流路形成基板用ウェハ110の中央部に薄膜部112を形成することで、流路形成基板用ウェハ110にかかる応力は大幅に緩和される。すなわち、流路形成基板用ウェハ110の反り量が大幅に減少する。
【0036】
そして、このように流路形成基板用ウェハ110の反りを低減させた状態で、圧電体層70及び上電極膜80をパターニングして各圧力発生室12に対向する領域に圧電素子300を形成する。具体的には、まず図6(a)に示すように、上電極膜80上にレジストを塗布してレジスト膜150を形成する。次いで、図6(b)に示すように、所定のマスク200を介してレジスト膜150を露光し、その後、現像することにより所定パターンのレジスト膜150とする。ここで、レジスト膜150は、例えば、ネガレジストをスピンコート法等により塗布し、その後、所定のマスクを用いて露光・現像・ベークを行うことにより形成する。勿論、ネガレジストの代わりにポジレジストを用いてもよい。そして、図6(c)に示すように、このようなレジスト膜150をマスクとして上電極膜80及び圧電体層70をイオンミリングすることによって圧電素子300を形成する。これによりデバイス基板としての流路形成基板上に薄膜素子としての圧電素子を有する薄膜デバイスを複数一体的に有する薄膜デバイス形成基板が形成されたことになる。
【0037】
このように本実施形態では、素子形成膜である圧電体層70及び上電極膜80をパターニングして圧電素子300を形成する前に、流路形成基板用ウェハ110の中央部に薄膜部112を形成するようにした。これにより、上述したように圧電素子300をパターニングする際の流路形成基板用ウェハ110の反りは実質的に解消されている(図5(b))。したがって、圧電素子300をパターニングするためのレジスト膜150を高精度に形成することができる。つまり、露光用のマスク200を高精度に位置合わせしてレジスト膜150を露光することができるため、レジスト膜150の形成精度が大幅に向上する(図6(b))。よって、このようなレジスト膜150をマスクとして上電極膜80及び圧電体層70をパターニングして圧電素子300を形成することで、圧電素子300を極めて高精度に形成することができる(図6(c))。
【0038】
さらに、本実施形態では、流路形成基板用ウェハ110の中央部に非形成部111が設けられていることで、1枚の流路形成基板用ウェハ110からの流路形成基板10の取り個数が実質的に向上する。流路形成基板用ウェハ110の中央部では、圧電体層70の圧電特性が他の部分と異なってしまう場合がある。このため、流路形成基板用ウェハ110の中央部から切り出した流路形成基板10に形成されている各圧電素子300は、変位特性にばらつきが生じてしまい不良品扱いとなることがある。特に、圧電体層70となる圧電体前駆体膜をスピンコートによって形成した場合には、このような問題が生じやすい。
【0039】
しかしながら、本実施形態のように、流路形成基板用ウェハ110の中央部に非形成部111を設けるようにしたので、不良品の発生が抑えられて取り個数が実質的に増加する。したがって、歩留まりが大幅に向上する。
【0040】
なお、本実施形態では、流路形成基板用ウェハ110の中央部のみに薄膜部112を形成するようにしたが、薄膜部112の形成位置は、特に限定されるものではない。例えば、薄膜部112は、流路形成基板用ウェハ110の反りを解消できる場所であれば、流路形成基板10間の何れの部分に設けられていてもよい。例えば、図7に示すように、非形成部111及び薄膜部112を、流路形成基板用ウェハ110の中央部と共に、各流路形成基板10間にそれぞれ形成するようにしてもよい。これにより、流路形成基板用ウェハ110の反りをさらに確実に防止することができる。また、流路形成基板10の取り個数を増やすという観点からは、上述したように非形成部111を流路形成基板用ウェハ110の中央部に形成するのが好ましい。ただし、圧電素子300の寸法精度を向上するという観点からは、非形成部111は必ずしも設けられている必要はない。
【0041】
このように圧電素子300を形成した後は、図8(a)に示すように、金(Au)からなる金属層91を流路形成基板用ウェハ110の全面に亘って形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介してこの金属層91を圧電素子300毎にパターニングすることによってリード電極90を形成する。次に、図8(b)に示すように、複数の保護基板30が一体的に形成される保護基板用ウェハ130を、流路形成基板用ウェハ110上に接着剤35によって接着する。ここで、保護基板用ウェハ130には、圧電素子保持部31、リザーバ部32等が予め形成されている。次いで、図8(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110をある程度の厚さとなるまで研磨した後、さらにフッ硝酸によってウェットエッチングすることにより流路形成基板用ウェハ110を所定の厚みにする。
【0042】
次いで、図9(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110上に、例えば、窒化シリコン(SiN)からなる保護膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、図9(b)に示すように、この保護膜52を介して流路形成基板用ウェハ110を異方性エッチング(ウェットエッチング)して、流路形成基板用ウェハ110に、圧力発生室12、インク供給路13、連通路14及び連通部15を形成する。その後、流路形成基板用ウェハ110の保護基板用ウェハ130とは反対側の面にノズル21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハ130にコンプライアンス基板40を接合し、これら流路形成基板用ウェハ110等を、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって上述した構造のインクジェット式記録ヘッドが製造される。
【0043】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、圧電体層70及び上電極膜80を流路形成基板用ウェハ110の全面に形成後に、薄膜部112を形成するようにしたが、これに限定されるものではない。薄膜部112は、パターニングにより圧電素子300を形成する前に形成されていればよく、例えば、圧電体層70及び上電極膜80を形成する際に、これら圧電体層70及び上電極膜80を流路形成基板用ウェハ110の中央部(非形成部111)を除いた部分に形成するようにしてもよい。
【0044】
また、上述の実施形態では、圧電体層70及び上電極膜80を除去することで薄膜部112を形成するようにしたが、勿論、下電極膜60は必ずしも残っている必要はなく、圧電体層70等と共に除去されていてもよい。さらに、下電極膜60のみを除去して薄膜部112を形成するようにしてもよい。つまり、薄膜部112には圧電体層70及び上電極膜80が残っていてもよい。なお、このような薄膜部112は、例えば、圧電体層70及び上電極膜80を形成する前の下電極膜60パターニング工程で、同時に形成すればよい。
【0045】
また、例えば、上述の実施形態では、液体噴射ヘッドとしてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドを例示したが、本発明は、広く液体噴射ヘッドを対象としたものである。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を挙げることができる。
【0046】
また、本発明は、液体噴射ヘッドに利用される圧電素子の製造方法だけでなく、他のあらゆる装置、例えば、マイクロホン、発音体、各種振動子、発信子等に搭載される圧電素子の製造方法にも適用できることは言うまでもない。
【0047】
また、本発明は、液体噴射ヘッドだけでなく、デバイス基板上に圧電素子などの薄膜素子が形成された薄膜デバイスの製造に適用することができるものであり、その対象は特に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】実施形態1に係る流路形成基板用ウェハの平面図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す概略図である。
【図6】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図7】流路形成基板用ウェハの変形例を示す平面図である。
【図8】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図9】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【符号の説明】
【0049】
10 流路形成基板、 12 圧力発生室。 13 インク供給路、 14 連通路、 15 連通部、 20 ノズルプレート、 30 保護基板、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 80 上電極膜、 90 リード電極、 110 流路形成基板用ウェハ、 111 デバイス非形成部、 112 薄膜部、 130 保護基板用ウェハ、 150 レジスト膜、 200 マスク、 300 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デバイス基板上に薄膜素子が設けられた薄膜デバイスの製造方法であって、
前記デバイス基板が複数一体的に形成されるデバイス用ウェハ上に前記薄膜素子を構成する素子形成膜を形成し、この素子形成膜をパターニングすることによって前記薄膜素子を形成する工程と、前記デバイス用ウェハを複数の前記デバイス基板に分割する工程とを有し、
且つ前記薄膜素子を形成する工程は、前記素子形成膜をパターニングする前に、前記デバイス用ウェハの前記デバイス基板間の所定位置に前記素子形成膜の一部が形成されていない薄膜部を形成する工程を含むことを特徴とする薄膜デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記薄膜部を、前記デバイス用ウェハの中央部に形成することを特徴とする請求項1に記載の薄膜デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記デバイス用ウェハの中央部に、前記デバイス基板が形成されないデバイス非形成部を設け、且つこのデバイス非形成部上に前記薄膜部を形成することを特徴とする請求項2に記載の薄膜デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記薄膜部を、前記デバイス用ウェハの各デバイス基板間にそれぞれ形成することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の薄膜デバイスの製造方法。
【請求項5】
液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に設けられて前記圧力発生室に圧力を付与する圧電素子とを有する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記流路形成基板が複数一体的に形成される流路形成基板用ウェハ上に前記圧電素子を構成する素子形成膜を形成し、前記素子形成膜をパターニングすることによって前記圧電素子を形成する工程と、前記流路形成基板用ウェハに前記圧力発生室を形成する工程と、前記流路形成基板用ウェハを複数の前記流路形成基板に分割する工程とを有し、
且つ前記圧電素子を形成する工程は、前記素子形成膜をパターニングする前に、前記流路形成基板用ウェハの前記流路形成基板間の所定位置に前記素子形成膜の一部が形成されていない薄膜部を形成する工程を含むことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記薄膜部を、前記流路形成基板用ウェハの中央部に形成することを特徴とする請求項5に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記流路形成基板用ウェハの中央部に、前記流路形成基板が形成されない流路形成基板非形成部を設け、且つこの流路形成基板非形成部上に前記薄膜部を形成することを特徴とする請求項6に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記薄膜部を、前記流路形成基板用ウェハの前記流路形成基板間にそれぞれ形成することを特徴とする請求項5〜7の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項9】
デバイス基板上に薄膜素子が形成された薄膜デバイスを複数一体的に有する薄膜デバイス形成基板であって、
前記デバイス基板が複数一体的に形成されたデバイス用ウェハの中央部に、前記デバイス基板が形成されていないデバイス非形成部を有し、且つこのデバイス非形成部は前記薄膜素子を構成する素子形成膜の一部が形成されていない薄膜部となっていることを特徴とする薄膜デバイス形成基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−32974(P2009−32974A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196510(P2007−196510)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】