説明

薄膜光電変換装置

【課題】結晶質シリコン光電変換層を含む薄膜光電変換装置の開放電圧、短絡電流密度を増加して光電変換効率を改善した薄膜光電変換装置を提供する。
【解決手段】結晶質シリコン光電変換ユニット4の一導電型層41と光電変換層42との間に、実質的に真性なシリコン複合層からなる界面層44を配置し、実質的に真性なシリコン複合層からなる界面層44は非晶質酸素化シリコン母相中に結晶シリコン相が分散している層で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜光電変換装置の改善に関し、特に結晶質シリコン半導体を用いた薄膜光電変換装置の開放電圧、短絡電流密度の増加による光電変換効率の改善した薄膜光電変換装置に関する。なお、本願明細書における「結晶質」および「微結晶」の用語は、当該技術分野において用いられているように、部分的に非晶質を含む場合にも用いられている。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体内部の光電効果を用いて光を電気に変換する光電変換装置が注目され、開発が精力的行われているが、その光電変換装置の中でもシリコン系薄膜光電変換装置は、低温で大面積のガラス基板やステンレス基板上に形成できることから、低コスト化が期待できる。
【0003】
このようなシリコン系薄膜光電変換装置は、一般に透明絶縁基板上に順に積層された透明電極層と、1つ以上の光電変換ユニットと、及び裏面電極層とを含んでいる。ここで、光電変換ユニットは一般にp型層、i型層、及びn型層がこの順、またはその逆順に積層されてなり、その主要部を占めるi型の光電変換層が非晶質のものは非晶質光電変換ユニットと呼ばれ、i型層が結晶質のものは結晶質光電変換ユニットと呼ばれている。
【0004】
光電変換層は、光を吸収して電子・正孔対を発生させる層である。一般に、シリコン系薄膜光電変換装置では、pin接合のうちi型層が光電変換層である。光電変換層であるi型層が、光電変換ユニットの主要な膜厚を占める。
【0005】
i型層は、理想的には導電型決定不純物を含まない真性の半導体層である。しかし、微量の不純物を含んでいても、フェルミ準位が禁制帯のほぼ中央にあれば、pin接合のi型層として機能するので、これを実質的に真性(実質的にi型)の層と呼ぶ。一般に、実質的に真性の層は、導電型決定不純物を原料ガスに添加せずに作製する。この場合、i型層として機能する許容範囲で導電型決定不純物を含んでも良い。また、実質的にi型の層は、大気や下地層に起因する不純物がフェルミ準位に与える影響を取り除くために、微量の導電型決定不純物を意図的に添加して作製しても良い。
【0006】
また、光電変換装置の変換効率を向上させる方法として、2つ以上の光電変換ユニットを積層した、積層型と呼ばれる構造を採用した光電変換装置が知られている。この方法においては、光電変換装置の光入射側に大きな光学的禁制帯幅を有する光電変換層を含む前方光電変換ユニットを配置し、その後ろに順に小さな光学的禁制帯幅を有する(たとえばSi−Ge合金などの)光電変換層を含む後方光電変換ユニットを配置することにより、入射光の広い波長範囲にわたる光電変換を可能にし、入射する光を有効利用することにより装置全体としての変換効率の向上が図られている。
【0007】
たとえば非晶質シリコン光電変換ユニットと結晶質シリコン光電変換ユニットとを積層した2接合型薄膜光電変換装置は、ハイブリッド型薄膜光電変換装置として知られている。この場合、i型の非晶質シリコン(a−Si)が光電変換し得る光の波長は長波長側において700nm程度までであるが、i型の結晶質シリコンはそれより長い約1100nm程度の波長の光までを光電変換することができる。なお、この2接合型薄膜光電変換装置の場合、光入射側にある光電変換ユニットを前方光電変換ユニット、後方にある光電変換ユニットを後方光電変換ユニットと呼ぶ事とする。
【0008】
さらに、積層型薄膜光電変換装置の効率を向上させる技術として、薄膜光電変換ユニット間に、導電性を有しかつ薄膜光電変換ユニットを形成する材料よりも低い屈折率を有する材料からなる中間透過反射層を形成する方法がある。このような中間透過反射層を有することで、短波長側の光は反射し、長波長側の光は透過させる設計が可能となり、より有効に各薄膜光電変換ユニットでの光電変換が可能となる。たとえば、前方の非晶質シリコン光電変換ユニットと後方の結晶質シリコン光電変換ユニットからなるハイブリッド型光電変換装置に中間透過反射層を挿入した場合、非晶質シリコン光電変換層の膜厚を増やすことなく、その前方光電変換ユニットによって発生する電流を増加させることができる。また、中間透過反射層を含む場合には、それを含まない場合に比べて、同一の電流値を得るために必要な非晶質シリコン光電変換層の厚さを小さくし得ることから、非晶質シリコン層の厚さの増加に応じて顕著となる光劣化(Staebler-Wronski効果)による非晶質シリコン光電変換ユニットの特性低下を抑制することが可能となる。
【0009】
結晶質光電変換ユニットの開放電圧は、非晶質光電変換ユニットの約55%と低く、開放電圧の向上が光電変換効率向上のための課題として挙げられる。結晶質シリコン半導体層の光電変換層の結晶化率を低くすると、開放電圧を増加することが可能であるが、短絡電流密度が低下してしまう課題がある。
【0010】
(先行例1)
特許文献1に、開放電圧を増加する目的で、p型微結晶シリコン/i型微結晶シリコン/n型微結晶シリコンの構造の薄膜光電変換装置のp/i界面に、炭素、酸素、窒素のいずれかを1×1020原子/cm以上含む界面層を挿入し、かつこの界面層の結晶分率がp層より低い例が開示されている。実施例では、この界面層にp層と同じ流量のBが用いられており、先行例1の界面層はp型であることが明示されている。実施例では、開放電圧が向上しているが、短絡電流密度が低下している。
【0011】
(先行例2)
特許文献2に、低屈折率層の材料として、n型のシリコン複合層を中間透過反射層として用いた積層型薄膜光電変換装置が開示されている。前記シリコン複合層はシリコンと酸素の非晶質合金母相中に分散したシリコン結晶相を含み、40原子%以上60原子%以下の膜中酸素濃度を含んでいて600nmの波長の光に対して1.7以上2.1以下の屈折率を有するとともに、20nmより大きく130nmより小さい厚さを有することを特徴とする。太陽電池の構造としては、p型非晶質炭化シリコン層/i型非晶質シリコン光電変換層/n型微結晶シリコン層/n型シリコン複合層/p型微結晶シリコン層/i型結晶質シリコン光電変換層/n型微結晶シリコン層を順次積層した構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−258286号公報
【特許文献2】特開2005−45129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
結晶質シリコン光電変換ユニットを含む薄膜光電変換装置の短絡電流密度を低下させずに開放電圧を向上することが困難である課題がある。
【0014】
上記を鑑み、本発明は結晶質光電変換ユニットを含む薄膜光電変換装置の短絡電流密度の低下を抑制して開放電圧を向上して、光電変換効率の改善した薄膜光電変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明による薄膜光電変換装置は、一導電型層と実質的に真性半導体の光電変換層と逆導電型層を光入射側に近い順に配置した光電変換ユニットを含む薄膜光電変換装置であって、前記光電変換層は実質的に真性な結晶質シリコン半導体層を含む結晶質シリコン光電変換ユニットであり、結晶質シリコン光電変換ユニットの一導電型層と光電変換層の間に、実質的に真性なシリコン複合層からなる界面層を配置し、かつ前記シリコン複合層は非晶質酸素化シリコン母相中に結晶シリコン相が分散している層であることを特徴とすることによって課題を解決する。
【0016】
実質的に真性なシリコン複合層を界面層として、結晶質光電変換ユニットのp/i界面に配置したことによって、ワイドギャップな界面層が挿入されたことになり、薄膜光電変換装置の開放電圧が増加する。また、この界面層が実質的に真性なシリコン複合層あることによって、同じ屈折率のp型のシリコン複合層に比べて、吸収係数が小さくなり、光吸収損失が抑制されて、薄膜光電変換装置の短絡電流密度が向上する。さらに、この界面層が実質的に真性なシリコン複合層であることによって、同じ屈折率のp型のシリコン複合層に比べて、結晶化率が高くなり、界面層の上に結晶質光電変換層を作製する場合、界面層が結晶化率の高い下地層となって、その上の結晶質光電変換層の結晶化率が高くなり、薄膜光電変換装置の短絡電流密度が向上する。
【0017】
本発明による薄膜光電変換装置は、積層型薄膜光電変換装置に適用した場合も有効である。特に、前方光電変換ユニットとして非晶質シリコン光電変換ユニットの逆導電型層の一部に透明中間反射層としてn型のシリコン複合層を含み、後方光電変換ユニットとして結晶質シリコン光電変換ユニットを配置した積層型薄膜光電変換装置の構成が望ましい。
【0018】
本発明の界面層は、600nmの光に対する屈折率が2.2以上3.0以下が望ましい。あるいは、本発明の界面層は、ラマン散乱で測定した非晶質成分に由来するピークに対する結晶シリコン成分のTOモードピークのピーク強度比が3以上6以下であることが望ましい。あるいはまた、暗導電率が10−8S/cm以上、10−1S/cm以下であることが望ましい。
【0019】
本発明の第1は、「光入射側から順に、透明電極層と、一導電型層と実質的に真性半導体の光電変換層と逆導電型層とを配置した1以上の光電変換ユニットと、裏面電極層とを含む薄膜光電変換装置であって、
少なくとも1つの光電変換ユニットは、光電変換層が実質的に真性な結晶質シリコン半導体層を含む結晶質シリコン光電変換ユニットであり、
前記結晶質シリコン光電変換ユニットの一導電型層と光電変換層との間に、実質的に真性なシリコン複合層からなる界面層を配置し、
かつ前記シリコン複合層は非晶質酸素化シリコン母相中に結晶シリコン相が分散している層であることを特徴とする、薄膜光電変換装置」である。
【0020】
本発明の第2は、「前記の薄膜光電変換装置であって、光電変換ユニットを2以上備え、光入射側に最近接の光電変換ユニットは光電変換層が実質的に真性な非晶質シリコン半導体層を含む非晶質光電変換ユニットである、積層型薄膜光電変換装置」である。
【0021】
本発明の第3は、「前記の積層型薄膜光電変換装置であって、前記非晶質光電変換ユニットの逆導電型層の少なくとも一部が、非晶質酸素化シリコン母相中に結晶シリコン相が分散しているn型のシリコン複合層であることを特徴とする、積層型薄膜光電変換装置」である。
【0022】
本発明の第4は、「前記の薄膜光電変換装置であって、前記界面層は600nmの波長の光に対する屈折率が2.2以上3.0以下であることを特徴とする、薄膜光電変換装置」である。
【0023】
本発明の第5は、「前記の薄膜光電変換装置であって、前記界面層はラマン散乱で測定した非晶質成分に由来するピークに対する結晶シリコン成分のTOモードピークのピーク強度比が3以上6以下であることを特徴とする、薄膜光電変換装置」である。
【0024】
本発明の第6は、「前記の薄膜光電変換装置であって、前記界面層の暗導電率が10−8S/cm以上、10−1S/cm以下であることを特徴とする、薄膜光電変換装置」である。
【0025】
本発明の第7は、「前記の薄膜光電変換装置であって、前記界面層の膜厚は5nm以上15nm以下であることを特徴とする、薄膜光電変換装置」である。
【発明の効果】
【0026】
結晶質シリコン光電変換ユニットの一導電型層と光電変換層の間に、実質的に真性なシリコン複合層からなる界面層を配置し、かつ前記シリコン複合層は非晶質酸素化シリコン母相中に結晶シリコン相が分散している層であることによって、開放電圧を増加して、かつ、短絡電流密度の低下を抑制して、光電変換効率を向上する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の1つの実施形態に係る積層型薄膜光電変換装置の模式的断面図。
【図2】本発明の1つの実施形態に係る集積型薄膜光電変換モジュールの模式的断面図。
【図3】本発明の別の実施形態に係る積層型薄膜光電変換装置の模式的断面図。
【図4】従来法による比較例に係る積層型薄膜光電変換装置の模式的断面図。
【図5】実質的に真性型(図中SiO(i))およびp型(図中SiO(p))のシリコン複合層の波長600nmの光の屈折率に対する結晶シリコンラマンピーク強度比。
【図6】実質的に真性型(図中SiO(i))およびp型(図中SiO(p))のシリコン複合層の波長600nmの光の屈折率に対する暗導電率。
【図7】実質的に真性型(図中SiO(i))およびp型(図中SiO(p))のシリコン複合層の光のエネルギー(E)に対する吸収係数(alpha)。
【図8】実質的に真性型(SiO(i))およびp型(SiO(p))のシリコン複合層、およびp型微結晶シリコン層(uc−Si(p)のラマン散乱スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下において本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお本願の各図において、厚さや長さなどの寸法関係については図面の明瞭化と簡略化のため適宜変更されており、実際の寸法関係を表してはいない。また、各図において、同一の参照符号は同一部分または相当部分を表している。
【0029】
本発明者らは、従来の結晶質シリコン光電変換ユニットを含む薄膜光電変換装置において、開放電圧を向上し、かつ短絡電流密度の低下を抑制して、光電変換効率を向上するために、薄膜光電変換装置の構造を検討した。
【0030】
結晶質シリコン光電変換ユニットに、ワイドギャップ材料として、先行例1のように、p型微結晶シリコンより結晶化率が低いp型のシリコン複合層を用いた場合、Vocは増加するが、Jscが低下してかえってEffが低下する課題が見出された。先行例1の構成は、p層の厚さが、p型微結晶シリコン+p型シリコン複合層となって、実質的に厚くなっており、Vocが増加するのは単に膜厚増加の効果といえる。p型層が厚くなった分、吸収損失が増えて、Jscが低下したといえる。
【0031】
さらにシリコン複合層について詳細に調べたところ、p型のシリコン複合層に導電型決定不純物が含まれると、吸収係数が増加すること、ラマンピーク強度比などで検知できる結晶性が低くなることがわかった。
【0032】
結晶質光電変換ユニットのVocを増加させ、かつ、Jscを低下させない構造を鋭意検討したところ、実質的に真性なシリコン複合層を、p/i界面に導入することで、課題を解決できることを発明者は見出した。微結晶シリコンの場合、p型の微結晶シリコンの暗導電率は10−2S/cm〜1S/cm程度であるのに対して、実質的に真性な微結晶シリコンの暗導電率は10−6S/cm〜10−4S/cm程度と、p型に比べて真性型は2から4桁暗導電率が低く、高抵抗になることが知られている。シリコン複合層は非晶質酸素化シリコン母相中に結晶シリコン相が分散している層であり、微結晶シリコンの場合と同様に、p型シリコン複合層に対して、実質的に真性なシリコン複合層は数桁暗導電率が低いことが当業者には予想され、p/i界面に真性型のシリコン複合層を用いることは、常識的には行わない。
【0033】
しかしながら、発明者が界面層について鋭意検討したところ、同じ屈折率で比べた場合、実質的に真性なシリコン複合層の結晶化率は、p型シリコン複合層の結晶化率より高くなり、また、暗導電率はほぼ同等の値を示し、界面層として用いた場合、開放電圧を向上できることを見出した。これは、先行例1が界面層の結晶化率を低くして開放電圧の向上を意図したのとは逆に、本願では界面層の結晶化率を高くする構成としたにもかかわらず、Vocの向上を実現している。また、意外なことに、界面層を追加して層がふえたにもかかわらず、短絡電流密度を向上できることを見出した。
【0034】
図5に、シリコン複合層の波長600nmの屈折率に対するラマンピーク強度比を示す。波数520cm−1付近の結晶シリコン成分のTOモードピークと480cm−1付近の非晶質シリコンのTOモードピークの強度比を縦軸に示す。図中にSiO(i)と示したのが実質的に真性なシリコン複合層、SiO(p)と示したのがp型のシリコン複合層である。屈折率が2.5付近の同じ屈折率で比較すると、SiO(i)のピーク強度比が、SiO(p)に比べて約2倍と高くなっていることがわかる。
【0035】
図6に、シリコン複合層の波長600nmの屈折率に対する暗導電率を示す。屈折率が2.5付近の同じ屈折率で比較すると、SiO(i)とSiO(p)がほぼ同等の10−5S/cmの暗導電率を示すことがわかる。
【0036】
図1に、本発明の実施形態の一例による積層型薄膜光電変換装置100の模式的断面図を示す。透明基板1上に、透明電極層2、前方光電変換ユニットとして非晶質シリコン光電変換ユニット3、後方光電変換ユニットとして結晶質シリコン光電変換ユニット4、および裏面電極層5の順に配置されている。後方光電変換ユニットのp型層と光電変化層の間に界面層44を備えることを特徴としている。
【0037】
基板側から光を入射するタイプの光電変換装置にて用いられる透明基板1には、ガラス、透明樹脂等から成る板状部材やシート状部材が用いられる。特に、透明基板1としてガラス板を用いれば、それが高い透過率を有しかつ安価であるので好ましい。
【0038】
すなわち、透明基板1は薄膜光電変換装置の光入射側に位置するので、より多くの太陽光を透過させて光電変換ユニットに吸収させるために、できるだけ透明であることが好ましい。同様の意図から、太陽光の入射面における光反射ロスを低減させるために、透明基板1の光入射面上に無反射コーティングを設けることが好ましい。
【0039】
透明電極層2はSnO、ZnO等の導電性金属酸化物から成ることが好ましく、CVD、スパッタ、蒸着等の方法を用いて形成されることが好ましい。透明電極層2はその表面に微細な凹凸を有することにより、入射光の散乱を増大させる効果を有することが望ましい。
【0040】
トップセルである前方光電変換ユニットは、例えば非晶質シリコン光電変換ユニット3で構成することが望ましい。非晶質シリコン光電変換ユニット3は、プラズマCVD法によって、たとえばp型層、i型層、およびn型層の順に積層して形成される。具体的には、ボロンが0.01原子%以上ドープされた厚さ5から40nmのp型非晶質シリコンカーバイド層31、実質的にi型の厚さ50から400nmの非晶質シリコンの光電変換層32、およびリンが0.01原子%以上ドープされた厚さ5から40nmのn型微結晶シリコン層33がこの順に堆積される。
【0041】
後方光電変換ユニットは、結晶質シリコン光電変換ユニット4で構成される。結晶質シリコン光電変換ユニット4は、プラズマCVD法によって、p型層、界面層、i型層、およびn型層の順に積層して形成される。具体的には、ボロンが0.01原子%以上ドープされた厚さ5から40nmのp型微結晶シリコン層41、実質的に真性なシリコン複合層からなる界面層44、実質的に真性な厚さ0.5から5umの結晶質シリコン光電変換層42、リンが0.01原子%以上ドープされた厚さ1から40nmのn型微結晶シリコン層43がこの順に堆積される。
【0042】
ここで、本発明の実施形態の一例では結晶質シリコン光電変換ユニットのp型層と、結晶質シリコン光電変換層との間に、実質的に真性なシリコン複合層を界面層として配置したことを本発明の特徴とする。界面層44は、非晶質酸素化シリコン母相中に結晶シリコン相が分散している層からなる。シリコン結晶相の周りが非晶質シリコン合金で囲まれることにより、実質的なバンドギャップが広がって、結晶質光電変換ユニットのp/i界面のワイドギャップ層が挿入されることになり、ヘテロ接合が形成されて、薄膜光電変換装置の開放電圧が増加する。また、この界面層が実質的に真性なシリコン複合層であることによって、同じ屈折率のp型のシリコン複合層に比べて、吸収係数が小さくなり、光吸収損失が抑制されて、薄膜光電変換装置の短絡電流密度が向上する。さらに、この界面層が実質的に真性なシリコン複合層であることによって、同じ屈折率のp型のシリコン複合層に比べて、結晶化率が高くなり、界面層の上に結晶質光電変換層を作製する場合、界面層が結晶化率の高い下地層となって、その上の結晶質光電変換層の結晶化率が高くなり、薄膜光電変換装置の短絡電流密度が向上する。
【0043】
実質的に真性な界面層(i−SiOx)は、反応ガスとして、SiH、CO、H、を用い、H/SiH比が大きいいわゆる微結晶作製条件でかつ、CO/SiH比が0.3〜3程度の範囲を用いてプラズマCVDで作製できることが実験によりわかった。このとき、プラズマの条件は、容量結合型の平行平板電極を用いて、電源周波数10〜100MHz、パワー密度50〜500mW/cm、圧力50〜1000Pa、H/SiH比が50〜500倍、基板温度150〜250℃である。CO/SiH比を増加させると膜中酸素濃度が単調に増加する。しかし、膜中炭素濃度はCO/SiH比を0〜4の範囲で変化させても1原子%以下であり、酸素に比べてほとんど膜に入らないことが実験によりわかった。膜中酸素濃度は、5原子%以上40原子%以下が好適であり、10原子%以上30原子%以下がさらに好適である。酸素濃度を5原子%以上とすることにより、界面層のバンドギャップが広がり、薄膜光電変換装置のVocが向上する。また、酸素濃度を30原子%以下とすることにより、暗導電率を高くして、界面層と隣接する層との接触抵抗を低減してFFを高くすることが出来る。また、酸素濃度を30原子%以下とすることにより、界面層中に容易にシリコン結晶相を含むことが出来るので、その上に結晶シリコン光電変換層を作製する場合、界面層が結晶性の高い下地層となり、結晶質シリコン光電変換層の結晶化率が高くなり、短絡電流密度が向上するので望ましい。
【0044】
界面層の結晶シリコン相の有無は、積層型薄膜光電変換装置と同じ製膜条件で界面層をガラス基板上に作製し、ラマン散乱スペクトル、X線回折法、分光エリプソメトリーなどで検知することができる。
【0045】
あるいは薄膜光電変換装置にウェットエッチングあるいはプラズマエッチングを行い、界面層を露出させることによって結晶シリコン相を検知することができる。この場合、最表面に露出した界面層の結晶相の検知感度を上げるために、ラマン散乱スペクトルの測定の場合、短波長光のレーザー、例えば532nm以下の波長のレーザーを用いたレーザー顕微ラマン装置を用いる。あるいは、イン・プレーン法によるX線回折測定を行う。あるいは、分光エリプソメトリーを用いる。
【0046】
あるいは薄膜光電変換装置の透過型電子顕微鏡(TEM)の断面像からも結晶シリコン相の有無を検知することができる。TEMの断面像で20万倍から50万倍程度を撮影し、シリコン結晶相の有無を確認することが出来る。特に暗視野像を撮影すると、明るく見える部分が結晶相なので、容易にシリコン結晶相を確認できる。
【0047】
界面層は、ラマン散乱で測定した波数520cm−1付近の結晶シリコン成分のTOモードのピーク強度(Ic)と、480cm−1付近の非晶質シリコン成分のTOモードのピーク強度(Ia)の強度比(Ic/Ia)が、3以上6以下が好ましい。Ic/Iaが3以上になると結晶シリコン相が確実に発生するので好ましく、導電型決定不純物がなくても、暗導電率を高くすることが出来る。また、Ic/Iaが3以上にすると、界面層の上に結晶質シリコン光電変換層を形成する場合に、結晶性が向上して、Jscが増加する。Ic/Iaが6以下の場合、非晶質シリコン合金に囲まれた結晶シリコン相の格子間隔が広がりやすくなると考えられ、バンドギャップが広がって、結晶質光電変換ユニットのVocが高くなるので好ましい。
【0048】
界面層の暗導電率は、10−8S/cm以上、10−1S/cm以下であることが好ましい。界面層の暗導電率を10−8S/cm以上とすることで、界面層と隣接する層との接触抵抗を低減して、薄膜光電変換装置のFFを高くすることが出来る。また、界面層の暗導電率を10−1S/cm以下とすることで、リーク電流を減らすことが出来、電流損失を低減できるので望ましい。特に、暗導電率を10−1S/cm以下とすることで、薄膜光電変換装置をレーザースクライブなどで集積構造としたときに、リーク電流を抑制してFFが高くなり、光電変換装置の特性が高くなるので望ましい。
【0049】
界面層の波長600nmの光の屈折率は、2.2以上3.0以下が好ましく、2.3以上2.8以下がより好ましい。界面接合層の波長600nmの屈折率が2.2以上の場合、界面層の結晶化率が高くなり、暗導電率が高くなり、Voc、FFが向上するので望ましい。また、屈折率が3.0以下の場合に、界面層のバンドギャップが広がってVocが高くなるとともに、吸収係数が低くなり、Jscが増加するので望ましい。界面層の波長600nmの光の屈折率は分光エリプソメトリーで測定することが出来る。
【0050】
界面層の膜厚は、5nm以上150nm以下が望ましい。界面層が薄いとVocの増加が小さくなるので、Vocを十分向上させるためには、界面層の膜厚を5nm以上にすることが望ましい。界面層が厚すぎると吸収損失が増えるので、Jscを高くするためには界面層の膜厚は150nm以下が望ましい。
【0051】
裏面電極層5としては、Al、Ag、Au、Cu、PtおよびCrから選ばれる少なくとも一つの材料からなる少なくとも一層の金属層をスパッタ法または蒸着法により形成することが好ましい。また、光電変換ユニットと金属層との間に、ITO、SnO、ZnO等の導電性酸化物からなる層を形成しても構わない(図示せず)。
【0052】
なお、図1では2接合の積層型薄膜光電変換装置を示したが、結晶質シリコン光電変換ユニットを含めば、単接合薄膜光電変換装置、あるいは3接合以上の光電変換ユニットが積層された多接合の薄膜光電変換装置であってもよいことは言うまでもない。
【0053】
また、図1では基板側から光を入射する薄膜光電変換装置を示したが、基板と反対側から光を入射する薄膜光電変換装置においても、本発明が有効であることは言うまでもない。基板と反対側から光を入射する場合、例えば、基板、裏面電極層、結晶質シリコン光電変換ユニット、前方光電変換ユニット、透明電極層の順に積層すればよい。この場合、結晶質シリコン光電変換ユニットは、n型層、結晶質シリコン光電変換層、界面層、p型層の順に積層することが好ましく、前方光電変換ユニットは、n型層、光電変換層、p型層の順に積層することが望ましい。
【0054】
本発明はレーザーパターニングを用いて同一の基板上に直列接続構造を形成した集積型薄膜光電変換装置においても有効であることは言うまでもない。集積型薄膜光電変換装置の場合、レーザーパターニングが容易にできるので図1に示すように基板側から光入射する構造が望ましい。
【実施例】
【0055】
以下、本発明による実施例と、従来技術による比較例に基づいて詳細に説明する。各図において同様の部材には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。また、本発明はその趣旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
実施例1として、図1に示す構造の薄膜光電変換装置100を作製した。さらに、レーザースクライブによって、図2に示す構造の集積型薄膜光電変換モジュール901を形成した。透明基板1は、厚み4mm、910mm×455mmのガラス基板を用いた。透明基板1の上に、微小なピラミッド状の表面凹凸を含みかつ平均厚さ700nmのSnO2膜が熱CVD法にて透明電極層2を作製した。得られた透明電極層2のシート抵抗は約9Ω/□であった。またC光源で測定したヘイズ率は12%であり、表面凹凸の平均高低差dは約100nmであった。ヘイズ率はJISK7136に基づき測定した。
【0057】
次に、波長1064nmのYAGレーザーを用いて、透明電極層2に第一の分離溝903を形成し、その後、洗浄、乾燥を行った。
【0058】
この透明電極層2の上に、13.56MHzの周波数の平行平板電極を備えた容量結合型の高周波プラズマCVD装置を用いて、前方光電変換ユニットとして非晶質シリコン光電変換ユニット3、後方光電変換ユニットとして結晶質シリコン光電変換ユニット4を順次作製した。
【0059】
非晶質シリコン光電変換ユニット3は、反応ガスとしてSiH4、H2、CH4及びBを導入し一導電型層としてp型非晶質炭化シリコン層31を15nm形成後、反応ガスとしてSiH4を導入し非晶質シリコン光電変換層32を350nm形成し、その後反応ガスとしてSiH4、H2及びPHを導入し逆導電型層としてn型微結晶シリコン層33を20nm形成することで作製した。
【0060】
次に、結晶質シリコン光電変換ユニット4を作製した。反応ガスとしてSiH4、H2及びBを導入し一導電型層としてp型微結晶シリコン層41を10nm形成後、実質的に真性なシリコン複合層からなる界面層44を10nm形成し、反応ガスとしてSiH4とH2を導入し結晶質シリコン光電変換層42を1.5μm形成した。その後、反応ガスとしてSiH4、H2及びPHを導入しn型微結晶シリコン層43を10nm形成することで、逆導電型層であるn型層43を作製した。
【0061】
p型微結晶シリコン層41を製膜時のガスの流量比はSiH/B/H=1/0.005/300である。電源周波数は13.56MHz、パワー密度200mW/cm、圧力350Pa、基板温度200℃で製膜した。p型微結晶シリコン層のラマン散乱で測定した非晶質シリコン成分のTOモードピークに対する結晶シリコン成分のTOモードピークのピーク強度比は2.8であった。
【0062】
実質的に真性なシリコン複合層からなる界面層44を製膜時のガスの流量比はSiH/CO/H2=1/0.75/300である。電源周波数は13.56MHz、パワー密度200mW/cm、圧力350Pa、基板温度200℃で製膜した。このとき界面層44は、膜中酸素濃度が23原子%、600nmの光に対する屈折率は2.5、ラマン散乱で測定した非晶質シリコン成分のTOモードピークに対する結晶シリコン成分のTOモードピークのピーク強度比は4.3、暗導電率は1.4×10−5S/cmであった。
【0063】

ラマン散乱ピーク強度比および暗導電率は、薄膜光電変換装置の界面層44あるいはp型微結晶リコン層41に比べて製膜時間を長くしたことを除いて同じ条件で、ガラス基板上に厚さ200nm作製して測定した。また、暗導電率はガラス基板上の界面層に、Alのコプラナー型電極を作製して、電圧電流特性から求めた。膜中酸素濃度は光電子分光法(XPS)により測定した。ラマン散乱ピーク強度比は波長532nmのレーザーを用いた顕微ラマン装置を用いて測定した。
【0064】
続いて、532nmの第二高調波のYAGレーザーを用いて、前方光電変換ユニット2、後方光電変換ユニット3からなる半導体層30を貫通して、接続溝905を形成した。
【0065】
その後、裏面電極層5として、厚さ30nmのAlドープされたZnO膜と厚さ300nmのAg膜がスパッタ法にて順次形成された。
【0066】
最後に、532nmの第二高調波のYAGレーザーを用いて、前方光電変換ユニット2、後方光電変換ユニット3からなる半導体層30、および裏面電極層5を貫通して、第二の分離溝904を形成した。
【0067】
以上のようにして得られた薄膜光電変換モジュール901にAM1.5の光を100mW/cm2の光量で照射して出力特性を測定したところ、表1の実施例1に示すように、開放電圧(Voc)が1.371V、短絡電流密度(Jsc)が11.58mA/cm2、曲線因子(FF)が0.729、そして変換効率(Eff)が11.42%であった。
【0068】
【表1】

【0069】
(比較例1)
比較例1として図4に示す従来法による薄膜光電変換モジュールを作製した。比較例1は、図1の界面層44が無いことを除いて、実施例1と同様の構造で同様に作製した。
【0070】
表1に示すように、比較例1の光電変換装置の出力特性を実施例1と同様に測定したところ、Voc=1.342V、Jsc=11.47mA/cm、FF=0.726、Eff=11.18%であった。
【0071】
(比較例2)
比較例2として従来法による薄膜光電変換モジュールを作製した。比較例2は、図1の界面層44に代えて、厚さ10nmのp型のシリコン複合層を界面層に用いたことを除いて、実施例1と同様の構造で同様に作製した。
【0072】
p型のシリコン複合層からなる界面層を製膜時のガスの流量比はSiH/CO//B/H=1/1.1/0.005/300である。電源周波数は13.56MHz、パワー密度200mW/cm、圧力350Pa、基板温度200℃で製膜した。このときp型の界面層は、膜中酸素濃度が27原子%、600nmの光に対する屈折率は2.5、ラマン散乱で測定した非晶質シリコン成分のTOモードピークに対する結晶シリコン成分のTOモードピークのピーク強度比は1.7、暗導電率は1.6×10−5S/cmであった。
【0073】
表1に示すように、比較例1の光電変換装置の出力特性を実施例1と同様に測定したところ、Voc=1.356V、Jsc=11.17mA/cm、FF=0.725、Eff=10.98%であった。
【0074】
(実施例1、比較例1、2の比較)
実施例1は、実質的に真性なシリコン複合層からなる界面層を用いることで、比較例1に比べて、Voc、Jsc、FFいずれも増加して、Effが向上している。これに対して、比較例2は、実施例1とほぼ同じ屈折率であるが、p型のシリコン複合層を界面層として用いており、比較例1に比べて、Vocは増加するが、Jscが減少して、Effが低下した。実施例1、比較例2ともにワイドギャップな層を結晶質シリコンユニットのp/i界面に配置したことでVocが向上したといえる。しかし、比較例2のp型のシリコン複合層は、実施例1の実質的に真性なシリコン複合層に比べて、吸収係数が高いことにより吸収損失があること、あるいは、ラマンピーク強度比が低いことにより界面層の上に形成する結晶質シリコン光電変換層の結晶化率が低下することによって、Jscが低下したといえる。また、実施例1のJscが比較例1より増加した理由は明確ではないが、シリコン複合層が実質的に真性であるため、活性層としても機能して光吸収によるキャリアの発生が増加したためと推定される。
【0075】
図7に実施例1に用いた実質的に真性な界面層(図中SiO(i))と、比較例2に用いたp型の界面層(図中SiO(p))の光のエネルギー(E)に対する吸収係数(alpha)を示す。各界面層は、膜厚を200nmと厚くしたことを除いて、光電変換装置に用いたのと同じ製膜条件でガラス基板上に製膜した。図7からわかるように、同じ屈折率で比べた場合、実質的に真性なシリコン複合層のほうが、p型のシリコン複合層に比べて吸収係数が小さいことがわかる。
【0076】
また、X軸にE、Y軸に√(αE)をプロットした時のX軸切片から求めたバンドギャップ(いわゆるタウスギャップ)は、実施例1の界面層は2.64eV、比較例2の界面層は2.66eVであった。
【0077】
図8に実施例1に用いた実質的に真性なシリコン複合層からなる界面層(図中SiO(i))と、比較例2に用いたp型シリコン複合層からなる界面層(図中SiO(p))、および実施例1と比較例2に用いたp型微結晶シリコン層(uc−Si(p))のラマン散乱スペクトルを示す。図8から明らかにように、520cm−1付近の結晶シリコンTOモード成分のピークが、SiO(i)のほうがSiO(p)に比べて高く、結晶性が高いことがわかる。また、SiO(i)は、uc−Si(p)より結晶シリコン成分ピークが鋭く、結晶性が高いことがわかる。非晶質シリコン成分ピークに対する結晶シリコン成分ピークの強度比で、uc−Si(i)、uc−Si(p)、SiO(p)の順に、4.3、2.8、1.7となっている。
【0078】
(実施例2)
実施例2として図1に示す構造の薄膜光電変換モジュールを作製した。実施例2は、界面層44の膜厚を15nmとしたことを除いて、実施例1と同様の構造で同様に作製した。
【0079】
表1に示すように、実施例2の光電変換装置の出力特性を実施例1と同様に測定したところ、Voc=1.367V、Jsc=11.38mA/cm、FF=0.736、Eff=11.45%であった。
【0080】
(実施例3)
実施例3として図1に示す構造の薄膜光電変換モジュールを作製した。実施例3は、界面層44の膜厚を5nmとしたことを除いて、実施例1と同様の構造で同様に作製した。
【0081】
表1に示すように、実施例3の光電変換装置の出力特性を実施例1と同様に測定したところ、Voc=1.351V、Jsc=11.47mA/cm、FF=0.736、Eff=11.28%であった。
【0082】
(実施例1〜3、比較例1の比較)
実質的に真性なシリコン複合層の界面層の膜厚を変化させると、Voc、Jscは膜厚10nmで最大となった。実施例3が実施例1に比べて、Vocが低くなったのは、ワイドギャップ層である界面層の厚さが十分でないためといえる。これに対して、実施例2が実施例1に比べてVocがやや低下したのは、界面層が厚すぎると界面層にかかる電界が大きくなるとともに結晶質シリコン光電変換層にかかる電界が弱くなって、Vocが低下したと推定される。実施例3が実施例1に比べて、Jscが低くなったのは、界面層が薄いため界面層中で発生する光キャリアが少ないためと考えられる。実施例2が実施例1に比べてJscがやや低下したのは、界面層による吸収損失が増加したためといえる。実施例2のFFが実施例1に比べて増加したのは、界面層の膜厚が厚くなるともに界面層の結晶化率が増加して、界面層と結晶質シリコン光電変換層の接触抵抗が低下したためと考えられる。
【0083】
(実施例4)
実施例4として図1に示す構造の薄膜光電変換モジュールを作製した。実施例4は、界面層44の波長600nmの光に対する屈折率を2.3としたこと、界面層製膜時のガス流量比をSiH/CO/H2=1/1.1/300したことを除いて、実施例1と同様の構造で同様に作製した。
【0084】
このとき、界面層44の膜中酸素濃度が30原子%、600nmの光に対する屈折率は2.3、ラマン散乱で測定した非晶質シリコン成分のTOモードピークに対する結晶シリコン成分のTOモードピークのピーク強度比は3.6、暗導電率は9.8×10−7S/cmであった。
【0085】
表1に示すように、実施例4の光電変換装置の出力特性を実施例1と同様に測定したところ、Voc=1.366V、Jsc=11.36mA/cm、FF=0.731、Eff=11.34%であった。実施例4で界面層44の屈折率を2.3とした場合においても、比較例1に比べて、Voc、Jscが向上してEffが向上した。
【0086】
(実施例5)
実施例5として図3に示す構造の薄膜光電変換モジュールを作製した。実施例5は、非晶質シリコン光電変換ユニット3のn型層として、厚さ50nmのn型シリコン複合層からなる中間透過反射層34、厚さ10nmのn型微結晶シリコン層34を順次配置したこと、結晶質シリコン光電変換層44の厚さを2.5umとしたことを除いて、実施例1と同様の構造で同様に作製した。
【0087】
n型のシリコン複合層からなる中間透過反射層を製膜時のガスの流量比はSiH/CO/PH/H=1/2.3/0.02/250である。電源周波数は13.56MHz、パワー密度200mW/cm、圧力350Pa、基板温度200℃で製膜した。このときn型の中間透過反射層は、膜中酸素濃度が44原子%、600nmの光に対する屈折率は2.0、ラマン散乱で測定した非晶質シリコン成分のTOモードピークに対する結晶シリコン成分のTOモードピークのピーク強度比は2.0、暗導電率は1.2×10−4S/cmであった。
【0088】
表1に示すように、実施例5の光電変換装置の出力特性を実施例1と同様に測定したところ、Voc=1.325V、Jsc=13.26mA/cm、FF=0.697、Eff=12.25%であった。
【0089】
(比較例3)
比較例3として従来法による薄膜光電変換モジュールを作製した。比較例3は、図3の界面層44が無いことを除いて、実施例2と同様の構造で同様に作製した。
【0090】
表1に示すように、比較例3の光電変換装置の出力特性を実施例1と同様に測定したところ、Voc=1.316V、Jsc=13.20mA/cm、FF=0.688、Eff=11.95%であった。
【0091】
(実施例5、比較例3の比較)
中間透過反射層がある場合においても、実質的に真性なシリコン複合層を界面層として用いることで、Vocが向上するともに、Jsc、FFが向上してEffが比較例3に比べて高くなった。
【符号の説明】
【0092】
1 透明基板
2 透明電極層
3 非晶質シリコン光電変換ユニット
30 半導体層
31 p型非晶質炭化シリコン層
32 実質的に真性な非晶質シリコン光電変換層
33 n型微結晶シリコン層
34 n型のシリコン複合層からなる中間透過反射層
4 結晶質シリコン光電変換ユニット
41 p型微結晶シリコン層
42 実質的に真性な結晶質シリコン層の光電変換層
43 n型微結晶シリコン層
44 実質的に真性なシリコン複合層からなる界面層
100 積層型薄膜光電変換装置
901 集積型薄膜光電変換モジュール
902 光電変換セル
903 第1の分離溝
904 第2の分離溝
905 接続溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光入射側から順に、透明電極層と、一導電型層と実質的に真性半導体の光電変換層と逆導電型層とを配置した1以上の光電変換ユニットと、裏面電極層とを含む薄膜光電変換装置であって、
少なくとも1つの光電変換ユニットは、光電変換層が実質的に真性な結晶質シリコン半導体層を含む結晶質シリコン光電変換ユニットであり、
前記結晶質シリコン光電変換ユニットの一導電型層と光電変換層との間に、実質的に真性なシリコン複合層からなる界面層を配置し、
かつ前記シリコン複合層は非晶質酸素化シリコン母相中に結晶シリコン相が分散している層であることを特徴とする、薄膜光電変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の薄膜光電変換装置であって、光電変換ユニットを2以上備え、光入射側に最近接の光電変換ユニットは光電変換層が実質的に真性な非晶質シリコン半導体層を含む非晶質光電変換ユニットである、積層型薄膜光電変換装置。
【請求項3】
請求項2に記載の積層型薄膜光電変換装置であって、
前記非晶質光電変換ユニットの逆導電型層の少なくとも一部が、非晶質酸素化シリコン母相中に結晶シリコン相が分散しているn型のシリコン複合層であることを特徴とする、積層型薄膜光電変換装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の薄膜光電変換装置であって、前記界面層は600nmの波長の光に対する屈折率が2.2以上3.0以下であることを特徴とする、薄膜光電変換装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の薄膜光電変換装置であって、前記界面層はラマン散乱で測定した非晶質成分に由来するピークに対する結晶シリコン成分のTOモードピークのピーク強度比が3以上6以下であることを特徴とする、薄膜光電変換装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の薄膜光電変換装置であって、前記界面層の暗導電率が10−8S/cm以上、10−1S/cm以下であることを特徴とする、薄膜光電変換装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の薄膜光電変換装置であって、前記界面層の膜厚は5nm以上15nm以下であることを特徴とする、薄膜光電変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−8866(P2013−8866A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141026(P2011−141026)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】