説明

薄膜太陽電池

本発明は、CIGS型の薄膜太陽電池に関する。本発明の特徴は、2つの一体的に形成されたバッファ層、CIGS層(3)上の第1のALD Zn(O,S)バッファ層(7)、および第1の(7)バッファ層上の第2のALD ZnOバッファ層8、の使用である。双方のバッファ層は、ALD(原子層付着)を使用して同一の処理工程において付着される。本発明はまた、電池を生産する方法および、電池構造の製造のための処理ラインに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(技術分野)
本発明は、カドミウムの無い薄膜太陽電池、このような電池を製造するための方法および生産ラインに関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
太陽電池は、再生可能な技術であるので、最小の環境的影響で電力を生成する手段を提供する。商業的に成功するためには、太陽電池は、効率的で低コストで耐久性があり、そして他の環境問題を加えない必要がある。
【0003】
今日の支配的な太陽電池技術は、結晶シリコンに基づいている。このような太陽電池は、上記の要件の多くを満足するが、大規模な電気生成において費用効果があるような低コストにおいて生産することができない。このような太陽電池はまた、生産において比較的大量のエネルギを必要とし、これは環境的に不利益である。
【0004】
薄膜技術に基づく太陽電池が開発されてきた。これらの太陽電池は、実質的なコスト削減の可能性を提供するが、一般的に、変換効率がより低く、耐久性がより悪い。非常に将来有望な薄膜太陽電池技術は、半導体Cu(In,Ga)Se2、略してCIGS、に基づき、これは、作動状態で高効率(小型のプロトタイプ・モジュール[1]において16.6%)および耐久性を示した。これで、実際の生産における低コストを示せばよいだけである。
【0005】
CIGS太陽電池は、太陽光の吸収材として機能するCIGS層を有する薄膜太陽電池である。電子正孔対はCIGS層に生成される。
【0006】
通常のCIGS太陽電池が図1に示され、この太陽電池は、厚さ2−3mmのガラス基板1、厚さ0.5−1μmのMo後面コンタクト2、1.5−2μmのCIGS層3、厚さ50nmのCdSバッファ層4、および0.5−1μmのZnOウィンドウ層5を含む。選択的な第2のバッファ層6は、CdSバッファ層とウィンドウ層との間に置かれてもよく、50nmの厚さを有する。
【0007】
CIGS層は、p導電性Cu(In,Ga)(Se,S)2化合物である。CdSバッファ層は、CIGS層の保護として機能する。ウィンドウ層は、n型導電性ドープト酸化亜鉛層である。ウィンドウ層は、CIGS層と共にpn接合を形成し、透過前面コンタクトとして機能する。選択的な第2のバッファ層は、ノンドープトZnOを含む。現在、その役割は完全には理解されていない。統計的に見ると、この第2のバッファ層を有する太陽電池は、単一のZnO層を有する電池と比較してより優れた性質を呈する。
【0008】
CIGS太陽電池モジュールを製造する一般的に使用されている方法は、以下のようなpn接合および前面コンタクトの形成を含む。(1)バッファ層(通常50nmのCdS)が、化学浴付着(CBD)によって付着される。(2)ZnOの高抵抗率薄層が、CdS層の上にスパッタリングによって付着される。(3)層構造が機械的スクライビングによってパターン形成され、連続する相互接続のためのコンタクトを開く。(4)透過導電性酸化物(TCO)の前面コンタクトが付着され、そして、(5)相互接続構造の一部として機械的パターニングの追加パターニング工程が取られる。
【0009】
EP−A2−0 838 863号は、ガラス基板上に製造された薄膜太陽電池を開示している。この太陽電池は、金属下部電極、その表面にCn(InGa)(Se)2層(CIGS層)を有する光吸収層、バッファ層と呼ばれるインタフェース層、ウィンドウ層、および上部電極を含む。下部電極はp型半導体であり、ウィンドウ層はn型半導体である。下部および上部電極の間には、太陽電池が光に当てられた場合、0.2−0.8Vのオーダの開路電圧が獲得される。電流はpおよびn層の間のp−n接合において生成される。
【0010】
バッファ層は、水酸基を含むII−VI族化合物半導体を含む。例示的化合物は、Zn(O,S,OH)2である。
【0011】
DE 44 40 878 C2号は、ガラス基板、下部電極、光吸収層、前面バッファ層、およびウィンドウ層を含む薄膜太陽電池を開示している。前面バッファ層は、In(OH)3およびIn23の混合物を含み、有機金属化合物あるいは原子層エピタクシ付着処理(ALE)を使用して、ウェット処理あるいは化学気相成長法処理(CVD)において付着される。ここでの新しい概念は、バッファ層はカドミウムを含まないことである。
【0012】
スパッタリングと混合した化学ウェット処理工程を使用して太陽電池を製造することは、大規模生産に対して太陽電池をより魅力の無いものにしている。太陽電池を製造するためには、ウェット処理は共通気相成長法処理と混合され、この構造を大規模生産に対してより魅力の無いものにしている。
【0013】
CIGS層とウィンドウ層との間の第1のCdZnSバッファ層を使用する薄膜太陽電池の1例が、米国特許第5,078,804号に開示されている。第1のバッファ層の上の、ウィンドウ層と接触している第2のZnOバッファ層もまた提供されている。第1のCdZnSバッファ層は、2つの層、低Zn含有CdZnS層およびその上の高Zn含有CdZnS層を含み、これら双方の層は、水溶液方法を使用して付着される。第2のZnOバッファ層もまた、2つの層、高導電性ZnO層およびその上の低抵抗率ZnO層を含み、これら双方の層は、アルゴンあるいは酸素/アルゴン・ガスにおけるスパッタリングを使用して付着される。
【0014】
スパッタリングと混合した化学ウェット処理工程を使用して太陽電池を製造することは、大規模生産に対して太陽電池をより魅力の無いものにしている。有毒なカドミウムを使用することは、環境上の理由により電池をより魅力の無いものにしている。また、有害廃棄物の処理および処置にはコストがかかる。
【0015】
米国特許第5,948,176号は、第1の活性CIGS層を金属後面コンタクト上に有する太陽電池構造を開示している。CIGS層の上には、n型導電性ドープトZnO層のバッファ層が、塩化亜鉛水溶液をドーピング源として使用するウェット処理によって付着される。ZnOを含む第2の活性層が、バッファ層の上に付着される。第2の活性層は、第1の高抵抗率ZnO層および第2の低低効率ZnO層を含み、その上に前面素子面電極のグリッドがスパッタされる。
【0016】
カドミウムを含む太陽電池の他の例が、米国特許第4,611,091号に示されている。
【非特許文献1】M グリーン、K エメリ、D キンリ、S イガリ、およびW ワルタ、太陽電池効率表(第21版)、プログ. ホトボルト、レス.アプリ.2003;11、39−45ページ。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
(発明の概要)
本発明の1つの目的は、太陽電池の製造のための処理工程の数を減らし、それにより太陽電池の製造にかかるコストを削減することである。
【0018】
本発明の他の目的は、有毒なCdS層をより環境にやさしい化合物に置き換えることである。
【0019】
本発明のさらに他の目的は、CdS層を、CdS層よりも少ない照射光を吸収する材料に置き換え、それにより、下に位置するCIGS層に衝突する光の量を増加させ、従って電池により生成される光電流を増加させることである。
【0020】
本発明のさらなる目的は、CdSバッファ層の製造のためのウェット処理を、CIGS層の先行する(ドライ)真空付着との統合、および/あるいは高抵抗率ZnOウィンドウ層の後続の(ドライ)スパッタ付着との統合を可能にする、新しい処理に置き換えることである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
これらの目的は、請求項1の序文において示される薄膜太陽電池、請求項7の序文によるインタフェース層を作成する方法、および請求項14の序文による太陽電池構造を製造するための処理ライン、をもって達成される。本発明の特徴は、それぞれ請求項1、7および14の特徴節において示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(好ましい実施例の説明)
本発明によるCIGS電池が図2に示されている。本電池は、通常のガラス基板1、モリブデンの後面コンタクト層2、CIGS層3、およびウィンドウ層5を含む。通常のCdSバッファ層は2つのバッファ層、CIGS層上に付着されZn(O,S)を含む第1のバッファ層、および、第1のバッファ層上に付着されZnOを含む第2のバッファ層8、によって置き換えられている。
【0023】
このことは、本発明による1つの処理工程において行うことができる。最初に、Zn(O,S)層が原子層付着(ALD)により付着され、これに直ぐ続いてZnO層が同一の処理チャンバにおいてALDにより付着される。実際において、2つの層は、Zn(O,S)の1つの単一層に置き換えられていると考えることができる。ここで、付着の後半において硫黄は加えられない。
【0024】
Zn(O,S)層とZnO層の組合せを可能にするのは、本発明による同一のチャンバにおけるALD付着である。
【0025】
Zn(O,S)層の機能は、その下に位置する活性CIGS層の表面を電子的に受動的にすることである。CIGS層の表面は、Zn(O,S)層が存在しなければ活性であるという欠点を有する。これらの欠点はまた、下に位置するCIGS層の性質上に否定的な影響を及ぼす。Zn(O,S)層はこれらの欠点を電子的に受動的にし、完全でないにしても大幅にCIGS層へのそれらの影響を減少させる。現時点では、Zn(O,S)層がどんな他の性質および機能を有しているかは完全には理解されていない。
【0026】
ZnO層の機能は、その下に位置する非常に薄いZn(O,S)層を物理的に保護することである。Zn(O,S)層の厚さは、約30nm(=30x10-9mあるいは300Å)より薄い。実験によれば、ZnO層の厚さは重要であるようには見えない。その厚さは一般に、50−100nmである。
【0027】
ZnOおよびZn(O,S)層は、本発明の本実施例においては、2つの個別の別個の層である。ZnO層は、硫黄を含むZn(O,S)層と共に一体的に形成される、あるいはその反対である。2つの層は一緒になって単一の単位として見える。
【0028】
図3に示される第2の実施例において、Zn(O,S)層の上部の硫黄含有は徐々に減少し、最終的には消滅し、望ましい厚さのZnO層の第1の単一層を示す。言い換えれば、組み合わされたZnOおよびZn(O,S)層の厚さを越えて硫黄傾斜がある。本実施例において個別の層は無いが、Zn(O,S)層はZnO層に変質し、その反対もある。それにも関わらず、Zn(O,S)層はZnO層と一体的である。
【0029】
Zn(O,S)およびZnO層の付着のためのALD処理は、CIGS層の付着のための先行する処理と統合された、本発明の他の態様による。図4において、本発明の太陽電池構造を製造するための本発明による生産ラインが示され、本生産ラインは、インレット・チャンバ9、移送および加熱チャンバ10、CIGS処理チャンバ11、移送および冷却チャンバ12、およびアウトレット・ロック・チャンバ13、を含む従来のCIGS生産ラインを含む。本発明によると、ロック・チャンバは、ZnOおよびZn(O,S)層の付着のためのALD処理チャンバとして使用される。ALD処理チャンバに続いて、選択的出口ロック14がある。出口ロックはまた、ALDチャンバの一部であってもよい。
【0030】
スパッタされた後面コンタクトMo層を備えた基板は、インレット・チャンバ内に1度に1個ずつ登載される。移送チャンバにおいて、それらは加速され約500℃に加熱される。それらはそれにより、CIGS処理チャンバに、連続する流れにおいて互いに密接して到着し、そこで順番に連続して付着される。CIGS処理チャンバは、気相成長によるCIGS層の付着のための、Cu、In、Ga、およびSeの源を有する。CIGS層を望ましい厚さに成長させた後、基板は移送および冷却チャンバに入れられ、そこで基板は、ALD処理チャンバに入れられる前に、真空あるいは不活性ガスにおいて、約120℃の望ましいALD処理温度に冷やされる。ALD処理チャンバにおいて、基板は、図4に示されるように並行して、あるいは1個ずつ、処理される。
【0031】
ALD処理チャンバは、H2S、ジエチル亜鉛および水の源を有する。各源はバルブを有し、そのバルブを通して、対応するガス状化合物が、既定の時間処置チャンバ内に注入される。対応するガス状化合物の“パルス”がこのようにして与えられる。
【0032】
ALD処理が開始する前に、ALD処理チャンバは、反応チャンバを洗浄するために窒素ガスで洗い流される。
【0033】
ALD処理は、ジエチル亜鉛のパルスを注入することによって開始する。CIGS層の表面において、亜鉛を含む分子の単一層が吸収される。熱力学的に、処理は、Zn分子の薄い1つの単一層が現温度において生じるが、追加のジエチル亜鉛パルスが与えられたとしてもさらなる単一層が生じないように、制御される。
【0034】
次に、H2OあるいはH2Sのパルスが注入される。これに続き、ジエチル亜鉛の別のパルスが注入される。次に、H2OあるいはH2Sのパルスが与えられる。これにより、亜鉛分子を含む単一層の上に酸素および硫黄が成長する結果となる。その結果、Zn(O,S)の第1の単一層ができる。
【0035】
これらの工程は、望ましい厚さの第1のZn(O,S)層が得られるまで、追加のZn(O,S)単一層を互いの上に成長させるよう繰り返される。単一層は、厳しく制御された方法において成長し、これらは、CIGS層において存在するかもしれないくぼみやでこぼこの中に端を越えて成長する。
【0036】
Zn(O,S)層の厚さは、水およびH2Sと交互のジエチル亜鉛パルスのサイクルの数を選択することによって制御される。
【0037】
このように、各第2のパルスはジエチル亜鉛のパルスであり、これらの間にH2OおよびH2Sのパルスが注入される。言い換えれば、ジエチル亜鉛のパルスは、H2OおよびH2Sのパルスと交互になっていると言うことができる。H2OおよびH2Sが交互になる順番は、H2O−H2S−H2O−H2S、等となる必要はなく、変化してもよい。例えば、H2Sの1つのパルスに、H2Oの複数のパルスが連続して続いてもよい。さらに、H2OおよびH2Sのパルスが注入される法則は、規則的である必要はなく、変化してもよい。
【0038】
上には記述していないが、ALD処理チャンバは、新しい化合物のパルスが注入される前に洗浄されなければならないことを理解されたい。この目的のために、ALD処理チャンバは窒素ガスで洗い流される。
【0039】
出願人は、ジエチル亜鉛の第1のパルスは、CIGS層に接着しないかもしれないことを見出した。この理由により、CIGS処理チャンバからALD処理チャンバへの移送の間に、基板が外気にさらされないようにすることが重要である。
【0040】
Zn(O,S)層がCIGS層上に成長し始めるまでには、潜伏時間があるように見える。化合物の各パルスが基板の領域全体を覆い、そこにある最上層の単一層と反応できるようにされることが重要である。反応は、パルスが十分に長い場合飽和する。従って、各パルスの幅は、このことを達成するよう適合されなければならない。一旦単一層が成長し始めると、下に位置する層の表面全体を覆って同じ厚さに成長する。反応は従って自動調節的であり、処理は、望ましい厚さのZn(O,S)層が達成されるまで繰り返される。
【0041】
出願人は、16%の効率係数を有する太陽電池が、以下の方法が取られた場合結果として得られることを見出した。全ての第2のパルスは常にジエチル亜鉛であり、亜鉛パルスの間にH2OおよびH2Sの合計5つのパルスが与えられ、これらのパルスのうち4つはH2Oであり1つはH2Sである。例えば、以下のようなものである。
Zn−H2O−Zn−H2O−Zn−H2O−Zn−H2O−Zn−H2S−Zn−等
【0042】
指示された数値により、H2Sは、水とH2Sパルスの合計数に対する1対5(つまり20%)の割合において与えられる。ほぼ同じ効率係数を有する太陽電池は、H2OとH2Sパルスの合計数に対するH2Sパルスの割合が1:6(17%)である場合に得られる。
【0043】
効率係数が13−16%の間を変化する太陽電池は、H2Sが10−100%の割合で与えられた場合、望ましくは水とH2Sパルスの合計数の15−25%の割合で与えられた場合に、結果として生じる。H2Sパルスの、H2OとH2Sの合計パルスに対する割合が10%である場合、約15%のオーダの効率係数を有する太陽電池を得ることが可能である。H2Sパルスのみが与えられた場合(100%に対応する)、結果としての太陽電池は13%の効率係数を有する。
【0044】
従って、出願人は、第1のバッファ層はZn(Ox,S1-x)を含むべきであるということを見出した。ここでxは、0と0.9の間、望ましくは0.1と0.7の間を変化する。
【0045】
Zn(O,S)バッファ層を成長させる方法を他の方法で表現すると、ジエチル亜鉛のパルスは水のパルスと交互になると言うことである。水のパルスのうちいくつかは硫化水素のパルスと置き換えられている。従って、H2Sパルスの割合を変化させることによって、結果物の太陽電池の性質が制御される。
【0046】
上記のように、Zn(O,S)層の厚さは、約30nmより薄い。出願人は、厚さが1nm程の薄さである場合に、高性能の太陽電池が得られることを見出した。
【0047】
既定の厚さのZn(O,S)層が成長すると、処理は、今度はH2Sのパルス無しで繰り返され、処理はZnOを生成するために続けられる。ジエチル亜鉛と水の交互のパルスを与えることによって、ZnOの第1の単一層がZn(O,S)層の表面上に成長する。ジエチル亜鉛と水の交互のパルスを与え続けることによって、ZnOの追加の単一層が互いの上に成長し、処理は、望ましい厚さのZnO層が結果として生じるまで繰り返される。
【0048】
一般的に言うと、層は、上記のALD処理が取られる場合、制御された速度で成長する。パルスの幅は、ALD処理チャンバの容量による。
【0049】
ZnO層が完成すると基板は出口ロックに移送され、そこから基板は、前面コンタクトを付着するための装置が続くパターニング装置、および、本説明の導入部において記述した追加パターニング工程のための装置に引き渡される。
【0050】
上記ALD方法は、図3に示される、組み合わされたZn(O,S)およびZnO硫黄傾斜層の付着によく適している。Zn(O,S)層を成長させるための処理の最後において、H2Sパルスの数は、単一層毎に徐々に減らされ、H2Sパルスは最終的になくなる。最後に、水パルスのみと交互になるジエチル亜鉛パルスが注入され、それにより、望ましい厚さのZnO層が達成されるまで、互いの上にZnO単一層が構築され続ける。
【0051】
上記の処理ラインは、CIGS層を成長させるための真空付着処理、および2つのZn(O,S)およびZnO層を成長させるためのALD処理は、全てドライ処理であることにおいて調和が取れている。
【0052】
(本発明の他の実施例)
ジエチル亜鉛の代わりに、ジメチル亜鉛あるいは他の有機金属亜鉛化合物を使用することができる。有機金属インジウム化合物を使用することもまた可能である。
【0053】
出願者は、ALDチャンバ内の基板が約120℃の温度を有する場合、この温度において2つのバッファ層を成長させることができることを見出した。
【0054】
Zn(O,S)層は160℃の温度において付着させることができ、ZnO層は120℃において付着させることができる。ALD処理チャンバ内では基板の温度は120℃が好ましいが、2つのバッファ層は約250℃の高温において付着してもよく、またそれは100℃の低温であってもよい。好ましい温度範囲は、2つのバッファ層7、8に対して100−130℃である。
【0055】
図5に示される処理ラインの他の実施例において、それぞれのバッファ層7および8の付着のための、2つの別個のALD処理チャンバ13および15がある。2つのバッファ層が異なる温度において付着される場合、各ALD処理チャンバは、それぞれの温度に保たれる。このことは、基板が、ZnO層が付着される前に同一のチャンバにおいて冷却される場合と比較して、基板の冷却時間が短縮されるので、処理能力を増大させる。
【0056】
上記において、第1のバッファ層、つまりZn(O,S)層は、酸化硫化亜鉛を含むと記述してきた。ALD付着処理の間、2次的位相、例えば水酸化亜鉛、が発展するかもしれず、従ってバッファ層において存在するかもしれない。
【0057】
本発明のさらなる実施例によると、第1のバッファ層は、ALD付着硫化インジウムIn23を含んでもよく、第2のバッファ層は、上記のように通常のALD付着ZnOを含んでもよい。ALD付着In23は、ジエチル亜鉛パルスを、インジウムアセチルアセトン、In(acac)3のような有機金属インジウム化合物と置き換えた、上記と同じ方法で製造される。
【0058】
図6は、本発明による第1のZn(O,S)バッファ層および第2のZnOバッファ層を備えた太陽電池の、電流密度(mA/cm2)電圧(V)グラフである。電池の特性は、684mVの開路電圧Voc、74%の充填率FF、32,0mA/Cm2の短絡電流Isc、および16,0%の効率である。太陽電池は、反射防止コーティングを備えていた。これらの性質は、本発明の太陽電池は、CdSバッファ層を有する一般的なCIGS電池と同等あるいはより一層優れた性能を有することを示している。
【0059】
図7は、CdSバッファ層を有する一般的なCIGS電池と比較した、本発明による第1のZn(O,S)バッファ層および第2のZnOバッファ層を備えた太陽電池に対する、異なる波長における量子効率QEを示す図である。どの電池も、反射防止層を有していなかった。見て解るように、本発明による太陽電池は、スペクトルの青領域においてより高いQEを有する。
【0060】
図8は、図6のグラフに類似するグラフであり、ここで、本発明による第1のZn(O,S)バッファ層および第2のZnOバッファ層を備えた太陽電池が、第1のZn(O,S)バッファ層のみを有する太陽電池と比較されている。以下の表1から解るように、本発明による2つのバッファ層を有する電池は、より優れた性質を有する。
【表1】


scは、短絡電流であり、FFは、充填率である。
【0061】
図9は、図8のグラフに類似するグラフであり、ここで、本発明による第1のZn(O,S)バッファ層および第2のZnOバッファ層を備えた太陽電池が、単一のCdSバッファ層を使用する一般的なCIGS電池、および、第2のZnOバッファ層のみを有するCIGS電池と比較されている。以下の表2に挙げられる性質から解るように、本発明による電池は、CdSバッファ層を使用するCIGS電池と同等の性能を有する。
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】既知の、通常のCIGS太陽電池構造の簡略化した断面図である。
【図2】本発明による2つのALDバッファ層を有するCIGS太陽電池構造の断面図である。
【図3】2つのALDバッファ層のうち下部層が硫黄傾斜を有する、本発明による太陽電池構造の断面図である。
【図4】本発明による太陽電池の製造のための生産ラインの概要側面図である。
【図5】図4に示される生産ラインの他の実施例を示す図である。
【図6】本発明による2つのALDバッファ層を有するCIGS太陽電池の効率を示す図である。
【図7】1つのCdSバッファ層のみを有するCIGS太陽電池と比較した、本発明による2つのALDバッファ層を有するCIGS太陽電池の量子効率を示す図である。
【図8】1つのALD Zn(O,S)バッファ層のみを有するCIGS太陽電池と比較した、本発明によるCIGS太陽電池の効率を示す図である。
【図9】1つのALD ZnO層のみを有するCIGS太陽電池、および1つのCdSバッファ層のみを有するCIGS太陽電池と比較した、本発明によるCIGS太陽電池の効率を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部電極層上に形成されたp型半導体Cu(In,Ga)(Se,S)2光吸収層(CIGS層)の薄膜、上記光吸収層を覆って形成された、n型導電性を有しウィンドウ層および電極として機能する透過導電性金属酸化物の薄膜、および上記ウィンドウ層と上記CIGS層との間のインタフェース層、を含む薄膜太陽電池であって、上記インタフェース層は、上記CIGS層上にALD成長された、上記太陽電池の電気的性質を改良する第1の硫黄含有バッファ層、および、ALD付着により上記第1のバッファ層と一体的に形成された、ZnOを含む第2のバッファ層、を含むことを特徴とする、上記薄膜太陽電池。
【請求項2】
請求項1に記載の薄膜太陽電池であって、上記第1のバッファ層は、ALD付着されたZn(Ox,S1-x)であり、ここで、xは0と0.9との間、好ましくは0.1と0.7との間で変化することを特徴とする、上記薄膜太陽電池。
【請求項3】
請求項2に記載の薄膜太陽電池であって、上記第1のバッファ層はさらに水素を含み、ここで亜鉛化合物もまた水酸化亜鉛を含むことを特徴とする、上記薄膜太陽電池。
【請求項4】
請求項1に記載の薄膜太陽電池であって、上記第1のバッファ層は、ALD付着In23であることを特徴とする、上記薄膜太陽電池。
【請求項5】
請求項2に記載の薄膜太陽電池であって、上記第1のバッファ層の厚さは、約1nmより厚く、約30nmより薄いことを特徴とする、上記薄膜太陽電池。
【請求項6】
請求項1に記載の薄膜太陽電池であって、上記第1のバッファ層の上記第2のバッファ層への段階的遷移があり、上記第1のバッファ層の硫黄含有は、その厚さを越える方向において徐々に減少することを特徴とする、上記薄膜太陽電池。
【請求項7】
薄膜太陽電池構造における、p型半導体Cu(In,Ga)(Se,S)2光吸収層(CIGS層)の薄膜とn型導電性ウィンドウ層の薄膜との間にインタフェース層を形成する方法であって、上記CIGS層を規定の温度にする工程と、上記CIGS層を処理チャンバ内に入れる工程、を含み、上記インタフェース層を、最初に原子層付着(ALD)を使用して上記CIGS層の表面上に第1の硫黄含有バッファ層を付着し、最後に原子層付着(ALD)を使用して上記第1のバッファ層の上に第2のZnO層を付着することによって提供することを特徴とする、上記方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、上記第1および第2のバッファ層を1つの同一のALD処理チャンバにおいて形成することを特徴とする、上記方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法であって、上記第1および第2バッファ層を個別の、しかしリンクされたALD処理チャンバにおいて形成することを特徴とする、上記方法。
【請求項10】
請求項7に記載の方法であって、上記吸収層を上記ALD反応チャンバにおいて、亜鉛含有単一層を形成するために、例えばジエチル亜鉛あるいはジメチル亜鉛のような有機金属亜鉛化合物のパルスに、そして、上記光吸収層の上に吸収される第1の単一層を形成するために上記亜鉛原子の上に酸素および硫黄を成長させるために、水とH2Sの交互のパルスに交互にさらすことによって、上記第1の硫黄含有バッファ層を提供することと、上記工程を、互いの上に追加硫黄含有単一層を成長させるために繰り返すことと、そして、この処理を、第1の既定の厚さの上記第1の硫黄含有バッファ層が得られるまで続けることを特徴とする、上記方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、H2Sのパルスを、水とH2Sパルスの合計数に対して、10−100%の割合において、好ましくは15−25%の割合において、そして最も好ましくは20%の割合において提供することを特徴とする、上記方法。
【請求項12】
請求項10あるいは11に記載の方法であって、上記第2のZnOバッファ層を、上記H2Sのパルスを除いて上記第1のバッファ層と同様の方法で提供し、上記第1のバッファ層を上記ALD反応チャンバにおいて、例えばジエチル亜鉛あるいはジメチル亜鉛のような有機金属亜鉛化合物のガス・パルス、および水のパルスに、第2の既定の厚さの上記第2のZnOバッファ層が得られるまで、交互にさらし続けることを特徴とする、上記方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、上記第1のバッファ層の上記第2のバッファ層内への緩やかな遷移を得るために、上記追加単一層が成長するにつれ、上記硫黄の割合を連続して減少させることを特徴とする、上記方法。
【請求項14】
下部電極層上に形成されたp型半導体Cu(In,Ga)(Se,S)2光吸収層(CIGS層)の薄膜、上記光吸収層を覆って形成された、n型導電性を有しウィンドウ層および電極として機能する透過導電性金属酸化物の薄膜、および上記ウィンドウ層と上記CIGS層との間のインタフェース層、を含む太陽電池構造を製造するための処理ラインであって、上記CIGS層が基板上に真空付着される真空付着チャンバを含み、最初にALD付着を使用して上記CIGS層の表面上に第1の硫黄含有バッファ層を成長させ、最後にALD付着を使用して上記第1のバッファ層上に、ZnOを含む第2のバッファ層を成長させることによる上記インタフェース層のALD付着のためのALD処理チャンバ、および、太陽膜ブランクを上記真空付着チャンバから上記ALD付着チャンバに移送するため、および上記太陽膜ブランクを上記CIGS付着温度から上記ALD付着温度に冷却するための、上記真空付着チャンバと上記ALD処理チャンバとの間に配置された移送チャンバによって特徴付けられる、上記処理ライン。
【請求項15】
請求項14に記載の処理ラインであって、上記1つのALD処理チャンバに接続した追加ALD処理チャンバを含み、上記最初に言及したALD処理チャンバは上記第1のバッファ層の上記ALD付着のために使用され、上記追加ALD処理チャンバは上記第2のバッファ層の上記ALD付着のために使用されることを特徴とする、上記処理ライン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部電極層(2)上に形成されたp型半導体Cu(In,Ga)(Se,S)2光吸収層(CIGS層)(3)の薄膜、上記光吸収層を覆って形成された、n型導電性を有しウィンドウ層(5)および電極として機能する透過導電性金属酸化物の薄膜、および上記ウィンドウ層と上記CIGS層との間のインタフェース層(6)、を含む薄膜太陽電池であって、上記インタフェース層は、上記CIGS層上にALD成長された第1の硫黄含有バッファ層(7)、および、ALD付着により上記第1のバッファ層と一体的に形成された、ZnOを含む第2のバッファ層(8)、を含むことを特徴とする、上記薄膜太陽電池。
【請求項2】
請求項1に記載の薄膜太陽電池であって、上記第1のバッファ層(7)は、ALD付着されたZn(Ox,S1-x)であり、ここで、xは0と0.9との間、好ましくは0.1と0.7との間で変化することを特徴とする、上記薄膜太陽電池。
【請求項3】
請求項1に記載の薄膜太陽電池であって、上記第1のバッファ層(7)は、ALD付着In23であることを特徴とする、請求項2記載の薄膜太陽電池。
【請求項4】
請求項2に記載の薄膜太陽電池であって、上記第1のバッファ層(7)の厚さは、約1nmより厚く、約30nmより薄いことを特徴とする、請求項1記載の薄膜太陽電池。
【請求項5】
請求項1に記載の薄膜太陽電池であって、上記第1のバッファ層(7)の上記第2のバッファ層(8)への段階的遷移があり、上記第1のバッファ層の硫黄含有は、その厚さを越える方向において徐々に減少することを特徴とする、上記薄膜太陽電池。
【請求項6】
薄膜太陽電池構造の基板上に、p型半導体Cu(In,Ga)(Se,S)2光吸収層(CIGS層)(3)の薄膜とn型導電性ウィンドウ層(5)の薄膜との間のインタフェース層を形成する方法であって、CIGS処理チャンバ(11)における上記CIGS層の真空付着の工程を含み、付着されたCIGS層を有する上記基板を、上記基板を外気にさらすことなくALD処理チャンバに移送し、上記インタフェース層を上記ALD処理チャンバにおいて、最初に原子層付着(ALD)を使用して上記CIGS層の表面上に第1の硫黄含有バッファ層(6)を付着し、最後に原子層付着(ALD)を使用して上記第1のバッファ層(7)の上に第2のZnO層(8)を付着することによって提供することを特徴とする、上記方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、上記第1および第2のバッファ層(7,8)を1つの同一のALD処理チャンバ(13)において形成することを特徴とする、上記方法。
【請求項8】
請求項6に記載の方法であって、上記第1および第2バッファ層を個別の、しかしリンクされたALD処理チャンバ(13,15)において形成することを特徴とする、上記方法。
【請求項9】
請求項6に記載の方法であって、上記吸収層(3)を上記ALD反応チャンバ(13)において、亜鉛含有単一層を形成するために、例えばジエチル亜鉛あるいはジメチル亜鉛のような有機金属亜鉛化合物のパルスに、そして、上記光吸収層(3)の上に吸収される第1の単一層を形成するために上記亜鉛原子の上に酸素および硫黄を成長させるために、又は、水とH2Sのパルスに交互にさらすことによって、上記第1の硫黄含有バッファ層(7)を提供することと、上記工程を、互いの上に追加硫黄含有単一層を成長させるために繰り返すことと、そして、この処理を、第1の既定の厚さの上記第1の硫黄含有バッファ層(7)が得られるまで続けることを特徴とする、上記方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、H2Sのパルスを、水とH2Sパルスの合計数に対して、10−100%の割合において、好ましくは15−25%の割合において、そして最も好ましくは20%の割合において提供することを特徴とする、上記方法。
【請求項11】
請求項9あるいは10に記載の方法であって、上記第2のZnOバッファ層(8)を、上記H2Sのパルスを除いて上記第1のバッファ層(7)と同様の方法で提供し、上記第1のバッファ層を上記ALD反応チャンバにおいて、例えばジエチル亜鉛あるいはジメチル亜鉛のような有機金属亜鉛化合物のガス・パルス、および水のパルスに、第2の既定の厚さの上記第2のZnOバッファ層が得られるまで、交互にさらし続けることを特徴とする、上記方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、上記第1のバッファ層(7)の上記第2のバッファ(8)層内への緩やかな遷移を得るために、上記追加単一層が成長するにつれ、上記硫黄の割合を連続して減少させることを特徴とする、上記方法。
【請求項13】
下部電極層(2)上に形成されたp型半導体Cu(In,Ga)(Se,S)2光吸収層(CIGS層)(3)の薄膜、上記光吸収層を覆って形成された、n型導電性を有しウィンドウ層および電極として機能する透過導電性金属酸化物の薄膜(5)、および上記ウィンドウ層と上記CIGS層との間のインタフェース層(6)、を含む太陽電池構造を製造するための処理ラインであって、上記CIGS層が基板上に真空付着される真空付着チャンバ(11)を含み、最初にALD付着を使用して上記CIGS層の表面上に第1の硫黄含有バッファ層(7)を成長させ、最後にALD付着を使用して上記第1のバッファ層上に、ZnOを含む第2のバッファ層(8)を成長させることによる上記インタフェース層のALD付着のためのALD処理チャンバ(13)、および、太陽膜ブランクを、上記ブランクを外気にさらすことなく上記真空付着チャンバから上記ALD付着チャンバに移送するため、および上記太陽膜ブランクを上記CIGS付着温度から上記ALD付着温度に冷却するための、上記真空付着チャンバと上記ALD処理チャンバとの間に配置された移送チャンバ(12)によって特徴付けられる、上記処理ライン。
【請求項14】
請求項13に記載の処理ラインであって、上記1つのALD処理チャンバ(13)に接続した追加ALD処理チャンバ(15)を含み、上記最初に言及したALD処理チャンバ(13)は上記第1のバッファ層(7)の上記ALD付着のために使用され、上記追加ALD処理チャンバ(15)は上記第2のバッファ層(8)の上記ALD付着のために使用されることを特徴とする、上記処理ライン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2006−525671(P2006−525671A)
【公表日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−508043(P2006−508043)
【出願日】平成16年5月5日(2004.5.5)
【国際出願番号】PCT/SE2004/000689
【国際公開番号】WO2004/100250
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(505413392)
【Fターム(参考)】