説明

薄膜形成方法

【課題】窒素のような安価な放電ガスを用いても、高密度プラズマが達成出来、良質な薄膜を高速で製膜出来る薄膜形成方法を提供する。
【解決手段】大気圧プラズマ放電処理装置10を用いる薄膜形成方法により、第1電極11から印加する高周波電界の強さ(kV/mm)をV、第2電極12から印加する高周波電界の強さ(kV/mm)をV、放電開始電界の強さ(kV/mm)をIVとしたとき、V≧IV>VまたはV>IV≧Vなる関係を有し、第2電極から印加する高周波電界の出力密度が1W/cm以上であり、かつ前記放電空間に供給される全ガス量の90〜99.9体積%が放電ガスである高周波電界を印加して薄膜を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧プラズマ放電処理を用いた新規な薄膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大気圧プラズマ放電処理を用いることによって、希ガスと薄膜形成性ガスの混合ガスを使用して高品位の薄膜を得ることが知られているが、放電ガスに使用しているヘリウムやアルゴンが高価なためコストアップの原因になっている。従来のこの方法では、放電ガスとして希ガス以外の安価なガス、例えば、空気成分中の酸素ガス、窒素ガスや二酸化炭素等を使用するには放電を開始する電界の強さ(以下、電界強度とも言う)が高く、従来の高周波電界のもとでは安定な放電が得られず、薄膜が形成されにくい。
【0003】
特開平10−154598号公報には、パルス電界を用いることにより、窒素ガスのような放電開始電界強度の高いガスでも放電が達成出来ることが開示されているが、プラズマ密度が低く、良質な膜が得られないばかりか、製膜速度も遅く、生産性が非常に低い。
【0004】
一方、酸素ガス、あるいは酸素ガスと希ガスを混合したガスを、予備放電電極において低周波電界をかけて活性化または電離させ、次にこの電離または活性化されたガスを、電離または活性化されてない酸素ガス、あるいは酸素ガスと希ガスを混合したガスと共に、前記予備放電電極に対し併設された主放電電極のもとに送り、大気圧下、主放電電極間に高周波電界を印加してプラズマを発生させ、プラズマによって生成した活性種を被処理体の表面をエッチングあるいは被処理体面上にある有機物をアッシングするという方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、本発明者らの研究によると、上記方法を薄膜の形成に応用した場合、酸素ガス、あるいは酸素ガスと希ガスを混合したガスを予備放電電極間で低周波電界をかけて電離あるいは活性化したガスとした後、該電離あるいは活性化したガスと、主放電電極の手前で導入した薄膜形成性ガスとを混合して、主放電電極に高周波電界をかけるとパーティクルが発生してしまい、薄膜の形成がほとんど行われないことがわかった。また、プラズマ状態の酸素ガスと薄膜形成性ガスを混合すると爆発の危険性があり、この方法は薄膜形成方法として不適当であることが判明した。
【0005】
また、アルゴンを放電ガスとして、片側の電極から、パルス化された高周波電界と、パルス化された直流電界とを重畳することによって安定な放電状態を達成でき、それにより薄膜形成も可能である方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、上記で開示されている製膜方法では、最初、トリガーとして直流パルス電界でプラズマを発生させるが、その後、高周波パルス電界への切り替えを行い、プラズマが安定後、基材をプラズマ中へ導入する、とある。すなわち、製膜中は直流パルス電界および高周波パルス電界を重畳していない。本発明者らの研究によると、このような電界の印加法では、結果として高性能な薄膜形成ができないことが判明した。
【0006】
また、高周波電界と低周波電界とを重畳し、窒素ガスを用い、発生したプラズマによって基材を洗浄する工程を有する電子部品実装方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。電子部品の洗浄しか開示がないが、この様に単に低周波および高周波を重畳したのみでは、高性能な薄膜形成は難しいことが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−16696号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2002−110397号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平11−191576号公報 (特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、例えば、窒素のような安価で且つ安全な放電ガスを用いても、高密度プラズマが達成でき、良質な薄膜を高速で製膜できる薄膜形成方法を提供し、これにより良質で高性能な薄膜を安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定の高周波電界を印加することで、窒素等の放電開始電界強度の高い放電ガスでも、高密度プラズマの発生が達成でき、良質な薄膜が得られ、高速に製膜でき、更には、安価、且つ安全に運転でき、環境負荷の低減も達成できることを見いだしたのである。
【0010】
本発明は、以下の構成よりなる。
【0011】
(1) 大気圧もしくはその近傍の圧力下、放電空間に薄膜形成ガスを含有するガスを供給し、
前記放電空間に高周波電界を印加することにより前記ガスを励起し、基材を励起した前記ガスに晒すことにより前記基材上に薄膜を形成する薄膜形成方法において、
前記高周波電界が、第1の高周波電界および第2の高周波電界を重畳したものであり、
前記第1の高周波電界の周波数ωより前記第2の高周波電界の周波数ωが高く、
前記第1の高周波電界の強さV、前記第2の高周波電界の強さVおよび放電開始電界の強さIVとの関係が、
≧IV>V
または V>IV≧V を満たし、
前記第2の高周波電界の出力密度が、1W/cm以上であることを特徴とする薄膜形成方法。
【0012】
(2) 前記放電空間が、対向する第1電極と第2電極とで構成されることを特徴とする(1)に記載の薄膜形成方法。
【0013】
(3) 前記第2の高周波電界の出力密度が、50W/cm以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載の薄膜形成方法。
【0014】
(4) 前記第2の高周波電界の出力密度が、20W/cm以下であることを特徴とする(3)に記載の薄膜形成方法。
【0015】
(5) 前記第1の高周波電界の出力密度が1W/cm以上であることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれか1項に記載の薄膜形成方法。
【0016】
(6) 前記第1の高周波電界の出力密度が、50W/cm以下であることを特徴とする(5)に記載の薄膜形成方法。
【0017】
(7) 前記第1の高周波電界および前記第2の高周波電界がサイン波であることを特徴とする(1)乃至(6)のいずれか1項に記載の薄膜形成方法。
【0018】
(8) 前記第1の高周波電界を前記第1電極に印加し、前記第2の高周波電界を前記第2電極に印加することを特徴とする(2)乃至(7)のいずれか1項に記載の薄膜形成方法。
【0019】
(9) 前記放電空間に供給される全ガス量の90〜99.9体積%が放電ガスであることを特徴とする(1)乃至(8)の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0020】
(10) 前記放電ガスが、50〜100体積%の窒素ガスを含有することを特徴とする(9)に記載の薄膜形成方法。
【0021】
(11) 前記放電ガスが、50体積%未満の希ガスを含有することを特徴とする(9)または(10)に記載の薄膜形成方法。
【0022】
(12) 前記薄膜形成ガスが、有機金属化合物、ハロゲン化金属、金属水素化合物から選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とする(1)乃至(11)の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0023】
(13) 前記有機金属化合物が、有機珪素化合物、有機チタン化合物、有機錫化合物、有機亜鉛化合物、有機インジウム化合物および有機アルミニウム化合物から選ばれる少なくとも一つの化合物を含有することを特徴とする(12)に記載の薄膜形成方法。
【0024】
(14) (1)乃至(13)の何れか1項に記載の薄膜形成方法により形成された薄膜を有することを特徴とする基材。
【0025】
(15) 大気圧もしくはその近傍の圧力下、放電空間に薄膜形成ガスおよび窒素ガスを含む放電ガスを含有するガスを供給し、
前記放電空間に高周波電界を印加することにより前記ガスを励起し、基材を励起した前記ガスに晒すことにより前記基材上に薄膜を形成する薄膜形成方法において、
前記高周波電界が、第1の高周波電界および第2の高周波電界を重畳したものであり、
前記第1の高周波電界の周波数ωより前記第2の高周波電界の周波数ωが高く、
前記第1の高周波電界の強さV、前記第2の高周波電界の強さVおよび放電開始電界の強さIVとの関係が、
≧IV>V
または V>IV≧V を満たし、
前記第2の高周波電界の出力密度が、1W/cm以上であることを特徴とする薄膜形成方法。
【0026】
(16) 前記放電空間が、対向する第1電極と第2電極とで構成されることを特徴とする(15)に記載の薄膜形成方法。
【0027】
(17) 前記第2の高周波電界の出力密度が、50W/cm以下であることを特徴とする(15)または(16)に記載の薄膜形成方法。
【0028】
(18) 前記第2の高周波電界の出力密度が、20W/cm以下であることを特徴とする(17)に記載の薄膜形成方法。
【0029】
(19) 前記第1の高周波電界の出力密度が1W/cm以上であることを特徴とする(15)乃至(18)のいずれか1項に記載の薄膜形成方法。
【0030】
(20) 前記第1の高周波電界の出力密度が、50W/cm以下であることを特徴とする(15)乃至(19)のいずれか1項に記載の薄膜形成方法。
【0031】
(21) 前記第1の高周波電界および前記第2の高周波電界がサイン波であることを特徴とする(15)乃至(20)のいずれか1項に記載の薄膜形成方法。
【0032】
(22) 前記第1の高周波電界を前記第1電極に印加し、前記第2の高周波電界を前記第2電極に印加することを特徴とする(16)乃至(21)のいずれか1項に記載の薄膜形成方法。
【0033】
(23) 前記放電空間に供給される全ガス量の90〜99.9体積%が前記放電ガスであることを特徴とする(15)乃至(22)の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0034】
(24) 前記放電ガスが、50〜100体積%の窒素ガスを含有することを特徴とする(23)に記載の薄膜形成方法。
【0035】
(25) 前記放電ガスが、50体積%未満の希ガスを含有することを特徴とする(23)または(24)に記載の薄膜形成方法。
【0036】
(26) 前記薄膜形成ガスが、有機金属化合物、ハロゲン化金属、金属水素化合物から選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とする(15)乃至(25)の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0037】
(27) 前記有機金属化合物が、有機珪素化合物、有機チタン化合物、有機錫化合物、有機亜鉛化合物、有機インジウム化合物および有機アルミニウム化合物から選ばれる少なくとも一つの化合物を含有することを特徴とする(26)に記載の薄膜形成方法。
【0038】
(28) 前記周波数ωが、200kHz以下であることを特徴とする(15)乃至(27)のいずれか1項に記載の薄膜形成方法。
【0039】
(29) 前記周波数ωが、800kHz以上であることを特徴とする(15)乃至(28)のいずれか1項に記載の薄膜形成方法。
【0040】
(30) (15)乃至(29)の何れか1項に記載の薄膜形成方法により形成された薄膜を有することを特徴とする基材。
【0041】
(31) 大気圧もしくはその近傍の圧力下、放電空間に薄膜形成ガスを含有するガスを供給し、
前記放電空間に高周波電界を印加することにより前記ガスを励起し、基材を励起した前記ガスに晒すことにより前記基材上に薄膜を形成する薄膜形成方法において、
前記高周波電界が、第1の高周波電界および第2の高周波電界を重畳したものであり、
前記第1の高周波電界の周波数ωより前記第2の高周波電界の周波数ωが高く、
前記第1の高周波電界の強さV、前記第2の高周波電界の強さVおよび放電開始電界の強さIVとの関係が、
≧IV>V
または V>IV≧V を満たし、
前記第1の高周波電界の出力密度が1W/cm以上で、且つ、前記第2の高周波電界の出力密度が1W/cm以上であることを特徴とする薄膜形成方法。
【0042】
(32) 前記放電空間が、対向する第1電極と第2電極とで構成されることを特徴とする(31)に記載の薄膜形成方法。
【0043】
(33) 前記第2の高周波電界の出力密度が、50W/cm以下であることを特徴とする(31)または(32)に記載の薄膜形成方法。
【0044】
(34) 前記第2の高周波電界の出力密度が、20W/cm以下であることを特徴とする(33)に記載の薄膜形成方法。
【0045】
(35) 前記第1の高周波電界の出力密度が1W/cm以上であることを特徴とする(31)乃至(34)のいずれか1項に記載の薄膜形成方法。
【0046】
(36) 前記第1の高周波電界の出力密度が、50W/cm以下であることを特徴とする(35)に記載の薄膜形成方法。
【0047】
(37) 前記第1の高周波電界および前記第2の高周波電界がサイン波であることを特徴とする(31)乃至(36)のいずれか1項に記載の薄膜形成方法。
【0048】
(38) 前記第1の高周波電界を前記第1電極に印加し、前記第2の高周波電界を前記第2電極に印加することを特徴とする(32)乃至(37)のいずれか1項に記載の薄膜形成方法。
【0049】
(39) 前記放電空間に供給される全ガス量の90〜99.9体積%が放電ガスであることを特徴とする(31)乃至(38)の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0050】
(40) 前記放電ガスが、50〜100体積%の窒素ガスを含有することを特徴とする(39)に記載の薄膜形成方法。
【0051】
(41) 前記放電ガスが、50体積%未満の希ガスを含有することを特徴とする(39)または(40)に記載の薄膜形成方法。
【0052】
(42) 前記薄膜形成ガスが、有機金属化合物、ハロゲン化金属、金属水素化合物から選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とする(31)乃至(41)の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0053】
(43) 前記有機金属化合物が、有機珪素化合物、有機チタン化合物、有機錫化合物、有機亜鉛化合物、有機インジウム化合物および有機アルミニウム化合物から選ばれる少なくとも一つの化合物を含有することを特徴とする(42)に記載の薄膜形成方法。
【0054】
(44) 前記第1の高周波電界の電流Iより、前記第2の高周波電界の電流Iの方が高いことを特徴とする(31)乃至(43)に記載の薄膜形成方法。
【0055】
(45) 前記周波数ωの前記周波数ωに対する比が、100倍以上であることを特徴とする(44)に記載の薄膜形成方法。
【0056】
(46) (31)乃至(45)の何れか1項に記載の薄膜形成方法により形成された薄膜を有することを特徴とする基材。
【0057】
以下は、本発明の好ましい実施形態である。
【0058】
(101) 大気圧もしくはその近傍の圧力下、対向する第1電極と第2電極との間にガスを供給し、該第1電極と該第2電極との間に高周波電界を印加することにより該ガスを励起し、基材を励起した該ガスに晒すことにより該基材上に薄膜を形成する薄膜形成方法において、該高周波電界が、第1の周波数ωの電界成分と、該第1の周波数ωより高い第2の周波数ωの電界成分とを重ね合わせた成分を有することを特徴とする薄膜形成方法。
【0059】
(102) 前記第1の周波数ωの電界波形および前記第2の周波数ωの電界波形がサイン波であることを特徴とする(101)に記載の薄膜形成方法。
【0060】
(103) 前記第1の周波数ωが、200kHz以下であることを特徴とする(101)または(102)に記載の薄膜形成方法。
【0061】
(104) 前記第2の周波数ωが、800kHz以上であることを特徴とする(101)乃至(103)の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0062】
(105) 前記高周波電界が、第1の高周波電界強度Vおよび第2の高周波電界強度Vを重畳したものであることを特徴とする(101)乃至(104)の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0063】
(106) 前記第1の高周波電界強度V、前記第2の高周波電界強度Vおよび放電開始電界IVとの関係が、
≧IV>V
または V>IV≧Vを満たすことを特徴とする(105)に記載の薄膜形成方法。
【0064】
(107) 前記第1の高周波電界を前記第1電極に印加し、前記第2の高周波電界を前記第2電極に印加することを特徴とする(101)乃至(106)の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0065】
(108) 大気圧もしくはその近傍の圧力下、対向する第1電極と第2電極との間に放電ガスおよび薄膜形成ガスを供給し、該第1電極と該第2電極との間に高周波電界を印加することにより該放電ガスを励起して放電を開始し、該薄膜形成ガスを励起し、基材を励起した該薄膜形成ガスに晒すことにより該基材上に薄膜を形成する薄膜形成方法において、該高周波電界が、第1の高周波電界強度Vおよび第2の高周波電界強度Vを重畳したものであって、放電開始電界をIVとしたとき、
≧IV>V
または V>IV≧Vを満たすことを特徴とする薄膜形成方法。
【0066】
(109) 前記第1の高周波電界強度Vを印加する際の第1の周波数ωより、前記第2の高周波電界強度Vを印加する際の第2の周波数ωの方が高いことを特徴とする(108)に記載の薄膜形成方法。
【0067】
(110) 前記第1の周波数ωが、200kHz以下であることを特徴とする(109)に記載の薄膜形成方法。
【0068】
(111) 前記第2の周波数ωが、800kHz以上であることを特徴とする(109)または(110)に記載の薄膜形成方法。
【0069】
(112) 前記第1の高周波電界の電界波形および前記第2の高周波電界の電界波形がサイン波であることを特徴とする(108)乃至(111)の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0070】
(113) 前記第1電極と前記第2電極との間に供給される全ガス量の90〜99.9体積%が放電ガスであることを特徴とする(101)乃至(112)の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0071】
(114) 前記放電ガスが、50〜100体積%の窒素ガスを含有することを特徴とする(101)乃至(113)の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0072】
(115) 前記放電ガスが、50体積%未満の希ガスを含有することを特徴とする(101)乃至(114)に記載の薄膜形成方法。
【0073】
(116) 前記薄膜形成ガスが、有機金属化合物、ハロゲン化金属、金属水素化合物から選ばれる少なくとも一つの添加ガスを含有することを特徴とする(101)乃至(115)の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【0074】
(117) 前記有機金属化合物が、有機珪素化合物、有機チタン化合物、有機錫化合物、有機亜鉛化合物、有機インジウム化合物および有機アルミニウム化合物から選ばれる少なくとも一つの化合物を含有することを特徴とする(116)に記載の薄膜形成方法。
【0075】
(118) (101)乃至(117)の何れか1項に記載の薄膜形成方法により形成された薄膜を有することを特徴とする基材。
【0076】
(119) 第1電極と第2電極とが対向して配置され、前記第1電極に第1の高周波電界を印加する第1の電源、前記第2電極に第2の高周波電界を印加する第2の電源及び前記第1電極と前記第2電極との放電空間にガスを供給するガス供給手段を有することを特徴とする大気圧プラズマ放電処理装置。
【0077】
(120) 前記第1電極から前記第1の電源の間に、前記第2の電源からの周波数の電流を通過しにくくし、且つ前記第1の電源からの周波数の電流を通過し易くする第1フィルター、及び前記第2電極から前記第2の電源の間に、前記第1の電源からの周波数の電流を通過しにくくし、且つ前記第2の電源からの周波数の電流を通過し易くする第2フィルターを有することを特徴とする(119)に記載の大気圧プラズマ放電処理装置。
【0078】
(121) 前記第1電極または前記第2電極の温度を制御する電極温度制御手段を有することを特徴とする(119)または(120)に記載の大気圧プラズマ放電処理装置。
【0079】
(122) 前記第1の電源が、前記第2の電源より高い電界を印加する能力を有することを特徴とする(119)乃至(121)の何れか1項に記載の大気圧プラズマ放電処理装置。
【0080】
(123) 前記第2の電源が、前記第1の電源より高い周波数を印加する能力を有することを特徴とする(119)乃至(122)の何れか1項に記載の大気圧プラズマ放電処理装置。
【0081】
(124) 前記第1電極及び前記第2電極の少なくとも一方の電極が、導電性の金属質母材を誘電体で被覆した誘電体被覆電極であって、前記誘電体の空隙率が10体積%以下であることを特徴とする(119)乃至(123)の何れか1項に記載の大気圧プラズマ放電処理装置。
【0082】
(125) 前記誘電体の空隙率が8体積%以下であることを特徴とする(124)に記載の大気圧プラズマ放電処理装置。
【0083】
(126) 前記誘電体被覆電極の耐熱温度が100℃以上であることを特徴とする(124)または(125)に記載の大気圧プラズマ放電処理装置。
【0084】
(127) 前記誘電体被覆電極の前記導電性の金属質母材と前記誘電体の線熱膨張係数の差が10×10−6/℃以下であることを特徴とする請求項24乃至26の何れか1項に記載の大気圧プラズマ放電処理装置。
【0085】
(128) 前記誘電体の厚みが、0.5〜3mmであることを特徴とする(124)乃至(127)の何れか1項に記載の大気圧プラズマ放電処理装置。
【0086】
(129) 前記誘電体が、比誘電率6〜45の無機化合物であることを特徴とする(124)乃至(128)の何れか1項に記載の大気圧プラズマ放電処理装置。
【0087】
(130) 前記誘電体が、セラミックスを溶射した後、更に無機化合物で封孔処理されていることを特徴とする(124)乃至(129)の何れか1項に記載の大気圧プラズマ放電処理装置。
【0088】
(131) 前記セラミックスがアルミナを主成分とすることを特徴とする(130)に記載の大気圧プラズマ放電処理装置。
【0089】
(132) 前記誘電体の表面が研磨処理によって表面仕上げをされていることを特徴とする(124)乃至(131)の何れか1項に記載の大気圧プラズマ放電処理装置。
【0090】
(133) 前記誘電体の表面粗さRmaxが10μm以下であることを特徴とする(132)に記載の大気圧プラズマ放電処理装置。
【発明の効果】
【0091】
本発明により、窒素のような安価且つ安全な放電ガスを用いて、高密度プラズマの発生することが出来、また緻密な薄膜を得ることが出来、更に良質な薄膜を高速で製膜出来る薄膜形成方法を提供出来る。これにより良質で高性能の薄膜を有する基材を安価に提供出来る。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明に有用なジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示した概略図である。
【図2】本発明に有用な対向電極間で基材を処理する方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す概略図である。
【図3】導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体を有するロール回転電極の一例を示す斜視図である。
【図4】角筒型電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0093】
以下、本発明を詳述する。
【0094】
本発明において、プラズマ放電処理は、大気圧もしくはその近傍の圧力下で行われるが、大気圧もしくはその近傍の圧力とは20kPa〜110kPa程度であり、本発明に記載の良好な効果を得るためには、93kPa〜104kPaが好ましい。
【0095】
本発明の薄膜形成方法において、対向電極間(放電空間)に供給するガスは、少なくとも、電界により励起する放電ガスと、そのエネルギーを受け取ってプラズマ状態あるいは励起状態になり薄膜を形成する薄膜形成ガスを含んでいる。
【0096】
しかしながら、上記の薄膜形成方法では、ヘリウムやアルゴン等の希ガスの放電ガスでは、薄膜を形成する際の生産コストが放電ガスのコストに依存するところが多く、また環境的な見地からも代替の放電ガスの使用を本発明者らは検討していた。その代替の放電ガスとして、空気、酸素、窒素、二酸化炭素、水素等を検討した結果、これらのガスであっても同様に高密度プラズマを発生できる条件を求め、且つ薄膜形成性に優れ、形成した薄膜が緻密且つ均一となる条件及び方法を検討した結果、本発明に至ったものである。
【0097】
本発明における放電条件は、放電空間に、前記第1の高周波電界と第2の高周波電界とを重畳し、前記第1の高周波電界の周波数ωより前記第2の高周波電界の周波数ωが高く、且つ、前記第1の高周波電界の強さV、前記第2の高周波電界の強さVおよび放電開始電界の強さIVとの関係が、
≧IV>V
または V>IV≧V を満たし、
前記第2の高周波電界の出力密度が、1W/cm以上である。
【0098】
高周波とは、少なくとも0.5kHzの周波数を有するものを言う。
【0099】
重畳する高周波電界が、ともにサイン波である場合、第1の高周波電界の周波数ωと該周波数ωより高い第2の高周波電界の周波数ωとを重ね合わせた成分となり、その波形は周波数ωのサイン波上に、それより高い周波数ωのサイン波が重なった鋸歯状の波形となる。
【0100】
本発明において、放電開始電界の強さとは、実際の薄膜形成方法に使用される放電空間(電極の構成など)および反応条件(ガス条件など)において放電を起こすことの出来る最低電界強度のことを指す。放電開始電界強度は、放電空間に供給されるガス種や電極の誘電体種または電極間距離などによって多少変動するが、同じ放電空間においては、放電ガスの放電開始電界強度に支配される。
【0101】
上記で述べたような高周波電界を放電空間に印加することによって、薄膜形成可能な放電を起こし、高品位な薄膜形成に必要な高密度プラズマを発生することが出来ると推定される。
【0102】
ここで重要なのは、このような高周波電界が対向する電極に印加され、すなわち、同じ放電空間に印加されることである。前述の特開平11−16696号公報のように、印加電極を2つ併置し、離間した異なる放電空間それぞれに、異なる高周波電界を印加する方法では、本発明の薄膜形成は達成出来ない。
【0103】
上記でサイン波等の連続波の重畳について説明したが、これに限られるものではなく、両方パルス波であっても、一方が連続波でもう一方がパルス波であってもかまわない。また、更に第3の電界を有していてもよい。
【0104】
上記本発明の高周波電界を、同一放電空間に印加する具体的な方法としては、対向電極を構成する第1電極に周波数ωであって電界強度Vである第1の高周波電界を印加する第1電源を接続し、第2電極に周波数ωであって電界強度Vである第2の高周波電界を印加する第2電源を接続した大気圧プラズマ放電処理装置を用いることである。
【0105】
上記の大気圧プラズマ放電処理装置には、対向電極間に、放電ガスと薄膜形成ガスとを供給するガス供給手段を備える。更に、電極の温度を制御する電極温度制御手段を有することが好ましい。
【0106】
また、第1電極、第1電源またはそれらの間の何れかには第1フィルタを、また第2電極、第2電源またはそれらの間の何れかには第2フィルタを接続することが好ましく、第1フィルタは第1電源から第1電極への第1の高周波電界の電流を通過しやすくし、第2の高周波電界の電流をアースして、第2電源から第1電源への第2の高周波電界の電流を通過しにくくする。また、第2フィルタはその逆で、第2電源から第2電極への第2の高周波電界の電流を通過しやすくし、第1の高周波電界の電流をアースして、第1電源から第2電源への第1の高周波電界の電流を通過しにくくする機能が備わっているものを使用する。ここで、通過しにくいとは、好ましくは、電流の20%以下、より好ましくは10%以下しか通さないことをいう。逆に通過しやすいとは、好ましくは電流の80%以上、より好ましくは90%以上を通すことをいう。
【0107】
更に、本発明の大気圧プラズマ放電処理装置の第1電源は、第2電源より高い高周波電界強度を印加出来る能力を有していることが好ましい。
【0108】
ここで、本発明でいう高周波電界強度(印加電界強度)と放電開始電界強度は、下記の方法で測定されたものをいう。
【0109】
高周波電界強度V及びV(単位:kV/mm)の測定方法:
各電極部に高周波電圧プローブ(P6015A)を設置し、該高周波電圧プローブの出力信号をオシロスコープ(Tektronix社製、TDS3012B)に接続し、電界強度を測定する。
【0110】
放電開始電界強度IV(単位:kV/mm)の測定方法:
電極間に放電ガスを供給し、この電極間の電界強度を増大させていき、放電が始まる電界強度を放電開始電界強度IVと定義する。測定器は上記高周波電界強度測定と同じである。
【0111】
なお、上記測定に使用する高周波電圧プローブとオシロスコープの位置関係については、後述の図1に示してある。
【0112】
本発明で規定する放電条件をとることにより、例え窒素ガスのように放電開始電界強度が高い放電ガスでも、放電を開始し、高密度で安定なプラズマ状態を維持出来、高性能な薄膜形成を行うことが出来るのである。
【0113】
上記の測定により放電ガスを窒素ガスとした場合、その放電開始電界強度IV(1/2Vp−p)は3.7kV/mm程度であり、従って、上記の関係において、第1の高周波電界強度を、V≧3.7kV/mmとして印加することによって窒素ガスを励起し、プラズマ状態にすることが出来る。
【0114】
ここで、第1電源の周波数としては、200kHz以下が好ましく用いることが出来る。またこの電界波形としては、連続波でもパルス波でもよい。下限は1kHz程度が望ましい。
【0115】
一方、第2電源の周波数としては、800kHz以上が好ましく用いられる。この第2電源の周波数が高い程、プラズマ密度が高くなり、緻密で良質な薄膜が得られる。上限は200MHz程度が望ましい。
【0116】
このような2つの電源から高周波電界を印加することは、第1の高周波電界によって高い放電開始電界強度を有する放電ガスの放電を開始するのに必要であり、また第2の高周波電界の高い周波数および高い出力密度によりプラズマ密度を高くして緻密で良質な薄膜を形成することが本発明の重要な点である。
【0117】
また、第1の高周波電界の出力密度を高くすることで、放電の均一性を維持したまま、第2の高周波電界の出力密度を向上させることができる。これにより、更なる均一高密度プラズマが生成でき、更なる製膜速度の向上と、膜質の向上が両立出来る。
【0118】
本発明に用いられる大気圧プラズマ放電処理装置において、前記第1フィルタは、第1電源から第1電極への第1の高周波電界の電流を通過しやすくし、第2の高周波電界の電流をアースして、第2電源から第1電源への第2の高周波電界の電流を通過しにくくする。また、第2フィルタはその逆で、第2電源から第2電極への第2の高周波電界の電流を通過しやすくし、第1の高周波電界の電流をアースして、第1電源から第2電源への第1の高周波電界の電流を通過しにくくする。本発明において、かかる性質のあるフィルタであれば制限無く使用出来る。
【0119】
例えば、第1フィルタとしては、第2電源の周波数に応じて数10pF〜数万pFのコンデンサ、もしくは数μH程度のコイルを用いることが出来る。第2フィルタとしては、第1電源の周波数に応じて10μH以上のコイルを用い、これらのコイルまたはコンデンサを介してアース接地することでフィルタとして使用出来る。
【0120】
本発明に用いられる大気圧プラズマ放電処理装置は、上述のように、対向電極の間で放電させ、前記対向電極間に導入したガスをプラズマ状態とし、前記対向電極間に静置あるいは電極間を移送される基材を該プラズマ状態のガスに晒すことによって、該基材の上に薄膜を形成させるものである。また他の方式として、大気圧プラズマ放電処理装置は、上記同様の対向電極間で放電させ、該対向電極間に導入したガスを励起しまたはプラズマ状態とし、該対向電極外にジェット状に励起またはプラズマ状態のガスを吹き出し、該対向電極の近傍にある基材(静置していても移送されていてもよい)を晒すことによって該基材の上に薄膜を形成させるジェット方式の装置がある。
【0121】
図1は、本発明に有用なジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示した概略図である。
【0122】
ジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置は、プラズマ放電処理装置、二つの電源を有する電界印加手段の他に、図1では図示してない(後述の図2に図示してある)が、ガス供給手段、電極温度調節手段を有している装置である。
【0123】
プラズマ放電処理装置10は、第1電極11と第2電極12から構成されている対向電極を有しており、該対向電極間に、第1電極11からは第1電源21からの周波数ω、電界強度V、電流Iの第1の高周波電界が印加され、また第2電極12からは第2電源22からの周波数ω、電界強度V、電流Iの第2の高周波電界が印加されるようになっている。第1電源21は第2電源22より高い高周波電界強度(V>V)を印加出来、また第1電源21の第1の周波数ωは第2電源22の第2の周波数ωより低い周波数を印加出来る。
【0124】
第1電極11と第1電源21との間には、第1フィルタ23が設置されており、第1電源21から第1電極11への電流を通過しやすくし、第2電源22からの電流をアースして、第2電源22から第1電源21への電流が通過しにくくなるように設計されている。
【0125】
また、第2電極12と第2電源22との間には、第2フィルター24が設置されており、第2電源22から第2電極への電流を通過しやすくし、第1電源21からの電流をアースして、第1電源21から第2電源への電流を通過しにくくするように設計されている。
【0126】
第1電極11と第2電極12との対向電極間(放電空間)13に、後述の図2に図示してあるようなガス供給手段からガスGを導入し、第1電極11と第2電極12から高周波電界を印加して放電を発生させ、ガスGをプラズマ状態にしながら対向電極の下側(紙面下側)にジェット状に吹き出させて、対向電極下面と基材Fとで作る処理空間をプラズマ状態のガスG°で満たし、図示してない基材の元巻き(アンワインダー)から巻きほぐされて搬送して来るか、あるいは前工程から搬送して来る基材Fの上に、処理位置14付近で薄膜を形成させる。薄膜形成中、後述の図2に図示してあるような電極温度調節手段から媒体が配管を通って電極を加熱または冷却する。プラズマ放電処理の際の基材の温度によっては、得られる薄膜の物性や組成等は変化することがあり、これに対して適宜制御することが望ましい。温度調節の媒体としては、蒸留水、油等の絶縁性材料が好ましく用いられる。プラズマ放電処理の際、幅手方向あるいは長手方向での基材の温度ムラが出来るだけ生じないように電極の内部の温度を均等に調節することが望まれる。
【0127】
また、図1に前述の高周波電界強度(印加電界強度)と放電開始電界強度の測定に使用する測定器を示した。25及び26は高周波電圧プローブであり、27及び28はオシロスコープである。
【0128】
ジェット方式の大気圧プラズマ放電処理装置を複数基接して直列に並べて同時に同じプラズマ状態のガスを放電させることが出来るので、何回も処理され高速で処理することも出来る。また各装置が異なったプラズマ状態のガスをジェット噴射すれば、異なった層の積層薄膜を形成することも出来る。
【0129】
図2は本発明に有用な対向電極間で基材を処理する方式の大気圧プラズマ放電処理装置の一例を示す概略図である。
【0130】
本発明の大気圧プラズマ放電処理装置は、少なくとも、プラズマ放電処理装置30、二つの電源を有する電界印加手段40、ガス供給手段50、電極温度調節手段60を有している装置である。
【0131】
図2は、ロール回転電極(第1電極)35と角筒型固定電極群(第2電極)36との対向電極間(放電空間)32で、基材Fをプラズマ放電処理して薄膜を形成するものである。
【0132】
ロール回転電極(第1電極)35と角筒型固定電極群(第2電極)36との間の放電空間(対向電極間)32に、ロール回転電極(第1電極)35には第1電源41から周波数ω、電界強度V、電流Iの第1の高周波電界を、また角筒型固定電極群(第2電極)36には第2電源42から周波数ω、電界強度V、電流Iの第2の高周波電界をかけるようになっている。
【0133】
ロール回転電極(第1電極)35と第1電源41との間には、第1フィルタ43が設置されており、第1フィルタ43は第1電源41から第1電極への電流を通過しやすくし、第2電源42からの電流をアースして、第2電源42から第1電源への電流を通過しにくくするように設計されている。また、角筒型固定電極群(第2電極)36と第2電源42との間には、第2フィルタ44が設置されており、第2フィルター44は、第2電源42から第2電極への電流を通過しやすくし、第1電源41からの電流をアースして、第1電源41から第2電源への電流を通過しにくくするように設計されている。
【0134】
なお、本発明においては、ロール回転電極35を第2電極、また角筒型固定電極群36を第1電極としてもよい。何れにしろ第1電極には第1電源が、また第2電極には第2電源が接続される。第1電源は第2電源より高い高周波電界強度(V>V)を印加することが好ましい。また、周波数はω<ωとなる能力を有している。
【0135】
また、電流はI<Iとなることが好ましい。第1の高周波電界の電流Iは、好ましくは0.3mA/cm〜20mA/cm、さらに好ましくは1.0mA/cm〜20mA/cmである。また、第2の高周波電界の電流Iは、好ましくは10mA/cm〜100mA/cm、さらに好ましくは20mA/cm〜100mA/cmである。
【0136】
ガス供給手段50のガス発生装置51で発生させたガスGは、流量を制御して給気口52よりプラズマ放電処理容器31内に導入する。
【0137】
基材Fを、図示されていない元巻きから巻きほぐして搬送されて来るか、または前工程から搬送されて来て、ガイドロール64を経てニップロール65で基材に同伴されて来る空気等を遮断し、ロール回転電極35に接触したまま巻き回しながら角筒型固定電極群36との間に移送し、ロール回転電極(第1電極)35と角筒型固定電極群(第2電極)36との両方から電界をかけ、対向電極間(放電空間)32で放電プラズマを発生させる。基材Fはロール回転電極35に接触したまま巻き回されながらプラズマ状態のガスにより薄膜を形成する。基材Fは、ニップロール66、ガイドロール67を経て、図示してない巻き取り機で巻き取るか、次工程に移送する。
【0138】
放電処理済みの処理排ガスG′は排気口53より排出する。
【0139】
薄膜形成中、ロール回転電極(第1電極)35及び角筒型固定電極群(第2電極)36を加熱または冷却するために、電極温度調節手段60で温度を調節した媒体を、送液ポンプPで配管61を経て両電極に送り、電極内側から温度を調節する。なお、68及び69はプラズマ放電処理容器31と外界とを仕切る仕切板である。
【0140】
図3は、図2に示したロール回転電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
【0141】
図3において、ロール電極35aは導電性の金属質母材35Aとその上に誘電体35Bが被覆されたものである。プラズマ放電処理中の電極表面温度を制御するため、温度調節用の媒体(水もしくはシリコンオイル等)が循環できる構造となっている。
【0142】
図4は、角筒型電極の導電性の金属質母材とその上に被覆されている誘電体の構造の一例を示す斜視図である。
【0143】
図4において、角筒型電極36aは、導電性の金属質母材36Aに対し、図3同様の誘電体36Bの被覆を有しており、該電極の構造は金属質のパイプになっていて、それがジャケットとなり、放電中の温度調節が行えるようになっている。
【0144】
なお、角筒型固定電極の数は、上記ロール電極の円周より大きな円周上に沿って複数本設置されていおり、該電極の放電面積はロール回転電極35に対向している全角筒型固定電極面の面積の和で表される。
【0145】
図2に示した角筒型電極36aは、円筒型電極でもよいが、角筒型電極は円筒型電極に比べて、放電範囲(放電面積)を広げる効果があるので、本発明に好ましく用いられる。
【0146】
図3及び4において、ロール電極35a及び角筒型電極36aは、それぞれ導電性の金属質母材35A及び36Aの上に誘電体35B及び36Bとしてのセラミックスを溶射後、無機化合物の封孔材料を用いて封孔処理したものである。セラミックス誘電体は片肉で1mm程度被覆あればよい。溶射に用いるセラミックス材としては、アルミナ・窒化珪素等が好ましく用いられるが、この中でもアルミナが加工し易いので、特に好ましく用いられる。また、誘電体層が、ライニングにより無機材料を設けたライニング処理誘電体であってもよい。
【0147】
導電性の金属質母材35A及び36Aとしては、チタン金属またはチタン合金、銀、白金、ステンレススティール、アルミニウム、鉄等の金属等や、鉄とセラミックスとの複合材料またはアルミニウムとセラミックスとの複合材料を挙げることが出来るが、後述の理由からはチタン金属またはチタン合金が特に好ましい。
【0148】
対向する第1電極および第2の電極の電極間距離は、電極の一方に誘電体を設けた場合、該誘電体表面ともう一方の電極の導電性の金属質母材表面との最短距離のことを言う。双方の電極に誘電体を設けた場合、誘電体表面同士の距離の最短距離のことを言う。電極間距離は、導電性の金属質母材に設けた誘電体の厚さ、印加電界強度の大きさ、プラズマを利用する目的等を考慮して決定されるが、いずれの場合も均一な放電を行う観点から0.1〜20mmが好ましく、特に好ましくは0.5〜2mmである。
【0149】
本発明に有用な導電性の金属質母材及び誘電体についての詳細については後述する。
【0150】
プラズマ放電処理容器31はパイレックス(登録商標)ガラス製の処理容器等が好ましく用いられるが、電極との絶縁がとれれば金属製を用いることも可能である。例えば、アルミニウムまたは、ステンレススティールのフレームの内面にポリイミド樹脂等を張り付けても良く、該金属フレームにセラミックス溶射を行い絶縁性をとってもよい。図1において、平行した両電極の両側面(基材面近くまで)を上記のような材質の物で覆うことが好ましい。
【0151】
本発明の大気圧プラズマ放電処理装置に設置する第1電源(高周波電源)としては、
印加電源記号 メーカー 周波数 製品名
A1 神鋼電機 3kHz SPG3−4500
A2 神鋼電機 5kHz SPG5−4500
A3 春日電機 15kHz AGI−023
A4 神鋼電機 50kHz SPG50−4500
A5 ハイデン研究所 100kHz* PHF−6k
A6 パール工業 200kHz CF−2000−200k
A7 パール工業 400kHz CF−2000−400k
等の市販のものを挙げることが出来、何れも使用することが出来る。
【0152】
また、第2電源(高周波電源)としては、
印加電源記号 メーカー 周波数 製品名
B1 パール工業 800kHz CF−2000−800k
B2 パール工業 2MHz CF−2000−2M
B3 パール工業 13.56MHz CF−5000−13M
B4 パール工業 27MHz CF−2000−27M
B5 パール工業 150MHz CF−2000−150M
等の市販のものを挙げることが出来、何れも好ましく使用出来る。
【0153】
なお、上記電源のうち、*印はハイデン研究所インパルス高周波電源(連続モードで100kHz)である。それ以外は連続サイン波のみ印加可能な高周波電源である。
【0154】
本発明においては、このような電界を印加して、均一で安定な放電状態を保つことが出来る電極を大気圧プラズマ放電処理装置に採用することが好ましい。
【0155】
本発明において、対向する電極間に印加する電力は、第2電極(第2の高周波電界)に1W/cm以上の電力(出力密度)を供給し、放電ガスを励起してプラズマを発生させ、エネルギーを薄膜形成ガスに与え、薄膜を形成する。第2電極に供給する電力の上限値としては、好ましくは50W/cm、より好ましくは20W/cmである。下限値は、好ましくは1.2W/cmである。なお、放電面積(cm)は、電極において放電が起こる範囲の面積のことを指す。
【0156】
また、第1電極(第1の高周波電界)にも、1W/cm以上の電力(出力密度)を供給することにより、第2の高周波電界の均一性を維持したまま、出力密度を向上させることが出来る。これにより、更なる均一高密度プラズマを生成出来、更なる製膜速度の向上と膜質の向上が両立出来る。好ましくは5W/cm以上である。第1電極に供給する電力の上限値は、好ましくは50W/cmである。
【0157】
ここで高周波電界の波形としては、特に限定されない。連続モードと呼ばれる連続サイン波状の連続発振モードと、パルスモードと呼ばれるON/OFFを断続的に行う断続発振モード等があり、そのどちらを採用してもよいが、少なくとも第2電極側(第2の高周波電界)は連続サイン波の方がより緻密で良質な膜が得られるので好ましい。
【0158】
このような大気圧プラズマによる薄膜形成法に使用する電極は、構造的にも、性能的にも過酷な条件に耐えられるものでなければならない。このような電極としては、金属質母材上に誘電体を被覆したものであることが好ましい。
【0159】
本発明に使用する誘電体被覆電極においては、様々な金属質母材と誘電体との間に特性が合うものが好ましく、その一つの特性として、金属質母材と誘電体との線熱膨張係数の差が10×10−6/℃以下となる組み合わせのものである。好ましくは8×10−6/℃以下、更に好ましくは5×10−6/℃以下、更に好ましくは2×10−6/℃以下である。なお、線熱膨張係数とは、周知の材料特有の物性値である。
【0160】
線熱膨張係数の差が、この範囲にある導電性の金属質母材と誘電体との組み合わせとしては、
1:金属質母材が純チタンまたはチタン合金で、誘電体がセラミックス溶射被膜
2:金属質母材が純チタンまたはチタン合金で、誘電体がガラスライニング
3:金属質母材がステンレススティールで、誘電体がセラミックス溶射被膜
4:金属質母材がステンレススティールで、誘電体がガラスライニング
5:金属質母材がセラミックスおよび鉄の複合材料で、誘電体がセラミックス溶射被膜
6:金属質母材がセラミックスおよび鉄の複合材料で、誘電体がガラスライニング
7:金属質母材がセラミックスおよびアルミの複合材料で、誘電体がセラミックス溶射皮膜
8:金属質母材がセラミックスおよびアルミの複合材料で、誘電体がガラスライニング
等がある。線熱膨張係数の差という観点では、上記1項または2項および5〜8項が好ましく、特に1項が好ましい。
【0161】
本発明において、金属質母材は、上記の特性からはチタンまたはチタン合金が特に有用である。金属質母材をチタンまたはチタン合金とすることにより、誘電体を上記とすることにより、使用中の電極の劣化、特にひび割れ、剥がれ、脱落等がなく、過酷な条件での長時間の使用に耐えることが出来る。
【0162】
本発明に有用な電極の金属質母材は、チタンを70質量%以上含有するチタン合金またはチタン金属である。本発明において、チタン合金またはチタン金属中のチタンの含有量は、70質量%以上であれば、問題なく使用出来るが、好ましくは80質量%以上のチタンを含有しているものが好ましい。本発明に有用なチタン合金またはチタン金属は、工業用純チタン、耐食性チタン、高力チタン等として一般に使用されているものを用いることが出来る。工業用純チタンとしては、TIA、TIB、TIC、TID等を挙げることが出来、何れも鉄原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、水素原子等を極僅か含有しているもので、チタンの含有量としては、99質量%以上を有している。耐食性チタン合金としては、T15PBを好ましく用いることが出来、上記含有原子の他に鉛を含有しており、チタン含有量としては、98質量%以上である。また、チタン合金としては、鉛を除く上記の原子の他に、アルミニウムを含有し、その他バナジウムや錫を含有しているT64、T325、T525、TA3等を好ましく用いることが出来、これらのチタン含有量としては、85質量%以上を含有しているものである。これらのチタン合金またはチタン金属はステンレススティール、例えばAISI316に比べて、熱膨張係数が1/2程度小さく、金属質母材としてチタン合金またはチタン金属の上に施された後述の誘電体との組み合わせがよく、高温、長時間での使用に耐えることが出来る。
【0163】
一方、誘電体の求められる特性としては、具体的には、比誘電率が6〜45の無機化合物であることが好ましく、また、このような誘電体としては、アルミナ、窒化珪素等のセラミックス、あるいは、ケイ酸塩系ガラス、ホウ酸塩系ガラス等のガラスライニング材等がある。この中では、後述のセラミックスを溶射したものやガラスライニングにより設けたものが好ましい。特にアルミナを溶射して設けた誘電体が好ましい。
【0164】
または、上述のような大電力に耐える仕様の一つとして、誘電体の空隙率が10体積%以下、好ましくは8体積%以下であることで、好ましくは0体積%を越えて5体積%以下である。なお、誘電体の空隙率は、BET吸着法や水銀ポロシメーターにより測定することが出来る。後述の実施例においては、島津製作所製の水銀ポロシメーターにより金属質母材に被覆された誘電体の破片を用い、空隙率を測定する。誘電体が、低い空隙率を有することにより、高耐久性が達成される。このような空隙を有しつつも空隙率が低い誘電体としては、後述の大気プラズマ溶射法等による高密度、高密着のセラミックス溶射被膜等を挙げることが出来る。更に空隙率を下げるためには、封孔処理を行うことが好ましい。
【0165】
上記、大気プラズマ溶射法は、セラミックス等の微粉末、ワイヤ等をプラズマ熱源中に投入し、溶融または半溶融状態の微粒子として被覆対象の金属質母材に吹き付け、皮膜を形成させる技術である。プラズマ熱源とは、分子ガスを高温にし、原子に解離させ、更にエネルギーを与えて電子を放出させた高温のプラズマガスである。このプラズマガスの噴射速度は大きく、従来のアーク溶射やフレーム溶射に比べて、溶射材料が高速で金属質母材に衝突するため、密着強度が高く、高密度な被膜を得ることが出来る。詳しくは、特開2000−301655号に記載の高温被曝部材に熱遮蔽皮膜を形成する溶射方法を参照することが出来る。この方法により、上記のような被覆する誘電体(セラミック溶射膜)の空隙率にすることが出来る。
【0166】
また、大電力に耐える別の好ましい仕様としては、誘電体の厚みが0.5〜2mmであることである。この膜厚変動は、5%以下であることが望ましく、好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下である。
【0167】
誘電体の空隙率をより低減させるためには、上記のようにセラミックス等の溶射膜に、更に、無機化合物で封孔処理を行うことが好ましい。前記無機化合物としては、金属酸化物が好ましく、この中では特に酸化ケイ素(SiO)を主成分として含有するものが好ましい。
【0168】
封孔処理の無機化合物は、ゾルゲル反応により硬化して形成したものであることが好ましい。封孔処理の無機化合物が金属酸化物を主成分とするものである場合には、金属アルコキシド等を封孔液として前記セラミック溶射膜上に塗布し、ゾルゲル反応により硬化する。無機化合物がシリカを主成分とするものの場合には、アルコキシシランを封孔液として用いることが好ましい。
【0169】
ここでゾルゲル反応の促進には、エネルギー処理を用いることが好ましい。エネルギー処理としては、熱硬化(好ましくは200℃以下)や、紫外線照射などがある。更に封孔処理の仕方として、封孔液を希釈し、コーティングと硬化を逐次で数回繰り返すと、よりいっそう無機質化が向上し、劣化の無い緻密な電極が出来る。
【0170】
本発明に係る誘電体被覆電極の金属アルコキシド等を封孔液として、セラミックス溶射膜にコーティングした後、ゾルゲル反応で硬化する封孔処理を行う場合、硬化した後の金属酸化物の含有量は60モル%以上であることが好ましい。封孔液の金属アルコキシドとしてアルコキシシランを用いた場合には、硬化後のSiO(xは2以下)含有量が60モル%以上であることが好ましい。硬化後のSiO含有量は、XPS(X線光電子分光法)により誘電体層の断層を分析することにより測定する。
【0171】
本発明の薄膜形成方法に係る電極においては、電極の少なくとも基材と接する側のJIS B 0601で規定される表面粗さの最大高さ(Rmax)が10μm以下になるように調整することが、本発明に記載の効果を得る観点から好ましいが、更に好ましくは、表面粗さの最大値が8μm以下であり、特に好ましくは、7μm以下に調整することである。このように誘電体被覆電極の誘電体表面を研磨仕上げする等の方法により、誘電体の厚み及び電極間のギャップを一定に保つことが出来、放電状態を安定化出来ること、更に熱収縮差や残留応力による歪やひび割れを無くし、且つ、高精度で、耐久性を大きく向上させることが出来る。誘電体表面の研磨仕上げは、少なくとも基材と接する側の誘電体において行われることが好ましい。更にJIS B 0601で規定される中心線平均表面粗さ(Ra)は0.5μm以下が好ましく、更に好ましくは0.1μm以下である。
【0172】
本発明に使用する誘電体被覆電極において、大電力に耐える他の好ましい仕様としては、耐熱温度が100℃以上であることである。更に好ましくは120℃以上、特に好ましくは150℃以上である。また上限は500℃である。なお、耐熱温度とは、大気圧プラズマ処理で用いられる電圧において絶縁破壊が発生せず、正常に放電出来る状態において耐えられる最も高い温度のことを指す。このような耐熱温度は、上記のセラミックス溶射や、泡混入量の異なる層状のガラスライニングで設けた誘電体を適用したり、上記金属質母材と誘電体の線熱膨張係数の差の範囲内の材料を適宜選択する手段を適宜組み合わせることによって達成可能である。
【0173】
次に、放電空間に供給するガスについて説明する。
【0174】
供給するガスは、少なくとも放電ガスおよび薄膜形成ガスを含有する。放電ガスと薄膜形成ガスは混合して供給してもよいし、別々に供給してもかまわない。
【0175】
放電ガスとは、薄膜形成可能なグロー放電を起こすことの出来るガスである。放電ガスとしては、窒素、希ガス、空気、水素ガス、酸素などがあり、これらを単独で放電ガスとして用いても、混合して用いてもかまわない。本発明において、放電ガスとして好ましいのは窒素である。放電ガスの50〜100体積%が窒素ガスであることが好ましい。このとき、放電ガスとして窒素以外の放電ガスとしては、希ガスを50体積%未満含有することが好ましい。また、放電ガスの量は、放電空間に供給する全ガス量に対し、90〜99.9体積%含有することが好ましい。
【0176】
薄膜形成ガスとは、それ自身が励起して活性となり、基材上に化学的に堆積して薄膜を形成する原料のことである。
【0177】
次に、本発明に使用する薄膜を形成するために放電空間に供給するガスについて説明する。基本的に放電ガスと薄膜形成ガスであるが、更に、添加ガスを加えることもある。放電空間に供給する全ガス量中、放電ガスを90〜99.9体積%含有することが好ましい。
【0178】
本発明に使用する薄膜形成ガスとしては、有機金属化合物、ハロゲン金属化合物、金属水素化合物等を挙げることが出来る。
【0179】
本発明に有用な有機金属化合物は下記の一般式(I)で示すものが好ましい。
【0180】
一般式(I)
MR
式中、Mは金属、Rはアルキル基、Rはアルコキシ基、Rはβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基であり、金属Mの価数をmとした場合、x+y+z=mであり、x=0〜m、またはx=0〜m−1であり、y=0〜m、z=0〜mで、何れも0または正の整数である。Rのアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等を挙げることが出来る。Rのアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、3,3,3−トリフルオロプロポキシ基等を挙げることが出来る。またアルキル基の水素原子をフッ素原子に置換したものでもよい。Rのβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基としては、β−ジケトン錯体基として、例えば、2,4−ペンタンジオン(アセチルアセトンあるいはアセトアセトンともいう)、1,1,1,5,5,5−ヘキサメチル−2,4−ペンタンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、1,1,1−トリフルオロ−2,4−ペンタンジオン等を挙げることが出来、β−ケトカルボン酸エステル錯体基として、例えば、アセト酢酸メチルエステル、アセト酢酸エチルエステル、アセト酢酸プロピルエステル、トリメチルアセト酢酸エチル、トリフルオロアセト酢酸メチル等を挙げることが出来、β−ケトカルボン酸として、例えば、アセト酢酸、トリメチルアセト酢酸等を挙げることが出来、またケトオキシとして、例えば、アセトオキシ基(またはアセトキシ基)、プロピオニルオキシ基、ブチリロキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等を挙げることが出来る。これらの基の炭素原子数は、上記例有機金属示化合物を含んで、18以下が好ましい。また例示にもあるように直鎖または分岐のもの、また水素原子をフッ素原子に置換したものでもよい。
【0181】
本発明において取り扱いの問題から、爆発の危険性の少ない有機金属化合物が好ましく、分子内に少なくとも一つ以上の酸素を有する有機金属化合物が好ましい。このようなものとしてRのアルコキシ基を少なくとも一つを含有する有機金属化合物、またRのβ−ジケトン錯体基、β−ケトカルボン酸エステル錯体基、β−ケトカルボン酸錯体基及びケトオキシ基(ケトオキシ錯体基)から選ばれる基を少なくとも一つ有する金属化合物が好ましい。
【0182】
なお、具体的な有機金属化合物については後述する。
【0183】
本発明において、放電空間に供給するガスには、放電ガス、薄膜形成性ガスの他に、薄膜形成の反応を促進する添加ガスを混合してもよい。添加ガスとしては、酸素、オゾン、過酸化水素、二酸化炭素、一酸化炭素、水素、アンモニア等を挙げることが出来るが、酸素、一酸素化炭素及び水素が好ましく、これらから選択される成分を混合させるのが好ましい。その含有量はガス全量に対して0.01〜5体積%含有させることが好ましく、それによって反応促進され、且つ、緻密で良質な薄膜を形成することが出来る。
【0184】
上記形成された酸化物または複合化合物の薄膜の膜厚は、0.1〜1000nmの範囲が好ましい。
【0185】
本発明において、薄膜形成性ガスに使用する有機金属化合物、ハロゲン化金属、金属水素化合物の金属として、Li、Be、B、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Cd、In、Ir、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Hf、Ta、W、Tl、Pb、Bi、Ce、Pr、Nd、Pm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等を挙げることが出来る。
【0186】
本発明の薄膜形成方法で、上記のような有機金属化合物、ハロゲン金属化合物、金属水素化合物等の金属化合物を放電ガスと共に使用することにより様々な高機能性の薄膜を得ることが出来る。本発明の薄膜の例を以下に示すが、本発明はこれに限られるものではない。
【0187】
電極膜:Au、Al、Ag、Ti、Ti、Pt、Mo、Mo−Si
誘電体保護膜:SiO、SiO、Si、Al、Al、Y
透明導電膜:In、SnO
エレクトロクロミック膜:WO、IrO、MoO、V
蛍光膜:ZnS、ZnS+ZnSe、ZnS+CdS
磁気記録膜:Fe−Ni、Fe−Si−Al、γ−Fe、Co、Fe、Cr、SiO、AlO
超導電膜:Nb、Nb−Ge、NbN
太陽電池膜:a−Si、Si
反射膜:Ag、Al、Au、Cu
選択性吸収膜:ZrC−Zr
選択性透過膜:In、SnO
反射防止膜:SiO、TiO、SnO
シャドーマスク:Cr
耐摩耗性膜:Cr、Ta、Pt、TiC、TiN
耐食性膜:Al、Zn、Cd、Ta、Ti、Cr
耐熱膜:W、Ta、Ti
潤滑膜:MoS
装飾膜:Cr、Al、Ag、Au、TiC、Cu
尚、上記窒化物の窒化度、酸化物の酸化度、硫化物の硫化度、炭化物の炭化度はあくまでも一例であり、金属との組成比は適宜変化して良い。また、薄膜には、上記金属化合物以外に、炭素化合物、窒素化合物、水素化合物等の不純物が含有されてもよい。
【0188】
本発明において、特に好ましい金属化合物の金属は、上記のうちSi(珪素)、Ti(チタン)、Sn(錫)、Zn(亜鉛)、In(インジウム)及びAl(アルミニウム)であり、これらの金属と結合する金属化合物のうち、上記一般式(I)で示した有機金属化合物が好ましい。有機金属化合物の例示については後述する。
【0189】
ここで、上記の高機能膜のうち反射防止膜(層)及び反射防止膜を積層した反射防止フィルム及び透明導電フィルムについて詳細に説明する。
【0190】
本発明に係る高機能膜のうちの反射防止フィルムの反射防止層は中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層それぞれの薄膜が積層されたものである。
【0191】
本発明に係る反射防止層薄膜形成性用のガス材料において、高屈折率層を形成するチタン化合物、中屈折率層を形成する錫化合物、低屈折率層を形成する珪素化合物について述べる。反射防止層を有する反射防止フィルムは、各屈折率層を基材上に直接または他の層を介して積層して得られるものであるが、積層は、例えば、図2のような大気圧プラズマ放電処理装置を、中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層の順に3層を積層するために、直列に3基並べて連続的に処理することが出来、この連続的積層処理は品質の安定や生産性の向上等から本発明の薄膜の形成に適している。また積層せずに、1層処理ごと、処理後巻き取り、逐次処理して積層してもよい。本発明において、反射防止層の上に防汚層を設ける場合には、上記のプラズマ放電処理装置を更にもう1基続けて設置し、4基並べて最後に防汚層を積層してもよい。また、反射防止層を設ける前に、基材の上に予めハードコート層や防眩層を塗布によって設けてもよく、また、その裏側に予めバックコート層を塗布によって設けてもよい。
【0192】
本発明に係る反射防止フィルムの反射防止層薄膜形成性ガスには、適切な屈折率を得ることの出来る化合物であれば制限なく使用出来るが、本発明において、高屈折率層薄膜形成性ガスとしてはチタン化合物を、中屈折率層薄膜形成性ガスとしては錫化合物またはチタン化合物と珪素化合物の混合物(または高屈折率形成用のチタン化合物で形成した層と低屈折率層を形成する珪素化合物で形成した層を積層してもよい)を、また低屈折率層薄膜形成性ガスとしては珪素化合物、フッ素化合物、あるいは珪素化合物とフッ素化合物の混合物を好ましく用いることが出来る。これらの化合物を屈折率を調節するために、何れかの層の形成用薄膜形成性ガスとして2種以上混合して使用してもよい。
【0193】
本発明に有用な中屈折率層薄膜形成性ガスに用いる錫化合物としては、有機錫化合物、錫水素化合物、ハロゲン化錫等であり、有機錫化合物としては、例えば、ジブチルジエトキシ錫、ブチル錫トリス(2,4−ペンタンジオナート)、テトラエトキシ錫、メチルトリエトキシ錫、ジエチルジエトキシ錫、トリイソプロピルエトキシ錫、エチルエトキシ錫、メチルメトキシ錫、イソプロピルイソプロポキシ錫、テトラブトキシ錫、ジエトキシ錫、ジメトキシ錫、ジイソプロポキシ錫、ジブトキシ錫、ジブチリロキシ錫、ジエチル錫、テトラブチル錫、錫ビス(2,4−ペンタンジオナート)、エチル錫アセトアセトナート、エトキシ錫(2,4−ペンタンジオナート)、ジメチル錫ジ(2,4−ペンタンジオナート)、ジアセトメチルアセタート錫、ジアセトキシ錫、ジブトキシジアセトキシ錫、ジアセトオキシ錫ジアセトアセトナート等、ハロゲン化錫としては、二塩化錫、四塩化錫等を挙げることが出来、何れも本発明において、好ましく用いることが出来る。また、これらの薄膜形成性ガスを2種以上同時に混合して使用してもよい。なお、このようにして、形成された酸化錫層は表面比抵抗値を1×1011Ω/cm以下に下げることが出来るため、帯電防止層としても有用である。
【0194】
本発明に有用な高屈折率層薄膜形成性ガスに使用するチタン化合物としては、有機チタン化合物、チタン水素化合物、ハロゲン化チタン等があり、有機チタン化合物としては、例えば、トリエトキシチタン、トリメトキシチタン、トリイソプロポキシチタン、トリブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、メチルジメトキシチタン、エチルトリエトキシチタン、メチルトリイソプロポキシチタン、トリエチルチタン、トリイソプロピルチタン、トリブチルチタン、テトラエチルチタン、テトライソプロピルチタン、テトラブチルチタン、テトラジメチルアミノチタン、ジメチルチタンジ(2,4−ペンタンジオナート)、エチルチタントリ(2,4−ペンタンジオナート)、チタントリス(2,4−ペンタンジオナート)、チタントリス(アセトメチルアセタート)、トリアセトキシチタン、ジプロポキシプロピオニルオキシチタン等、ジブチリロキシチタン、チタン水素化合物としてはモノチタン水素化合物、ジチタン水素化合物等、ハロゲン化チタンとしては、トリクロロチタン、テトラクロロチタン等を挙げることが出来、何れも本発明において好ましく用いることが出来る。またこれらの薄膜形成性ガスを2種以上を同時に混合して使用することが出来る。
【0195】
本発明に有用な低屈折率層薄膜形成性ガスに使用する珪素化合物としては、有機珪素化合物、珪素水素化合物、ハロゲン化珪素化合物等を挙げることが出来、有機珪素化合物としては、例えば、テトラエチルシラン、テトラメチルシラン、テトライソプロピルシラン、テトラブチルシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルシランジ(2,4−ペンタンジオナート)、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等、珪素水素化合物としては、テトラ水素化シラン、ヘキサ水素化ジシラン等、ハロゲン化珪素化合物としては、テトラクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ジエチルジクロロシラン等を挙げることが出来、何れも本発明において好ましく用いることが出来る。また、前記フッ素化合物を使用することが出来る。これらの薄膜形成性ガスを2種以上を同時に混合して使用することが出来る。また、屈折率の微調整にこれら錫化合物、チタン化合物、珪素化合物を適宜2種以上同時に混合して使用してもよい。
【0196】
上記の有機錫化合物、有機チタン化合物または有機珪素化合物は、取り扱い上の観点から金属水素化合物、アルコキシ金属が好ましく、腐食性、有害ガスの発生がなく、工程上の汚れなども少ないことから、アルコキシ金属が好ましく用いられる。また、上記の有機錫化合物、有機チタン化合物または有機珪素化合物を放電空間である電極間に導入するには、両者は常温常圧で、気体、液体、固体何れの状態であっても構わない。気体の場合は、そのまま放電空間に導入出来るが、液体、固体の場合は、加熱、減圧、超音波照射等の手段により気化させて使用される。有機錫化合物、有機チタン化合物または有機珪素化合物を加熱により気化して用いる場合、テトラエトキシ金属、テトライソプロポキシ金属などの常温で液体で、沸点が200℃以下である金属アルコキシドが反射防止膜の形成に好適に用いられる。上記アルコキシ金属は、溶媒によって希釈して使用されても良く、この場合、希ガス中へ気化器等により気化して混合ガスに使用すればよい。溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、n−ヘキサンなどの有機溶媒及びこれらの混合溶媒が使用出来る。
【0197】
薄膜形成性ガスについて、放電プラズマ処理により基材上に均一な薄膜を形成する観点から、全ガス中の含有率は、0.01〜10体積%で有することが好ましいが、更に好ましくは、0.01〜1体積%である。
【0198】
なお、中屈折率層については、上記珪素化合物、上記チタン化合物または上記錫化合物を、目標とする屈折率に合わせて適宜混合することによっても得ることが出来る。
【0199】
なお、各屈折率層の好ましい屈折率と膜厚は、例えば、中屈折率層の酸化錫層では屈折率として1.6〜1.8、また膜厚として50〜70nm程度、高屈折率層の酸化チタン層では屈折率として1.9〜2.4、また膜厚として80〜150nm程度、低屈折率層の酸化珪素層では屈折率として1.3〜1.5、また膜厚として80〜120nm程度である。
【0200】
次に、本発明に係る高機能膜の他の例として透明導電膜を有する薄膜の形成について説明する。
【0201】
前述の反射防止層を形成する際に使用する有機金属化合物の金属成分がインジウム等の透明性と導電性を有する薄膜を形成すると言う点が若干異なるが、有機基についてはほぼ同じような成分が用いられる。
【0202】
透明導電膜を形成する好ましい有機金属化合物の金属は、インジウム(In)、亜鉛(Zn)及び錫(Sn)から選ばれる少なくとも1種の金属である。
【0203】
本発明において、好ましい有機金属化合物の好ましい例は、インジウムトリス(2,4−ペンタンジオナート)、インジウムトリス(ヘキサフルオロペンタンジオナート)、インジウムトリアセトアセタート、トリアセトキシインジウム、ジエトキシアセトキシインジウム、トリイソポロポキシインジウム、ジエトキシインジウム(1,1,1−トリフルオロペンタンジオナート)、トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)インジウム、エトキシインジウムビス(アセトメチルアセタート)、ジ(n)ブチル錫ビス(2,4−ペンタンジオナート)、ジ(n)ブチルジアセトキシ錫、ジ(t)ブチルジアセトキシ錫、テトライソプロポキシ錫、テトラ(i)ブトキシ錫、ビス(2,4−ペンタンジオナート)亜鉛等を挙げることが出来る。これらの有機金属化合物は一般に市販(例えば、東京化成工業(株)等から)されている。
【0204】
本発明においては、上記分子内に少なくとも1つの酸素原子を有する有機金属化合物の他に、該有機金属化合物から形成された透明導電膜の導電性を更に高めるために該透明導電膜をドーピングすることが好ましく、薄膜形成性ガスとしての該有機金属化合物とドーピング用有機金属化合物ガスを同時に混合して用いることが好ましい。ドーピングに用いられる有機金属化合物またはフッ素化合物の薄膜形成性ガスとしては、例えば、トリイソプロポキシアルミニウム、トリス(2,4−ペンタンジオナート)ニッケル、ビス(2,4−ペンタンジオナート)マンガン、イソプロポキシボロン、トリ(n)ブトキシアンチモン、トリ(n)ブチルアンチモン、ジ(n)ブチルビス(2,4−ペンタンジオナート)錫、ジ(n)ブチルジアセトキシ錫、ジ(t)ブチルジアセトキシ錫、テトライソプロポキシ錫、テトラブトキシ錫、テトラブチル錫、亜鉛ジ(2,4−ペンタンジオナート)、六フッ化プロピレン、八フッ化シクロブタン、四フッ化メタン等を挙げることが出来る。
【0205】
前記透明導電膜を形成するに必要な有機金属化合物と上記ドーピング用の薄膜形成性ガスの比は、製膜する透明導電膜の種類により異なるが、例えば、酸化インジウムに錫をドーピングして得られるITO膜においては、InとSnの比の原子数比が100:0.1〜100:15の範囲になるように薄膜形成性ガス量を調整することが必要である。好ましくは、100:0.5〜100:10になるよう調整することが好ましい。酸化錫にフッ素をドーピングして得られる透明導電膜(FTO膜という)においては、得られたFTO膜のSnとFの比の原子数比が100:0.01〜100:50の範囲になるよう薄膜形成性ガスの量比を調整することが好ましい。In−ZnO系アモルファス透明導電膜においては、InとZnの比の原子数比が100:50〜100:5の範囲になるよう薄膜形成性ガスの量比を調整することが好ましい。In:Sn比、Sn:F比及びIn:Zn比の各原子数比はXPS測定によって求めることが出来る。
【0206】
本発明において、透明導電薄膜形成性ガスは、混合ガスに対し、0.01〜10体積%含有させることが好ましい。
【0207】
本発明において、得られる透明導電膜は、例えば、SnO、In、ZnOの酸化物膜、またはSbドープSnO、FドープSnO(FTO)、AlドープZnO、SnドープIn(ITO)等ドーパントによるドーピングした複合酸化物を挙げることが出来、これらから選ばれる少なくとも一つを主成分とするアモルファス膜が好ましい。またその他にカルコゲナイド、LaB、TiN、TiC等の非酸化物膜、Pt、Au、Ag、Cu等の金属膜、CdO等の透明導電膜を挙げることが出来る。
【0208】
上記形成された酸化物または複合酸化物の透明導電膜の膜厚は、0.1〜1000nmの範囲が好ましい。
【0209】
本発明に用いられる基材について説明する。
【0210】
本発明に用いられる基材としては、板状、シート状またはフィルム状の平面形状のもの、あるいはレンズその他成形物等の立体形状のもの等の薄膜をその表面に形成出来るものであれば特に限定はない。基材が静置状態でも移送状態でもプラズマ状態の混合ガスに晒され、均一の薄膜が形成されるものであれば基材の形態または材質には制限ない。形態的には平面形状、立体形状でもよく、平面形状のものとしては、ガラス板、樹脂フィルム等を挙げることが出来る。材質的には、ガラス、樹脂、陶器、金属、非金属等様々のものを使用出来る。具体的には、ガラスとしては、ガラス板やレンズ等、樹脂としては、樹脂レンズ、樹脂フィルム、樹脂シート、樹脂板等を挙げることが出来る。
【0211】
樹脂フィルムは本発明に係る大気圧プラズマ放電処理装置の電極間または電極の近傍を連続的に移送させて透明導電膜を形成することが出来るので、スパッタリングのような真空系のようなバッチ式でない、大量生産に向き、連続的な生産性の高い生産方式として好適である。
【0212】
樹脂フィルム、樹脂シート、樹脂レンズ、樹脂成形物等成形物の材質としては、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートのようなセルロースエステル、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートのようなポリエステル、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコールコポリマー、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリエーテルイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ポリメチルアクリレート、アクリレートコポリマー等を挙げることが出来る。
【0213】
これらの素材は単独であるいは適宜混合されて使用することも出来る。中でもゼオネックスやゼオノア(日本ゼオン(株)製)、非晶質シクロポリオレフィン樹脂フィルムのARTON(ジェイエスアール(株)製)、ポリカーボネートフィルムのピュアエース(帝人(株)製)、セルローストリアセテートフィルムのコニカタックKC4UX、KC8UX(コニカ(株)製)などの市販品を好ましく使用することが出来る。更に、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルフォン及びポリエーテルスルフォンなどの固有複屈折率の大きい素材であっても、溶液流延製膜、溶融押し出し製膜等の条件、更には縦、横方向に延伸条件等を適宜設定することにより使用することが出来るものを得ることが出来る。
【0214】
これらのうち光学的に等方性に近いセルロースエステルフィルムが本発明の光学素子に好ましく用いられる。セルロースエステルフィルムとしては、上記のようにセルローストリアセテートフィルム、セルロースアセテートプロピオネートが好ましく用いられるものの一つである。セルローストリアセテートフィルムとしては市販品のコニカタックKC4UX等が有用である。
【0215】
これらの樹脂の表面にゼラチン、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、セルロースエステル樹脂等を塗設したものも使用出来る。またこれら樹脂フィルムの薄膜側に防眩層、クリアハードコート層、バリア層、防汚層等を設けてもよい。また、必要に応じて接着層、アルカリバリアコート層、ガスバリア層や耐溶剤性層等を設けてもよい。
【0216】
また、本発明に用いられる基材は、上記の記載に限定されない。フィルム形状のものの膜厚としては10〜1000μmが好ましく、より好ましくは40〜200μmである。
【実施例】
【0217】
本発明を実施例により詳述するが、これらに限定されない。
【0218】
実施例1
〔電極の作製〕
次のように電極を作製した。長さ50mm、幅600mm、高さ50mmの、肉厚10mm(中空のジャケット)のチタン合金T64製の2個の平板印加電極を以下のように作製した。該2個共、平板電極の互いに対向する面(面積300cm)に大気プラズマ法により高密度、高密着性のアルミナ溶射膜を被覆した。その後、テトラメトキシシランを酢酸エチルで希釈した溶液を塗布乾燥後、紫外線照射により硬化させ封孔処理を行った。このようにして被覆した誘電体表面を研磨し、平滑にして、Rmaxが5μmとなるように加工した。最終的な誘電体の空隙率は5体積%であった。この時の誘電体層のSiO含有率は75mol%であった。また、最終的な誘電体の膜厚は、1mm(膜厚変動±1%以内)、誘電体の比誘電率は10であった。更に導電性の金属質母材と誘電体の線熱膨張係数の差は、1.6×10−6/℃であり、また耐熱温度は250℃であった。
【0219】
〔大気圧プラズマ放電処理装置〕
図1に示した大気圧プラズマ放電処理装置を使用し、上記で作製した2個の電極を電極間隙を1mmとして平行に対向させ、表1に示す第1電界及び第2電界を設置した。尚、電源A5は、連続モード100kHzで使用した(以下の実施例においても同様)。また、試料No.16は、第1電界に直流パルス電源を用い、ON/OFFの繰り返し周波数を10kHzとした。両電極は80℃になるように調節保温した。なお、何れもフィルタは各電極からの電流が逆流しないようなものを設置した。
【0220】
〔酸化チタン薄膜の作製〕
基材としてのコニカタックKC8UXの上に、下記組成の混合ガスを用い、表1に示す電界を電極間に印加し、放電を行って薄膜を形成し、試料1〜16を作製した。なお、この系での放電開始電界強度は3.7kV/mmであった。
【0221】
〈混合ガス組成〉
放電ガス:窒素 97.9体積%
薄膜形成性ガス:テトライソプロポキシチタン 0.1体積%
添加ガス:水素 2.0体積%
〔評価〕
〈放電状態〉
対向電極間で放電の状況を下記のランクに分けた。
【0222】
○:安定した放電が起こっている
△:放電はしているがやや不安定
×:全く放電が起こらない。
【0223】
〈屈折率〉
各試料につき分光光度計U−4000型(日立製作所製)を用いて、5度正反射の条件で反射スペクトルの測定を行った。測定は反射防止フィルムの反射防止層のない側の面を粗面化処理した後、黒色スプレーを用いて光吸収処理を行い反射防止フィルムの裏面の光の反射を防止して、400〜700nmの波長の反射スペクトルを測定し、該スペクトルのλ/4値より光学膜厚を算出し、それをもとに屈折率を算出した。なお、屈折率が低いということは、層の構造に緻密さに欠けて孔が多数あり、測定時に孔に空気が入ることによる現象や、放電空間で生じたパーティクルが膜中にとり込まれる場合があり不良な膜である。
【0224】
上記試料No.1〜16について、放電状態の観察と屈折率の測定を行い、結果を表1に示した。
【0225】
【表1】

【0226】
(結果)
第1及び第2電極から印加した第1及び第2の高周波電界の周波数(ω、ω)の関係、第1及び第2の高周波電界の強さ(V、V)と放電ガスの放電開始電界の強さ(IV)との関係および第2の高周波電界の出力密度が、本発明の関係にある試料No.1〜10については、放電状況もよく、緻密な薄膜(屈折率の大きさによって判断出来る)が形成された。これに対して、本発明の関係以外の高周波電界の試料11〜16では、放電は良好であっても薄膜形成する能力が不足し、孔が多く緻密な薄膜が得られなかったり(屈折率が小さい)、または、放電が起こらず薄膜の形成が出来なかった。
【0227】
実施例2
表2に示した第1電界及び第2電界に変更し、また表2に示した第1フィルター及び第2フィルターを設置した以外は実施例1と同様に行い、試料17〜23を作製した。
【0228】
試料No.17〜23について上記評価を行い、結果を表2に示した。
【0229】
【表2】

【0230】
(結果)
本発明の大気圧プラズマ放電処理装置を用い、表2に示したようにフィルタを設置し、薄膜形成を行った試料17〜20は、放電は正常に行われ、薄膜も正常に形成された。これに対して、試料21では、第1電界と第2電界の周波数に対し、フィルターの組み合わせを適性化してないため、放電が発生せず、薄膜の形成が出来なかった。試料22及び23は、通常の大気圧放電プラズマ薄膜形成装置で、対向電極が印加電極とアース電極としたもの(フィルターは使用しない)で、試料22では、その印加電極に通常使用するより高周波印加電源から印加したが、放電せず、薄膜の形成が出来ず、また試料23では印加電源が、より低周波のものを用いて印加したが、放電はするものの、良好な薄膜の形成が出来なかった。
【0231】
実施例3
基材としてコニカタックKC4UXの長尺フィルム(1500m巻きフィルム)を用い、下記のように裏面側にバックコート層及び表側にハードコート層を塗設し、フィルムロールとして巻き取った。この基材を使用し、図2の装置を3基直列に連結して反射防止フィルムを作製した。基材を該フィルムロールをアンワインダーから巻きほぐし、ハードコート層の上に1基目の大気圧プラズマ放電処理装置で中屈折率層を形成し、続いて、中屈折率層の上に2基目の同様の装置で高屈折率層を積層して形成し、更に続いて、高屈折率層の上に3基目の同様な装置で低屈折率層を積層して形成し、バックコート層/基材F/ハードコート層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層の反射防止フィルム(試料No.24〜27)を作製した。
【0232】
〔基材の準備〕
〈クリアハードコート層塗布済み基材の作製〉
コニカタックKC4UXの片面に下記のバックコート層塗布組成物を設け、他の面に、乾燥膜厚で4μmの中心線表面粗さ(Ra)15nmのクリアハードコート層を設け、クリアハードコート層塗布済み基材を作製した。
【0233】
《バックコート層塗布組成物》
アセトン 30質量部
酢酸エチル 45質量部
イソプロピルアルコール 10質量部
ジアセチルセルロース 0.5質量部
アエロジル200V(日本アエロジル社製)の2質量%アセトン分散液
0.1質量部
《クリアハードコート層塗布組成物》
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート単量体 60質量部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート2量体 20質量部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート3量体以上の成分
20質量部
ジメトキシベンゾフェノン 4質量部
酢酸エチル 50質量部
メチルエチルケトン 50質量部
イソプロピルアルコール 50質量部
〔電極の作製〕
前述の図2の大気圧プラズマ放電処理装置において、誘電体で被覆したロール電極及び同様に誘電体を被覆した複数の角筒型電極のセットを以下のように作製した。
【0234】
第1電極となるロール電極は、冷却水による冷却手段を有するチタン合金T64製ジャケットロール金属質母材に対して、大気プラズマ法により高密度、高密着性のアルミナ溶射膜を被覆し、ロール径1000mmφとなるようにした。
【0235】
封孔処理及び被覆した誘電体表面研磨は実施例1と同様に行い、Rmax5μmとした。最終的な誘電体の空隙率(貫通性のある空隙率)はほぼ0体積%、このときの誘電体層のSiO含有率は75mol%、また、最終的な誘電体の膜厚は1mm、誘電体の比誘電率は10であった。更に導電性の金属質母材と誘電体の線熱膨張係数の差は1.7×10−6で、耐熱温度は260℃であった。
【0236】
一方、第2電極の角筒型電極は、中空の角筒型のチタン合金T64に対し、上記同様の誘電体を同条件にて被覆し、対向する角筒型固定電極群とした。この角筒型電極の誘電体については上記ロール電極のものと、誘電体表面のRmax、誘電体層のSiO含有率、また誘電体の膜厚と比誘電率、金属質母材と誘電体の線熱膨張係数の差、更に電極の耐熱温度は、第1電極とほぼ同じ物性値に仕上がった。
【0237】
この角筒型電極をロール回転電極のまわりに、対向電極間隙を1mmとして25本配置した。角筒型固定電極群の放電総面積は、150cm(幅手方向の長さ)×4cm(搬送方向の長さ)×25本(電極の数)=15000cmであった。なお、何れもフィルターは適切なものを設置した。
【0238】
〔反射防止フィルムの作製〕
プラズマ放電中、第1電極(ロール回転電極)及び第2電極(角筒型固定電極群)が80℃になるように調節保温し、ロール回転電極はドライブで回転させて次のように薄膜形成を行った。3基それぞれの第1電界及び第2電界については表3に示したものと3基とも同じものを用いた。ぞれぞれをアースに接地した。圧力は103kPaとし、下記の混合ガスをそれぞれの放電空間及びプラズマ放電処理装置内部へ導入し、上記バックコート層及びクリアハードコート層塗布済み基材のクリアハードコート層の上に中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層の順に連続してプラズマ放電薄膜形成を行い、3層積層の反射防止フィルムを作製し試料24〜27とした。
【0239】
《中屈折率層混合ガス組成物》
放電ガス:窒素 99.4体積%
薄膜形成性ガス:ジブチルジアセトキシ錫 0.1体積%
(リンテック社製気化器にてアルゴンガスに混合して気化)
添加ガス:酸素 0.5体積%
《中屈折率層条件》
出力密度:第1電極側 1W/cm
:第2電極側 5W/cm
《高屈折率層混合ガス組成物》
放電ガス:窒素 99.4体積%
薄膜形成性ガス:テトライソプロポキシチタン 0.1体積%
(リンテック社製気化器にてアルゴンガスに混合して気化)
添加ガス:酸素ガス 0.5体積%
《高屈折率層条件》
出力密度:第1電極側 1W/cm
:第2電極側 5W/cm
《低屈折率層混合ガス組成物》
放電ガス:窒素 98.9体積%
薄膜形成性ガス:テトラエトキシシラン 0.1体積%
(リンテック社製気化器にてアルゴンガスに混合して気化)
添加ガス:酸素ガス 1体積%
《低屈折率層条件》
出力密度:第1電極側 1W/cm
:第2電極側 3W/cm
試料24〜27について、放電状態については実施例1と同様に評価を行い、且つ、下記評価を行い、その結果を表3に示した。
【0240】
〔評価〕
〈平均分光反射率〉
放電を開始して10分経過した後に試料をサンプリングし、分光光度計U−4000型(日立製作所製)を用いて、5度正反射の条件で反射率を測定した。測定は反射防止フィルムの反射防止層のない側の面を粗面化処理した後、黒色スプレーを用いて光吸収処理を行い反射防止フィルムの裏面の光の反射を防止して、400〜700nmの波長の反射スペクトルを測定し、その内の500〜650nmの波長について平均分光反射率を求めた。
【0241】
◎:0.2以下
○:0.2超、0.5未満
△:0.5以上
×:薄膜形成充分にされず測定不能
【0242】
【表3】

【0243】
(結果)
本発明の方法により、薄膜を3層積層して形成した反射防止フィルム(試料24及び25)は、平均分光反射率が目標通りのものが得られた。なお、全ての装置での放電状態は正常であった。これに対して、本発明以外の方法で電界を印加した試料26は、放電状態はよかったが、平均分光反射率が本発明より劣っていた。また、試料27は放電せず薄膜は得られなかった。
【0244】
実施例4
図2に示したようなプラズマ放電処理装置1基の大気圧プラズマ放電処理装置を使用し、電極及び誘電体は実施例3と同じものを使用及び同じ加工をした。電極及び誘電体の物性値は実施例3と同じように仕上げた。尚、第1電極の温度を150℃に、第2電極の温度を80℃に調節保温するように、電極温度調整手段を構成し、次のように薄膜形成を行った。電界は、表4に示したものを使用した。基材として、厚さ100μmのARTONフィルム(非晶質シクロポリオレフィン樹脂フィルム、JSR社製)を使用した。圧力は103kPaとし、下記の混合ガスを処理室内及びプラズマ放電処理装置へ導入し、下記基材の上に透明導電膜を形成し、透明導電フィルムの試料28〜32を作製した。なお、何れもフィルターは適切なものを設置した。
【0245】
〈混合ガス組成〉
放電ガス:窒素 98.65体積%
薄膜形成性ガス1:トリス(2,4−ペンタンジオナート)インジウム
1.2体積%
薄膜形成性ガス2:ジブチルジアセトキシ錫 0.05体積%
添加ガス:水素 0.1体積%
上記試料28〜32について下記評価を行い、結果を表4に示した。
【0246】
〔評価〕
〈比抵抗値(Ω・cm)〉
JIS R 1637に従い、四端子法により求めた。なお、測定には三菱化学製ロレスタ−GP、MCP−T600を用いた。
【0247】
〈透過率(%)〉
JIS R 1635に従い、日立製作所製分光光度計1U−4000型を用いて550nmの波長での透過光で測定を行った。
【0248】
【表4】

【0249】
(結果)
本発明の試料28〜31は薄膜形成性及び薄膜の緻密性が優れ、透過率が高く、また比抵抗値も非常に小さく高性能の透明導電膜を有する基材が得られた。これに対して比較の試料32は放電が起こらず薄膜の形成が出来なかった。
【0250】
実施例5
実施例4に於いて、電極に印加する出力密度を表5に示すように変化させた以外は、同じ条件にて薄膜形成を行い、試料33〜40を作製した。
〔評価〕
〈膜厚分布〉
各試料につき分光光度計U−4000型(日立製作所製)を用いて、5度正反射の条件で反射スペクトルの測定を行った。測定は製膜していない側の面を粗面化処理した後、黒色スプレーを用いて光吸収処理を行い基材の裏面の光の反射を防止して、400〜700nmの波長の反射スペクトルを測定し、該スペクトルのλ/4値より光学膜厚を算出した。この膜厚測定を1cmピッチで行い、膜厚の分布を測定した。そして膜厚分布として、以下の算出式により求めた値を用いて評価した。
【0251】
◎:膜厚分布1%未満
○:膜厚分布1%以上3%未満
△:膜厚分布3%以上10%未満
×:膜厚分布10%以上
〈製膜レート〉
上記方法により得られた平均膜厚を、放電空間に曝される時間(製膜時間)で割った値を製膜レートと定義し、評価した。例えば、放電長1mの場合、基材の搬送速度が1m/minの場合、製膜時間は1minとなる。この1minの間に60nmの膜厚が製膜されると製膜速度1nm/secとなる。
【0252】
【表5】

【0253】
(結果)
本発明の方法により、第1電界の出力を高めることにより、均一性及び製膜速度を更に向上させることができることが確認された。
【符号の説明】
【0254】
10 プラズマ放電処理装置
11 第1電極
12 第2電極
20 電界印加手段
21 第1電源
22 第2電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧もしくはその近傍の圧力下、放電空間に薄膜形成ガスを含有するガスを供給し、
前記放電空間に高周波電界を印加することにより前記ガスを励起し、基材を励起した前記ガスに晒すことにより前記基材上に薄膜を形成する薄膜形成方法であって、
前記高周波電界が、第1の高周波電界および第2の高周波電界を重畳したものであり、
前記第1の高周波電界の周波数ωより前記第2の高周波電界の周波数ωが高く、
前記第1の高周波電界の強さV、前記第2の高周波電界の強さVおよび放電開始電界の強さIVとの関係が、
≧IV>V
または V>IV≧V を満たし、
前記第2の高周波電界の出力密度が、1W/cm以上であり、
かつ前記放電空間に供給される全ガス量の90〜99.9体積%が放電ガスであることを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項2】
大気圧もしくはその近傍の圧力下、放電空間に薄膜形成ガスを含有するガスを供給し、
前記放電空間に高周波電界を印加することにより前記ガスを励起し、
基材を励起した前記ガスに晒すことにより前記基材上に薄膜を形成する薄膜形成方法であって、前記高周波電界が、第1の高周波電界および第2の高周波電界を重畳したものであり、
前記第1の高周波電界の周波数ωより前記第2の高周波電界の周波数ωが高く、
前記第1の高周波電界の強さV、前記第2の高周波電界の強さVおよび放電開始電界の強さIVとの関係が、
≧IV>V
または V>IV≧V を満たし、
前記第2の高周波電界の出力密度が、1W/cm以上であり、
かつ前記薄膜形成ガスが、有機金属化合物、ハロゲン化金属、金属水素化合物から選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項3】
前記放電空間が、対向する第1電極と第2電極とで構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜形成方法。
【請求項4】
前記第2の高周波電界の出力密度が、50W/cm以下であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【請求項5】
前記第2の高周波電界の出力密度が、20W/cm以下であることを特徴とする請求項4に記載の薄膜形成方法。
【請求項6】
前記第1の高周波電界および前記第2の高周波電界がサイン波であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【請求項7】
前記第1の高周波電界を前記第1電極に印加し、前記第2の高周波電界を前記第2電極に印加することを特徴とする請求項3乃至6の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【請求項8】
前記放電空間に供給される全ガス量の90〜99.9体積%が放電ガスであることを特徴とする請求項2乃至7の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【請求項9】
前記放電ガスが、50〜100体積%の窒素ガスを含有することを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【請求項10】
前記放電ガスが、50体積%未満の希ガスを含有することを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【請求項11】
前記有機金属化合物が、有機珪素化合物、有機チタン化合物、有機錫化合物、有機亜鉛化合物、有機インジウム化合物および有機アルミニウム化合物から選ばれる少なくとも一つの化合物を含有することを特徴とする請求項2乃至10の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【請求項12】
大気圧もしくはその近傍の圧力下、放電空間に薄膜形成ガスおよび窒素ガスを含む放電ガスを含有するガスを供給し、
前記放電空間に高周波電界を印加することにより前記ガスを励起し、基材を励起した前記ガスに晒すことにより前記基材上に薄膜を形成する薄膜形成方法であって、
前記高周波電界が、第1の高周波電界および第2の高周波電界を重畳したものであり、
前記第1の高周波電界の周波数ωより前記第2の高周波電界の周波数ωが高く、
前記第1の高周波電界の強さV、前記第2の高周波電界の強さVおよび放電開始電界の強さIVとの関係が、
≧IV>V
または V>IV≧V を満たし、
前記第2の高周波電界の出力密度が、1W/cm以上であることを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項13】
前記放電空間が、対向する第1電極と第2電極とで構成されることを特徴とする請求項12に記載の薄膜形成方法。
【請求項14】
前記第2の高周波電界の出力密度が、50W/cm以下であることを特徴とする請求項12または13に記載の薄膜形成方法。
【請求項15】
前記第2の高周波電界の出力密度が、20W/cm以下であることを特徴とする請求項14に記載の薄膜形成方法。
【請求項16】
前記第1の高周波電界の出力密度が1W/cm以上であることを特徴とする請求項12乃至15の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【請求項17】
前記第1の高周波電界の出力密度が、50W/cm以下であることを特徴とする請求項12乃至16の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【請求項18】
前記第1の高周波電界および前記第2の高周波電界がサイン波であることを特徴とする請求項12乃至17の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【請求項19】
前記第1の高周波電界を前記第1電極に印加し、前記第2の高周波電界を前記第2電極に印加することを特徴とする請求項13乃至18の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【請求項20】
前記放電空間に供給される全ガス量の90〜99.9体積%が前記放電ガスであることを特徴とする請求項12乃至19の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【請求項21】
前記放電ガスが、50〜100体積%の窒素ガスを含有することを特徴とする請求項20に記載の薄膜形成方法。
【請求項22】
前記放電ガスが、50体積%未満の希ガスを含有することを特徴とする請求項20または21に記載の薄膜形成方法。
【請求項23】
前記薄膜形成ガスが、有機金属化合物、ハロゲン化金属、金属水素化合物から選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とする請求項12乃至22の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【請求項24】
前記有機金属化合物が、有機珪素化合物、有機チタン化合物、有機錫化合物、有機亜鉛化合物、有機インジウム化合物および有機アルミニウム化合物から選ばれる少なくとも一つの化合物を含有することを特徴とする請求項23に記載の薄膜形成方法。
【請求項25】
前記周波数ωが、200kHz以下であることを特徴とする請求項12乃至24の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【請求項26】
前記周波数ωが、800kHz以上であることを特徴とする請求項12乃至25の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【請求項27】
大気圧もしくはその近傍の圧力下、放電空間に薄膜形成ガスを含有するガスを供給し、
前記放電空間に高周波電界を印加することにより前記ガスを励起し、
基材を励起した前記ガスに晒すことにより前記基材上に薄膜を形成する薄膜形成方法であって、前記高周波電界が、第1の高周波電界および第2の高周波電界を重畳したものであり、
前記第1の高周波電界の周波数ωより前記第2の高周波電界の周波数ωが高く、
前記第1の高周波電界の強さV、前記第2の高周波電界の強さVおよび放電開始電界の強さIVとの関係が、
≧IV>V
または V>IV≧V を満たし、
前記第1の高周波電界の出力密度が1W/cm以上で、
且つ、前記第2の高周波電界の出力密度が1W/cm以上であることを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項28】
前記放電空間が、対向する第1電極と第2電極とで構成されることを特徴とする請求項27に記載の薄膜形成方法。
【請求項29】
前記第2の高周波電界の出力密度が、50W/cm以下であることを特徴とする請求項27または28に記載の薄膜形成方法。
【請求項30】
前記第2の高周波電界の出力密度が、20W/cm以下であることを特徴とする請求項29に記載の薄膜形成方法。
【請求項31】
前記第1の高周波電界の出力密度が1W/cm以上であることを特徴とする請求項27乃至30の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【請求項32】
前記第1の高周波電界の出力密度が、50W/cm以下であることを特徴とする請求項31に記載の薄膜形成方法。
【請求項33】
前記第1の高周波電界および前記第2の高周波電界がサイン波であることを特徴とする請求項27乃至32の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【請求項34】
前記第1の高周波電界を前記第1電極に印加し、前記第2の高周波電界を前記第2電極に印加することを特徴とする請求項27乃至33の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【請求項35】
前記放電空間に供給される全ガス量の90〜99.9体積%が放電ガスであることを特徴とする請求項27乃至34の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【請求項36】
前記放電ガスが、50〜100体積%の窒素ガスを含有することを特徴とする請求項35に記載の薄膜形成方法。
【請求項37】
前記放電ガスが、50体積%未満の希ガスを含有することを特徴とする請求項35または36に記載の薄膜形成方法。
【請求項38】
前記薄膜形成ガスが、有機金属化合物、ハロゲン化金属、金属水素化合物から選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とする請求項27乃至37の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【請求項39】
前記有機金属化合物が、有機珪素化合物、有機チタン化合物、有機錫化合物、有機亜鉛化合物、有機インジウム化合物および有機アルミニウム化合物から選ばれる少なくとも一つの化合物を含有することを特徴とする請求項38に記載の薄膜形成方法。
【請求項40】
前記第1の高周波電界の電流Iより、前記第2の高周波電界の電流Iの方が高いことを特徴とする請求項27乃至39の何れか1項に記載の薄膜形成方法。
【請求項41】
前記周波数ωの前記周波数ωに対する比が、100倍以上であることを特徴とする請求項27乃至40の何れか1項に記載の薄膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−235576(P2009−235576A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137019(P2009−137019)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【分割の表示】特願2003−69588(P2003−69588)の分割
【原出願日】平成15年3月14日(2003.3.14)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】