説明

薄膜積層体検査方法

【課題】 10μm以下のビームサイズの入射X線を使用したX線反射率法で微小領域の膜厚を計測するには、入射角を変えながら、X線の焦点位置、試料表面、回転軸の関係を1μm以下の精度で維持、制御する必要がある。
【解決手段】 本発明は、X線レンズを振幅分割ビームスプリッターと集光光学系として用いることにある。X線レンズで屈折されたX線は、焦点位置で10μm以下に集光するような角度分布を与える。薄膜積層体を焦点位置に配置し、鏡面反射されたX線を物体波、X線レンズを透過したX線を参照波として薄膜積層体下流に配置したX線レンズで重ね合わせ干渉させる。光路差と薄膜積層体中で生じた位相差を反映した干渉縞の間隔および位置から反射X線の位相を解析し、微小領域の膜厚を計測、検査することを特徴とする薄膜積層体検査方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に1層以上積層された薄膜積層体の各層の膜厚を非破壊的に計測、検査する方法において、微小領域にX線を入射し薄膜積層体微小領域からの反射X線の位相情報を測定するX線反射率測定法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス、磁気デバイスの分野では、素子の高機能化、高性能化のため、形成される膜は極薄膜化されるとともに、積層数も増加している。また、現在の半導体や磁気デバイスのような電子デバイスでは、積層膜界面での電子散乱を制御するため、積層膜界面のラフネス制御も検討されている。
【0003】
従来、積層膜の膜厚を評価する方法として、エリプソメトリー法、蛍光X線法が用いられている。エリプソメトリー法は平らな表面の薄膜試料に偏光を入射させ、反射光の偏光状態の変化を測定し、試料薄膜の厚さと屈折率を知る方法である。しかし、この方法は光を用いるため、光に対して透明な試料でなければ測定できないことが問題となる。蛍光X線法は試料で発生した蛍光X線を測定し、その強度から膜厚を推定する方法である。この方法の場合、蛍光X線を発生した元素の総量が分かるだけで、膜厚を直接測定する方法でないこと、同じ元素が含まれる薄膜が複数積層されている場合に、膜厚を分離解析することができないことが問題となる。また、エリプソメトリー法、蛍光X線法とも積層膜界面の情報を得ることはできない。
【0004】
デバイスの断面TEM観察は、非常に高い空間分解能で、積層膜の膜厚を測定することが可能である。また界面幅も推定できる。しかし、TEM観察のためには試料を100nm以下の薄片化する必要があり、破壊解析となる。また、観察時に表面に垂直に電子線を入射し断面を観察する必要があり、この角度合わせ精度が0.1゜より大きいため、膜厚の測定精度は0.2nm程度が限界である。
【0005】
非破壊で、積層薄膜の膜厚と界面幅を測定する方法として、X線反射率法がある。反射強度を測定するX線反射率法には2種類の方法があり、1つは単色のX線を試料表面すれすれに入射し、入射角を変えながら、反射率を測定する方法、他方は白色X線を試料に入射し、反射率の波長依存性を測定する方法である。どちらの方法も試料表面、界面で反射して来たX線の干渉から膜厚を解析する方法である。また表面や界面での反射には界面幅が影響するため、X線反射率プロファイルを詳細に解析することで積層膜の各界面の幅も得ることができる。反射率の解析に用いられる理論曲線は、非特許文献1の漸化式に、非特許文献2の界面凹凸の効果を入れた式が利用されている。また、フーリエ変換解析では、非特許文献3の方法が良く用いられる。また、新しい反射率解析方法としてWavelet法やエントロピー最大化法(MEM)、反射率測定法としてはX線差分反射率法や、 X線位相反射率法(特許文献1)等が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-168618号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Parratt [ Phys. Rev., 95, pp359 (1954) ]
【非特許文献2】Sinha etc [ Phys. Rev. B, 38, pp2297 (1988) ]
【非特許文献3】桜井ら[ Jpn. J. Appl. Phys. 31, L113 (1992) ]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
半導体/磁気デバイスの分野では、素子の高機能化、高性能化に伴い、極薄多層膜化以外にも、微細化も進められている。X線反射率法は積層体の各層の膜厚と界面幅を評価できる優れた方法であるが、試料の微小領域の膜厚と界面幅を評価することは不得意である。X線反射率法は試料表面すれすれにX線を入射する必要があるため、入射X線の照射領域は照射X線の大きさの10〜100倍の領域に広がる。このため、1mm以下の領域のX線反射率の測定には10μm以下のビームサイズが必要となる。またX線反射率法では、試料と照射X線の位置関係のずれをビームサイズの1/10以下に抑えるように調整する必要がある。10μm以下のX線ビームに対しても試料表面を1μm以下の精度で合わせることはできるが、入射角を変えながら、照射位置とX線と試料表面の位置関係を1μm以下の精度で維持することは困難である。これら課題のため、X線反射率法では、微小領域の膜厚を計測することは困難である。
【0009】
そこで、本発明は、10μm以下に集光した入射X線を積層体試料に照射し、反射されたX線の位相情報を測定することで、積層体試料を回転することなく、微小領域の膜厚を計測、検査することが可能なX線反射率法を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するための本発明の一例としては、入射X線を上流側X線レンズの上半分に入射し、集光する1次X線と透過する0次光に振幅分割し、集光X線の焦点位置に配置した試料で鏡面反射させ、連続する反射角の反射X線を物体波とし、0次光を参照波と下流側X線レンズで干渉させ、その干渉縞を2次元検出器で測定する、0次光の光路に配置した位相板を用いて、参照波の位相を変調し、連続する反射角の反射X線の位相を測定し、その入射角のちがいによる反射X線の位相変化から膜厚を計測することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、X線集光レンズにより10μm以下に集光したX線を積層体上に入射し、反射したX線のX線位相反射率を計測することにより、積層体微小領域の各層膜厚を入射角固定で検査することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例
【図2】本発明の別の実施例
【図3】本発明の更に別の実施例
【図4】本発明をさらに別の実施例
【図5】本発明に用いる透過型ラウエレンズ
【図6】本発明に用いるフレネルゾーンプレート
【発明を実施するための形態】
【0013】
上記目的を達成する本発明の特長は、X線レンズを振幅分割ビームスプリッターと集光光学系として用いることにある。X線レンズで屈折されたX線は、焦点位置に集光するような角度分布がある。X線レンズの一部のみにX線が照射されるようにすることで、入射X線の角度分布を制御する。焦点位置に配置した薄膜積層体に集光X線を照射すると鏡面反射され、入射X線の角度分布に応じた反射X線が得られる。X線レンズで屈折されずに透過したX線を参照波、薄膜積層体で反射されたX線を物体波として薄膜積層体下流に配置したX線レンズで重ね合わせる。
【0014】
重ね合わせたX線は干渉し、光路差と薄膜積層体中で生じた位相差を反映した干渉縞を生じる。次に参照波の光路に配置した位相板を利用し、参照波の位相を0から2πまで変化させて干渉縞を測定する。。その縞の間隔、および位置のズレから物体波の位相を解析する。
【0015】
また、入射X線の一部がX線レンズに照射されるようにすることで、入射X線を波面分割する。X線レンズに照射されたX線は屈折され焦点位置に集光するが、X線レンズに照射される領域を制限することで、入射X線の角度分布を制御する。焦点位置に配置した薄膜積層体に集光X線を照射すると鏡面反射され、入射X線の角度分布に応じた反射X線が得られる。
X線レンズを通過しなかったX線を参照波、薄膜積層体で反射されたX線を物体波として薄膜積層体下流に配置したX線カメラ上で重ね合わせる。重ね合わせたX線は干渉し、光路差と薄膜積層体中で生じた位相差を反映した干渉縞が得られる、また参照波の光路に配置した位相板を利用し、参照波の位相を0から2πまで変化させて干渉縞を測定する。。その縞の間隔、および位置のズレから物体波の位相を解析する。
【0016】
次に、膜厚解析方法に関して示す。膜厚が薄い場合、X線の入射角θが全反射臨界角より大きい条件とすることで、物体波に基板で反射したX線と積層膜表面で反射したX線が含まれることになる。この場合、基板部分で反射した領域の干渉縞と積層膜部分で反射した領域の干渉縞のずれ量を計測する。試料表面で反射されたX線と基板で反射されたX線の光路差Δは、入射角をθ、積層膜の膜厚をdとすると、式1で表すことができる。
Δ=2d sinθ (数1)
検出器上で物体波の位相差が2nπとなっている場所を位置Zとし、その入射角を入射角θ1とすると式2となる。θとZの相関関係は、事前に決める必要がある。
2nπ=4π(d/λ) sinθ1 (数2)
次に、位相差2(n+1)πとなっている、検出器上の位置Z2を求め、その入射角を入射角θ2とすると式3となる
2(n+1)π=4π(d/λ)sinθ2 (数3)
式3から式2を引くと、式4が得られる。
2π=4π(d/λ)(sinθ1ーsinθ2)
d≒λ/{2Δθcos(θav)} (数4)
式4のθavは測定した2つの入射角の平均値であり、Δθは2つの入射角の差である。
【0017】
次に多層膜積層体の解析方法について示す。試料への入射角θを全反射臨界角より小さな角度から、1°程度まで変えて干渉縞を測定する。得られた干渉縞の基板部分で反射した領域の干渉縞と積層膜部分で反射した領域の干渉縞のずれ量を計測し、基板で反射したX線と積層膜部分で反射したX線の位相差を求める。これを測定入射角毎に実施し、積層膜部分の位相変化に入射角依存性を得る。積層膜で鏡面反射されたX線の反射率曲線はParratt [ Phys. Rev.、 95、 pp359 (1954)] が漸化式として提示している。積層体への入射角をθ、入射X線の波長をλ、積層体のj番目の層の膜厚をdj、屈折率をn = 1 - (δj + i・βj )=1-{λ/(4π)}2(ξ+i・η)とすると、
Rj = aj4・[ ( Rj+1 + Fj、j+1 )/(Rj+1・Fj、j + 1) ] (数5)
γj2 = q2 ー2(ξj - iηj ) (数6)
aj = exp[ -i ・γj・dj /4 ] (数7)
Fj、j+1 = { ( γj - γj+1 ) / ( γj + γj+1 ) } (数8)
を用いて計算できる。通常、X線反射率は強度で測定するため、|R12で求めることになるが、位相反射率計を用いた場合、反射X線の位相が求められることから、R1を計算することで実験値と比較できる。式3は、q2 >>ξ、q2 >>ηの領域ではγj≒qと近似でき、|Rj+1・Fj、j +1|<<1となるため、式9、式10と書くことができる。
Rj = aj4・( Rj+1 + Fj、j+1 ) (数9)
R11j=N+1[ { II1k=j(ak4) }・Fj、j+1 ] (数10)
Fj、j+1はフレネルの反射係数であり、反射波の振幅を表し、akが位相を表す。式9より、位相反射率R1は各界面で反射したX線の波の加算となっていることが分かる。入射角を変えて測定した位相情報を式9に当てはめることにより、各界面で反射されたX線の位相が求まり、ajを連立方程式で解くことができる。これにより、膜層の膜厚を得ることができる
以上のように、本発明の集光X線を入射光とした位相反射率法を用いることにより、入射角を変える事なく、薄膜積層体の微小領域の膜厚検査が可能となる。
【0018】
上述の手法を実際に適用した例について以下詳細を説明する。
(実施例1)
本発明の実施例を図にしたがって説明する。図1に本発明の実施例を示す。本実施例では図6に示す透過型ラウエレンズを上流側X線レンズ3および下流側X線レンズ10として使用した。透過型ラウエレンズの大きさは約1mm角であり、波長0.1nmのX線に対する焦点距離は50mmであった。図6には2種類の透過型ラウエレンズを示した。右図は左図の透過型ラウエレンズの上半分だけで構成されている。本発明の実施においては、調整のし易さから左側の透過型ラウエレンズを利用した。
しかし、実際の測定では透過型ラウエレンズの上半分しか使用しないため、右図のような透過型ラウエレンズでも同様の効果を得ることができる。高輝度光科学研究センタの放射光実験施設(SPring−8)のアンジュレータ放射光源をX線源としたX線を単色器により0.1nmの波長のX線に単色化し、高次光除去ミラーで反射した後、スリットでz方向10μm、x方向10μmに成形した。センターストップ(図示せず)を用い、上流側X線レンズ3の中央部分のX線を除去し、OSA(Order Selecting Aperture: 図示せず)で1次回折光5以外の高次回折光6を除去した。次に下流側X線レンズ10を入れ、下流側X線レンズ10に1次回折光5が全面照射されるように2次元検出器12で確認しながら位置を調整し、記録データ1として記録した。
このとき、紙面に垂直な方向のX線幅は20μmに制限した。次にセンターストップ(図示せず)とOSA(図示せず)を除去し、上流側X線レンズ3の上半分にのみ入射X線1が照射されるように入射スリット2を、1次回折光5の集光角度幅は0.11〜0.57゜となるよう位置と幅を調整した。調整により、紙面の上下方向のスリット幅は400μmになった。
【0019】
この光学配置では焦点位置でのX線は0.1μm×25μm程度になった。次に高次回折除去スリット7を用いて高次回折光6を除去し、ナイフエッジ14を用いて上流側X線レンズ3で屈折されなかった0次光4を除去した。これにより下流側X線レンズ10の下側にのみ、X線が照射される(破線で図示)。この照射範囲を記録データ2として2次元検出器12で記録した。1次回折光5の集光角度幅が入射X線の試料への入射角度範囲となる。次にナイフエッジ14を除き、シリコン薄板上にシリコン酸化膜を10nm程度形成した試料8を焦点位置に配置した。試料で反射された反射X線9は下流X線レンズ10で屈折され0次光4と重ね合わせた。反射X線9と0次光4の重ね合わせが正確に合うように、事前に記録した記録データ1および記録データ2、1次回折光5、0次光4、反射X線9の位置が一致するように、試料8のスイベル2軸とZ軸(図示せず)を駆動し調整した。
【0020】
また、測定領域に入射X線が照射されるようにXY軸(図示せず)を駆動し試料の測定位置とX線の照射位置を合わせた。調整時には反射X線9と0次光4の重ね合わせで得られる干渉縞がじゃまにため、ナイフエッジ14および試料8のZ軸(図示せず)を使用して、干渉縞が出ないようにするなどして、反射X線9と0次光4の重なり具合を確認し調整した。
【0021】
調整終了後、ナイフエッジ14を除去すると、干渉X線11が得られ、この干渉X線11の強度分布を2次元検出器12で記録した。このとき、試料上のX線照射領域は50μm×25μmであった。
【0022】
次に参照波である0次光4の位相をシフトさせるため、位相板13を傾斜させて干渉縞を2次元検出器12で測定した。
本発明の光学系では参照波と物体波の光路差で生じる干渉縞はその周期が非常に短いため、分解能が数μmの2次元検出器12では検知できなかった。得られる干渉縞は試料で反射された物体波の入射角の違いによる位相差を反映している。位相板13で参照波の位相を変えて干渉縞を2次元検出器12で測定することにより、物体波の振幅の極値、および節の座標が得られた。記録データ2とナイフエッジ14で参照波を除いた反射X線9の検出器上の位置関係から原点座標が得た。この原点からの極値、および節の座標、焦点位置−下流X線レンズ10の距離から、入射角を求めた。式2〜式4に記録データから得たパラメータを適用すると積層膜の膜厚を求めることができる。実施例では、θ= 0.280゜、0.57゜に極値、0.423゜に節が測定された。極値と節の関係は位相がπだけずれているので、式4は次の式11ように修正される
π=4π(d/λ)(sinθ1ーsinθ2)
d≒λ/{4Δθcos(θav)} (数11)
極値の与えた入射角を用いて、膜厚を式4から求めると、d=9.88nmとなった。
更に、極値と節を与えた入射角を用いて式4から膜厚を求めると、d=10.2nm、 97.5nmとなり、これら得られた結果から、膜厚は99.4nmと求めることができた。
【0023】
次に、試料の膜厚が厚い場合や、参照波と物体波の光路差で生じる干渉縞を検出する場合について図2したがって説明する。図2に示した実施例の特徴は、下流側X線レンズ10と2次元検出器12の間に拡大用X線レンズ15があることである。拡大用X線レンズ15は0.1nm の波長のX線に対する焦点距離が150mmとなる同心円状のフレネルゾーンプレート(図6)を使用した。
【0024】
下流側X線レンズ10と拡大用X線レンズ15との間の距離を135mmにすると、拡大用X線レンズ15と2次元検出器12の間の距離は1350mmとなり、下流側X線レンズ10上の干渉縞は約10倍に拡大され2次元検出器12に投影された。本実施例では拡大用X線レンズ15により干渉縞が拡大されるが、拡大用X線レンズ15用のセンターストップやOSA(図示せず)の影響で、視野が制限された。
しかし、試料の膜厚が厚い場合の周期の短い干渉縞や参照波と物体波の光路差で生じる干渉縞は検出できた。
(実施例2)
次の実施例を図3に示す。図1に示した実施例で検出できない参照波と物体波の光路差で生じる干渉縞には、入射X線の集光角/発散角分布に関する情報が含まれている。この干渉縞を測定することで、測定する試料からの干渉縞の入射角を正確に求めることができる。そこで、図3に示した実施例では参照波の光路にくさび形位相板16を入れ、参照波の光路に傾斜を付け、集光角の異なる物体波と参照波の干渉で生じる干渉縞の間隔を広げるようにしてあることに特徴がある。実際には、くさび形位相板16を回転させて参照波の位相を変えて2次元検出器12で干渉縞を観察し、くさび形位相板16のくさびの角度異なる位相板に取り替え、干渉縞を観察することを繰り返し、最適な位相シフトを与える。本実施例の入射X線の角度範囲は0.11〜0.57゜であることから、50本程度の干渉縞が検出されるようにくさび形位相板16を調整した。
【0025】
これまでの実施例では、図面上の上下方向には振幅分割でX線を分け、紙面に垂直な方向は入射スリットで20μmに制限してある。焦点位置でのX線は100nm×25μm程度に集光されるが、試料面上では斜入射により、50μm×25μmに広がる。本発明の主たる目的は、100nm 集光X線を用い、50μmの領域の膜厚を計測することであるが、紙面に垂直な方向であれば分解能を向上することができる。図1〜図3に示した実施例の上流側X線レンズ3と下流側X線レンズ10を図5に示した透過型ラウエレンズから、図6に示す同心円状のフレネルゾーンプレートに交換する。フレネルゾーンプレートを用いた光学系の場合、焦点でX線がクロスオーバーするため、下流側X線レンズ10上で干渉させるには、空間コヒーレンスが必要である。実験に用いたSPring-8放射光は鉛直方向の空間コヒーレンスが100μm程度である。そこで図1〜3の光学系を装置上面からみた形に配置換えをし、入射スリットで紙面に垂直な方向(鉛直方向)のX線幅を100μmに制限した。実験に用いたフレネルゾーンプレートは直径が1mm程度となっているため、入射スリットで紙面に垂直な方向のX線幅を100μmに制限すると、十分なN/Aが得られず、水平方向(図面上の上下方向)より集光サイズが大きくなった。本実施例での鉛直方向の集光サイズは1μm程度となった。しかし、本実施例を利用する事により、試料面上で50μm×1μmの領域の膜厚が測定可能となった。
(実施例3)
最後に波面分割を利用した本発明の実施例を図4に示す。本実施例では図6右に示す透過型ラウエレンズをX線集光レンズとして使用した。ラウエレンズの大きさは約1mm角であり、0.1nmの波長での焦点距離は50mmである。高輝度光科学研究センタの放射光実験施設(SPring−8)のアンジュレータ放射光源をX線源としたX線は鉛直方向の空間コヒーレンスが約100μmあるが、水平方向の空間コヒーレンスは10μm程度しかないため、波面分割は鉛直方向にする必要がある。図4は実験配置を水平方向から見た図に対応している。発生した放射光を単色器により0.1nmの波長のX線に単色化し、平板高次光除去ミラーで反射した後、入射スリット2で上下100μm、紙面に垂直方向を20μmに制限し、上流側X線レンズ3上部100μm部分にX線を照射し、1次回折光5の焦点位置と集光サイズをナイフエッジ14で測定した。次に上流側X線レンズ3の上50μmにのみ入射X線1が照射されるように上流側X線レンズ3を下げ、上流側X線レンズ3を通過しない、上下幅50μmの参照波16を得た。次に高次回折除去スリット7を用いて高次回折光6を除去し、ナイフエッジ14を用いて焦点位置を再度確認した。焦点位置にシリコン薄板上に測定する薄膜としてNiFeを100nm程度形成した試料8を配置した。試料で反射された1次回折光5は反射X線9となった。反射X線9と参照波16が重なる位置に2次元検出器12を移動し、干渉縞を測定した。本発明の実施例でも、参照波と物体波の光路差で生じる干渉縞はその周期が非常に短いため、分解能が数μmの2次元検出器12では検知できなかった。得られる干渉縞は試料で反射された物体波の入射角の違いによる位相差を反映しているため、位相板13で参照波の位相を変えて干渉縞を2次元検出器12で測定することにより、物体波の振幅の極値、および節の座標を得た。本実施例では入射角を1゜±0.03゜とすることで、試料上のX線照射領域が30μm×20μmとなり、θ= 0.988゜、1.016゜に極値、1.002゜、1.030゜に節が測定された。式2〜式4、式4を利用することで、測定した試料の膜厚が、102.3nmであることが解析できた。本実施例では、入射X線となる1次回折光5の集光角が0.06゜と狭いことが問題であるが、XFELのようなX線レーザーを光源とすると、上流側X線レンズ3を大きくでき、1次回折光5の集光角度範囲が拡大できる。また本実施例は、これまでの実施例と異なり、試料への入射角を自由に選択できることに特徴がある。図1〜3の実施例では、参照波と物体波の重ね合わせに下流X線レンズ10が必要なため、X線波長を決めると1種類の入射角度範囲しか選択できない。入射角度範囲を変えるには、入射X線のエネルギーを変えるか、上流側X線レンズ3と下流X線レンズ10の焦点距離の組み合わせを変える等、大幅に光学系を変更する必要がある。しかし、本実施例は入射角を変えても、反射X線9と参照波16が重なる位置に2次元検出器12を移動するだけで干渉縞が測定できる。このため、測定試料の膜厚を測定するのに最適な入射角を試料調整時に選択することが可能である。
【0026】
以上述べてきたように、本実施例を利用すれば、集光X線を利用し入射角固定で、微小領域のX線位相反射率が測定可能となり、反射X線の位相解析により、積層膜の膜厚を解析することが可能となる。
【符号の説明】
【0027】
1:入射X線
2:入射スリット
3:上流側X線レンズ
4:0次光
5:1次回折光
6:高次回折光
7:高次回折除去スリット
8:試料
9:反射X線
10: 下流側X線レンズ
11:干渉X線
12:2次元検出器
13:位相板
14:ナイフエッジ
15:拡大用X線レンズ
16:くさび形位相板
17:参照波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射X線を上流側X線レンズの上半分に入射し、集光する1次X線と透過する0次光に振幅分割し、集光X線の焦点位置に配置した試料で鏡面反射させ、連続する反射角の反射X線を物体波とし、0次光を参照波と下流側X線レンズで干渉させ、その干渉縞を2次元検出器で測定する、0次光の光路に配置した位相板を用いて、参照波の位相を変調し、連続する反射角の反射X線の位相を測定し、その入射角のちがいによる反射X線の位相変化から膜厚を計測する微小部位相反射率計を利用した薄膜積層体検査方法。
【請求項2】
請求項1記載の前記微小部位相反射率計は、前記2次元検出器と下流X線レンズの間に干渉縞を拡大するためのX線レンズを有することを特徴する薄膜積層体検査方法。
【請求項3】
請求項1記載の前記微小部位相反射率計は、前記位相板がくさび形をしていることを特徴とする特徴とする薄膜積層体検査方法。
【請求項4】
請求項1記載の上流X線レンズおよび下流X線レンズは同心円状のフレネルゾーンプレート、または透過型ラウエレンズであり、集光焦点位置でのX線ビームの半値幅が1nmから10μmの範囲であることを特徴とする薄膜積層体検査方法。
【請求項5】
入射X線を半分に上流側X線レンズを入れ、上流側X線レンズの上半分に入射し、集光する1次X線を物体波とし、上流側X線レンズと通過しなかったX線を参照波として、波面分割し、集光X線の焦点位置に配置した試料で鏡面反射させ、連続する反射角の反射X線と、参照波の重なる位置に2次元検出器を配置し、干渉縞を測定する、参照波の光路に配置した位相板を用いて、参照波の位相を変調し、連続する反射角の反射X線の位相を測定し、その入射角のちがいによる反射X線の位相変化から膜厚を計測する微小部位相反射率計を利用した薄膜積層体検査方法。
【請求項6】
請求項5記載の前記微小部位相反射率計は、前記位相板がくさび形をしていることを特徴とする特徴とする薄膜積層体検査方法。
【請求項7】
請求項5記載の上流X線レンズは同心円状のフレネルゾーンプレート、または透過型ラウエレンズであり、集光焦点位置でのX線ビームの半値幅が1nmから10μmの範囲であることを特徴とする薄膜積層体検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−68180(P2012−68180A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214668(P2010−214668)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】