説明

薄葉材、その製造方法およびそれを用いた電気・電子部品

【課題】 電気・電子部品の高容量化・大出力化による大電流に耐えうる低抵抗かつ高耐熱性の隔離板用材料を開発すること。
【解決手段】 メタ型アラミド短繊維と耐熱多孔質粒子を含んでなることを特徴とする薄葉材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子部品内において導電部材間を隔離し、電解質もしくはイオンなどのイオン種を通過させる隔離板(セパレータ)として有用な薄葉材およびその製造方法ならびにそれを使用した電気・電子部品に関する。特に、リチウムイオン、ナトリウムイオン、アンモニウムイオン、水素イオン、ヨウ化物イオンなどを電流のキャリアーとして使用する電池、キャパシタ、燃料電池、太陽電池などの電極間の隔離板として有用な薄葉材およびその製造方法ならびにそれを使用した電気・電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯通信機器や高速情報処理機器などの最近の進歩に象徴されるように、エレクトロニクス機器の小型軽量化、高性能化には目覚しいものがある。なかでも、小型、軽量、高容量で長期保存にも耐える高性能な電池、キャパシタ、燃料電池、太陽電池への期待は大きく、幅広く応用が図られ、部品開発が急速に進展している。これに応えるため、部材、例えば電極間の隔壁材料であるセパレータに関しても技術・品質開発の必要性が高まっている。セパレータに要求されるさまざまな特性の中でも、次の三つの特性項目が特に重要と認識される。
1) 電解質を保持した状態での導電性が良いこと。
2) 電極間遮蔽性が高いこと。
3) 機械的強度を有すること。
【0003】
従来、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン系ポリマーを用いて製膜した多孔質シート(特許文献1)、同ポリマー繊維を用いてシート化した不織布(特許文献2)、ナイロン繊維を用いてシート化した不織布(特許文献3)などがセパレータに広く使用されている。このようなセパレータは1層または複数層あるいはロール状に巻いて電池内に用いられる。
【0004】
これらの微多孔膜及び不織布はセパレータとして良好な物性を有しているが、近年、電気自動車用の電池、キャパシタ、燃料電池、太陽電池等に要求されている高容量化や大出力化には必ずしも十分な対応ができていない。
【0005】
高容量、大出力が要求される電池、キャパシタ、燃料電池、太陽電池等の電気・電子部品中のセパレータには、
1) 電解質を保持した状態での導電性が良いこと(低抵抗)。
2) 電極間遮蔽性が高いこと。
3) 機械的強度を有すること。
4) 化学的・電気化学的に安定であること(耐熱性)。
の四つの特性を同時に満たすことが必要とされている。特に、導電性と耐熱性は、大電流を使用する例えば電気自動車用の駆動電源としての電池、キャパシタのような電気・電子部品において、ブレーキの回生エネルギーを効率よく蓄えるという意味で極めて重要であると考えられる。
【0006】
上記耐熱性を向上するための手段として、従来、耐熱性のバインダーを含んだセパレータとして、シリカ粒子などの無機粒子とガラス繊維を含んでなるセパレータ(特許文献4〜8)が開示されているが、本質的に脆弱なガラス繊維を含むため、熱圧加工による薄葉化の際にガラス繊維が破壊しやすい、機械特性が低下しセパレータとしての形態保持や製造工程での搬送等の取り扱いが困難である、無機粒子をセパレータに定着させるためにアクリル系樹脂、カチオン系定着補強剤、高分子凝集剤などの成分が添加されているが、こ
れらの剤がセパレータ中に残留することによる耐電圧の低下などの電気化学的安定性の低下が発生するなどの問題がある。
【0007】
【特許文献1】特開昭63−273651号公報
【特許文献2】特開2001−11761号公報
【特許文献3】特開昭58−147956号公報
【特許文献4】特開2004−207261号公報
【特許文献5】特開2004−349586号公報
【特許文献6】特開2006−059613号公報
【特許文献7】特開2007−81035号公報
【特許文献8】特開2007−317045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、電気・電子部品の高容量化・大出力化による大電流に耐えうる低抵抗かつ高耐熱性の隔離板(セパレータ)用材料を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして、本発明は、メタ型アラミド短繊維と耐熱多孔質粒子と場合によりさらにアラミドファイブリッドおよびフィブリル化したアラミドのうちの少なくとも1種とを含んでなることを特徴とする薄葉材を提供するものである。
【0011】
本発明は、また、メタ型アラミド短繊維と場合によりさらにアラミドファイブリッドおよびフィブリル化したアラミドのうちの少なくとも1種とを湿式抄造法でシート化し、その過程の任意の時点で流体スプレー方式により耐熱多孔質粒子を添加し、得られるシートを一対の金属製ロール間にてメタ型アラミドのガラス転移温度以上の温度で高温熱圧加工することを特徴とする上記薄葉材の製造方法を提供するものである。
本発明は、さらに、上記薄葉材を導電部材間の隔離板として使用してなる電気・電子部品、例えば、電池、キャパシタ、燃料電池、太陽電池などを提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の薄葉材は、内部抵抗も十分に低く、イオン種透過性も十分であると考えられ、電極間の遮蔽性も高いことから、電気・電子部品中の導電部材間の隔離板に利用することができる。また、本発明の薄葉材を使用した電池、キャパシタ等の電気・電子部品は、本質的に耐熱性の高いメタ型アラミドおよび耐熱多孔質粒子を含んでいるので、電気自動車等の大電流環境下でも使用することができる。
【0013】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【発明の実施の形態】
【0014】
メタ型アラミド
本発明において、メタ型アラミドとは、アミド結合の60%以上が芳香環(例えば、ベンゼン環)のメタ位に直接結合した線状高分子化合物を意味する。このようなメタ型アラミドとしては、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミドおよびその共重合体などが挙げられる。これらのメタ型アラミドは、例えば、イソフタル酸塩化物およびメタフェニレンジアミンを用いた従来既知の界面重合法、溶液重合法等により工業的に製造されており、市販品として入手することができるが、これに限定されるものではない。これらのメ
タ型アラミドの中、良好な成型加工性、熱接着性、難燃性、耐熱性などの特性を備えているなどの観点から、ポリメタフェニレンイソフタルアミドが好ましく用いられる。
【0015】
メタ型アラミド短繊維
メタ型アラミド短繊維は、メタ型アラミドを原料とする繊維を切断したものであり、そのような繊維としては、例えば、帝人(株)の「テイジンコーネックス(登録商標)」、デュポン社の「ノーメックス(登録商標)」等の商品名で入手することができるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
メタ型アラミド短繊維は、好ましくは0.05dtex以上25dtex未満、特に0.1〜1dtexの範囲内の繊度を有することができる。ここで、繊度とは長さ1000mあたりの繊維重量(g)と定義される。繊度が0.05dtex未満の繊維は、湿式抄造法での製造(後述)において凝集を招きやすいために好ましくなく、また、25dtex以上の繊維は、繊維直径が大きくなり過ぎるため、例えば、真円形状で密度を1.4g/cmとすると、直径45ミクロン以上である場合、アスペクト比の低下、力学的補強効果の低減、薄葉材の均一性不良などの不都合が生じる可能性がある。ここで、薄葉材の均一性不良とは、空隙サイズの分布が広がり前述したイオン種移動性に不均一性を生じることを意味する。
【0017】
メタ型アラミド短繊維の長さは一般に1mm以上50mm未満、特に2〜10mmの範囲内が好適である。短繊維の長さが1mmよりも小さいと、薄葉材の力学特性が低下しやすく、反対に、50mm以上のものは、後述する湿式抄造法での薄葉材の製造に当たり「からみ」や「結束」などが発生しやすく欠陥の原因となりやすい。
【0018】
耐熱多孔質粒子
本発明において、耐熱多孔質粒子とは、メタ型アラミドと同程度またはそれ以上の耐熱性を示し、中空部を有する粒子状物を意味する。中空部は、電解液に浸漬したときのイオン性物質の透過性、すなわち電解質を保持した状態での導電性向上の観点から、貫通した孔であることが好ましい。
【0019】
耐熱多孔質粒子としては、例えば、メソポーラスシリカ等を使用することができるが、これらに限定されるものではない。耐熱多孔質粒子は、繊維とのからみにより、結合しつつ、電解質の含浸・浸透の低下が生じることなく、内部抵抗の増大を招き難いなどの観点から、一般に0.1〜25μm、特に1〜15μmの範囲内の平均粒径を有することが好ましいが、これに限定されるものではない。また、大容量、低抵抗化のためセパレータを薄くした場合の短絡防止対策の観点から、中空部分の孔径としては一般に1〜100nm、特に2〜10nm、容積としては一般に約0.3〜約2cm/g、特に約0.5〜約1.5cm/gの範囲内が好ましいが、これに限定されるものではない。このような耐熱多孔質粒子としては、例えば、太陽化学(株)の「TMPS(登録商標)」等の商品名で入手することができるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
アラミドファイブリッド
アラミドファイブリッドは、抄紙性を有するフィルム状のアラミド粒子であり、アラミドパルプとも呼ばれる(特公昭35−11851号公報、特公昭37−5752号公報等参照)。
【0021】
アラミドファイブリッドは、通常の木材パルプと同様に、離解、叩解処理を施し抄紙原料として使用し得ることが広く知られており、抄紙に適した品質を保つ目的でいわゆる叩解処理を施すことができる。この叩解処理は、デイスクリファイナー、ビーター、その他の機械的切断作用を及ぼす抄紙原料処理機器によって実施することができる。この操作に
おいて、ファイブリッドの形態変化は、日本工業規格(JIS)P8121に規定されている濾水度試験方法(フリーネス)でモニターすることができる。本発明において、叩解処理を施した後のアラミドファイブリッドの濾水度は、一般に10〜300cm、特に10〜50cm(カナディアンフリーネス)の範囲内にあることが好ましい。この範囲より大きな濾水度のファイブリッドでは、それから成形されるアラミド薄葉材の強度が低下する可能性があり、10cmよりも小さな濾水度を得ようとすると、投入する機械動力の利用効率が小さくなり、また、単位時間当たりの処理量が少なくなることが多く、さらに、ファイブリッドの微細化が進行しすぎるためいわゆるバインダー機能の低下を招きやすい。したがって、10cmよりも小さい濾水度を得ようとしても、格段の利点が認められない。
【0022】
本発明の用途に対しては、アラミドファイブリッドを叩解処理した後の、光学的繊維長測定装置で測定したときの重量平均繊維長は1mm以下、特に0.7mm以下であることが好ましい。ここで、光学的繊維長測定装置としては、例えば、Fiber Quality Analyzer(Op Test Equipment社製)、カヤニー型測定装置(カヤニー社製)などの測定機器を用いることができる。このような機器においては、ある光路を通過するアラミドファイブリッドの繊維長さと形態が個別に観測され、測定された繊維長は統計的に処理されるが、用いるアラミドファイブリッドの重量平均された繊維長が1mmを越えると、電解液吸液性の低下、部分的な電解質未含浸部分の発生、さらには電気・電子部品の内部抵抗上昇などが起こりやすくなる。
【0023】
フィブリル化されたアラミド
フィブリル化されたアラミドは、アラミド繊維、アラミドファイブリッドなどにせん断力を加えるなどしてフィブリル化したものであり、濾水度は一般に10〜800cm、特に10〜200cm(カナディアンフリーネス)の範囲内にあることが好ましい。この範囲より大きな濾水度のフィブリル化されたアラミドでは電極間の十分な遮蔽性が確保されない可能性があり、反対に、10cmよりも小さな濾水度を得ようとすると、フィブリル化されたアラミドの微細化が進行しすぎるためいわゆるバインダー機能の低下を招きやすい。したがって、このように10cmよりも小さい濾水度を得ようとしても、格段の利点が認められない。
【0024】
フィブリル化されたアラミドは、比表面積が一般に5g/m以上、特に10g/m以上であることが好ましい。比表面積が5g/mよりも小さいとバインダー機能の低下を招きやすい。さらに、フィブリル化されたアラミドは、重量平均繊維長が一般に0.01mm以上7mm未満、特に0.1〜3mmの範囲内であることが好ましい。この範囲より大きな重量平均繊維長のフィブリル化されたアラミドでは抄造時の分散性が悪くなり、アラミド薄葉紙の繊維塊などの局部欠点の原因となる可能性があり、逆に、0.01mmよりも小さな重量平均繊維長を得ようとすると、フィブリル化されたアラミドの微細化が進行しすぎるためいわゆるバインダー機能の低下を招きやすい。フィブリル化されたアラミドの具体的な例としては、デュポン社の「ケブラーパルプ(登録商標)」、帝人トワロン社の「トワロンパルプ(登録商標)」等野商品名で入手することができるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
薄葉材
本発明の薄葉材は、以上に述べたメタ型アラミド短繊維と耐熱多孔質粒子、あるいはこれら2成分とさらにアラミドファイブリッドおよびフィブリル化したアラミドのうちの少なくとも1種から主として構成されるシート状物であり、メタ型アラミド短繊維、耐熱多孔質粒子、アラミドファイブリッドおよびフィブリル化したアラミドの含量、坪量および密度(坪量/厚さ)は厳密に制限されるものではなく、薄葉材の意図する用途などに応じて広い範囲にわたり変えることができる。しかしながら、本発明の薄葉材は、耐熱性の高
いメタ型アラミド短繊維が主成分で且つ耐熱多孔質粒子、アラミドファイブリッド、フィブリル化したアラミドが少量成分となることが多く、特に後述する一対の金属製ロール間にてメタ型アラミドのガラス転移温度以上の温度で高温熱圧加工する場合、メタ型アラミド短繊維含量が大きいほど、低密度の薄葉材の作製が可能で内部抵抗値も低くなる傾向が見られることから、メタ型アラミド短繊維含量は通常30%(重量比)以上、特に35〜50%(重量比)、そして耐熱多孔質粒子、アラミドファイブリッドおよびフィブリル化したアラミドは合計で通常70%(重量比)以下、特に50〜65%(重量比)であることが好ましい。
【0026】
また、薄葉材は、一般に5〜1000μm、特に7〜100μmの範囲内の厚さを有していることが好ましい。5μmよりも厚みが小さい場合、機械特性が低下しセパレータとしての形態保持や製造工程での搬送等取り扱いに問題を生じやすく、逆に1000μmを上回る場合、内部抵抗の増大を招きやすいし、なにより小型高性能の電気・電子部品を製造し難くなる。
【0027】
さらに、薄葉材は、一般に5〜1000g/m、特に5〜30g/mの範囲内の坪量を有することができる。坪量が5g/mより小さい場合、機械強度が不足するため、電解質含浸処理や巻き取りなどの部品製造工程での各種取り扱いで破断を引き起こしやすく、逆に1000g/mより大きい坪量の薄葉材では、厚みの増大や、電解質の含浸・浸透の低下が生じる傾向がみられる。
【0028】
薄葉材の密度は坪量/厚さより算出される値であり、通常0.1〜1.2g/m、特に0.2〜0.5g/mの範囲内の値をとることができる。
【0029】
本発明の薄葉材は、さらに、内部抵抗値(μm)/坪量(g/m)で表される値が9以下、特に8.5以下であることが好ましい。ここで、内部抵抗値とは下式(1)で表される値である。
【0030】

(内部抵抗値)=(電解液の電気伝導度)/{(セパレータに電解液を注入したときの電
気伝導度)×(セパレータの厚み)} 式(1)

式中、(セパレータに電解液を注入したときの電気伝導度)は電解液をセパレータに注
入した状態で2枚の電極に挟み、測定した交流インピーダンスから算出した電気伝導度
である。ここで、電解液とは、溶媒中に電解質が溶解した液体を意味する。
【0031】
上記内部抵抗値の測定において、電解液に使用する溶媒、電解質、電解質の濃度等には特に制限はなく、例えば、溶媒としては、エチレンカーボーネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートエチルメチルカーボネート、ブチレンカーボネート、グルタロニトリル、アジポニトリル、アセトニトニル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、γ―ブチロラクトン、γ―バレロラクトン、スルホラン、3−メチルスルホラン、ニトロエタン、ニトロメタン、リン酸トリメチル、N−メチルオキサゾリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N‘−シメチルイミダゾリジノン、アミジン、水及びその混合物などが挙げられる。
【0032】
また、電解質としては、例えば、イオン性の物質、特に以下のカチオンとアニオンの組み合わせが挙げられる。
1)カチオン:第4級アンモニウムイオン、第4級ホスホニウムイオン、リチウムイオン
、ナトリウムイオン、アンモニウムイオン、水素イオンとその混合物など。
2)アニオン:過塩素酸イオン、ホウフッ化イオン、六フッ化リン酸イオン、硫酸イオン
、水酸化物イオンとその混合物など。
【0033】
また、本発明において、(セパレータに電解液を注入したときの電気伝導度)とは、上記電解液をセパレータに注入した状態で2枚の電極に挟み、測定した交流インピーダンスから算出した電気伝導度を意味する。交流インピーダンスの測定周波数については特に制限はないが、1kHz〜100kHzが好ましい。
【0034】
なお、内部抵抗値(μm)/坪量(g/m)で表される値が9を超える薄葉材は、電気・電子部品の高出力化に支障をきたすという問題点が生じる。
【0035】
薄葉材の製造
以上に述べた如き特性を有する本発明の薄葉材は、一般に、前述したメタ型アラミド短繊維と耐熱多孔質粒子あるいはタ型アラミド短繊維、耐熱多孔質粒子とアラミドファイブリッドおよびフィブリル化したアラミドのうちの少なくとも1種とを混合し、シート化する方法により製造することができる。具体的には、例えば、上記メタ型アラミド短繊維、耐熱多孔質粒子あるいはタ型アラミド短繊維、耐熱多孔質粒子とアラミドファイブリッドおよびフィブリル化したアラミドのうちの少なくとも1種を乾式ブレンドした後に、気流を利用してシートを形成する方法;メタ型アラミド短繊維と耐熱多孔質粒子あるいはタ型アラミド短繊維、耐熱多孔質粒子とアラミドファイブリッドおよびフィブリル化したアラミドのうちの少なくとも1種を液体媒体中で分散混合した後、液体透過性の支持体、例えば網またはベルト上に吐出してシート化し、液体を除いて乾燥する方法などを適用することができるが、これらのなかでも水を媒体として使用する、いわゆる湿式抄造法が好ましく選択される。
【0036】
湿式抄造法では、少なくともメタ型アラミド短繊維と耐熱多孔質粒子、あるいはメタ型アラミド短繊維と耐熱多孔質粒子とアラミドファイブリッドおよびフィブリル化したアラミドのうちの少なくとも1種を含有する単一または混合物の水性スラリーを、抄紙機に送液し分散した後、脱水、搾水および乾燥操作することによって、シートとして巻き取る方法が一般的である。抄紙機としては、例えば、長網抄紙機、円網抄紙機、傾斜型抄紙機およびこれらを組み合わせたコンビネーション抄紙機などが利用することができる。コンビネーション抄紙機での製造の場合、配合比率の異なるスラリーをシート成形し合一することにより複数の紙層からなる複合体シートを得ることができる。ここで、耐熱多孔質粒子は、薄葉材に定着させるために、スプレー方式による添加が好ましい。
【0037】
近年、紙や板紙用の新たな塗工方式としてスプレー方式が提案されており(United States Patent No.6063449)、スプレーノズルとしては、エアレススプレー方式と呼ばれる一流体ノズルや、エアスプレーと呼ばれる二流体ノズルがある。一流体スプレーは、塗工液を加圧して楕円型のスプレーノズルから高速噴射し、噴出液膜が大気と接触して発生するせん断応力によって微細な塗粒が形成され、基材に塗粒が被着して塗膜を生成するという方式である。二流体スプレーは、ノズル先端にエアー用と塗工液用の2つのノズルがあり、低圧で噴霧された塗工液に高圧空気流をぶつけて、その衝撃で塗工液を微細化し、さらに、パターン調整用空気流で塗粒膜の形状をコントロールするという方式である。これらのスプレー塗工方式では、塗工中にニップ部がないために、塗工面と塗工装置の接触によって発生する塗工欠陥が全くなく、また、耐熱多孔質粒子を薄葉材に定着させるためにアクリル系樹脂、カチオン系定着補強剤、高分子凝集剤などの成分を添加する必要がなく、これらの剤がセパレータ中に残留することによる耐電圧の低下などの電気化学的安定性の低下が発生するという問題も生じない。
【0038】
また、本発明の薄葉材には、上記成分以外に、その他の繊維状成分、例えば、ポリフェ
ニレンスルフィド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、セルロース系繊維、PVA系繊維、ポリエステル繊維、アリレート繊維、液晶ポリエステル繊維、ポリエチレンナフタレート繊維などの有機繊維、ガラス繊維、ロックウール、アスベスト、ボロン繊維などの無機繊維ガラス繊維を添加することもできる。これら他の繊維状成分を添加する場合、その配合量は、全繊維成分の合計重量を基準にして50%以下とすることが望ましい。このようにして得られる薄葉材は、例えば、一対の平板間または金属製ロール間にて高温高圧で熱圧することにより、機械強度を向上させることができる。熱圧の条件は、例えば、金属製ロール使用の場合、温度50〜400℃、線圧50〜2000kg/cmの範囲内を例示することができるが、特に、一対の金属製ロール間にてメタ型アラミドのガラス転移温度以上の温度で高温熱圧加工することが好ましい。メタアラミドのガラス転移温度以上で高温熱圧加工することにより、金属ロール間での熱圧時に機械強度が向上し、厚みが減少した後、金属ロール間から開放されたときに薄葉材に存在する余熱によりもとの厚みに戻ろうとする応力が働き、厚みが増加するため、空隙率が高く、内部抵抗値が低い薄葉材を作製することができる。
【0039】
また、加熱操作を加えずに常温で単にプレスだけを行うこともできる。熱圧の際に複数の薄葉材を積層することもできる。上記の熱圧加工を任意の順に複数回行うこともできる。本発明の薄葉材は、その強度をさらに増加させるために、それ自体既知の他のセパレータ(例えば、ポリオレフィン微多孔膜)とそれ自体既知の方法(例えば、上記熱圧加工)で積層した状態で使用することもできる。
【0040】
本発明の薄葉材は、(1)耐熱性,難燃性などの優れた特性を備えていること、(2)高い空隙率を示す耐熱多孔質粒子と熱溶融し難いメタ型アラミド短繊維を含み、高温熱圧では薄葉材の高い空隙率が維持されるため、電極間のイオン種移動性を損なわないこと、(3)空隙構造に由来する電解質の保持機能に優れること、(4)メタ型アラミドの比重が1.4程度と小さく軽量であるなどの優れた特性を有しており、電気・電子部品の導電部材間の隔離板として好ましく用いることができる。
【0041】
かくして、本発明によれば、前述したとおり、本発明のアラミド薄葉材を導電部材間に隔離板として用いて製作した電池、キャパシタ、燃料電池、太陽電池などの電気・電子部品は、電極間の遮蔽性も高く安全性が維持され、また、高い空隙構造とその本質的に高い耐熱性によって、電気自動車等の大電流環境下での使用にも耐え得るものとなる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例を挙げてさらに具体的に説明する。なお、これらの実施例は単なる例示であり、本発明の内容を何ら限定するためのものではない。
【0043】
(測定方法)
(1)シートの坪量、厚みの測定
JIS C2111に準じて実施した。
(2)透気度の測定
王研式透気度計を用いて測定した。一連のシートについては、この時間が長いほど電極間の遮蔽性も高いと言える。
(3)内部抵抗の測定
測定温度は25℃とし、測定には電解液として1M ホウフッ化リチウム エチレンカーボネート/プロピレンカーボネート(1/1重量比)を用いた。
【0044】
参考例
(原料調製)
デュポン社製メタ型アラミド短繊維(ポリメタフェニレンイソフタルアミド短繊維)(
ノーメックス(登録商標))を、長さ6mmに切断し抄紙用原料とした。上記メタ型アラミド繊維のガラス転移温度は275℃である。
【0045】
特公昭35−11851号公報に記載される湿式沈殿機を用いる方法で、ポリメタフェニレンイソフタルアミドのファイブリッドを製造した。これを、離解機、叩解機で処理した。
【0046】
帝人トワロン社の「トワロン1094」を離解機、叩解機で処理し、フィブリル化したアラミドとした。
【0047】
耐熱多孔質粒子として、太陽化学(株)の「TMPS(登録商標)TMPS−4.0」(平均細孔直径4.2nm)をイオン交換水で固形分濃度が1%になるように希釈し、スプレー用液として使用した。
【0048】
実施例1〜3
(薄葉材の製造)
作製したメタ型アラミド短繊維とアラミドファイブリッドまたはフィブリル化したアラミドをおのおの水中で分散しスラリーを作製した。このスラリーを、メタ型アラミド短繊維、アラミドファイブリッドおよびフィブリル化したアラミドが表1に示す各実施例の配合比率となるようにして混合し、タッピー式手抄き機(断面積325cm)にてシート状物を作製した。次いで、表1に示す各実施例の配合比率になるように、希釈したスプレー用液を二流体スプレー器(ノズル径;1mm)に投入し、気体と液体混合後、圧力0.3kgf/cmで前記シート状物に吹きつけた後、温度100℃で30分間乾燥を実施した。次いで、これを金属製カレンダーロールにより下記表1に示した条件で熱圧加工し、薄葉材を得た。
【0049】
このようにして得られた薄葉材の主要特性値を下記表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例1〜3の薄葉紙は、内部抵抗が低く、イオン種透過性も十分であると考えられ、大電流を要求される、電気自動車中の電池、キャパシタ、燃料電池、太陽電池等の電気・電子部品中の導電部材間の隔離板として有用である。
【0052】
比較例1、2
(薄葉材の製造)
調製したメタ型アラミド短繊維とアラミドファイブリッドをおのおの水中で分散しスラリーを作製した。このスラリーを、メタ型アラミド短繊維とアラミドファイブリッドが下記表2に示す各比較例の配合比率となるようにして混合し、湿式抄造法にてシート状物を作製した。次いで、これを金属製カレンダーロールにより下記表2で示す条件で熱圧加工し、薄葉材を得た。
【0053】
このようにして得られた薄葉材の主要特性値を下記表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
比較例1の薄葉材は、上記表2に示すように、内部抵抗は低いが、透気度が小さく、電極間の遮蔽性が十分ではないと考えられる。
【0056】
また、比較例2の薄葉材は、バインダーとして機械強度を向上させるファイブリッドの含量を増加したので、透気度の値はやや大きくなったが、ファイブリッドがイオン種の透過性を妨げるため、内部抵抗が高くなった。このような薄葉材は、大電流を要求される、電気自動車中の電池、キャパシタ、燃料電池、太陽電池等の電気・電子部品中の導電部材間の隔離板として有用ではないと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタ型アラミド短繊維と耐熱多孔質粒子を含んでなることを特徴とする薄葉材。
【請求項2】
アラミドファイブリッドおよびフィブリル化したアラミドのうち少なくとも1種をさらに含んでなる請求項1に記載の薄葉材。
【請求項3】
メタ型アラミド短繊維の含量が30重量%以上である請求項1または2に記載の薄葉材。
【請求項4】
内部抵抗値(μm)/坪量(g/m)で表される値が9以下であり、ここで、内部抵抗値は下式(1)

(内部抵抗値)=(電解液の電気伝導度)/{(セパレータに電解液を注入したときの電
気伝導度)×(セパレータの厚み)} 式(1)

式中、(セパレータに電解液を注入したときの電気伝導度)は電解液をセパレータに注
入した状態で2枚の電極に挟み、測定した交流インピーダンスから算出した電気伝導度
である、
で表される値である請求項1〜3のいずれか1項に記載の薄葉材。
【請求項5】
メタ型アラミド短繊維を湿式抄造法でシート化し、その過程の任意の時点で流体スプレー方式により耐熱多孔質粒子を添加し、得られるシートを一対の金属製ロール間にてメタ型アラミドのガラス転移温度以上の温度で高温熱圧加工することを特徴とする請求項1、3または4に記載の薄葉材の製造方法。
【請求項6】
メタ型アラミド短繊維とアラミドファイブリッドおよびフィブリル化したアラミドのうち少なくと1種とを水中で混合し、湿式抄造法でシート化し、その過程の任意の時点で流体スプレー方式により耐熱多孔質粒子を添加し、得られるシートを一対の金属製ロール間にてメタ型アラミドのガラス転移温度以上の温度で高温熱圧加工することを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の薄葉材の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の薄葉材を導電部材間の隔離板として使用してなる電気・電子部品。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の薄葉材を導電部材間の隔離板として使用してなる電池。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の薄葉材を導電部材間の隔離板として使用してなるキャパシタ。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の薄葉材を導電部材間の隔離板として使用してなる燃料電池。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の薄葉材を導電部材間の隔離板として使用してなる太陽電池。

【公開番号】特開2009−295483(P2009−295483A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149386(P2008−149386)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(596001379)デュポン帝人アドバンスドペーパー株式会社 (26)
【Fターム(参考)】