説明

薬剤散布車の散布制御装置

【課題】左右のブームをそれぞれ昇降可能に備えて薬剤散布する際の機体旋回後の散布再開に伴う作業者の負荷軽減を可能とする薬剤散布車の散布制御装置を提供する。
【解決手段】薬剤散布車の散布制御装置は、直線散布走行から旋回走行により隣接域に移行して逆方向の直線散布走行を開始する薬剤散布車に薬剤散布用の左右のブーム(9b,9b)を昇降可能に備え、これら左右のブーム(9b,9b)を低位散布のための作業位置と高位待避のための非作業位置にそれぞれ切替え可能に構成され、直線散布走行中に所定の旋回判定舵角以上となる1回目の舵角検出によってその旋回外側のブーム(9b)を非作業位置に切替え制御し、これに続く同側の旋回判定舵角以上となる2回目の舵角検出によって旋回終了と判定し、この旋回終了の判定によって上記ブーム(9b)を作業位置に切替える制御処理を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤散布用の左右のブームそれぞれを昇降可能に備えるとともに、走行位置センサに基づいて走行する薬剤散布車の散布制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のように、薬剤散布用の左右のブームそれぞれを昇降可能に備えるとともに、走行位置センサによって設定経路を走行する自律走行式薬剤散布車が知られている。この薬剤散布車は、GPSユニットにGPS電波を受けて得られる機体位置情報に基づき、設定された往復経路に沿って隣接域に順次移行することにより、隣接する薬剤散布領域との重複や隙間を招くことなく、圃場全面を一様な散布密度で薬剤散布走行することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−8187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、往路行程から隣接の復路行程に移行する圃場端における機体の方向転換の際の旋回走行では、機体の両側方に長く延びる左右のブームの一方の旋回外側ブームを折り畳むべく、旋回開始時点において、低位散布のための作業位置から上昇方向の傾動動作によって高位待避のための非作業位置にブームを上昇させ、機体旋回の終了時点において、再び、非作業位置からの下降方向の傾動動作によって作業位置まで下降する操作を要し、薬剤散布のためのポンプその他の関連操作および散布再開位置の確認作業等を合わせた方向転換に伴う煩雑な作業が圃場端の旋回の都度、繰り返して要求されることから、作業者の過大な負荷によって散布作業の効率低下を招くという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、左右のブームをそれぞれ昇降可能に備えて薬剤散布する際の機体旋回後の散布再開に伴う作業者の負荷軽減を可能とする薬剤散布車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、直線散布走行から旋回走行により隣接域に移行して逆方向の直線散布走行を開始する薬剤散布車に薬剤散布用の左右のブーム(9b,9b)を昇降可能に備え、これら左右のブーム(9b,9b)を低位散布のための作業位置と高位待避のための非作業位置にそれぞれ切替え可能に制御する薬剤散布車の散布制御装置において、直線散布走行中に所定の旋回判定舵角以上となる1回目の舵角検出によってその旋回外側のブーム(9b)を非作業位置に切替え制御し、これに続く同側の旋回判定舵角以上となる2回目の舵角検出によって旋回終了と判定し、この旋回終了の判定によって上記ブーム(9b)を作業位置に切替える制御処理を備えることを特徴とする。
【0007】
上記構成の散布制御装置により、薬剤散布車が直線散布走行によって圃場端に近付いた時点で所定の転舵操作をすると旋回外側ブームが上昇し、畦縁に沿って走行しつつ隣接域の逆方向の直線散布走行開始位置に合わせるように再度同様の転舵を行うと、ブームが作業位置に下降制御されることから、転舵動作の検出による旋回開始と旋回終了に連動してブームが付帯制御される。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1の構成において、前記旋回終了の判定は、1回目の旋回判定舵角以上の舵角検出の時点から所定の旋回基準時間以上の経過の後の2回目の旋回判定舵角以上の舵角検出によることを特徴とする。
一定時間の旋回走行後における2回目の同様の旋回操作によって旋回終了の判定がなされる。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1の構成において、前記旋回終了の判定は、1回目の旋回判定舵角以上の舵角検出の位置から所定の旋回基準距離以上の走行を前提条件とする2回目の旋回判定舵角以上の舵角検出によることを特徴とする。
一定距離の旋回走行後における2回目の同様の旋回操作によって旋回終了の判定がなされる。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3の構成において、1回目の旋回判定舵角以上の舵角検出の時点から所定の旋回限界時間の経過までの間に前記旋回終了の条件に該当しない場合は、旋回外側のブーム(9b)を非作業位置に保持する制御処理を備えることを特徴とする。
一定時間内の旋回走行で2回目の同様の旋回操作がされなかった場合は、自動昇降適用時でも上位のブームがそのまま保持される。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項3の構成において、1回目の旋回判定舵角以上の舵角検出の位置から所定の旋回限界距離の走行までの間に前記旋回終了の条件に該当しない場合は、旋回外側のブーム(9b)を非作業位置に保持する制御処理を備えることを特徴とする。
一定距離内の旋回走行で2回目の同様の旋回操作がされなかった場合は、自動昇降適用時でも上位のブームがそのまま保持される。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明により、薬剤散布車は、直線散布走行によって圃場端に近付いた時点で所定の転舵操作をすると連動して旋回外側ブームが上昇し、次いで畦縁に沿って走行しつつ隣接域の逆方向の直線散布走行開始位置に合わせるように再度同様の転舵を行うと連動してブームが作業位置に下降制御されることから、旋回開始と旋回終了についての特段の操作および特段の部材を要することなく、圃場端における機体旋回に伴う作業者の負荷を軽減することができる。
【0013】
請求項2に係る発明により、請求項1の効果に加え、所定の旋回基準時間以上の経過による2回目の転舵によって旋回終了の判定がなされることから、旋回終了の判定精度を向上することができる。
【0014】
請求項3に係る発明により、請求項1の効果に加え、所定の旋回基準距離以上の走行による2回目の転舵によって旋回終了の判定がなされることから、旋回終了の判定精度を向上することができる。
【0015】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3の効果に加え、一定時間内の旋回走行で2回目の同様の旋回操作がされなかった場合は、自動昇降適用時であっても上位のブームがそのまま保持されることから、散布作業を終了する等の場合について、その後の旋回操作によるブームの誤動作を防止することができる。
【0016】
請求項5に係る発明により、請求項1乃至請求項3の効果に加え、一定距離内の旋回走行で2回目の同様の旋回操作がされなかった場合は、自動昇降適用時でも上位のブームがそのまま保持されることから、自動下降機能の適用下において散布作業を終了する等の場合に、その後の旋回操作によるブームの誤動作を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】乗用型防除機のブーム収納時の側面図(a)および平面図(b)
【図2】乗用型防除機の散布時の正面図
【図3】圃場における乗用型防除機の旋回経路の平面図
【図4】散布制御のシステム構成ブロック図
【図5】制御指示部の一例のパネル正面の見取図
【図6】制御指示部の別例のパネル正面の見取図
【図7】GPSによる機体位置情報の入力構成例
【図8】ブーム自動下降制御のフローチャート
【図9】旋回未了時の取扱いのフローチャート
【図10】旋回未了時の別の取扱いのフローチャート
【図11】GPS情報による防除システムの情報系統図(a)およびその詳細構成図(b)
【図12】GPS情報の処理のフローチャート
【図13】旋回操作の判定処理のフローチャート(a)および別の処理のフローチャート(b)
【図14】旋回に伴うブームの散布制御のフローチャート
【図15】散布走行における車速算出のフローチャート
【図16】車速パルスカウントに基づく車速算出のフローチャート
【図17】GPS速度データの異常時の車速算出のフローチャート
【図18】GPS速度データが大きい場合の車速算出のフローチャート
【図19】GPS速度データが大きい場合の別の車速算出のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0018】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明を適用した薬剤散布車の一例である乗用型防除機のブーム収納時の側面図(a)および平面図(b)である。
【0019】
この薬剤散布車1は、前後輪操舵式の左右の前輪3,3と左右の後輪4,4によって圃場走行可能に支持した機体に、中央配置の運転席6と、定量吐出部を備えた後部配置の薬剤タンク5と、機体前端のブーム9aおよびその両側方に展開可能な左右のブーム9b,9b、および散布制御システムを構成する後述の各種センサと制御手段であるコントローラCを備えて構成される。
【0020】
散布作業における左右のブーム9b,9bの取扱いは、散布走行時の正面図を図2に示すように、機体の両側方の低位散布のための作業位置に張出し、また、圃場端における旋回経路の平面図を図3に示すように、圃場端近傍までの散布を確保するために、旋回外側のブーム9bを高位待避のための非作業位置まで上昇し、畦縁に沿う直線部を挟む2回の旋回部からなる旋回走行を行い、旋回終了時に再びブーム9bを下降して散布終了位置に合うように散布を再開し、このようなブーム9b,9bの取扱いを前提として散布制御システムを構成する。
【0021】
散布制御システムについて詳細に説明すると、図4のシステム構成ブロック図に示すように、コントローラCによる制御対象として、ブーム9b,9bの伸縮駆動部11および昇降駆動部12、薬剤散布用のポンプ13、報知用のブザー14および表示具15の駆動部を含む各機器を接続し、また、制御条件として、ブーム昇降制御の自動昇降設定部21を含む散布設定部、機器制御用として、GPSユニット22、操舵角センサ23、車速センサ24、ブームストロークセンサ25等の各種センサの信号を入力する。
【0022】
散布設定用の操作パネル31は、その一例のパネル正面の見取図を図5に示すように、表示切換え式の散布設定スイッチとともに、散布設定に沿って自動散布するための自動スイッチ32を設けて構成する。また、別の散布設定部41の構成例を図6に示すように、表示切換えによって多様な表示設定を可能とするLCD表示部42とともに散布設定に沿って自動散布するための自動スイッチ43を設けて構成する。
【0023】
GPSユニット22による機体位置センサについては、図7に示すように、アンテナ22aに受けたGPS電波によって特定される機体の位置情報に基づき、位置データと速度データを通信によってコントローラCに入力し、このGPSユニット22と車輪回転に基づく車速センサ24から得られる速度情報を車速とする。このGPSユニット22からの情報に基づき自律走行用の選択スイッチにより自律走行を行ってもよいし、GPSユニット22からの情報を画面上に表示して走行経路を表示し、その走行経路に従って走行するように手動運転する構成としてもよい。
【0024】
散布制御システムは、GPSユニット22と車速センサ24から得られる車速に応じて設定散布量から設定圧力を計算して車速連動の散布量制御を行い、さらに、自動昇降設定部21にはブーム9b,9bの自動上昇、自動下降の機能を備え、自動上昇は旋回開始と連動して旋回外側のブーム9bを上昇させ、自動下降は非作業位置にある旋回外側のブーム9bを旋回終了と連動して作業位置まで下降させる。
【0025】
この自動昇降制御の詳細は、図8のフローチャートに示すように、散布稼動の有無を判定する第1の処理ステップ(以下において「S1」の如く略記する。)により該当する場合において、圃場端の旋回として判定するための所定の旋回判定舵角以上の舵角検出(S2a,S2b)を待ってその旋回方向を判定(S3)し、続いてブーム上昇とそのフラグセット(S4a,S4b)を行い、必要により所定の旋回基準時間の経過(S5a〜S5c)を置いた上で、旋回判定舵角以上の2回目の舵角検出(S6a,S6b)を待ってその旋回方向を判定(S7a,S7b)し、これら前後2回の旋回方向の比較により同一の場合にブーム下降とフラグリセット(S8a,S8b)を行うように制御処理を構成する。
【0026】
上記制御処理により、薬剤散布車1は、走行位置センサ22によって設定経路を散布走行する場合に、散布量設定値と車速等により計算した設定圧力になるように管内に供給する薬剤量をモータ駆動による開閉弁により制御し、ブーム制御については、ブーム9b,9bに装着したブームストロークセンサ25と本体に装着したリンク傾斜センサ26bおよびリンク角速度センサ26aの値により、ブーム9b,9bが水平になるようにブーム水平バルブ16を制御する。
【0027】
また、選択スイッチにより旋回時にブームを自動昇降する場合は、圃場端においては、直線散布走行によって圃場端に近付いた時点で1回目の旋回判定舵角以上の転舵により旋回外側ブーム9bが自動上昇され、さらに畦縁に沿って走行した後、隣接域の逆方向の直線散布走行開始位置に合わせるようにして2回目の同側の旋回判定舵角以上の転舵を行うと、その時点を旋回終了として旋回外側ブーム9bが作業位置まで下降される。
【0028】
このように、転舵動作の検出により旋回の終了のタイミングを確実に判定することができ、その結果、旋回走行終了の際の特段の操作および終了判定のための特段の部材を要することなく、隣接域の逆方向の直線散布走行開始とともに両側のブーム9b,9bによる薬剤散布が可能となる。
【0029】
この場合において、2回目の旋回判定舵角以上の舵角検出による旋回終了の判定において、1回目の旋回判定舵角以上の舵角検出の時点から所定の旋回基準時間以上の経過(S4a〜S4c)を条件とすることにより旋回終了の判定精度を向上することができる。また、旋回基準時間の代わりに1回目の旋回判定舵角以上の舵角検出の位置から所定の旋回基準距離以上の走行を条件とすることによっても同様の効果を得ることができる。
【0030】
次に、散布走行作業の終了に関する制御処理について説明する。
図9の旋回未了時の取扱いのフローチャートに示すように、1回目の旋回判定舵角以上の舵角検出による旋回開始の時点から走行時間のカウントを開始(S11)して2回目の旋回判定舵角以上の舵角検出の判定(S12a,S12b)を行い、この舵角検出に至らぬまま1回目の旋回判定舵角以上の舵角検出の時点からの所定の旋回限界時間の経過判定(S13)によりその条件が成立した場合は、旋回外側のブーム(9b)の上位保持を継続するように、走行時間カウントの停止およびクリアを行う(S14a)とともに、ブームの上昇フラグをリセットすること(S14b)により、旋回未了時の制御処理を設ける。
【0031】
このように、自動昇降機能の適用下において、次の散布開始位置への2回目の転舵を行うことなく散布走行を終了する場合は、旋回開始後においてブーム9bが上昇位置のまま旋回終了の操作が為されないことから、所定の旋回限界時間の経過によってブーム9bを上昇位置に強制保持するように旋回未了時の取扱いに移行することにより、その後の旋回操作によるブームの下降を防止することができる。また、旋回限界時間による判定の代わりに1回目の旋回判定舵角以上の舵角検出の位置からの所定の旋回限界距離の機体走行を判定基準とすることによっても同様の効果を得ることができる。
【0032】
また、旋回未了時の別の制御例として、図10のフローチャートに示すように、2回目の転舵についての方向判定(S22a〜S23b)により転舵方向が同一でない場合を旋回未了としてブーム上昇フラグリセット(S25)のみを行う制御処理を構成することにより、逆方向転舵によりそれ以降の旋回操作によるブーム下降を回避することができる。そのほか、自動昇降設定の判定(S21a,S21b)によってオフの場合を旋回未了としてブーム上昇フラグリセット(S25)のみを行う制御処理を構成することにより、散布作業終了後の自動昇降設定の解除によりそれ移行の同一方向の転舵によってもブーム下降(S22)を回避することができる。
【0033】
(GPS情報)
次に、GPS情報の取扱いについて説明する。
薬剤散布に必要な機体の走行速度について、図11の防除システムの情報系統図(a)に示すように、GPS電波によって機体位置を検出するGPSユニット22からGPS情報が本機コントローラCに送られ、これと並行して車輪回転を検出する車速センサ24から走行情報が本機コントローラCに送られ、これらGPS情報と走行情報とによって得られた車速に基づいて防除機コントローラSが散布制御を行う。
【0034】
この場合において、GPSユニット22と本機コントローラCの接続部は、図11の詳細構成図(b)に示すように、コネクタのGPS側51aとコントローラ側51bとが接続状態でオンとなる接続判定信号52を本機コントローラCに送るように構成する。
【0035】
本機コントローラCでは、GPSユニット22の接続時にオンとなる上記接続判定信号52に基づいてGPSユニットの接続を簡単かつ確実に判定することができ、GPSユニット22によるGPS車速と車速センサ24による計算車速の使用による速度制御の区別を確実に行うことができる。
【0036】
また、図12のGPS情報の処理のフローチャートに示すように、GPSユニット22から速度情報の読取り(S31)を行ってデータの有無を判定(S32)し、データ検出ができないときは、GPS異常フラグをセットして防除機コントローラSに送信(S33a,S33b)することにより、本機コントローラCでGPSユニット22からのデータ取得ができないときに、防除機コントローラSにおいて異常に対応した確実な薬剤散布処理をすることができる。
【0037】
(旋回判定)
次に、旋回操作の判定処理については、図13のフローチャート(a)に示すように、車速センサを読込んで車速計算を行い(S41a,S41b)、旋回操作の判定基準となる旋回判定角θ1を車速に応じて設定(S42)し、この旋回判定角θ1は車速の増減と逆に増減するように、すなわち、車速が速いときに小さく、車速が遅いときに大きくなるように定め、舵角が旋回判定角θ1以上になるのを待ち(S43,S44)、ブーム上昇等の制御を行う。このように、旋回動作と対応して旋回時の外側のブームを自動上昇するとき、旋回を判定するステアリング切れ角を車速に応じて変更することにより、車速に応じた適切な旋回判定を行うことができる。
【0038】
また、別の旋回操作の判定処理例として、図13のフローチャート(b)に示すように、検出した操舵角を前回の値と比較して操作速度を算出(S51a〜S51c)し、操作速度の増減と逆に判定角を増減補正して旋回判定角θ1を設定(S52a,S52b)し、この旋回判定角θ1によって旋回操作の有無を判定する。このように、旋回判定のためのステアリング切れ角をステアリングの操作速度によって補正することにより、ステアリングの操作速度に応じた適切な旋回判定を行うことができる。
【0039】
(散布制御)
旋回に伴うブームの散布制御は、図14のフローチャートに示すように、旋回開始の判定によりブームの上昇(S61)を行うときに、同時にその散布を停止(S62)する制御処理を構成することにより、旋回動作に入ることによって上昇させた外側のブーム9bの散布が上昇と同時に中断されるので操作性を向上することができる。
【0040】
また、旋回開始時にブーム上昇と散布停止を行った後の旋回終了判定(S63a〜S64b)で該当する場合に、ブーム下降(S65)と同時の散布開始(S66)によって散布を再開するように制御処理を構成する。このように、旋回で上昇させた外側のブーム9bについて、旋回終了時の下降と同時に散布が再開されることから、散布再開について操作性を向上することができる。
【0041】
(車速処理)
散布走行における車速算出は、図15のフローチャートに示すように、走行開始からの一定時間は、GPS車速データの読込み毎に計算した値を実車速とし(S71a〜S71d)、一定時間の経過後の走行中の実車速は速度データから移動平均処理(S72a〜S73b)により算出した車速に基づいて散布調節するように制御処理を構成する。このように、走行開始からの一定時間に限り1回ごとのGPS車速データを実車速とすることにより、走行開始時の実車速の変化遅れを防止するとともに、散布中の実車速の変動を抑えることができる。
【0042】
つぎに、車速パルスカウントに基づく車速算出については、図16のフローチャートに示すように、走行中の実車速を速度データから移動平均によって算出する際に、その車速パルスのカウント値のチェック(S81)によって前回よりカウント値が一定割合低下したときは、読込んだ1回のGPS速度データを実車速(S82)とする制御処理を構成する。
【0043】
このように、GPS車速データを読込んでGPS車速を計算し、次いで読込んだ車速パルスが一定割合低下している場合は、計算したGPS車速を実車速とすることにより、散布中の実車速の変動を抑えつつ、走行停止時の実車速変化遅れを防止することができる。
【0044】
次に、GPS速度データの車速算出は、図17のフローチャートに示すように、散布中の車速パルスカウント値が一定値以上ある場合(S91〜S93)に、GPSデータの判定(S94〜S96)によって一定車速以下であれば前回の値を実車速とし(S97)、このような状況が一定時間継続した時はGPS車速異常の判定(S98a,S98b)を行う制御処理を構成する。
【0045】
このように、車速パルスのカウントが一定値以上あるときに、読込んだGPSデータから計算したGPS車速が一定値以上でないときは前回の値を実車速とし、その状態が一定時間継続したらGPS車速異常とすることにより、GPS車速データが変動しても実車速検出値への影響を抑えることができ、そのような状態が継続すれば異常としてオペレータに知らせることができる。
【0046】
次に、GPS速度データが大きい場合の車速算出は、図18のフローチャートに示すように、車速パルスによる計算車速に一定値を乗じた値よりGPS速度データが大きいとき(S101〜S106)は、前回の値を実車速(S107)とし、その状態の一定時間継続によりGPS車速異常の判定(S108,S109)を行う制御処理を構成する。
【0047】
詳細には、車速パルスをカウントして判定車速V1を算出し、読込んだGPS速度データから計算したGPS車速VGが判定車速V1より大きいときに実車速を前回の値とし、その状態が一定時間継続した場合にGPS異常と判定する。
【0048】
このように、車速パルスによる計算車速に一定値を乗じた値よりGPS車速データが大きいときは実車速を前回の値とすることでGPS速度データが変動しても実車速検出値への影響を抑えることができ、その継続を異常と判定してオペレータに知らせることができる。
【0049】
また、GPS速度データが大きい場合の別の車速算出例として、図19のフローチャートに示すように、車速パルスをカウントして判定車速V1を算出(S111〜S113)し、読込んだGPS速度データから計算したGPS車速VGと判定車速V1の比較チェック(S114〜S116)により、GPS車速VGが判定車速V1より大きいときに、平均車速を算出するデータをスリップ率を補正して算出した補正車速Vhとする(S117,S118)。
【0050】
このように、走行中の実車速を速度データから移動平均処理により算出し、その車速パルスによる計算車速に一定値を乗じた値よりGPS速度データが大きいときはGPS速度データを計算車速に置き換えて移動平均算出を行うことにより、GPS速度データが変動しても実車速検出値への影響を抑えることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 薬剤散布車
9a ブーム
9b ブーム
21 自動昇降設定部
22 GPSユニット
23 操舵角センサ
24 車速センサ
32 自動スイッチ
41 散布設定部
42 表示部
43 自動スイッチ
C 本機コントローラ
S 防除機コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線散布走行から旋回走行により隣接域に移行して逆方向の直線散布走行を開始する薬剤散布車に薬剤散布用の左右のブーム(9b,9b)を昇降可能に備え、これら左右のブーム(9b,9b)を低位散布のための作業位置と高位待避のための非作業位置にそれぞれ切替え可能に制御する薬剤散布車の散布制御装置において、
直線散布走行中に所定の旋回判定舵角以上となる1回目の舵角検出によってその旋回外側のブーム(9b)を非作業位置に切替え制御し、これに続く同側の旋回判定舵角以上となる2回目の舵角検出によって旋回終了と判定し、この旋回終了の判定によって上記ブーム(9b)を作業位置に切替える制御処理を備えることを特徴とする薬剤散布車の散布制御装置。
【請求項2】
前記旋回終了の判定は、1回目の旋回判定舵角以上の舵角検出の時点から所定の旋回基準時間以上の経過の後の2回目の旋回判定舵角以上の舵角検出によることを特徴とする請求項1記載の薬剤散布車の散布制御装置。
【請求項3】
前記旋回終了の判定は、1回目の旋回判定舵角以上の舵角検出の位置から所定の旋回基準距離以上の走行を前提条件とする2回目の旋回判定舵角以上の舵角検出によることを特徴とする請求項1記載の薬剤散布車の散布制御装置。
【請求項4】
1回目の旋回判定舵角以上の舵角検出の時点から所定の旋回限界時間の経過までの間に前記旋回終了の条件に該当しない場合は、旋回外側のブーム(9b)を非作業位置に保持する制御処理を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の薬剤散布車の散布制御装置。
【請求項5】
1回目の旋回判定舵角以上の舵角検出の位置から所定の旋回限界距離の走行までの間に前記旋回終了の条件に該当しない場合は、旋回外側のブーム(9b)を非作業位置に保持する制御処理を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の薬剤散布車の散布制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−170416(P2012−170416A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37128(P2011−37128)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】