説明

薬液供給装置

【課題】薬液を高精度で吐出することができる薬液供給装置を提供する。
【解決手段】薬液供給装置10aは薬液タンク25内の薬液を塗布ノズル27から吐出させるために使用される。薬液供給装置10aはポンプケース11とシリンダ12とが一体となった合体部材13を有し、ポンプ部材である可撓性チューブ15はポンプケース11に設けられており、その内側はポンプ室16となっており外側はポンプ側駆動室17となっている。シリンダ12にはピストン31が組み付けられ、モータ49によりピストン31を往復動すると、ポンプ室16は膨張収縮する。ピストン31とシリンダ12との間の隙間はダイヤフラム61により覆われており、ダイヤフラム61の内部はシール空間62となっている。これにより、ピストン31とシリンダ12との間から漏れた非圧縮性媒体はシール空間62に入り込み外部には漏出しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフォトレジスト液等の薬液を定量吐出する薬液供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハやガラス基板等の表面には、フォトリソグラフィ工程およびエッチング工程により微細な回路パターンが作り込まれる。フォトリソグラフィ工程ではウエハやガラス基板の表面にフォトレジスト液等の薬液を塗布するために薬液供給装置が使用されており、容器内に収容された薬液はポンプにより吸い上げられてフィルタ等を通過してノズルからウエハ等の被塗布物に塗布される。塗布される薬液の中にゴミ等の粒子つまりパーティクルが混在するとそれが被塗布物に付着し、パターン欠陥を引き起こして製品の歩留まりを低下させる。容器内の薬液がポンプ内に滞留すると変質し、変質した薬液がパーティクルとなる場合があるので、薬液を吐出するポンプは滞留がないことが求められる。
【0003】
薬液を吐出するポンプとしては、薬液が流入する膨張収縮室とポンプ室とを弾性変形自在のダイヤフラムやチューブ等の仕切り膜により仕切るようにしたものが使用されている。ポンプ室に間接液つまり非圧縮性媒体を充填し仕切り膜を介して薬液を加圧するようにしており、非圧縮性媒体の加圧方式には、特許文献1に記載されるようにベローズタイプのものと、特許文献2に示されるようにピストンを用いたシリンジタイプとがある。
【特許文献1】特開平10−61558号公報
【特許文献2】米国特許第5167837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非圧縮性媒体によりダイヤフラムやチューブを弾性変形させてポンプ動作を行うようにすると、ポンプの膨張収縮室内での薬液の滞留を防止することができ、薬液の滞留に起因したパーティクルの発生を防止できる反面、非圧縮性媒体がポンプの性能を決定する重要な役割を担うことになる。つまり、非圧縮性媒体の中に外部から空気が入り込むとマクロ的には非圧縮性媒体の非圧縮性は失われ、ベローズやピストンの移動を忠実にダイヤフラムやチューブに伝達することができなくなり、ベローズやピストンの移動ストロークと薬液の吐出量とが対応しなくなる。また、非圧縮性媒体が漏れた場合にも同様にベローズ等の移動ストロークと薬液の吐出量とが対応しなくなり、高精度に薬液を吐出することができなくなる。
【0005】
上述したシリンジタイプのポンプにおいては、通常、シリンダにピストンの外周面と接触するシール材を設け、ピストンの先端面側の駆動室内とピストン基端面側の外部との間をシールするようにしており、ピストンはシール材を境に非圧縮性媒体がある部分と外部との間を往復動することになる。このため、非圧縮性媒体がピストンの外周面に付着した状態で外部まで露出することがある。付着した非圧縮性媒体は薄い膜状となって外周面とシール材との間に入り込むので、シール材とピストン外周面との直接接触を回避して潤滑剤としての役割を果たすことになる反面、外部に露出した非圧縮性媒体は一部が少しずつ蒸発したり、乾燥したりすることもあってピストン表面から消失し、非圧縮性媒体の量が減少することになる。また、外部に露出した非圧縮性媒体が揮発すると、ピストン外周面には潤滑剤として機能する非圧縮性媒体が消失して油膜切れ状態となるので、シール材が直接ピストン外周面に接触してシール材の摩耗が促進されることになる。
【0006】
仕切り膜により仕切られたポンプ室を膨張させて内部に容器内の薬液を吸入するためにピストンを後退移動させると、非圧縮性媒体が負圧状態となるので、外部の周囲空気がピストン外周面とシリンダの内周面との間から非圧縮性媒体の内部に入り込むことがある。この現象は、ピストンの外周面に摺動接触するシール材が磨耗してシール性が低下すると顕著になり、ピストンにより非圧縮性媒体に大きな負圧を印加させた場合も同様である。
【0007】
これに対し、上述したベローズタイプのポンプは、摺動面に接触するシール材は使用されていないので、非圧縮性媒体が充填されたポンプ室や駆動室の密閉性は高いという利点がある。しかし、ベローズタイプはシリンジタイプに比較して非圧縮性媒体に加えられる圧力は低い。例えば、レジストをフィルタを介してノズルに吐出する場合、フィルタの流通抵抗が大きいことによりポンプ室の圧力が高くなる。ベローズを駆動したときに非圧縮性媒体の圧力は高くなり、ベローズが僅かに膨張収縮することがあり、膨張収縮するとベローズの移動ストロークと薬液の吐出量とが高精度に対応しなくなる。
【0008】
本発明の目的は、薬液を高精度で吐出することができる薬液供給装置を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、ピストンとシリンダとの間から非圧縮性媒体が漏出しないようにした薬液供給装置を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、ピストンとシリンダとの間をシールするシール材に非圧縮媒体の膜を介在させてシール材の潤滑性を向上し得る薬液供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の薬液供給装置は、液体流入口および流出口に連通するポンプ室と駆動室とを仕切る弾性変形自在の仕切り膜が設けられたポンプと、前記駆動室に非圧縮性媒体を給排するピストンが往復動自在に組み付けられるシリンダと、前記ピストンを直線方向に往復動し、前記非圧縮性媒体を介して前記ポンプ室を膨張収縮する駆動手段と、前記ピストンと前記シリンダとの間に設けられ、前記ピストンの外周面と前記シリンダの内周面との摺動部に連なるとともに非圧縮性媒体が封入されるシール空間を形成する弾性変形自在のダイヤフラムとを有することを特徴とする。
【0012】
本発明の薬液供給装置は、前記シール空間に連通し、前記ピストンの往復動時における前記シール空間の容積変化に追従して非圧縮性媒体が流入しかつ排出される膨張収縮室を形成する媒体給排部を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の薬液供給装置は、前記ポンプを構成するポンプケースと前記シリンダとを有する合体部材に、前記仕切り膜により仕切られたポンプ側駆動室と、前記シリンダに形成されたピストン側駆動室と、前記ポンプ側駆動室と前記ピストン側駆動室とを連通させる連通孔とを形成することを特徴とする。
【0014】
本発明の薬液供給装置は、前記ダイヤフラムの中央部を前記ピストンの突出部に装着し、前記ダイヤフラムの外周部を前記シリンダに装着し、前記ピストンの突出部の外側に前記シール空間を形成することを特徴とする。
【0015】
本発明の薬液供給装置においては、前記仕切り膜はチューブであることを特徴とする。
【0016】
本発明の薬液供給装置においては、前記仕切り膜はダイヤフラムであることを特徴とし、前記シリンダに取り付けられるポンプケースにより前記ダイヤフラムを前記シリンダに装着し、前記ダイヤフラムにより前記ポンプ室と前記駆動室とを仕切ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、非圧縮性媒体が充填される駆動室をピストンにより膨張収縮させてポンプ室を非圧縮性媒体を介して膨張収縮させるようにしたので、ベローズにより非圧縮性媒体を加圧する場合よりも非圧縮性媒体に高い圧力を加えることができる。これにより、ポンプ室の膨張収縮時にポンプ室に高い流通抵抗が加わっても薬液を供給することができる。
【0018】
ピストンとシリンダとの間に設けられたダイヤフラムにより、ピストンの外周面とシリンダの内周面との摺動部に連なるシール空間が形成されており、このシール空間には非圧縮性媒体が封入されている。このようにシール空間を形成するためのダイヤフラムは摺動部を有していないので、駆動室をピストンによって加圧することによりピストンとシリンダとの摺動部から内部の非圧縮性媒体が漏出してもその非圧縮性媒体はシール空間内に流入することになり、装置の外部には非圧縮性媒体が漏出することが防止される。
【0019】
このように、ピストン外周面とシリンダ内周面との間の摺動部がシール空間に連なっているので、ピストンとシリンダとの間をシールするシール材を境としてこれの軸方向両側に非圧縮性媒体が付着して残ることになり、シール材には薄膜状となって非圧縮性媒体が付着し、シール材の潤滑性が高められ、シール材の摩耗が防止される。
【0020】
駆動室を膨張させる方向にピストンを駆動することにより駆動室の圧力が外部の圧力よりも低くなったことに起因してシール空間内の非圧縮性媒体が駆動室内に入り込んでも、シール空間内には空気等の圧縮性の流体が混入することはないので、ピストンの移動ストロークとポンプ室の変形量とを高精度に対応させることができ、ポンプからの薬液の吐出量を高精度にすることができる。
【0021】
摺動部を介して駆動室に連なるシール空間をダイヤフラムにより形成したので、ピストンとシリンダとの摺動部に設けられたシール材が経年変化により磨耗しても、駆動室内への気体の混入が防止され、シール材の交換時期やメンテナンスの時期を長く設定することができるとともに、薬液供給装置の耐久性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。それぞれの図面においては、共通の機能を有する部材に同一の符号が付されている。
【0023】
図1は本発明の一実施の形態である薬液供給装置10aを示す断面図であり、図2は図1におけるA−A線断面図である。この薬液供給装置10aはポンプケース11の部分とシリンダ12の部分とが一体となった合体部材13を有しており、ポンプケース11とシリンダ12は相互に平行となっている。ポンプケース11の円筒形状のスペース14内には、弾性材料により形成されて径方向に膨張収縮自在の可撓性チューブ15がポンプ部材として取り付けられており、ポンプケース11と可撓性チューブ15とによりポンプ20が構成されている。この可撓性チューブ15によりその内側のポンプ室16と外側のポンプ側駆動室17とにスペース14は仕切られており、可撓性チューブ15は仕切り膜を構成している。
【0024】
可撓性チューブ15の両端部にはアダプタ部18,19が取り付けられており、一方のアダプタ部18にはポンプ室16に連通する液体流入口21が形成されるとともに供給側流路23が接続されており、他方のアダプタ部19にはポンプ室16に連通する液体流出口22が形成されるとともに吐出側流路24が接続されている。供給側流路23はレジスト液等の薬液を収容する薬液タンク25に接続され、吐出側流路24はフィルタ26を介して塗布ノズル27に接続されている。
【0025】
可撓性チューブ15はフッ素樹脂であるテトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)により形成されており、アダプタ部18,19も同様にPFAにより形成されている。PFAにより形成されたこれらの部材はフォトレジスト液と反応しない。ただし、薬液の種類によっては、PFAに限られず、弾性変形する材料であれば、他の樹脂材料やゴム材料等の可撓性材料を可撓性チューブ15、およびアダプタ部18,19の素材として用いるようにしても良い。
【0026】
供給側流路23にはこの流路を開閉するための供給側開閉弁28が設けられ、吐出側流路24にはこの流路を開閉するための吐出側開閉弁29が設けられている。それぞれの開閉弁28,29としては、電気信号により作動するソレノイドバルブや、空気圧により作動するオペレートバルブが用いられる。さらには、逆止弁つまりチェッキ弁を用いるようにしても良い。
【0027】
シリンダ12に形成された底付のシリンダ孔30にはピストン31が軸方向に往復動自在に組み付けられ、ピストン31の先端面とシリンダ孔30の底面32との間にピストン側駆動室33が形成されており、合体部材13に形成された連通孔34によりピストン側駆動室33はポンプ側駆動室17に連通している。ポンプ側駆動室17とピストン側駆動室33には液体が非圧縮性媒体35として封入されており、ポンプ側駆動室17およびピストン側駆動室33内の非圧縮性媒体35は連通孔34を介して連通している。したがって、ピストン31を底面32に向けて前進移動させると、ピストン側駆動室33が収縮してこの駆動室33内の非圧縮性媒体35はポンプ側駆動室17内に流入し、可撓性チューブ15の内側のポンプ室16は収縮する。一方、ピストン31を後退方向に移動させると、ピストン側駆動室33が膨張してポンプ側駆動室17内の非圧縮性媒体35はピストン側駆動室33内に流入し、ポンプ室16は膨張する。
【0028】
可撓性チューブ15とポンプケース11とを有するポンプ20は、シリンダ12内のピストン31を往復動すると、両方の駆動室17,33内に封入された非圧縮性媒体35の移動によりポンプ室16が膨張収縮し、ポンプ室16の膨張収縮に連動させて供給側開閉弁28と吐出側開閉弁29とを開閉作動することによって薬液タンク25内の薬液は塗布ノズル27に供給される。ポンプ20を構成するポンプケース11はシリンダ12と一体となってシリンダ12に隣接して設けられ、連通孔34はポンプケース11とシリンダ12とが一体となった合体部材13に形成されているので、薬液供給装置の小型化が達成される。ただし、ポンプケース11とシリンダ12とを別々の部材により形成し、連通孔を有するホースやパイプによりこれらを連結するようにしても良い。
【0029】
図2は図1におけるA−A線断面図であり、ポンプ部材としての可撓性チューブ15はアダプタ部18,19に嵌合する部分を除いて横断面は長円形となっており、平坦部と円弧状部とを有している。図1に示されるようにピストン31がほぼ前進限位置となると可撓性チューブ15は図2において実線で示すように平坦部が相互に接近するように収縮変形する。一方、ピストン31が後退限位置となると図2において二点鎖線で示すように平坦部が相互に平行となった長円形に膨張変形することになる。ただし、可撓性チューブ15の横断面形状は長円形に限られず他の形状であっても良い。
【0030】
ピストン31を直線往復動するためにシリンダ12には、一端に支持板41が取り付けられ他端にガイド板42が取り付けられた駆動ボックス40がスペーサ43を介して取り付けられている。支持板41の内側に軸受ホルダー44により固定された軸受45には、ボールねじ軸46がその基端部で回転自在に支持されており、ボールねじ軸46は支持板41の外側にスペーサ48を介して固定された駆動手段としてのモータ49の主軸に連結されており、モータ49により正逆両方向にボールねじ軸46は回転駆動される。
【0031】
ピストン31の後端には駆動スリーブ51が連結されており、駆動スリーブ51は雄ねじ部52が一体に設けられた端壁部とこれと一体となった円筒部を有し、雄ねじ部52はピストン31にねじ結合されている。ボールねじ軸46は駆動スリーブ51の内部に同軸状に組み込まれており、駆動スリーブ51の開口端部には、ボールねじ軸46にねじ結合するナット53がナットホルダー54により固定されている。ナット53はナットホルダー54にねじ止めされるフランジ55を有し、ナット53はフランジ55によりナットホルダー54に固定されている。モータ49によりボールねじ軸46を回転駆動すると、ナット53を介して駆動スリーブ51が軸方向に直線往復動する。ボールねじ軸46の回転駆動時にボールねじ軸46が傾斜しないようにボールねじ軸46の先端部にはガイドリング56が装着されている。モータ49により駆動スリーブ51を介してピストン31を駆動するときに、駆動スリーブ51の軸方向移動を案内するため、駆動ボックス40内に取り付けられたガイドレール57に沿って摺動するスライドブロック58がナットホルダー54に設けられている。
【0032】
ピストン31とシリンダ12との間をシールするために、シリンダ12には環状溝が形成され、その環状溝にはシール材59が装着されており、往復動するピストン31の外周面はシール材59に摺動接触する。シリンダ12にはシリンダ孔30の開口部側に凹部60が形成され、この凹部60を覆うようにシリンダ12とピストン31の突出端との間には弾性変形自在のダイヤフラム61が設けられており、シリンダ12とダイヤフラム61とにより、非圧縮性媒体35が封入されるシール空間62が形成されている。
【0033】
ダイヤフラム61は、シリンダ12の開口端部に形成された環状溝63に固定される環状部64と、ピストン31の突出部と駆動スリーブ51との間で挟み付けられる環状部65と、これらの間の弾性変形部66とを有している。ダイヤフラム61は、ゴム材料、樹脂材料あるいは金属材料等の弾性変形する部材により形成されている。
【0034】
この薬液供給装置10aはピストン側駆動室33をピストン31により加圧して非圧縮性媒体35をピストン側駆動室33からポンプ側駆動室17に供給するようにしたので、ポンプ側駆動室17の圧力を高めることができる。ピストン側駆動室33内の非圧縮性媒体35はシール材59によりシールされるが、ピストン31によりピストン側駆動室33を加圧すると、ピストン31の外周面に付着した非圧縮性媒体35がピストン側駆動室33の圧力によりそのままシール材59を通過してシリンダ12の開口端よりも外方に漏出するおそれがある。しかし、付着して外部に漏れた非圧縮性媒体35は、シール空間62内の非圧縮性媒体35に取り込まれることになり、装置の外部に漏出することはない。ダイヤフラム61は摺動部を有していないので、シリンダ孔30から漏れた非圧縮性媒体35がシール空間62から外部へ飛散することが防止される。
【0035】
ピストン31を後退移動させてピストン側駆動室33の容積を大きくする際にピストン側駆動室33およびポンプ側駆動室17内の非圧縮性媒体35が負圧状態となっても、ピストン31の突出端部はダイヤフラム61により外部から遮蔽されており、シール空間62内に封入された非圧縮性媒体35がピストン側駆動室33内に逆流して入り込んだとしても、外部の空気がピストン側駆動室33内に混入することはない。
【0036】
しかも、ピストン31とシリンダ12との間の摺動部は密閉されたシール空間62に連なっているので、シール材59とピストン表面との間の微細な隙間を通って外部に漏れたり外部から内部に入り込む非圧縮性媒体35の量を少なくすることができる。気体に比べて液体である非圧縮性媒体35は分子量が大きいので、シール材59とピストン表面との間の微細な隙間を通りにくい。したがって、ピストン31が後退移動する場合にはシール空間62からピストン側駆動室33とポンプ側駆動室17へ非圧縮性媒体35が入り込む量は、シール空間62を気体で満たした場合に比して少なくなり、吐出精度を長期間にわたり維持することができる。
【0037】
さらに、ピストン31とシリンダ12との間をシールするシール材59を境としてこれの軸方向両側に非圧縮性媒体35が付着して残るので、シール材59には薄膜状となって非圧縮性媒体35が付着し、シール材59の潤滑性が高められ、シール材59の摩耗が防止され、シール材59の耐久性が向上し、装置の寿命を長くすることができる。
【0038】
また、シール材59が経年変化により磨耗してシール性が低下しても、ピストン側駆動室33内に空気が混入することを防止することができ、ピストン31の往復動ストロークと可撓性チューブ15内からの薬液の吐出量とを高精度に対応させることができる。したがって、半導体ウエハにフォトレジスト液を塗布する場合には、一定量のフォトレジスト液を高い精度で塗布ノズル27から吐出することができる。
【0039】
図3は本発明の他の実施の形態である薬液供給装置を示す断面図である。この薬液供給装置10bにおいては、シリンダ12の側面には凹部67が形成され、この凹部67は連通孔68によりダイヤフラム61とピストン31との間のシール空間62に連通しており、凹部67はシール空間62および連通孔68を介してピストン31の外周面に連通している。凹部67にはゴム等からなる弾性変形自在のダイヤフラム71が取り付けられ、凹部67とダイヤフラム71とにより容積可変の膨張収縮室72が形成され、膨張収縮室72の内部には非圧縮性媒体35が封入されるようになっており、シリンダ12のうち凹部67が形成された部分は媒体給排部73となっている。ダイヤフラム71はダイヤフラム61と同様にゴム材料等により形成されており、シリンダ12に固定される蓋部材74により媒体給排部73に固定され、蓋部材74の内側の空間内でダイヤフラム71は弾性変形自在となっており、蓋部材74には息付き孔75が形成されている。尚、膨張収縮室72の膨張収縮の容積変化を吸収するものであれば、ダイヤフラムに限られることなく、ベローズを用いても良い。
【0040】
図3に示す薬液供給装置においては、ピストン31が往復動するとその往復動によってシール空間62の容積が変化し、その容積変化に追従して膨張収縮室72内の容積が変化する。つまり、ピストン31が図3に示す位置よりも図において下方に移動すると、シール空間62の容積が大きくなるので、その容積増加分に追従するように膨張収縮室72から非圧縮性媒体35がシール空間62内に流入して補充される。これにより膨張収縮室72は収縮する。一方、ピストン31が逆方向に移動してシール空間62の容積が小さくなると、シール空間62内の非圧縮性媒体35が膨張収縮室72に排出されて膨張収縮室72は膨張する。なお、媒体給排部73をシリンダ12から離して設けるようにしても良く、その場合には連通孔68を有するホース等によりシリンダ12の部分と媒体給排部73の部分とが連結されることになる。
【0041】
図4は本発明の他の実施の形態である薬液供給装置を示す断面図である。この薬液供給装置10cにおいては、シリンダ12の端面にポンプケース81が取り付けられている。ポンプケース81はPFAにより形成されており、供給側流路23と吐出側流路24とが一体に設けられている。ただし、供給側流路23と吐出側流路24とをポンプケース81とは別体としてそれぞれをポンプケース81に取り付けるようにしても良い。
【0042】
ポンプケース81とシリンダ12との間には、PTFE等の弾性材料により形成されたダイヤフラム82がポンプ部材として取り付けられており、ポンプケース81とダイヤフラム82とによりポンプ20が構成されている。このダイヤフラム82によりポンプ室16と駆動室83とにポンプケース81とシリンダ12との間のスペースが仕切られており、ダイヤフラム82は仕切り膜を構成している。
【0043】
図4に示す薬液供給装置10cにおいては、ダイヤフラム82により仕切られる駆動室83が上述した実施の形態におけるポンプ側駆動室17とピストン側駆動室33との機能を有しており、薬液供給装置10cは上述した薬液供給装置10a,10bよりも小型化することが可能となる。
【0044】
それぞれの薬液供給装置10b,10cにおいても、薬液供給装置10a同様に、ポンプ側駆動室17の圧力を高めることができ、圧力を高めても非圧縮性媒体35が装置の外部に漏出することはない。また、ダイヤフラム61は摺動部を有していないので、シリンダ孔30から漏れた非圧縮性媒体35がシール空間62から外部へ飛散することが防止される。
【0045】
しかも、ピストン31を後退移動させてピストン側駆動室33の容積を大きくする際にピストン側駆動室33およびポンプ側駆動室17内の非圧縮性媒体35が負圧状態となっても、外部の空気がピストン側駆動室33内に混入することはない。ピストン31とシリンダ12との間の摺動部は密閉されたシール空間62に連なっているので、シール材59とピストン表面との間の微細な隙間を通って外部に漏れたり外部から内部に入り込む非圧縮性媒体35の量を少なくすることができる。
【0046】
ピストン31とシリンダ12との間をシールするシール材59を境としてこれの軸方向両側に非圧縮性媒体35が付着して残るので、シール材59には薄膜状となって非圧縮性媒体35が付着し、シール材59の潤滑性が高められ、シール材59の摩耗が防止され、シール材59の耐久性が向上し、装置の寿命を長くすることができる。シール材59が経年変化により磨耗してシール性が低下しても、ピストン側駆動室33内に空気が混入することを防止することができる。
【0047】
また、ピストン31の往復動ストロークとポンプ室16からの薬液の吐出量とを高精度に対応させることができる。したがって、半導体ウエハにフォトレジスト液を塗布する場合には、一定量のフォトレジスト液を高い精度で塗布ノズル27から吐出することができる。
【0048】
図4に示す薬液供給装置10cに図3に示されたダイヤフラム71により容積が変化する膨張収縮室72を設けるようにしても良い。
【0049】
図3、図4に示した薬液供給装置10b,10cにおいては、薬液タンク25および塗布ノズル27等は省略されているが、それぞれの薬液供給装置は薬液を半導体ウエハ等の被塗布物に塗布することができる。
【0050】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。たとえば、ピストン31をモータ49により駆動するようにしているが、駆動手段としてはモータ49に限らず、空気圧シリンダ等の他の駆動手段を使用するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施の形態である薬液供給装置を示す断面図である。
【図2】図1におけるA−A線に沿う断面図である。
【図3】本発明の他の実施の形態である薬液供給装置を示す断面図である。
【図4】本発明の他の実施の形態である薬液供給装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0052】
11 ポンプケース
12 シリンダ
13 合体部材
14 スペース
15 可撓性チューブ(仕切り膜)
16 ポンプ室
17 ポンプ側駆動室
20 ポンプ
21 液体流入口
22 液体流出口
23 供給側流路
24 吐出側流路
25 薬液タンク
27 塗布ノズル
30 シリンダ孔
31 ピストン
33 ピストン側駆動室
35 非圧縮性媒体
49 モータ(駆動手段)
61 ダイヤフラム
62 シール空間
68 連通孔
71 ダイヤフラム
72 膨張収縮室
81 ポンプケース
82 ダイヤフラム
83 駆動室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体流入口および流出口に連通するポンプ室と駆動室とを仕切る弾性変形自在の仕切り膜が設けられたポンプと、
前記駆動室に非圧縮性媒体を給排するピストンが往復動自在に組み付けられるシリンダと、
前記ピストンを直線方向に往復動し、前記非圧縮性媒体を介して前記ポンプ室を膨張収縮する駆動手段と、
前記ピストンと前記シリンダとの間に設けられ、前記ピストンの外周面と前記シリンダの内周面との摺動部に連なるとともに非圧縮性媒体が封入されるシール空間を形成する弾性変形自在のダイヤフラムとを有することを特徴とする薬液供給装置。
【請求項2】
請求項1記載の薬液供給装置において、前記シール空間に連通し、前記ピストンの往復動時における前記シール空間の容積変化に追従して非圧縮性媒体が流入しかつ排出される膨張収縮室を形成する媒体給排部を有することを特徴とする薬液供給装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の薬液供給装置において、前記ポンプを構成するポンプケースと前記シリンダとを有する合体部材に、前記仕切り膜により仕切られたポンプ側駆動室と、前記シリンダに形成されたピストン側駆動室と、前記ポンプ側駆動室と前記ピストン側駆動室とを連通させる連通孔とを形成することを特徴とする薬液供給装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の薬液供給装置において、前記ダイヤフラムの中央部を前記ピストンの突出部に装着し、前記ダイヤフラムの外周部を前記シリンダに装着し、前記ピストンの突出部の外側に前記シール空間を形成することを特徴とする薬液供給装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の薬液供給装置において、前記仕切り膜はチューブであることを特徴とする薬液供給装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の薬液供給装置において、前記仕切り膜はダイヤフラムであることを特徴とする薬液供給装置。
【請求項7】
請求項6記載の薬液供給装置において、前記シリンダに取り付けられるポンプケースにより前記ダイヤフラムを前記シリンダに装着し、前記ダイヤフラムにより前記ポンプ室と前記駆動室とを仕切ることを特徴とする薬液供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−101510(P2008−101510A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−283555(P2006−283555)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000145611)株式会社コガネイ (142)
【Fターム(参考)】