説明

藻類の中鎖長脂肪酸および炭化水素

オイルに富む作物および藻類は、特に輸送のためのバイオディーゼルの、費用効率が高く、持続可能な生産のための、最も将来性のある生体系と一般に見なされている。しかし、現在利用可能な油糧作物に基づく原料および商業的プロセスにより生産されるバイオディーゼルは、その低いエネルギー密度および許容されない低温流動性のせいで、軍事用および商業用航空機用途でのJP−8代用燃料として適切でない。JP−8の代用物としてのバイオディーゼルの不適切さは、バイオディーゼルが主にC16およびC18脂肪酸のメチルエステルを含むのに対して、JP−8がC9からC14の炭化水素という化学的主成分を有するという事実から生じる。本発明は、藻類に基づく中鎖脂肪酸および炭化水素の製造のための方法および構成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(相互参照)
本願は、2006年9月18日に出願された米国仮特許出願第60/825946号に対する優先権を主張し、米国仮特許出願第60/825946号は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
JP−8は石油から誘導される灯油タイプの軍のジェット燃料であり、陸上基地の空軍および地上軍(例えば、航空機、陸上輸送手段、および装備)の主燃料として使用されている。米国国防総省(DOD)は、米国におけるオイルを消費する最大の単一政府機関であり、2006年会計年度において9千万バレルを超えるJP−8を消費し、これは、米国によって生産される灯油系ジェット燃料の約15%を占める。
【0003】
JP−8に化学組成が似た市販のジェット燃料は、米国の商用(法人/個人)航空業界によって主として消費されており、乗客および貨物輸送機は2005年に5億バレル近くのジェット燃料を燃焼した。米国の確認されたオイル埋蔵量の80%より多くがすでに消費されたので、米国は、今、そのオイルの60%超を輸入している。20年以内に、米国は、そのオイルの80%から90%を輸入しているであろうと予測される。この輸入されるオイルの多くは、世界の政治的に不安定な地域の国々から供給され、この国々では、政治的不安定、人権侵害、およびテロリズムが、米国への安定なオイル供給にとって常に脅威である。年間2千5百億ドル超が外国のオイルに使われており、増大する米国の貿易赤字の3分の1を占め、米国経済にとって益々重荷になっている。益々多く国外のオイルを米国は輸入し続けることができるかもしれないが、世界のオイル供給は無限ではない。約2兆2千億〜3兆9千億バレルの楽観的な世界オイル資源の見積り(確認埋蔵量のほぼ2倍)に基づいてさえ、石油の世界的供給は40年以内に枯渇するであろう。中国、インド、その他における新興の急速に成長している経済によるオイルの需要は、また、世界的供給が限られているために、競争および価格変動を増大させている。米国の軍事行動、国家の安全、および成長する経済への、オイルの減少の潜在的影響の重大さは、この事態に先だって、如何に多く、如何に速く、またどの程度まで、JP−8および他の化石燃料に対する再生可能で手ごろな広範な代用物を、提供できるかにかかっている。
【0004】
オイルに富む作物および藻類は、特に輸送のためのバイオディーゼルの、費用効率が高く、持続可能な生産のための、最も将来性のある生体系と一般に見なされている。しかし、現在利用可能な油糧作物に基づく原料および商業的プロセスにより生産されるバイオディーゼルは、その低いエネルギー密度および許容されない低温流動性のせいで、軍事用および商業用航空機用途でのJP−8代用燃料として適切でない。JP−8の代用物としてのバイオディーゼルの不適切さは、バイオディーゼルが主にC16およびC18脂肪酸のメチルエステルを含むのに対して、JP−8がC9からC14の炭化水素という化学的主成分を有するという事実から生じる。C9からC14炭化水素に比べて、C16およびC18脂肪酸の含酸素メチルエステルは、燃料のエネルギー密度を低下させるだけでなく、また、高い燃料粘度、高い引火点、および高い凝固点(>−50℃)の原因でもある。
【0005】
バイオディーゼルは、熱、触媒、および/または酵素プロセスを通じて、JP−8代用燃料へと処理され得る。しかし、この後の2次処理は、費用効率が高くないし、エネルギー効率も悪く、8%から15%のエネルギー変換効率で大量の化石燃料を消費する。このため、結果的に、法外に高価で、受け入れ難く低いエネルギー効率を有する代用ジェット燃料となる。明らかに、藻類/植物に基づくオイルまたはバイオディーゼルを、石油由来JP−8に対する手ごろな代用物へと変換することは、大きな可能性を有するが、これは、製造コストを下げながらオイル変換効率を高めるために、現在の原料生成系および後の下流プロセスに対するかなりの革新および改善を必要とするであろう。
【0006】
作物オイル由来のJP−8代用燃料の製造コストを下げながらエネルギー変換効率を上げる1つの方法は、天然に、大量の中鎖脂肪酸(C10からC14)からなり得る特定の原料オイルを導入することである。中鎖脂肪酸は、クラッキング処理をほとんど必要とせず、これは、中鎖脂肪酸でなければ、長鎖分子をより短いものに分解するために必要とされるプロセスである。ココナッツおよびパーム核オイルは、高濃度(全脂肪酸の55〜69%)の中鎖(C12およびC14)脂肪酸/エステルを含むことによって、普通の油糧作物からの例外であることがわかっている。ココナッツオイルの世界の生産量は、1999年に約5千万メトリックトンであり、パーム核オイルの生産量は2005年に約380万トンであった。インドネシア、マレーシア、フィリピン、およびインドが、ココナッツおよびパーム核オイルの主な生産国である。これらのオイルは、主に、食物および料理/フライ用オイルとして国内での消費に使用されている。米国および他の西洋諸国では、ココナッツおよびパーム核オイルは、主として、マーガリンおよび他の脂肪/オイル製品の製造に、さらには、化粧品、石鹸、洗剤およびシャンプーに使用されている。ココナッツおよびパーム核オイルは、バイオディーゼルの製造に使用されており、灯油系ジェット燃料代替物と見なされているが、それらは、供給が限られているせいで、ジェット燃料製造のための主な原料として使用されるとは考えられない(非特許文献1;非特許文献2)。
【0007】
代わりとなるのは、油糧作物の遺伝子操作を通じて、より多くの中鎖脂肪酸を作らせることである。しかし、油糧作物でこれまでになされた努力は、ほとんど商業的な重要性なしに終わった。これは、複雑な生化学的経路に渡る「全体的な」制御(これにより、光合成により固定される炭素は、タンパク質または炭水化物の生合成でなく、特に脂質/オイルの生成および蓄積に分配され得る)を提供し得る、細胞/細胞内の調節ネットワークの明瞭な理解の欠如に主に帰因する。効果的な分子遺伝学的手段および方法論の欠如は、成功しなかった系統改良の別の主な理由である。
【0008】
微細藻類は、a)それらの高い脂質/オイル含量(乾燥重量の40から60%);b)大きな比成長速度(1から3回倍加/日);c)塩水/半塩水で繁茂し、廃棄流(例えば、化石燃料燃焼発電所からの廃水および排煙)からの養分(N、P、およびCO)を成長のために利用し、一年を通しての大規模生産のために十分とは言えない土地(砂漠、乾燥−および準乾燥地)を用いる能力;およびd)付加価値製品の副生(例えば、バイオポリマー、タンパク質、多糖、顔料);の理由で、バイオ燃料の将来性のある原料供給源であり得る。しかし、これまでバイオ燃料として研究された藻類オイルは、化学的および物理的性質が、普通の作物オイル(これらは、C16からC18脂肪酸/エステルに富んでいる)のそれにかなり似ている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Shay,E.G.,Biomass and Bioenergy 4(4):227−242(1993)
【非特許文献2】Srivastava,A. and Prasad,R.,Renewable & Sustainable Energy reviews. 4:111−133(2000)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様において、本発明は、藻類中鎖長脂肪酸または炭化水素の製造方法を提供し、この方法は、
(a)大量の第1の中鎖長脂肪酸サブセットを生成できる第1の藻類系統を培養すること(ここで、培養は、第1の中鎖脂肪酸サブセットの生成を促進するのに適する条件下で実施される);
(b)大量の第2のまたはさらなる中鎖長脂肪酸サブセットを生成できる1種または複数のさらなる藻類系統を培養すること(ここで、培養は、第2の中鎖脂肪酸サブセットの生成を促進するのに適する条件下で実施される);
(c)中鎖長の組合せを生成するために、第1の藻類系統および1種または複数のさらなる藻類系統からオイルを抽出すること(ここで、中鎖長の組合せは、炭素鎖長C10、C12、およびC14の脂肪酸または炭化水素を含み、第1の藻類系統からのオイルそれ自体も、1種または複数のさらなる藻類系統の任意の1種からのオイルそれ自体も、検出できるレベルの炭素鎖長C10、C12、およびC14の各々の脂肪酸は含まない);
を含む。
【0011】
第2の態様において、本発明は、藻類の中鎖長脂肪酸の製造方法を提供し、この方法は、
(a)中鎖長脂肪酸の生成を促進するのに適する条件下でPinguiococcus pyrenoidosusを培養すること;および
(b)培養されたPinguiococcus pyrenoidosusからオイルを抽出すること(ここで、抽出されるオイルは、C14およびC16鎖長脂肪酸を含む);
を含む。
【0012】
第3の態様において、本発明は、藻類の中鎖長脂肪酸または炭化水素の製造方法を提供し、この方法は、
(a)中鎖長脂肪酸の生成を促進するのに適する条件下でPinguiococcus pyrenoidosusを培養すること;
(b)大量のC10および/またはC12鎖長脂肪酸を生成し、蓄積できる1種または複数のさらなる藻類系統を培養すること(ここで、培養は、C10および/またはC12鎖長脂肪酸の生成を促進するのに適する条件下で実施される);および
(c)中鎖長の組合せを生成するために、培養されたPinguiococcus pyrenoidosusおよび1種または複数のさらなる藻類系統からオイルを抽出すること(ここで、中鎖長の組合せは、炭素鎖長C14、ならびに、炭素鎖長C10およびC12の1つまたは複数の脂肪酸または炭化水素を含む);
を含む。
【0013】
第4の態様において、本発明は、藻類の中鎖長脂肪酸または炭化水素の製造方法を提供し、この方法は、
(a)中鎖長脂肪酸の生成を促進するのに適する条件下でTrichodesmium erythraeumを培養すること(ここで、中鎖長脂肪酸はC10鎖長脂肪酸を含む);
(b)中鎖長脂肪酸の生成を促進するのに適する条件下でCrypthecodinium sp.を培養すること(ここで、中鎖長脂肪酸はC12鎖長脂肪酸を含む);および
(c)中鎖長の組合せを生成するために、培養されたTrichodesmium erythraeumおよび培養されたCrypthecodinium sp.からオイルを抽出すること(ここで、中鎖長の組合せは、炭素鎖長C10およびC12の脂肪酸または炭化水素を含む);
を含む。
【0014】
第5の態様において、本発明は、Pinguiococcus pyrenoidosus、Aphanocapsa sp.、Biddulphia aurita、Crypthecodinium sp.、Emiliania huxleyi、Nitzschia alba、Prymnesium parvum、Skeletonema costatum、およびTrichodesmium erythraeumからなる群から選択される2種以上の分離された藻類系統を含む構成物を提供し、ここで、2種以上の藻類系統は、構成物に存在する藻類の少なくとも90%を占める。
【0015】
第6の態様において、本発明は、
(a)増殖培地;および
(b)本発明の第5の態様の構成物のいずれかの実施形態の構成物;
を含む実質的に純粋な培養物を提供する。
【0016】
第7の態様において、本発明は、本発明の第1、第2、第3、または第4の態様のいずれかの実施形態の方法によって生成される、藻類由来炭化水素フラクションを提供する。
【0017】
第8の態様において、本発明は、本発明の第1、第2、第3、または第4の態様のいずれかの実施形態の方法によって生成される、藻類由来の分離された中鎖炭化水素フラクションを提供する。
【0018】
第9の態様において、本発明は、本発明の第1、第2、第3、または第4の態様のいずれかの実施形態の方法によって製造される、藻類由来灯油を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に使用される代表的な藻類系統の全脂肪酸含量に関するデータを示す。
【図2】藻類に基づくJP−8代用ジェット燃料製造のフローチャートの図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
第1の態様において、本発明は、藻類の中鎖長脂肪酸または炭化水素の製造方法を提供し、この方法は、
(a)大量の第1の中鎖長脂肪酸サブセットを生成できる第1の藻類系統を培養すること(ここで、培養は、第1中鎖脂肪酸サブセットの生成を促進するのに適する条件下で実施される);
(b)大量の第2のまたはさらなる中鎖長脂肪酸サブセットを生成できる1種または複数のさらなる藻類系統を培養すること(ここで、培養は、第2の中鎖脂肪酸サブセットの生成を促進するのに適する条件下で実施される);
(c)中鎖長の組合せを生成するために、第1の藻類系統および1種または複数のさらなる藻類系統からオイルを抽出すること(ここで、中鎖長の組合せは、炭素鎖長C10、C12、およびC14の脂肪酸または炭化水素を含み、第1の藻類系統からのオイルそれ自体も、1種または複数のさらなる藻類系統の任意の1種からのオイルそれ自体も、検出できるレベルの炭素鎖長C10、C12、およびC14の各々の脂肪酸は含まない);
を含む。
【0021】
中鎖長脂肪酸に富む藻類オイルフラクションを製造しようとする先行する努力では、長鎖の脂肪酸/エステルをより短いものに分解するクラッキングプロセス、その後のさらなる処理が用いられた。本発明の方法は、特に、内因的に中鎖長脂肪酸を生成し、炭化水素を生成しない藻類を用いる時に、このようなクラッキングプロセスを必要としない。結果として、本発明の方法では、例えば脱酸素化ステップを用いて、炭化水素フラクションへと処理される藻類脂肪酸が分離される。本発明の方法は、例えば、所定の量の藻類原料で、長鎖脂肪酸(C16からC22)に富む「普通の」藻類オイルより多くの灯油系ジェット燃料を製造でき、オイルのクラッキングおよび分離プロセスに付随する資本および運転コストを低減できる。
【0022】
中鎖長脂肪酸に富む藻類オイルは、これらに限らないが、藻類に基づく灯油代替物、高品質洗剤、および研究用試薬(例えば、研究用途のために任意選択で標識され得る標準として使用される単一鎖長の単離された炭化水素フラクション)を含めて、様々な目的に使用され得る。
【0023】
本明細書では、「中鎖長脂肪酸」という句は、C8からC16の炭素鎖長の範囲にある脂肪酸およびそれらのエステルを表す。さらなる実施形態において、中鎖長脂肪酸は、C9からC14の炭素鎖長の範囲にあり、さらなる実施形態では、C10からC14の炭素鎖長の範囲にある。使用される2種以上の藻類系統(即ち、2、3、4、5、またはより多くの藻類系統)は、大量の中鎖長脂肪酸を生成し蓄積できる。「大量」は、藻類系統によって生成される全脂肪酸の20%以上が中鎖長脂肪酸であることを意味する。さらなる実施形態において、2種以上の藻類系統は、中鎖長脂肪酸として生成される少なくとも25%、より好ましくは、少なくとも30%、35%、40%、45%、50%、55%、またはこれ以上の脂肪酸を生成し、蓄積する。当業者は、用いられる藻類系統は中鎖脂肪酸を生成するが、それらはまた、他の鎖長の脂肪酸も生成し得ることを理解するであろう。
【0024】
本明細書では、「藻類」または「藻類系統」という用語は、微細藻類およびシアノバクテリアの両方を含む。一実施形態において、藻類は真核微細藻類である。本発明の方法により使用され得る非限定的藻類系統は、図1に記載されている。
【0025】
藻類を培養するのに「適する条件」は、当業者によく知られており、適切な光の条件(光合成による増殖を促進するため)、増殖培地(栄養素、pHなど)、およびCO供給を含む。増殖培地の容積は、本発明の方法のために藻類を培養するのに適するどのような容積であってもよい。任意の適切な栄養素供給源が用いられ得る。このような栄養素供給源は、廃水または廃棄ガスを含み得る(または、これらによって補うことができる)。これらの実施形態において、前記方法は、廃棄物改善の利点をさらに提供する。例えば、栄養素で汚染された水または廃水(例えば、産業廃水、農業廃水、家庭廃水、汚染された地下水および地表水)、あるいは天然ガスまたはバイオガスを燃焼する発電機から放出される廃棄ガス、ならびに、化石燃料燃焼発電所からの放出排煙が、増殖培地の一部として使用され得る。これらの実施形態において、藻類は、最初、一次増殖培地において培養され、その後、廃水および/または廃棄ガスが添加され得る。代わりに、藻類は、もっぱら廃棄流源において培養されてもよい。特定の栄養素または元素が培養基に添加される時、それは、藻類によって取り込まれ、同化されるであろう。通常、廃水は、所望の割合で培養基に添加される。この水は、廃水源から供給され、付加的な栄養素、例えば、リン酸塩、および/または微量元素(例えば、鉄、亜鉛)を含み、これらは藻類の増殖を補助する。一実施形態において、処理されている廃水が微細藻類の増殖を維持するのに十分な栄養素を含む場合、より少ない量の増殖培地を用いることが可能であり得る。廃水が藻類処理のせいで、より清浄になるにつれて、増殖培地の量は増やされ得る。廃棄流供給率に影響を及ぼす主な因子は、1)藻類増殖速度、2)光の強度、4)培養温度、5)廃水における初期栄養素濃度、5)特定の1つ/複数の栄養素の比取り込み速度、6)特定のバイオリアクターの設計および性能、ならびに7)特定の維持管理プロトコルを含む。
【0026】
藻類の増殖は、どのようなタイプの設備またはフォトバイオリアクターにおいてであってもよい。本明細書では、「フォトバイオリアクター」は、その中で藻類が成長し、繁殖する、透明で透き通った材料(例えば、ガラス、アクリル、ポリカーボネート、PVCなど)で製造された工業的規模の培養容器である。本発明のこの態様における用途では、どのようなタイプの設備またはフォトバイオリアクターでも使用でき、これらに限らないが、覆いのない導水路(open raceway)、即ち、外輪(paddle−wheel)によって培養物が循環するループとして組み立てられた、それぞれが1000から5000mの面積を占める浅い人工池(水位 深さ約15から30cm)(Richmomd、1986年)、密閉設備、即ち、培養物がポンプまたは空気の泡の発生のいずれかによってその中で混合される透明な管または容器で製造されたフォトバイオリアクター(Lee、1986年;Chaumont、1993年;Richmond、1990年;Tredici、2004年)、管状フォトバイオリアクター(例えば、Tamiyaら(1953年)、Pirtら(1983年)、GudinおよびChaumont、1983年、Chaumontら1988年;Richmondら、1993年を参照)、および平板型フォトバイリアクター、例えば、SamsonおよびLeduy(1985年)、Ramos de OrtegaおよびRoux(1986年)、Trediciら(1991年、1997年)ならびにHuら(1996年、1998年a,b)に記載のものが含まれる。
【0027】
本明細書では、「生成を促進するのに適する条件」は、用いられた条件により、全乾燥細胞重量の少なくとも5%、好ましくは、10%、15%、20%、25%、またはそれ以上に等しい中鎖長脂肪酸を、藻類が生成することを意味する。
【0028】
本発明の方法は、藻類からオイル(即ち、全脂肪酸)を抽出することを含む。これらに限らないが、溶媒抽出および超臨界流体抽出を含めて、藻類からオイルを抽出するのに適するどのような方法でも使用できる。最初に、フォトバイオリアクター内の液体培養物から、適切な採取方法(例えば、遠心、気泡浮遊分離(dissolved air floatation)、膜分離、ポリマー利用による凝集など、単独で、または組み合わせて)を用いて、藻類が採取される。次いで、採取された藻類は、望まれる場合、任意の適切な技法(例えば、日干し、ドラム乾燥、凍結乾燥、または噴霧乾燥)を用いて乾燥され得る。得られる乾燥藻類は、これには限らないが、藻類粉末の状態を含めて、任意の有用な状態にあり得る。
【0029】
本明細書では、「中鎖長脂肪酸サブセット」は、所定の藻類系統によって生成される中鎖長脂肪酸である。こうして、中鎖脂肪酸サブセットの生成を促進するのに適する条件下で、大量の中鎖長脂肪酸サブセットを生成できる藻類系統を培養することにより、結果として、全乾燥細胞重量の少なくとも5%を占める中鎖長脂肪酸サブセットが生成される。サブセットは、どのような鎖長の、または鎖長の組合せの中鎖長脂肪酸も含み得る。前記方法は、第1の中鎖脂肪酸サブセットを生成する第1の藻類系統、および第2またはさらなる中鎖脂肪酸を生成するための1種または複数のさらなる藻類系統の使用を含み、第1藻類系統からのオイルそれ自体も、1種または複数のさらなる藻類系統の任意の1種からのオイルそれ自体も、検出できるレベルの炭素鎖長C10、C12、およびC14の各々の脂肪酸は含まない。こうして、2種の藻類系統が用いられる場合、前記方法は、2つの中鎖脂肪酸サブセットの生成を含む(ここで、いずれの藻類系統も、単独では、C10、C12、およびC14脂肪酸を含む中鎖長脂肪酸サブセットを生成しない);3種の藻類系統が用いられる場合、前記方法は、3つの中鎖脂肪酸サブセットの生成を含む(ここで、3種の藻類系統のどれも、単独では、C10、C12、およびC14脂肪酸を含む中鎖長脂肪酸サブセットを生成しない);等など。
【0030】
本明細書では、「中鎖長の組合せ」は、第1の藻類系統および1種または複数の他の藻類系統からの中鎖長生成物(脂肪酸または炭化水素)を一緒にしたものであり、ここで、中鎖長の組合せは、炭素鎖長C10、C12、およびC14の脂肪酸または炭化水素を含む。中鎖長の組合せは、生成物の処理の段階に応じて、中鎖長脂肪酸または中鎖長炭化水素のいずれかを含み得る。一実施形態において、第1の藻類系統および1種または複数の藻類系統は、共存培養される;この場合、中鎖長脂肪酸を含む中鎖長の組合せが、オイル抽出で得られる;次いで、中鎖長の組合せが、炭化水素フラクションを生成するために、さらに処理される場合(下を参照)、中鎖長の組合せは、炭化水素フラクション生成の後、中鎖長炭化水素を含むであろう。別の実施形態において、第1の藻類系統および1種または複数のさらなる藻類系統は、別々に培養される;この実施形態では、中鎖長の組合せは、オイル抽出後のある時点で得られる。例えば、第1のおよび第2の(またはさらなる)サブセットは、オイル抽出後、直ちに一緒にされ得る(中鎖長脂肪酸を含む中鎖長の組合せが得られる);あるいは、他のステップの後で、例えば、炭化水素フラクション生成の後で、または中鎖長炭化水素に富む1つまたは複数のフラクションの生成後に(下を参照)、一緒にされてもよく、これらのいずれも、中鎖長炭化水素を含む中鎖長の組合せを生じる。当業者には明らかであろうように、3種以上の藻類系統が用いられる場合、それらは、全て共存培養され得る、あるいは、一部が共存培養でき、他の藻類系統は別々に培養され、したがって、それらの中鎖長脂肪酸サブセットまたは中鎖長炭化水素の組合せは、多重組合せの事象を含み得る。
【0031】
中鎖長の組合せは、炭素鎖長C10、C12、およびC14の脂肪酸または炭化水素を含み、ここで、第1の藻類系統から抽出されたオイルそれ自体も、1種または複数のさらなる藻類系統の任意の1種から抽出されたオイルそれ自体も、検出できるレベルの炭素鎖長C10、C12、およびC14の脂肪酸の各々は含まない。
【0032】
この第1の態様の方法は2種以上の藻類系統の使用を含み、ここで、第1の藻類系統からのオイルそれ自体も、1種または複数のさらなる藻類系統からのオイルそれら自体も、検出できるレベルの炭素鎖長C10、C12、およびC14の各々の脂肪酸は含まない。本明細書では、「検出できる」レベルは、所定の炭素鎖長脂肪酸が、藻類系統から得られるオイル中の全脂肪酸生成物の少なくとも1%を占めることを意味する。
【0033】
当業者には明らかであろうように、藻類からのオイル抽出は、抽出プロセスの間にオイルから分離される他の藻類バイオマスの抽出を伴い得る。こうして、別の実施形態において、本発明の方法は、藻類バイオマスを分離することをさらに含む。このようなバイオマスは、これらに限らないが、嵩のある産物(例えば、動物の餌およびバイオ肥料として有用);エタノールおよびメタン(後で行なわれる発酵を必要とする;例えば、エネルギー生成にとって有用);ならびに、特殊製品、これらに限らないが、顔料(クロロフィル)、ポリマー、カロテノイド(例えば、ベータ−カロテン、ゼアキサンチン、ルテイン、およびアスタキサンチン)、およびポリ不飽和脂肪酸を含み得る。
【0034】
さらなる実施形態において、前記方法は、第1の藻類系統および1種または複数のさらなる藻類系統から抽出されたオイルを、炭化水素フラクションに変換すること(即ち、炭化水素への脂肪酸の変換)をさらに含む。これに限らないが、例えば化学触媒または水素供給による、脱酸素/ヒドロキシル化プロセスを含めて、藻類脂肪酸を炭化水素に変換するどのような適切な方法でも使用できる。炭化水素フラクション生成の後に調製される中鎖長の組合せは、中鎖長炭化水素を含む。このような中鎖長の組合せは、炭化水素フラクション生成の後、全体として、または部分的に(用いられた藻類系統の全てよりは少数から生成される炭化水素フラクションの組合せによって)生成されても、あるいは、炭化水素フラクション生成は、各藻類系統から抽出されるオイルに別々に実施されてもよい。炭化水素フラクションに存在する炭化水素の少なくとも30%が、中鎖長炭化水素であり;さらなる実施形態では、炭化水素フラクションに存在する、少なくとも35%、40%、45%、50%、55%、またはこれ以上の炭化水素が、中鎖長炭化水素である。
【0035】
当業者には明らかであろうように、炭化水素への変換の副生成物、例えば、炭化水素のより軽質のフラクション(例えば、C1〜C6)および/またはグリセロール(グリセリン)もまた、炭化水素フラクション生成の間に得られ得る。こうして、さらなる実施形態において、前記方法は、短鎖炭化水素分子(C1〜C6)および/またはグリセロールを分離することを含む。短鎖炭化水素は、例えば、最終ガスまたはガソリンの製造に使用できる。グリセロールは、これらに限らないが、医薬製品(例えば、滑剤、湿潤剤、去痰薬、咳止めシロップなど、として/に使用される)、パーソナルケア製品(例えば、エモリエント、滑剤、湿潤剤、溶媒、練り歯磨き、口内洗浄剤、スキンケア製品、石鹸など、として/に使用される)および食品/飲料製品(甘味料、フィラーなど)における用途を含めて、多くの用途を有する。
【0036】
さらなる実施形態において、前記方法は、中鎖長炭化水素に富む1つまたは複数のフラクションを生成するために、炭化水素フラクションを精製することを含み、ここで、1つまたは複数のフラクションは、炭素鎖長C10、C12、および/またはC14の炭化水素に富む1つまたは複数のフラクションを含む。例えば、分離/精製の技術により、脱酸素プロセスから、望ましい炭化水素フラクションは分離され、濃縮され、特定の炭素鎖長の1つまたは複数の炭化水素に富む、精製された一連のフラクションが得られる。精製されて調製された中鎖長の組合せは、中鎖長炭化水素を含む。このような中鎖長の組合せは、精製後に、全体として、または部分的に(用いられた藻類系統の全てよりは少数から生成された炭化水素の組合せによって)、生成されても、あるいは、精製は、各藻類系統からの炭化水素フラクションに別々に実施されてもよい。1つまたは複数のフラクションは、C10、C12、およびC14鎖長の炭化水素を含む単一のフラクション、3つの別々のフラクション(1つはC10鎖長の炭化水素を含み、1つはC12鎖長の炭化水素を含み、また1つはC14鎖長の炭化水素を含む)、あるいはこの他の変形形態を含み得る。中鎖長の炭化水素に富む各フラクションに存在する少なくとも90%の炭化水素は、所望の(複数の)鎖長の炭化水素であり;様々なさらなる実施形態において、中鎖長の炭化水素に富む各フラクションに存在する少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上の炭化水素は、所望の(複数の)鎖長の炭化水素である。
【0037】
中鎖長脂肪酸に富むフラクションを分離し濃縮するのに使える任意の適切な精製プロセスが用いられ得る。様々な実施形態において、精製は、中鎖(C8〜C16)脂肪酸(FA)または脂肪酸メチルエステル(FAME)を、長鎖(C18またはより長い)脂肪酸またはFAMEから分離し精製するために、真空蒸留または分子蒸留を含む。真空蒸留は、石油精製において広範に用いられており、他方、分子蒸留は、複雑な液体混合物から1つの液体を分離するのに有効であることが確認された新しい技術である。真空蒸留では低い運転圧力で類似の蒸気速度を保つために、より大きな直径のカラムが使用されること以外は、真空蒸留は、従来の分別蒸留(一般に、これを真空法と区別するために、常圧蒸留と呼ばれる)と、原則として似ている。50から100ミリメートルの水銀の絶対圧の真空が、真空ポンプまたはスチームエゼクター(steam ejector)によって生成される。真空蒸留の主な利点は、それにより、大気圧で必要とされる温度より低い温度で、より重質の物質が蒸留されるので、成分の熱クラッキングが避けられることである。蒸留プロセスの拡張である超フラクション生成は、より小さい直径のカラムを、ずっと大きな数のトレイ(100またはそれ以上)と共に用い、還流比は5:1を超える。このような装置により、非常に狭い範囲の成分、または純粋な化合物さえ、分離することが可能である。一般的な応用には、石油化学製品として用いられる、イソパラフィンのような高純度溶媒、または個々の芳香族化合物の分離が含まれる。
【0038】
分子蒸留は、蒸留される液体の高温への短時間暴露、蒸留スペースにおける高真空、および冷却器と蒸発装置との間の短い距離によって特徴付けられる。蒸発シリンダーでの液体の短い滞留時間(数秒から1分程度)は、液体を均一な薄い膜の状態に広げることによって保証される。蒸発装置内の非凝縮性ガスの圧力を0.1Paより低く下げることによって、蒸留温度を下げることができる。通常、複雑で熱に弱い分子からなる天然の産物の分離、精製および濃縮に、分子蒸留は有望である。さらに、このプロセスは、溶媒を分離剤として用いる他の技法を凌ぐ利点(毒性による問題を避けること)を有する。遠心膜および流下膜は、蒸留される液体が蒸発シリンダーに短時間暴されることを用いる分子蒸留ユニットの2つの基本的なタイプである。これらのタイプの蒸留ユニットは、分子構造に同数の炭素を有する異性体を含めて、脂肪酸のような多くの異なる化合物の蒸留を実証し比較するために用いられてきた(例えば、この技術は、C18:3をC18:2、C18:1またはC18:0から分離するために使用できる)。
【0039】
精製プロセスは、1つまたは複数の中鎖長脂肪酸(例えば、C10、C11、C12、C13、またはC14)に富む1つまたは複数の精製オイルを生じる。さらなる実施形態において、1つまたは複数のフラクションは、炭素鎖長C16の脂肪酸に富む1つまたは複数のフラクションをさらに含む。
【0040】
別の実施形態において、前記方法は、1つまたは複数の中鎖長炭化水素フラクションをブレンドすることを含む。このようなブレンドは、所定の目的にとって望ましい、中鎖長脂肪酸フラクションの任意の組合せを含み得る(即ち、C10とC12;C12とC14;C10とC14;C8、C10とC16など)。例えば、ブレンドにより、特定の炭素鎖長の2つ以上の炭化水素に富む一連の精製オイルを得ることができる。
【0041】
一実施形態において、ブレンドは、灯油を製造するために使用され得る。本明細書では、「灯油」は、C8〜C16の範囲、好ましくは、C10〜C16、C8〜C14、またはC10〜C14の範囲の様々な炭化水素の配分であり、例えば、ジェットエンジン燃料(これらに限らないが、Jet−A、Jet−A1、Jet−B、JP−4、JP−5、JP−7、およびJP−8が含まれる)、ロケット燃料(これに限らないが、RP−1が含まれる)、加熱用燃料(例えば、灯油ヒーター、ポータブルコンロ、および他の加熱源に)として、また、電力が他の仕方では得られない場合の発電設備に使用され得る。灯油はまた、炭化水素フラクションから、中鎖長炭化水素フラクションを適切に生成させることによっても製造され得ることが当業者によって理解されるであろう。一実施形態において、灯油の製造は、中鎖炭化水素に富む2つ以上のフラクションを一緒にすることを含み、ここで、得られる灯油は、C10、C12、およびC14鎖長の炭化水素を、少なくとも50%含み;様々なさらなる実施形態では、炭素鎖長C10、C12、およびC14の炭化水素を、少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、89%、85%、90%、95%、98%含む。そのように一緒にされたフラクションは、同じまたは異なるタイプの中鎖長炭化水素を含み得る。別の実施形態において、灯油は、それぞれ、存在する場合、灯油に存在する全炭化水素の15%以下、好ましい実施形態では、それぞれ、存在する場合、灯油に存在する全炭化水素の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%未満、またはこれ以下の、炭素鎖長C16、C8および/またはC9の脂肪酸をさらに含み得る。
【0042】
こうして、許容されるJP−8代用燃料は、石油から誘導されるJP−8または、他の航空機燃料の仕様および必要条件により、他の添加剤と一緒に、中鎖長炭化水素に富む1つまたは複数のフラクションをブレンドすることによって得ることができる。
【0043】
本発明の第1の態様の全ての実施形態のさらなる実施形態において、第1藻類系統および1種または複数のさらなる藻類系統は、Pinguiococcus pyrenoidosus、Aphanocapsa sp.(Kenyon、1972年)、Biddulphia aurita(OrcuttおよびPatterson、1975年)、Crypthecodinium sp.、Emiliania huxleyi(Volkmanら、1981年)、Nitzschia alba(Tornabeneら、1974年)、Prymnesium parvum(LeeおよびLoeblich、1971年)、Skeletonema costatum(Ackmanら、1964年)、およびTrichodesmium erythraeum(Parkerら、1967年)からなる群から選択される。これらの有機体によって生成される中鎖脂肪酸のタイプ(従って、あり得る中鎖脂肪酸サブセット)は、図1または表1に見出すことができる。本明細書における教示に基づいて、当業者は、所望の中鎖長の組合せのタイプに応じて、どの藻類系統を使用すべきかを理解するであろう。特定の実施形態において、藻類系統は次の通りに同定される。
【0044】
Pinguiococcus pyrenoidosus(Pinguiophyceae): CCMP2078
Crypthecodinium sp.: CCMP316
Aphanocapsa sp.: CCMP2524
Odontella aurita: CCMP145
Emiliania huxleyi: CCMP1742
Nitzschia alba: CCMP2426
Prymnesium parvum: CCMP1962
Skeletonema costatum: CCMP1281
Trichodesmium sp.: CCMP1985
前記藻類系統の全ては、CCMP(所在地:Provasoli−Guillard National Center for the Culture of Marine Phytoplankton、Bigelow Laboratory for Ocean Sciences、P.O.Box 475、180 McKown Point Road、West Boothloay Harbor、Maine 04575、米国)から得ることができる。
【0045】
第2の態様において、本発明は、藻類の中鎖長脂肪酸の製造方法を提供し、この方法は、
(a)中鎖長脂肪酸の生成を促進する条件下でPinguiococcus pyrenoidosusを培養すること;および
(b)培養されたPinguiococcus pyrenoidosusからオイルを抽出すること(ここで、抽出されるオイルは、C14およびC16鎖長脂肪酸を含む);
を含む。
【0046】
本発明者らは、Pinguiococcus pyrenoidosus、例えばバリアントCCMP2078(下に記載される)は、大量の中鎖長脂肪酸を生成できることを発見した。こうして、本発明のこの第2の態様の方法は、これらに限らないが、藻類に基づく灯油代替物の製造、高品質洗剤、および研究用試薬(例えば、研究用途のために任意選択で標識され得る標準として使用される単一鎖長の単離された炭化水素フラクション)を含めて、様々な目的に使用できる。
【0047】
本発明のこの第2の態様において用いられる用語は、本発明の第1の態様に記載のものと同じ意味を有し、第1の態様の実施形態もまた、この第2の態様に適用できる。さらなる実施形態において、前記方法は、Pinguiococcus pyrenoidosusから抽出されたオイルを、炭化水素フラクションに変換することを含み、ここで、炭化水素フラクションは上で定義された通りである。別の実施形態において、前記方法は、中鎖長炭化水素に富む1つまたは複数のフラクションを生成するために、炭化水素フラクションを精製することを含み、ここで、1つまたは複数のフラクションは、炭素鎖長C14の炭化水素に富む少なくとも1つのフラクションを含む。さらなる実施形態において、1つまたは複数のフラクションは、炭素鎖長C16の炭化水素に富む少なくとも1つのフラクションを含む。さらなる実施形態において、前記方法は、例えば灯油を生成するために、中鎖長炭化水素に富む1つまたは複数のフラクションをブレンドすることを含む。このようなブレンドをすることは、別の藻類系統から誘導される中鎖長炭化水素フラクション、例えば、C10および/またはC12鎖長の炭化水素鎖(例えば、Crypthecodinium sp.および/またはTrichodesmium erythraeumから誘導されるもの)とブレンドすることをさらに含み得る。この第2の態様の方法はまた、本発明の第1の態様において上で開示されたように、藻類バイオマスを分離すること、ならびに/あるいは短鎖炭化水素分子および/またはグリセロールを分離することも含み得る。
【0048】
第3の態様において、本発明は、藻類中鎖長脂肪酸または炭化水素の製造方法を提供し、この方法は、
(a)中鎖長脂肪酸の生成を促進する条件下でPinguiococcus pyrenoidosusを培養すること;
(b)大量のC10および/またはC12鎖長脂肪酸を生成し、蓄積できる1種または複数のさらなる藻類系統を培養すること(ここで、培養は、C10および/またはC12鎖長脂肪酸の生成を促進するのに適する条件下で実施される);および
(c)中鎖長の組合せを生成するために、培養されたPinguiococcus pyrenoidosusおよび1種または複数のさらなる藻類系統からオイルを抽出すること(ここで、中鎖長の組合せは、炭素鎖長C14、ならびに、炭素鎖長C10およびC12の1つまたは複数の脂肪酸または炭化水素を含む);
を含む。
【0049】
本発明のこの第3の態様の方法は、これらに限らないが、藻類に基づく灯油代替物の製造、高品質洗剤、および研究用試薬(例えば、研究用途のために任意選択で標識され得る標準として使用される単一鎖長の単離された炭化水素フラクション)を含めて、様々な目的に使用できる。本発明のこの第3の態様において用いられる用語は、本発明の第1の態様に記載のものと同じ意味を有し、第1の態様の実施形態もまた、この第3の態様に適用できる。様々な実施形態において、1種または複数のさらなる藻類系統は、Crypthecodinium sp.およびTrichodesmium erythraeumの一方または両方である。さらなる実施形態において、中鎖長の組合せは、炭素鎖長C10、C12、およびC14の脂肪酸または炭化水素を含む。さらなる実施形態において、中鎖長の組合せは、炭素鎖長C16の脂肪酸または炭化水素を含む。さらなる実施形態において、中鎖長の組合せは、Pinguiococcus pyrenoidosus、および1種または複数のさらなる藻類系統から抽出されたオイルを、オイル抽出後に一緒にすることによって調製される。さらなる実施形態において、中鎖長の組合せは、Pinguiococcus pyrenoidosus、および1種または複数のさらなる藻類系統の両方を含む培養物からオイルを抽出することによって調製される。さらなる実施形態において、前記方法は、Pinguiococcus pyrenoidosus、および1種または複数のさらなる藻類系統から抽出されたオイルを、炭化水素フラクションに変換することを含み、ここで、炭化水素フラクションは上で定義された通りである。別の実施形態において、前記方法は、中鎖長炭化水素に富む1つまたは複数のフラクションを生成するために、炭化水素フラクションを精製することをさらに含み、ここで、1つまたは複数のフラクションは、炭素鎖長C10、C12、および/またはC14の炭化水素に富む1つまたは複数のフラクションを含む。さらなる実施形態において、1つまたは複数のフラクションは、炭素鎖長C16の炭化水素に富む少なくとも1つのフラクションを含む。さらなる実施形態において、前記方法は、例えば灯油を生成するために、中鎖長炭化水素に富む1つまたは複数のフラクションをブレンドすることを含む。この第3の態様の方法はまた、上に記載のように、藻類バイオマスを分離すること、ならびに/あるいは短鎖炭化水素分子および/またはグリセロールを分離することも含み得る。上のいずれかのさらなる実施形態において、1種または複数のさらなる藻類系統は、第2藻類系統および第3藻類系統を含み、ここで、第3藻類系統は、Aphanocapsa sp.、Biddulphia aurita、Crypthecodinium sp.、Emiliania huxleyi、Nitzschia alba、Prymnesium parvum、Skeletonema costatum、およびTrichodesmium erythraeumからなる群から選択される。
【0050】
第4の態様において、本発明は、藻類の中鎖長脂肪酸または炭化水素の製造方法を提供し、この方法は、
(a)中鎖長脂肪酸の生成を促進する条件下でTrichodesmium erythraeumを培養すること(ここで、中鎖長脂肪酸はC10鎖長脂肪酸を含む);
(b)中鎖長脂肪酸の生成を促進する条件下でCrypthecodinium sp.を培養すること(ここで、中鎖長脂肪酸はC12鎖長脂肪酸を含む);および
(c)中鎖長の組合せを生成するために、培養されたTrichodesmium erythraeumおよびCrypthecodinium sp.からオイルを抽出すること(ここで、中鎖長の組合せは、炭素鎖長C10およびC12の脂肪酸または炭化水素を含む);
を含む。
【0051】
本発明のこの第4の態様の方法は、これらに限らないが、藻類に基づく灯油代替物の製造、高品質洗剤、および研究用試薬(例えば、研究用途のために任意選択で標識され得る標準として使用される単一鎖長の単離された炭化水素フラクション)を含めて、様々な目的に使用できる。本発明のこの第4の態様において用いられる用語は、本発明の第1の態様に記載のものと同じ意味を有し、第1の態様の実施形態もまた、この第4の態様に適用できる。一実施形態において、中鎖長の組合せは、炭素鎖長C14の脂肪酸または炭化水素をさらに含む。さらなる実施形態において、前記方法は、(d)Pinguiococcus pyrenoidosus、Aphanocapsa sp.、Biddulphia aurita、Emiliania huxleyi、Nitzschia alba、Prymnesium parvum、およびSkeletonema costatumからなる群から選択される1種または複数の藻類系統を、中鎖長脂肪酸の生成を促進する条件下で培養すること(ここで、中鎖長脂肪酸はC14および/またはC16鎖長の脂肪酸を含む);および(e)中鎖長の組合せに含めるために、培養された1種または複数の藻類系統からオイルを抽出すること(ここで、中鎖長の組合せは、炭素鎖長C14および/またはC16の脂肪酸または炭化水素を含む);をさらに含む。さらなる実施形態において、中鎖長の組合せは、Trichodesmium erythraeumおよびCrypthecodinium sp.の培養物から抽出されるオイルを、オイル抽出後に一緒にすることによって調製される。別の実施形態において、中鎖長の組合せは、Trichodesmium erythraeumおよびCrypthecodinium sp.の両方を含む培養物からオイルを抽出することによって調製される。別の実施形態において、中鎖長の組合せは、Trichodesmium erythraeum、Crypthecodinium sp.、および1種または複数の藻類系統の培養物から抽出されたオイルを、オイル抽出後に一緒にすることによって調製される。さらなる実施形態において、中鎖長の組合せは、Trichodesmium erythraeum、Crypthecodinium sp.、および1種または複数の藻類系統を含む培養物からオイルを抽出することによって調製される。さらなる実施形態において、前記方法は、藻類系統から抽出されたオイルを、上で定義された炭化水素フラクションに変換することを含む。前記方法は、中鎖長炭化水素に富む1つまたは複数のフラクションを生成するために、炭化水素フラクションを精製することをさらに含んでいてもよく、ここで、1つまたは複数のフラクションは、炭素鎖長C10およびC12の炭化水素(また場合によっては、C14および/またはC16の炭化水素)に富む1つまたは複数のフラクションを含む。前記方法は、例えば灯油を生成するために、中鎖長炭化水素に富む1つまたは複数のフラクションをブレンドすることをさらに含み得る。様々なさらなる実施形態において、前記方法は、本発明の第1の態様に詳細に記載されたように、藻類バイオマスを分離すること、ならびに/あるいは短鎖炭化水素分子および/またはグリセロールを分離することをさらに含む。
【0052】
第5の態様において、本発明は、Pinguiococcus pyrenoidosus、Aphanocapsa sp.、Biddulphia aurita、Crypthecodinium sp.、Emiliania huxleyi、Nitzschia alba、Prymnesium parvum、Skeletonema costatum、およびTrichodesmium erythraeumからなる群から選択される2種以上の分離された藻類系統を含む構成物を提供し、ここで、2種以上の藻類系統は、構成物に存在する藻類の少なくとも90%を占める。さらなる実施形態において、構成物に存在する藻類の少なくとも95%、98%、または99%が、列挙された前記藻類タイプの藻類である。分離された藻類構成物は、培養されるか、あるいは溶液として、凍結して、乾燥して、または固形寒天プレート上で保管され得る。代わりに、構成物には、例えば藻類粉末の状態の、採取された藻類構成物(未乾燥、または乾燥後の)が含まれ得る。特定の実施形態において、藻類系統は次の通りに同定される。
【0053】
Pinguiococcus pyrenoidosus(Pinguiophyceae): CCMP2078
Crypthecodinium sp.: CCMP316
Aphanocapsa sp.: CCMP2524
Odontella aurita: CCMP145
Emiliania huxleyi: CCMP1742
Nitzschia alba: CCMP2426
Prymnesium parvum: CCMP1962
Skeletonema costatum: CCMP1281
Trichodesmium sp.: CCMP1985
全ての藻類系統は、CCMP(所在地:Provasoli−Guillard National Center for the Culture of Marine Phytoplankton、Bigelow Laboratory for Ocean Sciences、P.O.Box 475、180 McKown Point Road、West Boothloay Harbor、Maine 04575、米国)から得ることができる。
【0054】
本発明のこの態様の構成物は、例えば、本発明の方法において使用できる。一実施形態において、前記構成物は、前記群から選択される、3種以上の分離された藻類種を含む。さらなる実施形態において、2種以上の分離された藻類系統は、Pinguiococcus pyrenoidosusを含む。さらなる実施形態において、2種以上の分離された藻類系統は、Crypthecodinium sp.およびTrichodesmium erythraeumの一方または両方を含む。
【0055】
第6の態様において、本発明は、
(a)増殖培地;および
(b)本発明の第5の態様の構成物のいずれかの実施形態の構成物;
を含む実質的に純粋な培養物を提供する。
【0056】
本明細書では、「増殖培地」という用語は、本発明の藻類を培養するのに適する任意の培地を表す。本発明の藻類は、COおよび日光に加えて、最低限の量の微量栄養素で、光合成により増殖できる。増殖培地の容積は、標準的な実験室での培養であっても、例えば中鎖脂肪酸生成に使用される大規模培養であっても、何らかの目的に対して藻類の培養に適する任意の容積であってよい。適切な藻類増殖培地は、これに限らないが、BG−11増殖培地(例えば、Rippka、1979年を参照)を含めて、このような任意の培地であってよく、10°と38℃の間の培養温度が用いられ、他の実施形態では、15°と30°の間の温度範囲が用いられる。同様に、20μmolm−2−1から1000μmolm−2−1の光の強度が用いられ、様々な実施形態では、この範囲は、100μmolm−2−1から500μmolm−2−1、または、150μmolm−2−1から250μmolm−2−1であり得る。さらに、通気が、0%と20%の間のCOで実施され、様々な実施形態では、通気は、0.5%と10%の間のCO、0.5%から5%の間のCO、または、0.5%と2%の間のCOで実施される。
【0057】
維持と保管の目的で、本発明の構成物は、標準の人工増殖培地に維持され得る。通常の維持の目的では、構成物は、適度な範囲の光強度(10から40μmolm−2−1)の連続照射または明/暗サイクルのいずれか、および温度(18℃から25℃)の下で、液体培養物、または固形寒天プレートに保たれる。培養物のpHは、pH6.5からpH9.5まで変わり得る。CO富化をしないことが構成物の維持には必要とされる。様々な非限定的例において、増殖タンクにおける培地の温度は、好ましくは、約10℃から約38℃に、さらなる実施形態では、約20℃から約30℃の間に保たれる。様々な実施形態において、本発明の構成物を培養するのに有用な増殖培地は、上に記載されたように、廃水または廃ガスを含む。
【0058】
第7の態様において、本発明は藻類由来炭化水素フラクションを提供する。一実施形態において、藻類由来の炭化水素フラクションは、本発明の第1、第2、第3、または第4の態様のいずれか1つの任意の実施形態の方法によって生成される。第1、第2、第3、および第4の実施形態の用語および実施形態は、この第7の実施形態に適用できる。前記炭化水素フラクションに存在する少なくとも30%の炭化水素は、中鎖長炭化水素である。さらなる実施形態では、炭化水素フラクションに存在する少なくとも35%、40%、45%、50%、55%、またはこれ以上の炭化水素が中鎖長炭化水素である。
【0059】
第8の態様において、本発明は、藻類由来の分離された中鎖炭化水素フラクションを提供する。一実施形態において、藻類由来の分離された中鎖炭化水素フラクションは、本発明の第1、第2、第3、または第4の態様のいずれか1つの任意の実施形態の方法によって生成される。第1、第2、第3、または第4の実施形態の用語および実施形態は、この第7の実施形態に適用できる。中鎖長炭化水素に富む各フラクションに存在する少なくとも90%の炭化水素は、所望の(複数の)鎖長の炭化水素である。様々なさらなる実施形態において、中鎖長炭化水素に富む各フラクションに存在する少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはこれ以上が、所望の(複数の)鎖長の炭化水素である。
【0060】
第9の態様において、本発明は藻類由来の灯油を提供する。一実施形態において、藻類由来の灯油は、本発明の第1、第2、第3、または第4の態様のいずれか1つの任意の実施形態の方法によって生成される。第1、第2、第3、および第4の実施形態の用語および実施形態は、この第7の実施形態に適用できる。一実施形態において、灯油を製造することは、中鎖炭化水素に富む2つ以上のフラクションを一緒にすることを含み、ここで、得られる灯油は、少なくとも50%のC10、C12、およびC14鎖長の炭化水素を含み、様々なさらなる実施形態では、少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、89%、85%、90%、95%、98%の炭素鎖長C10、C12、およびC14炭化水素を含む。そのように一緒にされたフラクションは、同じタイプまたは異なる中鎖長炭化水素を含み得る。別の実施形態において、灯油は、炭素鎖長C16、C8および/またはC9脂肪酸をそれぞれ、存在する場合、灯油に存在する全炭化水素の15%以下で、好ましい実施形態では、それぞれ、存在する場合、灯油に存在する全炭化水素の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%未満で、またはこれ以下で含む。
【実施例】
【0061】
(実施例1)
提案された藻類に基づくジェット燃料製造技術の一般的なプロセス図を、図2に示す。
【0062】
様々な非限定的実施例において、以下のプロセスが、藻類に基づく中鎖長脂肪酸生成に関連して実施され得る。
【0063】
・ 同じかまたは異なる設計の1つまたは複数のフォトバイオリアクターにおいて増殖する、いくらかの選択された藻類種を用いる、藻類原料の生成。選択された各藻類種は、1つまたは複数の中鎖脂肪酸/エステルに富む大量のオイルを生成するであろう。
【0064】
・ オイルに富む細胞を採取し、藻類粉末の状態に乾燥する。
【0065】
・ 藻類粉末を、化学抽出法を用いて溶媒抽出にかける。超臨界液体抽出法もまた、代わりに用いることができる。
【0066】
・ 得られる藻類オイルに、脱酸素/ヒドロキシル化のプロセスを行なって、藻類オイルを炭化水素に変換する。
【0067】
・ 分離/精製の技術により、脱酸素プロセスから、所望の炭化水素フラクションを分離し、濃縮する。結果として、特定の炭素鎖長の1つまたは複数の炭化水素に富む一連の精製オイルを生成する。
【0068】
・ 許容されるJP−8代用燃料は、石油由来JP−8または他の航空機燃料の仕様および必要条件により、他の添加剤と一緒に、いくつかの精製藻類オイルをブレンドすることによって得る。
【0069】
・ 藻類オイル抽出からの副生成物として、藻類バイオマス残渣を調製し、嵩のある材料として、例えば、タンパク質に富む動物の餌、または多糖に富むバイオポリマーおよび肥料に用いる。高付加価値カロテノイド(例えば、ベータ−カロテン、ゼアキサンチン、ルテイン、およびアスタキサンチン)のような、いくつかの特殊製品もまた、選択された藻類系統から抽出し、分離できる。
【0070】
・ オイル抽出プロセスからの、炭化水素を多く含有するバイオマス残渣も、また、得ることができ、エタノールおよび/またはメタンを製造するために、発酵または嫌気性消化のための基質として使用でき、エタノールおよび/またはメタンは、次には、藻類の大量培養およびオイル処理/精製プロセスに必要とされる電気/エネルギーの生成に使用できる。残される消化されないバイオマス残渣は、さらなる熱および電気のために焼却できる。嫌気性消化および焼却プロセスによるCOの発生は、藻類によって用いられるように、リサイクルしてフォトバイオリアクターに戻すことができるので、結果的に正味のCO放出はゼロになる。
【0071】
・ 本発明の方法は、中鎖脂肪酸抽出および炭化水素への変換のために藻類を用い、したがって、炭化水素製造のためにクラッキングを用いる必要性を最低限にするか、または無くすので、コストおよびエネルギー消費を大いに低減する。さらに、得られる短鎖炭化水素分子は、最終ガスまたはガソリンを製造するために、本発明の方法の副生成物として分離できる。
【0072】
(実施例2)
本発明者らは、本発明者らの研究室が隔離し、維持している多数の藻類種/系統から、中鎖オイル生成体のスクリーニングを実施した。本発明者らの研究室において試験した藻類系統の1つは、海産藻類であるPinguiococcus pyrenoidosus(Pinguiophyceae)CCMP2078(Provasoli−Guillard National Center for the Culture of Marine Phytoplankton、Bigelow Laboratory for Ocean Sciences、P.O.Box 475、180 McKown Point Road、West Boothloay Harbor、Maine 04575、米国)であり、これは、C14脂肪酸に富む脂質を生成する能力を有しており、C14脂肪酸は、細胞で生成される全脂肪酸の30から50%を占め得る。Pinguiococcus pyrenoidosusの脂肪酸組成は、表1に開示されている。
【0073】
【表1】

図1は、例として、主たる炭素鎖長(全脂肪酸の30から70%)として中鎖脂肪酸を含む、8種類の中鎖オイル生成性藻類種を列挙する。
【0074】
本発明者らの研究は、Crypthecodinium sp CCMP316(Provasoli−Guillard National Center for the Culture of Marine Phytoplankton、Bigelow Laboratory for Ocean Sciences、P.O.Box 475、180 McKown Point Road、West Boothloay Harbor、Maine 04575、米国)が、商業生産に用いられる多くの速く増殖する藻類に匹敵する、5から10時間の範囲の平均倍加時間を有する増殖速度を示すことを明らかにした。この有機体のC12+C14の脂肪酸含量は、全細胞乾燥重量の40%超を占め得る。この系統はまた、唯一の炭素およびエネルギー源としてグルコースを用いる従属栄養による増殖を行なうことが可能であることが見出され、細胞が、日中は光合成により有機化合物を生成し、夜間はグルコースの存在下にバイオマス/オイルの生成を続ける、屋外での大量培養に、この系統を特に適切なものとしている。さらに、この系統は、C12およびC14脂肪酸を、通常の増殖条件下で蓄積でき、脂質生合成経路に関与する遺伝子/酵素によるそれらの構成的発現(constitutive expression)、最適な培養条件下で、細胞塊とC12およびC14脂肪酸との相伴う持続可能な最大の生成を保証する望ましい代謝特性を暗示している。これは、不利な増殖条件下でのみ長鎖(C16およびC18)脂肪酸を蓄積し、結果的にバイオマス生産性が低下する、すでに報告された多くの藻類種/系統と大きく異なる。本発明者らのC10からC14藻類系統はまた、コロニーを形成する緑藻類Botryococcous braunii(これは極めてゆっくりと増殖し(例えば、単細胞クロレラの速度の1/10)、環境ストレス条件下で長鎖炭化水素(C23からC40)のみを生成でき、これらの長鎖炭化水素は、それら自体では、灯油系JP−8として直ちに使用できず、エネルギー集約的なプロセスである熱的/化学的クラッキングを受けなければならない)とも異なる。
【0075】
【化1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)大量の第1の中鎖長脂肪酸サブセットを生成できる第1の藻類系統を培養すること(ここで、該培養は、該第1の中鎖脂肪酸サブセットの生成を促進するのに適する条件下で実施される);
(b)大量の第2のまたはさらなる中鎖長脂肪酸サブセットを生成できる1種または複数のさらなる藻類系統を培養すること(ここで、該培養は、該第2の中鎖脂肪酸サブセットの生成を促進するのに適する条件下で実施される);および
(c)中鎖長の組合せを生成するために、第1の藻類系統および1種または複数のさらなる藻類系統からオイルを抽出すること(ここで、該中鎖長の組合せは、炭素鎖長C10、C12、およびC14の脂肪酸または炭化水素を含み、第1の藻類系統からのオイルそれ自体も、1種または複数のさらなる藻類系統の任意の1種からのオイルそれ自体も、検出できるレベルの炭素鎖長C10、C12、およびC14の各々の脂肪酸は含まない)
を含む、藻類の中鎖長脂肪酸または炭化水素の製造方法。
【請求項2】
前記中鎖長の組合せが、炭素鎖長C16の脂肪酸または炭化水素をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の藻類系統および1種または複数のさらなる藻類系統が別々に培養される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の藻類系統および1種または複数のさらなる藻類系統が共存培養される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
第1の藻類系統および1種または複数のさらなる藻類系統から抽出されたオイルを、炭化水素フラクションに変換することをさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
中鎖長炭化水素に富む1つまたは複数のフラクションを生成するために、炭化水素フラクションを精製することをさらに含み、1つまたは複数のフラクションが、炭素鎖長C10、C12、およびC14の炭化水素に富む1つまたは複数のフラクションを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記1つまたは複数のフラクションが、炭素鎖長C16炭化水素に富む1つまたは複数のフラクションをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
中鎖長炭化水素に富む1つまたは複数のフラクションから灯油を製造することをさらに含む、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
藻類バイオマス残渣を分離することをさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
短鎖炭化水素分子および/またはグリセロールを分離することをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
1種または複数のさらなる藻類系統が、第2の藻類系統および第3の藻類系統を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
第1の藻類系統が、Pinguiococcus pyrenoidosus、Aphanocapsa sp.、Biddulphia aurita、Crypthecodinium sp.、Emiliania huxleyi、Nitzschia alba、Prymnesium parvum、Skeletonema costatum、およびTrichodesmium erythraeumからなる群から選択される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
(a)中鎖長脂肪酸の生成を促進するのに適する条件下でPinguiococcus pyrenoidosusを培養すること;および
(b)培養されたPinguiococcus pyrenoidosusからオイルを抽出すること(ここで、抽出されるオイルは、C14およびC16鎖長脂肪酸を含む)
を含む、藻類中鎖長脂肪酸の製造方法。
【請求項15】
Pinguiococcus pyrenoidosusから抽出されたオイルを、炭化水素フラクションに変換することをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
中鎖長炭化水素に富む1つまたは複数のフラクションを生成するために、炭化水素フラクションを精製することを含み、1つまたは複数のフラクションが、炭素鎖長C14炭化水素に富む少なくとも1つのフラクションを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
1つまたは複数のフラクションが、炭素鎖長C16炭化水素に富む少なくとも1つのフラクションを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
中鎖長炭化水素に富む1つまたは複数のフラクションから灯油を製造することをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
藻類バイオマスを分離することをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
短鎖炭化水素分子および/またはグリセロールを分離することをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
(a)中鎖長脂肪酸の生成を促進するのに適する条件下でPinguiococcus pyrenoidosusを培養すること;
(b)大量のC10および/またはC12鎖長脂肪酸を生成し、蓄積できる1種または複数のさらなる藻類系統を培養すること(ここで、該培養は、C10および/またはC12鎖長脂肪酸の生成を促進するのに適する条件下で実施される);および
(c)中鎖長の組合せを生成するために、培養されたPinguiococcus pyrenoidosusおよび1種または複数のさらなる藻類系統からオイルを抽出すること(ここで、該中鎖長の組合せは、炭素鎖長C14、ならびに、C10およびC12の1つまたは複数の脂肪酸または炭化水素を含む)
を含む、藻類中鎖長脂肪酸または炭化水素の製造方法。
【請求項22】
前記1種または複数のさらなる藻類系統が、Crypthecodinium sp.およびTrichodesmium erythraeumの一方または両方である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記中鎖長の組合せが、Pinguiococcus pyrenoidosusおよび1種または複数のさらなる藻類系統から抽出されるオイルを、オイル抽出後に一緒にすることによって調製される、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
前記中鎖長の組合せが、Pinguiococcus pyrenoidosusおよび1種または複数のさらなる藻類系統の両方を含む培養物からオイルを抽出することによって調製される、請求項21または22に記載の方法。
【請求項25】
前記中鎖長の組合せを炭化水素フラクションに変換することをさらに含む、請求項21から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
中鎖長炭化水素に富む1つまたは複数のフラクションを生成するために、炭化水素フラクションを精製することをさらに含み、1つまたは複数のフラクションが、炭素鎖長C10、C12、およびC14の炭化水素に富む1つまたは複数のフラクションを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記1つまたは複数のフラクションが、炭素鎖長C16炭化水素に富む1つまたは複数のフラクションをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
中鎖長炭化水素に富む1つまたは複数のフラクションから灯油を製造することをさらに含む、請求項26または27に記載の方法。
【請求項29】
藻類バイオマスを分離することをさらに含む、請求項21または22に記載の方法。
【請求項30】
短鎖炭化水素分子および/またはグリセロールを分離することをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
前記1種または複数のさらなる藻類系統が、第2の藻類系統および第3の藻類系統を含み、第3の藻類系統が、Aphanocapsa sp.、Biddulphia aurita、Crypthecodinium sp.、Emiliania huxleyi、Nitzschia alba、Prymnesium parvum、Skeletonema costatum、およびTrichodesmium erythraeumからなる群から選択される、請求項21から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
(a)中鎖長脂肪酸の生成を促進するのに適する条件下でTrichodesmium erythraeumを培養すること(ここで、該中鎖長脂肪酸はC10鎖長脂肪酸を含む);
(b)中鎖長脂肪酸の生成を促進するのに適する条件下でCrypthecodinium sp.を培養すること(ここで、該中鎖長脂肪酸はC12鎖長脂肪酸を含む);および
(c)中鎖長の組合せを生成するために、培養されたTrichodesmium erythraeumおよびCrypthecodinium sp.からオイルを抽出すること(ここで、該中鎖長の組合せは、炭素鎖長C10およびC12の脂肪酸または炭化水素を含む)
を含む、藻類中鎖長脂肪酸または炭化水素の製造方法。
【請求項33】
前記中鎖長の組合せが、炭素鎖長C14の脂肪酸または炭化水素をさらに含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
(d)Pinguiococcus pyrenoidosus、Aphanocapsa sp.、Biddulphia aurita、Emiliania huxleyi、Nitzschia alba、Prymnesium parvum、およびSkeletonema costatumからなる群から選択される1種または複数の藻類系統を、中鎖長脂肪酸の生成を促進するのに適する条件下で培養すること(ここで、該中鎖長脂肪酸はC14および/またはC16鎖長の脂肪酸を含む);および
(e)前記中鎖長の組合せに含めるために、培養された1種または複数の藻類系統からオイルを抽出すること(ここで、中鎖長の組合せは、炭素鎖長C14および/またはC16の脂肪酸または炭化水素を含む)
をさらに含む、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記中鎖長の組合せが、Trichodesmium erythraeumおよびCrypthecodinium sp.の培養物から抽出されたオイルを、オイル抽出後に一緒にすることによって調製される、請求項32または33に記載の方法。
【請求項36】
前記中鎖長の組合せが、Trichodesmium erythraeumおよびCrypthecodinium sp.の両方を含む培養物からオイルを抽出することによって調製される、請求項32または33に記載の方法。
【請求項37】
前記中鎖長の組合せを炭化水素フラクションに変換することをさらに含む、請求項32から36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
中鎖長炭化水素に富む1つまたは複数のフラクションを生成するために、炭化水素フラクションを精製することをさらに含み、該1つまたは複数のフラクションが、炭素鎖長C10、C12、およびC14炭化水素に富む1つまたは複数のフラクションを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記1つまたは複数のフラクションが、炭素鎖長C16炭化水素に富む1つまたは複数のフラクションをさらに含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
中鎖長炭化水素に富む1つまたは複数のフラクションから灯油を製造することをさらに含む、請求項38または39に記載の方法。
【請求項41】
藻類バイオマスを分離することをさらに含む、請求項32から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
短鎖炭化水素分子および/またはグリセロールを分離することをさらに含む、請求項37に記載の方法。
【請求項43】
Pinguiococcus pyrenoidosus、Aphanocapsa sp.、Biddulphia aurita、Crypthecodinium sp.、Emiliania huxleyi、Nitzschia alba、Prymnesium parvum、Skeletonema costatum、およびTrichodesmium erythraeumからなる群から選択される2種以上の分離された藻類系統を含み、該2種以上の藻類系統が構成物に存在する藻類の少なくとも90%を占める構成物。
【請求項44】
前記群から選択される3種以上の分離された藻類種を含む、請求項43に記載の構成物。
【請求項45】
2種以上の分離された藻類系統がPinguiococcus pyrenoidosusを含む、請求項43または44に記載の構成物。
【請求項46】
前記2種以上の分離された藻類系統が、Crypthecodinium sp.およびTrichodesmium erythraeumの一方または両方を含む、請求項45に記載の構成物。
【請求項47】
前記2種以上の分離された藻類系統が、Crypthecodinium sp.およびTrichodesmium erythraeumを含む、請求項43に記載の構成物。
【請求項48】
前記2種以上の分離された藻類系統が、Pinguiococcus pyrenoidosus、Aphanocapsa sp.、Biddulphia aurita、Emiliania huxleyi、Nitzschia alba、Prymnesium parvum、およびSkeletonema costatumからなる群から選択される藻類系統をさらに含む、請求項47に記載の構成物。
【請求項49】
(a)増殖培地;および
(b)請求項43から48のいずれか一項に記載の構成物
を含む実質的に純粋な培養物。
【請求項50】
請求項5、6、15、25、および37のいずれか一項に記載の方法によって生成される炭化水素フラクション。
【請求項51】
請求項7、8、16、26、27および38のいずれか一項に記載の方法によって生成される、分離された中鎖炭化水素フラクション。
【請求項52】
請求項9、18、28、および40のいずれか一項に記載の方法によって製造される灯油。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−503416(P2010−503416A)
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−528527(P2009−528527)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/078760
【国際公開番号】WO2008/036654
【国際公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(508336067)アリゾナ ボード オブ リージェンツ, ア ボディー コーポレイト オブ ザ ステート オブ アリゾナ アクティング フォー アンド オン ビハーフ オブ アリゾナ ステート ユニバーシティー (2)
【Fターム(参考)】