蛍光顕微鏡およびマイクロ分析チップ
【課題】自家蛍光の影響を排除しつつ十分な光量を取得し得る蛍光顕微鏡を提供する。
【解決手段】蛍光顕微鏡50は、蛍光物質に対する励起光を含む光を射出する光源52と、光源52からの励起光と蛍光物質から発生した蛍光とを分離する蛍光ミラーユニット56と、蛍光ミラーユニット56で分離された励起光をいったん収束させる収束レンズ58と、収束レンズ58による収束面に配置された、少なくとも一つの光学的開口を有する共焦点開口板60と、共焦点開口板60を通過した励起光を収束させるとともに蛍光物質から発生した蛍光を集光する対物レンズ66と、共焦点開口板60に対して共焦点に配置された、蛍光物質から発生した蛍光を検出する光検出器70とを有している。共焦点開口板60の光学的開口は、励起光が照射されるマイクロ分析チップ10の検出領域40内の流路20の形状に対応した形状を有している。
【解決手段】蛍光顕微鏡50は、蛍光物質に対する励起光を含む光を射出する光源52と、光源52からの励起光と蛍光物質から発生した蛍光とを分離する蛍光ミラーユニット56と、蛍光ミラーユニット56で分離された励起光をいったん収束させる収束レンズ58と、収束レンズ58による収束面に配置された、少なくとも一つの光学的開口を有する共焦点開口板60と、共焦点開口板60を通過した励起光を収束させるとともに蛍光物質から発生した蛍光を集光する対物レンズ66と、共焦点開口板60に対して共焦点に配置された、蛍光物質から発生した蛍光を検出する光検出器70とを有している。共焦点開口板60の光学的開口は、励起光が照射されるマイクロ分析チップ10の検出領域40内の流路20の形状に対応した形状を有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光観察において、基板が発する自家蛍光がノイズとなって測定値のS/Nを劣化させるという不具合がある。この不具合を解消する有効な手法の一つは、共焦点光学系を使用することである。共焦点光学系とは、結像面にピンホールを配置した光学系である。この共焦点光学系では、合焦位置からの光はピンホールを通って検出されるが、合焦位置以外からの光はピンホールを通過できず検出されない。このため、合焦位置からの光だけを選択的に取得し得る。
【0003】
共焦点光学系の一例は、たとえば特開2005−309415号公報に開示されている。
【特許文献1】特開2005−309415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、共焦点光学系では、合焦位置からの光だけを選択的に検出し得る反面、多くの光はピンホールで遮断される。このため、十分な光量を取得できないという事態もある。
【0005】
本発明の目的は、自家蛍光の影響を排除しつつ十分な光量を取得し得る蛍光顕微鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、蛍光物質を含む流体が流れる流路を有するマイクロ分析チップを用いて蛍光観察を行なうための蛍光顕微鏡である。この蛍光顕微鏡は、前記蛍光物質に対する励起光を含む光を射出する光源と、前記光源からの前記励起光と前記蛍光物質から発生した蛍光とを分離する蛍光ミラーユニットと、前記蛍光ミラーユニットで分離された前記励起光をいったん収束させる収束レンズと、前記収束レンズによる収束面に配置された、少なくとも一つの光学的開口を有する共焦点開口板と、前記共焦点開口板を通過した前記励起光を収束させるとともに前記蛍光物質から発生した蛍光を集光する対物レンズと、前記共焦点開口板に対して共焦点に配置された、前記蛍光物質から発生した蛍光を検出する光検出器とを有している。前記光学的開口は、前記励起光が照射される前記マイクロ分析チップの検出領域内の前記流路の形状に対応した形状を有している。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、自家蛍光の影響を排除しつつ十分な光量を取得し得る蛍光顕微鏡が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0009】
<第一実施形態>
免疫分析装置は、臨床検査医療において、血清中に含まれる腫瘍マーカー、各種ホルモン、感染症の病原体の抗体などの測定に用いられる。この種の装置においては、被験者の負担を軽減するために、測定に用いる検体の量をより少なくすることが求められている。少量の検体による測定を可能にする方法として、測定に必要な一連の工程を一つの基板(チップ)上で行なうLOC(lab on a chip、ラボオンアチップ)という技術がある。LOCの一例では、大きさ数cmのプラスチック製基板に設けた微小な流路内で検体と試薬の導入・攪拌・測定を行なう。
【0010】
図1は、本発明の第一実施形態で使用するマイクロ分析チップの構成を概略的に示している。図1に示すように、マイクロ分析チップ10は、検出対象の蛍光物質を含む流体が流れる微小な流路20を有している。流路20は第一流路22と第二流路24と第三流路26とから構成され、これらはほぼY字型に連結している。第一流路22の端部には第一液を導入するための第一導入口32が設けられ、第二流路24の端部には第二液を導入するための第二導入口34が設けられている。また、第三流路26の端部には排出口36が設けられており、排出口36には第一液と第二液を吸引するための吸引機構が取り付けられる。流路20は、蛍光物質に対する励起光が照射される検出領域40を除いて、遮光されている。
【0011】
マイクロ分析チップ10は、適宜な方法によって作製される。たとえば、流路20に対応する溝を形成した第一基板に、第二基板を張り合わされることによって作製される。これらの基板は、たとえば、PSやPMMAなどの樹脂材料をシリコンの型から射出成型して作製される。あるいは、半導体の加工技術を応用してシリコンなどの基板上に流路20になる溝を異方性エッチングなどの微細加工技術を用いて形成した後、この溝を覆う蓋体を基板に接合することによって作製してもよい。ガラス基板から作る手法も知られている。
【0012】
マイクロ分析チップ10は、これに限らないが、たとえば、外形寸法が約80mm×60mm×1.7mmである。流路20は、これに限らないが、たとえば、幅が約0.5mm、深さが約0.9mmである。
【0013】
第一液たとえば検体を含む流体が第一導入口32から第一流路22に導入される。また第二液たとえば試薬を含む流体が第二導入口34から第二流路24に導入される。第一液と第二液はそれぞれ第一流路22と第二流路24を通って第三流路26に進入し、第三流路26内で混合され所定の化学反応を起こす。
【0014】
免疫学的検査で使用される蛍光法は、蛍光検出イムノアッセイが知られている。この手法は、測定対象物体の抗原または抗体を、蛍光色素を標識した抗体または抗原に反応させ、励起光を照射した際に発生する蛍光量もしくは発光量を光検出器で検出する。たとえば、フルオレシンの結合した標識抗体を用いた場合、495nmの励起光を照射すると、515nm付近の蛍光が出る。
【0015】
図2は、図1のマイクロ分析チップを用いて蛍光観察を行なうための蛍光顕微鏡の構成を概略的に示している。図2に示すように、蛍光顕微鏡50は、光源52と、コリメートレンズ54と、蛍光ミラーユニット56と、収束レンズ58と、焦点開口板60と、コリメートレンズ64と、対物レンズ66と、収束レンズ68と、光検出器70とを有している。
【0016】
光源52は、蛍光物質に対する励起光を含む光を射出する。コリメートレンズ54は、光源52から射出された光を平行化する。蛍光ミラーユニット56は、光源52からの励起光と蛍光物質から発生した蛍光とを分離する。収束レンズ58は、蛍光ミラーユニット56で分離された励起光をいったん収束させる。共焦点開口板60は少なくとも一つの光学的開口を有し、収束レンズ58による収束面に配置される。コリメートレンズ64は、共焦点開口板60を通過した励起光を平行化する。対物レンズ66は、共焦点開口板60を通過した励起光を収束させるとともに、蛍光物質から発生した蛍光を集光する。収束レンズ68は、蛍光ミラーユニット56を通過した蛍光を収束させる光検出器70は、共焦点開口板60に対して共焦点に配置され、蛍光物質から発生した蛍光を検出する。共焦点開口板60の光学的開口は、励起光が照射されるマイクロ分析チップ10の検出領域40内の流路20の形状に対応した形状を有している。
【0017】
蛍光顕微鏡50の光学系は、収束レンズ58をパワーの高いものに変更し、コリメートレンズ54と収束レンズ68を省略することも可能である。さらに、対物レンズ66をパワーの高いものに変更することで、コリメートレンズ64を省略することもできる。
【0018】
光源52は、これに限らないが、たとえば、ハロゲンランプや水銀ランプ、レーザー、LEDで構成されてよい。光検出器70は、これに限らないが、たとえば、フォトダイオードやフォトマルチプライヤーで構成されてよい。光検出器70は、共焦点開口板60の光学的開口の投影像を受光できさえすれば、どのような素子で構成されてもよい。蛍光ミラーユニット56は、たとえば、励起光を選択的に透過する励起フィルターと、励起光を選択的に反射し蛍光を選択的に透過するダイクロイックミラーと、蛍光を選択的に透過する吸収フィルターとから構成されている。蛍光ミラーユニット56は、検出する蛍光物質に合った波長帯域のものが使用される。
【0019】
光源52から射出された光は、コリメートレンズ54によって平行化され、蛍光ミラーユニット56に到達する。蛍光ミラーユニット56は、蛍光物質に対する励起波長の光つまり励起光を選択的に反射する。蛍光ミラーユニット56で反射された励起光は、収束レンズ58によっていったん収束され、共焦点開口板60の光学的開口を通過する。その後、励起光は、コリメートレンズ64によって平行化され、対物レンズ66によって収束される。
【0020】
マイクロ分析チップ10の第三流路26内を流れる流体(たとえば反応液)中の蛍光物質は、励起光の照射を受けて蛍光を発生する。また励起光の一部はマイクロ分析チップ10で反射される。蛍光と励起光の一部は、対物レンズ66に入射し、コリメートレンズ64を経て、共焦点開口板60に達する。収束位置からの光は共焦点開口板60の光学的開口を通過し得るが、ほかの位置(光軸方向の位置)からの光は共焦点開口板60の光学的開口を通過し得ない。共焦点開口板60の光学的開口を通過した光は、収束レンズ58によって平行化され、蛍光ミラーユニット56に到達する。蛍光ミラーユニット56は、蛍光を選択的に透過し、励起光を反射する。蛍光ミラーユニット56を透過した蛍光は、収束レンズ68によって収束され、光検出器70に入射する。光検出器70は、受光した光の強度に対応した電気信号を出力する。
【0021】
本実施形態で使用するマイクロ分析チップ10では、図1に示すように、流路20(より詳しくは第三流路26)は、検出領域40内を直線的に延びている。
【0022】
図3は、このマイクロ分析チップ10に対して好適な共焦点開口板の構成を概略的に示している。この共焦点開口板60Aでは、図3に示すように、光学的開口は、直線的に延びている一本のスリット62Aで構成されている。スリット62Aの幅(短辺の長さ)は、マイクロ分析チップ10に投影されるスリット投影像において0.1〜10μmになる寸法に設定されている。前述したように流路20の幅は0.5mmであり、スリット投影像の幅は流路20の幅に比べて十分に狭い。
【0023】
ここで、流路20内から発生した蛍光は、スリット62Aを通過する。一方、スリット62Aの作用によって、流路20の上下の位置から発生する蛍光、すなわち、マイクロ分析チップ10の基板からの自家蛍光は好適に低減される。また励起光は、流路20の長手方向に広がりを伴って照射される。このため、これまでの単一のピンホールに比べて光検出器70に到達する蛍光の光量が増加し、光検出器70から出力される信号のS/Nが好適に改善される。
【0024】
図4は、本実施形態で使用するマイクロ分析チップ10に対して好適な別の共焦点開口板の構成を概略的に示している。この共焦点開口板60Bでは、図4に示すように、光学的開口は、直線的に並んだ複数のピンホール62Bで構成されている。ピンホール62Bの直径は、マイクロ分析チップ10に投影されるスリット投影像において0.1〜10μmになる寸法に設定されている。ピンホール投影像の直径は流路20の幅に比べて十分に狭い。
【0025】
ここで、流路20内から発生した蛍光は、ピンホール62Bを通過する。一方、ピンホール62Bの作用によって、流路20の上下の位置から発生する蛍光、すなわち、マイクロ分析チップ10の基板からの自家蛍光が好適に低減される。また励起光は、流路20の長手方向に沿って複数のスポットとして照射される。このため、光検出器70に到達する蛍光の光量が増加し、光検出器70から出力される信号のS/Nが好適に改善される。複数のピンホール62Bは、スリット62Aに比べて簡単に形成することができる。
【0026】
図5は、本実施形態で使用するマイクロ分析チップ10に対して好適なまた別の共焦点開口板の構成を概略的に示している。この共焦点開口板60Cでは、図5に示すように、光学的開口は、互いに平行に直線的に延びている複数本のスリット62Cで構成されている。各スリット62Cの幅(短辺の長さ)は、マイクロ分析チップ10に投影されるスリット投影像において0.1〜10μmになる寸法に設定されている。スリット投影像の幅は流路20の幅に比べて十分に狭い。また、スリット62Cは互いに、スリット62Cの幅の五倍以上離して配置されている。
【0027】
ここで、流路20内から発生した蛍光は、ピンホール62Cを通過する。一方、スリット62Cの作用によって、流路20の上下の位置から発生する蛍光、すなわち、マイクロ分析チップ10の基板からの自家蛍光が好適に低減される。また励起光は、流路20の長手方向に広がりを伴って照射される。また、図3の共焦点開口板60Aと比較して、スリット62Cの本数が多い分、光検出器70に到達する蛍光の光量が増加する。このため、光検出器70から出力される信号のS/Nがさらに好適に改善される。また、スリット62Cの間隔はスリット62Cの幅の五倍以上と広いため、基板で発生した自家蛍光はスリットの共焦点作用で遮断される。例えば、中央のスリットを通過した励起光は、基板上のある領域を通過する。この時、この領域から自家蛍光が発生する。発生した自家蛍光は、対物レンズ66とコリメートレンズ64によって、中央のスリットの手前で集光される。集光された自家蛍光は、発散しながら中央のスリットに向かう。この時、発散光の一部は、隣のスリットにも向かうが、隣り合うスリットの間隔が十分であるため、この間隔の部分で遮られることになる。その結果、発散した自家蛍光が、となりのスリットに到達することが無い。なお、中央のスリットの幅は上記のように十分小さいため、自家蛍光は中央のスリットをほとんど通過できない。
【0028】
図6は、図3〜図5に示した共焦点開口板に対して特に好適な収束レンズの構成を概略的に示している。蛍光ミラーユニット56と共焦点開口板60の間にある収束レンズ58は、図6に示すように、シリンドリカルレンズ58Aで構成されている。
【0029】
シリンドリカルレンズ58Aの作用によって、励起光は、直線状に収束されて、共焦点開口板60に照射される。これにより、スリット62A,62Cやピンホール62B列でのけられが少なくなる。このため、光検出器70に到達する蛍光の光量が増加し、光検出器70から出力される信号のS/Nが好適に改善される。
【0030】
蛍光顕微鏡50の光学系は、たとえば、共焦点開口板60から光検出器70までは縮小光学系である。これにより、光検出器70に投影されるスリット投影像を小さくすることができ、検出面の小さい光検出器を使用することができる。
【0031】
<第二実施形態>
図7は、本発明の第二実施形態で使用するマイクロ分析チップの構成を概略的に示している。図7に示すように、本実施形態で使用するマイクロ分析チップ10Aでは、流路20(より詳しくは第三流路26A)は、検出領域40内を蛇行して延びている。より詳しくは、流路20は、検出領域40内を矩形波状に蛇行して延びている。しかし、矩形波状の蛇行は、蛇行の形態の一例を示しているに過ぎず、蛇行の形態は、これに何ら限定されるものではない。
【0032】
図8は、このマイクロ分析チップ10Aに対して好適な共焦点開口板の構成を概略的に示している。この共焦点開口板60Dでは、図8に示すように、光学的開口は、第三流路26Aの蛇行と同様の形状に蛇行して延びている一本のスリット62Dで構成されている。スリット62Dの幅(短辺の長さ)は、マイクロ分析チップ10Aに投影されるスリット投影像において0.1〜10μmになる寸法に設定されている。スリット投影像の幅は流路20の幅に比べて十分に狭い。
【0033】
ここで、流路20内から発生した蛍光は、スリット62Dを通過する。一方、スリット62Dの作用によって、流路20の上下の位置から発生する蛍光、すなわち、マイクロ分析チップ10Aの基板からの自家蛍光が好適に低減される。また励起光は、蛇行している第三流路26Aと同じ形状で照射される。したがって、励起光は流路20に沿った長い範囲で照射される。このため、光検出器70に到達する蛍光の光量が増加し、光検出器70から出力される信号のS/Nが好適に改善される。
【0034】
図9は、このマイクロ分析チップ10Aに対して好適な別の共焦点開口板の構成を概略的に示している。この共焦点開口板60Eでは、図9に示すように、光学的開口は、第三流路26Aの蛇行に沿って延びている複数本のスリット62Eで構成されている。複数本のスリット62Eは、第三流路26Aの矩形波状の蛇行に対応して、互いに平行に直線的に延びている。スリット62Eの幅(短辺の長さ)は、マイクロ分析チップ10Aに投影されるスリット投影像において0.1〜10μmになる寸法に設定されている。スリット投影像の幅は流路20の幅に比べて十分に狭い。
【0035】
ここで、流路20内から発生した蛍光は、スリット62Eを通過する。一方、スリット62Eの作用によって、流路20の上下の位置から発生する蛍光、すなわち、マイクロ分析チップ10Aの基板からの自家蛍光が好適に低減される。また励起光は、第三流路26Aの複数の部分にその長手方向に広がりを伴って照射される。このため、光検出器70に到達する蛍光の光量が増加し、光検出器70から出力される信号のS/Nが好適に改善される。スリット62Eは互いにつながっていないため、蛇行しているスリット62Dに比べて簡単に形成することができる。
【0036】
<第三実施形態>
図10は、本発明の第三実施形態で使用するマイクロ分析チップの構成を概略的に示している。図10に示すように、本実施形態で使用するマイクロ分析チップ10Bでは、流路20(より詳しくは第三流路26B)は、検出領域40内を部分的に放射状に延びている。第三流路26Bは、曲がりながら放射状に延びていてもよいが、好ましくは、図10に示すように、直線的に放射状に延びているとよい。
【0037】
図11は、このマイクロ分析チップ10Bに対して好適な共焦点開口板の構成を概略的に示している。この共焦点開口板60Fでは、図11に示すように、光学的開口は、放射状に延びている複数本のスリット62Fで構成されている。複数本のスリット62Fは、たとえば、直線的に放射状に延びているスリット62Fの幅(短辺の長さ)は、マイクロ分析チップ10Bに投影されるスリット投影像において0.1〜10μmになる寸法に設定されている。スリット投影像の幅は流路20の幅に比べて十分に狭い。
【0038】
ここで、流路20内から発生した蛍光は、スリット62Fを通過する。一方、スリット62Fの作用によって、流路20の上下の位置から発生する蛍光、すなわち、マイクロ分析チップ10Bの基板からの自家蛍光が好適に低減される。また励起光は、第三流路26Bの放射状に延びている複数の部分にその長手方向に広がりを伴って照射される。このため、光検出器70に到達する蛍光の光量が増加し、光検出器70から出力される信号のS/Nが好適に改善される。
【0039】
また、前述の第二実施形態では、スリット62D,62Eと励起光が照射される流路20の部分とを共役にするためには、相対的な位置決めが正確になされているだけでなく、結像光学系(具体的にはコリメートレンズ64と対物レンズ66)は、ディストーションが十分に補正されているとともに光学横倍率にバラツキがないように十分に正確に作られている必要がある。これに対して本実施形態では、好ましくはスリット62Fと励起光が照射される流路20の部分とが直線的に放射状に延びているため、たとえディストーションが残存していたり、光学横倍率にバラツキがあったりしていても、これらの影響を考慮することなく、両者を容易に共役にすることができる。
【0040】
<第四実施形態>
図12は、本発明の第四実施形態で使用するマイクロ分析チップの構成を概略的に示している。図12に示すように、本実施形態で使用するマイクロ分析チップ10Cでは、流路20(より詳しくは第三流路26C)は、部分的に検出領域40内を同心円状に延びている。
【0041】
図13は、このマイクロ分析チップ10Cに対して好適な共焦点開口板の構成を概略的に示している。この共焦点開口板60Gでは、図13に示すように、光学的開口は、部分的に同心円状に延びている複数本のスリット62Gで構成されている。スリット62Gの幅(短辺の長さ)は、マイクロ分析チップ10Cに投影されるスリット投影像において0.1〜10μmになる寸法に設定されている。スリット投影像の幅は流路20の幅に比べて十分に狭い。
【0042】
ここで、流路20内から発生した蛍光は、スリット62Gを通過する。一方、スリット62Gの作用によって、流路20の上下の位置から発生する蛍光、すなわち、マイクロ分析チップ10Cの基板からの自家蛍光が好適に低減される。また励起光は、第三流路26Cの同心円状に延びている複数の部分にその長手方向に広がりを伴って照射される。このため、光検出器70に到達する蛍光の光量が増加し、光検出器70から出力される信号のS/Nが好適に改善される。また、スリット62Gと励起光が照射される流路20の部分とが同心円状に延びているため、たとえ両者間に回転方向のズレが生じても、その影響を考慮することなく、両者を容易に共役にすることができる。これにより、スリット62Gとマイクロ分析チップ10Cとの間に要求される位置精度が軽減される。
【0043】
これまで、図面を参照しながら本発明の実施形態を述べたが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において様々な変形や変更が施されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第一実施形態で使用するマイクロ分析チップの構成を概略的に示している。
【図2】図1のマイクロ分析チップを用いて蛍光観察を行なうための蛍光顕微鏡の構成を概略的に示している。
【図3】第一実施形態で使用するマイクロ分析チップに対して好適な共焦点開口板の構成を概略的に示している。
【図4】第一実施形態で使用するマイクロ分析チップに対して好適な別の共焦点開口板の構成を概略的に示している。
【図5】第一実施形態で使用するマイクロ分析チップに対して好適なまた別の共焦点開口板の構成を概略的に示している。
【図6】図3〜図5に示した共焦点開口板に対して特に好適な収束レンズの構成を概略的に示している。
【図7】本発明の第二実施形態で使用するマイクロ分析チップの構成を概略的に示している。
【図8】第二実施形態で使用するマイクロ分析チップに対して好適な共焦点開口板の構成を概略的に示している。
【図9】第二実施形態で使用するマイクロ分析チップに対して好適な別の共焦点開口板の構成を概略的に示している。
【図10】本発明の第三実施形態で使用するマイクロ分析チップの構成を概略的に示している。
【図11】第三実施形態で使用するマイクロ分析チップに対して好適な共焦点開口板の構成を概略的に示している。
【図12】本発明の第四実施形態で使用するマイクロ分析チップの構成を概略的に示している。
【図13】第四実施形態で使用するマイクロ分析チップに対して好適な共焦点開口板の構成を概略的に示している。
【符号の説明】
【0045】
10,10A,10B,10C…マイクロ分析チップ、20…流路、22…第一流路、24…第二流路、26,26A,26B,26C…第三流路、32…第一導入口、34…第二導入口、36…排出口、40…検出領域、50…蛍光顕微鏡、52…光源、54…コリメートレンズ、56…蛍光ミラーユニット、58…収束レンズ、58A…シリンドリカルレンズ、60,60A,60B,60C,60D,60E,60F,60G…共焦点開口板、62A…スリット、62B…ピンホール、62C,62D,62E,62F,62G…スリット、64…コリメートレンズ、66…対物レンズ、68…収束レンズ、70…光検出器。
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光観察において、基板が発する自家蛍光がノイズとなって測定値のS/Nを劣化させるという不具合がある。この不具合を解消する有効な手法の一つは、共焦点光学系を使用することである。共焦点光学系とは、結像面にピンホールを配置した光学系である。この共焦点光学系では、合焦位置からの光はピンホールを通って検出されるが、合焦位置以外からの光はピンホールを通過できず検出されない。このため、合焦位置からの光だけを選択的に取得し得る。
【0003】
共焦点光学系の一例は、たとえば特開2005−309415号公報に開示されている。
【特許文献1】特開2005−309415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、共焦点光学系では、合焦位置からの光だけを選択的に検出し得る反面、多くの光はピンホールで遮断される。このため、十分な光量を取得できないという事態もある。
【0005】
本発明の目的は、自家蛍光の影響を排除しつつ十分な光量を取得し得る蛍光顕微鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、蛍光物質を含む流体が流れる流路を有するマイクロ分析チップを用いて蛍光観察を行なうための蛍光顕微鏡である。この蛍光顕微鏡は、前記蛍光物質に対する励起光を含む光を射出する光源と、前記光源からの前記励起光と前記蛍光物質から発生した蛍光とを分離する蛍光ミラーユニットと、前記蛍光ミラーユニットで分離された前記励起光をいったん収束させる収束レンズと、前記収束レンズによる収束面に配置された、少なくとも一つの光学的開口を有する共焦点開口板と、前記共焦点開口板を通過した前記励起光を収束させるとともに前記蛍光物質から発生した蛍光を集光する対物レンズと、前記共焦点開口板に対して共焦点に配置された、前記蛍光物質から発生した蛍光を検出する光検出器とを有している。前記光学的開口は、前記励起光が照射される前記マイクロ分析チップの検出領域内の前記流路の形状に対応した形状を有している。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、自家蛍光の影響を排除しつつ十分な光量を取得し得る蛍光顕微鏡が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0009】
<第一実施形態>
免疫分析装置は、臨床検査医療において、血清中に含まれる腫瘍マーカー、各種ホルモン、感染症の病原体の抗体などの測定に用いられる。この種の装置においては、被験者の負担を軽減するために、測定に用いる検体の量をより少なくすることが求められている。少量の検体による測定を可能にする方法として、測定に必要な一連の工程を一つの基板(チップ)上で行なうLOC(lab on a chip、ラボオンアチップ)という技術がある。LOCの一例では、大きさ数cmのプラスチック製基板に設けた微小な流路内で検体と試薬の導入・攪拌・測定を行なう。
【0010】
図1は、本発明の第一実施形態で使用するマイクロ分析チップの構成を概略的に示している。図1に示すように、マイクロ分析チップ10は、検出対象の蛍光物質を含む流体が流れる微小な流路20を有している。流路20は第一流路22と第二流路24と第三流路26とから構成され、これらはほぼY字型に連結している。第一流路22の端部には第一液を導入するための第一導入口32が設けられ、第二流路24の端部には第二液を導入するための第二導入口34が設けられている。また、第三流路26の端部には排出口36が設けられており、排出口36には第一液と第二液を吸引するための吸引機構が取り付けられる。流路20は、蛍光物質に対する励起光が照射される検出領域40を除いて、遮光されている。
【0011】
マイクロ分析チップ10は、適宜な方法によって作製される。たとえば、流路20に対応する溝を形成した第一基板に、第二基板を張り合わされることによって作製される。これらの基板は、たとえば、PSやPMMAなどの樹脂材料をシリコンの型から射出成型して作製される。あるいは、半導体の加工技術を応用してシリコンなどの基板上に流路20になる溝を異方性エッチングなどの微細加工技術を用いて形成した後、この溝を覆う蓋体を基板に接合することによって作製してもよい。ガラス基板から作る手法も知られている。
【0012】
マイクロ分析チップ10は、これに限らないが、たとえば、外形寸法が約80mm×60mm×1.7mmである。流路20は、これに限らないが、たとえば、幅が約0.5mm、深さが約0.9mmである。
【0013】
第一液たとえば検体を含む流体が第一導入口32から第一流路22に導入される。また第二液たとえば試薬を含む流体が第二導入口34から第二流路24に導入される。第一液と第二液はそれぞれ第一流路22と第二流路24を通って第三流路26に進入し、第三流路26内で混合され所定の化学反応を起こす。
【0014】
免疫学的検査で使用される蛍光法は、蛍光検出イムノアッセイが知られている。この手法は、測定対象物体の抗原または抗体を、蛍光色素を標識した抗体または抗原に反応させ、励起光を照射した際に発生する蛍光量もしくは発光量を光検出器で検出する。たとえば、フルオレシンの結合した標識抗体を用いた場合、495nmの励起光を照射すると、515nm付近の蛍光が出る。
【0015】
図2は、図1のマイクロ分析チップを用いて蛍光観察を行なうための蛍光顕微鏡の構成を概略的に示している。図2に示すように、蛍光顕微鏡50は、光源52と、コリメートレンズ54と、蛍光ミラーユニット56と、収束レンズ58と、焦点開口板60と、コリメートレンズ64と、対物レンズ66と、収束レンズ68と、光検出器70とを有している。
【0016】
光源52は、蛍光物質に対する励起光を含む光を射出する。コリメートレンズ54は、光源52から射出された光を平行化する。蛍光ミラーユニット56は、光源52からの励起光と蛍光物質から発生した蛍光とを分離する。収束レンズ58は、蛍光ミラーユニット56で分離された励起光をいったん収束させる。共焦点開口板60は少なくとも一つの光学的開口を有し、収束レンズ58による収束面に配置される。コリメートレンズ64は、共焦点開口板60を通過した励起光を平行化する。対物レンズ66は、共焦点開口板60を通過した励起光を収束させるとともに、蛍光物質から発生した蛍光を集光する。収束レンズ68は、蛍光ミラーユニット56を通過した蛍光を収束させる光検出器70は、共焦点開口板60に対して共焦点に配置され、蛍光物質から発生した蛍光を検出する。共焦点開口板60の光学的開口は、励起光が照射されるマイクロ分析チップ10の検出領域40内の流路20の形状に対応した形状を有している。
【0017】
蛍光顕微鏡50の光学系は、収束レンズ58をパワーの高いものに変更し、コリメートレンズ54と収束レンズ68を省略することも可能である。さらに、対物レンズ66をパワーの高いものに変更することで、コリメートレンズ64を省略することもできる。
【0018】
光源52は、これに限らないが、たとえば、ハロゲンランプや水銀ランプ、レーザー、LEDで構成されてよい。光検出器70は、これに限らないが、たとえば、フォトダイオードやフォトマルチプライヤーで構成されてよい。光検出器70は、共焦点開口板60の光学的開口の投影像を受光できさえすれば、どのような素子で構成されてもよい。蛍光ミラーユニット56は、たとえば、励起光を選択的に透過する励起フィルターと、励起光を選択的に反射し蛍光を選択的に透過するダイクロイックミラーと、蛍光を選択的に透過する吸収フィルターとから構成されている。蛍光ミラーユニット56は、検出する蛍光物質に合った波長帯域のものが使用される。
【0019】
光源52から射出された光は、コリメートレンズ54によって平行化され、蛍光ミラーユニット56に到達する。蛍光ミラーユニット56は、蛍光物質に対する励起波長の光つまり励起光を選択的に反射する。蛍光ミラーユニット56で反射された励起光は、収束レンズ58によっていったん収束され、共焦点開口板60の光学的開口を通過する。その後、励起光は、コリメートレンズ64によって平行化され、対物レンズ66によって収束される。
【0020】
マイクロ分析チップ10の第三流路26内を流れる流体(たとえば反応液)中の蛍光物質は、励起光の照射を受けて蛍光を発生する。また励起光の一部はマイクロ分析チップ10で反射される。蛍光と励起光の一部は、対物レンズ66に入射し、コリメートレンズ64を経て、共焦点開口板60に達する。収束位置からの光は共焦点開口板60の光学的開口を通過し得るが、ほかの位置(光軸方向の位置)からの光は共焦点開口板60の光学的開口を通過し得ない。共焦点開口板60の光学的開口を通過した光は、収束レンズ58によって平行化され、蛍光ミラーユニット56に到達する。蛍光ミラーユニット56は、蛍光を選択的に透過し、励起光を反射する。蛍光ミラーユニット56を透過した蛍光は、収束レンズ68によって収束され、光検出器70に入射する。光検出器70は、受光した光の強度に対応した電気信号を出力する。
【0021】
本実施形態で使用するマイクロ分析チップ10では、図1に示すように、流路20(より詳しくは第三流路26)は、検出領域40内を直線的に延びている。
【0022】
図3は、このマイクロ分析チップ10に対して好適な共焦点開口板の構成を概略的に示している。この共焦点開口板60Aでは、図3に示すように、光学的開口は、直線的に延びている一本のスリット62Aで構成されている。スリット62Aの幅(短辺の長さ)は、マイクロ分析チップ10に投影されるスリット投影像において0.1〜10μmになる寸法に設定されている。前述したように流路20の幅は0.5mmであり、スリット投影像の幅は流路20の幅に比べて十分に狭い。
【0023】
ここで、流路20内から発生した蛍光は、スリット62Aを通過する。一方、スリット62Aの作用によって、流路20の上下の位置から発生する蛍光、すなわち、マイクロ分析チップ10の基板からの自家蛍光は好適に低減される。また励起光は、流路20の長手方向に広がりを伴って照射される。このため、これまでの単一のピンホールに比べて光検出器70に到達する蛍光の光量が増加し、光検出器70から出力される信号のS/Nが好適に改善される。
【0024】
図4は、本実施形態で使用するマイクロ分析チップ10に対して好適な別の共焦点開口板の構成を概略的に示している。この共焦点開口板60Bでは、図4に示すように、光学的開口は、直線的に並んだ複数のピンホール62Bで構成されている。ピンホール62Bの直径は、マイクロ分析チップ10に投影されるスリット投影像において0.1〜10μmになる寸法に設定されている。ピンホール投影像の直径は流路20の幅に比べて十分に狭い。
【0025】
ここで、流路20内から発生した蛍光は、ピンホール62Bを通過する。一方、ピンホール62Bの作用によって、流路20の上下の位置から発生する蛍光、すなわち、マイクロ分析チップ10の基板からの自家蛍光が好適に低減される。また励起光は、流路20の長手方向に沿って複数のスポットとして照射される。このため、光検出器70に到達する蛍光の光量が増加し、光検出器70から出力される信号のS/Nが好適に改善される。複数のピンホール62Bは、スリット62Aに比べて簡単に形成することができる。
【0026】
図5は、本実施形態で使用するマイクロ分析チップ10に対して好適なまた別の共焦点開口板の構成を概略的に示している。この共焦点開口板60Cでは、図5に示すように、光学的開口は、互いに平行に直線的に延びている複数本のスリット62Cで構成されている。各スリット62Cの幅(短辺の長さ)は、マイクロ分析チップ10に投影されるスリット投影像において0.1〜10μmになる寸法に設定されている。スリット投影像の幅は流路20の幅に比べて十分に狭い。また、スリット62Cは互いに、スリット62Cの幅の五倍以上離して配置されている。
【0027】
ここで、流路20内から発生した蛍光は、ピンホール62Cを通過する。一方、スリット62Cの作用によって、流路20の上下の位置から発生する蛍光、すなわち、マイクロ分析チップ10の基板からの自家蛍光が好適に低減される。また励起光は、流路20の長手方向に広がりを伴って照射される。また、図3の共焦点開口板60Aと比較して、スリット62Cの本数が多い分、光検出器70に到達する蛍光の光量が増加する。このため、光検出器70から出力される信号のS/Nがさらに好適に改善される。また、スリット62Cの間隔はスリット62Cの幅の五倍以上と広いため、基板で発生した自家蛍光はスリットの共焦点作用で遮断される。例えば、中央のスリットを通過した励起光は、基板上のある領域を通過する。この時、この領域から自家蛍光が発生する。発生した自家蛍光は、対物レンズ66とコリメートレンズ64によって、中央のスリットの手前で集光される。集光された自家蛍光は、発散しながら中央のスリットに向かう。この時、発散光の一部は、隣のスリットにも向かうが、隣り合うスリットの間隔が十分であるため、この間隔の部分で遮られることになる。その結果、発散した自家蛍光が、となりのスリットに到達することが無い。なお、中央のスリットの幅は上記のように十分小さいため、自家蛍光は中央のスリットをほとんど通過できない。
【0028】
図6は、図3〜図5に示した共焦点開口板に対して特に好適な収束レンズの構成を概略的に示している。蛍光ミラーユニット56と共焦点開口板60の間にある収束レンズ58は、図6に示すように、シリンドリカルレンズ58Aで構成されている。
【0029】
シリンドリカルレンズ58Aの作用によって、励起光は、直線状に収束されて、共焦点開口板60に照射される。これにより、スリット62A,62Cやピンホール62B列でのけられが少なくなる。このため、光検出器70に到達する蛍光の光量が増加し、光検出器70から出力される信号のS/Nが好適に改善される。
【0030】
蛍光顕微鏡50の光学系は、たとえば、共焦点開口板60から光検出器70までは縮小光学系である。これにより、光検出器70に投影されるスリット投影像を小さくすることができ、検出面の小さい光検出器を使用することができる。
【0031】
<第二実施形態>
図7は、本発明の第二実施形態で使用するマイクロ分析チップの構成を概略的に示している。図7に示すように、本実施形態で使用するマイクロ分析チップ10Aでは、流路20(より詳しくは第三流路26A)は、検出領域40内を蛇行して延びている。より詳しくは、流路20は、検出領域40内を矩形波状に蛇行して延びている。しかし、矩形波状の蛇行は、蛇行の形態の一例を示しているに過ぎず、蛇行の形態は、これに何ら限定されるものではない。
【0032】
図8は、このマイクロ分析チップ10Aに対して好適な共焦点開口板の構成を概略的に示している。この共焦点開口板60Dでは、図8に示すように、光学的開口は、第三流路26Aの蛇行と同様の形状に蛇行して延びている一本のスリット62Dで構成されている。スリット62Dの幅(短辺の長さ)は、マイクロ分析チップ10Aに投影されるスリット投影像において0.1〜10μmになる寸法に設定されている。スリット投影像の幅は流路20の幅に比べて十分に狭い。
【0033】
ここで、流路20内から発生した蛍光は、スリット62Dを通過する。一方、スリット62Dの作用によって、流路20の上下の位置から発生する蛍光、すなわち、マイクロ分析チップ10Aの基板からの自家蛍光が好適に低減される。また励起光は、蛇行している第三流路26Aと同じ形状で照射される。したがって、励起光は流路20に沿った長い範囲で照射される。このため、光検出器70に到達する蛍光の光量が増加し、光検出器70から出力される信号のS/Nが好適に改善される。
【0034】
図9は、このマイクロ分析チップ10Aに対して好適な別の共焦点開口板の構成を概略的に示している。この共焦点開口板60Eでは、図9に示すように、光学的開口は、第三流路26Aの蛇行に沿って延びている複数本のスリット62Eで構成されている。複数本のスリット62Eは、第三流路26Aの矩形波状の蛇行に対応して、互いに平行に直線的に延びている。スリット62Eの幅(短辺の長さ)は、マイクロ分析チップ10Aに投影されるスリット投影像において0.1〜10μmになる寸法に設定されている。スリット投影像の幅は流路20の幅に比べて十分に狭い。
【0035】
ここで、流路20内から発生した蛍光は、スリット62Eを通過する。一方、スリット62Eの作用によって、流路20の上下の位置から発生する蛍光、すなわち、マイクロ分析チップ10Aの基板からの自家蛍光が好適に低減される。また励起光は、第三流路26Aの複数の部分にその長手方向に広がりを伴って照射される。このため、光検出器70に到達する蛍光の光量が増加し、光検出器70から出力される信号のS/Nが好適に改善される。スリット62Eは互いにつながっていないため、蛇行しているスリット62Dに比べて簡単に形成することができる。
【0036】
<第三実施形態>
図10は、本発明の第三実施形態で使用するマイクロ分析チップの構成を概略的に示している。図10に示すように、本実施形態で使用するマイクロ分析チップ10Bでは、流路20(より詳しくは第三流路26B)は、検出領域40内を部分的に放射状に延びている。第三流路26Bは、曲がりながら放射状に延びていてもよいが、好ましくは、図10に示すように、直線的に放射状に延びているとよい。
【0037】
図11は、このマイクロ分析チップ10Bに対して好適な共焦点開口板の構成を概略的に示している。この共焦点開口板60Fでは、図11に示すように、光学的開口は、放射状に延びている複数本のスリット62Fで構成されている。複数本のスリット62Fは、たとえば、直線的に放射状に延びているスリット62Fの幅(短辺の長さ)は、マイクロ分析チップ10Bに投影されるスリット投影像において0.1〜10μmになる寸法に設定されている。スリット投影像の幅は流路20の幅に比べて十分に狭い。
【0038】
ここで、流路20内から発生した蛍光は、スリット62Fを通過する。一方、スリット62Fの作用によって、流路20の上下の位置から発生する蛍光、すなわち、マイクロ分析チップ10Bの基板からの自家蛍光が好適に低減される。また励起光は、第三流路26Bの放射状に延びている複数の部分にその長手方向に広がりを伴って照射される。このため、光検出器70に到達する蛍光の光量が増加し、光検出器70から出力される信号のS/Nが好適に改善される。
【0039】
また、前述の第二実施形態では、スリット62D,62Eと励起光が照射される流路20の部分とを共役にするためには、相対的な位置決めが正確になされているだけでなく、結像光学系(具体的にはコリメートレンズ64と対物レンズ66)は、ディストーションが十分に補正されているとともに光学横倍率にバラツキがないように十分に正確に作られている必要がある。これに対して本実施形態では、好ましくはスリット62Fと励起光が照射される流路20の部分とが直線的に放射状に延びているため、たとえディストーションが残存していたり、光学横倍率にバラツキがあったりしていても、これらの影響を考慮することなく、両者を容易に共役にすることができる。
【0040】
<第四実施形態>
図12は、本発明の第四実施形態で使用するマイクロ分析チップの構成を概略的に示している。図12に示すように、本実施形態で使用するマイクロ分析チップ10Cでは、流路20(より詳しくは第三流路26C)は、部分的に検出領域40内を同心円状に延びている。
【0041】
図13は、このマイクロ分析チップ10Cに対して好適な共焦点開口板の構成を概略的に示している。この共焦点開口板60Gでは、図13に示すように、光学的開口は、部分的に同心円状に延びている複数本のスリット62Gで構成されている。スリット62Gの幅(短辺の長さ)は、マイクロ分析チップ10Cに投影されるスリット投影像において0.1〜10μmになる寸法に設定されている。スリット投影像の幅は流路20の幅に比べて十分に狭い。
【0042】
ここで、流路20内から発生した蛍光は、スリット62Gを通過する。一方、スリット62Gの作用によって、流路20の上下の位置から発生する蛍光、すなわち、マイクロ分析チップ10Cの基板からの自家蛍光が好適に低減される。また励起光は、第三流路26Cの同心円状に延びている複数の部分にその長手方向に広がりを伴って照射される。このため、光検出器70に到達する蛍光の光量が増加し、光検出器70から出力される信号のS/Nが好適に改善される。また、スリット62Gと励起光が照射される流路20の部分とが同心円状に延びているため、たとえ両者間に回転方向のズレが生じても、その影響を考慮することなく、両者を容易に共役にすることができる。これにより、スリット62Gとマイクロ分析チップ10Cとの間に要求される位置精度が軽減される。
【0043】
これまで、図面を参照しながら本発明の実施形態を述べたが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において様々な変形や変更が施されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第一実施形態で使用するマイクロ分析チップの構成を概略的に示している。
【図2】図1のマイクロ分析チップを用いて蛍光観察を行なうための蛍光顕微鏡の構成を概略的に示している。
【図3】第一実施形態で使用するマイクロ分析チップに対して好適な共焦点開口板の構成を概略的に示している。
【図4】第一実施形態で使用するマイクロ分析チップに対して好適な別の共焦点開口板の構成を概略的に示している。
【図5】第一実施形態で使用するマイクロ分析チップに対して好適なまた別の共焦点開口板の構成を概略的に示している。
【図6】図3〜図5に示した共焦点開口板に対して特に好適な収束レンズの構成を概略的に示している。
【図7】本発明の第二実施形態で使用するマイクロ分析チップの構成を概略的に示している。
【図8】第二実施形態で使用するマイクロ分析チップに対して好適な共焦点開口板の構成を概略的に示している。
【図9】第二実施形態で使用するマイクロ分析チップに対して好適な別の共焦点開口板の構成を概略的に示している。
【図10】本発明の第三実施形態で使用するマイクロ分析チップの構成を概略的に示している。
【図11】第三実施形態で使用するマイクロ分析チップに対して好適な共焦点開口板の構成を概略的に示している。
【図12】本発明の第四実施形態で使用するマイクロ分析チップの構成を概略的に示している。
【図13】第四実施形態で使用するマイクロ分析チップに対して好適な共焦点開口板の構成を概略的に示している。
【符号の説明】
【0045】
10,10A,10B,10C…マイクロ分析チップ、20…流路、22…第一流路、24…第二流路、26,26A,26B,26C…第三流路、32…第一導入口、34…第二導入口、36…排出口、40…検出領域、50…蛍光顕微鏡、52…光源、54…コリメートレンズ、56…蛍光ミラーユニット、58…収束レンズ、58A…シリンドリカルレンズ、60,60A,60B,60C,60D,60E,60F,60G…共焦点開口板、62A…スリット、62B…ピンホール、62C,62D,62E,62F,62G…スリット、64…コリメートレンズ、66…対物レンズ、68…収束レンズ、70…光検出器。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光物質を含む流体が流れる流路を有するマイクロ分析チップを用いて蛍光観察を行なうための蛍光顕微鏡であり、
前記蛍光物質に対する励起光を含む光を射出する光源と、
前記光源からの前記励起光と前記蛍光物質から発生した蛍光とを分離する蛍光ミラーユニットと、
前記蛍光ミラーユニットで分離された前記励起光をいったん収束させる収束レンズと、
前記収束レンズによる収束面に配置された、少なくとも一つの光学的開口を有する共焦点開口板と、
前記共焦点開口板を通過した前記励起光を収束させるとともに前記蛍光物質から発生した蛍光を集光する対物レンズと、
前記共焦点開口板に対して共焦点に配置された、前記蛍光物質から発生した蛍光を検出する光検出器とを有しており、
前記光学的開口は、前記励起光が照射される前記マイクロ分析チップの検出領域内の前記流路の形状に対応した形状を有している、蛍光顕微鏡。
【請求項2】
前記流路は、前記検出領域内を直線的に延びており、前記光学的開口は、直線的に延びている一本のスリットで構成されている、請求項1に記載の蛍光顕微鏡。
【請求項3】
前記流路は、前記検出領域内を直線的に延びており、前記光学的開口は、直線的に並んだ複数のピンホールで構成されている、請求項1に記載の蛍光顕微鏡。
【請求項4】
前記流路は、前記検出領域内を直線的に延びており、前記光学的開口は、互いに平行に直線的に延びている複数本のスリットで構成されている、請求項1に記載の蛍光顕微鏡。
【請求項5】
前記収束レンズは、シリンドリカルレンズで構成されている、請求項2〜請求項4のいずれかひとつに記載の蛍光顕微鏡。
【請求項6】
前記流路は、前記検出領域内を蛇行して延びており、前記光学的開口は、前記流路の蛇行と同様の形状に蛇行して延びている一本のスリットで構成されている、請求項1に記載の蛍光顕微鏡。
【請求項7】
前記流路は、前記検出領域内を蛇行して延びており、前記光学的開口は、前記流路の蛇行に沿って延びている複数本のスリットで構成されている、請求項1に記載の蛍光顕微鏡。
【請求項8】
前記流路は、前記検出領域内を矩形波状に蛇行して延びており、前記複数本のスリットは、互いに平行に直線的に延びている、請求項7に記載の蛍光顕微鏡。
【請求項9】
前記流路は、前記検出領域内を部分的に放射状に延びており、前記光学的開口は、放射状に延びている複数本のスリットで構成されている、請求項1に記載の蛍光顕微鏡。
【請求項10】
前記流路は、前記検出領域内を部分的に直線的に放射状に延びており、前記複数本のスリットは、直線的に放射状に延びている、請求項9に記載の蛍光顕微鏡。
【請求項11】
前記流路は、前記検出領域内を部分的に同心円状に延びており、前記光学的開口は、部分的に同心円状に延びている複数本のスリットで構成されている、請求項1に記載の蛍光顕微鏡。
【請求項12】
蛍光物質を含む流体が流れる流路を有し、前記流路は、前記蛍光物質に対する励起光が照射される検出領域内を部分的に直線的に放射状に延びている、マイクロ分析チップ。
【請求項13】
蛍光物質を含む流体が流れる流路を有し、前記流路は、前記蛍光物質に対する励起光が照射される検出領域内を部分的に同心円状に延びている、マイクロ分析チップ。
【請求項1】
蛍光物質を含む流体が流れる流路を有するマイクロ分析チップを用いて蛍光観察を行なうための蛍光顕微鏡であり、
前記蛍光物質に対する励起光を含む光を射出する光源と、
前記光源からの前記励起光と前記蛍光物質から発生した蛍光とを分離する蛍光ミラーユニットと、
前記蛍光ミラーユニットで分離された前記励起光をいったん収束させる収束レンズと、
前記収束レンズによる収束面に配置された、少なくとも一つの光学的開口を有する共焦点開口板と、
前記共焦点開口板を通過した前記励起光を収束させるとともに前記蛍光物質から発生した蛍光を集光する対物レンズと、
前記共焦点開口板に対して共焦点に配置された、前記蛍光物質から発生した蛍光を検出する光検出器とを有しており、
前記光学的開口は、前記励起光が照射される前記マイクロ分析チップの検出領域内の前記流路の形状に対応した形状を有している、蛍光顕微鏡。
【請求項2】
前記流路は、前記検出領域内を直線的に延びており、前記光学的開口は、直線的に延びている一本のスリットで構成されている、請求項1に記載の蛍光顕微鏡。
【請求項3】
前記流路は、前記検出領域内を直線的に延びており、前記光学的開口は、直線的に並んだ複数のピンホールで構成されている、請求項1に記載の蛍光顕微鏡。
【請求項4】
前記流路は、前記検出領域内を直線的に延びており、前記光学的開口は、互いに平行に直線的に延びている複数本のスリットで構成されている、請求項1に記載の蛍光顕微鏡。
【請求項5】
前記収束レンズは、シリンドリカルレンズで構成されている、請求項2〜請求項4のいずれかひとつに記載の蛍光顕微鏡。
【請求項6】
前記流路は、前記検出領域内を蛇行して延びており、前記光学的開口は、前記流路の蛇行と同様の形状に蛇行して延びている一本のスリットで構成されている、請求項1に記載の蛍光顕微鏡。
【請求項7】
前記流路は、前記検出領域内を蛇行して延びており、前記光学的開口は、前記流路の蛇行に沿って延びている複数本のスリットで構成されている、請求項1に記載の蛍光顕微鏡。
【請求項8】
前記流路は、前記検出領域内を矩形波状に蛇行して延びており、前記複数本のスリットは、互いに平行に直線的に延びている、請求項7に記載の蛍光顕微鏡。
【請求項9】
前記流路は、前記検出領域内を部分的に放射状に延びており、前記光学的開口は、放射状に延びている複数本のスリットで構成されている、請求項1に記載の蛍光顕微鏡。
【請求項10】
前記流路は、前記検出領域内を部分的に直線的に放射状に延びており、前記複数本のスリットは、直線的に放射状に延びている、請求項9に記載の蛍光顕微鏡。
【請求項11】
前記流路は、前記検出領域内を部分的に同心円状に延びており、前記光学的開口は、部分的に同心円状に延びている複数本のスリットで構成されている、請求項1に記載の蛍光顕微鏡。
【請求項12】
蛍光物質を含む流体が流れる流路を有し、前記流路は、前記蛍光物質に対する励起光が照射される検出領域内を部分的に直線的に放射状に延びている、マイクロ分析チップ。
【請求項13】
蛍光物質を含む流体が流れる流路を有し、前記流路は、前記蛍光物質に対する励起光が照射される検出領域内を部分的に同心円状に延びている、マイクロ分析チップ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−63436(P2009−63436A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231754(P2007−231754)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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