説明

蛍光X線分析方法

【課題】樹脂に含まれる母材を除去して測定対象の元素を濃縮することにより、樹脂に含まれる金属元素の検出感度を向上させることができる蛍光X線分析方法を提供する。
【解決手段】樹脂試料に酸化剤を加えて加熱する等の方法により樹脂試料を灰化し、灰化した試料の蛍光X線分析を行う。又は、樹脂試料を硫酸等の酸で溶解し、樹脂試料を溶解した溶液を蒸発させ、蒸発後に残った残渣の蛍光X線分析を行う。X線を散乱して蛍光X線分析におけるバックグラウンドの原因となる樹脂試料の母材を構成するC,H等、及びX線を吸収して蛍光X線を減衰させるCl,Br等が試料中から低減され、金属元素に起因する蛍光X線の強度がバックグラウンドに比べて相対的に増大し、樹脂試料中に含まれる金属元素を検出する感度が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析対象の固体試料を前処理して蛍光X線分析を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂材料は、種々の分野で広く利用されており、電子機器の分野でも筐体又はプリント基板等の材料に利用されている。近年では、樹脂材料を利用した家電等の製品のリサイクルが行われるようになっており、また製品に用いられている材料に含まれる有害物質の規制も厳しくなっている。従って、各種の製品又は廃棄物等に用いられている樹脂材料に含まれている元素、特に金属元素の種類及び量を分析することが必要となっている。特許文献1には、樹脂材料を含む廃棄物を乾溜・燃焼して灰化させた上で、廃棄物に含まれる金属の分析及び回収を行う技術が開示されている。
【0003】
蛍光X線分析は、物質にX線を照射した場合に物質から放射される蛍光X線を測定し、物質中に含まれる元素を分析する方法である。蛍光X線分析では、固体又は液体のいずれの試料も分析可能であり、また特定の前処理を行うことなく分析を行うことができるので、試料の非破壊分析が可能である。原子吸光分析又は誘導結合高周波プラズマ原子発光(ICP−AES)分析は蛍光X線分析よりも元素の検出感度が優れているものの、試料を溶液化する前処理を必要とするので、蛍光X線分析は他の分析手法に比べて簡易的に分析を行うことができる特徴がある。また、蛍光X線分析での試料の均質性又は分析結果の再現精度を向上させるために、粉砕等の方法により試料を粉末にする前処理を行ってから蛍光X線分析を行うことがある。特許文献2には、液体状の油試料から分析対象の元素を抽出して乾燥させるか、又は油試料を灰化することにより、分析対象の元素を濃縮した上で蛍光X線分析を行う技術が開示されている。
【特許文献1】特開2003−114178号公報
【特許文献2】特開2002−277359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蛍光X線分析により樹脂試料中に含まれる微量の金属元素を検出する際には、樹脂の母材によるX線の散乱が大きく、蛍光X線の測定結果においてX線の散乱による大きなバックグラウンドが生じ、金属元素による蛍光X線がバックグラウンドに埋もれて金属元素の検出感度が悪いという問題がある。また樹脂に添加されているCl,Br等による吸収を受けて蛍光X線の強度が減衰し、蛍光X線を用いて検出すべき金属元素の検出感度が悪化するという問題がある。更に、特定の元素による蛍光X線のバックグラウンドを減衰させるべく所定の波長範囲のX線を遮断するフィルタを利用した場合は、特定の元素の検出感度は向上するものの、他の元素の蛍光X線の発生を阻害する原因となり、他の元素の検出感度が低下するという問題がある。
【0005】
また原子吸光分析又はICP−AESでは、試料に含まれる元素を高感度に検出できるものの、完全に溶液化した試料を分析対象とするので、試料を溶液化する途中で発生した沈殿物に含まれる元素を検出することはできない。硫酸は、ポリ塩化ビニル(PVC)等の耐酸性の樹脂等、他の酸では溶解しにくい樹脂を含む多くの樹脂を溶解させて溶液化することが可能であるものの、重要な有害物質であるPbの硫酸塩が水に難溶で沈殿物となるので、原子吸光分析又はICP−AESにおいて硫酸で前処理を行う場合には、試料導入等でPbのロスが生じ、Pbを精度良く測定することができない。従って、原子吸光分析又はICP−AESでは、Pbを分析する場合には前処理で硫酸以外の酸を用いざるを得ず、分析対象の樹脂が硫酸以外の酸で溶液化が可能な樹脂に限定されるという問題がある。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、樹脂に含まれる樹脂母材を分解し、また低減させて分析対象の元素を濃縮することにより、樹脂に含まれる金属元素の検出感度を向上させることができる蛍光X線分析方法を提供することにある。
【0007】
更に本発明の他の目的とするところは、樹脂を溶液化する際に生じる沈殿物に含まれる元素の検出を可能にすることにより、分析可能な樹脂の範囲を拡大させることができる蛍光X線分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明に係る蛍光X線分析方法は、樹脂試料の蛍光X線分析を行う方法において、樹脂試料を灰化し、灰化した試料の蛍光X線分析を行うことを特徴とする。
【0009】
第1発明においては、樹脂試料の蛍光X線分析を行う際に、樹脂試料に酸化剤を加えて加熱する等の方法により樹脂試料を灰化し、灰化した試料の蛍光X線分析を行う。樹脂試料の灰化により、X線を散乱して蛍光X線分析におけるバックグラウンドの原因となる樹脂試料の母材を構成するC,H等、及びX線を吸収して蛍光X線を減衰させるCl,Br等を分解し、それらが気化して低減され、樹脂試料中に含まれていた金属元素の検出感度を相対的に向上させることができる。
【0010】
第2発明に係る蛍光X線分析方法は、樹脂試料の蛍光X線分析を行う方法において、樹脂試料を酸に溶解させ、溶解により生成した溶液を蒸発させ、蒸発後に残った残渣の蛍光X線分析を行うことを特徴とする。
【0011】
第2発明においては、樹脂試料の蛍光X線分析を行う際に、樹脂試料を酸で溶解し、樹脂試料を溶解した溶液を蒸発させ、蒸発後に残った残渣の蛍光X線分析を行う。樹脂試料の酸による溶解により、X線を散乱して蛍光X線分析におけるバックグラウンドの原因となる樹脂試料の母材を構成するC,H等、及びX線を吸収して蛍光X線を減衰させるCl,Br等が分解され、また揮散して除去又は低減される。また溶液の蒸発によって溶媒が気化し、樹脂試料中に含まれていた金属元素の検出感度を相対的に向上させることができる。
【0012】
第3発明に係る蛍光X線分析方法は、樹脂試料の蛍光X線分析を行う方法において、樹脂試料を灰化し、灰化した試料を酸に溶解させ、溶解により生成した溶液を蒸発させ、蒸発後に残った残渣の蛍光X線分析を行うことを特徴とする。
【0013】
第3発明においては、樹脂試料の蛍光X線分析を行う際に、樹脂試料を灰化し、灰化した試料を酸で溶解し、灰化した試料を溶解した溶液を蒸発させ、蒸発後に残った残渣の蛍光X線分析を行う。X線を散乱して蛍光X線分析におけるバックグラウンドの原因となる樹脂試料の母材を構成するC,H等、及びX線を吸収して蛍光X線を減衰させるCl,Br等がより確実に分解し、また低減される。
【0014】
第4発明に係る蛍光X線分析方法は、前記酸は硫酸であることを特徴とする。
【0015】
第4発明においては、樹脂試料又は灰化した試料を溶解する酸として硫酸を用い、樹脂試料又は灰化した試料を溶解した溶液を蒸発させた残渣の蛍光X線分析を行う。樹脂試料又は灰化した試料を硫酸に溶解させる処理においてPbの硫酸塩等の沈殿物を生成し、Pb等を沈殿濃縮して残渣試料中のPb等の沈殿物に含まれる元素を高感度に検出することが可能である。
【発明の効果】
【0016】
第1発明にあっては、蛍光X線分析において、樹脂試料の母材に起因するバックグラウンドが低下し、また試料中でのX線の吸収が減少するので、金属元素に起因する蛍光X線の強度がバックグラウンドに比べて相対的に増大し、樹脂試料中に含まれる金属元素を検出する感度が向上する。また、所定の波長範囲のX線を遮断するフィルタを用いることなく検出感度を向上させるので、特定の元素の検出感度を向上させる反面で他の元素の検出感度が低下する現象を防止することができる。
【0017】
第2発明にあっては、蛍光X線分析において、樹脂試料の母材に起因するバックグラウンドが低下し、また試料中でのX線の吸収が減少するので、金属元素に起因する蛍光X線の強度がバックグラウンドに比べて相対的に増大し、樹脂試料中に含まれる金属元素を検出する感度が向上する。また、樹脂試料を酸に溶解させる処理において沈殿濃縮を行い、沈殿物に含まれる元素を検出することが可能であるので、Pbを含む各元素の高感度な検出を可能としながらも、多くの樹脂を溶解させる硫酸を蛍光X線分析の前処理に利用することができ、分析可能な樹脂の範囲を拡大することが可能となる。
【0018】
第3発明にあっては、金属元素に起因する蛍光X線の強度がバックグラウンドに比べて相対的により増大し、樹脂試料中に含まれる金属元素を検出する感度がより向上する。
【0019】
第4発明にあっては、Pbを含む各元素の高感度な検出を可能としながらも、多くの樹脂を溶解させることができる硫酸を蛍光X線分析の前処理に利用することにより、分析可能な樹脂の範囲を従来よりも拡大することが可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
(実施の形態1)
本発明は、合成樹脂からなる樹脂試料に含まれる元素を検出するために、樹脂試料を前処理して蛍光X線分析を行う方法であり、本実施形態は、前処理として灰化処理を行う形態を示す。図1は、分析対象の樹脂試料を灰化処理して蛍光X線分析を行う本発明の方法の手順を説明する説明図である。まず分析対象の樹脂試料を破砕又は切断等により分割し、必要量を秤量する。例えば、樹脂試料から切り出した切片を電子天秤で秤量する。
【0021】
次に、秤量した樹脂試料を磁性るつぼ又は白金るつぼ等の処理容器に投入し、硫酸等の酸化剤を適宜添加し、処理容器をマッフル炉等の炉内に入れ、500℃程度に樹脂材料の温度を保ちながら4〜5時間反応させて、樹脂試料を灰化させる。酸化剤を用いた酸化により、樹脂試料の母材を構成するC,H,Cl,Br等は酸化・分解・気化し、樹脂試料中に含まれていた金属元素の酸化物等が残留する。灰化反応における温度を500℃よりも大きくすると、Cd,Zn,Pb,As,Se等が揮散するので、反応温度は500℃程度以下であることが望ましい。特にPb等の揮散しやすい元素を分析対象とする場合は、灰化の反応温度は450℃以下とする。なお、灰化を促進するために、処理容器内に酸素を供給しながら灰化の処理を行ってもよい。また、樹脂試料を燃焼させるか、樹脂試料を乾溜するか、又は樹脂試料にマイクロ波を照射する等、酸化剤を用いる以外の方法で樹脂試料の灰化を行ってもよい。
【0022】
次に、処理容器から灰化した試料を取り出し、試料をほぐして粉末化し、均一に混合することにより、分析用の灰化試料を作成する。なお、粉末化した試料をプレスしてペレット化してもよい。次に、作成した灰化試料の蛍光X線分析を行う。
【0023】
図2は、灰化試料の蛍光X線分析を行う蛍光X線分析装置2の模式図である。蛍光X線分析装置2は、試料に一次X線を照射するX線照射部21と、一次X線を照射された試料から放射される二次X線としての蛍光X線を検出する検出部22とを備えている。X線が透過し易いポリエチレン又はポリプロピレン等の薄膜からなるX線透過膜11に灰化試料を載置し、灰化試料を載置したX線透過膜11を蛍光X線分析装置2に装着し、蛍光X線分析を行う。X線照射部21からの一次X線は、X線透過膜11を通して灰化試料に照射され、灰化試料が放射する蛍光X線はX線透過膜11を通して検出部22に検出される。なお、蛍光X線分析装置2は、波長分散方式の装置でもエネルギー分散方式の装置でもよい。また蛍光X線分析装置2は、試料の下方からX線を照射する構成に限るものではなく、試料の上方からX線を照射する構成であってもよい。またX線照射部21が照射する一次X線の内で余分なX線をカットする一次フィルタを備えても良い。
【0024】
図3は、実施の形態1に係る試料からの蛍光X線を蛍光X線分析装置2で測定した測定スペクトルを示す特性図である。図3(a)は灰化処理を行わない樹脂試料の測定結果を示し、図3(b)は、灰化試料の測定結果を示す。図中の横軸は検出した蛍光X線のエネルギーをkeVで示し、縦軸は検出した各エネルギーの蛍光X線の強度をcps(カウント毎秒)で示す。図中には、測定スペクトルに含まれる各ピークに対応する元素を元素記号で示している。なお、いずれの測定においても、Rh線源を使用し、更に高感度分析を行うために、Cd,Pb測定に専用のフィルタを用いて一次X線の所定波長成分をカットしている。図3(b)に示す灰化試料の測定結果は、図3(a)に示す灰化処理前の測定結果に現れるブロードなバックグラウンドの信号が減少し、Pb,Cd等の金属元素に起因する信号の強度が相対的に大きくなっている。即ち、X線を散乱してバックグラウンドの原因となる樹脂試料の母材を構成するC,H等、及びX線を吸収して蛍光X線を減衰させるCl,Br等が樹脂試料の灰化によって分解・低減され、除去されずに残留した金属元素が灰化試料中で濃縮し、金属元素に起因する蛍光X線の強度がバックグラウンドに比べて相対的に増大したことが明白である。
【0025】
従って、本発明においては、樹脂試料を灰化してから蛍光X線分析を行うことにより、樹脂試料の母材に起因するバックグラウンドが低下し、また試料中でのX線の吸収が減少するので、樹脂試料中に含まれる金属元素を検出する感度が相対的に向上する。また本発明では、所定の波長範囲のX線を遮断するフィルタを用いることなく検出感度を向上させるので、特定の元素の検出感度を向上させる反面で他の元素の検出感度が低下する現象を防止することができる。
【0026】
以上に詳述した如く、本実施の形態においては、樹脂試料を灰化して蛍光X線分析を行う簡易的な方法により、高感度で樹脂試料に含まれる元素を検出することができる。例えば、ICP−AES分析又は原子吸光分析等の、高感度に元素を検出できるものの試料を完全に溶液化する手間のかかる前処理が必要な分析方法の代用又は前分析として本発明を利用することができる。
【0027】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2では、蛍光X線分析により合成樹脂からなる樹脂試料に含まれる元素を検出するために、前処理として樹脂試料の酸分解を行う形態を示す。図4は、分析対象の樹脂試料の酸分解を行って蛍光X線分析を行う本発明の方法の手順を説明する説明図である。まず分析対象の樹脂試料を破砕又は切断等により分割し、必要量を秤量する。
【0028】
次に、秤量した樹脂試料をビーカー等の容器に投入し、硝酸、硫酸又は過塩素酸等の酸を適宜加え、樹脂試料を酸に溶解させる。このとき、複数種類の酸を用いてもよい。また、ホットプレート等を用い、樹脂試料を酸に溶解させた溶液の温度を適宜加熱制御して、樹脂試料を酸で十分に分解させる。分解温度(加熱温度)は樹脂試料、酸の種類及び分析対象の元素に応じて適切な温度を選択する。特に、硫酸を用い、Pb等の揮散しやすい元素を分析対象とする場合は、分解温度を200℃程度とする。このように樹脂試料を酸に溶解させて加熱制御を行うことにより、樹脂試料は分解し、樹脂試料の母材を構成していたC,H,Cl,Br等も分解され、その揮発成分の一部が揮散し、樹脂試料の母材を構成するC,H,Cl,Br等が低減された溶液が得られる。この溶液は、樹脂試料の酸への溶解によって生じた沈殿物を含むことがある。
【0029】
次に、樹脂試料が酸に溶解した上で母材を構成するC,H,Cl,Br等が低減された溶液をピペット等で採取し、X線が透過し易いX線透過膜上に溶液を滴下し、X線透過膜上で適宜の時間放置して溶液を蒸発させて、残渣試料を作成する。なお、このとき低温乾燥機を用いて溶液を蒸発させることもできる。樹脂試料を酸に溶解させた溶液を蒸発させることにより、溶液中の溶媒である水又は有機溶媒が気化し、気化せずに溶液の蒸発後に残った残渣試料には、溶液中に溶解していた金属塩、及び樹脂試料の酸への分解によって溶液内に生じた沈殿物が含まれる。X線透過膜上で溶媒が気化した後は、溶液をX線透過膜上へ滴下して蒸発させることを繰り返し、適宜の量の残渣試料をX線透過膜上で作成する。
【0030】
次に、溶液を滴下・蒸発させて表面上に残渣試料を作成したX線透過膜を蛍光X線分析装置2に装着し、残渣試料の蛍光X線分析を行う。図5は、残渣試料の蛍光X線分析を行う蛍光X線分析装置2の模式図である。蛍光X線分析装置2の構成は、実施の形態1で用いた蛍光X線分析装置2の図2に示した構成と同様であり、対応する部分に同符号を付してその説明を省略する。蛍光X線分析装置2は、作成した残渣試料が載置されたX線透過膜11を装着し、蛍光X線分析を行う。X線照射部21からの一次X線は、X線透過膜11を通して残渣試料に照射され、残渣試料が放射する蛍光X線はX線透過膜11を通して検出部22で検出される。蛍光X線分析装置2は、波長分散方式の装置でもエネルギー分散方式の装置でもよく、また試料の上方からX線を照射する構成であってもよい。またX線照射部21が照射する一次X線の内で余分なX線をカットする一次フィルタを備えても良い。
【0031】
図6は、実施の形態2に係る試料からの蛍光X線を蛍光X線分析装置2で測定した測定スペクトルを示す特性図である。図6(a)は酸による分解を行わない樹脂試料の測定結果を示し、図6(b)は、残渣試料の測定結果を示す。図中の横軸は検出した蛍光X線のエネルギーをkeVで示し、縦軸は測定した各エネルギーの蛍光X線の強度をcpsで示す。なお、いずれの測定においても、Rh線源を使用し、更に高感度分析を行うために、Cd,Pb測定に専用のフィルタを用いて一次X線の所定波長成分をカットしている。図6(b)に示す残渣試料の測定結果では、図6(a)に示す酸による分解前の測定結果に現れるブロードなバックグラウンドの信号が減少し、Pb,Cd等の金属元素に起因する信号の強度が相対的に大きくなっている。即ち、樹脂試料の酸への溶解及び加熱制御によって、X線を散乱してバックグラウンドの原因となるC,H等、及びX線を吸収して蛍光X線を減衰させるCl,Br等が分解され、また低減され、溶液中に残留した沈殿物等に含まれる金属元素が残渣試料中で濃縮し、金属元素に起因する蛍光X線の強度がバックグラウンドに比べて相対的に増大したことが明白である。また、樹脂試料の母材を構成するC,H,Cl,Br等が除去又は低減された溶液について更に溶媒を気化させて乾燥させた残渣試料の蛍光X線分析を行うことにより、X線の溶媒による散乱を減少させることができ、よりバックグラウンドを低減させることができる。
【0032】
従って、本実施の形態においても、樹脂試料を酸で分解して溶液を蒸発させてから残渣試料の蛍光X線分析を行うことにより、樹脂試料の母材に起因するバックグラウンドが低下し、また試料中でのX線の吸収が減少するので、樹脂試料中に含まれる金属元素を検出する感度が相対的に向上する。また所定の波長範囲のX線を遮断するフィルタを用いることなく検出感度を向上できるので、特定の元素の検出感度を向上させる反面で他の元素の検出感度が低下する現象を防止することができる。
【0033】
また本実施の形態においては、原子吸光分析又はICP−AES等で用いる溶液の標準試料を用いて、近似的に樹脂試料に含まれる元素の定量を行うことができる。例えば、原子吸光分析又はICP−AES用の標準試料を前述と全く同様にしてX線透過膜上で蒸発させることによって残渣の標準試料を作成し、作成した残渣の標準試料を用いて各元素の検量線を作成しておき、残渣試料について測定した各元素に固有の蛍光X線の強度を検量線に当てはめることにより、樹脂試料を酸に溶解させた溶液中での各元素の濃度を求める。溶液中での各元素の濃度を求めた後は、溶液の容量及び樹脂試料の秤量値により、樹脂試料に含まれる各元素の濃度を求めることができる。
【0034】
以上に詳述した如く、本実施の形態においても、樹脂試料を酸で分解した残渣試料の蛍光X線分析を行う簡易的な方法により、高感度で樹脂試料に含まれる元素を検出することができ、手間のかかる前処理が必要な分析方法の代用又は前分析として本発明を利用することができる。
【0035】
更に、本実施の形態においては、樹脂試料を酸に溶解させた溶液を蒸発させた後に残留した残渣試料を蛍光X線分析に利用することにより、樹脂試料を酸に溶解させる処理において沈殿が発生した場合であっても、残渣試料中に沈殿物が含まれるので、沈殿物に含まれる元素を検出することが可能である。本発明においては、沈殿物に含まれる元素を検出することが可能であるので、樹脂試料を溶解させる酸としてPbを沈殿させる硫酸を使用した場合であっても、Pbを含む元素を検出することができる。従って、本発明では、この沈殿濃縮によっても、Pbを含む各元素の高感度な検出を可能としながらも、多くの樹脂を溶解させる硫酸を蛍光X線分析の前処理に利用することが可能であり、硫酸を用いることによって分析可能な樹脂の範囲を従来よりも拡大することが可能となる。
【0036】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3では、蛍光X線分析により合成樹脂からなる樹脂試料に含まれる元素を検出するために、前処理として樹脂試料を灰化処理して更に酸分解を行う形態を示す。図7は、分析対象の樹脂試料の灰化処理及び酸分解を行って蛍光X線分析を行う本発明の方法の手順を説明する説明図である。まず分析対象の樹脂試料を破砕又は切断等により分割し、必要量を秤量する。
【0037】
次に、秤量した樹脂試料を処理容器に投入して酸化剤を適宜添加し、処理容器を炉内に入れ、500℃程度に樹脂材料の温度を保ちながら4〜5時間反応させて、樹脂試料を灰化させる。樹脂材料を灰化する方法にはその他の方法を用いてもよい。次に、樹脂試料を灰化した灰化試料をビーカー等の容器に投入し、硫酸等の酸を適宜加え、灰化試料を酸に溶解させる。このとき、複数種類の酸を用いてもよい。また、灰化試料を酸に溶解させた溶液の温度を適宜加熱制御して、灰化試料を酸で十分に分解させることが望ましい。次に、灰化試料を酸に溶解させた溶液をピペット等で採取し、X線透過膜上に溶液を滴下し、X線透過膜上で適宜の時間放置して溶液を蒸発させることにより、溶液中の溶媒が気化した後の残渣試料を作成する。次に、残渣試料を作成したX線透過膜を蛍光X線分析装置2に装着し、図5に示す如く、残渣試料の蛍光X線分析を行う。
【0038】
樹脂試料を灰化した後で更に酸で分解し、分解後の溶液を蒸発させた残渣試料を得ることにより、樹脂試料の母材を構成するC,H,Cl,Br等が実施の形態1及び2に比べてより確実に分解され、また低減される。樹脂試料中に含まれていた金属元素は、灰化及び酸による分解でも揮散しなかった残渣試料中に残留する。X線を散乱してバックグラウンドの原因となる樹脂試料の母材を構成するC,H等、及びX線を吸収して蛍光X線を減衰させるCl,Br等がより確実に低減されるので、残渣試料の蛍光X線分析を行うことにより、金属元素に起因する蛍光X線の強度がバックグラウンドに比べて相対的により増大する。従って、本実施の形態においては、樹脂試料中に含まれる金属元素を検出する感度がより向上する。また、本実施の形態においても、灰化試料を溶解させる酸として硫酸を用いることが可能であり、硫酸を用いることによって分析可能な樹脂の範囲を従来よりも拡大することが可能となる。
【0039】
以上の実施の形態1〜3に示した如く、本発明の蛍光X線分析方法は、樹脂試料を灰化及び/又は酸で分解する簡易的な前処理を行うことにより、樹脂試料に含まれる元素を蛍光X線分析で高感度に検出することができるので、各種の製品又は廃棄物等に用いられている樹脂材料に含まれる元素、特に有害な金属元素を検出する技術に適用することができる。即ち、本発明を用いることにより、各種の製品又は廃棄物等に用いられている樹脂材料に含まれる有害元素等を高感度でしかも低コストで検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】分析対象の樹脂試料を灰化処理して蛍光X線分析を行う本発明の方法の手順を説明する説明図である。
【図2】灰化試料の蛍光X線分析を行う蛍光X線分析装置の模式図である。
【図3】実施の形態1に係る試料からの蛍光X線を蛍光X線分析装置で測定した測定スペクトルを示す特性図である。
【図4】分析対象の樹脂試料の酸分解を行って蛍光X線分析を行う本発明の方法の手順を説明する説明図である。
【図5】残渣試料の蛍光X線分析を行う蛍光X線分析装置の模式図である。
【図6】実施の形態2に係る試料からの蛍光X線を蛍光X線分析装置で測定した測定スペクトルを示す特性図である。
【図7】分析対象の樹脂試料の灰化処理及び酸分解を行って蛍光X線分析を行う本発明の方法の手順を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0041】
11 X線透過膜
2 蛍光X線分析装置
21 X線照射部
22 検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂試料の蛍光X線分析を行う方法において、
樹脂試料を灰化し、
灰化した試料の蛍光X線分析を行うこと
を特徴とする蛍光X線分析方法。
【請求項2】
樹脂試料の蛍光X線分析を行う方法において、
樹脂試料を酸に溶解させ、
溶解により生成した溶液を蒸発させ、
蒸発後に残った残渣の蛍光X線分析を行うこと
を特徴とする蛍光X線分析方法。
【請求項3】
樹脂試料の蛍光X線分析を行う方法において、
樹脂試料を灰化し、
灰化した試料を酸に溶解させ、
溶解により生成した溶液を蒸発させ、
蒸発後に残った残渣の蛍光X線分析を行うこと
を特徴とする蛍光X線分析方法。
【請求項4】
前記酸は硫酸であること
を特徴とする請求項2又は3に記載の蛍光X線分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−164547(P2008−164547A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356832(P2006−356832)
【出願日】平成18年12月29日(2006.12.29)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】