説明

蛍光X線分析用の粉体試料成形方法

【課題】 数十mg程度の微量の粉体試料について蛍光X線分析で軽元素の測定ができ、かつ分析後に試料を容易に回収できる前処理方法を提供する。
【解決手段】 微量の粉体試料1Aを蛍光X線分析に供するために1枚の高分子フィルム2とともにその高分子フィルム2の厚み方向に加圧成形して前記高分子フィルム2に付着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量の粉体試料を蛍光X線分析に供するために加圧成形する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
数十mg程度の微量の粉体試料を蛍光X線分析に供するために、その粉体試料だけを加圧成形しても、持ち上げるだけでに崩れてしまい、取り扱うことができない。これに対処すべく、従来、2つの前処理方法がある。第1の方法は、ホウ酸またはセルロースのペレットに設けたくぼみに粉体試料を入れて全体を加圧成形して一体化させる方法であり、第2の方法は、2枚の高分子フィルムの間に粉体試料を挟み込んで保持する方法である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の第1の方法では、試料がフィルムなどで覆われないので、軽元素からの蛍光X線を減衰させずに検出して測定できるものの、粉体であった試料は加圧成形でペレットと一体化するので、分析後に試料を回収することが困難である。一方、従来の第2の方法では、分析後に高分子フィルムの間から粉体試料を取り出して容易に回収できるものの、軽元素からの蛍光X線が高分子フィルムで減衰されるので、軽元素の測定が困難である。つまり、数十mg程度の微量しか採取できない粉体試料について、蛍光X線分析で軽元素の測定をして、その後試料を回収して別の化学分析などに供したいという要求に応じられる前処理方法がない。
【0004】
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、数十mg程度の微量の粉体試料について蛍光X線分析で軽元素の測定ができ、かつ分析後に試料を容易に回収できる前処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成すべく、本発明は、微量の粉体試料を蛍光X線分析に供するために1枚の高分子フィルムとともにその高分子フィルムの厚み方向に加圧成形して前記高分子フィルムに付着させる粉体試料成形方法である。
【0006】
本発明によれば、粉体試料を板状に加圧成形して片面を高分子フィルムに付着させるので、自重で高分子フィルムからはがれ落ちないように試料の方を上にして保持すれば容易に取り扱うことができ、持ち上げるだけでに崩れるようなことはない。そして、高分子フィルムに付着していない側は試料が露出しているので、軽元素からの蛍光X線を減衰させることなく測定が可能である。さらに、分析後は、試料を高分子フィルムから剥離するだけで容易に回収できる。
【0007】
本発明においては、前記高分子フィルムが、ポリエステル、ポリプロピレンまたはポリイミドからなり、厚さが10μm以下であることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態の粉体試料成形方法について、図にしたがって説明する。この方法では、まず、図1に示すように、下側加圧治具4aの上に1枚の高分子フィルム2を載せ、その上に、微量、例えば40mgの粉体試料1Aを載せる。高分子フィルム2には、X線の透過性の高い、例えば厚さ5μmのポリエステル、ポリプロピレンまたはポリイミドからなるフィルムを用いることができる。高分子フィルム2は、例えば円形で、加圧成形後に円板状になる試料1B(図2)の直径を想定して、それよりもやや大きい直径のものを用いる。なお、すべての図において、図示と理解の容易のために、フィルム2,5cや成形後の試料1Bの厚さなどは誇大に表しており、寸法関係は正確ではない。
【0009】
次に、図2に示すように、上側加圧治具4bを降ろして、粉体試料1A(図1)を高分子フィルム2とともにその高分子フィルム2の厚み方向(図2では上下方向)に例えば150kNで加圧成形して円板状に固化させるとともに、高分子フィルム2に付着させる。このとき、成形後の試料1Bの直径は例えば13mmになる。
【0010】
次に、上側加圧治具4bを上げて、図3に示すように、成形後の試料1Bが自重で高分子フィルム2からはがれ落ちないように試料1Bの方を上にした状態で保持し、下側加圧治具4aから取り出す。成形後の試料1Bの片面は高分子フィルム2に付着しているので、全体を成形試料3として、試料1Bの方を上にして保持すれば、容易に取り扱うことができ、持ち上げるだけで試料1Bが崩れるようなことはない。
【0011】
なお、図1において、下側加圧治具4aの上に粉体試料1Aを載せ、それを覆うように高分子フィルム2を被せておき、図2に示したように、上側加圧治具4bを降ろして、粉体試料1A(図1)を高分子フィルム2とともにその高分子フィルム2の厚み方向(図2では上下方向)に加圧成形して高分子フィルム2に付着させてもよい。この場合は、成形後の試料1Bが高分子フィルム2の下になるので、試料1Bと高分子フィルム2を挟持した状態で加圧治具全体4a,4bを上下逆転させてから、前述したように成形試料3を加圧治具4a,4bから取り出す。
【0012】
このように前処理した成形試料3を蛍光X線分析に供する際には、図4に示すような試料ホルダ5に載置するのが好ましい。この試料ホルダ5は、中空カップである本体5aと、輪状の係止部材5bと、X線を透過させる支持フィルム5cとで構成される。より具体的には、本体5aの開口部を覆うように、本体5aの外径よりもやや直径の大きい円形の支持フィルム5cを載せ、上方から係止部材5bを本体5aの外側に嵌合させることにより、係止部材5bと本体5aとの間に支持フィルム5cの周辺部を挟持させている。支持フィルム5cには、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリイミドなどからなるフィルムを用いることができる。
【0013】
そして、この試料ホルダ5の支持フィルム5cの上に、成形試料3を載置して、成形後の試料1Bの上面に1次X線6を照射して、発生する蛍光X線7の強度を測定する。成形後の試料1Bの上面は、フィルムなどに覆われずに試料1Bが露出しているので、軽元素からの蛍光X線7を減衰させることなく測定が可能である。また、成形後の試料1Bの下方には、X線を透過させる高分子フィルム2と支持フィルム5cしかなく、その下は空洞であるので、蛍光X線分析の際のバックグラウンドも十分に低減される。さらに、蛍光X線分析の後は、成形後の試料1Bを高分子フィルム2から剥離するだけで容易に回収でき、別の化学分析などに供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態の粉体試料成形方法における、加圧前の粉体試料および高分子フィルムを示す図である。
【図2】同方法における、加圧中の試料および高分子フィルムを示す図である。
【図3】同方法における、加圧成形後の試料および高分子フィルムからなる成形試料を示す図である。
【図4】同方法で得られた成形試料を蛍光X線分析に供している状態を示す図である。
【符号の説明】
【0015】
1A 粉体試料
1B 加圧成形後の試料
2 高分子フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微量の粉体試料を蛍光X線分析に供するために1枚の高分子フィルムとともにその高分子フィルムの厚み方向に加圧成形して前記高分子フィルムに付着させる粉体試料成形方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記高分子フィルムが、ポリエステル、ポリプロピレンまたはポリイミドからなり、厚さが10μm以下である粉体試料成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−78386(P2006−78386A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−263820(P2004−263820)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(000250351)理学電機工業株式会社 (44)
【Fターム(参考)】