説明

融液温度の測定方法、放射温度計、及びシリコン単結晶の製造方法

【課題】シリコン融液表面の、特に種結晶着液前の温度を高精度に測定可能な測定方法及び放射温度計を提供し、また、種結晶の着液前の温度を高精度に測定して無転位のシリコン単結晶を安定して製造できるシリコン単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】シリコン融液3に種結晶16を着液する前に、放射温度計1を用いてシリコン融液3からの波長が800〜1350nmの範囲内の放射光を選択して強度を測定することによってシリコン融液表面の温度を測定しながらシリコン融液の温度を調整し、測定したシリコン融液表面の温度が所定の温度となった時にシリコン融液に種結晶16を着液することを特徴とするチョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(Czochralski Method、以下CZ法と略する)によるシリコン単結晶の製造方法に関し、特に放射温度計を用いたシリコン融液表面の温度を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、CZ法によるシリコン単結晶の製造において、単結晶シリコンを種結晶として用いて、これをシリコン融液に着液させた後、回転させながらゆっくりと引き上げることで種結晶の下方に単結晶を成長させている。この種結晶をシリコン融液に着液させた際に、熱衝撃により種結晶に高密度でスリップ転位が発生し、育成する単結晶に転位が伝播することになる。このような転位を製品である単結晶インゴットまで引き継ぐこと無く消滅させるための無転位化する方法として、Dash Necking法が知られており、直径3mm程度に一旦細くして絞り部を形成するいわゆる種絞り(ネッキング)を行い、次いで、所望の直径になるまで結晶を拡径させて、無転位のシリコン単結晶を引き上げている。
【0003】
このDash Necking法による絞り工程で転位の伝播を終了させるために、一定以上の引上げ速度で引き上げること、及び直径を一定以下の細さに絞ることが必要条件となる。また、高重量の結晶成長を行うには耐荷重の問題から直径を一定以上の太さで絞る必要がある。一般に、育成する単結晶の直径を制御する方法として、引上げ速度の制御や引上げ中の温度の制御があるが、上記したように、絞り工程では一定以上の引上げ速度で引き上げる必要があること、及び結晶の成長速度の限界により引上げ速度の制御範囲には限界がある。また、引上げ中の温度の制御は融液の熱容量が大きい為に即応性に欠け、遅れ時間が出てしまい制御性に限界がある。
このようなことから種絞りを行う場合には、絞り工程開始前に予め融液表面の温度を正確に適切な温度に合わせておくことが絞り部の直径の安定化に必須である。
【0004】
また、上記した耐荷重の問題となるネッキングによる絞り部を形成することなく無転位の単結晶を引き上げる方法として、シリコン融液に接触させる種結晶の先端部の形状が尖った形状または尖った先端を切り取った形状であるものを用い、まず種結晶の先端をシリコン融液に静かに接触させた後、種結晶を低速度で下降させるか、あるいはシリコン融液面を低速度で上昇させることによって転位を導入することなく種結晶の先端部が所望の直径となるまで溶融し、その後、該種結晶を低速度で上昇させるか、あるいはシリコン融液面を低速度で下降させることによってネッキングを行うことなく、所望径のシリコン単結晶を育成させるという方法があり、Dash Necking法よりも種結晶付近の最小直径を大きくすることが可能である。
【0005】
この方法を用いる場合においても、Dash Necking法と同様に、種結晶を着液する前のシリコン融液表面の温度が適切な温度になっていることが極めて重要である。融液温度が適切でないと上記のように種結晶先端を接触後溶融する操作ができず、転位を導入してしまうからである。
このように、融液表面の温度を正確に適切な温度に合わせるためには、融液表面の温度を正確に測定することが無転位のシリコン単結晶を育成する上で非常に重要である。
【0006】
従来の融液表面の温度を測定する方法として、融液表面からの熱放射光を測定する放射温度計を用いる方法がある(例えば、特許文献1参照)。また、種結晶と融液面の接触部に形成されるメニスカスリングをテレビカメラにより観察し、高輝度のリング状部が2重になる現象を指標に用いて融液温度を検知する方法が開示されている(特許文献2参照)。この方法はネッキング中の融液温度を検知する方法であり、種結晶を着液する前のシリコン融液表面の温度の測定には適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9―263486号公報
【特許文献2】特開平8―301689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記した従来の放射温度計を用いる方法では、測定精度が十分ではなく、種結晶の着液温度の見極めが不正確になっていた。そのため、温度が最適温度より低すぎる場合には転位が導入されて次の工程に引き継がれ、また温度が最適温度より高すぎる場合には絞り部の直径が細くなりすぎて融液と種結晶が切り離されてしまうという問題が一定の頻度で生じていた。
【0009】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、シリコン融液表面の、特に種結晶の着液前の、温度を高精度に測定可能な測定方法及び放射温度計を提供することを目的とする。また、種結晶の着液前の温度を高精度に測定して無転位のシリコン単結晶を安定して製造できるシリコン単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明によれば、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造において、放射温度計を用いてシリコン融液からの放射光の強度を測定することによってシリコン融液表面の温度を測定する融液温度の測定方法であって、前記シリコン融液からの波長が800〜1350nmの範囲内の放射光を選択して強度を測定することによって前記シリコン融液表面の温度を測定することを特徴とする融液温度の測定方法が提供される。
【0011】
このような測定方法であれば、温度測定の誤差の要因となる、シリコン融液の放射率、シリコン酸化物微粒子の光透過(散乱)スペクトル、及び石英窓ガラスの光吸収スペクトルのそれぞれの波長依存性の影響をなくして高精度にシリコン融液表面の温度を測定することができる。
【0012】
このとき、放射光の選択をバンドパスフィルターを用いて行うことができる。
このようにすれば、設置スペースを小さくすることができ、容易に低コストで実施することができる。
【0013】
また、本発明によれば、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造において、シリコン融液からの放射光の強度を測定することによってシリコン融液表面の温度を測定する放射温度計であって、前記シリコン融液からの波長が800〜1350nmの範囲内の放射光を選択して強度を測定することによって前記シリコン融液表面の温度を測定するものであることを特徴とする放射温度計が提供される。
【0014】
このような放射温度計であれば、温度測定の誤差の要因となる、シリコン融液の放射率、シリコン酸化物微粒子の光透過(散乱)スペクトル、及び石英窓ガラスの光吸収スペクトルのそれぞれの波長依存性の影響をなくして高精度にシリコン融液表面の温度を測定することができるものとなる。
【0015】
このとき、前記放射光の選択を行うバンドパスフィルターを有するものとすることができる。
このようなものであれば、設置スペースを小さくして小型化することができ、低コストで構成することができる。
【0016】
また、本発明によれば、ルツボに収容した多結晶シリコン原料をヒータにより加熱してシリコン融液とし、該加熱したシリコン融液に種結晶を着液した後引き上げることで単結晶を育成するチョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造方法であって、前記シリコン融液に前記種結晶を着液する前に、放射温度計を用いて前記シリコン融液からの波長が800〜1350nmの範囲内の放射光を選択して強度を測定することによってシリコン融液表面の温度を測定しながら前記シリコン融液の温度を調整し、前記測定したシリコン融液表面の温度が所定の温度となった時に前記シリコン融液に前記種結晶を着液することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法が提供される。
【0017】
このようなシリコン単結晶の製造方法であれば、種結晶の着液前のシリコン融液表面の温度の測定において、温度測定の誤差の要因となる、シリコン融液の放射率、シリコン酸化物微粒子の光透過(散乱)スペクトル、及び石英窓ガラスの光吸収スペクトルのそれぞれの波長依存性の影響をなくして高精度にシリコン融液表面の温度を測定でき、種結晶を最適温度の融液に着液して無転位のシリコン単結晶を安定して製造できる。
【0018】
このとき、前記シリコン融液に前記種結晶を着液した後にネッキングを行うことができる。
本発明のシリコン単結晶の製造方法では、シリコン融液表面の温度を高精度に測定してから適切な温度で種結晶をシリコン融液に着液できるので、ネッキング時の絞り部の直径を精度良く制御して、無転位のシリコン単結晶をより安定して製造できる。
【0019】
また、前記放射光の選択をバンドパスフィルターを用いて行うことができる。
このようにすれば、設置スペースを小さくすることができ、容易に低コストで実施することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、シリコン融液表面の温度を測定する放射温度計において、シリコン融液からの波長が800〜1350nmの範囲内の放射光を選択して強度を測定することによってシリコン融液表面の温度を測定するので、高精度にシリコン融液表面の温度を測定できる。そして、シリコン単結晶の製造方法における種結晶の着液前のシリコン融液表面の温度をこのようにして高精度に測定するので、種結晶を最適温度の融液に着液して無転位のシリコン単結晶を安定して製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の放射温度計の一例を示す概略図である。
【図2】シリコン酸化物の透過率の波長依存性を示す図である。
【図3】シリコン融液の放射率の波長依存性を示す図である。
【図4】石英窓ガラスの光吸収スペクトルの波長依存性を示す図である。
【図5】実施例及比較例における絞り部の最小直径の評価結果を示す図である。(A)実施例の結果。(B)比較例の結果。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
CZ法によるシリコン単結晶の製造において、従来より無転位の結晶を育成するためにはシリコン融液表面の温度、特に種結晶を着液する前の温度を高精度に測定することが重要であることが知られている。しかし、従来の放射温度計を用いた方法では測定精度が十分ではなく、種結晶の着液温度の見極めが不正確になっていた。そのため、絞り部の直径を適切に制御することができず、無転位の単結晶が得られなかったり、ネッキングにおいて、融液と種結晶が切り離されたりという問題が一定の頻度で生じていた。
【0023】
そこで、本発明者等はこのような問題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、シリコン融液の放射率、シリコン酸化物微粒子の光透過(散乱)スペクトル、及び石英窓ガラスの光吸収スペクトルの3つの波長依存性に着目し、これらの波長依存性による影響が放射温度計の誤差の原因となり得ることに想到した。さらに、本発明者等は実際の温度の測定精度の評価を行い、その結果、特定波長、具体的には800〜1350nmの波長の範囲内の放射光のみを選択して、その強度を測定することによって、従来方法に比べて精度良くシリコン融液表面の温度を測定することが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0024】
図1は本発明の放射温度計の一例、及び一般的なCZ法による単結晶製造装置の一例を示す概略図である。
図1に示すように、単結晶製造装置10は、多結晶シリコン原料を収容する石英ルツボ11、多結晶シリコン原料を加熱、融解してシリコン融液3にするためのヒータ12などがメインチャンバ13内に格納され、メインチャンバ13上に連接されたプルチャンバ14の上部には、育成されたシリコン単結晶を回転させながら引き上げる引き上げ機構(不図示)が設けられている。
【0025】
このプルチャンバ14の上部に取り付けられた引き上げ機構からはワイヤ15が巻き出されており、その先端に取り付けられた種結晶16をシリコン融液3に着液し、ワイヤ15を引き上げ機構によって巻き取ることで種結晶16の下方にシリコン単結晶を育成するように構成されている。
【0026】
本発明の放射温度計1は、このような単結晶製造装置を用いたCZ法によるシリコン単結晶の製造において、シリコン融液3からの波長が800〜1350nmの範囲内の放射光を選択して強度を測定することによってシリコン融液表面の温度を測定するものである。
また、本発明の融液温度の測定方法では、このような本発明の放射温度計を用いて、上記したように、シリコン融液からの波長が800〜1350nmの範囲内の放射光を選択して強度を測定することによってシリコン融液表面の温度を測定する。
【0027】
ここで、本発明において波長が800〜1350nmの範囲内の放射光を選択して強度を測定するとは、従来のように全ての放射光を測定して、その強度から温度を測定するのではなく、波長が800〜1350nmの範囲内にある放射光の強度から温度を測定することを意味する。従って、この範囲外にある波長の放射光の強度から温度を測定しなければ良く、逆に800〜1350nmの範囲内であれば更に波長を限定しても良い。例えば、800〜1300nm、或いは900〜1350nmの波長の放射光を測定し、これからシリコン融液の温度を測定しても本発明の範囲内である。
【0028】
またこのとき、例えば図1に示すように、本発明の放射温度計1をプルチャンバ14の上方に設け、プルチャンバ14の上面に設けられた温度測定用の石英窓17を介してシリコン融液3からの放射光の強度を測定することができるが、放射温度計の設置位置は特にこれに限定されることはなく、例えばメインチャンバ13の上面に設けられた石英窓17を介して測定しても良い。
【0029】
このように波長が800〜1350nmの範囲内の放射光のみを選択してその強度を測定することによって、SN比を高めてシリコン融液表面の温度測定の誤差を低減することができる。具体的には、波長が800nm以上の放射光を選択して測定した場合、シリコン酸化物微粒子の光透過(散乱)スペクトルの波長依存性の影響を低減することができる。一般に、石英ルツボを使用したCZ法によるシリコン単結晶の製造において、シリコン融液からシリコン酸化物が発生する。このシリコン酸化物は、チャンバ内の低温領域で凝集して薄膜もしくは微粒子になるが、このシリコン酸化物は800nm未満の波長の光を吸収もしくは散乱する。
【0030】
図2にシリコン酸化物の透過率の波長依存性を示す。図2に示すように、波長800nmから短波長になるに連れて急に透過率が下がっている。このようなシリコン酸化物が例えば石英窓に付着し、操業時間の経過と共にその厚みが増加していく。そのため、波長が800nm未満の放射光を含めて測定した場合、操業時間の経過と共に放射光の強度が弱くなってしまう。これにより、シリコン融液表面の温度を低く見積もる傾向が出る。このシリコン酸化物の透過率の波長依存性の影響を低減するためには、波長が800nm以上の放射光を選択して測定すれば良く、例えば850、900、又は1000nm以上であっても良い。
【0031】
また、図3に示すように、シリコン融液の放射率は波長の増加に伴って下がる傾向がある。メルト表面での電磁波のエネルギー収支より、(放射率)+(反射率)+(透過率)=1となる。ここで、シリコンメルトは最外殻電子が引き剥がされて金属状態になっていると考えられるので(透過率)≒0となり、(反射率)=1―(放射率)となる。すなわち、波長が増加した場合、放射光強度が弱くなるのと同時に反射率が大きくなる。反射光はノイズとなるため、長波長になるほど放射光測定のSN比は悪化する。更に、上記した単結晶製造装置の石英窓に使用される石英材は、図4に示すように、1380nm付近に特異的な吸収スペクトルを持っている。これは石英材に含まれる水酸基による吸収の影響である。波長が1350nm以下の放射光を選択してその強度を測定することによって、このような、シリコン融液の放射率及びシリコン酸化物微粒子の光透過(散乱)スペクトルの波長依存性の影響を低減することができる。ここで波長は例えば1300nm、又は1200nm以下であっても良い。
【0032】
このように、放射温度計の誤差の原因となり得る、シリコン融液の放射率、シリコン酸化物微粒子の光透過(散乱)スペクトル、及び石英窓ガラスの光吸収スペクトルの3つの波長依存性の影響を低減して精度良くシリコン融液表面の温度を測定するためには、シリコン融液からの波長が800〜1350nmの範囲内の放射光を選択して強度を測定することによってシリコン融液表面の温度を測定する必要がある。
【0033】
このとき、図1に示すように、放射温度計に例えば誘電多層膜等を利用したバンドパスフィルター2を設け、このバンドパスフィルター2を用いて放射光の選択を行うことができる。このようにすれば、設置スペースを小さくすることができ、容易に低コストで実施することができるので好ましい。
或いは、回析格子を利用する方法、プリズム等の波長分散特性をもつ材料を利用する方法等を利用することもできる。
【0034】
次に、本発明のシリコン単結晶の製造方法について説明する。ここでは図1に示すような単結晶製造装置10を用いた場合について説明する。
まず、石英ルツボ11に多結晶シリコン原料を収容し、ヒータ12により多結晶シリコン原料を融点(約1420℃)以上に加熱してシリコン融液3とする。
次に、シリコン融液3に種結晶16を着液する前に、放射温度計1を用いてシリコン融液3からの波長が800〜1350nmの範囲内の放射光を選択して強度を測定することによってシリコン融液表面の温度を測定しながらシリコン融液3の温度を調整する。
【0035】
そして、シリコン融液3の温度が所定の温度(種付け温度)になった時点でワイヤ15を巻き出すことによりシリコン融液面の略中心部に種結晶16の先端を着液させる。
このように、本発明のシリコン単結晶の製造方法では、シリコン融液に種結晶を着液する前に上記した本発明の放射温度計及び融液温度の測定方法と同様に、シリコン融液からの波長が800〜1350nmの範囲内の放射光を選択して強度を測定することによってシリコン融液表面の温度を測定するので、シリコン融液表面の温度を高精度に測定してバラツキを低減することができ、種結晶を最適温度に調整された融液に着液させることができる。
【0036】
このとき、種結晶をシリコン融液に着液させた際に生じる転位を消滅させるため、シリコン融液に種結晶を着液した後に、一旦、成長初期の結晶を3〜5mm程度まで細くして絞り部を形成するネッキングを行うことができる。そして、転位が抜けたところで径を所望の直径(例えば8インチ(200mm)又は12インチ(300mm)以上)まで拡大して、目的とする品質のシリコン単結晶を成長させていく。
【0037】
或いは、このようなネッキングを行わず、シリコン融液に接触させる種結晶の先端部の形状が尖った形状または尖った先端を切り取った形状であるものを用い、まず種結晶の先端をシリコン融液に静かに接触させた後、種結晶を低速度で下降させるか、あるいはシリコン融液面を低速度で上昇させることによって転位を導入することなく種結晶の先端部が所望の直径となるまで溶融し、その後、該種結晶を低速度で上昇させるか、あるいはシリコン融液面を低速度で下降させることによって上記のような所望径のシリコン単結晶を育成することもできる。
【0038】
このような無転位化法を用いて無転位のシリコン単結晶を育成する場合において、種結晶の着液前のシリコン融液表面の温度を高精度に測定できる本発明は特に有用であり、特にネッキングを行う場合には、最適径の絞り部の形成の成功率を向上できる。また、ネッキングを行わない場合にも無転位化の成功率を格段に向上することができる。
その後、ルツボを適宜の方向に回転させるとともに、ワイヤ15を回転させながら巻き取り、種結晶を引き上げることにより単結晶を育成する。このとき、シリコン融液面の変化によって結晶直径や結晶品質が変わることのないよう、シリコン融液面を一定位置に保つため、ルツボを単結晶の引き上げに応じてシリコン融液が減少した分だけ上昇させる。
【0039】
またこのとき、炉内に発生した酸化物を炉外に排出する等を目的とし、プルチャンバ14の上部に設けられたガス導入口(不図示)からアルゴンガス等の不活性ガスを導入できる。この導入された不活性ガスは、整流筒18の内側を通り引き上げ中のシリコン単結晶の近傍に整流され、シリコン融液表面を通過してルツボ11の上端縁の上方を通過し、単結晶製造装置の下部に設けられたガス流出口(不図示)から排出される。これにより、引き上げ中のシリコン単結晶がガスにより冷却されるとともに、整流筒18の内側、ルツボ11の上端縁、及び石英窓17等にシリコン酸化物が大量に堆積するのを抑制することができ、シリコン融液表面の温度の測定精度をより一層高めることができる。
【0040】
以上説明したように、本発明のシリコン単結晶の製造方法は、波長が800〜1350nmの範囲内の放射光のみを選択してシリコン融液表面の温度を測定するので、温度測定の誤差の要因となる、シリコン融液の放射率、シリコン酸化物微粒子の光透過(散乱)スペクトル、及び石英窓ガラスの光吸収スペクトルのそれぞれの波長依存性の影響を低減して高精度にシリコン融液表面の温度を測定でき、種結晶を最適温度の融液に着液させることができる。そのため、Dash Necking法などを用いて無転位のシリコン単結晶を従来に比べてより安定して製造でき、ネッキング時の絞り部の直径が細くなりすぎて融液と種結晶が切り離されてしまうなどのトラブル率を低減することができる。従って、単結晶製造の生産効率を向上することができる。
【0041】
このとき、放射光の選択をバンドパスフィルターを用いて行えば、設置スペースを小さくすることができ、容易に低コストで実施することができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
(実施例)
図1に示すような単結晶製造装置及び本発明の放射温度計を用い、本発明の融液温度の測定方法及び本発明のシリコン単結晶の製造方法に従ってシリコン単結晶を製造した。ここで、放射温度計はバンドパスフィルターを具備したものを用いた。
まず、ルツボ内の多結晶シリコン原料をヒータにより加熱してシリコン融液とした。次に、放射温度計を用いてシリコン融液からの波長が800〜1350nmの範囲内の放射光を選択して強度を測定することによってシリコン融液表面の温度を測定しながらシリコン融液の温度を調整した。
【0044】
この測定したシリコン融液の温度が所定の温度T℃(種付け温度)になった時点で種結晶をシリコン融液に着液させた後、ネッキングによる絞り工程を行い、無転位の単結晶を育成した。この時の絞り部の最小直径、及び絞り工程の失敗率を評価した。ここで絞り工程の失敗率とは、絞り部の直径が適切径より大きいため転位が導入されてしまったり、小さすぎて融液と種結晶が切り離されてしまった場合の発生頻度(発生回数/製造した単結晶インゴットの本数)を示す。またここで、絞り部の直径は、この直径を測定する機能を有するカメラによりモニタリングした。
【0045】
また、種結晶の着液時のシリコン融液表面の温度が適正であったか否かを判定するために、一定の速度で引き上げるとシリコン融液温度に対応した直径に収束するように絞り部の直径が変化するという関係から、特定の引き上げ速度及び特定の加熱量変化を与えた条件下での絞り開始からの時間における絞り部の直径を測定することで、種結晶の着液時のシリコン融液表面の温度の相対温度を求め評価した。
【0046】
その結果、図5(A)に示すように、後述する比較例(図5(B))と比べ、より多くの絞り部の最小直径が最適直径範囲内にあり、またシリコン融液表面の相対温度のバラツキも少ないことが分かる。すなわち、実施例ではシリコン融液の温度をより高精度に測定できていることが分かる。また、絞り工程の失敗率は14.2%と後述の比較例より改善されていた。
このように、本発明の放射温度計、融液温度の測定方法及びシリコン単結晶の製造方法によって、種結晶の着液前のシリコン融液の温度を高精度に測定でき、無転位のシリコン単結晶を安定して製造できることが確認できた。
【0047】
(比較例)
シリコン融液からの反射光を波長によって選択せず、全ての波長の放射光の強度を測定した以外、実施例と同様な条件でシリコン単結晶を製造し、実施例と同様に評価した。
その結果、図5(B)に示すように、実施例と比べ、より多くの絞り部の最小直径が最適直径範囲外にあり、またシリコン融液表面の相対温度のバラツキも大きくなっていることが分かる。また、絞り工程の失敗率は45.2%と実施例と比べ悪化していた。
このことは、1350nmを超える波長の放射光で測定したために、シリコン融液の放射率、及び石英窓ガラスの光吸収スペクトルの2つの波長依存性が影響してしまったためである。
【0048】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0049】
1…放射温度計、 2…バンドパスフィルター、 3…シリコン融液、
10…単結晶製造装置、 11…石英ルツボ、 12…ヒータ、
13…メインチャンバ、 14…プルチャンバ、 15…ワイヤ、 16…種結晶、
17…石英窓、18…整流筒。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造において、放射温度計を用いてシリコン融液からの放射光の強度を測定することによってシリコン融液表面の温度を測定する融液温度の測定方法であって、
前記シリコン融液からの波長が800〜1350nmの範囲内の放射光を選択して強度を測定することによって前記シリコン融液表面の温度を測定することを特徴とする融液温度の測定方法。
【請求項2】
前記放射光の選択をバンドパスフィルターを用いて行うことを特徴とする請求項1に記載の融液温度の測定方法。
【請求項3】
チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造において、シリコン融液からの放射光の強度を測定することによってシリコン融液表面の温度を測定する放射温度計であって、
前記シリコン融液からの波長が800〜1350nmの範囲内の放射光を選択して強度を測定することによって前記シリコン融液表面の温度を測定するものであることを特徴とする放射温度計。
【請求項4】
前記放射光の選択を行うバンドパスフィルターを有するものであることを特徴とする請求項3に記載の放射温度計。
【請求項5】
ルツボに収容した多結晶シリコン原料をヒータにより加熱してシリコン融液とし、該加熱したシリコン融液に種結晶を着液した後引き上げることで単結晶を育成するチョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造方法であって、
前記シリコン融液に前記種結晶を着液する前に、放射温度計を用いて前記シリコン融液からの波長が800〜1350nmの範囲内の放射光を選択して強度を測定することによってシリコン融液表面の温度を測定しながら前記シリコン融液の温度を調整し、前記測定したシリコン融液表面の温度が所定の温度となった時に前記シリコン融液に前記種結晶を着液することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記シリコン融液に前記種結晶を着液した後にネッキングを行うことを特徴とする請求項5に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項7】
前記放射光の選択をバンドパスフィルターを用いて行うことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のシリコン単結晶の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−148938(P2012−148938A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10060(P2011−10060)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】