説明

血管作動性酸素運搬体に誘導される血管収縮の減弱

血管作動性酸素運搬体(例えば、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体などのヘムに基づく酸素運搬体)の投与後の哺乳動物における血管収縮を防止するかまたは減少させるための組成物および方法を開示する。本方法は、一酸化窒素を放出する化合物、ガス状の一酸化窒素を含有する治療ガス、ホスホジエステラーゼ阻害剤、および/または可溶性グアニル酸シクラーゼ増感剤の1つもしくは複数と組み合わせて、血管作動性酸素運搬体を含有する組成物を哺乳動物に投与する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年11月7日に出願された米国仮出願特許第60/864,734号の恩典を主張する。前出願の全内容は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
連邦政府が出資した研究に関する記述
本発明は、National Institutes of Health/National Heart, Lung, and Blood Instituteによって授与された助成金番号5R01HL042397-17の下で、政府の援助を受けて作製された。米国政府は、本発明に一定の権利を有し得る。
【0003】
発明の分野
本発明は、血管作動性酸素運搬体の投与後の哺乳動物における血管収縮を防止するかまたは減少させるための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
赤血球は、生理学的条件下で酸素と可逆的に結合し、かつ細胞呼吸に必要な酸素の組織への連続した送達を仲介する。輸血は、赤血球不全を示す患者のための、伝統的な治療オプションを構成する。輸血に付随し得る感染性病原体(例えば、ヒト免疫不全ウイルスまたは肝炎ウイルス)の伝染を回避する細胞を含まない手段として、代用血液(すなわち、人工的酸素運搬体)が提唱されてきた。さらに、代用血液には同種凝集抗原が欠如しており、このため血液型決定およびスクリーニングの必要性が除去されており、かつドナー血液および輸血レシピエントのミスマッチから生じ得る潜在的な不都合な反応が回避される点でもまた、代用血液は同種赤血球輸血よりも有利であり得る。交差適合試験の必要性がないことから、外傷または出血の非常に初期の時点で、代用血液の輸血が実質的に直ちに利用可能になる。代用血液はまた、延長された期間の保存を経ることも可能であり、かつその活性を保持し得る。例えば、Spahn et al.(2005) Curr Pharm Des. 11(31):4099(非特許文献1)およびGreenburg et al.(2004) Crit Care 8 Suppl 2: S61(非特許文献2)を参照されたい。
【0005】
ヘムに基づく酸素運搬体は、天然もしくは修飾タンパク質(例えば、グロビンもしくはアルブミン)または他の分子と組み合わされたヘムを含有し、かつ組織に酸素を送達可能である、細胞を含まない代用血液である。ヘムに基づく酸素運搬体(例えば、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体)を用いて、例えば貧血、失血(例えば、急性出血から生じるかまたは手術中のもの)、またはショック(例えば、循環血欠乏性(volume deficiency)ショック、アナフィラキシーショック、敗血症ショック、もしくはアレルギー性ショック)から生じる低酸素症を防止するかまたは治療してもよい。保存血を患者に投与する本質的に任意の目的のために、ヘムに基づく酸素運搬体が注入可能である。例えば、Artificial Oxygen Carrier: Its Front Line(Koichi Kobayashi et al. eds., 2005)(非特許文献3)を参照されたい。さらに、ヘムに基づく酸素運搬体を対象に投与して、心筋機能を改善し、かつ急性の冠動脈虚血および再灌流後の心筋梗塞サイズを減少させることも可能である。 George et al.(2006) Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol. 291(3):H1126-37(非特許文献4)およびCaswell et al.(2005) Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol. 288:H1796-1801(非特許文献5)。前述の利点にもかかわらず、ヘムに基づく酸素運搬体の投与は、レシピエントにおける血管収縮を誘発することが多い。これは、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体を用いた臨床試験における、心臓発作および脳卒中による過剰な死亡率の主な原因である場合がある。ヘムに基づく酸素運搬体による血管収縮は、冠動脈血管痙攣、脳血管痙攣、肺血管痙攣、腎血管痙攣、ならびに、胃腸管のものを含む体内のあらゆる他の血管および平滑筋の痙攣を引き起こし得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Spahn et al.(2005) Curr Pharm Des. 11(31):4099
【非特許文献2】Greenburg et al.(2004) Crit Care 8 Suppl 2: S61
【非特許文献3】Artificial Oxygen Carrier: Its Front Line(Koichi Kobayashi et al. eds., 2005)
【非特許文献4】George et al.(2006) Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol. 291(3):H1126-37
【非特許文献5】Caswell et al.(2005) Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol. 288:H1796-1801
【発明の概要】
【0007】
概要
本発明は、ヘムに基づく酸素運搬体を哺乳動物に投与する前に一酸化窒素を吸入させると、投与した二価鉄ヘム含有(活性)化合物の三価鉄ヘム含有(不活性)化合物への有意な変換を引き起こすことなく、哺乳動物における血管収縮の発生を防止するかまたは減少させ得るという驚くべき発見に、少なくとも部分的に基づく。本発明はまた、ヘムに基づく酸素運搬体の投与に続いて低濃度の一酸化窒素を連続吸入させると、投与した活性二価鉄ヘムの不活性三価鉄ヘムへの有意な変換をやはり引き起こすことなく、哺乳動物における肺および全身の血管収縮の発生を防止するかまたは減少させ得るという驚くべき発見にも、少なくとも部分的に基づく。
【0008】
血管作動性酸素運搬体(例えば、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体などのヘムに基づく酸素運搬体)の投与(単回または反復)後に、(i)一酸化窒素を放出する化合物(例えば、亜硝酸塩)またはガス状の一酸化窒素を含有する治療ガスを哺乳動物に投与し;かつ(ii)一酸化窒素を放出する化合物または治療ガスの投与中または投与後、血管作動性酸素運搬体を含有する組成物を哺乳動物に投与することによって、哺乳動物における血管収縮を防止するかまたは減少させる方法であって、血管作動性酸素運搬体を含有する組成物の投与後の哺乳動物における血管収縮の発生を防止するかまたは減少させるために有効な量で一酸化窒素を放出する化合物またはガス状の一酸化窒素を投与する方法を開示する。
【0009】
血管作動性酸素運搬体(例えば、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体などのヘムに基づく酸素運搬体)を含有する組成物の投与後の哺乳動物における血管収縮の発生を防止するかまたは減少させるための治療ガスを調製するための、ガス状の一酸化窒素の使用も開示する。
【0010】
血管作動性酸素運搬体(例えば、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体などのヘムに基づく酸素運搬体)を含有する組成物の投与後の哺乳動物における血管収縮の発生を防止するかまたは減少させるための治療組成物を調製するための、一酸化窒素を放出する化合物(例えば、亜硝酸塩)の使用も開示する。
【0011】
治療ガスは、例えば吸入、人工肺、または溶解した一酸化窒素を含有する水溶液によって、哺乳動物に投与可能である。
【0012】
治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度は、例えば、少なくとも20ppm、少なくとも40ppm、少なくとも50ppm、少なくとも80ppm、少なくとも100ppm、少なくとも200ppm、少なくとも300ppm、または少なくとも500ppmであり得る。いくつかの態様において、治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度は、50ppm〜500ppmの範囲(例えば、60ppm〜200ppm、80ppm〜200ppm、または80ppm〜500ppm)である。治療ガスはタバコの煙の非存在下で吸入させることが可能である。
【0013】
治療ガスは、多様な期間(例えば少なくとも1分間、少なくとも2分間、少なくとも3分間、少なくとも4分間、少なくとも5分間、少なくとも6分間、少なくとも7分間、少なくとも8分間、少なくとも9分間、または少なくとも10分間)に渡って、哺乳動物に連続して吸入させることが可能である。いくつかの態様において、治療ガスは、約200ppmのガス状の一酸化窒素濃度で約7分間に渡って、哺乳動物に連続して吸入させることが可能である(例えば、酸素運搬体の緊急注入を必要とする、外傷の被害者などの対象に、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体を投与することができるように、短い吸入期間が求められる場合)。他の態様において、治療ガスは、少なくとも約2分間、少なくとも約5分間、少なくとも約15分間、少なくとも約30分間、少なくとも約45分間、または少なくとも約1時間(例えば2〜60分間、2〜30分間、2〜15分間、5〜90分間、5〜60分間、5〜30分間、または5〜15分間)、哺乳動物に連続して吸入させることが可能である。
【0014】
本明細書に記載する方法のいくつかの態様において、一酸化窒素を放出する化合物または治療ガスの投与を、血管作動性酸素運搬体を含有する組成物の投与前に終わらせる。このような場合、組成物が投与された後、かつ投与された血管作動性酸素運搬体がなお体内を循環している間には、哺乳動物には一酸化窒素を放出する化合物または治療ガスは投与されない。ヘモグロビンに基づく酸素運搬体の場合、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体が哺乳動物体内を循環している間には、一酸化窒素を放出する化合物またはガス状の一酸化窒素の投与を回避することによって、投与したヘモグロビンがメトヘモグロビン(酸素輸送において不活性)に変換される程度が最小限になり得る。例えば、一酸化窒素を放出する化合物または治療ガスの投与を、血管作動性酸素運搬体を含有する組成物を投与する少なくとも1分前(またはいくつかの場合、少なくとも2、3、4、5、10、15、30、45、60、90、120、もしくは180分前)に終わらせることができる。これらの態様のいくつかにおいて、一酸化窒素を放出する化合物または治療ガスの投与を、血管作動性酸素運搬体を含有する組成物を投与するわずか1分(またはわずか2、3、4、5、10、15、30、45、60、90、120、もしくは180分)前に、例えば直前に終わらせる。
【0015】
特定の態様において、例えば哺乳動物が重度の外傷を被り、かつガス状の一酸化窒素で長期の前処置を行う時間がない場合などの緊急の場合、哺乳動物は、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体投与後、ある期間(例えば約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または15分間)、一酸化窒素を含有する治療ガスを吸入させ続けてもよい(一酸化窒素の吸入を、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体の投与前に開始する)。このような場合、患者血中に存在する人工的酸素運搬体がより機能しない誘導体に変換される程度(例えば、ヘモグロビンを含有する人工的酸素運搬体の場合、不活性分子メトヘモグロビンへの変換(例えば、約15%未満、約10%未満、または約5%未満の血漿ヘモグロビンがメトヘモグロビンに変換されるように))を最小限にするため、高レベルの治療ガス(例えば、40ppmまたはそれ以上)の吸入は、比較的短期間で終わらせる。あるいは、またはさらに、血漿ヘモグロビンの血漿メトヘモグロビンへの変換を減少させ、それによって一酸化窒素の長期吸入および任意の頻回輸血を可能にするように、吸入されるガスが低濃度の一酸化窒素(例えば10ppmまたはそれ未満)を含有してもよい。ヘモグロビンに基づく酸素運搬体の投与後、循環している血漿ヘモグロビンからメトヘモグロビンへの大規模な変換を伴わずに、長期間低濃度で一酸化窒素を吸入可能である例を、本明細書に記載する。
【0016】
本明細書に記載する方法のいくつかの態様において、治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度を、投与経過中に減少させる。一例において、治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度を、投与のすべてまたは一部の間に、一定の速度で減少させる。別の態様において、治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度を、投与経過中、1つまたは複数の段階的減少によって減少させる。
【0017】
(i)ガス状の一酸化窒素を含有する第一の治療ガスを哺乳動物に投与する工程;(ii) 第一の治療ガスの投与中または投与後に、血管作動性酸素運搬体を含有する組成物を哺乳動物に投与する工程;および(iii)第一の治療ガスの投与後に、ガス状の一酸化窒素を含有する第二の治療ガスを哺乳動物に投与する工程によって、血管作動性酸素運搬体(例えば、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体などのヘムに基づく酸素運搬体)投与(単回または反復)後の哺乳動物における全身および肺の血管収縮を防止するかまたは減少させる方法であって、第二の治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度が、第一の治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度よりも低く、かつ第二の治療ガスの投与が、(a)血管作動性酸素運搬体を含有する組成物の投与後または(b)血管作動性酸素運搬体を含有する組成物の投与前もしくは投与中に始められ、かつ血管作動性酸素運搬体を含有する組成物の投与後に続き、第一および第二の治療ガスが、血管作動性酸素運搬体を含有する組成物の投与後の哺乳動物における全身および肺の血管収縮の発生を防止するかまたは減少させるために有効な量で投与される方法もまた開示する。
【0018】
(i)酸素運搬体(血管作動性酸素運搬体、または非血管作動性のヘムに基づく酸素運搬体などの非血管作動性酸素運搬体)を含有する組成物を、虚血-再灌流障害を有する哺乳動物に投与する工程;および(ii)ガス状の一酸化窒素を含有する治療ガスを哺乳動物に投与する工程によって、哺乳動物における虚血-再灌流障害を治療する方法であって、治療ガスの投与が、(i)酸素運搬体を含む組成物の投与前、投与中、もしくは投与後、または(ii)酸素運搬体を含有する組成物の投与前もしくは投与中に始められ、かつ酸素運搬体を含有する組成物の投与後に続く方法もまた開示する。この方法によって投与される治療ガスのタイミングおよび量は、任意で、第二の治療ガスの投与に関して本明細書に記載する方法論にしたがってもよい。
【0019】
本明細書記載の方法によって、血管作動性酸素運搬体(例えば、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体などのヘムに基づく酸素運搬体)を含有する組成物の投与後の哺乳動物における血管収縮の発生を防止するかまたは減少させるための第一および第二の治療ガスを調製するための、ガス状の一酸化窒素の使用もまた、開示する。
【0020】
第一および第二の治療ガスは、例えば吸入、人工肺、または溶解した一酸化窒素を含有する水溶液によって、哺乳動物に投与可能である。
【0021】
第一の治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度は、例えば、少なくとも20ppm、少なくとも40ppm、少なくとも50ppm、少なくとも80ppm、少なくとも100ppm、少なくとも200ppm、少なくとも300ppm、または少なくとも500ppmであり得る。いくつかの態様において、第一の治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度は、50ppm〜500ppmの範囲(例えば、60ppm〜200ppm、80ppm〜200ppm、または80ppm〜500ppm)である。第一の治療ガスはタバコの煙の非存在下で吸入させることが可能である。
【0022】
第一の治療ガスは、多様な期間(例えば、少なくとも1分間、少なくとも2分間、少なくとも3分間、少なくとも4分間、少なくとも5分間、少なくとも6分間、少なくとも7分間、少なくとも8分間、少なくとも9分間、または少なくとも10分間)に渡って、哺乳動物に連続して吸入させることが可能である。いくつかの態様において、第一の治療ガスは、約200ppmのガス状の一酸化窒素濃度で約7分間に渡って、哺乳動物に連続して吸入させることが可能である。他の態様において、第一の治療ガスは、少なくとも約2分間、少なくとも約5分間、少なくとも約15分間、少なくとも約30分間、少なくとも約45分間、または少なくとも約1時間(例えば、2〜60分間、2〜30分間、2〜15分間、5〜90分間、5〜60分間、5〜30分間、または5〜15分間)、哺乳動物に吸入させることが可能である(または陽圧マスクによって、気管内挿管を介して、もしくは気管内への注入を介して(経気管的に)、連続してまたは断続的に投与される(例えば、吸入によって誘発される各呼吸の開始時に注入される))。
【0023】
第二の治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度は、例えば、少なくとも500ppb、少なくとも1ppm、少なくとも2ppm、少なくとも5ppm、少なくとも10ppm、または少なくとも15ppmであり得る。第二の治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度は、例えば、40ppm未満、30ppm未満、25ppm未満、または20ppm未満であり得る。いくつかの態様において、第二の治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度は、500ppb〜40ppmの範囲(例えば、1ppm〜40ppm、5ppm〜40ppm、5ppm〜20ppm、5ppm〜15ppm、または5ppm〜10ppm)である。第二の治療ガスはタバコの煙の非存在下で吸入させることが可能である。
【0024】
第二の治療ガスは、多様な期間(例えば、少なくとも3分間、少なくとも15分間、少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも24時間、または少なくとも1週間もしくは1ヶ月)に渡って、哺乳動物に連続して吸入させることが可能である。
【0025】
いくつかの態様において、第一の治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度は20ppm〜500ppmの範囲であり、かつ第二の治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度は500ppb〜40ppmの範囲である。
【0026】
いくつかの態様において、第一の治療ガスの投与を、血管作動性酸素運搬体を含有する組成物の投与前(少なくとも3分、少なくとも15分、または少なくとも30分前)に終わらせる。いくつかの態様において、第一の治療ガスの投与を、血管作動性酸素運搬体を含有する組成物の投与後に終わらせる。
【0027】
いくつかの態様において、第二の治療ガスの投与は、人工的酸素運搬体を含有する組成物の投与前または投与中に始められ、かつ血管作動性酸素運搬体を含有する組成物の投与後に続く。いくつかの態様において、第二の治療ガスの投与は、血管作動性酸素運搬体を含有する組成物の投与後に始められる。
【0028】
投与するガス状の一酸化窒素の濃度を第一の治療ガス投与中に減少させ、それによって第一の治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度より低い濃度のガス状の一酸化窒素を有する第二の治療ガスをもたらす、単一ガス送達デバイスを任意で用いて、第一の治療ガスおよび第二の治療ガス両方を哺乳動物に送達してもよい。投与するガス状の一酸化窒素の濃度を、第一の治療ガスの投与開始に続いて、一定の速度で減少させて、それによって第二の治療ガスをもたらしてもよい。あるいは、投与するガス状の一酸化窒素の濃度を、第一の治療ガスの投与開始に続いて段階的に減少させ、それによって第二の治療ガスをもたらしてもよい。一酸化窒素含有ガスを、連続して投与しても、または各呼吸の開始時に断続的に注入して(例えば各吸入または各胸郭拡大によって誘発されて)もよい。
【0029】
哺乳動物への1つまたは複数の治療ガスの投与を伴う本明細書記載の方法の任意の態様において、本方法は、ホスホジエステラーゼ阻害剤(シルデナフィル、タダラフィル、またはバルデナフィルなどの、本明細書記載のホスホジエステラーゼ阻害剤)、可溶性グアニル酸シクラーゼ増感剤、またはホスホジエステラーゼ阻害剤および可溶性グアニル酸シクラーゼ増感剤を哺乳動物に投与する工程をさらに含んでもよい。いくつかの態様において、血管作動性酸素運搬体を含有する組成物の投与前または投与後に、ホスホジエステラーゼ阻害剤、可溶性グアニル酸シクラーゼ増感剤、またはホスホジエステラーゼ阻害剤および可溶性グアニル酸シクラーゼ増感剤を哺乳動物に投与する。
【0030】
(i)ホスホジエステラーゼ阻害剤(例えば、環状グアノシン一リン酸(cGMP)ホスホジエステラーゼに関して選択的である阻害剤)または可溶性グアニル酸シクラーゼ増感剤を哺乳動物に投与する工程;および(ii) (ホスホジエステラーゼ阻害剤または可溶性グアニル酸シクラーゼ増感剤の非存在下で)血管収縮を引き起こす血管作動性酸素運搬体を含有する組成物を哺乳動物に投与する工程によって、血管作動性酸素運搬体(ヘモグロビンに基づく酸素運搬体など)投与後の哺乳動物における血管収縮を防止するかまたは減少させる方法であって、ホスホジエステラーゼ阻害剤または可溶性グアニル酸シクラーゼ増感剤が、血管作動性酸素運搬体を含有する組成物の投与後の哺乳動物における血管収縮の発生を防止するかまたは減少させるために有効な量で投与される方法もまた開示する。血管作動性酸素運搬体を含有する組成物は、任意で、ホスホジエステラーゼ阻害剤または可溶性グアニル酸シクラーゼ増感剤の投与中または投与後に、哺乳動物に投与可能である。一酸化窒素治療、例えば本明細書に記載する量の本明細書に記載するような一酸化窒素ガスまたは一酸化窒素を放出する化合物での治療の存在下または非存在下で、この治療を行ってもよい。
【0031】
血管作動性酸素運搬体(例えば、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体などのヘムに基づく酸素運搬体)を含有する組成物の投与後の哺乳動物における血管収縮の発生を防止するかまたは減少させるための治療組成物を調製するための、ホスホジエステラーゼ阻害剤または可溶性グアニル酸シクラーゼ増感剤の使用もまた開示する。
【0032】
(i)ホスホジエステラーゼ阻害剤(例えば、cGMPホスホジエステラーゼに関して選択的である阻害剤)または可溶性グアニル酸シクラーゼ増感剤、および(ii)人工的酸素運搬体(例えば、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体などの血管作動性人工的酸素運搬体)を含有する、薬学的組成物もまた開示する。
【0033】
本明細書記載の方法によって治療される哺乳動物は、ヒト(例えば、エホバの証人もしくは軍人)、非ヒト霊長類、またはイヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、もしくはハムスターなどの別の哺乳動物であってもよい。
【0034】
「血管作動性酸素運搬体」とは、(ガス状の一酸化窒素の非存在下で投与した際に)投与される動物の少なくともある程度で血管収縮を誘導可能である、細胞に基づく(例えば、赤血球)または細胞を含まない酸素運搬体である。
【0035】
赤血球は、哺乳動物への輸血前に、自己または同種ドナーより得ることが可能である。いくつかの態様において、ドナーから取り出された後、かつ哺乳動物への投与前に、赤血球を保存する(例えば、少なくとも1、2、3、4、5、6、もしくは12時間、または少なくとも1、2、3、4、5、6、7、14、21、もしくは28日間)。
【0036】
「人工的酸素運搬体」とは、細胞を含まない血管作動性酸素運搬体である。
【0037】
「ヘムに基づく酸素運搬体」とは、(グロビン、アルブミン、またはデキストランなどのヘム運搬分子と組み合わせて)ヘムを含有し、かつ酸素を組織に送達可能である、細胞を含まない人工的酸素運搬体である。ヘムに基づく酸素運搬体には、ヘム-アルブミンに基づく酸素運搬体、ヘム-デキストランに基づく酸素運搬体、およびヘモグロビンに基づく酸素運搬体が含まれる。
【0038】
「ヘモグロビンに基づく酸素運搬体」とは、天然または修飾ヘモグロビンを含有し、かつ酸素を組織に送達可能である、細胞を含まない人工的酸素運搬体である。ヘモグロビンに基づく酸素運搬体は、天然ヘモグロビン(例えば、天然のヒト、ウシ、またはブタのヘモグロビン)または修飾ヘモグロビン(例えば、ポリエチレングリコールでのPEG化によって修飾されるなどの修飾ヒト、ウシ、またはブタのヘモグロビン)を含有してもよい。ヘモグロビンに基づく酸素運搬体は、例えば、架橋ヘモグロビン(例えば、架橋四量体ヘモグロビン)、架橋ポリヘモグロビン、抱合体化ヘモグロビン、組換えヘモグロビン、または被包性のヘモグロビンを含有してもよい。静脈内、動脈内、または骨内注入によって、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体を哺乳動物に投与してもよい。
【0039】
典型的に輸血が与えられる、本質的に任意の目的のために、本明細書に記載する方法によって、血管作動性酸素運搬体(例えば、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体)を哺乳動物に投与してもよい。例えば、本明細書記載の方法によって治療される哺乳動物は、貧血(例えば、重症の急性貧血または鎌状赤血球貧血)を有していてもよいし、失血を被っていてもよいし(例えば、外傷または心臓もしくは整形手術などの手術の結果として)、かつ/またはエホバの証人であり、かつヒト輸血を拒絶していてもよい。
【0040】
また、血漿酸素含量を増加させ、かつそれによって虚血組織に酸素供給して虚血性の細胞損傷を防止する(かつ再灌流障害から組織を保護する)ために、虚血性事象の発生前、発生中、および/または発生後に、血管作動性酸素運搬体(例えば、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体)を哺乳動物に投与してもよい。例えば外科的な脈管再生(例えば、経皮冠動脈脈管再生)、移植、急性心筋梗塞、または血管形成術(例えば、経皮冠動脈血管形成術)によって引き起こされる急性虚血ならびにそれに続く再灌流およびフリーラジカル放出のために、例えば、血管作動性キャリア(例えば、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体などのヘムに基づく酸素運搬体)を(例えば、ガス状の一酸化窒素と組み合わせておよび/またはガス状の一酸化窒素の後に)哺乳動物に投与して、保護(例えば、心筋保護)を提供してもよい。本明細書記載の方法によって治療される哺乳動物は、治療前に、虚血性心疾患を有していてもよいし、急性の虚血性事象(例えば、心筋梗塞、脳卒中、もしくは腎虚血)を被っていてもよいし、または臓器(例えば、脳、心臓、腎臓、肝臓、もしくは胃腸管の臓器)の血管痙攣を示してもよい。本明細書記載の方法によるガス状の一酸化窒素または一酸化窒素を放出する化合物の投与により、血管形成または血栓溶解が起こるまで、赤血球よりはるかに小さい酸素運搬体によって虚血組織(例えば、心臓または脳)に運搬される血漿酸素の利用可能性を(血管拡張によって)増進させることができる。
【0041】
(i)哺乳動物の呼吸器系内にガスを送るように形成された管腔;(ii)管腔中に存在するガス中の一酸化窒素の濃度を測定するように形成された第一のメーター;(iii)管腔中のガスの流速を測定するように形成された第二のメーター;および(iv)管腔中で測定された一酸化窒素の濃度と管腔中で測定されたガスの流速を統合して、任意の所与の瞬間に、デバイスによって哺乳動物の呼吸器系に送達された一酸化窒素の総累積量(純呼気より少ない)を決定する薬量計を含有する、ガス送達デバイスもまた開示する。いくつかの態様において、デバイスは、少なくとも1ppm(例えば、少なくとも20ppm)の一酸化窒素を含有する加圧ガスを含有する容器もまた含み、容器は、管腔内または管腔と連通しているチャンバー内にガスを制御可能に放出するための機構を有する。他の態様において、一酸化窒素含有加圧ガスの放出は患者の吸気の陰圧によって誘発され、かつガス放出は呼吸の吸気周期に制限され、それによって呼吸死腔への吸気ガスの送達を減少させ、かつ吸気ガスの必要量を減少させて、限定されているかもしれない供給を温存する。
【0042】
(i)少なくとも1ppmの一酸化窒素(例えば、少なくとも20ppm)を含有する加圧ガスを含有する第一の容器、および(ii)人工的酸素運搬体(例えば、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体などの血管作動性酸素運搬体)を含有する組成物を含有する第二の容器を含有するキットもまた開示する。
【0043】
(i)ガス状の一酸化窒素送達デバイス(例えば、本明細書に記載するようなもの)、および(ii)人工的酸素運搬体(例えば、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体などの血管作動性酸素運搬体)を含有する組成物を含有するキットもまた開示する。いくつかの態様において、キットはまた、少なくとも1ppmの一酸化窒素(例えば、少なくとも20ppm)を含有する加圧ガスを含有する容器も含む。キットは、任意で、最初は、第一の治療ガスでの治療のために本明細書に記載する濃度(例えば、20ppm〜500ppmの範囲)で、かつ続いて第二の治療ガスでの治療のために本明細書に記載する濃度(例えば、500ppb〜40ppmの範囲)で、一酸化窒素の送達を可能にする(例えば、スイッチ操作を介して)ように形成されていてもよい。
【0044】
(i)ホスホジエステラーゼ阻害剤(例えば、cGMPホスホジエステラーゼに関して選択的である阻害剤)または可溶性グアニル酸シクラーゼ増感剤、および(ii)人工的酸素運搬体(例えば、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体などの血管作動性酸素運搬体)を含有する組成物を含有するキットもまた開示する。
【0045】
本明細書に記載する特定の方法は、人工的酸素運搬体(例えば、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体などのヘムに基づく酸素運搬体)投与後の哺乳動物における血管収縮の発生の防止または減少を可能にする。驚くべきことに、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体を投与する前に一酸化窒素を吸入させることによって、(一酸化窒素の吸入およびヘモグロビンに基づく酸素運搬体の投与を長期間同時に行った際に付随する、血漿ヘモグロビンからメトヘモグロビンへの実質的な変換に比較した際に)(活性)二価鉄ヘム含有ヘモグロビンから(不活性)三価鉄ヘム含有メトヘモグロビンへの変換が実質的に最小限になることが見出されている。さらに、驚くべきことに、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体の投与に続いて低濃度の一酸化窒素を吸入させると、投与したヘモグロビンから不活性メトヘモグロビンへの有意な変換を引き起こすことなく、肺血管収縮の発生を防止するかまたは減少させ得る(かつ1つまたは複数のさらなる単位の酸素運搬体の注入に伴う将来の血管収縮を防止することが期待される)こともまた見出されている。
【0046】
すべての刊行物、特許出願、特許、および本明細書に言及される他の参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。別に定義しない限り、本明細書で用いるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の一般的な当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。矛盾する場合は、定義を含めて本明細書が支配すると考えられる。適切な方法および材料を以下に記載するが、本明細書に記載するものと類似または同等の方法および材料もまた、本発明の実施または試験に使用可能である。材料、方法、および実施例は例示のみであり、かつ限定されることを意図しない。
【0047】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明から、かつ特許請求の範囲から明らかであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】ネズミ四量体ヘモグロビン溶液の静脈内注射前および後の、覚醒している野生型マウスおよびNOS3-/-マウスにおける尾収縮期血圧を示すグラフである。
【図2】全血またはネズミ四量体ヘモグロビン溶液の静脈内注射前および後の、覚醒している野生型マウスにおける尾収縮期血圧を示すグラフである。
【図3】ネズミ四量体ヘモグロビン溶液の静脈内注射前およびそれに続いて、連続して80ppm一酸化窒素を呼吸した、覚醒している野生型マウスにおける尾収縮期血圧を示すグラフである。
【図4】ネズミ四量体ヘモグロビン溶液の静脈内注射前およびそれに続いて、連続して空気、空気中の80ppm一酸化窒素、または空気中の8ppm一酸化窒素を呼吸した、覚醒している野生型マウスにおける血漿メトヘモグロビン濃度を示すグラフである。
【図5】ネズミ四量体ヘモグロビン溶液の静脈内注射前に1時間連続して空気中の80ppm一酸化窒素を呼吸した、覚醒している野生型マウスにおける尾収縮期血圧を示すグラフである。
【図6】ネズミ四量体ヘモグロビン溶液の静脈内注射前に15分間連続して空気中の80ppm一酸化窒素を呼吸した、覚醒している野生型マウスにおける尾収縮期血圧を示すグラフである。
【図7】ネズミ四量体ヘモグロビン溶液の静脈内注射前に7分間連続して空気中の200ppm一酸化窒素を呼吸した、覚醒している野生型マウスにおける尾収縮期血圧を示すグラフである。
【図8】ネズミ四量体ヘモグロビン溶液の静脈内注射前に空気中の80ppm一酸化窒素を呼吸した、覚醒している野生型マウスにおける全血および血漿メトヘモグロビン濃度を示すグラフである。
【図9】一酸化窒素薬量計を含有するガス送達デバイスの模式図である。
【図10A】ネズミ四量体ヘモグロビン溶液の静脈内注射前に亜硝酸ナトリウムの静脈内注入を受けた、覚醒している野生型マウスにおける尾収縮期血圧を示すグラフである。
【図10B】ネズミ四量体ヘモグロビン溶液の静脈内注射前に亜硝酸ナトリウムの静脈内注入を受けた、覚醒している野生型マウスにおけるメトヘモグロビン濃度を示すグラフである。
【図11】HBOC-201注入前に1時間連続して空気もしくは空気中の80ppm一酸化窒素を呼吸するか、またはヘパリン中に2日間保存された37℃自己血注入を受けた、覚醒している子ヒツジにおける平均全身動脈圧(MAP)を示すグラフである。
【図12】HBOC-201注入前に1時間連続して空気もしくは空気中の80ppm一酸化窒素を呼吸するか、または自己血注入を受けた、覚醒している子ヒツジにおける全身血管抵抗(SVR)を示すグラフである。
【図13】HBOC-201注入前に1時間連続して空気もしくは空気中の80ppm一酸化窒素を呼吸するか、または自己血注入を受けた、覚醒している子ヒツジにおける平均肺動脈圧(PAP)を示すグラフである。
【図14】HBOC-201注入前に1時間連続して空気もしくは空気中の80ppm一酸化窒素を呼吸するか、または自己血注入を受けた、覚醒している子ヒツジにおける肺血管抵抗(PVR)を示すグラフである。
【図15】HBOC-201注入前に1時間連続して空気もしくは空気中の80ppm一酸化窒素を呼吸した、覚醒している子ヒツジにおける血漿メトヘモグロビン濃度を示すグラフである。
【図16】HBOC-201注入前に1時間連続して空気もしくは空気中の80ppm一酸化窒素を、かつ注入に続いて2時間、空気中の5ppm一酸化窒素を呼吸するか、またはヘパリン中に2日間保存された37℃自己血注入を受けた、覚醒している子ヒツジにおける平均全身動脈圧(MAP)を示すグラフである。
【図17】HBOC-201注入前に1時間連続して空気もしくは空気中の80ppm一酸化窒素を、かつ注入に続いて2時間、空気中の5ppm一酸化窒素を呼吸するか、または自己血注入を受けた、覚醒している子ヒツジにおける全身血管抵抗(SVR)を示すグラフである。
【図18】HBOC-201注入前に1時間連続して空気もしくは空気中の80ppm一酸化窒素を、かつ注入に続いて2時間、空気中の5ppm一酸化窒素を呼吸するか、または自己血注入を受けた、覚醒している子ヒツジにおける平均肺動脈圧(PAP)を示すグラフである。
【図19】HBOC-201注入前に1時間連続して空気もしくは空気中の80ppm一酸化窒素を、かつ注入に続いて2時間、空気中の5ppm一酸化窒素を呼吸するか、または自己血注入を受けた、覚醒している子ヒツジにおける肺血管抵抗(PVR)を示すグラフである。
【図20】HBOC-201注入前に1時間連続して空気もしくは空気中の80ppm一酸化窒素を、かつ注入に続いて2時間、空気中の5ppm一酸化窒素を呼吸した、覚醒している子ヒツジにおける血漿メトヘモグロビン濃度を示すグラフである。
【図21】HBOC-201注入後、空気中の多様な濃度の一酸化窒素を15分間連続して呼吸した、覚醒している子ヒツジにおける血漿メトヘモグロビンレベルの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
詳細な説明
哺乳動物への酸素運搬体(例えば、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体などのヘムに基づく酸素運搬体)の投与には、全身および肺の血管収縮が続くことが多い。本発明は、こうした酸素運搬体誘導性の血管収縮を防止するかまたは減少させるための組成物および方法を提供する。付随する実施例に詳述するように、ヘムに基づく酸素運搬体の投与に続いて低濃度の一酸化窒素の連続吸入を任意で組み合わせて、ヘムに基づく酸素運搬体を哺乳動物に投与する前に一酸化窒素を吸入させることにより、投与した活性二価鉄ヘムから不活性三価鉄ヘムへの有意な変換を引き起こさずに、哺乳動物における血管収縮の発生を防止するかまたは減少させることができる。
【0050】
血管作動性酸素運搬体
本明細書記載の方法によって用いられる血管作動性酸素運搬体には、自己または同種ドナーより得られ、かつ続いてレシピエントに投与される赤血球が含まれる。赤血球の短期保存または長期保存は、保存血中の一酸化窒素(および/または一酸化窒素キャリア)レベルの欠乏をもたらし、この欠乏は、レシピエントへの保存血の投与の後に血管収縮誘導をもたらす(Reynolds et al.(2007) Proc. Natl. Acad. Sci. 104:17058-62; Bennett-Guerrero et al.(2007) Proc. Natl. Acad. Sci. 104:17063-68) 。本明細書に記載する方法によるドナーへの輸血前に、赤血球を多様な期間(例えば、少なくとも1、2、3、4、5、6、もしくは12時間、または少なくとも1、2、3、4、5、6、7、14、21、もしくは28日間)、保存することができる。赤血球を、例えば全血または濃縮赤血球として投与することができる。
【0051】
赤血球の代用物として、本明細書記載の方法で用いられる血管作動性酸素運搬体は、ヘムに基づく酸素運搬体などの人工的酸素運搬体であり得る。ヘムに基づく酸素運搬体は、グロビン(すなわちヘモグロビンに基づく酸素運搬体)、アルブミン、またはデキストランなどのヘム運搬分子と共にヘムを含有する。
【0052】
ヘモグロビンに基づく酸素運搬体は、天然(非修飾)であるヘモグロビン、遺伝子操作によって修飾されたヘモグロビン、および/あるいは分子内もしくは分子間架橋、重合、または化学基(例えば、酸化ポリアルキレン、ポリエチレングリコール、スーパーオキシドジスムターゼもしくは他の付加物)の付加などの化学反応によって修飾されたヘモグロビンを含有し得る。
【0053】
ヘモグロビン四量体の化学的架橋は、例えば、ヘモグロビン分子を連結し、したがってこれらを安定化する二重官能性物質(例えば、ジアスピリン)による、ヘモグロビンアルファサブユニットの結合を伴うことが可能である。あるいは、天然ヘモグロビン(その構造およびアミノ酸配列が公知である)の遺伝子修飾によって、ヘモグロビン四量体架橋を達成できる。例えば、単一のアミノ酸を付加することによって、2つのアルファサブユニットを共有結合させ、かつそれによってヘモグロビン四量体の解離を防止することが可能である。大腸菌(E. coli)における発現のためのプラスミド内に、操作されたヘモグロビンを挿入することにより、多量のヘモグロビン産生を可能にすることができる。
【0054】
ヘモグロビンに基づく酸素運搬体のヘモグロビン構成要素は、ヒトまたは非ヒト供給源(例えば、ウシ、ブタ、もしくはウマなどの哺乳動物、または環形動物および爬虫類などの非哺乳動物供給源)由来であり得る。修飾ヘモグロビンの例には、架橋ポリヘモグロビン、架橋四量体ヘモグロビン、抱合体化ヘモグロビン、組換えヘモグロビン、および被包性のヘモグロビンが含まれる。
【0055】
ヘモグロビンに基づくいくつかの酸素運搬体が市販されており、かつこれには、例えばHemopure(登録商標)(HBOC-201; 塩溶液中に配合された、化学的に架橋されたウシヘモグロビン; Biopure, Cambridge, MA)、PolyHeme(登録商標)(化学的重合型のヒトヘモグロビンの溶液; Northfield Laboratories Inc., Evanston, IL)、Oxyglobin(登録商標)(HBOC-301; 獣医学的使用のために認可されたウシヘモグロビングルタマー; Biopure, Cambridge, MA)、およびHemolink(商標)(ヘモグロビンラフィマー; Hemosol Inc., Mississauga, Ontario)が含まれる。他のものが、Winslow(2003) J Intern Med. 253:508; Vandegriff et al.(2003) Transfusion 43:509;およびBjorkholm et al.(2005) Haematologica 90:505において論じられる。ヘモグロビンに基づかない人工的酸素運搬体が、Winslow(2003) J Intern Med. 253:508に言及される。任意の適切な技術によって、酸素運搬体を動物に投与し、かつ生じた血管収縮を測定することによって、任意の所与の酸素運搬体が血管作動性である(すなわち、血管を収縮させることができる)かどうかの決定を行うことができる。正常(すなわち、欠乏していない)血量を持つ動物において、血管収縮は、血圧の関数として示されうる(例えば、Winslow(2003) 508-509ページを参照されたい)。
【0056】
例えば、血管作動性酸素運搬体、1つもしくは複数の賦形剤、および/または1つもしくは複数の希釈剤を混合することによって、薬学的組成物を製剤化してもよい。以下は、血管作動性酸素運搬体を含有する組成物を(例えば、静脈内、動脈内、または骨内注入を介して)哺乳動物に投与してもよい臨床設定の例である:外傷または出血(例えば、全血の急性失血);虚血(虚血を生じさせる状態には、心臓発作、脳卒中、および脳血管外傷が含まれる);血液希釈(例えば、術後の同種輸血ではなく、自己血の使用を可能にするため、血液を手術前に取り出す);心肺バイパス術において、プライミング溶液として作用させること;敗血症ショック;および貧血(例えば、慢性貧血または鎌状赤血球貧血)。虚血治療において、虚血期間中に(例えば、経皮冠動脈血管形成術前に)ガス状の一酸化窒素を任意で吸入させることができ、かつ次いで、その後血管作動性酸素運搬体を注入させることができる。ヘムに基づく酸素運搬体はサイズが小さく、概して、逆行して、かつ部分的に遮断された血管を通じて灌流することが可能であり、それによって、酸素を虚血領域に運搬し、かつ傷害を最小限にする。ヘムに基づく酸素運搬体はまた、非ヒトの治療にも、例えば傷害または貧血のために失血を被っている家畜および野生動物の緊急治療にも、使用可能である。
【0057】
ヘムに基づく酸素運搬体の調製および使用は、例えば、Spahn et al.(2005) Curr Pharm Des. 11(31):4099, Greenburg et al.(2004) Crit Care. 8 Suppl 2:S61、およびArtificial Oxygen Carrier: Its Front Line(Koichi Kobayashi et al. eds., 2005)において、詳細に論評される。
【0058】
ガス状の一酸化窒素の投与
血管作動性酸素運搬体(例えば、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体などのヘムに基づく酸素運搬体)の投与は、レシピエントにおける全身および肺の血管収縮の誘導をもたらし得る。本明細書に詳述するように、血管作動性酸素運搬体の投与前および任意で投与に続く、ガス状の一酸化窒素の吸入により、そうしなければ人工的酸素運搬体の投与後に起こる血管収縮の発生を、防止するかまたは減少させることができる。
【0059】
一酸化窒素の安全でかつ有効な投与のための方法は、例えば、Zapol、米国特許第5,570,683号; Zapolら、米国特許第5,904,938号; Bachら、米国特許出願公開第20030039638号; Higenbottam、米国特許第5,839,433号;およびFrostell et al.(1991) Circulation 83:2038に記載される。吸入用の薬剤グレードの一酸化窒素は市販されている(INOmax(商標), INO Therapeutics, Inc., Clinton, NJ)。
【0060】
対象に、血管作動性酸素運搬体の投与前および/または投与に続いて、あらかじめ決定された濃度または総量のガス状の一酸化窒素を吸入させることができる。血管作動性酸素運搬体の投与前に吸入によって投与される一酸化窒素の適切な濃度は、患者の年齢および状態、吸入期間の長さ、治療されている疾患または障害、投与しようとする血管作動性酸素運搬体の量、ホスホジエステラーゼ阻害剤および/もしくは可溶性グアニル酸シクラーゼ増感剤などの化合物もまた患者に投与されるかどうか(その場合、減少した濃度の一酸化窒素を使用可能である)、ならびに/または治療する医師が適切と見なし得る他の要因に応じて多様であり得、例えば20ppm〜80ppm、200ppm〜500ppm、またはより高い濃度であり得る。血管作動性酸素運搬体の投与に続いて、吸入によって投与される一酸化窒素の適切な濃度もまた、例えば2〜40ppmまたは5〜10ppmなど上述の要因に基づいて多様であり得る。好ましくは、最低有効用量を吸入させる。本明細書に記載する方法によって、連続して長期間、低用量の一酸化窒素を吸入させることにより(例えば、本明細書に詳述するように数時間または数日)、長期に渡って哺乳動物に投与されるべき血管作動性酸素運搬体(例えば、自己血輸血またはヘモグロビンに基づく酸素運搬体などのヘムに基づく酸素運搬体)の多数回の注入が可能になる。低用量の一酸化窒素吸入を、多様な期間(限定されるわけではないが、少なくとも1、2、3、4、5、6、もしくは12時間、または少なくとも1、2、3、4、5、6、もしくは7日間を含む)続けることができ、この期間中、哺乳動物は、血管作動性酸素運搬体の多数回の注入を受ける。
【0061】
保存され圧縮された一酸化窒素ガスの供給源から、吸入によって、ガス状の一酸化窒素を投与することができる。一酸化窒素供給源は、100%一酸化窒素であり得るか、またはN2もしくは任意の他の不活性ガス(例えば、ヘリウム)で希釈することが可能である。いかなる混入O2または窒素のより高次の酸化物も含まない混合物として、一酸化窒素を得てかつ保存することができ、これはこうした窒素のより高次の酸化物(O2と一酸化窒素の反応によって形成され得るもの)が肺組織に潜在的に有害であるためである。必要に応じて、患者に投与する前に、化学発光分析を用いて一酸化窒素の純度を立証してもよい。化学発光NO-NOx分析装置は市販されている(例えばモデル14A、Thermo Environmental Instruments, Franklin, MA)。例えばスパイロメーターで先に認証されている較正されたロータメーターを介して、NO-N2混合物をO2または空気などのO2含有ガスと混合してもよい。化学技術または化学発光技術を用いて、呼吸混合物中の一酸化窒素の最終濃度を検証してもよい。(例えば、Fontijin et al., Anal. Chem. 42:575(1970)を参照されたい)。あるいは、電気化学的分析装置によって、NOおよびNO2濃度を監視してもよい。NO2などのいかなる不純物も、NaOH溶液、バラライム、またはソーダライムに曝露することによって洗浄することができる。さらなる対照として、最終ガス混合物のFiO2もまた評価してもよい。必要に応じて、NOのかなりの量が隣接する環境内に逃げ込まないことを確実にするために、人工呼吸器は、呼気排気口に設けられたガス排出装置を有してもよい。
【0062】
病院または救急現場の状況において、例えばN2中の圧縮された一酸化窒素ガスのタンクおよび酸素または酸素/N2混合物の第二のタンクを、2つの供給源からのガスを混合するよう設計された吸入装置に取り付けることによって、一酸化窒素ガスの投与を達成してもよい。図9に例示するようなデバイスを用いるなどで、各供給源からのガス流を制御することによって、患者に吸入させる一酸化窒素濃度を最適レベルに維持できる。また、標準的な低流動性ブレンダー(例えば、Bird Blender, Palm Springs, CA)を用いて、一酸化窒素ガスを室内空気と混合してもよい。電動式の一酸化窒素発生装置を用いることによって、N2およびO2(すなわち空気)から一酸化窒素を生成してもよい。こうした発生装置は、Zapol、米国特許第5,396,882号に記載される。現場において(例えば、軍救急医療隊員によって、または救急車職員によって)、持ち運び可能な一酸化窒素送達デバイスを用いて、外傷または出血後の非常に重要な初期に、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体などの血管作動性酸素運搬体の注入(ガス状の一酸化窒素吸入中または吸入後)を可能にすることができる。
【0063】
一酸化窒素送達用のガス送達デバイス(例えば、現場使用のための持ち運び可能なデバイス)には、対象に投与される一酸化窒素の総用量の監視を可能にするために、一酸化窒素薬量計を含有させることができる。一酸化窒素投与を次第に減少させるかまたは終わらせることができ、かつ血管作動性酸素運搬体(例えば、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体などのヘムに基づく酸素運搬体)の投与を開始できるように、薬量計の使用によって、対象がいつ必要な量の一酸化窒素を投与されたかを決定することも可能である。総累積吸入用量を監視することにより、患者への血管作動性酸素運搬体の投与の遅延を最小限にすることが可能になる。このことは、対象が外傷または出血を被り(例えば、戦場の軍人)、かつ出来るだけ早く血管作動性酸素運搬体の投与を必要とするような、特定の状況において、非常に重要であり得る。
【0064】
薬量計は、対象に投与される一酸化窒素の総量を決定するために、治療ガス中の一酸化窒素濃度(一酸化窒素濃度計によって測定されるようなもの)を、ガス流速(ガス流量計によって測定されるようなもの)または吸入数と統合できる(図9)。あらかじめ決定された量の一酸化窒素が投与されかつ吸収されるように対象にあらかじめ投薬するために、こうした薬量計を含有する送達デバイスを用いることができる。付随する実施例に詳述するように、四量体ヘモグロビン溶液を続いて投与するマウスにおける血管収縮を防止するには、200ppm一酸化窒素を7分間呼吸させることで十分である。これを直接ヒトにスケールアップ可能であるならば、70kgのヒトにおいて血管収縮を防止するために十分な一酸化窒素の吸入モル数の一例は、以下のように概算可能である(200ppm一酸化窒素を7分間呼吸させることに基づいて):(i)(7分間)×(1分あたり10回の呼吸)は70回の呼吸;(ii)ヒトにおける呼吸はおよそ1リットルであるため、70回の呼吸は200ppm一酸化窒素70リットルであると考えられ;(iii)各呼吸のうち、およそ半量が吸収され、かつ半量が死腔に吐き出され;(iv)200ppm一酸化窒素35リットルは、70kg成人に関して、0.312ミリモルの一酸化窒素の吸収をもたらす。
【0065】
図9に示す一酸化窒素薬量計を含有するデバイスは単なる例であり、かつ機能性を喪失せずに、多様な方式で変更可能である。例えば、一酸化窒素シリンダーは、代わりにNO/N2シリンダーまたはNO/ヘリウムシリンダーであってもよい。200〜300ppm一酸化窒素の20〜500回の呼吸により、現場で特定の対象を治療するために十分な用量を提供してもよいため、特にシリンダー中の一酸化窒素濃度が比較的高い場合(例えば、N2などの希釈剤中で、5,000〜50,000ppm一酸化窒素)、一酸化窒素含有シリンダーは非常に小さい可能性がある。さらに、高濃度の一酸化窒素を短期間用いる場合、補充O2を必要としない場合があり、かつ実際、優先的に省いてもよい(したがって、O2シリンダーは任意である)。ガス流量計を用いて、例えば、装填初期には高用量を提供し、かつ後で低用量を提供してメトヘモグロビン産生を回避するように(ヘモグロビンに基づく酸素運搬体を投与するそれらの事例において)、投与する一酸化窒素用量を変化させることができる。対象に投与される一酸化窒素量を長期に渡って減少させることは、多様な方式で達成することが可能である。例えば、吸入させる一酸化窒素濃度を1段階もしくは多段階で減少させる(例えば、吸入させる一酸化窒素濃度を単一段階で80ppmから5ppmに減少させる)か、または吸入させる一酸化窒素濃度を連続して低下させる(例えば、長期間に渡って、吸入させる一酸化窒素濃度を一定の割合で低下させて80ppm〜5ppmに減少させる)ことによって、対象に投与する一酸化窒素量を減少させることができる。一酸化窒素送達デバイスのオペレーターによって手動で、または減少を制御するようプログラムされた機械によって自動的に、一酸化窒素濃度のこのような減少を実現できる。
【0066】
また、投与される一酸化窒素量を測定する(かつ任意で制御する)薬量計を含有することに加えて、吸収される一酸化窒素の実際の量の測定を可能にするために、対象によって吐き出される一酸化窒素の量を測定するように、吸入デバイスを形成してもよい。対象によって吐き出された一酸化窒素の量を、投与された一酸化窒素の量(薬量計によって測定されるように)から減じることによって、吸収された実際の量の測定値を得ることができる。上述のように、この測定値を用いて、必要な累積用量が投与されており、かつしたがって対象への血管作動性酸素運搬体の投与を始めるために許容され得る、一酸化窒素吸入開始に続く最初の可能な時点を決定することができる。呼気中の一酸化窒素量を測定するための方法およびデバイスは、例えば、Steerenberg et al.(2004) Methods Mol Biol. 279:45, Grasemann et al.(2004) Pediatr Pulmonol. 38(5):379、およびSpahn et al.(2006) Ann Allergy Asthma Immunol. 96(4):541に記載される。
【0067】
ガス状の一酸化窒素を、鼻カニューレ(nasal prong)、フェースマスク、テント、気管内カテーテルまたは気管内チューブによる吸入を介して、長期間、例えば数分、数時間、または数日、任意で投与することができる。投与は長期間に渡って連続していてもよい。あるいは、投与は、長期間に渡って断続的である可能性がある(例えば、各吸気の最初の部分でのみ一酸化窒素を注入する(吸気陰圧波形後の誘発によって感知される)か、または三回目の吸入ごとにのみ、または数時間の間、1時間ごとに10分間のみ存在する)。ガス状の一酸化窒素の投与は、自発的または機械的換気を介してであってもよい。
【0068】
O2送達およびCO2除去のために設計された人工肺(血中のガス交換用のカテーテルデバイス)を一酸化窒素送達に用いることができる。カテーテルは、移植された際、大きな静脈の1つに存在し、かつ全身送達のためまたは局所部位でのいずれかで、所与の濃度で一酸化窒素を送達可能と考えられる。送達は、特定の部位での短期間に高濃度の一酸化窒素を局所送達することであり得るか(この高濃度は、血流中に出ると、迅速に希釈されると考えられる)、またはより低い濃度の一酸化窒素に比較的より長く全身曝露されることであり得る(例えば、Hattler et al.(1994) Artif. Organs 18(11):806;およびGolob et al.(2001) ASAIO J. 47(5):432を参照されたい)。一酸化窒素は、O2(一酸化窒素の酸化を最小限にするために、送達直前に)および/またはN2などの不活性ガスと混合することが可能である。
【0069】
患者全体を一酸化窒素に曝露することができる。一酸化窒素が充満した気密チャンバー内部に患者を置くことができる(患者を危険にさらさないレベル、または第三者が曝露されるリスクを伴わずに許容されうるリスクを課すレベルで)。曝露完了時、チャンバーに空気(例えば、21%O2、79%N2)を流す可能性もある。
【0070】
例えば経口送達のため、ならびに/または例えば静脈内、動脈内、腹腔内および/または皮下的な体内への注射によって、患者に全身送達するために一酸化窒素を含有する水溶液を生成することができる。
【0071】
血管作動性酸素運搬体(例えば、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体などのヘムに基づく酸素運搬体)の投与前に、投与と同時に、または投与後間もなく、一酸化窒素投与(例えば、吸入による)を終わらせることができる。ヘモグロビンに基づく酸素運搬体投与に続いて、より高いレベルの一酸化窒素を長期投与すると、ヘモグロビンの不活性メトヘモグロビンへの有意な変換をもたらす場合があり、したがって一般的に望ましくないが、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体の投与に続いて、短期間(例えば、わずか30秒、1分、5分、10分、または15分)および/または低濃度の連続一酸化窒素投与が、投与されたヘモグロビンの不活性メトヘモグロビンへの過剰な変換をもたらさない(例えば、ピーク時に、5%、10%、または15%未満の総血漿ヘモグロビンがメトヘモグロビンである)場合は、許容され得る。有意なメトヘモグロビンレベルが生じる場合、メチレンブルーまたはアスコルビン酸などの電子供与体を注入することによって、これらをオキシヘモグロビンに再変換できる。ヘムに基づく酸素運搬体の投与後に一酸化窒素の投与を続ける場合、この連続投与の許容され得る期間は、さらなる酸素運搬体注入に対する必要性、投与される一酸化窒素の濃度(ヘムに基づく酸素運搬体投与後、長期間に渡る場合、通常40ppm未満)、ヘムに基づく酸素運搬体投与前の一酸化窒素投与の期間、投与されるヘムに基づく酸素運搬体の量、ならびに/または血漿および血管周囲間質腔中のヘムに基づく酸素運搬体の循環寿命に依存する場合がある。
【0072】
一酸化窒素を放出する化合物
ガス状の一酸化窒素投与の代替物として(またはそれに加えて)、本明細書記載の方法によって、一酸化窒素を放出する化合物を対象に投与できる。本明細書記載の方法において有用な一酸化窒素を放出する化合物には以下が含まれる:肺において得られるような生理学的条件下で、化合物から自発的に放出されるかまたは別の方式で移動する一酸化窒素部分によって特徴付けられる、ニトロソ化合物またはニトロシル化合物(例えば、S-ニトロソ-N-アセチルペニシラミン、S-ニトロソ-L-システイン、およびニトロソグアニジン);一酸化窒素が遷移金属錯体上のリガンドであり、かつそのようなものとして、生理学的条件下で、化合物から容易に放出されるかまたは移動する化合物(例えば、ニトロプルシド、一酸化窒素-フェレドキシン、もしくは一酸化窒素-ヘム複合体);ならびに呼吸器系および/または血管系に対して内因性である酵素によって代謝される窒素含有化合物(例えば、アルギニン、三硝酸グリセリン、亜硝酸イソアミル、亜硝酸ナトリウム、無機亜硝酸塩、アジド、およびヒドロキシアミン)。さらなる一酸化窒素を放出する化合物には、ニトログリセリンおよびSIN-1が含まれる。
【0073】
一酸化窒素を放出する化合物は、超短期間作用性の一酸化窒素を放出する化合物、例えば1-ヒドロキシ-2-オキソ-3-(N-メチル-3-アミノプロピル)-3-メチル-1-トリアゼン(「NOC-7」;Zhang et al.(1996) Circulation 94:2235) またはN, N'-ジメチルヘキサンジアミンの一酸化窒素付加物(「DMHD/NO」; Kaul et al.(1997) J. Cardiovasc. Pharmacol. Ther. 1997 2(3): 181)であり得る。いくつかの態様において、超短期間作用性の一酸化窒素を放出する化合物は、90分未満(または60分未満、30分未満、20分未満、10分未満、5分未満、2分未満、もしくは1分未満)の半減期を有する。
【0074】
本明細書記載の動物モデルの使用によって、その有効性に関して、一酸化窒素を放出する化合物であることが公知であるかまたはそう考えられる化合物(例えば、超短期間作用性の一酸化窒素を放出する化合物)を直接試験することができる。あるいは、Ishii et al.(1991) Am. J. Physiol. 261:H598-H603によって記載されるものなどのインビトロアッセイにおいて、一酸化窒素が結合しかつそれによってその生物学的活性を発揮する酵素であるグアニル酸シクラーゼを刺激する能力に関して、そのような化合物をまずスクリーニングしてもよい。
【0075】
投与された一酸化窒素または一酸化窒素を放出する化合物の効果の評価
ガス状の一酸化窒素(または一酸化窒素を放出する化合物)および血管作動性酸素運搬体(例えば、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体などのヘムに基づく酸素運搬体)を対象に投与する際、投与の効果を監視するのが望ましい場合もある。こうした監視を用いて、特定の個体における治療の効果を検証できる。こうした監視はまた、所与の個体における、一酸化窒素(もしくは一酸化窒素を放出する化合物)ならびに/または血管作動性酸素運搬体(例えば、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体)投与の用量レベル、期間、および頻度を調整する際にも有用であり得る。
【0076】
標準的な医学的分析によって、血管作動性酸素運搬体(例えばヘモグロビンに基づく酸素運搬体などのヘムに基づく酸素運搬体)が誘導する血管収縮に対するガス状の一酸化窒素(または一酸化窒素を放出する化合物)投与の効果を評価できる。例えば、動脈ラインまたは血圧計カフによって全身血圧を監視でき、かつ流れで方向付けられる(flow-directed)肺動脈カテーテル、心臓超音波、またはレンジをゲート制御した(range-gated)ドップラー技術を介して肺動脈圧を監視できる。さらに、心電図を介して心臓虚血を監視できる。
【0077】
ヘモグロビンに基づく酸素運搬体を投与する態様において、投与されたヘモグロビンからメトヘモグロビンへのまたは二価鉄ヘムから三価鉄ヘム(酸素輸送において不活性)への変換に対する一酸化窒素投与(または一酸化窒素を放出する化合物)の効果もまた、監視できる。例えばシアノメトヘモグロビン法によって、全血および血漿中のヘモグロビン濃度およびメトヘモグロビン濃度を決定できる。例えば、Matsuoka(1977) Biol. Pharm. Bull. 20(11): 1208-11を参照されたい。「血漿ヘモグロビンおよびメトヘモグロビン濃度」とは、血液の細胞を含まない画分におけるヘモグロビン濃度およびメトヘモグロビン濃度を指す(かつ投与された場合、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体中に存在するヘモグロビンも含む)。
【0078】
他の剤
一酸化窒素または一酸化窒素を放出する化合物と組み合わせてホスホジエステラーゼ阻害剤を投与して、内因性ホスホジエステラーゼによるcGMPの分解を阻害できる(例えば、米国特許第5,570,683号および同第5,823,180号を参照されたい)。さらにまたはあるいは、一酸化窒素に対して可溶性グアニル酸シクラーゼを増感させる化合物を共に投与できる(例えば、WO 2005/077005およびWO 2006/037491を参照されたい)。これらの化合物を用いて、例えば、一酸化窒素吸入の有効性を増進させ、かつ/または吸入される一酸化窒素の量を減少させることも可能である(例えば、ホスホジエステラーゼ阻害剤および/または可溶性グアニル酸シクラーゼ増感剤を対象に投与する特定の場合、例えば1または250ppb〜40ppmの範囲である、減少させた一酸化窒素濃度を含有する治療ガスを吸入させることができる)。
【0079】
あるいは、ホスホジエステラーゼ阻害剤および/または可溶性グアニル酸シクラーゼ増感剤を、一酸化窒素または一酸化窒素を放出する化合物を共に投与することなく、血管作動性酸素運搬体(例えば、ヘモグロビンに基づく酸素運搬体などのヘムに基づく酸素運搬体)と組み合わせて投与できる。
【0080】
経口、経粘膜、静脈内、筋内、皮下、または腹腔内経路を介するものを含めて、任意の適切な方法によって、ホスホジエステラーゼ阻害剤および/または可溶性グアニル酸シクラーゼ増感剤を対象に導入できる。化合物はまた、対象に吸入され得る。
【0081】
ホスホジエステラーゼ阻害剤の例には以下が含まれる:Zaprinast(登録商標)(M&B 22948; 2-o-プロポキシフェニル-8-アザプリン-6-オン; Rhone-Poulenc Rorer, Dagenham Essex, UK);WIN 58237(1-シクロペンチル-3-メチル-6-(4-ピリジル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-4-(5H)-オン; Silver et al.(1994) J. Pharmacol. Exp. Ther. 271: 1143); SCH 48936((+)- 6a,7,8,9,9a,10,11,11a-オクタヒドロ-2,5-ジメチル-3H-ペンタレン(6a,l,4,5)イミダゾ[2,l-b]プリン-4(5H)-オン; Chatterjee et al.(1994) Circulation 90:I627, abstract no. 3375); KT2-734(2-フェニル-8-エトキシシクロヘプトイミダゾール; Satake et al.(1994) Eur. J. Pharmacol. 251 :1); E4021(1-[6-クロロ-4-(3,4-メチレンジオキシベンジル)-アミノキナゾリン-2-イル]ピペリジン-4-カルボン酸ナトリウムセスキ水和物; Saeki et al.(1995) J. Pharmacol. Exp. Ther. 272:825); シルデナフィル(Viagra(登録商標)); タダラフィル(Cialis(登録商標));およびバルデナフィル(Levitra(登録商標))。
【0082】
可溶性グアニル酸シクラーゼを増感させる化合物の例には以下が含まれる: 3-(5'-ヒドロキシメチル-2'-フリル)-1-ベンジルインダゾール(「YC-1」; Russwurm(2002) J. Biol. Chem. 277:24883; Schmidt et al.(2001) Mol. Pharmacol. 59:220; およびFriebe et al.(1998) Mol. Pharmacol. 54:962); ピラゾロピリジンBAY 41-2272(Stasch et al.(2001) Nature 410:212)、BAY 41-2272 誘導体、オルト-(BAY 50-6038)、メタ-(BAY 51-9491)およびパラ-PAL-(BAY 50-8364)(Becker et al.(2001) BMC Pharmacol. 1 :13)、ならびにBAY 41-8543(Stasch et al.(2002) Brit. J. Pharmacol. 135:333)などの、YC-1に大まかに基づく化合物; 2-[l-(2-フルオロベンジル)-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-イル]-5-(4-モルホリニル)-4,6-ピリミジン-ジアミン; 2-[1-(2-フルオロベンジル)-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-イル]-5-(4-ピリジニル)-4-ピリミジンアミン(pyrimidmamine); メチル-4,6-ジアミノ-2-[l-(2-フルオロベンジル)-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-イル]-5-ピリミジニル-(メチル)カルバメート; メチル-4,6-ジアミノ-2-[1-(2-フルオロベンジル)-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-イル]-5-ピリミジニル-カルバメート;および4-[((4-カルボキシブチル)-{2-[(4-フェネチルベンジル)オキシ]フェネチル}アミノ)メチル]安息香酸。
【0083】
以下は、本発明の実施例である。これらはいかなる点でも、本発明の範囲を限定するとは見なされないものとする。
【0084】
実施例
実施例1:四量体ヘモグロビン溶液注入後の一酸化窒素依存性の血圧増加
一酸化窒素シンターゼ3(NOS3)は、肺血管内皮細胞において発現され、かつ血管平滑筋cGMP合成を刺激し、かつ血管弛緩を引き起こす一酸化窒素を合成することによって、肺血管緊張の制御に関与する。NO3不全マウス(NOS3-/-)は、正常酸素圧条件下で、全身および肺の高血圧を示す(Huang et al.(1995) Nature 377:239;およびSteudel et al.(1997) Circ. Res. 81:34)。
【0085】
動物準備
C57BL/6バックグラウンド上に10世代戻し交配した8〜10週齢の雄C57BL/6野生型マウスおよび雄NOS3不全マウス(B6129P2-NOS3tml/Unc; NOS3-/-)を研究した。すべてのマウスを、Jackson Laboratory(Bar Harbor, ME)から得て、かつMassachusetts General Hospitalの動物資源施設において維持した。
【0086】
ネズミ四量体ヘモグロビン溶液の調製
野生型C57BL/6マウスからネズミ全血を収集し、かつPBSで1:2の比に希釈した。血液を3回凍結しかつ融解し、次いで、21,600g、4℃で1.5時間遠心分離した。上清を収集し、ろ過した(0.22μM Nalgeneフィルター, Rochester NY)。0.9%生理食塩水に対して、溶液を4℃で一晩透析した。次いで、3,000 MWCO Centricon遠心フィルターデバイス(Fisher Scientific, Pittsburgh, PA)を用いて、この溶液を濃縮した。四量体ヘモグロビン溶液の最終濃度は、4 g/dlであった。
【0087】
ヘモグロビンおよびメトヘモグロビン濃度の測定
Spectrophotometer-Biomate 3(Thermoelectron Corporation, Waltham, MA)で、540nmおよび630nmのODを測定する、シアノメトヘモグロビン法によって、全血および血漿中のヘモグロビンおよびメトヘモグロビン濃度を決定した。
【0088】
四量体ヘモグロビン溶液の静脈内注射(尾静脈)
この処置のため、マウスを拘束装置に入れた。すべてのマウスを短時間でかつそっと扱って、側面尾静脈内に四量体ヘモグロビン溶液を注射した。注射前、赤外線熱ランプ下で尾を5分間温めて、静脈への進入を可能にした。注射容積は各マウスについて0.012ml/g体重であった。1分間が経過する間注入を行った。
【0089】
一酸化窒素送達
容量分析的に較正された流量計(Cole-Parmer, Vernon Hills, IL)を用いて、覚醒しているマウスに、フェースマスクを通じて最終濃度80ppmまで一酸化窒素ガス(窒素中800ppm; INO Therapeutics, Clinton, NJ)を投与した(INO Therapeutics, Clinton, NJ)。一酸化窒素、二酸化窒素および酸素(21%)レベルを連続して監視した(INOvent delivery system, Datex-Ohmeda, Madison, WI)。
【0090】
一酸化窒素吸入の血流力学的効果
ネズミ四量体ヘモグロビン溶液注入後の収縮期尾血圧に対する一酸化窒素呼吸の効果を、最初の1時間は10分ごとに、かつ実験の残りの期間は20分ごとに監視した。すべてのマウスが注入前に1時間、80ppmで一酸化窒素を吸入した一酸化窒素前処置群では、15分ごとに、血液ヘモグロビンおよびメトヘモグロビンレベルを測定した。追加のマウスにおいて、実験全体で、8ppmまたは80ppmで一酸化窒素を呼吸させながら、10分および60分に四量体ヘモグロビン溶液を静脈内注入した後、全血および血漿中のヘモグロビンおよびメトヘモグロビンレベルを測定した。
【0091】
覚醒しているマウスにおける尾カフ血圧の測定
野生型マウスおよびNOS3-/-マウスにおいて、非侵襲性尾カフ装置(XBP 1000, Kent Scientific, Torrington, CT)を用いて、収縮期血圧を測定した。マウスをまず、1回または2回の練習セッションに供して、デバイスに順応させた。マウスを短時間(最初は<1分間)拘束装置に入れ、次いでより長い時間拘束装置中に維持して、デバイスに順応させた。デバイス中での興奮がないことによって、順応の程度を判断した。練習セッションの数日後、マウスを商業的マウス拘束デバイス(Kent Scientific, Torrington, CT)中で拘束した。
【0092】
尾収縮期血圧を以下のように測定した:(1)注入前のベースライン血圧(生理食塩水またはネズミ全血注入は対照群を提供し、かつ四量体ヘモグロビンを処置群に投与した);(2)生理食塩水または四量体ヘモグロビン溶液注入後の血圧;(3)空気または一酸化窒素を含有する空気を呼吸させながら四量体ヘモグロビンを注入した後の血圧;ならびに(4) 80ppm一酸化窒素で15分間または1時間、前処置する前および後の血圧。
【0093】
統計分析
すべての値を平均±SEMで表す。ANOVAを用いてデータを分析した。反復測定に関しては対応t検定によって、ネズミ四量体ヘモグロビン注入または一酸化窒素吸入前および後の血流力学的パラメーターの相違を調べた。0.05未満のP値は有意と見なされた(図中の*によって示される)。
【0094】
結果
0.012ml/g体重のネズミ四量体ヘモグロビン溶液の静脈内注射前および後に、覚醒している野生型マウスおよびNOS3-/-マウスにおいて、尾収縮期血圧を測定した。ヘモグロビン溶液注射の10分前および10分後に測定を行った。四量体ヘモグロビン注射は、野生型マウスにおいては収縮期血圧の有意な増加を生じさせたが、NOS3-/-マウスにおいては生じさせなかった(図1)。
【0095】
全血またはネズミ四量体ヘモグロビン溶液の静脈内注射前および後に、野生型マウスにおいて尾収縮期動脈血圧を測定した。「全血」群に関しては、0.012ml/g体重のネズミ全血を静脈内注射によって投与した(n=7)。「Hb溶液」群に関しては、0.012ml/g体重のネズミ四量体ヘモグロビン溶液(620mMの濃度で)を静脈内注射によって投与した(n=4)。ネズミ四量体ヘモグロビン溶液の注入は、血圧の有意な上昇を誘発したが、ネズミ全血の注射は血圧上昇を誘導しなかった(図2)。
【0096】
実施例2:四量体ヘモグロビン溶液注入前および注入に続く連続的な一酸化窒素吸入は、収縮期血圧増加を防止し、かつ血漿ヘモグロビンをメトヘモグロビンに変換する
0.012ml/g体重のネズミ四量体ヘモグロビン溶液の静脈内注射後、覚醒している野生型マウス(n=4)において、尾収縮期血圧を測定した。「NO吸入」群は空気中の80ppm一酸化窒素を吸入し、かつ「対照」群は空気を吸入した。ネズミ四量体ヘモグロビン溶液注入前および注入に続いて、連続して80ppm一酸化窒素を呼吸させると、ヘモグロビン誘導性の収縮期血圧上昇が防止された(図3)。
【0097】
空気(n=4)、空気中の80ppm一酸化窒素(n=7)、または空気中の8ppm一酸化窒素のいずれかを呼吸させながら、野生型マウスに0.012ml/g体重のネズミ四量体ヘモグロビン溶液を静脈内注射した後、血漿中のメトヘモグロビン濃度を測定した。80ppm一酸化窒素を呼吸させながらネズミ四量体ヘモグロビン溶液を投与すると、有意な割合の血漿ヘモグロビンから不活性メトヘモグロビンへの変換が生じた(図4)。注射10分後および60分後に測定を行った。
【0098】
実施例3:四量体ヘモグロビン溶液注入前の連続的な一酸化窒素吸入は、収縮期血圧増加を防止し、かつ血漿ヘモグロビンをメトヘモグロビンに変換しない
0.012ml/g体重のネズミ四量体ヘモグロビン溶液の静脈内注射前および注射後、野生型マウスにおいて尾収縮期血圧を測定した。「対照」マウスは、ネズミ四量体ヘモグロビン溶液を投与されたが、一酸化窒素を呼吸しなかった。「NO吸入で前処置」されたマウスは、静脈内ネズミ四量体ヘモグロビン溶液を投与される前の1時間、空気中の80ppm一酸化窒素を吸入した(n=7)。ネズミ四量体ヘモグロビン溶液注入前に1時間連続して80ppm一酸化窒素を呼吸させると(かつ注入時に一酸化窒素吸入を終わらせると)、ヘモグロビン誘導性の収縮期血圧上昇が防止された(図5)。
【0099】
0.012ml/g体重のネズミ四量体ヘモグロビン溶液の静脈内注射前および注射後、野生型マウスにおいて尾収縮期血圧を測定した。「対照」マウスは、ネズミ四量体ヘモグロビン溶液を投与されたが、一酸化窒素を呼吸しなかった。「NOで前処置」されたマウスは、静脈内ネズミ四量体ヘモグロビン溶液を投与される前の15分間、空気中の80ppm一酸化窒素を吸入した(n=4)。ネズミ四量体ヘモグロビン溶液注入前に15分間連続して80ppm一酸化窒素を呼吸させると(かつ注入時に一酸化窒素吸入を終わらせると)、ヘモグロビン誘導性の収縮期血圧上昇が防止された(図6)。
【0100】
0.012ml/g体重のネズミ四量体ヘモグロビン溶液の静脈内注射前および注射後、野生型マウスにおいて尾収縮期血圧を測定した。「対照」マウスは、ネズミ四量体ヘモグロビン溶液を投与されたが、一酸化窒素を呼吸しなかった(n=6)。「NOで前処置」されたマウスは、静脈内ネズミ四量体ヘモグロビン溶液を投与される前の7分間、空気中の200ppm一酸化窒素を吸入した(n=8)。ネズミ四量体ヘモグロビン溶液注入前に7分間連続して200ppm一酸化窒素を呼吸させると(かつ注入時に一酸化窒素吸入を終わらせると)、ヘモグロビン誘導性の収縮期血圧上昇が防止された(図7)。
【0101】
80ppm一酸化窒素を1時間呼吸する前および呼吸した後に(かつネズミ四量体ヘモグロビン溶液注入前および後に)、野生型マウスにおいて全血および血漿中のメトヘモグロビン濃度を測定した。(i)一酸化窒素呼吸およびヘモグロビン投与両方の前、(ii)一酸化窒素呼吸後であるがヘモグロビン投与前、ならびに(iii)一酸化窒素呼吸およびネズミ四量体ヘモグロビン溶液静脈内注入両方の後に試料を採取した(15分間隔で試料を採取した)。ネズミ四量体ヘモグロビン溶液注入前に1時間連続して80ppm一酸化窒素を呼吸させると(かつ注入時に一酸化窒素吸入を終わらせると)、およそ5%未満の血漿ヘモグロビンからメトヘモグロビンへの変換が生じた(図8)。
【0102】
実施例4:麻酔したマウスにおける侵襲性血流力学的測定
四量体ヘモグロビンの注入が、覚醒している野生型マウスにおいて全身高血圧を引き起こす機構を調べるため、ネズミ四量体ヘモグロビンまたは対照としてのネズミ全血の注入前および注入3分後、麻酔した野生型およびNOS3-/-マウスにおいて、侵襲性血流力学的測定を行った。ケタミン(100mg/kg)およびキシラジン(5mg/kg)の腹腔内注射でマウスを麻酔した。気管挿管後、パンクロニウム(5μg/g)を添加することによって、筋弛緩を得た。呼吸速度120呼吸/分、一回換気量10μl/g、吸入O2分画1.0で、容積制御性換気を提供した(Mini Vent 845, Harvard Apparatus, Holliston, MA)。頸静脈を介して、2つの生理食塩水充填PE-10カテーテルを別個に挿入し;一方は中心静脈圧(CVP)を監視するためであり、かつもう一方は、全血または四量体ヘモグロビン溶液注入のためであった。右頸動脈から左心室に逆行してMillar圧-容積カテーテルを挿入した。(1.4F, モデルSPR839, Millar Instruments Inc., Houston, TX)。安定な血流力学的測定値を得た後、全血(1.44 g Hb/kg)またはネズミ四量体Hb溶液(0.48 g/kg)を100 μl/分の速度で3分間、頸静脈を通じて注入した。PVANソフトウェアを用いて、左心室圧-容積ループデータを分析した(Conductance Technologies Inc., San Antonio, TX)。
【0103】
ベースラインで、左心室(LV) 拡張終期圧(LVEDP)、発展LV圧の最大速度(dP/dtmax)、発展LV圧の最小速度(dP/dtmin)、心拍出量(CO)、動脈弾性率(Ea)、等容性弛緩の時間定数(τ)、および中心静脈圧(CVP) は、遺伝子型間で類似であった(表1)。LV収縮終期圧(LVESP)、Ea、および全身血管抵抗(SVR) は、ベースラインで、NOS3-/-において、野生型マウスにおけるよりも高かった(3つすべてに関してp<0.05)。ネズミ全血の注入は、いずれの遺伝子型においても、心拍数(HR)、LVESP、LVEDP、CO、SVR、Ea、τ、またはCVPを変化させなかった。しかし、野生型マウスにおけるネズミ四量体ヘモグロビンの静脈内注入は、dP/dtmax、dP/dtmin、またはCVPに影響を及ぼすことなく、LVESP、LVEDP、SVR、Ea、およびτを増加させ、かつCOを減少させた。対照的に、NOS3-/- マウスにネズミ四量体ヘモグロビンを注入しても、HR、LVESP、LVEDP、CO、dP/dtmax、dP/dtmin、SVR、Ea、τ、またはCVPは改変されなかった。これらの結果は、四量体ヘモグロビンの注入が、全身の血管収縮を引き起こし、かつNOS3に依存する機構を介して、心臓拡張機能を損なうことを立証する。さらに、野生型マウスを80ppm一酸化窒素の15分間の吸入で前処置すると、ネズミ四量体ヘモグロビン注入によって誘導されたLVESP、LVEDP、SVR、Ea、およびτの増加が消滅した(表1)。
【0104】
(表1)野生型およびNOS3ノックアウトマウスにおける心臓機能および全身血流力学的測定値の比較

WT(野生型):WTマウスにおいて、空気を呼吸させながら全血またはネズミ四量体Hbを注入(n=15);
NOS3-/-:NOS3ノックアウトマウスにおいて、空気を呼吸させながら全血またはネズミ四量体Hbを注入(n=13);
WT +iNO:WTマウスにおいて、空気中の80ppm NOを15分間呼吸させ、その後、NOガス呼吸を中断し、かつネズミ四量体Hb溶液を注入(n=12);
HR:心拍数;
LVESP:左心室収縮終期圧;
LVEDP:左心室拡張終期圧;
dP/dtmax:発展左心室圧の最大速度;
dP/dtmin:発展左心室圧の最小速度;
CO:心拍出量;
SVR:全身血管抵抗;
Ea:動脈弾性率;
タウ:等容性弛緩の時間定数;
CVP:中心静脈圧(n=5)。
値は、平均±SEMである。*p<0.05値はベースラインに対して異なる。†p<0.05値はWTベースラインに対して異なる。‡p<0.05値はWTマウスにおける四量体Hbの注入に対して異なる。
【0105】
実施例5:四量体ヘモグロビン溶液の注入に続く高血圧応答に対する静脈内亜硝酸ナトリウム前処置の効果
亜硝酸ナトリウム(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に溶解し、かつpHを7.4に調整した。48nmol(およそ0.13mg/kg)の亜硝酸ナトリウムを含有する最終体積50μlのPBSを、尾静脈を介して投与し、かつ5分後、ネズミ四量体ヘモグロビン溶液(0.48g/kg)の静脈内注入が続いた。亜硝酸ナトリウムの用量は、80ppm一酸化窒素を1時間呼吸しているマウスにおいて測定される血漿亜硝酸レベルとほぼ同じであるように選択された(ピークレベルで1〜2μM)。全血(n=7)、ネズミ四量体ヘモグロビン(n=5)、または亜硝酸ナトリウムの後、ネズミ四量体ヘモグロビン注入(n=5)の注入前および後に、覚醒しているマウスで尾カフ収縮期血圧(SBP、mmHg)を測定した。
【0106】
亜硝酸塩投与は、ネズミ四量体ヘモグロビンが注入される前の血圧を改変しなかった。亜硝酸塩投与は、続くネズミ四量体ヘモグロビンの注入によって引き起こされる全身高血圧を遮断した(図10A;*p<0.05は、全血群および亜硝酸塩プラスネズミ四量体ヘモグロビン群の両方に対して異なる)。しかし、ネズミ四量体ヘモグロビン注入の10分後、血漿メトヘモグロビンレベルは、10±2%に増加した(図10B;*p<0.05はベースライン血漿レベルに対して異なる)。14.5%のメトヘモグロビンを含有するネズミ四量体ヘモグロビン溶液の注入が全身高血圧を引き起こすため、メトヘモグロビンのこの濃度(10±2%)は、四量体ヘモグロビン誘導性の高血圧を亜硝酸塩が遮断する能力を説明するには不十分である。
【0107】
実施例6:HBOC-201の注入前の連続的な一酸化窒素吸入は、子ヒツジにおける全身の血管収縮の誘導を防止するが、肺血管収縮を防止しない
子ヒツジに簡単に麻酔をし、気管切開術を行い、内部頸静脈に経皮的にカテーテル挿入し、かつ流れで方向付けられるSwan Ganzカテーテルを肺動脈内に通して、熱希釈による中心血流力学および心臓拍出の測定を可能にした。動脈ラインを頸動脈に配置した。数時間置いて、動物が麻酔から覚めるのを可能にし、かつ覚醒状態で研究し、かつハーネス中に固定した。3つの群の子ヒツジを研究した:(1)ヘパリン抗凝固剤を含む4℃で保存された自己血を与えられた「自己全血」動物--2日後、これら動物はFiO2=0.3で呼吸しながら37℃の自己全血の注入(20分間に渡って12ml/kg)を受けた(n=3);(2) FiO2=0.3で呼吸しながらHBOC-201の注入(20分間に渡って12ml/kg)を受けた「HBOC-201」動物(n=3);および(3) HBOC-201の注入(20分間に渡って12ml/kg)を受ける前に1時間、FiO2=0.3で80ppm一酸化窒素を吸入した「iNO後HBOC-201」動物(n=5)。以下のような標準式を用いて、全身血管抵抗(SVR)および肺血管抵抗(PVR)を計算した:[SVR(ダイン*sec/cm2) = (MAP-CVP)/CO*79.96];および[PVR(ダイン*sec/cm2) = (PAP-PCWP)/CI*79.96]。
【0108】
自己全血またはHBOC-201の注入前および後、平均動脈圧および全身血管抵抗を測定した。HBOC-201の注入前に1時間連続して80ppm一酸化窒素を呼吸させる(かつ注入時直前に一酸化窒素吸入を終わらせる)と、そうしなければHBOC-201注入後に生じる平均動脈圧(図11;*p<0.05 HBOC-201単独は、自己全血と異なる)および全身血管抵抗(図12)の増加が遮断された。
【0109】
自己全血またはHBOC-201の注入前および後、肺動脈圧および肺血管抵抗を測定した。HBOC-201の注入前に1時間連続して80ppm一酸化窒素を呼吸させる(かつ注入時直前に一酸化窒素吸入を終わらせる)と、HBOC-201注入後に生じる肺動脈圧(図13;*p<0.05 HBOC-201は自己血と異なる)および肺血管抵抗(図14;**p<0.05 HBOC-201単独は自己全血と異なる)の増加は遮断されなかった。
【0110】
1時間の80ppm一酸化窒素呼吸前および後 (かつ自己全血またはHBOC-201注入前および後)、血漿中のメトヘモグロビン濃度を測定した。HBOC-201の注入前に1時間連続して80ppm一酸化窒素を呼吸させる(かつ注入時に一酸化窒素吸入を終わらせる)と、HBOC-201を投与されたが一酸化窒素を吸入しなかった子ヒツジに比較した際、血漿メトヘモグロビンの増加は生じなかった(図15;*p<0.05 自己全血は、吸入一酸化窒素前処置を伴うまたは伴わないHBOC-201と異なる)。
【0111】
実施例7:HBOC-201注入に続く低用量一酸化窒素吸入と組み合わせたHBOC-201の注入前の連続的な一酸化窒素吸入は、子ヒツジにおける肺血管収縮誘導を防止する
3群の覚醒している自発的呼吸をしている子ヒツジを研究した:(1) FiO2=0.3で呼吸しながら37℃の自己全血の注入(20分間に渡って12ml/kg)を受けた「自己全血」動物(n=3);(2) FiO2=0.3で呼吸しながら37℃ HBOC-201の注入(20分間に渡って12ml/kg)を受けた「HBOC-201」動物(n=3);および(3) HBOC-201の注入(20分間に渡って12ml/kg)を受ける1時間前に、FiO2=0.3で80ppm一酸化窒素を吸入し、その後、FiO2=0.3で5ppm一酸化窒素を2時間呼吸し、その後、さらに1時間、FiO2=0.3で呼吸した(かつ一酸化窒素ガス吸入を中断した)「高および低用量iNO後、HBOC-201」動物(n=4)。
【0112】
自己全血またはHBOC-201の注入前および後、平均動脈圧および全身血管抵抗を測定した。HBOC-201の注入前に1時間連続して80ppm一酸化窒素を呼吸させ、その後、注入後に5ppm一酸化窒素を呼吸させると、そうしなければ子ヒツジにおいて、HBOC-201注入(または80ppmで1時間吸入させるNOでの前処置後のHBOC-201注入)後に生じる平均動脈圧(図16;*p<0.05 HBOC-201は、自己全血と、かつ一酸化窒素吸入を伴うHBOC-201と異なる)および全身血管抵抗(図17; *p<0.05 HBOC-201は、自己血と、かつ一酸化窒素吸入を伴うHBOC-201と異なる)の増加が遮断された。
【0113】
自己全血またはHBOC-201の注入前および後、平均肺動脈圧および肺血管抵抗を測定した。HBOC-201の注入前に1時間連続して80ppm一酸化窒素を呼吸させ、その後、注入後に5ppm一酸化窒素を呼吸させると、そうしなければHBOC-201注入後、または80ppmで1時間吸入させることによるNOでの前処置後のHBOC-201注入後に生じる肺動脈圧(図18;*p<0.05 HBOC-201は、自己血と、かつ一酸化窒素吸入後のHBOC-201と異なる)および肺血管抵抗(図19; *p<0.05 HBOC-201は、自己血と、かつ一酸化窒素吸入後のHBOC-201と異なる)の増加が遮断された。しかし、肺高血圧は、5ppm一酸化窒素吸入を突然中断した後、リバウンドした(HBOC-201を投与された動物において)。
【0114】
多様な濃度の一酸化窒素の呼吸前および後(かつ自己全血またはHBOC-201の注入前および後)、血漿メトヘモグロビン濃度を測定した。HBOC-201注入前に1時間連続して80ppm一酸化窒素を呼吸させ、その後、注入後、5ppm一酸化窒素を呼吸させると、HBOC-201を投与するが一酸化窒素を吸入させない動物に比較した際、血漿メトヘモグロビンの増加は生じなかった(図20)。
【0115】
用量応答研究を行って、多様な濃度の一酸化窒素吸入後の血漿ヘモグロビンの酸化を評価した。HBOC-201の注入(20分間に渡って1.4g/kg)の注入後、覚醒している子ヒツジにおいて、増加する濃度の一酸化窒素を呼吸させながら、血漿メトヘモグロビンレベル(μM)を測定した(n=1)。気管切開術を介した一酸化窒素の吸入は、各レベルで15分間持続した(500ppb、1ppm、2ppm、5ppm、10ppm、15ppm、30ppm、40ppm、60ppm、および80ppm)。多様な吸入一酸化窒素濃度での呼吸前および後の血漿メトヘモグロビンレベルの変化を図21に示す。
【0116】
他の態様
本発明は、その詳細な説明と組み合わせて記載されてきているが、前述の説明は例示を意図され、かつ付随する特許請求の範囲によって定義される、本発明の範囲を限定しない。他の局面、利点、および修飾が、以下の特許請求の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス状の一酸化窒素を含む治療ガスを哺乳動物に投与する工程;および
治療ガスの投与中または投与後に、血管作動性酸素運搬体を含む組成物を哺乳動物に投与する工程
を含む、血管作動性酸素運搬体投与後の哺乳動物における血管収縮を防止するかまたは減少させる方法であって、
治療ガスが、血管作動性酸素運搬体を含む組成物の投与後の哺乳動物における血管収縮の発生を防止するかまたは減少させるために有効な量で投与される、方法。
【請求項2】
治療ガスが、吸入によって哺乳動物に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度が、少なくとも20ppmである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度が、少なくとも40ppmである、請求項2記載の方法。
【請求項5】
治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度が、少なくとも80ppmである、請求項2記載の方法。
【請求項6】
治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度が、100ppm〜500ppmの範囲である、請求項2記載の方法。
【請求項7】
治療ガスが、少なくとも3分間連続して哺乳動物に投与される、請求項2〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
治療ガスが、少なくとも15分間連続して哺乳動物に投与される、請求項2〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
治療ガスが、少なくとも1時間連続して哺乳動物に投与される、請求項2〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
治療ガスの投与を、血管作動性酸素運搬体を含む組成物の投与前に終わらせる、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
治療ガスの投与を、血管作動性酸素運搬体を含む組成物の投与の少なくとも3分前に終わらせる、請求項10記載の方法。
【請求項12】
治療ガスの投与を、血管作動性酸素運搬体を含む組成物の投与の少なくとも15分前に終わらせる、請求項10記載の方法。
【請求項13】
治療ガスの投与を、血管作動性酸素運搬体を含む組成物の投与後に終わらせる、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度を、投与経過中に減少させる、請求項1〜13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度を、投与の間全体または投与の一部の間に、一定の速度で減少させる、請求項14記載の方法。
【請求項16】
治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度を、投与経過中、1つまたは複数の段階的減少によって減少させる、請求項14記載の方法。
【請求項17】
ガス状の一酸化窒素を含む第一の治療ガスを哺乳動物に投与する工程;
第一の治療ガスの投与中または投与後に、血管作動性酸素運搬体を含む組成物を哺乳動物に投与する工程;および
第一の治療ガスの投与後に、ガス状の一酸化窒素を含む第二の治療ガスを哺乳動物に投与する工程であって、第二の治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度が、第一の治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度よりも低く、かつ第二の治療ガスの投与が(i)血管作動性酸素運搬体を含む組成物の投与後、または(ii)血管作動性酸素運搬体を含む組成物の投与前もしくは投与中に始められ、かつ血管作動性酸素運搬体を含む組成物の投与後も続く、工程
を含む、血管作動性酸素運搬体投与後の哺乳動物における全身および肺の血管収縮を防止するかまたは減少させる方法であって、
第一および第二の治療ガスが、血管作動性酸素運搬体を含む組成物の投与後の哺乳動物における全身および肺の血管収縮の発生を防止するかまたは減少させるために有効な量で投与される、方法。
【請求項18】
第一および第二の治療ガスが吸入によって哺乳動物に投与される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
第一の治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度が、少なくとも20ppmである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
第一の治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度が、少なくとも40ppmである、請求項18記載の方法。
【請求項21】
第一の治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度が、少なくとも80ppmである、請求項18記載の方法。
【請求項22】
第一の治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度が、80ppm〜500ppmの範囲である、請求項18記載の方法。
【請求項23】
第一の治療ガスが、少なくとも3分間連続して哺乳動物に投与される、請求項18〜22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
第一の治療ガスが、少なくとも15分間連続して哺乳動物に投与される、請求項18〜22のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
第一の治療ガスが、少なくとも1時間連続して哺乳動物に投与される、請求項18〜22のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
第二の治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度が、少なくとも5ppmである、請求項18〜25のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
第二の治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度が、40ppm未満である、請求項18〜26のいずれか一項記載の方法。
【請求項28】
第二の治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度が、20ppm未満である、請求項18〜26のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
第二の治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度が、5ppm〜40ppmの範囲である、請求項18〜25のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
第二の治療ガスが、少なくとも3分間連続して哺乳動物に投与される、請求項18〜29のいずれか一項記載の方法。
【請求項31】
第二の治療ガスが、少なくとも15分間連続して哺乳動物に投与される、請求項18〜29のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
第二の治療ガスが、少なくとも1時間連続して哺乳動物に投与される、請求項18〜29のいずれか一項記載の方法。
【請求項33】
第二の治療ガスが、少なくとも2時間連続して哺乳動物に投与される、請求項18〜29のいずれか一項記載の方法。
【請求項34】
第二の治療ガスが、少なくとも24時間連続して哺乳動物に投与される、請求項18〜29のいずれか一項記載の方法。
【請求項35】
第一の治療ガスの投与を、血管作動性酸素運搬体を含む組成物の投与前に終わらせる、請求項18〜34のいずれか一項記載の方法。
【請求項36】
第一の治療ガスの投与を、血管作動性酸素運搬体を含む組成物の投与の少なくとも3分前に終わらせる、請求項35記載の方法。
【請求項37】
第一の治療ガスの投与を、血管作動性酸素運搬体を含む組成物の投与の少なくとも15分前に終わらせる、請求項35記載の方法。
【請求項38】
第一の治療ガスの投与を、血管作動性酸素運搬体を含む組成物の投与後に終わらせる、請求項18〜34のいずれか一項記載の方法。
【請求項39】
第二の治療ガスの投与が、人工的酸素運搬体を含む組成物の投与前または投与中に始められ、かつ血管作動性酸素運搬体を含む組成物の投与後に続く、請求項18〜38のいずれか一項記載の方法。
【請求項40】
第二の治療ガスの投与が、血管作動性酸素運搬体を含む組成物の投与後に始められる、請求項18〜38のいずれか一項記載の方法。
【請求項41】
単一ガス送達デバイスを用いて、第一の治療ガスおよび第二の治療ガスの両方を哺乳動物に送達し、かつ投与されるガス状の一酸化窒素の濃度を第一の治療ガスの投与中に減少させ、それによって第一の治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度より低い濃度のガス状の一酸化窒素を有する第二の治療ガスをもたらす、請求項18〜40のいずれか一項記載の方法。
【請求項42】
投与されるガス状の一酸化窒素の濃度を、第一の治療ガスの投与開始に続いて一定の速度で減少させ、それによって第二の治療ガスをもたらす、請求項41記載の方法。
【請求項43】
投与されるガス状の一酸化窒素の濃度を、第一の治療ガスの投与開始に続いて段階的な減少により減少させ、それによって第二の治療ガスをもたらす、請求項41記載の方法。
【請求項44】
第一の治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度が20ppm〜500ppmの範囲であり、かつ第二の治療ガス中のガス状の一酸化窒素の濃度が500ppb〜40ppmの範囲である、請求項18記載の方法。
【請求項45】
ホスホジエステラーゼ阻害剤、可溶性グアニル酸シクラーゼ増感剤、またはホスホジエステラーゼ阻害剤および可溶性グアニル酸シクラーゼ増感剤を、哺乳動物に投与する工程をさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項46】
血管作動性酸素運搬体を含む組成物の投与後に、ホスホジエステラーゼ阻害剤、可溶性グアニル酸シクラーゼ増感剤、またはホスホジエステラーゼ阻害剤および可溶性グアニル酸シクラーゼ増感剤を哺乳動物に投与する、請求項45記載の方法。
【請求項47】
ホスホジエステラーゼ阻害剤が、シルデナフィル、タダラフィル、またはバルデナフィルである、請求項45または46記載の方法。
【請求項48】
一酸化窒素を放出する化合物を哺乳動物に投与する工程;および
一酸化窒素を放出する化合物の投与中または投与後に、血管作動性酸素運搬体を含む組成物を哺乳動物に投与する工程
を含む、血管作動性酸素運搬体投与後の哺乳動物における血管収縮を防止するかまたは減少させる方法であって、
一酸化窒素を放出する化合物が、血管作動性酸素運搬体を含む組成物の投与後の哺乳動物における血管収縮の発生を防止するかまたは減少させるために有効な量で投与される、方法。
【請求項49】
一酸化窒素を放出する化合物が亜硝酸塩を含む、請求項48記載の方法。
【請求項50】
ホスホジエステラーゼ阻害剤または可溶性グアニル酸シクラーゼ増感剤を哺乳動物に投与する工程;および
血管作動性酸素運搬体を含む組成物を哺乳動物に投与する工程
を含む、血管作動性酸素運搬体投与後の哺乳動物における血管収縮を防止するかまたは減少させる方法であって、
ホスホジエステラーゼ阻害剤または可溶性グアニル酸シクラーゼ増感剤が、血管作動性酸素運搬体を含む組成物の投与後の哺乳動物における血管収縮の発生を防止するかまたは減少させるために有効な量で投与される、方法。
【請求項51】
ホスホジエステラーゼ阻害剤が、環状グアノシン一リン酸(cGMP)ホスホジエステラーゼに関して選択的である、請求項50記載の方法。
【請求項52】
血管作動性酸素運搬体を含む組成物が赤血球を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項53】
赤血球が自己赤血球である、請求項52記載の方法。
【請求項54】
赤血球が同種赤血球である、請求項52記載の方法。
【請求項55】
赤血球が、ドナーから取り出された後、かつ哺乳動物に投与される前、少なくとも3時間保存されている、請求項52〜54のいずれか一項記載の方法。
【請求項56】
赤血球が、ドナーから取り出された後、かつ哺乳動物に投与される前、少なくとも24時間保存されている、請求項52〜54のいずれか一項記載の方法。
【請求項57】
血管作動性酸素運搬体が人工的酸素運搬体である、請求項1〜51のいずれか一項記載の方法。
【請求項58】
人工的酸素運搬体がヘムに基づく酸素運搬体である、請求項57記載の方法。
【請求項59】
ヘムに基づく酸素運搬体が、ヘム-アルブミンに基づく酸素運搬体またはヘム-デキストランに基づく酸素運搬体である、請求項58記載の方法。
【請求項60】
ヘムに基づく酸素運搬体がヘモグロビンに基づく酸素運搬体である、請求項58記載の方法。
【請求項61】
ヘモグロビンに基づく酸素運搬体が修飾ヘモグロビンを含む、請求項60記載の方法。
【請求項62】
ヘモグロビンに基づく酸素運搬体が架橋ヘモグロビンを含む、請求項60記載の方法。
【請求項63】
ヘモグロビンに基づく酸素運搬体が、架橋ポリヘモグロビン、架橋四量体ヘモグロビン、抱合体化ヘモグロビン、組換えヘモグロビン、または被包性のヘモグロビンを含む、請求項60記載の方法。
【請求項64】
ヘモグロビンに基づく酸素運搬体がヒトヘモグロビンを含む、請求項60〜63のいずれか一項記載の方法。
【請求項65】
ヘモグロビンに基づく酸素運搬体が、ウシヘモグロビンまたはブタヘモグロビンを含む、請求項60〜63のいずれか一項記載の方法。
【請求項66】
ヘモグロビンに基づく酸素運搬体を含む組成物を、静脈内、動脈内、または骨内注入によって哺乳動物に投与する、請求項60〜65のいずれか一項記載の方法。
【請求項67】
哺乳動物が貧血を有する、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項68】
貧血が重症の急性貧血である、請求項67記載の方法。
【請求項69】
哺乳動物が手術の結果として失血を被っている、請求項1〜66のいずれか一項記載の方法。
【請求項70】
手術が心臓手術または整形手術である、請求項69記載の方法。
【請求項71】
哺乳動物が外傷の結果として失血を被っている、請求項1〜66のいずれか一項記載の方法。
【請求項72】
哺乳動物が、虚血性心疾患を有するかまたは急性の虚血性事象を被っている、請求項1〜66のいずれか一項記載の方法。
【請求項73】
哺乳動物が心筋梗塞または脳卒中を被っている、請求項72記載の方法。
【請求項74】
急性の虚血性事象が、外科的な脈管再生、移植、または血管形成術によって引き起こされる、請求項72記載の方法。
【請求項75】
哺乳動物が治療前に臓器の血管痙攣を示す、請求項1〜66のいずれか一項記載の方法。
【請求項76】
臓器が、脳、心臓、腎臓、肝臓、または胃腸管の臓器である、請求項75記載の方法。
【請求項77】
哺乳動物がヒトである、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項78】
治療ガスがタバコの煙の非存在下で吸入される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項79】
哺乳動物の呼吸器系内にガスを送るように形成された管腔;
管腔中に存在する一酸化窒素ガスの濃度を測定するように形成された第一のメーター;
管腔中のガスの流速を測定するように形成された第二のメーター;および
管腔中で測定された一酸化窒素の濃度と管腔中で測定されたガスの流速を統合して、デバイスによって哺乳動物の呼吸器系に送達された一酸化窒素の量を決定する薬量計
を含む、ガス送達デバイス。
【請求項80】
少なくとも1ppmの一酸化窒素を含む加圧ガスを含む容器をさらに含み、該容器が、管腔内または管腔と連通しているチャンバー内に加圧ガスを制御可能に放出するための機構を有する、請求項79記載のデバイス。
【請求項81】
加圧ガスの放出が哺乳動物の吸気の陰圧によって誘発され、かつ加圧ガス放出が呼吸の吸気周期に制限され、それによって呼吸死腔への吸気ガスの送達を減少させ、かつ吸気ガスの必要量を減少させる、請求項80記載のデバイス。
【請求項82】
少なくとも1ppmの一酸化窒素を含む加圧ガスを含む第一の容器;および
人工的酸素運搬体を含む組成物を含む第二の容器
を含む、キット。
【請求項83】
ガス状の一酸化窒素送達デバイス;および
人工的酸素運搬体を含む組成物を含む容器
を含む、キット。
【請求項84】
少なくとも1ppmの一酸化窒素を含む加圧ガスを含む第二の容器をさらに含む、請求項83のキット。
【請求項85】
ホスホジエステラーゼ阻害剤または可溶性グアニル酸シクラーゼ増感剤;および
人工的酸素運搬体を含む組成物
を含む、キット。
【請求項86】
ホスホジエステラーゼ阻害剤が、cGMPホスホジエステラーゼに関して選択的である、請求項85記載のキット。
【請求項87】
(i)ホスホジエステラーゼ阻害剤、可溶性グアニル酸シクラーゼ増感剤、または一酸化窒素を放出する化合物;および(ii)人工的酸素運搬体を含む、薬学的組成物。
【請求項88】
cGMPホスホジエステラーゼに関して選択的であるホスホジエステラーゼ阻害剤を含む、請求項87記載の薬学的組成物。
【請求項89】
酸素運搬体を含む組成物を、虚血-再灌流障害を有する哺乳動物に投与する工程;および
ガス状の一酸化窒素を含む治療ガスを哺乳動物に投与する工程
を含む、哺乳動物における虚血-再灌流障害を治療するための方法であって、
治療ガスの投与が、(i)酸素運搬体を含む組成物の投与前、投与中、もしくは投与後、または(ii)酸素運搬体を含む組成物の投与前もしくは投与中に始められ、かつ酸素運搬体を含む組成物の投与後に続く、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2010−509353(P2010−509353A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536435(P2009−536435)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【国際出願番号】PCT/US2007/083746
【国際公開番号】WO2008/063868
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【Fターム(参考)】